ゴブリンスレイヤー ―灰の剣士―   作:カズヨシ0509

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 ドーモです。
なんか、また寒くなってきましたね。
ほぼ全国的に雪が降ったりで、厚着がちになり暖房も手放せません。

では投稿致しますドゾ。( ゚ ω ゚ )


第88話―ダークゴブリン軍VS剣の乙女軍11・決着

 

 

 

 

 

残り火

 

英雄たちの内にある残り火。

火の無き灰たちが終に得られず

故に惹かれるもの。

 

死ぬまで火の力を得、最大HPを増やす。

 

また、火の力を得た者にはサインが見え

残り火に惹かれる協力者を召喚できる。

だが同時に、侵入者の影も付き纏うだろう。

 

異界に流れ着いたとて、その残滓と名残は彼等に燻ぶる。

それを呼び起こし、糧へと変えるのは生命の御業といえよう。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

   ―― EMBER RESTORED ――

 

 

 

(推奨BGM  ダークソウル3 ―― メインテーマ )

 

 

 

 数多の英雄に宿ると言われる火の力。

火はあらゆる物質を燃やし、終には灰へと変える。

だが火は決して破壊のみを齎す訳ではない。

火は時に、生命を育み生かしもする。

遥か太古、火の時代がそうであった様に――。

火の無い灰達が求めて止まぬ――故に惹かれ続け、時には道をも狂わせる。

それ程の可能性を秘めし力――王達のソウルの残滓――残り火。

それが宿り今覚醒したのだ。

彼の――。

 

灰の剣士に――。

 

……

 

全てを焼き尽くさんとしていた巨大な火球――。

ダークゴブリンが放ちし滅びの火は、一瞬にして消え去った。

否――。

彼の手で()()()()()()と言う方が正確だろう、文字通り。

灼熱に晒されし空間は嘘の様に静まり返り、冒険者たちは呆気に取られたままだ。

なまじ覚悟を決めていただけに、尚更とも言える。

そもそも先程まで完膚なきまでに叩きのめされ、息絶えようとしていた男が立ち上がっているのだ。

そして規格外の火球を文字通り手中で握り潰し、眼前の小鬼――ダークゴブリンを見据えている。

誰もが思考停止に陥ろうというものだ。

 

「……灰の…方……」

 

 乱れた呼吸を整えつつも、剣の乙女は声を掛ける。

灰の剣士――。

彼の素性、ある程度なら知識に納まっている。

彼は遥か太古の住人であり、長きに渡り不死人として存在していたという事実。

彼女らの界隈では、古人(いにしえびと)と呼ばれていた。

しかし、今の彼は歴とした正真正銘の生きた人間――生者そのもの。

自分達と同じ存在だ。

何の治癒も施さず再び立ち上がるなどという、あり得ない事象が現前に――。

それは最早、神の領域に至るに等しい。

彼から流れ来るソウル――。

何と静かで穏やかなのだろう。

冒険者が野営時に熾す見慣れた焚火――。

あらゆる物を焼き尽くし灰塵へと帰す荒々しい炎ではない。

糧食を焼き飲み物を温め、時に癒し時に温もりを齎す、ささやかで優しき()そのもの――。

太陽とはまた違う、穏やかで確かな温もりを持つ――。

 

   ―― 篝火 ――

 

時折夢に見る、あの篝火に良く似たソウルが彼女に流れ込んで来るのだ。

 

「灰よ…」

「灰…君…?」

 

 剣の乙女に釣られるかのように、恐る恐ると声を掛けたのはゴブリンスレイヤーとライザだ。

だが灰の剣士は応えない。

無言で立ち尽くし、前方の敵を見据えるのみ。

彼の全身に纏わり付くのは、”火”だろうか?

いや寧ろ、彼自身が静かに燻ぶり燃えている様にさえ見える。

 

『…残り火だよ…。助言者様の仰っていた()()が――』

「母さん?」

「ロロナ先生?」

 

 不意に言葉を発したロロナに、ルルアやトトリは彼女の方へと向き戸惑いを隠せない。

 

「やはり、そうであったか。とうとう呼び起こしたのだな、灰剣士殿」

 

「どういう事か、ジークバルド殿?」

 

 ロロナの言葉が彼にも届いていたのだろう。

ジークバルドは合点がいったかの如く深く頷き、事情を呑み込めないソラールは聞き返した。

 

「ロードラン時代の貴公が知り得ないのも無理はない。だが今は、それを語る時ではない。かの者の結末を見届けてからだ」

 

「うむ…そうであるな」

 

 事の詳細は後からでも知る事が出来る。

ジークバルドの言に従い、ソラールは逸る心を抑えた。

今は戦の最中(さなか)――。

 

「あ…あの、剣士さん…大丈夫…ですよね…?」

 

 現状に困惑している者は多数居る。

銀髪武闘家も懐疑的な心情で、ジークバルドに話し掛けた。

 

「案ずるな、武の少女よ。まぁ、見てい給え。ああ成った、かの者は…()()――!」

 

 語尾を取り分け強調するジークバルド。

()()()()()()()――彼には。

 

――まだ不完全ではあるようだが…鬼が出るか蛇が出るか…!

 

残り火を解放したからといって、全ての力を取り戻した訳でもないらしい。

ジークバルドは過去の記憶を呼び起こしていた。

 

ロスリックの地下深くに流れ着いた故郷の一つ、罪の都。

朽ち果てた御殿に座する、嘗ての盟友『巨人ヨ―ム』

彼との約束を果たさんが為、ジークバルドは単身ロスリックへと挑んでいた。

その過酷な旅の途中、灰の剣士と出会い協力しながら幾多の苦難を乗り越えた。

そして遂に巨人ヨ―ムを討ち果たし、約束と使命を果たす事が出来たのだ。

使命を果たし終え、もはや存在理由はない。

薄れゆく意識の中、前進を続ける灰の剣士を見届けていたが当時の彼の力は、今の様な生温いものではなかった。

あの時の彼も残り火を解放していたが、そのソウルたるや筆舌にし尽くし難い水準(レベルカンスト)だった。

 

やはり、生者である事が要因なのだろうか?

残り火を解放したからといって、今の彼に頼り切るのは些かに不安が残る。

ジークバルド自身も相当に消耗を強いられていたが、何も戦えない程ではない。

状況の流れ次第では、彼も助成に加わる腹積もりでいた。

 

……

 

しかし誰よりも現状に困惑しているのは、ダークゴブリン自身であろう。

何せ幕を降ろす為に放った必殺の決め手が、見事に消失したのだから。

 

「……」

 

 ダークゴブリンならず、残留し見届けていた小鬼達にも動揺が浸透しつつある。

皆が皆、戦の終局を信じて疑わなかったのだ。

そうなるのも無理からぬ話であろう。

 

「……ッ!」

 

 次第にダークゴブリンの感情は疑念から憤怒へと遷移(せんい)する。

 

「死にぞこないめ……!」

 

 ワナワナと全身を打ち振るわせ、再起し変容した灰の剣士を睨み付ける。

 

「――ッ!?」

 

――その瞬間である。

 

……

 

(推奨BGM  Antti Martikainen Music ―― Divine Alliance )

 

『――ウぉッ!?』

『――なッ!?』

『――キャッ!?』

 

 突如として短い悲鳴を上げる冒険者たち。

弾け飛ぶ大気の亀裂――。

遅れて到来する振動――。

地面のみならず空気までもが激しい振動を引き起こす。

それは衝撃を伴い、僅かながら彼等を打ち据えたのだ。

防衛本能が働き顔面を背けてしまうのも当然と言える。

 

原因は言わずもがな――灰の剣士。

 

彼は無言でダークゴブリンへと跳躍した。

周囲が気が付いた時には、既に彼の姿は何処にも無かった。

瞬きする間もなく、彼は一瞬で敵陣営へと突貫していた。

全身を燃焼させ、それでいて緩やかな火を纏い、桁外れの脚力を以て一足で敵陣営へと肉薄――。

端から見れば、それは宛ら火の弾丸。

目にも止まらぬ瞬速で、ダークゴブリンへと迫った。

 

