ゴブリンスレイヤー ―灰の剣士―   作:カズヨシ0509

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 ドーモです。
久々に更新致します。
かなり期間を開けてしまい本当に申し訳ありませんでした!
拙い内容ですが、読んでいって下さいな。

では投稿致しますドゾ。( ゚ ω ゚ )


第90話―解呪の儀式と不死の女―

 

 

 

 

 

 

手帳(銀等級戦士)

 

在野最上位である、銀等級戦士の手記。

主に、鋼鉄等級までの活動記録が記されている。

その内容は、見事なまでに小鬼に関連する事柄ばかりだ。

 

嘗ては彼も復讐者であった。

故郷と家族を失い、恨みと殺意を満たす為だけに冒険者と成った。

現に”今の彼”と同じように――。

しかし”それで良いのか”本当に――。

彼の生存と成就を願い、同時に平穏を望む。

 

そんな矛盾した想いを抱き、彼は冒険者の道を去った。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

   ―― 水の都・法の神殿 ――

 

 

 

 戦は終わった。

砦及び廃村の調査にも一区切りが付いた。

剣の乙女を始めとした冒険者一団は、今こうして帰還が叶ったのである。

しかし払った犠牲は決して少なくない。

300名以上居た冒険者の内、死者87名、重傷者96名、行方不明者27名、軽傷および無傷なのは僅か90名――。

実に7割以上の損害を被り、辛くも勝利を収めた次第である。

魔神将…否、”魔神王”級の小鬼――ダークゴブリン。

声高らかに叫んだとて、真剣に耳を傾ける者が存在するのだろうか。

どれだけ脅威を訴えた処で、公にはゴブリン退治――。

世間に、その認識が変わる事はなかった。

ダークゴブリン討伐に当たり、剣の乙女は人員と資金を費やし相当骨を折った。

数々の物資を揃えてきたが、実際王都の軍部や有力者たちからの視線は懐疑的であった。

混沌最弱の小鬼退治に、そこまで費やす必然性が有るのかどうか?

それでも四苦八苦の末ここまで漕ぎ付けたのは、偏に彼女の名声と功績有っての事だ。

もしこれが彼女以外の人物なら、どの様な結末を辿っていたのか――。

 

戦没者の葬儀を終え、大半の参加者は報酬(追加報酬込み)を受け取り帰路へと着いた。

成功と生存を喜び祝宴を上げる者は極僅かで、殆どの生き残りは親しい隣人を亡くした事で暗い影を背負ったまま水の都を去った。

ゴブリン退治に200名以上もの犠牲と損害――。

当然この報は、王都にも通達されている。

近い内に何らかの反応が返って来るだろう。

せめてもの救いは、ダークゴブリン軍の脅威を体感した者が、数多く生き残った事か。

書面、絵、吟遊詩人を兼任している冒険者、そして水晶に収めた記録映像が証拠として此方側には有る。

そして経緯はどうであれ、勝利を収めた事実は大きな政治的意味合いを持つのだが、それは冒険者側の領域ではない。

そう云った駆け引きは、管理・運営側の役割なのだ。

 

帰還と葬儀の日から翌日――。

ある程度の事後処理が済み、神殿に残っている冒険者は負傷者を含めた人員だけだ。

 

(推奨BGM ゴブリンスレイヤー ―― 仲間との食事〜甘露!! )

 

 手入れの行き届いた芝生が生い茂る、神殿の庭園。

其処に集まっていたのは数人の冒険者たち――。

 

「…そうですか…。残念です、先輩…」

 

「そういう顔をするな。生き残った俺は、幸運中の幸運だ」

 

 屯しているのは同期戦士の一党と銀等級戦士の一党。

そして銀等級戦士は”引退”を表明していた。

戦の折、彼は瀕死の重傷を負いながらも奇跡的に一命を取り留め、結果的に生き残った。

しかし代償に彼は、後遺症を背負う羽目になる。

著しい身体能力の低下と活力を喪失し、冒険者生活は絶たれたに等しいのだ。

もう以前のような活動は、実質不可能も同然。

せっかく命を拾った身だ。

下手な意地など張らず、潔く身を引く選択肢を彼は取ったのである。

去り行く偉大な先達――。

同期戦士の表情は些か曇り気味だ。

 

「でっかい戦…いや冒険だったなぁ」

 

 銀等級戦士は遠い眼で空を見上げ、これまでの過去に想いを馳せる。

小鬼に村を滅ぼされ、復讐一筋から始まった冒険者生活――。

それから数年に渡り活動を続け、在野最上位の銀等級にまで上り詰めた。

途中ロンドールなる黒い騎士(闇の王)に仲間を殺され、最後にダークゴブリン戦に参加――。

英雄や勇者に称えられる程ではなかったが、彼は間違い無く腕利きの冒険者だ。

小鬼に始まり小鬼で最後を飾る――。

何とも奇妙な経歴だが、彼の活躍は必ず記録に残るだろう。

 

「頭目、これからどうされるので?」

 

 彼の一党に所属する騎士――アストラのソラール。

引退後どうするのかを訊ねた。

 

「そろそろ身を固めようかと思っている」

 

「――おお、それは慶事(けいじ)。めでたきかな!」

 

 身を固める予定と語る銀等級戦士に、ソラールも深く頷き祝いの意を示す。

 

「結婚されるんですね。じゃあ…この()と…?」

 

 ソラールの隣に居た赤毛の斥候は、同じ一党に所属する戦女神の女司祭に向く。

 

「――プッ…ククク……」

「ハハハ…いや違う違う。俺には、()()()()が居てな――」

 

 女司祭は思わず口に手を当て吹き出す。

銀等級戦士には、別の婚約者が要るとの事だ。

確かに女司祭とは数年の付き合いがあり、それなりに気心の知れた仲だが、男女の関係ではなかった。

彼には駆け出しの頃、良く世話をしてくれたギルドの女職員が居る。

当時の彼は小鬼の復習に固執していた故、ギルドからも忌避されていたが、その女職員だけは彼を見捨てなかった。

何度も交流を深める内に、互いに親密な間柄となり婚約に至った訳である。

ここ最近、いつ籍を入れるかで少々仲が拗れていたが、こうして生き残り今に至る。

これも一つの転機に違いない。

そう判断し、銀等級戦士は引退を決心したのであった。

 

