ゴブリンスレイヤー ―灰の剣士―   作:カズヨシ0509

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ドーモです。
8月も下旬に差し掛かり、少し涼しい気温になってまいりました。
しかし、此処で油断すればあっという間に風邪をひくのが私です(笑)。
この微妙な気温変化、衣服の調整が少々難儀です。

では投稿致しますドゾ。( ゚ ω ゚ )


第106話―狭間の地、ゴドリック…そして帰還―

 

 

 

 

 

 

クイックステップ

 

機敏さと攪乱で戦う者たちの戦技。

素早く跳躍(ステップ)移動する。

 

腕力ばかりが強さではない。

有利な位置取りは、時に戦局をも司る。

 

 

 

猟犬のステップ

 

一瞬、姿が見えぬほどの高速移動する戦技。

 

並外れた機動力を以て相手を翻弄すれば、戦局を優位に運ぶ事が出来るだろう。

しかしクイックステップに比べ、やや消耗が高く持久力の配分が要求される。

 

東国に伝わる『忍び』と呼ばれる存在――。

彼等は総じて身軽で、軽業に長けていたと言う。

 

嘗て『狼』の名を冠した一人の忍びも、似て非なる体術を会得していたらしい。

 

 

 

カーサスの高速体術

 

カーサスの地下墓、その剣士たちが使う軽業の総称。

彼等は皆『カーサスの剣士』と呼ばれていた。

太古に存在したと言われる砂の国――カーサス。

今や滅び去り、朽ちた地下墓に僅かな残滓が歴史を物語る。

しかし彼等剣士たちは皆精強で、苛烈な剣技と羽根の様な身のこなしで敵を屠り去ったと言う。

骨と思念だけと成った今もソレは変わらず、今も地下墓を守り続け忠義を貫いている。

 

並外れた脚力と自在に体勢を変える柔軟性を駆使し、地面に居ながら3次元的な軽業を可能とする。

一人の剣士は、更なる自己流を加え敏捷性と攻撃性の高い独特の剣技を編み出した。

 

彼の後を継ぐ者は、果たして現れるのだろうか。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 接ぎ木の貴公子が最後に放った『アズールの彗星』は、壁に見事な大穴を生成する。

その大穴から外へと出れば、多数の敵兵が待ち構えているではないか。

防護柵を築き、設置兵器で迎え、陣形を敷き、此方に備えている。

幾人かの敵兵が消失していた様だが、アズールの彗星に不運にも巻き込まれたのだろう。

しかし、単身で敵陣へと乗り込むのは些か無謀に過ぎる。

灰の剣士(現褪せ人)は霊呼びの鈴を鳴らし『失地騎士、オレグ』を召喚する。

 

「辺境の英雄オレグよ。これより貴公の君主へと反旗を翻す。呼び出しておいて心苦しいが、戦うか否かは貴公の本心に従っていい」

 

 味方として呼び出した、遺灰オレグ――。

辺境を任されていたとはいえ元の所属は、このリムグレイブの君主軍でゴドリックの元配下である。

故郷も同然の、況してや嘗ての古巣を攻めろというのだ。

下手をすれば最悪、後ろから切り殺される覚悟も背負いつつ、灰の剣士(現褪せ人)は敢えてオレグの本心を信じる事にした。

 

『気に病む事は無い。其方(そなた)は何も気にせず、大業を成し遂げられよ…!』

 

「…?!貴公、話せたのか!?……それならば、もう何も遠慮する事は無いな。これより敵陣へと殴り込みをかけ、君主ゴドリックへと肉薄する!覚悟は良いなッ!」

 

『――御意ッ!』

 

 何とオレグは、言葉を返し協力する姿勢を示したのである。

既に故人と化した霊体とはいえ、元はオレグも意思を持つ人間だ。

言葉を話せても何ら不自然ではない。

オレグの境遇を憂慮していたが、これなら心置きなく敵陣へと仕掛ける事が出来る。

意を決した彼は号令を掛け奮起を促し、オレグも呼応しながら大剣二刀流を構えた。

 

(推奨BGM Antti Martikainen ―― One Against the World )

 

「――状況開始ッ!!」

 

 灰の剣士(現褪せ人)とオレグによる、疾風怒濤の快進撃が唸りを上げた。

二人の勇猛果敢な攻めは、敵兵に絶命を強いる。

 

並み居る敵兵を切り伏せ、薙ぎ倒し、粉砕し、吹き飛ばし、まるで恐れを知らぬ二人の戦ぶりに敵は成す術もなく駆逐されゆく。

嵐を纏ったオレグの大剣二刀流が、敵重装兵を真正面から粉砕する。

灰の剣士(褪せ人)の流麗で苛烈な剣技が、軽装歩兵数人を纏めて切り裂いた。

数多の敵部隊が二人に殺到するも、灰の剣士の素早い立ち回りで敵の出鼻を挫き、止めをオレグが担った。

その連携は、敵の狙いを上手く撹乱する結果となり、消耗も痛痒も必要最小限に抑える事に繋がる。

二人は自身の特性を活かした戦術で有利に立ち回っていたが、敵兵の一人が兵呼びのラッパを吹き鳴らした事で状況が一変する。

 

――チッ、進路を塞がれたか…!

 

ラッパの音色は城至る所に響き渡り、主力部隊の大半が集結するという結果を生んでしまう。

しかも人型の兵士だけでなく、巨人(トロル)や忌み子といった強敵までもが二人の進軍を阻んだ。

終結した敵部隊は進軍先に防壁陣を敷き、完全な防御態勢で迎撃の構えを執る。

二人の戦力で、これを突破するのは非常に困難だ。

これでは立ち往生にも等しく、行き詰まりの状況となった事で、灰の剣士(現褪せ人)は秘かに舌打ちする。

しかし、ここで彼の内側から或る声が響き渡る。

 

『拙者を呼び出せ。拙者も戦おう。君主ではなく、この愛すべき故郷リムグレイブの為に…頼む…!』

 

――この声とソウル、失地騎士イングヴァルか?

 

唐突に語り掛けられた事で多少困惑したが、声の主はオレグと同じく遺灰である『失地騎士イングヴァル』で間違いない。

 

――可能なのか?二人を同時に召喚する事など?

 

『些かは、貴殿に更なる負担を強いよう。だが拙者とて、座して待つ事など出来ようか!…どうか頼む…!』

 

「…その覚悟…汲もう」

 

『――恩に着る!』

 

 存命時は、オレグと共に軍の双翼を成した称される程の英雄騎士だ。

彼等は君主の為ではなく、故郷(リムグレイブ)そのものの為に敢えて嘗ての君主軍へと弓引こうというのだ。

しかも、相手は嘗て仕えた君主『ゴドリック』でデミゴッドでもある。

褪せ人の記憶や百智卿からの話によれば、彼は神としての血は非常に薄いという事だが、神の眷属には変わりない。

反旗を翻す…並の覚悟では務まらない筈だ。

イングヴァルの覚悟を汲んだ彼は、霊呼びの鈴を再び鳴らす。

そして失地騎士イングヴァルも、オレグと同じ戦場へと姿を現した。

更に精神力(FP)が摩耗し、意識は混濁するが戦力は増大した。

ここに双翼を成した英雄二人の失地騎士、オレグとイングヴァルが揃い踏みしたのである。

 

「…随分と久しいな、オレグよ…!」

「フッ…こうして同じ戦場で顔を会わせる…か。何時以来だ、イングヴァル?」

 

 オレグとイングヴァル――。

二人は互いに顔を会わせ、言葉短くも過去を懐かしむ。

嘗ての所属先である君主軍が敵だが、二人の戦意は萎える事は無い。

そのような惰弱な精神など、英雄と称された二人には微塵も備わっていないのだ。

 

「褪せ人…否…火の無い灰…だったか?嬉しい誤算がもう一つ舞い込んでいる」

 

「貴殿も気付いていよう、火の無き灰よ」

 

「承知している。何者かは知らぬがな」

 

 三人の手練れが揃い踏みした処で、濃密な敵防壁陣を切り崩すのは矢張り困難に変わりはない。

しかしオレグの指摘通り、敵陣の後方より一つのソウルが此方側に向かっていた。

ソウルの波長からして、女のソウルだ。

しかし女とは言え、かなり強大なソウルだ。

今現在、敵陣後方から奇襲をかけ攪乱してくれている最中だ。

結果、敵陣に乱れが生じていた。

 

「この機を逃さず、これより攻撃を仕掛ける!私に続けぇッ!!」

 

「「――応ッ!!」」

 

 この状況、逃す手はない。

折角舞い込んだ幸運だ。

敵陣の混乱に便乗し、彼等も呼応し動いた。

灰の剣士(現褪せ人)、オレグ、イングヴァルの三名は、各々が武器を構え敵陣へと突撃を仕掛けた。

先ず灰の剣士(現褪せ人)が戦技『黄金樹の誓い』で自身と味方を強化しながら、更なる追撃として戦技『聖なる刃』で敵陣に牽制を仕掛け揺さ振る。

そして防御と武器リーチに優れたイングヴァルが嵐を纏った自慢の斧槍を振り回し、敵陣の防御ごと防壁陣を崩しにかかった。

その衝撃で隊列が乱れた敵目掛け、オレグが敏捷性と大剣二刀流を活かした重厚な剣技で、敵兵を各個撃破してゆく。

健在な敵兵は、二人の攻撃後の隙を突こうとするが、既に体勢を立て直した灰の剣士(現褪せ人)が戦技『クイックステップ』で肉薄し、巧みな剣裁きで妨害と止めを刺す。

敵部隊も反撃を試みるが、『黄金樹の誓い』で強化された三人には、付け焼刃に過ぎなかった。

 

――この感覚…まるで彼等(ソラール、ジークバルド)が近くに居るかの様だ。

 

灰の剣士(現褪せ人)は彼の時代《ダークソウル》や四方世界で苦楽を共にした、あの二人と共闘しているかの様な頼もしい感覚を覚えていた。

間違い無く、オレグもイングヴァルも高潔な精神の持ち主だ。

もう叶う事も無いだろうが、狭間の地の繁栄期を見てみたいと密かに願う。

 

