ゴブリンスレイヤー ―灰の剣士―   作:カズヨシ0509

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 ドモドモ、性懲りも無く無謀な挑戦で投稿します。

今回は、ロスリックの高壁に挑んだ、冒険者一党の物語です。

ゴブスレさんと灰の出番は無しです。

明らかに文章力不足なので、低クオリティですが、良ければ目を通していって下さい。


第12話―ある青玉等級一党のお話―

 

 

 火の無い灰が冒険者として登録する前日のお話。

 

得体の知れない遺跡、ロスリックの高壁の調査に乗り出す、青玉等級の冒険者一党。

 

それは彼らの思い描いていた妄想を容赦無く叩き潰す。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 日の光も射さず重く淀んだ空気が、三人の冒険者の肺に吸い込まれては吐き出される。

 

暗く冷たく、外部の音など全く届かない地下室。

 

斥侯が扉を解錠し、古びたカビ臭い昇降機を動かし、この地下室へ到着したのだ。

 

 

 

…それが彼らの命運尽きるとも知らず。

 

 

 

地下室を慎重に進み、松明で辺りを照らすと夥(おびただ)しい数の朽ちた甲冑と剣が無造作に転がっていた。

 

否、もしかしたら甲冑の中身は、朽ち果てた騎士の死体だろうか。

 

重苦しく暗い空気は、三人の心を情け容赦なく攻め立てる。

 

先頭の男は、額に汗を浮かべながら松明を掲げ、注意深く探索して行く。

 

「くそ!宝物庫だと思ったのに何だよコリャ?!」

 

 頭部以外を鉄鎧で覆い、中型の金属盾と上質のロングソードで装備を固めた戦士職の若い男だ。

 

 

 

「一通りこの地下室を探索したら街へ引き上げようぜ?それなりに成果はあった筈だ」

 

 最後尾の斥侯も緊張した面持ちで戦闘の男戦士に語り掛けた。

 

 

 

「そうですよ!あの鎧騎士を食い止めてる仲間の大盾戦士も気になります!」

 

 男戦士と男斥侯に挟まれる形で中央に居る、地母神の男神官も同調する。

 

皆、若い青玉等級の一党だった。

 

戦士、大盾戦士、斥侯、神官の四人で構成された一党だった。

 

「ああ!分かってるさ。流石にそろそろ潮時だと思うぜ!この地下室で最後にしようや」

 

 先頭の男戦士も、この地下室…。

 

否、この遺跡の探索は今までの冒険の中で、間違いなく身の丈を超える極めて危険な冒険だった。

 

 

 

大した、お宝は出ない。

 

ゾンビの様な兵士がこれでもか、と沸いてくる。

 

おまけに塔の上に、見た事の無い超巨大なドラゴンが、規格外のブレスを吐き掛けて来る。

 

やっとの事で突破したかと思えば、全身金属鎧で完全武装した騎士が、問答無用で襲って来るのである。

 

 

 

正直生きた心地がしなかった。

 

魔界にでも足を踏み入れたか?

 

そう錯覚するほどに。

 

 

 

自分達は、西の辺境ギルドに所属する、青玉等級の一党だ。

 

やや戦士寄りだが、全員が幾つかの魔法や奇跡を行使出来、実力、実績、運も兼ね備えていた。

 

 

 

辺境『最有望』呼ばれていたのである。

 

 

 

「全くツイてねぇよな。降格処分を取り消す代わりに、この遺跡の探索結果次第では、翠玉等級に昇進させて貰えるって言うから、引き受けたのによ!」

 

 男戦士が愚痴る。

 

「ハハハッ、ちょいと俺達調子に乗り過ぎたかな?」

 

 最後尾の男斥侯が苦笑いを浮かべ、同調した。

 

「全く調子に乗り過ぎですよ!もう少し自重して下さい!」

 

 中央の男神官が咎める様に諭そうとする。

 

「へぇへぇ、全く真面目だねぇ神官は」

 

 男戦士が気の抜けた返事を返す。

 

 

 

この一党、現時点では青玉等級だが実際の実力は、銅等級にも比肩し得る一党だった。

 

……実力だけなら。

 

辺境最有望、そう呼ばれているが、もう一つ呼称されている代名詞が存在する。

 

 

 

辺境『最好色』。

 

 

 

男神官以外、非常に女癖が悪い一党なのだ。

 

