ゴブリンスレイヤー ―灰の剣士―   作:カズヨシ0509

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ドーモです。
前回の続きで、拠点である街中に小鬼禍が発生した直後のお話です。
では投稿致しますドゾ。( ゚ ω ゚ )


第109話―街中のゴブリンハザード―

 

 

 

 

 

 

輝石の杖

 

先端に輝石を埋め込んだ杖。

魔術を使うための触媒。

 

魔術を使うためには、杖を装備し、祝福で魔術を記憶しておく必要がある。

 

魔術を志す誰しもが手にする普及品。

輝石の探究へと、その第一歩を踏み出さん。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

( 推奨BGM ゴブリンスレイヤー ―― 危機との遭遇 )

 

緑色の矮躯が悪意と欲望に彩られ、人々の営みを染め上げようと跳梁する。

 

『govu、gov、gov』

『gea、gea、gea』

『guro、guro、gurob』

 

 二タリと吊り上げる口端は下卑た笑い声を上げ、街中の路上に溢れ返る。

 

「お、おい、嘘だろ!?数が多過ぎるッ…!?」

 

 重戦士の一党に所属する少年斥候は、余りの数の多さに絶句した。

 

「な、何を怯んでる!ダークゴブリン戦は、こんなものじゃなかったろう!」

「――あの時とは状況が違いますようぅ…!」

 

 怯える少年斥候に女騎士が一喝するが、圃人の少女巫術士も怯えの色を隠せない。

そして女騎士自身も、何時になく及び腰だ。

ダークゴブリン戦の小鬼は完全武装で訓練も行き届いた猛者揃い。

加えて数も600以上という異常事態であった。

しかし味方も数多く所属しており多くの支援を受ける事が出来た為、当時は安心感に包まれていた。

 

今の状況はどうだろう。

質自体は従来の小鬼と何ら遜色ない水準だが、今の味方陣営は規模に乏しく消耗している状態だ。

重戦士の一党と槍使いの一党という主力が軒並み負傷しており、実力を発揮するのは難しい。

つい先程消滅した鈴玉狩りのお陰で、重戦士、女騎士、軽戦士、槍使いが重傷を負っていたのだ。

今も彼等の傷は完治しておらず、正直戦闘を行えるかどうかも怪しい。

そして鈴玉狩りを討ったジークバルドと女部族も手練れではあるものの、これだけの小鬼を一度に相手取れるかは疑問符だ。

現場の外周部には、衛兵や他の冒険者たちが陣取っているが、全てを捌き切れる保証はない。

今は圧倒的に味方が少ない状況なのだ。

 

重戦士や女騎士も、意気込みとは裏腹に足元は小刻みに震えていた。

 

「不味いな、いま小鬼共が街へと拡散すれば、どうなるか…!」

 

 この惨状にオーレルも歯軋りする。

200を超えるゴブリンが街全域へと拡散すれば、戦えない住民は忽ち犠牲となるのは明白だ。

この一夜で、街が地獄絵図と化すのは目に見えている。

現状を何とかしたいが、何故か恐怖感が勝り足が竦んでしまう。

 

「皆の者剣を抜けッ!一体でも多くの小鬼を討ち、事態を収拾する!」

 

 狼狽える現状にジークバルドが一喝するが、どういう訳か恐怖に侵されたのか冒険者たちの対応が鈍い。

 

「――グズグズするな!住民が犠牲になるぞ、奮起せよ!」

 

 灰の剣士も周囲に奮起を促すが、同様に皆の反応は鈍い。

 

――こうも恐怖に駆られている!?あのスクロール…いや、小鬼自体に何らかの処置が施されているのか?

 

ジークバルドや灰の剣士以外の冒険者たちは、ゴブリンに恐れを抱き覇気が消失していた。

普段の彼等なら、この程度の規模にも冷静に動ける筈だというのに。

ふと傍を見れば、ライザも彼の腕にしがみ付き震えている。

彼女の目尻には涙さえ浮かんでいた。

確かにライザも小鬼に蹂躙されかけた過去があり、それを切っ掛けに灰の剣士たちと出会う事が出来た。

(本編前夜編、第73.5話参照)

 

それ以来小鬼に恐怖感を抱くのは、至極当然の流れとも言える。

だが彼女は意外にもアッサリと立ち直り、自我を崩壊させる事はなかった。

ライザ単身で、この状況と対峙するのならまだ話も分かるが、今の状態で恐怖感に支配されるのはどうも不自然に思える。

 

それに召喚され続ける小鬼のソウルを探れば、何か得体の知れない呪文の流れが小鬼に纏わり付いている事が察知出来た。

しかも全ての小鬼に――。

 

――手の込んだ真似を…!全ての小鬼を討たん限り、現状打破も叶わぬか!あまりに用意周到が過ぎる、鈴玉狩り個人の暗躍とは思えん。

 

どうにも鈴玉狩りだけの行動にしては、先を越されているような気がしてならない。

スクロールを所持していた件といい、召喚した小鬼全てに恐怖を煽る呪文を施した件といい、2手、3手先を呼んだかの如き策。

鈴玉狩りの後ろに何者かが潜んでいる匂いを感じ取る灰の剣士。

だが今は、眼前の小鬼に対処しなければ話にならない。

だが、真面に動ける冒険者は実質、自分とジークバルド…あとは精々建物に控えているオーベックと輝石の貴公子ぐらいか。

 

いよいよ小鬼が、街中に拡散しようと動き出す。

 

――チッ!今の内に何とか数を減らさねば…!

 

周囲に四散する前に可能な限り小鬼の数を減らそうと、灰の剣士は小鬼に切り掛かる。

 

「灰剣士殿、手を貸す!」

 

 ジークバルドも彼に呼応し、出来る限り小鬼の討伐へと動く。

しかし二人がいくら奮起しようとも、

小鬼の拡散は最早止めようがなかった。

 

その時である――。

 

――ダァン、ダァン!!

 

突如として、夜の街中に銃声が響き渡る。

 

( 推奨BGM ゴブリンスレイヤー ―― 戦闘開始 )

 

「「「「「――!!?」」」」」

 

 その銃声に周囲の冒険者のみならず小鬼までもが動きを止め、皆が一斉に音の方角と思わしき方角へと視線を向けた。

皆が視線を傾けるその先には、とある建物が映っている。

更に目を凝らせば、赤と緑の月明かりに照らされた一人の人物が佇んでいた。

 

「「「「「……!」」」」」

 

誰もがその光景に目を奪われる。

建物の屋根に佇み月光に照らされた、一人の人物。

漆黒の外套を身に纏い、烏の様な嘴の仮面で頭部を覆い、手には銃と思わしき武器と湾曲した短刀が握られていた。

 

「……鳥羽の狩人……」

 

 灰の剣士だけは、その姿に見覚えがあった。

数日前、聖黄金樹の前で出会った一人の女性。

彼女は冒険者ではなく、裏社会にて暗躍するローグギルドに所属する仕掛け人(ランナー)と呼ばれる人種だ。

因みに彼女も四方世界の住民ではなく、異界から流れ着いた素性を持つ。

(本編前夜編、第99話参照)

 

「……」

 

 鳥羽の狩人は無言で身を翻し、高い屋根から飛び降り無傷で着地する。

呆ける冒険者や小鬼達を余所に、素早い身のこなしと銃撃で数体の小鬼を仕留めた。

 

「GYOB!」

「GRUV!」

「GEAV!」

 

 当然、小鬼も黙っている筈もなく集団で鳥羽の狩人へと殺到するも、彼女は瞬時に位置を変え手にした短刀で次々と並み居る小鬼を切り伏せた。

 

「――呆けてるんじゃないよ、ボウヤ達っ!拡散する前に仕留めなッ!」

 

 唐突の苦言――。

それと同時に彼女は銃の弾を入れ換え、真上に向け発砲する。

ダァンという空気を裂くかのような破裂音が、夜の街を切り裂いた。

その銃声に、ハッと我に返る周囲の冒険者たち。

 

「今の銃弾には、解呪の魔力が込められている。これで真言魔法『恐慌』は解除された筈さ!これで動けるだろう!?」

 

 彼女が発砲した銃弾には、場の呪文効果を解除する仕掛けが施されていた。

鳥羽の狩人の言う通り、召喚された小鬼一体一体に『恐慌』の真言呪文が付与され、それが精神に影響を及ぼしていた。

呪文が灰の剣士たち以外の冒険者たちに作用し、不必要な恐怖心を煽る事で行動制限を掛けていたのである。

だが鳥羽の狩人が発砲したお陰で、呪文効果は消失し、皆の精神状態は戻る事となる。

 

「ほ、ホントだ…、俺達は一体何をビビってたんだ?」

「そうだぜ!ゴブリンなんぞに、尻込みしてる場合じゃねぇよな!」

 

 彼女の宣言が皮切りとなり、重戦士や槍使いに活力が戻り闘志が湧き起こる。

 

「全くだ。完治していないとはいえ、ゴブリンに後れを取る我々ではない!」

「集団相手に油断は厳禁だが、少々暴れたりなかったんでな!僕の剣を存分に味合わせてやる!」

 

 彼等に続き、女騎士やオーレルも小鬼に向け剣を抜く。

 

「ライザ、君はルルア達と共同で小鬼に当たると良い!」

「う、うん…。灰君も怪我しないでよ?」

 

 灰の剣士は、一旦ライザの方へと戻りルルア達へ合流するよう指示を出す。

若干及び腰ではあったがライザも正気を取り戻したらしく、直ぐにルルア達の方へと向かう。

 

「よし俺達も手を貸すぞ少年、準備は良いな!?」

「ええ、任せておいて下さい。この薄気味悪い亜人…いや混種ですかね?コレが噂に聞く異形『ゴブリン』ですか」

 

 建物内に陣取っていたオーベックと輝石の貴公子も、小鬼殲滅へ向け窓から外へと飛び降りた。

監督官の護衛は、呪文使いの女に任せておけばいいだろう。

二人が飛び降りた先には、スイーパーが陣取っていた。

 

