ゴブリンスレイヤー ―灰の剣士―   作:カズヨシ0509

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 ドーモです。
かなり時間がかかってしまいましたが、漸く投稿の目処が立ちました。
お待たせして申し訳ありません。

では投稿致しますドゾ。( ゚ ω ゚ )


第97話―火継ぎの祭祀場・(前)―

 

 

 

 

 

 

干し肉

 

乾燥させたそぎ肉。

製作可能なアイテムのひとつ。

これを素材とし、特殊な薬液に浸し再加工する事で別種の干し肉へと生まれ変わる。

 

また保存食としても非常に重宝され、旅人や冒険者を始め多くの人々の生活に関わってきた。

狼、羊、鳥、牛、豚――。

とにかく素材となる肉は数多く、絶妙に味付けされた高級品も存在する。

保存食とはいえ肉である事に変わりなく、様々な調理法も考案された。

 

いつの時代も肉は、生命の血となり糧となる。

忘れてはいけない。

肉が食べられるのは、犠牲となった動物たちの命が其処にあったからだ。

故に感謝を――。

―― その命を…いただきます ――。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

(推奨BGM ゴブリンスレイヤー ―― 仲間との食事〜甘露!! )

 

 

 

 硬質の石畳に対しては、そうそう轍が残る事はない。

しかし、それが何だと言うのか。

幾人もの冒険者を乗せた数台の馬車が、街道を直走る。

それに伴い、遠ざかり小さくなりゆく都市群の輪郭。

やがてそれも朧気となり、突如として事件は起こった。

 

「――しまったッ!?」

 

「――ど、どうしたよッ、藪から棒(やぶからぼう)に――!?」

 

 最後尾を走る馬車の御者を務める同期戦士は、手綱を握る手をそのままに、隣の男に振り向いた。

あまりに唐突として叫ぶものだから、”何か大事でも発生したのか!?”と緊張とした面持ちだ。

同期戦士の隣に座る一人の冒険者――灰の剣士。

彼は、常日頃から素顔を兜と外套で覆い、その表情は判別できない。

しかし、切羽詰まったかの様な勢いで急に声を発したのだ。

何か問題が発生したに違いない。

 

「――……!」

 

恐る恐る次の言葉を待つ同期戦士。

程無くして、灰の剣士から紡がれた言の葉は――。

 

茹で海老(ゆでエビ)を食し損ねた…!私とした事が――」

 

「…………」

 

 言葉浮かばず……。

同期戦士は閉口してしまった。

 

「剣士さん、頭目さん、何かあったんですか?」

 

「いきなり叫んで、どうしたのよ?」

 

 彼等の声が届いたのだろう。

幌から、銀髪武闘家と妖精弓手も反応した。

(随時で一党を組んだ筈の妖精弓手、何故か付いて来た)

灰の剣士が、重大な忘れ物でも仕出かしたのだろうか?

俄かに幌が騒がしくなる。

今から水の都に戻ったとて、かなりの距離が開いてしまった後だ。

全力で戻ったとしても、往復に数時間は要す。

灰の剣士と同期戦士の会話内容までは、幌の面々には把握出来ていない様だ。

このまま西方辺境へ帰還するか、『水の都』へトンボ帰りするかで意見を交わし始めた。

 

「大した事はない。食事に関して騒いだだけだ」

 

 妙な事で騒がれるのは勘弁願いたいものだ。

直ぐに反応した同期戦士は、幌へと返答する。

 

『何だぁ、お騒がせな』

 

 彼の声を受けたメンバー達は、やれやれと静まり返る。

 

「諦めなよ。どうしてもってんなら、南方の港街へと行きな。其処ならイヤっていう程食えるからよ」

 

「そうか。それは楽しみだ」

 

 ため息交じりの呆れ顔を浮かべた同期戦士は、南方の港町について言及した。

 

「――ったく!その様子なら、心配はいらないな」

 

 灰の剣士については正直、気掛かりでもあった。

彼は、帰還する際に依頼人である『剣の乙女』から報酬を手渡され、あろう事か”善良な小鬼”について言及しだしたのだ。

 

その言葉を受けた剣の乙女は激昂し、激しい殴打と都市部(水の都)への出入り禁止という処分を下した。

 

大司教という地位と六英雄の一人に数えられ、あまつさえ自身も金等級冒険者という肩書を持つ剣の乙女だ。

カリスマ的存在感を放つ彼女から、絶縁も同然の処分を言い渡された灰の剣士。

しかも英雄から一種の”敵対宣言”をされたにも等しい。

どれだけ屈強な戦士とて、その精神性まで頑強とは限らない。

人にもよるが大抵の場合は、極刑を下された罪人にも似た心境を抱くだろう。

アレは一種の死刑宣告にも似ていた。

もしもこれが、灰の剣士でなく年端もいかぬ新人冒険者の少女なら、忽ち心を圧し折られても何ら不思議ではない。

剣の乙女を崇拝する聖職者なら尚の事、廃人同然に追い込まれていただろう。

 

相当心に響いているに違いない。

あれだけの叱責と折檻を受け、更に怪我まで負わされたのだ。

同期戦士は、そんな灰の剣士を心配もしていた。

しかし当の本人ときたら口にした言葉が、食事関連の事柄だとは恐れ入った。

 

――心配した俺が、バカみたいだぜ…!

 

手綱を握りながらも冷やかな視線を彼へと向ける同期戦士。

どうやら灰の剣士は、思った以上に打たれ強いらしい。

いや、寧ろ当然というべきか?

