ゴブリンスレイヤー ―灰の剣士―   作:カズヨシ0509

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ドーモです。
台風シーズンとなり、過ぎ去る毎に秋の匂いが濃くなるように感じます。

では投稿致しますドゾ。( ゚ ω ゚ )


第107話―接ぎ木から輝石へと―

 

 

 

 

 

 

…今も心の何処かで、あの方を信じている僕が居ます。

きっと、あった筈なんです。

決して誰にも明かせぬ苦悩を抱え、あの様な凶行に身を染めたのではないでしょうか?

ゴドリック様にも…。

 

接ぎ木の右腕を持つ少年より抜粋。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

(推奨BGM ゴブリンスレイヤー ―― 冒険者の夢の跡 )

 

 シンと静まり返る張り詰めた空気。

部屋内の誰もが、外套の冒険者――灰の剣士へと目を向ける。

 

「狭間の地…その一部である、リムグレイブと呼ばれる地域を中心に、私は活動していた」

 

 彼は語る。

この神殿一画に植生された『聖黄金樹』を通じ『狭間の地』と呼ばれる異界へと、彼は旅立っていた。

其処で起こった出来事…リムグレイブ~ストームヴィル城の事も踏まえて言及する。

昨夜の旅で2回目となるのだが、最初旅立った時は単なる”夢”として神殿では処理された。

しかし、こうして狭間の地で得た武具や書物類を持ち帰り、本人も怪我という形で”死”を引き摺った。

極め付けは『接ぎ木の貴公子』と呼ばれる少年までもが、四方世界に流れ着いたという点だ。

これ等の事象が折り重なれば、単なる”夢”などという一単語で締め括るのは些かに無理がある。

そして肝心の『闇霊』の正体だが、ジークバルドの証言が確かなら、その闇霊は狭間の地で遭遇した『鈴玉狩り』と呼称される敵に酷似しているのだと語った。

彼自身も、リムグレイブ内を駆け巡る内に、とある箇所で侵入され戦闘を余儀なくされた。

その闇霊も、鉄茨を全身甲冑と大盾に巻き付け、遠隔操作する剣で襲い掛かって来た。

初見時の彼(褪せ人と化した灰の剣士)も随分翻弄され苦戦を強いられたものだ。

しかし当時の鈴玉狩りは、一本しか剣を所有していなかった。

二本も剣を所持する鈴玉狩りという点には、若干の違和感を拭えなかった。

 

「「「「「……」」」」」

 

一通りを語り終えたものの、周囲は沈黙を保ったままだ。

部屋内の空気は張り詰めたままで、皆は言葉を詰まらせている。

 

「――ま…待って灰君!?何か色んな事が一斉に起こり過ぎてね…。その…なんていうか…」

 

 遠慮がちながらライザが待ったをかける。

彼女の言う通り、理解が追い付いていないのが大半だ。

ライザの反応を皮切りに、周囲にどよめきが見え隠れし始めた。

 

「まぁソイツは無理もない。コイツの言は余りに荒唐無稽じみているからな」

 

 そこでオーベックも便乗するかのような素振りを見せた。

確かにライザの反応は尤もだ。

灰の剣士は買い物に出かけるかのような感じで話したが、実際は異界を渡り歩いた上で、数々の道具を持ち帰り、極め付けは”人”まで流れ着くという怪現象を実現させてしまったのだ。

 

所謂『界渡り(ブレインズウォーカー)』を、彼は成し遂げていたのである。

 

多くの魔術師や探求者が、真実を追い求めた末に行き着く先の一つと呼ばれる、到達点。

今在る世界に見切りを付け、別の異界へと旅立つ一つの手法。

 

  ―― |界渡り《ブレインズウォーカー ――

 

もしこの場にソレを追い求める者が居合わせていれば、嫉妬や羨望の眼差しを向けた上で発狂を誘発していたかも知れない。

それ程の大業を、意図せずに成し遂げてしまったのだ。

更にソレだけに留まらず、異界の情報や証拠までをも持ち帰っている。

あまつさえ、異界の住人さえも――。

流石に『接ぎ木の貴公子』の件は、彼も予想外ではあったのだが――。

 

「……でね…、これは…その…あんまり言いたくはないんだけど…さ――」

 

 遠慮がちに視線を寄せながらもライザは、言葉を付け加えた。

 

「もし昨夜の闇霊…ううん…鈴玉狩りって言うのが、狭間の世界の住民なら…、現れた原因って…若しかして…その…」

 

 彼女の表情に心成しか怯えの色が滲んでいる。

しかしライザの視線は灰の剣士に集約されていた。

その態度から彼女が何を言いたいのかは、彼だけでなく周囲も予想が付いていた。

 

「私の所為かも知れぬ」

 

 しかし、彼は意外にもアッサリとソレを認めてしまった。

断言は出来ないものの、彼が狭間の地へと降り立った事が原因で四方世界と何らかの繋がりが生まれてしまったのではないか――。

それが切っ掛けとなり、良からぬ存在まで引き寄せてしまったのではないか――。

意図せずとは言え、接ぎ木の貴公子なる異界の住民まで引き寄せてしまったのだ。

それ等の事象を加味しても、全く根拠が無いとは言い切れなかった。

 

「「「「「……」」」」」

 

相変わらず部屋内の空気は重苦しく、叶うなら直ぐにでも退散したいほどの雰囲気に満ちている。

そんな中、見習い神官の少女が突如として席を立ち上がり抗議の声を上げる。

ライザに向けて――。

 

「――そんなひどいですッ!何の証拠も無いのに、お兄さんが全て悪いみたいな言い方ッ!!」

「――何もそんな事言って無いでしょッ!あたしだって灰君を信じたいわよッ!」

 

 二人の間で口論――と言うよりも、口喧嘩が繰り広げられ双方共かなり感情が昂っていた。

 

「止めなさい二人共っ!」

「お前も落ち着くんだ」

 

 当然見かねた周囲は、間に割って入り仲裁を試みた。

エーファはライザを、オーレルが少女を宥めに掛かる。

 

『――良ければ、僕も参加させて頂けませんか?』

 

 またもや予期せぬ出来事が起こった。

今度は部屋の外、つまり扉の向こう側から声が投げ掛けられて来たのである。

一応外に音が漏れにくいよう厚い目の扉なのだが、声の主からして少年のものだ。

 

――この声とソウル…まさか…。

 

灰の剣士は声の正体を察し、すぐさま扉を開ける。

扉を開けた先、彼の視界に映ったのは見覚えのある少年と付き添った神官長の姿であった。

 

「……」

「……」

 

 灰の剣士と少年――。

先程、四方世界に流れ着き神殿にて保護された、元・接ぎ木の貴公子と呼ばれる少年だった。

互いは無言で視線を交わす。

 

「申し訳ありません皆様。大事な会議の最中だと言うのに、彼が”どうしても”と仰るものだから……」

 

「いえ、ソレには及びませぬ。どうぞ、お掛けになって下さい」

 

 申し訳なさ気に頭を下げる神官長を手で制した灰の剣士は、空いた席と二人を案内する。

 

「…先ずは初めまして、皆様。もう存じているかも知れませんが、僕はつい先程まで『狭間の地』と呼ばれる世界の住民でした。詳しい経緯を説明したいのですが、今は『鈴玉狩り』について議論しておられる様でしたので、それは後ほど。ただ一言、いわせて頂きます。鈴玉狩りの現れた原因は、其処の褪せ人…もとい、灰の剣士…でしたっけ?その人ではないと考えています」

 

 元・接ぎ木の貴公子は敢えて席に腰掛けず、簡素な自己紹介と鈴玉狩りの現れた原因は(灰の剣士)ではないと主張した。

 

(推奨BGM ゴブリンスレイヤー ―― 闘争への咆哮 )

 

「…その闇霊が出現した原因、お前は何か着き止めているのか?」

 

「…いいえ、お恥ずかしながら…。しかし、彼ではないという証拠も無いし、同時に彼が原因だと断定できる確証も無い、寧ろその可能性は極めて低いと僕は思います。それに…これも憶測ですが、既に本体は四方世界…でしたか?この世界に存在している可能性が、高いかと」

 

 オーベックの質疑に答える、元・接ぎ木の貴公子。

鈴玉狩りと呼ばれる闇霊の襲撃――。

彼の言から、狭間の地の住民である事が判明する。

だが、その原因が灰の剣士であると言う可能性は低いと改めて発言した。

それと同時に鈴玉狩りの本体は、既に四方世界の何処かで身を潜めている事を仄めかす。

確かに狭間の地でも『血の指』として、多次元の世界に侵入すると言う技術は存在する。

しかし侵入範囲は、あくまで狭間の地に限定されるのだ。

いくら次元を越え干渉するとは言え、全く見知らぬ世界にまで影響を及ぼす程の効力は無い。

故に、闇霊として四方世界に干渉すると言う事は、その本体は同じ世界(四方世界)に存在すると言う必然が生じる訳だ。

 

「じゃあさ、本体をやっつけないと、意味ないッて事じゃん?」

 

「それもあるが、今は『闇霊』自体を退けないと被害は増すだろうね?」

 

 ルルアの言う通り、鈴玉狩りの本体を討たない限り闇霊をいくら撃退しても襲撃の根本的解決には至らない。

だが女部族の言にも一理あり、この街に鈴玉狩りが出没するという緊急事態が発生しているのだ。

先ずは撃退するなりを通じ、力の弱体化を図るのも決して無意味ではない筈だ。

 