「そうだったんですね。おめでとう御座います、先輩!」

「おう!ありがとな!――さて、後は引継ぎだな。これからはアンタが頭目だ。うちのメンバーを頼んだぜ、太陽の騎士!」

 

「任されよ!このアストラのソラール、見事頭目の務めを果たしてみせようぞ!」

 

 同期戦士から祝福の言葉を受け、ソラールに後事を託す銀等級戦士。

統率力、戦闘力、人格、それ等を高い水準で満たしたアストラの騎士だ。

何の憂いも無く安心して彼に託す事が出来た。

 

「あのぉ…本当に良かったんですか?()()()()頂いちゃって…」

 

「ああ勿論だ。もう俺には必要ないからな。有効活用してくれれば、俺も嬉しいってもんだ!」

 

 彼は引退を表明する際、不要となった数々の道具を後進に託していた。

同期戦士の一党にも多くの道具が渡り、申し訳なさ気な少女野伏に彼も快く応える。

 

「――おっと、忘れる処だった。これを()()()にも渡しておいてくれないか?まぁ、大したモンでもないけどよ」

 

 何かを思い出したように銀等級戦士は、手帳を同期戦士へと渡す。

 

「俺みたいになるなって伝えておいてくれ」

「任しといて下さい先輩!」

 

 その手帳には、鋼鉄等級までの活動記録が記されていた。

丁度彼が、小鬼退治に固執していた時代の記録だ。

渡す相手は当然、言わずもがな――。

 

(ゴブリンスレイヤー)だ。

 

引継ぎを終え、彼はいよいよ去る事になった。

 

「先輩、お世話になりましたぁ!」

「どうかお幸せに!」

「また何処かで会いましょうや!」

 

 去り行く彼を見送る仲間達――。

 

「貴公に太陽の導きがあらんことを――!」

「――こうか!?」

 

 そんな彼にソラールが()()()()で見送り、なんと彼も同じ()()()()で応えたではないか。

 

「――ウワハハハっ!様になっているぞ。頭目も太陽の信徒になっては如何かな!?」

「俺は信仰心が低くてな。だが、悪くはないな!」

 

 ソラールと寸分違わない見事な太陽賛美――。

思わず上機嫌に笑い飛ばすソラールと銀等級戦士――。

空に舞う彼等の笑い声を背に浴び、銀等級戦士は神殿を去った。

終わりが到来し、同じく始まりが開幕する。

彼に新たな道が開いたのだ。

 

……

 

(推奨BGM ゴブリンスレイヤー ―― 心の渇きを ) 

 

 荘厳な法の神殿。

その一室にて一人の青年が目を覚ます。

 

「……」

 

 ここは何処で、自分は何をしていたのだろう?

何処かの室内である事は間違いない。

そして今まで寝ていた事も理解出来る。

ゆっくりと寝台から身を起こし、青年は辺りを見回した。

そして直ぐに()の姿を捕らえる事が出来た。

 

『気分はどうか、〇〇〇?』

 

「その名で呼ぶな、まだ終わっていないのだろう?」

 

『…そうだったな、ゴブリンスレイヤー。ここは法の神殿だ』

 

 彼の言葉から、ここが法の神殿である事が認識できた。

西方辺境街ではなく、自分たちは未だ水の都に居るという事だ。

つまり依頼は完全に終わってはいないと察する事が出来る。

いきなり本名で呼ばれたゴブリンスレイヤーは、彼に抗議の意を示す。

彼――灰の剣士は、事の経緯を説明してくれた。

 

ダークゴブリンの本拠点を調査し、一つの建物から”不死の女”を確保した。

そこまではゴブリンスレイヤーも記憶している。

しかし、その後すぐにゴブリンスレイヤーは意識を失い倒れ伏した。

全く予期せぬ出来事だが灰の剣士は彼を、ライザが女を抱え剣の乙女一行と合流。

ゴブリンスレイヤーの気絶と不死の女に、周囲はちょっとした騒ぎとなった。

 

……

 

その後は一旦砦へと引き返し、残留組と合流――全員揃って帰還を果たしたのである。

ゴブリンスレイヤーが気絶した原因。

それは、臓活剤(エリクサー)の副作用によるものだった。

膝部を負傷したゴブリンスレイヤーに与えたのは、急ごしらえの臓活剤(エリクサー)

それを造り出したのは他国(アーランド)の錬金術師でもある、ロロライナ=フリクセル(通称ロロナ)。

無理にでも出撃しようとする彼を見かね、彼女は止む無く()()を与える事にした。

本来なら多大な手間と時間を掛け、初めて完成に至る高級薬だ。

しかし時間と資源の節約の為の試作品。

高い治癒効果と引き換えに、強烈な副作用をも併せ持つ。

それ故の昏倒である。

 

「どのくらい寝ていた?」

『まる二日』

 

「…そうか」

 

 帰還してまる二日、ゴブリンスレイヤーは意識を失っていた様だ。

特に目立った外傷は無いものの、若干の披露は残留している。

 

「……」

『……』

 

「アイツ…錬金の女(ライザ)はどうした?」

『街へ出かけている』

「…そうか」

 

 彼の指す錬金の女――ライザリン=シュタウトについて尋ねたところ、彼女は出かけていると事。

ライザは錬金団と行動を共にしている様だ。

 

「……」

『……』

 

 両者の会話は途切れがちだ。

元々口数の少ない二人だが、いつもにも増して無言の応酬が続く。

ゴブリンスレイヤーには分かっていた。

彼――灰の剣士が此処へ訪れた理由。

ただ単に見舞いに来ただけではない事を――。

 

「覚えているか?ロスリックでの出来事を――」

「……」

 

 しかし何時までもこうしていては、時間ばかりを浪費してしまうだけだ。

灰の剣士は本題を切り出す。

ロスリックの小鬼禍(ゴブリンハザード)での出来事を彼は語った。

多くの冒険者たちと徒党を組み、彼等はロスリックへと進軍した。

其処には珍しくゴブリンスレイヤーも参加していた。

進軍を重ね、彼等は不死街へと辿り着いた。

其処では驚愕の変化に見舞われていたのである。

 

