ゴブリンスレイヤー ―灰の剣士―   作:カズヨシ0509

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 ドーモです。
サブタイトルで、展開がバレバレです。(笑)

では投稿致しますドゾ。( ゚ ω ゚ )


第87話―ダークゴブリン軍VS剣の乙女軍10・残り火

 

 

 

内なる大力(呪術の火)

 

炎を内にする呪術の中で、特に禁術とされるもの。

 

一時的に攻撃力を高めるが、HPが減り続けてしまう。

 

術の強度を変える事で、更なる強化と同時に死が降り掛かる。

 

呪術師は火を畏れる。

けれど、力の代償に畏れを受け容れたとき、それは畏れではなくなるのだ。

 

畏れも情景の一つで一部である。

それを忘れぬ者には、絶えず火は寄り添ってくれるだろう。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

(推奨BGM  ダークソウル3 ―― 兄王子ローリアン&王子ロスリック )

 

 強化方陣により、肥大化したダークゴブリン。

更なる肉体強化を授かり、圧倒的膂力で彼へと襲い掛かる。

自信か自惚れか――。

剣すら捨て拳で殴り掛かった。

 

「――ッ!」

 

 危機を察知し、一瞬で後方へと飛び退く灰の剣士。

空を切るダークゴブリンの拳。

それは地を深く抉り、伝う衝撃と振動は土煙を噴き上げた。

その土煙はダークゴブリンの姿を覆い隠す。

 

「……」

 

 後方へと逃れた灰の剣士は様子を窺う。

 

「――ぅぐッ!?」

 

 それは余りに一瞬だった。

横腹から伝わる重くも激しい痛み――。

現状を認識した時には、もう遅かった。

脇腹を蹴られ吹き飛ぶ灰の剣士。

彼が認識する前に、ダークゴブリンは側面へと回り込んでいたのである。

半ば体当たりに近い状態で彼を蹴飛ばし、ダークゴブリンは自分ごと岩場へと叩き付けた。

灰の剣士の背面が、岩盤に叩き付けられる。

だが間髪入れずダークゴブリンの追撃が彼を襲う。

掌底打ちで宙へと打ち上げた。

彼は防御もままならず宙高く漂う――。

だが、ダークゴブリンは空中へと跳び上がり既に先回りしていた。

そして彼のがら空きの胴部へと、ハンマーナックルで叩き落す。

再び地面へと叩き付けられる灰の剣士。

打撃に加え落下の衝撃が容赦なく彼の全身を蝕ばみ、地面は陥没しクレーターを形成する。

しかしダークゴブリンの追撃は続いた。

 

「――GROVO!!」

 

 そのまま自由落下に任せ、灰の剣士の鳩尾に拳を減り込ませたのだ。

 

「――ゥ…うぅごぉおあぁぁ…!!」

 

 肥大化したダークゴブリンの拳と全体重が、彼の臓腑を押し潰す。

加えられる圧力と痛みに悶えながら絶叫を上げる灰の剣士。

 

「フハハハ……!」

 

 その様に笑い声を上げダークゴブリンは一旦飛び退く。

だがその薄ら笑いも直ぐに鳴りを潜めた。

 

「ほう、流石は宿敵」

 

「ハァ…ハァ…ハァ…」

 

 地面が陥没する程の攻撃を受けて尚、彼は立ち上がっていた。

息を乱してはいたが、彼の闘士は些かも衰えてはいない。

 

「内なる大力…最大強度ッ!!」

 

 意を決した灰の剣士。

このままでは勝てないと判断したのだろう。

彼は呪術の火”内なる大力”を最大出力で行使する。

己の生命力と引き換えに、身体能力に強化を施す術。

それを限界にまで高める。

普段使うソレとは比較にならない程の身体強化と激痛が、彼に圧し掛かった。

彼の内側より燃え盛る火の力。

生命を燃やし、それを糧に力へと変換される。

だが時間を掛けている暇は無い。

最大強度での行使。

一呼吸している間にも生命が著しく削られるのだ。

 

「――ッ!!」

 

 一瞬で視界から消え去る灰の剣士。

彼の姿は何処にも見当たらない。

 

「あの男、消えてしまったぞ!?」

 

「消えた訳ではない。余りの速さに視認が叶わぬだけだ」

 