イングヴァルの斧槍が唸りを上げ、嵐と回転薙ぎ払いの相乗効果で複数の敵兵を纏めて粉砕する。

オレグの大剣二刀流が嵐と共に刃と風圧を巻き起こし、重厚な敵騎士を盾ごと葬り去った。

そして敵陣後方より奇襲を仕掛ける、女と思わしき戦士のソウルも確実に敵を屠ってゆく。

灰の剣士(現褪せ人)も持てる戦技や術を駆使し、隊列の乱れた敵の急所に致命の一撃を叩き込みながら、次々と各個撃破を徹底した。

耐久に優れた巨人(トロル)や歪な角を生やした”忌み子”が粘り強く生き残ったが、余勢を駆った彼等の敵ではなく敵兵と同じ運命を辿る。

最後に灰の剣士(現褪せ人)の戦技『カーリアの大剣』で引導を渡し、主力部隊との激戦は終わりを告げた。

 

こうしてストームヴィル城の敵部隊の大半は消失し、先程敵陣後方から奇襲をかけていた女戦士らしき人物が此方に歩み寄る。

 

(推奨BGM エルデンリング ―― ストームヴィル城(Stormveil Castle) )

 

「ほぅ…お前は、褪せ人か。ゴドリックの一味ではない様だな」

 

 先程から敵陣後方に奇襲をかけていたのは、この女で間違いない。

軽装で女性的な身体つきながら、過不足ない筋肉が見て取れる。

見た目は無論、その佇まいも実力者である事が窺えた。

 

「如何にも。我々はこれよりゴドリックを討ち、彼の暴挙に終止符を打つ」

 

「私は、ネフェリ=ルー。お前と同じ褪せ人、戦士だ。」

 

 やはり彼女は戦士で、自身をネフェリ=ルーと名乗る。

 

「…それにしても、酷いものだな。ゴドリックめ、接ぎ木などと、君主の所業じゃあない。風が汚れてしまっている。…ゴドリックに挑むのだろう?私も同行させて貰えないだろうか?…あれは風を汚しすぎる。助力くらいは、きっと義父も許してくれるだろう」

 

「貴公は手練れの戦士。その力、アテにさせて頂こう」

 

 彼女の目的も同じらしく、同行の申し出を受け入れた。

 

「感謝する。改めて、私は、ネフェリ=ルー、戦士だ」

 

 彼女の言葉に、一礼で応える灰の剣士《現褪せ人》。

無言ではあったが、オレグとイングヴァルも敬礼で彼女を迎えた。

こうして4人の戦力が集い、一行は奥へと進む。

脇道の『奥まった小部屋』には祝福があり、一行はゴドリック戦に備え戦準備を整えた。

彼女――ネフェリの義父は、円卓の指導者『ギデオン』だという事が判明した。

彼女の話によれば、ギデオン(百智卿)もエルデの王を目指しているのだと語る。

エルデの王に成る――それは何を意味するのか?

灰の剣士よりも寧ろ彼の宿主である、褪せ人に深い意味がある筈だ。

単なる玉座に着くなどと、単純に事が収まる訳がない。

 

――フ…余計な、お節介だな。私は唯の部外者、用が済めば狭間の地を去り行くのみだというのに。

 

エルデの王を目指すのは、自分ではなく褪せ人だ。

しかし今は、彼が身体を支配し動かしている状態だ。

たとえ無関係であろうと、こうして幾許かは関わりを持っている。

それ故、一定の責務を果たさねばならないだろう。

それに自身で決意した身。

此処で放棄する意思など微塵もない。

 

「そろそろ行こうか皆、覚悟は良いな?」

 

「「「……」」」

 

 休養は取れた。

もはや余計な言葉など不要。

一行は静かに立ち上がり先へと進む。

 

出口を抜けると屋外の大広間に出た。

枯れ木に萎びた植物が荒れた世界である事を物語っている。

ストームヴィル城の名に違わず、嵐は止む事なく吹き荒んでいた。

串刺しの竜の亡骸だろうか?

かなり小柄で相当腐敗が進んでいる様だが、アレは竜に連なる遺体のようだ。

その物言わぬ遺体に、一人?の異形が寄り添っている。

竜の遺体と比較すれば明らかに小柄だが、人にしては異常な程の巨体を誇る老人だ。

あれが、この城の主だろうか。

 

「…共に末裔たる竜よ。お主の力、きっと…我を高めようぞ…」

 

 遺体に語り掛ける老人の腕は、異常な程に長く太い。

片腕しか見えないが、その指は6本も備わっている。

どう贔屓目に見ても常人のものとは思えなかった。

それでいて彼の頭部は、相対的に矮小に映ってしまうのだ。

異常な程に小さな頭部――。

尋常ならざる巨大な身体――。

ここまで来れば、無知蒙昧な素人でも異質極まりない存在である事に気付くだろう。

やがて、巨躯を誇る醜い老人は此方へとゆっくり振り向いた。

 

「…のう。…褪せ人風情が…不遜であろう――」

 

 振り向いた老醜は、纏っていたヴェールを優雅に脱ぎ捨てる。

かなり上質で丁寧に編まれた代物で、彼の身分を表しているかの様だ。

だがヴェールが剝がれた身体からは、明らかに異常な数の腕が生え揃っている。

道中で遭遇した『接ぎ木の貴公子』が生易しく思える位に歪な姿だ。

間違い無い――。

接ぎ木の影響と断言できる。

巨大且つ太い2本の主腕に、複数の副椀が幾つも生え揃っている。

脚部は2本だが、全体重を支えるのに十分な程の逞しさを誇っていた。

恐らく本人の脚とは、とうの昔に決別したのだろう。

主腕が握る黄金で巨大な斧を振り翳し、老醜は声高々に宣言した。

 

「――地に伏せよッ!!我こそは、黄金の君主なるぞ!」

 

 高らかに叫んだ老醜は、振り上げた巨大な斧を地に叩き付ける。

凡そ人に扱える武器ではない。

その巨大で重量溢れる斧の衝撃は、此方まで悠々と到達した。

黄金の君主――つまりこの男が、ストームヴィル城の主であり、仮にもデミゴッドなる神の血を引きながらも『接ぎ木』という外法に身を染めた首謀者。

 

「――接ぎ木のゴドリック殿と、お見受けする!大願を果たす故、弑し奉る(しいしたてまつる)!」

 

 眼前の老醜が、目的のゴドリックだ。

灰の剣士(現褪せ人)は、敬意を表しながらも討つ旨を()()()告げた。

 

「ほざきおるわ…褪せ人風情が…!…それと、誰かと思えば久しいな!我が領地(リムグレイブ)の英雄達よ!」

 

 減らず口と捕らえたのか、ゴドリックも睨みで返す。

そして灰の剣士の傍らに陣取る、二人の騎士(オレグとイングヴァル)へと視線を寄せた。

 

「ご無沙汰しております…君主ゴドリック様…!」

「この様な形で再会せねばならないとは…!」

 

 ゴドリックの視線に反応したオレグとイングヴァルは、敬礼を以て彼に応えた。

 

「よもや霊体と成り果ててまで、褪せ人側に着くとはな…。血迷ったかぁ、(まつ)わぬ裏切り者がぁッ!!」

 

 再び巨大な斧を振り上げ盛大に地へと叩き付けながら、ゴドリックは二人の騎士へと一喝した。

先程と比較して層倍する振動が、歪んだ石畳を更に揺らす。

 

「思い違いをしないで頂こう!我等は、()()()ではなく、()()()()()()そのものへと忠義を示した迄!」

「その上で、君主が歪み邪道に走るなら、その道を正すのも忠臣たる務め!我等の志は、些かも変わっておりませぬ!」

 

 あくまでゴドリックではなくリムグレイブの未来が為、オレグは弓引く立場となり自らの意思で灰の剣士(現褪せ人)に協力していた。

そしてイングヴァルも君主(ゴドリック)の間違った道を正さんとし、裏切り者と罵られ様とも今に至っていた。

 

「その大言や大いに良し!ならば見せて貰おうぞ!貴様らの覚悟を――!!」

 

 これ以上の言葉は最早意味を成さない。

ネフェリ=ルーは無言だが、風を汚す存在だと認識し既に武器を構えていた。

両陣営とも完全に戦闘態勢に移り、其々が武器を構える。

黄金の君主『ゴドリック』と『灰の剣士』の陣営――。

 

()くして両者の戦いの火蓋は切って落とされた。

 

(推奨BGM エルデンリング ―― 接ぎ木のゴドリック(Godrick the Grafted)

 

先鋒として灰の剣士《現褪せ人》がゴドリックに突撃しつつ、幅広剣(ブロードソード)から戦技『嵐の刃』を数発放つ。

斬撃と衝撃を伴った嵐の弾丸は、狙い過たず全弾ゴドリックに命中した。

 

「――こそばゆいわ!褪せ人がぁッ!」

 

 ゴドリック自身は多数の腕と手甲を纏った方の主腕で、大半の衝撃弾を防御する。

胴体部を真面に捕らえたのは、ただの一発のみ。

然程効いていないのか、ゴドリックに堪えた様子は見られない。

間合いを見計らったゴドリックは、主腕と副椀を合わせた2本の斧で殴りかかった。

巨人の如き強靭さを誇る腕で振り下ろされた大質量を持つ大斧攻撃。

真面に食らえば、騎士鎧ごと一撃で肉塊へと変貌するだろう。

だがそんな事は、灰の剣士《現褪せ人》も承知済みだ。

戦技『クイックステップ』で、横へ飛び退きながらゴドリック頭上へと跳躍。

ゴドリックの大斧は、激しく地面を砕くのみで見事に空振った。

跳び上がった彼は、巨躯を誇るゴドリックの肩部へと一旦着地。

そして、ゴドリックの肩部に剣を浅く一突きしつつ再び跳躍し、空中で宙返りしながら再度『嵐の刃』を放った。

 

「――ええぃッ!うっとおしいわッ!!」

 

 その弾丸は、ゴドリックの背面に命中したものの多少の痛痒を与えたに留まった。

それよりもチクチクと針を刺すかの如き攻撃に、ゴドリックは苛立ちを露わにし地面に着地した彼へと恨みがましい表情で睨み付ける。

しかしこれでいい――。

彼は序盤の一手で、仕留めようなどとは些かも考えていない。

此方は4人の戦力。

しかも、オレグやイングヴァルという屈強な攻撃担当が二人も揃い踏みしているのだ。

それなら、灰の剣士《現褪せ人》は身軽さを活かし、牽制を兼ね注意(ヘイト)を此方に向けさせればいい。

彼の目論見通り、ゴドリックは此方に憎悪を向けてくれた。

それが隙を生むという結果に繋がる。

透かさず二人の騎士が、其々展開しゴドリックへと攻撃を仕掛けた。

 

