ゴブリンスレイヤー ―灰の剣士―   作:カズヨシ0509

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 投稿します。

ゴブリン退治と、青玉等級の一党の様子を一話で収めようとしたのですが。

長くなってしまったので、ゴブリン退治のお話だけで投稿します。

ロスリックの高壁、どう展開してやろうか?

ちょっと無謀だったかなぁ?

う~~ん・・・・・・。( ̄ω ̄;)


第11話―貴公、ゴブリンを殲滅し給えよ―

 ゴブリン退治の為、現地の村へ到着した、

 

火の無い灰とゴブリンスレイヤー。

 

村の村長が、待ち侘び二人を持て成そうとするが、二人には不用だった。

 

遊びに来た訳ではないのだから。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 日が頭上高くから、日光を照り付けて来る。

 

もう直ぐ昼に差し掛かろうという時間帯に、二人の冒険者はある農村に辿り着いた。

 

その農村は、ある怪物の襲撃によってもたらされる被害に、頭を悩ませていた。

 

 

 

…そう、ゴブリンである。

 

 

 

祈らぬ者の最末端、最弱とも言える混沌の産物だが、力無き非戦闘員である農民にとっては、脅威の対象でしかない。

 

村には村長らしき人物が待機していた。

 

彼が依頼主だろうか。

 

村長は、二人の冒険者を迎え入れるや自宅で持て成そうとしたが、鎧戦士が手で制し、ゴブリンの情報だけを聞き出す。

 

一週間ほど前から、鶏の卵や保存食を盗まれ、日を追う毎に被害が拡大していった。

 

卵から、畑の作物。

 

家畜の子供。

 

備蓄していた食糧。

 

このままでは、村の被害が増すばかり。

 

数日前には、ゴブリンを追い払おうとした若者達が逆に襲われ負傷した。

 

二、三匹で荒らし回っていたのが、六匹以上で襲われたとの事だ。

 

それを聞いた鎧戦士が、言葉を返す。

 

「恐らく村全体を襲撃する前触れだろう。間違い無く巣が在る筈だ」

 

 襲撃して来た方角は分かるか?

 

彼は村長に尋ねた。

 

村長曰く、村の裏手の獣道からやって来るのだそうだ。

 

「…後二日も放置しておけば、村娘に対象が移っていただろうな」

 

 鎧戦士の言葉を聞いた、村長が目を丸くし驚愕する。

 

「お、お願いします!助けて下さい!私にも二人の娘が居るんです」

 

 村長が鎧戦士にすがり付く。

 

鎧戦士は微動だにせず、淡々と。

 

「俺達は、ゴブリンを殺しに来た。それだけだ」

 

 そう答え、裏手の獣道に足を向ける。

 

村長が、どうして良いか分からずオロオロしている所に灰が言葉を掛けた。

 

「出来るだけ外出を控え、警戒を強めて頂きたい」

 

 もしも数日経っても、私達が戻らなければ失敗したとみなして良い。

 

そう付け加え、灰も後に続いた。

 

獣道に向う途中、灰は村の様子を大まかに見回した。

 

比較的若手が多かった。

 

視界に入っただけでも村娘は、十五名以上居る。

 

男連中は、ゴブリンに襲われたのだろう。

 

包帯を巻き生傷を庇い、皆悔しそうにしている。

 

更に村の外側へ視界を移すと、簡素な防護柵さえ施されていない有様だった。

 

 

 

――何と無防備な。

 

 

 

恐らく若い連中が、ゴブリンに対処していたのだろう。

 

「…警戒心が無さ過ぎる。」

 

 鎧戦士が呟いた。

 

「ああ、素人目線の私でもそう思う。どうぞ襲って下さいと言わんばかりだ」

 

 灰も同調し、この件が片付いたら、簡単な対応策は教えるべきだろう。

 

その為にも依頼を達成した上で、生き残る必要がある。

 

再度気を引き締め、ゴブリンの巣穴を目指し裏手の獣道を進んで行く二人だった。

 

 

 

獣道に差し掛かり、鎧戦士が立ち止まり急に屈みだした。

 

何事かと灰も立ち止まる。

 

「よく見ろ。ゴブリンの足跡だ」

 

