ゴブリンスレイヤー ―灰の剣士―   作:カズヨシ0509

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ドーモです。
一気に冷え込んできました。
余りの寒さに、爪先がやけに冷えます…。
しかし冬は、鍋物が美味いですね。
冬の大半は身体を温める為に、鍋物が大半です。

どうでもいい前書き失礼したしました。
では投稿致しますドゾ。( ゚ ω ゚ ) 


第113話―村の小鬼退治1・惑い

 

 

 

 

 

 

市民の上服(エルデンリング)

 

厚手の刺繍マントを纏った服。

狭間の地の、あり触れた市民の装束。

 

首から掛けた、穴あきの樹板は、自らが黄金樹の民であること示す。

自縛の枷であるといい、信仰を高める。

 

黄金律とは祝福であり、疑念を抱くなど大罪にも等しい。

しかし、穴あきの樹板――。

自らを縛る事で、何を得る――。

自由を削ぎ、何を成す――。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 寧ろ慣れ親しんだ。

そう言えば良いのだろう。

この様な依頼は久し振りだ。

そう思える程に小鬼関連の依頼は、縮小していた。

 

―― 村の被害が拡大する前に、小鬼の巣を潰して欲しい。 ――

 

少し前まで小鬼関連の依頼は巷に溢れ返り、余り物とさえ化していた。

あのダークゴブリン戦を境に、西方面での小鬼の生息数は極端な減少傾向にあった。

 

それを決定的要因にするのは、早計とも言える。

しかし、大きな要因の一つとして観ても不思議ではない。

 

小鬼関連の依頼は日に数件しか発生せず、大抵は例の冒険者――小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)が処理してしまう。

それ以来、小鬼関連の依頼は余る事なく、新たに発生しても精々が1~2件で、規模も数匹の集団…という状況だ。

 

だが今日に限って、20以上の小鬼が村に被害を齎しているというのだ。

それ程の依頼を()が逃す理由は無い。

そして彼の他にも二人の冒険者が同行しており、各々の役割を熟してゆく。

 

( 推奨BGM ゴブリンスレイヤー ―― 戦闘開始 )

 

「これで5!…お前はッ…?」

 

「――丁度3、貴方と合わせて8ね」

 

 安っぽい鎧兜の冒険者、ゴブリンスレイヤーが眼前の小鬼を殺し、傍らの女冒険者に数の確認を問う。

彼の手には、先端部から煙を吹く散弾銃が握られていた。

硝石の残り香漂う煙は独特だが、彼は好い加減嗅ぎ慣れていた。

振り向いた先には、彼とよく似た女鎧戦士――ゴブリンスイーパーが小鬼を仕留めた直後だ。

彼女も得意の獲物である、小剣手槍で小鬼の急所を貫いている。

 

「後はアイツか…」

 

 自身は無論、彼女も淡々と役割を果たしている。

その事自体、何ら懸念は無い。

だが()()()は、どうなのだろう?

以前、水の都でも狂言同然な戯言をほざき、挙句の果てには依頼者(剣の乙女)を激怒させてしまった。

腕自体は立つ――。

他の誰よりも――。

それは最も付き合いの長い自分だからこそ、よく分かる。

だが、どうにも精神状態が不安定な傾向にある。

何故、たかだか小鬼相手に惑う必要があるのか?

小鬼は殺せばいい。

 

等しく、躊躇わず、平等に――。

 

皆殺しだ。

 

()()()()()()は、()()が出来ていたというのに…。

 

彼の視線の先には、深緑の外套で素顔を覆っていた剣士が武器を鞘へと納めていた。

その足元には、大量の小鬼がバラバラの状態で死に絶えている。

 

「12…斬滅完了」

 

 切り伏せたであろう数を告げた彼は、ゆっくりとゴブリンスレイヤーとスイーパーの方へと振り向く。

ほぼ返り血を浴びていないのか、深緑の外套には小鬼の血が殆ど付着していない。

それに引き換えスレイヤーとスイーパーは、大量の返り血で薄汚れていた。

――まぁ、いつもの事だが…。

 

「合計で20、依頼の通りね」

 

「役割は果たせていたようだな」

 

「……残敵は無し」

 

 依頼では小鬼の生息数は、20と記載されていた。

件の村にも訪れ、村長から詳細を確認してみたが矢張り20前後と告げられており、今の討伐数とも辻褄が合う。

多少の懸念はあったが、尤も小鬼を切り伏せた外套の剣士――灰の剣士は、何時も通り役割を果たしていた。

 

( 推奨BGM ゴブリンスレイヤー ―― 心の渇きを )

 

「……」

 

 これで依頼は終了となる。

後は小鬼の遺体を搔き集め焼却する作業が残っているが、手順通りに処理すれば良いだけだ。

シミターを納めた灰の剣士は、無言で自ら切り殺した小鬼の遺体へと視線を向ける。

 

――何時も通りだ。何の事はない、邪悪で下劣なソウルを孕んだ小鬼達。

 

普段から遭遇し切り伏せ、その度に()と言うほど察知してきた小鬼のソウル。

ダークゴブリンを討った後、本拠点(廃村)の探索で起こった事件――。

(本編前夜編 第89話参照)

アレが切っ掛けとなり、『善良な小鬼』という存在に疑念を抱くようになってしまった。

結局周囲からは、奇怪な目を向けられる羽目となってしまったのだが、それ以来、彼は小鬼にを討つ事に僅かな逡巡が芽生える様になっていた。

若しかしたら、この群れの中に()()とはいかずとも()()ではない小鬼が混ざっているのではないか?

