ゴブリンスレイヤー ―灰の剣士―   作:カズヨシ0509

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ドーモです。
あっという間に年末間近。
今年は、あまり更新できなかったように思います。
も少し、執筆速度が速くなればいいのですが……。( ̄ω ̄;)
では投稿致しますドゾ。( ゚ ω ゚ )


第111話―エピソード オブ ソラール3 辺境町の防衛2―

 

 

 

 

 

 

精霊魔法・隧道(トンネル)

 

働け働け土精(ノーム)ども、楽しい仕事の後になら、ミルクとクッキーまってるぞ…!

土の精霊に働きかけ、地面や壁面といった構造物にも穴を形成する事が出来る。

最大半径2メートル、長さ50メートル。

精霊魔法を使用する際は触媒を必要とし、この魔法には、木の根、楔、蚯蚓(ミミズ)などを用いる。

 

美味なる酒と食事をこよなく愛し、多くを知り広きを悟る一人の鉱人。

陽気に舗装された彼の道、しかし照らす灯は暗い魂の誘いにも似ていた。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

( 推奨BGM ゴブリンスレイヤー ―― 討伐作戦 )

 

 町中至る所に散乱する、瓦礫の数々。

中には、燻ぶった黒焦げの木材も混じっている。

トロルと戦車そして数人の先遣隊が(もたら)した被害は、決して無視できるものではなかった。

しかし撃退も叶い、彼等は僅かに空いた時間を最大限活用しつつも次なる襲撃に備える。

先程の襲撃は唯の揺さ振りに過ぎず、間も無く敵部隊の召喚儀式が完了する。

そうなれば敵陣営は充分な戦力で、この町へと一斉に雪崩れ込むのは明白だ。

しかし敵部隊を押し留める為の正門は完全に破壊され、防壁も損壊箇所が目立つ。

とは言え敵部隊個人の質としては、然程脅威でもなかった。

騎士はともかく敵兵個人の質そのものは、王都正規兵に比べれば見劣りする水準だ。

一対一の状況を作り出せれば、今の戦力でも太刀打ちできるだろう。

だが数を頼みに一斉攻撃を仕掛けられれば、アッという間に吞まれ町は崩壊してしまう。

町防壁の損壊が目立つのは、幸か不幸か正門付近だけだ。

加えて敵総数は、召喚術抜きにすれば30前後。

仮に召喚術を加え倍の戦力と見積もったとしても、側面や後方に回り込む包囲戦術を実施するには数が足りない。

恐らく敵部隊は正門へと殺到し、一気に攻め込んで来るだろう。

 

「――と言うのが、俺の見解だ」

 

 戦車を降りたソラールは、私見ながらも敵部隊の予測行動を衛兵長へと告げた。

 

「う~む、快諾しかねるが、全方位に兵を割けるほどの余裕もない。受け入れる他ないか…」

 

 指揮官用の兜奥で険しい表情を浮かべる衛兵長。

町を守る自警団隊長の彼としては、万が一を想定し部下を町の全域へと分散配置したいのが本音であった。

しかし数度に渡る襲撃と此度の戦闘で、兵士の数が足りないのが現状だ。

不安感は拭えないものの今は兵力を集中しなければ、敵部隊の進攻を防ぐ事は到底不可能。

いや、今の残存兵と冒険者たちを合わせても、残り兵力は22名――。

正直敵部隊に抗するには心許なく、一部の部下や冒険者からは『町を捨て撤退すべき』との意見も飛び交っていた。

敵以上に、味方は消耗を強いられていたのである。

 

「とにかく正門だ。其処をどう使うかが、町の運命が決まる。敵の出鼻を挫く為に、何か策を講じなければな」

 

 断定は出来ないものの、敵は正門へと群がる可能性が高い。

それなら寧ろ好都合というもの――。

ほんの一瞬でも敵部隊を正門で足止めし、1ヶ所に固まった所に火力を集中すれば有利に戦局は傾く筈だ。

だが敵部隊を阻む為の肝心の扉が既に破壊されており、足止めに使える障害物が無いのが最大の問題だった。

今から土嚢を用意し積み上げる時間を待ってくれるほど、敵も優しくはない。

 

「どうしましょう?土や瓦礫なら、そこら中に落ちているというのに…」

 

 ソラール一党に所属する女司祭も、地面に散乱する瓦礫に目をやりながら頭を悩ませていた。

これ等を積み上げバリケードなりを構築できれば、少しは防護柵としても機能する。

しかし今更総出で取り掛かる素振りを見せれば、それを察知した敵部隊が一斉に攻め込むだろう。

 

『――じゃったら、ワシの案を聞いてくれんかね?』

 

 皆が考えあぐねる中、声を掛ける男が一人――。

皆が声の方へと振り向けば、低い身長の老人が近寄っていた。

手には杖を持ち、東洋風の特徴的な民族衣装を纏った長髭の男だ。

腰には陶器の酒瓶を携えた陽気な老人だが、足取りは思いの外しっかりと芯が通っている。

 

( 推奨BGM ゴブリンスレイヤー ―― 変なやつ )

 

「貴公…鉱人(ドワーフ)の呪文使い…か?」

 

「如何にも。時間が無いで、簡単にな。見ての通り、ワシは鉱人(ドワーフ)の精霊魔法使いで導師を務めておる身じゃ」

 

 ソラールの見た通り、声を掛けて来た男は鉱人で、精霊魔法使いの導師だと名乗る。

首に『紅玉等級』の認識票をぶら下げてる事からも冒険者なのは確定。

更に等級と年齢から、かなりの手練れである事が窺えた。

 

彼を『鉱人導師』と呼ぶ事にしよう。

 

――戦士職ばかりだと思っていたが、鉱人(ドワーフ)の導師とはな…珍しい。

 

これまでの過程でソラール自身も幾人かの鉱人を見てきたが、鉱人の呪文使いと遭遇したのは今回が初であった。

 

「――おっと、策を授けんとな!」

 

 間も無く敵部隊が本格的に動く筈だ。

鉱人導師は、早々に策を提示した。

 

……

 

( 推奨BGM エルデンリング ―― Formidable Foe I )

 