全員、若さと整った端正な美貌を持ち、その魅力を自覚している為、それらを武器に数々の異性と関係を持つのである。

 

街の住民は言うに及ばず、現地の村娘にも当然の様に手を出し、男神官の立場を利用し地母神神殿の女にも手を出そうとしたのだから性質が悪い。

 

唯一真面目な男神官は責任を感じ、自ら神殿を出たのである。

 

その様な案件が相次ぎギルドに苦情が殺到、ギルドから処分を言い渡される事になった。

 

 

 

白磁への降格。

 

 

 

本来なら、更なる懲罰を課す処だが、辺境最有望の実力は捨て難い。

 

数年前、突如地震と共に現れた、正体不明の遺跡群の調査――。

 

古文献を調べてみると古の古城、ロスリックに酷似している為、ロスリックの遺跡 と呼ばれる様になった。

 

 

 

遺跡の調査結果によっては、降格処分取り消しどころか、昇進も約束する。

 

それらを条件に、彼ら一党に遺跡調査を要請したのである。

 

既に別の辺境ギルドも遺跡の調査に動き出していた為、西の辺境ギルドも遅れを取る訳にはいかない。

 

だからこそ、ある程度の条件を提示し、彼ら一党に依頼を廻したのである。

 

案の定、彼等はその依頼に飛び付き、こうして遺跡の調査に赴いているのだ。

 

 

 

「良いか、お前ら。この地下室を探索したら即撤収。仲間(大盾戦士)と合流し、さっさとずらがるぞ!」

 

 男戦士の指示に、二人は無言で頷く。

 

 

 

 

 

実際この一党は運にも恵まれていた。

 

この遺跡の調査には、他の辺境ギルド所属の冒険者達も探索していたのだ。

 

彼らとの共闘を提案した男神官だが、頭目の男戦士はこれを拒否。

 

他の冒険者一党が、敵と乱戦している隙を利用し、可能な限り戦闘を回避し、斥侯に地図作成や敵配置等を記録させた。

 

このやり方に男神官は反発したが、わざわざ危険を犯して彼らを助ける義理も義務も無い、男戦士はこの作戦で探索を続行する事にした。

 

流石に一党を率いる頭目なだけあり、ある意味冷静で状況判断に優れ、上手くこの場を利用した。

 

 

 

人として観た場合、賞賛されるかは別だが。

 

 

 

まだ碌な情報も入手してない状態で、この遺跡に侵入した。

 

最初に行き詰ったのは、塔に続く通路に差し掛かった所だった。

 

上段と下段に分かれ、両方ともアンデッドの兵士が武器を携え待ち構えていた。

 

流石に戦闘は避けられないと、覚悟を決めたその矢先。

 

突如巨大な灰色のドラゴンが飛来し、塔の上に陣取った。

 

その直後耳を劈く様な咆哮を上げ、炎のブレスを吐き、通路上の敵を一掃してしまったのだ。

 

一党は喜び、通路を渡ろうとするが。

 

当然一党にも例外無く、全てを焼き尽くさんばかりのブレスが吐き掛けられた。

 

あたり一面が、規格外の熱風となって焼き尽くす。

 

ブレスに触れなくとも、全てを蒸発させんばかりの熱が一党を襲う。

 

とても近寄れるものではない。

 

どうしたものか?

 

完全に足止めを余儀なくされ、一党は行き詰る事となった。

 

 

 

だが、この一党は本当にツイていた。

 

後方から別の冒険者一党が、駆けつけて来たのだ。

 

南の辺境ギルドから派遣されて来た、5人の重戦士で構成された鋼鉄等級の一党だった。

 

都合の良い事に彼等は、この遺跡の巨大ドラゴンを討伐するべく、馳せ参じたのだ。

 

この一党は皆血気盛んで、目前のドラゴンを見るや否や皆突撃して行った。

 

『ようし!これで俺達も、ドラゴンスレイヤーだ!!』

 

 

 

 チャンスとばかりに、青玉等級の一党は一気に通路を駆け抜け、塔を目指した。

 

これといった被害も出さず、無傷のまま順調に事は運んで行く。

 

男戦士は、ほくそ笑んだ。

 

このまま探索を終わらせれば、昇進は間違い無いだろう。

 

更に俺達の株は上がり、名声も富も手に入りやすくなる。

 

 

 

――そろそろ別の辺境街に赴いて、女共に種を撒くのも悪くないな。

 

――いや、自分の家と女を買い、ハレームを築くのもアリじゃね?