第3者が知れば即、刃を向けられても可笑しくはない想いと期待を抱いてしまっていた。

 

――小鬼とは等しく邪悪な異形…。(ゴブリンスレイヤー)の言う通り、私は小鬼に『幻想』を抱いたのやも知れぬ。

 

―― 幻想を捨てろ、灰よ。…死ぬぞ! ――

 

水の都の帰り際、彼から、そう諭された。

(本編前夜編 第96話参照)

善良な小鬼など、偽善と欺瞞に満ちた自己満足でしかない。

 

小鬼は、無差別に…皆殺しにすべし。

 

例え、その中に善良な小鬼が居たとしても、それは此方側(秩序側)の一方的な見方でしかない。

そして見逃したとしても、善良と仮定した小鬼が果たして善行に励むとでもいうのか?

此方が()()と判断した処で、見逃した小鬼が()()であるという確証は何処にもないのだ。

見逃し生き永らえた小鬼が、秘かに()()へと走り罪無き民に危害を加えないと何故言い切れる?

恐らく過去にも、居た筈だ。

今の自分と同じく、小鬼に惑い幻想を抱いた者が。

仮に見逃した小鬼を終始見張った上で、何らかの不祥事を犯そうとする時その場で始末できるなら、まだ周囲の溜飲も下がろうというもの。

だが、見逃がした小鬼に固執し、全ての人生を共に捧げようとする奇特な者など聞いた事がない。

女神のような人格を持つ人物さえ、実在するのかも怪しいものだ。

本当に善良な小鬼が実在し価値観の共有が叶ったとしても、人間社会に組み込めるとは到底思えない。

 

以前、狭間の地リムグレイブで、領主の嫡男ケネス=ハイトという男と出会った事がある。

その男は、”亜人共と交わりを再開させる”と言っていた。

狭間の地の『亜人』という種族は、どうにも小鬼と共通点が多い。

あの言葉を聞いた時、褪せ人に乗り移っていた灰の剣士も耳を疑ったものだ。

 

狭間の地の『亜人』はさておき、四方世界の『小鬼』と人間との共存など可能なのだろうか。

 

……考えれば考える程、明るい未来など見えてはこない。

結局のところ行き着く先は、小鬼など()()()()()()にする。

 

人前に出ない小鬼だけが、善良な小鬼だ。

 

つまり、彼――ゴブリンスレイヤーの答えが最も適した『ソリューション(解答)』なのかも知れない。

 

しかしだ――。

 

今の自分に可能なのだろうか?

ゴブリンスレイヤーと同じ答えに辿り着き、彼と共に在る事が。

どうしても湧き起こってしまう衝動交じりの疑念――。

もしも本当に善良な小鬼…若しくは純粋なソウルを孕んだ小鬼が居た場合、自分は躊躇いなく皆殺しに出来るのか?

だが後の禍根を残さぬように配慮するなら、やはり殺さねばならない――。

 

―― お前の剣は、快楽を恐れている。生者を切り殺したくて仕方がない。だが理性では、それを否定している ――

 

――クソッ!…まただ…!

 

教会の狩人の言葉が脳裏を過り、心が揺さぶられる。

受け入れてしまおうか?

いっその事…。

狩人の言う通り、殺戮の快楽を受け入れ委ねてしまおうか。

そうすれば何も迷う事なく()()事が出来るのだ。

すごく楽になるだろう。

絶叫と血の乱舞を愉しみながら……。

 

―― アンタは迷いながらも、殺戮衝動を否定し続けている。本当は生者を…人を切り殺したくて堪らない。だが、理性と本能の狭間で、アンタは今も藻掻き出口を探し求めている。違うかい? ――

 

鈍く沈み行く意識へ言葉が疾走った(はしった)

教会の狩人と敵対する、もう一人の狩人(鳥羽の狩人)の言葉――。

一瞬で正気が湧き戻る。

 

駄目だ!

 

殺戮に愉悦を覚え身を委ねてしまえば、一体何が成せようといのか。

人は皆等しく『(殺戮衝動)』を飼っている。

そんな衝動に身を任せ、快楽に溺れた先など(小鬼)と何が変わろうか。

 

――たかだか小鬼を殺すのに、どうしてこうも苦痛を覚える?ここまで弱いのか、私は…!?

