ゴブリンスレイヤー ―灰の剣士―   作:カズヨシ0509

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 ドーモです。
前回(第90話)と同じ時間軸での、ライザ視点でのお話です。
と言ってもチョットしたイベントみたいな扱いですので、ストーリー的にはあまり進展していないです。
それでも良かったらどうぞお付き合い下さいな。

では投稿致しますドゾ。( ゚ ω ゚ )


第91話―街中でのライザ達―

 

 

 

東国

 

遥か東の小さな島国。

四方が海に囲まれ、外界から途絶されている。

故に、独特の文化と思想が生まれ、また内乱の絶えない血生臭い歴史を歩んできた。

山岳地が多くを占め、資源に乏しい。

武士と呼ばれる戦士たちは、世界水準から鑑みても総じて高い戦闘力を誇り、狂人染みた精神性を有す。

独特の製法と鍛冶技術から生み出された『刀』呼ばれる武器は、切れ味と共に工芸品としての価値も高く西方の貴族たちの収集品としても重宝された。

 

最初の火も陰り、やがては暗闇の時代が長く続いた。

だが、この国は知識と技術を総動員し闇の浸食を凌ぎ切ったとも言われている。

しかしそれには理由があり、東国は最東端に位置するが故、地政学的に火の恩恵や呪いが最も軽微であった。

そういった要因が重なり、数多くの国が滅び去ろうとも東国は存属し続けてきたのである。

だがとある賢人は、こう告げる。

 

最初の火が起こりし時代よりも古き時代が存在した。

それは黄金の祝福の恩恵を賜り、長きに渡り栄華を極めた。

その時より東国は存在していたと――。

 

東国…またの名を――『葦(葦名)』

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

(推奨BGM スカイリム ―― メインテーマ )

 

 何百、何千と敷き詰められた石畳。

同じく幾千、幾万と繰り返したであろう幾多の営み。

多くの人々が行き交う中央通り。――その傍らには、巨大な水面が見る者の心を打つ。

来訪客目当てに立ち並ぶ多くの商店、ありふれた物から見るも珍しい文化漂う品々が目に留まる。

威勢よく声を張り上げる鉱人の商人が居るかと思えば、森人の売り手が演舞を振舞い客引きに必死だ。

圃人の果物売りが俊足で多種多様な果実を売りつけて回り、只人の売り手も負けじと朗々と口上を述べている。

 

『――そして称賛に値する、なぜなら我々は1つだからだ!はじまりの火が宿り差異が完全になる前、竜は我々と共に歩まれた、偉大な竜、神としてではなく、一生命体として!

 しかし、あなたはウロコ待たぬ者であった!そうだ!人としてあなたは言った”古の大地に生まれしウロコなき白竜の力を見るが良い、わが意志が長き時代となる”

”私は今王位について呼吸し、私のものとなったこの大地を新たに作る。私はこれを大王グウィン、あなたのために行う、あなたを愛しているから”

 ああ、愛。愛!生命体としてさえ、白竜は我々と共に歩んで下さった。白竜が我々一人ひとりの中に、世界の未来を見ていたから!ロードランの未来を!

 そして見よ、友よ!この醜い真実!俺たちは子供である!竜は人間の真なる上位者である!古より在り、霊魂の領域を支配した!

 まさにこの考えが凡愚には想像にも及ばない事なのだ!楽園を我々と分け合う?はんッ!彼らは我々が地上に居る事さえ殆ど我慢できないのに!

 今日、奴らは竜の信仰を嘲った。しかし、明日はどうだ?その時は?凡愚にあなたの家を奪わせるか?子供たちは?あなたの命は?

 そして我々は何をしているか?何もしていない!いや、何もしていないよりも酷い!凡愚の手下は邪悪な意思に従っている!自身の心に反して!

 立ち上がれ!立ち上がれ、白竜の子らよ!立ち上がれ人々よ!竜でもあり神でもある、ウロコ無き白竜の言葉を受け止めよ!

 我々は竜の末裔だ!そして我々が天も地も双方を受け継ぐべきだ!我々こそが、凡愚でもなく彼らのおべっか使いでもなく、我々こそが盤を支配する!永遠に!

