ゴブリンスレイヤー ―灰の剣士―   作:カズヨシ0509

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 ドーモです。
ぶっちゃけ、暑いの一言です。
一部の地域では40度超えもザラで、日差しだけで火傷しそうな程です。
皆さんも熱中症には充分お気を付け下さい。

では投稿致しますドゾ。( ゚ ω ゚ ) 


第98話―火継ぎの祭祀場・(後)―

 

 

 

 

 

 

穢れた火防女の魂

 

彼女は篝火を保ち、また一人の英雄に仕えその暗い穴すら癒し受け容れたという。

故にその魂は汚れてしまった。

そして火防女の魂は、また火防女に宿るものだ。

 

深淵とは何を指すのか。

知識をひけらかす愚者は、みな挙って口を開く。

 

闇が全てを覆うのだ、と

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

デエェェ ―― 火継ぎの祭祀場 ―― ェェェエン

 

主要な人員が集い、探索が開始された。

予定通り、上層組と下層組の二手に分かれ調査する手筈だ。

 

「では、後程合流しよう」

 

「おう!高所からの落下には気を付けろよ!」

 

 灰の剣士とアンドレイが互いに声を掛け合い、お互いが担当エリアへと歩を進める。

 

「各自、灯りを用意してくれ!」

 

 先ずは下層組に焦点を当ててみよう。

先頭はカタリナのジークバルドが担い、後続のメンバー達に指示を出す。

以前とは違い、祭祀場に設置された蝋燭は完全に火が消えていた。

今思えば不思議な蝋燭だった。

一度(ひとたび)火が灯れば、どれだけ時が流れようとも消える事がなかった。

特殊な魔力でも作用していたのだろうか?

しかし今は完全に途絶えている。

溶けかかったロウ自体は原型を留めていたものの、火の消えた内部は完全な暗闇に包まれていた。

視界を確保するには、持ち込んだ灯りが必須となる。

三人に一人の割合でランタンや松明を所持し、可能な限り視界を確保に努めた。

 

「結構、高低差があるぜ」

「意外と伽藍洞じゃないのさ」

 

 灯りを得た事で視認が可能となり、重戦士と女部族は内部の構造に驚きの声を上げた。

下に広がる空間は予想以上に広く、暗闇のまま進むのは確かに危険である事を悟る。

 

「前方に在るのは、玉座かしら?」

 

 松明を翳すものの、内部全域を照らすには少々心許なかったようだ。

しかし上森人の妖精弓手は先天的に暗視の瞳を有し、ある程度の暗がりでも融通が利く。

彼女以外には、朧げな輪郭程度しか認識できないようだ。

 

「その通り、嘗ての英雄達の玉座よ」

 

 ジークバルドが相槌を返す。

階段を下りながらも、彼の視線は一つの玉座へと注がれていた。

 

「確かに、灯りが無かったら足を踏み外していたかもしれんな」

 

 中心部に到達した一行。

女騎士は周囲に目を泳がせる。

古びていたのは分かるが、まだまだ施設として機能する程には原形が保たれていた。

風化して崩落するという心配は無いだろう。

外観からは風化が進行していた様に見えたが、内部は比較的にしっかりとした造りであったのだ。

 

「此処から奥にも空間が設けられている。俺に続いてくれ」

 

「私は玉座の方に立ち寄る。気にせず皆で行って来てくれ給え」

 

 中心部から更に通路が続いていた。

過去に、アンドレイやオーベックが居座っていた場所に繋がっている。

オーベックの先導に対し、ジークバルドは玉座の方で待機する旨を伝えた。

オーベックの案内に従い一行は、更に奥へと歩を進める。

其処には、石造りの台座らしき設備があった。

 

「うぉ、なんだこりゃ?石の台座に金床…?(←誰かさんの胸の事ではない)」

 

「ハンマーに火バサミ…、これって鍛冶道具に見えますよ?」

 

 通路の奥に佇む台座に、同期戦士や銀髪武闘家が鍛冶道具らしき道具を発見した。

それ等は、街の武器工房でよく見かける道具に酷似している。

誰かが此処でで金属物を鍛えていたのだろうか。

 

「お前さん等の言う通りだ。此処は鍛造設備で間違いない。よっと…!」

 

 そこへアンドレイが言葉を挟み、鍛冶道具を次々と回収してしまった。

敢えて周りには伏せていたが、ここは以前、彼が鍛造に従事していた場所だ。

火継ぎの祭祀場に流れ着き、どれ程の時が流れ過ぎたのかは彼にも分からない。

火の陰った時代で、時間の流れなど然したる意味は成さない。

だが相当長い間、此処で活動していた筈だ。

彼にとっては家にも似た想いが胸中に駆け巡り、台座と鍛冶道具に深い視線を落とす。

 

「俺は暫く此処に居るからよ、後はお前さん等だけ行ってきな」

 

 ジークバルドに続きアンドレイまでも、皆に先を行かせる旨を伝えた。

そして吸い込まれるかのように台座の前へと位置取り、回収した鍛冶道具を手に所持していた護身用の武器を何度も打ち付けた。

そんな彼の様子を、言葉もなく見守る周囲の面々。

まるで仕事をしているかのような動作だ。

アンドレイの視線は台座の一点を見つめ、唯々鍛冶道具を振り下ろす。

松明に照らされた彼の目は真剣そのものだ。

素人目に見ても分かる。

彼は意識を集中させ、今、()()に取り掛かっているのだ。

皆からは視認できないが、アンドレイの眼には確かなナニカが映っていた。

たとえそれが幻視だとしても、妙な迫力を滲ませる彼を止められる者は誰一人居ない。

皆もそれ以上何も言わず、黙って側面に設置された小階段を下りる。

彼等の背から、鎚の叩く音だけが小気味好く響き渡った。

 

小階段を下りた一行。

 

「此処で打ち止めだ。後は幾つかの空間に繋がるだけだな」

 

 オーベックの説明では此処が最下層だとの事。

 

「広い様な狭い様な…何か中途半端だったな」

 

「敵が居ないからでしょう。進むだけでしたからね」

 

 松明を周囲に掲げ、構造を確認する重戦士と獣人魔術師。

オーベックの言う通り、奥へと多方面に狭い通路が続いていた。

彼等も幾度となく冒険を繰り返し、中には遺跡探索の依頼も幾つか熟してきたものだ。

そして必ずと言っていい程、遺跡には敵と遭遇し討ち破ってきた。

だが、この火継ぎの祭祀場では全くと言っていいほど敵に遭遇する事もなく、嘘のように事が円滑に運んでいる。

それ故、彼等にとっては少々肩透かしを食らった心境に見舞われていた。

 

「――あ、何かあるわね!何かしら?」

 

 ここでも妖精弓手の暗視が発揮される。

暗い視界の中、彼女は奥の方に積み上げられた何かを発見した。

 

「こちらでも確認したぞ!」

 

 時を同じくして女騎士からも声が掛かる。

彼女も何か見付けたらしい。

各々が方々に駆け寄り、積み上げられた物を検分した。

それ等は、嘗て『盗賊グレイラッド』や『大沼のコルニクス』等が居た場所だ。

もう彼等は居ないが扱っていた道具類が、そのまま残されていたのである。

 

「これ等って回収して良いんだよな?」

 

「確か領主様の言いつけで、全て持ち帰る様に言われてましたよね?」

 

「ああ、全部回収してくれ!」

 