 

過去に相対した者達の言葉と行動が、彼の中を淀みなく駆け巡る。

見付からないのだ。

行き着くべき終着点が。

 

「何をしている灰よ?死体を集め、焼却処分するぞ」

 

 彼の言葉で、足下の小鬼へと意識を戻す。

 

「大丈夫?少し休む?」

 

 スイーパーも気遣いの言葉を掛けてきた。

 

「いや、大丈夫だ。後始末を始めよう」

 

 余計な事を考えるのは、後からじっくりとやればいい。

今はやるべき事を遂げねばならない。

二人の言葉で現実へと帰った灰の剣士は、切り殺した小鬼の遺体を搔き集め洞窟から地上へと出た。

 

――獣除けの香、使い道がある。

 

積み上げた小鬼の遺体が燃え上がる中、灰の剣士は腰に吊り下がた”香”に視線を寄せた。

以前、鳥羽の狩人から譲渡された『獣除けの香』には、獣を寄せ付けない効果が有るという。

そして彼女が言うには、”小鬼も等しく獣である”とも告げられていた。

 

彼女の言葉通り小鬼が獣であるのなら、獣除けの香に反応を示すのではないか。

 

その発想に行き着いた彼は、数日前の夜間に発生した小鬼禍(ゴブリンハザード)にて検証する事にした。

効果の程は確かにあり、煙に巻かれた小鬼は咳き込むなどの症状を示した。

(本編前夜編 第109話参照)

そして今日――。

この依頼でも試す事した灰の剣士は、洞窟内でも使用し小鬼の動きを妨害する事に成功。

煙に巻かれた小鬼は、もう戦う処ではなく一方的に全滅した。

ただ鳥羽の狩人から受け取った現物は1つしかなく、彼は受け取ったレシピを参考に自分で作成する事にした。

調合難度も然程高くはなく、拙い自分の錬金術でも生み出す事に成功し、精度は低いながらも一定の効果を証明できた。

これを広めれば、小鬼の対抗策に更なる幅を持たせられるだろう。

特に、街から離れた集落や村に広く流通させれば、小鬼による被害を軽減させる事も可能だ。

ならば迷う必要はない。

増産あるのみ――。

だが、作成するにも素材は必須であり、その現実は避けては通れない。

つまり調合するにしても手間と費用が掛かり、無償で配布させる訳にもいかないのだ。

そして調合品を売買するには許可が得なければならず、正規の錬金術士として認められギルドへ登録する事が必須条件であった。

灰の剣士たちが、こうして小鬼退治の依頼を遂行している間、ライザやルルアは街で錬金術士としての登録試験を受けているという訳だ。

尤も二人の実力なら、先ず不合格などあり得ないだろう。

その辺りは何ら心配する必要もない。

自分よりも遥かに精度の高い『獣除けの香』を増産してくれれば、上位種の小鬼さえ退ける事も不可能ではない。

これは大いに期待できる良い流れだ。

思案に耽っている内に、積み上げた遺体がほぼ燃え尽きようとしていた。

もう間もなく、後始末も終わる頃合いだ。

そんな時、彼等の後ろから複数の人影が近付いて来た。

ガサガサッと雑草だらけの獣道を掻き分ける音に、3人は一斉に振り向く。

人影の正体は村の住民で、自警団の団員達であった。

 

( 推奨BGM ゴブリンスレイヤー ―― 冒険者の夢の跡 )

 

「…どうやら、事は円滑に済んだ様ですな」

 

 先頭の壮年男性が、話し掛けてきた。

 

「…貴方でしたか」

 

 彼等とは顔合わせは、既に済ませている。

彼等は村の自警団で、先頭の壮年男性は『村の副村長』を務めている立場だ。

――とは言え、村の自警団が態々こうして確認して来る事など珍しい。

余程信用されていないのだろうか?

副村長と自警団の表情は、決して友好的とは言えなかった。

 

「小鬼は全て駆除したのでしょう?ならば、早急に去って頂けますかな?」

 

 直ぐに出て行け。

 

隠そうともしない嫌悪感を露わに副村長は、冒険者3人を牽制する。

 

「申し訳ありませんが、依頼主は()()であって貴方(副村長)ではありません。彼の意向に沿った上で安全が確認され次第、過ぐにでも去りましょう」

 

 どうにも副村長は直ぐにでも立ち去って貰いたいようだ。

だが、依頼主は彼ではなく、あくまで『村長』である。

村長の意向は、小鬼を退治した上で原因の調査を求めていた。

確かに小鬼自体は退治できたが、増援が無いとは言い切れない。

依頼の情報通り、20匹の小鬼を討った。

だが周辺に新たな小鬼が身を潜め、この村を狙っていないとも限らない。

冒険者が去った瞬間を見計らい、再度襲撃をかける事例も過去に幾つもあった。

たとえ依頼外の事態が発生したとしても、放置する訳にはいかないのだ。

理由は分からないが副村長は、冒険者に良い感情を抱いてはいない。

それ自体は別に構わない。

彼の気持ちを汲み立ち去る事も(やぶさ)かではないが、可能な限り完全な形で依頼を完遂させたい。

灰の剣士は、村長の意向を優先する旨を伝える。

 