「――フンっ!我が気付かずと思うてかッ!」

 

 どうやら作戦は読まれていたらしい。

二人の騎士が間合いに入る事を警戒し、巨大な斧を全周囲に振り回す。

 

「――ファッハハハ…!近寄れまいッ!」

 

 巨大な斧の質量と巨人の如き剛腕で振り回され、ゴドリックの周囲には嵐が巻き起こった。

これも歴とした嵐の戦技。

巻き起こった嵐は唯の風ではなく、触れた者に衝撃と斬撃の二重痛痒を与え迂闊に近寄る事は出来ない。

得意気となるゴドリックだが、次の瞬間には、振り回しが阻止されてしまった。

 

「――ヌンッ!!」

 

 イングヴァルだ。

彼が、ゴドリックの斧を留めていたのである。

振り回す斧の軌道に合わせ、イングヴァルが斧槍で地面へと叩き付け押さえていた。

 

「――オレグッ!」

 

 振り回しが阻止された事で、嵐は当然止む。

主力である巨大斧が封じられたのは、好機と言って良いだろう。

イングヴァルの声に呼応したオレグは、嵐を纏った大剣二刀流でゴドリックへと突進を図る。

 

「――たわけがぁッ!もう一本有るわぁッ」

 

 オレグの間合いに合わせ、副椀の大斧で迎え撃つゴドリック。

だがそれこそが、オレグの狙いだった。

オレグはゴドリック本人ではなく、大斧に合わせ大剣二刀流で切り掛かる。

2本の大剣を巧みに活かした特殊な剣技で絡め捕り、副腕ごとゴドリックの大斧をも封じた。

これでゴドリックは、主要な攻撃手段を喪った事になる。

 

「――今だッ!ネフェリ=ルー!」

 

「…この時を待っていたッ!」

 

 ここでギデオンの義娘である女戦士『ネフェリ=ルー』が、灰の剣士《現褪せ人》の声に応え、2本の斧でゴドリックへと肉薄した。

彼女の持つ斧も鷹を象った特殊な武器で、雷を纏わせながらゴドリックの胴体部を切り砕く。

 

「――お前は風を汚す!故に死んでもらうぞッ!」

 

 攻撃の本命は、彼女だった。

女とは言え、やはりそこは戦士――。

予想以上の攻撃力で、何度もゴドリックに痛痒を与えてゆく。

間違い無く攻撃が通用している。

しかし裏を返せば、ゴドリックその者を追い詰める事にも繋がるのだ。

 

「…有象無象の分際で、調子に乗るなぁッ!!」

 

 元々歪み醜い風貌のゴドリック。

その老醜の表情は更に怒りで塗り潰され、騎士二人の拘束を力尽くで振り解いた。

 

「――地に伏せよッ!!」

 

 ほんの僅かな時間だが、拘束が解けた事でゴドリックの両腕再び自由を得た。

そして間髪入れずに、主腕の巨大斧の切っ先を地面に叩き付け、痛痒を伴う衝撃波を周囲に発生させる。

 

「――ぐッ!?」

「――ぬッ!?」

「――ちぃッ!」

 

 決して広範囲という訳ではないが、全周囲に拡散する衝撃波は地面を伝いながら、オレグ、イングヴァル、ネフェリといった面々の足元を掬った。

灰の剣士《現褪せ人》だけは、鋭敏なソウルの感知で、初見ながら攻撃を察知していたのか軽い跳躍で衝撃波を躱していた。

ゴドリックの起こした衝撃波で、灰の剣士《現褪せ人》以外の3人は痛痒を負い、転倒する者まで現れた。

此処で攻守の流れは、ゴドリック側へと移る。

それは奇行にも見え、無秩序に地面を転げ回るゴドリック。

通常の人間なら無防備な隙を晒すだけだが、接ぎ木に接ぎ木を重ねたゴドリックは巨人に比肩しうる体躯を有す。

その巨体が転げ回れば、それだけで充分な凶器と化すのだ。

下手に接触すれば巻き込まれ、巨体に轢かれるだけ。

迂闊に近寄る事も動きを読む事も困難だ。

一見、無秩序に転げ回わるゴドリックだが、彼は再度嵐を纏っている。

転げ回りながらも掴み所の無い動作から、不意に嵐を纏った弾丸が射出された。

標的は、失地騎士のイングヴァル。

予測不能とも言える予備動作からの、奇襲攻撃を真面に受けてしまった。

ゴドリックが放ったのも、嵐の刃と同質のものだ。

ただ巨大な斧で撃ち放ったのか、灰の剣士《現褪せ人》が行使した戦技よりも幾分大型で曲りくねった軌道を描いている。

イングヴァルにとっては初見だったのだろう。

結果、反応が遅れ2発を食らってしまった。

だがイングヴァルも重厚な騎士で、並の攻撃で退く事は無い。

いくらデミゴッドの軽い攻撃を受けた処で、彼は充分に耐えていた。

しかし、ゴドリックの猛攻は此処から始まった。

先程の嵐の弾丸は、いわば牽制。

イングヴァルの隙を造り出すための布石だ。

ゴドリック本命の攻撃が始まり、手にした2本の斧による乱舞が繰り出された。

明らかに常識外れの重量と質量を持つ、巨大斧による連続乱舞。

型自体は非常に分かり易く単調なのだが、接ぎ木による肉体強化と大質量の斧が降り注いで来るのだ。

並の騎士なら直撃した瞬間、金属と腐肉の混じり合った塊と化す。

 

「――ぐッ…ぬっ…」

 

 だがイングヴァルも英雄と称されし手練れの騎士――。

重厚な鎧と自慢の斧槍でゴドリックの乱舞攻撃に抗っていたが、遂に限界が訪れる。

防御ごと体力とスタミナを削り取られ、とうとう守りを崩されてしまった。

 

「――ごぅぉオッ…リムグレイブを…頼む……」

 

 大上段からの斧を真面に受け、イングヴァルは鎧ごと両断され消滅した。

元々彼は遺灰から出現した霊体である故、死んだ訳ではないのが、せめてもの救いか。

しかし主要な戦力が消失した事は、かなりの痛手だ。

 

「イングヴァル――己ぇッ!」

 

 イングヴァルが斃れた事で、激昂したオレグは乱舞の隙を見逃す事なく猛攻を仕掛けた。

矢張り彼も英雄と称されただけはある。

感情が昂ろうとも、ゴドリックの隙を突いた的確な連続攻撃で攻め立てた。

 

「――オレグ…手を貸す!」

「――私もやれるぞッ!」

 

 灰の剣士《現褪せ人》とネフェリも加わり、オレグと共に息も尽かせぬ連撃を繰り出した。

威力と連続性を伴い回転を加えた、オレグの大剣二刀流――。

再び雷を発し速く重い、ネフェリの二刀戦斧――。

苛烈で流麗な、灰の剣士《現褪せ人》の直剣術――。

三位一体の連続攻撃は、見る見る間にゴドリックの生命を削り取る。

 

「――ギィイァァアアあぁっ……!!」

 

 絶え間ない連続攻撃に堪えたのか、流石のゴドリックも断末魔の悲鳴を上げる。

 

「――…!?各位、一旦退避!一旦退避ぃ!」

 

 だが何かが可笑しい。

言い様の無い異変を感じ取った灰の剣士《現褪せ人》は、退避勧告を呼び掛け、自らもその場から飛び退いた。

かなりの痛痒を負った筈のゴドリックだが、あろう事か自分の片腕を巨大な大斧で切断したのである。

 

「――ガァぁッ!!…ハァッ…ハ―…ハハハハァァァッ……」

 

 切り落とした断面から夥しい量の鮮血が噴出する。

いくら接ぎ木を施したからとは言え、感覚は共有しているらしく苦痛は免れない。

しかし当のゴドリック本人は、何処となく愉悦を滲ませた哂い声で、傍らに佇む竜の遺体へと歩み寄る。

 

「…ハァ…ハァ…ハァ…、おお、強き竜よ…、その力を…我に――」

 

 そして、あろう事か竜の遺体へと切断した腕を突き入れ、竜の頭部を力尽くで接合してしまった。

 

「意外と判り易い方法だな」

 

 接ぎ木という行為をマザマザと見せ付けられた灰の剣士(現褪せ人)

接合する事で力を得る外法だ。

もう少し複雑怪奇な儀式の上で成り立つものだと想像していたが、ある意味で裏切られてしまった。

竜の頭部を接いだゴドリック。

何の反応も示さなかったが、そう時間を置く事なく竜の瞳が怪しく輝き始動する。

まるで彼の身体であるかの様で、それでいて、違う独立した生物であるかの様に、歪な動きで威圧を始めた。

 

「…父祖よ――」

 

 継いだばかりの竜頭を天高く掲げ、ゴドリックは声高々に吠える。

 

「――ご照覧あれいッ!!」

 

(推奨BGM エルデンリング ―― 接ぎ木のゴドリック・第2形態(Godrick the Grafted)

 

咆哮にも似た雄叫びの後、継いだ竜頭を此方へと向けた。

先程まで死んでいたとは思えない生命力を溢れさせる竜頭の口部から、赤熱した灯りが見え隠れする。

 

「――ブレスが来るぞッ!各位、散開せよッ!」

 

 初見とはいえ、数々の戦いで培ってきた経験は此処でも活かされた。

灰の剣士(現褪せ人)は竜のブレス攻撃を予見し、周囲に警戒を呼び掛ける。

程無くして、ゴドリックの竜頭から激しい火炎が放射された。

小柄と言えど竜の眷属――。

人間の行使する魔法や奇跡などとは、比較にならない熱量と規模を誇る。

石畳を赤熱させんばかりの高温は地面を伝い、彼等に襲い掛かった。

 

「――ぬぅおぁああぁッ…!!」

 

 此処で失地騎士オレグが、ブレス攻撃の餌食となり消滅する。

中途半端に距離を取っていたのが災いした。

灰の剣士(現褪せ人)や軽装のネフェリと比べても、彼は重装備である。

騎士の中では俊敏な方だが、二人の速力に及ぶものではなかった。

ゴドリックに肉薄する事も、ブレスの範囲外に逃げるにも、敏捷性が足りずオレグは犠牲となってしまったのである。

ネフェリは射程距離外へ――。

灰の剣士(現褪せ人)は、竜頭の顎下へと肉薄――。

火炎ブレスの難を逃れていた。

 