「お嬢さんは、外周部の連中に現状を伝えてくれないか?」

 

「分かったわ。貴方達も無理をしないで!」

 

 スイーパーには、現場から離れた衛兵や冒険者たちに危険を知らせるよう、指示を出すオーベック。

彼女も現状の危険度は理解しているのか、何ら反論する事無く指示に従い現場を後にした。

 

「――総員、これより小鬼を殲滅する!」

「――この街の命運は、皆の手に掛かっている!諸君の奮闘に期待する!」

 

 灰の剣士とジークバルドは各々で、周囲に冒険者たちを鼓舞した。

 

「戦技、黄金樹の誓い!」

 

 そして『黄金樹の誓い』で皆の強化を図り、小鬼集団との戦闘が幕を開けた。

 

……

 

( 推奨BGM ゴブリンスレイヤー ―― 先制攻撃 )

 

建物にはメスの匂いがする、なんと二人もだ。

外にいる連中は強そうだが、中に居る二人のメスはそうでもない。

そう言わんばかりに一軒の建物へと殺到する、複数の小鬼達。

建物の前には二人の男が守りに就いているが、そんな事はどうでもいい。

小鬼達の勢いは萎える事無く、寧ろ勢い付く。

 

「相変わらず考えが有るのか無いのか、よく分からん連中だ、ゴブリンってのは。致死の白霧!」

 

 先ずは、オーベックが竜の魔術の一つである『致死の白霧』を小鬼の進路上にばら撒き、小鬼の進撃を妨害した。

当然、小鬼が彼の魔術の恐ろしさなど知る由もなく、建物内の女(監督官と呪文使いの女)目当てに尚も突撃を仕掛ける。

だが一歩でも白い霧の中へと踏み入れた途端、小鬼達は藻掻き苦しみ出す。

この呪文は致死性の霧(水銀性の劇毒)を撒き散らし、外傷を与えず静かに敵を死に至らしめる恐ろしい魔術でもある。

これは竜の学院に伝わる高位の魔術であり、信頼に足る『竜の隠密』にのみ授けられる呪文であった。

嘗て魔術士を目指し純粋な目標と志を抱き、竜の学院の門を叩いたオーベック。

しかし彼に与えられた役割は、暗殺者という役職であった。

彼の心とは裏腹に、数々の功績を上げ学院上層部より信頼を勝ち取る事で、遂に高位の魔術である『致死の白霧』を授かるまでに至ってしまった。

 

「……」

 

 街の住民を守る為に行使した筈だが、否が応にでも彼の過去が脳裏を過り胸を締め付ける。

 

――クソッたれめ!何時まで経っても過去の経歴は、俺を縛りやがるッ!

 

心の中で舌打ちしながら、彼の心は悶え苦しむ小鬼ではなく過去へと向けられていた。

 

「――今だ少年!小鬼共を足止めしている間に仕留めろッ!」

「――はいッ!」

 

 致死の白霧へと足を踏み入れた事で、全ての小鬼は苦しみに藻掻いている。

このまま放っておいても絶命するが、何時までもこの醜悪な光景を見届ける気など毛頭ない。

輝石の貴公子へと止めを指示する。

オーベックの指示を受けた輝石の貴公子は、手持ちの杖で輝石の呪文『輝石の速つぶて』を小鬼へ向けて連射する。

この世界へと流れ着いた彼は何も所持しておらず、文字通りその身一つの状態であった。

今手にしている”輝石の杖”も、灰の剣士が狭間の地より待ち帰った物だ。

また杖の他にも、軽い剣を所持しており『戦鷹の爪剣』も持ち出していた。

これも灰の剣士が持ち帰った武器だが、彼が使う機会は今後訪れる事はないだろう。

そういう理由で持ち出す事が許され、今は彼の獲物と化していた。

この武器は、ストームヴィル城を中心に巣くっている戦鷹の爪を、人にも扱えるように加工した剣で爪に似た形状から若干技量よりだが、非常に軽くリーチもそこそこ長いため彼の目に留まったのである。

防具一式も灰の剣士が持ち帰った物から融通して貰い、市民の上服を装備している。

(流石に穴あきの枷は不要なため、装備から外した)

 

輝石の杖から放たれる『輝石の速つぶて』が小鬼達に炸裂し、次々と迎撃してゆく。

この呪文は基本形態である『輝石のつぶて』から派生させる事で、威力を犠牲に速射性と消耗率を改良した魔法だ。

致死の白霧へと踏み込んだ小鬼達に魔力の小つぶてが炸裂し、並み居る小鬼達はそのまま絶命した。

 

――ほぅ、アレが輝石の魔術か。何処となく『ファランの短矢』と似ているな。

 

その様子を見ていたオーベックは、輝石の速つぶてとファランの短矢を重ねていた。

狭間の地では基本的な呪文の一つだが、オーベックにとって未知なる呪文を目にするのは、如何なる状況でも心が躍るものであった。

 

「す、凄い…、オーベックさんも、あの少年も私の知らない魔法を使ってる…」

「――でしょ?本当に何者でしょうね、オーベック様といい、あの少年といい…」

 

 建物内の窓から監督官と呪文使いの女は、オーベックたちの戦い振りに驚きの声を上げていた。

灰の剣士からも彼等が未知なる呪文の使い手である事は仄めかされていたが、いざ実際目にした事で、その言が真実であった事を知る。

 

――さっき彼も、金色の変な呪文みたいなの使ってたわね。アレもそうなのかしら?

 

監督官は、灰の剣士が『黄金樹の誓い』を行使していた事を思い出す。

彼の周りに黄金色に輝く光を纏ったかと思えば、その光が周囲の冒険者たちに共鳴していた。

何時か彼等の全容を知る日が訪れるのだろうか。

監督官は、小鬼の襲撃に怯えつつも窓から顔を出し、記録を続けた。

 

……

 

密集する小鬼の群れに自ら飛び込み、被害拡大を防がんとするジークバルド。

彼に反応した小鬼の群れが挙って襲い掛かるも、戦技『嵐呼び』で多数の小鬼を纏めて巻き込んだ。

いくら”数”が揃おうとも”質”の面では、最底辺に位置するのが小鬼と種族。

ジークバルドを中心に巻き起こる『嵐呼び』という戦技は範囲攻撃に分類されるが故、小鬼如きがいくら殺到しようとも成す術もなくただ巻き上げられ絶命するしかない。

そして『嵐呼び』で攻撃しながら、鈴玉狩りから乗っ取った直剣『エオヒドの宝剣』の遠隔操作で、更に外部の小鬼を切り裂いた。

鈴玉狩りの闇霊が消滅した際『エオヒドの宝剣』だけは、場に残されていたのである。

ジークバルド自身は本意ではなかったが『エオヒドの剣舞』と呼ばれる気高き戦技を邪悪な事に汚されたくは無いという想いがあり、こうして使用に踏み切ったのだ。

 

「――貴公は、討ち漏らしの撃破を頼む!」

「――あいよ、騎士さん!」

 

 複数まとめて仕留めるジークバルドだが、余りに多く小鬼が召喚されてしまった。

その様な状況は如何ともし難く、どうしても討ち漏らしが発生してしまう。

相棒を務める女部族へ、散開しようとする小鬼の始末を指示する。

女部族も快諾し、散り散りになる小鬼達に武器を振り下ろし、確実に仕留めてゆく。

鈴玉狩り戦では碌に貢献できなかった分、此処で遅れを取り戻す算段だ。

女ながら彼女の膂力は戦士とて申し分なく、一体また一体と小鬼の数を減らす。

 

……

 

一方のライザ達――。

 

「相変わらず数だけは多いんだから…!」

 

 街中と言う事もあり、威力を弱めたフラム(爆弾)で小鬼達を複数纏めて巻き込むライザ。

 

「――GYOB!」

 

 だが威力を弱めた事が裏目に出たのか仕留め切れず、数匹の小鬼がライザ目掛けて飛びかかった。

 

「――せぃッ!」

 

 そこへオーレルが立ちはだかり、素早い居合切りで小鬼を纏めて両断する。

 

「あ、有難う、オーレル…!」

「此処は良い、ルルアとエーファを頼む!」

 

 再び居合の構えに移るオーレルは、ライザにルルア達の援護を指示する。

ルルア達も小鬼相手に奮闘しているが、多勢の前に壁際へと追い詰められつつあった。

 

「――任せて!」

 

 透かさずライザもルルア達の方へと駆け寄り、杖の殴打で小鬼達へと殴り掛かった。

 

「――コラぁ、ゴブリン達ぃ!ルルアとエーファから離れなさぁいッ!」

 

 感情に走り易いライザだ。

つい昂った感情で、小鬼達へと接近戦を仕掛けてしまう。

 

「GYOB!」

「GRUV!」

「GEAV!」

 

 この国の住民は兎も角、小鬼達にとって、ライザは非常に肉感的なメスとして認識している。

眼前のルルアとエーファも貪りたい程に魅力のあるメスだが、ライザから発せられる独特の体臭は小鬼にとっては格好の興奮剤でもある。

夜間に灯る不気味な小鬼の眼光は、ライザ一直線へと飛び掛かった。

 

「――ナめないで!」

 

 だがライザも臆する事無く杖を構え、小鬼達に対峙する。

 

「――ここで使わなきゃ、いつ使うのって話ッ!」

 

 飛び掛かる小鬼達に向け、杖を横薙ぎに振るう。

その瞬間、杖先の水晶から”稲妻”が迸り、複数の小鬼を同時に焼き焦がした。

杖先にはめ込まれていたのは『コア・クリスタル』という水晶で、これは道具を失う事なく効果のみを発現させる。

ライザが発現させたのは『雷壺』を封じ込めた『コア・クリスタル』で、範囲は限定的ながらも複数纏めて小鬼を焼く事が出来た。

 

「ルルア、エーファ、大丈夫ッ!?」

 

「わ、私たちは何とか…!」

「でも助かった…有難うライザちゃん…」

 