「一応話しておきましょう。鈴玉狩りの正体――」

 

 漸く席へと腰掛けた元・接ぎ木の貴公子は再度、鈴玉狩りについて言及する。

 

 

 

―― 鈴玉狩りと呼ばれているが、彼の名は存在する。彼の名は『鉄茨のエレメール』と呼ばれ、元々は狭間の地に外に在る異国『エオヒド』と呼ばれ、孤高たる修験者達の国から渡って来たのだと言う。狭間の地に着く以前から彼は、商人や自らの師範を手に掛けていたらしく遂に囚われの身となり、マレー家の治める日陰城と呼ばれる場所で死刑に処される事となった。だが彼は、処刑場でにて城の宝剣を奪い住民達を虐殺する。城を乗っ取ったエレメールは、その後も狭間の各地に霊体として侵入し鈴玉狩りとして恐れられているという。因みに剣を遠隔操作する技は、エオヒドの奥義であるらしい ――

 

 

 

「彼の真相までは僕にも分かりませんが、今のが一般として認知されている情報です」

 

 一頻りを語り終えた元・接ぎ木の貴公子は、一旦呼吸を整える。

 

「う~む、修験者の国エオヒド…とな。そのエレメールとやらも、己が得た力を試す為に狂気とも呼べる悪行へと身に染めたのだろうか?」

 

 ジークバルドは腕組みをしながら、神妙な顔つきで天井を仰ぎ見る。

(因みに、兜を外した状態だ)

 

「だが極刑に処されるような奴だ。一般人が危機に晒されている現状を黙って見過ごす訳にはいかないな!」

 

 たとえ他国の民とは言え、今や街に危機が迫っている。

何れは人の上に立つであろうオーレルには、看過など許される筈もない。

当然彼は、討伐に強い意欲を見せる。

 

「一応ソウルの僅かな残り香が、今も現場に漂っている。極めて高い確率で再来するであろうな」

 

 灰の剣士ほどでもないが、ジークバルドもソウルの感知が出来る。

鈴玉狩りが去った現場は、今もソウルが僅かながらに残留している状態だ。

あの時代(ダークソウル)なら兎も角、今の生ある四方世界でこの現象は極めて珍しい。

彼は今夜も出没すると踏んでいた。

 

「ならば被害の拡大を防ぐための措置…つまり戦域を限定化させる”結界”の様な物が必要となるな?ライザにルルア嬢、錬金術で何とかならないだろうか?」

 

 鈴玉狩りが出現すれば、戦闘に発展するのは確定事項だ。

だが現場は街中という、言わば市街戦。

下手に暴れ回れば、民家や街に不必要な被害拡大を招いてしまう。

可能な限り避けたい。

本来なら、ジークバルドが専用戦技『嵐の螺旋撃』を行使すれば、一発で片は付いた。

しかし敢えてソレに及ばなかったのは、彼自身も偏に街の被害をを避けていたからに他ならない。

故に、戦域を限定させる結界のような措置が必要であった。

言うなれば狭間の地の各地に点在した、『封牢』の様な事象に似ているだろうか。

アレは特殊な結界内で戦闘が行われ、ある種の異界にも似ている。

ああいう場所なら幾ら暴れ回ろうとも、外部に被害が及ぶ事は無い。

 

「う~ん、そんなに難しくないと思うよ。ねぇライザ?」

 

「そうだね。異空間の細工は難しいけど、結界張るだけなら時間も手間も掛らないと思うよ」

 

「…頼めるだろうか?」

 

「「――オッケ~い!」」

 

 此処で錬金術の出番となる。

灰の剣士と違い、錬金術に関しては熟練の域に到達しているライザにルルア。

結界を張り戦域を限定させるだけなら、そう難度は高くはない。

既に二人には、ある程度のイメージが出来上がっていた。

 

「…決まりだな」

 

 鈴玉狩りの対策は一応の決着が付いた。

夜間の出現に備え、ジークバルドを筆頭した面々が現場へと張り込み備える。

そしてライザ達が錬金術で造り上げた結界措置を施し、被害の拡大を防ぐという寸法だ。

今回はジークバルドが鈴玉狩りの討伐を担う事になる。

灰の剣士も参戦するが、あくまで彼の補佐という形だ。

話が一段落し、鈴玉狩りの会議は終わりを迎えた。

 

「さてと…」

「……」

 

 皆が席を立ち上がる中、灰の剣士と元・接ぎ木の貴公子だけは無言で対峙した。

 

「「「「「……」」」」」

 

当然、周囲も只ならぬ雰囲気に反応し二人を見守る。

 

(推奨BGM ゴブリンスレイヤー ――  時の傷跡 )

 

「…その節はどうも」

 

「ああ。ストームヴィル城以来だな。」

 

「ゴドリック様の事は…聞くまでもありませんね」

 

「彼は私が討った。しかし、エルデの王と成るのは褪せ人の使命だ。私には自身に課せられた使命がある」

 

「そうでしたか。…しかし、驚きました。僕の出会った褪せ人は、まさか異界の住人が乗り移っていたとは――」

 

「私も面食らっているよ、だが可能な限り協力はした積りだ。望まぬ形で憑依したとはいえ、一定の義理は果たしたと私は自負している」

 

「ええ。ゴドリック様の件も狭間の地の件も、僕は貴方を追求しようなどとは思っていません。この四方世界についても司祭長様より、ある程度は聞き及んでいます。しかし今の僕には、行くアテが無いのが当面の問題でしょうか?」

 

「そういう事か」

 

 緊張感を滲ませながらも、二人の間で交わされる会話。

和解とも敵対ともとれぬ奇妙な空気の中、これからの身の振り方に困窮していた元・接ぎ木の貴公子。

 

「貴公、どの道我々と行動を共にする算段であろう?此処に訪れたのもそういう意図があっての事だ」

 

「…フッ、見抜かれていましたか」

 

 神殿に保護された後、元・接ぎ木の貴公子は直ぐに目を覚ました。

当初は見知らぬ場所で目覚めた事に、彼は驚愕と動揺を混在させたが、神官長と司祭長から四方世界について聞く事が出来た。

そして自身を拾ってくれたのも、灰の剣士である事も含めて――。

更に灰の剣士が、聖黄金樹を通じ狭間の地にて活動していた事も知り、その剣士があの時の褪せ人である事を悟る。

しかし今の彼には行くアテも無い。

ならば少しでも自身と繋がりを持つ灰の剣士なる男に意識が向くのは、ある種の必然とも言えた。

短いながらも彼の面倒を診てくれたのは、若い信徒の女性たちだ。

この神殿に残ってみては?という提案も受けたのだが、生憎彼は学問と魔術側に傾倒した身で信仰には少々疎かった。

なまじ端正な顔付きな事もあり、女性信徒たちは残念そうな声を上げていたのは、記憶に新しい。

 

「そこで聞いたのですが…『冒険者』なる職業に興味があります。余程曰く付きでもない限り、手続きさえ済ませれば直ぐにでも成る事が出来るとか?」

 

 元・接ぎ木の貴公子は、冒険者という存在に興味をそそられた。

自らの自由意思と責任を以て実力を発揮し、数々の依頼を熟し報酬を得る。

嘗ては病弱で、真面に動く事にも苦慮した身だ。

狭間の地に居た頃は、接ぎ木と呼ばれる外法で一命を取り留めたが、今思えば取り返しの付かない凶行に身を(やっ)したものだ。

当時はゴドリックの感謝と忠義故に、盲目的になっていたのも原因の一つであろう。

しかし今は()()()()、接ぎ木からも解放され嘗ての身体を取り戻している。

 

「どういう経緯であれ、僕は大きな悪行に加担してきました。この世界に流れ着いたのにも、きっと大きな意味があるのだと僕は思います。お願いします。どうか僕を同行させて貰えないでしょうか?」

 

 周囲が見守る中、元・接ぎ木の貴公子は頭を下げ頼み込む。

 

「自身で決めよ。此処では自由意思が約束されている。…それ故…私に拒む理由など存在せぬ」

 

 今後の身の振り方――。

既に冒険者という一つの道が提示されているのだ。

ならば灰の剣士が、彼の道を定める権利など何処にもない。

今後どういう人生を歩んで行くにせよ、それも全て彼自身が定め突き進む事が肝要である。

だからこそ、灰の剣士は敢えて自分で決めさせる事にした。

その上で、拒む事はしないとも付け加えながら…。

 

「そういう事なら…。こんな至らない僕ですが、皆様、どうか宜しくお願い致します!」

 

 元・接ぎ木の貴公子は深い一礼を以て、灰の剣士を含む周囲の面々に挨拶を交わした。

 

「では此方も改めて名乗ろう。私は、カタリナの騎士ジークバルド。酒と謳歌をこよなく愛する性分だ、ウワハハハ!」

「その騎士さんに惚れ込んだ辺境部族の女さね!まぁ宜しく頼むよ、少年!」

 

 先ずはジークバルドと女部族が、自己紹介を含めた挨拶で応える。

 

「俺はヴィンハイムのオーベックだ。コッチは助手を務めている女でな。俺は冒険者ではないが、これでも魔術や学問について研究に明け暮れている。もし時間があれば、俺の家を訪ねてくれ。お前の話も興味深い」

 

 次にオーベックと呪文使いの女が、自己紹介を交わす。

 