「――隙ありぃッ!」

 

 内巻き気味の切り上げで竜頭の首部分を裂き、更に戦技『構え』からの”克ち上げ突き”で深々と刺し貫いた。

 

「――ぐわぁぁッ…褪せ人がぁッ!!」

 

 隙を突かれた反撃で悲鳴を上げるゴドリックだが、接ぎ木で竜頭を完全に掌握した状態だ。

その筋肉構造をも本能的に把握しており、竜頭の筋繊維を一気に収縮する。

 

「――ぐッ…抜けん!」

 

 突き刺した剣を抜こうとも、微動だにする事は無かった。

竜頭の筋肉が、彼の剣を完全に締め上げていたからである。

 

「――平伏せいッ!褪せ人ぉッ…!」

 

 締め上げた剣ごと褪せ人を振り回し、彼方へと吹き飛ばすゴドリック。

吹き飛ばされた灰の剣士(現褪せ人)は、城の壁面へと叩き付けられそうになるが、(すんで)の所で体勢を立て直し三角飛びの要領で壁を蹴りながら地面へと無傷で着地する。

 

「――しまったッ…!ネフェリっ!」

 

 彼自身は無傷であったが、その間にネフェリがゴドリックの猛攻に晒されていた。

竜頭を振り回し、火炎ブレスを広範囲に撒き散らし、ネフェリの逃げ道を塞ぎながら追い詰めてゆく。

ネフェリ自身も手練れの戦士である故、容易く果てる女ではない。

しかし、ゴドリックの巨大な斧を避けたは良いが、地面を抉る岩石の破片を食らい彼女は戦闘力を喪失してしまう。

 

「――もう良い、ネフェリ退がれぇッ!!」

 

 ゴドリックの背面にナイフを投げ付け、彼はネフェリに後退を勧告した。

 

「む…無念だ、戦士であるこの私が…!」

 

 このまま戦闘を継続したいのは山々だが、肝心の身体が上手く言う事聞かない。

却って灰の剣士(現褪せ人)の枷になる事を憂い、彼女は不承不承ながら戦線を離脱した。

 

戦場に佇む両雄――。

 

「もはや貴様ら褪せ人の身体なぞ要らぬ。我が接ぎ木には、竜さえ居れば事足りる。竜こそ最も強き共よ…!」

 

「残念だが、接ぎ木の限界というもの証明してしんぜよう。この私がな…!」

 

 互いに言葉を結んだ後、灰の剣士(現褪せ人)は『獣紋のヒーターシールド』をインベントリへと仕舞い込み、手には幅広剣のみが握られていた。

 

「ほぅ…盾を捨てたか。漸く我が接ぎ木の偉大さを認めた様だな」

 

「確かに、竜頭を備えた攻撃力の前に、生半可な防御は無意味。だがそれで良い」

 

「フン、負け惜しみを…!」

 

 他力本願も同然に力を得る外法、接ぎ木。

外法には違いないが、確かに強力な力を有していた。

竜頭を備えた力の目では、下手な防御など無きに等しい。

そうとなれば、金属製の盾など唯の重りに過ぎないのだ。

デッドウェイトを捨てた分、彼の敏捷性に磨きがかかる。

 

「ククク…一騎打ちか…戦の華よ。褪せ人よ、覚悟せいっ!」

 

「オーケー…、……いざ参るッ!!」

 

(推奨BGM Antti Martikainen ―― Enhanced Man )

 

 互いの空気は忽ち張り詰め、両者の脚が石畳を蹴った。

ゴドリックの竜頭から、激しい炎が吹き荒れる。

火炎の吐息は放射を続けながら、ゴドリックが更に薙ぎ払いで前方全てを覆い尽した。

だが灰の剣士(現褪せ人)は何ら臆する事無く、全力疾走でゴドリックに突撃する。

そして炎に巻かれるスレスレのタイミングで、ゴドリック目掛けて跳躍――。

その姿勢のまま戦技『嵐の刃』を一発放ち牽制――。

嵐を伴った弾丸はゴドリックの胸部へと命中する。

 

「――フンッ、効かぬわぁッ!」

 

 ゴドリック自身に然したるダメージは通っていなかったが、彼は跳躍の勢いを殺さぬまま剣を突き出す。

突き出した彼の剣は、ゴドリックの胴体部へと深々と突き刺さった。

 

「――ええいッ、離れんかぁッ!」

 

 ゴドリックは彼を掘り解こうと、必死に身体を揺する。

彼はゴドリックの膂力を利用し、更なる跳躍で地面へと着地するが、間髪入れずに再び跳躍。

今度はゴドリックに肉薄する事なく、回り込む様に周囲を縦横無尽に駆けた。

 

「――ネズミがぁ、これは躱せまい!」

 

 流石に彼の速さを捉え切るのは不可能と悟ったのか、ゴドリックは竜頭を天高く掲げる。

そして炎を全方位に吹き出そうと竜頭に力を込めた。

 

――今ッ!!

 

だが此処で、灰の剣士(現褪せ人)が急遽方向を転換し、ゴドリックへと肉薄する。

竜頭を掲げる体勢は、ゴドリックの胴体が無防備になっているという事でもある。

その無防備目掛けて、彼は擦れ違い様の『胴払い抜け』を繰り出した。

 

「――ぐヌッ!?」

 

 脇腹を切られ、ゴドリックは短い悲鳴を漏らす。

しかしその一撃に耐え、竜頭の炎を吹き出そうと藻掻いた。

彼が何処に居ようと構わない。

全方位に炎を撒き散らせば、敵を焼き尽くす事が出来るのだ。

だがその間にも、四方八方から彼の斬撃が間断なく襲い掛かり、ゴドリックの身体は次々と斬り裂かれた。

夥しい数の接ぎ木の腕が切断され、徐々に数を減らしてゆく。

 

「どうした、ゴドリックよ!?接ぎ木の腕を全く活かせていないではないか!?」

 

 全方位から斬り掛かりつつも、彼からの言動が飛ぶ。

 

「――フハハハ…!もはや貧弱な褪せ人の腕なぞ我には不要ぞ!もう我には強き竜さえあれば良い!竜こそが絶対なる力の象徴なのだからな!」

 

 活かせていないと言うより、活かす気すら無いのだろう。

過去に施した人間の接ぎ木を見限り、彼の関心は竜に向けられていた。

 

「――今後の接ぎ木は、竜に絞ってくれるわぁッ!我が接ぎ木の神髄を…。ご照覧あったか、偉大なるゴッドフレイよ!」

 

 天高く雄叫びを上げたゴドリックは、竜頭から激しい炎を噴火の如く真上に吐き出し、炎の激流は全方位へと拡散した。

ゴドリックを中心に拡散した炎は、戦域を焼き尽くす。

こうなれば彼に逃げ場はない。

彼は炎に呑まれる運命にあった。

 

ゴドリックの視点では――。

 

「――ファッハッハハハハ…悶え焼き苦しめぇ、褪せ人風情がぁッ…!ふわぁッはははは…!」

 

 確かに逃げ場など何処にもない。

間違い無くゴドリックの全周囲は、荒々しい炎に満たされている。

何処からどう見ても、彼の助かる領域など無いのだ。

 

「――驕りだな、ゴドリックっ!」

 

「――ぐボァっ!?」

 

 しかし次の瞬間、ゴドリックは激しく吐血し、その拍子に竜頭の炎も中断されてしまった。

 

「――もう一つッ!」

 

「――げぶぁッ!?」

 

 不気味なまでに耳を打つ彼の声――。

その直後襲い掛かる、焼け付く様な激痛――。

 

「――まだ足りぬかッ?」

 

「――ゴフゥッ!?」

 

 更に襲い来る、胴体部からの痛み。

 

間違い無い。

この感覚は、剣の刺突によるものだ。

しかし何故だ?

褪せ人に逃げ場など何処にも無かった筈だ。

 

「――くれてやる、遠慮するな!」

 

「――ぎぇばッ!?」

 

 疑念と苦痛に包まれながらもゴドリックが視線を落とせば、直ぐ其処に灰の剣士(現褪せ人)が居るではないか。

更に自身の腹部には、剣が何度も突き立てられている。

 

「な…何故だぁ…どうやって…?」

 

「所詮は接ぎ木か。貴方に肉薄していれば、幾らでも退避できる。――そらッ!」

 

「――ぎぃうッ!?」

 

 彼の容赦ない刺突攻撃が、ゴドリックの腹部をまたもや貫いた。

一見全方位を覆っていた炎攻撃だが、接ぎ木によるゴドリックの巨体が災いした。

その巨躯が笠の役割を果たし、ゴドリックの傍は安全地帯と化していたのである。

つまり彼はずっと其処に居た訳で、そうとも知らずゴドリックは勝利を確信し炎を撒き散らせていたのであった。

当然その間は隙も隙だらけで『どうぞ好きにして下さい!』と言わんばかりに無防備を曝け出していた。

灰の剣士(現褪せ人)も思わず失笑しそうになったが何とか堪え、戦技『構え』からの”克ち上げ突き”で何度も刺突した、と言う事だ。

 

「自らの弱点も知らぬとはな…。残念だが、そろそろお開きにしよう…。――黄金の君主よ!」

 

「――ゴぅッ!?」

 

 腹部に深々と抉る刀身を無理矢理かっ裁き灰の剣士(現褪せ人)は、兜奥から橙色の眼光を灯らせた。

 

「――終わりだ…ゴドリックッ!」

 

「――お、己ぇッ褪せ人風情がぁッ!!」

 

 再び剣を構える灰の剣士(現褪せ人)に対し、半狂乱となりながらゴドリックは全力の斧攻撃を振り下ろす。

だが此処でも、ゴドリックは間合いを違えていた。

彼は既にゴドリックの懐へと潜り込み、目にも留まらぬ”連続斬撃”が炸裂する。

 

「――貴様はァッ、エルデの王などではない…!貴様はッ…イレギュラー(例外)だぁッ…!…我は、黄金の君主…。…いつかまた、共に帰らん…。…黄金の麓、我らの故郷…」

 

彼の剣撃は、接ぎ木の接合部を所余す事なく切断し、ゴドリックはバラバラとなりながら遂に果てた。

故郷を思い浮かべていたのだろうか?