 無敵の古竜!的確な白竜!難攻不落の不死の竜!あなたを称賛する!』

 

「……全部…聞いちゃった…」( ̄□ ̄;)

 

 熱の籠もった演説。

今や毎日のように繰り返す、竜信仰の蜥蜴人。

世にも珍しい光景として映ったのだろう。

南国の島からやって来た錬金術士――ライザリン=シュタウトは、呆然と聞いてしまっていた。

 

『む?来たな?白竜の言葉を聞きに来たなぁ!?』

 

 不運とはこの事か?

呆然と立ち尽くすライザに目を付けた蜥蜴人――。

灰色がかったウロコ色の蜥蜴人は、爛々とした目付きで彼女へと近付く。

 

「――えっ?あ、いや…あたしは別に…」( ;˙꒳˙;)

 

 蜥蜴人という奇抜極まりない外観だ。

自身の置かれた状況を理解したのか、彼女は言葉を詰まらせながら後退る。

そんな彼女の手を掴もうとした蜥蜴人だが、彼の手は虚しく空振りに終わった。

 

(推奨BGM ルルアのアトリエ ―― 小さな国の城下町 ~for ルルア )

 

「――あ、ごめんなさいね~!彼女先約があるから~!!」

 

『ぬっ!?お、おい、待たぬかぁッ!』

 

 そこへ一人の少女がライザの手を引き、何処かへと連れ去った。

追い縋ろうとする蜥蜴人だが直ぐに撒かれてしまう。

 

「大丈夫ライザ?あんなのと関わっちゃ駄目だよ?」

「あ、有難うルルア。あんまり珍しかったもんでさ、つい…アハハ…」

 

 ライザを連れ去ったのはエルメルリア=フリクセル――通称ルルア。

蜥蜴人を撒いたのを確認し、ルルアはライザを気遣った。

ルルアも他国からやって来た錬金術士だが、ライザに比べ長い間この都市に滞在している。

彼女が曰くには、あの蜥蜴人は毎日のように高台で奇妙な演説を語る、変人として認識されていた。

至高神の威光の下、治安も良好だが人の往来が多いと、ああいう変態も居座る事態を招く。

 

「此処は良い街だけど、あんまり一人で行動しちゃ駄目」

「ハハ…ゴメンゴメン」

 

 元々はルルア達と行動を共にしていたのだが、ライザにとって都市とは目移りする事ばかりが揃っている。

独りでフラフラと立ち寄ってしまうのも致し方なしと言えるだろう。

クーケン島と呼ばれる外界とは隔絶された環境で育ってきた。

あの変わり映えしない日常が如何に大切なものであるか、それはライザ自身も身を以て知った。

しかし、未だ好奇心と探求心が彼女の心を湧き躍らせるのだ。

 

「お~い、ライザちゃん居た?」

「あ、居ましたよ、師匠」

「そかそか。みんな待ってるから、食べに行きましょうか?」

 

 そんな二人にルルアの師でもある錬金術師の女性、ピアニャが駆け付けて来た。

時刻は真昼、丁度空腹時の時間帯。

他の錬金団と合流し、ライザ達は昼食を摂るために中央通りを後にした。

 

……

 

(推奨BGM ルルアのアトリエ ―― 買いすぎ注意! )

 

 

木々の香る品格を重んじた造りの店だ。

多人数用の円卓を囲む複数人の男女。

周囲の客に比べ、彼等は些かに目立つ服飾をしている。

此処の住民は若干地味めな衣服だが、彼等の服装は色鮮やかで人々の目を引いた。

特に若い女性客からは、好奇の視線を向けられていた。

彼女らも年頃――。

高級感や品位溢れる服装に、情景にも似た視線を注いでいる。

 

「ふ~、ごちそうさまでしたぁ!」

「う~ん!此処にもカレーがあってホントに良かった!」

 

 一頻りの食事を終え、胃を満たしたライザやルルアはご満悦な表情を浮かべる。

 

「よく飽きないな、たまにはソレ以外も食べたらどうだ?」

 

「そういうオーレルだって、外食は決まってハンバーグばっかり」

 

 ルルアはカレー、オーレルはハンバーグを食していた。

決して偏食ではないのだが、外食時は決まってこれ等を注文する癖が身に付いている。

 

