自分で読み返しながら確認を繰り返してはいるのですが、どうしても誤字脱字が出てきてしまいます。
ユーザーさんの指摘、本当に助かっています。m(_ _)m
では投稿致しますドゾ。( ゚ ω ゚ )
ロングソード(銀等級戦士)
在野最上位の銀等級戦士が使用している長剣。
品質の良い鋼を鍛え上げた、極めて上質な逸品でもある。
熟練者が振るえば、大物さえ屠る事も叶うだろう。
値段は金貨 30枚。
ただ小鬼さえ殺せばいい。
そんな強迫観念も、やがては鳴りを潜める。
とある老いた圃人との邂逅。
ほんの一瞬ではあった――。
しかし、その奇妙の出会いが彼を変えたといっても過言ではなかった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
(推奨BGM Antti Martikainen ―― One Against the World )
混沌の産物――それ以外に形容しようがない。
小鬼と冒険者が入り乱れ、互いの命を奪い合う戦場――。
強きが生き、弱きが死ぬ――。
ただそれだけだ。
自由戦闘が宣言されてから数刻後の光景である。
陣形など何の意味も成さず、両陣営とも力と技、そして殺意をぶつけあうのみだ。
混迷塗れた戦場に、一人の男が前へと躍り出る。
彼の眼前に広がるは、小鬼、小鬼、小鬼、の濃密な群れ。
灰の剣士と呼ばれる一人の冒険者。
何処かで拾ったのであろう大盾と鉄槍を携え、単身最前衛と突出していたのだ。
当然、そんな獲物物同然の彼を見過ごす小鬼ではない。
大勢の同胞を討ち取られたのだ。
小鬼達は異様に殺気立ち、彼へと一斉に飛び掛かった。
今此処で恨みを晴らさんとばかりに――。
彼を狙う一体の
とは言え彼は
リーチの差は歴然だ。
真正面から攻める小鬼兵士に、彼は難無くカウンターの一突きで胸部を貫き絶命させる。
だが別の小鬼が、その隙を突き更に襲い掛かった。
槍を抜く暇も与えず仕掛ける程に、ダークゴブリン軍の小鬼は狡猾であった。
しかし彼は、大盾で小鬼の斬撃を受け流し後方へといなす。
そして透かさず槍を引き抜き、再び前方の別の小鬼へと刺突を繰り出し、またもや急所を貫き絶命させた。
そんな彼に、またもや別方向から突撃を掛ける小鬼。
それを身体を捻る事で見事に回避、再び後方へとやり過ごす。
その体制のまま勢いを付けた大盾のシールドバッシュで、前方に立ち塞がった別の小鬼を殴打。
受けた小鬼は宙を浮き在らぬ方へと吹き飛ばされる。
打ち払った盾の体制のまま槍を持つ手は、新たな小鬼を突き仕留めた。
更に間髪入れず槍を逆手に持ち替え、投擲体制へと移行。
彼は軸足を踏み込み上半身の撓らせながら肩の筋肉を凝縮させ、鉄槍を投射する。
緩い放物線を描きつつも手から放たれた槍の弾丸――。
槍の穂先は、標的となった前方の小鬼を2体同時に貫き即死させた。
投射した事で槍が手元から離れたものの、彼は腰の鞘から打ち刀を引き抜き次に備える。
無造作に突進する小鬼を持ち上げるかの様に、大盾で受け流した。
大盾に乗り上げた小鬼は滑る様に、彼の後方へと頭から跳び込み地面に強打。
盾で受け流した彼に誘われるかの如く距離を詰める他の小鬼を、刀で袈裟斬り絶命させる。
そのまま切り返す刃で更なる別個体の小鬼を斬撃、仕留め上げた。
その勢いを消さず彼は一歩踏み込み、内巻き気味に刀を横薙ぎ、他の小鬼を斬り裂く。
彼の織り成す斬撃の流れを止められる小鬼など、何処にも存在しない。
またもや新たな小鬼が誘われるかのように彼へと肉薄。
彼は姿勢を低めに構えながら腕を前方振り上げ、接近する小鬼の膝裏から柄頭で足元を掬い上げる。
掬われた小鬼は当然ながら、宙を浮かされ無防備な体勢を彼に晒した。