散り際のゴドリックの表情は、何処か悲哀と寂し気な目で彩られていた。

 

   ―― DEMIGOD FELLED (半神半人 討伐セリ) ――

 

……

 

(推奨BGM Antti Martikainen ―― Hills of Badon )

 

ゴドリックの討伐は成った。

 

当初の目的である『接ぎ木の追憶』と『ゴドリックの大ルーン』を得る事で、二本指の言葉を聞く事が出来るだろう。

後は円卓に戻るだけだが、此処で()()の事を思い出す。

 

「――ネフェリ、ネフェリ・ルー…戦士よ!どこにいる、無事かッ!?」

 

 ゴドリック戦の途中で、戦線離脱したネフェリ・ルーなる女戦士。

よもや炎に巻き込まれ焼き尽くされてないだろうか?

そんな懸念が頭に過るも、彼はネフェリの捜索に当たった。

 

「…私は此処だ…。済まないな、最後まで助成する事が出来なかった」

 

「無事ならそれでいい」

 

 竜頭を接いだゴドリックの炎攻撃に危機を察したネフェリは、入り口付近にまで退避していた。

そのお陰で巻き込まれる事なく、彼女は生還を果たす。

 

「徐々にだが、風の孕んだソウルが変わりつつある」

 

「少しばかり、嵐の穢れが解けたようだ」

 

 ゴドリックと戦う以前の嵐は、彼のソウルの影響を受けていたのか、淀みと冒涜を孕んでいた。

だがゴドリックを討った後、ここに吹き荒れる嵐は僅かずつだが清浄な風へと変貌しつつあった。

 

「嵐は全ての汚れを吹き飛ばし、鳥の飛翔を導く。私は常に、気高き鷹の様で在り続けたい」

 

 吹き荒ぶ嵐は決して穏やかとは言い難いが、ネフェリは心地良さげに嵐の奔流に身を委ね、静かに目を閉じている。

 

「…先に円卓へと戻っていてくれ。私も直ぐ後を追う」

 

「わかった、では後程――」

 

 ネフェリを先に円卓へと戻らせた灰の剣士(現褪せ人)

彼女も素直に従い、先に円卓へと転移した。

 

そしてゴドリックの広場には彼と、接ぎ木の接合部から切り離されたゴドリック自身の本体と思わしき身体の一部が地面に横たわっている。

既に物言わぬ遺体だ。

ゴドリックは完全に絶命していた。

 

「……」

 

 そんなゴドリックの遺体を見つめ、彼はゆっくりと歩み寄る。

だがそこに、見覚えのある人物が乱入し、ゴドリックの遺体を足蹴に踏み付けていた。

 

「…哀れなものだな、惰弱な君主よ。人を散々こき使って、接ぎに接いでこのざまか。よくも、俺を、貶めたな!ゴドリック、ナメクジ野郎め!思い知れ!思い知れ!俺の怒りを!」

 

 何度も何度も踏み付け、怨嗟の言葉を吐き散らし、怒りと愉悦に満ちた表情を浮かべ想いを遂げている。

 

「……もう充分であろう、ゴストークよ」

 

「…ああ、あんたか。こいつは、ゴドリックは、散々俺を貶めたからな。相応しい報いを、くれてやっていたのだ。しかし、因果とは確かにあるものだな。醜い姿、醜い心にお似合いの、醜い結末じゃあないか。クヒッ…クヒックヒッ…。…それに、俺はもう自由だやりたいことができるんだ。そうだろう?あんた」

 

 醜い心、醜い姿、それに相応しい惨めな結末。

それは遺体と化したゴドリックを指しているのは容易に判る。

だが、その遺体を足蹴にするゴストーク自身は、果たして”違う”と言い切れるのか。

彼の片腕は喪失している。

生まれついての由来か、若しくは――。

ある部分では同情も出来る。

この様な男にも、決して他人には計り知る事の出来ない苦難を乗り越えてきたのだろう。

あまり高潔とは言い難いゴストークの性根。

しかし、灰の剣士(現褪せ人)は、ゴストークの行動を諫めた。

 

「確かに邪悪な君主ではあったよ、ゴドリックは…。しかし彼は、戦士として最後まで戦い、故に果てた。その戦ぶりを、今の貴公に汚す権利があるとは思えぬがな」

 

「…何だぁ、テメェ…?部外者が知った口を聞くんじゃねぇよ!?」

 

 たとえ接ぎ木という邪悪な外法に傾倒し、多くの民に犠牲を強いたのは疑いようもない悪行だ。

だが、ゴドリックは確かに戦士として戦い、そして敗北し果てた。

このゴストークとゴドリックにどういった経緯があったのかは、灰の剣士(現褪せ人)には推し測れようもない。

しかし今のゴストークに、ゴドリックの遺体を貶める権利があるとは思えなかったのだ。

 

「醜い心、醜い姿、醜い最後…。然らば貴公自身でソレを実践してみるか?……()()()()()に対して成した所業…忘れたとは言わせぬぞッ…ん!?」

 

 ストームヴィル城の小部屋で、彼は閉じ込められた挙句、重厚な騎士に襲われ危うく命を落とす処であった。

そして扉を閉めた時の薄ら笑いから、犯人がゴストークである事も既に把握している。

(本編前夜編 第105話参照)

彼はゆっくりと剣を抜き、兜奥で橙色の目を灯らせながらゴストークへと凄んだ。

 

「…アノ時の仕打ち、いま此処で返すのもワルクはない…!」

 

「――ひっ…!マ、ま、マテ…待ってくれよぉ…。ゴドリックは死んで、アンタも無事に望みは叶ったんだ…。お互いの事は水に流そうぜ…な…な?…そ…そうだ、アンタに渡しておく物があったんだ…!俺にはもう要らない物だからよ、アンタが使ってくれ…!へ…へへ…じ…じゃあなッ!!」

 

 彼の威圧に気圧されたゴストークは、必死に弁明しながら脱兎の如く消え去った。

 

「……」

 

 剣を納めた彼は、半壊したゴドリックの遺体を抱きかかえ、四散した他の接ぎ木の一部となった身体を拾い集め、広場中央へと丁寧に積み上げてゆく。

その後、積み上げた遺体に火を点ける事で、簡易的ではあるがゴドリックを葬ったのである。

 

「黄金の君主ゴドリック…統治者として専心すれば、違う結末を迎えていたやも知れぬな…貴方が真に望んだのは、力ではなく本当の故郷だったのだろうか?」

 

 これでゴドリックの想いを汲めたなどと、思い上がる積りはない。

 

なれど、()()()()はどうだ?

果たしてゴストークを咎める程の、正常な人間性を有していると断言できるのか?

たとえ望まぬとは言え、いや、時には自ら望み、多くの殺戮に手を染めてきたのだ。

あの時代(ダークソウル)でも…この地(狭間の地)でも…そして四方世界でも。

 

燃え上がる遺体に目を細めながら、彼は暫く天を仰いだ。

ゴドリックの遺体が完全に燃え尽きるまで…。

 

……

 

(推奨BGM エルデンリング ―― 円卓(Roundtable Hold) )

 

   ―― 円卓 ――

 

円卓へと戻った灰の剣士(現褪せ人)

 

大祝福の前では、ネフェリ=ルーが出迎えてくれた。

 

「会えてよかった、待っていたよ。渡したい物があるんだ。ゴドリックの接ぎ場で見つけたものでな。アレを倒した、お前の物だ。…拒まないでくれよ?私は、戦場漁りにはなりたくない」

 

 再開したネフェリから『武具塊のお守り』と呼ばれるタリスマンを受け取る。

どうやら、装備重量を軽減する効果が備わっている様だ。

かなりの貴重品ではないのか?

本当に受け取って良いものかどうか逡巡したものの、ネフェリからの強い要望で受け取らせて貰う事にした。

 

「…ああ、そうだ。義父には、もう会ったのか?彼は今、書斎にいる。すぐそこの、エンシャ殿の見張る扉だ。もしまだなら、会っていくといい。義父は、円卓の指導者だ。きっと、よい話をしてくれるだろう。…さて、私はそろそろ行く。縁があればまた会おう、戦士よ」

 

 そう言い、ネフェリは円卓を去る。

 

――百智卿に会う前に、二本指の言葉を授かるのが先だったな…確か。

 

円卓の真の一員となるには、大ルーンを手にし二本指からの言葉を受け取る必要がある。

以前、円卓を訪れた時に要求された百智卿からの条件だ。

彼は新たに開いた扉を潜り、謁見の間らしき小部屋へと辿り着いた。

 

――二本指…()()()()じゃあないか…。

 

正対する形で、静かに佇む巨大な『指』――。

正しく『指』――。

いや、『指』意外に形容する言葉など見当たらない。

巨大な2本の指が、彼の前に鎮座しており僅かに蠢いている。

所々損傷が見受けられるが、やはり崩壊の兆しを辿っているのだろうか。

百智卿の言った通り、あれが件の『二本指』で間違いない。

しかし見るも巨大な指そのものに、発声器官など見当たらない。

言葉を聞けと言う事だが、話すという行為が可能なのか?