そもそもあの悍ましいロスリックにて指揮を執り、誰一人として欠ける事無く皆を生還させる男だ。

並大抵の精神では務まらない筈。

近年では、ロスリックからの生還者は徐々に増えつつあったが、挑んだ殆どの一党は、何名か欠けた状態で帰還するのが大半だった。

しかも指揮しているのは今の彼より高い等級を持つ、紅玉や銅といった熟練の冒険者ばかり。

その事から鑑みても、灰の剣士の功績は群を抜いていると言えるだろう。

ならば隣に座る、彼の精神性も頷ける話ではある。

彼が何者であるのかは未だ判明していない。

恐らく並の過去を歩んではいないだろう。

その事位は、農村出身の同期戦士も理解出来る。

灰の剣士――。

恐らく唯者ではない。

本音で言えば彼からは、薄ら寒いものを覚える事もある。

だがしかし――。

灰の剣士のお陰で、今の自分達が居ると言っても過言ではなかった。

ロスリックの件と言い、今回の戦(ダークゴブリン戦)の件と言い――。

灰の剣士に対し得体の知れない部分はあるものの、同時に感謝もしていた。

剣の乙女からの処分で、かなり落ち込んでいたと思っていたが、よもや食事に関して言及するようなら気に掛ける必要はないだろう。

若しくは、そんな心の動揺を覆い隠す為の虚勢だったのか?

何にせよ大事ではなかったのだ。

気を取り直した同期戦士は、前に向き直り馬車を走らせた。

 

「心配には及ばぬ。この位で塞ぎ込んでいる様では前に進めぬ故な」

 

 どうやら同期戦士の心情を察したらしい。

気に掛けてくれた事に謝意を述べる灰の剣士。

そもそも、剣の乙女に叱責を受けた程度で一々心折れている場合ではないのだ。

彼には果たすべき使命が残っている。

ダークゴブリンを討つ事は出来た。

しかしそれは、”真の使命”を果たす通過点に過ぎない。

何としても『輪の都』へと赴き、真の巡礼を終えねばならないのだ。

それに今の自分には、廃村で保護した『不死の女』の呪いを解くという任を承った。

剣の乙女からは見限られてしまったが、この役目を解かれた訳ではない。

不死の女に宿った『ダークリング』と『暗い穴』という不死の呪いを解き、彼女を救わねばならなかった。

まだ可能性の域は出ていないが、若しかしたらゴブリンスレイヤーの肉親である疑いも浮上している。

そして彼女が不死である元凶だが、ロンドール黒教会の線が濃厚となった。

それ等の要因を連結させれば、自ずと放置など出来よう筈もない。

仮に解呪が成功し、不死の女から情報を引き出せようとなかろうと、彼は全力を以て最善を尽くす気概でいた。

 

善良な小鬼を口にし、結果的に剣の乙女の怒りと憎悪を買ってしまった訳だが、相対的に観れば彼にとっては”都合”が良かった。

彼女から水の都への移籍を提案されていたのだが、その話はお流れとなり綺麗サッパリ消失した。

どの道その案は断る積りでいたのだが、なまじ好意的な彼女が相手では断り辛い心境も生まれていた。

しかし彼女から見限られる事で、その関係は(白紙?)も同然となる。

更に彼女自身も嫌悪感を露わとし、今後一切の関わりを禁じてきたのだ。

ならばこれから先、二度と彼女と関わる事はないだろう。

そうなれば安心して、自身の使命に邁進する事が出来る。

更に水の都付近で就寝しようものなら妙な悪夢にうなされ、満足に睡眠を取る事も困難を極めた。

後に悪夢の正体が、剣の乙女の過去の出来事である事が判明した訳だが、今の彼には手の解こうしようがない。

願わくば彼女自身が奮起し、自ら小鬼退治なり悪夢に向き合うなりして貰わない事には、克服が叶う事は難しい。

仮に()()が悪夢に侵入し小鬼を討った処で、彼女自身が殻を破らない限り何も変わる事がない。

恐らく永遠に悪夢から解放される事はないだろう。

 

――いや、止そう。これ以上彼女の事を考えるのは無しだ。

 

あれこれ思案するのも詮無き事だ。

剣の乙女とは二度と関わる必要もない。

寧ろ相手側から縁を切ってくれたのだ。

別れ際、寂しげな表情を浮かべていた幼夢魔には少々心は痛むが、数か月もすれば自分の事など記憶の隅にでも追いやるだろう。

彼もこれ以上詮索を止め、ゆっくりと深呼吸を繰り返し、ゆったりと座り直した。

 

幌の中から話し声が聞こえる。

どうやら『茹でエビ』について話し合っている様だ。

 

「エビって、あのプリプリっとした食感が最高なんじゃ」

「茶や酒のつまみにも合いますね」

 

 鉱人の斧戦士と獣人魔術師の声だ。

 

「あの絶妙な塩加減が決め手らしいですよ」

 

 銀髪武闘家も会話に加わり、味付けについて語っている。

 

「私も食べてみたんだけど、水の都に在る水場って確か淡水湖でしょ?エビは海洋生物だから、アレって実はザリガニらしいよ?」

「何、そうなのか?これは一杯食わされた。詐欺ではないのかね?」

「半森人の貴女は分かるとして、貴方は純血種の森人でしょ?海産物を口にしたの?」

 

 半森人の少女野伏は、水の都で獲れるエビはザリガニである事に疑いを持つ。

その事実を聞いた森人僧侶は”遺憾砲”を発射し、更にそれを耳にした妖精弓手は森人の食生活の乱れを憂いた。

 

「フハハハ…!貴女様も一度口にしては如何ですかな?新たな啓蒙が高まりましょうぞ!」

「…ま、まぁ…その内ね…」

「お前って、つくづく聖職者なのか疑わしくなるよな…」

「……」

 

 再び高笑いを上げ森人僧侶は、妖精弓手に海産物を進める。

その森人僧侶を冷ややかな目で見ていた鉱人の女斥候は、ヤレヤレと溜息をついた。

そんな中でも一切口を開かなったゴブリンスレイヤー。

やはり小鬼と無関係なら、彼は殆ど話す事はない。

彼は無言のまま、宛ら彫像物の様に奥で座っているだけだった。

幌は他愛ない話で盛り上がり、街道を行く数台の馬車は一路西方辺境へと突き進む。

徐々に揺れが酷くなりつつあった。

舗装された街道は、次第に荒れ始めた所為だ。

後方に目を向ければ、もう水の都は、ぼんやりと輪郭を残すのみだ。

あと数時間で西方辺境へ到着するだろう。

彼等は、西方に所属する腕利きの冒険者で精鋭揃いだ。

彼等が西方のギルドへと辿り着き報告を済ませれば、この依頼は完全に終わりとなる。

 

ひび割れ疎らな石畳の街道からは雑草が生え、呆気無く馬の蹄と車輪に惹かれグニャリと拉げる。

だが生命溢れる雑草は、ものともせず瞬時に元の形へと戻った。

目を凝らせれば気付いただろうか?