その際、片脚の骨は完全に粉砕されている。
宙を浮き、がら空きの胴体部を、真上から刀の打ち落としで地面へと叩き付けた。
だが戦果を確認している暇は無い。
次の小鬼が間断無く殺到し、彼は身体に回転を加え小鬼の剣を盾受けで後方へと逃す。
立て続けに迫る小鬼の追撃。
だが彼は焦る事なく、新たに回転を加えた切り上げで小鬼を迎え撃ち仕留めた。
そして一瞬の間を利用し真後ろへと体を捻る。
恐れをなしたと、誤認したのだろうか。
そんな彼へと勢いよく突撃する別の小鬼。
しかし彼は回転の遠心力を活かしたままのシールドバッシュで、その無謀な小鬼をカウンターで迎撃し吹き飛ばした。
突進する小鬼に対しカウンターで撃ち込まれた金属の円壁。
真面に食らった小鬼は、脳震盪を起こし地面へと倒れ込む。
彼は悠然と歩み寄り、転倒した無防備な小鬼の胸部を突き止めを刺した。
刺された小鬼は身体を痙攣させ、やがてはその生涯を終える。
その間にも周囲では激戦が繰り広げられ、彼以外の冒険者が武器を振るい各々の判断で小鬼を多数仕留めていた。
彼の後方にいなされた小鬼達は、ゴブリンスレイヤーを含む他の冒険者たちが丁寧に止めを刺し確殺している。
灰の剣士が繰り出す流麗にして苛烈な斬撃の舞踏――。
吸い込まれるかのように流れゆく小鬼達――。
彼に殺到しては、無慈悲な運命を辿るのであった。
粗方の小鬼を始末した冒険者陣営。
鬼気迫る彼等の迫力に呑まれ、小鬼達は武器を向けながらも及び腰で後退る。
「ハァ…ハァ…、喉が渇いたか?」
「フゥ…ハァ…彼等に何か飲ませてやろう」
「フッ…ハッ…丁度いい、奴等の血溜まりをな」
息を切らせ、皮肉混じりに問い掛ける重戦士。
対する灰の剣士も揶揄を交えた軽口で返し、ゴブリンスレイヤーも冗句を加える。
『――総員構えぃッ!!』
皆に号令を掛ける灰の剣士。
彼の声に応え武器を向け、小鬼に迫る冒険者たち。
彼等の明確な殺意。
直に向けられた小鬼達に助かる道は、完全に閉ざされている。
彼等は憐れな最期を遂げ、近隣の小鬼は全て骸と化した。
視界に映る限りの殲滅は完了し、彼等は呼吸を整える。
だが呑気に休んでいる時間は無かった。
灰の剣士は別方向からのソウルを感知し、其方に視線を向ければ夥しい程の矢が飛来して来るではないか。
他の冒険者も直ぐに気付き、指示を受けるまでもなく全員が防御態勢で矢を凌ぐ。
彼等が戦っている間、ダークゴブリンは秘かに部隊を分け弓隊による狙撃を狙っていたのだ。
盾に突き刺さった大量の矢は、宛ら針の筵のようだ。
役割りを終えた盾を投棄し、彼等は更なる進軍を開始する。
残敵を掃討する為に。
その眼光は凄まじく、
それからも激戦は続き、生死の乱舞が繰り広げられる。
(推奨BGM ゴブリンスレイヤー ―― 戦闘開始 )
体勢を崩し地へと横たわる一体の小鬼兵士。
その小鬼へ止めの一撃を加えたのはゴブリンスレイヤー。
背負ったブロードソードを鞘から抜き、喉元を切り裂き絶命させる。
乱戦状態は未だ継続中。
他の小鬼が彼へと襲い掛かるが、カウンター気味の斬撃で返り討ち。
更なる小鬼が彼に飛び掛かり剣の刺突攻撃を仕掛けたが、盾で受け流し後方へと追いやる。
だが間断無く殺到する小鬼の群れ。
背後への懸念はあったものの、後方へと逃した小鬼は別の冒険者に任せ、彼は眼前の小鬼を切り伏せる。
終わりなど無いかのように、次々と群れを成し襲い来る小鬼の兵士たち。
剣で薙ぎ、突き、払い、克ち割り、斬る――。
今や青玉等級の冒険者でもある彼――ゴブリンスレイヤーだ。
なれど純然たる戦闘力は、そう高いものではない。
しかしながら彼の歩んだ道筋は、決して平坦ではなく長く険しい道のりを歩んできた。
