ゴブリンスレイヤー ―灰の剣士―   作:カズヨシ0509

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ドーモです。
再び狭間の地へと降り立ち、円卓へと移動した後の続きです。
エルデン要素ばかりで、ゴブスレ、ダクソ要素は殆どありません。
では投稿致しますドゾ。( ゚ ω ゚ )


第104話―狭間の地、リムグレイブ―

 

 

 

 

 

 

霊馬の指笛

 

柔らかな金の指輪。

指笛として使用する。

 

霊馬トレントを呼び出し、騎乗する。

(騎乗中に使用すれば、霊馬から降りる)

 

霊馬が死亡した後も再度呼び出せるが『緋雫の聖杯瓶』が消費されてしまう。

 

霊馬であるトレントは、自らの意思で褪せ人を見初めた。

なれど実体なき霊体とて心はある。

蔑ろに扱い、繋がりを歪ませたくはないものだ。

 

褪せ人と灰人の融合、人馬一体は奇妙な形で成り立ったのである。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

(推奨BGM エルデンリング ―― 円卓(Roundtable Hold) )

 

 眼前に広がる光景に、思わず目を奪われ立ち尽くしてしまった。

決して豪華絢爛とは言えないものの、上質の家具で装飾された内装。

宛ら貴族の屋敷を思わせる構造である事は確実だ。

部屋の中心部には、円を囲むかのような卓が向けられ、更に卓の中央部には木の枝が無造作に広がり、先程目にした祝福よりも一際大きな祝福の光が全体に漂っていた。

その卓は正に『円卓』そのものと言えるだろう。

 

――此処が円卓か、火継ぎの祭祀場を思い出すな。

 

円卓へと辿り着いた灰の剣士(現褪せ人)

多数のランタンと豪華な暖炉に火が灯され、来訪者に言い様の無い安心感を抱かせる造りだ。

褪せ人の記憶から読み取り分かった事だが、この円卓と呼ばれる場所は『不戦の誓い』と呼ばれる約定が結ばれ、武器を振るう事が禁じられている。

何の拘束力も強制力もない様に思えたが、不思議と『不戦の誓い』を破る者は皆無だ。

嘗て火継ぎの祭祀場でさえ狂った不死人が蛮勇を振るい、挙句の果てに近隣を屯している亡者が入り込む事さえあった。

そういう意味では、この円卓は更なる安全性が確保されていると言えよう。

辺りを見回せば、数名の人が其々の時間を過ごしている。

その事からも、外に比べ円卓が如何に安全な聖域であるかを証明していた。

完全に過信するのも危険が伴うが…。

大祝福の周囲に設けられている上質な椅子へと腰かけ、暫し思案に耽る事にした。

此処に来た目的は、とにかく情報を収集する事だ。

褪せ人の記憶を読み取れば、既に幾人かと交流を築いていた様だ。

だが今の自分が下手に関わり、関係を拗らせる可能性も否定できない。

交流は必要最小限に留め、それでいて有益な情報を取り入れるよう振舞わねばならない。

 

――まず、彼にしてみるか。

 

壁面に控えめに佇む、聖職者らしき男に話し掛けてみる事にした。

褪せ人の記憶によれば、この聖職者は『コリン』という名前だと判明する。

 

「…おや、貴方は。新たな祈祷を学んでいかれますか?」

 

 既に初対面は済ませてあるらしく、彼から複数の祈祷(奇跡)を学べる事が分かっている。

一応彼から学べる祈祷を紹介して貰い、全て購入する事にした。

だが、彼から学べた祈祷は自分の良く知る『奇跡』や『呪術の火』と然程の違いは見られず、あまり重要視する必要はないだろう。

彼に悟られぬよう表には出さなかったが、あまり関心を抱く程ではなかった。

しかしコリンが曰くには、これ等の祈祷(奇跡)は『二本指』なる存在から伝達された奇跡だという事が分かった。

そして、褪せ人の多くは『祝福』を見る事が出来なくなり狭間の地をアテも無く彷徨う者が其処彼処に存在していると言う。

実はコリン自身もその一人であり、既に祝福の導きを喪いし者なのだ。

 

「それでは亡者と何も変わらぬ」

 

「亡者…死に生きる者達の総称ですね。黄金律が壊れ、生と死の境目も曖昧となり久しい。一刻も早く誰かが『エルデの王』と成り、黄金律を修復しなくては…」

 

 どうやら、この世界にも亡者は存在しているという事が分かった。

序章とはいえ確実に崩壊の兆しを見せているのは間違いない。

今は兆しの状態だが、時が経過するにつれ徐々に崩壊が加速するのは、この世界でも共通しているだろう。

自分の本来の目的は情報収集と戦力の強化だが、ソレばかりに腐心し、自分の宿主である褪せ人の使命を妨げるのは流石に不誠実ではなかろうか。

折角この世界に降り立つ事が出来たのだ。

この褪せ人もエルデの王と成る重い使命を背負っている。

ならば少々の協力も、決して(やぶさ)かではない。

コリンに尋ねる事にした。

 

「更なる奇跡…もとい祈祷を学ぶにはどうすれば良いのか?」

 

「この狭間の地には、私以外の聖職者も存在している筈です。その者達から学ぶか、或いは新たな祈祷書を手渡せば多くの研鑽が叶いましょう」

 

「そういう事か。コリン殿、礼を言う」

 

 この狭間の地でも、書物を入手し誰かに渡す事で更なる学習が可能である事は、概ね似通っていた。

問題はそれ等が何処に存在するかという点だが、流石にコリン自身も知らないようで自力で探し出すしかない。

それなりに有益な情報を入手し、コリンに礼を述べる。

 

「…?貴方、何かあったのですか?」

 

「…?」

 

 突如コリンは不思議そうな表情で、此方に言葉を返す。

どういう意味かを訊ねる灰の剣士(現褪せ人)

コリンが言うには、以前ここを訪れた時もう少し砕けた態度を振りまいていたというのだ。

しかし今の自分は、それとはまるで真逆であるかのような口調と振る舞い。

その余りの変貌ぶりに、何か劇的な変事に遭遇したのではないかとコリンは勘繰っていたのである。

 

「貴公の気に病む事に非ず。誰しも変革は到来するもの。世話を掛けた、コリン殿」

 

「…そうですか、なら良いのです。貴方が、黄金律と共にありますように」

 

 何とかはぐらかし、コリンとの会話を打ち切る事にした。

 

――う~む。もう少し立ち振る舞いを変えた方が良いか。しかしな、いまさら()()のようにはいかんしなぁ…。

 

どうにも宿主である褪せ人と今の自分とでは、振る舞いや口調に、かなりの差異が生じている事が判明した。

再度記憶を読み取れば、この褪せ人は、自分が良く知る四方世界の冒険者”槍使い”や”重戦士”に似た人柄であるらしい。

――だとすれば、以前の褪せ人と今の自分との振る舞いの違いに、相手側が相当の違和感を覚えても何ら不思議ではないという事だ。

ならば、元の宿主と同じ様に振舞うべきなのだが、こればかりは性格という部分も重なり相当の骨を折らねばならないだろう。

寧ろ無理な振る舞いは却って怪しまれるだけで、下手をすれば警戒感を抱かせ円卓を追放される恐れもある。

それなら、多少怪しまれてでも普段の自分を貫き通すしか手は残されていないのだ。

 

――仕方あるまい。私は私らしく振舞うのみ。

 

意を決した灰の剣士(現褪せ人)は、再度行動を起こす事にした。

褪せ人の記憶を頼りに、今度は『百智卿』ギデオン=オーフニールなる人物を訊ねる事にした。

記憶によれば、彼もエルデンリングに見え『エルデの王』を目指す為に、この円卓にて全てを識ろうと心血を注いでいるらしい。

同時に円卓の主でもあるようだ。

――であるなら、彼を避ける選択肢は無い。

灰の剣士(現褪せ人)は、彼が居ると思わしき部屋に向かう。

夥しい書物が積み上げられた書斎と言うべき部屋、其処に彼は居た。

足音で此方の存在には気付いている筈だが、彼――『百智卿』は一心不乱に書物を読み漁っている。

この褪せ人の記憶を辿れば、今の自分は居候に身に過ぎず未だ円卓の真の一員とは認められていないという事を知った。

先ずはその事について尋ねてみようか。

 

「…何用かね?私は、忙しいのだが…」

 

⇒居候とは?