町の誰もが、召喚の儀式を終えた事を悟る。

正門目掛け直進する敵部隊。

その規模は、倍に膨れ上がっていた。

だが特殊な召喚術を行使したのか、敵兵の半数は影とも霊体とも判別し難い姿をしている。

なれど、動き自体は本物と何ら遜色なく、やはり敵戦力が2倍以上に膨れ上がったとみるべきだろう。

更に召喚された影は人型のみならず、トロルと同等の巨体までもが加わっていた。

影の様な人型の群れ――。

これ等は、召喚術というよりも魔法生物を生成したと表現した方が、正確なのかも知れない。

いよいよ正門まで差し掛かる敵部隊。

やはり先陣を切るのは、巨大なトロルの影たちだ。

2体存在していた。

一応正門には、細い丸太と布をあり合わせた簡素な防護柵(バリゲード)が設けられていた。

鉱人導師の要請に応え、衛兵や冒険者たち総出で急遽組み上げた代物だ。

しかしこの様な粗製品が、何の役に立つのだろうか。

突撃して来るのは影とはいえ2体のトロル――。

小規模な小鬼の襲撃を防ぐのとは訳が違う。

細い数本の丸太と布造りのバリケード如きで、トロルの突進など防げる筈もない。

 

「――おい、来たぞッ!」

 

 見張り台の衛兵が、トロル接近の報を叫ぶ。

それと同時に簡素なバリケードが激しい揺れを引き起こし、丸太の一本が圧し折れたのだ。

トロルの影の体当たりが(もた)す圧力に、細い丸太など到底耐えられる訳がない。

影とはいえ本物と大差ない破壊力。

たったの一撃で、この有様だ。

 

「「「「「……」」」」」

 

しかし現場の人員は、どういう訳か動きを起こす事なく、ただ成り行きを見守るのみ。

緊迫した面持ちながらも誰一人として身構えるだけで、騒ぐ事もしなかった。

 

「……」

 

 それはソラールも同様で、唯バリケードの崩壊する様を見届け、少し首を動かし傍らの鉱人導師に視線を送るだけだ。

 

「――信用せいッ、太陽の!」

 

 焦燥する面々を余所に、策を授けた鉱人導師は持ち前の陽気さを崩さず何やら呪文の詠唱に移っていた。

 

「働け働け土精(ノーム)ども、楽しい仕事の後になら、ミルクとクッキーまっとるぞ…!」

 

 彼は腰の鞄から、切り取った木の根や楔などの小道具を幾つか取り出している。

それ等は精霊術を行使する為の触媒に使われ、精霊使いは原則上、触媒を用いる事で術を発現させる。

 

「――隧道(トンネル)!」

『――トロル侵入ッ!』

 

 彼が術を発現させたと同時に、防護柵は破壊されトロルの影が侵入を果たす。

流石に2体同時のトロルの影の突進では、簡素な防護柵では食い止めようもなく無残に粉砕された。

そんな彼等の努力を嘲笑うかのように、2体のトロルの影は町へと侵入する。

だが2体のトロルの影は、忽然と姿を消してしまった。

瞬きする間も無く、その場に居た筈のトロルの影が完全に消失してしまったのである。

何の音沙汰も前触れもなく。

 

「――いよっしゃあっ、成功じゃぁッ!!」

 

 姿を消したトロルの影を確認し、一人喝采を上げる鉱人導師。

 

「おおっ、ほんとにトロルが消えやがった!」

「例の精霊術ってやつか…!」

「手練れが居てくれて助かったぜ…!」

 

 それを見ていた冒険者たちも驚きと安堵の声を上げる。

鉱人導師の使用した術とは、隧道(トンネル)と呼ばれる土の精霊術で、文字通り地面や壁面に穴を空ける術である。

様々な制限が備わっているも最大半径約2メートル、最大深度50メートルまで穴を掘る事が可能で、トロル程度の体躯なら完全に穴へと落とし込む事が出来る。

防護柵を破壊し突破したトロルの影だが、足下付近に深い穴が現れ見事落下してしまったのである。

実は、簡素な防護柵は破られる事を前提に造られ、わざわざ布を多めに使ったのは鉱人導師の術を悟らせないように目隠し(カモフラージュ)の役割を担っていたのである。

最初から術が露呈したのでは、幾ら知能の低いトロルの影でも警戒させてしまう恐れがあった。

敵部隊がトロルの影に先陣を切らせる事は、大方予想出来ていた。

しかしトロルの影とはいえ脅威には違いなく、真正面からの激突は避けたかった。

故に鉱人導師の考案で、予め落とし穴に落下させる策を用意していたのである。

 

「流石に50メートルも掘れんでな、まぁ20メートルもあれば脱出できんじゃろ。――ホイッとな!」

 

 トロルの影2体が、半径2メートル深度20メートルの穴に落下した事を確認した鉱人導師。

確認するや、すぐさま術を解いた。

すると正門付近の大穴は、みるみる間に塞がり地面は元通りとなる。

つまり落下した2体のトロルは生き埋めという形になり、また正確には魔法の儀式で生み出されたトロルの霊体のような存在だ。

恐らくその時点で、消滅の憂き目に遭っているだろう。

こうなれば再度儀式を実施しない限り復活する事はない。

結果、2体のトロルの影は消滅したのである。

 

目の前の脅威が消失した事に、意気高揚とする味方陣営。

 

「――まだ喜ぶのは早いぞ、お主等!第2段階に移行じゃッ!」

 

 限定的ながらも成果と勝利に湧き立つ味方陣営。

しかし本格的な侵攻は、これからだ。

敵本隊の侵攻に備える様、檄を飛ばす鉱人導師。

命を受けた人員は、慌ただし気に動きを再開する。

やはり残りの敵部隊も役目を果たさぬ正門へと殺到するが、落とし穴作戦は既に使っている為、同じ手は通用しないだろう。

総数60を超える敵部隊が、崩壊した正門を潜り抜け町中へと雪崩れ込んだ。

案の定、前衛を担っていたのは、召喚儀式で生み出した影たちが中心だ。

彼等に自我が備わってるのかは定かではないが、恐れを知らぬかのような素振りで町中へと攻め込んで来る。

彼等に生半可な攻撃など何の意味も成さず、確殺せねば死ぬまで動きを止める事はない。

更に命令通りに動くとなれば、ある意味、不死兵や亡者よりも厄介な相手だと言える。

 

「各位、配置に就いたな!」

 

「コッチは問題ありません!」

「俺等もいけるぜ!」

 

