狭間の地を探索する灰の剣士ですが、やっぱり長くなってしまってる(汗)。
サクサク書く積りだったのに…。
未だゴドリックまで書けてない。
どうにも書きたい事が、次から次へと思い付いてしまう今日この頃です…。
では投稿致しますドゾ。( ゚ ω ゚ )
蛹たちの形見
接ぎ贄となった蛹たちの遺品。
ビロードの赤布に包まれたブローチ。
それは、ほんのり少し血に汚れている。
薄っすらと見える霊姿は何かを語り掛けてるようだが、その声が聞こえる事はない。
多くの褪せ人が狩られては贄として接ぎ木に捧げられた。
悪行ばかりが際立つ、接ぎ木の君主。
しかし接ぎ木に傾倒する以前の彼は、君主として相応しい統治を行っていたと記録されている。
見よ!
リムグレイブは、今も緑に溢れているではないかッ!
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
(推奨BGM エルデンリング ―― リムグレイブ(Limgrave)
彼の探索は続いた。
第3マリカ教会付近にて発見できた生物、スカラベ――。
このスカラベと呼ばれる生物を討てば、未知なる
――面妖な。この世界では、
とある国では、この生物は崇拝の対象らしいが、彼にとっては疑問符を浮かべるだけだった。
更にスカラベを討てば、戦技が手に入るだけでなく聖杯瓶の使用回数をも回復できるという利点もあった。
今後の旅路でも、大いに世話になる事だろう。
また、この付近に鎮座する小黄金樹には、新たな結晶雫の入手も叶う。
『真珠色の泡雫』
『緋湧きの結晶雫』
これで霊薬の効果にも、更なる幅を持たせる事が出来る。
「あの巨大な黄金樹とは比較にもならぬが、これも立派な大きさを誇る」
ふと脚を止めた彼は、暫し小黄金樹を眺め景観を目に焼き付けた。
付近には様々な野生動物が生活を営んでいる。
動物たちを狩れば、道具制作の素材に使えるのは判り切っていた。
しかし、彼は剣を振るう気にはなれない。
此方に危害を加えて来る猛獣なら、止む無く剣を振るう事が出来る。
だが鹿や亀といった彼等は、基本的に無害だ。
いくら有用な素材が入手できるからと言って、無闇やたらに彼等の命を奪う事には抵抗を覚えてしまうのだ。
確かに崩壊を迎えつつある狭間の地――。
なれど、彼等は今を必死に生き抜いている。
――これが生来の私なのかもな。
小黄金樹の周りを駆け抜ける動物たちに目を細め、彼は兜奥で自嘲気味に笑う。
地母神神殿に植えた聖黄金樹――。
無事に育てば、この位には成長するのだろうか?
今も着々と成長は進み、あと一週間もすれば街路樹に迫らんばかり背丈に育つだろう。
この狭間の地を探索してから、はや数日の時が経過している。
元の四方世界に帰還した時、どれ程の時間が過ぎているのか一抹の不安はあったものの、彼は気を取り直しトレントに跨った。
(推奨BGM エルデンリング ―― 死の鳥(Death's Kindred)
見るも巨大で凶暴なクマに襲われた。
明らかに常識外れの巨体を誇り、また尋常ならざる俊敏さまで併せ持ち、相当の苦戦を強いられた。
生半可なデーモンや異形など歯牙にも掛けぬ強さを備え、討伐した時には緋色の聖杯瓶と霊薬をも使い果たした状態だった。
名を『ルーンベア』と言うらしいが、そんな事は実際どうでもいい。
特に彼を発狂させたのは、祝福で休めば
見方を変えれば、亡者犬とは違う方向性の恐ろしさを持っている。
この時彼は、可能な限り『ルーンベア』との戦闘を避ける事を誓う。
夜間限定で出現する敵が存在した。
夜の騎兵。
鈴玉狩り。
死の鳥。
どれもが強敵揃いだが、命を落としたのは『死の鳥』の発す鳴き声だ。
当然初遭遇の彼は、鳴き声の副効果など知る由もなく聞き続ける事で、呪死を迎えてしまった。
鳴き声の含むソウルの波長を把握した時には、もう手遅れだった。
「――ウグゥォアアぁぁぁッ…!!」
それは呪いを蓄積させる死の
突如として身体の中心部から木の枝らしき突起物が突き破り、それは瞬く間に全身へと拡がった。
宛ら木の杭で串刺しにされた受刑者の如き様相を晒し、彼は全身から夥しい鮮血を噴き上げながら絶命する。
――バジリクスの呪いとは似て非なる。よもや、この様な攻撃方法まであったとはな…。
気が付けば最寄りの祝福に戻され、辺りは朝を迎えていた。
馴染みの深い『バジリクス』と呼ばれる異形は、呪いのブレスを撒き散らし一定以上浴び続ければ、全身が結晶化し死に至る。
若干発症に差異が見られたが、死の鳥の鳴き声は呪いのソウルを帯びていた。
浴び続ければ生命力に関わらず、等しく”死”を迎える事が明確となる。
だがそれ以外の攻撃法は比較的単純で、やや癖はあるものの決して対処できない程ではない。
あの
単純な戦闘力では、『夜の騎兵』の方が上回っていた位だ。
彼は、暫く周辺を探索し夜を待つ。
死亡した箇所で再び襲来した、死の鳥――。
彼は無言でトレントを駆り、再挑戦した。
一定の距離さえ保てば、あの
また『死の鳥』には、戦技『聖なる刃』が功を成した。
死を司る異形らしく聖属性が弱点で、これを行使する事で攻略の役に立ってくれた。
その後も、彼はリムグレイブ内を駆け巡った。
地下墓に侵入し、様々な戦灰や装備品を手に入れた。
坑道内へと挑み、上質の鍛石や素材を入手する。
各地の商人を訪ねては廻り、有用な情報や道具を購入した。
まだ見ぬ教会や小黄金樹に立ち寄り、聖杯瓶や霊薬に役立つ物を手に入れる。
こうして彼は、各地を廻ると共に自らを鍛え上げ、
今なら、忌み鬼マルギットにも勝てるだろう。
最後に彼は、やり残した箇所に立ち寄り粗方の力を手中へと納める。
「戦灰『黄金樹に誓って』の単体が手に入るとはな…。これで悩む必要は無くなった」
以前ツリーガードを討った際、黄金樹のハルバードと言う斧槍を手に入れた。
その武器には『黄金樹に誓って』と呼ばれる戦技が備わっていたのだが、彼は発動させる事が出来なかった。
戦技の効果は、周囲の味方と自身の攻撃力と防御力を上昇させるという効果がある。
効果時間は限定されているが、上手く使えば強敵相手にも優位に立ち回れる魅惑的な戦技だ。
その戦技が武器固定なら、何とか武器そのものを使いこなすしかないのだが、こうして戦技単体として入手できたのは非常に大きな意味がある。
適度な戦域で、行使する事にしよう。
完全…とはいかずとも主要な地域での探索は概ね済ませ、有用な物を多くを手に入れたのだ。
そろそろ本来の攻略に乗り出す頃合いだろう。
黄金樹の誓いの戦技を試したい願望もあり、彼は敵兵が多く屯している『関門前の祝福』に転移する。