「私はゴブリンスイーパー。少し前までは、小鬼中心に依頼を熟していたけど、今は他の依頼も積極的に挑んでいるわ。これからも力を合せていきましょ」

「あたし、錬金術士のライザリン=シュタウト!遥か南方の異国からやって来たんだ。しっかし素直じゃないねぇ、灰君も。うんいいよ!って答えれば良かったのに」

「わたしは、エルメルリア=フリクセル。ライザとは違うアーランドから来たの。まだ右も左も分からないと思うけど大丈夫、きっと何とかなるなる!」

 

 その後スイーパーやライザ達が次々と自己紹介を始め、若干困惑気味ながらも元・接ぎ木の貴公子は彼女たちに応えた。

気付かない内に、彼の顔には僅かな笑みが浮かんでいた。

 

「では最後に改めて。私は灰、火の無い灰。向こうでは褪せ人だったが、此方が本来の私だ。周りは私の『灰の剣士』と呼び、私もソレに便乗させて頂いている。本名は故あって、忘却してしまったがな。これからも宜しくお願いする」

 

「こちらこそ。褪せ人…もとい、灰人さん…かな?」

 

 此処で灰の剣士は初めて右手を差し出す。

 

「……」

 

 その様子に些かの躊躇いを見せたが、元・接ぎ木の貴公子も変色した右手で握り返し、互いに握手を交わした。

此処で真なる意味で、二人は和解を示したのだろう。

僅かに残っていた(わだかま)りのソウルは、跡形も無く消え失せていた。

 

その後、神殿に一時的に預けていた狭間の地の武具類を、借り受けた荷台へと乗せ各々は神殿を去る。

だがその前に、聖黄金樹へと案内したいとの旨を伝える灰の剣士。

元・接ぎ木の貴公子を引き連れ、彼等は再び聖黄金樹の下へと移動した。

 

……

 

(推奨BGM ゴブリンスレイヤー ――  忘れじの奏 )

 

「これが聖黄金樹…ですか」

 

「そうだ。これを通じ、私は狭間の地へと降り立った」

 

 神殿の一画、裏庭に植生されている聖黄金樹。

成木には至っていないものの、淡い輝きを放つ神聖な樹木を目にした少年は、釘付けとなっている。

 

「夜になれば、もっと綺麗に輝くんだって」

「貴方が居た『狭間の地』だっけ?其処にはもっと大きな『黄金樹』があるんでしょ?」

 

「ええ。天を衝くほどの大きな木ですよ」

 

 ルルアとエーファの問いに、少年は狭間の地の黄金樹について言及する。

とにかく巨大の一言に尽き、遥か遠方からでも異様さが窺い知れる程だ。

既にエルデンリングが砕けた後に生まれた少年――。

彼自身は、崩壊を歩む時代しか知らないが、嘗ては繁栄を極め幸福と祝福に満ち溢れていた時代であったと語る。

 

「狭間の地かぁ…あたしも行ってみたいなぁ」

 

 まだ見ぬ世界へと期待を膨らませるライザは、チラッと灰の剣士の方へと視線を寄せる。

一人だけ狭間の地へと降り立った彼なら、何らかの方法で連れて行ってくれるのではないか?と、淡い期待を寄せていた。

しかし彼は、ゆっくりと頭を振る。

 

「無駄に殺されるだけだ。下手をすれば、不死の弊害で苦痛が延々と繰り返される。元の世界へ戻る前に、人格崩壊の危険性さえ孕んだ世界。観光気分なら、尚の事お勧めは出来ないな」

「…僕もそう思います。あの地は、真面に会話できる人間さえ、希少な存在となり下がった世界ですから」

 

「――えぇ~ッ!?そんなに荒れた世界なの!?」

 

 灰の剣士と少年の忠告を聞き、ライザは驚きの声を上げる。

特に、真っ当な人間にも事欠く世界という事に、更なる危機感を抱いた。

ライザ…否。

彼女だけでなく、ルルア達アーランド勢にとっても冒険とは、楽しく成し遂げ甲斐のあるものだと信じ疑わなかった。

そもそも灰の剣士やジークバルドを含めた彼の時代(ダークソウル)の住人とは、真逆の世界で生きてきた。

彼の時代を経験した事の無い彼女達(ライザ達)には、想像すら出来ない程に悍ましい世界も存在しているのだ。

 

尤も、この街から更に西方へと進めば、彼の時代を体現するかの様な『ロスリック』と呼ばれる地も存在している訳だが。

今の彼女たちが覚悟も決めずに侵入すれば、間違い無く真っ当な生者ではいられないだろう。

不老不死という、権力者や上流階級層が欲して止まない魅惑の果実――。

しかし実態は、その様な”甘い汁”ではない。

死ぬ事が出来ないと言う事は、生の苦しみも永遠に続くと言う事。

状況や環境如何によっては、心身の苦痛が終わる事なく降り注ぐ危険性も孕んでいる。

”死”とはある意味、それ等苦しみから解放される数少ない救済とも言えるのではないだろうか。

狭間の地も、彼の時代と似て非なる呪いと歪みを振りまいていた。

物珍しいという理由で、ライザ達に狭間の地へと降り立たせたくは無い。

灰の剣士も少年も、苦々しい表情を浮かべていた。

 

「そろそろ行こうか。冒険者ギルドへと案内しよう」

 

 頃合いを見計らった灰の剣士は、ギルドへと向かう旨を伝える。

元・接ぎ木の貴公子という少年――。

狭間の地から四方世界へと流れ着いた彼は、これから自身の力で生きていかねばならないのだ。

そして、少年自身も冒険者という職業には興味を抱いている。

ならば先ずは、冒険者に成る為の手続きが必須だ。

大通りへと出た一行は、冒険者ギルドへと歩を進めた。

 

(推奨BGM ゴブリンスレイヤー ―― 辺境の街 )

 

「……」

 

 目に映るもの全てが少年の目と心を惹く。

街行く人々の往来。

出店を構える商人たち。

身長の低い若者が忙しなく仕事に従事しているが、驚いた事に彼等は裸足(圃人)だった。

人に似た外観でありながら、頭部には獣の耳が生えている。

この世界にも、『混種』や『亜人』が存在していたのは驚きだ。

一際耳の長い美しい女性たち――。

彼女らは、森人(エルフ)という種族である事をオーベックから聞く。

出店で野菜を売り買いする、住民達――。

会話に華を咲かせる、若い集団――。

時折り走り去る、荷馬車――。

どれもが少年の心を躍らせる。

だが矢張り、何よりも彼の心を穿ったのは、その活気であろう。

生命溢れる人々の営み――。

あの狭間の地では、もはや見る事も叶わぬ『生』の光景。

黄金樹の輝きに晒されながらも、あの地は死と呪いが蔓延っていた。

当時病弱だった彼は家族に引き連れられ、リエーニエを出奔し各地を巡った。

その道半ばで、アルター高原にある王都『ローデイル』へと立ち寄った事もある。

彼等は貴族出身故ローデイルへ入る事も許されたが、この街の様な活気など何処にも見られなかった。

構造物ばかりは絢爛だが、ただそれだけ。

住民は疎らで目に付いたのは、物々しい兵士や騎士ばかり。

僅かに存在した住民さえ、暗い表情と絶望に支配され意味も無く殺気立っていたのを覚えている。

そんなローデイルすら、真面に会話できる人間は極僅かという光明の見えない現実だった。

しかし今繰り広げられている”この光景”はどうだ。

笑い、悲しみ、怒り、様々な表情が生ある坩堝となり『街』を彩っている。

だが、これは『当たり前』の日常。

なれど、彼の時代も狭間の地も『当たり前』が崩れ去り、そんな当たり前を目にする事すら極めて稀だった。

少年は言葉も無く『当たり前』に、唯々圧倒されるばかりであった。

 

――そうだ、それでいい。それが真っ当な生者の反応なんだ。

 

忙しなく辺りを見回す、元・接ぎ木の貴公子である少年。

ライザ達に囲まれながら街の説明を受けている。

そんな少年に笑みを浮かべる灰の剣士は、ゴブリンスレイヤーに案内された当時を思い返していた。

(イヤーワン編 第6話参照)

 

 

 

   ―― 冒険者ギルド ――

 

(推奨BGM ゴブリンスレイヤー ―― ギルド )

 

「此処が例の冒険者ギルドだ」

 

 木扉を抜け中へ入った一行。

 

「……!」

 

 灰の剣士から一通りの説明を受けた少年は、更に驚愕の声と表情を浮かべていた。

 

「――こ、こんなに、()()な人たちが犇めき合っているなんて…!」

 

「おいおい、間違っても”真っ当な人々”なんて口に出すんじゃあないぞ?」

 

 オーベックに窘められてしまう少年。

無理もない。

つい先程まで、()()ではない狭間の地に存在していたのだ。

それが今は、この四方世界に自分の脚(接ぎ木ではない本来の脚)で、こうして立っている。

人々が所狭しと集まっているだけでも驚愕ものだと言うのに、皆が正気を保った生者なのだ。

少年の反応も、ある意味で必然とも言えるだろう。

 

「いらっしゃいませッ!冒険者ギルドへようこそ!」

 

 ギルドに設けられたカウンターにて応対する受け付け嬢の職員達。

営業の為の造られた笑顔とて、真正面から向けられた少年は僅かに視線を逸らし頬を紅く染めた。

 

「ア…えと…そ…の、ボ…僕…は、ぼ、ボ、冒険者に…///」

 

 応対してくれたのは、至高神の信徒で司祭に地位も授かっている監督官を務める女性職員だった。

 

