短め...かもです。
それではどうぞ。
『お前には幻術魔法が使える』。これは私が幻術魔法の訓練をするときお父様から最初に言われたことだ。
最初は何を言ってるのかさっぱりだった。まだ戦闘訓練の時間じゃあないはずなのにいきなりお父様が私の所にやって来て急に言い出したんだからね。
色々話を聞いていく内に以前私の手にあった弓が私が幻術魔法を使って作り出されたものだって分かった。お父様からは無自覚か...と言われて呆れられちゃったけどね...
お父様曰く、幻術魔法というのはかなり稀少なもので訓練をするにも私の想像力と創造力がなきゃダメなんだって。
───この日から、地獄の訓練が始まった。
まずはとにかく色々なものを片っ端から幻術で作り出すとこから始まったんだ。
日常的に使う櫛、歯ブラシ、ナイフやフォークのような元から形が分かるものの再現から始まって、神話に出てくる武器みたいな形が分かんないものまで......とにかく作らされた。
...正直、あの時の私凄いと思う。突発的にこの武器はこんな形だーとか、あんな形だろーなーみたいなのをすぐに作り出したんだし、しかもそれまだ覚えてるっていうね。怖いよ私。
更にね、作り出したもの達を維持させろって指示も出たんだよね。一個だけを維持させるのはとっても簡単だよ?一個だけに魔力を注げばいいからね。
...あ、魔力っていうのはね、魔法を使う者がそれぞれ持ってる魔法を使うために必要な目には見えない力のこと。酷使すればその分増えるらしいからなんか体力みたいだね。というか魔法の存在もこの時知ったんだ。今思えばメイドさん達魔法使っていたような...
まぁ、話を戻すね。その作ったやつ...最初のほうはホントに一気に作れるのは三個とかが限界で維持した時間も3分持てばいいほうだったんだ。しかも幻術の質も相当悪かったしね...
だけど最近...というか今では最大50個作れて1時間も持つようになったんだ!くっそ質悪いけどね! まだまだ訓練は続けてるからどんどん増やしていきたいね!
まぁここまでは正直うわ、きっつ...程度の...程度?だんだん私感覚麻痺してきてない?...まぁいいや。
とにかく次の段階からかなりきつくなったわけなんだ。うん、その次って言うのが今やってることなんだよね。どういうことかというと────
「立てエレナ。まだ初めてから一時間も経ってないぞ?」
「ハァ......ハァ......っはい!!」
───戦闘訓練に幻術魔法を応用するっていうことなんだ。
つまり私が使う武器全て幻術魔法で作って、攻撃や防御をしなきゃならないってことだ。お父様私を殺す気なんですかね...?
普通に考えて幻術で武器を作るってアホじゃないかって思うでしょ?
でも私ができる幻術は普通のただ単に幻を作るやつだけじゃない。質量を持った幻───私は『有幻』って呼んでる───も作れるんだ。
最早投影ってやつだねこれ。まぁかなり魔力使うからまだ沢山は作れないんだけどさ...
というか、やってる側からしたら相当きついんだよこれ。だって常に思考しなきゃならないしね。どこにどんなどういう幻術を使うのかとか、それを使ってどう倒すのかとか。
お父様の倒し方? ...分かってたら苦労しないよね?
「......いきます!」
両手に出現させるのは大量のナイフ。ただのナイフじゃあないよ。吸血鬼が苦手とする銀で出来たナイフだ。
それを高速で移動しながらお父様に向かって色んな方向から放つ。吸血鬼は羽があって空を飛べるから空中戦闘が主なものになる、つまり360度完全に逃げ道を無くすようにしてナイフを投げないといけない。でも、まだそんなに大量の有幻のナイフは作れない。
そこで使うのがただの幻。上手く織り混ぜることで、どれが幻か有幻なのかを分からなくさせるのね。
でもなんでかな...お父様さっきから目を瞑って私にされるがままで動こうとしないね。このままだとナイフに当たっちゃうんじゃ...?
「───なるほど、そこか」
いきなり目を開いてそう呟いたかと思えば─────お父様は幻で出来たナイフの部分に身をやり、上手く有幻のナイフを全て回避してみせた。
しかも、必要最低限の動きのみで。
「...えぇ!?」
「確かにお前の幻術は一級品だ。これまで戦ってきた中でも格別だと言えるほどな。だが、まだまだ未熟だ。幻を使い分けるのはいい、だが、感じ取れる魔力でどれがどういう幻なのか悟られてしまうのはNGだな」
「わかっちゃうのかー...」
かなりレベル高いこと要求してることお父様分かってる...? 幻術魔法の訓練始めてまだそこまで経ってないのお父様知ってるはずなんだけどなぁ...
「次はこっちから行くぞっ!!!」
「わわっ!?」
は、速いってお父様!! こんなの対応なんて...まぁ、ある程度なら出来るんだけどね。最初の頃はまず見えなかったしなぁ...今考えればよくここまで来れたよね私。
「戦闘中に考え事とは余裕だな!!」
「あ、危なっ!!」
お父様は速い。そして疾くて捷い。まぁとにかくスピードが桁違いなわけだ。
でもそれだからっていって攻撃力が低いかと問われれば否だ。割とシャレにならないくらい痛い。
今回避出来たのはマジでギリギリ...しかもまだお父様のペース...なら、アレを使おう。自信はない...けどね。
「いきます、お父様!」
「!!」
まず両手にに有幻で出すのは少し大きめのグレネード。展開すると同時にピンを切る。
「ちぃ!」
「逃がしませんよ!!」
ピンを切ってから爆発までは大体7秒ほど。それまでにこれをお父様に当てなきゃならない。でも投げてたら回避されるのは当たり前。
じゃあどうするか? ...簡単、私がお父様に近づけばいい。言ってしまえば人間爆弾ってやつ...私人間じゃないけど。
私ならある程度お父様の機動に着いていける。投げるよりは良心的だよね。
爆弾まで...4。
「どうした! 投げないのか!!」
3。
「投げたら逃げられるのが関の山です!」
2。
「...まさかお前、特攻する気か!?」
1。
「...そのまさかですよ」
────0。
ドッガァァァァン!!!!
かなり規模の大きい爆発。凄まじく鳴り響く爆音。ここまでくりゃお父様も無事ではないはず...だよね?
私? 私は平気。なんたって───幻術魔法があるからね。
爆発する寸前。私は私を霧みたいな状態にして分散させて爆発から免れた。まるで私が初めからそこに居なかったように。
そして爆発が収まった頃、霧を再構成して私を作った。勿論無傷だ。
これ、幻術魔法の応用なのですよ。
「───やるじゃないか、エレナ」
「...まぁ、そりゃそうですよね」
どこからかやって来た蝙蝠が一つに集まりお父様を構成していく。そう、純吸血鬼は私が幻術魔法でやったさっきのことを蝙蝠を使って出来るんだよね。そしてお父様も無傷と。
「...っと、今日はここまでだ。明日またやるからしっかり休むように」
「はーい」
これから更にやるのかと思ったけどお父様帰っちゃった。あれまぁ...完敗だね。
「さてさて、この手はダメと...なら、明日はあの手で行くかぁ」
作戦は山ほどある。いつかお父様に勝って褒めてもらうんだ。無論お母様にも。
それに、それが今私の出来る唯一の恩返しでもあるしね...義理でも娘を名乗ってるなら強くならないと。私を...何よりも、私の家族を守るために、ね。
「さて、明日も頑張ろっとぉ...」
部屋に帰ってじっくり反省だね。本当に頑張らないと......