 

 

 

そんな邪な欲に胸を膨らませて、階段を上がり塔の入り口に差し掛かる。

 

塔の入り口付近に、見事な金属鎧に身を包んだ鎧騎士が待ち構えていた。

 

騎士の佇まいから、あからさまに敵意を剥き出しにして一党に襲い掛かる。

 

「!!――全員散開しろ!」

 

 男戦士の指示で、辛うじて騎士の突き出して来た剣をかわす。

 

騎士と一党の睨み合いが続く中、大盾の戦士が騎士の前に立ちはだかる。

 

「俺が引き受けるぜぇ!俺自身も手柄を立てねぇとな!」

 

 大盾戦士が囮になり、残り三人を先へ行かす。

 

「来いよ!ゾンビ騎士、マッハでバラバラにしてやんよ!」

 

 不適に笑い大盾を翳し、手に持ったバトルアクスを構えた。

 

全身重鎧に加え、大盾装備。

 

前方の守りは完璧だ。

 

負ける筈が無い。

 

大盾戦士は、自信満々で目の前の騎士に挑む。

 

 

 

ロスリックの騎士に。

 

 

 

地下室の奥に黒い何かが視界に入った。

 

三人は立ち止まり、警戒を強める。

 

「あれは、人影……?」

 

 男神官が目を凝らし、黒い人影らしき物体を注視する。

 

「おい…、ちょっとヤバくないか?あれ……」

 

 斥侯も武器を構える。

 

「…だな。お友達なりましょう。…なんて感じはしねぇ…」

 

 戦闘の男戦士も盾と剣を構え、臨戦態勢を取る。

 

その黒い人影は、ゆっくりと緩慢な動作で、一党に振り向いた。

 

全身黒い鎧を纏っているが、背中から朽ちた枝の様な突起物が複数生えている。

 

暗闇に照らされた松明の光を浴びその顔は、恐ろしいまでの形相で此方に迫り来る、亡者そのものだった。

 

「やっぱりな、此処は地下室じゃなく、地下牢の類か!」

 

 男戦士が叫び、戦闘態勢に入る。

 

「俺が奴の隙を作る。斥侯は回り込め!神官は奇跡の援護、聖撃(ホーリースマイト)を頼む」

 

「「了解!」」

 

 二人も了承し、黒い亡者の騎士の隙を覗う。

 

ゆっくり亡者の騎士が近づいて来たかと思えば、突如男戦士に疾走し、突進して来た。

 

「くそ!全身鎧装備の癖に、速ぇ…!」

 

 男戦士は歯軋りしながら、盾を前面に押し出し敵の攻撃に備える。

 

亡者騎士が、間合いに入ると同時に、黒い肉厚の剣を突き出す。

 

「――これしき!」

 

 男戦士が、盾で剣の突きを受け流す。

 

だがその一撃は速さと重さを兼ね備えた、尋常ならざる一撃だった。

 

たった一撃防いだだけで鉄の金属盾の表層が、剥がれ飛んだのだ。

 

更にその衝撃で男戦士の体制が大きく揺らぐ。

 

敵は、間髪入れず黒い剣を振り被り、上段から振り下ろした。

 

――ひぃっ……!

 

男戦士は恐怖に顔を歪めながらも、破損した盾で必死に防御に専念する。

 

黒い剣が盾に打ち込まれた。

 

常識外れの膂力で繰り出された剣圧は、鉄の盾を両断し、小手に食い込んだ状態で辛うじて止まった。

 

しかしその桁外れの剣圧は、男戦士の片腕を骨折させるには、十分な威力だった。

 

「ぐあぁぁっ…」

 

 骨折した腕がダラリと下がる。

 

もう使い物にはならないだろう。

 

「おいっ!援護はまだか?」

 

 男戦士は、呻き声交じりに叫ぶ。

 

「――お待たせしました!」

 

 男神官が、錫杖を翳し詠唱する。

 

「裁きの司(つかさ)、つるぎの君、天秤の者よ、諸力を示し候(さぶら)え!」

 

 

 

 聖撃(ホーリスマイト)!!

