次はあんまり遅れないよう努力したいです...
ヴラドさん───いや、お父様に拾われて名前を貰ってから色々なことを経験した。
その例の一つとしてお母様──エリザ・スカーレットさんについて。私の初めての母だ。そうなるとお父様は初めての父ってことになるね...と、これは置いといて。お母様はとっても優しい方だった。スカーレット家の一員となってからやらされたのは勉強。
食事や振る舞いのマナーとか食事で使うらしい道具──ナイフとフォークって言うらしい──の正しい使い方とかそういうの。
最初は本当に何に使うのか分かんなくて聞きづらかったけど側にいたお母様に尋ねてみたら...めちゃくちゃ丁寧に教えてくれたの。それはもうバカな私でもすぐ理解出来るレベルにね。
お母様自身、子供が中々出来にくい体質らしくてこうやって子供に何かを教えることに憧れたんだって...なんかごめんね、これからお母様から生まれてくるであろう子供さん。お母様の初めてを貰っちゃった。
そんで今私は何をしてるかというと...紅魔館の図書館にいる。本を読んでいるの。
お父様曰く、私に大きく欠けているものは知識らしい。だから本を読んで知識を身に付けろとのこと。
最初は──というか今でもあるけど──読めない文字が多くていつも近くにいるメイドさんに聞いたりしてた。分かんないことは聞かないと解決出来ないからね。仕方ない。
その中でも興味を持ったものは神話だった。ここの図書館には溢れるほどの本があって色んな種類のがあるけど、何故か神話に惹かれた。特に神話に出てくる武器。
「...カッコイイなぁ」
いつも思うのはこれ。性能もあり得ないほど強くて妙に心を擽ってくる。
流石にどんなのだったかっていう絵とかは載ってないんだけど、それがまたこうだったんじゃないか、みたいな想像が出来て楽しい。
「フフッ、エレナお嬢様はいつも神話を見ていらっしゃいますね」
私の側にいてくれてるメイドさんが私に声を掛ける。
「そう...ですか?でも、気付いたら読んじゃうんですよね」
「確かに格好いいですものね。神話って」
「中でも武器が好きなんですよ!特にウル神が使う弓が好きで...」
「弓...ですか?」
「はい!固有の名前とかは無いですが、ロマンを感じるんです!勿論グングニルとかレーヴァテインとかもカッコイイとは思うんですけど、私はこの弓が好きなんです!」
「そうなのですね」
嫌な顔一つしないで話を聞いてくれるこのメイドさんはとってもいい方なんだろうなぁ...私だけが盛り上がってるのにニコニコしながら聞いてくれてるし。
そういや紅魔館のメイドさん達が私の事悪くいってるの聞いたこと無いなぁ...いきなり養子でも余所者が入ってきたなら絶対とは言えないけど陰口とか言われるものだと思うんだけど...私が気付いてないだけかもだけど、言われてなかったら嬉しいな。
まぁ、それは置いといて...
「私もこんな武器使いたいなぁ...」
カッコイイ武器を見たり聞いたりしたら多分誰もが思うことだと思うの。自分も使いたいなぁって。
お父様からの戦闘訓練──というかまだその段階に至ってないから実際は身体作りね──をしてはいるけどまだダメダメだから貰ったとしても使いこなせないのは目に見えてるけど、やっぱり一度は使ってみたいじゃん?憧れみたいなものだよ。
「...ふむ、これを機会に試してみるべきでしょうか...いえまだ早いかもですし...」
そしたらね、なんかいきなりメイドさんが顎に手をおいて何か考え出したんだけど。
時々ブツブツ呟いてるのはなんだろう?ちょっと怖いんだけど。
「...エレナお嬢様、少しよろしいでしょうか」
「は、はい?」
「エレナお嬢様が好きとおっしゃったその弓はどんなものかというイメージはありますか?」
「あ、はい、一応は。こんな感じなのかなーって程度ですけど」
「では、それを頭でイメージしつつ、造り出してみてください」
「つ、造り出す!?」
急に何を言い出すんでしょうこのメイドさんは...そんなのは本で見た魔法とかそんなのが無いと無理なレベルだよ。
いや読んだ本の中には魔導書みたいなのはあったし実在するんだろうけど私には素質は無いだろうし。
「とりあえずやってみてください」
「...分かりました」
何が悲しくてこんなことしにゃならんのだ...まぁいいや。
私は本を机に置いて手を出し目を瞑る。
イメージするのは弓。名前の記述が無かったからそこまで派手でもない、だけど普通の弓とは一味違う見た目をしてる。そんな弓を。
──段々恥ずかしくなってきたな。そろそろ止めていいかな?