『――GROBU!!』

 

 無論ダークゴブリンも黙って見逃がす筈もなく、呼応するかの様に突撃――。

拳に力を込め、今度こそ宿敵を打ち砕かんとする。

 

『――くらえぇいッ!!』

「――…!」

 

 灰の剣士、ダークゴブリン。

両者の拳が激突する。

拳の着弾点を中心に衝撃波が大気を引き裂いた。

その影響は、両陣営にも届く程に凄まじい。

 

「――GOV!」

「…」

 

 拳頭がかち合い拮抗し合う。

力の比べ合いに縺れ込むと思われたが、ダークゴブリンが先に動いた。

 

「――GOA!」

 

 空いたもう一つの腕を振るい、更なる拳を叩き込む。

大気を切り裂かんばかりの神速が如き一撃――。

岩塊すら粉砕する威力――。

真面に食らえばどうなるか――。

その恐るべき鬼の一撃が、灰の剣士を捕らえ――る事はなかった。

貫いたのだ――間違い無く。

ダークゴブリンの拳打は十中八九、彼の身体を捕らえ貫通した。

だが妙な空虚感がダークゴブリンに浸透する。

まるで、何も無い空間を打ったかの様な感触だ。

 

「――…GOU!?」

 

 極僅かな時を経てダークゴブリンは驚嘆に包まれた。

気が付けば自分の拳の先は、何も映っていなかったのだ。

いや正確に言えば、定めた標的は拳から外れていた、と言うべきか。

ダークゴブリンの拳打は、相手を捕らえてなどいない。

躱されていた。

紙一重で――。

ダークゴブリンすらも認識できない程の速さで――。

 

「――GA…!!」

 

 完璧の筈だ。

強化方陣の力は――。

自らの優位性を信じて疑わないダークゴブリン。

 

「――GOAUU!!」

 

 今の形態で焦燥したのは初であろう。

激昂したダークゴブリンは神速の連打を繰り出した。

拳だけでなく脚をも使い、持てる四肢を全て用いて敵を打ち砕かんとする。

拳打、蹴打が怒涛の勢いで繰り出され、常人が真面に受ければ肉体ごと飛散するであろう威力だ。

何十発もの連打が、灰の剣士に襲い掛かる。

 

「……」

 

 しかし全ての連打が虚しく空を薙ぐだけだ。

目にも止まらぬ連撃の嵐――。

その連撃は何の感触も手応えも無く、唯々空振るのみ。

上体を揺らし僅かな足裁きで、全ての連撃を躱し続ける灰の剣士。

しかし、今の彼に焦りや呼吸の乱れなどは一切無い。

まるで息をするに等しいと言わんばかりに、悠々と躱し続ける。

恐らく攻め続けた処で先に息切れするのは、ダークゴブリンの方だ。

躱し続けていた灰の剣士だが、とうとう流れが逆転する。

 

 

 

(推奨BGM  Antti Martikainen Music ―― Blood of Glory )

 

 

 

「――…!」

 

 ダークゴブリンの拳打を無駄のない最小限の動作で避ける。

その勢いのまま懐へと踏み込み、同時に肘打ち(外門頂肘)を叩き込んだ。

 

「――GYOBッ!?」

 

 この形態で痛痒を負うの初めての筈だ。

拳打の勢いを逆手に取られ、胸部をカウンター気味に叩き込まれたのだ。

更に攻撃の隙を突かれ、呼吸をも防御に合わせる事が出来ていない。

その状態で強烈な一撃が直撃すれば、幾ら屈強な肉体とて唯では済まない。

彼の一撃は予想以上に重く、ダークゴブリンの動きが其処で止まる。

当然隙だらけ。

小鬼を束ねる長にして異端の存在――ダークゴブリン。

彼にあるまじき無防備でがら空きの懐に、更なる追撃が加えられた。

 

「――…!!」

 

 今度は灰の剣士が攻め立てる。

視界に捕らえる事すらままならない神速の連撃――。

瞬きする間に繰り出され、ダークゴブリンの身体に全て炸裂する。

がら空きの胴は至る箇所から陥没が生まれ出でた。

 

「――GRUOOO!!?」

 

 思わぬ打撃を受けダークゴブリンは後退る。

複数の陥没箇所を庇うかのように数歩引き下がった。

想定以上の重さと衝撃が、ダークゴブリンを蝕んでいたのだ。

尚も致命的な隙が消える事はない。

 

「――GRUッ!!」

 

 今度は、がら空きの顎に重い衝撃が走った。

蹴りが叩き込まれていた。

鋭くも重い、上段足刀蹴り――。

直撃だった。

脳が揺さぶられ、ダークゴブリンはガクガクと細やかな痙攣を繰り返す。

振り上げた脚を静かに元へと戻し、灰の剣士は悠然と立つ。

構えも何も無い。

ただ立っただけだ。

 

「……」

「――GOLUAッ!!」

 

 無言で立つ灰の剣士に、ダークゴブリンは猛る感情をぶつける。

体勢を立て直し、尚も彼に攻撃を加え続けた。

しかしだ――。

拳が空振り、脚が空を裂き、手刀が虚空を走る。

 

「――GRUOAO!!」

 

 再び怒涛の連打が彼に殺到する。

だが、灰の剣士は傷一つ追う事はない。

掠りもしないのだ――。

ダークゴブリンの連撃が。

一切の無駄を省いた必要最小限の動作で、全ての攻撃を躱してゆく。

それが()()()()であるかの様に。

屈み、反らし、捻り、踏み込み、あらゆる打撃が虚しく空降るだけだ。

そして、お返しとばかりに襲い来る返礼――。

 

「――GOU!」

 

 顔面に拳打が打ち込まれ――。

 

「――GEA!」

 

 蹴りが胴体を穿ち――。

 

「――GYO!」

 

 肘が、膝が、ありとあらゆる箇所に圧壊を加える。

 

「――…!!」

 

 彼は間断の無い高速連撃を叩き込んだ。

息を吐かせぬ連続攻撃が、ダークゴブリンの身体を容赦なく打ち据える。

 

「ぐぅぅ…ば…馬鹿な…!」

 

 雪崩に似た打撃の嵐を受け続け、ダークゴブリンは傷口を抑えながら蹲った。

寸刻前では考えられない現象だ。

強化方陣の前に手も足も出なかった灰の剣士――。

完全に叩きのめされ、命すら風前の灯であった。

それが今こうして再び立ち上がり、逆にダークゴブリン自身が追い詰められている。

一体、目の前に居るのは何者なのだ?

桁外れの戦闘力を備え、それが強化方陣で更なる強化を得るに至った。

時間制限付きではあるものの、今のダークゴブリンは魔神王の水準だ。

その状態で、生殺与奪の権が逆転してしまっているのだ。

たとえそれが現実であっても、そうそう認められるものではない。

 

……

 

『お、おい…こいつぁ、若しかすると…だぜ?』

 

 期待を込め一人の冒険者が、浮ついた声音で口を開く。

先程までの劣勢が、今では完全に逆転していた。

ほぼ一方的に嬲られていた灰の剣士――。

総力を結集して尚、絶望的な状況を覆せなかった冒険者たち。

今はどうだ?