 同期戦士と銀髪武闘家が、掲示された条件に付いて確認し合い、オーベックが全て回収するように要請した。

そしてオーベックも当然の如く、過去に自分が居た場所へと赴き置き去りになっていた道具類を回収する。

それ等は彼の書斎から持ち込んだ書物や、かの時代で灰の剣士から受け取った魔法のスクロールなどが含まれていた。

 

「ものの見事に古代文字で記されていますね。残念ですが、解読には難儀しそうです」

 

「そうだな。回収した後、領主様に頼んで解読作業に勤しむという手もあるぜ?」

 

「それはそれは中々に、知識欲がそそられますな」

 

 オーベックにとっては既に過去の遺物に過ぎず、内容も全て脳内に記憶されている。

しかし四方世界の住民である獣人魔術師にとっては、未知なる領域が存在する正に『お宝』に等しい品だった。

オーベックから幾つかの書物やスクロールを受け取り、探索も忘れ視線が釘付けとなっていた。

 

「ああそうだ、忘れる処でした。この件が片付いた後、学院の推薦状は、私にお任せ下さい」

 

「そいつは有難い。宜しく頼むぜ、先生」

 

 ふと思い出したかのように、獣人魔術師は王都に門戸を構える賢者の学院の件について話す。

その学院への入学を希望していたオーベックだったが、条件の一つとして学院出身者からの推薦状の提示が求められていた。

推薦状の件は、灰の剣士からの請願で彼が用意する事になっていた。

彼も学院の講師を務めていた過去があり、彼からの推薦状なら学院も快く受け取ってくれるだろう。

そう遠くない内に王都へと旅立つ予定を立てていたオーベックは、獣人魔術師に謝意を示した。

 

皆が手分けし、通路を隈なく探索してゆく。

嘗て住人が居たであろう箇所には、幾つかの道具が残されており、彼等は回収作業に当たった。

特にグレイラッドが残した物資は種類が多く、馴染みの深い武具なども見付ける事が出来た。

何という事のない遺跡探索だと踏んでいた彼等だったが、思いのほか多くの収穫物に心を躍らせる。

 

時代が移り変わり、役割を終えた火継ぎの祭祀場。

今や唯の遺跡と化していたが、過去の面影を色濃く遺している。

アンドレイ、オーベック、ジークバルド。

彼等は、この祭祀場に何を思うのだろう。

湧き立つ冒険者たちを余所に、彼等は物思いに過去を悼んでいた。

 

……

 

 時を同じくして、此方は灰の剣士率いる上層組。

下層組と別れ、彼等は一路上へと目指す。

 

「あ、何か有る」

 

 上へと続く螺旋階段へ向かう途中、ライザは積み上げられた道具類を見付けた。

用途の不明な小道具から武具の類まで、様々な物資が散在している。

 

――彼の居た場所か。

 

灰の剣士は秘かに記憶を掘り起こす。

ライザが見つけた場所――。

其処は、過去に『不屈のパッチ』が居た所だ。

最初に出会ったのは何時だっただろうか。

不思議な事に、ロードラン時代にも同名の人物に出会った記憶がある。

アンドレイと同様に過去から跨いで存在していたのか、それぞれの時代の独立した人物なのか?

その謎は最後まで解き明かされる事はない。

仮に四方世界で再開が叶い問い詰めた処で、はぐらかされるのが関の山だ。

本当に何者だったのか?

散々騙され出し抜かれた記憶しかなかったが、不思議と彼に悪感情は湧かなかったのだ。

彼もこの世界に流れ着いているのだろうか。

彼の遺した道具類を見つめながら、物思いに耽る灰の剣士。

 

「見た事も無い道具が一杯あるね」

 

「何に使うんだろう?」

 

 ライザに釣られルルアまでも、あれこれと道具類を物色していた。

だが灰の剣士の目的は、更なる上に在る。

回収も重要だが、此処で時間を浪費する訳にもいかない。

此処は下層組に任せる事にし、彼等は上を目指す事にした。

 

上に続く螺旋階段の塔。

 

今こうして見てみると、かなり風化が進み今にも崩落しそうな懸念さえ抱かせた。

 

「ねぇ大丈夫?崩れて生き埋めなんてないよね…?」

 

 不安げな表情を浮かべるルルア。

尤もだ。

今の生命溢れる四方世界の建造物と比較すれば、火継ぎの祭祀場の外観など崩壊寸前と判断されても可笑しくはない。

建物自体、所々に欠損と”ひび”が見られ、見る者に一種の不安感を煽るのだ。

 

「心配には及ばぬ。見た目以上に頑丈ゆえな」

 

――あの時とほぼ同じだ。殆ど変化が見られない。

 

幾度となく火継ぎを繰り返した灰の剣士。

何度も周回を繰り返した訳だが、とある周回の中でルドレスから耳にした事を思い出す。

 

火継ぎの祭祀場――。

 

当時は、隔絶した空間に切り離し存在させていたらしい。

よくよく考えてみれば思い当たる節は幾つもあった。

幾人かの薪の王達を玉座へと連れ戻した後、残りは血統の末『ロスリック王子』のみとなった。

しかし火の陰りは無情にも進行し、深紅に染まった空には気味の悪い黒ずんだ太陽が浮かび上がり、いよいよ終焉の空模様を描いていた。

だが不思議な事に、火継ぎの祭祀場の空は以前と変わる事はなかったのだ。

深紅に彩られた終わりの空と、色褪せながらも芽吹いた空。

灰の剣士や火防女達が居た祭祀場は、切り離され独立した空間に設けられていたのである。

最古の火継ぎを再現するにあたり、可能な限り安全性を考慮した上での措置なのだろう。

尤も火の陰った時代は、時空の相対性すら容易に歪み捻じ曲げられてしまう。

その様な芸当がまかり通ったとて何ら不思議ではない。

であれば、この火継ぎの祭祀場は今の今まで隔絶された時空に取り残されていたのだろう。

何が切っ掛けとなり、四方世界へと流れ着いたのか。

その原因までは分からない。

 

此処は彼の良く知る祭祀場で、大きな変化は殆ど見られない。

彼以外は慎重に歩を進めていたが、何も恐れる事はなかった。

螺旋階段の塔へと辿り着き、入り口は当然の如く扉が閉まっている。

だが鍵が掛かった様子は見られず、すんなりと開く事が出来た。

ギギギと、錆付いた不快な摩擦音が皆の耳を劈く。

四方世界の住民から見れば、確かに古びているだろう。

彼等が不安がるのも無理はない。

塔の螺旋階段を登り切った一行。

 

「ふわぁ…凄い景色…!」

 

 階段を登り切った先は、かなりの高所に位置する。

程よく吹く風は心地良く火照った身体を適度に冷やしてくれた。

高所から見降ろす景色に、エーファは感嘆の声を漏らし暫し見とれていた。

此処から一望すれば、辺境の街全域を眼下に納める事が出来る。

確かに素晴らしい絶景だ。

緑溢れる草原に、木々のひしめく樹海も遠方から確認できる。

恐らく街の住民は疎か司祭長さえも、未だ目にした事はない筈だ。

その絶景を目にしたエーファ=アルムスター。

つまり此処からの絶景を一番最初に目に納めたのは、彼女が”初”となった訳だ。

 

――少しこのままにしてやるか。

 

確かに美しい絶景ではある。

本音は直ぐにでも目的を果たしたい処だが、エーファを始めとしたライザ達も景色に目を奪われていた。

感動を覚える彼女達を急かすのは、流石に無粋というもの。

敢えて本音を口には出さず、灰の剣士は彼女たちが納得するまで合わせる事にした。

 

   ―― この先、絶景があるぞ ――

 

「愉しんで頂けたか?そろそろ先へと進みたいのだが、良いだろうか?」

 

 絶景を堪能する事数分――。

そろそろ良いだろうか?