「……。フン…まぁ良いでしょう。くれぐれも妙な真似など、せぬ事です…!」

 

 かなり不服そうな表情だ。

口と顎の無精髭を鼻息で揺らし、副村長は自警団を引き連れ元来た道を戻った。

 

「「「……」」」

 

3人は、暫し無言でか彼等の背を見やる。

 

「…どう思う、二人とも?」

 

 副村長たちの姿が見えなくなった事を確認し、灰の剣士は今回の依頼の是非を問う。

 

「確かに怪しい…けど、必要以上に介入するのは冒険者としての領域を逸脱する危険性もあるわ」

 

「自警団といい副村長といい、確かに不自然な部分は多い。しかし、俺達は小鬼を殺し依頼は熟した。それは事実だ」

 

 スイーパーもスレイヤーも、不自然な部分を察知しているものの過剰な介入には少々否定的だ。

 

「お前は、どう観ている?」

 

 今度はゴブリンスレイヤーが、灰の剣士へと質疑を返す。

 

「正直、依頼する()()()()なかった」

 

「…どういう事?」

 

 灰の剣士の言葉の真意を問おうと、スイーパーは更に踏み込んだ。

彼の見解は、こうだ。

 

先ず、村の規模と小鬼の勢力が噛み合っていないのだ。

20の小鬼に襲撃されている割に、村の発展規模は充実していた。

町ほどではないが、村にしては酒場や数件の出店なども在り、小さいながら宿泊施設も備えられていた。

そして小鬼に抗する為であろう防護柵だが、幾重にも設置され見張り台まで建てられていたのである。

設置方法も考慮が成され、小鬼の侵入経路を限定させるかのように巧みに配置され、最適な迎撃地点を決めていた。

そして自警団の存在――。

彼等は総じて屈強で、全員合わせて20人以上は居た。

傭兵上がりなのかは定かではないが、成人したての新人冒険者よりも腕が立つように思えた。

 

「20程度の小鬼に制圧されるヤワな村ではない。最初から冒険者に頼る必要などない」

 

 これだけの備えがあれば、自警団だけで小鬼の巣ごと叩き潰せた筈だ。

しかし、冒険者に小鬼退治の依頼が来てしまった。

その事に、どうしても腑に落ちない部分を感じ取っていた灰の剣士。

 

「…言われてみればそうだけど…。1体1体が小鬼兵士(ゴブリンソルジャー)級なら自警団だけでは手に負えないわね」

 

 兜に隠れた顎に手を添え、スイーパーも更に考察を深めてみた。

先程殲滅した小鬼の質が、ダークゴブリン配下の小鬼兵士(ゴブリンソルジャー)なら、確かに防備の高い村さえ制圧できただろう。

彼等は完全装備に身を包んだ上で、戦闘訓練さえ積んだ異例中の異例だ。

しかし遭遇した小鬼は何時も雑多な小鬼集団――。

多少の悪知恵は働くものの、結局は詰めが甘く戦闘力そのものもお粗末な水準だった。

何か策が有るのではないかと警戒してみたものの、最後まで然したる罠もなく10分前後で殲滅してしまったのだ。

 

「だが、今から真相を調べるにしても時間が掛かり過ぎれば、村からの不信感を増大させるだけだ。…俺も、増援の警戒という部分は賛成だがな」

 

 ゴブリンスレイヤーの言う通り、アテもなく調べ回った処で時間だけを無駄に浪費してしまうだろう。

唯でさえ、副村長を含めた一部の住民から不信感を抱かれている状態だ。

下手に時間を掛け過ぎれば、結果的に依頼失敗と見なされる恐れもある。

真相究明に動くにせよ、このまま切り上げるにせよ、早期に判断し動く必要がある。

ゴブリンスレイヤーは、そう私見を述べた。

彼の言う事は尤もだ。

熟考するのは良いが、動かねば()()()()()のと同義。

そろそろ小鬼の遺体も燃え尽きる頃だ。

どちらかに行動指針を絞らねばならないだろう。

 

「私としては、被害者の遺体を探し当てたい」

 

「――言われてみれば…影も形も見なかったわ」

 

「……」

 

 依頼を受け村に到着した折、彼等は真っ先に村長から詳細を聞く事にした。

小鬼の襲撃で、既に何人もの住民が犠牲になっているとの事。

特に若い村娘や子供たちが次々と姿を消し、中には『村長の娘』も含まれていた。

しかし、いざ小鬼の巣と思わしき洞窟に足を踏み入れてみれば、姿を見せたのは雑多な小鬼ばかり。

被害者と思わしき形跡は、微塵も見受けられなかった。

こんな事は初めてだ。

灰の剣士、ゴブリンスイーパー、そしてゴブリンスレイヤー。

彼ら3名は、西方辺境でも指折りの小鬼退治に長けた冒険者だ。

数多くの小鬼の巣を叩き潰した彼等――。

これまで見て来た小鬼の巣には、被害者の形跡が必ず何処かで散見されたのだ。

人骨然り、腐肉然り、衣類の切れ端然り――。

だが今回の巣穴は、不気味な程に何も無かったのである。

小鬼の巣らしく糞尿は目にしたものの、人骨や破れた衣類らしき形跡は全く発見できなかった。

発見を恐れた小鬼が、遺体を何処かへと運び処理したのだろうか。

あの怠惰な小鬼が、その様な手間のかかる重労働に勤しむだろうか。

 