彼等の目に映る光景。

 

『い、いいぞ…!やれ…やっちまえ…!』

『押し切れ…!そのまま倒しちまえ…!』

 

 今や灰の剣士が主導権を握っている。

圧倒的な強さを誇ったダークゴブリンを完全に御し、彼の逆襲が始まっていた。

突きが、蹴りが、ダークゴブリンの巨躯に叩き込まれる。

一方ダークゴブリンも反撃とばかりに返し技を放つが、掠める事さえ叶わぬ状態だ。

 

『討ってぇ、灰の剣士!あたし達の仇をッ!』

『仲間の恨みを晴らしてくれぇッ!』

『この戦いを終わらせてぇッ!』

 

 冒険者たちが次々と声を投げ掛けた。

これまでの屈辱を晴らしてくれと言わんばかりに――。

 

そして心中穏やかでないのは、遠巻きに見守っていた小鬼側だ。

戦の流れは此方側に傾いていた筈なのに。

何処からどう転んでも、逆転する事など在り得なかった。

少なくとも、誰もがそう信じていた。

だが目の前に繰り広げられている、笑えぬ喜劇。

崇拝し首領と認めたダークゴブリンが、一方的に痛め付けられているのだ。

 

「――そうはさせん!灰の剣士ぃッ!」

 

 翼竜に跨り空中を旋回していた長弓小鬼は、矢を番え灰の剣士へと狙いを定める。

戦域を離脱しつつあったが、突如として訪れた戦況の変化。

尋常ならざる異変と捉え、再び戦域へと舞い戻っていたのだ。

 

「――GUROV!?」

 

 充分に引き絞り、いざ矢を放たんとした刹那――。

長弓小鬼の肩部に鋭い矢が撃ち込まれた。

その衝撃と痛みで、完全に攻撃の(タイミング)を喪失してしまう。

半ば反射的に飛来した矢の方角へと、視線を傾けた。

眼下に映る一人の弓手――。

森人よりも一際長い耳を持つ、上森人(ハイエルフ)の女だった。

 

『残念、アンタの動きは完全に見切ったわ!イケメンの小鬼さんッ♪』

 

 彼女は敢えて灰の剣士の加勢に参加せず、上空に注意を払っていたのである。

一度戦域を離脱した長弓小鬼だったが、妖精弓手の目論見通り、戦域に舞い戻り狙撃を試みていた。

長弓小鬼の注意は、妖精弓手の事など完全に外れており、逆に彼女の視点からは無防備もいい処だ。

彼女程の腕前ならば、今の長弓小鬼など格好の的に過ぎず、こうして報復が叶った訳だ。

 

「――上森人(ハイエルフ)がぁッ――GYOB!?」

 

 今や主導権が反転し、長弓小鬼は激昂するも追撃の矢を2本受け、更なる痛痒を負う。

 

『――いい表情するじゃない♪下手に動いたら風穴開けるわよッ!』

 

 今度は妖精弓手が拘束する側だ。

完全に動きを補足され、長弓小鬼は空中を漂うしかなかった。

生半可な回避運動では即座に反応され、矢の餌食となるだろう。

通常の小鬼なら、無謀な抵抗に奔っただろう。

しかし彼はソウルの恩恵を受けた大型種で、且つ思慮深さを併せ持つ希少種でもある。

大人しく従う他なかった。

 

不完全ながら”残り火”を解放させた灰の剣士。

強化方陣で圧倒的な戦闘力を得たにも拘らず、ダークゴブリンは押され続けていた。

連撃に次ぐ連撃を立て続けに受け、傷口を庇いながら後退る。

 

「ぐぅ…く…フッフフフフ…。成程、同胞が敵わん訳だ。だぁが…――」

 

 薄ら笑いを浮かべながらも、結晶ブレスで奇襲をかける。

 

「……」

 

 不意を突いたブレス攻撃。

それは見事に彼を捕らえ、灰の剣士は水晶に覆われる形となる。

しかし、彼には何ら影響はなく全く痛痒を負う事はなかった。

だが隙を突いたダークゴブリンは、一気に距離を開けていた。

 

 

 

(推奨BGM  Dark Souls 3  ―― Soul of Cinder Remix - E.S. Cinder )

 

 

 

「――フハハハ、油断したな!切り札は最後まで取っておくものだ!」

 

 ブレス攻撃さえも、灰の剣士に傷を負わせる事叶わず。――とは言え、僅かながらも注意を逸らす事は出来た。

後方へと距離を稼いだダークゴブリンは、雑嚢から小瓶を取り出している。

中には、色付いた液体が満たされていた。

 

『…あれって確か、魔力増強の秘薬――』

 

 遠間から見ていたトトリが叫ぶ。

小瓶自体の中身は、そう珍しい品ではない。

魔力にせよ、筋力にせよ、増強の秘薬自体は比較的に流通している。

そして秘薬という種は、錬金術で生み出されるものだ。

しかし問題は、その点ではない。

ダークゴブリン軍が、魔神側と繋がりを持っているのは周知の事実。

つまり魔神側にも錬金術士が存在するという訳で、その技術が悪用されているという事に繋がるのだ。

 

『――許せないわ!偉大な錬金術が悪い事に使われているなんて…!』

 

 困窮している人々の助けとなり、世界の安寧にも繋がる錬金術――。

幾多の先人たちが、知識と技術を研鑽し積み重ねてきた歴史が、無残に汚されたも同然であった。

メルルやルルアは憤りを滲ませ、トトリやロロナは悲しげな表情を浮かべる。

 

「…好い味だ、喉も潤った」

 

 秘薬を飲み干し、空になった小瓶を握り砕くダークゴブリン。

程無くして効果が表れたのか、爆発的に魔力が増幅する。

 

「――受けてみろ、我が最大最強の一撃!避ければ近隣が吹っ飛ぶ!受けざるを得んぞぉッ!!」

 

 雄叫びにも似た声で叫び、ダークゴブリンは全魔力を掌へと集中させる。

両の掌を前方へと翳し真言魔法の詠唱を開始した。

正真正銘、今度こそ幕を降ろすべく――。

 

「――オムニス(万物)ノドゥス(結束)…」

 

 秘薬を内服した事で膨れ上がった魔力――。

その恩恵を全て動員した真言魔法――分解(ディスインテグレータ)

触れた物体を根底から破壊し尽くす高位の攻撃呪文だ。

元々の破壊力に優れ、使用者の魔力に大きく依存する。

通常時のダークゴブリンでさえ、オーガジェネラルの魔力を凌駕している。

そんな彼が、強化方陣と魔力増強の秘薬で更なる強化を図ったのだ。

その状態で放つ高位の真言魔法、分解(ディスインテグレータ)

それが今、冒険者側に放たれようとしていた。

 

『――止しやがれッ!冗談じゃねぇぞッ!!』

『――打つ手はねぇのかよッ!』

 

 到来する展開など容易に想像できる。

冒険者たちに出来る事は、唯々狼狽える事しか出来なかった。

否、熟練者なら何らかの対象法があったのかも知れない。

もし万全の状態なら、ソラールやジークバルドを含めた猛者が行動を起こしていただろう。

だが消耗に次ぐ消耗に加え、夥しい犠牲者の数々――。

余力が喪失していた。

しかし、灰の剣士は何ら臆する事無く彼等の前に立ち塞がり、孤電の杖を再び取り出す。

 

「そ…そうか!さっきのアレで撃ち返すんだな!?」

 

 それを見たライアスは僅かに希望を見出す。

 

「待てよ、さっき一日一回が限度って言ってなかったか!?」

 

 槍使いが言葉を返す。

実際ダークゴブリンが放つのは、これで二射目だ。

一射目の時点で、灰の剣士は杖の効果を駆使し、真言呪文を撃ち返している。

 

孤電の杖の特殊能力――。

呪文を蓄積させる、吸収する、体積した魔力を解放する。

そう言った効果を備えているが、使用できるのは精々が一日一度が限度。

それ以上の行使は、杖自体がもたず崩壊する危険性が高かった。

かなり特殊な製法で生み出されたらしく、自力で修復する術を彼は知らない。

更には大切な存在である、孤電の術士から直接賜った代物だ。

彼女に対する恩義もあり、おいそれと乱雑に扱う事は憚られた。

この一大事に義理立てを優先する彼も彼だが、杖の特殊能力に頼る必要はなかった。

不完全ながらも”残り火”を解放した灰の剣士。

今の彼は、()()を満たしていたのだ。

孤電の杖を地面に突き刺し、両の掌を宝玉部分へと翳す。

 

「――この凄まじいソウルの流れ…!」

「――灰の剣士よ、アレを撃つ気だな…!」

 

 ソラールとジークバルドは、彼の体内に昂るソウルを感知する。

それに呼応するかの様に、莫大なソウルが宝玉部に流れ込んだ。

ダークゴブリンと灰の剣士。

両者のソウルは爆発的に増大し、周囲の環境にも影響を及ぼし始める。

大気が荒れ狂い、地面が隆起し、またもや地形が著しく変化の兆しを見せ始めていた。

 

――最後の抵抗か!面白いッ!

