ゴブリンスレイヤー ―灰の剣士―   作:カズヨシ0509

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 ドーモです。
急激に気温が上昇してまいりました。
あっという間に、もう5月です。
日中は結構暑くて、汗が滲んできます。

今回は、ロロナ主催の錬金教室となります。

受ける生徒は、言わずもがな。

では投稿致しますドゾ。( ゚ ω ゚ )


第93話―ロロナ・トトリの錬金教室(前)―

 

 

 

 

 

 

聖水(至高神)

 

神聖な祈りで清められた特別な水のことを指す。

万物に含まれ、また流し清める水は、火と並び多くの宗教で神聖なものと捉えられている。

主な使用法は、祈祷や魔法的な儀式に使用される。

また、聖水そのものが所有者の信奉する神の力を帯びているため

所持しているだけで魔除け厄除けの効果を持つ。

 

至高神の聖水は、邪を討ち払う力が特に強く、不死などの異形に振りかけるだけで

消滅に至らしめる事が可能だ。

 

どちらかと言えば魔除けの一種として重用される為、飲用に使われる事は少ない。

 

作成を担当した信徒により、値段は大きく変動する。

値段は、金貨 1枚~10枚。

(特に、剣の乙女が祈りを捧げた聖水は、莫大な神聖が備わる)

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

(推奨BGM ゴブリンスレイヤー ―― 時の傷跡 )

 

 

 水の都、その四方を司る法の神殿。

その敷地内一区画にある錬金棟。

 

   ―― 法の神殿・第1錬金棟 ――

 

アーランドの錬金団、ロスリック生き残り組、ソラールとジークバルド率いる一党、ゴブリンスイーパー一党に、灰の剣士とゴブリンスレイヤー。

其処に彼等は居た。

 

「では、解呪の儀式は――」

 

「ええ。失敗に終わりました」

 

 アーランドより派遣された一団の最高責任者であり錬金術師長を務める、ロロライナ=フリクセル。

それなりの年齢を重ねた壮年期を迎える筈の女性だが、まるで少女と見紛うが如き若々しい容姿を持つ。

彼女は、灰の剣士から儀式の成否について聞かされる。

剣の乙女が中心となり、他支部の教会より派遣された聖職者達と共同で及んだ、解呪の儀式。

彼等は太陽神の信仰する信徒で構成され、ダークリングや火継ぎの時代についても幾許かの知識を有していた。

太陽神専用の奇跡”浄光(サンライト)”と”聖光(ホーリーライト)”の同時発現により、大半の呪いを消し去る事が可能である。

しかし、いざ解呪を行使した直後に件の女は苦痛に喘ぎ、あわや消滅に至る寸前まで追い詰められた。

そして、その様子を遠間から見届けていた灰の剣士たち。

儀式の途中、ゴブリンスレイヤーが突如として乱入――。

結果的に儀式は、中断され失敗と見なされた。

 

「すまん。だがどうしても、俺は…」

 

 一抹の責任は感じていたのだろう。

儀式の当事者は既に帰路に就き此処には居ないが、ゴブリンスレイヤーは周囲に謝罪の意を示す。

彼が乱入した事で儀式が失敗したという結果には変わりなく、その直後は聖職者との間で軽い騒動が引き起こされた。

 

「なに。貴公の心境も分からんでもない。私も割って入る積りでいたのだからな」

 

 そんな彼に、カタリナのジークバルドが励ましの言葉を贈る。

口論となったゴブリンスレイヤーと聖職者達。

彼等を仲裁したのは、カタリナのジークバルドであった。

ジークバルドの謹厚(きんこう)な振る舞いにより、彼を高名な騎士と判断した聖職者たちは感情を鎮め、その場は収まった。

 

「ジークバルド殿の振る舞いは見事であった。私も大いに見習いたい処ではあるな」

「なんの。一騎士として、当然の事をした迄!」

 

 彼の人当たりと高潔な人格は、険悪な空気でさえ瞬時に和ませてしまうらしい。

嘗て騎士として活躍したステルク。

未だ彼の心は騎士としての誇りを保ち、同じ騎士であるジークバルドに尊敬にも似た思いを抱いていた。

 

「う~む、太陽の力は何時の時代でも絶大という事は証明された。しかし、万能ではないのは些かに複雑であるな」

 

