ゴブリンスレイヤー ―灰の剣士―   作:カズヨシ0509

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 ドーモです。
前回から引き続き、今回も錬金術に関したお話となります。
ダクソ要素は、やや低めかな?

では投稿致しますドゾ。( ゚ ω ゚ )


第94話―ロロナ・トトリの錬金教室(中)―

 

 

 

 

 

 

ナナシ草

 

その名の通り、何処にでも群生する唯の草、いわゆる雑草。

一見誰の気にも留まる事の無い雑草だが、価値を見出せる者にとっては、有用な素材でもある。

一概に雑草と言っても、幾多の種類が存在し一括りに出来ない。

薬草士から観れば治療薬の原料ともなり、錬金術士にとっては中和剤の素材へと利用できるのだ。

周囲の環境如何によっては高品質の素材にもなり、態々栽培する所もある位だ。

 

自然界に存在するもの。

それは神々の贈り物であり恩恵でもある。

無価値な生命体など、あり得ないのだ。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

   ―― 第1錬金棟 ――

 

日は完全に、地平線の向こう側。

今空に居座るのは、紅と緑に輝く二つの月だった。

時刻は夜。

人々が寝静まり、明日への活力を蓄える時間帯。

しかし、其処は昼間の様な賑わいと喧騒に溢れていた。

 

(推奨BGM ライザのアトリエ ―― 棚を挟んで、はにかんで )

 

「よし、先ずは基本中の基本。『中和剤』の調合から始めてみっよか、灰君!」

「承知」

 

 ロロナとトトリを中心とした錬金術の授業。

本来ならこの二人が培ってきた知識と技術を伝授するのだが、敢えてライザに教導役を担って貰う事にした。

物事を教え伝授するというのは、教える本人も完全に理解していなければ円滑に伝える事が出来ないからだ。

完全に理解が及ばねば誤った認識や知識を伝えてしまい、終には予期せぬ結果と結末を招いてしまう。

先日、錬金術を会得したばかりの彼――灰の剣士。

”駆け出し中の駆け出し”といっても差し支えない程の彼。

しかしそれは、もう一人の錬金術士、ライザリン=シュタウトにも当て嵌まる。

他国出身である彼女も故郷の島で錬金術を習得し、ほぼ独学で技術と経験を重ねながら島の危機を一時的にとはいえ救った。

灰の剣士とは違い、ライザの錬金術士としての腕前は”熟練”の域に達している。

とは言え、ロロナやトトリの水準で推し量れば、ライザ自身も未熟の域に過ぎない。

彼女にも成長の余地は、まだまだ十分に残されていた。

敢えてライザに教導役をやらせるのも、そういった理由が含まれ、彼女がどれだけ錬金術について理解しているかを推し量る判断材料する為でもあったのだ。

学ばせる事で、自らも気付き新たに学ぶ事も数多い。

これはライザにとっても非常に意義ある工程なのだ。

ロロナもトトリも、それをよく認識している為、その重要性は今も深く理解していた。

 

「純粋な錬金術士としての腕前を見たいから、”ソウルの感知”とかいうのは無しでお願いね」

「む…分かった」

 

 先日、灰の剣士は錬金術を執り行う際、ソウルの感知を使用し最高品質に近い道具を造り上げた。

しかし、その様な特殊な技術を用いて錬金術を行使する者など、ライザの知る限り誰一人として存在していない。

高品質の道具が有すソウルを察知し、それを擦り(なぞり)ながら錬金術を行使できれば、限られた素材と労力で高品質の道具を生み出す事が出来るだろう。

これはロロナの発案だったが彼女の目論見通り、実際に高品質の道具が出来上がり立証される結果となった。

だが、ソウルの感知を行いながら錬金術を行使するなどと言う芸当が出来るのは、今のところ灰の剣士ただ一人だけだ。

全世界を入念に探せば、彼以外にも見つかるかも知れない。

なれど、四方世界に存在するであろう数多の錬金術士たち――。

彼等は持ち前の知識と経験を生かし、日々切磋琢磨を繰り返しながら錬金術に勤しんでいるのだ。

この先、灰の剣士がどの様な将来を歩むかは、周囲は疎か本人すらも検討が付いていない。

しかし駆け出しとは言え、彼も”錬金術士”として名を連ねるに至ったのである。

ならば彼自身の、純粋な錬金術士としての技術を把握しておく必要があるだろう。

ソウルの感知無しで、どれだけの錬金術が行使出来るのか。

 

ライザの意向を受けた灰の剣士。

知識と技術だけを用いて『中和剤』という道具を造り出す作業に移った。

 

「流石に夜間に出歩いて草むしりする訳にもいかないから、素材はコッチを使ってね」

 

 錬金術を行使する為には当然の事だが、素材が必要不可欠だ。

中和剤の素材には様々な種類が存在するが、概ね”清涼な水(きれいな水)”を主原料と、今回は『ナナシ草』と呼ばれる植物があれば完成する。

 

「ん?この草…いつも道端で見かける雑草…に見えるのだが?」

「ん?そだよ。その辺に生えてる見慣れた”草”だよ」

 

 数本を纏めて束ねた『ナナシ草』を手に取った灰の剣士。

だがそれは、普段であれば気に止める事も無い唯の雑草の類にしか見えなかった。

彼の疑念にライザは、にべもなく是と応える。

 

「こんな”草”で出来るのか?って顔してるね?まぁ君の顔は見えないけどさ」

 

 疑念の表情を浮かべながら、ナナシ草をじっと見つめる灰の剣士。

 

(推奨BGM ライザのアトリエ ―― へじへじものへ )

 

「草で” 草w ”(゚∀゚ )って言うのは無しよ?」

「…ん?」( ゚ ω ゚ )