 衛兵長の声に、担当する位置に就いた衛兵や冒険者達が呼応する。

皆が設置式の盾(パヴィス)に身を隠し、迎撃態勢で備えていた。

無論、ソラールや鉱人導師も設置式の盾(パヴィス)に身を隠し、周囲と同じ態勢で構えている。

その直後、敵部隊が目前まで迫って来た。

 

「――今じゃぁ、砕けぇいッ!!」

 

 鉱人導師の号令と当時に、身を隠していた全員が一斉に盾から身を乗り出す。

身を乗り出した各自は、両手に所持していた小石を一気に握り砕いた。

するとどうだろう。

握り砕かれた箇所を基点に、小型で緑光を帯びた魔力礫が敵部隊へと殺到したではないか。

味方陣営から放たれた魔力礫は、殺到する敵集団へと飛来し次々と着弾する。

着弾した魔力礫を真面に受けた敵兵の影たちは瞬く間に消滅し、その数を短時間で大幅に減らした。

この一手で、敵部隊の総数は約半分に減衰する。

召喚の儀式で生み出した影たちは、今の攻撃で殆どが壊滅したのであった。

これが鉱人導師による、第2の策――。

設置式の盾(パヴィス)に身を隠しながら敵部隊の接近を待ち、頃合いの距離で皆が同時に身を乗り出し両手に保持していた『屑輝石』を砕く。

それにより生み出された数多の魔力礫が、敵部隊を迎撃するという作戦だ。

設置式の盾(パヴィス)に身を隠していたのはは、ギリギリまで敵部隊に悟らせない為の擬態(カモフラージュ)の意味合いも含まれていたからだ。

悔しい話だが『屑輝石』の運用法は、敵部隊に1日の長がある様で、下手に警戒させてしまえば容易に回避される恐れがあったのが主な理由だ。

こうして第2の策も上手く事が運んだ訳だが、この策を行使するには大量の『屑輝石』が不可欠。

普段、魔術師が見向きもしないと呼ばれる『屑輝石』と呼ばれる結晶石。

しかし握り砕く事で己の精神と引き換えに、即席の魔力礫が目標へと飛来する事が判明し、極最近になって注目され始めていた。

だが、広大なこの国では未だ全域に浸透しておらず、また一粒につき最安値でも”銀貨1枚”である。

そして、屑輝石を両手に保持していたのは、総勢19名。

一人につき2個、つまり全部で38個必要となる。

普段から戦闘に縁のない、この小さな町で『屑輝石』なる珍妙な品が大量に行き渡る訳も無く、本来なら用意できる筈もない。

しかしこうして運用が叶い鉱人導師の策が成就したのは、偏にソラール一行の賜物であった。

彼等の荷馬車には、予め大量の物資が持ち込まれていたからだ。

その中に多数の『屑輝石』も含まれていたのである。

鉱人導師も『屑輝石』の効果は把握しており、それに目を付けた彼は今回の作戦を思い付いた訳だ。

 

「成程な、単体では小さな火力を”数”で集中運用する。基礎的だが、効果の高い戦術だ。恐れ入った、導師よ!」

 

「伊達に齢を重ねておらんでな。じゃが、お主の用意周到さのお陰で、こうして策を講じる事が出来たのは僥倖じゃ。感謝するぞ『太陽』の!」

 

 単純な策で、戦を勝利に導く。

口にするのは容易だが、実戦で結果を示すのは簡単な事ではない。

戦の流れを読み、敵部隊の動きを把握し、ここぞといった(タイミング)を見極め策を発動させる。

こういった流れを見極めるのは、熟練の将でも至難の領域なのだ。

我々の現在社会の様に、人工衛星(サテライト)探知機(レーダー)といった索敵機器など存在しない四方世界。

ここまで見事に敵部隊を迎え撃つ策を実行させた鉱人導師――。

彼が何時から冒険者稼業を営んでいるのかは、ソラールには分からない。

しかし確実に言える事は、この鉱人導師が歴戦の猛者である。

それだけは確信できた。

 

だが、まだ勝利には程遠い。

残り30前後の敵兵が、町中へと攻め込んでいるのだ。

 

「――此処からが正念場じゃ!太陽の…!術で援護するから、前衛は頼んだぞッ!」

 

「――任されよ!このアストラのソラール、我が太陽に誓い必ずや勝利を捥ぎ取ってみせようぞ、ウワッハハハ…!」

 

 迫り来る敵部隊に向けソラールは、鞘から剣を抜き円盾を構え敵部隊へと疾走する。

後方には、鉱人導師の援護がある。

ソラール個人、精霊術には疎いものの鉱人導師の判断力と経験は非常に頼もしい。

彼は臆する事無く、勇猛果敢に敵部隊を迎え撃つ。

 

――後は、あの者たちの働きに掛かっている。頼んだぞ…貴公等…!

 

幾人かの敵軽装兵を切り伏せるソラールは、ふと意識を町外へと向ける。

一党の仲間達の事だ。

彼ら3人には、別動隊として町の外へと向かって貰っていた。

敵兵に剣を振るいながら、ソラールは仲間達の身を案じる。

 

『――総員、迎え撃てぇ!町を守り抜くぞッ!!』

 

 その頃、ソラールの周囲でも衛兵長が部下と冒険者に号令を掛け、敵部隊に抗っていた。

 

……

 

( 推奨BGM エルデンリング ―― Invader )

 

一台の幌付き馬車が、ある方角へと直進していた。

 

「――見えたよ、あそこっ!」

 

 御者を務める男槍の徒へと方角を指し示す、赤毛斥候。

 

「見えました!…全部で4体…!」

 

「ソラール様の言った通りでしたね。あの数なら我々でも何とか――」

 

 赤毛の斥候に応える男槍の徒と、戦女神の女司祭。

彼等の前方には、4体の敵影が視認できた。

 

「小鬼3体に、敵騎士が一人…。指揮官の可能性”大”ですね」

 

「どうします?小鬼は兎も角、騎士相手に戦えるでしょうか、俺達…?」

 

 女司祭が視認したところ、敵騎士に率いられた小鬼3体が集合している。

事前にソラールからは、召喚術を得意とする小鬼(ゴブリンサモナー)である事は告げられていた。

恐らく新たな召喚術で増援を送り込む算段なのだろう。

小鬼の戦闘力なら3人でも太刀打ちは出来るが、敵騎士の戦闘力は未知数だ。

まだ遠間で詳細は分からないが、かなり上質の騎士鎧を纏っている様に見える。

その事に憂慮する、男槍の徒。

 

