ゴブリンスレイヤー ―灰の剣士―   作:カズヨシ0509

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ドーモです。
やっと話が出来上がったので、更新致します。
今回はサブタイトル通り、ソラール視点でのお話です。
では投稿致しますドゾ。( ゚ ω ゚ )


第110話―エピソード オブ ソラール3 辺境町の防衛―

 

 

 

 

 

 

狙撃弩(スナイパークロスボウ)

 

カリムの狙撃手たちが用いる、射程距離の長い大型のクロスボウ。

スナイパーボルトと組み合わせることが多い。

 

長い台座は狙いを定めるのが難しく、使用には熟練の技量が必要となる。

 

戦技は「タックル」

肩から思いきりぶつかることで敵を押し出し、距離をとる。

 

戦場で最も警戒すべきは、狙撃とも言われている。

知らぬ間に狙い打たれ落命するなど、決して珍しい話ではないのだ。

 

値段は一律 金貨4枚~10枚。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 木々の香る壁に囲まれながらも、彼等の日常は此処から始まる。

此処は水の都に門戸を構える、冒険者ギルド。

戦士に魔法使いと多様な冒険者が集う組合の場。

 

( 推奨BGM ゴブリンスレイヤー ―― ギルド )

 

複数の受付棚の一つに、グレートヘルムと太陽が描かれた鎧を纏った騎士が、ギルドの受付嬢と対峙していた。

 

「お気お付け下さい、太陽の騎士様。件の集団は、かなりの手練れ揃いとの噂です」

 

「うむ、そうらしいな」

 

 昨晩の依頼(ダークレイス討伐)を片付ける傍ら、男槍の徒が携えて来たギルドの緊急依頼。

正体不明の騎士隊が、小さな辺境町に度重なる襲撃を仕掛けているという。

当初は、町の自警団や冒険者たちで抵抗を試みていたのだが、次第に劣勢を強いられ被害が増大していた。

 

「残念ですが、町近隣の集落や村はもう……」

 

「……。安心召されよ。このアストラのソラール、我が太陽に誓い、必ずや依頼を完遂してみせようぞ。ウワハハ…!」

 

 件の敵集団は、規模以上の戦力を誇り、町以外の人里は壊滅させられているとの事だ。

村より逃げて来た、僅かな生存者からの報せである。

曇りがちな表情の受付嬢。

そんな彼女を励ますかのように、ソラールは”太陽賛美”で事件解決を高らかに宣言した。

 

「頼みますぜ、太陽の騎士さん!」

「水の都じゃあ、今やアンタが最高戦力だ!」

「ついこないだまで白磁の新人だったのに、今や『銅等級』だもんなぁ」

 

 この都市に来訪したての彼は、お世辞にも好意的な目を向けられてはいなかった。

しかし実績に実績を重ねた今の状況が、太陽の騎士ソラールという評価を物語っている。

ギルド中の冒険者から彼に対し、期待と激励の声が向けられていた。

 

「出発の準備は出来てます。急ぎましょう、ソラール様!」

 

 受け付けを済ませた彼の下に、戦女神の女司祭が”出発準備は完了している”との旨を告げた。

緊急依頼と言う事もあり、本来なら報せを受け取った瞬間から現場へと急行しなければならない。

しかし、昨夜は『ダークレイス』3体という強敵を討った事もあり、ソラール以外の人員の疲労は蓄積していた。

故に、一晩を明かし、ある程度の余裕を持たせる事で回復に努めたのであった。

休養を挟んだとはいえ、こうしている間にも被害が拡大している恐れもある。

必要以上に急かす女司祭の態度には、そういった理由も含まれていた。

ソラールは彼女と共に、集合場所へと向かう為ギルドを後にした。

馬車には必要な物資が積み込まれ、出発準備は整っている。

 

「二人とも待たせた」

 

「ふわぁぁ…、おはよぅ…バディ…」

「おはようございます、ソラールさん!」

 

 荷馬車には赤毛の斥候が搭乗しており、眠気まなこを擦りながら力無く挨拶を交わして来る。

半面、男槍の徒は張り切った様子で自前の馬の手綱を握っていた。

 

「物資の方は抜かりないか?」

 

「はい、問題ありません。現地調達が叶うとは限りませんから」

 

 積み荷の最終確認を問うソラールに対し、女司祭は問題ないと返す。

恐らく件の町は、幾許かの被害に見舞われている筈だ。

被害の度合いにもよるが、高い確率で町の機能に支障をきたしているだろう。

そういった状況も想定し、今回は水の都で可能な限り準備を整えたのである。

 

「宜しい、では現場へと急行する。ハァッ!」

 

「――ハァッ!」

 

 準備が整った事を確認したソラールは荷馬車の馬を走らせ、男槍の徒も馬で追従する。

急ぎと言う事もあり、2頭の馬は忽ち水の都から姿を消した。

 

……

 

( 推奨BGM ゴブリンスレイヤー ―― 過去からの呼び声 )

 

道行く彼等の視界に映ったのは、抉れ破損した岩塊の欠片。

それ等は街道の至る所に散乱しており、見る者の不安を煽る。

 

「……ソラールさん、これって…?」

 

 馬の速度を落とし岩塊を器用に避けつつ、男槍の徒はソラールに語り掛ける。

言葉の歯切れが悪いのは、彼も大方を察しているからだ。

 

「……此処でも戦闘が起きたという事か。見たまえ、周囲を――」

 

 破損だらけの街道だけではない。

ソラールが示す通り、街道の周囲は木材や傷だらけの武具などが散らばっていた。

欠損していたが木材の形状から、車輪であった事が窺える。

恐らく何らかの形で、馬車か荷車が戦闘に巻き込まれたのだろう。

 

「えっとね、この近くに集落があった筈よ」

 

 赤毛の斥候が手にした地図と現在地を照らし合わせ、近隣に集落が存在する事を告げる。

 

「…少し気になるな。念のため立ち寄ろう」

 

