五等分の姉さん   作:リョー

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姉弟

 六來は自分を抱きしめる巨体を振り払った。こんな時に限って腹がジクジクと痛む。姉達の前で病気を見せるわけにはいかないと、口の中に満ちるむせかえるような血の味を必死に飲み込んだ。

 

「ちょっと!ウチの六來になんか用!?」

 

二乃が父親に訪詰め寄っていった。二乃の片手には110と番号が表示された携帯電話。

 

「あんたの答え次第では警察呼ぶけど」

 

二乃が父親にそう言っている最中に、三玖は苦しそうに息を吐く六來を座らせた。

 その丸々と太った身体、短い脚、豚のような顔、気色の悪い声。

全てが六來の目と耳、そして脳内に焼き付いていた。自分を捨てたあの男。

 落ち着いた六來は父親に向かって言う。いや、落ち着いてなどは居なかったのかもしれない。本当は今すぐ殴りたい気持ちだった。しかし、それを抑え込む六來の握られた手からは血が滴っていた。笑顔を作った六來は言う。

 

「済みません。七條さん。何か御用でしょうか?」

 

「そんなに固くならないで良いんだよ?私のことはパパで良いんだ。四季」

 

「御用はと聞いています。無いのならお引き取り下さい」

 

精一杯の作り笑顔だが、ちょっとしたきっかけでその笑顔も直ぐに崩れそうだった。姉達は六來がとてつもなく怒っていりことは見抜けているようで少し怖がっているようにも見える。しかし七條は何も気付いていないようでニタニタと笑いながら話し掛けてくる。

 

「そうだ!四季!話をしよう!四季は確かミルクコーヒーが好きだったよね!美味しいカフェが有るんだ!」

 

「今更、今更貴方とする話が有るとでも?」

 

六來の冷たい声に父親は黙った。

ちょっとしたきっかけは直ぐに出来た。ずる賢い態度が引き金になり、六來を起爆させた。

 

「僕を捨てた貴方とっ!する話などあるとでも!?」

 

上がりそうになる手を隣にいる三玖が握った。血行が悪いのか、ひんやりとした手だがそれは優しく六來の血塗れで震える手を包み込んだ。

 

「だめ。こんなになるまで耐えた意味が無くなっちゃう」

 

三玖の声と手が六來を抑える。自分の手のひらを抉るほど固く握った拳を三玖はゆっくりと開いた。

 

「お引き取り下さい」

 

六來は一度礼をすると振り返ってマンションの中に入っていく。後ろから姉達が追い掛けてくる。

父親はハッとして追い掛けようとするが既に六來はマンションの中に入っていた。父親は舌打ちをして近くにある鉢植えを蹴っ飛ばした。しかし、その後何かを思い付いたように気色悪く笑った。

 

 

 

 

 

 家に帰ってきた六來は部屋に籠っていた。

何故あの父親に居場所が割れたのだろうか。ここに引き取られる時に自分についての個人情報は抹消されている筈だから先ず辿ってくることは出来ないだろう。施設が情報を漏らしたのだろうか。しかし施設は出た瞬間に一部の情報だけを残してデータを抹消するしデータ管理はかなりのものな筈だから流出は有り得ない。

色んな憶測や思考が頭を流れるが深くは考えられない。どっと疲れがのし掛かってくる。しかし異様に興奮していて眠れもしない。寝て忘れられたらどれだけ楽なことだろうか。怒りとは呼べない。よくわからない感情が脳内を支配して

六來はベッドの上で丸くなった。白いシーツを手から流れ出す血が汚す。するとノックの音が響いた。

 

「六來。起きてる?」

 

「、、、。、、、。うん。起きてる」

 

「入っていい?」

 

「うん。いいよ」

 

すると扉が開いた。そしてそこにいたのは三玖だけではなく全ての姉だった。

 

「姉さん達。どうしたの?」

 

ベッドに腰掛けて深く項垂れる六來の部屋にある車椅子、勉強机、勉強机の椅子、六來の両隣。それぞれに姉達は腰掛けたりよしかかったりして六人で話始める。

 

「六來。手、出して」

 

六來の右隣に座った三玖が救急箱から消毒液取り出したりなど忙しく動き、手を治し始めた。

 