 鎧戦士が丹念に足跡を調べている。

 

灰も続き、ゴブリンと思わしき足跡を注視した。

 

何度も往復したのだろう、雑草が入り混じる獣道でも容易に足跡だと判別出来た。

 

「奴らは、この方角からやって来る」

 

 剣で方角を示す鎧戦士。

 

灰は、その方角に向け意識を集中させた。

 

意識の中に、ボンヤリとしたモヤの様な塊が流れ込んで来た。

 

「集団で固まっているな。小さいのが16。魔力を含んだのが2.更に極小さいのが3。距離もそう遠くない」

 

 灰が行使した、ソウルの感知。

 

生命体のソウルを探り当てる事で、相手の場所、強さ等が大雑把に判別出来る。

 

「……便利な能力だが、余り過信するな」

 

 鎧戦士から注意された。

 

「何故だ?能力は有効活用すべきでは?」

 

 灰は、聞き返す。

 

 

 

鎧戦士は語った。

 

 

 

確かに便利な能力だが、いつ何らかの拍子で消失する可能性もある。

 

いざという時は、確かな知識と技術を身に着けておけば切り抜ける選択肢も増す。

 

身を持って学んだ、技術や知識は決して自分を裏切らない。

 

 

 

能力は良い、だが過信するなかれ。

 

 

 

灰は、言葉を失った。

 

そして改めて、自分の視野の狭さを痛感させられた。

 

彼は何度も失敗を積み重ね、その度に多くの知識と技術、対処法を学習して来たのだろう。

 

その身を持って、唯の一度も死ぬ事無く。

 

 

 

――彼は偉大な戦士だ。彼からは多くを学べるだろう。私も精進を課さねばな。

 

 

 

灰は、ソウルの感知を極力控え、知識技術を貪欲に吸収する事にした。

 

 

 

木が鬱蒼と生い茂る獣道を歩き、ゴブリンの足跡が途絶えてしまった。

 

どうやら巣が近いらしい。

 

足跡の方角からして、近くの岩肌辺りに洞穴か洞窟が在るのだろう。

 

両者は茂みに身を隠し、ゆっくりと近付いていった。

 

「灰よ、お前の装備は新しく加工臭や金臭さが染み付いている。なるべく匂いを誤魔化しておけ、奴らは鼻が効く」

 

 

 

 ――やはり奴等は、嗅覚に優れていたか。

 

 

 

灰の墓所で遭遇した、ゴブリン達の挙動を思い返す。

 

言われた通りに、地面や草の匂いを擦り付け、可能な限り自然物に近い匂いを施した。

 

完全ではないが、何もしないよりはマシだろう。

 

それを見届けた鎧戦士は、良しと軽く頷き茂みに身を屈めながら、再度巣との距離を詰めて行く。

 

 

 

程無くして岩壁の近くに辿り着き、穴が存在していた。

 

「間違いない、此処が奴らの巣だ」

 

 鎧戦士は歩みを止め、身を屈めたまま様子を窺う。

 

「私でも分かる。十中八九アタリだな」

 

 予めソウルの感知で探り当てていた、距離、方角、ソウルの密集形態を照らし合わせても間違いなかった。

 

何よりも あるもの に目が行ったからだ。

 

「あれは、一体なんだ?」

 

 灰は遠眼鏡で、そのあるものを凝視しながら尋ねた。

 

鎧戦士は曰く。

 

あれは、ゴブリンが作成した、トーテムと呼ばれる物らしい。

 

木材に、動物や人間の骨を組み合わせて作り上げた、悪趣味な代物だった。

 

「間違いなくゴブリンの群れの中にシャーマン、呪文使いが混じっているな」

 

 どうやらトーテムは、シャーマンが居ることの証らしい。

 

ゴブリンシャーマンは、ゴブリンの中でも高い知能と魔術を行使する上位種だ。

 

中には罠を設置したり、侵入者の心理を逆手に利用する、悪知恵に長けた固体も存在すると言う。

 

実際シャーマンは、白磁の駆け出し冒険者よりも高い呪文の行使能力を持つ。

 

トーテムは、いわばゴブリンにとって一種のステイタスであると同時に、指標ともなる。

 