 一刻も早く現場に到着したいのは山々だが、近隣の被害状況も気になる要素だ。

多少の時間は浪費するが、ソラール一行は敢えて進路を変更し近隣へと馬を走らせた。

 

馬を走らせる事暫し――。

街道外れに位置する現場に、彼等は騒然となる。

 

「「「「……」」」」

 

地図の示す通り、集落の痕跡は確かに残っていた。

だが余りに異質な光景が、彼等の前に広がっていたのである。

地面には巨大なクレーターが形成され、内部は跡形もなく消失していたのだ。

クレーターの外縁部には、崩れ去った建物らしき残骸が僅かに散乱している。

 

「何だこれはッ…!?」

 

 漸く言葉を絞り出すソラールでさえ、眼前の現状に思考が乱れる。

クレーター内部は何もかもが消失しており、一切の痕跡も残ってはいない。

 

「……こ…これじゃ、調べようがありませんよ…?」

 

「まさか敵部隊に、これ程の力が…ッ!?」

 

 男槍の徒と女司祭も、目の前の惨状に言葉を詰まらせるのみ。

信用筋から購入した地図に、狂いは無い筈だ。

間違い無く此処には、集落が存在していたであろう。

しかし、集落中心部と思わしき地点には見た目通りのクレーターがポッカリと口を開けている。

まるで巨大なナニカで消滅させたかの如き、作為的な介入を思い浮かべる女司祭。

 

「……」

 

 ソラールは無言で御者台から降り、クレーターの傍へと歩み寄り立ち尽くす。

 

――確かに、何らかの力が作用した痕跡…。しかし人が起こすには、余りに強大な事象だ。例の集団と断定するのも早計か。

 

クレーターの周囲には得体の知れないソウルが、こびり付いていた。

もしも標的である敵部隊がこれ程の現象を起こし得る力が有るのなら、目的地である辺境の町など既に滅ぼされていても不思議ではない。

それに、件の町は数度に渡り襲撃を受けているが、未だ持ち堪えているとの情報も入手している。

つまり敵部隊に、眼前(クレーター)の様な現象を引き起こす力は備わっていないという事に繋がる。

 

――…死と呪いの匂い(ソウル)を感じる。

 

更に調べ上げれば、漂うソウルには彼の時代(ダークソウル)に酷似した流れを察知する事が出来た。

 

「皆、現場へ急ごう。此度の依頼、覚悟を決めた方が良さそうだ…!」

 

 しかしソラールは早々に検分を切り上げ、現場へ急ぐ旨を周りに伝える。

 

「「「……!」」」

 

いつになく焦燥を滲ませるソラールの気配。

聞きたい事は幾つか有ったメンバー達だが、彼の雰囲気に無言で従い出発を再開した。

 

 

 

……

 

 

 

デエェェ ―― 辺境の町 ―― ェェェエン

 

( 推奨BGM ゴブリンスレイヤー ―― 辺境の街 )

 

現場へと到着したソラール一行。

彼等の予想通り、町の機能は低下しており半壊した防護柵や防壁が目に映る。

だが滅びたという訳でもなく、少ないながらも住民達が瓦礫の撤去や復興に従事している。

辛うじて持ち堪えてはいるのだろう。

自警団と思わしき兵士や、他に依頼を請けていたであろう10数名の冒険者たちが屯している。

だが、彼等の殆どが傷を負っていた。

町そのものの規模は、水の都は無論、あの西方辺境街と比べても見劣りしている。

体裁としては、ギリギリ”町”と呼べるほどの規模なのだろう。

ゆっくりと町を見回してみれば、必要最小限の宿泊施設や雑貨屋などが数件存在している位だ。

恐らく、旅人や冒険者が中継地点として立ち寄る為の町である事が窺える。

 

「結構やられてるね…」

 

 馬車の幌から顔を出す赤毛斥候は、町の被害状況に表情を顰めた。

外周部ほどではないにせよ町の内部も襲撃の煽りを受けており、幾つかの建物の壁面が損壊している。

焼け焦げた跡や、何かでぶつけられた跡が散見された。

 

「間に合った方だな。依頼主へと急ぐか」

 

 とにかく現状を詳しく知る必要がある。

依頼用紙だけでは情報不足と判断したソラールは、依頼主の居る建物へと馬を向かわせた。

 

因みにソラール達が所有する馬車は、ダークゴブリン戦での成功報酬で一新されており、幌付きの馬車へと変貌していた。

牽引する馬は一頭だが身体能力極めて良好で、いざとなれば車体部分を切り離しソラールの乗馬としても機能する優秀な馬だ。

 

町の中心部に一際大きな建物が、彼等の視界に映る。

屋敷とはいかないまでも、頑丈で立派な構造をした民家だった。

馬車を降りたソラール達は、警備兵の案内で依頼人の部屋へと辿り着く。

 

「おおっ、お待ちしておりました!太陽の騎士様…!」

 

 上品な口髭を蓄え人の良さ気な壮年の男が、ソラール達を出迎える。

この小さな町の運営を取り仕切っている代官であり、今回の依頼人だ。

ソラール達を見た瞬間、大きな溜息を吐き心底安堵したかのような表情を浮かべる代官。

度重なる今回の襲撃に、相当頭を悩ませていたのだろう。

若干膨れ上がった腹部は贅肉の所為だろうか、荒事への対応は不得手に感じられる。

 

「不躾で申し訳ないのだが、詳細をお聞かせ願えますかな、代官殿?」

 

 代官と対面する形で来客用のソファーへと腰掛けたソラール一行。

彼等には上等な紅茶が振舞われ、代官から『どうぞ、頂いて下さい』と勧められた後、ソラールは茶を一口含んだ。

貴族の国アストラ出身でありソラール自身も貴族身分である故、社交辞令の一つでも交わすべきなのだが、あいにく交流を深めに来た訳ではない。

少々無粋ながらも情報の詳細を代官に求めた。

 

「近隣の集落が壊滅した……その報せが、事の始まりでした…」

 

 苦々し気な表情で語る代官。

 