 何も言わない

 

「…ほう、不満かね。円卓の居候であることが。ならば、せめて思い出すがよい。もたらされた祝福の、最初の言葉を…そしてもし君が、決して絵空事でなくエルデンリングに見え、エルデの王にならんと欲するなら…導きに従い、破片の君主を倒し、大ルーンの主となりたまえよ。そうすれば、円卓の奥の間は扉を開き君は二本指の言葉を聞くだろう」

 

 彼から齎された『祝福の導き』という言葉。

確かに幾度か目にした祝福からは、光の粒子がとある方向へと流れていたのを思い出す。

 

「あれが進むべき道を指し示していると?」

 

「そうとも、そして向かい給えよ。導きに従えば君は、あの城へと辿り着くであろうよ。そして君主を討ち、大ルーンを手にし給え。それが君の成すべき使命への道しるべとなろう」

 

 確かに彼は多くの知識を有している。

都合よく利用されている印象は否めないものの、今は彼の言葉に従う方が賢明であろう。

 

「もし君が、二本指の言葉を聞いたのなら、歓迎しよう。円卓の、真の一員としてな。…期待しているよ。もう、うんざりなのだ。円卓を、避難所か何かと勘違いしている、褪せ人擬きどもには」

 

 取り敢えずの目標は定まった。

矢張りマルギットが立ち塞がる、あの城を目指すのが正解の選択肢だった様だ。

しかし、あの敵を破らない限り一歩も進む事は叶わない。

どうにかして戦力増強を図りたい処ではある。

有効策はないものだろうかと、百智卿へと助言を仰いでみた。

 

「ならば、先ずはリムグレイブ内を隈なく探索すると良い。もう知っていると思うが、ここ等一帯がそうだ」

 

 百智卿が壁面に飾られた地図に向かい、リムグレイブと呼ばれる地域を指し示してくれた。

そして今の自分には『トレント』と呼ばれる霊馬を召喚できる指輪を授かっている事を知る。

確かに徒歩では膨大な労力を要すが、霊体とはいえ馬を使えば大幅な移動短縮に繋がるのは間違いない。

リムグレイブ内を隈なく探索すれば、必ずや自分の助けとなる要素が存在しているだろう。

今の自分に時間的猶予がどれほどあるかは疑わしいが、現時点でマルギットに討ち勝つには少々不安が残る。

先ずは、リムグレイブ内を探索してみる事にしよう。

 

「感謝する、百智卿。先ずは力を付ける事を是としよう」

 

「これで…話は終わりだ。私は、忙しいのだ」

 

 彼に彼の役割があるのだろう。

あまり個人の理由で時間を割かせるのも憚られる。

灰の剣士(現褪せ人)は百智卿に礼を言い、書斎を後にした。

彼が去った後、百智卿は一人呟く。

 

「不思議な褪せ人よの。以前訪れた時とは、まるで佇まいが違う。まるで別の人格にでも支配されたかの如き有様よ」

 

……

 

主要な情報は概ね得る事が叶った。

このまま円卓を去り行動を起こすのも良いが、もう少し回ってみる事にする。

書斎から少し進んだ先には、双子の老婆が佇んでいた。

老婆というよりも半ば白骨化した遺体と言った方が相応しいだろうか。

話し掛けた処で反応らしい反応も示す事は無かったが、どうやら物品を売ってくれるらしい。

さしずめ、火継ぎ祭祀場の侍女と同じ役割を彷彿とさせた。

だが現時点では、それ程目を引く商品は見付からなかった。

その殆どが、あの時代と酷似した代物ばかりだ。

精々が、『石剣の鍵』ぐらいだろうか。

どうやらインプ像と呼ばれる封印を解く事が出来るらしい。

他に目ぼしい物は無く、取り敢えずはそれを購入する事にした。

火継ぎ祭祀場の様に、何らかのアイテムを渡せば商品のラインナップも忠実するだろうか。

機会があれば探してみる事にしよう。

灰の剣士(現褪せ人)は、更に円卓内を回る事にした。

その部屋には、一心不乱に武器を鍛える鍛冶師を見付ける事が出来た。

 

「おおアンタか、まぁやる事は変わらん。武器を出せ、鍛えてやる」

 

 何とも非常にシンプルで用件のみを伝える男だ。

褪せ人の記憶によれば、この男は人間ではなく『混種』と呼ばれる亜人の類らしい。

よく見れば背には、捥ぎ取られた羽根の様な名残りが見て取れた。

だが彼自身、自らの出自に拘りは無いらしく、ただ武器を鍛える事に専念している。

そういう意味では、今四方世界にて活躍している鍛冶師『アンドレイ』を匂わせた。

彼の要求通り、武器を出し懐から強化用の素材も渡す。

そこで初めて彼は気付いた。

武器を鍛える為の強化素材が、『鍛石』との呼ばれる不可思議な鉱石である事に。

 

――そうだったのか。鍛石は、この世界が発祥であったか。

 

辺境街の武器工房で見かけた時は、てっきり四方世界の源産物かと思っていたが違っていた様だ。

この『鍛石』も楔石と同じく四方世界に流れ着いた代物であったのだ。

 

「この鍛石とやら、何処で手に入るか知らぬか?」

 

「……。各地に在る坑道を探しな。其処で手に入る筈だ」

 

「感謝する」

 

 より質の良い鍛石も存在する筈だ。

ヒューグから坑道に関しての情報を聞き出す事が出来た。

所在地の詳細まで聞き出す事は出来なかったが、判断基準が生まれた事は非常に有益だ。

鍛え上がったブロードソードを受け取り、彼は礼を述べヒューグの下から立ち去った。

 

「……」

 

 彼は気付いていない。

ヒューグの手が止まり、彼の背に視線を送っていた事を。

 

まだ回っていない部屋があった筈だ。

彼は更に奥へと進み、其処で寝台に腰掛けた若い女性を目にする事が出来た。

何処か火防女の思わせる黒く薄いドレスに身を包み、魅惑的な肢体と美貌を兼ね備えている。

その様は宛ら”娼婦”を思わせ、恐らくそういった行為と縁が深いと観て良いだろう。

褪せ人の記憶を辿ってみれば、彼女は死衾の乙女『フィア』という名前を持つ女性だ。

何でも死体を共に寝る事で、死者を蘇らせる能力を有しているらしい。

 

「ようこそお越し下さいました。また、私に抱かれてくれるのですか?」

 

 此方に気付いたフィアが、意味あり気な視線を送り語り掛けて来る。

()()()()つまりは()()()()()()に及ぶという比喩だ。

先程の記憶で、この褪せ人が彼女と寝台を共にした事は判った。

(初対面で、3回も寝ていた)

彼女は幾多の英雄を抱く事で『生』の力を蓄えソレを依り代に、死者と同衾し蘇らせるという能力者だ。

 

「…此度は遠慮しておく。また次の機会に応じてくれるか?」

 

「…そうですか。では次の機会に再びお相手を――」

 

 抗い難い誘惑に駆られたが、何とか振り切り彼はやんわりと断った。

その時の彼女の表情は些か落胆にも似ていたが、彼に後悔はない。

死衾の乙女の名に違わず彼女からは、死のソウルが纏わり付いている。

彼女自身、女としての魅力に溢れ大勢の男を虜にするのは間違いない。

以前の褪せ人は応じた様だが、今の灰の剣士(現褪せ人)には近寄り難い抵抗感も覚えていた。

今の自分が介入している間は、可能な限り交流を避けた方が良さそうだ。

 

「また会おう」

 

 そうとだけ告げ、彼はその場を後にする。

 

「……不思議な方。()()とは何かが違う」

 

 去り行く彼の背を見つめ、フィアは一人静かに呟いた。

 

さて、円卓という場所を一通り回り有益な情報も入手できた。

取り敢えずの目標も定まり、彼は静かに転移で円卓を去る。

 

……

 

   ―― リムグレイブ ――

 

(推奨BGM エルデンリング ―― リムグレイブ(Limgrave) )

 

再びリムグレイブへと戻って来た灰の剣士(現褪せ人)

先ずは、この広い領地を駆け回り探索するという目標を定めた。

以前の時代とは違い、この世界では地図を所持している。

加えて霊馬『トレント』なる馬も指輪に封じられていた。

当時に比べれば、遥かに恵まれている。

移動には、それほど不自由しない筈だ。

 

――例の城の逆方向、東寄りに進路を取るか。

 

本来目指すべきは、黄金の君主が治めるストームヴィル城だ。

しかし現時点では、力が心許なく直ぐに無駄な屍を晒すのが目に見えている。

ならば自由が利く分、縦横無尽に駆け巡り”力”を得る事も大きな糧となる。

祝福の光は、西…つまりストームヴィル城を指している。

しかし敢えて『東』へと向き、指輪に息を吹き込んだ。

この指輪は特殊な構造をしており、笛の役割を併せ持つ。

ピィ―ッと甲高い音が鳴り響き、気が付けば自身は霊体の馬へと跨っているではないか。

 

――成程、彼が霊馬トレント。

 

霊体の馬という珍しい存在に、傍し視線を寄せる灰の剣士(現褪せ人)