その数々の闘争が彼を鍛え上げ叩き上げた。
たとえ戦闘力に長けた小鬼兵士であろうと今の彼を御する事は叶わず、次々と討ち取られ命を落としてゆくのだ。
更に飛び掛かる小鬼兵士の攻撃を盾で流し、その隙を狙った反撃を見舞う。
当然その小鬼は、生命活動を止め物言わぬ屍と化した。
彼は剣と盾を構え直し、次の襲来へと備え警戒を強める。
ふと背中に何かを感じ取った。
彼は第六感などと言う不確かな感覚を信じてはいないが、背後に何かが居るのは間違いない。
『――よう、生きてるか?』
聞き覚えの有る同期戦士の声だった。
気が付けば彼と同期戦士は、お互いの背を向け合っていた。
「まだ居たのか?」
『おまえの背中を守っている』
此処で彼は初めて認識する。
背後の懸念は全て同期戦士が払ってくれていた事を――。
周囲に目を配れば、他の冒険者が未だ激戦を繰り広げている。
そして自分達も小鬼に包囲され、まだまだ凌ぐ必要があるだろう。
かなり離れた距離に灰の剣士の姿も確認出来た。
東国製の刀を振るい、小鬼の群れを次々と斬り伏せている。
「――
ぶっきらぼうな口調で返し、彼は再び小鬼の群れへと飛び掛かる。
無言ではあったが、同期戦士も彼に動きを合わせた。
二人の剣が小鬼へと叩き込まれる。
同期戦士の振るうアストラの直剣――。
袈裟懸けの斬撃が一体の小鬼を仕留め、更に逆薙ぎで切り返し、別の小鬼を斬り伏せた。
彼の背後を突こうと別の小鬼が切り掛かったものの、それを許さないゴブリンスレイヤー。
刺突と薙ぎ払いで返り討ちにし、同期戦士と入れ替わる様に位置を変えながら別の小鬼を同時に仕留めた。
無意識、無自覚ではあるのだろう。
だが背後には味方が居る。
その奇妙な感覚と安心感が、今の彼を高揚させていたのは事実だ。
普段以上の機敏な動きで小鬼の群れを切り伏せ叩き潰し、然したる策すら用いず剣のみで捌き切っていたのだ。
それは同期戦士も同じで、大胆な剣技で小鬼兵士を相手取る。
数の上では明らかに不利どというのに、二人は小鬼相手に無双していた。
武力のみで――。
――大分はぐれちまったな。
銀等級戦士の剣が一体の小鬼兵士を両断。
敵味方入り乱れての戦闘が続き、周囲に居た筈の味方とは距離が離れてしまっていた。
だが彼は在野最上位、銀等級だ。
数ある銀等級の中では、彼の総合力は平均的ではある。
だが豊富な経験と技術を駆使し、彼の周囲に小鬼の姿は無かった。
どうやら今仕留めたのが最後だったらしい。
戦場は幾分静けさを取り戻し、状況把握に気を割く余裕が生まれていた。
「――おぉ~いッ!皆、無事かぁッ!!」
彼は大声で呼び掛けを行う。
『――俺なら此処です!先輩ッ!』
よく知る声、自分を先輩と慕う同期戦士の声が返って来る。
その声へと向き、同期戦士の姿を確認した。
『――先輩ッ!』
ニコやかな笑顔を向ける同期戦士。
そんな彼の視線を受け、銀等級戦士も無言で何度も強く頷きで返す。
言葉など不要だ。
当時の彼は鋼鉄等級で、通常種のオーガに悪戦苦闘していた。
見知らぬ仲とは言え、同業者の危機を見て見ぬ振りは出来ない。
魔法で注意を逸らし、オーガの首を斬り付け透かさず火矢の呪文で再生を封じながら討伐に成功。
その後彼に弟子入りを懇願され、仕方なく自身の知識と技術を授け今に至る。
貪欲に吸収し自分なりに工夫し昇華してきたのだろう。
彼の目覚ましい成長が窺えた。
銀等級戦士の頷く姿に、同期戦士も思わず顔が綻んだ。
最も敬愛する先達に認められたのだ。
上を目指そうとする彼にとって、最高に満ち足りた瞬間でもあった。
―― そして”絶望”に染まる瞬間でもあった ――
(推奨BGM ゴブリンスレイヤー ―― 悪の所業 )
いま目にしているのは何だ?
変だな?