数日前は晴れ渡り、涼やかな風と空が拡がりを見せていた。

極僅か…ほんの極僅かずつではあったが、空は”色褪せ”を孕み始めていた。

 

……

 

(推奨BGM ゴブリンスレイヤー ―― 辺境の街 )

 

 あれから時は流れ、天高く位置していた日は僅かに傾きを見せる。

そんな時間帯だった。

灰の剣士たちを乗せていた数台の馬車は、不意に停車する。

 

「――!?何だ…?もう着いたのか?」

 

 馬車に揺られながらも転寝(うたたね)していた灰の剣士は、停車の振動で目を覚ます。

 

「いやまだだ。何かあったみたいだな」

 

 御者を務める同期戦士も停車の原因は分かっていない。

突然として前方の馬車が急停車したのだ。

最後尾を走る同期戦士の馬車は、それに倣うしかない。

緊急事態でも発生したのだろうか?

当然、幌のメンバー達も異常を察知し妖精弓手が顔を出す。

 

「なんか前方がやけに騒がしいわね。大勢の人の声が聞こえるわ」

 

 彼女は上森人(ハイエルフ)と呼ばれる森人(エルフ)の上位種だ。

通常の森人に比べ、長く大きな耳を持つ。

その耳を以てすれば、遠間からの微細な音をも知覚する事が可能。

眼前の馬車で視界は遮られているものの、大勢の人々が騒ぎ立てているのが判った。

一体前方で何が起こっているのか?

 

「おい皆、聞いてくれ、実はな――」

 

 程無くして重戦士が此方に駆け寄り、前方の状況を説明してくれた。

 

目的地までもう直ぐと言った地点で、大勢の人々が集結し騒ぎ立てているのだ。

その人々の大半は、西方辺境街の住民達だ。

しかも街道沿いを占拠しているものだから、馬車も通るに通れず停車も止むを得なかった。

既に騒ぎの原因は判明している。

 

「ま、見た方が早いわな」

 

 重戦士の先導で、皆は彼に続く。

他の馬車からも冒険者が降車し、重戦士へと追従する。

人だかりの後方からでも、それはハッキリと視認できた。

 

建造物だ。

 

前方を見渡す冒険者たちの正面には、古びた建造物が鎮座していたのである。

 

「おいおい、何じゃ…ありゃぁ…!?」

 

「遺跡…かしらね?」

 

 かなり近くに在るのだろう。

見上げる様に、鉱人の斧戦士と妖精弓手は目が釘付けとなっていた。

石造りで所々が綻び朽ちかけた建造物だ。

とても人が住んでいる様には見えない。

間違い無く遺跡の類であろう事は、容易に判別できた。

 

「しかしよ、こんな遺跡あったか?」

 

「いえ、ここら近隣は唯の盆地だった筈です」

 

 槍使いの質問に答える半森人の軽戦士。

彼が述べた通り、ここ近隣は特にこれと言った特徴も無く、精々小高い盆地の点在する土地であった。

軽戦士の記憶違いでなければ、彼等が水の都に出発する前は、古びた遺跡は無かった筈だ。

つまり、眼前の遺跡は忽然と出現したという事になる。

しかも遺跡から少し視線を外せば、辺境の街が視認できるではないか。

遺跡と街の距離は思っていた以上に近く、これなら住民達が挙って見物しに来るのも頷ける話ではある。

 

「この、遺跡、何な、のかし、ら」

 

「火継ぎの祭祀場」

 

「…けん、し、さん」

 

「間違いない。火継ぎの祭祀場だ」

 

「ジークバルドさんまで」

 

 魔女の問いに答えたのは、灰の剣士とジークバルド。

彼らは揃って『火継ぎの祭祀場』だと語る。

 

「マジなの?じゃあ先日話していた建物、早速見付かったじゃん!」

 

 その言葉を聞いたライザは、昨晩の出来事を思い返していた。

不死の女の呪いを解く為に必要となる素材には、『穢れた火防女の魂』が不可欠という結論に至った。

だがそれは、火継ぎの祭祀場に安置されている遺体から入手する必要があった。

しかし肝心の火継ぎの祭祀場の所在自体が判明していなかったため、行き詰まりを滲ませて訳だが、ライザの言う様に今、目の前にこうして佇んでいる。

 

「この様子だと、ある程度調査が行き渡っているようだな」

 

 ゴブリンスレイヤーも馬車から降り、件の遺跡を一望している。

灰の剣士が探し求めていた遺跡が目前に在る。

状況に一応の進展が見られた訳だが、既に多くの衛兵が動員され遺跡を包囲していた。

ロープと杭で簡易的なバリケードを築き、野次馬と化した街の住民を必要以上侵入させない様に警戒態勢に臨んでいた。

調査の進展具合を確かめたかった。

灰の剣士たちは、周囲に視線を泳がせ現場の責任者を探り当てる。

とにかく目的を果たせねばならないが、下手をすれば既に持ち去られている可能性も否定できない。

衛兵が取り囲む一角に、上質な貴族服に身を包んだ数名の人物を見付ける事が出来た。

数名の人物の中には、見覚えのある者が混じっている。

どういう事だろう?