その祝福で各種装備の点検を済ませた彼は、敵兵部隊へと切り込んだ。
……
(推奨BGM エルデンリング ―― リムグレイブ(Limgrave)
目論見通り、戦技『黄金樹の誓い』は自身と周囲の味方に対し
味方戦力として召喚した遺灰『失地騎士のイングヴァル』にも効果を及ぼし、二人は関門前の戦場を暴れ回り制圧する。
失地騎士イングヴァル――同じく失地騎士オレグと双璧を成す英雄の一人で、斧槍による範囲攻撃と力強い戦闘を得意とする遺灰だ。
今まで手にした遺灰の中でも彼等は群を抜いて強力で、関門前の敵兵など物の数ではなかった。
褪せ人の記憶を辿れば、ここより先の『嵐丘ボロ小屋』で出会った『ローデリカ』と言う女性より託された霊クラゲ遺灰も、特徴的ではある。
インベントリに仕舞いこんでいるにも拘らず、何かを懇願して来るかのようなソウルが漂って来る。
恐らく元は、か弱い人間の少女なのだろう。
しかし今の彼には成すべき目的があり、とても相手にする余裕はなかった。
探索の仕上げに彼は敵兵の野営地を襲撃し、金属製の中盾『獣紋のヒーターシールド』を入手。
従来のヒーターシールドに比べ、更なる性能向上が見込めた。
これで防御にも磨きが掛かったという事だ。
準備は整った。
彼は転移を利用し、マルギットの待ち構えている祝福へ移動した。
あの時の建物内は何ら変わる事なく、眼前には黄金の霧が立ちはだかっている。
「…いよいよだな」
あの時の敗北の記憶は、今も鮮明に焼き付いている。
彼は霧を潜ろうとした時、足下に浮かぶサインに気が付いた。
淡い黄金色を孕むサインには『魔術師ロジェール』と記されていた。
これは協力サインで、味方を霊体として呼ぶ事が出来る。
此処にサインが有るという事は、目的を同じくする者が記したのだろう。
ならば何も臆する事は無い。
彼は迷わず協力サインに触れ、味方が召喚されるのを待つ。
―― 魔術師ロジェールが召喚されました ――
「……」
「……」
言葉を交わす必要はない。
召喚されたロジェールと彼は無言のまま、互いに一礼のみで共闘の意思を確かめ合った。
後はマルギットを討つだけだ。
両者は霧を潜り、嵐が吹き荒ぶ居城前まで辿り着いた。
目の前には忘れもしない、巨漢の男『忌み鬼のマルギット』が待ち構えている。
「性懲りもなく、未だ野心の火は失せず…か」
悠然と佇むマルギットの眼光が一層険しくなり、此方を睨み付けた。
「――?その気配…
「…私に気付いた…と?」
彼を一瞥した直後、マルギットは何かに感付いたかのような素振りを見せる。
彼は褪せ人の記憶を読み取れば、この挑戦で実に10回目である事を知った。
(推奨BGM エルデンリング ―― マルギット(Margit, the Fell Omen)
「あの時以来――その褪せ人からは、
今の褪せ人に宿るもう一つの人格、灰の剣士。
初遭遇での戦いで、既にマルギットは看破しており真相を引き出そうと試みる。
「私には私の使命がある故、力を得んが為、この狭間に地へと降り立ったまで。何、取るに足らぬ唯の剣士に過ぎぬ」
自らの素性を仄めかしながらも、はぐらかす灰の剣士。
「…そうか。此処に居る以上退く気は無いという事だ。ならば野心の火ごと、貴公の魂も消し去ってくれよう」
この時点で対話で片付ける気など、毛頭無いに等しいのだ。
マルギットは杖の持つ手とは逆の手から、黄金に輝く長剣を召喚させる。
「…然らば此方も――」
「忌み鬼よ、卑怯とは言うまいな」
然る異界の東国剣士の如きセリフを吐き、3対1の構図を造り出す。
「良かろう、貴公の魂もろとも褪せ人の存在を消し去り、この戦いに終止符を討たん」
マルギットの戦意も萎える事はなく、この戦いを終わらせる意気込みを見せた。
両陣営の空気感が一瞬で張り詰め、いつでも戦いを開幕できる状態だ。
「――来い、褪せ人よッ!」
「――いざ、参るッ!」
忌み鬼のマルギット、褪せ人に乗り移った灰の剣士との死闘が
……
最初の敗北いらい褪せ人は挑み続け、実に10回目となる。
ロジェールの魔法が炸裂し、イングヴァルの重厚な一撃が体幹を崩し、
如何にマルギットが強大とはいえ、3人の手練れの総攻撃を真面に受けては無事では済まず、遂に膝を突く。
「…覚えたぞ、褪せ人よ。野心の火に焼かれる者よ。怯えるがよい。夜の闇に忌み鬼の手が、お前を逃しはしない…」
散り際に黄金の光に包まれたマルギットは、呪い染みた捨て台詞を残し消滅した。
マルギットの光が消え失せた後には、貧弱な動かぬ遺体が横たわっているのみだ。
横たわっている身体を依り代とし、仮初の身体を以て進軍を阻止してきたという事だ。
「借り物の身体で、この強さ。では本来の強さは…想像したくもない…」
―― GREAT ENEMY FELLED(強敵討伐セリ) ――
流石に3対1だ。
それでも苦戦する場面はあったもののマルギット退けた後、ロジェールとイングヴァルの霊体は姿を消す。
マルギットは散り際に、布造りの小袋を落としていた。
何の変哲もない小袋だが、タリスマンを入れておくに適した大きさだ。
いや、実際その為の用途なのだろう。
彼は『お守り袋』を入手し、新たに出現した祝福で身を休め、これからの戦いへと備える。
次に向かう先は、いよいよ眼前の居城『ストームヴィル城』だ。
(推奨BGM エルデンリング ―― ストームヴィル城(Stormveil Castle)
「デカいな…、まるでロスリック城だ」
常に嵐が吹き荒れ、その中で威容を放つ居城。
現在四方世界の西方面に流れ着いている、ロスリック城を彷彿とさせた。
優美さではロスリック城が勝っていたが、威圧感ではストームヴィル城に軍配が上がるだろうか。
城内部には、多数の敵兵が此方を待ち構えているの容易に想像できる。
恐らく幾度も”死”を迎えるであろう。
あまり良い傾向ではないのだが、一筋縄ではいかない筈だ。
「…行くか」
休息は充分だ。
徐に立ち上がった彼は、真っ直ぐストームヴィル城へと足を踏み入れる。
しかし早々に、彼は立ち往生を余儀なくされた。
城門が閉まっていたのだ。
主門ではなく格子状の門、所謂『落とし格子』だが、開門される気配は微塵もない。
格子状の隙間から先が見えるものの、敷地内には相当数の敵兵が防衛線を築いている。
高所へと陣取り、要所には多連装式の弩砲や設置武器が多数仕掛けられていた。
仮に開門し侵入を果たした処で、無残な屍を晒す未来しか見えないのだが、開門しない以上先へと進む事もままならない。
「抜け道は無いものか…」
こういう城には大抵何処か抜け道が在るものだ。
其処を辿り何とか内部に侵入出来ないだろうか?