二本指の傍らには、黒い法衣に身を包んだ老婆が控えていた。

成程…彼女が代弁者という訳か。

ならば惑う必要はない。

彼は迷い無く、老婆の元へと向かう。

 

「…あんた、新しい褪せ人だね?よくきたね。私は指読みのエンヤ。大いなる意志の使い、指様の言葉を伝える婆さね。見てごらん、指様が震えている。大ルーンの主たる、あんたを歓迎しているのさ。…さあ、指様の言葉を聞くがいい」

 

 指読みの老婆『エンヤ』、やはり彼女は代弁者の役割を果たしていた。

二本指の意思が彼女を通じ言葉へと変換される。

エンヤから紡がれる二本指の意思が、彼へと刻み付けられる。

 

……

 

「指様の言葉、忘れるでないぞ…」

 

 一頻りを語り終えたエンヤ。

また訪れる…とだけ告げ、彼はに二本指の間を出る。

 

「…少々この世界に関わり過ぎたかも知れぬ…距離感を調整せねば…な」

 

 エンヤを通じて語られた二本指の意思――。

この壊れかけた狭間の地には、エルデンリングの修復が必要だ。

その為には、デミゴッドを討ち大ルーンを手にしなければならない。

しかしエルデの王へと成るのは、あくまで自分の宿主である『褪せ人』の使命だ。

火の無い灰の使命では決して無いのだ。

そして経緯はどうであれ、この灰の剣士自身がゴドリックを討ち大ルーンを得てしまったのである。

 

「…必要以上に深く踏み込むのは危険だな」

 

 気が付けば、褪せ人の使命を”代行”してしまっている。

このまま狭間の地へ()()()()()()、最悪戻れなくなる可能性も考慮しなければならない。

 

「クソ…!あの時代に似ているからと言って、酔いしれ過ぎたか…!」

 

 嘗て彼の歩んだ火継ぎの時代(ダークソウル)――。

その共通した世界観に、知らず知らず長居してしまった様だ。

あまつさえ不死という理由で、死を繰り返すと言う暴挙までやってのけている。

このままでは四方世界に戻った際、命を軽視する危険性さえあるのだ。

 

今一度、自身を省みる必要があるだろう。

だが、二本指の言葉を聞くという目的は果たした。

彼は百智卿の居る書斎へと足を運ぶ。

 

……

 

「…君、二本指の言葉を聞いたのだね。では、約束通り君を歓迎しよう。円卓の真の一員として。では改めて私は、ギデオン=オーフニール。褪せ人として、エルデンリングに見え、エルデの王となるためにすべてを、識ろうとしている…。君は、数少ない同志だ。ずっと、そうであってくれたまえ」

 

 大ルーンを手にした事で、円卓の正式な一員として認められる事に成功した。

その後、彼からゴドリック以外のデミゴッドについての情報も入手する。

またデミゴッドだけでなく、彼等に関わる土地の情報も併せて聞く事が出来た。

このまま会話に興じ更なる情報を引き出したい処だが、彼は書物を数冊借り受けられらないかと願い出る。

 

「……物によるが、何を知りたいのだね?」

 

 少々怪しまれてしまっただろうか?

疑わし気に問う百智卿だったが、彼は借り受けたい書物を伝えた。

 

霊気流についての書物。

狭間の地の歴史や基礎知識についての書物。

基礎的だが魔術や祈祷の概念についての書物。

 

この3冊である。

 

「ふむ…そのような基礎的な記述の書物で良ければ、持って行くと良い」

 

「かたじけない」

 

 それ等の書物は、狭間の地に於いては一般常識と呼べるほどの基礎的な記述しかない。

初めて狭間の地を訪れる者や、教養の行き届いていない愚者ぐらいしか、利用価値のない内容ばかりだ。

教養の行き届いた子供でさえ読む必要もない書物を、今更この男は求めているのだ。

あっさりと望みは叶い、彼は礼を述べる。

しかし、自分で探せとの事だ。

決して広くはない書斎だが、無駄に多い書物に埋もれた中で目的の物を探すのに、実に一時間以上も費やしてしまったのは余談である。

目的の書物を借り受けた彼は、大祝福の前に戻るが此処で『ロジェール』の事を思い出す。

借り受けた書物は一旦卓の上に置き、彼はロジェールを探し出した。

ソウルの感知で、ロジェールの居場所は直ぐに判明したが、彼のソウルが些かに弱々しいのが気になる。

彼はテラス付近で見付かった。

テラスの下層には、更なる広間が設けられていたが無人の様だ。

 

「…やあ、貴方。またお会いしましたね。こんな姿勢ですみません。どうにも体が動きませんので。それで、何か御用でしたか?」

 

 ロジェールは小椅子に腰かけ、かなり衰弱しているようにも見える。

疲労が蓄積しているのだろうか。

無事ゴドリックの討伐が成った事を伝えた。

その事を伝えた後、ロジェールから武器を受け取る。

 

ロジェールの刺剣+8

(輝剣の円陣)付き

 

彼は、もう戦えないらしく、自分に使って欲しいとの事だ。

灰の剣士(現褪せ人)自身は、あまり刺剣には精通していないのだが、この武器に付随している戦技は非常に魅力あるものだった。

後で、戦技を取り外しておく事にしよう。

だがロジェールの様子は、どうにも芳しくない。

ロジェールを気遣うが、心配ないと躱されてしまった。

 

「ロジェール殿、自愛して頂きたい」

 

 これ以上不必要に関わるべきではないだろう。

マルギット戦では共闘し、ストームヴィル城では戦技を授けて貰った故、恩義に感じる部分はある。

しかし彼には彼の事情がある。

それに先程、深くのめり込まないように努めると決めたばかりではないか。

彼への恩義と自身の決意に板挟みに苛まれながらも、短い気遣いの言葉のみを掛け、その場を後にする。

 

さて、これで一通りの目的は達成した。

後は大祝福に置いて来た書物に目を通し、狭間の地についての知識を深め、四方世界へと帰還するだけだ。

しかし本当に帰還が叶うだろうか?

些かに不安を覚えながらも彼は大祝福へと戻る。

 

――聖黄金樹を通じ、自分で来たのだ。戻れぬ道理はない筈だ。

 

不安を振り払い、大祝福の前に設けられている上質の椅子に腰かけながら、彼は百智卿から借り受けた書物へと目を通し始める。

 

………

……

 

どの位、時間が経っただろうか?

霊気流についての記述を念入りに読み漁り、何時の間にか強烈な睡魔に襲われる。

眠気に抗いながら彼は、脳内物質のナニカが睡眠を司る働きを(もたら)す、という学術を思い出していた。

四方世界で得た知識か、若しくは不死人になる以前の()()()()()()に読んだ書物の影響だったか――。

そんな事に思考を乱されながら、無意識の内に睡魔へと屈してしまった。

 

………

……

 

(推奨BGM ゴブリンスレイヤー ―― 辺境の街 )

 

…誰かが身体を揺すっている。

覚えがある感覚だ。

またライザが、揺すっているに違いない。

自分を気遣ってくれのは有り難いが、彼女は少々自分に構い過ぎではないだろうか。

また小言を言われるのは面倒だが、起きてやるか。

それにしても、妙に身体が痛い。

意識が覚醒するにつれ、その痛みは徐々に顕著となる。

 

「…い、…キ…。…おい…、お…ろ…。おい…起きろ…!」

 

 しかし声は男のものだ。

ライザではない。

しかも聞き覚えのある声が、自分に呼び掛けている。

誰だ…?

 

「――おいッ、大丈夫か!?起きな…!火の無い灰!」

 

 その一声で意識が急激に覚醒し、彼は目を覚ましゆっくりと身体を起こす。

火の無い灰…灰の剣士は、四方世界の帰還へと成功した。

辺りを見回せば、未だ淡い輝きを放つ聖黄金樹と地母神神殿が視界に映る。

そして良く知る彼――ヴィンハイムのオーベックの姿も。

 

「…オーベック?」

 

 どうやら今回は、彼が立ち寄ってくれたらしい。

何とも言えない神妙な表情で、灰の剣士に視線を向けている。

辺りは未だ、夜間の時間帯に分類されるだろうか。

日は薄っすらと地平線の淵を染め上げ、あと一時間もすれば朝方を迎えるだろう。

 

「…く…全身が痛いな…」

 

「…狭間の地とやらで殺されたのか?」

 

 身体を起こした瞬間、焼けつくような痛みが全身を襲う。

オーベックは事情を知っているのか、狭間の地の名を口にした。

司祭長から大方の事情を聴いていたらしく、昨日の朝、灰の剣士が聖黄金樹の前で血を流して目を覚ました事も把握していた。

 

「…ああ、殺されたさ…何度もな…。奇跡…中回復…!」

 

 灰の剣士は、狭間の地での出来事を話しながら、奇跡で自身を回復させる。

 

「…敢えて言おう…『死』を引き摺ってやがるな」

 

「ああ。自重しなければ…。この世界にまで『死』を持ち込む訳にはいかぬ」

 

「自覚があるなら責めはせんさ。俺もアンタも今や真っ当な生者だ。心まで不死人に傾倒する必要はあるまい?」

 

「全くだ。狭間の地に酔うのは些かに違う気がする」

 

 狭間の地でも危機感はあった。

あまりに死を繰り返した事で、感覚が不死人へと戻っていたのは確かだ。

あの感覚と精神状態を引き摺り、この四方世界へと帰還するは少々に危険だ。

殺戮と血に酔いしれ、死をも厭わぬ”獣”と化す。

それでは生者の意味がない。

恐らくは、再び狭間の地へと降り立つ機会も到来するだろう。

だが、次からは生者の感覚を以て事に当たらなければならない。

それに狭間の地へと赴くのは、あくまで『力』を得る為で、エルデの王へ至る事ではない。

あの使命は褪せ人が成すべきで、自分には自分の使命が残っている。

そもそも『力』を求めるのも、この四方世界での役割を果たさんが為だ。

本来の目的を見失ってはならない。

危うく”目的”と”手段”を履き違える処であった。

 

「…オーベック、済まんが日付を聞かせて貰えぬか?」

 

 狭間の地へと降り立ち、リムグレイブで過ごした時間は実に一週間を越えていた。

今こうやって四方世界の帰還が叶った訳だが、此処での時間はどれ程経過したのだろう。

彼の問いに答えるオーベック。

 

「安心しろ。一晩だけだ」

 

「そうだったか」

 

 オーベックの答えに、彼は一先ず胸を撫でおろす。

そもそもオーベックも司祭長の依頼で、火継ぎの祭祀場から回収した道具類の解析を担っていたのだ。

そして彼も灰の剣士と同じ世界の出身者。

その様な事情もあり、司祭長から彼の事情もある程度は聞き及んでいたのである。

灰の剣士が、聖黄金樹を通じ狭間の世界へ渡っている間、オーベックは神殿の資料室で道具の解析の従事していた。

そういった経緯もあり、司祭長から灰の剣士の様子を診て欲しいと頼まれていたのである。

 

「…ソイツは、まぁ良いんだが……。どうしたんだ、この装備品や道具類の数々…?」

 

 話が一段落ついた頃合いを見計らい、オーベックは次の疑念を切り出す。

彼の視線の先には、数々の武具類が散乱していた。

武器に防具…書物類の数々――。

 

「……!」

 

 オーベックの言葉に釣られた灰の剣士も、地へと視線を落とす。

オーベックの言う通り、視界には数々の道具類が散らばっていた。

 

――メリナの言っていた事は正しかったようだな。

 

狭間の地、第3マリカ教会にてメリナという霊体の少女と出会う事が出来た。

彼は装備品を持ち帰る事は出来ないかと尋ねていたが、こうして確認するに彼女の言は正しかった事を確信する。

自分で入手した道具類は、持ち帰りが叶うらしい。

しかし些かに数が多い。

全てを宿に持ち帰るには、少々難儀しそうだ。

何せ四方世界では、物体をソウルに変換させる能力が使えない。

持ち運ぶには、運搬用の荷車を借りるしか手立てがないのだ。

 