何と、ゴブリンスレイヤーの故郷が流れ着いていたのだ。

 

在る筈の無い街道が不死街に現れ、ゴブリンスレイヤーは急に走り出す。

彼の故郷は数年前に、小鬼の襲撃で滅ぼされていた。

流れ着いた故郷は、その当時の姿を保っており犠牲者の遺体が散乱していた。

その中には彼の幼馴染である、牛飼い娘の両親も含まれていた。

しかし彼の唯一の肉親、”姉”の姿はなかった。

彼は僅かな望みを賭け駆け付けていたのである。

彼の家は小鬼に荒らされ、原形を留めていなかった。

少し遅れ灰の剣士も追い付いたのだが、其処で奇妙な不信感に見舞われる。

彼の姉が犠牲となったと思わしき場所には、不自然な塵灰が降り積もっていたからだ。

その塵灰は、不死人が遺体となった際の残留物だ。

それは先ず間違いはない。

何せ彼自身、不死人の死を目にし、同時に自らも多くの死を繰り返してきた。

 

「君は言っていたな…あの時――」

 

 不死の女を見たあの時ゴブリンスレイヤーは、こう口にしていた。

 

   ―― 姉さん ――

 

その言葉を発した直後、糸の切れた人形のように彼は倒れ伏したのだ。

 

「……」

 

 灰の剣士が言いたい事は分かっている。

態々聞き返すまでもない。

無言で耳を傾けていたゴブリンスレイヤー。

 

「…姉さんとは…限らん」

 

 他人の空似の可能性もある。

あの不死の女は、()()()()()()かも知れないのだ。

 

「俺は確かに見た…」

 

 小鬼の襲撃の夜、当時の幼い彼は確かに見た――。

自ら囮となり、蹂躙され、嬲られ、殺される姉の一部始終を――。

死に行く姉の姿――確かに()()のだ、()()()()

それが切っ掛けとなり、彼は小鬼を殺す為だけに冒険者と成ったのだ。

 

「…本当にそうだろうか?」

 

 しかし灰の剣士は懐疑的に切り返す。

 

「どういう意味だ?」

 

 疑念と僅かながらの苛立ちを含ませ、ゴブリンスレイヤーは即座に反応する。

 

「姉を喪った君は、数日後に動いたのであろう?」

「それがどうした?」

 

 何が言いたいのか分からず、ゴブリンスレイヤーの口調に怒気が滲みつつある。

しかし灰の剣士は意に介した風でもなく言葉を続けた。

 

そもそも当時の幼い彼――ゴブリンスレイヤーは、ごく普通の幼子だった筈だ。

そんな子供が数日もの間、不眠不休、飲まず食わずの極限状態で意識を保っていられるだろうか。

どんな状態であれ、必ず意識の途切れていた時間が有った筈だ。

その間に、姉の遺体が塵灰と化し消失してしまった可能性も決してゼロではない。

姉を喪った印象が強烈に記憶として刻み込まれていた故に、”一部始終見ていた”と果たして言い切れるだろうか?

 

「何が言いたい?」

「あれは君の”姉”ではないのか?」

「――黙れ…!」

 

 灰の剣士が此処へ訪れた理由――。

救出した不死の女――。

ゴブリンスレイヤーの”姉”ではないのか。

今度は隠す事なく、ゴブリンスレイヤーは静かな怒りを顕わにした。

 

「お前などに何が分かる…!?」

 

 あの悪夢のような惨劇の夜――。

灰の剣士は存在してすらいなかった。

直接関わった事もない赤の他人が、自らの領域に踏み込むなどと恥辱に等しい行為だ。

姉は死んだのだ。

あの時確かに――。

自分は見た――。

この目で――(しか)と。

 

()()()()()()()()()()()()()()

 

「……これから喋る事は全て独り言だ。聞きたくなければ、耳でも塞いでいてくれ」

 

 彼の怒りなど何処吹く風と言わんばかりに、灰の剣士は言葉を続けた。

あくまで独り言という名目で――。

 

不死街に流れ着いたゴブリンスレイヤーの故郷。

惨殺された姉の遺体は無く、代わりに奇妙な塵灰だけが残されていた。

そして放置する訳にもいかず、牛飼い娘の両親の遺体を連れ帰った。

街へ帰還した後、神殿にて葬儀のやり直しが行われる。

灰の剣士は、()()()()()()()()()()()()を連れ帰っていた。

牧場主、牛飼い娘、ゴブリンスレイヤーの前へと歩み出た彼は、両親のソウル体を解放した。

驚愕の声を上げながらも、牛飼い娘と牧場主は再会を喜び分かち合う。

その時、牛飼い娘の父親から、奇妙な情報が寄越された。

 

それは小鬼の襲撃を受ける約一週間前の出来事だった。

出かけていた姉が予定時刻を過ぎても帰らず、村人総出で姉の捜索に当たる。

幸いにも姉は直ぐに見付かったが、牛飼い娘の父親は不審な人影を目撃していた。

背に石蓋を背負った黒いローブの人物に数名の鎧を纏った騎士が、倒れていた姉を取り囲んでいたのである。

牛飼い娘の父親が駆け付けた時には、不審な人影は忽然と姿を消し、現場には気を失った姉だけが残されていた。

ゴブリンスレイヤーもロスリックを探索した際、巡礼者の遺体を目撃している。

確証が無かった為、灰の剣士は敢えて答えをはぐらかしていた。

だがロンドール一派ではないか、という疑念は拭い切れなかった。

(本編前夜編・第66話参照)

 

しかし此度の戦を得て、ある種の疑惑を深めていたのである。

恐らくだが、彼の姉を取り囲んでいたのは『ロンドール黒教会』の線が濃厚だ。

中でもローブの男とは、黒教会でも屈指の魔術師”ロンドールのヨエル”であろう。

彼はソウルの魔術の他に、不死に関する秘術をも心得ている。

何せダークリングの力を引き出し、あの『暗い穴』の呪いを施す程の実力者だ。

本来、亡者に変貌する事に強い耐性を誇る、”火の無い灰”と呼ばれる特殊な不死。

(灰の剣士が、ほぼ亡者化していたのは、ロードラン、ドラングレイグを経由し通常の不死人の特性も引き継いでいる事と死に過ぎた所為である)