抜け道を探すべく彼はアテもなく探索を開始すると、自分を呼ぶ声がする。
「――お~い、コッチだ!」
城門脇の兵舎から突如として自分を呼ぶ声がした。
その声の主は、手招きで彼を呼び寄せていたのである。
隻腕で長い手足を持つ、亡者染みた長身の男だ。
「……」
かなり怪しい風体だが、無視を続けた処で埒が明く訳ではない。
念の為警戒は解かず、男の方へと脚を運ぶ。
城門脇にある兵舎、つまり守衛室の役割を持つのだろう。
かなり荒れ果てた粗雑な内部だが、呼び寄せたという事は自分に用があるという事だ。
「俺はゴストーク。あんた、褪せ人だろう? 城の中へ入るなら、正門からは止めておけ。手練れの兵士たちが
彼は『門衛のゴストーク』と名乗り、抜け道を教えてくれるとの案を提示した。
彼の醸し出す雰囲気とソウルから、何やら思惑が有るのは透けて見える。
完全に信用する事など到底できはしないが、他に侵入する方法は無い。
⇒「分かった」
「いや、正門から入る」
彼はゴストークの案の飲む事にした。
「ああ、それがいい。…俺は、あんたみたいな褪せ人が好きなんだ。幸運を祈ってるよ」
含みのある笑い声を滲ませたゴストークの案内に従い、彼は狭い脇道から侵入を試みた。
背中越しからも伝わる、ゴストークの企み――。
自分の良く知るあの男、『不屈のパッチ』とは似て非なる下卑たソウルが流れ込んでいた。
――ライザ達に遭わせたくはないな、この様な境遇…。
この世界、やはり殺伐としている。
命の陰りも未だ序章とはいえ、既に人としての倫理が
もし純真な心を待つライザ達が、この狭間の地に立てば無事に生き抜くのは至難の業だろう。
十中八九この様な輩に貶められ挙句、骨までしゃぶり尽されるのは目に見えていた。
四方世界で当り前の様に生活している真っ当な人間は、この世界に照らし合わせれば極めて稀な存在となる。
いっそこのまま全て放りだし四方世界へと帰還したいという想いさえ芽生えながらも、彼はソレを抑え込みストームヴィル城の攻略を開始した。
怪しい風体のゴストークだが、彼の言は確かに正しかった。
防備に着いている敵兵も疎らで、個体戦闘力も然して高くはない。
不意打ちさえ警戒すれば、それ程手間取る事は無かった。
ただ彼の予想以上に内部は複雑で、何度も同じ所を廻る羽目には陥ったのだが…。
暗く狭い部屋で…
扉を開け中へと侵入した時、突如何者かに扉は閉められ鍵を掛けられてしまう。
彼は完全に監禁される形となった訳だが、その際、薄気味悪い下卑た嘲りが此処まで聞こえて来た。
あの声は間違いない。
門衛ゴストークの声だ。
どういう積りかは知らないが、ゴストークに嵌られたのは間違いない。
「…ゴストークめ…ゴブリンと変わらん」
やり口と言い、纏うソウルと言い、彼の良く知る異形『ゴブリン』が脳裏に過る。
しかし、その様な感傷に耽っている場合ではない。
暗所と化した狭い部屋に、突如として重厚な騎士が強襲してきたのだ。
「――馬鹿なッ!気付かなかっただとッ!?」
襲い掛かる寸前まで全く存在に気付く事も出来ず、彼は奇襲を許してしまう。
巨体と重厚な全身甲冑にも似合わず俊敏な動きで、彼を攻め立てる重厚な騎士。
鋭敏にソウルを感知できた筈の彼が、奇襲に気付かなかった。
息を潜める隠密行動に極めて長けていたという事だろう。
相当の実力を秘めた騎士に違いない。
大剣に嵐を纏いながら、多彩な技で殺しにかかって来るのだ。
完全に主導権を握られてしまった。
中盾で大剣を受け止めるものの、騎士の凄まじい剣圧に不利に追いやられる一方だ。
また生半可な反撃では重厚な鎧ごと切り裂く事は困難で、逆に此方が手痛い痛痒を背負ってしまった。
「フッ…ナめるなよ?」
かなり不利な状況だが、彼には寧ろ懐かしい感覚さえ覚えていた。
過去にも幾度となく、この様な状況下で殺されては学んで来たのだ。
敵騎士の剣をパリィングでいなし、無防備な隙を暴いた。
こうなれば手練れと言えど、勝敗は決したも同然――。
首元に剣を突き入れた後、間髪入れずに追撃の斬り付けで騎士を仕留めた。
苦戦を強いられたものの辛くも騎士を討った彼は、松明を灯し部屋内を探索し『鍵』を入手する。
ゴストークの仕打ちに憤りを覚えたが、一々構っている場合ではない。
彼は、そのまま攻略を継続した。
……
かなり侵入しただろうか。
入り組んだ通路は幾つもの階段が設けられている。
階段を上った先にも重厚な騎士が行く手を阻み、主力部隊を避けたとはいえ一筋縄ではいかなかった。
それでも悪戦苦闘を乗り越え、昇降機の部屋へと出る。
レバーを動かしてはみたが、反応は無い。
恐らく何処かで仕掛けを作動させなければならないのだろう。
仕方なく彼は一旦諦め、上へ上へと昇りつめた。
最上階らしき場所で、鷹の群れに苦戦を強いられる。
多くの時代を跨ぎ戦い続けてきたが、実は空からの攻撃には思いの外、経験が不足していた。
空中を縦横無尽に飛び回り、一定高度を維持しながら頭上から襲い掛かる戦法。
嘗てロスリックにて『鴉人』と呼ばれる敵が存在したが、アレでも常時飛び回るという事は無かった。
しかし今敵対している鷹は、常時空中に陣取る上に脚には鋭い剣が取り付けられ切り掛かって来るのだ。
相当訓練されているのか、時にはタル爆弾を落として来る始末。
地面に着弾し、付近のタル爆弾まで誘爆させて来るのだ。
剣では届かない位置を維持し、隙を見て急降下攻撃で襲い来る鷹――。
弓で射落とそうにも、上手く狙いが定まらず有効打を与える事が出来ない。
(上森人の妖精弓手なら、難なく射落とせただろう)
結局、投げナイフと嵐の刃の素早い飛び道具攻撃を駆使し、何とか仕留める事が出来たが予想以上に手こずってしまった。
ここでまた一つ、彼の中で要注意となる敵が追加されてしまった。
鷹の群れを何とか凌ぎ切り下段へと降りた礼拝堂らしき建物の中に、見知った人物と再会する事が出来た。
「貴公は…確か――」
