主人公の名前は六來(ろく)です。あまり深い意味はありません。六番目に来たので六です。前の主人公の名前よりこのくらい安直なほうがいいのかなぁ、なんて思ったりして。
兎に角、宜しくお願いします。不定期、ナメクジ更新ですが、どうか、どうか宜しくお願いします!
覚醒
蝉の鳴く声が五月蝿く響く初夏、心音計が規則正しく鳴っていた。
「今日で丁度10年だね。六來。六來が眠ってから色んな事があった。私達の髪型も変わって、性格も変わって、声も、顔も。この10年間で沢山変わって、沢山笑うことも、沢山悲しむこともあった。でも今でも六來のことがずっとずっと忘れられないんだ」
三玖の目からは涙が溢れた。ポツポツと、降り始めの雨の様に涙は落ちる。
「ゆっくり休んで、なんて言うのは本心じゃない。起きて欲しい。また、六來と一緒に過ごしたいし、暮らしたい」
医者からはもう二度と目覚めることは無いだろう、と言われた。それでも三玖は願って祈った。目の前の少年が起きてくれます様に、と。
夢を見た。君と出会ったいつかの日。
「名前はありません。宜しくお願いします」
汗で濡れたシャツが身体にくっついて気持ち悪い。僕は簡単すぎる自己紹介をして頭を下げた。目の前にいるのは最早同じと言っても過言じゃない五人の少女だ。彼女らは五つ子らしい。どうやら僕は今日からこの人達の家族になり、この少女達の弟に成るらしい。と、言っても僕とこの少女達は同年齢らしいのだが。
正直な所、施設は好きでは無かった。勉強でも運動でも失敗すれば死んだ方がましとも思えるような痛いお仕置きが待っているし、施設の高校生どもはこぞって僕達を日々のストレスや欲望の捌け口にしていた。自分自身骨折は何度も経験したし、錆びたカッターナイフで片目を刺されて失明までした。その時は流石に病院に連れていってくれたし、刺した奴は精神鑑定の結果、異常とみなされ病院へ送られた。
施設から抜け出せたのは願ってもなかった。大人は笑顔で言うことを聞いていればそれで良い。こっちで生きるのは施設で生きるより楽そうだ。僕は笑顔を浮かべて目の前にいる女性と少女に連いていった。
「三玖!危ない!」
僕が家族に成ってから気づけば約2年が過ぎた。何故だか僕は本気でこの家族を愛するように成っていた。だからあのとき咄嗟に手が、身体が動いたんだろう。迫り来るダンプが三玖に当たるより速く、身体を動かし三玖を突き飛ばすと同時に僕はダンプ撥ね飛ばされた。
糞親に生まれて、生まれつきの障害の白い髪を気持ち悪いと言われ、殴られ蹴られ、挙げ句の果てに捨てられて、拾われた先の施設でも殴られ蹴られ、片目を失い、結局はダンプに轢かれる。失うばかりの人生だから最後はお似合いなのかも知れない。
こんな失うだらけの人生でも本当の家族を得られたというのは嬉しかったなぁ。
脳内を思い出が駆け巡る。これが所謂走馬灯ってやつだろうか。昔、誰からか聞いたことがある。走馬灯と言うのは死に行く年間際、何とかして生き延びようと、過去の経験の中から今の打開策を探るために見るらしい。
今、走馬灯を見ていると言うことはまだ僕は生きたがっているんだろう。
ピッ、ピッっと言う規則正しい音が聴こえた。身体を覆う布団が少し重くて苦しい。そして何より暑い。
そこまで思った所で六來はおかしなことに気付いた。自分に五感があるのはおかしい。今まで開かなかった瞼が今なら開きそうだ。六來はゆっくり瞼を開けた。射し込む目映い光に、白一色の天井。そして自分を覗きこむ顔。
思うように声が出せず、掠れた声で言った。
「こ、こは?」
「六來?六來!?起きたの?」
状況がさっぱり掴めない。身体は硬直して動かない。それに自分を呼ぶ声。しばらく考えて気づく。自分は起床したのだ。全身を駆け巡る痛みがもう夢では無いことを示している。
しかし何故だろうか。身体がやけに大きい気がする。六來は硬直した身体を無理に動かして枕元のカレンダーを見た。そして何かを諦めたように口元にぎこちない笑みを浮かべた。
「10年後、、、か」