 事の経緯を聞き低い声音で唸り何やら考え込む、アストラのソラール。

太陽を信仰し、太陽の様な男に憧れる彼にとっては、諸手を挙げて喜べる心境ではなかった。

浄光と聖光の同時使用。

それにより、確かにダークリングによる不死の呪いが解かれ、生者へと戻った者は間違い無く存在する。

だが、ダークリングの呪いと言っても強度や種類に差があるらしく、中には消滅に至った者達も存在していた。

聖職者によっては、それ等を救済と捕らえ儀式成功と見なしていたらしい。

だが、果たして消滅した彼等の(ソウル)は、救われていたのだろうか。

 

「そこで、お前さんが立ち上がった訳だな」

 

「どうしても看過できなくて…な」

 

 最後は灰の剣士が事態解決を担う事となり、取り敢えずの場を凌ぐ事は出来た。

同期戦士の言葉に、彼の返しは何処となく頼りない。

彼自身ロスリックを周回した時間軸の中で、実は”2度”、ロンドール(正確にはヨエル)の誘いを受けていたのだ。

一度目は彼等に深く関わり、衰えゆく最初の火を簒奪し、ロンドール闇の王へと就任。

二度目は”暗い穴”を開けはしたものの、”穢れた火防女の魂”というアイテムを入手し、当時の火防女に”暗い穴”を癒して貰い、闇の王である資格を捨て去るに至った。

当然、ロンドールのユリアは怒り狂い、敵対する事となったのだが。

だが、その話を此処では割愛させて頂こう。

 

ダークゴブリンの本拠点である廃村。

あの場で救出した不死の女。

彼女は、ダークリングのみならず暗い穴も発現していた。

アレは死の結び付きを強める効果が備わっている。

恐らく解呪の儀式が失敗した最大の要因は、暗い穴が作用した為であろう。

事の真相など、これまで関わってきた灰の剣士でさえ精通している筈もない。

しかし集結したメンバーの中で最も深くロンドールに関わってきたのも、灰の剣士だけなのだ。

正直、自信など有りようもなかった。

だが宣言してしまった以上、放り出す訳にもいかない。

拙い知識と経験を総動員し、解決策を練り上げていくしかない。

 

「そこで、錬金術に思い立ったという訳ね」

 

「ええ。厳密に言えば、ソウル錬成も視野に入れた複合作業になるでしょう」

 

 錬金術の有用性を認めてくれた事に、若干嬉しそうな表情をするトトリ。

そして、ソウル錬成の導入も検討していた灰の剣士。

 

「ふむふむ。”清める”ではなく”癒す”方向性に舵を切った訳かぁ」

 

 灰の剣士が、思い付く限りの素材を用紙に記した物を卓上に広げ、ピアニャはそれ等に目を通す。

必要と予想される素材を羅列しただけの状態で、これ等を吟味し取捨選択する段階には至っていない。

しかし灰の剣士の知識と判断材料では、どの素材が影響を与え合うかも理解出来ていない。

故に、ロロナたち錬金団へと協力を求めた次第である。

 

「う~ん、呪いの類に関する錬金術ねぇ…。そういう状況には余り遭遇した事ないから、手探りになっちゃうかも」

 

「それに見た事も無い素材が大半だし、どれが効果的なのかもサッパリ…」

 

「更に言えば調合手順でも大きく効果が変わるから、失敗する可能性も考慮しないと」

 

 メルル、ルルア、トトリの三人――。

それぞれが見解を述べては低い声で唸り声をあげる。

愛らしい顔立ちの彼女等は、皆一様に眉間にシワを寄せている。

熟練の領域に到達している彼女らが、憮然とした表情を浮かべているのだ。

その様子からでも、相当難度の高い錬金術になる事が容易に想像できる。

 

「今手元にある素材はこれだけです」

 

 灰の剣士は雑嚢から数種類の小道具を取り出し、卓上へと並べる。

木造りの卓に上に並べられた小道具類。

 

太陽のメダル。

螺旋剣の破片。

大小の魂石。

神殿の聖水。

樫の木片、等など……。

 

一部を除いて、ロロナたちにとっても初めて目にする道具も含まれていた。

 

「ふむ。太陽のメダルも用いると?」

 