「初めまして…と言うよりも、あのマルギット戦以来ですね。ごきげんよう、私はロジェール。見ての通りの魔術師です」
先程、城門前の広場にて苦渋を飲まされた『忌み鬼のマルギット』相手に助力してくれた男だ。
あの時は霊体であったが、今度は正真正銘の”人”として此処に居る。
どうやら彼は、ある探し物を見つけ出す為、兵士の目を掻い潜りながら城へと侵入したらしい。
「…ときに貴方は、何のためにストームヴィルに?この城には、褪せ人を狩り、接ぎの贄とする連中がひしめいています。好んで近づく場所ではないと思いますが…」
⇒「城の主に挑む」
答えない
「なるほど。大ルーンを手にするために、ゴドリックに挑むと…貴方には見えているのですね。祝福の導きが…羨ましいことです。私も、貴方と同じ褪せ人です。もうずっと、導きを目にすることはありませんが、それでも、狭間を訪れたときの気持ちは、忘れていないつもりです。…私は、幾つか魔術関連の戦技を知っています。よろしければ、それを学んでみませんか?かつて祝福に導かれた、褪せ人の一人として、貴方の助けとなりたいのです」
円卓の外では、真面な人物は殆ど疎らだ。
彼の様に、真っ当に会話できる人物など数える程しか居ない世界――。
ますます彼の時代との共通点が濃厚となりゆく。
戦技を幾つか知っているという旨を聞き、彼はその案に飛び付いた。
失敬ながらロジェールのソウルを探ってみたが、彼から他意や悪意と言った不快な感情は流れていない。
純粋に戦技を授けてくれるという事だ。
無論、幾許かの
本来の
しかも魔術関連の戦技など初耳だ。
過去にも異形の力を帯びた武器等からは、専用の戦技が備わっており、それ等は押し並べて通常の戦技とは一線を画していた。
しかし、この世界での戦技は、武器ごとに自由に付け替える事ができ大幅な汎用性拡大に寄与している。
(彼自身は、武器種問わず汎用的な戦技を自由に行使出来るため、あまり恩恵は無いが…)
魔術に近い戦技――どの様な技が揃っているのだろう。
幼子にも似た好奇心に駆られ、彼はロジェールの戦技を学ぶ事にした。
奇跡のつぶて
カーリアの大剣
回れ回れ
どれも癖のある戦技だが、これは魔術ではなく技という点に意義が有る。
基本、魔術は素養と知性に長け限られた者だけが起こす事の出来る、一種の超常現象でもある。
四方世界の魔法は言うに及ばず、彼の時代の魔術も才覚が必須とされた。
しかし、これ等は戦技として存在し修得に然したる条件は無い筈だ。
つまり、未熟な戦士でも修得し行使出来る可能性が生まれた訳である。
尤も魔力を扱う戦技は、ある程度のソウルの操作を行う必要がある。
四方世界の誰もが習得できるとは、早計に過ぎるだろうか。
一応、同名の魔術も有るには有るが効果には差異が見られ、彼にとっては未知なる戦技ばかりだ。
ロジェールから戦技を購入し学び取り、彼から『輝石の魔術』についての成り立ちを聞く事が出来た。
「…貴方の学んだ戦技は、輝石の魔術の系譜です。それは、この城の北、レアルカリアの大きな学院で発展したそうですが…古くは、黄金律と対立する理であったと聞いています。…とても、興味深いことです。かつて黄金律が、対立する理をすら受け入れる、寛容なものであったのなら、それが砕け、歪み、修復が必要となった今こそ…そうしたあり様が重要であろうと思えるのです」
「レアルカリア…?」
ここから更に北進すれば、リエーニエと呼ばれる地方へと出る事が出来る。
その地には、レアルカリアと呼ばれる魔術学院が佇んでいるというのだ。
それ即ち、魔術の起源と発展を研究する機関が今も存在しているという事だ。
この荒廃した世界だ。
恐らく真面な人間など存在せず、精々が狂った魔術師が大半であろうと想像は付くが、些かに興味を惹かれる情報ではあった。
――オーベックが食い付きそうな話だ。
今や辺境街外れに居を構えるヴィンハイムのオーベックは、過去に竜の学院の学徒であり魔術師を志していた。
魔術の系譜は違えど、間違い無く彼の探究心と知識欲に火を注ぐであろう。
「未知なる戦技に感謝する。互いの成就が叶わん事を――」
「またお会いしましょう」
こうしてロジェールとは一旦別れる事にし、彼は更なる進軍を再開した。
通路を進めば、屈強な鎧騎士が此方へ悠然と向かって来るではないか。
「
戦技を試すには少々強敵だが、贅沢は言っていられない。
向かって来る鎧騎士に対し先ずは、戦技『輝石のつぶて』を試してみる事にする。
剣先に緑光輝く魔力が宿り小さな魔弾が射出され、鎧騎士に命中した。
そして魔弾を撃った後も僅かな間、剣先に魔力が残留し透かさず追加の突進突きを食らわせる。
しかし流石は重厚な鎧騎士――。
間違い無く痛痒は与えた筈だが、体勢崩しには少々物足りなかったようだ。
反撃とばかりに、鎧騎士が大剣で切りつけて来る。
「やはり単体では効果が薄い。だが、実戦を通じて確認出来ただけでも良しとしよう」
鎧騎士の猛攻を『クイックステップ』で躱しながら次なる戦技を試す事にした。
戦技『回れ回れ』
この戦技は、武器を前方に浮遊させ、文字通り高速回転させる技である。
接近した者を魔力の宿った回転攻撃で迎え撃ち、迎撃や攻撃に応用できる技だ。
回転させるだけなら手に所持し回す事も出来るが、実践するには握力や手首の操作といった器用さが要求される。
しかし、この戦技は魔力で武器を浮遊させながら回転させるのが最大の特徴だ。
またこの戦技は杖にも適用可能で、純粋な魔術師でも行使できる。
本来なら、鎧騎士に対し『カーリアの大剣』を試してみたかったが、既に初動と隙が大きいという事が判明していた。
故に、先ずは鎧騎士の体勢を崩し隙を生み出す必要があった。
騎士の突進攻撃を躱し、カウンター気味に戦技『回れ回れ』を発動。
魔力の宿った剣先の高速回転で、瞬く間に鎧騎士の体力を削り取り体幹をも崩す。
――この無防備な隙を待っていた!