「緊張するのは解るが、自分の意思を明確に伝えんと向こうも困惑するばかりだ」

 

 助け舟を出したい処だが、これも自分で乗り切って貰わねば今後も話にならない。

敢えて彼自身で切り出すように誘導しながら、監督官の女性に目配せする灰の剣士。

 

「……」

 

 未だ剣の乙女との確執を気にしているのか、灰の剣士に対し若干硬い表情を浮かべる監督官。

しかし、眼前の少年が何を求めているのかは直ぐに察する事が出来る。

彼女は登録用紙を用意し、少年の出方を待った。

 

……

 

ぎこちないながらも少年は、冒険者登録の手続きを進めていく。

 

「え~と、それでは最終確認に移ります」

「はい」

 

 一通りの記入を済ませた事で、監督官は少年の素性の再確認へと移った。

因みに少年は、狭間の地の住人という事もあり、現時点では四方世界での文字の読み書きが出来ない状態だ。

この世界での識字は、後ほど学べばいい。

今回は監督官に代筆して貰う事になり、その料金は灰の剣士が捻出する事になった。

 

「先ず、年齢は15歳。身長は167cm、体重は56キログラム…」

 

 次々と確認項目を済ませ、最後の確認作業へと入る。

 

「会得している技能としては、剣術が少々…。そして…呪文…なんだけど、輝石の魔術に、源流の魔術…って何ですコレ?…あと使用回数も、平均で2回…う~ん…」

 

 案の定とも言える。

元・接ぎ木の貴公子であった少年は、狭間の地である異界出身の身だ。

しかし、灰の剣士の執り成しで『後から詳細を説明する』という条件で、取り敢えずは『遠方からの旅人』という肩書で処理された。

狭間の地の魔術――。

当然、四方世界の魔術系統とも大きな隔たりと差異も在り、監督官にとって未知なる魔術系統でもあった。

そして呪文の使用回数だが、呪文により負担の度合いがまるで違う。

負担の軽い初歩の呪文なら10発でも20発でも放つ事が出来るが、大魔法ともなれば精々が1~2回が限度だ。

それ故、平均して2回という事で申請したのだが、監督官は未だ頭を悩ませている様だ。

 

「後で彼の素性については私から説明する。今はコレで処理をお願いしたい」

 

「…本当ね?分かったわ、不本意だけど」

 

 些か不審ながらも監督官も溜飲を下げ、処理を再開する。

 

そして少年の肩書だが、流石に『接ぎ木の貴公子』などと名乗れる訳も無い。

彼は、輝石と源流という2つの魔術系統に長けている。

 

元・接ぎ木の貴公子は『輝石の貴公子』と名乗る事になった。

 

少々、大仰染みた名だが、元は上流階級の出で学問にも長けている知識人でもある。

それに品格や人当りの関しても、決して周囲に不快感を与える事も無い。

やはり、佇まいや振る舞いに貴族階級の育ちである事が滲み出ており、彼が『貴公子』を名乗るにも納得させるナニカを感じ取る事が出来た。

素性はどうであれ少年の印象は、監督官にとって好感触を得ていた。

 

「ではこれで、冒険者登録の手続きは完了いたしました。この認識票を、どうぞお持ち下さい」

 

 紙面による手続きが終わり、輝石の貴公子には白色の認識票が手渡された。

つまり在野第10位――白磁等級の駆け出し冒険者として、彼は正式に登録されたのである。

 

「これで僕も、冒険者に――」

 

「「「「「「おめでとう」」」」」」

 

 白磁の認識強を受け取った彼は、それを首にかけ感慨深く目を閉じた。

そんな彼に、灰の剣士を始めとした面々が祝いの言葉を掛ける。

 

白磁等級の新人冒険者『輝石の貴公子』が誕生した。

 

「ねぇ、皆。まだご飯食べてないでしょ?この子の歓迎会も兼ねて、今から食べに行こっか?」

 

 今から食事会を提案するライザ。

こうして新人の冒険者が誕生した事を踏まえ、歓迎の意を込めて食べに行こうとの事だ。

鈴玉狩りによる昨夜の事件、彼等は対応に追われ未だ誰も食事を済ませていなかった。

灰の剣士や輝石の貴公子も同じで、精々水しか口にしていない。

 

「先に行っててくれないか?私は少し説明しなければならぬのでな」

 

 灰の剣士は、皆に”先に行ってほしい”と言う旨を伝える。

元・接ぎ木の貴公子である『輝石の貴公子』の素性を、監督官に説明する為だ。

 

「分かった。あんまり長引かせないでよ」

 

 それを聞いたライザたちは、輝石の貴公子を引き連れ併設された食堂へと向かう。

 

「――あ、待ってくれ!貴公にはコレを渡しておく!」

 

 忘れ物を思い出したのか、灰の剣士は去り行く輝石の貴公子に小袋を投げて寄越した。

 

「ん、これは…?」

 

「鈴玉狩りに関する情報料だ。後は自分の力で稼いでほしい」

 

 彼が渡したのは、貨幣が入った小袋だ。

中には金貨10枚が詰められている。

四方世界では、ソウルやルーンと違い貨幣で物品の取引を行う。

そもそも輝石の貴公子は無一文で、何をするにも先立つ物が不可欠。

そこで少額ながら、灰の剣士から支度金が進呈された次第であった。

しかしあくまで、施しではなく情報料という名目でだ。

そしてここから先は、輝石の貴公子自身の実力で稼いでいかねばならない。

 

「…そういう事なら大事に使わせて頂きます、灰人さん」

 

 金の入った小袋を受け取った彼は、笑みを浮かべながら食堂へと姿を消した。

 

「…談話室空けておいたから、()()()()()()()()()ね♪」

「――馬、馬鹿ッ!誰がこんな奴と…!ホラ、さっさと来なさい!」

 

 同僚の受付嬢が、談話室を用意してくれた様だ。

その際、からかい半分で告げに来たのだが、監督官は声を荒げ過剰に反応する。

彼女は顔を真っ赤にさせていたのだが、激昂した所為だろうと灰の剣士は憶測した。

 

……

 

(推奨BGM スカイリム ―― A Winter's Tale )

 

一連の説明が済んだ後、食堂にて皆と合流した灰の剣士。

ライザ達が既に食事を楽しんでいる真っ最中だった。

 

「あ、お帰り灰君。早くしないと冷めちゃうわよ」

 

 灰の剣士の姿を確認したライザが席を詰め、隣にスペースを作る。

人一人分には少々狭いが、何とか入る広さだ。

 

「済まないな、では失礼させて頂く」

 

 折角彼女が無理をしてまで作ってくれた席だ。

多少無理矢理でも強引に割り込む形で、長椅子へと腰を掛ける。

やはり狭いのか、ライザとは密着する形となってしまったのだが、彼女は笑みさえ浮かべている。

因みに逆隣はルルアが腰を掛けており、彼女も”お疲れ”と労いの言葉を掛けてくれ、やはり密着状態となった。

当然と言うか何と言うか、ルルアはカレー、オーレルはハンバーグを食している。

輝石の貴公子は『オムライス』に舌鼓を打っている。

昔から『卵料理』が好物との事だ。

灰の剣士の料理は既にライザが注文しており、目の前には『シーフードのリゾット』が置かれていた。

幾許かの時間が経ったため多少は冷めたようだが、彼は気にする風でも無く食事を始める。

 

「少し長かったみたいだけど、あの職員さんから何か言われたの?」

 

 状況説明にしては、少々時間が経過した様にも思える。

その事が気になったのか、ゴブリンスイーパーは彼に尋ねた。

 

「実は、部屋にはギルド長も予め控えていてな。それで少々話が長くなった」

 

 灰の剣士と監督官が談話室へと入室すれば、ギルド長が既に待機していた。

監督官に対し…と言うよりは、実質ギルド長に対し状況説明する形になってしまったのである。

 

狭間の地での体験――。

接ぎ木の貴公子の件――。

 

灰の剣士が思っていたよりも、事実を重く受け止めていたギルド長。

そのギルド長から告げられた言葉――。

 

剣の乙女を始めとした各勢力が、聖黄金樹を巡り動いているとの事だ。

 

近日中に剣の乙女一団が、聖黄金樹の視察に訪れる事は街の住民も周知している。

しかし動きを見せているのは、彼女たちのみではない。

実は只人以外の勢力も、聖黄金樹に対し何らかの反応を示しているのだと言う。

特に顕著なのが、森人勢力である。

この街の更なる西方には、広大な樹海が存在している。

その樹海は森人が治める地で、一つの国を形成していた。

この街は西方開拓を担う重要拠点の一つだが、森人勢力の樹海とは絶対不可侵条約を締結している。

現時点では只人勢力とは良好な関係を保っているが、この街には森人も多数籍を置いているのが現状だ。

当然、聖黄金樹の情報も森人勢力に伝わるのは、必然とも言えた。

若木ながら未知なる神秘性を帯びた樹木――聖黄金樹。

森と供に在る森人勢力が関心を寄せるのは、自然の流れでもあるのだ。

そして意図せぬ形とは言え、ロスリックにて『呪腹の大樹』を打ち破り『聖黄金樹の苗木』を持ち帰ったのは、他でもない灰の剣士だ。

更に聖黄金樹を通じ異界(狭間の地)へと旅立つという、界渡り(ブレインズウォーカー)まで達成してしまっている。

聖黄金樹だけではなく、彼自身にも様々な視点から目が向けられていた。

近い内に何らかの依頼が舞い込む旨を、ギルド長から告げられる灰の剣士。

 