 

半ば生者寄りの不死である彼等にも、問答無用で亡者の呪いが付与されるのだ。

当然、ダークリングの呪いを人為的に付与する事ぐらいは、造作もない。

あのダークゴブリン戦の最中(さなか)、突如本陣が急襲を受け、ロンドール黒教会と医療教会を名乗る組織が現れた。

その集団にはヨエルも参戦しており、あろう事か不死の小鬼を使役していた。

(本編前夜編・81話参照)

 

これは仮説だが、もしヨエルが生者にダークリングを施していたとすれば…。

実験や検証の過程で、彼女も被害に遭っていたとすれば…。

彼の”姉”が小鬼に惨殺される前に、不死人と化していたとすれば…。

 

恐らく幾多の犠牲者が生まれている筈だ。

あの救出した不死の女から浮き出た、ダークリングと暗い穴――。

生命溢れる四方世界にて、自然発生する事は原則的にあり得ない。

不死の女から漏れ出たソウルからも、アレは人為的に生み出されたものだと断定できる。

もしも、あの不死の女がゴブリンスレイヤーの”姉”だとすれば、この一連の事象にも説明がつく。

 

「……」

 

 灰の剣士は一頻り語り終える。

ゴブリンスレイヤーからの反応はない。

 

「…クックック…、クソみたいに哂える御高説は、もう終わりか…!?」

 

 薄ら笑いを浮かべ、灰の剣士を睨み付ける。

(因みに鎧兜は外され、彼は素顔を晒した状態だ)

彼の紅い双瞳には、明らかな憎悪と怒りが顕れていた。

それは普段ゴブリンに向ける殺意と何ら変わりない。

 

「…独り言だと言ったろう?律儀に聞いていたのだn――ッと!」

 

 皆まで言い切る前に、彼は顔面を庇う。

 

「――今度ほざけば殺すッ!」

 

 怒りを込め荒い呼吸を繰り返し、ゴブリンスレイヤーは水差しのカップを投げ付けていた。

しかし、灰の剣士は難無くカップを受け止め、丁寧に机へと戻す。

 

「…確かに君の言う通りだ。肝心の御本人は、人格と精神が摩耗し記憶すらも失っている。残念だが真面な会話もままならず、情報を得る事も叶わぬ。彼女…数回は死を繰り返している」

 

 どれだけ状況証拠を揃えようとも、あくまで可能性でしかない。

本来なら、あの女の口から直接聞ければ事態は明確となるのだが、本人の人格は破綻し記憶も失った状態だ。

更に言えば、見境なく男を求め性交を懇願するほどまでに壊れてしまっているのだ。

 

「安心して良い。この事は誰にも話してはいない。知っているのは我々だけで、ライザにも口外せぬよう念を押してある」

 

 あの不死の女が、ゴブリンスレイヤーの”姉”である可能性――。

その事実は周囲には伏せられ、剣の乙女でさえ真相は知らない。

そして不確定である以上、ライザにも軽々しく口外しない様に釘を刺し、彼女もそれは十分認識していた。

下手に漏れ出て混乱する事はないだろう。

 

「…そうか」

 

 その旨を聞いたゴブリンスレイヤーは、再び平静さを取り戻す。

 

「彼女の処遇については未だ審議中だ。今はゆっくりと休むと良い、私はもう行く」

 

 今後、不死の女をどうするか。

それは未だ決めかねている状態だ。

一通りの事項を伝え、灰の剣士は部屋を出ようとする。

 

『随分回復しようだな、灰よ』

 

「まだ本調子には程遠いがな」

 

 先程、怒りに駆られカップを投げ付けたが、彼には難なく受け止められてしまった。

一時期は真面に動く事も出来ぬ程に消耗し切っていたが、今の彼の様子なら何の懸念もなさそうだ。

短いやり取りを終え、灰の剣士は部屋を後にしようとする。

 

「此処に居たのね、二人共」

 

 扉に手を掛けようとした途端、ゴブリンスイーパーが部屋を訪ねてきた。

彼女も装備を外し、平服の状態だ。

 

「見舞いか?彼ならこの通りだ」

 

「それもあるけど、あの女の人の…これから解呪の儀式を行うそうよ」

 

「直ぐ行く。先に行っててくれ」

 

 先日救出した不死の女――。

彼女がゴブリンスレイヤーの姉かも知れないという事実は、スイーパー自身も知らない。

しかし不死の女を、このまま放置する訳にもいかない。

彼女の不死性が呪いによるものなら、解呪に動くのは当然の措置と言えよう。

礼拝堂にて行われるという、解呪の儀式。

もう間もなくという事もあり、スイーパーがこうして報せに来てくれたのである。

ゴブリンスレイヤーは二人を先に行かせ、自身は兜だけを被り礼拝堂へと向かった。

 

(推奨BGM ゴブリンスレイヤー ―― 女神官と慈悲深きその手に )

 

 荘厳にして白艶の大広間――。

顔を眼帯で覆い、天秤を模した剣状の錫杖を掲げた巨大な彫像――。

その神の御前にて祈りを捧げる剣の乙女。

大広間の中央には、数人の聖職者に囲まれた一人の女性。

数人の聖職者の中には、太陽神の信徒の姿。

彼等も剣の乙女に従い、至高神の彫像に祈りを捧げている。

 

『皆様、お待たせ致しました』

 

 一頻りの祈りを捧げ終え、剣の乙女は聖職者達に振り返る。

これより解呪の儀式が始まるのだ。

 

『事前に説明したと存じますが、彼女の不死性は呪いによるもの――』

 

「憂慮は無用。かの古き時代より伝わる悪しき外法である事は、我々も承知しております」

 

 数人の聖職者は、これが火の陰りし時代の呪い――即ち、ダークリングである事を周知していた。

 

――ふむ。どれだけの知識を有しているか定かではないが、どう呪いを解くのか見せて貰おうか。

 