「魔力を含んだソウルが2体、そう言ったな?」

 

「ああ、間違いない。二つ感知出来た」

 

「二体もシャーマンが居るのか、厄介だな……」

 

 鎧戦士は、僅かに舌打ちし暫し考え込む。

 

「どう対処したものか……」

 

 灰は遠眼鏡を覗き込みながら、他に得られる情報が無いかを見回す。

 

そして此方に不思議そうな視線を向けてくる鎧戦士。

 

どうしたんだ?と振り返る灰。

 

「さっきから気になっていたのだが、お前の覗いてる其れは何だ?」

 

「……」

 

 

 

 どうやら彼は、遠眼鏡を知らなかったらしい、てっきり知った上で所持しなかったとばかり思い込んでいた灰。

 

使った方が早いと言わんばかりに、遠眼鏡を彼に渡した。

 

暫くしげしげと其れを見つめ、遠眼鏡で巣を覗き込む鎧戦士。

 

「ほう…、これは良い。この件が片付いたら、俺も購入を検討してみるか」

 

 遠眼鏡は、使う者によってその価値を大きく変える。

 

購入を決めた鎧戦士にとっても遠眼鏡は、有用な品だろう。

 

遠眼鏡を灰に返した鎧戦士は、夕暮れまで待つと言った。

 

「夕暮れまで?奴等は夜行性なのだろう、今直ぐ乗り込むべきでは?」

 

 今は真昼、襲撃にはこれ以上の好機は無いと思うが。

 

すると鎧戦士は頭を振る。

 

「奴らにとっての深夜、つまりこの昼間は却って警戒心が増す。俺達が夜、敵襲に備える様に」

 

「…あっ!……そういう事か!」

 

 灰は、何かに気付いた様だ。

 

「そうだ。時間の境目、奴等にとっての早朝や夕暮れが、最も襲撃に適している」

 

「成る程な。奴らのとっての早朝は、最も集中力が低下しやすい。攻めるには好都合という訳だ」

 

 つまり我々の時間帯である、夕暮れに乗り込む算段だった訳だ。

 

「察しが良いな。だが、奴等は学習する。何度も同じ手は読まれる恐れもある、留意しておけ」

 

「肝に銘じておこう」

 

 二人は、夕暮れまで息を潜め、茂みの中で身を屈めながら日が傾くのを待った。

 

 

 

 日が傾き始め、青空が徐々に赤みを増す頃、茂みに身を潜めていた二人の冒険者が身を起こす。

 

固まった関節を軽くほぐし、ゴブリンの巣へ突入準備を始めた。

 

マッチを擦り火を起こし、松明に火を灯す。

 

「良いか、暗がりは敵だ。明かりは松明だけ、なるべく火を焚け」

 

 鎧戦士の警告に軽く頷く灰。

 

剣を抜き、いよいよ巣に入り込む二人の冒険者。

 

洞窟の中は暗く、数メートルと歩かない内に光源は松明の灯りのみとなった。

 

ごつごつとした岩肌、凹凸が激しく隆起して入り組んでおり、自由な位置取りが難しい構造をしていた。

 

「せっ、狭い……!」

 

 灰は、僅かに呻き声を漏らす。

 

この広さでは、ブロードソ-ドはおろか、ショートソードでも厳しいかも知れない。

 

 

 

――彼の忠告に従っておいて正解だったな。

 

 

 

このまま一人で巣穴に挑んでいたら実際どうなっていたか?

 

若干の恐怖と身震いを覚える灰。

 

「それにしてもこの異臭は……」

 

 腐肉と血、汚物の入り混じった匂いに、灰は思わず顔をしかめた。

 

「鼻で呼吸しろ、直に慣れる。奥はこんなものじゃないぞ」

 

 鎧戦士の指示が、容赦なく飛んで来る。

 

彼の言う通り鼻で呼吸を繰り返し、顔をしかめながらも徐々に慣れていく様に勤めてゆく。

 

巣穴を歩む二人の進行速度は、非常に緩やかだった。

 

隆起した岩肌は、多様な障害壁となり小型のゴブリンが身を隠すにはうってつけであったからだ。

 

鎧戦士が前を担当し、松明で左右上下を照らしゴブリンの奇襲に備える。

 