「――リベロッ(解放)!!」

 

 最後の真言を発し、分解(ディスインテグレータ)が放たれた。

一射目とは比較にならない、莫大な魔力が放出される。

魔力の束だけでも、優に集団を吞み込まん勢いだ。

間違い無く消滅ないし跡形もなく吹き飛ばす威力を誇るだろう。

常識外れの魔力は荒れ狂わんばかりに突き進み、周囲の地形を削り取る。

その矛先は、灰の剣士を含めた冒険者たち――。

 

「――ソウルの奔流ッ!!!」

 

 対する灰の剣士。

彼も負けていなかった。

分解(ディスインテグレータ)に対し、彼もソウルの魔術を発動。

彼が行使したのはソウルの魔術の中でも、最高峰の威力を誇る呪文――。

 

   ―― ()()()()()() ――

 

彼もまた桁外れのソウルを放出する。

この呪文も触れた対象物を軒並み消滅させる程の、莫大な破壊力を有していた。

青白い光の激流が、螺旋を描きながら高速で直進する。

その呪文も周囲の地面を抉り取り、分解(ディスインテグレータ)目掛けて突き進んだ。

本来の彼なら、この呪文を行使する事は出来ない。

呪文自体は習得していたが、発動条件である理力が足りないのだ。

火継ぎの時代なら息をするかの如く使用できたのだが、四方世界に転移してからは理力が大幅に弱体化していた。

無理に行使するには、孤電の杖に備わっている”蓄電”を長時間行う必要がある。

だが残り火を解放させた今の状態なら、無条件で行使する事が可能だ。

(それでも、不死人時代に比べれば大幅に劣る)

 

高位の真言魔法――分解(ディスインテグレータ)

 

最高峰のソウル魔術――ソウルの奔流。

 

莫大なエネルギーの束が、互いに激突し競り合った。

 

「――…GRUO!」

「――ッ…!!」

 

 膨大な魔力とソウルが、ぶつかり合い互いを圧し合う。

双方の着弾点からは、凄まじいまでの衝撃波が拡がった。

衝撃波は周囲を抉るだけでなく、地面の破片が宙に浮遊する程の影響を及ぼす。

両者の大呪文は拮抗状態にあると言えた。

しかし僅かながらではあるが、ダークゴブリンが徐々に圧し始める。

秘薬の影響である事は疑いようが無い。

増強された魔力が彼に味方した結果であろう。

 

「――…ぐ…く…ぅ…!」

 

 圧されながらも懸命に抗うが、灰の剣士の表情は強張り追い詰められているのが分かる。

こうしている間にも、ダークゴブリンの呪文が徐々に迫りつつあった。

 

『――皆さんっ…、手を貸して下さいッ!彼に魔力を送り、助成するのですッ!』

 

 突如声を張り上げ叫んだのは、剣の乙女――。

周囲に見本を示すかのように、自身は灰の剣士に手を翳す。

それは魔力を彼に送る行為であった。

既に奇跡を使い果たし、残っているのは極僅か――。

たった一人、灰の剣士は戦っている。

自分は何もせずに傍観するなど出来なかった。

 

『だ…だけどよ…』

『俺ら戦士職だぜ…?』

『どうやって魔力なんて送るんだよ…?』

 

 魔法職ならば、まだ分かる。

魔力という概念を理解している彼(彼女)等なら――。

しかし魔法とは無縁の戦士たちは、只管狼狽えるばかりだ。

 

『案ずる事はありません!思いを込め手を翳すだけで良いんです!どうか、お力を――』

 

 魔力を注ぎながら、剣の乙女は叫ぶ。

たとえ一般人であろうとも、幾らかの魔力を体内に有しているものだ。

一人一人の個人では無力に等しいだろう。

しかし、塵も積もれば――と言うやつだ。

このまま手を拱いた処で、訪れる運命など分かり切っている。

今このタイミングで逃走を図ったとしても、跡形もなく吹き飛び巻き添えを食うのは必至だ。

取れる選択肢は限られている。

生きたいのであれば。

剣の乙女の手からは、靄の様なナニカが彼に流れていた。

 

『『『『『『……』』』』』』

 

 ほんの束の間だが呆けていた冒険者たち。

 

『『『『『――大司教様の命に従いますっ!』』』』』

 

 そんな彼等に見本を見せるかのように動いたのは、部下である神官戦士たちだ。

剣の乙女に倣い一斉に手を翳し、なけなしの魔力を送り込む。

 

『――ちくしょう、ヤッテやらぁッ!』

『――こうなったらヤケだッ!』

『――残り少ない魔力受け取ってッ!』

『――お願い勝って、灰の剣士ぃッ!』

 

 堰を切ったかの如く、次々と冒険者たちが手を翳し始めた。

戦士も魔法使いも関係ない。

皆が一丸となり、彼に魔力を送る。

 

「頼んだぜ、灰の剣士!」

「こうなったら絶対に勝てよ!」

「剣士さん、敗けないでぇ!」

 

 槍使い、重戦士、銀髪武闘家も加わり彼に魔力を送る。

 

「……灰よ…!」

 

 その中にはゴブリンスレイヤーの姿も――。

 

「とんだ大冒険だね全く!」

「何とかなるんじゃなくて、何とかするんだ!私たちがッ!」

 

ライザやルルアを始めとした錬金団も協力に加わった。

傷付き消耗し皆が皆、満身創痍の状態だ。

それでも彼等は自身に鞭打ち、行動を起こしたのである。

 

…皆の協力が実を結んだのだろうか。

灰の剣士が放つ”ソウルの奔流”は更なる増大化を辿り、ダークゴブリンの呪文を圧し返し始めていた。

 

「――GROBO…!」

 

 今度はダークゴブリンが焦燥を滲ませる。

ソウルの奔流は、直ぐ其処まで迫っていた。

このままいけば競り勝ち、冒険者側が勝利するだろう。

 

()()()()()()()

 

そう単純に事は運ばなかった。

再びダークゴブリンの呪文が増大――圧し始めたのだ。

 

『――ぬっ!?よもやっ…!』

『――奴等めっ…!』

『――真似たッ…いや学んだのかっ…!?』

 

 その状況に歯軋りするソラール、ジークバルド、ステルク。

灰の剣士に魔力を送り込む最中、ある光景に驚愕していた。

 

「GYOB!」

「GOOV!」

「GRAB!」

 

 何と小鬼達も手を翳し魔力を送り込んでいたのだ。

ダークゴブリンに向かって――。

そう、彼等は冒険者と同じ動作を真似ていた。

総勢50前後と少数ではあるが、彼等は皆ソウルの恩恵を受けた強者だ。

有する魔力も、それに比例する。

指示を飛ばしたのは側近の一人、書記小鬼だ。

彼は専ら頭脳労働担当だが、仮にも大型種。

人族側の仕組みを即座に看破し、彼等に指示を飛ばしたのである。

当然彼自身も参加し、ダークゴブリンに魔力を送り込んでいた。

再び形勢不利となる灰の剣士。

またもや分解の呪文が彼に迫っていた。

 

「ククク、俺の勝ちだ!人族共ぉッ!!」

 

 膨大な魔力の束が彼に差し迫り、飲み込む寸前にまで追い詰められている。

勝ち誇るダークゴブリン。

追い込まれる冒険者たち。

いよいよ分解の呪文が、彼等を呑み込まんとする。

 

……

 

一方、やや離れた戦域では――。

 

「ねぇ、私達も手伝おう?みんな一生懸命に……」

「……」

 

 一人項垂れ呆然とする男に、半森人の少女が寄り添い声を掛ける。

 

「…俺が言った処で何になる…?お前一人で行けよ……」

「……ぅ…うぅ…」

 

 その男は生気の無い眼で、戦場を()()見ていた。

覇気を失い、闘志も失せ、活力すらも湧き立つ事はなかった。

その男は西方辺境の冒険者――同期戦士。

彼に寄り添うのは、半森人の少女野伏。

戦場では多くの冒険者が、灰の剣士に協力し奮起している。

しかし彼は動こうともしなかった。

負傷しているのだろうか?