「心配には及びません、私の指示通りに――。貴方は、その武器で小鬼達を――」

 

「――え、うん…!」

「――了解です!」

 

 だが女司祭には対処法があるらしく、赤毛斥候と男槍の徒は不安ながらも承諾した。

 

接近に気付いたのか敵騎士も、武器と大盾を構え戦闘態勢を見せる。

大柄の体躯に加えタワーシールド並みの大盾で身構えていた。

此方の馬車を受け止める気なのか、避けようとする素振りすら見せていない。

 

「――激突させる必要はありません!黒火炎壺で牽制をッ!」

 

 手には頑丈な大盾、もう片方には長大な大槍を携えた敵騎士。

このまま下手に突撃すれば、馬はカウンターで串刺しとなるのは必至だ。

女司祭は敵騎士の傍を擦り抜ける様、男槍の徒へと指示する。

それと同時に、黒火炎壺を彼に持たせた。

一度馬に進路を指定させれば、後は勝手に走ってくれる。

それに塞がるのは片手だけで、然したる問題にはならない。

女司祭の指示通り、彼は黒火炎壺を手に持ち投擲距離を見極める。

 

「――今ですッ!」

「――くらえっ!」

 

 頃合いを見計らった女司祭の指示で、敵騎士に黒火炎壺投げ付ける男槍の徒。

投擲された黒火炎壺は、緩い放物線を描き敵騎士の足元へと着弾した。

衝撃で発火した可燃材が火薬へと反応し、小規模な爆発で壺破片と熱風が敵騎士を足元から襲う。

しかし敵騎士は大盾で完全に防御、全く痛痒を負う事はなかった。

 

「――ちょっとぉ、効いてないんですけどッ!?」

 

「――それで良いんです!…我等に、いずれ挑むべき頂点を…!」

 

 抗議する赤毛の斥候に構わず、女司祭は祈りを掲げ手に”光”を顕現させた。

 

「――戦槍ッ(ヴァルキリーズジャベリン)!!」

 

 それと同時に男槍の徒が駆る馬車が、丁度敵騎士の側面を通り過ぎた地点で、女司祭が奇跡を行使する。

彼女が行使したのは、戦女神の信徒だけが使える攻撃の奇跡で、敵に対し光の槍を投射する。

投射した光の槍は、敵騎士の側頭部に直撃し、いとも容易く地に伏した。

真正面から重厚な敵騎士を討てる攻撃力など、彼女たちは有していない。

況してや長期戦ともなれば、3人がかりでも勝てるかどうかも疑わしい。

そこで黒火炎壺で敢えて防御させ、その隙に馬車の機動力で側面から急所を射抜く作戦に出たのである。

全身甲冑に包まれた騎士と言えども人型である以上、頭部が急所なのは逃れようのない宿命だ。

注意を引き急所を突けば、乏しい戦力で仕留める事も決して不可能ではない。

女司祭も長年冒険者として活動し続け、実の所、ソラールよりも等級は上――つまり『銀等級』なのである。

 

「呆けてないで、早く小鬼を――」

「――わ、分かったわよッ!」

 

 その様子に唖然とする赤毛斥候を叱り飛ばす女司祭。

不満気ながらも彼女は、自前の連射型弩(リピーティングクロスボウ)で3体の小鬼の頭部を貫き仕留め切った。

 

女司祭の機転で、作戦を無事終える事が出来た。

馬車を止めた3人は降車し、小鬼と敵騎士の遺体へと群がる。

 

「…意外と…呆気無いものですね…」

 

「急所と意表を突けば、こんなものですよ。さて、何とか儀式は阻止出来ましたね」

 

 視線を落とす男槍の徒に、女司祭があっさりと応える。

敵本隊が町へと攻めて来た訳だが、召喚の儀式自体は全て終わっていなかった。

ソラール達が迎撃する最中、未だ後方で召喚が行われていたのである。

戦いながらソウルの流れを察知したソラールは指示を出し、こうして彼ら3人が動いていたのである。

ゴブリンサモナーは兎も角、重厚な敵騎士相手に上手く立ち回れるか不安ではあったものの、女司祭の指揮で無事討伐を達成できた。

 

「ふぅ…これで増援は心配ないね」

 

 儀式を阻止できた事に、安堵する赤毛斥候。

他2名も釣られて胸を撫で下ろすが、突然、討った筈の敵騎士が呻きながらも捨て台詞を残した。

 

「…愚か者め…、既に儀式は成ったとも知らず…。せめて制圧が叶わぬなら、破壊し尽くす迄よ……ふ…ふアハハ……カッコウの騎士団に栄光をッ…!下賤な愚民どもに、搾取をッ……!」

 

 弱々しいながらも不気味な声音で呻き、3名は思わず警戒し身構える。

 

「――出でよッ…、石質の悪魔よ…!ゲぇフッ…!」

 

 その轟きを最後に、敵騎士は事切れた。

同時に敵騎士と小鬼の遺体に激しい変化が起き、魔法陣が浮かび上がる。

 

「――な…一体何がッ…!?」

 

 その様相に驚きの声を上げる男槍の徒。

遺体から発した魔法陣は徐々に拡がりを増し、やがて暴風が巻き起こりつつあった。

 

「――直ぐに退却し、ソラール様と合流します!急いでッ!!」

 

 激変する状況に、狼狽えるばかりの男槍の徒と赤毛斥候。

そんな二人に檄を飛ばすのは女司祭。

普段落ち着いた彼女からは想像もつかない程に、焦りと慄きの感情が発露していた。

――にも拘らず戸惑う二人の襟首を、女司祭は無理やり引っ張り馬車に戻るよう激昂する。

 

「――馬が怯えています!このままでは撤退すら間に合わなくなりますよ!」

 

 遺体から浮かんだ魔法陣は、暴風を伴い周囲を巻き上げながら更なる規模を増しつつある。

その現状に、馬車馬も怯え始め彼等を置き去ろうと暴れる素振りを見せていた。

未だ状況把握の出来ない二人に苛立ちを感じながらも、女司祭は何とか二人を引き連れ馬車へと乗り込む。

 

「――早くッ、急いで下さい!!」

「――は、はいっ…!」

 