頃合いを見計らった彼は、ライザ達に進行再開を促す。

 

「あぁ御免なさい!若しかして待たせちゃった?」

 

 ふと気が付いた様にエーファが慌てて振り返る。

だが彼は気にした風でもなく”構わぬ”と告げ、一行は歩みを再開した。

 

嘗ては真っ当な渡り橋だったのだろう。

一行の視界に映る、崩れかけた石橋。

石橋の先には、上に続く別の塔が佇んでいた。

 

「うぇえ…此処を渡るの?」

 

「手すりも無いな」

 

 脚が竦むライザと警戒感を露にするオーレル。

横幅としては、数人分が横に並ぶほどの余裕はある。

だが床は削れ崩れ去り、必要以上に凹凸を形成していた。

ただ渡るだけだが油断をすれば体幹を乱し、落下する恐れもあり少々危険には違いない。

調査の済んだ後、火継ぎの祭祀場は、どの様な措置が執られるのだろうか?

もし観光名所として開放するなら、補修工事が必須となるだろう。

このままの状態で街の住民に開放するのは、少々危険すぎる。

そんな事を思い浮かべながら一行は石橋を渡り、別塔の入り口に到達する。

錆付き歪んだ鉄格子を開ける灰の剣士。

蝋燭の灯かりは途絶え室内は完全な暗闇だが、松明を照らせば前方に『昇降機』が確認出来た。

 

「エレベーターか…動くのか?」

 

「――で、なければ困る」

 

 オーレルから見れば古代の遺跡だ。

そんな古びた昇降機が稼働するのかも疑わしく、灰の剣士に訊ねてみる。

だが、取り越し苦労だった。

彼等の心配をよそに、昇降機は難無く稼働し上へと移動を開始する。

だが彼らを支える手すりや壁などは設置されていない為、一度踏み外せば大惨事は免れない。

こういった辺りは、矢張り古い時代の産物である事を証明してしまう。

上へと到着し、漸く目的地へと辿り着いた。

 

「…此処だ」

 

「「「「……」」」」

 

 台座の上に安置されていた遺体。

無言で佇むライザ達にも構わず、灰の剣士は早急にソウルを回収する。

 

穢れた火防女の魂。

 

いざ手に入れば、拍子抜ける程にあっさりしたものだ。

 

「灰君?今のが?」

 

「そう、これが必要となる筈だ。まだ喜ぶのは早いがな」

 

 半ば暗闇がかった灰色の靄に似たソウル。

掌に浮かべるソレを目にしたライザたちは、不思議そうに凝視する。

 

「それが錬金素材になるんだよね?」

 

「いや、ソウル錬成を実施した後に素材とする」

 

 ルルアの言う様に、直接ソウルを錬金釜に投入する行為は避けたいところだ。

先ずはソウル錬成で、変化の過程と特性を見極めてから素材とするのが望ましい。

ソウルを直接錬金素材にするには少々危険度が高く、数多くの実験と検証が必要となるだろう。

それを試すなら、通常のソウルで事足りる筈だ。

あの時代は当時の火防女に手渡す事で目的を達成できたが、この時代では運用法が全く異なり未知の部分が多い。

慎重に慎重を重ねる必要がある。

 

「随分呆気なかったけど、これから戻るのか?」

 

「この(遺体)、どうしようか?」

 

 当初の目的はこれで達成された。

オーレルの言う通り後は皆と合流するだけだが、台座に安置された遺体を目にするライザは困惑している。

 

「葬るべきか」

 

 台座に安置されている以上、一種の供養には違いない。

恐らく宗教的意味合いもあるのだろう。

だが、このまま野晒しに放置するのは少々憚られた。

穢れた火防女の魂を所有していた彼女の正体を知る事は叶わない。

だが結果的に彼女のお陰で、一人の不死が救われる可能性が生まれたのは間違いない。

ならばせめて、この四方世界の流儀として供養して差し上げるのが本筋というものであろう。

 

「わかった、私が連れていこう」

 

 先導したのは自分だ。

灰の剣士自らが、故も知らぬ火防女の遺体を運び出した。

半ば白骨化した彼女を背負いロープで固定すれば、自分の両腕の自由を失う事はない。

遺体を損傷せぬよう各所をロープでしっかりと固定し、一行は再び階段を降り始めた。

 

「随分大きな釣り鐘もあったね。鳴るのかなぁ?」

 

 遺体の在った台座の真上には、巨大な釣り鐘が設置されていた。

火の陰りの到来を告げる巨大な鐘。

今思えば、あの鐘の音で灰の剣士は棺から目覚めた。

しかし火の陰りなど、不吉の到来以外の何物でもない。

もう二度と鳴らない事を願いつつ、彼は昇降機で下へと降りる。

 

「さて、主目的を達成した訳だが、まだ探索箇所は残っていてな。私は探索を続行するが、皆はどうする?」

 

 目的を果たした以上、この祭祀場に用はない。

このまま撤収すれば事は済む。

だが幾つかの道具は、まだ残された状態だ。

恐らくその場所は、灰の剣士しか知らないであろう。

ライザ達の行動指針を、彼は訪ねる。

 

「もちろん付いて行くわよ!ねぇ?」

 

「そうよ!ちょっとあっさりし過ぎだし」

 

 冒険というには少々物足りなかったのだろう。

これならクーケン島(故郷)の近隣を駆け回っていた時の方が、遥かに刺激があった。

ライザとルルアは、食い気味に探索続行の旨を伝える。

 

「承知した。一旦この人を預けて来るから、そこで待っていてくれ」

 

 これから赴く場所は身軽になる必要があり、遺体を背負ったままでは落下死の危険性がある。

敵も居ない祭祀場での事故死など、笑い話にもならない不様な死に様だ。

灰の剣士は一旦入り口付近まで下り適当な箇所に遺体を安置し、ライザ達の所へ再び戻って来た。

 

「待たせたな、では参ろうか」

 

「ねぇ灰君、ここで待たせたって事は若しかして…だよね?」

 

「その通り。先ずは此処を飛び降りる」

 

 戻って来た彼に対し、ライザは、おずおずと聞き返す。

ライザ達を待機させた場所は、螺旋階段の塔と昇降機の塔を繋ぐ石橋であったからだ。

いつ崩落しても可笑しくない様な、朽ち果て振り――。

その朽ちた部分が道標であるかのように、側面の眼下には祭祀場の天井が映っていた。

橙色の石造りの天井だ。

飛び降りるには、そこそこの高さがある。

加えて橙色の天井は斜面で、上手く角度を合わせ着地しなければ足首の捻挫や最悪骨折もあり得る。

また着地際に体幹を崩し、天井から地上へと転がり落ちる危険もあった。

 

「僕にとっては大した高さではないが、石造りに加え不安定な足場は少々厄介だな」

 

 オーレルは剣士で前衛職だ。

普段から体を鍛え、足腰の負担にも十分耐えうる肉体構造を有す。

だがライザ、ルルア、エーファは、純粋な戦士職とは言い難い。

彼女らの戦闘力もそれなりに備わっていたが、やはり女性であると言う事がどうしても懸念材料として気に掛った。

 