灰の剣士たち一行は、責任者らしき集団へと歩を進めた。

 

「貴方達も派遣されていたのか、アンドレイにオーベック」

 

 集団に混ざっていた人物とは、武器工房の鍛冶師アンドレイとヴィンハイムのオーベックだった。

二人共、外出用の上質な礼装に身を包んでいる。

特にアンドレイに至っては、完全な貴族然とした佇まいだ。

彼も元は貴族の国『アストラ』出身だ。

そういった教養を身に付けていたとて何ら不思議ではない。

 

「おやおや、誰かと思えば」

「ようアンタ、まだくたばってなかったか」

 

 出で立ちとは対照的に、普段通りの振る舞いで灰の剣士達を出迎える。

 

「皆さま良くぞ、ご無事で戻って来て下さいました」

 

「司祭長様まで居られたとは意外でした。――おっと失礼。灰の剣士以下一同、只今を以て任を終え、帰還いたしました!」

 

 アンドレイとオーベックの傍に居たのは、地母神神殿を預かる司祭長その人であった。

彼女が何故此処に居るのかは定かではない。

だが灰の剣士一行は姿勢を正し、司祭長に向き直り依頼終了の旨を宣言する。

 

「ホッホッホ…、私ではなくギルドに報告しなければ意味がありませんよ」

 

 そんな彼等を見た司祭長は、たおやかに微笑む。

よく見れば彼女は普段の修道衣ではなく、煌びやかな貴族服を纏っている。

一体どういう事だろう。

彼女は貴族階級の出身なのだろうか?

思わず気なった灰の剣士は、つい訊ねてしまう。

 

『不敬なるぞ!”ご領主様”に向かって!』

 

 突如お咎めの言葉が飛ぶ。

司祭長に仕える複数の付き人の一人から叱責を受けた。

 

「ご…ご領主様…?」

 

 その言葉に灰の剣士は面食らう。

 

「知らなかったのかアンタ?」

 

 つられてオーベックからも呆れに似た声が向けられた。

そう――。

彼女こそが、地母神神殿の長にして西方辺境を管理する”領主”でもあったのだ。

つまり彼女は、領主と司祭長を兼任しているという事になる。

灰の剣士が、この辺境に流れ着いて一年前後――。

今迄一帯を束ねる領主に関わった事がなく、その所在は疎か顔さえも目にした事はなかった。――そう誤認していた。

しかし実際には、初期の頃から深く関わっていたという事になる。

司祭長としての彼女とは何度も関わりを持ったが、まさか領主でもあったとは…。

身に付いた品格と教養から、位の高い上流階級である事は薄々と感じていたが、こうして口に出されるまで気付く事はなかった。

司祭長が領主なら、オーベックやアンドレイが正装で付き添っているのも一定の説明が付く。

 

「も、申し訳ありません、ご領主様!ご無礼をッ!」

 

「ホホホ、良いのですよ。告げずにいた私にも非が御座います、面を挙げて下さい」

 

 司祭長が領主でもある事を告げられ、灰の剣士は咄嗟に跪き平伏しながら無礼を詫びる。

当然他の冒険者も彼に倣い挙って跪いたが、彼女は面を上げるよう求めた。

灰の剣士のみならず他の面々も、彼女が領主である事実には今まで気付かなかったようだ。

予め知っていたのは、女騎士や獣人魔術師と言った上流階級や知識層の教養ある人物だけだった。

だが、普段冒険者稼業を続けるにあたり、街を納める領主と関わるなど然う然うある事ではない。

等級がそれ程高くはない彼等の大半が知らぬのも、無理からぬ道理と言えよう。

 

……

 

火継ぎの祭祀場の調査具合を知る事が出来た。

司祭長(領主)も、眼前に佇む遺跡が火継ぎの祭祀場という事を初めて知ったようだ。

過去に灰の剣士から情報は提供されていた為、この遺跡がどの様な役割を持つのかはある程度認知している。

調査の進捗具合だが、ゴブリンスレイヤーの憶測通り多少は調査の手が及んでいた。

しかし、ある()()に直面し、現在はその処理方法に苦慮している段階で調査が停滞していた。

それは祭祀場の隣に位置する高く細い塔にて、大勢の干乾びた白骨遺体が発見された所為だ。

服装や骨格からして、それが皆、女性の遺体である事は判明した。

しかし情報が余りに乏しい為、過去の記憶と情報を張り巡らせた司祭長(領主)は、この遺跡が『火継ぎの時代(ダークソウル3)の産物』である事実に辿り着く。

だが時期的に肝心の灰の剣士本人は、ダークゴブリン討伐戦に参加しており不在であった。

そこで急遽、火継ぎの時代の住人であるアンドレイとオーベックを招致する事になった。

アンドレイやオーベックの事は、ギルドから情報が寄せられていた為、ある程度の素性は理解していた。

そして二人の見解を聞き、大勢の遺体が過去に役割を終えた火防女の遺体である事が明らかとなった。

当然、アンドレイもオーベックもソウルの感知が出来る。

白骨遺体には、ソウルは欠片ほども残留していない為、自然状況下で亡者化する事はないとの事だ。

その事に一抹の安堵を覚えたが、今度は遺体をどう処理するかの問題に直面した。

あまりに数が多い。

ここ西方辺境は、地母神の影響が強く教義に則り埋葬が主流である。

だが一人一人手順を踏まえ葬れば、棺桶の資材と葬る墓地の土地が足りないのだ。

では、火葬で弔うべきではないのか。

確かに火葬し、その遺灰を大地に帰せば、現在の問題は解消する。

だが、此処には敬虔な地母神信徒が数多く、教義の違いから少々口論に発展していた。

端から見れば正に下らない些事で揉めているように思えるが、信徒にとってはそうでもないらしい。

そういった要因で、現在は調査が停滞していたのである。

 

「しさ…失礼しました、ご領主様。実はご提案が御座います」

 

「いつも通りで良いですよ灰の方。――して、どの様な案が?」

 

 この状況を好機と見た灰の剣士は一礼し、司祭長に一つの案を提示し彼女も耳を傾けた。

だが詳しい事はギルドにて報告を含めて話す旨を伝え、司祭長に同行を願い出る。

不死の女の件も含め、地母神神殿にも関係した内容だ。

この内容は、流石に司祭長も無下にする事は出来ず、後ほど向かうという事を伝えた。

一通りの交渉が済み、灰の剣士たちは再び馬車に乗り込みギルドへと向かった。

 