 

「……。…なんでもないわよ!」(`ω´)

「…ん…」( ゚ ω ゚ )

 

 ライザの言葉の意味が良く分からない。

灰の剣士の薄い反応に、彼女は”何でもない”と返す。

 

ゴブスレ「外したな」( ̄ー ̄)

妖精弓手「外したわね」( ̄△ ̄)

ソラール「暗雲立ち込めり」( ゚∀゚)

ジークバルド「嵐吹く予感に似たり」( ゚o ゚)

銀髪武闘家「ド、ドンマイ!」( ゚Д゚)

 

「――うっさいわね!トットと始めるわよ、灰君!」(°ㅂ°╬)

「…ン」 ( ゚ ω ゚ )

 

 周囲のツッコミに、顔を紅潮させるライザ。

羞恥を覚えたライザは、顰蹙(ひんしゅく)の矛先を何故か灰の剣士に向けた。

 

閑話休題、実証を兼ねて先ずはライザから手本を見せる事にした。

 

(推奨BGM ライザのアトリエ ―― なんてことない毎日 )

 

「んじゃ、私がお手本見せてあげるから。よぉく見ててね。目を離しちゃ駄目だよ♪」

「ああ、頼む」

 

 ”清涼な水(きれいな水)”を桶に組み、それを錬金釜へと注ぎ込む。

水が適量に達したところで今度は『ナナシ草』を幾つか釜へと放り込み、かき混ぜ棒を手にしたライザは釜の前へと移動した。

釜に火を入れ、ある程度煮込んだ頃合いを見計らい釜をかき混ぜ始める。

慣れた手つきだ。

彼女の動作の流れは、非常に自然で淀みがない。

 

「もう知ってると思うけど、ただ混ぜるだけじゃ道具なんて出来上がらないからね」

「ああ、解ってる。魔力を定期的に注入しながら混ぜ込む必要があるのだったな」

「まぁ知ってるよね。君は”フラム”を何10個も造ってたんだから、当然と言えば当然か」

 

 ライザの言う通り釜をかき混ぜるだけでは、ただ煮詰めているだけに過ぎない。

それだけで錬金道具が造り出せるなら、この世界は錬金術士で溢れ返りインフレと失業者に国が傾いていたであろう。

錬金道具を造り出す為には、掻き混ぜながら魔力の注入も並行して行わねばならない。

素材の選定、釜の火加減、水の量、掻き混ぜる速度と緩急、そして魔力の注入と、地味ながら多岐に渡る作業を集中して成し遂げなければならないのだ。

それら複数の条件と要素が複雑に絡み合い、初めて錬金術の完成が成り立つのである。

無論、高度な魔道具や人工遺物(アーティファクト)になればなる程、その傾向が強く作用する。

例を挙げれば、混ぜる速度一つで想定外の物が出来上がったり、不幸な事故に巻き込まれる事例も報告されている位だ。

実際、錬金術とは非常に高度で難解な学問であり、誰もが然う然う理解出来るものではない。

(複雑怪奇なロロナの教えを完全に理解し、一般人水準にまで教え込むトトリが異常とも言える)

 

「わわっ、色が変わり始めたよ!」

 

「――でしょう?もう直ぐ出来上がるからね~♪」

 

 程無くして釜の液体が変色を始め、明快な緑色を帯び淡い光放ちつつあった。

それを目にしていた幼夢魔は驚きの声を上げ、もう直ぐ完成が近い旨を伝えるライザ。

 

「緑色の液体…まるでゴブr――」

「――ストーップッ!それ、厳禁!分かったッ!?」

「…そうか」

 

 調合作業の指導を受けつつも、遠巻きながらに見ていたゴブリンスレイヤー。

緑色に染まり始めた液体に対し、小鬼に例えようとする。

皆まで言い切る前に、物凄い剣幕でライザは彼の言動を遮った。

 

「全く、あたしだってゴブリンなんて大っ嫌いよ……ブツブツ…」

 

 小言で悪態を付きながらも、ライザは作業は仕上げの段階に移る。

 

「緑色に輝いているのは、ナナシ草の色なの?」

 

 怒られたゴブリンスレイヤーの代わりに、今度は妖精弓手が変色した液体について尋ねる。

彼女も故郷にも錬金術という概念は存在し、術に長けた森人長老たちが毎日のように釜をかき混ぜている様子を見た事があった。

当時(今も)の彼女は外への関心が勝っていた為、さして興味を示していなかったが、いざ間近で披露されては気にならずにはいられなかった。

 

「う~ん、それもあるけど、どっちかって言うと素材に備わる属性の色って言った方が正しいかな」

 

「属性…かぁ、そう言えば精霊にも存在するよね」

 

「精霊は万物に宿るって言われてるから、植物や鉱物にも属性って備わっていると教わりました」

 

 四方世界に存在する、多種多様の”精霊”と言われる存在。

半森人の少女野伏や圃人の少女巫術士も、精霊魔法に縁があり独自の見解を述べる。

自然界に住み事象を司る存在とも、神々の化身とも比喩される。

その多くは異界に棲み、彼等を認識するには特殊な才能や素養を授かった者達だけだとも言われている。

精霊の大半は実体(肉体)を持たず、霊体(意識体)或いは概念に近い存在だ。

そんな精霊たちだが、ありとあらゆる自然界に宿る彼らにも種族(種別?)が在り区分けできる。

例えば、火に宿る精霊、水に宿る精霊など、実に多くの種族が四方世界で芽吹いているのだ。

当然、植物に宿る精霊も然りで、釜で緑色に発光している『ナナシ草』には”風”の属性が宿っているという事になる。

 