それなら、まだ分かる。

しかし彼の身体は治療済み。

全快とはいかないまでも、まだまだ戦えるだけの活力を有している。

しかし、彼は動かない。

否、動こうともしない。

動こうとする()()を失った。

折れたのだ。

心が完全に――()()()

 

完全に戦意を失った彼を見やり、悲しげな表情を浮かべる少女野伏。

先程から何度声を掛けようとも、彼が奮起する事はなかった。

もし此処に妖精弓手が居れば、彼のケツを蹴飛ばすなり張り倒すなり、荒治療に走っただろう。

しかし半森人の少女野伏に、その様な気概はなく寧ろ気弱な部類だ。

優しい気遣いの言葉を健気に掛け続けるが、一向に効果の程は見られなかった。

 

「…先輩も死んじまったしよぉ……」

「…それは…そうだけど……うぅ…」

 

 彼が此処まで塞ぎ込む原因――。

銀等級戦士の事だった。

過去に彼との交流を持ち師事する事で、多くを教わり学んだ間柄。

同期戦士にとっては目標とする存在であると同時に、良き友人でもあった。

そんな彼が戦闘中に首を斬られ犠牲となった。

同期戦士の目の前で――。

起こった現実が認められず、彼は無我夢中で小鬼の群れへと跳び込んだ。

単身群れへと切り込み、殺到する小鬼を斬り伏せ自らも斬り刻まれながらも、倒れ伏す彼へと辿り着く。

泣き叫び、慟哭し、絶叫した。

仲間に無理やり引き摺られるも、彼は銀等級戦士にしがみ付こうとした程だ。

それだけ敬愛し慕っていたのだ。

その瞬間、同期戦士の心は完全に折れた。

戦う理由が見出せないのだ。

衝動も湧き立たない。

彼は以前、岩喰い虫(ロックイーター)により一党が壊滅してしまった経緯がある。

その時も仲間が重症を負い、命に関わる事態に陥った。

傍らに寄り添う少女野伏も例外ではなく、危うく岩喰い虫に捕食される寸前であった。

一人残された彼は塞ぎ込み冒険者生活に支障を来たしていたが、今の抱える苦しみは当時の比ではない。

もはや奮起する理由さえ見つからないのだ。

今の彼には――。

 

「…で…でもぉ…」

 

 彼女は心優しい。

本来ならこの時点で、同期戦士を見限る事も出来たが、決してそうしないのは実に彼女らしい。

どうにかして彼を勇気づけようと試みるが、手立てが見付からない。

目に涙を浮かべ、唯々彼を見つめるしかなかった。

 

「…俺なんか見捨ててよぉ、お前もどこか行け…へ…へへへ……」

 

 終わった――。

 

彼女は悟る。

たとえこのまま生き延びたとしても、自分達の冒険は今終わったのだ。

 

「……」

 

 声も出さず泣き崩れる少女野伏。

地面に手を着き、小刻みに嗚咽を漏らす事しか出来なかった。

 

そんな折――。

 

「…なんだ…何すん――ぶへぇぁッ!?」

 

「…え…?」

 

 何事かと少女野伏は顔を上げる。

彼女の視界には、何者かに殴り飛ばされる同期戦士の姿――。

 

「……!?」

 

 理解が追い付かず、その光景を見つめる事しか出来なかった。

 

「ハァ…ハァ…ハァ…意外と脆いな…お前…」

「う…うぐ…て…テメェ…」

 

 同期戦士は殴られていた。

倒れ込む彼を見降ろす一人の男に、同期戦士は恨みがましい眼で睨み付けた。

 

そして――。

 

「――……せ…先輩…?そ…んな……死んだはず…じゃあ……?」

 

「フゥ…ハァ……死んでねぇよ。首も一応繋がってらぁな…ギリギリな…」

 

 信じられない光景だった。

見上げた彼の視線の先には、銀等級戦士が映っていた。

首には血の滲んだ包帯が巻かれている。

当然、彼は目を疑う。

しかし痛む頬は、それを現実だと物語っていた。

 

「フゥ…ハァ…、あんまり体力回復してねぇからな!簡単に説明するぜ……全て大司教様のお陰だ」

「え…?」

 

 死んだと思われていた銀等級戦士が今、目の前に居る。

殴られた痛みなど何処かへ消え失せ、同期戦士の胸中は疑念に満ち溢れていた。

銀等級戦士は、事の経緯を語る。

確かに彼は小鬼の奇襲を受け、頚部を切られ絶命確実な致命傷を負った。

本来なら、そこで死んでいた筈だ。

しかし剣の乙女が奇跡を掛けてくれていたのだ。

その奇跡とは――。

 

   ―― 保存《ブリザベーション》 ――

 

この奇跡は、対象物の腐敗を防ぐと同時に代謝機能を停止させる効果を持つ。

銀等級戦士は確かに、頚部を切られ倒れ伏した。

しかし即死には至っておらず、何者かが彼を運んでくれたらしい。

剣の乙女の目に留まった時も、出血多量ながら彼は辛うじて生きていた。

そこで彼女は一縷の望みを賭け、保存(ブリザベーション)の奇跡を掛けたのである。

その結果、彼は瀕死ながらも一命を取り留め、後に別の聖職者が治療(リフレッシュ)の奇跡を行使。

今こうして、彼は其処に居た。

 

「だが血が足りねぇ、もう真面に戦う事は叶わん……」

 

 彼の言う通り、幾ら治療の奇跡で命を拾おうとも流れ出た血液までもが戻る訳ではない。

肉体と生命活動を支える血が明らかに不足している状態だ。

恐らくは、何らかの後遺症を抱えるであろう。

彼の言う通り、以前の様な戦闘力を発揮できるかは疑わしい状態だった。

 

「――けどな…、そんな役立たずの俺でも…何かはやれる!」

 

 荒い呼吸ながらも銀等級戦士は、或る物を拾い上げる。

 

「クソッ…、真面に持ち上がらねぇ……!クゥ…フゥッ…」

 

 それは小鬼達が残していった抱え大筒(ハンド・カノン)であった。

血を流し過ぎた弊害に違いない。

女性冒険者でさえ持ち上げる抱え大筒を、彼は持ち上げるのさえ四苦八苦している。

彼自身力を込めようとも、実際は大した筋力を発揮していなかった。

 

「――先輩ッ!俺がッ――」

 

 弾けるように立ち上がり、同期戦士は彼の下へと駆け寄った。

 

その間にも、灰の剣士とダークゴブリンの競り合いは続き、ぶつかり合う呪文の余波は地震と化す。

この戦域は震源地として国中へ拡がった。

 

『――何事だ!?この揺れはっ…!?』

『――まさか、またロスリックから怪物が出たんじゃっ…!?』

『――全員、警戒を怠るなぁッ!』

 

 ロスリック拠点街で――。

 

『た、大変じゃあっ…!』

『寺院へ避難するべよ…!』

『交易神よ…、子供たちを御守りください…』

 

「…誰かが…戦ってる……」

 

 辺境の開拓村で――。

 

『――この地震は一体ッ…!?』

『――砂漠の軍勢の仕業か…!?』

『――よく見ろ、向こうも混乱してるぞ!』

『――好機だ!陣形を再編せよッ!』

 

 東方国境の戦場で――。

 

『この地震は、魔法によるものか!』

『各位は、防衛に専念しろ!』

『魔神軍が、動いたのやも知れぬ…!』

 

 北方の都で――。

 

『避難民の誘導を――!』

『皆さん!落ち着いて行動して下さい…!』

『魔神王の仕業じゃないのか…!?』

『国王陛下!お怪我はッ!?』

『王妹殿下を安全な場所へ――!』

 

「…刻が動いたな…!」

 

 王都で――。

 

『――おい皆ぁ、伏せろぉ!』

『――何だ何だぁ!?この揺れはァッ!?』

『――地震っ!?』

 