因みに大量に見つかった火防女達の亡骸は、少々揉めながらも火葬される案が採用される事になった。

 

……

 

(推奨BGM ゴブリンスレイヤー ―― ギルド )

 

 意外にも賑わいを取り戻していた、西辺境の冒険者ギルド。

他の冒険者たちは、灰の剣士たちより一足早くギルドに帰還しており以前と同じように賑わいに包まれていた。

灰の剣士たちがギルドに帰還するや否や、周囲の視線は彼等に集中した。

矢張りというか案の定というか――。

しかし、剣の乙女関連の件で注目されている訳ではなかった。

それもその筈――。

剣の乙女の叱責を受けたのは、今日の朝だ。

その現場を目撃したのは、彼等を含めた一部の関係者だけだ。

まだ伝達されていないという事だ。

 

「灰の剣士だ…!」

「あの一騎討ち、凄かったよなぁ…!」

「山脈が丸々吹き飛んだんだぜ!?」

「あのゴブリンスレイヤーなんて、巨人化したんだぜ!?」

「目の前で見ても信じられねぇよ…!」

「これで、ブサメンじゃなければねぇ…?アタシが一緒に”寝て”あげたんだけど」

 

 本人の思惑とは裏腹に、比較的好意の声が耳に届く。

あの戦いは、皆の記憶に深く刻み込まれているのだろう。

 

『お帰りなさいませぇ!皆の無事の帰還、お待ちしておりましたぁ!』

 

 彼等の姿を目にした三つ編みの受付嬢が、満面の笑みを浮かべ彼等を迎え入れた。

後は詳細を報告すれば、この依頼は完全に終える事が出来る。

僅か数日間の戦いだったが、まるで長期に渡り遠征を行った心境だ。

皆の身体は健常そのものだが、”漸く帰って来た!”という妙な安心感に満たされ、全身が重みが圧し掛かった。

 

「帰還して早々に申し訳ないのだが、談話室の用意とギルド長を呼んで頂けるだろうか?どうしてもお伝えしなければならぬ報せがある」

 

 カウンターに着くなり、灰の剣士は早速用件を伝える事にした。

ダークゴブリン戦の詳細も重要な案件だが、寧ろその後に起こった出来事を伝えねばならない。

 

「ぎ、ギルド長も交えてですか?」

 

「ああ。後で、しさ…ご領主様も御到着される筈だ。頼む」

 

「え?あ…畏まりました。少々お待ち下さい!」

 

 いきなりギルド長と領主について言及され、焦燥と困惑の入り乱れた動作で受付嬢は手早く動き出す。

周囲もその様子を目にしており、俄かにギルド中が騒がしくなった。

ギルド長は元より、この地方を納める司祭長こと領主を交えての談話が始まるのだ。

只事ではない。

そう察した冒険者たちの憶測が次々と飛び交った。

 

「ねぇライザ。あの剣士さん、結構有名みたいね」

 

「そうみたい。変な事にならなきゃいいけど」

 

 騒々しくなるギルドを目にしたルルアは、ライザにそっと耳打ちする。

間違い無く剣の乙女について言及する筈だ。

これから起こる事に些かの不安を覚えながらも、小さな溜息を零すライザだった。

 

……

 

   ―― 冒険者ギルド・2階談話室 ――

 

ギルド室に設けられた特別な用途に使われる部屋だ。

重要な談合に使われるほか、冒険者の昇級審査に利用される事もある。

今は、灰の剣士を含めた複数の冒険者と、それに対面するかのようにに複数のギルド職員とギルド長、領主が座している。

 

「なる程ね。よく分かった」

 

 一枚の紙面を卓の上に置き、ギルド長は、ゆっくりと灰の剣士へと視線を寄せる。

一見柔和な面持ちだが、このギルドを統括する立場なだけの事はある。

重く受け止めているのだろうか。

感情の読み取れぬ彼の表情は、底知れぬ迫力が滲み出ていた。

 

「聞いていいですかい?その手紙には、何て書いてあったんです?」

 

 灰の剣士の他には一党の頭目を務める重戦士も参加していた。

大方の内容は察していたが、気になった彼はギルド長に質問する。

 

「君達が見聞きした通りの内容だよ。まぁ後は、神官戦士長自身の見解と意見が記されているだけだがね」

 

 何事もなかったのかの様に、飄々と語るギルド長。

この書面は、法の神殿に努める神官戦士長が(したた)めたものだ。

 

その彼が記した通りの内容が、ギルド長から語られる。

 

先ず、灰の剣士が善良な小鬼の存在に言及し、剣の乙女から過剰な暴力と叱責を受けた事。

更に法の神殿及び水の都から、一切の立ち入りを禁じられた事。

そして現在別室にて保護されている、不死の女に対する解呪の任を帯びた事。

 

概ね彼等の知る内容と一致している。

しかしこれだけなら態々、神官戦士長が書面をギルド長宛てに送る筈がない。

更にギルド長の言葉は続く。

ここから先は戦士長の見解が綴られていた内容だ。

 

高い確率で剣の乙女が、灰の剣士に対する処遇について介入して来るだろうとの事。

恐らく降格処分や冒険者剥奪を打診する公算が高い。

しかし、これは大司教の激情に駆られた行動にほかならず、国営組織として冷静に対応して欲しいという要求。

彼の功績と実力は、これからの混沌勢との戦いに於いて非常に有用に働くという事。

そしてこれらの内容は、ここだけでなく既に王都にも通告済みであるとの事だ。

他にも、灰の剣士による戦での行動が事細やかに記されていた。

 

一通りを語り終えたギルド長。

談話室内は静寂に包まれる。

 

「じゃあ、コイツの昇進の話は――」

 

 ダークゴブリン討伐を受けた冒険者全員が、昇進対象となる。

此度の依頼には、そういった内容も含まれていた。

だが灰の剣士に対してだけは、依頼主である剣の乙女からの叱責と失望を買ってしまった身だ。

本来なら昇進対象に加えたい処だが、近日中に剣の乙女自身から降格の要求が来た場合も考慮しなければならない。

冒険者ギルドは決して彼女の私物ではない。

さりとて、なまじ大司教という権威ある立場の彼女だ。

況してや依頼主である彼女の要求を完全に拒絶する訳にもいかない。

気になった同期戦士は、灰の剣士に対する処遇を聞かずにはいられなかった。

 