「ゴブリンの精霊が宿っている訳ではないんだな?」

「……結構しつこいね、ゴブスレ君」

「プッハハハ…!小鬼の精霊なんてコッチからお目に掛りたい位だぜ!」

 

「…私はゴメンだわ」

「あたしも遠慮しとくわ…錬金素材としても願い下げ…」

 

 彼はどこまで行っても彼、ブレる事はない。

ゴブリンスレイヤーに対し軽蔑の眼差しを向けるライザ。

それを尻目に笑い噴き出すジーノ=クナープ。

心底嫌そうな心境でスイーパーとピアニャは、傍目から彼等のやり取りを窺っていた。

 

「良し、出来た!」

 

 そうこうしている内に目的の品である”中和剤”の完成に至る。

 

「見事に染まり切っているな」

 

 ライザが完成を宣言し、灰の剣士が釜の中を覗き込む。

彼の言う通り、釜の中身は緑一色に変貌した液体で満たされていた。

色に(むら)も無く、やや明るめの緑一面に満たされた液体は鈍いながらも発光しており、決して不快な印象は受けなかった。

 

「おお、スゲェな!」

「錬金術なんて初めて見たぜ!」

「こうやって、治癒の水薬(ヒールポーション)なんてのも造られていくんだな!」

 

 灰の剣士に続き、槍使い、重戦士、同期戦士も釜の中身を覗き込み驚きの反応を示す。

 

「――んで、こうやって中和剤の出来上がりっと!」

 

 その後、ライザは釜から緑色の液体を掬い上げ、それをフラスコ瓶へと詰め込み完成を宣言した。

 

「驚いたな。草と水で本当に物が変容するとはな」

「実はライザちゃんって、物凄い高名な錬金術士なんじゃ?」

 

「いやぁ…、こんなの基本中の基本だって。それ言っちゃったら、此処に居る人たち、あたしよりずっと凄い物を造れるんだから」

 

 緑色に発光する中和剤の入ったフラスコ瓶を目にした女騎士と銀髪武闘家。

彼女らも感嘆の声を上げるが、ライザが示すロロナたち全員は更に上の領域へと到達している。

 

「ちょっと見せてね、ライザちゃん」

 

「あ、どうぞ」

 

 出来具合を査定するべく中和剤をトトリへと手渡す。

 

「ふむふむ…」

「ゴクリ…」

 

「「「「「……」」」」」

 

 中和剤をじっくりと熟視するトトリに、ライザや周囲も無言で結果を見守った。

賑わっていた空気感は一変して奇妙な緊張感に満たされる。

 

(推奨BGM ライザのアトリエ ―― 青草香る空の下 )

 

「うん。少ない素材で、良くこれだけの品質を完成させたわね!誇って良いわよライザちゃん!」

 

「「「「「おお~!!」」」」」

 

 たおやかな笑みを浮かべたトトリは完成品を高く評価し、周囲は溜め込んだ息を吐き出すかのように称賛の声を漏らした。

 

「若干、混ぜ方が乱暴だった気もしてたけど杞憂だったわね」

 

「ハハ…、あたしもまだまだ研鑽あるのみ…か」

 

 こればかりはライザ自身の生来から来る、言わば癖の様なものと言える。

しかし高度な道具に挑めば挑む程、混ぜ方一つでも完成品に大きな差異が生じてしまう。

それが吉と出るか凶と出るかは誰にも推し量れないが、まだまだライザにも多くの経験と研鑽を重ねる必要があるだろう。

 

「さてっと…!」

 

 ライザが作業開始から時間にして僅か10分程度だが、こうして中和剤の錬金過程は一区切りが付いた。

一呼吸置いた彼女は、灰の剣士へと向き直る。

 

「んじゃ、大本命である君の出番だね!」

 

「……ぬッ…!」

 

 若干尻込みしているのか灰の剣士は額に汗を滲ませ委縮した様子が見られる。

 

「どうしたの灰君?フラムに比べたら、ずっと簡単だよ?中和剤なんて――」

 

「それは分かっているのだが、やはり初見だと…どうしても…な」

 

 見本を見せて貰ったとはいえ、彼にとっては初めての挑戦だ。

火継ぎに関わった時代、初遭遇し対峙してきた感覚に見舞われてしまうのだ。

今や真っ当の生者だが、不死人時代が長過ぎた所為もある。

あの感覚は今も色濃く彼のソウルにまで深く浸透していた。

ソレは本能レベルにまで染まっており、どうしても身構えてしまい慎重にならざるを得なかった。

 

「こういう時って意外と物動じするよね灰君てさ。まぁあたしも最初は不安だらけだったけどさ」

 

 以前、錬金術に触れる時にも灰の剣士は、かなり逡巡していた様子だ。

それを言えばライザ自身も、指導役の旅人(名をアンペル=フォルマー)に一度見ただけで中和剤の作成を実践させられ、かなりの不安を覚えながらも挑戦したものだ。

それ故、灰の剣士が不安を抱くのも理解出来ない訳ではない。

 

「なんだ戦闘中じゃあるまいし意外と臆病だな、お前さんw」

 

「貴公、そう攻めるものではない。初の挑戦とは、どうしても不安と期待が混在してしまうものだ。俺は無論、旅人(灰の剣士)とて例外ではないのだよ」

 

 尻込みする灰の剣士を他意は無いにせよ、からかう槍使い。

そんな灰の剣士を擁護するソラール。

どの様な事象であれ、初の試みや遭遇には幾許かの不安を覚えてしまうものだ。

やはり、先の展開や結末が見えないという心理的衝動が、彼に大きく働いているのだろう。

若しくは灰の剣士自身、不安を抱き易い体質なのかも知れないし、逆にライザが物動じしない性格という可能性もある。

(一説によれば東国人(日本人)は、押し並べて不安という心理を抱き易い国民性らしい←異説あり)