 灰の剣士は、皆の視界から消え失せた。

無論、周囲の冒険者たちに捉えきれるものではない。

驚く女騎士にソラールが補足を加える。

彼を含めた一部の猛者には、灰の剣士の姿が認識できるようだ。

周囲の驚きを余所に、ダークゴブリンは一人平然と佇む。

 

「――そこだっ!」

 

 不意に背面へと裏拳を叩き込んだ。

 

「――ぐッ!?」

 

 その場所には、刀を振り被る灰の剣士が――。

ダークゴブリンの裏拳は、彼の顔面を見事に捕らえていた。

周囲の視界から消える程の速さ――。

しかしそれを以てしても、ダークゴブリンを欺く事は叶わなかった。

予想外の反撃を食らい後退る灰の剣士。

透かさず体勢を立て直し、横薙ぎの一閃で反撃――。

だが、その一閃も空振り、同じ動作の裏拳を食らい、またもや吹き飛ばされてしまう。

吹き飛びながらも宙返りで受け身を取る。

彼は、カーサスの高速体術を駆使し、距離を開けようと何度も飛び退いた。

常人を遥かに凌駕した跳躍術で瞬く間に相対距離が開く――。

 

「――ぅごッ!?」

「――どうした?貴様の実力は、その程度か!?」

 

 突如、背中に強い衝撃を感じた。

彼の背にはダークゴブリンの声――。

常人離れした彼の高速体術――。

それを凌駕するダークゴブリン。

 

「……ッ!」

 

 その結果に彼は声も出ない。

咄嗟に背面へと刀で切り掛かった。

だが刃は空しく大気を切り裂いたのみ。

彼は再びダークゴブリンの猛攻に晒された。

彼の剣を躱し、彼の背面を蹴り付け吹き飛ばす。

間髪入れずに追い縋るダークゴブリン。

未だ宙に浮いたままの灰の剣士に、情け容赦の無い追撃が加えられた。

重量感のあるボディブローが、彼の鳩尾に炸裂。

そのまま拳を持ち上げ、地面へと叩き付け彼をめり込ませる。

雑草の茂る土が捲れ上がり、彼は対照的に地へ沈んだ。

 

「うぐぉぁあああぁぁッ…!!」

 

 めり込み地へと沈みながら絶叫を上げる灰の剣士。

しかしダークゴブリンは、彼を掴んだまま地上へと持ち上げ無理やり大地へと立たせる。

 

既に彼の手から刀を失われていた。

 

ダークゴブリンの猛攻で手放してしまったのだろう。

今の彼に武器はない。

有るのは弓矢と魔法の杖だけだ。

 

「ズハァ…ズハァ……」

 

「フ…フハハハ、愉しませて貰えるぜ!」

 

 彼は度重なる痛痒を負い、消耗が蓄積される。

ダークゴブリンは、それを嘲笑う。

両者の実力差は歴然としており、最早彼に勝ち目はなかった。

 

「――うぅおぁッ!!」

 

 だが彼は反撃に移る。

己が身一つの徒手空拳で――。

彼の拳打と蹴打の連撃が繰り出された。

最大強度の内なる大力で強化された、目にも止まらぬ猛撃――。

銀等級の武闘家でさえ、彼の連打を捌き切る事は叶わぬだろう。

しかしダークゴブリンに有効打を与える事は出来なかった。

掌で阻まれ、手の甲で裁かれ、前腕部に流され、一打たりとも直撃を許さなかった。

 

「――おおぉぉぁああッ…!!」

 

 しかし彼は尚、連撃を続行する。

この体が動く限り。――とは言え、現実とは非情なもの。

息を吐かせぬ高速連打もダークゴブリンの前には無力だった。

並み居る連撃を悉く捌かれ、逆に頭部を掴まれてしまう。

肥大化したダークゴブリンの身長に、掴まれた彼の足は宙に浮いたままだ。

 

「――おぐぅぉッ!?」

 

 振り解こうと藻掻く彼の腹部に、強烈なボディブローが再び叩き込まれた。

内臓を圧迫され、入り混じった血と吐しゃ物を吐き出す。

その一撃で彼は白目を剥き全身を痙攣させた。

そして悪夢は続く。

 

「――ゴッ、ガッ、ゲッ、ぐっ、げぇっ、がぁッ…!!」

 