 

「では宜しく頼むトレントよ」

 

 褪せ人の記憶を辿り、ロアの実を加工した『ロアレーズン』をトレントに与え友好の意思を示した。

その意思が通じたのか、トレントも喜んでロアレーズンを頬張り鳴き声を上げる。

 

「――ハァッ!」

 

 そして馬の腹を蹴り、それと同時にトレントが勢いよく狭間の地を駆けた。

 

……

 

霊体の馬が大地を蹴り疾走する。

宛ら疾風の如き速さを誇り、人の脚など比較にはならない距離を一気に駆け抜けた。

目指すは東――と行きたい処だが、今の彼は褪せ人に乗り移った灰の剣士だ。

実は彼、馬術の心得などあろう筈もなく素人同然でもあった。

取り敢えずだが向かうべき場所は決まっている。

しかし、乗馬もままならない今の状態では行軍すら覚束ない有様なのだ。

狭間の地に降り立ち然程の時間は経っていない。

なれど、暗い魂を孕んだ”この世界”には一種の馴染みを覚えていた。

間違い無く馬上での戦闘も遭遇する筈だ。

ならば尚の事、馬の扱いに少しでも習熟する必要がある。

 

彼は褪せ人の記憶と経験を読み取り、独学ながらも乗馬技能の研鑽に努めた。

とにかく最初は、不様としか言いようがなかった。

何度も振り落とされかけ、方向転換にも苦慮し、思う様に馬を操る事が出来なかった。

だが褪せ人の経験と時間が、徐々にそれを解決してくれる。

褪せ人の記憶から一つ一つコツを学び取り、時間を要しながらも確実に馬術を向上させた。

数時間を費やしたが、どうにか馬を意思通りに操る事に成功する。

正式な訓練を受けた騎兵には遠く及ばないものの、自由な移動さえ叶えば取り敢えずの節目を迎えたと言えるだろう。

 

――移動はこの辺で、次は戦闘だな…。

 

だが、馬上での戦闘にも備えが要る。

彼は乗馬したまま、幾度か剣を振るった。

 

――ぬぅ…上手く力が入らぬ。

 

今の今まで地に脚を付けて戦い抜いてきた。

馬に跨ったまま剣を振るのは、どうにも奇妙な違和感を禁じ得ないのだ。

今は静止したままで剣を振るったが、実際の馬上戦では走った状態で敵を討たねばならない。

つまり、馬の機動力と敵との相対距離などを加味した上で、攻撃する機を見極めねば勝機は無い。

如何に擦れ違い様に剣を当て、敵を斬るか――。

未だ馬上戦は未経験だが、注力すべき点は拙いながら理解していた。

しかし、馬上戦闘での重心移動や体重の運び方などは実戦を通じて糧を築いていくしかないのも確かだ。

 

――こういう時こそ、彼等の出番なのだがな…。

 

共に彼の時代を戦い抜き、今も四方世界で活躍している二人の騎士に想いを馳せた。

だが残念な事に彼等は、この狭間の地には居ない。

非情だが、こればかりは自身の裁量で乗り越えねばならず、彼は今試されているとも言えた。

 

――ふむ…練習台には丁度いいか。

 

馬に跨ったままの彼は、ソウルの業で遠眼鏡を取り出し遠方に映る複数の人影を捕らえた。

緩慢に街道を歩き、アテも無くフラフラと彷徨う軽装の人影。

一応武器は所持しているが、お世辞にも手練れには見えず、普段から見慣れた亡者に酷似している。

接敵もせず断定するのは、早計と驕りを生むのだが、察知出来るソウルも非常に弱々しい。

流石に、あの程度なら敵戦力を見誤る事は先ず無い。

 

――少々気の毒だが、実戦相手になって貰うぞ…!

 

遠眼鏡越しに見ても、敵意らしき意志は伝わって来ない。

恐らく素通りしたとて、反応も希薄で態々戦う必然性が見出せない集団だ。

敵意を示さない相手に自ら切り掛かるのは、それは蛮勇に他ならず唯の賊と何ら変わらない。

彼の時代にも非好戦的な亡者は存在し、彼自身も故意に彼等を攻撃する事は無かった。

だが今の彼には目的があり、弱々しい集団相手にも剣を振るわねばならない理由がある。

全く未経験な馬上戦闘に習熟する為にも、彼は冷徹な意思を込め馬を駆る。

人間を遥かに凌ぐ速力で、あっという間に敵集団へと迫った。

 

「――ぬんッ!」

 

 彼は馬を走らせながらも敵に対し剣を振り下ろした。

 

……

 

案の定、上手くはいかないものだ。

最初の接敵で、彼は擦れ違い様に敵を切り裂こうと仕掛けた。

だが物の見事に剣は空振り、敵は何が起こったのかも分からないまま此方にゆっくりと向きを変えただけだ。

敵は武器すら持たぬ一般人にも似ていた。

シワだらけの顔と窪んだ眼から正気を失った亡者に酷似していた為、真面ではないのは確定している。

それ故、切る事に何の躊躇いも無いのだが、彼は盛大に空振ってしまったのである。

もし真っ当な生者が見ていれば、今の彼は笑い話のネタにされていた程の醜態を晒していた。

 

――こういう時は、長物の方が有利か。

 

馬上に幅広剣(ブロードソード)――。

しかも片手剣では、些かにリーチが足りないのも原因の一つであろう。

とにかく武器が小さ過ぎた。

馬上では乱戦にでも縺れ込まない限り、基本的に静止して戦う事は稀だ。

馬上という高所からの優位性と、馬自身の機動力で並み居る歩兵を圧倒するのが騎馬兵本来の強みと言って良い。

その特性を生かすのなら、必然的に敵に攻撃する機会は擦れ違い様に限定される。

ならば、取り回しの良い武器よりも、リーチや遠心力を活かした大型武器が有利に事が運ぶ。

状況にもよるが、大抵の騎兵は槍や大剣などを帯びる傾向が強い。

彼のブロードソードでは、馬から態々身を乗り出し不安定な体勢で切り掛からねばならず、命中低下は否めなかった。

 

――クソ!もう一度っ!

 

だが此処で、諦める訳にはいかない。

彼は馬を反転させ、再び敵に攻撃を仕掛けた。

 

こうして不様で拙い馬上攻撃を得ながらも、彼は独学ながらに徐々に馬上戦闘の技術を習得するに至った。

霊馬であるトレントを何度も往復させ、不利な幅広剣(ブロードソード)で多数の敵集団を仕留めていた。

最初は、非戦闘員染みた集団に絞り何度も剣を振るう。

そしてある程度経験を積んだところで難易度を引き上げ、標的を武装した兵士や小規模の敵部隊へと切り替えた。

流石に武装兵相手には、此方も痛痒を追う事は免れ得ない。

だがそうした戦闘を繰り得す事で、彼は確実に練度を磨き上げる。

それも”剣”だけではなく”弓”といった武器種を変え攻撃の幅を拡大した。

そして実戦訓練の締めにと、敵騎馬兵部隊へと狙いを定める。

敵も軍馬に跨る騎兵2騎を中心に、武装した歩兵複数で部隊を編成していた。

今までよりも、遥かに攻略難度が高いのは明白だ。

一筋縄ではいかないだろう。

 

そして彼の予感は的中した。

 

彼は、大剣を装備した騎兵の手痛い一撃を食らい落馬――。

生まれて初めて、彼は馬から落とされるという経験を味わった。

落馬した彼は無防備な体勢で地面に横たわり、残存兵から滅多切りで肉塊にされ絶命した。

 

しかし彼は、四方世界に戻される事は無く、リムグレイブ内の『祝福』で復活を果たす。

 

その上で彼は悟った。

どうやら今回は、目的を達成し一種の節目を迎えねば四方世界への帰還は叶わないらしい。

四方世界での時間の経過は気になる処だが、取り敢えず聖黄金樹に残した自分の本体の事は意識の隅に追いやり、目的を果たす事に専念した。

無残な死に方だが、不死人時代でも恒常的に死をを繰り返し、その度に学んで来たのだ。

たとえ世界が違おうとも、こうして復活できる事は非常に喜ばしい。

ならば再び利用させて貰おうではないか。

 

   ―― 死に覚えるという学習法を ――

 

祝福で意識を取り戻した彼は、再び霊馬トレントを呼び出し殺された現場へと舞い戻る。

密かに役立ったのは、前回死亡した地点が地図に記されているという点だ。

正確には、死亡時に落としたソウル(狭間の地ではルーンと呼ぶ)が意識内に流れ込むのだが、再び殺される前に回収すれば完全消失(ロスト)する事は無い。

それに土地勘のない間は、ある種の道標としても利用できる。

彼の時代とは似て非なる世界構造《ゲームシステム》だが、彼にとっては有用に働いた。

その死亡地点に向かい迷う事なく到着する事が出来た。

今まで屠った敵も何故か復活していたが、それは些細な事情でしかない。

 

――仕切り直しだ、付き合って貰うぞ!