 

「貴公を余り責める気はないが、此処に来た目的を見失ってはならぬ。思い出されよ、当初の目的を」

 

 ソラールに続き、ジークバルドが発破をかけた。

此処に来た目的――。

それは、かの女性の不死性を解く事だ。

そもそも解呪の方法を模索しロロナたちに協力を仰いだのは、他でもない灰の剣士自身。

自ら言い出しておいて、この段階で躊躇しているようでは、時間と労力を割いてくれたロロナたちに、不義を働くに等しい行為だ。

 

「……そうだった、言い出したのは私自身だ。こんな初歩の初歩で腰が引けているようでは、何かを成す事も叶わぬ」

 

 救出した不死の女は、ダークリングと暗い穴による呪いを発症している。

牢から出した際、どういう訳かゴブリンスレイヤーは肉親に対する反応を見せた。

この事は周囲に伏せてあるが、彼の姉か否かを確かめる為にも呪いを解き明かす必要がある。

未だ可能性の域は出ないが、もしも彼の実姉なら、ゴブリンスレイヤーの今後にも大きく関わって来るだろう。

何故なら彼が小鬼に対する復讐と殺戮を生業としていたのも、彼の姉を失った過去に起因しているからだ。

彼自身、表立っては無関係の女である事を主張しているが、所々に不可解な行動が散見されていた。

このまま放置しても彼自身は惑いを抱き続け、集中力を欠いた状態で戦い続けるだろう。

それは相当危険な状況で、彼自身に多大な悪影響を及ぼしてしまうのだ。

いわばこれは、ゴブリンスレイヤーの為でもある。

灰の剣士に避ける選択肢は無い。

 

「すまぬライザリン=シュタウト!私がどうかしていた。ご指導の程…お願いする!」

 

 委縮していた自身を律した灰の剣士は、ライザに向き直り深い一礼で頼み込む。

 

「うん!分かれば宜しいって、君ねぇ、硬すぎて他人行儀すぎんのよ!騎士でもあるまいし調子狂っちゃうわね!」

「そうだな、言い換えよう。”クーケンのライザ”よ、改めてご指導賜らん!」

 

「――ちょっと待った!余計悪化してるでしょうッ!?――てか、変な名前つけるなぁッ!」

 

「ウワハハハ…!クーケンのライザか!”新しい…惹かれるな”」

「あ、それ良いかも!『錬金術士・クーケンのライザ』、何か格好好いじゃん!」

 

「ちょっとぉッ…!ソラールさんにルルアまで――」

 

   ―― ()()()()()()()()()()()()() ――

 

灰の剣士に変な渾名を付けられ、ソラールとルルアにも同調されたライザリン=シュタウトは、彼等に猛反発する。

 

「「「「「ハハハハ……!」」」」」

「うるさぁ~いッ!灰君、とっとと始めるわよ!」

 

 彼等のやり取りに周囲は和やかな笑い声に満たされ、ライザは灰の剣士の指導に取り掛る事にした。

 

……

 

(推奨BGM ライザのアトリエ ―― 啓蟄、嬰の足 )

 

 ライザの指示通り、釜に一定量の水で満たしナナシ草を投入した。

 

「始めるか」

 

 徐に掻き混ぜ棒を手に取り、灰の剣士は釜へと向かい合う。

 

「がんばれぇ、おにいさまぁッ!」

「剣士さん、ファイトぉ!」

 

 幼夢魔と銀髪武闘家の声援を背に受けた灰の剣士は、ゆっくりと中身を回し始めた。

 

――此処からだったな、魔力を注ぎ込むのは。

 

ライザの手本を頼りにしながら、手に魔力を込め掻き混ぜ棒から釜の中へと伝達させてゆく。

 

「お?色が変わり始めたぜ」

 

 周囲に混ざり彼の様子を見ていた同期戦士は、釜の中身が変色した事に気付く。

そして掻き混ぜる事、10分強――。

 

「こんなものか?」

 

 釜の液体は、緑色一色に染まっていた。

頃合いを見計らった灰の剣士は、取り敢えずの手応えを察し掻き混ぜ作業を終える。

そして周囲が見守る中、変色した液体を掬い上げフラスコ瓶へと詰め込んだ。

 

「……これで良いのだろうか?確認の程を宜しくお願いする」

 

「いいよ。貸してみ?」

 

 完成は…した筈だ。

灰の剣士は、中和剤の詰まったフラスコ瓶をライザへと手渡す。

しかし出来具合は、どうなのだろう。

彼の作業中、ロロナやトトリは無論、饒舌なライザまでもが終始無言を保っていた。

言い様の無い不安を覚え、こうして彼女に品質を確認して貰っている訳だが、周囲の態度から察するに大方の予想は付いていた。

 

「……ロロナさん、トトリさん、どう思います?」

 

 普段であればコロコロ変わるライザの表情は心なしか硬く、トトリとロロナへフラスコ瓶を手渡した。

その後ライザは、バツが悪そうに灰の剣士へと度々視線を向けて来る。

 

「失敗…だったか…」

 

 些かに暗い表情のライザを見て、灰の剣士は失敗に終わった事を悟る。

 

「ううん…、成功よ。成功…なんだけどね……」

 

 トトリから、中和剤の作成は成功であった事が告げられた。

しかし、どうにも歯切れが悪い。

 

「――…()()()()()でしたか」

 

 最早説明を受けるまでもない。

結果を察した灰の剣士。

彼の造り上げた中和剤は、見た目からしてもライザのソレとは大きく隔たりがあった。

ライザの作成した物に比べ、所々色に斑が見られ、帯びた光もかなり鈍く、色そのものも暗く重い印象だ。

色に関してはそれこそ、あの忌々しい異形――小鬼(ゴブリン)を連想させた。

彼の作った中和剤とライザの中和剤の差は、素人である周囲から見ても一目瞭然であった。

つまり彼の中和剤は、非常に品質が低かったのである。

 