「エ、エレナお嬢様...!?」
「え、どうしたんですか?」
突然驚いたような声をメイドさんが上げたからびっくりして目を開けてしまう。でも、私はそのメイドさんの方を向くことは無かった。何故なら───
「...ん?あれ、なんで?」
──私の右手には『私のイメージした弓と全く同じ弓』がそこに合ったからだ。
あれー可笑しいな。メイドさんが手にそっと持たせてくれたのかな?いやでもそれなら私のイメージと合致してることの説明がつかない...偶然かな?
「...おぉ、質感までイメージ通りだ」
触ってみるとあら不思議。感触も完全に一致してる。
「わ、私も触ってもよろしいでしょうか?」
「あ、いいですよ」
なんか興味深々なメイドさんだったからとりあえず許可しといた...ってあれ?これくれたのメイドさんじゃないの?
なんて考えてたら、メイドさんが触った瞬間──弓が散った。
「ん?」
「え?」
思わず間抜けな声を出しちゃったけどこれは仕方ないと思う。だって言葉通り弓がいきなり粒子っぽい何かになって分散したんだから。
弓があった場所に手をやってもそこには何もなくて、なんか虚しい気分になった。
「...これはまさか...幻術魔法?取得方法、必要儀式が不明とされる謎の魔法の一つ...生きてる間に御目にかかれるなんて...これは報告しないと」
「えっと、メイドさん?」
「...ハッ!すみませんエレナお嬢様!そろそろ私行かなくては!失礼します!」
「...いってらっしゃーい」
...なんか嵐みたいに去っていったなぁ。忙しそうになってたしなんかあるんだろうね。
お父様との訓練までは時間あるしもうちょいだけ本読んでおこうっと。
さてさて、今日は北欧神話だけじゃなくてギリシャ神話辺りでも読もっかな!
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「...そうか、報告ご苦労。下がってよいぞ」
「失礼します」
たった今、エレナの教育を担当させているメイドからの今日の報告があった。
いつもはどういうことをして過ごしていたとか、エレナとどんな話をしていたとかなど本当にとりとめもないことなのだが、今日の報告は違った。
それは、エレナが幻術魔法を扱えるかもしれない、というものだった。
当初それを聞いたとき、私は『やはりか』とひっそり心の内で呟いてしまった。あの日エレナが展開した世界は紛れもなく幻術...いや、幻術魔法だったのだから。
ただの幻術と幻術魔法というのは完全に異なるものだ。幻術魔法には幻術には無い『魔力』が関わっている。魔力があることでよりリアリティが増しより相手を騙しやすく出来るのだ。
今思えばエレナのあの世界からは微かながら魔力を感じれた。
それに、エレナが良く読む本の中に魔導書もある。これは素質のある者しか読めない本らしい。現に私は全く解読出来なかった。我が妻のエリザさえもだ。これなら魔法が使えても可笑しくはない。
「...ふむ、すると気になるな」
実はあのメイドは知らない幻術魔法の事情...と言ってもこれはあくまで説だが...が存在する。
我が友人で魔法使いでもある『バートリー・ノーレッジ』曰く、幻術魔法を扱える者にはとても大きなストレス、トラウマを抱えている者が多いそうだ。
ここからは彼の推察だが、幻術魔法というのはその者がストレスやトラウマから逃避するために自然発現する...らしい。
仮にこの説が本当ならばエレナには何か大きなそれがあるんだろう...
「...父親としては、エレナにはそんなものは抱えてほしくないのだがな」
だが、エレナが数少ない希少な幻術魔法を使えるのならば生かさない手はない。
私はこれからの訓練項目に『幻術魔法訓練』を作ると決め、とりあえず切り替えて別の書類仕事に取り組み始めた。
──夜はこれから更けていく。
...うぅ、あんまり話が進んでない...