 ただの一撃では飽き足らず、更なる拳が彼の腹部へと叩き込まれた。

拳が減り込む度に、彼の身体はガクガクと揺れ手足をバタバタとさせる。

もう悲鳴ではない。

拳の衝撃に漏れ出す呻き声が上がるのみだ。

それ程までに彼は追い詰められているのだ。

何撃も何撃も拳を叩き込まれ、ガクガクと小踊りを晒す。

ボディブローだけではない。

白目を剥き息も絶え絶えな彼の顔面に、渾身の膝蹴りが炸裂した。

 

「!!…ァあぁ…ぅぅ…ァ…」

 

 最早彼は無抵抗。

既に戦う力は残されていない。

兜は歪み、彼の顔面から夥しい血が噴出していた。

四肢はダランとぶら下がり小刻みに痙攣を繰り返す。

 

「まだこれからだ」

 

 彼は瀕死ながらも未だ生きていた。

それを確認したダークゴブリンは、彼を地面に叩き付けた。

そして仰向けに横たわる無防備な彼に、怒涛のパンチが撃ち込まれる。

今度は両の拳で何度も彼を打ち据えた。

 

「――!、――!、――!、――!、――!、――!、――!、――!、――!」

 

 無慈悲なダークゴブリンの拷問に、灰の剣士は声もなく無様なダンスを続ける。

 

 

 

△▼△▼△▼△▼

 

 時を同じくして此処は盤外、神々の遊戯場――。

只今の現場は、ちょっとした騒動に包まれていました。

 

「――ぐッ…げふぉっ…ごふぁっ…がフッ…」

 

 一人の老人、太陽の光の神――またの名を大王グィン。

彼は今、激しく咳き込み夥しい吐血を繰り得していました。

当然現場は騒然となり、周りの神々も慌てふためきます。

 

幻想や真実は無論、外なる神々、他の遊戯盤に興じる神々、そして数多のロードランの神々。

 

その中で平静を保っていた黒い鳥の神。

彼は冷ややかな目で、彼に視線を向けました。

 

――止せばいいものを、君だけだよ。たかが駒に、血肉とソウルを吹き込むのは…。

 

そう――。

黒い鳥の神の言う通り、グウィンは自ら生み出した生命体()、灰の剣士に自らの血肉とソウルを練り込ませていたのです。

その結果、自身と()は感覚を共有する事となったのです。

憐れ――。

いま盤内では、灰の剣士はダークゴブリンに嬲られ徐々に死に行こうとしています。

既に死に体な彼に、容赦なく叩き込まれる剛直な拳――。

感覚を共有するグウィンにも、同じように苦痛を味わっているのです。

まぁ、仮にも上位の神――。

この程度で死ぬ事など先ずありえないのですが、後にも先にも駒と感覚を共有するような神は彼しか居ませんでした。

 

――分かっておらぬなぁ、黒い鳥の神よ。この程度で果てる我が生命体(灰の剣士)に非ず…よ…!

 

血を吐きながらも不敵な笑みを滲ませ、黒い鳥の神に視線を傾けるのでした。

 

△▼△▼△▼△▼

 

 

 

「い…い…いや…、も…う…止め…てよぉ…」

 

『『『『『――GROORVO!!』』』』』

 

 直視に堪えぬ無残な光景。

その生々しい処刑現場を見せ付けられる周囲の冒険者たち。

反対に、小鬼側は大歓声が沸き起こっている。

勝利を確信しているに違いない。

この様な残酷な光景が、未だ嘗て存在しただろうか。

 

農家の娘として生まれ、退屈な日常を抜け出す為に故郷を駆け巡った日々。

錬金術に出会い、新たな友と出会い、満たされ忠実した冒険を得た少女――ライザリン=シュタウト。

良くも悪くも苦楽を共にし、大切な故郷と日常を守り抜いて来た。

そして辿り着いた新たな地――。

しかし今、目の前で繰り広げられる残虐非道な私刑(リンチ)

悪夢の如き所業――。

否、悪夢ならどれだけ救いようがあったか。

目を塞ごうと耳を塞ごうと、眼前の光景が消え去る事はない。

残念だが、これは現実――。

今、果てようとしている灰の剣士。

命の恩人でもあり、無自覚ながら意識するに値する男が今、逝こうとしているのだ。

黒い小鬼の手によって。

苛烈な程の無残な光景に、ライザは涙すら出なかった。

次第に呼吸が荒くなり、視界が白く霞み始めている。

普段の彼女なら、此処で誰かに助けを乞うなり自らが飛び出すなり、何らかの行動(アクション)を起こせた筈だ。

だが、今の彼女は完全に思考停止に陥っていた。

彼女だけではない。

助けに入ろうとする者は、誰一人として存在しなかった。

 