 

兜の奥で不敵に笑った彼は、再度トレントと共に敵部隊へと勝負を挑む。

前回の反省点を活かし、馬や敵との相対距離を測りつつ一撃離脱を徹底させた。

極力被弾を避け、適正距離を測りながらも攻撃の隙をじっくりと待つ。

そして交戦中だが、トレントは最高速度に加え加速力や旋回性能にも優れた、非常に優秀な霊馬である事に気付く。

そうと分かれば、その長所を活用しない手は無い。

敵騎兵の大剣の空振りを誘い、その隙目掛けてトレントを急加速させながら敵騎兵に切り掛かり一刀の下に首を刎ねた。

トレントの加速力と剣の速度が合わさり、通常ではありえない程の威力を発揮する。

これは騎兵に備わる特権と言ってもいい。

故に、騎兵部隊の突撃戦法は歩兵に対し脅威となっていた。

戦場の花形と称えられるのも頷ける話だ。

実戦を通じ騎兵としての練度を引き上げる灰の剣士(現褪せ人)

些か痛痒を負ったものの、今度は敵部隊の殲滅に成功する。

 

その後は標的を切り替えながら、次々と敵部隊の野営地を襲撃し切り伏せた。

時には大きく迂回し、敵部隊の背後から奇襲を敢行する戦法も執る。

既に一帯には、真面な思考を持つ生者は一人も居ないのだ。

今の自分は宛ら、見境なく君主軍に襲い掛かる”狂人”そのものだが気に留める事も無い。

 

遠慮など無用。

躊躇など愚行。

 

四方世界時の彼とは思えない程に戦意は高揚し、彼は只管に敵部隊を襲撃しては殲滅を繰り返した。

今の彼には、四方世界で交流した仲間達の事など完全に意識の隅へと追いやっていたのである。

 

――しかし頃合いか、目的を見失っては元も子もない。

 

ふと我に返り、危うく岩場へと突っ込む寸前で彼は馬を停めた。

もう少しで()()()()()に置き換わる所だ。

 

「いかんいかん、私が血に酔った亡者()と化してどうする。少し適当な場所で一旦落ち着くか」

 

 あのまま思考停止しながら戦闘を継続していれば、自身はどうなっていたのだろう。

先程までの自分は、対峙してきた敵兵と何ら変わる事の無い正気を失った狂人と同じだ。

兜の奥で呼吸を整えた彼は、最寄りの祝福へ立ち寄り小休止を取る事にした。

 

この狭間の地に来て気付いた事がある。

それは、三大生理欲求が健在だという点だ。

あの時代(ダークソウル)とは違い、この世界でも食欲や睡眠欲が未だ褪せる事は無かったのだ。

その証拠に、彼の胃は空腹の咆哮を発している。

 

「この世界では普通に腹が減るとはな。何か食べる物は無いのか?」

 

 あの時代(ダークソウル)この世界(エルデンリング)の違いに若干戸惑いつつ、彼は意識内のインベントリを探り糧食に付随するものを物色する。

共有しているとはいえ他人の持ち物に手を付けるのは盗人猛々しい愚行だが、背に腹は代えられない。

戦闘を終えた途端に、言い様の無い空腹が彼の意識を掻き乱すのだ。

これでは活動どころではない。

一応不死ゆえに餓死する事は無いだろうが、何とか胃を満たし平静に戻る必要があった。

インベントリ内には、数種類の干し肉が見付かった。

どれもが加工済みで、何らかの効果を有しているのが分かる。

彼は思い出していた。

以前、水の都の錬金棟にて行われた錬金術の授業を――。

ロロナとトトリが中心となり錬金術の指導に当たってくれたのだが、その一方でピアニャという女性錬金術師が通常の調合術について講義していたのを思い出す。

彼女の指導を受けていたのは、ゴブリンスレイヤーを始めとした数人の冒険者が熱心に学んでいた。

今手元に有る数種類の”干し肉”と、あの時造り上げていた”干し肉”が見事に一致した瞬間でもあった。

彼自身は直接指導を受ける事は無かったが、通常の調合術も有用だと判断し秘かに彼女のレシピを写させて貰っていた。

(野次馬と化していたメルルから、()()()とからかわれてしまったが)

(本編前夜編 第95話参照)

 

「……」

 

 奇妙な繋がりを感じながらも、彼は取り出した干し肉を口へと運ぶ。

若干癖のある味だが、そう悪いものでもなかった。

他にもインベントリ内からは、数種類の野草や木の実が見付かり食用に適している事を知る。

それ等も少々失敬させて貰い、彼は口へと放り込み咀嚼を繰り返す。

溜まった口内を水筒で胃へと流し込みながら、彼は束の間の休息に浸った。

因みにトレントは指輪内に納めておらず、彼の傍らでロアの実と雑草を()んでいた。

 

一先ずの空腹を満たし再び落ち着きを取り戻す。

馬上戦は一通り熟す事が出来た。

次に向かう先は、もう決めてある。

彼は地図を開き、ある祝福へと転移した。

彼の定めた転移先――。

 

   ―― リムグレイブ・導きのはじまり ――

 

転移を通じ、この地へと辿り着く。

直ぐ傍には、白い仮面の男らしき人物が佇み此方に顔を向けてきた。

褪せ人の記憶によれば、彼は『ヴァレー』と言うらしい。

右も左も分からない褪せ人に様々な助言を提示してくれた人物の様だ。

今話しかければ、何らかの情報を手にする事も叶うかも知れない。

だが灰の剣士(現褪せ人)は、敢えて話し掛ける事はせず軽く一礼だけで応え歩みを再開した。

今の自分と宿主である褪せ人は、かなり性格も立ち振る舞いにも大きな差異が見られ下手に人間関係を拗らせたくは無かったのだ。

本当に必要な時だけの接触に留め、極力単独行動に専念するつもりでいた。

しかしである――。

 

「…最初にお会いした時とは違う、ルーンの違和感。何が起きたのでしょう?」

 

 ヴァレーは白い無機質な仮面越しに手を当て、去り行く褪せ人に思案を傾けた。

しかし、灰の剣士(現褪せ人)はヴァレーの疑念にも気付かず、その場から立ち去る。

 

――あれがツリーガードか…。

 

草むらに身を屈め、遠眼鏡で遠方を視認する。

レンズ効果で拡大された映像には、金色に輝く全身甲冑に身を包んだ大柄な騎兵が悠然と徘徊していた。

彼本人だけでも規格外な体躯を誇るだけでなく、彼の馬もまた屈強で、トレントとは比較にならない程の巨躯を誇っている。

またツリーガードの武装もかなり目立ち、黄金に輝く大盾と巨大な斧槍(ハルバード)を携えていた。

 

「初見で討伐できれば言う事は無いのだが……」

 

 褪せ人の記憶を辿れば、彼自身も幾度かツリーガードに挑み無残な敗北を喫していた。

馬鹿正直に真正面から挑んだ処で、呆気なく返り討ちに遭いトレントごと肉塊にされていたのである。

規格外の軍馬と斧槍の波状攻撃――。

その破壊力は凄まじいの一言に尽き、真面に食らえば見るも無残な屍を晒す羽目になる。

 

そう、彼の目的――。

 

それはこのツリーガードの討伐であった。

今までの馬上戦を繰り返したのも、この為の布石であったのだ。

 

「戦いに来たのだ、覚悟を決めるか…!」

 

 意を決した彼は茂みから立ち上がり、トレントを呼び出す。

その後すぐさまツリーガード相手に全速力で疾走した。

彼の行動を察知したらしく、ツリーガードも軍馬を操り彼へと突撃する。

灰の剣士(現褪せ人)とツリーガードの戦いの幕は切って落とされた。

 

(推奨BGM エルデンリング ―― ツリーガード(Erdtree Knights) )

 

……

 

斧槍で叩き潰され、大盾で弾き飛ばされ、軍馬に踏み潰され、多少の反撃をものともしないツリーガードに彼は不様に殺された。

 

そうして死ぬこと5回――。

 

矢張り真正面からの力の激突では勝てない事を悟り、彼は少々戦法を変える事にした。

先ず逃げると見せかけ、トレントの後に追い縋るツリーガード。

其処に隙はあった。

彼は仕込んでおいた『紐付き火炎壺』で、後方へと投擲――。

それも複数纏めて放り投げたのだ。

少々無茶な戦法だが、幾つかの紐付き火炎壺はツリーガードと軍馬に命中炎上する。

多少の効果は有ったのか、敵は僅かに怯みを見せた。

ここで敵は初めて隙を生み出したのである。

彼は透かさずトレントを反転加速させ、擦れ違い様にツリーガードを斬る。

重甲冑に阻まれ大した痛痒を与える事は叶わなかったが、確かな手応えを得る事は出来た。

そしてツリーガードは体勢を立て直すのだが、その巨体さが仇となった。

重厚感溢れる体躯と軍馬は、細やかな旋回は不得手であり彼は其処に付け込んだのである。

旋回性や運動性はトレントが勝っており、彼は一定の距離を保ちながら弓矢の射撃で攻め立てた。

斧槍の間合い外を徹底し、焦る事なくじっくりと攻めの流れを崩さない。

ツリーガードが無理に追い縋れば、旋回と逃げで距離を稼ぎつつ”火炎壺”で翻弄――。

そして僅かな隙に付け込み、弓矢での射撃を徹底させ手札を変えながら確実に追い詰めてゆく。

不思議な事にツリーガードは学習能力が無いのか、同じ行動を単調に繰り返すだけだ。

もうこうなれば、彼の勝利は揺るがないも同然。

とうとうツリーガードは落馬し、致命的な隙を彼に曝け出した。

 

――勝機っ!

