リリスパ PHOENIX   作:ファルメール

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第04話 任務と任務の間に

 

「これは一体……」

 

 モモは、戸惑いと困惑を隠せずにキョロキョロと視線を動かした。

 

 彼女の他にも、ツキカゲの現構成員全てが、この空崎市沿岸部工場地帯に集まっていた。

 

 今回のターゲットはある輸入会社である。

 

 この会社は裏でモウリョウと繋がっていて軍事人形の輸出入を行っているとの情報が入り、つい先日にその裏も取れた。

 

 空崎の平和を守る事こそが、ツキカゲの存在意義。早速この会社を潰す為に乗り込んだツキカゲ達であったが……

 

 乗り込んだそこに広がっていたのは、彫像の如く機能を停止した無数の軍事人形と、ぐるぐる巻きの雁字搦めに縛り上げられて気絶している社長以下密輸会社の社員達だった。ご丁寧にも彼等の傍には、軍事人形を初めとする違法な品物を輸入した記録とその金の流れを記した台帳まで添えてあった。

 

「私達の手口とそっくりですね……」

 

 楓が、状況を検分しつつ感想を口にした。

 

「それにしても、ここで一体何が起こったんだろうね?」

 

 と、命。

 

 確かにここで何か、恐らくはツキカゲの前に殴り込みを掛けてきた者あるいは者達が居て、ゴタゴタがあったのは疑う余地は無いが……

 

 それにしてもこれは状況が異様だった。

 

 数えるのが面倒になるが、目算で百体は居るだろう軍事人形はどれも、手持ちもしくは内蔵重火器を照準して発射寸前という状態で機能停止している。しかもロボット達は、ぐるりと円を描くように配置された形で動きを止めていた。明らかに包囲網を敷いていた形だ。つまりこれらの軍事人形達が動いていた時には、この円の中心に何者か……恐らくは侵入者が居たと考えるのが自然だ。

 

 これらの状態から何が起こったのかを想像すると……

 

 ここにツキカゲの前に殴り込みを掛けてきた『何者か』が発見されて、軍事人形が迎撃の為に起動する。軍事人形達は侵入者を取り囲んで一斉射撃を仕掛けようとしたが……その時『何か』があって、いきなり機能が停止した。と、いう事になる。

 

「……でも、そんな事が有り得るの? 局」

 

「ううん……考えにくいですね。旧来の機体なら司令塔のコンピュータが制圧されたとかで説明は付きますが、このタイプの軍事人形は新型で、コントロールからの信号が途絶しても事前に組み込まれたプログラムに従って、ある程度自律的に戦闘行動が可能なタイプですから……記録された映像や音声で何かが分からないかと思ったんですが……ダメですね。電子機器が全てクラッシュしています」

 

「師匠、それに妙ですよ」

 

 軍事人形の外装を調べながら、五恵が言った。

 

「ここにある軍事人形にはどれも殴ったり斬ったり、あるいは銃撃を受けたような傷がどこにもありません。完全に無傷のまま、全ての機体の機能が停止しています」

 

「あ、それはこっちの人達もだよ」

 

「師匠、こっちの社長さんもです」

 

 社員達を調べている、楓とモモが言った。

 

「この人達の体の何処にも、打撃や斬撃、あるいは麻酔弾や注射で薬を打ち込まれたような形跡がありません」

 

「それだけじゃないわよ、百地」

 

 と、雪。

 

「えっ」

 

「周りを良く見てみなさい」

 

「まわ、り……?」

 

 意味を図りかねたように、モモは視線を動かした。

 

 数秒しても答えが分からない彼女に、命が助け船を出した。

 

「そもそも弾痕とか壁の凹みとか、周囲に争った形跡が見られないって事だよね、半蔵」

 

「そうよ」

 

「あっ……」

 

「常に周囲に気を配って、視野を広く持ちなさい。それで一つしかない命が、少しでも守れるわ。覚えておくように」

 

「はい、師匠」

 

 現場での臨床講義を受け、モモが深く頷く。命はそんな師弟関係を見て「うんうん」と頷いていたが、すぐに周囲に視線を戻して難しい顔になった。

 

「しかし……だとすると尚更、ここで何があったのか分からなくなってくるねぇ……」

 

 侵入者がいて、会社側がその侵入者を発見、取り囲んだ所までは間違いない。

 

 だがその侵入者は軍事人形にも人間にも指一本も触れず、十数人の銃で武装した人間と百近い軍事人形を無力化してしまったのだ。しかも争った形跡が見られない事から、恐らくは一瞬の内に。

 

「誰が……? 一体、どんな方法で……?」

 

 

 

 

 

 

 

「鳳凰の仕業だな、間違いない」

 

 空崎市内・九天サイエンス本社ビル・ソラサキマリエン内の一室。

 

 九天サイエンスは表向きは大手の製薬会社であるが実際にはモウリョウが経営しており、特にこのビルは極東に於けるモウリョウの根城となっている。

 

 文鳥を手に停まらせた女のその言葉に、彼女の前に表示された無数のホログラムが揺れた。

 

<何と……まさか彼女が!!>

 

<伝説の傭兵……>

 

<あの鳳凰が……!!>

 

 この部屋に中継されているのは世界各国のモウリョウの幹部だ。

 

 だがアメリカやロシア、インド、エジプト……世界各国あらゆる支部の幹部達の中で『鳳凰』の意味が分からない者は一人も居なかった。彼等の中でその名前は国境を越えて絶対のものであったのだ。

 

<確かなのかね、天堂君>

 

「無論だ」

 

 ホログラムの一つからの問いに、天堂と呼ばれた文鳥の女は頷いた。

 

