異血の姉は幻影と共に   作:エンゼ

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遅くなりました。しかも短いです。
それでも良い方は見てってくださいませ……




 

 

 

 

 

 

 つい最近────とは言っても数年前だけれど、お母様が子どもをお産みになった。なんとなく最近は時が過ぎるのが早くなった気がする。毎日が楽しいからかな。

 

 それで、その子の名前はレミリア。お母様譲りの空の色をした髪の毛、さらに深紅色の目を宿した、まさに正統派吸血鬼。お父様やお母様のきちんとした娘で私の義妹だ。

 

 このレミリアがね……可愛いすぎるんだ。とっても。最高すぎるんだ。

 

 養子である私を『おねぇさま』と呼んで慕ってくれてる。ここだけでももう最高なのに、気を許してくれてるのかたまにお父様との訓練で辛かったこととかを話してくれたりする。頑張ったねと言うとにへらと笑ってくれる。めちゃくちゃ可愛い。

 

 さらにあの子は賢い。人の赤ちゃんよりも早く言葉を話せたり、私が身に付けるのに苦労した知識を難なく吸収していたりしていた。しかも、私にはない色んなものを惹き付けるカリスマ性も持っている。まだ2歳になったばっかりなのに……

 

 そんなレミリアに嫉妬心を抱くこともありはしたけど……今は仕方がないと割りきっている。レミリアにはあのお父様の血が流れているのだから。まぁ嫉妬心よりも凄いなぁ可愛いなぁみたいな感情が強かったというのもあるだろうけど。

 

 お父様は今やレミリアに付きっきりで教育を毎日のようにしている。厳しいけども休みも取って効率良く成長していくようにやってみるみたい。次期当主だからこうなっているのは仕方がないのかもしれないけど……やっぱり、ちょっと寂しいかな。

 

 私は一人でお父様から言われたことを実践している。最近は物の有幻はある程度出来るようになってきたから次は空間支配のためのものに。

 

 幻術魔法の特徴は、戦闘において常に優位に立てること。戦場そのものを自分が望むものや相手が苦手とするものにしてしまったり出来るから。例えそれが幻術だって分かっていても身体が反射的に反応してしまうから回避は難しい。極めればそれだけ強くなれるんだ。

 

 勿論戦闘以外にもこの幻術魔法は沢山活用出来るんだけど、一先ず私は自分の身を自分で守れるようにならないとダメだからね。もし狙われてあっさりと殺されたりしたらスカーレット家の恥だから。

 

 この空間支配もだけど、そもそも幻術魔法には豊富な想像力が欠かせない。想像力を広げるためには自分の知る世界を広げなきゃいけない。

 

 だから私はやることがない時間はずっと図書館で本を読んでいる。今このときも含めて。小説から学問書、絵本だったりと様々な種類をだ。

 

「……」

 

 これは最初はお父様から言われて始めたことなんだけど、今では自分から本の世界に向かっていってる。想像力を鍛えるっていう目的が達成されてるかどうかはわかんないんだけど、これがお父様が言うには近道らしいから読んでる。

 

「……」

 

 ふと、時計に目をやる。時間は午後5時。確か今日は2時から訓練をするみたいだったから……大体3時間もやってるんだ。大丈夫かな……レミリア。

 

 私としてはレミリアともっと義姉妹の交流とかをしてみたいんだけど……異端な私が将来スカーレット家を継ぐであろうレミリアにふれあい過ぎるのもどうかなって思って、基本的に私からは出来るだけ近づかないようにはしてる。

 

 もし私から近づいてったら養子の癖にって良い気持ちしない人もいるかもだしね。

 

「んー……」

 

 読書を切り上げ、背筋を伸ばしてリラックスをする。もう今日は読むのはやめにしよう。切りもいいから続きは明日にでも。

 

 色々と考えを巡らせていると───図書館の外から誰かの気配を感じた。これは……お父様じゃないし、いつものメイドさんでもない。なんとなく愛おしさを覚えてしまうこの気配は……

 

「おねぇさまっ!」

「──いらっしゃい。レミリア」

 

 少し服がボロボロな状態だけど、ニッコニコな笑顔のレミリアが来た。この様子から察するに、訓練が終了してそのままやってきたんだろう。

 

 確かに私はさっき『私からは出来るだけ近づかないようにしてる』とは言ったけど……レミリアから来てくれるなら何にも問題ないよね。……多分。

 

「おねぇさま、わたしきょうもがんばったのよ!」

「うんうん。レミリアがいつも頑張ってるのは知ってるよ」

 

 こうやって『素のレミリア』を出してくるのは私が知っている限りでは私の前だけ。お父様やお母様たちはレミリアが次期当主としての振る舞いすることを期待しているということもあって、いつものレミリアは『カリスマなお嬢様』なんだ。

 

「今日は何をしたの?」

「まずはおべんきょうをしたわ! ちょっとむずかしかったけどすぐにおぼえられたの!」

「ホント? 流石レミリア!」

「えへへ……」

 

 だけど、仮面を被り続けたらいつか壊れてしまう。だから私という甘え先を作って素を出せる時間を作ってあげなくちゃいけない。

 

 このことはお父様もお母様も知っているはず。だけど敢えて黙ってくれているんだと思う。

 

「あとはせんとうのくんれんもしたわ! おとうさまがつよくてなかなかかてないのだけど……」

「その歳でお父様に勝てたら凄すぎると思うんだ。まだまだこれからだよ!」

「そ、そうよね! がんばるわ!」

 

 一応戦闘経験はレミリアより多い私でさえ勝てないんだから勝てないのは普通だよ。うん。そうであってほしい。

 

 素でいてくれる時だけはせめて『姉』でいたいんだけど、レミリアがお父様に勝っちゃったら本当に姉としての威厳というか、そういうのがなくなっちゃうからまだ勝てなくてもいいよ……なんて酷いことを考えちゃう。

 

「おねぇさまはなにをしてたの?」

「私は……ずっと本を読んでたな。これが私の今やるべきことなんだって」

「そうなの。どんなほん?」

「んーっとねぇ───」

 

 レミリアはその内容かというより、私がどんな本を読んだのかというところを気にしているようだ。あんまりレミリアは読書をしないからね……忙しいっていうのもあるかもしれないけど。

 

 いつかレミリアが成長して一人で何でも出来るようになって、私を必要としない時がくるかもしれないけど……こうやって私を求めてくれる間は応えてあげたい。それがスカーレット家への恩返しになるならいくらでも。

 

「すごいわおねぇさま……そんなによんでたのね」

「時間さえ取れればレミリアだって読めるはずだよ。今度一緒に読んでみる?」

「いいの?!」

「もちろん! 本の楽しさを教えてあげるからね!」

「うふふ、とってもたのしみだわ!」

 

 こういう少しだけの交流。二人だけでただお喋りをするだけの秘密の時間。これが今の私にとっての一番の楽しみなんだ。


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