   ―― 彼等を除いて ――

 

『『『『『『――この野郎ッ!!』』』』』』

 

 数人の冒険者がダークゴブリンに向け疾走する。

上空から放たれる長弓小鬼たちによる狙撃――。

それ等を掻い潜る実力者たちが加勢に入ろうとしていた。

ソラール、ジークバルド、槍使い、重戦士、女騎士、銀髪武闘家、スイーパー、ステルクたち、そしてゴブリンスレイヤー。

嬲り殺しに遭う灰の剣士を救おうと、必死に駆け付けたのである。

 

「――馬鹿がッ…!!」

 

 しかし彼等の機先を制すかのように、ダークゴブリンは口から結晶ブレスを吐き牽制した。

 

「――なッ!?水晶ッ!?」

「――ぬッ、結晶トカゲのブレスッ!?」

 

 初見であろう、水晶を伴う魔力のブレス攻撃に面食らう、ライアスやジーノ。

ジークバルドもピアスシールドで凌いだものの、出鼻を挫かれる形となる。

無関係である筈の小鬼が、結晶トカゲのブレスを撒き散らしたのだ。

ジークバルドは知らない。

ダークゴブリンはソウル吸収能力を有す。

その結果、大喰らいの結晶トカゲからソウルを奪ったという事実に――。

 

「大人くしていろ!コイツ諸共、貴様らにも引導を渡してやろう!!」

 

 ピクリとも動かぬ灰の剣士を持ち上げ、ダークゴブリンは彼等を睨み付ける。

 

「バケモノめ…!」

「我等が完全に抑えられるとはッ…!」

 

 結晶ブレスの水晶に阻まれ、足並みを乱すソラールとステルク。

従来の小鬼に対する常識が全く通用しない事に、彼等も戸惑いを隠せないのだ。

 

「――受け取れ!」

 

 既に何の反応も示さない灰の剣士。

まるで飽きた玩具の様に、ソラール達へ向けソレを投げ捨てた。

 

「――お、おいっ!?大丈夫…なのか…!?」

 

 投げ捨てられた灰の剣士へと駆け寄る一行。

オーレルが軽く何度も叩き反応を確かめようと試みたが、彼は何の反応も見せる事はなかった。

 

「け…剣士…さ…ん…?」

 

 血の気が失せ青ざめた表情を浮かべる銀髪武闘家。

恐る恐る、震えた手つきで彼の胸元へと手を置く。

 

「……!」

 

 目尻に涙を浮かべながらも鼓動が確認出来た。

 

「…!い…生きてる…!…でも…」

 

 弱々しく頼りない命の鼓動――。

確かに伝わる振動に先ずは安堵した。

しかし彼女の表情は浮かないままだ。

 

「不味いな。意識が完全に途絶えてやがるぜ…!」

「このままでは、エストも効果があるかどうか分からん…!」

「残念だが、回復を図る暇はない様だ…!アレを見ろ…!」

 

 槍使いは完全に意識不明の状態である事を見抜き、預かったエスト瓶を取り出すゴブリンスレイヤー。

だが気絶状態の彼に、効果があるのかどうかは未知数だ。

幾度となく効果を体験したゴブリンスレイヤーでさえ、エスト瓶の全容を聞かされている訳ではないのだ。

そんな二人へオーレルが、ダークゴブリンの方へと注意を促す。

全員がダークゴブリンへと視線を向けた。

 

「フン、くだらん!宿敵と言えど、強化方陣の前ではこのザマか」

 

 吐き捨てる様に此方を蔑むダークゴブリン。

素早く後方へと飛び退き距離を測る。

 

『まぁいい、このまま戦域ごと塵にしてやる!』

 

「――いかんッ!奴のソウルが更に膨れ上がったッ!?」

 

 ダークゴブリンは掌に魔力を集中させ、それを察知し戦慄するソラール。

 

「この世で俺に適う者は居ないッ!」

 

 声高らかに宣言するダークゴブリン。

同時に戦域全体が揺れる。

 

「この俺こそ四方世界最強だッ!!」

 

 更に掌を天へと掲げ、地の土槐が捲れ上がる。

それに伴い激しい地形崩壊を引き起こした。

 

『な、何だよ!?また地震かッ!?』

『大地、いや、四方全ての精霊が荒ぶってる!』

『大呪文の予兆だ、気を付けろッ!』

 