<そこまで言うからには、何か証拠でも?>

 

「いや」

 

<何?>

 

「痕跡は何一つとて残っていなかった。こちらが感心するほどにな。しかしだからこそ、逆説的にだがヤツの仕業である事が確信出来た」

 

<どういう事かね? もう少し分かり易く説明してくれたまえ>

 

「簡単な事だ。ヤツの、鳳凰の仕事は絶対に証拠を残さない。具体的にどういうトリックを使っているのかは私にも計り知れないが、ターゲット以外には傷一つ負わせずにしかも信じられない程の短時間で無力化してしまうから目撃者も出ない。監視カメラやマイクのような記録機器も、データが全て破壊されて痕跡を残さない。ここまで完璧にやるのは、やれるのはヤツしかいないという事だ」

 

<むう……しかし何故、桃源が? やはり例の一件かね?>

 

 先日、桃源の傭兵である白虎がツキカゲと交戦して彼女は敗北、ツキカゲに捕獲されてしまった。

 

 白虎には強い恐怖に反応して記憶を消去する九天ゼリーを飲ませたからこちらの情報が漏れる心配は無い。

 

 そして桃源には白虎は任務に失敗したと連絡を入れている。

 

 事の善悪はさておき、今回の一件でモウリョウが桃源に襲われる理由は無い。寧ろこの場合は、桃源が任務失敗の責任を取る為に追加の戦士を派遣するなどして然るべきなのだ。なのに何故、桃源の戦士にモウリョウの関連企業が攻撃を受けるのか。

 

「私のカンだが……桃源はこの件には関与していない。これはヤツの独断だろう」

 

<……どういう事かね、天堂君>

 

「ヤツが薬や人身売買、武器密輸を嫌うのは有名だからな。我々は、ヤツに信用されていない。白虎の件も、我々の報告を信じていないのだろう」

 

<ではどうするかね? 桃源に彼女の独断専行を抗議して、責任を取らせるか?>

 

「無駄だ」

 

 文鳥の女は、一言で切って捨てた。

 

「先程も言った通り、証拠が何一つも無い。勿論、これは絶対に鳳凰の仕業だが我々の言い掛かり、でっちあげだと言われるとこちらには返す言葉が無い。そして桃源にもメンツがあるからな。最悪の場合はお互い引くに引けなくなって、我々極東支部と鳳凰が指揮する桃源との全面戦争にまで発展する可能性すらある。そうなれば最終的に勝つのは我々にせよ、負けたも同然の被害が出る事を覚悟せねばならん。あの女、鳳凰はそれを全て承知の上でやっているのだ。我々が戦争に踏み切れない事も含めてな」

 

<正気の沙汰ではないな。自分が切られるとは思っていないのか?>

 

「思っていないさ」

 

 文鳥の女は断言した。

 

「現存する唯一人の四霊であるヤツは桃源で並ぶ者無き最強の戦士。そしてPMSCsの経営によってヤツが桃源にもたらしている利益は計り知れない。更に単純な暴力装置である他の桃源の戦士と違って、ヤツにはPMSCs経営のノウハウがある。つまり実力・実績・希少性……全て兼ね備えているヤツを、我々から訴えがあったからと言って理由も無く排斥するほど桃源は愚かではない。他ならぬヤツ自身が、それを分かっているのさ」

 

<むう……では、どうするのかね?>

 

「ゲッカコウを控えている今、あまり事を荒立てたくはない。ツキカゲの事もあるし、ひとまずは準備を整える為の時間稼ぎをさせてもらおう。囮を立てる」

 

 文鳥の女がすっと指を動かすと、空間にディスプレイが浮かんででっぷりと太った壮年の男の、バストアップの写真が表示された。

 

 ホログラムの先に居る者達の中で、何人かは彼の顔に見覚えがあった。

 

 エモ・パチーノ。横浜にあるイタリア系シンジゲートのボスだ。

 

「こいつに、我らモウリョウの傘下に入ってもらう。鳳凰はともかくツキカゲはその存在理由の為にも、こいつには飛びつくだろうさ」

 

 

 

 

 

 

 

 空崎グランドホテル、最上階のスイートルーム。

 

 そこでは、机に向かったテレジアが難しい顔でノートパソコンと睨めっこしていた。

 

「どうですか、テレジア。白虎の情報は見付かりましたか?」

 

 後ろから、見えないが覗き込むような姿勢を取っているのは鳳凰だった。

 

「あ、師匠……いえ、残念ですがこの会社のデータには、それらしい記録は残っていませんでした」

 

「ふむ……残念、外れですか……」

 

 視力を喪失している鳳凰であるが、他の四感が発達しているので晴眼者以上に物を見る事が出来る。が、それでも完璧ではない。

 

 今回のようにモニターに表示される映像は、他の者が見なければならなかった。それが弟子兼秘書であるテレジアの役目である。

 

「……考えたくはないですが、ツキカゲに……やられたのでは?」

 

 テレジアは鳳凰を気遣ってか殺されたという言葉を避けた。

 

「……可能性はありますが、それはツキカゲらしくないですね。以前に青竜がやられた時も、彼女や配下の竜軍団は数日間の記憶を消されて警察に引き渡されるに留まりましたから……」

 

「は……では、モウリョウに繋がっている者を何人かリストアップしてみました」

 

「その中で、一番位が高そうな者は? 次はそこを当たってみましょう」

 

「はい、それでしたら……」

 

 テレジアがキーを叩いて、画面を切り替えた。

 

「この男、エモ・パチーノが良いと思います。ハマのイタリア系シンジゲートのボス、最近モウリョウの傘下に入っています」

 

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