真っ暗じゃねぇか。
それになんか寒いし…。
アイツも、さっき何か叫んでやがったなぁ…。
随分血相変えて、どうしたってんだ?
くぐもって聞こえにくい。
しっかり喋れよ。
身体…動かねぇ…し…、あレ…おれ…何…して…たん…だ…っけ…。
理解出来なかった――。
したくなかった。
目の前の光景。
夢であれば、どれだけ良かったか。
敬愛し先輩と慕った、銀等級戦士――。
首から血を流し地に伏す。
一瞬の出来事だった。
認められた事で、高揚し満たされた瞬間――。
突如…背後から襲い来る一体の小鬼――。
―― 先輩!?やめろおぉぉ…!! ――
嫌でも認識させられる、
気が付けば目に映るのは、血溜まりに沈む銀等級戦士――。
「…あ…ァ…あ……」
ゆっくりと兜を外し、斃れ伏す
再び姿を見せる小鬼の群れ。
確認出来ただけでも10以上は居た。
いや…どうでもいい。
その瞬間、彼は小鬼の群れへと跳び込んだ。
単身で。
「――うわぁ!――ああぁ!――あぁぁ!――あぁあ!――あぁぁ!――あぁッ!」
雄叫び?悲鳴?絶叫?
凡そ人らしからぬ声をあげ、遮二無二で突き進む同期戦士。
剣を振るい、脱いだ兜をすらも武器へと変え、小鬼を斬り伏せながら
自身が切られ傷付くのも構わず、無我夢中で突き進んだ。
彼の言葉にならない絶叫を耳にしたのだろう、周囲の冒険者も危機を察知し援護に駆け付けた。
やがて銀等級戦士へと辿り着く。
同期戦士自身も全身に血を流し、掠り傷どころではないと言うのに…。
「…ああ…アア…嗚呼…ああ……」
筆舌にし尽くし難いとはこの事だろう。
グシャグシャに歪んだ表情を浮かべる同期戦士。
跪き銀等級戦士に掴み掛り、激しく揺さぶった。
「――あ゛あ゛ッ!――あ゛あ゛っ!――あ゛あ゛っ!――あ゛あ゛ッ!――あ゛あ゛…!!」
これは命の奪い合い。
殺し殺され今を生き抜く。
強い者が勝ち弱い者は消える。
これが戦場だ。
分かっていた。
一度戦端が開かれれば、必ず誰かが犠牲になるのだと。
だが認めたくなかった。
よりによってその番が、
『――この出血じゃあっ…諦めぃッ!』
一党の仲間だ。
鉱人の斧戦士も駆け付けていたのだろう、或いは近くで戦っていたのか。
悲痛な叫び声を上げる同期戦士を無理矢理引き摺り、戦線を離脱させようと試みる。
『――首切られてんの、もう助からないわよ!見れば分かるでしょッ!?』
妖精弓手。
彼女も加わり手を貸す。
『――お願いもう止めて!貴方も血だらけなのよ!』
少女野伏だ。
哀しげな表情で、暴れる彼を引っ張り上げる。
『――頭目さんッ!ここは危ないってばッ!』
銀髪武闘家までも手を貸し、数人がかりで彼を引き摺った。
「――いやだぁ…!先輩ぃッ!離してくれぇッ…!いやぁッ…せんぱぁぁいッ…!!」
遠くなる同期戦士の絶叫――。
次々と増援が現れる小鬼の群れ――。
彼を護るかのように立ち塞がる冒険者たち――。
だが犠牲者は、銀等級戦士だけではない。
見知らぬ何処かの戦場で、見知らぬ誰かが生涯を終えているのもまた事実。
これが現実だ。
それでも世界は廻って行く。
……
(推奨BGM ダークソウル ―― プロローグ )
戦況は冒険者に傾いていた。
この戦闘で多数の小鬼が仕留められ、400から150以下に数を減らしていた。
それに引き換え前線の冒険者は90以上――。
双方消耗していたものの、冒険者側の戦意は些かも衰えてはいなかった。
あれ程不利に追いやられていた戦況が、今や完全に逆転している。
地に伏す屍の山、大半が小鬼のものだ。
小鬼も、それを認知しているのだろう。
当初は強気な攻勢も今は鳴りを潜め、徐々にだが後退の気配を醸し出していた。
勢い付く冒険者。
委縮する小鬼。
勝てる――今度こそ――。
根拠の無い自信などではない。
確かに感じる勝利の気配が芽吹いていた。
だがそんな空気感を一変させる者が一人――。