 壁際に追い詰められたルルア達の下へと駆け寄り、ライザは二人を気遣う。

二人とも特に外傷は無い様だが、かなり焦燥しているのが見え隠れしていた。

弱者の代名詞の様な小鬼とはいえ、群れを成して圧殺して来る光景には恐怖感を禁じ得ないのだろう。

ライザの救援に、ルルアとエーファは上ずった声で感謝の意を述べる。

だがライザの救援も僅かな時間稼ぎにしかならず、程無くして小鬼が再び群れを成し迫って来た。

今度はライザを含めた3人が、またもや壁際へと追い詰められる。

 

「街中でなかったら小鬼なんて、もっと強い爆弾で吹き飛ばしてやれるのに…!」

 

 じりじり迫り来る小鬼の群れを睨み付け、ルルアは可憐な顔を顰める。

 

「ねぇルルア、クラフト持ってたよね?あたしの合図で投げ付けてくれる?」

 

「――へ?も、勿論持ってるけど、一個しか持ってないし、一つだけじゃ多分――」

 

「大丈夫、きっと何とかなるなる!…でしょ!?エーファは、少しの間だけ小鬼を牽制してくれる?」

 

「うん…分かった…!頼りにしてるね、ライザちゃん!」

 

 ルルアとエーファに指示を出し、ライザは腰のポーチから水筒を取り出す。

何の変哲もない唯の水筒――。

無論、中身は言わずもがな――。

唯の”水”が入っているのみである。

しかし、ライザ達の準備を待ってくれるほどの堪え性が無いのが、小鬼という種族だ。

 

「GYOB!」

「GRUV!」

「GEAV!」

 

すぐさまライザ達に殺到する小鬼達。

だがエーファの銃撃で、数匹の小鬼を射殺する。

本来なら入国の際、フリントロック式の拳銃しか持ち込む事が許されなかったエーファ。

大砲の所持も許可が下りなかったが、ルルアに頼み込む事で密かにリバルバー式の拳銃を作成して貰っていた。

6連装の回転式弾倉を持つリボルバーなら、6体までの小鬼なら同時に相手取る事が出来る。

碌な防具も装備していない小鬼相手に、拳銃弾は即死級の威力を誇る。

忽ち数体の小鬼が撃ち殺された事で、拳銃の発砲音と眼前の同胞達の死に僅かな時間だが及び腰となる。

 

「――よしルルア、あたしの投げた水筒にクラフトをぶつけて!」

「――うんッ!」

 

 その僅かな間を利用したライザは、小鬼の群れに水の詰まった水筒を投げ付けた。

ライザの真意は未だ解らなかったが何か考えがあるのだろうと、ルルアも彼女に従い水筒目掛けてクラフトを投げ付ける。

ルルアの投げたクラフトが破裂し、ライザの投げ付けた水筒もろとも衝撃波で巻き込んだ。

クラフトの衝撃で水筒は破断し、小鬼の周囲には水が拡散する。

 

「――いよぉ~し、此処だぁッ!」

 

 間髪入れず、ライザはコア・クリスタルを発動させ杖を横薙ぎに振るう。

コア・クリスタルの内包された『雷壺』が発現し、宙に拡散した水へと稲妻が通電した。

宙の水滴を伝う電撃が広範囲へと拡散し、範囲内の小鬼を軒並み焼く。

 

――ライザごと。

 

「GYOB!」

「GRUV!」

「GEAV!」

「GRUV!」

「GYOB!」

「――アババばばBA……!!」( ;˙Д˙;)

 

 ライザの機転のお陰で、迫り来る小鬼を群れを凌ぐ事はできた。

だが雷壺を内包したコア・クリスタルの射程距離は短く、ライザ自身も巻き込んでしまう。

半ば自爆気味に感電したライザは痺れながらも、ルルア達に救助された。

 

「ライザちゃん何やってるの!?」

「変な無茶するんだから、だんだん剣士さんに似て来たよ!?」

 

 エーファとルルアは呆れながらも、ライザに寄り添い治療を試みる。

 

「え~!?あたし、あんなに酷くはないわよ」

 

 心外だと言わんばかりの表情で、ライザも抗議の声を上げる。

知らず知らずの間に灰の剣士の影響が及んでいるのを、まだ彼女自身は気付いていない。

取り敢えずの襲撃は凌げたのか彼女達の周囲には、無数の焼け焦げた小鬼の死体が散乱している。

だが何時までも留まるのは得策ではない。

未だ多数の小鬼が、街中へ拡散しようと躍起になっていた。

ふと周囲に視線を寄せれば、槍使いや重戦士の一党が役割分担で小鬼達を仕留めつつある。

先程と比べれば大幅に数を減らしている小鬼の群れだが、未だ100近くの小鬼が生存しているのは確実だ。

今の群れを凌いだことで、ライザ達も消耗を強いられている。

再び小鬼の群れが殺到する前に、少しでも戦い易い場所へと移動を開始した。

 

――さっきから灰君、アッチコッチで何してんだろ?なんか設置してるみたいだけど…。

 

移動する傍ら、灰の剣士を視界に捉えるライザ。

街中へと拡散する小鬼を優先的に切り伏せながら、その地点に何かを設置している様子が映っていた。

 

……

 

「GRUV!」

「GEAV!」

「GRUV!」

「GYOB!」

 

 素早い体裁きと猟犬の剣技で、複数の小鬼を難なく切り伏せる。

 

――かなり狭いが、ここら一帯は始末できたか。

 

路地の一角は、とにかく細く狭い道幅ゆえ、矮躯な小鬼にとっては非常に好都合だ。

また夜行性と夜間の時間帯という条件も重なり、この狭い路地裏は潜伏しながら人々を襲撃するのに向いている。

だがその様な状況を見過ごす訳も無く、灰の剣士はソウルの感知と持ち前の身のこなしで、一体残らず小鬼を切り伏せていた。

それでいて、まだまだ残存している小鬼の群れ。

処置を怠れば生き残りの小鬼が、再びこのルートを狙うのは必至だ。

 

――今の内か。

 

灰の剣士は、懐から”香”の様な茶褐色の塊を取り出し地面へと設置する。

すぐさま”香”へと火を点け、程無くして煙が立ち昇った。

幸い此処は風上だ。

風上から風下へ、つまり自身の後方へと煙が流れて行く。

 

「GOV!」

「GEV!」

「GRU!」

「GYOB!」

 

 そう時間を置く事なく、複数の小鬼が彼の後方から押し寄せて来た。

 

――さぁ、どうか?

 

しかし彼は迎え撃つ事なく、香の煙を行方を見守るだけに留める。

香の煙が小鬼の鼻腔を通り過ぎた瞬間、突如として小鬼達は藻掻き苦しみ地面をゴロゴロと転げ回った。

 

――よし!『獣除けの香』、効果ありを認む!

 

鳥羽の狩人からレシピを授かり、それ基に錬金術で造り上げた獣除けの香。

彼の錬金術で、どれ程の効果を成し、また小鬼に対し有用に働くのかを検証する必要があった。

鈴玉狩りの起こした小鬼禍(ゴブリンハザード)は完全な想定外だが、こうして検証の機会が訪れたのは僥倖とも言える。

獣除けの香の煙を吸った小鬼は、絶命には至らないものの苦しみ出し行動に大きな制限を掛けられる事が判明した。

 

  ―― 小鬼も等しく獣である ――

 

鳥羽の狩人の言葉は、正しかった事が証明されたのだ。

 

煙に巻かれ悶え苦しむ小鬼達を全て切り伏せた灰の剣士は、小鬼が狙いそうなルートを割り出し移動を開始する。

 

本能的に理解しているのか、小鬼は自らの体格を活かし、とにかく狭い通路を好んで移動する傾向がある。

夜間という時間帯は視界の悪化を招くが、彼は狭い路地や通路を優先して壁や建物を伝いながら疾風の如く走り抜けた。

その動きは正に猟犬あるいは狼の如しで、気が付けば見覚えのある『黒い影』が彼の傍らへと付き添っていた。

 

「獣除けの香…使ったんだね」

 

 既に声の主とは見知った関係だ。

 

「ああ。急ごしらえだったが、小鬼相手にも効果を発揮した」

 

 宵闇の空間を疾走しながら、鳥羽の狩人へと応える灰の剣士。

黒い影の正体は、鳥羽の狩人だった。

冒険者たちが戦っている間、彼女は群れから離れた小鬼を優先的に各個撃破していた。

彼女の働きもあり、大通り外周部へと到達した小鬼は極僅かで、住民に被害は及んでいない。

こういう闇に塗れた戦場は、彼女にとって魂の場所の様なものだ。

宵闇に紛れ、人知れず獣を狩る。

それが狩人の使命である。

 

「意外とアンタも”月”が似合うね。正式な狩人に鞍替えしたらどうだい?あたしは歓迎するよ、獣の狩人」

 

 灰の剣士を『獣の狩人』と呼ぶ、鳥羽の狩人。

彼女にとって灰の剣士は陽光刺す冒険者よりも、月光に導かれる狩人こそ映え渡る様に思えて仕方がないのだ。

灰の剣士の動きは、唯の剣士の域をとうに越えており、寧ろ彼女の識る世界(古都ヤーナム)の住民と重なっていた。

 

「…遠慮しておく。昼の方が好きでな、私は――」

「ソイツは残念。小鬼なんぞで、死ぬんじゃないよ!」

 

 急遽、方向転換した鳥羽の狩人は、そのまま別の地点へと跳躍する。

彼女の向かう先にも、小鬼が存在するに違いない。

だが何も懸念する必要はない。

彼女の実力なら、難なく小鬼を仕留め切るだろう。

 

「……後でライザ達に、このレシピを渡しておくか」

 

 ライザ達なら、自分以上の精度で『獣除けの香』を作成してくれる。

小鬼に対し効果が有る事が証明されたのだ。

後は何とか量産体制にこじ付け、一般人にも行き渡る様に取り計らわねばならない。

小鬼とは言え、一般人にとっては最も身近な脅威の一つなのは間違いない。

獣除けの香が行き渡れば、小鬼の襲撃に対し多くの手立てを構築する事が出来る。

 