数歩離れ、灰も同じく松明でゴブリンの存在を丹念に確認していく。

 

二段構えの索敵をもってしても安心など出来ず、ゆっくりゆっくりと少しづつ安全を確保しながら進行して行く。

 

両者とも呼吸が荒くなり、脈打つ鼓動が激しくなる。

 

ふと鎧戦士が足を止めた。

 

…?灰も足を止め、首を傾げた。

 

鎧戦士は無言で自分の隣に立つ様、地面に指を刺す。

 

灰は、察した。

 

音を立てずに行動にを起こす、即ち。

 

灰は忍び足で彼の隣に立ち、鎧戦士の行動をなぞり、隣の岩陰に松明を照らした。

 

すぐさま浮かび上がる、岩陰とは明らかに違う物影。

 

 

 

――紛れも無くゴブリンだ!!

 

 

 

鎧戦士は岩肌の陰に剣を突き込み、左右対称に位置する灰も同様に剣を突き入れた。

 

 

 

「Goyeaa…!」

 

「Gyeea…!」

 

 

 

 二匹のゴブリンが、断末魔の悲鳴を上げながらその場に倒れ、痙攣する事無く即死した。

 

「くっ、ゴブリンか…!数日振りに見たな」

 

 灰は、息を荒くしながら声を漏らす、相変わらず醜悪な容貌だった。

 

「これで2。残り19」

 

 剣を引き抜き、淡々とした口調で数える鎧戦士。

 

「こいつらは、見張り兼斥侯だろう。奇襲に備えながら行くぞ。」

 

 灰は無言で了承し、再び警戒しながらゆっくり歩を進めて行く。

 

更に奥へ進むと入り口付近で見かけた、悪趣味なトーテムが立っていた。

 

二人は、立ち止まる。

 

「周囲を確認しろ」

 

 鎧戦士が、松明を辺りに照らし警戒を強めた。

 

灰も防御体制で松明を掲げ、辺りを警戒する。

 

すると見覚えの無い、人一人が通れるのがやっとの、別の横穴が存在していた。

 

「こんな所に横穴が?」

 

「奴らの常套手段だ。トーテムを囮にし、横穴を見逃す様に仕向ける。奴等は馬鹿だが間抜けじゃない」

 

 そう言った鎧戦士は松明を横穴に照らし続け、剣を構えた。

 

うっすらと蠢く影が四体迫って来た。

 

「半分任せたぞ灰よ!」

 

「承知!」

 

 背後からの奇襲に失敗した事を悟ったのだろう。

 

思い通りにならなかった事に腹を立てた、ゴブリン達は二人の獲物に向って襲い掛かって来た。

 

一匹のゴブリンが武器を振りかざし、鎧戦士に振るうが、カウンターの突きを繰り出し喉を刺し貫く。

 

剣を抜く間も無く続け様に遅い来るゴブリンの口に松明を突き入れ、そのまま口内を焼き仕留めた。

 

灰に向かったゴブリンも武器を振るおうと振り上げた瞬間に、口を貫かれた。

 

そのまま剣を抜く事無く、次のゴブリンに刺した死体毎ぶつけ地面に押し付け、二匹目のゴブリンをも力づくで串刺しにした。

 

「良し、仕留めた」

 

 二体串刺しにしたゴブリンから剣を引き抜く灰。

 

「これで6、残り15」

 

 其々ゴブリンが絶命した事を確かめた鎧戦士は、周囲にゴブリンが居ない事を確認する。

 

「恐らく、今の騒ぎで侵入に気付かれたと思った方がいい。」

 

 ゴブリンの血脂を払い、消毒液を含ませた布切れで剣の刃を拭き取った両者は、更に気を引き締め奥へと向かう。

 

 

 

巣穴の奥に侵入した二人は、やや広めの空間に辿り着いた。

 

広間にも無数の岩陰が隆起している、その岩陰から複数のゴブリンが出現した。

 

「全部で八匹、シャーマンは居ないか」

 

 鎧戦士は剣を構え、壁を背にする。

 

「壁を背にしろ!少なくとも背後を取られることはない」

 

 指示通り壁を背にし、ゴブリンの攻撃に備える灰。

 