「ルルアって凄い食べるよね?それでも、そんなに細いんだ?」

 

 更にルルア自身かなりの大食感なのか、二人分サイズの大盛りカレーを平らげていた。

出撃前の晩餐会といい、ルルアはかなりの量を胃に納めていた気がする。

空になった皿を見たライザは、感嘆の声を上げた。

 

「ふふ、ルルアちゃん以上に食べる女の人もアーランドには居るんだよ?」

 

 ルルアの隣に座るエーファは語る。

アーランドの街の一つであるアーキュリス。

その街には、ルルア以上の胃袋を持つ若い女性が存在するという。

常識外れな大食いでありながら、アーキュリスの2大美人と称される程の美貌を持つらしい。

 

『お待ちどう様です!ご注文のデザートに御座います!』

 

「お、待ってました!」

 

 会話を咲かせていた頃合いに、女給がカットフルーツの盛り合わせを運んで来た。

少々味の濃いものを食した後だ、口直しにとロロナが追加で注文したものだ。

 

「さ、皆ぁ、遠慮なく召し上がって」

 

 ロロナが一声を掛け、各自が皿に盛り口に頬張る。

 

「ふぁ~、新鮮なフルーツ。甘くて酸っぱい」

 

「ふふ、ミミちゃん、果物が好物だったものね」

 

 カットされたキゥイを口に含み、幸福感に満たされるミミ。

そんな彼女を微笑ましく見るトトリ。

 

「これ美味しいね。パイに挟んでみようかな?」

 

 同じくカットされた苺や桃を頬張るロロナ。

ジュワリと口内に広がる果汁が、彼女の心を捉えた様だ。

 

「え?パイって、あのお菓子のパイの事ですよね?」

 

「うん、そうだよぉ。パイのバリエーションが増えるかなぁって♪」

 

 どういう事なのかと気になったライザは、彼女に訊ねる。

 

「ロロナさんはね、パイ造りの名人でもあるのよ★」

 

 幸福感に満たされたロロナの代わりに、メルルが答えてくれた。

ロロライナ=フリクセル。

見習いの頃から趣味でパイ作りを嗜んでいた。

少々故あって彼女の師からはパイ作りを禁止されていたが、とうとう錬金釜でパイ作りを実現してしまう。

その情熱と腕前が高じて、錬金術を利用しながらのパイ作りも編み出していた。

錬金術を織り交ぜたパイ作り――。

何時の日か店を出したい――。

そんな願い、否、ささやかで微笑ましい野望を彼女は抱いていたのである。

 

「うわぁ、す、凄いね。錬金術だけじゃなくて、そんな職人技も持ってるなんて…。あたしも何か身に付けたいなぁ」

 

 なんて事のないアタシ――。

あの島に居たのでは、決して辿り着けないであろう領域。

あまり多芸を求めるのも願望が過ぎるが、ライザは多感な年頃だ。

向き不向きはさておき、影響を受けやすいのは致し方がないと言えた。

 

「そう言えばよ、お前はクーケン島からやって来たんだろ?」

 

 一流の冒険者であり優れた剣士でもある、ジーノ=クナープ。

彼は訪ねる。

 

「じゃあやっぱり、漁業が盛んなんだよな?」

 

「あ、うん。そうですね。普段の食卓にも、海鮮物が良く並んだりするかな。まぁ、あたしンちは農家だけど」

 

「実は俺やトトリの故郷も漁村でな。環境上、漁師が多いのさ」

 

「え、じゃあトトリさんの故郷も海が近いんですか?」

 

「ええ、そうよ。その関係で父は造船技師、母は冒険者。お母さんは今も世界を旅して回ってるわ」

 

「ええ!?お母さんが冒険者って、凄くないですか?もう…そこそこのお歳なんじゃないですか?」

 