『――GRUUBO!!!』
地の底から這い上がらんかの様な雄叫び――。
大地そのものが揺れんばかりに声を張り上げ、それは戦域全てに行き渡る。
ダークゴブリンだ。
その雄叫びと同時に全ての小鬼が戦闘を中断、一斉に後退を開始する。
『な、何だ…?逃げる気か!?』
『いや、よく見ろよ。何か出てくるぜ』
『黒い小鬼…アレが、まさか…』
左右割れる様に列を開け、中心から前へと歩み出た者――。
全身黒い体表、只人成人程の身長、無駄なく凝縮された筋肉、豊かな長い金髪、紅い両の瞳。
漆黒の長剣を背負い、運動性を重視した軽鎧を纏っている。
現場全ての冒険者が、今此処で初めて目にしたのだ。
異端の黒い小鬼――。
―― ダークゴブリン ――
『……』
『……』
乱戦は完全に終わりを告げ、再び両陣営は冒険者側と小鬼側へと分断された。
「――決着を付けよう、灰の剣士よ!出て来るがいい!」
不意に声明を出すダークゴブリン。
彼は灰の剣士との決着を求めていた。
『しゃ、喋った!?』
『ホントにペラペラじゃねぇか』
『嘘じゃなかったのね、噂は…』
無理もない。
彼を初めて見た冒険者も多数居るのだ。
実は、ダークゴブリンの存在すら信じていない冒険者も、この時点でも少数居たぐらいだ。
以前関りのある者達を除き、冒険者側に動揺が奔る。
「こんなゴブリン…あり得ない……」
それは剣の乙女も同様だ。
目の不自由な彼女だが、ダークゴブリンから発せられる強大なソウルに警戒感を抱く。
だが不思議なほどに、恐怖感を抱く事は無かった。
寧ろ、その違和感に彼女は困惑していたのである。
彼女にとって小鬼とは恐怖そのもので、そこから抜け出せないでいた。
小鬼特有のソウルを有してはいる。
それは確かだ。
間違う筈はない。
しかし何故だろう。
ダークゴブリンから流れ出るソウル。
明らかに混沌に属する者であるにも拘らず、
「アンタが行く必要はない。ここは僕がやろう」
灰の剣士を留めたのはクリストフ=オーレル=アーランド、通称オーレル。
彼もまた、東国式の剣技を操る者。
灰の剣士に比べ、消耗も比較的に軽く代わりに戦おうと名乗り出た。
「オーレルの言う通りだ灰よ。小鬼の要求など呑む理由はない」
そこへゴブリンスレイヤーも同調する。
尤も彼は総出で、小鬼を皆殺しにする思惑ではあったのだが。
『そうだぜ!ゴブリンが要求なんて何様だ!』
『一騎打ちとか抜かして、どうせ罠でも貼ってんだろ!?』
『ゴブリン風情が!いい気になるな!』
『武人気取り!?いい気なもんね!』
『仲間の仇よ!覚悟なさい!』
大半の冒険者はダークゴブリンの要求など聞く気はない。
「灰君、もう良いよ。後は皆に任せよう…ね!?」
「馬鹿正直に応じる必要はないわ。小鬼がどれだけ卑劣か、私よりも熟知している筈よ」
そこへライザやスイーパーも加わり、彼を制止しようと声を掛ける。
恐らく彼等の主張が正解なのだろう。
相手は小鬼とはいえ、これは歴とした戦争だ。
勝つか負けるか――それしか無い。
どんな卑劣な手を使おうとも、捥ぎ取らねばならない勝利が其処には在る。
下らぬ誇りや理念でを振り翳し、結果敗北を生み、どれだけの悲劇を招いて来たか。
小鬼に敗北するとはどういう事なのか。
一度小鬼に敗北し蹂躙された者達も、此処には存在しているのだ。
だが灰の剣士のとった行動は――。
「皆の気遣いと助言、誠に感謝する。だが此処は私を信じ送り出してくれないか?」
彼はそう告げ皆の前へと勇み出る。
「後、これを頼む」
緑化草を噛み砕きながら、エスト瓶、エストの灰瓶で口内を流し込む。
その後、腰のポーチを外しゴブリンスレイヤーへと預けた。
ダークゴブリンとの一騎打ち、必ず激しい戦いになる筈だ。
「旅人よ、何か思惑があるようだな?」
灰の剣士が未だエスト瓶を保持している事は気になるが、それは後回しだ。
皆が騒ぎ出し混乱を生む前に、ソラールが言葉を発し問い掛ける事で、周囲を牽制する。