「せめて被害者の末路だけでも確認しておきたい」

 

「けど…手掛かりが無いわ」

 

「何時もの『ソウルの感知』とやらで、どうにかならないのか?」

 

 灰の剣士としては、最低限でも被害者がどうなったのかは確認しておきたかった。

もう、とっくに落命はしているだろう。

しかし、被害者の生死だけでもこの目で確かめ遺族に伝えたかった。

だがスイーパーの言う通り、遺体を見付ける手がかりなど何処にもない。

灰の剣士とて『ソウルの感知』で探し当てられるのなら、既に見付けている。

残念だが此処は森林だ。

遺体にも幾許かのソウルは宿っているが、如何せん小さ過ぎるのだろう。

周囲に茂る草木のソウルの方が色濃く、遺体の微弱なソウルなど根こそぎ覆い隠してしまっていた。

 

――闇雲に探しても意味が無い…。諦めた方が良いのか…?

 

見当違いな箇所を無意味に探索したところで、無駄な手間と時間だけが過ぎ去るのみだ。

アテがない以上、諦めるしかないのだろうか。

言い様のない無念さが彼の胸中を満たす。

 

だがその時である。

 

またもや、ガサゴソと草木を掻き分ける音が彼等の耳に届いた。

草木を掻き分けて来たのは、一人の男だった。

少々齢を重ねた30半ばの男だが、先程の自警団の一人だった筈だ。

しかも今度は、()()()()()で此処まで戻って来たのである。

今更何の用だというのか。

 

「あ~、驚かせて申し訳ない。少し話を聞いて貰いたくてね…」

 

 他の屈強な自警団員に比べれば、若干細身の体格だが均衡自体は取れている。

武器は所持していない様だが、四肢は革と布製の手甲具足を身に付けていた。

格闘家の類だろうか。

 

彼を『格闘村民』と称する事にしよう。

 

その『格闘村民』は申し訳なさ気な態度で、話を聞いて貰いたいのだと言う。

態度といい、纏った雰囲気といい、副村長や他の自警団員とは違う気配を醸し出していた。

格闘村民の頼みを拒む理由など特に見当たらず、3人は話を聞く態勢に入る。

 

「そうだな…、この村の現状なんだが、実は村長派と副村長派という二つの派閥に別れててな――」

 

 格闘村民は、村の実情から話し始める。

今でこそ発展した村だが、以前は未開拓地に相応しい喉かで小さな村だった。

人口も50名前後で、本当に何もない無名の村――。

 

だが約半年ほど前だろうか。

 

村の副村長が外部から人を招き入れ、その時期を境に村は急速に発展の兆しが見え始めた。

何処から資金を調達したのか、手始めに副村長宅が改築され村長以上に豪華な家へと変貌した。

そこからは、アッという間だった。

村民の注目を集めた副村長は、次々と外部から人を招き入れ、その度に新しい施設を建築し、村には不釣り合いなほどの産業が生まれた。

食料品生産の工房を始め織物工房や製材所まで揃え、雇用と交易が生まれ村は飛躍的な発展を遂げた。

その頃には、村の人口も250名を超える程に膨れ上がり、端から見ればちょっとした”町”と言っても差し支えない程に成長していたのである。

 

しかし発展を遂げるごとに副村長の支持率が増加し、何時しか村の運営に口を出し始め独断専行も目立つようになった。

村の発展という功績に温厚な村長も目を瞑っていたが、余りの副村長の専横に自重の咎めが掛かる。

だが既に手遅れだった。

副村長には、かなりの支持者が集まり、彼を擁護する者が続出していた。

その日を皮切りに、村長派と副村長派という二つの派閥が生まれ対立する構図が誕生した。

温厚な村長とは違い、副村長は元々気難しく傲慢さも目立ち、村の人々からは敬遠傾向にあった。

あまり人気は無かった副村長だが、どの様な手を使ったのかにせよ村を発展させた彼の功績は大きい。

そんな彼の実績に縋り、村は豊かな生活を手に入れる事が出来たのだ。

故に副村長側に付いた村民は多かった。

現在、村を切り盛りしているのは副村長派と言っても良いほどで、彼の独断専行は更に加速し、今では自警団まで結成される始末だ。

 

「まぁ自警団と言っても、実際は奴を取り巻くのゴロツキ紛いだがね…ハハ…」

 