「螺旋剣の破片までも素材にして大丈夫か?篝火を熾せなくなるぞ?」

 

 ソラールは太陽のメダルに、ジークバルドは螺旋剣の破片に視線を寄せる。

本来の使い方ではないが螺旋剣の破片は、篝火を熾すための発火材としての使用法がある。

これを素材にしてしまえば篝火を二度と熾せなくなる可能性が生まれる。

ジークバルドは懸念を示した。

 

「心配ない。既に”螺旋の剣”を所有しているのでな。今後はソレを使うさ。まぁ、幾分嵩張ってしまうがな」

 

 西方の街の武器工房に預けてある未完成の螺旋の剣。

アレは間もなく完成間近だ。

そして魔術師の世界にて、大王グウィンから賜った螺旋の剣。

携帯性と隠密性は低下するが、今後は螺旋の剣そのものを使い篝火を熾せばいいだけだ。

 

「魂石は…まぁ分かるけど、この”祝福の貴石”って何?」

 

 魂石というアイテム自体は、ライザの国でも少量だが流通しており、彼女も使用法と効果は知っている。

しかし”祝福の貴石”と呼ばれる代物は聞いた事がない。

 

「俺で良ければ、教えてしんぜよう」

 

「あ、お願いします!」

 

 灰の剣士に代わり、ソラールがライザに説明した。

 

「貴重、そうな、素材ばか、りね、もし失敗、した、ら二度、と…」

 

 聖水や魂石はともかく、螺旋剣の破片や太陽のメダルなど頻繁に入手できる代物ではない。

万が一、調合に失敗し素材そのものを喪失してしまう危険性も孕んでいる。

槍使いの相方を務める豊満で妙齢の冒険者である魔女も、多少ながら錬金術の知識は有していた。

 

「……それ等のリスク負ってでも、何とか助けてやりたい…!」

 

 その危険性は灰の剣士自身が良く理解していた。

だが、ダークリングと暗い穴を同時に植え付けられた不死の女。

その女性は、今傍に居るゴブリンスレイヤーの肉親である可能性が浮上しているのだ。

当然その事は皆に伏せているが、灰の剣士自身もロンドールと関わった過去が存在する。

我関せずを通す事など出来なかった。

 

「人助けなんだ…。いいよ!そういうのだったら、全力で協力してあげる!」

 

(推奨BGM ロロナのアトリエ ―― ロロナのアトリエ ~Celtic~ )

 

 戦争や攻撃の為ではなく、見知らぬ人を救済する為の錬金術。

本来錬金術とはそう在るべきだ。

困窮する人々を錬金術で解決し、笑顔を取り戻す。

それこそがロロナたちの目指す最終目標でもあり、言わば彼女達の使命でもあった。

場が和む暖かな笑みを浮かべたロロナは、可能な限り協力する旨を伝えた。

 

「感謝の念に堪えませぬ。ロロライナ=フリクセル様!」

 

「むぅ…、そういう固いのはナシィ!」((o((≧з≦)o))プリプリ

 

 深く頭を垂れ感謝する灰の剣士だが、逆にロロナは膨れっ面で抗議した。

その姿や立ち振る舞いは、とても壮年の女性とは思えない程に若々しく、まるで幼い少女の様だ。

そんな二人のやり取りを周囲は微笑ましく見守っている。

 

「なぁなぁ、あの女の人、君の母親なんだろ?何か物凄く若くないか?」

 

 見た目と実年齢が一致していないロロナという女性。

彼女の娘であるルルアにそっと耳打ちしたのは、槍使いの青年だ。

 

「ああそれね。ちょっと秘密があってね、実は錬金術で…ね――」

 

 そっと小声でルルアも言葉を返す。

 

今や伝説級の腕前を持つロロライナ=フリクセル。

当然彼女にも”師”は存在する。

ロロナの師も天才的な実力者であったが、気分屋で気難しく弟子や気に入った人物を実験台にしたり弄り倒すという、困った性格の持ち主であった。

そんな彼女は、お気に入りの弟子であるロロナに、自ら調合した若返りの秘薬を呑ませる暴挙に出た。

結果、それなりの年齢だったロロナは幼女の姿にまで若返ってしまうという事件が発生。

結局周囲の助けで元には戻ったが、彼女の身体と秘薬の親和性が非常に高かったのだろう。

壮年期にも拘らず、ロロナの肉体年齢と外観は20歳前後の容姿のまま安定してしまったのである。

 