 西方辺境の街、冒険者ギルドで――。

 

『『『『グモォォ~ッ…!』』』』

「みんな大丈夫、大丈夫だから、落ち着いて…!」

「う~む…、穏やかではないなっ…!」

 

 牧場で―。

 

『地母神様…!』

『いと小さき我等に御加護を…!』

『大地よ…怒りをお鎮め下さい…!』

 

「……お兄さん……」

 

 地母神神殿で――。

 

「遂に使ったな…!アイツ等…!」

 

 街外れの小川で――。

 

今や国中全域に地震の影響が及び、大小の差こそあれ、住民は混乱の渦中に呑まれていた。

 

……

 

「――さらばだッ…!」

 

 ダークゴブリンの魔力が勝った。

彼の呪文は、灰の剣士ごと人族を覆い尽くさんとしていた。

灰の剣士を含め、多数の冒険者は必死に魔力を送り込んでいたが、その努力も徒労に終わろうとしている。

そう時間を置く事なく、彼等は生涯を終えるだろう。

 

『ちっくしょう…此処まで来たのに…』

『何にも変わんねぇのか…』

『悔しい…悔しいよぉ…』

 

 なけなしの魔力も枯渇寸前だ。

もはや限界に達した冒険者たちは、己の運命を受け入れつつあった。

これだけ抵抗した処で結果は変わる事がない。

諦観し一人また一人と力尽き、手を降ろす者が続出し始めている。

その度に、ダークゴブリン呪文が此方に迫り、死が一歩ずつ歩み来る。 

 

   ―― 想像力は武器だ ――

 

   ―― それが無い奴から死ぬ ――

 

誰の言葉であっただろうか?

絶望と諦めが広がる中、思考を張り巡らす者が一人――。

 

「何か手はないか?俺も…灰も…()()()()()()…!」

 

 ゴブリンスレイヤーだ。

尽きようとする魔力を送り込みながらも、彼は必死に思考を張り巡らせていた。

彼は戦士職で、当然魔力に長けている訳ではない。

さりとて、特別戦闘力に優れてもいない。

しかして、彼最大の持ち味――。

それは思考を止めないという事。

常に考え頭を回し、何が必然で何が不要か――。

老いた圃人の師より、徹底的に叩き込まれた唯一の戦術――。

それが最大の長所で、彼たる所以。

そのお陰で今を生き抜いているといっても過言ではない。

しかし、戦局を左右する道具など持ち合わせてはいなかった。

有る物といえば精々、催涙弾や煙玉といった類の小道具だ。

とてもではないが、地形崩壊を引き起こす程の戦いに介入できるレベルではない。

荒れ狂う魔力の激流に晒されたのだろうか。

ボトリと雑嚢(ポーチ)の落ちる音が、彼の耳に届く。

半ば反射的に、彼は地面へと視線を向けた。

落ちたのは、預かっていた灰の剣士の、雑嚢だった。

 

「……」

 

 彼の雑嚢から覗く、淡く輝く2種類のエスト瓶。

 

――エストの灰瓶…確か魔力を回復させる道具。

 

彼は思考する。

エストの灰瓶で、誰かの魔力を回復できないものか?

最も実力を備えた金等級冒険者――剣の乙女。

これを彼女に飲ませ、もう一度、回復した魔力を灰の剣士へと送り込む。

どうだろう?

効果の程は定かではない。

しかし前例が無い。

それに今更一人回復した処で、圧倒的なダークゴブリンの呪文を覆せるかも疑わしい限りだ。

 

――他に何かないか?…アイツは、あまり道具を使いたがらん。

 

(灰の剣士)の雑嚢を更に探る。

見付かったのは未使用の””雷壺”だった。

 

――これを投げ付け、(ダークゴブリン)を妨害するか。

 

いっその事、ダークゴブリンの行動を阻害し魔力そのものを断つ方が効率的かも知れない。

しかし彼は、その考えを直ぐに振り解く。

 

――いや駄目だ。その程度が通用するなら、此処まで追い詰められたりはせん。

 

金鉱山の時でさえ、ライトニングのスクロールを直に受けて尚、余力を残していたのだ。

あれからかなりの月日が流れた上に、強化方陣なる術法で身体能力も強化されている。

幾多の冒険者が抵抗する中、ソラールが”雷の槍”を投射する姿を目撃した。

傍目に見ても、かなりの威力が備わっている様に思える。

彼が放った雷の槍は、間違い無くダークゴブリンへと直撃した。

しかし僅かに痛痒を与えたに過ぎず、敵は微塵も動じてはいなかった。

雷の槍やスクロールに比べ、遥かに威力の劣る雷壺。

たとえそれを、ぶつけた処で大した妨害にもならないだろう。

 

「クソ…!諦めるな…、何かある筈だ…何か…!」

 

 打開策を見出しては消え、見出しては消え…それを繰り返す。

しかし一向に効果的な方法が思い付かず、ゴブリンスレイヤーは次第に苛立ちを募らせた。

そもそも戦いの次元が違い過ぎるのだ。

名目上、公には只の小鬼退治――。

そう、敵は混沌最底辺の異形――ゴブリンなのだ。

だが目の前で繰り広げられている術のぶつけ合い――。

地形崩壊を引き起こし、その影響が国中へと広がりつつある惨状。

ナニカの冗談か?

業を煮やしたのだろう。

とうとう彼は、灰の剣士の雑嚢を逆さに返し中身をぶちまけた。

 

「――…これはッ!?」

 

 彼の眼に或る物が止まる。

透かさずソレを拾い上げ、彼は全力で走った。

灰の剣士の元へと――。

 

「…奴め、今更何をしようというのだ!?」

 

 もはや結果は揺るぎないものとなった。

どの様な思惑があるにせよ、ゴブリンスレイヤーがどう動いた処で運命は変わるまい。

ダークゴブリンの呪文は、彼等を呑み込み消し飛ばす寸前だ。

しかしゴブリンスレイヤーは、灰の剣士の隣へと位置する。

 

「……それは、私の…」

 

 呪文に抵抗しながらも、灰の剣士は彼に視線を向けた。

彼の手には見覚えのある道具が握られている。

 

「灰よ…使わせて貰うぞ…!」

 

 一言声を掛け、彼は手にした物を解く。

 

「――ソウルの奔流…ッ!!」

 

 

 

(推奨BGM  ゴブリンスレイヤー ―― メインテーマ )

 

 

 

 その瞬間、彼の手から眩いばかりのソウルが一気に噴出した。

青白く彩られたソウルは荒れ狂わん激流の如き勢いで、分解(ディスインテグレータ)に激突。

彼が手にしていた物――。

それは、ソウルの奔流を封じた魔法のスクロールだった。

元々は灰の剣士が、オーベックから授かった代物だ。

一応、説明は耳に入れてある。

 

”お前のは、強力な攻撃用の魔法だ。ソウルの奔流、知っているな!?”

 

スクロールを手渡された時、オーベックの言葉を思い出す。

ゴブリンスレイヤーには、巨人化のスクロール。

灰の剣士には、ソウルの奔流のスクロールを手渡されていたのであった。

預かった雑嚢から見付かったのは、ソウルの奔流を封じたスクロールだった訳だ。

ゴブリンスレイヤーにとって、ソウルの魔術は全くの未知なる領域だ。

しかしスクロールである以上、封さえ解けば発動が叶う。

オーベックの言葉を思い出した彼は、こうして使用に踏み切ったのである。

スクロールから解放された、ソウルの奔流。

その威力は尋常ならざる威力で、かの時代より換算しても最大級に近い水準だ。

灰の剣士とゴブリンスレイヤー。

()()()()()()()()()()が、分解(ディスインテグレータ)を押し返した。

先程とは比較にならない規模で、瞬時にダークゴブリンへと差し迫る。

ここで流れが瞬時に逆転し、ソウルの奔流は分解(ディスインテグレータ)を呑み込んだ。

 

「な…なんなの?灰君もゴブスレ君も…!」

「状況が、また変わった…!」

 

 自身だけでなく、呪文の余波は地面の岩塊をも宙に持ち上げている。

更には暴風が荒れ狂い、ライザとオーレルは顔面を庇いながらも二人を注視していた。

そしてダークゴブリン――。

約束された筈の勝利――。

それは一瞬で瓦解し、今度は彼が追い詰められる側となる。

 

「――G、GRU!!」

(お…おのれっ!!)