 

無論、それを見逃す彼ではない。

透かさずトレントから降り、敵の頭部へと渾身の力を籠め剣で突き刺し見事勝利を収めたのだ。

 

   ―― ENEMY FELLED(敵討伐セリ) ――

 

こうしてツリーガードの戦いに勝利した灰の剣士(現褪せ人)

数度の敗北を得て、彼は強敵を屠る事が出来た。

 

「ハァ…ハァ…ハァ…手強い敵だった…」

 

 トレントを指輪へと仕舞い込み、彼はその場でドカッと腰を降ろし息を整える。

気が付けば、導きの始まりという祝福からは、かなり離れてしまった。

それ程までにツリーガードとの戦いは、切羽詰まる程に集中し同時に追い詰められてもいたのである。

とにかく、今まで経験した事の無い別種の緊張感に満ちた死闘であったのは間違いない。

塵灰へと消え去ったツリーガードの地点には、黄金に輝く巨大な斧槍(ハルバード)が残されていた。

 

黄金のハルバード

 

それを拾い上げ、流れ出るソウルを感じ取る。

 

()()()では扱い切れんか…」

 

 とにかく重い。

扱うには筋力が不足している。

持ち上げる事は可能だが、自在に使いこなすにはこの重量では本来の身体でも不可能である事は明白だ。

しかし、この武器に秘められた戦技『黄金樹に誓って』は、かなり有用だ。

 

「できれば四方世界に持ち帰りたいが、どう事が運ぶのか?」

 

 戦技は自身のソウルに染み込ませる事で、再現する事が出来た。

しかし、こういった物質はどうなのだろう。

せめて武器に備わった戦技だけでも修得したいが、今の能力値では戦技が発動せず虚しく掲げる事しか出来ない。

仕方なく彼は、黄金の斧槍をソウルへと変換しインベントリ内へと収納した。

 

「まぁいい、何時までも執着した処で埒が明かぬ。次に向かうとするか」

 

 しかしリムグレイブ内は、まだまだ未踏の部分も多く、これから向かう先々で多くの装備や戦技に出会う事もあるだろう。

彼は気を取り直し、出発を再開する事にした。

次に向かうのは、導きの始まりの近くに在った建造物だ。

その建物内には『インプ像』の封印で閉ざされた地下墓がある。

何が眠っているのかは未知数だが、探索する価値は充分にあった。

彼は再び転移で祝福へと舞い戻る。

 

   ―― リムグレイブ・導きのはじまり ――

 

祝福へと戻った彼は、後方に位置する建物へと進路を取る。

またもやヴァレーから視線が投げ掛けられたが、彼に気にも留めず目的へと突き進んだ。

 

「ここか」

 

 昇降機を使い下層へと降りた先に、件のインプ像が設けられていた。

石造りの異形を模した彫像で、先程円卓で購入した『石剣』が鍵としての機能を果たす。

四方世界の小悪魔(インプ)と似姿が酷似しているが、この先出くわす事があるのだろうか。

そんな事を思いながら、彼は鍵となる石剣を二つ使いインプ像へと差し込んだ。

封印は無事解除されたらしく、眼前の霧の壁は見事に消失し通路が姿を現す。

 

「……」

 

 彼は改めて気を引き締め、その通路に足を踏み入れた。

 

   ―― 辺境の英雄墓 ――

 

(推奨BGM エルデンリング ―― 地下墓(Catacombs) )

 

地下墓と言えば、あの広大な『カーサスの地下墓』が挙げられる。

だが膨大な時が流れていたのだろう。

あの地下墓は、ほぼ朽ち果て崩壊寸前まで荒れ果てていた。

しかし此処の地下墓は未だ原型を留めており、人工的な内装から、それが見てとれる。

足を踏み入れた傍から、眼下に毒沼が展開されていた。

緑色に彩られ何とも毒々しい水溜りが、彼の進軍を躊躇させる。

だが彼は意を決し、高所から飛び降り毒沼へと身を投じた。

なにも着水した瞬間から”毒”が発症する訳ではない。

彼の免疫を越える毒性が堆積した時、初めて症状が現れるのだ。

脇目も振らず安全地帯まで全力疾走する事で、毒に侵される事無く乗り越える事が出来た。

それでも体内に浸透した毒は、直ぐに消失する訳ではない。

幸い毒による発症は見られない。

このまま放置しても体内の自然治癒力で浄化してくれるだろうが、心なしか呼吸が重いように感じる。

 

「丁度いい、毒の治癒」

 

 円卓の聖職者コリンから購入した祈祷(奇跡)『毒の治癒』で体内の毒素を中和する。

奇跡『治癒の涙』に比べれば、毒を消す効果しか備わっていないが解毒だけに絞れば気軽に行使できる。

行使する際の負担も軽微で、その点は評価に値した。

さて、序盤の毒沼を越えたは良い。

しかし問題はその先にあった。

この地下墓――。

侵入者を拒む為の罠が仕掛けられている。

両脇に複数の刃付き車輪を備えた『チャリオット』が自動で起動し、侵入者を排除せんと高速で徘徊していたのだ。

そのチャリオットに轢かれれば最後――。

余程の重装備と生命力に恵まれていない限り、即死してしまうのである。

とは言え、チャリオットは通路内を単純に往復しているだけで、通路の両脇には退避箇所が設置されている。

難なくクリアできそうだ。

 

   ―― そう思っていた時期が、彼にもありました ――

 

退避箇所の至る所に霊体の兵士が墓を守っていた。

その霊兵の攻撃で退避箇所から弾き出され、狙ったかのようにチャリオットに轢かれ死亡する。

またチャリオットを意識するあまり、今度は霊兵に殺された。

しかも霊体ゆえか、仕留めど仕留めど復活を繰り返し無限に戦わされてしまう。

そして集中力を乱した所で、またもチャリオットの洗礼が彼を歓迎した。

 

そうすること6回――。

 

彼は、チャリオットと霊兵に進軍を阻まれた。

そして繰り返す死が、彼を焦りへと誘う。

その焦燥と薄暗い環境が彼の目測を誤らせ、彼は足場を踏み外し下層へと落下――。

 

「チッ…!」

 

 不甲斐無い結果の連続に舌打ちするも、時にそれが幸運を呼ぶ事もある。

仕方なく目の前の通路を進んだ先に、貴重なタリスマンを手に入れる事が出来たからだ。

 

『黄金樹の恩寵』と呼ばれるタリスマンは、身体能力を強化してくれる貴重な効果を備えていた。

 

非常に有り難いタリスマンを入手できたものの、ありえない数の手足を備えた異形が彼に追い縋っていた。

『接ぎ木の貴公子』と呼ばれた異形は複数の手に所持した剣や盾を振り翳し、彼を攻め立てる。

更に異形の素顔は、男である彼から見ても見惚れんばかりの、美貌を誇っていた。

なまじ美しい素顔に無表情、そして蜘蛛を思わせる複数の手足が、不気味さに更なる拍車をかけていた。

褪せ人の記憶を読み取れば『接ぎ木』と呼ばれる、禁断の外法が存在するらしい。

本来の四肢を切り離し、別生物の肉体と繋ぎ合わせ”力”を得る邪悪なる技術。

恐らくこの少年は、接ぎ木の犠牲者に違いない。

 

「――許せッ!」

 

 異様に多い手足から繰り出される攻撃は激しいの一言だが、彼はその攻撃を掻い潜りながら的確な反撃で接ぎ木の貴公子を屠った。

 

「接ぎ木の君主、聞けば接ぎ木に心酔した老醜と知るが、業深き統治者よ…」

 