「ほら、六來君ー。そんな顔してたら幸せ逃げちゃうぞー」

 

一花が六來の脇を擽る。弱点の脇を擽られた六來は笑ってしまう。

 

「やめてっ!脇はっ!」

 

六來が溢す自然な笑み。いつも浮かべる寂しそうな笑みとは違う無垢な笑み。

天才の割にはかなり天然で、鈍感で不器用で本当は性格とは相反して甘え下手。だけどそこが可愛くて、温かくて、優しくて。それがふとした瞬間に顔を覗かせる本当の六來なのだろう。

 六來は幼くして痛みを知りすぎてしまった。そしてそれは知らなくて良いことなのだ。六來が辿るべき道はこんなに暗く荒んだ道では無くて、沢山の愛で輝く道だったのだ。

 六來が自分自身でも分からなかった六來の感情の正体。その一つは怒り。もう一つは悲しみだ。どこまでも底無しに深い悲しみだ。

 そしてその悲しみを六來に抱かせ、六來から笑顔を奪った奴は許さない。姉達は各々に思う。大切な弟の為に。愛する弟の為に。

 

 

 擽れて笑い終えた六來は言う。

 

「みんなありがとね。元気が、、、出た」

 

ギュッて笑って見せた六來に姉達は微笑む。綺麗で、ほんの少しの衝撃で崩れて無くなりそうな無垢な笑顔。

この笑顔をずっと見ていたいと姉達は思うのだった。

 

「今日は久し振りに六人で寝ませんかー?」

 

四葉が全員に向けて提案した。とても良い案だと全員で頷く。

 

「だけどリビングで寝るわけにもいかないですし、、、」

 

「何言ってるのよ五月。ここに大きなベッドがあるじゃない」

 

二乃は六來の座るベッドを指す。身長を考慮して縦幅の長いベッドにしたら横幅も長くなった大きなベッド。確かに全員で縮まれば寝られそうだ。

 

「取り敢えず血のついたシーツは剥がしてっと。ほら!六來!立って!」

 

二乃が着々と準備を始めだした。それに合わせて他の姉達も銘々に動き出した。

 六來が姉達とこうしている間に父親のことなんてとっくに忘れていた。

 その数時間、六來は夢を見ていた。大きく黒い闇が六來を取り込もうとする。中に入っては二度とここに戻ることができない、そんな気がするような黒い闇は六來の身体を取り込もう大きく開いた。しかし五つの光が闇を照らして、消し去るのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




折角の全員で寝るイベントなので書いてみようと思います。書きたいけど閑話にするほどでも無いという感じなので後書きに書きました。良ければ読んで下さい。






 六來は遠い目で姉達を見つめる。
時刻は夜の12時。六來の部屋に寝間着をきた姉達が集まったのは大体10時。何故こうなったのか。それはよくわからない。強いて言うならば寝る位置決めだ。誰の隣は嫌だだの誰の隣がいいだだの話合っていたら二時間が経っていた。
 漸く決め終わったようで全員がそれぞれの位置について横になった。

「やっぱ六來と三玖はいつも一緒に寝てるから私が六來の隣に行く!」

「だめ二乃。もう決めたから変更なし」

「それにしても隣が一花なのはまずいと思います。仮にも六來は男子です。ここは安全な私が、、、」

「うふふ。五月ちゃん。残念ながらもう決まったことだからね」

「私は寝相が悪いのでどの位置に寝ても六來の隣になると思いますよ!」

「四葉。私は抱き枕がないと眠れないから今日は六來を抱き枕にする。だから左隣しかいけないよ」

そう言って三玖は六來の右腕を抱いた。

「あっ!三玖ズルい!」

「一花。美味しいものあげるので場所かわりましょうか」

「ZZZ」

「ていうか四葉お姉ちゃんもう寝てるし!」

「あっ!四葉!駄目です!動かないで下さい!」

「三~玖~!場所を変わりなさいよ!」

「六來君ー。脱いじゃったらごめんね♪」

「一花がその気なら。六來。脱ぐけどごめん」

「三玖?方向性変わってない?右腕がこの状態のまま脱がれるときついんだけど??」

「ていうか!うるさくて寝れないよ!!!!!」

夜とは思えない程のに賑やかさだったという。
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