「錬金術士の全体で言えば、レベルは下の中。一応は成功したんだけど品質がね、その…最低ラインなんだ」

 

 何処となく申し訳なさ気に、ロロナは評価を述べた。

 

「で、でもさ。初見ながら成功自体は、させたんでしょ?それって素質はあるって事よね。私だって、初期の頃は失敗の方が多かったくらいだし」

 

 灰の剣士が意気消沈したと思ったのだろうか。

慌ててメルルがフォローに入る。

 

「い、言われてみればそうだよね。あたしも見様見真似でやらされて、取り敢えずは完成にこじつけるのがやっとで、品質までとても気が回らなかった訳で…」

 

 メルルに続きライザまでもが擁護に移り、外套に隠れた彼の顔を下から覗き込もうとする。

 

「心配するな。…この程度で落ち込む私ではないぞ、メルル姫にライザよ。しかし何が足りなかったのだろうか?魔力の込め方か?はたまた別の要因が作用したのか?」

 

 元からだが口数の少ない灰の剣士。

メルルやライザが憂う様に、落ち込んでいた訳ではない。

低品質に至った原因を探るため、思案に耽っていただけだった。

 

「横から意見申し訳ありません。灰の方、貴方の魔力の込め方には何ら問題は無かったかと存じます。矢張り別の原因が働いたが故かと――」

 

 原因を探る灰の剣士に声を投げ掛けたのは、剣の乙女だった。

今まで具に一連の作業を窺っていたが、ライザと灰の剣士から流れ来るソウルを感知しても、二人の魔力操作は寸分違わぬ程に似通っていた。

寧ろ正確さで言えば、灰の剣士の方に軍配が上がる位だ。

やはり、数え切れない死闘を繰り広げ勝ち抜いて来た経験の成せる業だろう。

相手の呼吸を読み、合わせ、必要な力を行使する。

そういった地味ながらも確か技が、彼の本能にまで擦り込まれていると言っても過言ではない。――となれば、剣の乙女の言う通り別の要因が大きく作用したのであろう。

 

「ずばり混ぜ方ね。まぁ男性だから、どうしても力んじゃうのは仕方ないけど、かなり強弱が激しかったわ」

 

 トトリが原因を述べてくれた。

作業に集中するあまり、無意識で力が籠っていたらしい。

不規則ながら混ぜ方に強弱の差が生じ、その幅は少々大きかったとの事。

その動作が”色の斑”という形で表れてしまい、結果的に不安定な効果を有す中和剤が出来上がったという訳だ。

 

「混ぜ方一つでも大きく完成品に差が出るけど、こればかりは何度も経験を積み重ねて感覚を覚えていくしかないかなぁって、私は思うんだぁ。私も最初は上手くいかなかった方が多かったくらいだから、反復あるのみ…かなぁ」

 

 ロロナの言う通り、誰もが最初から完璧に熟せる者など居はしない。

火の時代、ロードランの神々とて多くの失敗を繰り返して来たのだ。

(その失敗のツケを後世にまで受け継がせた罪は大きいが)

兎にも角も何度も経験積み感覚を養う事で、錬金術という技術は向上していくものだ。

何も錬金術に限った話ではなく、他の分野も然りである。

それが成長するという事で、皆こうして錬金術の腕を磨いて来た。

 

「ロロナさん、トトリさん、暫く練習させて頂けないだろうか?純粋な錬金術士と腕も磨いておきたい、今後の為にも――」

 

「勿論!素材はまだまだあるから、気の済むまで練習して頂戴!」

 

「よぅし!あたしもトコトン付き合ったげるから、一緒に頑張ろ!」

 

 そうとなれば後は経験を重ねるのみだ。

辺りを見回し、素材の在庫が充分に備蓄されている事を確かめた灰の剣士。

反復作業に従事したい旨をロロナとトトリに伝え、二人は快く承諾した。

先ずは錬金術の基礎を徹底的に学ぶ必要がある。

しかしロロナたちと行動を共にできるのは、今夜限りだ、

明日、灰の剣士一行は西方辺境へと帰還する。

そうなれば真面な錬金術士は、実質ライザ一人だけとなってしまう。

西方辺境街にも錬金術士は居る筈だが、彼等の水準が如何ほどか定かではない。

一計を案じたロロナは、灰の剣士達に誰かを随伴させる事を画策していた。

 

それからは、ひたすら中和剤の作成に取り掛かり、灰の剣士は徐々に高品質の中和剤を造り上げていく。

灰の剣士とライザが作業を繰り返している間、ピアニャが指導する調合作業も並行して行われていた。

 

獣骨を削り出した、骨の手投げ矢(ダート)

小瓶に可燃性の高い獣脂とキノコを詰め込んだ、即席の火炎壺。

崩壊した遺跡の石欠片と薄っすら光る”ヘルバ”と呼ばれるハーブで、特別に光量の高い虹色石である”灯石”の作成。

何処にでも植生する数種類の野草を擦り潰し、少量の水で煉り合せた軟膏薬。

 

彼女の指導に耳を傾け、熱心に作業に勤しむゴブリンスレイヤー達。

道具作成は、何も錬金術だけの独断場ではない。

ある意味、こういった通常の調合術の方が基礎と土台を築き上げていたとも言える。

故に、幾ら錬金術が発展しようとも、既存の技術が廃れる事はなく、またこれら専門の調合士も居なくなる事は無いのである。

 

(推奨BGM ライザのアトリエ ―― 棚を挟んで、はにかんで )

 