今から一週間も前の事である。

この小さな町に突然怪我人が運び込まれ、ちょっとした騒ぎへと発展した。

意識は残っていたものの身体中至る所に裂傷や打撲の跡が見られ、素人目線でも重傷者である事が判る。

その重傷者は、近隣集落の木こりであった。

負傷具合から明らかに普通ではない事を見抜いた衛兵は、木こりから事情を聞き出す。

 

何の前触れもなく、武装した兵士や騎士の集団が押し寄せ略奪や殺戮に奔ったのであった。

精々20名足らずの小さな集落に抗する術など無く、瞬く間に蹂躙され尽くし滅び去った。

当然、木こりも凶刃の餌食となったのだが幸か不幸か急所は外れていたらしく、敵集団が去った後目を覚まし、この町へと報せに逃げ落ちたのであった。

だがそれは、ほんの”始まり”でしかなかった。

木こりの報せを受けた代官は、すぐさま役人たちを招集し緊急会議を開き対応策を練る。

冒険者を雇うにせよ衛兵を使うにせよ調査隊を派遣し事実確認の後、他の村や集落へと注意喚起を呼び掛ける案が採用される事になる。

だがそんな町を嘲笑うかのように、次々と村壊滅の報せが届けられた。

立て続けに壊滅する近隣の村々から落ち延びた、僅かな住民たち。

その住民たちは皆挙って口にする。

木こりと同様、武装集団に襲撃された――と。

気が付けば町近隣の村々は軒並み滅ぼされ、残りはこの町のみとなっていた。

 

「敵集団の規模としては、20~30名で構成された分隊規模と記されていたが、相違ありませぬかな?」

 

「ええ間違いありません。私自身も確認済みです」

 

 腰の雑嚢から依頼用紙を取り出し内容に誤りが無いかを確認するソラール。

対する代官も一切嘘偽りがない事を強調する。

既にこの町も2度に渡る襲撃を受けており、その度に代官自身も敵部隊を視認していた。

 

「しかし敵は、こう…召喚術のようなものを使いますので、一概に規模を断定し辛いのが現状です」

 

 2度の襲撃で判明した事だが、敵部隊は召喚術に長けているらしく構成規模以上の戦力を発揮するのだという。

また、実体というよりも影に似たナニカを召喚し、町に(けしか)けて来た。

更に混沌勢の先兵とも言われ巨人の末裔とも恐れられる『トロル』をも従え、町の防壁が損傷していたのは、そのトロルの仕業である。

村や集落などとは違い、この小さな町は多少なりとも兵士や冒険者が所属しており、2度の襲撃に耐えてきた。

しかし敵部隊は小規模に似合わぬ戦力を有し、今回の襲撃まで防ぎ切れる保証はない。

戦闘で傷付き疲弊した町の機能は、目に見えて低下していた。

近隣の村々が滅ぼされた事により物流は停止。

度重なる襲撃で溢れ返る負傷者たち。

恐らく今回の襲撃で、町の明暗が分かれるだろう。

 

「2度に渡る襲撃とお聞きしましたが、敵の襲撃時間帯は予測できますでしょうか?」

 

「ええ。2回とも夕暮れ時を狙ってきております」

 

 今度は女司祭が質疑し、代官は、2回とも夕暮れ時を狙われたと応える。

 

「それじゃあ、今からじっくり防備を固めないとだね!」

「今は幸い午前中、まだ時間がありますね」

 

 代官が言うには、夕暮れ時を狙われた。

その言葉を聞いた赤毛の斥候と男槍の徒は、時間に多少なりとも猶予がある事に安堵した。

 

「いや、急いだ方が良い!俺が敵指揮官なら裏をかき、()()()強襲をかける!」

 

「「「「――ええぇぇ~ッ…!!」」」」

 

 

 

……

 

( 推奨BGM ゴブリンスレイヤー ―― 討伐作戦 )

 

町の住民達は可能な限り、代官の民家へと避難させてある。

万が一この町が陥落するのなら民家の地下から町の外へと脱出させる計画だが、それはあくまで最終手段だ。

 

町の防壁中央、つまり正門に設けられた高台へと陣取るソラール一行。

 

「……本当だ、バディの言った通りだね」

 

 高台に設置された遠方視認用の望遠鏡を覗く赤毛の斥候。

手持ちの遠眼鏡などより遥かに遠方を見渡せる拡大鏡を通した彼女の瞳には、複数の敵影が投影されていた。

赤と紺を基調とした騎士鎧を纏った人影を中心に、雑多な装備に身を包んだ雑兵らしき集団で構成されている。

ソラールの忠告通り、敵集団は既に町へと迫りつつあった。

過去2回の襲撃では夕暮れ時を突いていたが、今は昼前。

もしソラールの進言が無ければ、敵の奇襲を許し陥落していた恐れもある。

充分な迎撃態勢は間に合わなかったが、生き残りの冒険者や衛兵たちとの共同で最小限の防備は整った。

味方戦力は、30足らず――。

2度に渡る襲撃で大半の衛兵と冒険者は負傷しており、今動ける全戦力はこれだけだ。

 

「トロルは…厄介です…!」

 

 望遠鏡を使うまでもなく、女司祭の目には大型の人影が映っていた。

明らかに人間とは一線を画すほどの巨影が複数、敵集団の先陣を切り此方に迫っている。

 

「トロルは確か、再生能力があるんでしたっけ?」

 

 男槍の徒の懸念通りトロルは下級の巨人族で、並外れた怪力と打たれ強さに加え、放置していても損傷を回復させてしまう再生能力まで有していた。

これが意外にも厄介で、生半可な武器の攻撃では真面に傷を負わせる事すら叶わない。

再生速度を越える破壊力を叩き込むか、別手段を用いて再生能力を封じなければ討伐は困難だ。

 

――あんなトロル、居たでしょうか?