「後な、案の定とでも言うのか…剣の乙女から書簡が届いていた。…私の身柄を引き渡せと言う要求がな」

 

 何とも言えない表情を浮かべながら更にフードを深く被り直し、食事を続ける灰の剣士。

 

「…そうであったか。――して、ギルド側の対応は?」

 

 法の神殿にて繰り広げられた、剣の乙女と灰の剣士との確執。

(本編前夜編 第96話参照)

 

二度と関わる事を禁じてはいたが、彼女自身がどの様な思惑でいるのかは定かではない。

しかし、当時の神官戦士長の(したた)めた書面の通り、剣の乙女は灰の剣士の身柄引き渡しを要求してきたのである。

それを聞いたジークバルドは、ギルド側の対応が気になり聞き出そうとする。

 

「無論、聞き入れる訳がない」

 

「――で、あろうな」

 

 当然、その様な個人的な要求をギルドも受け入れる事は出来ない。

ある程度の等級に関する意見なら聞き入れる事は出来るが、幾ら大司教の立場でも冒険者の身柄を自由にする事など出来よう筈も無い。

もし灰の剣士が、何らかの重大な国家反逆を犯したのであれば多少の融通も利くが、この件に限っては完全に彼女の個人的な感情によるものが大きい。

従ってギルド側も、この要求に関しては完全に拒否する事で一致していた。

しかしギルド側の対応だが、これにはもう一つ理由が起因していたのである。

 

実は、当時の神官戦士長は、王統府宛てにも書面を送っており、ダークゴブリン戦での詳細を事細やかに記されていたのである。

やはり灰の剣士がもたらした功績は多大で、彼が如何に有用な存在であるかを前面に押し出していた。

また王都から参加した冒険者も生還しており、彼等は証拠となる記録映像をギルドへと提供している。

それ等は重要資料として、国王の目にも留まっていた。

 

そこで王都側からも、このギルド宛に書簡が届けられており、こう記されていた。

 

―― 灰の剣士に対する大司教からの要求には一切耳を貸すべからず ――

―― 何れ灰の剣士は、王都側で管理運営する ――

 

そういう内容だった。

 

「まだ大まかな内容だがな。細やかな命は、追って通達されるらしい」

 

 リゾットを平らげた彼は匙を机に置き、薬草茶で口の中身を勢いよく喉に流し込む。

 

「じゃあ、やっぱり王都に行くんだね灰君は」

 

「ああ、何れそうなる。この分なら『助言者』に会う事も円滑に事が運びそうだな」

 

 王都に赴けば、件の『助言者』のお目通りも叶うだろう。

助言者の正体については未だ明確にはされていないが、大方の察しは付いていた。

 

「王都…ですか?此処よりも更に活気に溢れた大都市なんでしょうね?」

「比較にならない位、騒がし過ぎる程だ。人によっては此処の方が良いって言うかもな」

 

 まだ見ぬ王都に想いを馳せる輝石の貴公子に、オーレルが簡単ながら王都について語ってくれた。

 

「どの道私たちは王都に戻らないと…なんだし、ちょっと早いか遅いかの違いだよね?」

「俺も何れは王都に在る『賢者の学院』へと入る予定だ」

「賢者の学院…ですか。魔術学院レアルカリアと似た様なものでしょうか?」

 

 何時かはルルア達も王都に戻らなければならない身だ。

王都から書簡が届いた事で、多少予定が早まる気配を見せている。

そしてオーベックも『賢者の学院』へと入学する目標がある。

生徒として編入できるのか、若しくは研究員や指導員として所属できるのかは未知数ではあったが…。

賢者の学院の存在を聞き、リエーニエに在る魔術学院レアルカリアについて言及した、元・接ぎ木の貴公子こと輝石の貴公子。

 

「ほぅ…魔術学院レアルカリア…だと?」

「宜しければ後で、お話いたしましょうか?」

「ソイツは願っても無い。お返しに『竜の学院』についても聞かせてやる」

 

 やはりこういった話題に関しては興味を示すオーベック。

 

「そんじゃ決まりだね!後の予定は、工房(アトリエ)に戻ってからにしよっか!」

 

 粗方の食事も済んだ事で、ライザの一存で工房(アトリエ)にて集合する事になった。

夜間に出没する鈴玉狩り討伐の為にも、工房(アトリエ)なら準備を整える事が出来る。

食堂を出た一行は、ギルド裏に在る工房(アトリエ)へと移動した。

 

……

 

(推奨BGM ライザのアトリエ ―― 棚を挟んで、はにかんで )

 

冒険者ギルド裏手の離れに、件の小屋が在る。

ギルド側と契約を結ぶ事で一定の期間使用できる仕組みだ。

現在は、ライザ達が錬金術を使用する為の工房(アトリエ)として利用されている。

小屋ではあったが中々に広い造りで、大きな暖炉と錬金釜が特に目を惹いた。

また大き目の四角い卓《テーブル》と複数の椅子《スツール》も設置され、ジークバルたちは其処へ腰を降ろす。

灰の剣士も含め今や此処が、ライザ達の拠点でもあった。

 

「初めてお邪魔したが、中々に良い造りじゃあないか」

 

「何処となく生活感と温かみを醸し出しているのは、貴公等の人柄ゆえかな?」

 

 冗談交じりにオーベックとジークバルドが、小屋を称賛する。

一通りの清掃は済ませてあるが決して綺麗とは言い難く、やはり古小屋と言った感は否めない。

黒ずんだ木製の柱に板壁。

棚や天井には、若干の埃が舞い散っている。

しかし、決して不快感を催す事はなく寧ろ仄かな温かみさえ醸し出していた。

 

場所が人を創るのか、人が場所を創るのか――。

 

どういった要因で今の雰囲気を形成しているのか定かではないが、ライザ達の人間性が関係しているのは間違い無いだろう。

 

「さてと、さっそく錬金術でパパァッと作っちゃいますか!」

 

 ライザは、すぐさま錬金術の準備に取り掛かる。

目的は皆まで語る必要もないだろう。

結界用の魔道具を生み出す為だ。

鈴玉狩りは夜間の街中に出没した。

今回も遭遇するとなれば街中で間違いない。

だが、激しい戦闘の余波で、民家や街の施設に被害が及ぶ事も考慮しなければならないのだ。

幸い現時点では、一般人にも被害は及んでいないが今夜もそうとは言い切れない。

故に、鈴玉狩りを妥当な場所へ誘い込んだ後、戦域周囲に結界を施す。

こうする事で、街への被害を最小限に抑え込もうと言う算段だ。

 

「素材の方は大丈夫?もし足りないのがあれば、私が幾つか買って来てあげるけど」

 

「大丈夫よスイーパー。私たちに任せておいて!」

 

 しかし結界を生み出す魔道具を造ると言う事は、それなりに特殊な素材も必須となる。

彩取り取りの薬草が天井に干され、用途不明な石の類も、棚に幾つも並べられていた。

スイーパー自身、錬金術には明るくないが、以前にもライザ達の錬金術を何度か目撃している為、ある程度の察しは付く。

此処に備え付けられている素材だけで事足りるのか?と懸念を示すが、ルルアからは何も問題ないという旨を告げられた。

 

「確かに結界ってかなり特殊な素材が必要になるけど、結界一つとっても色んな種類があるの。今回は使い捨て用で造っちゃうから、今有る素材だけで大丈夫だよ」

「――あ、でも使い捨て用だからって好い加減な物は造らないから、その辺りは理解しておいていね?」

 

 今回ライザやルルアが造り出すのは、一回限りの限定品だとの事だ。

とにかく今回は討伐目標も明確に提示されており、今夜に全力を注ぎ込む方針だ。

街に被害が及ばないような障壁の役割を成す結界が必要となる。

永続的に使用する道具を造り出すなら、希少価値の高い素材が数多く必要となるが、今夜限りに絞るなら既存の素材だけで賄う事が出来る。

安価な素材だけで魔道具を生み出すには、卓越した発想と錬金技術が要求される。

しかし此処に居るのは、ライザとルルアの熟練した腕の立つ錬金術士だ。

両者ともまだまだ発展する余地を残しているが、腕前は確かだと言える。

 

「では宜しくお願いする。錬金の女人たちよ!」

 

「「任せといて、ジークバルドさん!」」

 

 今夜はジークバルドと女部族が主賓となる。

ジークバルド期待に応えるライザとルルアは意気込みを見せ、錬金釜へと向き合った。

 

「私は今の内に”霊薬”の再現を試みるとしよう」

 

 ライザ達が錬金術を行使している間、他の面々は手が空いてしまうのは致し方なしと言えよう。

此処で灰の剣士は、狭間の地から持ち帰った”霊薬”の再現へと挑戦する事にした。

 

「ほぅ、狭間の地で得た霊薬とやらか」

「しかし中身が空よ、剣士さん?」

 

 狭間の地より持ち帰った道具類の大半は、ギルドに預けてある。

此処に持ち込んでいるのは嵩張らない小道具類ばかりで、霊薬もその一つだ。

霊薬を再現するとは言ったものの、オーベックやエーファの指摘通り瓶の中身は空だ。

 

「確か『狭間の地』では祝福にて休む事で中身が自然補充されていた筈です。ですが此処は四方世界、祝福の代わりになる物は見当たりませんが?」

 

 元は狭間の地の住民である輝石の貴公子の言う通り、此処は四方世界。

本来なら狭間の地にて点在する祝福で休む事により、霊薬の中身が満たされる。

しかし、この世界に祝福または、それに準ずる何かが在るのかも疑わしい。

一体どうやって再現すると言うのか?