彼は透かさず戦技『カーリアの大剣』を発動。
最大まで魔力を溜め、見る見る間に魔法の大剣が形成される。
やがて鎧騎士は体勢を立て直すが、もう手遅れだ。
此方は振り下ろすだけの状態で、いつでも攻撃態勢にある。
大上段から『カーリアの大剣』を振り抜き、頭上から鎧騎士を両断した。
隙は大きいが威力は絶大で、今までの戦技の中でも一撃の破壊力は群を抜いていた。
――癖はあるが、中々に魅力的だ。
戦技其々には一長一短はあるものの、使い所さえ見極めれば有効活用できる筈だ。
戦技の味を占めた彼は、更に奥へと侵入する。
廊下の下段から凄まじい異臭が鼻を突いた。
何かを貪る音も同時に耳を打つ。
更に大型の遺体が吊り下げられ、部分的な損傷が激しい。
音を立てぬよう覗き込めば、数匹の亡者犬が腐肉の塊にむしゃぶりついていた。
遺体置き場だろうか?
既に腐り切った肉塊に、亡者犬が群がっているのだ。
真っ当な生者の界隈なら、先ずありえない光景――。
更に不衛生極まる環境は、間違い無く病魔を蔓延させるだろう。
この世界は、緩慢だが確実に滅びの道を歩んでいた。
――何か有るな?
腐肉に群がる亡者犬の傍らに、何かが落ちているのを発見する。
気にはなるが、付近の亡者犬を始末しない事には回収もままならない。
高低差のある個所での遠距離攻撃手段が必要だ。
弓でも良いが、ここは習得した魔術を試す事にした。
今の知力では初歩の魔術しか行使出来ないが、充分機能するだろう。
彼は『輝石の杖』を取り出し魔術『輝石のつぶて』を放った。
普段見知った『ソウルの矢』に似ている弾丸が、緑光を放ちながら亡者犬を穿つ。
難なく数匹の亡者犬を仕留めた彼は、腐肉置き場へと飛び降りた。
グジュリとした感触が、足甲越しに伝わり何とも不快な気分へと誘う。
すっかり生者側への感覚に戻ったらしい。
不死人時代なら何の気も害する事は無かったのだが。
嫌な気分に包まれながらも、彼は落ちていた『蛹たちの形見』を入手する。
褪せ人の記憶によれば、確か『ローデリカ』に関係した代物だった筈だ。
再び会う事があれば渡しておく事にしよう。
更なる探索の末、食堂らしき部屋へと辿り着く。
かなり広大な造りで、大勢を収容できそうだ。
荒廃している割には生活感があり、未だ火の灯った暖炉には鍋が置かれていた。
しかし、いざ天井へと視線を傾ければ、明らかな人の四肢らしき部位が吊り下げられているではないか。
中には切断直後の部位までもが、台の上に並べられ腐臭漂う血肉が散乱している。
――確か『接ぎ木の君主』だったな。此処は食堂と実験場を兼ねているのか?
この城を納める城主の渾名を思い出し、この部屋がどの様な役割を持つのかを改めて思い知らされた。
今四方世界に流れ着いているロスリック城でも、この様な悍ましく生々しい狂気の産物は中々に見られなかった。
どうやら想像以上に、この城では冒涜的な外法が横行していた様だ。
(正確には今現在も――)
「接ぎ木の君主…名は確か――」
『――黄金の君主、ゴドリック様の事かい?』
「――ッ!?」
一人城主の名を呟こうとした矢先、後方から声が投げ掛けられた。
声の主は、幾多もの手足を持つ異形だった。
明らかに人の生態系とは一線を画した身体つきに、あらゆる箇所から多数の腕と脚が生えており、幾多の手には剣と盾そして魔法の杖が握られていた。
「接ぎ木の貴公子…此処にも配置されていたか」
「如何にも。褪せ人風情が…っと、ゴドリック様ならそう仰るんだろうけど、僕は敢えて『ようこそ、ストームヴィル城へ』と歓迎させて貰うよ」
以前、辺境の英雄墓にて遭遇した『接ぎ木の貴公子』と呼ばれる異形を思い出す。
身の毛もよだつ継ぎ接ぎだらけの身体とは裏腹に、その美しく端正な素顔は、より一層不気味さを演出していた。
更に接ぎ木の現場と思わしき広間だ。
恐らく、煮詰めた鍋の中身も切断した人の部位なのだろう。
「接ぎ木の犠牲者ともあろう貴公が、何ゆえゴドリックに加担する?」
「思い違いをしないでもらおう。他の連中はどうだか知らないが、少なくとも僕はゴドリック様に感謝している位だ」
接ぎ木の貴公子の言葉から察するに、接ぎ木と言う技術で何らかの利益を得たのだろう。
人の部位を切断し、その部位を別の人物へと繋ぎ合わせるという外法。
あまりに悍ましく人の尊厳を踏みにじったかの様な、冒涜的所業。
真面な神経の持ち主なら、先ず接ぎ木の被検体など望んではいない筈だ。
しかし目の前の少年は、接ぎ木と首謀者であるゴドリックに忠誠を誓っている。
完全なる敵だ。
戦いは避けられない。
(推奨BGM ダークソウル ―― 不死院のデーモン )
「――私は、ゴドリックを討つ!」
「――僕がゴドリック様を守る!」
異形の身体ながら顔立ちは端正だが、戦いの気配を感じ取り険しい表情を浮かべながら此方へと迫った。
過去の接ぎ木の貴公子と特に変わった個体ではなさそうだが、手には魔法の杖を装備している点が気になる。
あの多数の手に握られた剣の連撃に加え、魔法を挟まれれば苦戦は必至だ。
先ずは慎重に距離を取り、相手の特徴を見極めながら牽制を試みる。
ソウルの業で剣を仕舞い、杖と盾の武装形態へと切り替える。
盾で攻撃を凌ぎつつ魔法で牽制するという戦術だ。
中盾で防御しながら、輝石の魔術『輝石のつぶて』で出方を窺った。
この部屋は一見広い様だが、入り組んだ柱と家具類が散乱し、実際はかなり足場の悪い環境だ。
上手く柱に誘導すれば、巨体を誇る敵の動きも制限できるだろう。
いっそこのまま、適正距離を保ちながら呪文で削り取る作戦も有効かもしれない。
彼の時代でも、柱を利用し戦いを優位に進めた場面は幾つもあった。
敵は身体を柱や家具類に引っ掛けながら移動には難儀している様に思える。
手にした大盾で魔法の弾丸を防御しているが、此方が優勢だ。
「あまり良い気にならないでおくれよ、僕が何の為に魔法の杖を所持していると思っているんだい?」
「やはりな、そう簡単にはいかぬか」