「ダークゴブリンの真意が気になる。……万が一私が敗北した場合、後を頼む。ソラール」
ソラールに後事を託し、彼は単身ダークゴブリンと対峙した。
気になるのだ。
ダークゴブリンの真意が――。
何処となく焦燥感が滲み出ている。
確かに此処で一騎打ちを提示し、早期に戦を終わらせるのは、よくある手法だ。
両軍とも代表者を戦わせ勝敗を決する。
結果的に多くの将兵の命が救われ、戦の早期終結が見込める。
だがそれは人間同士の戦で起こり得る現象だ。
相手は人ではない、混沌の異形ゴブリン――。
ダークゴブリン自身、殿を務めた事は過去にも前例がある。
しかしこのタイミングでの
幾ら混沌最底辺の小鬼だとしても、ダークゴブリンは異端の小鬼と呼ばれ、高い知性と深い思考を併せ持つ。
一騎打ちの意味合いなど、ダークゴブリンとて存じている筈だ。
余りに早計とも言える、この提案。
それに加え隠そうともしないソウルの流れ。
灰の剣士もソウルの流れに気付き、焦りの感情を察知していた。
最早この戦になど関心が無いかのような素振りさえ見て取れたのだ。
「貴公の真意は何だ?ダークゴブリン」
警戒しつつ問い掛ける。
「教会の者共…分けても教会の狩人――
ダークゴブリンの関心は、黒教会や医療教会を含む聖職者に向けられていた。
中でも教会の狩人に対する憎悪は凄まじく、言動に明確な感情さえ籠っていた。
「教会の連中って、あいつ等よねルルア?」
「特に白い法衣を着た、あの変な男を差してるみたいよ」
教会の狩人の名を聞き、ライザとルルアも本陣での出来事を思い出していた。
『あいつ等って小鬼側だろ?』
『混沌勢だから、味方の筈では?』
『だけどホラ、バンダナの小鬼に対して妙な事してたでしょ?』
『やっぱり仲間割れしてたのよ?』
二人に釣られたのだろう。
周囲も俄かに慌ただしくなり、冒険者たちが口々に話し出す。
味方本陣にて奇襲され、バンダナゴブリンの部隊と”教会”を名乗る組織が共同戦線を張っていた。
だが教会の狩人を名乗る男が突如、不可解な行動を取り、バンダナゴブリンを凶暴な獣へと変えた。
ダークゴブリンは、その事を差しているのだ。
故に今のダークゴブリンには、この戦の先を見据えていると言ってもいい。
「――とは言え部下に対する示し、何よりケジメを付けねばならんのでな。貴様とは決着を付けさせて貰うぞ!」
そう言うと懐から短筒を劣り出し、真上に向かって煙弾を発砲。
色付いた煙幕が空中に漂う。
「なんの信号弾だ?」
「自由行動の意を込めてある」
用済みとなった短筒を投げ捨てるダークゴブリン。
彼の放った信号弾は、全ての小鬼に対する自由行動、即ち完全に自由意思に任せるものであった。
「この決闘、俺が勝とうが貴様が勝とうが、同胞は自由――」
決闘の後、灰の剣士かダークゴブリン――どちらかが斃れているだろう。
未だ100以上の小鬼が戦場に佇んでいる。
決闘が済み、戦が継続されるか終結するか――。
その行く末は、小鬼達に委ねられたのだ。
「どういうつもりだ?”救済”とやらを放棄するとでも?」
「笑止!既に救済は成れり。俺は使命を果たした。後は自由――好きに生き理不尽に死ぬ!それだけよッ!!」
翼竜を使い、新天地を見出し、厳選した同胞のみを住まわせた。
知識と技術、ソウルを授け多くの部下を鍛え上げた。
資材と環境を提供し、生産技術を育て上げた。
廃村を改造し、貨幣による取引を行い物資の確保に腐心した。
全て予定通りとはいかずとも、彼の計画は概ね成功を遂げていた。
その結果、多くの同胞は増長し独立を宣言するようになる。
だがそれも彼の思惑通り。
後は自らの力で独自の道を歩んで行くだろう。
願わくば、その輪が全世界に広がらん事を――。
これも救済の一つ――。
彼の辿り着いた
ダークゴブリンの信号弾を目にした幾多の小鬼――。