 

「あの二人ほどではないが、私も錬金術を会得しているのだぞ」

 

 稚拙ながら灰の剣士も、錬金術の知識と技術を有している身だ。

世界規模で観れば彼の水準は、精々『村の駆け出し錬金術士』レベルだが、それでもある程度の目処は立てていた。

 

「あの地で何度も霊薬には世話になったからな。既にソウルの流れは把握している」

 

 残念だが四方世界に祝福は存在しない。

しかし、全く手立てが無い訳でもない。

彼は雑嚢から小瓶を幾つか取り出し、卓の上に並べる。

 

「おや、聖水、とな?」

 

「そう。聖水、これを使う」

 

 卓の上には、地母神神殿にて購入した『聖水』が並べられていた。

意外そうな表情で聖水に視線を注ぐジークバルド。

 

「流石に『エスト瓶』とは何もかもが根本的に違うからな。水は絶対に外す事はできん」

 

「確か『エスト瓶』って『火』だったよな?」

 

「エスト瓶?火?何の事です?」

 

「俺が説明してやる」

 

 エスト瓶も、ある意味では特別な霊薬と言えなくはないだろう。

あまり詳しくはないが、オーレルもエスト瓶の中身が『火』である事は認知している。

しかし、エスト瓶とは『火』が液体化した物で『篝火』にて補充が効く代物だ。

仮に霊薬を篝火に翳した処で、補充は叶わないだろう。

そして霊薬の中身は、紛れもなく『水』である事が判明している。

狭間の地で何度も世話になり、その度に霊薬のソウルを感じ取っていたのだ。

その事に関しては確信を持っている。

火継ぎの時代には完全な無知でもある輝石の貴公子は、疑問符を浮かべるばかり。

後でオーベックが説明してくれるとの事だ。

 

「まぁ見ていてくれ」

 

 皆が見守る中、霊薬の聖杯瓶へと聖水を次々と注ぎ込む灰の剣士。

更に懐から、複数の小さな革袋を取り出す。

 

「狭間の地に関連した物を織り交ぜる」

 

 一つの革袋から取り出したのは緋色の塊で、その物体からは水滴が引っ切り無しに滴り落ちていた。

 

「緋湧きの結晶雫。これで回復効果が見込める」

 

 緋湧きの結晶雫から絶えず滴り落ちる水滴を、聖水で満たされた霊薬の聖杯瓶へと数滴たらす。

 

「そしてもう一つ、真珠色の泡雫」

 

 次の小袋から取り出したのは、泡のような膜に覆われた複数の真珠にも似た代物だった。

これも途切れることなく水滴が滴り続けている。

その水滴も霊薬瓶へと数滴たらし、細い棒で適度に掻き混ぜた。

 

「これで、霊薬の配合は完成…と言いたいのだが、多分これでは効果は薄いだろう。だが、都合のいい事に解決策が存在する」

 

 一応の霊薬の再現は成った。

しかし彼は懸念を浮かべ、完全には成り立っていない旨を告げる。

聖職者が祈りを捧げる事で水に聖性を宿した『聖水』を主軸に、狭間の地より持ち帰った結晶雫を調合する事で、取り敢えずの再現は成った霊薬。

だが、狭間の地での霊薬と比較すれば幾分効果は薄い事は、ソウルの流れで既に把握していた。

本来なら此処で妥協するなりし、使用に踏み切る処だが、彼は別の小瓶を取り出し卓の上に置く。

ガラスの小瓶には、透明な液体が満たされていた。

 

「これは、聖黄金樹で採取できた『朝露の雫』だ。最後にコレを混ぜる事で、完成に至る筈だ」

 

 彼が示したのは、夜間~早朝にかけて採取できる聖黄金樹の『朝露の雫』である。

元を正せば、聖黄金樹を通じて狭間の地へと降り立ったのだ。

まだ未知なる部分は多いが、聖黄金樹と狭間の地には何らかの関係性があると彼は踏んでいる。

そして聖黄金樹を通じて採取出来た朝露には、狭間の地のソウルが滲んでいた。

当然、特別な効果が備わっているのは疑いようがない。

未だ憶測の域は出ないが、聖黄金樹の朝露を加える事で、狭間の地と同等の霊薬が再現できるのではないか。

効果の程は実証の必要があるが、これも錬金術の知識と発想の賜物と言えよう。

 

「よし、一先ずは完成。効果は…自分で試すしかないな」

 

 聖黄金樹から採れた朝露を数滴混ぜ込み、霊薬の聖杯瓶は鈍くも淡い光を帯びていた。

これなら素人目に見ても、何らかの効果が備わった事は理解できるだろう。

 

『緋湧きの結晶雫』と『真珠色の泡雫』を配合した事による霊薬の効果は、狭間の地で実証済みだ。

 

しかし、四方世界での本来の効果は如何ほどか?

こればかりは実地で試すしかない。

彼は霊薬を一口含んだ後、ナイフを取り出し自身の掌を傷付けた。

 

「まぁた、そんな事してぇ…!」( ㅍ_ㅍ)

「私、血を見るの嫌いなんだけどぉ…!」(ーωー)

 

 そんな彼に声をかけたのは、ライザリン=シュタウトとエルメルリア=フリクセルの二人。

振り返れば、彼女たちはジト目で視線を向けて来た。

思いの外、早い段階で完成した様だ。

 

「そう言うな。これも必要な措置だ」

 

 霊薬の効果を確かめる為には、自身の身体で試さねば意味がない。

狭間の地で使い慣れた自身の身体で感じ取る事で、初めて効果の度合いが解るのだ。

流石に彼女達の身体を実験台には出来ない。

 

「よく見ると良い」

 

 彼は皆に掌を見せる。

 

「おぅ!?全然血が出てないねぇ?」

 

 先程ナイフで切り裂いた筈の掌は、紅い筋を浮かべただけで出血には至っていなかった。

その結果に、女部族は驚きの表情を見せる。

 

「真珠色の泡雫の効果だ。無事に発揮してくれたみたいだな」

 

 結晶雫の一つ、真珠色の泡雫――。

霊薬として配合する事で、敵からの攻撃を一度だけ大幅に遮断(カット)してくれる効果が有る。

たった一度だけだが、その防御効果は絶大で、尋常ならざる攻撃を受けたとて軽傷程度で済む。

一度且つ時間制限付きだが、使い所さえ見極めれば、格上の敵さえ相手取る事も不可能ではない。

他の結晶雫との組み合わせ次第で、戦局すらも左右させられるだろう。

 

「ではもう一度、フンッ…!」

 

 真珠色の泡雫の効果は確認出来た。

彼は再びナイフで自分の掌を切り付ける。

 

「あ、バカ…、今度は血が出たじゃない…!」

 

 再びナイフで切り裂かれた掌からは、血が滲み出ていた。

スイーパーが呆れ顔でハンカチーフを取り出し、彼の止血を試みようと歩み寄る。

 

「大丈夫だ。よく見ておいて欲しい」

 

 しかし彼から制止され、スイーパーは渋々と思い留まる。

彼の言う通り、掌の出血は既に止まっていた。

そして自分で血糊を拭き取れば斬り裂かれた傷口は目に見えて塞がり始め、一分後には完全に切る前の状態へと戻っていた。

 

遅効性の治療効果(リジェネ―ト)か」

「その通り。緋湧きの結晶雫の効果だ」

 

 オーレルの指摘通り、緋湧きの結晶雫には持続性の回復効果が備わっている。

これは時間経過と共に、傷が徐々に回復してくれる効果があった。

 

「よし。霊薬の再現は成功だな」

 

 狭間の地と同等の効果が発揮できた事を確信する、灰の剣士。

しかし四方世界には、狭間の地の様な祝福は存在しておらず篝火での補充も不可能。

霊薬の配合と補充は、拠点で行う必要がある。

更に消耗品も必須となり、環境如何によっては気軽に補充できるとは限らない。

だが欠点ばかりではなかった。

霊薬の聖杯瓶には、先程配合した霊薬が並々と満たされている状態だ。

これだけの分量が有れば、約3回分は使える見込みとなる。

狭間の地では1回使えば空になったが、この世界では3回使える。

配合に多少の手間とコストを要するが、かなり嬉しい誤算とも言えた。

 

「後は、え…と…小瓶小瓶……」

 

 灰の剣士は工房内を見回し、空きの小瓶を探し出す。

 

「ん…小瓶が要るの?ちょっと待ってて」

 

「済まんね」

 

 心情を察したルルアが、棚から二つの描き小瓶を持って来てくれた。

小瓶を受け取った彼は霊薬を移し替え、それをジークバルドと女部族へと渡す。

 

「限定的な効果だが、きっと役に立つ筈だ。有効活用して欲しい」

 

「これは有り難い」

「期待に応えないといけないねぇ」

 

 小瓶を受け取った二人は彼に礼を述べ、今夜の討伐任務に強い意気込みを見せた。

 

「本当は長期保存に適した魔法の小瓶を入手したかったのだが、これは普通の瓶だ。恐らく効果が有るのは、今から長くても一日が関の山だろう」

 

「ふむ。つまり此度の戦闘で使い切れと言う事だな」

 