「結論から言おう」

 

 ギルド長は短く応える。

彼の処遇については『保留』するとの事だ。

しかしその時である。

 

「――私は断固として反対です!」

 

 突如として席を立ち、声を大に叫んだのは監督官のギルド職員だった。

 

「この男は、仮にも依頼主であり我ら至高神の大司教様を失望させ、ギルドの信頼を失墜させたのですよ!厳罰に処するべきです!」

 

 彼女の表情は憤怒に彩られ、今にも飛び掛からん勢いだ。

もはや隠そうともせず、敵意を灰の剣士に向けている。

考えてみれば彼女の怒りは当然とも言えた。

監督官自身も、至高神の信徒で司祭の役職を持つ高位の聖職者なのだ。

加えて彼女個人としても、至高神の大司教である剣の乙女には崇拝に近い憧れの感情を抱いている。

そんな高貴な彼女に対し、眼前の男――灰の剣士は不遜を働いたのだ。

一冒険者とそれを受け持つ職員という間柄だが、彼とはそれなりに気心の知れた関係だった。

それだけに彼の行動は、余計に腹立たしく目に付くのである。

出来るなら自らが剣の乙女に代わり、100発でも200発でも殴り飛ばしてやりたい気分だ。

今の彼女は、監督官という立場を忘れ個人の感情で動いていたが、それが人間というもので自身もまだ年若い女性だ。

全てを呑み込み公正に振舞うなど、今の彼女は若く幼かった。

 

「……彼の事はよく分かった――が、君達は大司教様から何か叱責は受けたのかね?」

 

 監督官の言葉に聞く振りをしながら受け流したギルド長は、灰の剣士以外の冒険者にも質問する。

 

「いえ、これと言ったお咎めを受ける事はありませんでした」

 

 女騎士が代表で応える。

そもそも剣の乙女より見限りを付けられたのは、灰の剣士ただ一人だけだ。

他の冒険者に対しては、寧ろ正反対と言うべき感謝と労いの言葉を掛けられていた。

そして”今後とも宜しく”といった旨を投げ掛けられ、彼女らに対しては好意的と言える対応さえ見せていた。

叱責を受けた灰の剣士は西方所属の冒険者だが、同時に女騎士らも同じギルドに所属する冒険者だ。

激昂した監督官は”ギルドの信頼を失墜させた”と喚くが、それは灰の剣士に対してのみだという事が判る。

即ち、西方ギルド自体の評価は相対的に観れば、向上していると言っても相違ないだろう。

つまり、評価が下がったのは灰の剣士個人だけという事になる。

だが個人とはいえ、剣の乙女自身からの評価と失望を買ったのは確かだ。

個人の見解と私情に基き処罰するのは、厳に慎まれねばならない。

常に公正で広い視野で物事を鑑み、冒険者たちに適正な評価を下してゆく。

それ故に、ギルド職員には高い教養が求められ、その為の教育機関さえ存在するのだ。

依頼主と地方支部とはいえ、国営組織を預かる身のギルド長だ。

公正な判断を下さねばならず、『保留』という形で手を打った。

 

当たり障りのない責任逃れでは?

 

そう言われてしまえば身も蓋もないが、これに関しては中立の立場を取る事がベターだと判断した次第である。

ギルド長の決定に不満を噴出させる監督官だったが、立場上逆らう訳にもいかず渋々を席へと戻る。

 

”覚えてなさいよ!”

 

そう言わんばかりに怒りも隠そうとせず、彼女は灰の剣士を睨み続けた。

 

「さて、君の処遇は此処までで良いだろう。後は、例の女性の件だな」

 

 灰の剣士個人に関しては、ある程度の結論が出た。

さて、寧ろここからが本題と言っても過言ではない。

一区切りを付けたギルド長は、次の議題へと移るべく、隣に座す司祭長(領主)へと視線を送る。

 

「では――」

 

(推奨BGM ゴブリンスレイヤー ―― 過去からの呼び声 )

 

 次は司祭長主導で話が進められた。

その内容は、最早語るべくもない。

ダークゴブリン本拠点である廃村にて救出した、不死の女についてだ。

既に地母神神殿での保護を求められており、この件に関しては円滑に事が運んだ。

問題は寧ろ、彼女に対する解呪に関して集中した。

 

「つまり『火継ぎの祭祀場』の調査は、貴方が受け持ちたいというのですね。灰の方?」

 

 帰還途中目撃した火継ぎの祭祀場。

数日前に忽然と出現したらしく、当時の街中は、かなり混乱を来たしたものだ。

冒険者よりも先に街中の衛兵たちが場を包囲し、調査は街の領主である司祭長側の主導で行われた。

灰の剣士からの話では、不死の呪いを解くには『穢れた火防女のソウル』が必要であるという旨を聞き及んでいる。

事情の知らぬ冒険者の調査が届く前に回収しておきたかった。

 

「貴方に調査させる事自体は、何ら問題ありません。しかし、此方も幾つか条件を提示させて頂きたいのです」

 

「可能な限り遵守いたします」

 

 灰の剣士を調査に向かわせる。

これに関しては特に抵抗感はない。

寧ろ、火継ぎの時代に縁深い建造物だ。

ならば、直接関わりの深い人物に担当させるのは、当然とも言える。

だが全てを彼の自由にさせるとなれば、少々事情が異なる。

此方側が確保した以上、主導で調べ上げ解明する必要があった。

もしも重要な文化資料が残されていた場合、下手に持ち去られ乱雑に扱われては、それ等の重要文化財が喪失する危険性も孕んでいた。

更にオーベックの見解では、火継ぎの祭祀場は比較的良好な状態で殆ど風化が進行していないと言う。

恐らく流れ着くまで、別の次元にて存在し続けていたのだろうと結論付けていた。

それなら尚の事調べ上げる価値は高まり、可能な限り傷を付けたくなかったのである。

故に、司祭長は調査を委任するに当たり、幾つかの条件を提示したのである。

 