礼拝堂の出入り口付近では、灰の剣士を含めたゴブリンスレイヤー、スイーパー、ジークバルドが見守っていた。

他にも、ステルク、女騎士も、やや離れた場所で様子を窺っている。

解呪の儀式が始まるまで、ステルクはジークバルドと語らい合い、女騎士は友人である神官戦士副長と過ごしていた。

火の陰りしかの時代、基本的にダークリングの呪いを解く方法など存在しなかった。

しかし時代は移り変わり、生命溢れるこの世界では人々の営みも文化も大きく変容している。

もし”ダークリング”や”暗い穴”の解呪法が存在するなら、是非ともお目に掛りたいものだ。

あの聖職者たちが、どれだけの実力を有しているのか現時点では推し量れるものではない。

一般の聖職者に比べ、遥かに豊かなソウルを宿してはいる。

此処で呪いが解けるなら、多く存在しているであろう不人達を救う事も可能になる。

望まぬ形で不死にされた者も必ず存在する筈だ。

灰の剣士は、些か疑念と同時に期待も抱き、彼等を注視する。

幸いにも不死の女は、静寂を保ったまま祈りを捧げている。

先日、灰の剣士に寄り掛かり淫行を迫った女とは思えない程に、落ち着き払った様子だ。

 

「始まるぞ」

 

 静かに告げるジークバルドの声と同時に解呪の儀式が執り行われた。

不死の女の周りを、複数人の聖職者が取り囲む。

剣の乙女を含めた複数人の聖職者――。

彼等は一斉に奇跡を行使し、眩いばかりの光が不死の女を包み込んだ。

 

『裁きの司…天秤の君…剣の君…光あれ』

 

 剣の乙女が奇跡”聖光”を発現させる。

そんな彼女に倣い、他の聖職者達も次々と奇跡を発現させた。

その中に太陽神の信徒のみに授かる、浄光(サン・ライト)という奇跡が存在する。

この奇跡の基本的原理は”聖光(ホーリー・ライト)”と殆ど同じである。

しかし浄光の奇跡は、聖光と同時使用した場合に真価が発揮されるのだ。

 

聖光(ホーリー・ライト)浄光(サン・ライト)――。

 

この2つを同時使用した時に限り、大抵の呪いを打ち祓い清める効果を発揮する。

無論、術者の信仰心や力量が問われるのだが、あらゆる呪いに有効とされていた。

剣の乙女を始めとした複数人の聖職者達による”聖光”の奇跡――。

そして太陽神の信徒達による”浄光”の奇跡――。

似て非なる2つの光が合わさり、不死の女を照らし出す。

衣服に覆われた2つの呪い――ダークリングと暗い穴。

聖なる清めの光は、不死の象徴へと流れ込んだ。

 

(推奨BGM ゴブリンスレイヤー ―― 鼓動 )

 

「――ゥウウッ…!ぁああッ…、アぐぇぅえああぁぁッ…!!」

 

 同時に、女は苦痛のあまり床にのた打ち回った。

 

『――な、何だッ!?突然いきなり…!』

『苦しみ出したぞ!?』

 

 固唾を見守っていたステルクと女騎士は、女の変化に動揺を見せる。

 

「――ぁああぁぁッ…、アゲぇえぇあぁぁッ…!!」

 

 尚も断末魔の絶叫を上げ続ける不死の女。

眩いばかりの聖なる光――。

神に祝福されし奇跡の御業は、女を抱きかかえ包み込む。

なんと神秘的で神々しいのだろう。

その奇跡の下で、亡者の如き絶叫を発す女。

 

「――あぁッ!ぁあっ!アアァっ…!!」

 

 苦痛に喘ぎ、目を見開き、張り裂けんばかりに口を開き、女は激しい痙攣を繰り返した。

 

『――いかん、このままでは!』

『――チッ!』

 

 余りに奇怪極まる歪な光景――。

何かを察知したジークバルドと、兜の奥で舌打ちするゴブリンスレイヤー。

無言ではあったが灰の剣士も動き出し、儀式に割って入ろうと脚を踏み出した。

 

『――儀式を中断させて下さいッ!』

 

 彼等が動き出すと同時に、剣の乙女が儀式の中断を宣言する。

 

『『『『『……!』』』』』』

 

 唐突な儀式の中断――。

踏み込もうとした灰の剣士達を含め、奇跡を行使していた聖職者達にも緊張が奔っていた。

 

………

……

 

こんな事は初めてだ。

未だ前例が無かった。

解呪の為の神聖な儀式――。

聖なる奇跡の前に苦痛に喘ぐ一人の女――。

 

『――ありえん!我等が失敗したとでもいうのかッ!』

 

 聖職者の一人が怒声で喚き散らす。

その怒鳴り声は、静寂な礼拝堂に酷く響き渡った。

 

『止さぬか、神の御前なるぞ』

 

 もう一人の聖職者が抑えにかかる。

しかし、そんな彼も心中穏やかではない。

彼等は数ある聖職者の中でも、高い力量と実績を有す高位の僧侶たちであった。

これまでも数多くの信徒を教え導き、また呪いや邪悪を打ち祓い結果を示してきた。

過去にも”ダークリング”による呪いを祓い清めた事もある。

故に、この結果は納得のいくものではなく、彼等の困惑や反応も当然と言えよう。

 

『この女性の反応…、宛ら亡者のソレに酷似しております』

 

 別の聖職者は、苦し気な女に独自の見解を述べる。

浄光と聖光の奇跡――。

どちらも不浄なアンデッドに対し、高い威力を発揮する。

当然、不死の成れの果てともいえる亡者に照射すれば、消滅に至らしめる事が出来る。

しかし蹲り苦痛に喘ぐ女――。

事情はどうあれ、亡者には至っていない。

 

『ええい!何を狼狽える必要がある。この女は既に邪悪な亡者だというだけの事。いっその事、浄化の光で消滅させるのも神の慈悲というものではないか!大司教様、もう一度儀式を再開させましょうぞ!』

 

 激情家なのだろうか?