――だがそろそろ、彼女達には正錬金術士として登録を促した方が良いな。

 

だが幾ら獣除けの香を量産したとて、必ず素材と資金が必要となる。

未だライザもルルアも、造り上げた錬金道具を売買する資格を得ていない立場だ。

恐らく獣除けの香は、大量に必要となるだろう。

別段金儲けなど興味はないが相当の需要が見込めるのなら、正錬金術士の登録は決して足枷にはならない筈だ。

資金が有るに越した事はないのだから。

 

――この騒動が片付けば、二人に勧めてみるか。

 

 次なる小鬼と思わしき地点を目指しながら、灰の剣士は秘かに画策していた。

 

……

 

流れ自体は、概ね良好に推移して行く。

冒険者たちの素早い対応と奮戦で、大通り付近の小鬼集団は粗方始末された。

残りは大通り外周部に散らばった僅かな小鬼達だ。

 

「この野郎!」

「俺達の街を荒らしやがって!」

「ゴブリンなんかに負けないわよ!」

 

 配置に就いていた冒険者や衛兵たちも協力し合い、残存した小鬼へと対処してゆく。

彼等の働きもあり、外周部の小鬼達も一掃された。

 

「――ハッ!」

 

「――GROV!」

 

 手槍形態へと変形させた武器で、小鬼の頭部を貫き絶命させる。

 

「――スイーパー、伏せよ!」

 

 だが、突如として後方から声を掛けられた。

 

「――ッ!!」

 

 判断するより早く身体が反応し、咄嗟に身を屈めるスイーパー。

 

「――GYOUV!」

 

 彼女の直ぐ後方から小鬼の絶叫が耳を打つ。

振り向けば、真っ二つに両断された小鬼が地に伏せていた。

 

「大丈夫か?」

「え…ええ、有難う助かったわ」

 

 灰の剣士が此処まで駆け付け、小鬼を仕留めてくれた。

 

 

 

「貴公が報せてくれたお陰で、目立った被害もなく斬滅が叶った。済まん…じゃなくて、ありがとう…だったかな?この場合」

 

「――プッククク…やれば出来るじゃない♪」

 

 自らの役割を自覚し、早期に動いてくれたスイーパー。

彼女が外周部の衛兵や冒険者たちに小鬼禍(ゴブリンハザード)の発生を報せてくれた事で、彼等も警戒態勢で臨む事が出来た。

その結果、然したる被害もなく、こうして小鬼の始末が叶った次第である。

灰の剣士とのやり取りで、思わずスイーパーは噴出してしまった。

 

「……。…ね…ねぇ、偶には付き合って。ぼ…冒険以外の用事…で…///」

 

「…今は少し厳しい」

 

 暫しの無言を挟み、思い切ったスイーパーが冒険以外で一緒に過ごしたい旨を伝えた。

こうして二人で会話できる機会など、滅多に訪れる事がないのだ。

思えば彼とゴブリンスレイヤーに救助されて以来、彼女はあろう事か灰の剣士に関係を結ぶ選択肢を取った。

しかし結果的には拒絶され、以来彼女は男女間を極力意識しない様に冒険者の道へと再起した。

その過程で、灰の剣士やゴブリンスレイヤーと行動を共にする日もあったが、彼女は日増しに彼等を意識するようになる。

それを証明するかのように、平時の彼女は平服で過ごす日が増えつつあった。

また、戦闘時以外で兜を外す事も多くなり、彼女が再び女としての幸せを自覚しないまま、同時に求めてもいた。

一時期は女を捨て、戦士の道を歩もうかと考えていた時期もある。

だが、どうやっても女を捨て去る事はできず、こうして眼前の男を意識してしまうのである。

 

この男にも親しい相手が居るのは知っている。

また複数の女性が、彼に特別な感情を抱いている事も含めて。

 

 

 

スイーパーは、過去の出来事を思い返す。

 

ギルド内の女性陣の間では、彼に対する評価は正直手厳しいものがあった。

 

やれ小鬼より醜悪な容姿だの、実は女好きで小鬼から救出した村娘の弱みに付け込んで手籠めにしただの、上手く職員やギルド長に取り入り不正を働いただの、とにかく陰口に事欠かなかった。

しかし、それはあくまで表向きの評判だ。

 

以前、契約している宿の大部屋から、複数の女性冒険者たちが何やらヒソヒソと噂話をしているのを聞いた事を、更に思い出す。

廊下を歩いていた彼女はふと立ち止まり、話し声の数から10人以上は確実に居る事を推察する。

最初は何ら興味を示す事もなかったスイーパーだが、話題が灰の剣士に関する事だと知り、いけないと知りつつも思わず聞き耳を立ててしまった。

実はギルドで叩かれる彼の悪評は、全て演技である事が判明したのである。

その大部屋で語られた灰の剣士に対する評価は、普段のギルドとは真逆のものであった。

 

実は絶世の美男子で、王族出身ではないかという疑惑。

加えて彼の実力は語るまでもない。

あのダークゴブリンの死闘を乗り越え、唯一真正面から対峙していたのは彼だけである。

女性冒険者の中でも、灰の剣士と会話した者は何名かは居た。

そして会話を通じて判った事だが、他の冒険者に有りがちな”自分を大きく見せよう”とする姿勢とは無縁の存在であった。

自らを過大にも過小にも評価せず、唯ありのままの自分を分析する。

新人の女冒険者なら、自慢げに武勇伝を語る男に(なび)くだろうが、ある程度経験を積んだ女に、その様な実力不相応の軽薄な男性は却って見苦しく映って仕方がないのである。

ありのままで自身を語る灰の剣士に、女性冒険者たちは好感を覚えていた。

更に物静かながらも慈悲深く、無償で怪我や毒を治療してくれたりもする。

こういう冒険者など、全国のギルド隈なく探しても然う然う居る者ではない。

そして彼女たちが思っていた以上に、灰の剣士は正義感が強く同時に純粋でもあったのだ。

つまり、普段ギルドで叩かれる灰の剣士の悪評。

実は全て噓で、皆が皆、好意を悟られない様お互いを牽制し合っていたのである。

即ち、大部屋に居た女性冒険者たち全てが彼の隠れファンで恋心を抱き、どうにかして深い関係を築こうと考えを張り巡らせていたのであった。

その話を扉越しに聞いていたスイーパーは、内心非常に焦りを覚えながらも更に聞き耳を立てる。

そこから話が少々物騒な方向へと流れた。

 

夜な夜な彼の宿を訪ね、既成事実を作ろうとする者。

彼が親しくしている神殿の少女は、邪魔だから排除してしまおうかと計画する者。

何とか彼を越える実力を身に付け、心身共に屈服させようかと画策する者。

現在付き纏っている錬金術の少女たちを丸め込み、惚れ薬や傀儡薬を作らせ彼に飲ませようかと企む者。

貴族身分を利用し、夫といかずまでも愛人関係を結ぼうと考える者。

 

とにかく真っ当に”愛”を深めようとする真面な女が、誰一人居ないのが最大の問題であった。

 

そしてとうとう、お互いを牽制し合うあまり彼女たちとの間で殴り合いの喧嘩に発展してしまったのである。

流石にこの状況を放置する訳にもいかず、スイーパーは止む無く扉をノックし、静かにして欲しいとだけ告げた。

状況の不味さを察したのか大部屋内はシンと静まり返り、スイーパーもそのまま廊下を後に自室へと戻ったのである。

 

( 推奨BGM ゴブリンスレイヤー ―― 冒険者の夢の跡 )

 

「やっぱり、ダメ?」

 

――私じゃ無理なのかな…。

 

今は厳しいと告げられたスイーパーは、兜の奥で表情を曇らせる。

 

「もう少し状況が落ち着いてから、という意味だ。使命を果たした後なら、幾らでも時間は作れる」

 

「――ほ、ほんとに…!?」

 

「ああ、何年かかるかは分からないが、使命を果たした後、()()()()()()()()()()()()()()()()してなければ、の話だがな」

 

「……貴方の使命が何なのかは知らないけど、随分待たせるのね……」

 

「……。ま、まぁ…空いた時間なら、そのうち出来る日もあるだろう。その時でも良ければ…な」

 

「///ええ、今の内に色々考えておくわ❤」

 

「だが良いのか?口下手な方だと、自覚している私だ。あまり楽しくないかも知れぬ」

 

「いいわよ。私だって、世間を知らない田舎者なの」

 

「そうか」

 

「そうよ」

 

「フ…」

 

「フフ…」

 

 まだ事が済んでいない状況だというのに、灰の剣士とスイーパーだけの空間が出来上がる。

スイーパーにとって漸く訪れた、仄かに甘い瞬間だ。

今までも何とか彼との接触を望んでいたのだが、ライザが付き纏っていた為、どうにも二人きりで会話できる機会に恵まれなかった。

二人の間で繰り広げられたのは何の他愛もない会話だが、彼女にとっては記憶に残す程の価値ある想い出となる。

両者の間に僅かな笑みが零れた。

 

「――!?…済まぬが、遺体の後始末を頼めるか?どうやらまだ、生き残りが居るようだ」

 

「気を付けてね」

 

 だが、そんな束の間の癒しも長くは続かず、灰の剣士は小鬼のソウルを感知する。

まだ討ち漏らしがあったのか、生き残りの小鬼が街を徘徊している事を察知した。

数にしてほんの数匹だが街中である以上、一体たりとも放置する訳にはいかない。

この現場の小鬼は殲滅し終えた。

小鬼の遺体の処理は、現場の衛兵や冒険者が担ってくれるだろう。

スイーパーにも此処へ残って貰う事にし、灰の剣士は小鬼の居ると思わしき方角へと走り去った。

 

「…ドベでもいい、傍にさえ居させて貰えれば…」

 