 ジーノとトトリは幼馴染の間柄だ。

故に二人の故郷も海近くに位置し、海洋産業が盛んに行われている。

更にトトリの母親は凄腕の冒険者で、現在も世界中を飛び回っている。

今思えば十数年前のトトリが旅に出たのは、行方不明となった母親を探す為であった。

長い旅路の末、彼女の没したと言われる村で墓を見付け、トトリは深い悲しみに暮れた。

だが時が経ち、トトリの母親は何食わぬ顔で生還し、見事再会を果たす。

以後暫くは、自宅で落ち着いていた様だが再び冒険の旅へと出奔。

いつ再開出来るとも知れず、トトリの父は複雑な表情で彼女を見送っていたのを良く覚えている。

だが予想に反して、彼女は頻繁に家に帰るようになり彼等を安心させていた。

やはり年齢の所為もあるのだろう。

以前ほどの無茶は避けている素振りが見られた。

 

「いいなぁ。ウチのお母さんなんて、畑を手伝えばっかりだもん…!」

 

 ライザの実家は農家だ。

現在は彼女の父が一人で畑を切り盛りしている状態で、彼女の母親は何かと”父を手伝え!”と口うるさい。

あの冒険を終え、ライザも少しは畑を手伝う様になったものの、母親の口煩さは相変わらずだ。

少々不貞腐れた顔で、ライザは愚痴を零す。

 

「海に囲まれたと言えば、あの島国…東国といったか?アレも不思議な国だよな」

 

(推奨BGM 隻狼 ―― メインテーマ )

 

 メルルの幼馴染みでもあるライアス=フォールケン。

彼は遥か東の島国、”東国”について言及した。

この世界の最東端に位置すると言われる小さな島国――東国。

独特の文化圏を持ち、四方が海に囲まれた国だ。

遥か太古の時代から存在していると言われ、その文化は未だ色褪せる事がないという。

 

「これは、兄さんから聞いた話なんだが――」

 

 ライアスの兄は、アールズ王国時代の王女であるメルルの執事だった男だ。

その役職柄、豊富な地政学も有し、他国の情報収集にも力を入れていた。

その兄から東国について聞かされた過去を、ライアスは端的に語る。

 

信憑性や精度はさておき、かの国は”火の時代”と呼ばれる神話の時代から存在し続け、その歴史と共に歩んできたのだという。

火の時代とは、”最初の火”が熾りあらゆる生命と差異が誕生した、いわゆる神々の時代の事だ。

その火が陰り、終には一人の人物が自ら火を消し、神々の時代に終止符を打ったのだという。

その後、”宵闇の時代”と呼ばれる闇の時代が長く続き、生き残った幾多の国は更なる”暗闇”と”死”に晒され続けては滅び去った。

しかし、そんな時代をも東国は乗り越え、滅び消え去る事はなかった。

戦乱の絶えない国だが、武士と呼ばれる屈強な戦士たちが蔓延る文化圏だと彼は語った。

 

「オーレル。確かお前の剣も、カタナ…と言ったか?東国より伝来した物だったな」

 

 一頻り語り終えたライアスは、オーレルの所持する剣に視線を向ける。

 

「ああ、これな。僕の親族も刀を愛用している。あの国は剣術も独特でな。高い技術が要求されるから、極めるのは未だ遠い…!」

 

 最強の剣士を目指す――。

そんな夢を心に抱き厳しい研鑽を重ねる、クリストフ=オーレル=アーランド。

彼の親族であり大陸最強と称された剣士も、東国製の刀剣を使用していた経歴がある。

その影響なのかは定かではないが、彼も刀を使った剣術を会得していた。

 

「刀と言えば、あの子――灰の剣士も使っていたわね」

 

 オーレルの刀を見やり、灰の剣士も同種の武器を使っていた事を、ミミは思い出す。

 

「此処には居ないけど、誘わなかったのライザちゃん?」

 

「う~ん誘ったんだけど、ゴブスレ君と……()()()()()の件で、ちょっと…ね」

 

 灰の剣士とは、臨時とはいえ一党を組んだ身だ。

たとえ親しくなくとも、彼を誘う位はするのがライザという人物だ。

(彼女自身は、親しくなったと思っている)

だが不死の女を救出したと同時に、ゴブリンスレイヤーは気を失い倒れてしまった。

その後、水の都へと帰還を果たしたが、殆どの冒険者は傷を癒す為に休養を余儀なくされた。

後処理も一段落済み、ライザ達は、こうして街へと出かける事となった。

当然ライザは、彼――灰の剣士も誘っいたのである。

しかし倒れたゴブリンスレイヤーと、保護した不死の女を放置する事に抵抗を覚え、灰の剣士は神殿に残る事にした。

 