一つ、発見し持ち帰った物は、全て此方側に進呈する事。

一つ、単独行動は慎み必ず複数名で行動し、オーベックとアンドレイも同行者として加える事。

一つ、もし必要な物が見付かった場合は、此方に申請した上で判断を下すと言う事。

一つ、報酬は歩合制であると言う事。

一つ、必ず全員無事に帰還する事。

 

これ等の条件が示され、灰の剣士も特に反論する事はなかった。

何という事はない。

彼にとって必要なのは、『穢れた火防女の魂』だけであり、彼以外にソウルを扱える人物など辺境には存在しない。

ここには現在、ジークバルドやアンドレイ、オーベック等も居るが、彼等にとってソレは無用の長物だ。

反対する理由は一つとして存在しない。

 

「――して灰の方、何時出発なさるので?」

 

 任せる以上、余り期間を開けるのは憚られる。

出来れば早期に事を起こして貰いたいが、彼等は激戦を生き残り漸く帰還を終えた直後だ。

幾許かの休養は必要だろう。

しかし、灰の剣士からの返答は意表を突くものだった。

 

「今すぐにでも」

 

「「「「「「……!?」」」」」」

 

 これには、司祭長だけでなく周囲も唖然となる。

まさか、今直ぐに発とうと言うのだから。

流石に無理が祟るのでは?

司祭長なりに彼を気遣い休養を勧めるも、彼は”問題ありません”との一点張りだ。

実際、彼は馬車に乗せて貰い数時間を過ごしたに過ぎない。

今は昼過ぎだが、戦闘も探索も特に熟した訳でもなく、あの激戦の傷も完全に癒えていた。

つまり彼は、ほぼ万全のベストコンディションに近い状態だ。

何も支障はない。

加えて火継ぎの祭祀場は、嫌という程構造を知り尽くしており、彼にとっては庭も同然なのだ。

本来なら単独行動を望んでいたが、”何名かを同行させよ”との条件を降られては従うほかない。

彼は、周囲に同行希望者を確認した。

 

「なら、先ずは私だな!」

「騎士さんが行くんなら、アタシもさね!」

 

 先ず名乗りを上げたのは、ジークバルドと女部族。

彼等に続き、何名かが同行を希望した。

重戦士と女騎士に同期戦士だ。

後のメンバーは一階にて待機している為、後ほど訊ねてみる事にする。

因みに槍使いと魔女は、乗り気ではないのか棄権した。

 

余談だが、隣の部屋には不死の女が保護されており、中には三つ編みの受付嬢が付き人として待機し、ゴブリンスレイヤーは自ら率先して部屋の入り口で見張り役を買って出ていた。

不死の女と彼に何の関係が――?

思わず尋ねる受け付け嬢だが、不死の女は人格が破綻しているため支離滅裂な言葉を返すのみで要領を得ない。

加えてゴブリンスレイヤーは、知り合いに似ている以上の答えを返そうとしなかった。

 

こうしてギルド長と司祭長を交えた談合は、一先ず終わりを迎え彼等は解散となる。

その間も監督官は、灰の剣士を睨み付けたままだった。

 

一階へと降りた灰の剣士たち。

直ぐにでも火継ぎの祭祀場へ向かう意向を伝え、参加者の返答を待った。

 

「しょうがないなぁ。灰君一人だと心配だし、あたしも付いてってあげる!ルルア達はどうする?」

 

 ライザが即座に参加する意思を示し、ルルア達にも参加意思の是非を確認した。

 

「早速冒険なんだね。もちろん私達も行くよ!」

 

 ライザに釣られルルア、エーファ、オーレルも参加を表明する。

 

「やっと真面な冒険に出会えたわね!()()()()は戦で、冒険とは呼ばないもんね。私も参加させて貰うから」

 

 次に参加の意を示したのは、妖精弓手だ。

彼女にとって、ダークゴブリン戦は冒険として認識していなかった。

火継ぎの祭祀場は比較的小規模の遺跡だが、こういった未知なる領域の探索こそが、彼女にとっての冒険(本質)なのである。

 

「あ、じゃあ、アタシも参加します!まだまだ動けますよ!」

「オーベック殿も同行されるのなら、私も随伴させて貰いましょう」

 

 他には銀髪武闘家と獣人魔術師が、参加を名乗り出た。

後のメンバーは、参加を見送りギルドへ残る事になった。

 

「小さな遺跡だが、1時間の準備時間を設ける!街の入り口にて集合、出発する、以上解散!」

 

 灰の剣士が集合場所と予定時刻を簡潔に伝え解散となった。

参加メンバーは、次々とギルドを後にし灰の剣士も外へと出る。

その後、灰の剣士の姿が見えなくなった途端、ギルド内が急激に騒がしくなった。

 

「おい、聞いたか?アイツ、剣の乙女と揉めたんだとよ!」

「何でもゴブリン関連らしいぜ!?」

「善良なゴブリンが、どうたらって話だ」

「フルボッコに殴られたんだとよ!?」

「たかがゴブリン程度で、そんな事案に発展するのも変よ?」

「大方、エッチな猥談でも吹っ掛けたりしてね?」

 

 早速、様々な憶測交じりの影口が囁かれギルド内が歪な盛り上がりを見せる。

 

――なんだか不安だわ、大丈夫かしら…あの人?