額に汗が滲む。

 

ゴブリンの戦闘力は把握した筈なのに、一向に優位性を確保出来た気がしなかった。

 

喉が渇き、無性に水が飲みたくなる。

 

そんな猶予をゴブリンが与えてくれる筈も無く、一斉に襲い掛かって来た。

 

同時に三匹が灰に迫る。

 

だが幾ら気圧されたと言っても、所詮はゴブリンの瞬発力。

 

同時に掛かろうとも、灰にとっては止まって見えるのである。

 

突きの間合いに入ったゴブリンから、巧みな体捌きで寸分違わず急所のみを貫き、ゴブリンを次々と屠っていく。

 

瞬きする間に三匹のゴブリンが息絶え、ピクリとも動かなくなった。

 

その味方の死骸を見た残り五匹は、ゲタゲタと嘲り笑う。

 

灰は、その様子に怪訝な表情を浮かべながらも、得意技となった高速体術で瞬時に敵の懐に潜り込んだ。

 

その速さに反応出来ないゴブリン。

 

横薙ぎに二匹の首を一閃、更に刃を返し逆袈裟切りで一匹を両断した。

 

漸く自分達が攻撃されたのだと、気が付いた残り二体のゴブリン。

 

嘲るのを止めた瞬間を狙い鎧戦士が突撃、ゴブリンの頭部に剣を突き入れ、松明でもう一匹を殴り倒す。

 

打撲と火傷でのた打ち回るゴブリンを灰が止めを刺した。

 

「14。残り7」

 

 鎧戦士が仕留めたゴブリンの数を確認する。

 

「戦闘中だというのに、味方の死を嘲笑するとは、どういう神経をしてるんだ?こいつ等」

 

 灰は未だに信じられないと言った表情で、ゴブリンの物言わぬ死体を見やる。

 

「これが本来のゴブリンだ。墓所で戦った奴等が、異常なだけだ」

 

 鎧戦士が答える。

 

灰にも覚えがあった。

 

灰の墓所で戦ったゴブリン共は、拙いながらも連携や統率が取れていた。

 

少なくとも、味方の死を嘲り蔑む事など決して無かった。

 

人と同じくゴブリンにも個性があるのだろうか、それともゴブリン全てが今の奴等みたいな連中だろうか。

 

灰には判断しかねた。

 

 

 

「grvo……」

 

 何やら奥の方から、声が聞こえて来る。

 

「ゴブリンの声か?」

 

 灰が確認の為に、奥へ歩み寄ろうとする。

 

「?!――不味い!呪文が来るぞ、避けろ!」

 

 鎧戦士が叫んだと同時に、黄色の曲がりくねった光が、灰めがけて飛んで来た。

 

灰は、透かさず盾で防御体制に入った。

 

光の矢が紅の盾に防がれ、バチバチと音を立てながらその場に止まるが、その光は電撃の魔力で行使された呪文だった。

 

「――?!っがぁ!!」

 

 幾許かの電流が盾を伝い、灰の身体を縦横無尽に駆け巡る。

 

全身の内部まで、刺したかの様な熱さに悶え体制を崩す灰。

 

辛うじて距離を取れたのは、幸運と言えた。

 

鎧戦士が、灰の前に庇う様に立つ。

 

程無くして奥の暗がりから、複数のゴブリンが姿を見せた。

 

その内2匹が通常種、後の二匹は奇妙な衣装を纏っている。

 

「小型2、シャーマン2」

 

 鎧戦士は確認する様に呟き、構えを取る。

 

「…あれがゴブリンシャーマン、呪文使いか」

 

 

 

 ――さっきのは電撃魔法、少し痺れるな。

 

 

 

何とか体制を整え、剣を構える灰。

 

「Grvororovo…」

 

「Gorovobobob…」

 

 二匹のシャーマンが不明瞭な詠唱を始めた。

 

――ちっ!また呪文か、今度は二匹同時に。

 

灰は心の中で舌打ちし、回避に専念するか攻撃して詠唱を阻止するか決めかねていた。

 

「よく見ておけ!対処法を教えてやる!!」

 

 突如鎧戦士が走り込み、一匹のシャーマンに狙いを定めた。

 