「その件については私にも、ちょっと責任はあるかな…」

 

 ゴブリンスレイヤーが倒れた要因は幾つかあるが、その一つにロロナが作成した臓活剤(エリクサー)も含まれていた。

急増品である為、それには副作用が備わっていた物だ。

彼が倒れたのは副作用も関係しているのは間違いない。

どの様な経緯であれ、彼にソレを渡したのは他でもないロロナ自身だ。

その事に関しては、些かの責任を感じていたのだろう。

彼女の表情は幾許かの陰りを見せた。

 

(推奨BGM ライザのアトリエ ―― 虹色の夏 )

 

「じゃあさ、彼等の見舞いも兼ねて何かお土産でも買って行こうよ!」

 

 勢い良く席から立ち上がったのはルルア。

若干沈みがちな雰囲気を打ち壊すかのように、彼女は皆に提案した。

 

「おお~ぅ、それ良いかもね」

 

「「「「「――さんせ~いっ!!」」」」」

 

 ルルアの案にピアニャも同調し皆もそれに倣う。

 

――あの二人が絡むと、何か暗くなっちゃんだよね。ライザ…。

 

普段快活で昼間の陽光の如く振舞うライザ。

しかし、灰の剣士やゴブリンスレイヤーが絡むと、何処となく普段の彼女とは違った一面を見せる事があった。

ライザと出会って数日の付き合いしかないが、既に彼女とは良き友人と呼べる程に中を深めたルルア。

そんな彼女なりの気遣いもあるのだろう。

何とかしてやりたいと、ルルアは考えていた。

 

こうして彼女等は店を後にし、方々の店を回りながら都の散策を楽しんだ。

 

「ねぇライザってさ、クーケン島だっけ?その故郷を救う為に此処まで来たんだよね、確か?」

 

 食堂を出た一行――。

ライザが旅する理由を再確認するルルア。

 

「うん、そうだよ。今は大丈夫だけど、何時の日か沈没する危機に晒されるからね。それを回避しないと」

 

 錬金術と出会い知識と研鑽を兼ね、遠路遥々この地へとやって来たライザ。

海中に没す危機が迫っていたクーケン島。

ライザ達の活躍で、取り敢えずの危機は回避できた。

しかし、それは根本的な解決には至らず、いわば問題の先送り――延命措置でしかなかった。

今の彼女では、島の危機を本当の意味で救う事は出来ない。

それ故の旅なのだ。

数日前の晩餐会で、ライザはルルア達と出会い意気投合した。

互いの経緯を語る中でも、ライザは此処に来た理由をルルア達に打ち明けていた。

 

「その事なんだけどね。それってライザの世代でやり遂げる必要ってあるのかな?って思うの、私」

 

「…どういう事?」

 

 ルルアの言葉に、ライザは無表情で真意を問い返す。

 

「あ、怒ってたらゴメンね 。でも聞いて欲しいんだ」

 

 普段から笑顔や朗らかな表情を浮かべる事が多いライザだ。

今の様な無表情を人前で浮かべる事は、比較的少ない傾向にある。

彼女の機嫌を損ねてしまっただろうか?

慌てて取り繕うルルアだが、是が非にでも伝えたい事がある。

怒らせてしまう事を恐れつつも彼女は想いを口にした。

 

延命が叶い取り敢えず危機は先送りとなった、ライザの故郷――クーケン島。

幾ら崩壊の運命が待ち受けてるとしても、数百年の猶予があるのは間違いない。

確かにその課題に挑み、事態解決を図るのは決して容易な事ではない。

しかし今のライザ一人で、何処まで突き進む事が出来るのか。

彼女は、旅の二人組に出会い錬金術を学んだ身だ。

あの二人は頼りになる存在だが、クーケン島に何時までも居座る訳ではない。

彼等が去った後、錬金術士は実質ライザ一人となる。

つまり島の命運は、全て彼女に圧し掛かってしまう事を示唆していた。

クーケン島に住んでいるのは何もライザ一人ではない。

大勢の住民が島で生活を営んでいる。

それは即ち、クーケン島の危機は住民全員が等しく背負わねばならないのではないか。

 