「うわぁ、何、それ?私も、欲しい。ルルアちゃん、今度、私も、その人、紹介し、て…!」

「お前が食い付くのかよ…!?」

 

「あ、後でお母さんに聞いてみるけど、あんまり期待しないで…アハハ…」

 

 何故か魔女がその話に飛び付き、呆れ顔の槍使いと若干引き気味のルルアだった。

 

「さて、祝福の貴石が手元に無い。この都市に売っていただろうか?」

 

「それなら心配ない。俺は此処のギルドに所属しているのでな。売っている店なら幾つか知っている、何なら今直ぐに入手してやろう」

 

「資金は出す、頼めるか?」

 

「うむ、任せよ!」

 

 辺境の街に比べ、遥かに物資の流通が盛んな水の都。

祝福の貴石の入手に憂慮する灰の剣士だったが、そこはソラールが担ってくれるらしく何の問題も無かった。

 

「――ならば、俺も同行させてくれ!この位しか役に立てん!」

 

 何とゴブリンスレイヤーが名乗りを挙げる。

彼にとって錬金術は未知の領域らしい。

 

「ゴブスレ君も教えてあげよっか、錬金術?」

 

 彼本人に素養があるかどうかは疑わしい。

だが学ぶ意欲が有るなら、教導してみるのも一興。

試しにライザが提案してみる。

 

「いや。どうせ学ぶなら、基本的な”調合技術”の方が俺には合ってる」

 

「じゃあそこは、あたしの出番だね」

 

 釜の用意や多種多様な道具類を揃える必要がある、錬金術の行使。

確かに学び修得すれば、ゴブリンスレイヤーにとって大きな戦力となり得る可能性は充分にある。

しかし、錬金術の行使と環境作りには、時間と手間が掛かる。

それに成功するかどうかも分からない錬金術で、万が一爆発事故など起こそうものなら、寝泊まりさせて貰っている牧場主に面目が立たない。

ならば比較的リスクや難度の低く既存の技術で行える、通常の調合術を学ぶ方が今の彼にとっては有益なのだ。

そんな彼の教導には、ピアニャが担当してくれる事となった。

これから歩むのは、ほんの小さな一歩に過ぎない。

だが一つ一つの過程を積み重ね事を成し遂げる。

その為にも知識と技術を積み上げ、研鑽を重ねる事が肝要なのだ。

明日には西方辺境へと帰還する冒険者たち。

尚更、今夜の内に少しでも錬金術について学ぶ必要があるだろう。

一先ずの行動指針が決まる。

 

「さて、一通り決まった処で灰君は寝ないとだね。どうせまだ寝てないんでしょ?」

 

「…そうだったな」

 

 どう言う訳か、水の都付近では悪夢に苛まれていた灰の剣士。

だが夜間ではなく日中の就寝なら、悪夢を避ける事が出来た。

もう昼過ぎだが、解呪の儀式の騒動で、彼は未だ眠りに就いていなかった。

ライザの指摘で、彼は漸く自分の置かれた状況を認識する。

 

「んもぅ、うっかり屋さん…!早く寝ておいでよ。あたしも早めに寝て、今夜付き合ってあげるからさ」

 

 彼に早めの就寝を促すライザ。

例によって、彼は夜を徹する予定だ。

そんな彼を放っておく事など、ライザの性格上出来る筈もない。

彼女も早めの寝床に就き、彼の活動を支える積りでいた。

今夜はゴブリンスレイヤーも参加する。

錬金術ではなく調合技術を学ぶ為、ピアニャに指導して貰う予定だ。

しかし、彼は既に十分な睡眠を取っており、このまま活動を継続する。

 

「では参ろうか?ゴブリンスレイヤーとやら」

「ああ」

 

 だが夜間までは、時間の猶予がある。

祝福の貴石を入手する為、彼はソラールに引き連れられ外へと向かった。

そこへ同期戦士も加わる。

引退した銀等級戦士から預かった手帳。

それを渡す為だ。

 

「じゃあ皆、解散~!剣士さんとライザちゃんは、また後でね~」

 