 周囲の冒険者たちは、不自然な地形変化に足元を掬われ転倒する者が続出した。

だがそれは小鬼側も同じで、全員が地に伏せ辛うじてバランスを保とうと躍起になっている。

 

「――クソっ!あの火球を撃つ気か!?」

「――ばかデッカイ奴だろッ、どうするよッ!?」

 

「雷の槍を加えた処で、阻止は望み薄いか…!」

「嵐の王でも相殺は厳しい…!」

 

 槍使いと重戦士は金鉱山での戦いを思い返し、ソラールとジークバルドは相殺や阻止を模索するが無駄だと悟った。

それ程までにダークゴブリンの魔力は膨大で、周囲の地形にすら影響を及ぼし始めていたからだ。

 

『――皆様、大事ないですかッ!?』

 

 そこへ剣の乙女を筆頭とした数々の冒険者が駆け寄って来る。

本来なら空中に陣取る長弓小鬼からの狙撃を受ける処だが、その懸念はなかった。

恐らく勝利を確信しているのだろう。

ただ翼竜に跨り宙を旋回しているだけだ。

 

「ね…ねぇ…灰君…死んで…ない…よね…?」

「――い…今は何とか…でも……」

 

 微動だにしない彼の身を案じるライザ。

辛うじて生存している事を伝える銀髪武闘家。

しかし二人の表情は暗く、完全に動揺していた。

 

『カリブンクルス《火石》…クレスクント《成長》――』

 

 対するダークゴブリンは真言魔法”火球(ファイアーボール)”の詠唱に移っていた。

天に翳した掌に火の魔力が集約され、それは見る見る間に尋常ならざる膨張を始める。

 

『ぬぅっ…デカいッ!あんなのが着弾したら…!』

『此処一帯、燃焼どころでは済まぬだろうな!』

 

 既に直径50メートルほどに膨れ上がった火の塊――。

並々ならぬソウルを感知し、その威力が容易に推察できるソラールとジークバルド。

だがそんなものを感知せずとも、外観だけでも威力の凄まじさが肌身に伝わった。

最早それは火球などと言う、生易しい存在ではない。

荒れ狂い燃え盛る炎を束ねる塊は、観る者すべてを圧倒させた。

それは小鬼側も同様で、完全に唖然と見上げるだけだ。

だが冒険者側も、ただ手を(こまね)いて閉口している訳ではない。

 

『――これより障壁を展開します!魔法職の皆さんは、どうかお力添えを!』

 

 剣の乙女――。

彼女が声を張り上げ、周囲に呼び掛けと協力を仰いだ。

本陣で見せた気弱な態度は、すっかり消え失せ指導者然とした佇まいを醸し出している。

その姿は正に、六英雄の一人にして金等級冒険者に相応しい風格すら漂わせていた。

 

『――霊壁(スピリットウォール)を張れる者は協力してッ!』

『――突風(ブラストウィンド)でも抵抗になる筈よッ!』

『――聖壁(プロテクション)を何枚にも重ねれば多分…!』

 

 聖職者だけではない。

精霊使いや呪文使いまでも総動員し抵抗に乗り出した。

 

『使える道具、まだあったよね!?』

『これだって、まだ機能しますよ!』

『力を合わせば大丈夫、きっと何とかなるなる!』

 

 ロロナを始めとした錬金団までもが、残った道具を取り出し助成を試みた。

そして彼女――ライザリン=シュタウトも。

 

「いつまでもヘコんでられない。あたしにも出来る事がある筈よッ!」

 

 腰のポーチから淡く輝く固形物を取り出し、杖の水晶部分へと組み込んだ。

 

――灰君は、あたしが守ってみせるッ!

 

杖を構え、巨大な火球を見据え、ライザも皆と同じく肩を並べた。

 

「皆の勇猛果敢な献身、消耗など気にしてはいられんな!」

 

 決死の覚悟で臨む冒険者たち――。

その姿に心動かされるジークバルド。

本日二度目の行使となる戦技、嵐の螺旋撃。

この様な緊急事態に、明日など配慮している場合ではない。

今日を蔑ろにし未来を失うは、愚の骨頂と言えよう。

肉体の負担など気にも留めず、ストームルーラーを構え刀身に嵐を纏わせた。

 

「此処で何もせんでは騎士の名折れ!太陽の信徒として、この俺も最善を尽くそう!」

 