『ふぅ~…、それじゃあ皆ぁ、ちょっと休憩にしましょうか?』

 

 指導に一区切りがつき、ロロナの一声で小休止を挟む事にした。

いわば夜間授業。

日が昇るまで数時間の猶予があり、無休で講義を行うのは流石に負担が大きい。

錬金棟の面々には、茶と菓子が振舞われた。

 

「しっかし驚いたぜ。錬金術で”パイ”なんて作れるんだな。しかも美味いし!」

「エへへ、喜んで貰えたかな!私は、昔からこういうの得意なんだよ♪」

 

 紅茶とパイを頬張る鉱人の女である斥候は、改めて錬金術の奥深さに舌を巻く。

今やアーランド随一の錬金術師であるロロナ。

錬金術以外にもパイ作りという趣味を持ち、秘かに腕を磨いていた。

 

「あたしの師匠…アンペルさんて言うんだけど、錬金術を行使するには才能が要るって言われたんだ。でもトトリさんって、一般の人にも教えてるんでしょ?」

 

 トトリへと質問するライザ。

クーケン島で錬金術と出会った旅の二人組、その一人は錬金術師であった。

名をアンペル=フォルマ―という。

半ば強引に押し掛け、その男から錬金術の指導に漕ぎつけた。――とは言ったものの、たった一度の手本で実践を命じられ、当初ライザも酷く困惑したものだ。

結果的に、錬金術の習得には成功。

彼女にも素養が備わっていた事が明らかとなる。

だがクーケン島という閉鎖的な環境と、アンペルという人物独自の指導法も手伝い、錬金術にも人の数だけ指導法や流派といった概念が存在する事をライザは知らなかった。

確かにある程度の素養は必要となるものの、指導方法によっては大抵修得が叶うのである。

ロロナも天才的な錬金術師だが、彼女の指導法も感性や感覚に頼る部分が大きく、万民には伝わらなかった。

しかし、トトリという異質の天才が現れた事により、錬金術は飛躍的に広まる事となる。

ロロナの感性を瞬時に理解し、理論的に捕らえ、一般人レベルにまで噛み砕き伝えていくのである。

彼女の功績は多大で余程の悪条件が重ならない限り、殆どの者が初歩の錬金術を習得が叶った。

 

「そうね。錬金術といっても一括りには出来ないから、使う人の数だけ、やり方にも差が現れるの。だから教え方次第で、簡単な錬金術なら誰でも使う事が出来るわ」

 

「そうなんだ。じゃあ、あたしの場合アンペルさん流がベースになってる訳か」

 

「だからって、その人の教えが間違ってる訳じゃないと思うわ。寧ろその人の教えを修得出来たから、今のライザちゃんが居る訳だし、島の危機も救えたのは間違いないでしょ」

 

 もしライザの指導役が別の人物なら、島の運命も変わっていた可能性もある。

 

「私が思うに、アンペルって人は結構高いレベルの教えを施したんじゃないかしら?それをクリアしたライザちゃんは、間違い無く優秀な錬金術師に成れると思うよ」

 

「有難うメルルさん。そういう事なら、もっともっと勉強しなきゃだね!」

 

「ライザさん…でしたか?貴方の教え方も”様”になってましたわ」

 

「――えっ… 、ア…アハハ…お…恐れ入れます」

――うわぁ、大司教様に褒められちゃった…!

 

会話に夢中で気付かなかったが、ライザの隣に剣の乙女が座っていた。

ライザも予想していなかったのだろう。

まさか神殿最高指導者である大司教に、声を掛けられるとは思いもよらなかったらしい。

 

「差し当たり、ライザの生徒第一号は、()()()()という事だな」

 

 ライアスが別の方へと視線を傾け、皆もそれに倣った。

その視線の先には、灰の剣士の姿が――。

因みに剣の乙女の逆となりにライアスは腰掛けている。

(彼が意図してその位置を選んだかどうかは想像にお任せする事にしよう)

 

「何やってんのかしら、あの子?」

 

「えっと中和剤…でしたっけ?何か睨めっこしていますね?」

 

 当の彼――灰の剣士は、自分が拵えた幾つもの中和剤を只管見つめていた。

その様子にライザと銀髪武闘家は、怪訝な表情を浮かべていた。

 

「きっと処分方法に困ってるんじゃないかしら?」

 

「最初の方はホラ…使い物にならない出来具合だったでしょ?」

 

 多少なりとも彼の為人を知るに至ったゴブリンスイーパーは、中和剤の処分に悩んでいるのだと推察する。

中和剤の制作過程はルルアも具に観察しており、最初の方は辛うじて完成したというレベルであった。

 

「そういう事なら次の講義は、中和剤を使った応用編ね。ライザちゃんもしっかり学んでね」

 

「は、はい、がんばります!」

 

……

 

(推奨BGM ロロナのアトリエ ―― Falling, The Star Light )

 

別の卓を挟み、茶を飲み交わす集団があった。

 

「アーランド共和国。貴公の国は、太陽の恩恵に満ち溢れているのだな」

 

 言葉を結ぶのはアストラのソラール。

彼にとって、ロロナたち一団との交流はそう多いものではない。

しかしこの数日間、彼女らの人柄を知る事でアーランドと呼ばれる国が、どういう情勢なのかは大まかにだが知る事が出来た。

 

「ハハ…、ソラール殿ほどの騎士に認めらるとは、このステルク…感服の至り。しかし、アストラ…と言ったか?その国では太陽信仰が盛んだったと聞いたのだが」

 