 恐らく自分では、彼の一番にはなれないだろう。

見習い神官の少女やライザの様に、明確な感情を伝える自信がない。

女としての自信が喪失しているのだ。

加えて灰の剣士に好意を寄せている女性は、把握している範囲でもかなり存在していた。

女の自分から見ても、彼女たちは非常に魅力が溢れている。

たとえ彼の一番になれずとも、序列がドベになろうとも、ほんの少し彼から愛情を傾けてくれれば、彼女はそれで満足だった。

去り行く灰の剣士を目で追いながら、彼女は遺体処理の作業を進めた。

 

……

 

( 推奨BGM ブラッドボーン ―― Bloodborne )

 

今夜も静寂に包まれた筈の街――。

しかし、凶つ介入者の起こせし小鬼禍(ゴブリンハザード)で、瞬く間に騒動へと発展した。

200という小鬼の大群が街に溢れ返ろうとしたが、冒険者や衛兵たちの尽力もあり早期に駆逐された。

その甲斐あり、施設や民家に侵入を果たした小鬼は皆無。

大半の小鬼は駆逐され、残りはごく僅か。

事態の収拾は、間も無く叶うだろう。

そんな街の状況を見守る、数人の人影――。

いや、見守るなどと言うのは、些かに弊害がある。

何故なら人影の正体は――。

 

「見事にやられたな」

 

「……」

 

 とある一画の民間施設。

それは、毎日の様に冒険者たちが集い活用する冒険者ギルドの屋根に、彼等は居た。

 

「大都市でもない、辺境の開拓拠点。なかなかどうして、手練れが揃っていたものだ」

 

「……」

 

 数人の人影は、一人の甲冑姿の男へと話し掛ける。

その男は無言ではあったが、彼等の声に耳は傾けていた。

 

「…灰の剣士…そしてカタリナの騎士…。あの二人は特に群を抜いている。お陰で『エオヒドの宝剣』も、(ジークバルド)に渡ってしまった」

 

 漸く言葉で返す男の甲冑には、鉄の茨が無造作に巻き付けられていた。

そう――。

先程、闇霊として眼下の街を襲撃し、あまつさえスクロールで小鬼禍(ゴブリンハザード)を引き起こした張本人。

鈴玉狩りこと『鉄茨のエレメール』その人であった。

灰の剣士率いる戦士たちに大通りの結界内まで誘引され、ジークバルドと女部族との激闘で敗北を喫してしまった。

その際、所持していた直剣『エオヒドの宝剣』が土壇場でジークバルドに乗っ取られ、彼の手に渡る失態を招いてしまう。

最後の隠し玉として放った200を超す小鬼の解放も、間も無く収束するだろう。

襲撃時の彼は『闇霊』として侵入し、今此処に居るのは『本体』である。

 

「なぁに、案ずる必要はないさ。標本(サンプル)は既に採取している。私の錬金術で、幾らでも生み出せるのでね、安心し給え」

 

 別の男がエレメールに言葉を掛ける。

その男は、燕尾服の様な出で立ちに長い外衣(コート)を羽織り、素顔はオペラに似た仮面で覆われていた。

だが仮面の男は『錬金術』という言葉を発している。

つまり彼は、錬金術に長けた人物と言う事に他ならない。

 

「……何が狙いか?狂える竜の王に仕えし、仮面の錬金術師よ」

 

 ジークバルドに手に渡ってしまったエオヒドの宝剣は、再び仮面の錬金術師が生み出してくれるという案。

しかし、策謀を好む怪し気な男が唯の善意で施しを行うとは思えない。

エレメールは真意を問う。

 

「君、人聞きが悪いね。…まぁ良い。君にはもっともっと働いて貰う。ただそれだけさ」

 

 お道化た態度で言葉を返す、仮面の錬金術師。

大袈裟な手振り身振りで、演技者の如き演出を以て”更なる働きを期待する”旨を告げた。

 

「――して。()()の性能はどうだったかね、エレメール殿?」

 

 今度は別の男が彼に話し掛ける。

真鍮製の全身鎧を身に纏った老人騎士で、黄泉色の円盾を装備していた。

 

「ふむ。この世界で侵入するには、この『赤い瞳のオーブ』を使うのであったな。性能としては、そう悪くはない。この街では()()()()()が、次なる標的を見定め再び侵入させて頂こう」

 

 虚空から出現させた丸い物体は、中央に眼球のような装飾が施された深紅の物体だった。

 

「…この『爛れた血指』は、もはや無用の長物。礼を言う、聖騎士フォドリック」

 

 またもやエレメールが別の空間から取り出したのは、無造作に引き千切られたかのような跡を残す青ざめた指だ。

何者かの指であっただろうソレは、赤黒い血が爛れており、見る者に嫌悪感と不快感を催した。

爛れた血指は、狭間の地にて効果を発揮する道具で、他者の世界に侵入する効果を持つ。

鈴玉狩りことエレメールは、この爛れた血指を用いる事で、幾多もの犠牲者を積み上げてきた。

だが此処は『狭間の地』ではなく『四方世界』と呼ばれ、爛れた血指は全く効果を発揮しなかった。

この世界で他者の領域へと侵入するには、聖騎士フォドリックから授かった『赤い瞳のオーブ』が必要となる。

エレメールが侵入を試みたのは今回が”初”で、言わば『赤い瞳のオーブ』の検証を兼ねてもいた。

つまり彼の目的は、一応だが達成された事になる。

 

――それにしても不可解なのは、カタリナの騎士よりも寧ろ、あの『剣士』だ。奴のルーンは、あの時の『褪せ人』に似ている。どういう事か?

 

眼下に広がる夜景の中に、外套を羽織った剣士の姿を視界に捉えるエレメール。

彼から流れ出るソウルは、狭間の地で出会った『褪せ人』に酷似していた。

その事に眉を顰め、遠間からとはいえ目と感覚で追い続ける。

 

「あの剣士に何か思う事がお有りかな?エレメール殿?」

 

 数人の人影の内、白い聖職服に身を包んだ男が語り掛けた。

服装からして聖職者に見えるが、刃付きの鞘を背負い、腰には装飾入りの銃が吊り下げられていた。

見るからに異様極まり、普通ではない。

 

「そういう貴様こそ。あの剣士に、ご執心ではないか?医療教会の狩人よ」

 

「これは手厳しい。まぁ貴公の言う通り、あの『出来損ない』の心の内を暴きたいのだよ、私はね」 

 

 エレメールよりも教会の狩人こそが、一人の男…つまり灰の剣士へと意識が傾いていた。

 

「あの男、本心は『斬る事の快楽』に溺れたい筈だが、どうにも素直じゃなくてね。こうして見るに、随分抑え込んでいるじゃあないかね」

 

 灰の剣士と教会の狩人とは幾度か面識があり、実際に剣も交えている。

その時、灰の剣士に潜む『獣性』を見抜き揺さぶりと動揺を誘ってみたのだが、未だ『内なる獣』を解放していない。

(本編前夜編、第82話参照)

 

「おいおい、あまり刺激しないでおくれよ?何せ、あの剣士には『王のソウル』が宿っているんだ。下手に『内なる獣』が解放されちゃあ、折角のソウルまで変質しちゃう恐れがあるからねぇ?」

 

 ここで仮面の錬金術師が、教会の狩人に釘を刺す。

灰の剣士には、王のソウルが宿っている。

彼の時代、最初の火が宿った時、幾多もの小人が見出したとされる王のソウル。

そのソウルは無限の可能性(ポテンシャル)を秘め、取るに足らない小人たちが神に等しい存在へ至ったとされている。

そして灰の剣士が火の時代を終わらせ、最終的には自身も完全に消滅した――王のソウルと共に。

しかし、王のソウルは未だ完全には潰えず、四方世界に流れ着いた彼と供に宿っていたのである。

今は(つぼみ)に等しい状態だが、ある程度成長した時期を見計らい奪取するのが、仮面の錬金術師の目的でもあった。

下手に彼の獣性が覚醒し『獣』と成り果ててしまえば、折角のソウルが変容し、計画に大きな支障が生じる恐れもあるのだ。

 

「貴公も忠義に厚いものだ。だが獣に変貌させる事で、覚醒を加速させる可能性もある。まぁ、実際試してみねば分からんがね?次は、私が動こう。協力してくれ給えよ、仮面の貴公?」

 

 仮面の錬金術師と教会の狩人は”同じ主”に仕えていたが、両者の思惑には大きな隔たりが存在していた。

この仮面の錬金術師の真意は読めないものの、見た限り”あの王”に忠誠を誓っている様にも思える。

仮面の奥で何を画策しているのかは知らないが――。

気を許すべき存在ではないと心の中で警戒する狩人だが、次は自分が動くという意思を示し、仮面の錬金術師に協力を要請する。

 

「ああ良いとも。近い内、この街では大きな一大イベントが催される。それに呼応した『例の教会』も動きを見せる予定だ。然らば、その政治ショーに相応しい演出を、下拵えしなければねぇ…♪」

 

 演劇の如き仰々しい身振りで、ワザトらしい台詞を吐く仮面の錬金術師。

この街には『剣の乙女』を始めとした一団が、聖黄金樹の視察に訪れるという。

この男は大袈裟に振舞ってはいたが、別段そこまでのお祭り騒ぎに盛り上がる事はないだろう。

だが、水の都の大司教にして六台英雄の一人と称される彼女が、態々この街へと来訪するのだ。

一大イベントである『収穫祭』ほどではないにせよ、そこそこには街も盛り上がり、人々の往来はどうしても多くなるもの。

その日に合わせ、幾つかの出店を構える商会も、既にこの街へと訪れていたのである。

無論、地母神神殿は、彼女の来訪の為に様々な準備に追われていた。

 

「ほぅ?それはまた、予期されぬサプライズよの。どれ、私も久々に着飾り、生者の街へと繰り出してみるかの?」

 

「…下らんな。どのみち我には関係のない話だ。だが、別の街へと襲撃を試みるには都合が良いか」

 