「無理して続く必要はない。危険を回避するのも冒険者としての判断だ」

 

 正直自分とオーレルだけで事足りる探索だ。

態々危険を冒してまで、ライザ達を連れ歩く必要はない。

躊躇いがちなライザ達に、もう一度意思の確認を取る。

 

「行くに決まってんでしょ!このライザリン=シュタウトをナめんじゃないわよ!」

 

 挑発されたとでも受け取ったのだろうか。

何故かムキになり、灰の剣士に食って掛かるライザ。

 

「…ならコレを渡しておく、念のためな」

 

「あれ?コレって…」

 

 灰の剣士は背負っていた道具をライザに手渡す。

それは円形の簡易グライダーであった。

ぶら下がり滑空するだけの単純な用途だが、落下速度を著しく低下させる働きがある。

比較的体重の軽い少女三人だ。

全員がぶら下がったとて、破損する事はないだろう。

 

「それ、まだ持ってたんだな」

 

「結構便利だったんでな。持ち帰って来た」

 

 グライダーの使い方を指南したのは、オーレル本人だ。

意外な物の出現に目を細めるオーレル。

正規のハングライダーは高機能だが、大型で嵩張り展開や運用にも専門的な技術と知識が必要となる。

だが、滑空だけなら咄嗟に展開できる簡易グライダーの方が、彼にとっては都合が良かったのである。

以前ライザは、簡易グライダーの着地に失敗し負傷するという失態を晒してしまった。

(本編前夜編、第76話・参照)

だが天井へと着地するだけなら、その憂いも無い筈だ。

 

「では先に行く」

 

 ライザ達にそう告げ、灰の剣士はオーレルと共に石橋から飛び降りた。

案の定、二人は難無く天井へと着地する。

 

「よぉ~し、あたし達だって。ルルア、エーファ、準備は良い?」

 

「いつでも行けるよ!」

「タイミングは任せるわ、ライザちゃん!」

 

 三人がぶら下がるには、些かに傘が足りなかった様だ。

中央のライザは兎も角、両端を持つ二人はギリギリといった様子だ。

だが高所から飛び降りる訳ではない。

無事、天井に着地できれば良いのだ。

 

「一二の三…ッ!」

 

 ライザの掛け声に合わせ二人も歩調を合わせ、石橋から飛び降りる。

意外と簡易グライダーは頑丈な造りをしており、傘部分が破損する事はなかった。

しかし――。

 

「うわわ、結構揺れる…!」

 

 やはり3人分は無理が祟ったらしい。

簡易グライダーは思いのほか軌道を外れ、このままでは何処に着地するか予想も付かない状態だ。

そして更なる――年頃の少女にとって、重大な問題が発生する。

 

「やぁ~ん///、オーレル君も剣士さんも見ないでぇ…!///」(*ノωノ)

 

 顔を紅潮させ、エーファが悲鳴を上げる。

そう――。

エーファとルルアは、()()()()を着用していた。

そんな彼女たちが飛び降りれば、どういう事態を引きおこすかは現在絶賛展開中である。

比較的長いスカートを着用していたエーファだが、ものの見事に裾は捲れ上がりストッキング越しに下着が露出してしまったのである。

 

「エーファ、悲鳴上げてどうしたの?」

 

 意外にも平然としていたのはルルア。

エーファに比べ、ルルアのスカートは非常に短い。

ミニスカートの裾は、霊気流を得た霊馬のごとく宙を駆け上がる。

細く魅惑的なルルアの下半身と、純白の下着が露わとなってしまった。

多少下半身に涼みを感じながらも、ルルアは平然とエーファに問いかけた。

 

「///ルルアちゃんは鈍感すぎぃ…!///」(*ノωノ)

 

 羞恥に耐え切れなくなったのか、エーファは思わず手を放してしまう。

 

「――不味い!」

 

 不安定な簡易グライダーを咄嗟に放したエーファだ。

当然真面な姿勢など取れよう筈も無く、このまま着地すれば足どころか全身を打撲する危険があった。

危険を察知したオーレルは彼女の落下地点を予測し、エーファを受け止めた。

 

「――きゃあんッ!」

「――うぉッと!」

 

 不安定な体勢だが、何とか彼女を受け止め大事には至らなかった。

 

「大丈夫か、エーファ?」

「う、うん…。ありがと、オーレル君…」

 

「……」

「……」

 

 かなりの勢いで受け止め二人の体制は、熱い抱擁にも似た格好となる。

宛ら深く愛し合う恋人の如く、密着し抱き合う形となったオーレルとエーファ。

互いは無言で暫し見つめ合う。

 

「ア…し、失礼…!///」

「あ、う…うん、いいの。私が悪いんだし…!///」

 

 お互いの状況を認識した二人は、慌てて身体を離し何事も無かったかのように取り繕う。

二人とも平静を装っていたが、お互いの体温の所為だろうか。

両者の顔は、マグマの如く紅潮し全身から大量の汗が噴出していた。

急激に高まった体温を冷ますかのように、二人は襟袖を開け汗気を逃がす。

 

「そ、そうだ!ルルアちゃんとライザちゃんはッ!?」

 

 クールダウンの最中、エーファはルルアとライザの行方を追う。

まさか地上まで落下したのではないかと心配したが、どうやら杞憂に終わる。

二人は灰の剣士の元に居た。

彼の手助けで事無きを得たのだろう。

彼等の下に駆け寄るエーファとオーレル。

しかしルルアとライザの表情は、何処となく不満気で灰の剣士を睨み付けていた。

そして灰の剣士も、少々申し訳なさげに無言で二人に向き合っていた。

ライザは胸を、ルルアは臀部()を手で押さえており、まるで痛みに耐えているかのようだった。

エーファは二人に何かあったのかを訊ねてみたが、二人は大した事はないと躱されてしまう。

 

「ま、まぁ、皆無事でよかった。探索を続ける、付いて来てくれ」

 

 この件を引き摺りたくはないのだろう。

灰の剣士も気持ちを切り替え、何事も無かったかのように探索再開の旨を伝える。

彼等の間に何が起こったかのか知る由もなかったが、これ以上の詮索は無駄と悟り、エーファとオーレルも彼等の後に続いた。

 

先頭を歩く灰の剣士に、ライザとルルアがそっと耳打ちする。

 

「さっきの指跡が残っちゃったから、軟膏塗ってよ」

「私も。もうちょっと優しく掴んで。少し痛かった」

 

「…後でな。それと他言無用でお願いしたい。その…申し訳なかった」

 

 相変わらずライザは胸を摩り、ルルアは臀部を押さえている。

エーファとオーレルの、ちょっとした甘酸っぱい事故――。

時を同じくして、ライザ達も灰の剣士と事故を引き起こしていた。

エーファが無理やり飛び降りた反動で、ただでさえ不安定な簡易グライダーは更にバランスを崩し、そのまま灰の剣士目掛けて直行。

止む無く彼は二人を受け止めたものの、そのまま勢いに押され転倒してしまった。

二人を支えようと彼は無意識の内に、ライザの胸とルルアの臀部を()()()()鷲掴みにしてしまったのである。

もちろん彼に他意などは無かったが、思いのほか力が篭り過ぎてしまった。

ライザとルルアの掴まれた部分には、彼の指先が皮膚に食い込む事で赤い痣が付いてしまう。

当然、彼女等は短い悲鳴を上げ、彼は慌てて手を放したのだが、二人は抗議の表情を向けながら痛みを訴えてきた。

彼は非を詫びようと回復の奇跡で治療を提案するが、二人ともこれを拒否。

ライザとルルアは”誠意をみせろ”と言わんばかりに、持参の軟膏の塗布を求めてきたのであった。

そして今に至るのだ。

 