防戦に甘んじていた接ぎ木の貴公子が不敵に笑う。
そして手にした杖を振り翳し、杖先に嵌められた輝石が緑光を放った。
「――魔術、輝石の速つぶて!」
接ぎ木の貴公子も、輝石の魔術を発動し反撃に移った。
その
「――くッ…速いッ!」
自分の魔術よりも遥かに速い弾速と連射性に、彼は詠唱の中断を余儀なくされ回避に専念する。
この魔術も若干ながら追尾性を備え、早めの回避でなければ被弾する恐れがある。
彼は柱や家具類を遮蔽物としながら素早く場所を変え、カバーアクションで凌ぐ。
敵の身体は接ぎ木による異形である為、移動も制限される事無く”つぶて”を撃ちながら彼を追い込み始めた。
――チッ、遠距離戦でも不利を強いられるか…!
柱へと身を躱しつつも、彼は反撃の糸口を模索していた。
元々散乱していた広間は、粉砕された家具や破損した柱の欠片で更に足場を悪化させていた。
しかし、このまま手を
上手く部屋から脱出すれば逃げ
だが何故かは解らないが、この戦いから退いてはならない気がする。
敵でありながら真っ当に会話が成り立った所為だろうか?
それとも、根拠の無い憐みの情が湧いたからであろうか?
「この身体、とても強靭で逞しいだろ?出ておいでよ?痛いのは、ほんの一瞬だからさ!貴方を殺した後、僕自らが切り取って接ぎ木の一部にしてあげるよ!」
「…良いだろう」
「――そこだねッ!」
相手の言葉に乗り、彼は柱から身を乗り出し我が身を晒す。
当然、敵は直ぐに反応し『輝石の速つぶて』を放つ。
緑光の小つぶてが彼を捕らえようとした瞬間、彼は視界から消え去っていた。
(推奨BGM antti martikainen ―― overkill )
「――何っ!?」
「――コッチだッ!」
視界から消え去った彼を捕らえようと、視界を右往左往させる接ぎ木の貴公子。
しかし彼を捕らえる事は叶わず、声の方角へと視界を傾ければ矢張り彼は消え去っていた。
そしてまた声を掛けられたかと思えば、彼は再び姿を消していたのである。
「――くッおのれッ!」
業を煮やした接ぎ木の貴公子は、苛立たし気に『輝石の速つぶて』を所構わず乱射しまくる。
無数の小つぶては、出鱈目の方角へと縦横無尽に飛び交い部屋の壁面を削り取っていた。
「――ぐぁッ!」
そして気が付けば異形の身体に激痛が奔り、切り傷が付けられていた。
しかし彼の姿は見当たらない。
いや、確かに気配はするのだ。
彼のルーンを察知する事は出来ても、視界に捉える事が全く叶わない。
そして気が付けば、またもや身体が切り裂かれ淀んだ暗い赤の地が噴き出る。
「――うぅおぉぁあぁぁッ…!!どこだぁぁッ…!!」
接ぎ木の貴公子は半狂乱になりながら、剣や盾を振り回し暴れ回る。
しかし自暴自棄に攻撃を繰り出した所で、彼に通用する筈もなく次々と身体を切り裂かれた。
「――何処を見ている?」
「――ぐぃぎゃぁあっ…!?」
間違い無く彼は存在しているというのに視認する事も出来ず、徐々に痛痒を負い重ねてゆく。
何かの間違いだ。
さっきまで追い詰めていた筈なのに、何時の間にか僕が追い詰められている。
一体どうなっているんだ!?
まるで透明人間と戦っているみたいだ。
そんな筈はない!
奴は霊体ではなく実体なのに…!
「――せッ!」
「――いぎぃッ!?」
次々と彼に切り付けられ、手にしていた武器も盾も取りこぼしてしまった。
残っているのは、魔法の杖だけだ。
「…残念だが、ここまでだ…!」
「……ッ!」
気が付いた時には、彼が目の前に忽然と姿を現し、接ぎ木の貴公子は逆に倒れ伏し彼を見上げる形となる。
「…う…ぅうぅ…!」
兜の奥から橙色の眼光が灯っている。
本来この褪せ人の素顔は『金髪碧眼』の筈だが、どういう訳か灰の剣士の瞳の色が灯っていた。
その無慈悲なまでの威圧感溢れる眼光に、接ぎ木の貴公子の端正な顔に恐怖が宿る。
接ぎ木の儀式を経てからというもの、彼は敗北とは縁を切り常に勝利に彩られ役割を果たし続けてきた。
敵対した者は容赦なく切り伏せ、魔法で穿ち、接ぎ木の材料とした。
しかし今はどうだ。
此処まで追い詰められ、もはや覆す術も発想も沸かない圧倒的敗北――。
生殺与奪の権は、完全に
「貴公は、接ぎ木の代弁者として多くの者を犠牲にしてきた。故に、看過する事は出来ぬ。覚悟は良いな?」
顎元へと剣を突き付け、止めを刺さんと覚悟を強いた。
先程まで、接ぎ木の貴公子を散々に翻弄した灰の剣士。
彼が行使したのは『カーサスの高速体術』である。
狭間の地にも似て非なる戦技『猟犬のステップ』が存在するが、それとは全くの別物だ。
元々カーサスの高速体術は、ロスリック地域に在る『カーサスの地下墓』を徘徊する
任意に移動速度や距離を操作でき、時には
並外れた脚力と体幹感覚が必要とされるが、極めれば戦闘に大きな幅を持たせる事が出来た。
最初、狭間の地に来た当時は使用できなかったが、今は身体能力も強化され、この身体も不自由がない。
本来の肉体に比べれば、まだまだ未熟と言わざるを得ないが、この時点なら違和感なく使用が可能なのだ。
接ぎ木の貴公子のとっては、未知なる戦技に映った筈だ。
結果、完全に翻弄され敗北を喫してしまった訳だ。
だが接ぎ木の貴公子は、戦意を喪失していなかった。
(推奨BGM antti martikainen ―― Battleworn )
「まだ勝ちを誇るのは早いと思うよ。折角だから見せてあげるよ、最後の術をッ…!!」
目をカッと見開いた接ぎ木の貴公子――。
最後に残された杖すら手放し、接ぎ木されたであろう変色した右腕を天へと翳す。
その表情は少年とは思えない程に、戦意と必死さに満ち溢れていた。
彼の宣言通り、命を賭けた最後の術を行使するのだろう。
「――僕の故郷リエーニエ…その中核を成す魔術学院”レアルカリア”…その起源…源流の魔術の一端を垣間見ろぉッ…!!」
――彼の右腕から溢れんばかりのソウルの流れ…大呪文の流れだッ…!