女の苦しみも必然で、消滅させる事が救済だと言い張る、一人の聖職者。

大司教である剣の乙女に、儀式の再開を進言する。

未だ苦しみ蹲る女を邪悪存在と断定し、彼の視線は独善に満ちている。

 

「随分身勝手な妄想だな」

 

 そこに口を挟んだのは、ゴブリンスレイヤー。

 

『…何だと?一冒険者風情が、立場を弁えよッ!』

 

 彼の態度が癪に障ったのだろう。

苛立ちを隠そうともせず、彼に食って掛かる一人の聖職者。

仮にも解呪を名目とした神聖な儀式。

本来なら、平民の冒険者が立ち入る事すら許されていない。

遠間からとはいえ、静観が許されただけでも異例の措置なのだ。

感謝されこそすれ口出しされるなど、極めて無礼千万だと言わんばかりだ。

ゴブリンスレイヤーは女の前に立ちはだかり、聖職者と睨み合いの形となる。

武器こそ装備していないが、今の彼は聖職者に殴り掛かる危険性をも孕んでいた。

 

「やめろ!此処は至高神の座す神聖な場だ!」

 

 重戦士の一党である女騎士は、至高神の信徒だ。

ゴブリンスレイヤーの行動は到底容認できるものではない。

彼女は彼を諫めに掛かった。

 

「この女性に含む事でもあるのか、ゴブリンスレイヤー?」

 

 女騎士には、彼と不死の女の関係性など知る由もない。

顔見知りなら説明は付くが、ゴブリンスレイヤーが赤の他人に興味を持つ事など想像も出来なかったのだ。

 

「……いや、無関係だ」

 

 床に蹲る女を一瞥し、ゴブリンスレイヤーは頭を振る。

 

「……」

『……』

 

 暫し、周囲は静寂に包まれ誰もが口を噤んだ。

 

「突然の来訪失礼する。貴方達は、ダークリングの解呪を幾度も成し遂げたとお聞きしたが、その者たちは今も御健在で?」

 

 そこへ言葉を発したのは灰の剣士。

聖職者達へ質疑を投げ掛けた。

 

『無論です。呪いから解放された幾人もの民が、再び生者として営みを続けております。…全て…ではありませんがね』

 

 落ち着きと威厳を兼ね備えた首領らしき僧侶が、彼に対し応えた。

聖職者達の実績に嘘偽りは無く、実際ダークリングの呪いを解いてきたのは紛れもない事実であった。

全員ではないが、不死人と化した者達は呪いから解放され再び生者として日常へと戻っていたのである。

しかし、高い実績と結果を築いてきた彼等とて万能ではない。

不死の呪いにも細やかな差異が存在し、解呪虚しく消滅や絶命に至った事例(ケース)も皆無ではなかった。

 

「ふむ。やはり太陽が偉大である事は証明され、貴公等の言にも嘘偽りがない事は認めよう」

 

『貴殿は…高名な騎士と、お見受けするが?』

 

「申し遅れた。私はカタリナの騎士ジークバルド。貴公等と同じく太陽を崇めし者」

 

『『『『『ほぅ…』』』』』

 

 ゴブリンスレイヤーの介入で一色触発の険悪な空気感が漂っていたが、灰の剣士やジークバルドの介入で空気感が和らいだ。

また身分の有る騎士という事と太陽を崇める者という事もあり、ジークバルドの登場は一種の潤滑油ともなった。

 

「一つ提案があるのだが。解呪の儀式、暫くの猶予を設けさせて頂きたい」

 

『『『『『――!?』』』』』

 

 幾分和らいだ空気感を見極め利用し、ジークバルドは一つの案を提示する。

 

「カタリナの騎士殿、何か解決策をお持ちで?」

 

「先ずは、この者…灰剣士殿の言に耳を傾けて頂きたい」

 

 途中で中断したとはいえ、解呪の儀式は実質失敗したも同然。

疑念を抱く剣の乙女に、ジークバルドは話を振った。――灰の剣士へと。

 

「実は、ダークリングとは別の呪いが彼女に施されています」

 

 不死の女にはダークリングの他に”暗い穴”という別種の呪いが付与されている。

周りにも披露したいが、今の彼女は衣服を纏った状態だ。

流石に男である灰の剣士が手に掛ける訳にもいかず、女性である神官戦士副長が、女の衣服を開けさせた。

 

(推奨BGM ダークソウル3 ―― メインテーマ )

 

『――うっ、何だこれはッ…!?』

『――ダークリング…これはまだ分かる…!』

『――何という禍々しい…!』

『――まるで底無しの深海ではないかッ…!』

『――いや、何か染み出していないか…!?』

 

 三者三様、各々が似て非なる反応を示す。

若干扇情的ながらもソレが皆の目に触れた瞬間、皆が皆、顔を顰め驚愕の表情を見せた。

 

「このステルク。長年多くを経験してきたが、この様な悍ましいものは初めてだ…!」

 

「これも、ロスリック関連だというのか…!?」

 

 ステルク、女騎士も周囲と同様に血の気が失せている。

女の胸元に浮かび上がる2つの呪い――ダークリングと暗い穴。

黒い輪環の外縁部に火が燃え上がる異様な文様――。

そして底無しの深海を思わせる、真っ暗闇な孔穴――。

スッポリと抜け落ちたかの様な穴からは、黒い液体とも気体とも言い難いナニカが漏れ出ていた。

 

「……」

 

 兜に遮られ周囲は気付いていなかったが、ゴブリンスレイヤーは視線を背けていた。

灰の剣士は言葉を続ける。

儀式の失敗は、暗い穴によるものではないかと――。

 

 

 

――最初にお話しした通り、私は元は魔術師です。

ロンドールの魔術は、名高いヴィンハイムに及ぶものではありませんが、私の知る限りを、貴方にお教えしましょう。

…そして、もう1つ。

私は、貴方の本当の力を、引き出すことができるでしょう。

ロンドールの巡礼は知っています。

ダークリングを刻む者は、誰しも力を秘めているのですよ…――

 

 

 

彼の脳裏に、あの言葉が過る。

あまり思い返したくもない、忌々しい()の記憶――。

 

「大司教様!この件、どうか私めにお任せ頂けないでしょうか!?」

 

 儀式の失敗、恐らくは”暗い穴”が関係しているだろう。

浄光と聖光の奇跡――。

その恩恵は、驚嘆に値する程だ。

彼の知らない領域で、不死に抗する術が着々と進められていたのだ。

正直な処、ダークリングや不死の呪いに対する有効策など、未だ確立されていないではないかと決めつけていた。

しかし、彼の予想以上に解決策が研究されていた。

ならば彼自身も静観など出来よう筈も無い。

仮にも火の陰ったあの時代に関わってきたのだ。

尚の事、自身が率先し解決に乗り出さねばならないだろう。

 