 塵灰となり消え去った憐れな貴公子に短い祈りを捧げ、これから討たねばならぬ敵に一層の決意を込め進軍を再開した。

 

悪戦苦闘の末チャリオットの襲撃を切り抜けた彼は、偶然にもソレを破壊できる機会に恵まれた。

天井に吊り下げられた大壺爆弾をぶつける事で、チャリオットの破壊に成功したのである。

大壺爆弾と天井を結ぶ紐を矢で切り落とせば、自然と落下する仕組みだ。

難攻不落と思われたチャリオットも、真上からの爆撃には弱いらしく呆気無く破壊できた。

そしてチャリオットの残骸からは、黄金に輝く大弓を入手する。

 

黄金樹の大弓

 

木製ながら黄金の輝きを放つ大弓だ。

どうやら黄金樹の枝を利用して作り上げられた武器らしい。

今のところ使用する予定はないが、一応インベントリに仕舞っておく事にした。

最も厄介なチャリオットの脅威が消え去れば、残存兵は烏合の衆に等しい。

彼は難無く最奥へと辿り着いた。

最奥の広間で待ち構えていたのは、見るも巨大な化け物だった。

焼け爛れ姿形が歪んだ異形の怪物。

なれど、滑るような動きは思いのほか俊敏で手を焼く存在に違いない。

名を『爛れた樹霊』と言うらしい。

 

(推奨BGM エルデンリング ―― 黄金樹の化身(Erdtree Avatar) )

 

――此処では不死の身だ。幾らでも死に覚えが出来る…しかし…。

 

巨体を生かした攻めを何とか掻い潜りながら、対処法を模索する。

だがこのまま”死”を繰り返すのは、果たして”益”と言えるのか。

確かに狭間の地では、自分は不死の身だ。

何度も死のうと祝福で復活が叶い、記憶も引き継ぐ事が出来る。

だが今の本来の自分は、四方世界の住人で真っ当な生者だ。

つまり不死ではなく、一度死ねば次は無い。

此処で何度も死を繰り返せば、その感覚を四方世界に引き継ぐ恐れを、彼は考慮した。

あまりに多くの死に覚えは、()を軽んじてしまうのではないか?

行き過ぎた”死”に対する軽視は、何れ自分自身に真なる破滅を齎す可能性も否定し切れないのだ。

彼は一度思い直し、死に覚えという行為に一定の距離を測る。

同時に、彼の脳裏に一つの考えが過った。

 

「霊呼びの鈴…使ってみるか…」

 

 腰に括り付けた霊呼びの鈴に視線を落とし、それを手に取る。

褪せ人の記憶によれば、とある夜に『魔術師レナ』と名乗る人物から譲り受けたという事だ。

特定の戦場にて鈴を鳴らせば、霊体が味方戦力として加勢してくれるという事だが、果たして真価の程や如何に。

 

――物は試しだ。

 

何とか異形(爛れた樹霊)の攻撃を凌ぎ切り、一旦距離を置く事に成功した彼は透かさず『霊呼びの鈴』を鳴らす。

金属音の打ち鳴らされる清らかな音は、この地下墓に不釣り合いなほど清浄な音色を漂わせる。

鈴の音色が鳴り止んだかと思えば、次の瞬間には3頭の狼が霊体として場に召喚されていた。

 

「お、おお…!」

 

 その光景に彼は思わず感嘆の声を上げる。

だが今は戦闘中だ。

召喚された傍から、狼たちは一斉に『爛れた樹霊』へと躍り掛かった。

狼の優位性でもある俊敏且つ集団戦法は、『爛れた樹霊』を翻弄するも相手が巨体では分が悪い様にも見える。

このまま観戦するだけでは、狼たちも直ぐに全滅するだろう。

透かさず彼自身も参戦し、極力狼たちの動きに合わせ『爛れた樹霊』へと連撃を食らわせた。

手傷を負わせたことで『爛れた樹霊』は、全身から黄金の雷を撒き散らし、霊体の狼たちを全滅させた。

しかし、彼等のお陰で相手の癖を見切る事が出来た。

そうなれば勝利は揺るぎないものとなり、彼は渾身の一撃を放ち『爛れた樹霊』を屠る。

 

   ―― ENEMY FELLED(敵討伐セリ) ――

 

辛くも勝利を捥ぎ取った彼は、『黄金の種子』と『失地騎士、オレグ』の遺灰を入手する。

 

「この種は、黄金樹に関連した物か…。そして、この遺灰…かなりの手練れだ」

 

 種と遺灰から漏れ出るソウルを読み取り、効果のほどを確認する灰の剣士(現褪せ人)

特に遺灰の元となった騎士は、この墓に葬られた本人で間違い無い。

これ程の大規模な墓で葬られる位だ。

辺境とはいえ、英雄と評されただけの事はあった。

 

――何れ力を借りるとしよう。

 

此処での探索は切り上げて良いだろう。

彼は『辺境の英雄墓』を脱出し地上へと戻る。

 

さて、次なる探索地だが、彼は一旦褪せ人の記憶を整理する事にした。

どうやらこの褪せ人、一応東にて探索を()()()()済ませてあるらしい。

しかし、かなり大まかに探索したのか未探索の部分が次々と浮上する。

どうにも街道沿いをサラッと駆け抜けた程度で、あまり成果は上がっていない様だ。

それと言うのも、()()()()()()()()()が彼の行動指針に繋がっていた。

 

――不屈の…いや、フーテンのパッチ…とはな…。

 

何とこの世界にも『パッチ』と言う人物が存在していたのだ。

しかも顔立ちや声音は言うに及ばず、人物名まで見事に一致していたという。

唯一違う点は、不屈の――ではなく、フーテンのパッチを名乗っていた点だろうか。

褪せ人の記憶によれば、彼は『曇り側の洞窟』にて追い剥ぎ稼業の傍ら商いに勤しんでいる。

 

「変わらんな、そういう所は。しかし彼は…フーテンのパッチは、私の知る彼(不屈のパッチ)なのだろうか?」

 

 性格も性根も彼の知るパッチと見事に合致している。

同一人物である可能性もあり、若しかしたら益となる収穫にあり付けるかも知れない。

しかし、彼は人を(たばか)り出し抜く術に長けている。

この褪せ人もパッチの罠に嵌り、宝箱に設置された”転送罠”でリムグレイブ東へと飛ばされた。

即ち、東方面の探索が妙に雑なのも、ソレが原因となっていたのだ。

恐らく飛ばされた後、即座にトレントで必死に西方面へと舵を切った事が、(褪せ人)の記憶で明らかとなった。

 

「下手に会う必要もないか」

 

 仮に彼の知る()()()()()()と同一人物だったとしても、またもや出し抜かれ罠に嵌められる危険性は充分にある。

態々危険を冒してまで、合いに行く必要は感じられなかった。

だがもう一つ気になったのは、パッチが潜伏する『曇り側の洞窟』の寸前で、闇霊に侵入された記憶がある点についてだ。

侵入してきた闇霊の名は『血の指 ネリウス』と呼ぶらしい。

既に血の指の狩人なる剣士『ユラ』との共闘で、討伐した事を知る。

そこで気になったのは、ネリウスを屠った際に入手したとされる武器が気になったのである。

彼はインベントリを改めて確認し、ネリウスが使っていたとされる深紅の双刀武器を取り出した。

血のように紅く、出血効果を有す短剣で、名を『血のレドゥビア』と言う事を知った。

短剣型の双刀武器と言う事もあり素早い攻撃を得意とする。

分けても特に目を惹いたのは、備わっていた戦技『血の刃』に意識が向いた。

隙の少ない飛び道具ながら連続で放つ事ができ、出血効果を及ぼす事ができる何とも魅惑的な戦技だ。

 

「持ち帰りたいが、些かに禍々しい。ライザの小言が目に浮かぶ…」

 

 上手く戦技だけを待ち帰れないだろうか?