 

 

 

聖なる裁きの、雷光が敵目掛けて炸裂する。

 

青白い電撃が亡者騎士の鎧ごと肉体を焼き、その動きを鈍らせた。

 

本来地母神に所属する神官だが、他系統の奇跡も行使出来る程の極めて希有な逸材だ。

 

「よぉし!もらったぁ!!」

 

 その隙を突いた斥侯が、短剣を敵の後頭部目掛けて繰り出す。

 

その短剣は、相手の頭部を貫いた。

 

 

 

――やったか?

 

 

 

男戦士、斥侯、神官、誰もが手応えを確信した。

 

 

 

だが亡者騎士の手が、斥侯の手首を握り潰さんばかりの握力で掴み上げた。

 

「…ぐぎゃぁぁぁ……!」

 

 斥侯が痛みに悶える。

 

そして亡者騎士が斥侯を振り回し、壁に叩き付けた。

 

頭部から直に激突し、斥侯は意識を混濁させる。

 

後頭部に刺さったままの短剣を力任せに抜き取り、短剣を斥侯の頭に投げ付けた。

 

その短剣は、斥侯の頭に突き刺さり、呆気なく斥侯の一生に終止符を打った。

 

 

 

あまりの一瞬の出来事に唖然とする、戦士と神官。

 

生き残る方法は?

 

戦士の頭にある考えがよぎる。

 

 

 

――幸い、俺の位置は昇降機に最も近い、こいつの注意を神官に向けさせその隙に俺は……。

 

 

 

男戦士の顔は、醜悪に口を吊り上げさせた。

 

「神官!聖光(ホーリーライト)だ!!もう一度コイツの隙を作るぜ!今度は俺が仕留めるからよ!」

 

 神官に向かって叫ぶ男戦士。

 

男神官は、無言で頷き詠唱を始める。

 

「いと慈悲深き、地母神よ、闇に迷える我らに聖なる光を…」

 

 神官の詠唱に反応し、此方に向く亡者騎士。

 

 

 

――しめた!奴が神官の方に向きやがった。

 

 

 

折れた腕の痛みも気にせず、走り出す準備を始める戦士。

 

ゆっくりゆっくり、徐々にすり足で昇降機へとにじり寄る。

 

「聖光(ホーリーライト)!!」

 

 眩い慈悲の光が、部屋全体を覆い尽くす。

 

その神の光が亡者騎士の視界を奪い、亡者騎士は再び動きを止めた。

 

――よし!やっぱ俺はツいてるぜ!

 

 男戦士は確信した。

 

このままアイツを囮にして逃げ延びてやる。

 

仲間なんて後から幾らでも誘えば良い。

 

今度は、大人しい引っ込み思案な女の子が良いな。

 

今後の身の振り方に胸を躍らせたその時。

 

 

 

カラン、カラカラ。

 

コロン、コロン。

 

コロコロ、カタ。

 

 

 

一瞬意識が混濁し、頭の中で聞き覚えの有る音が鳴り響く。

 

――やった!この音は成功する前触れだ!

 

何度もこの音に助けられた。

 

この音が鳴る度に、幾度の危険な状況も切り抜けてきたのだ。

 

戦士は、成功を確信し走り出した。

 

腕の負傷も気に留めず、全力疾走で……。

 

 

 

 

 

亡者騎士に飛び掛った。

 

 

 

 

 

――……え?

 

 

 

男戦士は、分からなかった。

 

――あれ?俺は何で……?

 

男戦士は困惑した。

 

気が付けば昇降機にではなく、その足は亡者騎士に向かい疾走し、あまつさえ敵を取り押さえんと全力を向けていたのだから。

 

――何でこんな事やってんだよ?

 

――アイツを囮にする筈だろ?

 

そして口から出た言の葉は。

 

「俺が囮になる!斥侯のメモを持って逃げろ!絶対に振り返るな、いいな!!」

 

 自分でも信じられなかった。

 

自分の心と体がまるで別々に分離したかのようだった。

 

――畜生め!俺は何やってんだよ?!…えぇいクソっ、ままよ!!

 

戦士は、困惑しながらも亡者騎士を取り押さえんと、揉み合いになる。

 

折れた腕も迷い無く使い、激痛も気にする事無く全身全霊で押さえつけた。

 

「早くしろぉ!俺は長くもたねぇ!!」

 

 神官に向かって、速くしろと促す。

 

 

 

…!!