二匹の通常種がそれを阻止せんと立ち塞がるが、彼は無視し剣をシャーマンの喉に投射した。

 

狙い過たず剣は喉にクリーンヒットし、息も絶え絶えにシャーマンは倒れ伏す。

 

そして装備していた小盾をストラップから外し、もう一匹のシャーマンと灰の射線上に投擲した。

 

生き残ったシャーマンから放たれた、雷矢の呪文は投擲した小盾に命中し、稲妻が弾け飛ぶ。

 

瞬間、盾から焦げ臭い匂いが立ち込めた。

 

その僅かな時の隙間から生じた隙。

 

その隙を最大限生かし、鎧戦士は手に持った松明でシャーマンの喉を突き入れた。

 

ジュッと、肉の蒸発する音と焼けた匂いが辺りに拡がる。

 

呆気に取られていた二匹の通常種が、無防備な鎧戦士に襲い掛かろうとした。

 

だが、その願いは叶えられる事無く、背後から剣の一閃によって二匹とも両断された。

 

体勢を立て直した灰によって切り裂かれたのだ。

 

喉を焼かれ、のた打ち回るシャーマン。

 

鎧戦士は腰のナイフを抜き、シャーマンの頭部を刺し、止めを刺す。

 

そして剣を投射し、同じく喉を貫かれ辛うじて這っている、もう一匹のシャーマンにも躊躇う事無く引導を渡した。

 

「上位種は無駄にしぶとい。これで、18」

 

 広間に居る全てのゴブリン達を殲滅した。

 

「……すまん助かった。あんな戦術もあるんだな、勉強になった」

 

 灰は彼に感謝の意を述べた。

 

「そうだ決して忘れるな。身を持って学んだ事がいずれ実を結ぶ」

 

 鎧戦士は、灰に向かいながらもどこか過去を懐かしんでいた。

 

 

 

――先生は今頃どうしているだろうか。

 

子供時代に、戦い方を教えてくれた圃人の老人。

 

突如自分の前から姿を消してしまった、鎧戦士にとっての恩人だった。

 

 

 

「これで、18。残り3、どこに居るんだ?」

 

 灰は、周囲を見回しながら残りのゴブリンを探索し始める。

 

「こっちだ、ついて来い」

 

 鎧戦士に先導され、奥へ歩を進める。

 

そこには骨組みの椅子らしき、奇妙な物体が置かれていた。

 

鎧戦士が、骨組みの椅子を蹴飛ばし粉砕した。

 

砕かれた椅子の後ろに、粗末な木の板が見付かった。

 

「奴等の隠し扉だ。粗末な造りだがな」

 

 彼は立て掛けてあった、木の扉を蹴破る。

 

 

 

「――?!……これは?」

 

 灰が目にしたのは、まだ幼い小さな命……。

 

 

 

「子供のゴブリン……?」

 

「そうだ、奴等の子供だ」

 

 鎧戦士は、おびえた瞳で此方を見つめる子供のゴブリンに、武器を振りかざし近付いて行く。

 

 

 

――そうか、やはり。

 

 

 

灰の心に言い様の無い感情が沸き上がる。

 

今迄、成体の敵だったからこそ、躊躇いも無く武器を振るう事が出来た。

 

だが目の前に居るのは……。

 

何の力も持たない……。

 

幼い子供……。

 

「…ヤるんだな」

 

「当たり前だ。ゴブリンは、恨みを決して忘れん。生き残りは学習し経験を積み、更なる被害をもたらす。生かして置く理由が無い」

 

 鎧戦士の声は、どこまでも深く冷たく、そして無機質だった。

 

「もしも…もしもだ!無害で善良なゴブリンが居たとしたら……!」

 

 灰は問いかけた。

 

 

 

――俺は、何をやってる?ゴブリンを殺しに来たのだろう。

 

 

 

「善良なゴブリン、探せば居るかも知れん。だが……」

 

 鎧戦士の答えは、酷く淡々としていた。

 

「人前に出て来ないゴブリンだけが、良いゴブリンだ」

 

 その刹那、子供のゴブリンに武器を振るおうとするも、彼は途中で動きを止める。

 

「……何の積もりだ?灰よ」

 

 灰は剣を抜き、彼に突き出していた。

 

そして大きく息を吐く。

 

「……私に、いや。『俺』にやらせろ。これは…」

 

 

 

 俺が背負う!!