「わかった、君がそう言うんなら黙っといてあげる。ルルアもそれでいい?」

 

「うん、ちゃんと優しく()てくれなきゃ嫌よ、剣士さん?」

 

「ぬ、分かった…」

 

 後ろのエーファたちに聞こえないような小声で話す三人。

一応納得してくれたらしく、彼女らもこれ以上追及して来る事はなかった。

 

――本気…みたいだな、彼女ら。男の私に…とはな…。

 

どうにかしてエーファあたりに交代できないものかと思案するも、下手に逆らえば周囲に言い触らしかねない勢いだ。

手甲付きの指先で出血寸前まで握り込んだらしく、充血した指跡はかなり痛かったのだろう。

二人の表情は、まだ不満気だ。

因みに簡易グライダーは、明後日の方角へと飛び去ってしまい行方不明となった。

(灰の剣士は、簡易グライダーを紛失してしまった)

軟膏を塗るにしても、人気の無い場所で行う必要があるだろう。

もしも他人に見付かれば言い訳不可能な事態に陥り、社会的に抹殺される恐れが大だ。

天井裏に差し掛かりながらも、彼は妥当な場所を割り出していた。

 

「うわ…真っ暗…」

 

「しかも、かなり高いわ…」

 

 天井裏のエリアは自然の灯りなど皆無に等しく、外部からの光源も直ぐに途切れ視界の確保に難儀した。

再び松明やランタンを翳すも、足場の大半は天井の構造を支える天井野縁(てんじょうのふち)小屋梁(こやばり)ばかりで、少しの油断が落下を招く。

天井裏の足場は危険度が高く、ライザとルルアは脚が竦んでしまった。

 

「このロープを使おう」

 

 そこで灰の剣士がロープを数本取り出し、各自の腰に巻き付け最後に天井野縁へ結び付ける。

かなりの長さを誇り、数十メートルの長さを誇る品だ。

万が一の落下防止策として準備していたものだ。

3本用意していたが女性陣を優先した。

 

「一応の命綱だが過信しないでくれ。この高さで床に叩き付けられたら、まず助からんからな」

 

「う、うん…分かった」

「ごめんなさい、わたし達ばかり」

 

 念の為油断しないよう釘を刺す灰の剣士。

静かだが強い口調で諭す姿に、危険度の高さを伺わせた。

緊張した面持ちで返事するルルアと、彼とオーレルにはロープが行き渡っていない事にエーファは申し訳なさそうな表情を浮かべる。

 

「僕なら心配ない。この程度で落下するほど抜けてはいないからな」

 

「オーレル卿はライザ達を先導して、あの足場で待機していてくれないか?」

 

「了解だ」

 

 彼ならヘマをする事はないだろう。

オーレルを信頼し、ライザ達を預ける。

灰の剣士が示す先には、やや広い足場が薄らと映っていた。

先にオーレル達を移動させ、自身は狭い箇所に有る道具の回収に移る。

 

「も…もっとゆっくり、オーレルぅ…!」

「ライザちゃん、あんまり暴れないで…!」

「だってこれ狭すぎぃ…!」

「もっと静かにしろ!ホントに落ちるぞ!」

 

 先頭のオーレルは兎も角、女性陣は覚束ない足取りでぎこちなく進む。

ただ真っ直ぐ歩くだけなのだが、暗所と高所の相乗効果が却って皆の恐怖心を煽っていた。

こういう時は下を向かないものだが、細い石造りの足場を渡るのだ。

少しでも踏み外せば即、真っ逆さまだ。

嫌でも下方に視線が偏ってしまう。

下には幾つかの松明の灯かりが見える。

下層組に違いない。

 

「お~い!誰か居るのかぁ!?」

 

 下層から聞こえて来たのは重戦士の声だ。

体格の良い彼の声は良く通り、ここ迄反響する。

 

「私たちだ!玉座の裏で合流しよう!」

 

「おぅ!分かった!落ちんなよ!?」

 

 ライザ達が騒ぐものだから、重戦士の位置でも彼女等の姦しい声が聞こえて来たのだ。

 

「…心配だな、アイツ等!」

 

 ここから天井まで相当の高さを誇る。

落下すれば、助かる見込みは皆無と言って良い。

万が一を踏まえ、重戦士たちは彼等の落下位置を想定して下段で様子を窺った。

誰かが落下しても受け止める為だ。

重戦士の指示で、彼等もそれに従った。

だが彼等の懸念も杞憂に終わり、オーレル達は何とか足場まで辿り着いた。

その間も、ライザ達は終始騒ぎ通し彼は苦々しい表情を受かべる。

後は灰の剣士を待つだけだが、彼は難なく道具を回収し合流を果たす。

 

――エストの欠片…何か使い道があればいいのだが。

 

彼の予想通り回収出来たのは『エストの欠片』というアイテムだった。

これはエスト瓶を強化し、使用回数を伸ばす重要な素材となる。

だが、彼のエスト瓶は既に限界強化済みで、今のところ使い道が思い浮かばなかった。

しかし後々、役に立つ場面に遭遇するかも知れない。

司祭長に申請し、これは持ち帰る事を画策する。

 

「お帰り、灰君」

 

「もうロープを解いていい。後は下段で合流するだけだ」

 

「行き止まりだが、どうやって合流するんだ?」

 

 オーレルの指摘通り、足場は完全な行き止まりと化している。

降りようにも目ぼしい通路など見当たらなかった。

 

「まぁ見ててくれ」

 

 

 

   ―― この先、攻撃が有効だ ――

 

 

 

「わわっ!壁が消えちゃった…!?」

 

 灰の剣士は、眼前を遮る壁を拳で小突いた。

驚くライザを余所に正面の壁は、ゆっくりと消え失せ別の空間が姿を現す。

この壁は幻影で作られ、侵入者の目を欺く為や隠れ蓑として機能する。

誰が何を目的として火継ぎの祭祀場に幻影の壁を設けたのか定かではない。

だが彼等にとっては些細な事でしかなく、これ以上は詮索しなかった。

 

「あ、宝箱…!」

 

 少し進めば目の前には、宝箱が設置されている。

少々風化が進み埃を被っていたが、人の性なのだろうか。

ルルアのみならずライザ達も宝箱に目が釘付けとなっていた。

 

「で、でも、こういうのって罠が仕掛けてあるって相場が――」

 

「大丈夫。これと言った罠は無い筈だ」

 

 もしも希少品が入っているなら、宝箱に罠は普遍の付き物だ。

警戒するエーファだが、灰の剣士は罠はない事を告げる。

もしも、エーファではなくゴブリンスレイヤーなら、罠の無い根拠を訊ねるのだが彼等は宝箱の中身が気になり、そちらに意識は向かなかった。

 

「ね、ねぇ灰君、あたしに開けさせて!?」

 

 逸る好奇心を抑えられず、ライザは宝箱を開ける役を懇願する。

 

「勿論構わない。さぁ、何が入っているのやら?」

 

 まるで最初から中身など把握しているかのように、灰の剣士は彼女の要求を聞き入れる。

 