 女司祭の怒号に委縮しながらも、二人も乗り込み馬を町へ向け走らせた。

そうしている間にも魔法陣からの暴風は徐々に、得体の知れない形を成し始めていた。

 

「――ね、ねぇ…どういう事よ!?アタシにも解るように説明してよッ!?」

 

 混乱しながらも馬車を走らせ、その場から辛うじて脱する事が出来た一行。

だが腑に落ちないのか、赤毛斥候は抗議染みた態度で女司祭に突っかかった。

 

「…やられました…!最初から()()()()()()視野に入れた上で、儀式を執り行っていたのです…!」

 

 全速で町へと引き返す最中、女司祭は歯軋りしながら後方へと意識を向ける。

女司祭も全容を把握している訳はなかったが、持ち前の知識を総動員しつつ私見を交えながら説明する。

 

あのまま放置すれば当然ながら、召喚の儀式は完成する。

しかし討伐したとしても、自身の遺体を”触媒と贄”に捧げれば、結局は召喚の儀式が成り立つように仕向けていたのである。

これは女司祭の見解だが、あの3体のゴブリンサモナーは召喚儀式が成り立った時点で”贄”として捧げられていたのではないだろうか。

普段自意識の強い小鬼の筈が、まるで”傀儡”の如き恭順の姿勢を見せていたのが根拠だ。

使役の魔法か何かで、強制させていたのだろう。

3体の小鬼、あの虚ろな動作は正に”傀儡”としか例えようが無かったのである。

つまり敵は最初から2段構えの策を弄していた訳で、単なる略奪が目的ではない事も匂わせていた。

 

――略奪はあくまで表向き…。でなければ、これ程の策を弄す訳がありません…!

 

「敵は、相当強大な怪物を誕生させた筈です!私たちだけでは手に負えません…、口惜しいですがッ…!」

 

 後方の暴風が止んだ気配を察した女司祭は、召喚の儀式が成った事を確信した。

 

『『――RULOoooo……!!』』

 

揺れる馬車越しに、轟音染みた金切り声が3人と馬の鼓膜を叩く。

今まで聞いた事もない様な、奇怪な雄叫びだ。

声の数からして、2体複数が喚び出されたらしい。

3人共、直接目で確認したい衝動と見たくもない拒絶感に苛まれながら、全速力で町へと辿り着き何とか撤退は成功した。

 

その頃、町中ではソラール達が防衛戦を繰り広げていた。

 

「――せぁッ!」

 

 ソラールの直剣が敵騎士を捕らえ、紺と赤に彩られた鎧ごと切り裂く。

 

「――石弾(ストーンブラスト)!」

 

 鉱人導師の精霊魔法が、取り巻きの敵兵を纏めて蹴散らした。

戦局は概ね優勢に傾き、敵残存兵力は数える程に減少している。

また幸運な事に、味方の損害は殆どなく精々新たな軽傷者が数名出た位だ。

ソラールの奮戦ぶりと鉱人導師の機転が功を成し、周囲に奮起を促した結果とも言える。

二人のお陰で皆の士気は大いに盛り上がり、実力以上の連携と戦闘力を発揮してくれた。

そうこうしている内に最後の敵騎士が斃れ、残るは一際巨大なトロルだけだった。

この巨大トロルは影ではなく実体だが、温存されていたのか此処で初めて戦闘に加わったのである。

しかし今まで対峙してきたトロルとは明らかに一線を画す存在感を放っており、物資運搬用に持ち込んだであろう荷車の車体を持ち上げていた。

その巨大トロルは、人食い鬼(オーガ)並みの巨躯を誇り、巨大な車体を軽々と持ち上げ此方に投げ付ける。

 

「――皆の者、伏せいッ!」

 

 そして巨大トロルが投げ付けると同時に、鉱人導師も周囲に危険を報せる。

大型の車体が地面に叩き付けられ、粉々に四散した。

残骸は予想以上に拡散し、複数の人員が巻き込まれた。

 

「ぬぅ…うぅ…無茶しおるわい…」

 

 幸運にも小さな破片だけが降り掛かり、目立った傷を負う事はなかった鉱人導師。

破片を振り払い、周囲の被害状況の把握に努める。

 

「ぐぅおぉ…いてぇ…」

「すんげぇ馬鹿力だ…」

「直撃は免れたな……」

 

 他にも巻き添えを食らった冒険者や衛兵たちも、ヨロヨロト立ち上がり体勢を立て直そうと足掻く。

幸いな事に車体の直撃だけ避けられたらしく、誰一人死者は居なかった。

その事に一先ず安堵する鉱人導師。

しかし傍に居た筈の、ソラールの姿が見えない事に気付く。

 

「――おいッ…太陽の…!何処に居るッ…!?」

 

――よもや、押し潰されたのではあるまいなっ…!?

 

彼の実力なら心配ないだろうと思うが、決して”無い”とは言い切れないのも確かだ。

万が一、彼のみが不運にも直撃を食らい潰されてしまったという事もあり得るのが、現実というものだ。

何せこの世界の事象と結果は、盤外の『偶然と運命』を司る”骰子(サイコロ)”に支配されているのだから。

焦る気持ちを抑えつつも鉱人導師は瓦礫を払い除け、ソラールの行方を捜索する。

 

「――ブゥハッ…ブェッへ…俺なら此処だ…導師よ…ゲェホッ…ゲホッ…!」

 

 焦りを滲ませる彼を余所に、突如ソラールが瓦礫を払い除け埋もれた場所から姿を見せる。

灰を大量に被ったのだろうか?