 そしてロロナの声で、この場はお開きとなり周囲は其々の時間を過ごす事となった。

ある者は錬金団との交流を深め、ある者は街や神殿内を隈なく散策したりと、各々が自由な時間を満喫する。

 

……

 

 夜の帳が降り、二つの月が夜空に鎮座する。

赤と緑の月光が都市を照らし、昼とは違った貌に彩られる。

 

……

 

(推奨BGM ダークソウル3 ―― キャラクタークリエイション )

 

   ―― さぁ、我等が王よ。どうかロンドールをお導き下さい ――

 

   ―― 簒奪が成ったとて、未だか弱き火。薪が必要です ――

 

   ―― 争いが無くなる?それはまだ先の未来に御座います ――

 

   ―― 敵対勢力を滅ぼし、不遜なる輩は薪として機能いたしましょう ――

 

   ―― 何を憂う事があります?貴方様はロンドールの王。我等に道をお示す使命が御座います ――

 

   ―― 残念ですが、裏切り者を処断するのも王たる務め。威厳をお示しください ――

 

   ―― この者を薪として使えば、より安定し盤石な火が構築されましょう ――

 

   ―― 我等が王よぉッ!血迷われたかぁッ!! ――

 

……

 

――……や、やめろ…。これ以上見たくない…。もう…やめて…くれ…!

 

「――ッ!?」

 

 突如として目を見開く。

 

「――ぶはぁッ…ハッ…ハァ…!」

 

 目覚めと同時に呼吸が酷く荒く、胸が痞えそうな感覚に見舞われる。

不規則な呼吸を何度も繰り返す内に、自分は夢にうなされていたのだと現状を認識した。

時が経過するに従い、次第に落ち着きを取り戻しながら自身は周囲に視線を泳がせる。

 

――もう夜か。通りであんな忌々しい夢をッ…!

 

僅かに開いたカーテンの隙間から、外の様子が窺える。

既に日が暮れ、空は濃い紺色に染まっていた。

原因は不明だが、この都市で眠りに就けば悪夢に苛まれるという奇妙な現象に悩まされていた。

それを避ける為に日中で就寝を取ろうとしたのだが、結局は悪夢に見舞われる事となった。

だが先ほど見た悪夢は幾度も体験した、少女と感覚を共有しながら小鬼の集団に嬲られる、というものではなかった。

 

「死者と老人の国、ロンドール…。何故今頃になって…?」

 

 しかし今回見た夢は、自らがロンドールの王(通称 闇の王)と成り、陰り行く最初の火を簒奪した後での内容だった。

幾度とロスリックの火継ぎを繰り返し、その度に使命を果たしてきた。

だが幾度も火を継ごうとも、灰の墓所にて目覚め再び使命をやり直すという、終わりの無い周回(ループ)を繰り返していたのである。

火を継いでは戻され、また継いでは戻される。

終局の見えない永劫の旅路――。

その過程でも繰り返し、積み重なる死と亡者への呪い――。

変化の無い作業(ルーチンワーク)に似た死闘――。

次第に彼は渇望するようになった。

 

   ―― 刺激と変革を ――

 

周回の旅路で幾度と出会った得体の知れない巡礼者――ロンドールのヨエル。

最初は敬遠こそしていたものの、変わりの無い使命に辟易を覚えていた。

そこでヨエルの誘いを受け、彼はロンドールの王へと禁断の一歩を踏み出す事になる。

そして彼は信じる事にした。

最初の火を奪い亡者の王と成る事で、神々の…火の時代に終止符を打ち、人の時代が到来する事を――。

 

……。

 

それが生涯最大の悔いを残すとも知らずに――。

 

「……支度するか」

 

 これから予定がある。

意識を現実へと引き戻し、灰の剣士は寝台から身を起こす。

身支度を始めるべく寝台から出ようとした矢先、ふと下半身に言い様の無い違和感を感じた。

 

「…なんだ?」

 

 シーツを捲り中を覗いてみる。

 

(推奨BGM ライザのアトリエ ―― 銀の音さやか )

 

「……何ゆえに貴公が……」

 

 彼の股座に蹲る様に眠る幼夢魔が其処に居たではないか。

 

「…ン…。あ…おにいさまぁ~…。もう起きちゃったんですかぁ…?」

 