 今度はステルクが、ソラールの国であるアストラについて言及する。

ロロナに近い立場である彼も、助言者の言葉を聞く事が叶い、ある程度だが火の時代を知る事が出来た。

その中で、太陽信仰が盛んで貴族の国と呼ばれたアストラという国に関心を寄せていたのである。

貴族が中心となり国を運営していたが、善良な者が多く、また平民もそんな彼等を敬い長く安寧の時を謳歌していた。

その様な国が傾きを滲ませ始めたのも、やはり最初の火が陰りダークリングが蔓延した事は大きな要因だった筈だ。

 

「そんな国なら、何で滅んだんだよ?」

「――ジーノッ!少しは言葉を選ばんか!」

 

「ウワハハハ、構わぬ。公の場ではないのでな」

 

 直球染みた真っ直ぐな質疑を繰り出すジーノ。

そこに礼節など微塵も無かったが、窘めるステルクにソラールは”気にするな”と受け流す。

 

アストラの衰退――。

それは、火の陰りが大きな一因となっていたのは間違いない。

だが、完全なる滅びに至っていなかったのも事実だ。

灰の剣士にせよソラールにせよ位相の異なる世界線とはいえ、火を継ぎ世界を存属させたのだ。

その甲斐あり、アストラは息を吹き返した。――にも拘らず結果的にアストラは消滅の運命を辿った。

薪と成ったソラールに、それを知る事は叶わずアストラは存属し続けているものだと信じて疑わなかった。

以前、西方辺境の街に訪れ、武器工房の鍛冶師となった”アンドレイ”から話を聞く事が出来た。

(本編前夜編・第55話参照)

火は継がれ世界が存属した後、確かにアストラも息を吹き返したのだ。

しかし火の陰りの爪痕は、想像以上に深く抉られていた。

国を統治する貴族たちは何処となく歪んだ精神と狂気を孕み、闇と深淵に傾倒していった。

それは宛ら太陽ではなく、陽光の陰に()()を見出している様であった。

 

「貴公等も知っているであろう。例のロンドール黒教会なる組織」

 

 ソラールは旅の途中、小さな村に立ち寄った事がある。

(本編前夜編・第53~54話参照)

そこで初めてロンドール黒教会と遭遇し、戦闘へと発展した。

村は守り抜いたものの、ロンドールには、どう言う訳か元アストラの騎士達が協力していた。

アストラが国という体を成さなくなった時期を、アンドレイとて正確に把握している訳ではない。

しかしロンドールが深く関与していた事は、疑いようが無いだろう。

 

「あんの薄気味悪い連中かぁ。強い奴と戦えるのは嬉しいけどよ、何かヤな感じすんだよなぁ…アイツら」

 

 あの戦を思い出したのか、ジーノは歪めた表情を隠そうともしなかった。

 

「教会の狩人といったか?医療教会という組織も気になる処であるな」

 

 ロンドール黒教会だけではない。

教会の狩人と名乗った、正体不明の聖職者。

どちらかといえば彼が主導となり、動いていた様にも思える。

法の神殿に予め間者を忍ばせ、結果的に剣の乙女に対する襲撃を防ぐ事が出来なかった。

今後は更なる警戒態勢を強化する必要があるだろう。

ジークバルドは、医療教会に対しても警戒感を露にする。

 

「今後、僕等も狙われないとは限らない。モンスター相手なら慣れてるけど、人…況してや不死相手となると、ちょっと…な」

 

「ダークリングによる不死は基本殺す事は可能だ。しかし精神を代償に復活し、その分亡者へと近付いてしまうのだよ」

 

 錬金一団に与するオーレル。

彼もロンドール白い影たちと一戦を交えた。

彼自身アンデットと戦った経験はあれど、ダークリングの発症した不死人相手には思うようにいかなかった。

ジークバルドが不死人について幾つか説明するも、完全に滅ぼす手段は限られていた。

 

「この国を卑下する訳ではないが、些かに闇が濃い気もするな」

 

 ステルクの見習い時代のアーランド。

当時は小さな王国だったが、確かに治安の行き届いていない地域が散見された。

しかし、その当時と比較しても、この国は少々不穏な空気感が漂っている気がしてならない。

 

「これは憶測だが、ロスリックが流れ着いた事も無関係ではあるまい」

「うむ…ロスリック…」

 

 ジークバルドの言葉にステルクも合点がいったかように相槌を打つ。

時期こそ明確にされてはいないが、忽然として西方の果てに流れ着いた巨大な遺跡群”ロスリック”。

今では若干の調査が進行しているが、未だ全容の解明には程遠いのが現状だ。

流れ着いた当時から数多くの冒険者が挑んだが、彼等の大半は帰って来る事はなかった。

実は、灰の剣士たちが入り口付近である『ロスリックの高壁』を攻略して以来、未帰還の冒険者たちは『亡者』となって徘徊している事が判明した。

それが切っ掛けとなり、ロスリックの高壁付近は徐々にだが制圧が完了しつつあった。

後に王都の君主である”国王”が視察と称して、ロスリック高壁を調査。

護衛に熟練の冒険者(銅~金等級)や”深淵の監視者”を引き連れ、並み居る亡者達を徹底的に駆逐。

それが決定打となり、ロスリック高壁は冒険者側の制圧下となる。

しかし奥深くにはデーモンや強大な異形は未だ生息しており、ロスリック外へと逃走するという事件が日増しに増大していた。

四方が開けたロスリックを全包囲する事は到底不可能で、飛行が可能なデーモンやドラゴンが飛び放たれてしまえば、その情報を王都へと伝達するしか手段は残されていないのが現状だ。

 

――ロスリックか…。大統領閣下も関心を寄せておられたが、このステルクに調査が務まるのか!