 格闘村民は自嘲気味に笑い、自警団の評価を語った。

屈強な男達で結成された自警団だが、過半数が村の外部から流れ着いた男達だ。

確かに腕っぷしは立つが、どうにも柄が悪く品性に欠け、若い村娘に手を出す事など日常茶飯事となった。

特に幼子たちなどは、自警団に怯え切っており泣き出す子まで続出する始末。

表向きには発展を遂げていたが、実際には軋轢と対立の不穏な空気が蔓延る村でもあった。

 

灰の剣士たちが村に到着した時から、重苦しい空気に支配されていたのを覚えている。

どうにも大半の村民は、何処となく緊張感に駆られ落ち着きがないような印象を受けた。

そして村長宅に向かう道中で自警団と副村長に出くわし”早急に仕事を済まし、村から去れ!”と威嚇されたのも記憶に新しい。

その様子を近くで見ていたのか、村の幼子がワッと泣き出した事も印象に残っている。

最初は異様な出で立ちをした灰の剣士たちに怯えたのかと解釈したが、直ぐに誤認だと悟る。

幼子は、村の自警団に怯え泣き出していたのだ。

その証拠に自警団員の一人が、幼子相手に怒鳴り散らすという暴挙に奔っていた。

周囲の人目がなければ、子供にすら暴力を振るっていたであろう剣幕――。

同じ村民の子供相手に激昂する程の事だろうか、と疑念を浮かべたものだ。

だが外部からの流れ者なら、前から居た住民たちと何らかの摩擦を抱えていても可笑しくはない。

 

不穏な空気の原因は、小鬼関連ではなく人同士の軋轢から生じたものだった。

この格闘村民は、副村長から招致された流れ者ではなく、古くからの村民だという事も判明した。

 

「村の事情は大体分かりました。しかし、あれ程の防備を備えた村と自警団なら、20程度の小鬼に後れを取る事はないと思われますが…?」

 

「俺の見立てでは、恐らくアンタ一人でも――」

 

 もう今更だが、20程度の小鬼に蹂躙されるような村ではない。

あれ程の発展と防備に恵まれ、尚且つ自警団まで揃っている。

冒険者が出張る必然さえなかった――。

そしてゴブリンスレイヤーも、”格闘村民一人で小鬼の巣ごと潰せたのではないか”との見解を述べた。

 

「君らの言う通りだ。あの程度の小鬼なら、冒険者を呼ぶまでもない。実の処、俺一人でも対処できるだろう、油断さえしなければ…」

 

 ゴブリンスレイヤーの見解は正しく、極論で言えば格闘村民一人で片が付く案件だった。

しかしなぜ村長は、敢えて彼等冒険者へ依頼を寄越したのだろうか。

 

「小鬼退治は口実…実際の処、他の”何か”を期待していたのではないですか?」

 

「……君の言う通りだ。村長は、自分の娘を含めた行方不明者の発見を期待していたんだ」

 

「小鬼に攫われた人たちの安否ですね?」

 

「……行方不明者の原因、小鬼とは限らないかも知れない」

 

「「「……」」」

 

 今度はスイーパーが、真相解明に一歩踏み込んだ質問を投げ掛ける。

小鬼退治だけなら、村の自警団や格闘村民だけで解決できる。

それは村長自身も理解していた。

格闘村民は、村に起こった出来事を更に深く語り始めた。

 

村の発展により、村民の生活水準は確かに上昇した。

それ自体は喜ばしい事だ。

しかし、その時期辺りから村娘が相次いで姿を消していたのである。

当然、村人総出で行方を捜索したが、見付かったのは小鬼の集団だった。

村人たちは驚いたが、小鬼は小規模の群れ。

その場での討伐が叶い、村娘は見付からなかったものの新たな犠牲者は出ないと判断した村人たちは、捜索を一旦打ち切る事にした。

だが、日を追う毎に村娘が一人また一人と姿を消し、挙句の果てには”幼子や若い男”までもが行方知れずとなった。

そして今度は、副村長派の自警団が中心となり再調査が開始され、小鬼の巣が発見された。

当時はまだ小鬼の規模が判明していなかった事と、日が暮れ始めていた事も手伝い、発見場所の特定だけに留め自警団は引き返した。

それからというもの小鬼の襲撃が目立つようになったが、村の防備と自警団の働きで然したる被害はなかった。

そして行方不明者の続出は”小鬼が原因だ”という意見が、村人たちの大半を占めていた。

しかし、村長(正確には少数の村長派)は冒険者ギルドへ依頼を寄越す事にした。

自分の肉親である実娘も行方不明者に含まれていた事に、業を煮やしたのだろう。

若しくは、小鬼の台頭が原因だという事に、どうしても腑に落ちなかったのか――。

 

「これには副村長派も激怒したよ…。何様の積りだ!と、殴り合いになり掛けたからね…」

 

 一応村の管理者は、村長の筈だが、殆ど副村長とその一派が村を取り仕切っている様なものだ。

直接、行方不明者の捜索までは言及していなかったが、村長は訴え掛けるような目で、灰の剣士たちに何かを伝えようとしていたのを覚えている。

依頼の詳細を聞く際、副村長派も傍にいたため(監視の意味合いも含めて)、直接言い出す事が出来なかったのだろう。

 