 フォドリックとエレメール。

二人は各々の反応を見せ、各自思案に更けていた。

 

――それは突如降り掛かる。

 

( 推奨BGM ブラッドボーン ―― ガスコイン )

 

「――ッ!?」

 

「――チッ…!あと一歩の所で…!」

 

 何の前触れもなく、フォドリックの円盾が金属音と火花を散らし、黒い影が翻った。

金属音からして、刃物が衝突したのだろう。

それがフォドリックの盾に接触――否、弾かれたのである。

力むフォドリックに対し、女の声で舌打ちする黒い影。

その黒い影は軽快な動きで、相対する建物の屋根へと着地した。

 

「何者か、貴様…!?」

 

 対峙する黒い影に、大剣を宙に浮かせるエレメール。

寸前まで気配を悟らせぬ程の隠密に長けた動きは、唯者ではない事は明白。

いつでも抉れるよう、エオヒドの剣舞を仕掛けられる体制で質疑した。

 

「仰々しいねぇ。お若いのからジジィまで大の男が揃いも揃って、屋根の上でヒソヒソ話かい?」

 

「貴公も懲りんなぁ?そんな調子だから、()()()()()のだよ」

 

 黒い影と教会の狩人は、顔見知りの関係だろうか。

互いに皮肉を込めた罵りが応酬する。

黒い影の頭部は、嘴の様なマスクで覆われ片手で短刀を構えながら、もう片方の手で銃を向けていた。

傍目に見れば、彼女と狩人の装備構成には若干の共通性がある。

 

「鳥羽の狩人…、異界に流れ着こうとも目的は変わらぬか」

 

「お互い様だ。狩人狩りがあたしの本職でね、獣狩りはついでなのさ…!」

 

 黒い影の正体は、鳥羽の狩人と呼ばれる女性だ。

 

「ハハハ…、あの血と腐臭に塗れた世界の住人にしては、中々に血の気が多いね。おぉっと”血に酔い過ぎた”からこそ、()()()()なのかな?」

 

「仮面のアンタ…この世界(四方世界)の住人みたいだね。だが、この()()()()じゃあない…いつの時代さね?」

 

「おおぅ…!?これは、なかなかどうして鋭い…♪」

 

 鳥羽の狩人が元居た世界を揶揄する仮面の錬金術師。

表向きは、お道化、友好的ながらも、言葉の端々には蔑みと嘲りが見え隠れしていた。

だが鳥羽の狩人も悠々と受け流し、仮面の錬金術師の領域へと踏み込む。

彼の反応を見るに、ある程度は確信を突いているらしい。

4人の内、仮面の錬金術師だけは、時代と国は違えど四方世界の住民の可能性が露わとなる。

 

「これこれ、お嬢さんも、いきなり銃など突き付けるものではない。どうかな?此処は(わたくし)、薄暮のフォドリックが一杯驕ってしんぜよう。この街で、お勧めの店があるのだよ。如何かな?」

 

 それぞれ反応は違えど、触発する両陣営を宥めに掛かるフォドリック。

銃を突き付け威嚇する鳥羽の狩人に、酒の席へと誘おうと交渉する。

 

「へぇ、こんなババァを口説いてくれるのかい?あたしのモテ期も、まだまだ捨てたもんじゃあないねぇ?折角のお誘い嬉しいんだが、生憎ね、店が早くに閉めちまったのさ。誰かさん方の、お陰で…――ね!」

 

 本気とも冗句とも知れないフォドリックの言葉誘いに、同じく冗句交じりに返す鳥羽の狩人。

語尾を強めると同時に、両手の獲物を瞬時に2丁の散弾銃(ショットガン)へと切り替え発砲――。

2丁の銃から水銀の散弾が、4人に襲い掛かる。

だが、その弾丸は虚しく空を切り、同時に4人共姿を消していた。

 

「……。全く、逃げ足の速い事で…。流石にあたし一人じゃあ、ちょいとキツイかねぇ…」

 

 収まり掛けた騒動の火に再び油が注ぎ込まれ、銃声の方へと人々が集まり始めた。

しかも此処は冒険者ギルドの間近くだ。

尚更と言えよう。

 

「まぁいい。別の用事を済ませるかね」

 

 鳥羽の狩人は悠々と姿を消し、街の住民に目撃される事はなかった。

 

……

 

( 推奨BGM ゴブリンスレイヤー ―― 子鬼殺し物語 )

 

「一つ…」

 

 銃口から立ち込める硝煙が、鉄兜を通し鼻を突く。

そろそろ、嗅ぎ慣れた臭いだ。

留め金を外せば、銃身が中折れ式に曲がる。

折れる事で解放された筒から更なる煙が立ち昇り、中の薬莢を取り出し次弾を装填した。

これで次の射撃が整い、後は目の前の小鬼を殺すだけだ。

 

「「…GYOBEBAVA…!?」」

 

 3体居た筈の1体は既に絶命しており、残り2体の小鬼は恐怖に顔を引き攣らせながら喚き散らす。

何せ初めてお目にかかる奇妙な武器に、小鬼達は恐れを成していた。

筒状の穴から破裂音と火花が飛び散ったかと思えば、同胞が挽肉同然に死んでいるのだ。

小鬼の大半は、拙い知識と思考能力しか持ち合わせておらず、彼の持つ武器が”銃”だという発想すら湧く事はない。

生き残った2体の小鬼――。

本能的な恐怖に支配され、彼等は一目散に逃走を図ろうとする。

 

「――逃がさん…!」

 

 背を向けた瞬間を見図り、彼は銃の引き金(トリガー)を引き発砲――。

銃口から散弾が射出され、四散した子弾が2体の小鬼を同時に引き裂いた。

 

「これで三つ…いや、一つ殺し損ねたか…」

 

 2体同時に仕留めた積りだが、一体は死に切れておらず痙攣を繰り返しながら藻掻いていた。

 

「これで三つだ…。死ね…小鬼め…死ね…死ね…死ね…死ね…」

 

 死にぞこないの頭を何度も踏み付け、足甲に包まれた踵は赤黒い液体と肉片が付着する。

踏み潰す――。

ただ只管に――。

何度も何度も何度も何度も何度も……。

 

「死ね…、ゴブリンは…皆殺しだ…!」

 

 兜奥の瞳は赤く灯り、一心不乱に遺体と化した小鬼の頭部を踏み潰し続けた。

 

「もう、死んでる…。ゴブリンスレイヤー」

 

 脇目も振らず踏み続ける彼に、前方から声が掛けられた。

そこで漸く彼の足が止まり、ふと前方へと顔を上げる。

立ち並び入り組んだ建物の影は、暗い路地裏を照らす月光さえ遮断し、更に暗がりを形成する。

その暗がりに佇み声を掛けたのは、外套に身を包んだ一人の剣士であった。

銃で3体の小鬼を殺し、死にぞこないの1体を踏み潰し続けた彼の事を、ゴブリンスレイヤーと呼んだ、目の前の剣士。

 

「……お前は…何者だ…?」

 

「――!?」

 

 一体誰だ、こいつは――?

ゴブリンスレイヤーと呼ばれた男の反応に、動揺を見せる一人の剣士。

 

「――私だ、分からないのか!?…火の無い灰、灰の剣士だ…!」

 

「……?……、……。…。…ああ…、…お前…か?…灰…よ」

 

 剣士は自らを灰の剣士だと名乗る。

彼、ゴブリンスレイヤーとは何度も小鬼退治を共にした間柄だ。

しかし、何かが可笑しい。

ゴブリンスレイヤーは心底、誰だか分らないかのような素振りを見せ、間を置いた後、漸く目の前の男が旧友である事を認識する。

 

「…何かあったのか?」

 

「……。いや…、いつも…通りだ」

 

「……」

 

 どうにも彼の様子が、おかしい。

演技にしてはあからさまに過ぎ、彼の性格上、演技でふざける様な男ではない。

だが今見せた彼の反応は、一体どういう事なのだろう。

それとなく様子を訪ねてみるが、彼からの反応は的を得なかった。

 

「何故、街中に小鬼が居る?説明しろ」

 

「…ゴブリンスレイヤー……」

 

 そこからは普段通りの彼に戻る。

彼に対し疑念を抱きながらも、灰の剣士は今までの経緯を説明した。

 

「そうか…。今ので最後なんだな?」

 

「ああ。君が仕留めたので最後だ」

 

「……。ならばもう用はない。俺は牧場に帰――うッ…!?」

 

「――!?」

 

 先程止めを刺した小鬼が、最後の生き残りだという。

それを聞いたゴブリンスレイヤーは、踵を返し牧場へと帰還しようとする。

だが、時を同じくして風向きが急激に変わり、彼が風下となる。

彼は突如として、顔を背けてしまった。

今夜は何時にも増して彼の様子が、おかしい。

 

「灰よ…、何か焚いているのか?」

 

 ゴブリンスレイヤーは、顔を背けながら手で顔面を庇う。

 

「ああこれか。獣除けの香と言ってな。小鬼にも効果が有る事が判明した」

 

 腰から細い紐でぶら下げた茶系の火の点いた”香”を手に取り、ゴブリンスレイヤーの前へと差し出す。

しかし、彼は更に後退り吐き気すら催した。

 

「俺に…それを近付けるな…ウゥェッ!」

 

「――ッ!?ま、待てっ!ゴブリ――…」

 

 彼はそのまま走り去り、暗闇の彼方へと姿を消す。

 

「……」

 

 一人残された灰の剣士は、半ば唖然としながら動く事が出来なかった。

 

……

 

 とにかく息苦しい。

赤と緑の異なる月光が、雑草だらけの街道を照らす中、鎧兜の冒険者…ゴブリンスレイヤーは堪らず兜を脱ぐ。

 

「…ハァ…ハァ…ハァッ…!」

 

 乱れた呼吸を繰り返し、少しでも新鮮な酸素を取り込もうと足掻く。

それにしても何だったのだ、あの妙な香は?

