───あったかい。
それが私がそこで最初に感じたことだった。ふわふわでぬくぬくしてて...とっても気持ちがいい。ずっとここで寝ていたいような...そんな感じ。
それにいい匂い...こんなの初めてかも。あそこでもこんなにいい匂いはしなかったしね...
───待って、そういえばここはどこなの?
極々単純な疑問が沸き上がってくる。というか何で私は寝てたんだっけ?
............そうだ。確か変な感じの森の中で倒れたんだ。でも、寝る前はこんなにふわふわして無かったし、暖かくもなかったはず。
バッと飛び起きて周りを見渡してみる。そこは森なんかじゃなくて...建物の中みたいだった。見たこと無い壁や天井の模様で、心なしか落ち着ける空間になってる。
私が今いるところも見たことがないものだった。布団...とはまた違うのかな。
似てるけど、こっちのほうがふわふわしてて暖かいし、なんか豪華。
なんか、ここってまるで...
「天国...?」
「残念ながら、ここは天国ではない」
ふと呟くと、知らない誰かの声が聞こえてきた。その声がする方向を向くと...人型の男の人がいた。
──瞬間、私の血の気が引いていくのを感じた。
捕まった。
捕まってしまった。
殺される。
あの怖い人たちに殺される。
嫌だ。
嫌だ...!
死にたくない...!!
死にたくない...!!!
「来ないで...!!!!」
その感情を露にしたとき、私から何かが広がっていくのを感じた。私を追って殺そうとする人達から逃げる時と同じあれ。
その人達はいつも変な叫び声を上げたかと想えば居なくなってた。今回も同じであって欲しい...と私は切に願う。目を瞑ってるから何が起こってるか分かんないけど...
「むぅ...これは...!」
だけど、その男の人は叫び声なんて一切上げなかった。寧ろそれをじっくり見てるみたいで、声が若干弾んでるような気がする。
「幻術か?...私の見た中で一番精度が良いぞこれは。リアリティが凄まじい...並大抵の者なら即座に騙されてドボンだ。この歳でこれならば...」
何を言ってるのか分かんなくて、私は恐る恐る目を開けてみると......そこは地獄だった。
周りは真っ暗で殆ど何もなくて、男の人に向かって影みたいな真っ黒の人型の何かが襲いかかってるみたいだけど、男の人は全く驚いてない。
でも私にとっては...めちゃくちゃ怖かった。
「イヤァァァァ!!!」
目をギュッと瞑って怖さのあまり叫ぶと、更に私から何かが広がっていく。とにかく、早くあの怖いのがどっかに行って欲しいと思い続けてた。
「落ち着きなさい」
「あっ...」
あれ、急に抱きしめられた...?
...暖かいなぁ。少し苦しいけど、気持ちいい。
「ほら、私の背中を見てみなさい。羽があるだろう?つまり、お前の仲間だ」
「...仲間?」
「そうだ。だから私はお前を殺さないしこれからも殺すつもりなんてない」
「本当?」
「本当だとも。寧ろ、お前を私の娘として迎えようと思っているところだ」
娘ってことは...この男の人の子供になるってことだよね。
...それって...
「わ、私...ここにいても、いいの?」
「勿論さ」
「っ!」
私がその言葉を聞いた刹那、涙が溢れて止まらなくなった。
初めてこの姿の私を認めてくれた!この人は私はここにいていいんだと言った!私を、娘にしてくれると言った!
「ど、どうしたんだ!?」
「大丈夫...あれ、おかしいな...嬉しいはずなのに...涙が...止まらない...」
「......そうか」
その男の人は私が泣いている間、ずっと頭を撫でてくれてた。頭を撫でられるなんていつ振りだろう...初めてかもしれない...でも気持ちいいなぁ。
私がある程度落ち着いて来た後、急に思い出したことがあった。この人誰だろ...っていう、普通なら多分一番最初に思うこと。今更だからちょっと聞きにくいなぁ、と思いつつも聞いてみることにした。
「あの...お名前はなんていうんですか?」
「うむ、私か?私の名は『ウラド・スカーレット』、吸血鬼だ。そしてだな、お前は今日から『エレナ・スカーレット』と名乗りなさい」
「『エレナ・スカーレット』...」
私の元の名前なんてもう思い出せないから殆ど名前無しみたいな感じだったんだけど...名前を貰うってこんなに嬉しいことなんだなぁ...
そういや吸血鬼ってどこかで聞いたような...そうだ、私のことだ。本当にこの人は、お父さんは私の仲間なんだ...
「さて、我が妻にもお前のことを改めて紹介せねばいかんな。エレナ、行くぞ」
「...はい!」
ウラドさんの妻...私のお母さんになるのかな。どんな感じの人なんだろ...お父さんみたいに優しい人だといいなぁ...