この武器を使う彼を見たライザが、その禍々しさに口を(はさ)む光景が容易に想像できた。

血のレドゥビアを再び仕舞い込んだ彼は、ふと苦笑いを兜奥で浮かべ立ち上がった。

次なる目的を定めた彼はトレントを召喚し、東へと進路を取る。

 

……

 

(推奨BGM エルデンリング ―― ドラゴン(Dragon) )

 

途中水浸しの廃墟へと差し掛かり、巨大な飛竜と遭遇した。

ロスリック高壁にて遭遇した灰色の飛竜に比べれば、かなり小柄な体躯だが(ドラゴン)には違いない。

そして遭遇するなり周囲に火炎ブレスを撒き散らす飛竜は、祈りを捧げていた亡者もろとも焼き尽くしてしまった。

此処に辿り着いた時点で亡者の存在に気付いてはいた。

しかし彼には何の反応を示す事も無く、一心不乱に天を仰いでいたのを覚えている。

その時亡者の口から洩れていたのは、『飛竜アギール』なる言葉だった。

いま目の前に居る、この飛竜の事を指しているのだろう。

尤も彼等は、無抵抗でアギールの火炎ブレスに焼き尽くされ消滅した。

まるで、その結末を望んでいたかのように――。

だがもう居ない亡者に、それ以上の感情など抱く事も無く、彼は飛竜アギールとの戦いに備えた。

この戦いでは、霊馬トレントの存在が非常に大きい。

彼の時代でのドラゴン戦は、とにかく彼我の体格差が顕著に現れ位置取りにも攻撃にも苦慮したものだ。

しかし、トレントと言う霊馬のお陰で、人間の脚を遥かに超える移動手段を手にする事ができた。

巨体を活かした飛竜の攻撃をも難なく範囲外へと退避し、ブレス攻撃も前兆さえ見極めれば回避は比較的容易だった。

この飛竜アギールとは初遭遇だが、動きの癖自体は、次元を跨ごうとも大した違いは見られない。

アギールの攻撃を見極め、トレントの高機動性を活かした彼は一撃離脱《ヒットアンドアウェイ》を徹底させた。

此度の戦闘に於いて、馬上攻撃が有効に機能した結果でもあった。

この戦いで辺境の英雄墓で入手した『竜傷脂』が功を成し、これも戦況の優位性を確保できた。

可能な限りアギールの死角へ回り込むよう注力しながら翻弄し、着実に痛痒を蓄積させる。

やがて彼は、飛竜アギールを討伐し『竜の心臓』を入手した。

 

   ―― GREAT ENEMY FELLED(強敵討伐セリ) ――

 

「確か竜信者の蜥蜴人は、これを食らう事で竜への進化を望んでいたか?」

 

 四方世界の住民である蜥蜴人と呼ばれる種族は、押し並べて竜への信仰が厚いと聞く。

そして彼等は、異形の心臓を食らう事で階位を高め『竜』と言う存在に登り詰めるという話だ。

流石に竜の心臓まで四方世界に持ち帰ろうなどとは思わないが、流れ出るソウルを探れば大まかな使い道が判明する。

どうやら孤島に在る『竜贄の教会』へと心臓を捧げた後、文字通り喰らう事で竜の力の一部を宿せるらしい。

だが竜の力を得るという行為には、どうにも抵抗感が拭えなかった。

彼の時代でも『竜頭石』や『竜体石』というアイテムが存在した。

当時の彼も、使命の助けになり同時に強大な竜の力を得るという効果に心惹かれ使用した経緯がある。

しかし実態は、期待していたものとは大幅にかけ離れていた。

更に死ぬまで元に戻れないという、ある意味での片道切符に彼は大いに落胆する。

この狭間の地は、あの時代に似て共通項も多い。

恐らく何らかの代償と犠牲を払う事になるだろう。

取り敢えずインベントリの中へと仕舞い込み、気が向いた時に使用すれば良いだけだ。

偶発的な遭遇(ランダムエンカウント)に近かったが、仮にもドラゴンを討伐する事ができた。

 

「四方世界なら、私はドラゴンスレイヤーとして名を馳せただろうな」

 

 つい場違いな事を考えながら彼は、トレントを走らせ廃墟内の探索を再開する。

 

多くを手にする事ができた。

リムグレイブ限定だが東方面を駆け廻り、様々な物を入手する。

 

途中の廃墟では『魔術師セレン』と言う女性が、魔術の研究に明け暮れている事を知った。

上手くいけば、未知なる魔術の習得が叶うかも知れない。

しかし既に褪せ人とは初対面を果たしている事と、魔術の購入を一通り済ませていた事もあり接触する事を避けた。

道中魔術のスクロールも幾つか入手していたが、それ等を渡すのは褪せ人の意思に委ね、彼は敢えて廃墟を素通りする。

接触を強行した処で、今の自分と褪せ人本来の人格に違いに大きな差異が生じている状態だ。

益になる処か却って警戒心を植え付けてしまう恐れがある。

無理に会う必要は無いのだ。

 

(推奨BGM エルデンリング ―― 猟犬騎士ダリウィル(The Immured) )

 

半狼の獣人剣士『ブライヴ』の白霊と協力し、猟犬騎士ダリウィルの討伐に成功した。

その時『ダリウィル』の獲物である大曲剣も、ついでに入手する。

 

猟犬の長牙

 

『…ダリウィル、お前ほどの男が、封牢の幽鬼になり果てるとは…消えてもらうぞ』

 

 (ブライヴ)(ダリウィル)のとの関係が気になるが、ブライヴのお陰で勝利を得る事が出来た。

一目で悟ったが、ブライヴは相当の実力者だ。

味方として、これ程頼もしい存在は然う然う居ないだろう。

ブライヴの実力は、ソラールやジークバルドと比較しても何ら遜色ない水準だった。

 

「…ああ、お前か。手間をかけさせたな、約束の礼だ。貰ってくれ」

 

 猟犬騎士『ダリウィル』の討伐に成功し、彼から幾許かの礼を受け取った。

 

「…ああ、それから。もしお前が、この地の北『レアルカリアで』少しばかり大きい、鍛冶屋の爺様を見かけたら…俺の紹介だと、伝えるがいい。きっとよくしてくれるだろう…お前には、手間をかけさせたからな」

 

 そして『レアルカリア』と呼ばれる聞き慣れない地の情報を得た。

 

「レアルカリア?聞き慣れぬ地だ。実はリムグレイブにもあまり土地勘が無い故…」

 

「そうか。では少しばかり話そうか」

 

 出来れば過度な接触は避けたいのだが、新たな地名を聞いた彼は情報を望む。

既にブライヴとは初対面を済ませてあるらしく、今の彼と褪せ人との違いには気付いている筈だ。

しかしブライヴは、その様な些事にも気に掛ける事無く、レアルカリアについての情報を開示してくれた。

 

「礼を言う。いずれ立ち寄ろう」

 

 幾許かの情報を入手した彼は、一礼でブライヴに感謝する。

 

「…何があったかは知らんが、お前には世話になった。……少し、話し過ぎたか…別れるとしよう」

 

 そう言い、ブライヴの霊体は何処かへと消え去る。

機能を終えた封牢の周囲には、灰の剣士(現褪せ人)とミミズの様に遺跡石を連結した異形が佇んでいるだけだ。

 

「やはり気付かれていたか。不審には思われてはいない様だが…」

 

 態度の違いには、ブライヴも感付いていた様だが然程気にする様子は見られなかった。

あまり此方も気にする必要は無いだろう。

気を取り直した彼は、再びリムグレイブの探索を続行する。

 

一頻り東方面の探索は済んだ筈だ。

 

   ―― 第3マリカ教会 ――

 

朽ち果て無人と化した廃教会と思わしき祝福で、彼は一時の休息に身を委ねていた。

そこで、ある少女との出会いを果たす事になる。

祝福に腰を落ち着けた瞬間、少女は忽然と姿を現した。

旅装束を身に纏い小柄ながら瞳には強い決意が篭っている。

取り分け目を惹いたのは、常に片目を閉じているという点だ。

閉じた片目からは、非常に強大で異質のソウルが漏れ出ている。

こういった存在は総じて、重い使命を背負っているものだ。

そしてこの様な形で姿を表したという事は、恐らく実体は無く霊体として活動しているのだろう。

 

「……」

「……」

 

 しかし二人は互いに言葉を結ぶ事も無く、ただ沈黙を続けるのみ。

 

「ずっと、傍で観ていた。貴方は何者?」

 

 少女の方から言葉を発す。

僅かな言葉からでも読み取れる。

姿こそ見せなかったものの、彼女は円卓から彼を見ていた(監視していた?)という事を示唆していた。

褪せ人の記憶を読み取れば少女の名は『メリナ』と言うらしい。

彼にトレントを授けたのもメリナであった。

以前から共にしていたという事は、自分と褪せ人との違和感に気付いているという事だ。

ならば意固地になり隠す必要はない。

此処は思い切って正体を明かす事にした。

 

(推奨BGM エルデンリング ―― 祖霊の王(Regal Ancestor Spirit) )

 

「私は”灰”…火の無い灰。嘗て”薪”として我が身を捧げ、”最初の火”を継ぎ世界を延命せし者」

 

「…聞かない名ね。でも、貴方が唯者でない事は理解出来る。もう少し、聞かせて貰える?」

 

「承知。全てを話すには、少々時間が掛かり過ぎる故、簡潔にだが語ろう。私の居た次元の世界、最初の火が宿り多くの存在が駆け巡った物語り…彼の時代(ダークソウル)の物語りを――」