新しい酸素を肺に取り込む度に、少しずつ嘔吐感が和らいでゆく。

幾分冷静さを取り戻した彼は、先程の街中での出来事を思い出していた。

闇霊なる襲撃に伴い発生した、小鬼禍(ゴブリンハザード)

自身が駆け付けた時には収束に向かっていたが、その折で灰の剣士と遭遇した。

そこで彼が所持していた”獣除けの香”の煙に当てられ、逃げ帰る様に街を脱出したのである。

 

「獣除けの香…とか言っていたな、アイツ…。どこでそんな代物を?」

 

 幾分落ち着きを取り戻した彼は再び兜を被り、街へと振り返る。

ここから映る街は、何時もと変わらぬ様相だ。

 

( 推奨BGM ブラッドボーン ―― 狩人の夢 )

 

『獣除けの香、アレは、あたしの入れ知恵さね、ボウヤ…!』

「――ッ!?」

 

 不意にかかる声――。

咄嗟に身構えた彼は、声の方へと銃を向ける。

 

「止めときな!獣狩りの散弾銃は、早撃ちには向かないのさ…!」

 

 声の主に銃を向けた積りだが、逆に銃を()()()()()()()()()

声の質からして女である事は間違いない。

しかし彼女の出で立ちは怪奇極まり、否が応にでも警戒感が増す。

漆黒の衣服は他所でも散見されたが、頭部に嘴のマスクなどは滅多にお目にかかる事はない。

そんな異様な姿を、まさか地元で見る羽目になるとは。

 

「…俺に何の用だ?」

 

「アンタ…、大分呑まれちまってるねぇ…。内なる獣に…」

 

「…どういう意味だ?」

 

 一体何者で何の用だというのか?

漆黒の女の真意が読めず、ゴブリンスレイヤーは問い質す。

しかし彼女の言う『内なる獣』とは何を指すのか。

全く言葉遊びは、好かんと言うのに――。

先生にせよ、あの女達(孤電の術士と査察官)にせよ、俺はつくづく、こういう手合いに縁があるようだ。

 

「まぁいいさ、単刀直入に言ってやろう。…小鬼ばかりに(かま)けてないで、偶には”普通の冒険”に精を出しな。さもなくば、ボウヤは近い将来”獣になる下がる”だろうね」

 

「俺はゴブリンを殺す。誰の指図も受けん」

 

 とうとう見知らぬ輩にまで、()()されてしまったか。

漆黒の女の言葉、実は彼女が初めてではない。

以前にも彼は忠告を受けていたのである。

 

ギルドでいつも良くしてくれる、三つ編みの受付嬢。

牧場の牛飼い娘と、その叔父。

その牧場に最近住み込み始めた、異国(アーランド)の女。

 

彼等も挙って、ゴブリン以外の冒険を受けてみては?という提案をされた事があった。

そんな事に時間など割ける筈もない。

こうしている間にも、何処かで小鬼が生まれ続けているのだ。

不眠不休で動く体なら、一生を費やしてでも小鬼を殺し続けたい処だ。

 

「言い方を変えよう…。アンタは既に”獣化”の兆候が表れている。現に、あの剣士の事も直ぐには()()()()()()()()ろう?典型的な兆候さね」

 

「…そうか…」

 

「…アンタがそれで良いってんなら、構わんさ。だが何れは、牧場の隣人にも見境なく襲い掛かるんじゃあないかい?極め付けは…神殿で保護されてる”あの女”にもね」

 

「――黙れっ!」

 

 女の言葉に激昂した彼は、躊躇いなく発砲した。

技量で言えば明らかに女の方が上だが、自分が返り討ちに遭うという危機感さえ麻痺しており、怒りに任せ発砲したのである。

しかし、眼前に女の姿はなく、真後ろから首筋に刃を添えられていた。

完全に頸動脈を抑えられている。

少しでも刃を引けば、一瞬にして斬り裂かれ命を奪われるのは必至だ。

生殺与奪の権は、女が完全に握っていた。

 

「へぇ…大分、血と殺戮に酔っていたと踏んでいたんだが、まだ自我を発露できるだけの人間性は残っていたみたいだねぇ…?血に酔い過ぎて正気を失う奴は、怒りや憎悪さえ忘れ、只管に殺戮と血を浴び続け彷徨っちまう。…小鬼()ってのはね、心の内にも住み着くものさ。外の小鬼ばかり殺し続け、中の小鬼を御座なりにしてちゃあ、その内呑まれて当然なのさ」

 

「抵抗し続けろと言う事か…殺意に…?」

 

「分かってんじゃないか。殺意は確かに大きな武器になり、戦うには不可欠だ。そいつは否定しない。だがね、何もアンタ一人で戦って生きてる訳じゃあないだろ?良きも悪しきも人々は、何処かで繋がりっていうのを持ちながら生き続けている。小鬼を殺し続けるだけが、アンタの人生じゃあない。アンタは自分が思っている以上に、多くの繋がりを持って此処まで来た筈だ。小鬼を殺し続ける人生だけを選んでちゃ、アンタを信じ支え続ける連中も報われんだろ?」

 

「……俺は…今更器用には生きられん…」

 

 ゴブリンスレイヤーは、こういう人柄だ。

人生の大半は、小鬼を殺し続ける。

今まで、その事に従事してきた。

正直、自覚はあった。

小鬼ばかりに固執する、奇人である事に――。

そのお陰で、多くの人々から忌諱の目で見られ距離を置かれている事も認識している。

しかし、そればかりではないのも事実だ。

そう多くはないが、彼を支え続けてくれた者も居る。

 

一体何時からだろう。

人々の為に小鬼を排除し続ける積りが、何時の間にか”小鬼を殺す”事だけに固執と愉悦を覚え、それだけを”娯楽”とさえ捉えつつある。

今思い出してみれば、牧場の住民の視線も以前とは違うものに変わり始めている気がする。

取り分け、幼馴染でもある『牛飼い娘』の視線が、怯えと困惑の度合いに彩られていた事を今更ながらに思い出した。

 

しかし自分に、何が出来るというのか?

 

あの槍使いの様に気さくに振舞い、様々な冒険に出かけろというのか。

重戦士の様に多くの人員を纏め上げ、大物討伐を生業にしろというのか。

同期戦士の様に方々を渡り歩き、大小の遺跡を探索しろというのか。

他国からやって来た錬金術士の女の様に、数多の友人関係を築けというのか。

 

どう考えても、今の自分が成せそうにはなかった。

 

「あまり小難しく考えなさんな。街で誰かと関わり色んな話を聞くのも、ちょっとした冒険だ。小さな事だが、積み重ねていけば大きな糧になる。数日前のアンタは、神殿に足を運んでいたじゃあないか。何で止めたんだい?」

 

「――!!」

 

 女の最後の言葉に、彼は絶句する。

らしくは無いとは自認していたが、彼は数日の間だが、あの地母神神殿に足を運んでいた。

当然、あの不死の女の事を気に掛けての事だ。

入り口付近で佇むだけの行為を繰り返す彼――。

そう言えば、見知らぬ少女が話し掛けて来たのを覚えている。

 

長い金髪の神官服を着た幼い少女――。

 

よく灰の剣士と行動を共にしていただろうか?

だが何時しか神殿に通う行為すらも止め、彼は少ない小鬼退治の依頼に没頭し始めた。

まるで冒険者に成りたての頃の如く。

なぜ急に、神殿に通うのを止めたのだろう?

あの不死の女が”姉”である確証は無い筈だ。

それとも、自分らしくないと再認識したからか。

灰の剣士が行った『解呪の義』が、中途半端な結果に終わり失望したからか。

 

……分からない。

 

「――しっかりするんだよ!アンタは”獣”じゃあない。只人…『人間』なんだ。…それに、獣に呑まれ見境いが無くなっちまえば、小鬼殺しも出来なくなるだろう?」

 

「……!…そう…だな。…ああ、確かにアンタの言う通りだ。俺の目的は、あくまで()()で人間じゃない。それに自分の考えと意思は絶対に必要だ」

 

 血と殺戮に溺れ、人間の姿のまま心が獣化する実例(ケース)も事実として在り得る。

一般に正気を無くし、敵味方見境なく襲い掛かる嘗ての古狩人たちを、彼女は何人も予防(始末)してきた。

彼の主目的は、やはり小鬼だ。

彼女の言う通り、見境なく殺戮に踊り続け自意識を喪失してしまえば、小鬼と()()()()の区別すらつかなくなる。

それは冒険者と言わず、また『小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)』の本分とも大きくかけ離れてしまうのだ。

そんな事では、師と共に過ごした5年間の修練が全て無駄に帰す。

それだけは、あってはならない。

 

   ―― 俺は『ゴブリンスレイヤー』、()などでは決してない ――

 

気が付けば、随分呼吸も軽くなった気がする。

加えて疲労しているにも拘らず、意識も随分鮮明(クリア)だ。

 

「……」

 

 彼は無言で、自分の身体を見回していた。

 

「少しは()()なったかい、ボウヤ?…だが、まだ完全じゃあない。今の内に、自身を省みてみるが良いさ。今夜は小鬼禍(ゴブリンハザード)なんて発生しちまったが、今は小鬼関連の事件も少ない。時間には余裕がある筈さ」

 

 女の言葉通り、内に潜む『痞え(つか)』の様なものが取れた気がする。

意識が鮮明となり軽くなったのは、気の所為ではなかった。

 

「何故俺に、このような真似を?」

 

 しかし、この見知らぬ女――。

見ず知らずの自分に、ここまでする理由が見当たらない。

口そのものは悪くぶっきらぼうだが、彼女の言葉は何処か温かみを感じる。

まるで、子供を諭す近所の女性の如く――。

 

「唯のお節介さ。まぁ、獣の病を広げたくないのが本音だがね…。今のアンタなら、獣除けの香にも普通に対応できるだろうさ」

 

「獣の…病…?」

 

「…柄にもなく、喋り過ぎちまったかねぇ…?そろそろ、お暇するよ…」

 