 

口にこそしなかったが、女司祭は首を僅かに傾げていた。

こう見えて彼女は、かなりの戦歴を誇る冒険者で、幾度となくトロルとの遭遇経験もある。

しかし今視界に映るトロルは、彼女の知る個体とは特徴が違っていた。

トロルにしては異様に瘦せ細り、長大な剣を背負っているのだ。

 

「……」

 

得体の知れない不安感を抱きながら、彼女は敵集団の注視を継続する。

 

「案ずるな、トロルは毒で弱らせれば良い。問題は――」

 

 しかしソラールは、異形襲来の可能性を考慮し、毒矢の準備を代官に進言していた。

再生能力を有すトロルだが、毒は体内の器官を侵食し様々な障害を引き起こす。

毒で直接絶命に至らせるのは難しいだろう。

だが、身体能力の弱体化を誘発させる事は可能だ。

毒でトロルを弱らせれば、再生能力の減衰させる事が出来る。

そうなれば、小戦力で討伐する事はそう難しくはない。

だがソラールの疑念は、トロルではなく敵集団が率いている車両らしき存在に意識が傾いていた。

敵集団の中心には、箱形の荷馬車が一体のトロルに率いられている。

形状から察するに、略奪した物資を運搬する為に在るのだろう。

ソレはまだ良い。

ソラールが気にしていたのは、4輪式の丸型車両だ。

気味の悪い人面を模した先端部には、障害撤去用の牙と砲口らしき構造物が確認出来た。

丸型車両の中からは、火のソウルが漏れ出ている。

恐らく砲口からは、火炎弾か噴射炎が射出されるのだろう。

そして車体頭頂部には、煙穴が設けられている。

構造からして、余分な熱を逃がす放熱機構を兼ねているに違いない。

 

――戦車か、合計3台。本当に唯の略奪集団が持ち出せる代物か?

 

人面を模した3台の丸型車両――。

それ等は『戦車』と呼ばれれ、陸上戦では無類の強さを発揮する恐るべき兵器だ。

 

「どうやって動いているかは知らんが、戦車には真正面から当たるなよ、貴公等」

 

 ソラールの故国アストラでも戦車は存在しており、やはり真正面から向かうのは無謀に等しく、個人の力量ではどうにもならない兵器だった。

だが生産数も少なく、当時アストラでは騎兵が主力だった為、戦車が主役になる事はなかったのだが真正面から当たるのは自殺行為も同然だ。

しかし戦車という機構は、馬に比べても小回りは利かない。

ならばその弱点に付け込み、真後ろから攻めるのが得策と言えよう。

ソラールは仲間達に、戦車の特性について忠告する。

 

『――敵部隊、迫って来ますッ!』

 

 いよいよ敵集団が町正門へと迫ろうとしていた。

物見からの報告に、ソラール一行を含めた守備部隊は一層緊張感を募らせる。

 

『――総員、迎撃用意!矢を番えッ!』

 

 報告を受けた衛兵長が号令を掛け、部下と冒険者たちは射撃の準備に移る。

とにかく弓や弩を持ち出し、最小限の運用法を速成で叩き込んである。

正門は以前の襲撃で既に崩壊しており、進軍を阻む事が出来ないのだ。

可能な限り弾幕を浴びせ出鼻を挫かねば、敵が一気に町中へと雪崩れ込んでしまう。

皆が皆、緊張した面持ちで矢を番え射撃指示を待つ。

 

そして間もなく、敵集団が町正門に迫った。

 

( 推奨BGM ダークソウル ―― 牛頭のデーモン )

 

『――各位、ありったけの矢を射かけろッ!』

 

 予想通り先陣を切り込んだのは、2体のトロルだ。

衛兵長の号令と共に、防壁の高台に陣取った冒険者や衛兵から無数の矢が撃ち込まれる。

射掛けた全ての鏃には毒が塗布され、再生力を有すトロルを内部から弱体化させる作戦だ。

飛来した矢の大半が、トロルの巨躯に突き刺さる。

対トロル用の毒ではない為、効果が表れるのに多少の時間を要するだろう。

しかし皆の目を引いたのは、トロルの外観にこそあった。

 

「兵長、何なんです?あのトロル?」

 

 3発ほどの矢を射かけた後、兵士の一人が語り掛けた。

彼自身、トロルを実際に目にしたのは初だったが、今まで聞き及んだトロル像とは大きくかけ離れていたのである。

従来のトロルは、体格にも優れ下級ながら怪力を誇る巨人としての異形である事が通説であった。

しかし正門まで肉薄した2体のトロルは、異常に瘦せ衰え真面に活動できるのかも疑わしい外観だった。

更に、半ば空洞染みた腹部には筒状のよう物を備えている。

だがトロルの動き自体は非常に活動的で、真正面から太刀打ちできるとは思えなかった。

 

『――各位、拘束網(ネット)を展開ッ!動きを封じろッ!』

 

 2度に渡る襲撃で、木製の正門は既に崩壊している。

正門を閉め籠城する事は不可能で、このままではトロルの突進を防ぐ事は叶わない。

そこで正門の脇に巨大な大網(ネット)を設置し、動きを少しでも封じる作戦で構えていた。

兵長の合図で、冒険者たちが共同で大網を引っ張り正門の代わりに展開させる。

充分な時間があれば鎖や鉄糸で網を組めたのだが、今回は丈夫な縄を幾重にも折り合わせた即席の大網で迎え撃つ事となった。

大網を展開した後、設置点の両端を杭で固定する。

多数の矢を受けた2体のトロルは、多少の矢傷をものともせず大網へと突進。

そのまま力尽くで大網を引き千切ろうと藻掻く。

2体のは大網に絡まり、動きが鈍くなる。

 

『――この機を逃すなッ!追加の矢を撃ち込めッ!』

 

 動きが鈍った瞬間を見計らい、兵長は追加攻撃を命じる。

大網に絡まった一体を中心に、再び多数の矢が射られた。

 

「初撃は、何とか耐えたな」

 