 移し替えた霊薬の小瓶は、何の変哲もない唯のガラス瓶。

この状態では、幾ら霊薬と言えども徐々に効果は薄れ行き、精々一日で効果が霧散してしまう事を伝える。

つまり切り札として残しておくという選択肢は除外され、必然的に今夜の戦闘で使わねば霊薬の意義が喪失してしまうのだ。

 

「何とか、長期保存…理想で言えば半永久的に品質を保てる、道具袋や器の様な物が必要なんだがな…どうしたものか…?」

 

 何か使える物は無いものか?…と、工房内(アトリエ)を見回す灰の剣士。

 

「水臭いなぁ…、あたしが居るでしょ?遠慮なく頼りなさいよ」

 

「…良いのかライザ?何か頼りっ放しな気もしてな」

 

「失礼な事を言うようだけど、今の君じゃ手の付けようもないでしょ?あたしに任せなさいってば!あ、でも、貸し1だからね?」

 

 ライザの言う通り、今の灰の剣士の錬金術では何の解決策も見出せないのが実情だ。

残念だが彼は万能には程遠く、戦闘力以外は器用貧乏に近いと言わざるを得ない。

 

「確かに長期保存は必要だな。…この有様では、尚更…な」(; ^ ー^)

 

 苦笑いを浮かべながら、卓に視線を寄せるオーレル。

卓の上には、灰の剣士が持ち込んだ結晶雫が置かれていたのだが、こうしている間にも水滴が滴り落ち辺り一面は水浸しになっていた。

結晶雫を仕舞い込んでいた革袋も濡れそぼり、もはや使い物にはならないだろう。

霊薬や結晶雫のみならず『朝露の雫』も水である以上、何時かは淀み腐敗する可能性は避けられない。

強い聖性を秘めた代物だ。

然う然う劣化や腐敗を招く事はないが、外気に晒し続けるのは避けたいのが本音である。

長期保存を実現する為には、恐らく特殊な空間を備え外界からの干渉を絶った器の様な物を生み出さねばならないだろう。

かなり張り切っているライザだが、彼女一人でどうにかなる案件でもなさそうだ。

実現の目処が立つまで、即席の保存方法を確立する必要に迫られる。

 

「適度の木箱に詰め込み、ソレを凍結魔法で凍らせ、地下室に安置するのが妥当だな」

 

 適当な大きさの木箱を見付けた灰の剣士は、結晶雫や聖黄金樹の朝露などの貴重品(密かに持ち込んでいた竜の心臓も含め)を仕舞い込む。

 

「済まんが、地下室の鍵を開けてくれ」

「はいは~い!」

 

 ルルアに地下室を空けて貰い、木箱を置いた彼は『瞬間凍結』の魔術を用い、木箱全体を凍らせた。

いわば即席の冷蔵庫を形成したのである。

一時凌ぎの対応策だが、外気に晒した常温よりは遥かに保存が利く筈だ。

再び地下室を出た彼は扉に鍵をかけ、施錠状態を再確認する。

 

「あ、そうだ。灰君、まだ『雷壺』って持ってたよね?」

 

「…?ああ、有る。急にどうしたのだ?」

 

「良かったらさ…譲って貰えないかなぁって…ダメ?」

 

「構わぬ。しかし、何に使う積りか?」

 

 地下室から出るなり、ライザから雷壺を所望されてしまった。

雷壺はオーベックから譲渡された物だが、結局ダークゴブリン戦で使う機会に恵まれず、今も健在であった。

錬金術の素材にでもする算段だろうか?

 

「ライザに託しても構わぬか、オーベック?」

 

 しかし貰い物とは言え、創り主のオーベックが此処に居る状態だ。

灰の剣士自身は、明け渡す事に何ら躊躇いもないのだが、一応オーベックの意見を聞く事にした。

 

「気を遣い過ぎだ。俺の事は気にしなくていい。寧ろ嬢ちゃんが、どの様な使い方をするのか興味が有るな」

 

 オーベック自身は何ら気にもしておらず、逆にライザの使用目的を気にする素振りさえ見せた。

 

「そういう事なら、受け取ってくれ」

 

「えヘ、ありがと♪」

 

 雷壺を受け取ったライザは上機嫌な表情で、腰のポーチから小さな水晶らしき物体を取り出す。

 

「…それは?」

 

 初めて目にする物体に思わず尋ねる灰の剣士。

 

「フッフッフ~ん!これはコア・クリスタルという、古代の錬金秘具だよ」

 

 待ってました!と言わんばかりにライザは、豊満な胸を張りながら得意気に答えた。

 

端的に言えば、コア・クリスタルに道具を封入し武器に組み込む事で、道具を失わずに効果だけを発現させる事が可能な代物だ。

つまり今受け取った雷壺をコア・クリスタルへと封入し、それを彼女の杖へと組み込む。

そして戦闘中に振るえば、雷壺を失う事なく雷撃だけを発揮させる事が出来る仕組みだ。

 

「ほぅ…、ソイツは凄い魔道具じゃないか!?」

 

 オーベックは感嘆の声を上げ、他のメンバーも驚きの喚声を上げた。

 

「フフ、私たちは傍で見てたから、もう知ってるんだけどね。やっぱり驚くわよね、誰でも」

 

 エーファたちはライザの傍でダークゴブリン戦を乗り切っていた為、コア・クリスタルの事を知っていた。

 

「あの時オーベックさんには、一杯小道具やレシピ貰っちゃったし、お礼にあげます!」

 

 水の都に出発する時、オーベックから色々な小道具類を貰ったライザ。

オーベック自身は持て余していた道具類で、本音では処理に困っていた。

そこへライザが引き取ってくれた訳だから、彼にとってはそれだけで充分だった。

ライザ自身も貰いっ放しと言う事に些かの後ろめたさを感じていた様で、礼代わりにコア・クリスタルの一つをオーベックに渡す。

(本編前夜編 第73.5話参照)

 

「くれるの有り難いが、かなりの希少品ではないのか?」

 

 道具を消費せず効果だけを発現させるという、他の冒険者が見れば争ってでも手に入れたくなるほどの魔道具だ。

場合によっては、国宝にも匹敵する可能性も秘めている。

当然、オーベックは受け取る事に多少の躊躇いを覚えた。

 

「そうでもないですよ。確かに古代の錬金秘具ですけど、世界各地で意外と見付かるみたいです」

 

「そうなのか?」

「う~ん、少なくとも狭間の地ではお目に掛かれませんでしたね」

 

 意外にもライザの故郷では複数個の発見が叶い、それなりの数が今も世界各地で眠っているらしい。

その旨を聞き、オーベックと輝石の貴公子も意外そうな表情を浮かべた。

因みにルルアも、お近付きの印と称しライザから一つ受け取っている。

 

「そういう事なら有り難く受け取ろう。…ハハハ、新しい研究対象が手に入ったぜ」

 

「どう致しまして♪」

――オーベックさん、何処となくアンベルさんに似ているなぁ。研修者気質なところとか。今頃アンベルさんとリラさん、どうしてるかなぁ…。

 

嘗ての恩師であるアンベルを、今のオーベックに重ねるライザ。

故郷(クーケン島)での冒険の後、アンベルはリラと共に再び旅に出た。

二人の行方に、ライザは想いを馳せる。

 

「ゴメンねぇ灰君。ホントは君にもお礼したかったんだけど、別の埋め合わせするからそれで許して」

 

 手持ちのコア・クリスタルは、もう自分用しか残っていない。

雷壺を渡してくれた灰の剣士には、何の俺も出来ない事にライザは申し訳なさげに謝った。

 

「気にしてはいない…と言う所だが、そうだな…これでさっきの()()は返したという事で良いな?」

 

 長期保存の器をライザに解決して貰う件で、彼女から”貸し1”と告げられてしまった。

しかし、彼女の願いで雷壺を渡せたのなら、これを機に貸し借り無しという事にしても良いだろう。

 

「んもぅ、ちゃっかりしてるなぁ…そういう所は…!」( ̄ω ̄;)

「いや、それほどでも」(ーᴗー)

 

思わぬ形でチャラにされたライザは少々膨れっ面を浮かべ、灰の剣士も静かな笑みで言葉を返す。

 

「「「「「ハハハハ…!」」」」」

 

そんな二人の様子に、工房内(アトリエ)には皆の笑い声が溢れた。

 

これで一通りの準備は整った。

 

「ふわぁ~あ…、なんか急に眠くなってきちゃったね~…」

 

 未だ午前中だが、ライザは欠伸しながら大きく背筋を伸ばす。

実は彼女たちは、昨夜の騒動で夜を徹していた。

 

「夜まで、まだまだ時間がある。今の内に寝ておいた方が良い。ジークバルドも…!」

 

 重戦士や槍使いが軒並み敗北し、彼等の救援で就寝どころではなかった。

かなり事件性の高い案件だった為、ジークバルドたちは感覚が麻痺してしまっていた。

 

「うむ。一段落したと思ったら、急に睡魔が襲ってきたな。済まんが私は一足先に就寝させて貰う」

「それじゃあ、あたし達も宿に戻ろっか。今夜現地でね、遅れちゃ駄目だよ」

 

 灰の剣士の勧めで、ジークバルドやライザ一行は自分の宿へと戻る事となり、工房内(アトリエ)は一時解散となった。

 

「さて、私も戻らせて貰うわ。もちろん今夜は私も参加するけど、あまり力にはなれないと思うわ」

 