「…何者だ、アンタ…?」

 

「ファンの一人さ」

 

 軽くも重く、風の様で大岩の如く振舞う漆黒の女。

彼が瞬きする間に彼女の姿は何処にもなく、辺りには数枚の黒い羽根が舞い散っていた。

 

「……」

 

 月光に照らされる黒い羽根の一枚を手に取ったゴブリンスレイヤー。

何を思ったのか、彼の心情を察する者は居ない。

彼はもう一度、漆黒の女の居た方角へと一瞥し、そのまま牧場へと帰路に就いた。

 

漆黒の女…彼女はこう名乗るだろう。

 

 

 

   ―― 鳥羽の狩人 ――

 

 

 

△▼△▼△▼△▼

 

 

 

デエェェ ―― 水の都 ―― ェェェエン

 

( 推奨BGM ダークソウル ―― キャラメイク )

 

時を同じくして、西方の大都市でもある『水の都』も夜の恩恵を受けていた。

山上から流れる幾多もの支流が、この都市の水源を支える巨大湖へと合流し注ぎ込まれる。

大都市ならではの夜の灯りと二つの月光が湖面に反射し、魅惑の風景が華開くのだ。

これが、この都市の日常であり人々の営みでもあった。

 

   ―― 平時であれば ――

 

水の都の一区画でソレは起こっていた。

 

「――ぬぅぉあッ!」

 

 怒号と共に繰り出された剣の一撃が、一つの人型を断ち切る。

 

「――GROOOOU……!」

 

 剣を真面に受けた人型は、絶叫と共に身体を左右に分け絶命する。

いや、絶命とは称すには、些か語弊があるだろうか。

ここは活動停止と称した方が正確だろう。

何せ、全身漆黒の甲冑を纏い、頭部は仮面とも素顔とも判別が付き難い姿をしている。

一説では、素顔と仮面が一体化しているという噂さえ流れている程に、不気味な出で立ちをしているのだ。

今倒れ伏した漆黒の騎士らしき人型――。

 

   ―― ダークレイス ――

 

「ふぅ…今ので最後だな?」

 

 そのダークレイスを切り伏せた、バケツに似たグレートヘルムと太陽が描かれたサーコート付きの鎧を纏う騎士――。

通称『太陽の騎士』こと『アストラのソラール』は、最後の一体を討ち屠った事を確認する。

 

「フえぇぇ~、流石バディ…。一人で3体全部倒しちゃった…」

「お見事です、ソラール様…」

 

 ソラールの戦いを見守っていた二人の女冒険者、赤毛の斥候と戦女神の女司祭は彼の戦い振りを称賛する。

 

「ウワッハハハ…!何を言う?貴公等の援護あっての戦果!感謝するぞ!」

 

 騎士という身分だが、やはりうら若き少女たちに称えられるのは悪い気がしない。

彼女達の声援に気を良くしたソラールは、上機嫌で剣を鞘に納めた。

 

彼等はギルドの依頼を請け、街中に出現したダークレイスの討伐に勤しんでいたのである。

実質ソラール1人で3体を相手取り見事勝利を収めたとはいえ、彼女達の援護が無ければ結果は解らなかった。

世界が変わろうとも、ダークレイスは手強い存在に変わりはなかった。

赤毛の斥候が『屑輝石』を砕き、即席の魔力弾と(クロスボウ)による射撃で支援する。

そして戦女神の女司祭が、『聖光(ホーリーライト)』と『聖壁(プロテクション)』の奇跡で戦線を支えた。

その甲斐あり、3体のダークレイスの分断に一役買い、勝利に貢献できた訳である。

 

「やっぱり、太陽の騎士様は頼りになるなぁ…!」

「アンタが居てくれりゃあ、この都市は安泰だ!」

「太陽の騎士様こそ、真の英雄よね!」

 

 ソラール以外にも、衛兵や冒険者たちも馳せ参じていた。

現場付近の住民に避難を呼びかけ、ソラール達が戦い易い場所の確保に尽力していたのである。

ソラール達の奮戦ぶりと勝利に彼等の士気も高揚し、現場は再び平穏な空気を取り戻す。

 

『――ソラールさぁ~んッ!』

 

 そんな彼等に、一人の若い男が馬で駆け付けて来た。

実は彼も冒険者で、首に”黒曜等級”の認識票をぶら下げている。

以前の彼は白磁等級の新人だったが、ダークゴブリン戦に参加した事で昇進が叶った次第だ。

実は彼、ソラールが当時率いていた騎馬隊に参加していた過去があり、今はこうして彼等の一党に加えて貰っていた。

冒険者としてはまだまだ腕は未熟ながら、昔から馬の世話が得意で乗馬術と槍の扱い長けており『男槍の徒』として、専ら伝令役として従事していた。

 

「おお、貴公。何事かね?」

 

 何時になく急ぎで駆け付けたらしく、男槍の徒は馬上とは言え呼吸を乱していた。

 

「――ギルドからの緊急依頼です!」

 

 呼吸を整えながらも、鐙の荷袋から一枚の用紙を取り出しソラールへと手渡す。

もちろん彼が読み易いよう、ランタンを馬上から照らす事も忘れない。

 

「…ふぅむ」

 

 ランタンの灯りに照らされた文面を読み上げ、ソラールは暫し思案に耽っていた。

 

「ソラール様…文面には何と…?」

 

「うむ、依頼にはこう書いてある」

 

 女司祭の質疑に応えるソラール。

依頼書にはこう記されていた。

 

―― 西方辺境に在る小さな町及び近隣の村々に、所属不明の騎士隊が襲撃を繰り返している。

   速やかに対処して頂きたい。

   規模は分隊レベルで構成。

   近接武器の他に、召喚術や魔法にも長けている模様、注意されたし。

 

   成功報酬…歩合制 ――

 

「所属不明の騎士隊…ですか?」

「バディは何か心当たりある?」

 

 ソラールから受け取った紙面を読む女司祭と赤毛の斥候は、彼からの言葉を待つ。

 

「外面的特徴が窺えんようでは、判断のしようがないな」

 

 いくら所属不明と記された処で、騎士と言っても装備構成は千差万別だ。

しかし、国ごとに定められた騎士装備とも限らず、中には騎士装備の野盗さえ混在しているのが世の常。

その騎士隊が、本当に騎士身分なのかも怪しい。

しかし召喚術や魔法に長けた集団と言うのも、少々引っ掛かる。

唯の略奪集団と、慢心を抱くのは非常に危険だ。

 

「多分、アイツ等の事じゃないかな?」

 

 腕を組み考え込むソラールに向け、一人の剣士風の冒険者が何か知っている素振りを見せた。

 

剣士風の男が曰くには、こうだ。

 

赤と紺を基調とした派手で目立つ騎士鎧を身に纏い、胸甲には『覗き込む鳥のような刺繍』が施されていると言う。

全てが騎士という訳ではないが、中には軽装の兵士らしき姿も複数目撃されており、騎士隊というよりは傭兵崩れの集団に近いのではないか、との事だ。

そして文面にもある様に、魔術にも長け、屑輝石なども頻繁に使用してくるらしい。

 

「う~む…、やはり心当たりがない」

 

 貴重な情報ではあるのだが、赤と紺で彩られた鎧など今までお目にかかった事も無い、珍妙で珍しい装備構成だ。

嘗ての故国『アストラ』でも、その様な部隊は存在していない。

情報通りなら、煌びやかな出で立ちに思えなくもないが、行動理念は唯の野盗そのものである。

 

「しかし我々宛に依頼が舞い込んできたという事は、それだけ追い詰められているという事だ。済まぬが、後処理を貴公等に任せてよいか?」

 

 小さな辺境の町とはいえ、相手の襲撃に手を焼いているのは間違いない。

あまり間を置けば、街そのものが蹂躙される危険性さえある。

恐らく武力に乏しい近隣の村々は、もう――。

人任せなのも気が引けるが、ダークレイスの事後処理を周囲の衛兵や冒険者たちに任せる事にした、ソラール一党。

夜もすっかり更けた時間帯だ。

少しでも早めの休息を取り、明日への備えとしたかった。

 

「勿論です、元々は我々の管轄内!」

「後は俺等に任せて、アンタ達はゆっくり休んでくれ!」

 

 このダークレイス討伐の件も、本来は此処に居る別の冒険者たちが請け負った依頼だ。

しかしダークレイスの数と力量は予想以上に強大で、こうしてソラール一行の助力で無事解決に漕ぎ着けたのである。

彼等もソラールの要請に快諾した。

 

「恩に着る。さぁ皆、宿に戻ろうか?明日も早い、少しでも休み英気を養うのだ!」

 

「「「――はいッ!」」」

 

 現場の後処理を皆に託し、ソラール一行は馬車でギルドへと戻る。

 

――ダークレイスの襲撃と言い、正体不明の騎士隊の襲撃と言い、どうにも人里での襲撃が目立つようになった。

 

言い様の無い不安感を抱きながら、ソラールは自前の馬車を走らせた。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

戦鷹の爪剣

 

ストームヴィルの戦鷹が、その脚に嵌められる爪剣を人が用いるように拵え直したもの。

鷹の動きを阻害しないよう、その刃は細く薄く、軽量である。

 

羽ばたく翼を備えながら、鋭き刃は虜囚の枷となる。

自由の翼で、縛鎖の空へと飛び立つ。

 

 

 

 

 

 




ブラッドボーン要素も、徐々に増やしていこうかと思っています。
しかし途中までしかクリアしておらず、全てを網羅している訳ではないのでご了承を。
他のソウルシールズに比べ若干ホラー要素が強く、しいて言うならそれが原因です。
動画やwikiから引用した知識が大半になるかと思います。
次回は、ソラール側のお話となります。

ストックが無くなったので、次回更新は未定です。

エルデンリング、対人戦で全然勝てない…。
みんな強過ぎる……。( ̄ω ̄;)

如何だったでしょうか?
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。  
デハマタ。( ゚∀゚)/
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