 

神官は迷いを断ち切り、物言わぬ死体となった斥侯のメモを抜き取り、昇降機へ向かった。

 

「貴方はどうするんだ?」

 

 未だ揉み合い最中の戦士へ叫ぶ。

 

「いいから行け!必ず役割を全うしろ!俺達が生きた証を残してくれぇ!」

 

 そう叫んだ瞬間、男戦士が振り解かれ、亡者騎士の手がボンヤリと鈍い光を纏う。

 

そして戦士の顔面を掴み、彼が断末魔の絶叫上げた。

 

「ぎぃやぁあaaa!ヤメェロォォ……?!」

 

 掴み上げられた男戦士が、激しい痙攣を起こしながら暴れまわるが、程無くして呻き声一つ上がる事は無くなった。

 

彼が動かなくなるのと同時に昇降機が上へと動き出した。

 

戦士の最後を一部始終見ていた神官は、声も発する事無くガクガクと震えながら昇降機の上で立ち尽くしていた。

 

上に着いた昇降機を降り、ただ一人残された神官は周囲を警戒する。

 

幸いハルバードで武装した亡者の兵士は、犠牲となった男戦士よって倒されていた為、脅威となる事は無かった。

 

相変わらず薄暗く、ランタンか松明が無ければ、視界を確保し辛い。

 

上に戻るべく設置された梯子に手を掛けた瞬間、昇降機が動き出した。

 

背筋がゾワっとした。

 

 

 

男戦士が乗っている可能性は…まず無い。

 

 

 

最期をこの目で見てしまったのだから。

 

間違い無い!あの黒い亡者騎士だろう。

 

神官は一心不乱に梯子を上り切り、出口へと急ぐ。

 

 

 

そう言えば出口付近には、大盾戦士が鎧騎士と戦っていた筈だ。

 

彼は一党でも最強の守りと戦闘力を誇る、そう簡単に倒される事は無い筈。

 

上手く彼と合流し、撤退すれば何とか。

 

 

 

神官の心が僅かに希望が宿る。

 

大盾戦士の生存を信じて疑わず、暗い塔を出た男神官の目にした光景は。

 

 

 

立ったまま、全身に武器を突き立てられ、微動だにしない大盾戦士の姿だった。

 

大盾戦士の周りには鎧騎士ことロスリックの騎士だけではなく、どこから沸いたのか複数の亡者兵士が居たのである。

 

恐らく全方位から、滅多刺しにされたのだろう。

 

突き立てられた刃からは、赤い鮮血流れ出て地面を赤く染め上げる。

 

 

 

――もう助からない。

 

 

 

ロスリックの騎士を含めた亡者達が一斉に神官へ向く。

 

「――ひぃ…!」

 

 神官は恐怖に凍りついた。

 

 

 

「に…、逃げ…ろ…」

 

 僅かに大盾戦士が動き出し、神官に向かって必死に言葉を搾り出した。

 

「おま、エ…だけでも…」

 

 

 

 まだ手放していないバトルアクスを緩慢に振り上げ、ゆっくりと踏み出そうとする大盾戦士。

 

 

 

「――にげろぉぉ!!」

 

「――うわぁぁぁ!!」

 

 大盾戦士と男神官が走り出すのは、同時だった。

 

最後の力を振り絞り大盾戦士は、ロスリックの騎士目掛けて斧を繰り出した。

 

 

 

カラン、コロン。

 

骰子が投げられた。

 

 

 

クリティカル!

 

 

 

……ではないものの、それに近い数値を叩き出す。

 

盤上の神々の視線が一斉に注がれた。

 

 

 

踏み込み、タイミング、呼吸、体重移動、型の全てが合致した人生最高の一撃。

 

 

 

それが死ぬ間際に繰り出されたのは、何たる皮肉。

 

この世界は、何と無慈悲で残酷な事か。

 

 

 

大盾戦士の一撃は、ロスリック騎士の盾に阻まれたが、膝を突かせる程の重い一撃だった。

 

小さく呻き声を上げるロスリック騎士。

 

 

 

その瞬間、大盾戦士の意識は完全に途絶えた。

 

男神官は、我武者羅にドラゴンの陣取る通路を疾走する。

 

運良くドラゴンのブレスは、来なかった。

 

上段の通路では、未だに戦士達がドラゴンと死闘を繰り広げている様だが。

 

 

 

「うぎゃぁぁ……」

 

「あ゛、あ゛づ い゛ぃぃぃ……」

 

「た…たしゅゲ……」

 

 

 