 

最大最強の攻撃は、逆に吞み込まれ掻き消された。

真言呪文は消失し、彼は両手にダークハンドを展開させ、辛うじてソウルの奔流を食い止める。

ソウルの魔術の中でも最高位に位置する、ソウルの奔流――。

それが突如、二人分圧し掛かったのだ。

踏み占める脚は地面にめり込み、ダークハンド越しの掌はボロボロに裂け始めていた。

 

「…G…GOOVO!」

(ぐ…く…こ…この程度で、この俺がやられる…か…!)

 

この辺りは異端の小鬼と言えよう。

ギリギリの所で踏み止まり、ソウルの奔流に抗い耐え忍んでいる。

 

――だが…受け止めるだけが防御ではない。このまま角度をズラし射線を傾ければ凌ぐ事は叶う…。

 

真正面から受け止め続けては、流石のダークゴブリンも消滅は免れない。

しかしダークハンドの角度を傾け、弾道の方向を逸らしてやれば、ソウルの奔流は見当違いの方へと向かうだろう。

此方の消耗も激しいが、それは向こうも同じ。

灰の剣士とゴブリンスレイヤーは、もう余力が残っていない筈だ。

だがダークゴブリン自身は、後1~2回呪文を撃つ事が出来る。

この攻撃さえ凌げば、経戦能力は此方に分があった。

 

――残念だったな…!宿敵共…!

 

ダークゴブリンは力を込め、ダークハンドの角度をズラそうとした――その時!

 

「――GOB!?」

 

 不意に、爆発が彼を襲う。

それは衝撃と熱波を伴い、ダークゴブリンの意識は爆発の方角へと向いてしまった。

 

 

 

(推奨BGM  ゴブリンスレイヤー ―― 戦いの衝動 )

 

 

 

「――GOV!?」

 

 彼の視界に映ったソレは――。

 

「「「ハァ、ハァ、ハァ…!」」」

 

 同期戦士を含めた三人の冒険者であった。

同期戦士が中心となり、少女野伏、銀等級戦士が彼を支えながら撃ち放った抱え大筒(ハンドカノン)の一撃――。

それはバンダナゴブリン部隊が残していった代物だ。

一発限りの砲弾だったが、彼等の砲撃が見事ダークゴブリンに直撃した。

ダークゴブリン自身大した痛痒を負う事はないものの、一瞬とはいえ集中力が途切れ意識は彼等に向く。

それがどういう結果に繋がるのか。

 

「――G、GOV…!?」

(し、しまったッ…!?)

 

一瞬でも乱れた集中力では、ダークハンドの強度を一気に弱体化させてしまう。

紙一重で抗していたソウルの奔流は、ダークゴブリンをアッという間に包み込んだ。

 

「G…G…GO…」

 

 一瞬の出来事の筈だが、彼の中では、極ゆっくりと時間が経過しているように錯覚してしまう。

少しずつ…少しずつ…徐々に…肉体が崩壊していくのが彼にも認識できた。

彼の視界は、眩いばかりの青白い一色で塗り潰されている。

その色はやがて、ある景色に移り変わった。

 

……

 

”追撃隊の再編、本当に宜しいので…?”

”あの幼き夢魔…のちの禍根となるのでは?”

 

『捨て置け。そんな事より俺達は今日中に、3つの部族を制圧しなければならんのだ!…魔神共も、まだまだ…――あまいッ!』

 

 覚えのある景色…いや…過去の記憶だ。

あの時の記憶だ。

女系の魔神軍、その一部隊が来訪した時の記憶――。 

策略を練り、罠に嵌め、格上である夢魔の部隊を制圧する事に成功――。

そんな折、当時魔神将であり現伴侶である『上夢魔』が逃がした、一人の幼き夢魔の少女――。

部下が懸念を示し追撃と捜索の案を提案したが、ダークゴブリンはこれを一蹴。

些事と切り捨て、近隣の制圧を優先した。

その時の記憶が今、彼の脳裏を過っていたのである。

 

……

 

――あ…あの時、どんな犠牲を払ってでも追撃しておけば…。魔神だけではなかった…甘かったのわぁぁaaooooaa…………。

 

後悔…?

今更…?

もう遅い…。

手遅れだ…。

もう良い…。

俺は使命を果たした。

これでいい…。

これで…。

 

痛みすら感じなかった。

薄れゆく意識と記憶の濁流――。

自身を削り取るソウルと魔力の激流――。

崩壊する身体を流れに任せ、ダークゴブリンは目を閉じ。

意識を手放した。

 

灰の剣士とゴブリンスレイヤーの放った”ソウルの奔流”は、ダークゴブリンを呑み込み遥か彼方の山脈へと吹き飛ばした。

山脈に着弾したのだろう。

途轍もない大爆発を引き起こし、それが止んだ頃には山々が消え去っていた。

雄大な山脈だった筈だ。

立ち並ぶ幾つかの山が完全に崩壊し、遥か彼方に霞む地平線が見える。

冒険者たちは暫くの間、声を発する事もせず呆然と佇む事しか出来なかった。

しかし時間が経つにつれ、少しずつ我に返る者達が続出し状況把握に努める。

 

……

 

 

 

(推奨BGM  ゴブリンスレイヤー ―― 時の傷跡 )

 

 

 

「ゼェ…ハァ…ぅ…」

「フッ…ズハァ…ハ…」

 

 二人の冒険者、灰の剣士とゴブリンスレイヤーは肩で呼吸を繰り返す。

 

「…立てるか、ゴブリン…スレイヤー…」

「自分の心配をしろ…」

 

 声を掛ける彼に、呆れを滲ませた言葉が返って来る。

両者とも酷く呼吸を乱していたが、灰の剣士は立つ事もままならず蹲った状態だ。

対するゴブリンスレイヤーも消耗こそしていたが、彼ほど酷くはない。

 

「やったの…か…?」

 

 ソウルの奔流も止み、ゴブリンスレイヤーは結果を問う。

 

「…今から確認するか?」

 

 ガクガクと震える手で孤電の杖を仕舞い、灰の剣士も返答する。

 

「そんな事をしている内に、他のゴブリンが別の村を滅ぼす」

 

 ゴブリンスレイヤーの視界には、崩壊した山脈が映り込んでいた。

ダークゴブリンを呑み込んだソウルの奔流は、間違い無く山脈へと吹き飛んだ。

その山脈を跡形もなく破壊する程の威力を真面に受けたのだ。

恐らく遺体は消滅し、肉片すら残ってはいないだろう。

それに遺体を探そうにも、崩壊した山脈をわざわざ掘りこそうというのか?

たった二人で?