「貴方は、村長の真意を伝える為に我々の所に来た訳ですね?」

 

 格闘村民が此処に来た理由。

それは直接口に出来なかった村長の願いを、灰の剣士達に伝える事が目的だった。

やはり、被害者の捜索に動く方針は間違っていなかった様だ。

村の支配者が副村長だったとしても、表向きは、あくまで村長が村のトップには違いない。

副村長派の真意は図りかねるが、依頼主は村長だ。

ここは依頼主の意向に従うべきだろう。

 

行動指針は決まった。

 

( 推奨BGM ゴブリンスレイヤー ―― 鼓動 )

 

「――ん、別々からソウルが寄って来る。一つはさっきの自警団、もう一つは…小鬼だ」

 

 動くべき方針を決めた矢先、灰の剣士は此方に近付くソウルを複数感知する。

一方から来るのは、先程の副村長含めた自警団。

そしてもう一方からやって来るのは、何と小鬼のソウルだった。

 

「――数は!?」

 

「――自警団5、小鬼1…!」

 

「くそ、俺に感付いたんだ…!」

 

「……どうするの?」

 

 まだ小鬼が居た事に少々戸惑うものの、たった1体の小鬼だ。

そして自警団が5人、此方にやって来る。

彼等の目を盗んでまで態々村長の意向を伝えに来た、この格闘村民を探しに来たのだろうか。

それとも何か別の思惑があっての事だろうか。

 

「身を隠そう、少し泳がせる」

 

 自警団と小鬼が同時に近付いて来る。

偶然の一致にしては、どうにも懐疑的なものを感じた灰の剣士。

ここは一旦身を隠し、彼等の様子を探るのも一つの手だ。

幸い、身を隠す茂みや草むらには事欠かない環境だ。

それに偶然だったとしても、たった1体の通常小鬼に後れを取る自警団ではないのは分かり切っている。

彼等は付近の濃い茂みに身を隠し、息を潜めながら様子を窺った。

 

「…奴は…居ないか…」

 

 程無くして自警団が到着し、副村長が辺りを見回す。

 

「それに冒険者の奴等も居ませんぜ」

「遺体の焼却も済んだみたいですし、戻ったんじゃないですかね?」

「アイツの事だ、見付かる筈のない()を探してんじゃないっスか?」

「馬鹿な奴だ…。()()()()だったなぁ…あの女…。あのヤローには勿体ない位だぜ、へへへ…!」

 

 引っ切り無しに聞こえて来る、自警団員の品なき言の葉。

台詞を察するに、格闘村民を探している事が窺える。

 

「……どういう事だ…一体…?」

 

 格闘村民は拳を震わせ、今にも身を乗り出さんばかりに憤る。

しかし年齢を重ねた男である辺り、状況を理解している様だ。

少年の様な感情赴くまま飛び出す事も無く、歯を食いしばりながらじっと堪えていた。

 

「奴等が見当たらないという事は、行き違いになったのかも知れん。我々も村に戻るぞ」

 

 これ以上探す意味が無いと悟ったのか、副村長は自警団と共に戻ろうとする。

だがその瞬間、別方向から1体の小鬼が現れた。

 

「GOB!?」

 

「「「「「……」」」」」

 

鉢合わせとなる自警団と小鬼――。

お互いが視線を交わし、暫く対峙する形を執った。

 

「「「……」」」

 

茂みの彼等も無言で様子を窺い、次なる動きを待つ。

このまま戦闘に発展するのか、はたまた思わぬ方向に事が運ぶのか。

 

「ケッ…脅かすんじゃねぇよ。――って言うか、今頃になって現れんじゃねぇっ!」

「そうだぜ!此処に()()()()が居たら、どうすんだ!?」

「こんなとこ、冒険者は元より村長派にも見せられねぇよな」

 

 口々に罵る自警団員たち。

突如現れた小鬼を罵る事はあれど、武器を向ける事も無く厄介者を見たかのような扱いで佇むだけだ。

まるで日常的に、こういったやり取りを繰り返していたかのように手慣れた感じだ。

 

「――GYB、GRUOV!?」

 

 そして小鬼の方だが、灰の剣士たちが焼却した燃え滓を見付け、何やら喚き散らしていた。

既に、火は消えかかり燻ぶった状態だ。

小鬼の骨もほぼ燃え尽き、半ば塵灰と化している。

多少、小鬼の焼け焦げた臭いが周囲に漂うが、それも一時的なものだ。

だが小鬼は地団駄を踏み、自警団に向かい指を差しながら喚き散らす事を止めない。

 

「ハンッ、知るかよ!恨むんなら冒険者を恨みな!」

「全く、誰のお陰で()()()にあり付けると思ってんだ?小鬼如きがッ!」

 

「ほぉっておけ、村に戻るぞ…!」

 