「私も。二人で開けましょ、ライザ」

「わ、私も!」

 

 そこへルルアとエーファも加わり、三人で宝箱を開ける事となる。

 

「やっぱ冒険って、こういうのが無いとね♪」

 

 上機嫌となったライザが主導となり、宝箱の留め金を外し三人で蓋を開けた。

無言だったがオーレルも内心気になっていたらしく、後方から覗く様に宝箱の中身を確認した。

 

「これって、指輪…だよね?」

 

「変わった形をしてるね」

 

「純銀製だな。結構、値打ち物だと思うぞ」

 

 宝箱の中身は、銀製の指輪だった。

 

――やはり、貪欲な銀の蛇の指輪か。

 

灰の剣士の予想通り、入っていたのは彼の良く知る『貪欲な銀の蛇の指輪』だ。

これを装着し敵を討つ事で、獲得ソウル量を増やすという効果が備わっている。

だがソウルの概念を理解出来ないライザ達にとっては、奇妙な形をした銀製の指輪としか認識できない筈だ。

 

「さて、後は合流するだけだな」

 

 一通りの探索は終わった。

灰の剣士率いる上層組は、彼の案内で足場を飛び降り玉座の並ぶ裏手に出た。

 

「終わったかね、灰剣士殿?」

 

「ジークバルド…」

 

 合流した先には、ジークバルドが女部族を引き連れ玉座の裏手で佇んでいた。

だがジークバルドは一瞬だけ視線を向けて来たのみで、再び玉座に向き直ってしまう。

 

「……」

 

「済まないねぇ、剣士さん。この人ずっとこうなんだ」

 

 無言でジークバルドと玉座を見やる灰の剣士に、女部族が済まなそうに声をかけて来た。

 

「いや、良い。分かっている」

 

 彼の事情を知っているのは、概ね灰の剣士だけだ。

彼は只管に、玉座の裏手の文字に視線を傾けている。

 

   ―― 巨人の王・ヨ―ム ――

 

そう書かれていた。

ジークバルドの視線の先。

その玉座は、彼の盟友『巨人ヨ―ム』が座すべき玉座である。

 

最初の火が陰り、王達に玉座無し。

火の無い灰の使命――。

それは王達の故郷を探し出し、玉座に連れ戻す事。

だが言葉の体裁は良けれど、実際は歴代薪の王達を殺し、彼等のソウルが染みついた頭部を持ち帰り”薪”として玉座に添える。

そしてそれを贄とし、最初の火の炉へと至り火継ぎの薪となる。

それが灰の剣士に与えられた役割だった。

巨人ヨ―ムとの戦いは熾烈を極め、いま目の前に居るジークバルドとの共闘で漸く打ち倒す事に成功した。

その後、約束と使命を果たした彼はその場で力尽きてしまった。

もしも彼が生き永らえ、玉座にヨ―ムの頭部を添えた光景を目にすれば、どの様な想いを抱いたのであろうか。

 

「……」

 

 ふと言いようのない罪悪感の様な()()()が、彼の脳内を過る。

巨人ヨ―ムを討ち玉座に連れ戻す事が役目だ。

ジークバルドとヨ―ムは盟友とも言うべき間柄だった。

此方に大儀であったとしても、彼に対し申し訳の無い気持ちに満たされてしまう。

かける言葉が見付からず、灰の剣士も無言でジークバルドに視線を送る事しか出来なかった。

 

「おっと、時間を取らせてしまったかな?私の事は何も心配する事はないぞ、ウワハハハ…!」

 

 灰の剣士の心中を察したのか、ジークバルドは何時も通りの陽気さを取り戻し豪快に笑い飛ばす。

 

――スマン…!ジークバルド…!

 

彼は心の中で何度も謝罪した後、全員との合流を果たす。

広場の中心部――。

篝火の在った場所で、回収した物資が集まった。

だが想定外に量は多く、全員で手分けしても持ち運ぶにも難儀した。

 

「荷台を借りて来る、少し待っていてくれないか」

 

 流石に道具が必要となり、灰の剣士は荷台を使う事を提案する。

祭祀場の外は、街の衛兵たちが包囲し不必要な人員の介入を防いでくれている。

確か、荷台が数台置いてあったの思い出し、彼は一旦外へ出る。

彼は荷台を借りるついでに、急いで昇降機の塔まで戻った。

昇降機前の通路側面には、真下へと深い穴がポッカリと口を開けていたのである。

実はその穴を飛び降りる過程で、幾つかの道具が回収出来たのを思い出したのだ。

だが思いの外難度は高く、少しでも目測を誤れば絶命しかねない程の高さを誇り、当時の彼自身も幾度か失敗を重ね無駄に命を散らしたものだ。

その記憶が蘇り少々気後れしながらも彼は思い切り飛び降り、幾つかの道具の回収に成功する。

 

……

 

衛兵に頼み込み荷台を借りる事が出来た灰の剣士は、急いで祭祀場まで戻る事にした。

さて、真に難儀したのは階段を上る過程だ。

荷台は当然のごとく車輪付き、そして荷物を積載した状態で階段を登る訳だ。

当然円滑に進む筈もなく、力自慢の男達が総出で後ろから押す事で何とか登り切る事が出来た。

最も労力を要したのは、この作業と言っても過言ではない。

息も絶え絶えに愚痴を零す男性陣――。

 

こうして火継ぎの祭祀場での探索は幕を閉じる。

 

彼等が探索を行っている間、あの不死の女は神殿へと護送されていた。

馬車はゴブリンスイーパーの物が使われ、彼女の護衛役にはゴブリンスレイヤーが自ら志願していた。

 

探索終了の報告をギルドで済ませ、冒険者たちは漸くここで解散する事になる。

回収物は全て司祭長(領主)側へと引き渡され、後々解析と検分が行われる。

解析役の筆頭はヴィンハイムのオーベックが担い、そこへ獣人魔術師と禿頭僧侶の強い希望で二人も加わる事になった。

 

……

 

あれから数時間が経過した。

 

「さて、もう良い時間だな」

 

 灰の剣士を含めたライザ達もギルドを出る。

日は傾き、空は朱に染まりつつあった。

程無くすれば夜が訪れるだろう。

 

「ルルア達に街を紹介したかったんだけど、もう直ぐ夜だね」

 

 街に帰還して早々、ルルア達まで探索に付き合わせてしまった。

本来なら街の施設などを紹介したかったライザだが、日が暮れてしまえば、それもままならない。

案内は後日に行うとして、今は宿の確保に努めるべきだろう。

 

「どんな宿が良いかだな。私は冒険者用の宿を使用しているが、皆はどうする?」

 

 宿の確保だが事はそう単純に運ぶものでもない。

冒険者である灰の剣士は、値段も手頃で安全性もある程度保障されている宿に寝止まりしていた。

しかしオーレルは兎も角、ルルアたちは魅力ある年若い少女だ。

冒険者の中には女に飢えた者も所属している。

今は対策も行き届いていたが、過去には立場の弱い女冒険者は、就寝中を狙われ頻繁に手籠めにされるという事案も多発していた。

幾ら冒険者用の宿とはいえ、容姿も身体つきも豊満な彼女らだ。

あまり無防備に晒すのも考えものだろう。

 

此処は安全性を重視した宿を勧める方が良い。

ルルア達に、その旨を伝える灰の剣士。

 

「そういう事なら、案内願えます?剣士さん」

 

「承知した、ではついて来てくれ」

 

 エーファに促され、灰の剣士は件の宿へと向かおうとした矢先、ふと足を止めライザへと振り返る。

そういえばライザは、どの宿に部屋を借りているのだろうか?