彼の鎧は灰塗れとなり、未だ激しく咳き込んでいる。

 

「全く心配させおって……」

 

「ゲホ…ガホ…済まぬな…導師よ…。しかし何故に、これ程の灰を持ち込んでいたのだ?奴等は…?」

 

 灰塗れではあるものの、ソラールの無事を確認し溜息を吐く鉱人導師。

巨大トロルが投げ込んだ車体の中には大量の灰が積まれており、ソラールは巻き込まれた際、大量の灰を被ってしまったらしい。

略奪した物資を持ち帰る為の車体を、敵はいともアッサリと投擲道具として投げ捨ててしまった。

そして理由は不明だが、車体内部には”灰”が積載されていたのである。

制圧が叶えば良し。

もし失敗するようなら、可能な限り破壊する魂胆だったのだろうか。

ソラールは、敵の行動指針に大体の見切りを付ける。

 

「しまった、俺の剣が見当たらん…どこだ…!?」

 

 難を逃れたは良いが巻き込まれた衝撃で愛用の剣を取り落としてしまったらしく、ソラールは狼狽えながらも瓦礫の中を探し回った。

 

「ワシ等が何とか食い止めるで、慌てず急いで剣を探しとくれ…!」

 

 未だ健在な、巨大トロル。

鉱人導師は、別の面々と合流し敵を食い止めるべく行動を起こす。

 

『――皆奮起せよ、あと一息だッ!!』

 

 ソラールが抜ける形となったが意外にも皆の士気は高く、巨大トロル相手に奮闘し持ち堪えていた。

衛兵長の指示で、皆が皆、役割分担と連携行動で立ち回る。

 

「――お!あったあった…」

 

 程無くしてソラールも、瓦礫の中に埋もれた剣を見付け出す。

 

「全く…これも灰塗れだな…フ~~ッ…!」

 

 長年連れ添った愛用の剣も灰塗れとなり、ソラールは息を吹き掛けながら付着した灰を吹き飛ばした。

 

――しかし何なのだ、この灰は?

 

だが大量の灰を浴びた事により、自身と剣にも何やら得体の知れないソウルが纏わり付いていたのを察知した。

そのソウルからは、奇妙な記憶が流れ込み彼の全身に浸透する。

 

「……」

 

 時間にして僅か数秒足らずだが、ソラールは流れ込むソウルの記憶に身を委ねた。

彼は、アストラ時代を思い返す。

当時の同僚から、聞いた言葉だったろうか?

”遺灰”には、持ち主の強い想いや記憶が宿る事が度々あるらしい…と。

時には、その遺灰を使い、技や戦術を伝承する方法も存在する。

もうかなりの時間が経過した筈だが、ソラールは今更ながらに当時の記憶を思い起こしていた。

 

その話が事実ならソラールが大量に被ったのは『遺灰』であり、纏わり付き流れ来るソウルは遺灰の持ち主の記憶と言う事になるのだ。

 

「……」

 

 剣を手にしながら視線を傾ければ、今なお味方たちが巨大トロルと戦闘を繰り広げていた。

 

「――とんでもねぇ馬鹿力だッ!」

「――コイツ動きは鈍いが、タフ過ぎるッ!」

「――さっきから何回切ってんだよッ…、堪えやがらねぇッ…!」

 

 相対的に観れば、主導権は味方側に傾いている様にも解釈できる。

だが実際には、巨大トロルの異様な打たれ強さに今一決め手に欠け、いたずらに戦闘が長引いていた。

このままいけば、先に息切れするのは味方陣営である事は明らか。

とにかく決め手となる一撃を加えねば、巨大トロルを仕留める事もままならない状況だ。

それに女司祭たちを向かわせた町外の方角からは、強大なソウルが2つ察知できる。

しかもソラールにとっては、記憶にあるソウルに似ていた。

 

――余り時間は掛けられんな…使()()()()()()

 

直剣に付着する遺灰を払い落とし、巨大トロルを見据えるソラール。

遺灰から流れて来たのは、故人たちの戦技や奇跡の記憶だった。

数ある戦技の中から有用そうなものを選び、ソラールは味方陣営に向かって大声を張り上げた。

 

「――皆、進路を開けよッ…!後はこのソラールが受け持ったぁッ…!!」

 

「「「「「――!?」」」」」

 

彼の大声に皆が反応し、戸惑いがちながらも進路を確保する。

 

「太陽の――」

「……」

 

 皆が進路を開ける中、鉱人導師はソラールの方へと視線を寄せ、ソラール自身も無言で頷き返す。

一方の巨大トロルは、ソラールの方へと意識を向け唸り声をあげる。

高まる彼のソウルに反応したのだろうか。

地面に散乱する瓦礫の中から石柱の破片を拾い上げ、ソラールへと突撃した。

 

「――戦技…落雷ッ…!」

 

 だがソラールは回避行動も執らず、直剣を頭上へと掲げる。

その直後、巨大トロルの頭上から一条の雷が落ちた。

 

「――GROOOOU…!」

 

 降り注ぐ雷は、脳天から全身へと伝い体細胞を焼き焦がす。

内部から杭を打ち込んだかの如き激痛が巨大トロルに衝撃を与え、一瞬だが動きを止めた。

なれど動きを止めたのは僅かな時間に過ぎず、直ぐに体勢を立て直しソラールに向け突撃を再開した。

 

「流石に巨体相手に一撃で済むとは思っていない。効くまで何度でも打ち付けるのみぞっ!」

 

 巨大トロルに対し、彼の放った『落雷』は些かに小さ過ぎた。

ソラール自身も、それは想定していたのか『落雷』を繰り返し放つ。

一撃で駄目なら数発くれてやればいい。

戦技『落雷』という技は、予想以上に動作が短く連射が効く。

巨大トロルがソラールへ届く前に、落雷の連射で屈する形となった。

5発は放っただろうか。

全身から焦げ臭い煙を立ち昇らせ、巨大トロルは膝を突く。

 

「貴公に恨みは無いが、町の為に果てて頂く…。戦技、王騎士の決意…!」

 

 今度は別の戦技『王騎士の決意』と呼ばれる技を行使する。

武器を眼前に掲げ、敵を討つ騎士たる決意を表明する事で、次なる一撃の破壊力を大幅に強化する技だ。

王騎士の決意により、ソラールの直剣は淡い光を帯びていた。

 

――付与(エンチャント)系の戦技だな。太陽の誓いと併用できるか後で試してみるとしよう…。

 

ソラールの剣『太陽の直剣』には、予め専用戦技である『太陽の誓い』と呼ばれる戦技が備わっている。

この戦技も、武器威力と身体強化を備え、これまで幾多もの強敵を屠ってきた歴史があった。

もし今の戦技と重複が叶うなら、格上の相手とも互角以上に渡り合う事も不可能ではなくなる。

ソラールは秘かに『王騎士の決意』と『太陽の誓い』に併用を実現しようと、内に秘める。

 