 防壁の高台で射撃戦に参加していた、ソラール一行。

トロルの侵入を辛うじて阻めた事を確認したソラールは、続いて侵入を試みる第2陣、つまり戦車部隊へと意識を向ける。

大網の拘束時間は限定的ながらも一応の勢いを削ぐ事はできた。

しかし戦車部隊まで肉薄されては、縄の大網など瞬時に破られてしまうのは明白。

此処は自ら打って出る事で、少しでも戦車の数を減らす必要があるだろう。

確証は無いが、戦車の弱点らしき部位は露出している。

車体頭頂部の煙穴、若しくは後方で操縦している兵士を討てば、戦車を無力化できる筈だ。

しかし、それは未だ憶測の域が出ないのも事実だ。

先ずは自ら実証しなければ、味方陣営の士気にも直結する。

 

「貴公等はトロルを頼む。俺はあの戦車に抗する、頼んだぞ!」

 

「――ソラールさん、お一人でですか!?」

「――無茶は駄目よバディっ!」

 

 得体の知れない戦車に一人で対抗するというソラール。

当然、赤毛の斥候と男槍の徒は苦い顔を向けた。

 

「我等に、祝福を――」

 

 だが女司祭だけは、静かに奇跡を行使する。

その瞬間、ソラールの剣に淡い光が宿った。

彼女が施したのは『祝福』の奇跡で、対象物を聖なる光で強化させる効果を持つ。

此処でトロルと戦車が合流し火力を集中されては、今の守備隊など簡単に瓦解する。

そうなれば敵は一気に町へと雪崩れ込み、結果など最早語るまでもない。

長年冒険者を経験してるだけに、彼女だけは現状を理解している様だ。

 

「武運長久を、ソラール様…!」

 

「うむ、感謝する。貴公等も役割を果たせ…!」

 

 女司祭からの支援を受けたソラールは、言葉少なくも感謝の意を述べる。

狙撃弩(スナイパークロスボウ)を床に置き腰の鞘から剣を抜いた彼は、戦車が眼下へ来るのを高台から待ち構えた。

彼の背から、二人に現状を説明する女司祭の声が聞こえて来る。

 

「――時は今ッ!」

 

 眼下に一台の戦車が迫り、今にもトロルを捉える大網を焼こうとしていた。

人面を模した正面の砲口から、高熱の揺らめき《陽炎》が見え隠れする。

恐らく火炎放射か砲弾が発射されるのだろう。

その証拠に、頭頂部の煙穴から余熱が活発に噴出された。

それを見極めたソラールは、高台から一気に跳び下り、戦車の煙穴目掛けて剣を垂直に突き立てる。

女司祭の祝福で強化された彼の直剣。

その魔力が、煙穴から車体内部まで浸透し暴走現象を引き起こした。

 

――ぬッ、いかん!

 

丸形の車体は振動を始め、次第に激しさを増す。

その後の結末など、容易に察しが付く。

危機を察したソラールは急いで車体から飛び降り、ローリングを交えながら戦車から退避を試みる。

彼の予想通り、内部暴走を迎えた戦車は派手な爆発を引き起こし、操縦していた兵士もろとも綺麗に爆散した。

 

「先ずは1台、目論見は成功」

 

 ソラールの推察通り、煙穴は戦車の致命的弱点でもあった。

それが幸いし結果的に1台の破壊に成功したが、残りは後2台存在している。

また、もう一度防壁の高台まで戻る時間など無く、今度は地上から残りの戦車と敵集団と戦わねばならなかった。

 

「……」

 

 戦車と敵部隊を警戒しながら、彼は少しづつながら防壁に向け後退する。

 

「……いや…運は此方に傾いた…か?」

 

 兜奥で汗を滲ませていたが、敵部隊の動きを見た彼は一縷(いちる)の安堵を覚える。

此処で、敵部隊が”全戦力”で一斉攻撃を賭ければ、ソラールも町も蹂躙できただろう。

しかし敵はソレをせず、ソラールには戦車1台だけが向かって来た。

残り1台の戦車は数人の兵士を引き連れ、正門のトロルの方へと向かっており、残りの戦力は何故か動く気配を見せない。

敵の指揮がお粗末なのか、別の思惑があるのかは判別が付かず不気味でもあるのだが、今は敵の戦術に便乗させて貰う事としよう。

 

( 推奨BGM ダークソウル ―― アイアンゴーレム )

 

1台の戦車が彼目掛けて突進する。

かなりの速度を誇り、軍馬並みの速力を誇っていた。

戦車の質量と速度で轢死させる戦術に違いない。

当然ソラールも、戦車相手に真正面から対抗しようなどとは考えていない。

ギリギリの距離まで引き付け、飛び込み気味のローリングで戦車の突進を躱す。

戦車は虚しくソラールの傍を通り過ぎ、後方には操縦を担った兵士の背が視認できた。

 

「狙うはアレだな、しかしこの距離では…」

 

 次に狙うべき部位は定まった。

あの兵士を討てば、戦車は無力化できる筈だ。

しかし通り過ぎた戦車の速度は、予想以上に速く人間の脚では追い付く事が出来ない。

最初から回避の直後に戦車の後方へと取り付く算段だったのだが、此処で思惑が外れてしまう。

今から『雷の槍』を投射したとて間に合わない。

 

狙撃弩(スナイパークロスボウ)を置いて来るのではなかった…!」

 

 狙撃弩(スナイパークロスボウ)なら戦車の突進を躱した直後の反撃で、操縦兵を狙い撃つ事が出来た筈だ。

飛び道具を置いて来てしまった事を彼は今更ながらに後悔する。

彼の予想に反して戦車の旋回性能は高く、ドリフト走行で反転しながら再度ソラール目掛けて突撃を敢行した。

突進を躱す(タイミング)は掴んでいる。

しかし問題は、どうやって戦車に取り付くかだ。

飛び道具での狙撃が望めない以上、後は取り付くしか選択肢が残っていない。

何とか動きを停めるか阻害するかで隙を作らねば事態は好転しないのだ。

防壁まで誘き寄せ壁ギリギリで躱せば、戦車と壁面を衝突させる事が出来るだろう。

しかし、敵がその様な愚鈍な策に引っ掛かるのかは疑問だ。

仮にその策を実行すれば、敵戦車は砲口からの攻撃に切り替える公算が高い。

何とか隙を造り出そうと策を練っている間に、敵戦車が迫って来る。

 

しかしその時である。

 

「――ッ!?」

 

 突如、彼の後方から魔力の(つぶて)が数発飛来した。

辛うじて円盾で防いだが、彼は敵部隊と戦車に挟まれる位置関係となっていた。

前方は戦車、後方は敵部隊。

今の魔力礫は、後方の敵部隊からの攻撃に違いない。

積極的な攻勢は見せなかったが、何もしてこないという事でもないらしい。

 

――チッ、厄介な…!