 

アーランドより派遣されたロロナたち一団。

錬金術の発展と寄与の為という名目ではあったが、アーランド側もロスリックの情報は掴んでいた。

しかし余りに断片的な限られた情報しか有しておらず、現大統領はロロナたちに派遣を命じ密かな情報取集をも計画していたのであった。

ロスリック調査に関しては、ロロナよりもステルクが主導で動く事を命じられている。

ロロナたちの護衛も重要な任務だが、彼本来の任務はロスリックの情報収集と調査であった。

 

――だが幾ら国の為とは言え、ロロナ君たちを過剰な危険に晒す訳にはいかん。ロスリックが余りに過酷な環境なら、別の情報を手土産に持ち帰るほかあるまい。

 

ステルクは国に仕える軍人だ。

今でこそ騎士と言う役職は失われたものの、彼の心には騎士としての誇りが今も灯っている。

確かに国益の為なら、彼は命を賭してでも”忠”を尽くすだろう。

しかし、これまでの人生でロロナたちと出会い交流を重ねる事で、彼の価値観にも一種の変化が芽吹いていた。

彼にとって一行――分けてもロロライナ=フリクセルは、掛け替えのない大切な存在とも言えた。

もし彼女の命に関わる事態に発展するようなら、ステルクは自身の地位や名誉も代償にする覚悟を改めて刻み込んだ。

 

――おっと、好い加減こんな考え方から脱せねばな。そのような事態に追い込まない様に注力すべきか。

 

長年に渡るロロナ達との触れ合いで、彼の思考にも些かの変化が生じていた様だ。

他人から見れば強面と称される、ステルケンブルク=クラナッハ。

別の方法を模索し自嘲する彼の素顔は、何処となく穏やかに崩れていた。

 

束の間の休憩時間も終わり、ロロナたちの講義は後半へと差し掛かる。

(と言っても、周囲の大半は終始休憩時間も同然なのだが)

 

……

 

(推奨BGM ロロナのアトリエ ―― 出会いは錬金術 )

 

「貴方の造った中和剤、結構余っちゃったね」

 

「ええ。どうしたものかと、困窮しておりました」

 

 灰の剣士が拵えた多くの中和剤。

トトリの視線の先には、灰の剣士が作成した中和剤――。

その幾つもが卓の上に並べられ、意味もなく場所を占拠してしまっている。

拵えた殆どが低品質の使い物になるかどうかも怪しい代物だ。

恐らく売り物さえならないだろう。

 

「一つ気になったのですが、この中和剤にどの様な使用法が存在するので?」

 

「え、知らなかったの灰君?あぁ…そっか。最初に造ったのが爆弾(フラム)だもんね」

 

 何故今頃になって?

そんな表情を浮かべるライザ。

錬金術士を志すなら中和剤の作成は誰もが通る、いわば通過儀礼も同然の工程だ。

しかし灰の剣士は、フラムと呼ばれる爆弾を最初に作成してしまい中和剤という代物に対する知識が欠けていた。

 

「そんなに難しくはないから良く聞いてね」

 

 トトリが中和剤について説明する。

 

中和剤とは、錬金術を行使する際に投入する素材の一種として機能する。

 

素材同士の結合を促進させる。

相性の悪い素材の融合を円滑に作用させる。

完成品の品質を向上させる。

術者の魔力との反応を助け、通常とは違う代物を生み出す。

結論――高品質の中和剤ほど錬金術の助けとなる傾向が強い。

 

中和剤とは実に多くの素材として応用が利き、故に錬金術士としての技量を測る為の指針ともなる。

だからこそ、中和剤の作成は避けては通れない道筋であるとも言えた。

 

「大まかに言えばこんなとこかな。まだまだ使い道は多く存在すると思うけど、私達も全て把握している訳ではないの」

 

 一通りの説明を終えるトトリ。

だが伝説級の腕前を持つ彼女とて、錬金術の全てを網羅している訳ではなかった。

基礎中の基礎となる中和剤とは言え、造り上げる素材や品質により、まだまだ発見されていない用途や効能が存在するに違いない。

恐らくこれまで解明されてきた錬金術の仕組みも、氷山の一角なのかも知れないのだ。

 

「では最後の方は兎も角、初期の代物は廃棄するしかない訳か」

 

 灰の剣士が初期に作成した中和剤は、辛うじて中和剤の体を保っているという程度の品だった。

正直品質という面では、初期のライザ(クーケンにて覚えたて)以下と言っても差し支えないだろう。

 

「え~、もったいないですよ!」

「そうです、おにいさま!せっかく作ったのにぃ…!」

 

 別に彼女らが造った訳ではないのだが、銀髪武闘家と幼夢魔が身を乗り出し反対の意を示す。

 

「ああ、待って待って。今から中和剤の有効活用の仕方を教えるから 」

 

 今から始める講義は正に、低品質の中和剤の活用方法についてだ。

二人の勢いに若干押されながらもトトリは説明を始める。

 

講義は更なる佳境を迎えた。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

クーケンのライザ

 

ライザリン=シュタウトの新たなる称号。

故郷の島を救い、彼女は才能を開花しつつある。

少女は駆け巡る。

今までも。

そしてこれからも。

錬金術に酔え。

知識を拝領せよ。

人間性を調合するのだ。

 

なれど名付けたは、どこぞの怪しい一人の剣士。

勝手に名付けただけ。

マジに受け止める義務は無し。

 

ふんわり行こうよ。( ̄∀ ̄)

 

 

 

 

 

 




 ちょっと判りにくいかもしれませんが、エルデン要素がちょっぴり出てます。
と言っても、シナリオに直接関わる程ではないですが…。
もしかしたら、も少し増やしていくかも知れません。
まぁ、今後の流れ次第です。

今更ですが、ライザの口調ってこれで良いんだろうか?う~ん…。
(いまいち原作のライザの性格が掴み切れないです)

如何だったでしょうか?
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
デハマタ。( ゚∀゚)/
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