 続いてソラールも手に稲妻を発生させる。

その電撃は、普段とは比較にならない程の荒々しさに満ちていた。

 

「我々の全魔力を集約し一気に打ち出す。皆、準備は良いなッ!」

 

 錬金団の一人、ステルクもオーレルたち男性陣に指示を飛ばし、皆もそれに応える。

 

もう灰の剣士は動かない。

だが彼の周囲には、数多の冒険者が一致団結し、ダークゴブリンに抵抗を試みようとしていた。

 

『――ヤクタ(投射)ぁッ!!』

 

(推奨BGM  Dark Souls 3  ―― Soul of Cinder Remix - E.S. Cinder )

 

 そんな冒険者たちを余所に、詠唱を終えたダークゴブリンは呪文を投射――。

規格外の大きさを誇る火球が、冒険者に向かい撃ち放たれた。

突き進む巨大な火の塊。

楕円を描く外周部の炎は、周囲の草木を瞬時に焼き尽くし直進する。

火球が進めば進む程、地は焼かれ煙を吹き岩石を焦熱化させた。

 

「――今ですッ!!」

 

 号令を掛ける剣の乙女。

発動の機を見極め、眼帯に覆われた両眼をカッと見開く。

彼女の声を皮切りに、次々と張り巡らされる魔力の障壁。

 

聖壁、霊壁、石壁といった防御呪文を始め――。

 

突風、吹雪、力矢などの攻撃呪文までもが飛び交い、火球を目掛けて飛翔する。

 

ソラールの雷の槍。

 

ジークバルドの嵐の螺旋撃。

 

ステルクたちの魔力と闘気の激流。

それだけではない。

 

ライザやロロナたちの錬金道具は、定めた対象物を弱体化させる効力を持ち。

ルルアの放つ術に似た特技は、周囲の味方を強化し彼等を鼓舞した。

 

彼等の解き放たれた力が火球に向かい集約され、その威力を相殺しつつも減衰させる。

加えて幾重にも展開された魔力の障壁が、火球の進攻を完全に阻んだ。

相殺と阻止により徐々に減衰された火球は、強力な抵抗により消失しようとしていた。

 

『――よ、よし!これならいけるぞ!』

 

 誰かが叫ぶ。

先程まで圧倒せんばかりの巨大な火球は、頼りない大きさにまで委縮。

反撃の糸口は定かではない。

これ程の火球を生成し投射したのだ。

幾ら異端の小鬼、ダークゴブリンとて多大な消耗を強いられている筈だ。

これさえ凌げば、残りの戦士職が攻撃の突破口を開いてくれるだろう。

必死に抵抗する冒険者たちの表情が僅かに綻んだ。

だがしかし――。

 

「無駄な事を、いま楽にしてやる!」

 

 今にも消え去ろうとする火球に目をやり、ダークゴブリンは不敵にも口元を釣り上げた。

 

「――クレスクント《成長》!」

 

 ダークゴブリンは、一つの真言を口に出す。

するとどうだろう。

頼りなく収縮していた火球は、一瞬で元の大きさを取り戻したではないか。

再び勢い付いた巨大な火球。

行く手を阻む幾多の障壁を容易に崩壊させ蒸発させる。

 

『――な、何でだよッ!?』

『――ありえねぇッ!?』

『――どうなってのよッ!?』

 

 火球の相殺は成功目前だった。

しかし眼前の現実を、冒険者たちは受け止め切れなかった。

 

「――真言魔法の特性を利用したんです!完全に理解している証拠だ!」

 

 獣人魔術師が獣の如き咆哮を上げる。

真に力を持つ言葉を組み合わせ、超常現象を発現させるのが真言魔法という技術だ。

原則上、3つの異なる言葉を組み合わせる事で一つの呪文を生成させる。

だが、実際は一つの言葉でも効力を発揮させる事が可能だ。

一つ一つの真言では効力と恩恵が限定され、普段目にする事は稀である。

とは言え、確実に効果を発揮させ且つ殆ど消耗を負わされる事も無い。

使い所さえ見極めれば、非常に有用な恩恵を齎してくれるのだ。

 

ダークゴブリンの発した真言――クレスクント。

成長を意味するこの言葉は文字通り、対象物を成長させ増大化させる。

その結果、消失寸前だった火球は再び勢い付き、元の巨大さを取り戻していたのである。

 

「ククク、このままでも焼き尽くす事は造作もない。だが今一度、恐怖と絶望を織り交ぜて(サービスして)くれようぞ!」

 