 

後方に目を向けている間にも、敵部隊からの魔力礫は断続的に飛来し、ソラールを攻め立てる。

このまま敵の牽制に意識を奪われそうになるが、下手に意識を向ければ戦車の餌食なるのは必至だ。

此処は何とか耐え忍ぶしかない。

 

「魔力防護…!」

 

 ソラールは奇跡『魔力防護』と盾防御で魔力礫を耐えながら、戦車の突進を再度躱す。

やはり戦車の突進速度は速く、後方から取り付くには動きが間に合わなかった。

ソラールの苦戦は続き、敵部隊の牽制に耐えながら何度も戦車の突進を回避した。

しかしこのままでは埒が明かず、ソラールは次第に消耗を強いられた。

だが何度も躱す内に敵部隊の構成を見る事が叶い、敵中心部に陣取る大型の荷馬車が目に付いた。

その大馬車も一際巨大なトロルが守りに就いているが、アレを利用できないものだろうか。

何とか敵戦車を誘引し敵部隊へと突っ込ませる事が出来れば、隙も生まれるだろう。

もし戦車の破壊が叶わずとも、その隙に町側へと逃げ込み味方と合流すれば仕切り直しも出来る。

敵も何らかの対策を講じるだろうが、とにかく戦車の隙を作らねば味方の合流も厳しい状況だ。

再び戦車と敵部隊に挟まれる形となるソラール。

受けた痛痒(ダメージ)をエスト瓶で回復し、戦車へと意識を向ける。

そして戦車の突進と同時に、またもや敵部隊から魔力礫が襲い掛かるが、ソラールは盾と魔力防護で凌いだ。

戦車の突進速度と自身の脚力を見極めた頃合いの距離で、ソラールは敵部隊目掛けて全力疾走する。

丁度戦車に背を向ける体勢となり、戦車が見る見る間に彼の背へと迫った。

彼の行動が奇怪に映ったのか、敵部隊も一斉に警戒し守りを固める。

数人の敵軽装兵が、ソラールを迎え撃つべく突撃して来るが、敢えて無視。

敵兵を掻い潜りながら、そのまま荷馬車を守る一際巨大なトロル目掛けて只管疾走する。

彼の目論見通り、戦車は彼に追い縋るが急に速度を緩めてしまい動きを停止させてしまった。

やはり敵もソラールの作戦を読んでいたらしく、ソラールの作戦はとん挫し敵部隊に包囲される事となる。

こうなれば彼の運命など、言わずもがな――。

後は蹂躙され尽くし、彼の生涯は幕を閉じるだろう。

太陽の騎士ソラールの命運は尽きたのだ――。

 

……

 

( 推奨BGM Antti Martikainen - From the Fields of Gallia )

 

彼の策が、その程度ならば――。

 

「――それも計算済みだ」

 

 何を思ったのかソラールは突如反転し、敵戦車目掛けて再度全力疾走する。

最初から、敵戦車が動きを停める事は分かっていた。

何度も敵戦車の突進を躱す内に、敵部隊が何やら魔法の儀式を行っている事を察知出来たのだ。

事前情報から敵部隊が、召喚術にも長けている事は承知済みだ。

恐らく、召喚の儀式を施しているのだろう。

トロルと戦車に先陣を切らせ、敵部隊が積極的な攻勢を見せなかったのは、その為だ。

召喚の儀式を完成させ戦力が整い次第、全力攻撃を仕掛ける作戦に違いない。

即ち敵部隊は、唯の脳筋集団ではない。

その証拠に戦車もソラールの作戦を読み、敵部隊に突っ込む事もせず停車した。

 

敵戦車の停止――。

 

それが彼の狙いだ。

突如反転したソラールは、停止した敵戦車へと真正面から取り付く。

停止した戦車なら真正面からでも取り付くは容易で、先端部の牙も脅威とはならない。

流石に操縦兵も彼の思惑に気付いたのか、戦車を再び起動させるが時既に遅し。

走行で振り切る事は不可能と悟り、今度は戦車を回転させ取り付いた彼を振り解こうと足掻く。

 

「――ウワッハハハ!流石に意気が良いが、その程度で俺は納まらんよ!」

 

 戦車の回転に吹き飛ばされそうになるも、腰から抜いたダガーを車体に突き刺しながら徐々に操縦兵へと迫った。

数人の軽装兵もソラールを引き剥がそうと試みるも、回転した戦車は半ば暴走気味に砲口から火炎まで噴射する始末。

近付いた敵兵は、軒並み吹き飛ばされるか炎に焼かれ憐れな最期を遂げた。

そして戦車の抵抗も空しく、取り付いたソラールは遂に操縦兵に掴み掛り蹴飛ばし戦車から引き剥がす。

つまりたった今、この戦車はソラールが乗っ取ってしまったのである。

 

「ふむ…こう動かすのか…、アストラ製とは少々違うな…」

 

 操縦席に張り付いたソラールは、ソウルの流れで凡その操縦法を学ぶ。

見習い時代の研修で戦車の操縦法を学んでいた彼だったが、案の定アストラ製とは勝手が違っていた。

少々手こずりながらも車体から流れ来るソウル(チュートリアル)で着実に学習し、その間にも敵兵が彼を引き剥がそうと再び戦車に迫って来た。

 

「少々付き合って貰うぞ、貴公等!」

 