 眠気まなこを擦りながら、半目で彼を見上げる幼夢魔。

完全に意識は覚醒していないのだろう。

神官服は何処かに脱ぎ去り、何時もの扇情的な下着同然の姿で彼を見つめていた。

 

「あたし、まだ寝ていたいですぅ…。もうちょっと一緒に寝ましょうよぉ?」

 

 甘える様な声音で幼夢魔は彼にしがみ付く。

 

「…残念だが、大事な仕事に取り掛からねばならぬ故、これ以上は時間を割けぬ」

 

 少々心は痛むが、なるべく穏やかな口調で彼女を諭し、彼は身支度を始める事にした。

 

「ちぇ…、明日お別れなのにぃ…グぅ……」

 

 不満を口にしながらも睡魔が勝ったのだろう。

幼夢魔はそのまま倒れ込む様に、再び寝入ってしまった。

 

「……フゥ……」

 

 軽い溜息を吐き、灰の剣士は着替えと洗面を済ます。

途中ロンドールでの悪夢が脳裏を過るが、彼は無理やり意識の奥へと押し込んだ。

 

「灰くぅ~ん!」

「剣士さ~ん!」

 

 扉の向こうでライザと銀髪武闘家の声が響き渡った。

 

「ああ。空いてる」

 

 既に着替えは済ませてある。

ミラのベストをベースとした軽装だが、これは見栄えも良く周囲に不快感を与える事はない筈だ。

それに加え何時もの外套(激戦の為、ボロボロ)を被り、彼女らを出迎えた。

 

「おおう!準備は出来てるね。エライエライ♪」

「剣士さん、お早うっていうのは変かな?夜だし」

 

 入室した二人は彼に挨拶を交わす。

しかしライザは兎も角、銀髪武闘家まで同伴しているのは何故だろう。

 

「…えっと、駄目ですか?」

 

 若干上目づかいで見上げ懇願するかのような表情で、彼の反応を窺う銀髪武闘家。

 

「灰君!意地悪しちゃ”メッ”だよ!?」

 

 幼子を嗜めるかのようなライザの口調。

彼女にとって灰の剣士とは、どういう存在なのだろう?

 

「別段、拒む理由はない。自由に見学してくれて構わぬ。だが、貴公に出来る事は余り無いと思うぞ、それでもいいのだな?」

 

 銀髪武闘家は当然、錬金術や調合といった専門技術には無知に等しい。

彼女が学問に興味のある性格なら、好奇心や探求心も満たせよう。

しかし今日までの彼女を見た限り学問という知識の海原に、さほど関心を寄せていない事は明白だ。

これから明朝に至る迄、錬金術についての知識を深めるのだ。

銀髪武闘家にとっては、退屈極まりない時間を過ごす事になるだろう。

 

「だ、大丈夫です!剣士さんの邪魔は致しません!ど、どうか御慈悲を…!」

「その事なら心配ないって!この子の面倒も、あたしが纏めて看るから…!」

 

「そうか。もし苦痛だと感じれば、いつでも外してくれて構わぬ」

 

 銀髪武闘家の相手は主にライザが担ってくれる様だ。

そういう事なら然したる問題も発生しないだろう。

 

「…それにしてもさ。君って、相変わらずその恰好なんだね?ボロボロなんだからさ、好い加減ソレ外したら?」

「そ、そうですよ!小鬼より”不細工”だからって、あたしは剣士さんの良さをちゃんと理解していますからッ!」

 

 ダークゴブリンとの激戦で、至る所が破れ破孔だらけになった深緑の外套。

これから講義を受けるのに、その様な見窄(みすぼ)らしい出で立ちは礼節としてどうなのか?

些かに抗議の混ざった眼差しで、ライザは咎めに掛かった。

 

「駄目だッ!()()()が…バレるッ!!」( ̄□ ̄)

 

「「――…え、え…!?」」( ;˙꒳˙;)

 

 突然何を言い出すのだ、この男は?