 

 メリナは姿勢を正し、聞く態勢へと移る。

そして彼は語った。

 

―― 嘗て、古い時代。世界はまだ分かたれず、霧に覆われ、灰色の岩と大樹と、朽ちぬ古竜ばかりがあった。だが、いつかはじめての火がおこり火と共に差異がもたらされた ――

 

……

 

大まかとは言ったが彼は己の駆け抜けた時代、ロードラン、ドラングレイグ、ロスリック、の時代を一頻り語り終え、更に現在は四方世界と呼ばれる全く新世界にて生を営んでいる事を伝えた。

それだけでも数時間は要したのか、辺りは日が暮れ夜の帳が落ちていた。

 

「…そうだったの。何だか『狭間の地』と多くを共有しているようにも思える」

 

「貴公も同じ考えであったか」

 

 彼の時代を聞き終えたメリナの表情は、何処となく寂し気で夜空を漠然と見上げていた。

 

「そして私は、聖黄金樹と呼ばれる樹木とソウルを同調させ、(今の褪せ人)の身体をお借りさせて頂いている。当初は私自身も戸惑ったがね」

 

 その後、彼は自身の現状について説明した。

この地へと降り立ったのは2度目だが、力を欲ッする故に戦いへと身を投じている事を。

 

「それは別に構わない。ただ、彼の邪魔だけはしないで欲しい」

 

「エルデンリングとやらに見え、エルデの王足らんとする点であろう?むろん邪魔立てなど微塵にも画策しておらぬ。寧ろ何らかの形で助力となれれば幸いだ」

 

 この褪せ人の使命は、自分なりに理解している積りだ。

現在回り道をしている状態だが、今の探索は結果的に褪せ人自身の糧にも繋がる筈だと、彼は考えている。

当然、協力こそすれ道を阻もうなどとは考えていない。

メリナの憂慮にも”何も問題ない”と彼は告げた。

 

「できれば、有用な装備品も幾つか四方世界へと持ち帰りたいのだが、ソレは叶うだろうか?」

 

 ここで彼は、気になっていた事を切り出す事にした。

このメリナと言う少女、狭間の地に深い知識を有している様だ。

要所要所で褪せ人を導いているのなら、自分の疑念にも応えてくれるのではないかと期待を込め訊ねてみる。

戦技や魔法と言う概念的なものなら、ソウルの流れで四方世界での再現も叶う。

しかし、物体までを再現する事は不可能であろう。

四方世界の彼は『ソウルの業』と呼ばれる物質の具現化が消失している為だ。

 

「…私も確かな事は応えられない。だけど、()()()()で手に入れた物なら或いは――」

 

 やや不明瞭だが、メリナも熟慮した上で何とか応えているのが分かる。

 

「礼を言う。…自分から吹っ掛けておいて恐れ多いが、持ち帰った装備品…狭間の地では消失してしまうのだろうか?」

 

「確証はないけれど、多分大丈夫だと思う。貴方の世界に持ち帰ったからと言って、此方の装備は消失しないと私は考えている。だから、あまり心配しないで欲しい」

 

 持ち帰るのは良いが、その装備品は狭間の地では消失してしまわないだろうか?

もしそうなら、褪せ人の旅路に大きな禍根を残す事にもなりかねない。

協力する積りが却って障害へと成り果てていたのでは、喜劇にもならないのだ。

だがメリナからは、あまり気にせず探索に注力しながら彼の使命を支えて欲しいと告げられる。

確かめる必要はあれど、彼女が後押しくれるのであれば躊躇う事は無い。

自分は自分に出来る事を成すだけだ。

 

「貴方の話、興味深かった。お礼になるかどうかは分からないけど、…この場所には言霊が残っている。ずっと前に消えてしまった、女王マリカの言霊。…興味があれば、伝えてもいい」

 

⇒興味がある

 興味はない

 

メリナから女王マリカの言葉があると告げられた。

女王マリカ――狭間の地を統括する神に等しい存在だと、褪せ人の記憶で理解していた。

(灰の剣士)個人としても、この世界に些かの興味が湧いていた。

その事も手伝い、彼はメリナの提案を受ける事にする。

 

「……分かった。マリカの言霊を、そのまま伝える」

 

 彼の望みに応え息を整えたメリナは、改めて姿勢を正しマリカからの言葉を告げた。

 

―― 我が王よ、王の戦士たちよ。お前たちから、祝福を奪う。そして、その瞳が色褪せるとき、狭間の地を追放する。外に戦を求め、生き、そして死ぬがよい ――

 

「……」

 

 メリナからの言葉を聞き終えた彼は、暫く言葉もなく沈黙を保つ。

 

「……彼女(マリカ)の真意、愚鈍な私に図れよう筈も無いが、其処に深い意味と()()の様なものが込められていると観る」

 

 女王マリカの残した言霊――。

確かにメリナは、そのまま伝えたのだろう。

何ら脚色する事なく。

一見、無機質で冷徹な言葉に見えるが、何やら願いを込めたようにも捕らえる事が出来た。

 

「…この言霊が、僅かにでも貴方の助けになれれば幸いだ」

 

 そう言い、メリナは徐に立ち上がった。

用は済んだのだろう。

彼女は此処から去ろうとする。

 

「――…あ、言い忘れていた。此処の教会近辺にも、助けになる物が残されている。…例えば、マリカの像の下に有るでしょう?」

 

 ふと気づいたかのように、メリナは巨大なマリカの彫像の麓へと指し示す。

其処には淡い輝きを放つ小瓶と、雫の様な物体が浮遊していた。

 

「彼、結構おっちょこちょいな所もあるみたいで、この教会を見逃していたみたい。まだ探せば何か見つかるかも知れないから、上手く探し当てて。それでは私は行く」

 

 そう言うや否やメリナは姿を消し、朽ちた廃教会には彼一人が残された。

メリナの言葉通り廃教会を隈なく探索した彼は、『聖杯の雫』、『緋色の結晶雫』、『霊薬の聖杯瓶』を手に入れる。

 

――ふむ、不死の遺骨と同様の効果だな。此方の方が神聖な力を感じるが。

 

聖杯の雫は、『緋色の聖杯瓶』及び『藍雫の聖杯瓶』の回復効果を高める事が出来る様だ。

そして特筆すべきは、『霊薬の聖杯瓶』である。

同時に入手した『緋色の結晶雫』と配合する事により、結晶雫に応じた副効果を得る事が可能だ。

緋色の結晶雫のみでは、単なる回復効果しか見込めないが、狭間の地各所に他の結晶雫が手に入る可能性もある。

霊薬の聖杯瓶は、一度しか効果を及ぼさないものの、祝福で休めば自動的に補充させる仕組みである事も知った。

 

「これは凄い…!もし持ち帰る事が出来れば、私の使命の大きな助けになりそうだ…!」

 

 特に霊薬の聖杯瓶に彼は注目し、四方世界に持ち帰る事を強く望んだ。

彼は再度祝福にて聖杯瓶の調整に入り、次の旅路へと備える。

 

――メリナの言う通り、ここいら一帯をもう少し探索してみるか。

 

それが済んだ後、彼はメリナの助言通りに探索続行を決め、静かに廃教会を後にした。

 

「……」

 

 彼が去った後、その場には祝福の灯りのみが残される筈であった。

しかし、()()は再び姿を現す。

 

「火の無い灰…彼も火の犠牲者…私と同じ…。そして世界は違えど『王』へと至った希有な存在…。……暗く冷たい魂の物語り…だけど…――」

 

 廃教会の遠方からは、トレントの鳴き声と駆け抜ける足音が此処にまで届いた。

その音を聞きながら、メリナは言葉を零す。

 

「私は…四方世界に、興味がある…少しだけ…」

 

 彼が居ると思わしき方角に視線を傾けながら、彼女は未知なる四方世界へと想いを馳せた。

その時の『メリナ』は僅かに笑みを受かべていたのだが、最後まで自覚する事は無かったという。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

霊呼びの鈴

 

遺灰から、様々な霊体を召喚する鈴。

リムグレイブ、エレの教会にて『魔術師レナ』を名乗る女性から授かったとされる。

人形の身体を持ち冷たい魔力を漂わせた、魔術師レナ。

彼女もまた、使命を孕み歩み行く。

冷たい夜の律を――。

 

 

 

 

 

 




 メリナが登場しました。
ちょっと関わりを持ってしまったけど、やはり彼女は褪せ人にくっついて旅をしているんでしょうか?
至る所の祝福で、瞬時に姿を現す所を見るに多分そうなんじゃないかと個人的には思います。

如何だったでしょうか?
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
デハマタ。( ゚∀゚)/

メリメリ、語尾にメリを付けたいメリ…!byメ〇ナ
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