それにしても眼前の巨大なトロル――。

何処となく操り人形染みた挙動を匂わせ、自意識が希薄に感じられる。

恐らく敵集団に都合よく使役され続けてきたのだろう。

膝を突き苦悶の呻き声を漏らす巨大トロルに、一抹の同情の念を禁じ得なかったソラール。

しかし放置する事は、そのまま町の崩壊へと直結してしまい見逃す理由には結びつかないのだ。

それ故、心を鬼にしたソラールは覚悟を固め、蹲る巨大トロルの頭上へと跳び乗った。

 

「――せぁッ!!」

 

 そのまま巨大トロルの脳天へと、剣を深々と突き刺し止めを刺す。

強靭さが売りの巨大トロルも、流石に急所を貫かれては生命活動を停止せざるを得ない。

力無く地面へと倒れ伏し、巨大な死体を残す事無く霧のように塵となって消え去った。

 

思わぬアクシデントに見舞われ、遺灰を被った事による未知なる戦技の習得。

それは結果的にソラール自身の強化へと繋がり、巨大トロルの討伐を成す事が出来た。

 

『――いやったァッ、勝ったぞぉッ…!!』

 

 冒険者一人が、声高々に叫び全身で勝利を表現する。

その叫びが皮切りとなり、周囲も次々と勝鬨を上げ一時の勝利を分かち合った。

 

「やるのぅ…太陽の。さっきの雷は、武技かの…?たまげたわい…」

 

 周囲が勝利に騒ぐ中、鉱人導師もソラールへと歩み寄り労った。

ソラールの放った戦技『落雷』は、四方世界には本来存在しない技だ。

齢を重ね多くを識る鉱人導師でさえも『狭間の地』にて編み出された戦技など知る由もない。

 

「うむ…俺自身も詳しく把握している訳ではないが、先程の遺灰による影響であろうな」

 

 ソラール本人ですら狭間の地の戦技に半信半疑で、腑に落ちない部分が多分にあった。

遺灰から流れ来るソウルが、一瞬だけ彼自身に狭間の地の一部を見せていたのである。

 

――色褪せた黄金の平原に、荘厳な都…そして天を突くかの如き黄金色の巨大樹…。アレは一体、何なのだ…?

 

ほんの僅か一瞬だが垣間見た、都と巨大な樹木。

その景観は彼の脳裏に焼き付いており、否が応でも意識が其方に向いてしまう程に強烈であった。

 

――おっとイカンな。此方に強烈なソウルが2つ迫って来ている。

 

しかし今も町中に迫る2つのソウルが、彼の意識を現実へと引き戻した。

どうやら戦いは、未だ完全には終わっていないという事だ。

 

『――ソラールさぁ~んッ、大変ですッ…!』

 

 そこへ別動隊として町外へと向かわせた、ソラールの仲間達が引き返してきた。

 

「貴公等も無事であったか」

 

 荒い呼吸を繰り返し焦燥した様子の仲間たち。

男槍の徒が駆る馬車馬さえも、疲労困憊(ひろうこんぱい)といった様子で地面にへたり込んでしまう。

 

「――聞いてよバディ…!あのね――」

 

「――申し訳ありません、ソラール様!貴方の期待に沿えませんでしたッ!」

 

 彼等が慌てふためく理由なら、既に察しているソラール。

血相を変え事情を説明しようとする赤毛斥候の言葉を遮り、女司祭が現場の詳細を説明した。

ソウルの感知で多少の状況は把握している為、ソラールは落ち着き払った様子で彼女の言に耳を傾けた。

 

……

 

( 推奨BGM ゴブリンスレイヤー ―― 闘争への咆哮 )

 

一頻りを語り終える女司祭。

敵騎士とゴブリンサモナーの討伐には成功したが、結果的に召喚の儀式を阻止する事はできなかった。

その事を悔やむ3人だったが、ソラールは咎める事はせず”よくやった”と項垂れる彼等を労った。

 

「しかし『ガーゴイル』か…しかも2体…、厄介だな…」

 

 覚えのあるソウルで分かってはいたが、敵が最後に召喚したのは2体の『ガーゴイル』と呼ばれる魔神の眷属だ。

硬質の外皮に覆われた魔神で、強靭な膂力を誇る。

下級魔神(レッサーデーモン)などと比べれば遥かに強力で、中には魔力を行使する個体も存在する。

 

「何だ、ガーゴイルかよ。俺達、討伐経験があるぜ…!」

「共同で倒したが、たかが2体だ。直ぐに終わらせてやるさ!」

 

 だが味方陣営の士気は意外にも高く、2体のガーゴイル接近などで怯える人員は誰一人として居なかった。

此処に居るソラールの活躍ぶりと勝利で、皆が活き高揚としているのも原因の一つではあろう。

 

「……。それは頼もしい限りだ。では貴公等の奮戦に期待させて頂こう」

 

 ガーゴイルが接近している事は、まだ良い。

問題は、そのガーゴイルという魔神のソウルに、()()()()()という点なのだ。

実はソラール自身、この四方世界のガーゴイルと戦った経験があった。

目下接近中の個体に比べれば、四方世界のガーゴイルの質は遥かに見劣りするものだった。

そして今接近中の2体のソウルは、彼が不死人時代…つまり、ロードランに赴いた時に遭遇した個体と酷似していたのである。

嘗て火の陰りし(ダークソウル)時代に存在していた国ロードラン――。

栄華を極めたであろうその地は、見るも無残に荒れ果て亡者と異形に塗れていた。

彼は自身の理想とする太陽を探さんが為、その地へと身を投じ『城下不死教区』にて2体のガーゴイルと死闘を繰り広げた経験がある。

そして今迫りつつあるのは、あの時の『鐘のガーゴイル』である可能性が極めて高い。

衛兵や冒険者たちの実力も評価に値する水準だが、果たして何処まで善戦できるかは疑問符が拭えない。

しかし、ここで敗北しては今までの戦いが徒労に終わってしまう。

この町には。多数の市民が息を潜め控えているのだ。

敗ける訳にはいかない。

やはり彼等の協力無しでは、勝利は厳しいものとなるだろう。

 

「へへ、かかって来いよガーゴイル!」

「我々の底力を、混沌勢に見せてくれようぞ!」

「勝利は我等にあり、ハァッハッハッハ…!」

 

 だが彼等は挙って自信に溢れ勝利を信じて疑わない。

少々慢心気味な様子だが、思慮深い筈の鉱人導師ですら彼等に同調している。

そうしている間にも、激しい羽音と共に2体のガーゴイルが防壁を悠々と飛び越え町中へと姿を現した。

 