 このまま済ませる積りはない。

ダークゴブリンは不敵に嗤い、障壁を焼く火球に向け拳を突き出す。

その瞬間、彼の拳から青白い気体のような物が噴出され、火球に吸い込まれた。

ただでさえ規格外の巨大さを誇る火球は白く光り輝き、辛うじて拮抗していた幾多もの障壁を粉々に蒸発させた。

ダークゴブリンが撃ち出したのは、()()()そのもの――。

万物の根幹を成すと言われる、そのエネルギー体を火球に注ぎ込んだのだ。

それにより規格外の火球は更なる高熱化が施され、より以上に凶悪な呪文と化してしまった。

最早それ自体、火球とは呼べるものではなく、宛ら光り輝く太陽と何ら変わりなかった。

その威力はいま遺憾なく発揮され、剣の乙女が張り巡らせた聖壁でさえ阻めるものではなかった。

どういう訳か、ダークゴブリンに対しては全くの恐怖心を抱く事もなく、彼女本来の力が発揮されていると言っても過言ではない。

そんな彼女が全身全霊で、張り巡らせた何重にも及ぶ聖壁の奇跡――。

大勢の冒険者を守護していた聖域(ホーリーランド)が、呆気無く打ち破られようとしていた。

 

『剣の乙女よ!英雄たる貴様は、真言魔法とソウルを理解していたのではなかったのか!フハハハ…!』

 

 今にも消滅しようとする聖壁を見据え、高らかに勝ち誇るダークゴブリン。

真言の特性に加え、部下達に幾度と施したソウルの注入術――洗礼の儀。

送り込んだ対象はソウルの恩恵を賜り、肉体的にも精神的にも飛躍的な進化を遂げる。

彼はそれを応用し、呪文に施しただけである。

 

『ちくしょう!反則だッ!』

『どうしようもないじゃないかぁッ!』

『こん畜生が!』

『もうだめだ!おしまいだぁ!』

 

 残された聖壁は最後の一枚のみとなり、それが崩壊するのも時間の問題となる。

 

「――…ぅ…くぅ…!」

 

 破られまいと汗を滲ませ歯を喰いしばりながらも、剣の乙女は全力で足掻いた。

 

――偉大なる至高神様!いと小さき我等に今一度ご加護をッ…!

 

心の中で祈りを捧げ、自分について来てくれた冒険者を何としても守り抜こうと、全神経を集約させ抵抗する。

仮にも彼女は金等級冒険者。

聖職者としての力は計り知れず、時には人知の及ばぬ奇跡を発現させる事もある。

だが、異端の黒き小鬼の力量は絶大で、更には強化方陣なる外法により常識外れの力を発揮していた。

その実力差は如何ともし難く、最後の聖壁にも亀裂が生じていた。

これが崩壊すれば、この場に居る全員が気体と化すだろう。

既に火球の周囲に在る草木は完全に煙と化し、散らばる幾つもの石ころが暗い褐色を帯びている。

その余りの熱量により、幾人かの冒険者の衣服が燃え始めていた程だ。

莫大な熱量は周囲の気温をも引き上げ、未熟な冒険者は立つ事もままならない状態となっている。

だが真に苦しいのは、そんな苦境にも耐え忍び尚も聖壁を保ち続ける、剣の乙女本人だろう。

 

――流石は我等を率いるボスだ。一時はどうなる事かと憂いてたが、これにて勝利は確定したな。

 

熱による上昇気流に堪え切れなくなったのか、長弓小鬼の翼竜は苦悶の鳴き声を上げる。

こんな状況だ、よもや邪魔者など現れまい。

見切りを付けた長弓小鬼は、翼竜を操り戦域から遠ざかった。

 

「ファッハッハハハハ!人族共ッ!よくやったと褒めてやりたい処だが、この俺が世界最強だッ!」

 

 高笑いを上げ、ダークゴブリンは輝く火球を見やる。

剣の乙女が粘っていたが、それも時間の問題だ。

最後の聖壁が破られた時、輝く火球は炸裂し戦域ごと冒険者全てを蒸発させるだろう。

これだけの膨大な魔力を浪費し、流石の彼も消耗は免れない。

だがこれで戦は終わる。

ダークゴブリンにとっては通過点に過ぎないが、これを踏み台に更なる前進を遂げるのだ。

次なる目標は、教会の狩人。

我等が同胞を実験台に、看過に堪えぬ所業の数々――。

完膚なきまでに叩き潰さねば気が収まらないのだ。

戦の幕引きを確信し余裕の笑みを浮かべ、冒険者側を見下す。

彼の放った火球が、いよいよ着弾する寸前であった。

 

「も…ダメ……」

――ごめんなさい…皆!