 

 

 

そう言い、灰はゴブリンの前に歩み出る。

 

鎧戦士が武器を納める間も無く、3匹の幼いゴブリンの首は、胴から離れていた。

 

一瞬だ。

 

瞬きする間も無い一瞬で、灰の剣はゴブリンの首を切断していたのだ。

 

ゴブリンは悲鳴すら上げず、何が起こったのかも理解出来ぬまま、その一生を終えた。

 

「そうだ、それで良い。ゴブリンに情けは無用だ」

 

 鎧戦士は武器を納め頷く。

 

「…それは違う。私は情けを掛けた」

 

 灰は即座に異を唱える。

 

 

 

「そう…。介錯と言う、情けをな」

 

 灰は剣を納め、周囲に気を配る。

 

「これで21。残敵は無し」

 

 打ち漏らした敵が居ないかを、注意深く確認していく灰と鎧戦士。

 

「ああ。これで終わりだ」

 

 鎧戦士が、討伐終了を宣言した。

 

 

 

攫われた女性は居なかった為、二人は巣穴を後にする。

 

灰は、自ら手に掛けた子供のゴブリンに一瞬だけ視線を向け――

 

――今度は、人間にでも生まれ変わってみるか?……あまり楽しくは無いがな。

 

ゴブリンを憐れんだのは、この依頼が最初で最後だった。

 

――灰よ、お前は優し過ぎる。

 

鎧戦士は、言葉にする事無く出口へ進んでいった。

 

 

 

こうして火の無い灰が請け負った最初の依頼は、鎧戦士の助力を得て特に問題も無く、無事に達成出来た。

 

巣穴の入り口を木の枝や岩石で塞ぎ、次のゴブリン達が再利用出来ない様に封鎖する。

 

農村に戻った二人は、巣穴を潰した事を村長に報告する。

 

「本当に、本当に有難うございます。何とお礼を申し上げて宜しいのやら」

 

 頭を何度も下げ、深く感謝する村長。

 

他の村人達も歓喜の声を上げ、皆喜んでいる。

 

 

 

「本当にそう思うのなら、次からは対応策を用意するべきだ。村長」

 

 鎧戦士は、歓喜のムードに染まる事無く、防護柵の構築や簡単なゴブリンの撃退法等を口伝で伝えていく。

 

何も策を講じないよりは、ずっと良い。

 

それに襲撃を受ける度に冒険者に依頼していたのでは、なけなしの資金が直ぐに底を尽き、村そのものが干上がってしまうだろう。

 

村を守る為に村を干上がらせてしまっては、本末転倒だ。

 

幸いこの村は、若手に事欠かない。

 

その気になれば、小数のゴブリンに遅れを取る事は、そう無いだろう。

 

「御忠告感謝します。必ず実行に移す様、皆に伝えて置きましょう」

 

 村長と村人達は、深く頭を下げ早速実行に移し始めた。

 

「私は、直ぐにでもギルドへ報告しに行きます。お二人は如何致します?」

 

 村長は、荷馬車で町のギルドへ向かうそうだ。

 

「俺達もそれに便乗させてくれ。増援の心配は無い事は確認済みだ」

 

 鎧戦士と灰は村長の荷馬車に乗り、街へ戻る事にした。

 

程無くして出発の準備が完了し、街のギルドへ馬車が動き出した。

 

 

 

空は濃い藍に染まりつつあり、間も無く夜の帳が下り様としていた。

 

 

 

 

 

 街のギルドには、多くの冒険者達で賑わっていた。

 

依頼を終え、報告に来る者。

 

次の準備に取り掛かる者。

 

疲れを癒す者。

 

思惑は様々だが、この時間帯もギルドは賑わうのである。

 

そしてギルドの扉を開ける、三人の男。

 

壮年の男性と二人の冒険者。

 

先程ゴブリン退治を終え、村長と共に報告に訪れた。

 

「いらっしゃいませ~~…、あっ」

 

 受付嬢の表情が明るくなる。

 

――今日も帰ってきてくれた。

 