ライザに訊ねる灰の剣士。

 

「へ、あたし?今から向かう方角にあるよ」

 

 どうやら、これから向かう先に彼女が契約している宿が存在するらしい。

 

「でも灰君が、冒険者用の宿に泊まってるんなら、アタシもソッチに…ううん、灰君と相部屋にしようかな?」

 

「……出来得るなら、ルルア達と同じ宿で行動を共にして貰いたい」

 

 ルルア達は今日この街に来たばかりで、土地勘も無い筈だ。

幸いライザは、彼女たちと意気投合し良好な関係を築いている。

敢えてライザの際どい発言は受け流し、此処はルルアたちと寝食を共にする事で支えとなって貰いたかった。

 

「……あたしの事が()()って訳じゃないよね?」

 

「……怒るぞ?」

 

「――ご…御免なさい…」((((;゚Д゚))))

 

「と、とにかく案内頼めるか?」

 

「そうだな、こっちだ」

 

 一瞬にして張り詰めた険悪な空気感――。

妙な危機感を察知したオーレルは、彼に案内を急かし彼もそれに応える。

 

「……」

「「「「……」」」」

 

「大丈夫、ライザ?」

 

「心配しないで、ちょっとびっくりしただけ」

 

 宿に向かう道すがら、彼等は互いに口数も少なく気まずい空気感に見舞われた。

先頭を歩く灰の剣士に目をやりながら、ルルアは俯きがちなライザに声をかける。

唐突とはいえ灰の剣士の醸し出した迫力は、脚が竦み恐怖を覚える程だった。

これには普段勝気な筈のライザも、怯えてしまい委縮してしまったのである。

宛ら、深淵の底から這い出る黒い炎を彷彿とさせた。

 

意外だった。

 

灰の剣士――。

 

ルルアから視ても、出で立ちや振る舞いからして手練れとは思えなかった。

何処からどう見ても間の抜けた野盗にしか見えないのだ。

法の神殿の食事会でライザを見掛けた時、何故あんな怪しい男と行動を共にしているのだろうと怪しんだものだ。

実はあの時ライザに声をかけたのは、ピアニャの勧めでもあった。

 

『あの変な男怪しいから、あの子を此方側に引き込んで』

 

 今は違うが当時のピアニャは、灰の剣士に一種の警戒感を抱いていた。

そして勇気を振り絞りライザに誘いを掛けたのだ。

ついでに怪し気な彼にも話し掛けてみたのだが、いざ接してみれば妙に話し易く微塵も嫌悪感を抱く事はなかった。

その後、ライザから彼の話を聞く事が出来た。

 

小鬼に襲われていた処を助けられた事。

ギルドから頼まれ一党を組んでくれた事。

思っていたよりも、周りから慕われていた事。

 

等々、予想外に評価され、ライザ自身も彼に、ある種の好感情を抱いている事を知った。

更に言えば、ダークゴブリン戦――。

戦況が悪化し非難囂囂(ひなんごうごう)を浴びる剣の乙女を庇い、悪意を自身に向けさせた。

その後、自ら最前線に立ち並み居る小鬼の大群を駆逐した。

極め付けは、ダークゴブリンとの一騎打ち――。

満身創痍となりながらも、勝負を制し勝利を納めた。

最後に剣の乙女との確執はあったものの、彼の成した功績は伝説に語り継がれる程の影響を及ぼす筈だ。

何せ魔神王級とまで言われた、ダークゴブリンに唯一対抗していたのは彼自身なのだから。

しかし、火継ぎの祭祀場の件と言い、”軟膏を塗って貰った時の件”と言い、妙に声を掛けやすく無防備になってしまう。

そんな彼が先程ライザに対し、不意に怒りを露わにした。

ライザのみならず、自分を含めオーレルでさえ強張っていたほどだ。

 

「まぁ私に任せておいて、大丈夫きっと何とかなるなる!クヒヒヒ……」

 

「…あ、妖しい笑い、ピアニャさんみたい…」

 

 小声でライザとヒソヒソ話すルルアは、ピアニャの如き怪しい含み笑いを浮かべる。

 

「この宿だ」

 

 そうこうしている内に件の宿へと到着する。

彼等の視界には、大きめの宿が映っていた。

堅木の支柱を主軸とし煉瓦とセメントを組み合わせ建造された、高級感感漂う品を備えた宿だ。

 

「あたしが泊ってる宿じゃん、此処」

 

 奇しくもライザは、この宿にて部屋を借りていた様だ。

なら都合がいい。

ルルア達にも、この宿で居を構えて貰おう。

 

「では私は、これにて失礼する。また明日、一応午後からな」

 

 案内を終えた灰の剣士。

幸いにもライザが、この宿と契約を交わしている。

事の詳細は彼女が担ってくれるだろう。

明日の灰の剣士は、司祭長からの要請で午前は融通が利かない。

自由に動けるのは午後となる予定だ。

後はライザに任せよう。

踵を返し、場を後にする灰の剣士。

 

「ライザちゃん、私と来て…!」

「どうしたの、ルルア?」

 

「どこ行くのルルアちゃん?」

 

 不意にルルアがライザの手を引く。

 

「エーファとオーレルは、ちょっと待ってて!あの人に少~し”お説教”しないとね♪」

 

「さっき、怒らせた件か」

 

 不審に思うエーファと静観するオーレルを待たせ、ルルアは困惑するライザを連れ灰の剣士へと駆け寄った。

 

「…まだ、何か?」

 

 ライザを引き連れたルルアに向き直る灰の剣士。

そしてルルア達の、ちょっとした抗議が始まった。

先程ライザに怒りを向けてしまった事に言及するルルア。

何の事はない。

ライザも女の子なのだからもう少し優しくしろ、という要求だ。

二人共、僅かながらに不信感の含んだ表情で、ライザに至っては目尻に若干の涙を浮かべていた。

その旨を受け僅かに逡巡する灰の剣士だが、やがて口を開く。

 

「今更で言い訳になってしまうが、嫌悪感を抱いていたなら一党は疎か、こうして探索にも連れて行かなかった」

 

 本当にライザに対し悪感情を抱いていたのなら臨時とはいえ、ライザと一党を組む事はなかったのである。

あの当時、ギルド職員に頼まれ渋々ながらだが彼女を受け入れた形にはなった。

だがライザに対し、真に拒絶感があるのなら、頑なにギルド職員の要望すら跳ね除けジークバルドに丸投げしていただろう。

ライザと出会い一週間前後の付き合いだが、彼は寧ろ彼女に対し好感情を抱いていた。

彼女との交流を切っ掛けに、錬金術を習得し新たな知見と境地を切り開く事も出来た。

正直、思いもよらなかったのだ。

火継ぎの使命を終え新たな人生を得た訳だが、よもや未知の可能性を開拓出来ようとは。

 

「ライザ…本当に感謝している。君のお陰で、私は錬金術という新たな境地を開けたのだ。もし君が居なければ、こうしてルルア嬢やフリクセル様を通じ”助言者”についても知る事はなかっただろう。君もだルルア嬢、ここで言うの変だが君達に出会えた運命に、心から感謝したい。知り合えて良かった、本当に有難う」

 

「「……//////!」」

 