 

必死の抵抗も虚しく、剣の乙女の聖壁が全て崩壊しようとしていた。

激しい亀裂が走り最後の一枚である聖壁が、とうとう消え去る。

心の中で謝罪し片膝を突き、なけなしの集中力も途絶えようとしていた。

そして崩れ蒸発する聖壁。

 

桁外れの超高熱が、彼等を覆う――

 

――事はなかった。

 

「――!?」

 

 嘘の様に消え失せる高熱の嵐。

余りの高熱で揺らめいていた空間も、呆気ない程に平穏を取り戻している。

 

『『『『『『……??』』』』』』

 

 一体何が起こったと言うのか?

最後を覚悟していた冒険者たち。

余りの状況の変化に呆気に取られている。

灼熱に晒され苦痛に喘いでいた冒険者も立ち上がり、辺りを見回していた。

あの規格外の火球は何処にも無く、空は済んだ蒼色に彩られている。

先程まで、小鬼と死闘を繰り広げていたのが嘘だと思える位に、平和な空模様だ。

 

「……ば…馬鹿な…!?」

 

 その様子を具に見ていたのは、他でもないダークゴブリン本人であろう。

巨大な火球を放ち、ソウルを送り込み更に強化した必殺の一撃だった筈だ。

それを証明するかの様に、数多の冒険者の展開した障壁は悉く崩壊させている。

彼の視界に映っているのは、満身創痍となり消耗に消耗を重ねた幾多の冒険者たち。

だが其処には、忌々しい男が立ちはだかっていた。

彼の良く知る男――。

つい先程、徹底的に嬲り痛め付け瀕死に追いやった冒険者。

その男が再び立ち上がっていた。

男の手には、()()火球が握られ手の中に納まり切っていた。

あれ程の巨大で輝く火球は、石ころ程度に縮小され今にも握り潰されんばかりの状態だ。

 

『『『『『……』』』』』

「「「「「……」」」」」

 

 その光景を見やる小鬼側は無論、冒険者側も誰一人として声を発する事が出来ないでいた。

 

「なんだ…!何が起こったというのだッ――!?」

 

 火球を放ったダークゴブリン本人だけが、唯一辛うじて声を絞り上げるに留まる。

だがそんな彼でさえ、現状を把握し切れないでいたのだが。

 

「……」

 

 立ち上がった男はダークゴブリンを静かに見据え、拳を握る。

ダークゴブリンの放った火球が握られていた手だ。

 

それが今、握り潰されたのだ。

 

猛威を振るった巨大な火球が、彼の手によって握り潰され塵一つ残ってはいない。

 

   ―― 灰の剣士 ――

 

男は、そう呼ばれていた。

徹底的に叩きのめされた彼が再び立ち上がり、ダークゴブリンの火球を握り潰したのだ。

 

「……」

 

 彼は無言でダークゴブリンに視線を向ける。

全身には、燻ぶった火が纏わり付いていた。

 

 

 

   ―― EMBER RESTORED ――

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

霊壁(精霊魔法)

 

「土精(ノーム)や土精(ノーム)、風よけ水よけしっかり固めて守っておくれ」

「氷姫(アタリ)よ氷姫、これなる勇者に舞踏を一つ、お目にかけてはくれまいか」

 

任意の属性に対する魔法の壁を生み出す精霊魔法。

必要となる触媒も、属性と共に別途準備しなければならない。

 

精霊との親和性高き者は、押し並べて自然界に身を置く者が多い。

やはり精霊とは、自然界に馴染むという事だ。

 

 

 

 

 

 

 




 ダクゴブの巨大な火球は、もはやスーパー〇ヴァ。
このまま宇宙のチリにしてくれる!

物語りの冒頭と最後に、いつもアイテムや術などのフレーバーテキストを書いていますが、読者様方にはどう映っているでしょうか?
(我ながら、良く続いているなぁと思っています)
もし気が向いたらで良いので、それ等のコメントなども頂けると嬉しいです。
勿論、見るに堪えないからやめてくれ、という意見でも構いません。

如何だったでしょうか?
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
デハマタ。( ゚∀゚)/
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