 粗方学び試運転も兼ねたソラールは、戦車を起動させ突進で数人の敵兵を跳ね飛ばす。

最高速ではなかったものの戦車の重量と速力が上乗せされた質量エネルギーは凄まじく、軽装の敵兵など成す術もなく吹き飛ばされ地に伏せた。

残りの敵兵も果敢に戦車を停めようと殺到するが、今度は戦車から炎が噴射され数人の敵兵を纏めて焼く。

 

――試運転(テスト)は、この位にするか。

 

戦車の操縦法は概ね理解出来た。

殺到する敵兵を蹴散らしたソラールは戦車を反転させ、再び味方部隊へと合流を試みる。

彼が戦っている間、正門の守りが突破され、2体のトロルと敵兵を引き連れた1台の戦車が町中へと侵入してしまったためだ。

このまま敵本陣に突撃する事も考えたが、敵部隊の召喚術と総力を警戒し慎重策を取ったのである。

 

――敵の中に小鬼(ゴブリン)も混じっていたな。あの様子だと召喚の儀式に携わっていた様だが、アレが噂に聞く『ゴブリンサモナー』か。

 

敵陣に接近した際、数体の小鬼が召喚術に参加していた事を思い出す。

弱者の代名詞の様な小鬼だが、召喚まで行使出来るとなれば少々慎重にならざるを得ないのだ。

況してや人型に率いられているとなれば――。

 

「では貴公等!この戦車は、ささやかな賠償として、このソラールが貰って行く!ウワハハハ!!」

 

 しかし心中とは裏腹に快活な声音で戦車を操縦しながら、ソラールは味方部隊へと引き返した。

 

( 推奨BGM 進撃の巨人 - attack on titan )

 

2体のトロルに加え一台の戦車と数人の敵兵が、町に侵入している。

巨体と怪力を誇るトロルは力任せに暴れ回り、幾つかの建物が損害を被っていた。

 

「トロルめっ…、好き勝手させんぞッ!」

 

 数人の冒険者が、トロルへと切り掛かる。

彼らは全員が鋼鉄等級であり、それなりの戦闘経験を有していた。

冒険者たちの攻撃がトロルに炸裂し、確実な痛痒を積み重ねてゆく。

 

「――おい、毒が効いてるぞ!」

 

 冒険者の一人が、確かな手応えを叫ぶ。

元来トロルは再生能力を備え、多少の傷なら忽ち塞がってしまうのだ。

しかし今のトロルの傷口からは、殆ど再生の兆しが見られない。

傷口から水蒸気らしき気体が立ち昇っている事が窺えるため、若干の再生能力は機能しているのだろう。

だが先ほどの毒矢による波状攻撃が功を成し、結果トロルは毒による悪影響で代謝能力が低下していた。

更に戦闘力自体も低下しており、言い伝え通りの膂力を発揮し切れていない。

 

「――今の内だ、畳み掛けろぉッ!!」

 

 それを好機と見なした冒険者の一人が叫び、一斉にトロルへと飛び掛かる。

毒による弱化を突かれたトロルは、冒険者たちの総攻撃に耐え切れず仕留められた。

 

「――よしッ、討伐数1ッ!」

「後はもう1体のトロルだな――ぐべぇあッ…!?」

 

 脅威であるトロルの1体を討った事で、士気が高揚する冒険者たち。

しかし次のトロルへと意識を向ける途中、別方向からの奇襲を受けた一人が頭部に攻撃を受け絶命した。

その男は頭防具を付けていたが、唯の布バンダナであった事が災いし、防具ごと頭部が砕けて散っていた。

気が付けば一人の敵兵が、緑光に彩られた小石を地面に投げ付け、其処を基点に緑光の魔力礫が襲い掛かって来たのである。

 

「――うおぉッ…、何だこれは…!?」

「――ぎぇあッ…!?」

 

 一人の敵兵が投げ付けた小石の魔力礫で、更に二人の冒険者が絶命する。

今敵兵が使用しているのは、『屑輝石』や『カッコウの輝石』と呼ばれる代物で、自らの精神力を代償に魔力礫をぶつける使い捨ての小道具だ

これ等の代物は、王都を中心に既に流通していた筈だが、彼等は鋼鉄等級にも拘らず知り得なかった。

それと言うのも彼等は南方出身の冒険者で、南方は東西南北の中で最も平穏と呼ばれていた所為だ。

それ故、彼等は『輝石』という代物に知識も耐性も無かったのである。

5人居た内2人を残し、彼等は軒並み絶命する。

たった一人の敵兵の使う、輝石と呼ばれる魔術擬きに――。

 

「――何だコイツ、毒が効いてねぇのかッ!?」

「――手負いの獣と同じだ!追い詰められてキレやがった…!」

 

 残ったもう1体のトロル――。

同じく毒矢の攻撃で弱体化している筈なのだが、どういう訳か却って凶暴性が増している。

背負っていた長大な剣と咆哮を繰り出し暴れ回っていた。

衛兵達が何とか抑え込もうと奮闘するが、振り回す巨剣と衝撃を伴う咆哮で成果を上げられないでいた。

 

『――GRUOOOOO!!』

 

 トロルは更に暴れ回り、益々被害が拡大してゆく。

 

「――せいあぁッ……!!」

 

 そんな時、一人の若者が、馬を駆り兵士達の前へと飛び出す。

 

「――くらえっ!」

 

 馬の俊足を生かしトロルの合間を擦り抜けざまに、手にした投げ槍(ジャベリン)を側面から投射する。

彼の投射した槍はトロルの脚部に突き刺さる。

暴れ回っていたトロルは一旦攻撃の手を緩め、注意を馬を駆る男の方へと向けた。

そして馬ごと男を吹き飛ばそうと剣を振り回すが、馬の機動力に翻弄され攻撃が追い付かずにいる。

 

「――今の内に体勢を…!」

 