彼女は、にこやかに対応する。

 

「この二人のお陰でゴブリンは退治されました。本当に有難うございます」

 

 村長の報告を始め、鎧戦士がゴブリン退治の様子を事細やかに説明していく。

 

「全部で21。その内シャーマンが2。人質は無し」

 

「はい!依頼達成、報告義務。ご苦労様です、此方が報酬になります」

 

 トレーの上に並べられた成功報酬。

 

金貨二枚。

 

「お前の取り分だ」

 

 鎧戦士が、金貨一枚を灰に渡す。

 

灰は頭を下げ、それを受け取った。

 

村人達が苦労して捻出した金だ。

 

その金貨の重みは、村の苦労の重みだろうか。

 

――大事に使わせてもらおう。

 

灰は村長にも、深く一礼で返す。

 

「本当に有難う御座いました。貴方方から授かった知恵は、村の為に生かします」

 

 村長は何度も頭を下げ、ギルドを後にした。

 

 

 

鎧戦士は数枚の依頼用紙を手に取り、カウンターの受付嬢と話し込んでいた。

 

「えぇ?!同時に3件も?!」

 

 受付嬢が驚きの顔を見せる。

 

「今直ぐ出発する訳じゃない。一旦休養を取る」

 

 どうやら複数の依頼を請け負った様だ。

 

「分かりました。くれぐれも無茶はしないで下さいよ!」

 

 受付嬢が、若干咎める様な表情で用紙にサインする。

 

「…む、…ああ」

 

少し戸惑った様な仕草を見せる鎧戦士。

 

 

 

「次は、3件受ける。現地には早朝着く様にしたい、今の内に英気を養っておけ」

 

 鎧戦士が次の依頼を灰に持って来た。

 

深夜遅く街の入り口で落ち合い、出発する旨を灰に伝えて来た。

 

「承知した」

 

「遅れるなよ」

 

 鎧戦士は、踵を返しギルドを後にした。

 

 

 

「ふぅ……」

 

 彼を見送った後、灰は大きく息を吐く。

 

――彼は、何時もあんな調子だろうか?

 

灰は、掲示板に目を向ける。

 

相変わらず、ゴブリン退治ばかりが目に付く。

 

ほんの少しでも他の冒険者達が、ゴブリン退治に目を向けてくれたら。

 

暫し考えたが、直ぐ頭を振る。

 

――彼等にも選択権はある。外部が強要するものではないか。

 

 

 

「此処で宿は、取れますか?」

 

 受付嬢へ、宿の取り方を聞く。

 

今の内に休息を取り、次に備える事にした灰。

 

「宿ですか?ギルドに併設されてますから可能ですよ。その食堂で食事も取れますし」

 

 どうやら、一通りの施設は備わっている様だ。

 

 

 

灰は、食堂へ向かい簡単な食事を済ませた後、安い部屋に泊まる事にした。

 

硬い寝台と机と椅子があるだけの安い部屋を借り、寝台には横にならず、篝火に当たる姿勢で仮眠を取る事にした。

 

――中々、彼の様にはいかないな。

 

ゴブリン退治の出来事を思い出す。

 

過剰に警戒し、余計な痛痒を負い、あまつさえ倒すべき敵に、不要な情けすら掛ける始末。

 

もし鎧戦士がその場に居なければ、あの戦いで死んでいたかも知れない。

 

まだまだゴブリンについても、この世界についても学んでいく必要がある。

 

 

 

 

 

灰はゴブリンの脅威を再認識し、浅くも眠りに就いた。

 

 

 

 

 

 

 

 




 如何だったでしょうか。

閉所では、ゴブリン側の土俵。

幾ら戦闘力に優れた灰でも一歩間違えれば、瞬時にお釈迦。

ゴブスレさんは、失敗しながらもそれを糧とし、一つ一つ積み重ねて来た。

中々出来る事ではありません。

気が付いたら、UA数が、エライ事になってました。

お気に入りに登録してくれた方、感想をくれた方、そして読んでくれた方、本当に有難う御座います。<(_ _*)>

これからも頑張って書いていきます。
(尚クオリティーには期待しないで下さい)

デハマタ。( ゚∀゚)/

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