「…書物か…興味深い内容だが、先ずはこの()()をどうするかだな?」

 

「ん…()()?」

 

「お前が連れ帰ったんじゃないのか?」

 

 一旦手にした書物を再び地面へと置き、オーベックはとある方へと指し示す。

 

「……」

 

 灰の剣士も示された方へと視線を向けると、一人の全裸の少年が横たわっていた。

 

「――ば…馬鹿なッ…!?どうして…()が…!?」

 

 倒れ伏す全裸の少年――。

意識を失っている様だが、流れ出るソウルから生存している事は確定済みだ。

しかし灰の剣士には、全裸の少年に見覚えがあるのか狼狽えてしまう。

 

「この少年…右腕だけ、異様に変色しているな。しかもこの腕は、魔力を含んだソウルを帯びている。お前…どうやらこの少年を知っている様だが?」

 

 少年を抱え起こしたオーベックは、彼の右腕が異様に変色している事に気付き、見分を行い疑問を浮かべる。

 

「接ぎ木の貴公子…。狭間の地――ストームヴィル城で、私が討った()()の少年だ」

 

「おいおい、この少年…。ヒョロイが真っ当な身体じゃあないか?どう贔屓目に見ても異形には見えんぜ?」

 

 灰の剣士がストームヴィル城で出会ったの当時、この少年は見るも不気味な異形と言うべき体つきをしていた。

それは凡そ人とは呼べない程に、異質で悍ましい怪物といった風情が当て嵌まる。

 

「…少し話そう。狭間の地で何があったのかを、この少年――接ぎ木と呼ばれる外法を」

 

「…ああ、少し待っててくれ」

 

 接ぎ木の貴公子だった少年は、どういう訳か四方世界に流れ着いていた。

更に幸か不幸か、少年の身体は自分達と同じ人の姿をしている。

だが完全に接ぎ木から解放されていないのか、右腕だけは薄緑に染まり異常に魔力を帯びていた。

灰の剣士は狭間の地での出来事をオーベックに語ろうとするが、オーベックは外出用に羽織っていたジャケットを少年へと着せた。

夏の季節だが朝方は異様に冷え込み、この少年は全裸で衣服を纏っていない為だ。

ジャケットを着せたオーベックは少年を再び寝かせ、話を聞く態勢に入る。

 

……

 

「接ぎ木…か。植物学でその様な技術が在るのは知っていたが、よもやそれを人に施そうとはな…。この世界じゃ狂気の沙汰として映るだろうよ」

 

「接ぎ木は狭間の地でも外法に分類されている。だが彼は接ぎ木のお陰で一命を取り留め、同時に敵として私と対峙したのも事実だ」

 

 接ぎ木の首謀者、黄金の君主ゴドリック。

その犠牲者である今居る少年、接ぎ木の貴公子。

そしてこの少年の過去。

一通りを聞き終えたオーベックは、苦々しい表情を浮かべながら寝かせた少年に視線を寄せる。

 

「一応は敵だった訳だが、お前はこの坊やからゴドリック討伐を託されたのだろう。なら、もう襲ってくる心配はないか」

 

「多分な。彼も接ぎ木に加担した身だが、その本心は邪悪に非ず。寧ろ崩壊しつつある狭間の地を嘆いたぐらいだ。そういう意味では危険視しておらぬよ」

 

 接ぎ木の貴公子は事切れる寸前、灰の剣士にゴドリック討伐を託して果てた。

そして灰の剣士は見事ゴドリックを討ち、彼との約束を果たした事になる。

彼の望み通り、ゴドリックの凶行に終止符を打ったのだ。

これ以上敵対する理由はない筈だ。

(本編前夜編 第105話参照)

 

「さて、あんまり此処に留まってはいられんな」

 

「そうだな。そろそろ関係者が起きる頃合いか。先ずは彼を保護しないとな」

 

 何時の間にか辺りはすっかり明るくなり、完全な朝を迎えていた。

よく聞けば、神殿で飼育している鶏がけたたましく鳴いている。

やはり四方世界は、生者の息吹に満ち溢れている。

同じ鳥でも『死の鳥』の嘶きなど二度と聞きたくはないものだ。

オーベックには神殿関係者を呼んで貰い、灰の剣士は散乱した武具類を纏め、念の為少年に外傷が無いかを確認した。

 

神殿関係者が数人到着し少年は無事に保護され、武具類は一旦神殿に預けられた。

(持ち帰った武具の中に『ゴドリックの王斧』が混在していたのだが、取り敢えず意識の隅へと追いやった)

 

そして灰の剣士とオーベックは司祭長の執務室で、狭間の地にて起きた事を説明する。

執務室には、神官長も同伴していた。

 

「…そうでしたか。あの少年には、その様な事情が――」

 

「はい、私自身も正直驚いています。武具類だけならいざ知らず、まさか”人”まで流れ着いてしまうとは」

 

「残念ですが、人が流れ着いた原因までは私にも解りかねます。あの少年には、この世界で生きて頂く他ないかと」

 

「分かりました。あの少年の保護は、此方にお任せ下さい。責任を以て診ますので」

 

「お願い致します、神官長殿」

 

 こうして『元・接ぎ木の貴公子』であった少年は、地母神神殿にて保護される事となる。

彼が目覚めた時、どう新たな人生を歩むのかは定かではないが、願わくば希望を抱いて欲しいものだ。

 

「それでは、我等はこれにて――」

 

 灰の剣士とオーベックは一礼の後、執務室から退出する。

しかし灰の剣士だけは神官長から呼び止められ『次からは料金を徴収する』という旨を告げられてしまった。

それと言うのも、四方世界に帰還した彼は全身血塗れの状態であった。

狭間の地で繰り返した”死”を、こういった形で持ち帰ってしまった所為だ。

負傷自体は彼自身で治療したが、血糊は残ったままだ。

流石に神官長も見るに見かね、四方世界の奇跡である『浄化』で血糊を消し去って貰ったのである。

この奇跡は対象の不純物を取り除き、真水へと変換する効果を持つ。

一見地味な効果だが、実は服の汚れを取り除くにも使える為、洗濯の手間が省けるという利点があった。

実際この奇跡を扱う信徒も神殿には多数存在しており、料金さえ払えば服の汚れを浄化してくれるのである。

この時代、この国では、洗濯機やコインランドリーなどという便利な文明機器が存在する筈もなく、洗濯とは思いのほか手間が掛かる作業なのだ。

特に、そういった作業に時間を割かれたくない冒険者には評判も良く、秘かに神殿の貴重な収入源ともなっていた。

だが、信徒には理由もなく『浄化』の奇跡で洗濯する事は、固く禁じられている。

(安易な奇跡に頼り、怠惰に走るという惰弱な精神を育てない為だ)

 

「き…気を付けます…!」

 

 灰の剣士は、気まずそうに再度頭を下げ早足気に部屋を後にする。

そんな姿を目にした神官長は、クスクスと笑いながら彼を見送った。

 

部屋を出た灰の剣士とオーベック。

 

「あの書物…俺にも読ませてくれないか?どの道、解読は必要だろう?」

 

「そうだな。やはり我々の馴染み深い言語で記されていた。此処(四方世界)の共通語に翻訳する必要もあるだろう」

 

 狭間の地より持ち帰った数々の書物。

当然のことながら、オーベックも深い興味を示していた。

奇妙な事に、狭間の地での言語も彼等の居た時代の言語と共通しており、不思議な共感を覚えながらも翻訳の必要性を感じ取っていた。

知識の深いオーベックが翻訳してくれるなら、これ程心強い事はない。

断る理由もなく、オーベックの頼みを受け入れる事にした。

 

「――あ、オーベック様!…それと…灰の剣士さん…でしたね。お早う御座います!」

 

 廊下の一角で出会った髪の長い女が、二人に挨拶を交わして来た。

その女に、灰の剣士は何処となく見覚えがあった。

 

「ん…?貴公は若しや、ゴブリンスイーパーの元メンバーでは?」

 

「はい、そうです!現在は独立…と言うか、そのぉ…其方のオーベック様の下で…///」

 

 片目が隠れるほど長髪を揺らし、時折りオーベックの方を見ながら彼女は頬を紅く染めた。

確か彼女は、ゴブリンスイーパーと共に救出したメンバーの一人で、呪文使いの女冒険者だった筈だ。

スイーパー以外のメンバーは全員引退し、其々の道を歩んでいると聞いたが、その一人はこうしてオーベックの元に身を寄せていたとのは驚きだ。

 

「そういう事だったか。おめでとう、貴公もオーベックも」

 

「///はい、有難う御座います///」

 

「馬鹿…、そんなんじゃない。だが彼女は、助手としても上手くやってのけている。思っていた以上に、魔術や学問に関しての適応力も高いのは、有り難い事だがな」

 

 呪文使いの女は、助手としてオーベックの下に身を寄せているという事だ。

だがあの小屋は、複数人で住むには少々狭い様にも思える。

以前、孤電の術士と灰の剣士は、あの小屋で数日間を共に過ごした事があったが、妙齢の男女が狭いあの小屋で数日間共に居る。

何も起きない筈はない。

灰の剣士と孤電の術士でさえ、()()()()()()に発展しそうになった程だ。

正常な男女であるオーベックと呪文使いの女が、男女の仲に発展しても何ら不思議ではないのだ。

 

いや、これ以上詮索するのは止そう。

 

彼等の領域に、土足で踏み込むに等しい蛮行だ。

灰の剣士は、二人の関係に対し意識するのを止める。

 

ふと周囲が騒々しいのが気になった。

耳を澄ませば、慌ただしい程に動き回る神殿関係者の大声が届く。

 

「何だ?何かあったのか?」

 

「随分騒がしいな、降りてみようか」

 

 俄かに騒がしくなった地母神神殿内。

灰の剣士とオーベックたちは、一階へと下り状況確認へと務めた。

 

次々に神殿内へと運び込まれるのは、負傷した冒険者たちだ。

皆、担架に乗せられ、守衛の兵や関係者たちに支えられている。

負傷した冒険者たちの中には、見覚えのある顔ぶれが揃っていた。

否、正確には、見知った者達ばかりで構成されている。

 

重戦士の一党と槍使いの一党だ。

 

負傷していたのは彼らだった。

特に酷いのは一党の要である、重戦士と槍使い――。

胴体部や脇腹が切り裂かれている。

傷具合から刃物によるものだろうと推察が付く。

 

重戦士、女騎士、半森人の軽戦士、槍使い、特に傷が酷いのが今挙げた面々だ。

魔女や圃人の少女巫術士と少年斥候が、顔面蒼白となりながら彼等に寄り添っている。

そして彼等の他に、カタリナのジークバルドと女部族も付き添っていた。

二人の様子を見るに、無傷であるのが分かる。

更に、ライザたち一行やスイーパーも同伴している。

これ程の面子が揃っているのだ、先ず只事ではない。

一体何が起こったというのか?