「――よぉし掛かって来やがれぇッ!ハァッハッハッハ…はっははは…ッハッハ…ハ……は………?」

 

 その2体の姿を目にした途端、勇み込んでいた彼等の表情が一瞬にして凍り付く。

 

( 推奨BGM ダークソウル ―― 鐘のガーゴイル )

 

「――馬鹿な、馬鹿な、馬鹿なぁッ…!」

「――待て待て待てぇッ…!?」

「――冗談だろッ、聞いてないぞ!こんな奴っ!」

 

――思った通りであったか…。

 

恐怖に凍り付いたかと思えば、次の瞬間には声を荒げ一気に錯乱状態へと陥る味方陣営。

彼等の反応は、ソラールの予想する通りであった。

そう――。

彼等の知る四方世界のガーゴイルと、彼の時代(ダークソウル)のガーゴイルとでは余りに隔たりがあった。

まだ直接剣を交えた訳ではない。

しかし”解る”のだ。

広域を覆う程の巨大な翼――。

異様に長く強靭な斧に似た尾――。

斧槍と盾で武装し、見る者に威圧を覚えさせる存在感。

ガーゴイル――。

硬質の魔神――。

それで間違い無い筈なのだ。

倒せる筈だ…絶対に倒せる…。

過去に討伐した実績だってある――。

だと言うのに、この圧倒的な絶望感は何処から湧いて来るのだろう。

まだ戦ってもいないというのに、早くも敗北の幻視(ビジョン)が彼等の意識に根付いてしまった。

次々と戦意喪失を起こす味方陣営。

皆が一様に顔を引き攣らせ、ガチガチと波を鳴らし目を見開いている。

 

「「「……」」」

 

ソラールの仲間達も同様で、赤毛斥候などは恐怖のあまり失禁してしまい、彼らの乗っていた馬車馬は完全に暴走し何処かへと走り去ってしまった。

 

「…こりゃぁ…覚悟決めんと…イカンかのぉ…!」

 

 肝の座った鉱人導師でさえ、鐘のガーゴイルの異質さに表情を強張らせている。

 

「――皆の者、案ずるな!アレは鐘のガーゴイル!一度は俺が討伐した相手だ、勝機はあるッ!」

 

 その言葉を聞いた途端、皆がハッと我に返り一斉にソラールの方へと向いた。

 

   ―― 一度は斃した相手 ――

 

それは、人の力で討伐できるという事実を証明している。

 

「俺を信じ、力を貸して欲しい!我ら人の力を、あの異形に思い知らせ天空の太陽に捧げてやろうではないか!ウワッハハハハ…!」

 

 灰色がかった青空の太陽に向け、いつもの『太陽賛美』で両手を掲げるソラール。

確かに鐘のガーゴイルは強敵に違いない。

それはソラール自身が最も深く理解している。

しかし城下不死教区と、今の四方世界では状況がまるで違うのも事実だ。

あの時代では味方らしい味方など一人や二人居るのが関の山だったが、今は味方が何十名と揃っている。

正直あの時代に比べれば、遥かに希望に満ちた状況なのだ。

そして守るべき民の為に眼前の敵を討つ。

これほどに騎士として戦うべき理由が、他にあるだろうか。

敢えて言おう――()()…と。

ソラールの激励に、皆は正気を取り戻す。

そうだ――。

ここには『太陽の騎士』が居る。

その本人が”討伐経験がある”と言ったのだ。

つまり勝つ見込みがあるという事だ。

それに今此処で尻込みしたら、誰が町と民を守るというのか。

今の俺達には、戦うべき理由と守るべき人々が居る。

 

「――そ、そうだ!俺達がやらなくて、誰がやるんだ!」

「――この悪魔を倒し、町と家族を守るんだ!」

「――ガーゴイルには違いねぇ、俺達の底力見せてやる!」

「――こっちには太陽の騎士が居るんだ、敗ける筈がねぇ!」

 

 味方陣営に再び闘志が舞い戻った。

 

「――皆ッ、ここが正念場だ!我ら人族の力で、敵を討つぞッ!」

 

 ソラールが占めとばかりに奮起を促し、それに呼応する味方陣営。

過去に対峙し勝利を収めた太陽の騎士。

 

――あの時は確か、()()救援(サイン)に応えたのであったな。

 

城下不死教区の鐘楼付近で、とある不死人の救援要請のサインに触れ共闘した事があった。

とある不死人――。

つまり、今同じ世界で生きている『灰の剣士』の事である。

少々場違いながらもロードランでの出来事を思い出したソラール。

眼前の2体の異形『鐘のガーゴイル』に対し武器を構え直し、再び闘志を湧き上がらせた。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

設置式の盾

 

盾に支え棒が付いており、地面に設置して使う。

かなりの大型で重量があり、手持ちの使用などは想定していない。

これを複数設置する事で防壁の展開や、敵の射撃を凌ぐのが主な使用法。

大型で分厚い造りが大半を占め、木造製でも相当の防御力を誇る。

金属製は相当の重量が嵩み、個人で持ち運ぶには少々無理があるだろう。

当然、冒険者用にも流通されているが、有効に運用するには些かの経験と技術を要するだろう。

設置式の盾…『パヴィス』とも呼ばれている。

 

彼の時代にも広く浸透していた据え置き式の盾。

いつの時代も、戦が絶える事はなかった。

 

値段は金貨 10枚~20枚

 

 

 

 

 

 




 敵部隊の正体はカッコウの騎士団です。
遺灰かなんかのテキストでは、略奪や戦争の自由が与えられ悪行の限りを尽くしていたとか……。
う~ん、かなりの悪行集団だ。
見た目は結構好きなんですけどね、サーコートの意匠などなど。
今回使ったカッコウ騎士団の召喚術は、リエーニエ各地で遭遇する霊体の様な敵兵達です。
放置しておけば、敵兵と召喚兵で同士討ちしていたのをよく覚えています。
鉱人導師も登場させました。
彼が何時から冒険者稼業をを始めたのか分かりませんが、本編開始前の時期と経験と齢を重ねた彼なので、紅玉等級という事にしてあります。
後ソラールさんも、エルデン側の戦技を習得しました。
数は少ないけど、やはり雷撃系が合うのかな…とチョイスしています。

如何だったでしょうか?
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。  
デハマタ。( ゚∀゚)/
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