 馬を駆る若者が総崩れとなった衛兵たちに声を投げ掛ける。

彼はソラール一党に所属する『男槍の徒』であり、まだ未熟ながら馬術と槍術に長けていた。

ただ槍術と言っても彼は投射に秀でており、接近戦は未だ素人の域を出ていない。

だが、馬術の機動性と一定距離からの槍投射を組み合わせる事で、手負いとはいえトロル相手に単身有利に立ち回っていた。

男槍の徒は、時間稼ぎをしている間にも適切な間合いを保ち、馬術と槍投射を駆使しながらトロルへと更なる痛痒を与え続ける。

 

「く…、もう投げ槍(ジャベリン)が…」

 

 しかし槍を投げると言う事は、それだけ槍を失うという事でもある。

それは彼自身も自覚しておりコスト削減の為、木の柄に金属製の鏃を付けただけの安物を複数持ち込んでいた。

それでも繰り返し投射し続けていれば、何れは無くなってしまうというもの。

最後の一本を投げ終えたものの、トロルは絶命に至っておらず未だ彼に対し剣を振り回していた。

とはいえ痛痒と毒そして疲労が蓄積したのか、トロルの動きが徐々に緩慢さを増している。

遅効性ながらに毒が回って来たのだろう。

だが活動停止していない限り、脅威には変わりない。

馬の機動力の甲斐ありトロルに捕捉される事も無いのだが、此処で別の横槍が彼に襲い掛かった。

 

「――うわッ…しまッ…」

 

 トロルを気にするあまり、一台の敵戦車にまで意識が向いていなかった。

彼の進路を予測していたのか、待ち構えていた戦車の砲口から炎が噴射される。

炎そのものは馬を焼く事はなかったが、獣とは元来火を恐れる習性がある。

炎に焙られ本能的に恐怖心を煽られた馬は無秩序に暴れ回り、男槍の徒は必至に手綱を握り耐え忍ぶものの結局は馬から振り落とされてしまった。

 

「――ゥぐッ…!」

 

 馬から振り落とされ、背を地面に強打してしまう。

薄い革鎧では地面による衝撃を完全に吸収しきれず、彼は痛みで蹲ってしまう。

そして彼の眼前には、先程炎を噴射した戦車が鎮座していた。

 

「…ぅ…ァ…」

 

 彼の乗馬は何処かへと逃げ去ってしまい、遠くから赤毛斥候や女司祭の叫びが耳を打つ。

彼自身も危機感は自覚していたが、激痛の衝撃と戦車の恐怖で判断力が混濁していた。

程無くして、戦車の砲口から再び火がチラつきを始める。

 

「……!」

 

 間も無く訪れる結末に、彼は目を閉じ歯を喰いしばった。

 

『――ぬぅおぉあぁぁ…!!』

 

 だがその時、唐突に雄叫びにも似た怒号と振動が降り掛かる。

何事かと目を開ければ、先程の戦車が吹き飛ばされているではないか。

 

「……え……?」

 

 目の前の光景に呆然とする男槍の徒。

眼前に広がる光景には、吹き飛ばされ転倒する一台の戦車と、ソレを吹き飛ばしたであろう()()()()()が佇んでいたのである。

 

「貴公…生きているな!?」

 

「…あ…え…?」

 

 吹き飛ばしたであろう戦車の後尾には、何故か()()()()が搭乗していたのである。

 

「……」

 

 現状に理解が追い付かない男槍の徒。

 

「残念だが呆けている暇はないぞ。貴公は馬を取り返し、次の襲撃に備えよ!間も無く第2陣(第2ウェーブ)が押し寄せて来る」

 

「……!?」

 

 本人の意識とは無関係に、刻一刻と変化する戦況――。

だが、彼の現状把握を周囲は待ってはくれない。

今この町中は戦場なのだ。

未だ現状に困惑し翻弄される彼だが、ソラールから言葉が掛けられた。

 

「貴公の働きで、トロルの一体が仕留められた。見たまえ…!」

 

 ソラールの示す方へと視線を向ける男槍の徒。

彼の視線の先には、複数の衛兵がトロルに止めを刺している最中だった。

猛威を振るっていたトロルだったが、彼の馬術と槍投射を駆使した攪乱術で衛兵たちが体勢を立て直していたのである。

更に毒矢の効果が本格的に作用した事でトロルは限界まで弱体化し、こうして討伐が叶ったという事だ。

 

「……」

 

「貴公…中々やるではないか!このソラール、見事と言わせて頂こう、ウワッハハハ!」

 

「///そ…そんな…俺はただ、必死で――」

 

 漸く今の状況と自分の働きに理解が追い付くも、男槍の徒は視線を泳がせ言葉を詰まらせてしまった。

 

「だがもう一度言う。馬を取り返し、第2陣に備えたまえ。次から本場だ…!」

 

 間も無く敵部隊が召喚の儀式を終え、本格的な侵攻が開始されるとソラールは警告する。

今からは総力を結集しなければ、町を守り切る事は難しい。

時間の許す限り、少しでも戦力を整え備えなければならない状況なのだ。

 

「――り、了解です…!」

 

 地面に打ち付けた痛みなど気にも掛けず、男槍の徒は逃げ出した自身の馬を追い駆けその場から走り去った。

 

「…さて、俺も備えねばな…」

 

 既に町中の残敵は、ソラールが戦車で殲滅している。

走り行く男槍の徒の背を見ながら、彼も次の準備へと取り掛かった。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

投げ槍(ジャベリン)

 

投擲用に調整された槍。

投げ槍を携えた大軍で巨大な敵を討つ様は、只人の象徴でもある。

投擲という技術は古くから在り、人類の歴史と開拓に大いなる関係性を持つ。

 

値段は 金貨1枚~2枚。

 

 

 

 

 

 




 エルデンリングをプレイ中、何度も戦車に轢かれては火で焼かれた記憶があります。
頭上の致命攻撃が弱点なのは知っていましたが、ケイリッド方面の場所しか知らない。
他に活かせる場所ってないものでしょうか?
結局後ろに回り込みながらチクチクと攻撃を当てるか、無視するか――。
ホントに硬いな、戦車と言いカマを振り回す自動人形と言い……。(´·ω·`)

話が脱線しました。

如何だったでしょうか?
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。  
デハマタ。( ゚∀゚)/
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