魔術の触媒となる杖を捨てながらも、その右手には今までとは比較にならない魔力が渦巻き異質の色が宿る。
彼の右腕は色褪せた肌の色とは違い、明らかに接ぎ木されたであろう薄緑色の肌をしていた。
その恩恵なのだろう――。
彼の右腕は、魔力を行使するに特化しているという事だ。
先程の輝石の魔術とは比べものにならない大規模な魔術が放たれるのは、容易に想像が付く。
「逃げても無駄だ、完全に
「――この流れはソウルの奔流ッ!?」
この時点では最早阻止は望めないだろう。
彼も覚悟を決め、全神経を集中させ敵の呪文に備えた。
接ぎ木の貴公子から流れ出るソウルの波長から、彼の良く知るソウルの魔術『ソウルの奔流』に近いナニカが放たれるのを察知する。
「――受けよッ!アズールの彗星ぃッ!!」
叫び声と共に、変色した掌から光の束が放射された。
その光線は、中心部が黒く染まり外縁部は緑光に彩られている。
特性としては『ソウルの奔流』に近しい呪文だが、祖は違っていたのだろうか?
真相を知る術はないが、接ぎ木の貴公子から放たれた『アズールの彗星は』部屋の壁面をいとも容易く突き破り外界へと穴隙を生成した。
………
……
…
「…フッ…不様だなぁ、僕は…」
「……ふぅ…ハァ…ハッ…」
彼の――接ぎ木の貴公子の右腕は力無く垂れ下がる。
その表情は、何もかも受け入れ乾いた笑みさえ浮かべていた。
全ての力を使い果たした全身全霊の大呪文『アズールの彗星』も、
尤も傷さえ負っていなければ、結果は違うものになっていた可能性も否定し切れないのだが。
アズールの彗星の射線上は、部屋内の物体を跡形もなく消し飛ばし、壁には大穴が穿たれていた。
その大穴から外の様子が垣間見える。
「恐ろしい魔術だ、もし直撃していれば私の肉体は消滅していただろう」
「……ゼェ…ハァ…」
呪文の射線上から逃れていた
「異形に成り果てても、貴公の心は邪悪に非ず。しかし、接ぎ木を悪行と知りながら加担し、犠牲を生み続けてきた貴公の所業、看過は出来ぬ。……まぁ、どのみち助からんがな」
「…ズハッ…フッ…ぐッ…ハァ…」
重傷に加え最大級の負担を強いてまで大呪文を放ったのだ。
元々は、接ぎ木の恩恵で修得出来た呪文だ。
身の丈に合わない無理なる行使は、結果的に彼の死を早めてしまった。
呼吸さえもままならない始末で、そう時間を置く事なく彼は力尽きるだろう。
接ぎ木の儀式に手を貸し大勢に犠牲を強いてきた報いが、今になって回って来たのだろうか?
彼自身の心は邪悪ではなかったが、既に彼の命運は風前の灯火だ。
「せめてもの情けだ、何か言い残す事は無いか?」
「ハッ…フぅッ…ハッ……敗者の世迷言に耳を貸してくれるとはね――」
最早息も絶え絶えだが、接ぎ木の貴公子は苦し気な呼吸を繰り返しながら、自身の過去について語り始める。
(推奨BGM アーマードコア・フォーアンサー frequency ―― Someone is Always Moving on the Surface )
「…僕はリエーニエ出身の、それなりに裕福な家に生まれました……」
このストームヴィル城より北の地方、リエーニエと呼ばれる地で彼は生を受けた。
階位は低かったものの貴族の家系に生まれた彼は、幼いながらも魔術の才を有していた。
リエーニエに存在する魔術の学院『レアルカリア』への入学を目指し、彼は学問や魔術に心血を注いでいた。
しかし、彼は生まれながらに病弱で、不幸にも難病を患ってしまう。
当時の医療技術では治療の目処は立たず、両親は彼を引き連れリエーニエを出奔。
そして狭間の各地を転々としたが一向に治療法が見つからず、彼は徐々に衰弱し生ける屍『亡者』と成り果てる未来しか残されていなかった。
その様な症状に陥ったのも、全ては『エルデンリング』が砕け、壊れた『黄金律』が狭間の地を歪めてしまった所為だと、彼は考えている。
彼が生を受けた時には既にエルデンリングは砕けており、世界の理が崩壊の兆しを見せていた。
「――女王マリカめぇ…!どうしてエルデンリングを壊したりなんかしたんだ…!不幸ばっかりが、蔓延ってるじゃないかぁ…!…誰が…誰が…好き好んで殺戮に手を貸したりするもんかぁ……!エルデンリングさえ…黄金律さえ砕けなければ…こんな事にはぁ…」
端正な顔は歪みに歪み、目から多量の涙が溢れ返っている。
深い哀しみと憎悪の怒りを同時に浮かべ、彼は力の限り咆哮する。
放浪に放浪を重ね、最後に辿り着いたのがリムグレイブであった。
そこで彼は出会ったのだ。
黄金の君主『ゴドリック』に――。
当時、視察に出ていたゴドリックは城下町の外れで彼とその家族に出会った。
そしてゴドリックは、彼を救済する方法として『接ぎ木』という技術を持ち掛けたのである。
「…僕の両親は藁をも縋る思いで、ゴドリック様の案を受け入れたよ。無論、僕自身もね」
ゴドリックの案を受け入れた彼は、接ぎ木の被検体となり一命をとりとめた。
「この右腕がそうさ。最初に接ぎ木して貰った、この腕のお陰で僕は助かったんだ…」
先程大呪文を放った、淡い緑色を孕み変色した右腕――。
最初の接ぎ木で移植され、その結果、彼は病を克服したのであった。
「それ故に、貴公も接ぎ木に加担したという事か…?」
「そうさ。ゴドリック様の接ぎ木の
死が更に近付きつつあるようだ。