「灰の方、解呪の目処は?」

 

「いえ、今の処はまだ…。しかし、このまま座する事など出来ません。どうか…どうか、この愚昧な私めに解呪の下知をお授けください…!」

 

 剣の乙女に頭を垂れ跪き、彼は懸命に懇願する。

灰の剣士にとって、この様な分野は最早専門外と言っていいだろう。

このまま聖職者に任せ強引にせよ事態解決を図ったとて、彼には何の咎も無い。

不死の女が見知らぬ唯の女なら、ここまでする事はなかった。

だが、件の女は彼――ゴブリンスレイヤーの実姉である可能性が浮上している。

思えばゴブリンスレイヤーが過剰なまでに小鬼の殺戮に奔るのも、姉の存在が大きな要因を占めていた。

ゴブリンスレイヤー自身、不死の女とは無関係である事を主張しているが、解呪の儀式に乱入した事と言い間違い無く意識しているのは明白だ。

あのまま消滅させてしまうのは、余りにも忍びない。

願わくば、ゴブリンスレイヤー自身にも幸福な人生を歩んで貰いたい。

傲慢だと言われようとも、灰の剣士にとっても、彼には報われて欲しかった。

 

『剣士君…』

『灰剣士殿…』

『灰の剣士…』

 

 ステルク、ジークバルド、女騎士が、頭を垂れ必死に頼み込む灰の剣士を見やる。

何故そこまで不死の女に拘るのか、その事情を当然彼等は知らない。

 

『先程の無礼は詫びる。剣の乙女とやら、どうか俺からも頼む…!この男に任せてやってはくれないか』

 

 灰の剣士に続き、ゴブリンスレイヤーまでもが跪き平伏する。

 

「ゴ…ゴブリンスレイヤー様…!?」

『『『『『……』』』』』

 

 これには剣の乙女を含め周囲の聖職者達も唖然となる。

兜の奥で何を考えているのか分からない程に、彼の出で立ちは異様極まりないのだ。

先程の乱入と言い、凡そ礼儀作法とは無縁なイメージが付き纏っているのがゴブリンスレイヤーという人物評価だ。

しかしそんな彼が平伏し懇願する。

 

「大司教様…!」

「頼む、剣の乙女よ…!」

 

 灰の剣士とゴブリンスレイヤー。

ダークゴブリン討伐での最大功労者と言っていい二人だ。

その二人がこうして膝を折り頭を下げている。

 

「……」

 

 二人の様子に暫く無言で佇む剣の乙女。

 

「…判りました。その申し出、聞き入れましょう」

 

 剣の乙女は二人の要求を認め聞き入れた。

 

『大司教様…!?』

『宜しいので…!?』

 

 当然反応を示す、周囲の聖職者たち。

解呪や儀式に関しては、高い実力と結果を示してきた彼等だ。

そんな彼等でも成し得なかった難問を、何処の馬とも知れぬ一冒険者に託そうというのだ。

彼等の反応は尤もである。

 

「全ての責任は私が負います」

 

 しかし、任命した責任は大司教である彼女が背負わねばならない。

万が一、灰の剣士が失敗すれば、その塁は彼女に降り掛かるという事になる。

些か腑に落ちない部分は残るものの、大司教という実質最上位に近い彼女が宣言するのだ。

聖職者たる彼等は留飲を下げ、従った。

 

……

 

こうして解呪の儀式は、区切りを見せ幕を閉じた。

高位の聖職者達は成功報酬を受け取り、所属先の教会へと引き上げる。

そして不死の女の処遇――。

結論から言って、法の神殿にこのまま置いておく事は出来ない。

それと言うのも、彼女の呪いは結界に強く作用してしまう為だ。

法の神殿の結界は非常に強力で、邪悪な存在にも敏感に作用する。

たとえ善人と言えども不死性に反応し、苦痛を与え続けるのだ。

以前、深淵の監視者が国王やソラールと共に来訪した事があった。

(本編前夜編・第71話参照)

彼自身、強靭な肉体と精神力を併せ持つ故に微風に等しい苦痛と受け流していたが、不死の女は完全な一般人だ。

法の神殿の結界では、彼女を苦しめる結果にしかならない。

そんな彼女を想い、剣の乙女は現在結界を解いてあるが、何時までもこのままにしておくわけにはいかない。

結界の無い神殿など無防備な寺院同然。

いつ何時、不遜の輩が入り込むかも知れない危険な状態なのだ。

其処で不死の女は、西方辺境街の地母神神殿の預かりとなる。

地母神側の結界は浄化よりも癒しの性格が強く、其処なら彼女も暮らす事が出来るだろう。

灰の剣士が解呪を担うという事情もあり、彼女を西方辺境に移す事は必然とも言えた。

 

……

 

(推奨BGM ダークソウル ―― 火継ぎの祭祀場 )

 

 各々に割り当てられた自室へと戻る道すがら――。

 

「私が偉そうに言えた口ではないのだが、本当に大丈夫なのか?」

 

 廊下を歩く女騎士が尋ねる。

 

「完璧とはいかないが、幾つかの対応策は思い付いている」

 

 灰の剣士にとってもダークリングと暗い穴は、なじみの深いものだ。

彼は過去の記憶を張り巡らせる。

 

嘗ての記憶――。

孤電の術士と別れ、そう時間を置く事なく魔術士の世界へと招かれた。

そこで大王グウィンとのまさかの再会――対決へと至った。

勝敗はどうであれ、和解したグウィンから聞かされた、不死の呪いの解呪法。

(イヤーワン編・第45~48話参照)

今回目にした奇跡”浄光”と”聖光”の同時使用。

此処では失敗に至ったが、ダークリングだけなら解呪に成功したという事実。

中には消滅に至った者達も居たらしいが、対抗策が存在していた事に彼は内心驚いていた。

それは、グウィンが提示した有効策に含まれ、彼の言葉が正しかったという事が証明された事になる。

それ以外にも幾つもの解決策も提供されていた。

しかし解呪に当たって共通するものがある。

 

   ―― 太陽 ――

 