 改めて真正面に向き合い姿勢を正した灰の剣士は、ジェスチャー”貴人の一礼”を以て二人に感謝の意を示す。

彼の振る舞いに、二人の顔に朱が帯びたのは夕日に染まった所為だろうか。

ライザもルルアも急に大人しくなり、視線を宙に泳がせ始めた。

もしライザとの交流がなければ、ロロナを経由し助言者やソウル錬成にも関わる事がなかったかも知れない。

灰の剣士にとって、ライザたち錬金術との出会いは非常に有意義で彼の心を満たしていた。

真正面から向き合う灰の剣士の顔は僅かながら、はにかみに似た笑みを浮かべている。

 

「そ、そう言う事なら…ま、まぁいいんだ…けどさ…///」

 

 普段のライザから想像も付かない程の、しおらしい態度になり、伏目がちにチラチラッと彼を盗み見る。

 

「そ、そうなんだ。私に対してもそう言ってくれるんなら、その…これからも…宜しくね…!///」

 

 そして彼の言葉を受けたルルアも返しはしたが、モジモジと身を捩らせ真面に向き合う事も出来ないでいた。

 

「それでは明日な。頼りにさせて貰う、二人共」

 

 言葉は不要か……これ以上は。

今度こそ、彼は自分の宿に戻ろうと帰路へと着いた。

後方からライザの声が追い駆けて来る。

 

「”また”軟膏塗ってねぇ~灰く~…――ぅおぁっ!?」

 

 その話題を口にし皆まで言い切る前に、ライザは口を塞がれた。

灰の剣士は即座に反転し、二人の反応速度を上回る機敏さで肉薄したのである。

平時に”カーサスの高速体術”駆使する機会など、ほぼ無いと言っていいだろう。

 

「いいか…!絶・対・他言・無用だ…、絶対にだ…いいな…!」(゚Д゚)

 

「モゴ、モゴ、ムガガ…!」

 

 余りに咄嗟の出来事にライザもルルアも思考が追い付かなかったが、彼が何を要求しているのかは理解出来た。

フードに覆われているため彼の表情は分からないが、鬼気迫る迫力を匂わせた。

(内心、彼は動揺していた)

 

「そ、そんなにダメなの…?」

 

「…当り前だ。周囲に知れたら私だけでなく、二人にも弊害が及ぶのだぞ」

 

 ライザの口を塞ぐ手を放し、今度はルルアに向く。

 

少し時間は遡る。

ギルドにて報告を済ませた後、ライザは錬金術を行うための施設について職員に訊ねた。

水の都では、錬金棟と呼ばれる施設が法の神殿に併設されていた。

だが、この街は水の都に比べ遥かに規模が小さく、その様な施設があるかどうかも疑わしい。

ギルド職員の話によれば、ギルドの離れに専用の小屋と地下空洞が設けられているとの事だ。

本来は幾人かの錬金術士が使用するのだが、今の彼等は専用の拠点や空き家を間借りし、其処で作業に勤しんでいると言う。

故に、今は誰も使っておらず”空き”の状態だった。

一応地母神神殿にも錬金術を行う為の小さな部屋が設けられていたが、ルルアもライザも堅苦しいという先入観も手伝い、ギルド側の施設を使わせて貰う事にした。

職員の案内で、錬金小屋へと入室したライザ達。

其処へ別の職員から、呼び出しが掛かる。

呼び出されたのは、何とエーファだった。

しかも呼び出したのは武器工房の店主だと言うのだから、彼女は更に驚きを見せる。

どうやらゴブリンスレイヤーの持ち込んだ、”獣狩りの散弾銃”について聞きたい事があるらしい。

その旨を聞いたエーファも、この件に関しては無視する訳にもいかず、オーレルを付き添いとして武器工房へと赴く事になった。

灰の剣士、ライザ、ルルアの三人きりとなった錬金小屋。

其処へ急に思い出したのかのように、ライザが声を上げた。

 

軟膏を塗って貰う件についてだ。

 

先程、火継ぎの祭祀場の天井にて、ちょっとした騒動が起こった。

その騒動で、ライザとルルアは身体の一部に軽傷を負ったのである。

不可抗力とはいえ、犯人は灰の剣士。

ライザやルルアとしては、すぐさまあの場で軟膏を塗って貰いたかったのだが、彼自身が人気の無い場所を条件に後回しにした。

それもその筈――。

軽傷とはいえ傷を負った箇所に問題があった。

ライザは胸――つまり豊かな母性の双丘。

ルルアは臀部――これも豊穣の母なる恵み。

何故、彼が人払いに拘るかは二人には理解出来なかった。

しかし、今はエーファもオーレルも居ない。

 

一つ屋根の下、若い男一人に女二人。

条件が整ってしまった。

 

……

 

再び時は戻る。

 

「や~、”アレ”は良かったね~♪」(●´ω`●)

「うんうん、特に()()の方ね~♪」(●´ω`●)

 

「こ…こいつ等ぁッ…!」(`皿´)

 

 あの時を思い出したのか、ライザとルルアは幸福に満たされた表情でご満悦だ。

対照的に灰の剣士は、拳を握り締めギリギリと歯軋りする。

 

「ま、他でもない君の頼みだし言う事聞いてあげる!」

 

「ただし、その内()()お願いね!それじゃあ、明日~!」

 

「ぬ…グ…!」

 

 苦虫を噛み潰したかの様な表情の彼を余所に、二人は宿の方へと走り去ってしまった。

 

「何話してたの、剣士さんと?」

 

「アイツ、頭抱えて()()してないか?」

 

 話の内容が気になったエーファとオーレルだったが、妙な姿勢の灰の剣士に意識と目が向いてしまう。

ライザもルルアも”気にしない♪”と言い、宿の中へと入ってしまった。

 

――おのるぇ、あの二人(ライザとルルア)!危うく”一線”を越えるトコROだっタ私のⅯIにモなレぇ…!

 

ライザ達が去ったあと取り残された灰の剣士は、路上にも拘らず一人頭を抱えて全身を震わせ転げ回っていた。

その様は、狂った黄色の火を宿し絶叫と共に眼球を刳り抜きたい(シャブリリの葡萄)衝動にも似ていた。

道行く通行人は、発狂する灰の剣士に、憐憫の如し好奇な視線を向け失笑する。

 

   ―― 狂い火を受領するのだ ――

 

三人の間で、()()()()()()が繰り広げられたのか?

それはまた、別のお話。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

貪欲な銀の蛇の指輪

 

竜のなりそこない、蛇を象った銀の指輪。

装備者が敵を倒したときに、吸収するソウルを増やす。

蛇は、己よりも大きな獲物を丸のみにする極めて貪欲な生物としても知られている。

嵌められた枷を良しとしないのなら、時に貪欲も必要だろう。

 

身に余る貪欲は、決まって身を亡ぼすものだ。

しかし、その貪欲さが活路を切り開き光明に辿り着く事もある。

 

 

 

 

 

 




 穢れた火防女の魂。
深淵から戻った、最初の火防女。
ゲーム中でも彼女に対する情報は極めて少なく、様々な考察スレが建てられているようです。一体彼女は何者なんでしょう?

そして、ライザ、ルルア、灰の剣士の三人で行われた他言できない行為とは…?
間違い無く”一般枠”では書けない内容だと思っといて下さいな。
気が向けば書くと思います。まぁ期待しないで、お待ち下さい。

如何だったでしょうか?
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
デハマタ。( ゚∀゚)/
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