突拍子もない発言に、ライザと銀髪武闘家は言葉を詰まらせた。

 

「…な、何を言い出すのよ突然。んな訳無いでしょ?」( ̄ω ̄;)

 

 作り笑いで動揺を隠すライザ。

 

「…今信じたな?」( ゚ ω ゚ )

 

「はっ!?そんな訳無いでしょ!?」( ̄∀ ̄;)

「け、剣士さん。質わる~い!」( ̄ω ̄;)

 

「この話を信じたのは、貴公等だけだ」( ゚ ω ゚ )

 

「――だから信じてないって!」(`ω´)

 

「フッ…私の話術も、磨かれつつあるな。ではお先にな」( *`ω´) ドヤァ

 

「コラ!人の話を聞きなさぁいっ!」((o((≧з≦)o))プリプリ

「待ってぇ、剣士さぁん!」( ̄□ ̄;)

 

 ライザの抗議を受け流し、灰の剣士は一足先に錬金棟へと向かった。

普段、彼が冗句を口にする事などは無い。

そんな彼が突如、砕けたかのような振る舞い。

それはライザ達に気を許した故か、ロンドールに関する意識を少しでも払拭させようとしたが故か――。

彼女達と騒動交じりの触れ合い――。

 

「おにぃさまぁ~!あたしも、いくぅッ!」( >ω< )

 

 結局、幼夢魔は目を覚ましてしまい、彼女も随伴する事となった。

 

……

 

舞台は再び、第1錬金棟。

 

(推奨BGM ロロナのアトリエ ―― ロロナのアトリエ ~Ballad~ )

 

「何でこんなに…?」

 

 周囲の状況に、灰の剣士は眉間を抑え呟く。

 

「別に良いじゃねぇかよ!」

 

「どうせ暇なんだしさ!」

 

「ただ寝るってだけも、つまんないしね!」

 

 昼間に居た、ほぼ全員が集結していた。

 

「今夜は、私も参加させて下さいましね♪」

 

――剣の乙女とはな…。

 

白いサイン蝋石でメッセージを残すが如き心境だった。

大司教である剣の乙女までもが、この錬金棟に加わっていたのである。

付き人や部下から就寝を勧められていたが、今夜は予定が無い事、自由時間を使い予め仮眠を取っていた事を理由に、半ば強引に居座っていた。

責任ある立場故、普段の彼女は冷厳なる立ち振る舞いを求められている。

しかし彼女も冒険者であり、一人の若き女性なのだ。

過去に体験した、嘗ての仲間達との他愛ない交流。

心の何処かで、寄る辺としていたのだろう。

若しくは秘かな孤独を癒したかったのか。

 

「アハハ…、こういう賑やかな教室も新鮮かも」

 

「たのし、そう、ね」

 

 さして広くはない第1錬金棟。

騒がしい程に賑わう彼等に対し、ロロナや魔女の表情は穏やかな笑みを浮かべる。

だが時間は限られている。

彼等は明日、西方辺境街へと帰還する予定だ。

あまり交流に時間を割く訳にもいかない。

 

「それじゃあ早速、講義に移りましょうか」

「灰の剣士さんには、”中和剤”の作成をやって貰うからね~」

 

 トトリが講義の合図を送り、ロロナが内容指針を提示する。

 

「――と言っても、今回はライザちゃんの指導能力の確認も兼ねているから、貴女が教えてあげてね」

 

「――あ、あたしが教えるの!?」

 

 てっきり、トトリやロロナが指導するものとばかり踏んでいたのだろう。

不意に指導役を振られたライザは、困惑の度合いを滲ませた。

 

「ほら、昼間言ってたでしょ?次世代を育てるのも、故郷を救う一つの方法だって」

 

 ルルアが昼間の出来事を語った。

沈み行く運命にあるライザの故郷――クーケン島。

しかしまだ数百年の猶予がある。

未だ発展途上だが、ライザにも錬金術士としての才覚は溢れていた。

だが、実質彼女一人だ。

どれだけ才能が開花しようとも、彼女単独で成せる事など、たかが知れている。

ならば次世代を育て上げ、未来を託すための土台を作り上げ、新たな錬金術士を生み出してゆく。

そんな解決策も、決して無駄ではない筈だ。

ライザが、どの様な道を歩んで行くかは誰にも分からない。

誰かと結ばれ子を産む未来が用意されているのか、別の道を見つけ出すのか。

しかし得た知識と技術を、このまま埋もれさせるのは余りにも忍びない。

次に託せる世代を生み出す。

これも彼女にとって、掛け替えの無い使命に違いなかった。

 

「うん、そうだったね。あたしもどんどん修業しなくっちゃ!」

 