激しい吐血と咳を交えながらも彼は語り続ける。
一命を取り留めた彼は、ゴドリックの臣下となり懸命に働いた。
ゴドリックの接ぎ木に協力し、時には自身をも被検体とし更なる接ぎ木で異形へと成り果てたが後悔はなかった。
その姿を見た両親は心を壊し夫婦揃って心中したが、彼自身は既にゴドリックへと心酔しており特に感情を乱す事も無かった。
「ゲホッ…ハッ…ハッ……最初の接ぎ木で手に入れたこの右腕、僕と同じ年代、同じ才能を秘めていた子共の腕らしいね…。ハァ…ハァ…フッ…」
彼と同じくゴドリックの魔手により、接ぎ木の貴公子と化した者は複数存在する。
それは、
しかし数ある接ぎ木の貴公子の中でも、彼は特に魔法の才に秀でていた。
彼の才覚と移植された右腕により、それなりの立場を授かっていたのである。
この右腕も、元は彼と同年代の子供の腕だと語る。
腕の持ち主は、源流の魔術と親和性の高い子供の腕なのだろうと彼は憶測を立てていたが、もう真相を知る術はなかった。
「ブフッ…!ゴフッ…!…ゴドリック様を…討つんだろ…?ゼハァッ…ハァ…!」
「そうだ…。どの道、大ルーンを得ねばならぬ。放置する理由は何処にもない」
「そうか……。こんな僕が…今更頼もうなんて虫が良過ぎるのは百も承知だ…。だけど改めてお願いしたい……!どうか……どうか…ゴドリック様を止めて欲しい…!あの方は、僕の想像も付かない程に接ぎ木に傾倒し明け暮れ、挙句…城の領民殆どが犠牲となった…!」
苦し気な呼吸を繰り返し必死に酸素を肺に取り込みながらも、彼は縋る思いで
接ぎ木の首謀者であるゴドリック――。
彼は力を欲するあまり接ぎ木という外法に身を染めた。
その結果、最初は罪人や犯罪者に絞っていたが、次第に領地の住民や異形をも対象とし見境なく接ぎ木の犠牲を強いていたのである。
ゴドリックの御身が為、彼はそれを隠れ蓑とし協力していたが、やはり根の部分では心を痛めていた。
それでも心を壊さなかったのは、偏に
「…そしてどうか…どうか…!エルデの王におなり下さい…!…黄金律を…修復して、この様な世界に、終止符、を打って、ほし…い…。もう…嫌なんだ…!断末魔の、絶叫を聞くのも、藻掻き苦しむ…顔を見るのも、…血も…、肉も…骨も、血管も内臓も脳髄も皮も毛も…もう嫌だぁ…!誰かを斬り刻むのも切断するのもバラバラにするのも痛め付けるの殺すのも!嫌だ…嫌だ嫌だ嫌なんだぁッ…!くそぉっ…!誰だよ、こんな世界にしたのはァッ!?誰が創ったんだよ、こんなクソみたいな環境をぉッ…!?誰も幸せになってないじゃないかぁッ…誰一人救われて報われてないじゃないかぁぁ…ええッ!?どうしてみんな悲惨な死に方してんだぁッ…!?どうして誰も笑ってないんだよぉッ…!?皆…皆ぁ…皆みんなミンナMINNA皆ぁ……悲しい事ばっかりじゃないかぁ……。畜生…チきしょう…チクショウめぇ……!」
懇願にも似た悲痛な願いは、次第に慟哭と憤りの咆哮に取って代わる。
悲しみの涙と怒りの憎悪は心の擬態を剥ぎ取り、彼の本心を暴き出す。
「……もう…狭間の、地は、終わり、かも知れ…ません。そ、れでも…いい…誰かが…誰かがエルデの王に、なってさえくれ…れば…まだ救われるかも知れま…せん……。どうか…どうか……お願いします…褪せ人よ…。ゴドリック様を討ち、大ルーンを手にし…エルデの…王へと…おなり…下さ…い……」
とうとう限界を迎える。
力の限り慟哭し泣き叫び雄叫びを上げた彼は、呼吸も疎らとなりつつも
他の個体と同じく、彼も例外なく塵灰と成り果て遺体をも残さず綺麗に消え去った。
「……」
その床を手でなぞり、
「エルデの王と成るかは、
彼の願いを全て聞く事は叶わない。
灰の剣士の目的はエルデの王になる事ではない。
元々は、力を手に入れる故に狭間の地へと降り立ったのだ。
しかし今の自分にも成すべき事はある。
「接ぎ木の君主ゴドリック…!貴公は、この火の無い灰――灰の剣士である私が、
そして新たな闘志と共に決意を込め、消え去った接ぎ木の貴公子に静かな冥福を祈った。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
接ぎ木
このとき、上部にする植物体を穂木(接穂、継穂、ほぎ、つぎほ)、下部にする植物体を台木という。
ストームヴィル城の君主は、他人の身体の一部を『接ぎ木』をする事で自身の強化と限界を越えようと、行為に手に染めた。
その悍ましい行為は本人のみならず、彼の血族や臣民にまで及ぶ。
中でも接ぎ木の貴公子は、幼い少年(少女)ばかりで、中には子孫まで存在していたと言う。
君主は何を想い、何を真に望んで上で、悪行と知りながら歪な外法に手を染めたのか。
単なる『力』を得る以上の渇望――。
君主の真意を汲み取る者は、未だに存在していない。
接ぎ木の貴公子。
強MOBとして、散々痛め付けられました。
あの掴み所の無い動き、今は慣れましたが当時は結構トラウマです。
聞けば接ぎ木の貴公子は、皆ゴドリックの息子かどうとか何とか…真相や如何に?
食堂に居た個体は、私オリジナルの独自設定を加え、リエーニエ出身の少年と言う事にしています。
ご了承をば…。
如何だったでしょうか?
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
デハマタ。( ゚∀゚)/