灰の剣士たちは、彼等に近付き経緯を訪ねてみる事にした。

 

「――あ、灰君…ここに居たんだ?それにオーベックさんも」

 

 灰の剣士を見たライザは、ホッとした表情を浮かべる。

 

「お…お兄さん…!?お、お早うございます///」

 

 目立ったメンバーに囲まれ気付かなかったが、神殿関係者の中に見習い神官の少女も混ざっている。

灰の剣士の存在に気付いた彼女は、恐る恐るながらも挨拶を交わして来た。

何処となく頬が赤いのは、この切羽詰まった状況に緊張している所為だろうと、灰の剣士は憶測を立てる。

 

「ああ、お早う。…それよりも説明してくれないか?一体いつ、どこで、何が起こったのかを知りたい」

 

「私が説明しよう、灰剣士殿。…少女よ、何処か落ち着ける部屋はあるかな?」

 

「あ、は、はい…!どうぞ、此方へ――」

 

 状況は、ジークバルドが説明してくれるとの事だ。

だが、立ち話で説明するような内容でもない。

何処か落ち着いて話せる場所はないものかと、見習い神官の少女に訊ねてみる。

アテがあるのか、彼女は慌てながらも神殿奥に空き部屋へと案内してくれた。

ジークバルドに加え、女部族、ライザ一行、スイーパーも追従する。

説明を聞くだけなら正直ジークバルド一人で事足りると思うのだが、彼女らも騒動に関わっていたのだろうか。

兎に角、内容を知る必要がある。

先ずは其処からだ。

 

空き部屋には、机と複数の椅子が設けられており、主に会議などに使用されるのだろう。

慌ただし気な見習い神官の少女だが、若しかしてこれ等の状況も想定した上で、この部屋を瞬時に判断し選択したのだろうか。

――だとすれば彼女は将来、大物に成長するかも知れない。

そんな思いを抱きながら、灰の剣士は少女と軽く視線を交わした。

 

「///……///」

 

 彼の視線に気付いたのか、はにかんだ表情を浮かべ頬を紅く染めつつも視線を返す。

どうやら、彼女の様子から退出する気はないらしい。

まぁいい――。

この場を設けてくれたのは、他でもない彼女だ。

この位は許してあげても良いだろう。

灰の剣士は彼女を咎めるでもなく、取り敢えず席へと着き話を聞く事にした。

 

「さて、何処から説明したものか?」

 

「全部話した方が良いさね、騎士さん」

 

 皆が椅子へと腰掛け、ジークバルドは一呼吸を置いた後、説明を始める。

 

(推奨BGM ゴブリンスレイヤー ―― 鼓動 )

 

それは昨晩の出来事だった。

丁度、灰の剣士が聖黄金樹を通じ『狭間の地』に赴いている間に起こった事件と言ってもいい。

夜間に起こった襲撃事件――しかも場所は、この()()でだ。

夜も更けた時間帯、街中で外出する住民など殆ど居ない。

そんな人気(ひとけ)も無い路地で、ソレは起こった――前触れもなく。

 

「突如として現れたのだよ…『闇霊』がな…!」

 

「闇霊…?特徴は解るか?」

 

 ジークバルドは告げる…街中に闇霊が出現したと。

だが闇霊と一言に言っても、その特徴は千差万別だ。

この四方世界で遭遇した闇霊と言えば、ロスリック不死街にて侵入してきた『聖騎士フォドリック』位しか心当たりがない。

特徴を訪ねてみる灰の剣士。

 

「うむ、闇霊特有の赤いソウルを纏っていたからな。鮮明には判別できなかったのだが――」

 

 椅子に腰かけたままの姿勢で腕組みをしながら、ジークバルドは再び語り始めた。

 

赤黒いソウルを纏っていたものの、その闇霊は全身重甲冑を纏い鉄茨を巻き付けていたと言う。

闇霊は、”大剣”の他に”直剣”をも使用し、また大盾も装備している。

更に大盾にも鉄茨を纏わせ単純なシールドバッシュ(盾殴り)だけでも、軽装な者が食らえば致命傷を負いかねない威力だというのだ。

半森人の軽戦士も、鉄茨の大盾によるシールドバッシュ(盾殴り)で、戦線離脱を余儀なくされた。

だが、最大の特徴は寧ろ剣にあった。

直剣にせよ大剣にせよ、赤いソウルを送り込んだかと思えば手元を離れ剣自体が独立して襲い掛かって来るというものだった。

操っている間、闇霊本体は身動きが取れない様だったが、思いの外空中浮遊する剣は速度も対応力も速く、上手く本体の隙を突く事が出来なかった。

また捩じりを加えた遠隔突き攻撃は、女騎士の盾を突き破り防御ごと重傷を負ったと語る。

その変幻自在な剣の遠隔攻撃を掻い潜り、残された重戦士と槍使いが連携攻撃を繰り出すも、大盾によるカウンターのシールドチャージ(突撃バッシュ)で槍使いも敗退。

最後に残った重戦士は、圃人の少女巫術士と魔女の魔法の援護を受けながら、長きに渡り粘った。

だが、彼女らの魔法使用回数も限界を迎え、援護の途切れた重戦士は純粋な剣による対決へと持ち込んだ。

距離を空ければ、遠隔操作の剣が襲い掛かる。

そうなれば勝ち目は絶望的だ。

重戦士は必至の想いで食らい付いたが、打たれ強く膂力も秀でた闇霊の二刀流剣術の前に敗れ去った。

しかも二本とも遠隔操作の出来る剣だったらしく、大剣、直剣が重戦士に止めとばかりに襲い掛かったのである。

 

「――そこで、私とこの者達(女部族とライザ一行にスイーパー)が何とか駆け付け、救援が間に合ったという訳だ」

 

 絶体絶命の重戦士と槍使いの一党――。

主要なメンバーは軒並み倒され、残ったのは華奢で未熟な少年少女と妙齢の女(少年斥候、少女巫術士、魔女)のみ。

極めて危険な状況だ。

その紙一重のタイミングで、ジークバルドとライザ一行やスイーパー達も現場に駆け付け、第2幕が繰り広げられた。

錬金術を取得したライザ達の援護や、スイーパーと女部族も攪乱を担う事で、ジークバルドは攻めに専念する事が出来た。

しかしそれでも、戦況は漸く膠着状態へと持ち込むのが精一杯であった。

ライザの投擲したフラムの爆音が皮切りとなり、戦場には次々と人が集まる事で騒動へと発展。

そして闇霊は、姿をくらまし撤退という形を執ったのである。

ライザの投げた爆弾(フラム)が騒動を引き起こしたと言われれば身も蓋も無いが、結果的に敵を撃退できたという事になる。

そして、重戦士たちは命を落とす事も無く重傷で済み現在に至るという訳だ。

 

「…以上が事のあらましだ」

 

「ホント大変だったんだから!」

「僕も参戦したが、斬撃も効果が薄かった様に思える。アレは普通じゃない!」

 

 一頻りを語り終えるジークバルド。

話し過ぎ喉が渇いたのか、水筒を取り出し飲料水で喉を潤す。

またライザやオーレルも過酷な状況であった事を付け加えた。

 

「…ジークさんよ、その闇霊とやら…今夜も現れると思うかい?」

 

「……霧が出ていれば恐らくは、な…。無論、私は今夜も警戒し備える所存だ。ウワッハハハ…!」

 

 ジークバルドの話によれば、その夜は限定的に霧が立ち込めていたというのだ。

そして闇霊が去った後、辺りの霧も綺麗に飛散したと言う。

 

「……なら、私も同行させて貰えないか、ジークバルド?」

 

「ほぅ、貴公が来てくれるのなら、これ程心強い事はないな…ハハハハ…!」

 

「このまま放置できないわ。幸い一般人には被害が及んでないけど、何時かは必ず…。力を貸して、お願い…!」

 

 ジークバルドの話を聞いた灰の剣士は、自分も同行させて欲しいと願い出た。

当然ジークバルドに拒む理由もなく、案を快く受け入れる。

灰の剣士が参戦する旨を聞き、スイーパーも心なしか安堵の表情を浮かべていた。

 

「皆にも話しておこう。私が聖黄金樹を通じ、『狭間の地』にて体感した事を――」

 

「ん~?昨夜の闇霊と何か関係あるの剣士さん?」

 

 そして灰の剣士は、この場の全員に向け『狭間の地』の出来事を語ろうとする。

ジークバルドたちが戦っている間、灰の剣士は聖黄金樹を通じ『狭間の地』へと旅立っていた。

その狭間の地と昨夜の闇霊に何の関係があるのか?

ルルアには彼の真意が読み取れず、疑問符を浮かべ首を傾げた。

当然、無関係なら態々このような話を持ち出したりはしない。

 

「その闇霊なら…心当たりが有るやも知れぬ…!」

 

 灰の剣士による言葉――。

部屋内の空気は、より一層張り詰めた。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

ゴドリックの王斧

 

接ぎ木のゴドリックが用いた大斧。

獣の姿を刻んだ、黄金の戦斧。

 

それは、黄金の一族の父祖にして最初のエルデの王、ゴッドフレイの力の象徴である。

 

小鬼風情がッ!不遜であろう…、地に伏せよッ!!。

我こそは黄金の君主なるぞ!

 

再び帰り咲こう、黄金の一族として相応しい、あの栄光なる都へと……。

 

 

 

 

 

 




エルデンリング、ゲーム本編では、遺灰を同時召喚する事は基本的に出来ないのですが、此処では異なる遺灰を同時参戦させてます。
オレグとイングヴァルを揃えて参加させたかったので……。
あとネフェリ=ルーも、ゴドリック戦では霊体なのですが、此処では実体として参戦させました。

如何だったでしょうか?
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
デハマタ。( ゚∀゚)/
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