 些か戸惑い気味だったが決意を固めたのか、ライザは灰の剣士へと向き直る。

 

「そう言う訳だから、覚悟しといてよ灰君!?」

「ご教授、お頼み申す!」

 

 意気込むライザに、深い一礼で応える灰の剣士。

 

「珍しい光景が見れそうだな」

「普段目にする事はないですからね」

 

 そんな二人のやり取りを楽しむ、女騎士に圃人の少女巫術士。

 

「しっかし、お前まで参加するたぁな。二言…いや、開口から”ゴブリン””ゴブリン”しか言わねぇのに」

 

「そうだ。ゴブリンに有効な道具を造り出す為にな」

 

 からかい半分の槍使いに、至極真っ当な理由を述べるゴブリンスレイヤー。

どの様な状況でも、彼の行動基準は揺るぎない。

小鬼を殺す為、それが彼の全てだ。

 

「そんじゃ、貴方には調合の仕方を教えるけど、他にも覚えたい人は居ないかな~?」

 

 彼は錬金術ではなく、既存の調合技術を学ぶため此処に訪れた。

希少価値の高い道具ではなく、現地調達や即席で道具を生み出せる技術が、今の彼にとっては有用なのだ。

そんな彼の指導役は、トトリの弟子でもありルルアの師でもある、ピアニャと名乗る錬金術師が担ってくれる。

彼女も若いながら錬金術や指導能力にも長け、この国で多くの見習いたちに知識を伝授していた。

その事もあり、複数人纏めて教導する術にも長けている。

ゴブリンスレイヤーだけでなく、彼以外にも学びたい者が居れば、ピアニャは知識と技術を伝授するつもりでいた。

 

「私…希望させて貰っていいですか?」

 

 挙手したのは、ゴブリンスイーパー。

 

「お?挑戦するんだ」

「まぁ今後必要かもね」

「まだ続けるんだね、冒険者」

 

 スイーパーの仲間達は各々の反応を示す。

彼女たちは全員、これを最後に引退を表明していた。

一人は街の男性に見初められ、結婚を決めている。

一人は斥候技術を生かした、鍵師として新たに就職。

一人は、街外れの魔術師の元へと向かう予定だ。

皆が皆、それぞれの道へと歩もうとしていた。

 

「ほぅほう貴女ね、いいわよん。しっかりと学んでね♪」

 

 スイーパーも参加に笑みで応えるピアニャ。

一党の仲間が去る事で、彼女は実質一人で活動しなければならない。

当然、負担は増大し、一人で対応できる幅も限定される。

なら少しでも知識と技術を吸収し手札を増やさねば、生き残る事も厳しくなるのだ。

 

「お、俺も勉強してみようかな?」

「知識神の信徒として、新たな境地を切り開く機会です」

「薬草の調合なら、自信はあるんだけど」

 

 スイーパーに続くように、少年斥候、禿頭僧侶、半森人の少女野伏も参加を希望した。

 

「好いね好いね、纏めて面倒見てあげるよ♪」

 

 今夜限りとは言え、複数人の生徒を得たピアニャは嬉し気な表情を浮かべる。

 

「じゃあ、授業を始めましょうか。準備はいいよね、二人共?」

 

「承知」

「どんと来いです!」

 

 ロロナの合図を皮切りに、いよいよ講義が始まる。

彼女の声に、灰の剣士とライザは快く応えた。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

樫の木片

 

樫(カシ)とは、ブナ科の常緑高木の一群の総称である。

森の王と呼ばれる太い巨木で、実=団栗《どんぐり》は食用にもなる。

堅木として広く流通し加工し易く、良質の木材は船や家具、彫像、建築資材に用いられる。

また魔力を秘め、錬金素材や魔法の杖に使う”宿り木”としても使用される事が多い。

 

王都の学院を、優秀な成績で卒業した一人の少女。

自分に限ってあり得ない。

そうタカをくくっていた。

 

ゴブリン如きに失敗する筈がない――と。

 

 

 

 

 

 




 世界観、作風の影響が強いのでしょう。
アトリエ勢が参加しただけで、ダークファンタジー感が一気に吹き飛んでしまいますね。
次回は、本格的な授業になるかと思います。

如何だったでしょうか?
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。

デハマタ。( ゚∀゚)/
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