 たった今吐き出されたブレスによって、断末魔の悲鳴を上げながら、跡形も無く蒸発していく戦士達。

 

 

 

どうやら全滅した様だ。

 

それ以降、ドラゴンの唸る声だけが耳に届く。

 

 

 

「ひっ、ひっ、ひぃ…あぐむだぁ…、ダレがぁ…、だずげでぐでぇ……」

 

 男神官は、端正な顔をぐしゃぐしゃに歪めながら、汗、涙、鼻水を垂らすのも無視して、足を縺れさせながらもひたすら走る。

 

もう、自分にも何をしているのかも自覚出来ていなかった。

 

兵士の詰め所に入り、暗闇で頭をぶつけながらも登り梯子に手を掛け、必死に登って行く神官。

 

既に神殿により授かった錫杖も放り出し、斥侯から抜き取ったメモだけが彼の持ち物と化していた。

 

息も絶え絶えに梯子を上った彼。

 

出口の明かりを頼りにそこへ向かう。

 

 

 

「もうすぐ、もうすぐだ……」

 

 出口から、人の叫び声が聞こえて来た。

 

 

 

――そうか、まだ戦っているんだ。僕も役割を果たさないと。

 

 

 

男神官は僅かに冷静さを持ち直し、前を見据え出口を潜った。

 

地上の光が彼の目蓋を打つ。

 

 

 

だが彼の視界に入った光景は、戦い等と呼べる華やかなモノではなかった。

 

 

 

「いやだぁ…!たすけでぇ!!」

 

 倒れ伏した冒険者に、寄って集って剣を切りつける亡者達。

 

 

 

「じにだぐねぇ…?」

 

 亡者の野犬に生きたまま身体を食われ、内臓を引きずり回され食い荒らされる者。

 

 

 

「ひゃめ…、やめでぇ……」

 

 四方八方から身体を折れた直剣で、滅多刺しにされる女の森人。

 

 

 

 男神官の目に映し出される光景は、神殿で何度も聞かされた、阿鼻叫喚の地獄絵図だった。

 

「ぁあ、ああぁぁぁ……」

 

 それでも神官は、ノロノロと出口へ向かい歩き出す。

 

「そうカ、此処は地獄なんだ…。彼等と組んだばかりに僕は地獄へ墜ちたんだ……、ハ、は ハ HA ha……」

 

 ――っづ?!!

 

唐突に背中が暑い何かで襲われた。

 

咄嗟に振り返ったその先には、亡者が剣で切り掛かっていた。

 

幸か不幸か、その激痛が男神官の意識を呼び戻した。

 

 

 

「――死んでたまるがぁ…!」

 

 

 

 彼は脇目も降らず出口へ向かって全力で走り出した。

 

途中で亡者の刃が、彼の足を腕を身体を何度も掠めるが、彼が立ち止まる事は無かった。

 

白を基調とした法衣は、自分の血と汚泥に染め上げられ、赤黒く変色していった。

 

周りの冒険者達の断末魔の悲鳴が耳を打つ。

 

だがそんな事は、お構い無しに彼は走り続けた。

 

自らの役割を全うする為に。

 

 

 

――この冒険を最後にしよう。生きて帰れたら、冒険者を辞め聖職者として全うな道を歩もう。

 

 

 

こんな自分を神殿は、再度受け入れてくれるだろうか?

 

 

 

それだけが、彼の心残りだった。

 

 

 

このロスリックの高壁で挑んだ冒険者達が虐殺される中、皮肉にも空は綺麗な藍に染まり穏やかな時を奏でてゆく。

 

 

 

 

 

これは火の無い灰が冒険者ギルドに訪れる、ほんの少し前の物語。

 

 

 

 

 

 




 如何だったでしょうか?

もっと細かくロスリックの高壁を表現出来れば良かったのですが。

これが、私のクオリティ。


男神官の結末はまだ決めてません。

サイコロでも振って決めようかと思っています。



序盤はドラゴンのブレスを利用して、ソウル稼ぎをしたのは良い思いです。

ロスリックの騎士には、何度も苦戦しました。

篝火を利用しては、何度も挑み倒されながら徐々に対処法を編み出していく。

当時は、あれボスだろ?( ̄□ ̄;)!!

と思った位の強敵でした。

これからも頑張って執筆していきます。

チラシの裏に投稿する様な拙い作品ですが、読んで下さって有難う御座います。

デハマタ。( ゚∀゚)/

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