ある者は砦へと引き返し、ある者は野へと去り行く。
次々と戦場を離れる小鬼達――。
その様を目の当たりにする冒険者陣営――。
驚く者も居れば、恨みを晴らさんとばかりに追撃を試みる者も居た。
当然、ゴブリンスレイヤーも追撃を掛けんと動きを見せる。
だが、そんな彼等に容赦なく襲い掛かる、鋭い矢の洗礼。
『――残念だが手は出させん!覚悟のある奴だけ前に出ろッ!!』
その矢を射たのは、長弓ゴブリン。
未だ翼竜に跨り空中を旋回しながら、強弓で狙いを定めていた。
そんな彼に追従する2体の部下と翼竜――。
『――くっ!まだ居たのかよ翼竜が3体もッ!』
銅等級冒険者が指揮していた”連弩”の猛攻を切り抜けていたらしく、3体の翼竜と小鬼が空を旋回している。
長弓小鬼だけでなく部下も弓術に長け、下手に動けば間違い無く的になるのは必至だ。
しかし弓術に長けているのは、冒険者側にも存在する。
上森人の妖精弓手と、数人の熟練の弓使い達。
彼等は地上からでも翼竜を射落とす自信があり、翼竜に向け矢を射出。
狙い過たず矢は翼竜に突き刺さる――筈だった。
だが彼等の予想は裏切られ、翼竜は難無くそれを回避――。
逆に手痛い反撃を許し、妖精弓手を除いた弓使いは矢の餌食となり返り討ちに遭う。
――なんなのよ!あの小鬼!アタシの弓が通用しないなんてッ!
自信を裏付けていた確かな技術――。
それが通じず、妖精弓手は恨めしそうに長弓小鬼を睨み付けた。
気が付けば戦場に残留している小鬼は僅かとなり、他は軒並み姿を消していた。
此処に残っていたのは、精々50前後と大幅に数を減らしていた。
時間稼ぎの意味合いもあるのだろう。
長弓小鬼が率いる翼竜隊に、冒険者は安易に手出しができないでいた。
「フッ、律儀な同胞だ。最後まで見届けたいらしいな」
その様に、ほくそ笑むダークゴブリン。
まるで、彼の最期を見届けんとばかりに残留する、小鬼たち。
実は最初期よりダークゴブリンに付き従った、古参中の古参で精鋭でもあった。
だが彼は死ぬつもりなど毛頭ない。
此処で宿敵の片割れである”灰の剣士”を斬り伏せ、後に復讐を果たす。
これが今の目標だ。
前へと突き進む為にも、眼前の男との決着は避けては通れぬと判断したのだ。
「待たせたな灰の剣士…決着の時ぞ!」
剣を抜き緩慢と歩み寄り、彼の眼前へと位置したダークゴブリン。
――使命を果たし、好きに生きる…か。認めよう、
対する灰の剣士。
ある種の役割果たした黒き小鬼に敬意にも似た感情を抱き、刀を鞘から抜く。
「いいだろう、ダークゴブリン!」
間合いを詰め、互いの刃を交差させる。
両者を中心に、鋭く張り詰めた空気が一気に周囲を支配した。
『『『『『『……』』』』』』
一言も発する事なく、固唾を飲む冒険者と小鬼達。
灰の剣士とダークゴブリン――。
二人の生死を分けた死闘が、今始まろうとしている。
「――来いっ、宿敵よ!」
「――いざ…参るッ!!」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
強弓
張りが強く、引くのに力を要する弓。
5人張り(四人掛かりで弓を曲げ、残る一人がようやく弦をかけるほどの強い弓)。
人並外れた腕力を必要とし、一度射た矢は並々ならぬ貫通力で、鉄板すら貫くと言われている。
因みに、5人張りは100キロの腕力が必要であるらしい。
銃とは違い、発砲音も無い弓矢の射撃。
達人の狙撃程、恐ろしいものはないだろう。
品質にもよるが値段は、金貨:15~30枚。
もし、フロムがアトリエシリーズ創ったら、どんな作品になるんでしょうね?
執筆途中で、ふと思いついてしまいました。
人間性が捧げられ、啓蒙が高まる内容になるんでしょうか?
如何だったでしょうか?
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
デハマタ。( ゚∀゚)/