当然この時代に、重機(パワーショベル)なる便利な作業機械が存在する筈もない。

掘り起こし遺体を見つけ出す作業だけで、何年の時を費やそうというのか。

 

ゴブリンスレイヤーは小鬼を殺す。

 

灰の剣士は使命を果たす。

 

お互い成すべき役割がある。

とても時間を割いては居られない。

 

「ダークゴブリンのソウルは消えた」

「そうか」

 

 息も絶え絶えだが、灰の剣士は何とか意識を集中させソウルの感知を行った。

しかしダークゴブリンのソウルを探り当てる事は出来ない。

何時も通りの返答で応え、ゴブリンスレイヤーは灰の剣士に肩を貸す。

 

「ならば死んだと見なす」

「…ああ」

 

 激しい呪文の競り合い――。

今は嘘の様に静寂が舞い戻っていた。

二人は、ダークゴブリン討伐を成し遂げたと判断する。

 

……

 

『や…やった…の…か…?』

『みたい…ね…』

『山が丸々吹き飛んじまった…』

『何か夢でも見てるみたいだ…』

 

 冒険者たちも呆気に取られていた。

生きるか死ぬかの瀬戸際であった、呪文のぶつかり合いは完全に終わりを告げている。

地震と轟音の渦巻く戦場は、すっかり様変わりしていた。

地形は変容し、崩壊し、地面は掘り起こしたかのように捲れ上がっていた。

戦いが始まる前は幾許かの植物が自生していたが、今では全く確認できない。

宙には燃え尽き細やかな灰が、今も舞い散っている。

恐らくそれ等が、草木の成れの果てであろう。

だが今は静寂が戻り、時折り穏やかな風が、そよぐだけだ。

 

「ね…ねぇ…どうなった…の?」

「終わった…みたい…よ…多分…?」

 

 未だ状況把握が追い付いていないのだろう。

困惑するライザとルルア。

終わったであろうと大方の目星は付く。

しかし彼女らでは確証が持てないのも事実だ。

 

「事は成った…。貴奴のソウルも感じられぬでな」

 

 混乱する二人にジークバルドが応える。

 

「うむ、あの小鬼特有のソウルが全く感じられん」

「完全に消失…いえ、消滅したようですわ」

 

 そこにソラールと剣の乙女も加わる。

彼等もダークゴブリンのソウルを探っていたが、全く感知する事が出来なかった。

魔神王級のソウルを誇っていたのだ。

それが今や、まるで察知できない。

更に山脈を吹き飛ばす程の呪文に晒されていた。

あれ程の強大な術は前代未聞だ。

真面に食らえば、他の魔神王でさえ崩壊は免れ得ないだろう。

それで尚、存命を信じる方に無理があろうというものだ。

 

「では…この戦は――?」

 

 神官戦士長に対し、僅かに微笑みを返す剣の乙女。

 

「お願いします戦士長。勝利宣言――鬨の声を」

「――ははぁ…!」

 

 剣の乙女に恭しく頭を垂れる戦士長。

彼は勢い良く立ち上がり、目一杯声を張り上げ叫んだ。

 

ダークゴブリンは討たれ、戦は冒険者側の勝利である事を。

 

『――勝鬨を上げよぉ!我らッ、戦に勝利セリぃッ!!!』

 

『『『『『『――ゥウウウオオオォォッ……!!!』』』』』』

 

 彼の言葉に呼応し、喝采を上げる冒険者たち。

彼等は存分に感情を振りまき、勝利に酔いしれた。

 

『――ぃやったぁッ…!』

『――勝ったぞぉっ…!』

『――アタシは生きてるぞぉッ!』

『――みんなぁ…見てる…?』

 

 喜びに打ち震える者。

犠牲者の死を悼む者。

感動のあまり涙を静かに流す者。

祈りを捧げる者。

 

皆が皆、勝利を分かち合う。

 

「あ…そ、そうだ!あの二人はッ…!?」

 

 皆が歓喜の声を上げる間、ロロナはふと例の二人を思い出す。

 

「ロロナ先生…、彼等はあそこに…!」

 

 灰の剣士とゴブリンスレイヤー。

遥か前方に佇む二人を見付け、トトリが指を指す。

 

……

 

「歩けるか、灰よ?」

 

「…すまん、動けん…」

 

 今は残り火も消え去った様だ。

灰の剣士は完全な脱力状態に陥り、歩く事もままならない。

そんな彼に肩を貸すゴブリンスレイヤーに、辛うじて支えられている状態だ。

此方から皆の方へ移動するのも一苦労。

向こうからの救援を待つしかない。

 

『おぅ~い、灰く~ん、ゴブスレく~ん…!』

 

 遠くからライザの声が聞こえて来る。

 

『そこ動くなよ…!今助けてやるからなぁ…!』

 

 重戦士も此方に駆け寄って来た。

彼等に釣られ、大勢の冒険者が二人に殺到する。

 

――彼等が小鬼(ゴブリン)だと思うとゾッとせんな…。

 

雪崩くる彼等を、つい小鬼に見立ててしまった灰の剣士。

どうやら充分、彼も小鬼に毒されてしまったらしい。

そんな不謹慎な思いが頭を過りながらも、駆け寄って来る大勢の冒険者たちを迎え入れた。

 

……

 

さて、まだ戦は終わってはいない。

僅か50前後だが、未だに小鬼が戦場に佇んでいるのだ。

確かにダークゴブリンは討たれた。

しかし配下の小鬼達が残っている。

残った小鬼たちは一ヶ所に集まり、武器を構えていた。

 

「……」

『……』

 

 両陣営、緊張を解く事なく出方を窺っていた。

 

「――!!」

 

 突如、翼竜に跨っていた長弓小鬼が雄叫びを上げ、地上へと降下した。

当然冒険者側は、警戒感を露にする。

この小鬼も、屈指の実力を誇り決して侮れない存在だ。

翼竜に跨ったまま地上に降りた長弓小鬼。

彼は懐から一つのスクロールを取り出した。

 

「――あの弓の小鬼まで、スクロールを所持していたの!?」

「魔法封じてあるんでしょ!?何が来るか…!」

 

 ここにまで来て、またもやスクロールが出現した。

スイーパーやメルルは身を強張らせた。

程無くしてスクロールの封が解かれる。

 

「「「「「――ッ!?」」」」」

 

 無論、冒険者たちは身構え呪文の襲来に備えた。

巨人化、分解、火球、そしてソウルの奔流。

規格外の呪文を、嫌という程お目に掛って来たのだ。

その恐怖は、半ば自然に染み付いていようというもの。

封を解かれたスクロールが発光し、小鬼側の周囲に魔法陣が浮かび上がった。

一体何が来るのか――。

しかし肩透かしを食らった冒険者陣営。

魔法陣が発光したかと思えば、周囲の小鬼は忽ち姿を消してしまったのである。

 

「……転移のスクロール…か」

 

 過去に使用した経験がある。

ゴブリンスレイヤーは、それが転移の術である事に気付く。

長弓小鬼が使用したスクロール。

それは緊急脱出用の()()()()()

転移のスクロールだった。

 

「な、何だよ、脅かしやがって…!」

 

 拍子抜けしたと言わんばかりに、鉱人の女斥候は軽口を叩く。

だが、実際は恐怖を感じていた。

 

 

 

△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 もう小鬼は居ない。

少なくとも、この戦場には――。

一先ずの戦いは幕を降ろしたのである。

だが作戦が完全に終わった訳ではない。

まだ小鬼の住処を調査するという役割が残っていた。

先ずは、皆の視界にも映っている『砦』を調べ上げる必要があった。

拠点を残しておけば、後々小鬼の再起を促す結果になりかねない。

 

彼等の戦いは続くのだ。

 

多くの犠牲を払いながらも――。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

魔力増強の秘薬

 

使用者の魔力を一時的に増幅させる薬液。

増幅した魔力による恩恵は、呪文や奇跡の行使に顕れるだろう。

 

秘薬の類も錬金術にて生み出されるが、術者の力量で効果に差異が見られる。

素材は多岐に渡るが、主に植物や生物の一部が用いられる事が多い。

 

錬金術士の全てが、清廉潔白とは限らない。

彼等にも目的があり、術もその手段の一つに過ぎないのだから。

 

品質にもよるが値段は金貨 10枚~50枚。

 

 

 

 

 

 




 漸くここまで来ました。長かったなぁ…。
と言っても物語りが終わった訳ではないんですけどね。

処で、残り火と人間性の関係を調べようと考察サイトを漁ってみたのですが、とにかく考察パターンが多過ぎて逆に纏まりが付かなくなってしまった。 ( ̄ω ̄;)
いやぁ、人の数だけ考察が存在するという訳なんでしょうけど。
あまり詳しい経緯が語られないのがダークソウルの特色でもあり、考察する楽しみが存在するという事でもありますし。
最終的には、自分で折り合いを付けるのが一番なのかも知れませんね。

エルデンリングが発売されれば、新たな考察要素が増えるんだろうな。
早くプレイしてみたいです。

如何だったでしょうか?
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
デハマタ。( ゚∀゚)/
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