「……」

 

 ライザは無言で耳を傾け、ルルアも言葉を続ける。

ルルアが最も伝えたい言葉。

それはライザ自身が錬金()()ではなく錬金()()の領域に到達し、次世代を育て上げる事が必要ではないか。

彼女自身が更なる知識と技術を身に付け、次世代を担う者達にソレを伝授し教導を重ね、彼等と共に礎を築く事が未来に繋がるのではないだろうか。

そして再び到来するであろう島の危機をライザの託した世代が解決に動く。

 

「――っと、いうのはどうかなって思ったんだけど…?」

 

 一通りを語り終え、ルルアはライザの様子を窺った。

 

「……」

 

 ライザは目を閉じ顎に手を添え、何やら深く考え込んでいた。

恐らく彼女自身迷っているのだろう。

元々彼女は考えや意思を前面に押し出し周囲を引っ張る、いわばリーダー向きの性質を有す。

それは生来より備わる性分で、錬金術と出会う前から同年代の幼馴染たちを振り回してきた。

そして錬金術士となり、島の問題を次々と解決してきた時も、ほぼ全て自分が率先し奔走したものだ。

悪く言ってしまえば、何もかも自分で背負い込んでしまう側面を持つという事だ。

性格は違えど、灰の剣士と頻繁に口論を起こすのは、それが要因だろう。

 

「う~ん、ルルアの言いたい事は分かる…。でもぉ…――」

 

 ライザとて愚鈍ではない。

ルルアが真に為になる助言をしてくれているのは、彼女にも解った。

だが踏ん切りが付かないのか、ライザは考え込み低い声で唸るばかり。

ライザ自身の体験が、自身の拘りに拍車を掛けているのだろう。

彼女の歩んだ冒険も決して軽いものではない。

島の秘密を知り、異界に乗り込み、真実へと辿り着いた。

それは紛れもなくライザリン=シュタウトと、その仲間達なのだ。

 

島の責任を背負うのは当事者である自分達でなければならない。

 

その考えが今の彼女を縛ってもいた。

こう見えてライザも頑固な一面があり、柔軟に舵を切り替える事を苦手としている。

彼女がもう少し柔軟な考えで臨機応変に動くには、少なくとも3年は掛かるだろうか。

中々考えを切り替える事が出来ないライザ。

 

「ライザちゃんは、きっと凄い錬金術士に成る。それは絶対に保証する」

 

 そこへロロナが会話に加わった。

 

「でもね、ライザちゃん一人だけだと、出来る事にもきっと限界があると思うんだ」

 

 ロロナは少しだけ自身の歩んできた道を語った。

彼女も最初は未熟な錬金術士で、あわや工房(アトリエ)が取り壊される危機にあった。

しかし彼女は一念発起――。

姿をくらませた師匠の代わりに、錬金術士としての物語りが幕を開けたのだ。

地方を回り、素材を採取し、人々の依頼を達成し、錬金術士としての腕前を急速に上達させた。

忙しい毎日の中、時に困難に直面する事など一度や二度ではなかった。

しかしそんな日常の過程で多くの人々と出会い交流を深め、時には助け助られを繰り返し問題を解決してきたものだ。

もし彼等との出会いが無ければ、ロロナは違う人生を歩んでいたのは間違い無く、此処には居なかった筈だ。

錬金術師として成長した彼女の境遇は、研鑽を重ねながらも教導する立場へと変化する。

そんな中で出会った当時の少女――トトゥーリア=ヘルモルト(トトリ)。

ロロナの指導は独特であったが、トトリは瞬時に理解し吸収を重ね、彼女自身も偉大な錬金術師として成長を果たす。

ロロナからトトリへ、トトリからメルル(ピアニャ含む)へ、そして今の世代ルルアへ――。

彼女から始まった錬金術は、次々と世代を重ね現在へと辿り着いていた。

 

「だからね、私は思うんだぁ。世代に伝え、次代に繋ぎ、錬金術を積み重ねていく。こうする事も、未来へと続くやり方なんじゃないかなぁって。正直わたし独りだけだったら、此処にも来てないしライザちゃんにも出会ってなかったよ、きっと」

 