解呪の儀式にも使用されていた”浄光”の奇跡は、太陽神専用の奇跡であるという。

事態打破に当たり、太陽という要素は決して切り離す事は出来ないだろう。

 

「錬金術を学んでおいて正解だったな」

 

 口元だけだが、彼は僅かに表情を綻ばせる。

 

「それを聞けば、ロロナ君たちもきっと喜ぶだろう」

「それは、事態解決が成ってからにして頂きたい」

 

 既に錬金術の行使も視野に入れ、彼は考えを張り巡らせている。

まだ日は浅いが、灰の剣士は錬金術の有用性を認めていた。

その旨を聞いたステルクも、穏やかな表情を浮かべる。

 

――ロロナさんが帰って来たら、色々聞いてみるか。あと、錬成炉も必要になるな。

 

何を始めるにしても手探り状態だ。

今の彼では、碌の知識も経験も備わってはいない。

そしてソウル錬成も駆使する必要があるだろう。

ロロナに事情を説明すれば、解決の糸口も見えて来る筈だ。

 

「済まんな灰よ。お前に丸投げしてしまう」

「君こそ良いのか?実質彼女を実験体にしてしまう様なものだぞ?」

 

 儀式に乱入し邪魔する形を作ってしまった。

表には出さなかったが、責任を感じているのだろう。

ゴブリンスレイヤーは彼に詫びる。

しかし寧ろ後ろめたさを感じていたのは、灰の剣士の方だった。

火防女が存在しない四方世界だ。

”完全な篝火”は疎か”暗い穴”を癒す手立ては、実質無きに等しい。

そんな状況下で解決策を見出さねばならないのだ。

光無き暗闇を闇雲に突き進むようなもので、あの不死の女を半ば実験台にする形となるだろう。

不死の女がゴブリンスレイヤーの姉であろうとそうでなかろうと、人を実験台にする行為自体、倫理に反するのではないか。

灰の剣士にも彼に対し、一種の申し訳なさを感じていたのだ。

 

「ん?ゴブリンスレイヤー殿、件の女と何か関係が?」

「…いや。知り合いに似ていた…だけだ」

 

「……そうか」

 

 普段小鬼以外に無関心を貫くゴブリンスレイヤー。

そんな彼が人に対し、ある種の執着を見せている。

ジークバルドの疑念に、彼は”気にするな”と返す。

 

――()()()()事か。

 

だが彼はソウルの感知が出来る。

一見静かだが、ゴブリンスレイヤーから出る強い感情の波。

敢えて表には出さず、ジークバルドは事情だけを察した。

 

そして各自は割り当てられた部屋へと戻る。

 

「……。…姉さん」

 

 まだ回復し切っていないのだろう。

兜を外し寝台に潜り込むゴブリンスレイヤー。

遠い過去の思い出――。

物心ついた頃には両親は既に亡く、姉が自分を育ててくれた。

思慮深く聡明で芯の通った、誇るべき実の姉。

そんな姉を、小鬼の襲撃で喪ってしまう。

その一部始終を見ていた筈だった。

確かに姉は死んだのだ。

しかし眼前に居た、あの不死の女――。

胸に悍ましい烙印を植え付け、破綻した人格を振り翳す壊れた女――。

忌々しい記憶と不死の女が、否が応にも重なり胸中を締め付ける。

もしも…もしもだ――。

あの不死の女が、姉だとすれば――。

ロスリック不死街での記憶――。

灰の剣士が連れ帰った、幼馴染の両親のソウル体(霊体)――。

そこから告げられた不可解な証言――。

そして眼前に現れた、姉と同じ容姿を持つ不死の女――。

否が応にも重なる、姉と不死の女。

もしも…もしもだ――。

あの女が()だとすれば――。

不死とは言え、唯一無二の肉親が目の前に居てくれるのなら――。

 

「……俺は…どうなる…いや、どうする…?」

 

 声にならない声量で呟きながら、彼は静かに意識を手放した。

 

……

 

一方、灰の剣士も自室で机に向かいペンを走らせていた。

 

――清める他にも癒す観点から入ってみるか…。

 

持参した手帳に、必要事項を書き入れては思考を張り巡らせていた。

 

――あの()()()()()も必要になるな。

 

出撃前日に披露したソウル錬成。

呪腹の大樹のソウルを用いて錬成した、解呪石に似た黒色の物体。

呪いを吸収する効力があるのは、既に判明している。

(本編前夜編・第77話参照)

あのままでは使い物にもならないが、彼は拙いながらも錬金術の習得が叶った。

解決する基点となるのは、あの物体と錬金術が重要な要となるだろう。

 

「思い通りにはさせぬ、ロンドール黒教会…ヨエルよ…!」

 

 果たすべき使命と関係あるかは定かではない。

しかし黒教会が関わっている以上、どうして放置する事など出来ようか。

彼も多くの人々と繋がり、関り、支えられここまで生きてこれた。

どの様な理由であれ、人々の日常を脅かす黒教会を好き勝手にさせる選択肢はない。

 

灰の剣士も新たな決意を固めていた。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

浄光(サン・ライト)

『太陽礼賛!光あれ!』

 

太陽神を崇める信徒のみに授かる四方世界の奇跡。

基本的には、聖光(ホーリー・ライト)とほぼ同じ効果を有す。

しかし真価を発揮するのは、浄光と聖光の同時使用に於いてだ。

この似て非なる二つの奇跡を同時発現させる事で、あらゆる呪いを打ち消し浄化するとも言われている。

 

それがダークリングの呪いであっても。

しかし、必ずしも助かるという訳ではなかった。

解呪の際、幾人かは消滅に至りこの世を去った。

 

神の慈悲が下ったのだ。

心を広げ受け入れよ!

そう騙るのは、いとも易くはある。

故に、彼等は今日も続けるだろう。

愚直に神の御業に溺れながら……。

 

 

 

 

 

 




 例の世界情勢で、世の中が心成しかギスギスしている気がします。
願わくば平穏なまま、この小説を書き続けていきたいものです。
こうして当り前な日常生活を送れる事が、どれ程尊いかを改めて思い知らされます。
一日一日を大事に生きていきたいものです。

如何だったでしょうか?
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。

デハマタ。( ゚∀゚)/
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