「そういう事なら、魔法覚えてみる?修得難度の低いものなら教えてあげられるわよ?」

 

 そしてゴブリンスイーパーも退出する事になるのだが、自身の実力不足を憂う素振りを見せる。

だがそこで、彼女の元メンバーでもある呪文使いの女が真言魔法の習得を提案してきた。

決して高位の魔法使いではないのだが、基本的な魔法を彼女は幾つか修得している。

スイーパーは戦士職だが、魔法の素養はそこそこに備わっていた。

多少の期間は必要となるが、基本的な魔法を覚えれば戦術や行動に幅を持たせる事が期待できる。

冒険者を続けていくなら、修得するに越した事はない。

 

「いいの?そういう事ならお願いできる?」

「ええ。この件が片付いた後、予定を決めておきましょうか」

 

 魔法を覚える手立てが出来たスイーパーは、呪文使いの案を受け入れた。

その後スイーパーも小屋を去り、残ったのは灰の剣士を含めたオーベック(呪文使いの女 含む)、輝石の貴公子だけとなる。

 

「さて少年。四方世界の識字を学ぶついでに、狭間の地についての話を聞かせて貰おうじゃないか」

 

「ええ、願ってもない事です。後でオーベックさんの事も聞かせて貰いますよ」

 

 人が出払った頃合いを見計らい、オーベックは輝石の貴公子と向き合う。

狭間の地…特に『魔術学院レアルカリア』が気になるのだろう。

四方世界の読み書きを教えるという条件で、狭間の地についての知識を深めようと言う魂胆だ。

対する輝石の貴公子も特に嫌な顔を浮かべる事もなく、快くオーベックの要求を受け入れた。

 

――案外早く溶け込んでくれた様だな。要領の良い彼だ、きっとこれからも上手くやるだろうさ。

 

そんなやり取りを遠間から見ていた灰の剣士。

彼は彼で錬金釜へと向き合い、ある物を調合する為に準備に取り掛かった。

 

「鳥羽の狩人から受け取ったレシピ、先ずは自分で試してみるか…」

 

 数日前、聖黄金樹の麓で邂逅した鳥羽の狩人。

紆余曲折を得て彼女から受け取った、『獣除けの香』についてのレシピと現物を取り出す。。

 

――彼女は言っていたな。

 

更に記憶を掘り返し、鳥羽の狩人の言葉を思い返す。

 

   ―― 小鬼(ゴブリン)も等しく『獣』である ――

(本編前夜編 第101話参照)

 

もし彼女の言葉が真実なら、獣除けの香が小鬼対策に通用するのではないか?

そうだとするなら、小鬼の脅威を軽減させる手段となり得るかも知れない。

現物を造り出し効果を吟味しない事には断定はできないが、試してみる価値はある。

些かの期待を込めた灰の剣士は、秘かに行動を起こす事にした。

 

……

 

(推奨BGM ゴブリンスレイヤー ――  討伐作戦 )

 

日は落ち、夜の帳が訪れる。

 

「此処に鈴玉狩りが?」

 

 民家の立ち並ぶ、やや狭い路地に冒険者たちは集まっていた。

地面に手を添えた灰の剣士は、未だ不穏なソウルが漂っている事に表情を強張らせる。

確かに漂うソウルは、狭間の地の波長に似ていた。

 

「そうだ。此処に件の闇霊が出現した。若干狭いがな」

 

 ジークバルドの証言によれば、不穏なソウル漂うこの場にて『鈴玉狩り』が現れた。

しかし彼の言う通り、戦うには少々狭く民家も立ち並んでいる。

鈴玉狩りは、剣を遠隔操作する術を有している。

此処で戦うには都合が悪く、民家に被害が及ぶのは言うまでもない。

 

「中央大通りまで誘い込んだ方が良い。其処でなら幾らか戦い易くなるだろう」

 

「俺も賛成だ。ジークさん、アンタは重装騎士。場の開けた戦域こそ真価を発揮する」

 

 オーレルの案にオーベックも賛同する。

オーベックの言う通り、ジークバルドは大剣と重鎧で武装した重装騎士だ。

閉所では彼の動きは制限されてしまう。

何とか鈴玉狩りを広い大通りまで誘い込み、其処で結界を張る必要があった。

時間帯は夜間と言う事もあり、人々の往来は疎らだが全く居ない訳でもない。

予めギルドには作戦を通達しており、依頼を受けた別の冒険者一党が衛兵たちを共同で通行制限を掛けていた。

結界を張った上で距離さえ稼げれば、一般人には先ず被害は及ばないだろう。

 

「ジークバルドと貴女(女部族)は、大通りで待機しておいてくれ。誘引は私たちでやる!」

 

「了解だ。しかしくれぐれも抜かるなよ?貴奴は強敵だ」

 

 主戦力となるジークバルドと女部族は、大通りで待機して貰う事になる。

鈴玉狩りを誘導するのは、灰の剣士、オーレル、スイーパーが担当する事になった。

 

「灰君たちも気を付けてよ?アイツ、メチャクチャ強いんだから…!」

 

 ライザやルルア達もジークバルドに追従し、大通りまで向かった。

 

「そうか、アンタは狭間の地とやらで一度撃退したんだったな」

「ああ。しかし二刀流ではなかったがな」

 

「別個体の可能性もあるわね?」

 

 オーレルの言葉通り、灰の剣士は狭間の地(リムグレイブ内)で遭遇し、撃退に成功していた。

だがスイーパーの懸念通り、別個体もしくは別次元の鈴玉狩りという可能性も否定し切れない。

言い様の無い不安に駆られるが、遭遇すれば分かる事だ。

 

「貴公もそろそろ行ってくれ。もう直ぐ出現する筈だ」

 

「ええ…。無茶しないでね…!」

 

 そして以外な事に、ギルド職員である監督官も同行していたのである。

普段なら暴挙とも言える彼女の行動――。

しかし今回は街中での事件と言う事もあり、間接的にギルドも事件解明に乗り出していた。

そして現場での記録係を彼女自らが立候補し、此処に馳せ参じていたのである。

ギルド職員自らの目で現場を視察すると言う事は原則上あり得ないのだが、決して前例が無い訳ではない。

(過去にゴブリンスレイヤーの査察と言う名目で、王都ギルドから派遣された職員が、彼に同行していた実例もあった)

灰の剣士に促された監督官は、彼等(正確には灰の剣士)を気に掛けながらその場を後にした。

 

今この路地には、灰の剣士、オーレル、スイーパーが待機し、大通りには残りのメンバーが待ち構えている。

これで準備は整った。

現場のソウルの残り具合からして、確実に今夜も出現する。

幾許かの時間が経過し、辺りに霧が垂れ込み始めた。

 

「この霧…昨日と同じだ」

「嫌な霧、鈴玉狩りにはお似合いね」

 

 先日の襲撃を経験しているオーレルとスイーパーは、全く同じ状況だと語る。

二人共、武器を構え普段以上に周囲を警戒していた。

霧が覆う事で、視界も自然と悪化する。

更に夜と言う暗闇が、否が応でも恐怖心や不安感を煽るのだから、二人の反応はごく自然と言えるだろう。

唯一灰の剣士だけは、無言で一点を見据える。

 

――本当に狭間の地と同じ感覚だ。まるで今も狭間の地に居るかのように錯覚さえ覚える。

 

「――来るぞッ!!」

 

 前触れもなく灰の剣士が叫んだ。

 

「「――ッ!!」」

 

 彼の声に二人も反応し身を強張らせる。

一定の距離を空けつつも、二人は自然と灰の剣士へと寄り添った。

二人の態度から、先日の鈴玉狩りは相当な強敵であった事が窺える。

武器を握る手は必要以上に力んでしまい、足下の震えが止まらなかった。

彼の声を皮切りに、一点から赤黒い鈍い光が灯りゆっくりと人影が姿を現す。

 

「――こ…こいつだ…!」

「――ハァ…ハァ…ハッ…!」

 

「…本当だ」

 

 鉄茨を巻き付けた全身甲冑に大盾。

そして手には大剣、腰には直剣を差している。

異常に緊張するオーレルとスイーパーを余所に、灰の剣士も静かながら驚きの表情を浮かべていた。

 

 

 

 

   ―― 闇霊・鈴玉狩りに侵入されました ――

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

コア・クリスタル

 

古代より造り出された錬金術の古式秘具。

道具の力を封じ込め、効果そのものを発動させる。

その際、道具は失われず手元に残る。

 

ただし、クリスタルに内包された専用の力(エネルギーの様なもの)を消費する為、無限に使用できる訳でもない。

見方によっては秘宝にも値するが、意外にも多く埋蔵されているらしい。

運が良ければ、駆け出しの冒険者でも手に入れる事が出来るだろう。

尤も、使い方を知らなければ唯の観賞用道具にしかならないのだが。

 

 

 

 

 

 




鈴玉狩り(エレメール)のついては諸説あるようですが、概ねこの様な感じとなりました。
幾らかは私個人の脚色も加えていますので、その辺りはご了承をば。

接ぎ木の貴公子が冒険者と成り、輝石の貴公子となりました。
源流の貴公子でも良かったかな?…と今更ながらに思う節もあります。
彼の役どころは専ら、スペルキャスターが妥当でしょうか。
灰の剣士は良くも悪くも器用貧乏なので、ダクソやエルデの呪文も初歩しか使えないので…w。

如何だったでしょうか?
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。  
デハマタ。( ゚∀゚)/
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