「何でも一人でやろうとせず、錬金術と次世代を育て上げる。その上で新たな世代と共に試練に挑んでゆくのだぁ――って、おおぅ!ちょっとカッコ良かったかなぁ?今の」

 

「――あ!だからって何でも他人任せは駄目だからね!?」

 

 ロロナ、ピアニャ、メルルの言葉がライザの心に深く浸透してゆく。

 

「……次世代を育てる…かぁ…」

 

 彼女達の言葉が響いたのだろうか。

ライザは淡い蒼の空を見上げ、うわ言の様に呟く。

 

「そうか…!うん!そうだよね!何も今に拘る必要なんてない!あたしの技術と知識を皆に語り伝え、次の世代を育て上げていく!そして故郷の危機を救い守っていく!そうだよ!それも錬金術なんだッ!!」

 

 決心が付いたのか、ライザの表情は晴れやかとなり普段の調子が戻った。

 

「――ありがとう、ロロナさん、ルルア、皆も!よぉ~し、先ずは錬金術の修業あるのみだぁッ!!」

 

 漠然としていた目標が輪郭を帯び、ライザは歩むべき道に希望を見出し皆に感謝の意を述べる。

 

――それに、教える相手も上手い具合に居るしね。あの子も錬金術覚えたてなんだし、打って付けじゃん。

 

世代を育てるにしても、教導する術もライザは知らない。

しかし数日前に出会った一人の男――灰の剣士。

奇妙な流れだったが、彼は錬金術の習得に至った。

才覚が備わっていたのだろう。

覚えたとはいえ、自分に比べれば彼はまだまだ初心者だ。

先ずは彼を教導する事から始めてみよう。

目先ではあるが取り敢えずの目標を定めたライザは、早くも思案を張り巡らせた。

 

(推奨BGM フリーBGM ―― ワスレナグサ )

 

「ルルアちゃん大丈夫?調子悪いの?」

 

 晴れやかなライザとは対照的に、ルルアの表情が陰っていたのをエーファは見逃さなかった。

 

「――え、ああ、大丈夫、ちょっと考え事してただけだから…アハハ…」

 

 その陰りも僅かな時間ではあった。

ルルアは慌ててはぐらかし、何時もの調子へと取り繕う。

 

「……」

――ルルアちゃん、やっぱりあの時の事を…。

 

ルルアとは長い付き合いだ。

明るく振舞ってはいるが、それは心から来るものではない。

エーファは気付いていた。

ルルアの振る舞いは偽りの殻で覆われ、()()()()が今も彼女の心に深く抉っているのだと。

もう二度と取り戻す事は出来ないのだ。

あの過去以来、ルルアは何処となく影を背負う様になった。

普段通り日常生活を送っている様に見えるが、ルルアの表情に悲しみと陰りが見え隠れするようになったのだ。

今も彼女を苛む、あの過去――。

殆どの者がルルアの事情を察し、敢えてソレに触れないように努めてきた。

当然ライザは、ルルアの事情など知る由もない。

知った処でライザに踏み込める領域ではないのだ。

 

――ごめんねルルアちゃん、私には何もしてあげられないの。

 

大親友とも言えるルルアの背負う絶望――。

それを知りながら何できないエーファ=アルムスターの無念。

ならばせめて傍に居続けよう――。

何も変わらず何時も通りに接し続けよう――。

それが今のエーファに唯一出来る事だった。

 

残り火を得たかのようなライザ――。

火が陰ったかのようなルルア――。

 

そんな二人の事など露知らず、水の都は今日も営みを続けた。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

戯言だと…?

俺は、この葦(葦名)を守るためならば

どのような異端の力であれ

従えて見せる

巴の雷、見せてやろう

 

太古の侍、その武人の言葉より抜粋。

 

 

 

 

 

 




 ライザのアトリエ2で、ライザは教師をやっているみたいですが寺子屋みたいなイメージで良いんでしょうか?子供に学問を教える位だから彼女は実際、聡明な人物なのかも知れませんね。若しくは前作から3年間の間に猛勉強したとか?

如何だったでしょうか?
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
デハマタ。( ゚∀゚)/

ドヴァキン、どヴぁきん、ドヴァーキン。
……。
…スイマセン 
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