 

参加を見送っていたゴブリンスイーパー。

次々と無責任な言葉を吐く冒険者たちに視線を送り、灰の剣士の展望に言いようのない不安を抱いていた。

本来、昇進する筈の灰の剣士。

しかし依頼主である剣の乙女との軋轢により、彼だけが昇進を見送られる結果となった。

昇進したばかりの認識票を握り締めるゴブリンスイーパー。

今や彼女の認識票は”青玉等級”を示しており、中堅冒険者の仲間入りを果たしていた。

 

……

 

(推奨BGM ダークソウル3 ―― 火継ぎの祭祀場 )

 

 準備を終えた一行は街を発ち、火継ぎの祭祀場前へと集結していた。

小高い盆地の中心部に佇む姿は、正に遺跡といった風情で絵になった。

ここ等一帯は草原に覆われていたが、火継ぎの祭祀場に近付くにつれ石造りの荒れた地に変貌している。

衛兵たちが野次馬の侵入を見張る中、灰の剣士一行は祭祀場へと歩を進める。

 

「お墓…かな?一杯ありますよ」

 

 祭祀場の周辺には、半ば朽ちかけた墓石が散乱していた。

外気に当てられ風化したのだろうか。

欠けた物や倒壊した墓石も存在し、その殆どの文字がかすれ誰を弔ったのかも定かではない墓ばかり。

銀髪武闘家は、目まぐるしく周囲を見回す。

もともと『灰の墓所』と『火継ぎの祭祀場』は一つの地域(エリア)で構成されていた。

だが四方世界に流れ着くにあたり、それぞれがこうして切り離され独立した姿を見せている。

火継ぎの祭祀場周辺も多数の墓で埋め尽くされ、灰の墓所の名残を彷彿とさせた。

 

灰の墓所と火継ぎの祭祀場――。

片や年月が進み緑に侵食された墓所。

片や当時の面影を残したまま鎮座する祭祀場。

 

かの時代を知る、灰の剣士、ジークバルド、オーベック、アンドレイ。

彼等の胸中には様々な感情が入り乱れていた。

一方他のメンバー達は、珍しそうに周囲に視線を這わしている。

荒れ果て殆ど体を成していない石階段を登った一行は、入口へと辿り着いた。

 

「灯りは必須か」

 

 夕暮れにはまだ時間の余裕があるものの、入り口奥が暗闇に包まれているのは此処からでも容易に判別できる。

オーベックの言う通り、各々がランタンや松明に火を点け視界の確保を整える。

 

「これから二手に分かれ探索したい」

 

 灰の剣士は周囲に声をかける。

この火継ぎの祭祀場。

外からでは分かり辛いが、実は地下や上層側にも空間が拡がり予想以上に広大な造りをしていた。

皆が一丸となり探索していたのでは時間ばかりを浪費してしまう。

此処で二手に分かれ、効率的な探索を提案した。

 

「魔物とか潜んでたらどうするのよ、灰君?」

 

 不安げな表情を浮かべ、ライザが訪ねてくる。

祭祀場を良く知る灰の剣士たちは兎も角、ライザ達には全く未知なる遺跡なのである。

更に内部は完全な暗闇に覆われ、視界の確保には灯りを必要としていた。

これで不安を覚えない方が不自然というもの。

何があるかも分からない状態で戦力を割くという方針に、ライザのみならず他のメンバー達も警戒を覚えていた。

 

「安心せい、嬢ちゃん!敵は居ねぇからよ」

 

「暗い分、寧ろ足許に気を付け給えよ」

 

 そこへアンドレイとジークバルドが、敵は存在しない事を伝える。

かの時代、火継ぎの祭祀場は神聖な儀式を行う場で、不死人達にとっては一種の憩いの場でもあり家同然でもあった。

火が陰り、あらゆる生命が色褪せる中、火継ぎの祭祀場だけが唯一の癒しの聖域でもあったのだ。

其処には問答無用で襲い掛かる敵は存在せず、数少ない真面な意識を保った不死人達が身を潜め様々な思惑が入り乱れていた。

それもこれも全ては篝火の恩恵によるもので、来訪者たちは僅かな温もりに身を委ねたものだ。

だが現在は、中心に在る筈の篝火は無く、昼間にも拘らず内部は暗闇に包まれている。

うっかり足を踏み外し、高所から落下する事に気を配る必要があるだろう。

 

「私は上層部に向かうが、皆はどうする?」

 

 記憶違いでなければ、目的のソウルは上層部に安置されている筈だ。

灰の剣士は入り口を経由し、上層部へと向かう方針を伝える。

 

「暗い所より明るい方が良いかな?あたし、灰君に付いて行くね!」

 

 ライザを含めたルルア達は、灰の剣士と同じく上層部へ追従する事にした。

 

「では残りは、俺達に同行してくれ」

 

 後のメンバーは下層側を担当する事になり、オーベックが先導する事になる。

 

「では後で合流しよう。一応気を付けてな」

「そっちもな!」

 

 灰の剣士と重戦士は互いに言葉を交わし、いよいよ火の祭祀場への調査が始まった。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

毒の苔薬

 

洞窟苔を用いた緑色の丸薬。

製作可能なアイテムのひとつ。

毒の蓄積を軽減し、毒状態を癒す。

 

ロスリック近辺にて採取できる、毒紫の苔玉と同様の効果。

 

しかし、『毒の苔薬』と『毒紫の苔玉』の効果の優劣について議論する知識人達も存在する。

後に彼等は、一冊の本を生み出した。

それは、苔の味について記した()()()()()()()()()学書だった。

 

因みに双方とも非常に苦味がある。

前者は口内でジワリと広がる苦味。

後者は口内で突き刺すような苦味があると言う。

 

毒は徐々に蓄積し、たまりきると毒状態となる。

毒状態はしばらく続き、HPが減り続ける。

 

必要素材:ヘルバ×1・洞窟苔×1・大トンボの頭×1

値段  :銀貨 1枚~3枚

 

 

 

 

 

 




 漸く西方へと帰ってきた一行。
そして瞬く間に広がった、灰の剣士と剣の乙女との確執。
案の定というか何というか、監督官からも敵意を向けられました。
まぁ彼女も同じ至高神の信徒であり、司祭という何気に高位の聖職者。
ある意味、当然の反応なのかも知れません。
実際、剣の乙女に嫌われたら街の住民達は、どういった対応を取るんでしょうか?
中々判断に困る部分があり、自分で勝手に決めさせて頂きました。

如何だったでしょうか?
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
デハマタ。( ゚∀゚)/
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