 感情を露わにする小鬼に構う時間も惜しい。

そう言わんばかりの副村長は辟易した様子で、自警団とともに現場から立ち去った。

 

「――GEBO、GRUOB!」

 

 去り行く自警団の背に、感情を尚もぶつける1体の小鬼――。

小鬼の言葉など相変わらず理解出来ないが、身振り手振りで大体を察する事は出来る。

仲間がやられた事に、怒りの抗議を上げていたのだろう。

 

『お前達の所為だ、何とかしろ!』…と。

 

 しかし自警団は小鬼の主張など無視し、そのまま村へと戻ってしまった。

暫しの後、小鬼も幾分落ち着いたのか別方向へと立ち去った。

小鬼が去ったのを確認し、灰の剣士たちは茂みから身を乗り出す。

 

「追わなくて良いのか?」

 

「ソウルは補足した、見逃す事はない」

 

 草むらの奥へと姿を消した小鬼。

見失う前に追うべきでは?とゴブリンスレイヤーが打診する。

だが小鬼のソウルは、灰の剣士が完全に補足(ロックオン)した。

余程、距離を離さないに限り見失う(ロスト)事はない。

今問題にすべきは、此処に居る格闘村民の件についてだ。

自警団は、格闘村民の事情に触れていた。

()がどうとか言及していたが、ここに来た事と何か関係があるのではないか。

顔を伏せる彼に、それとなく尋ねてみる。

 

「……一週間ほど前、俺の”妻”も行方が分からなくなった…」

 

 その独白で、彼の真意を悟る事が出来た。

 

灰の剣士たちに接触した理由――。

 

村長の思惑を伝える事は言わば口実。

彼の本心は、行方知れずとなった”妻”を捜す事だった。

 

今から一週間前、彼の妻は副村長の家へと用事を済ませに行ったきり、二度と帰って来る事はなかった。

当然、格闘村民は副村長宅へ赴き妻の事を探ろうとしたが、妻は用事を済ませ帰宅したとの一点張り。

半ば押しかけた彼を民家の中へ招き入れるなど出来る筈もなく、彼は無下に追い返された。

そんな事で、妻を諦め切れる事など出来る訳も無い。

格闘村民は村中を訪ねて回り妻の目撃情報を集めたが、村の外へ出たという証言は得られなかった。

 

「そこで俺は、(わら)にも縋る思いで自警団へと編入させて貰った。自警団なら、ある程度自由に動く事が出来るしな。妻の情報も入ると睨んだんだ」

 

 彼個人、副村長を快くは思っていない。

しかし次第に心の均衡は崩壊を始め、形振りなど構ってはいられなかった。

彼は一刻も早く妻の行方を知りたかったのだ。

そして副村長の反対を押し切った形で、村長が冒険者ギルドに小鬼退治の依頼を出した。

これは格闘村民にとっても好機と言えた。

彼は村長と内密に結託し、こうして灰の剣士たちに接触を図ったのである。

妻の安否を確認する為にも――。

 

「妻は…恐らくは、もう…。だが、ハッキリとさせたいんだ!頼む…!行方不明者たちを捜索してくれ!その中に多分…多分……クッ…!」

 

 次々と行方不明となった若い住民たち。

彼の妻も含まれている可能性は高い。

そして彼の妻は、副村長宅で姿を消した。

更に自警団の発言には、彼の妻と思わしき存在も含まれていた。

ここまで来れば、副村長派の嫌疑は決定的と言って良いだろう。

灰の剣士たちの総力を以てすれば、直接副村長派を吊し上げ自白させる事も出来るのだが、此処は格闘村民の要求通り行方不明者の捜索から着手した方が良いだろう。

幸い、小鬼の方から”手掛かり”は提供してくれた。

全滅させた積りだが、新たな小鬼が姿を現し副村長派と繋がっている様子を目撃できた。

このまま小鬼退治のみで帰還する事は出来なくなった。

 

「小鬼はこっちだ、付いて来てくれ」

 

 小鬼のソウルは補足(ロックオン)できた。

立ち去った小鬼の後を追う為、灰の剣士が他の面々を先導する。

一応草木に覆われていたが、何も歩けない程ではない。

時々、ぬかるんだ地面には小鬼の足跡が残されていた。

真新しいのから古いものまで――。

小鬼は、何度もこのルートを日常的に辿っている事を示唆している。

 

「――居た…!」

 

 そう時間を置く事も無く、少々見晴らしのいい開けた場所が視界に入り、其処に小鬼も発見できた。

 

「今度は3匹か」

 

 草むらに身を屈め様子を窺うゴブリンスレイヤー。

開けた場所に、3体の小鬼を確認する。

何やら会話に興じている様だが、相変わらず小鬼の言葉は理解不能だ。

 

「もう1体来るわ、見てアレを――」

 

 スイーパーが小声で、ある方角へと指を差す。

何と草むらに隠された木蓋が突然開き、中から1体の小鬼が姿を現した。

その小鬼は『中型種』で、只人の女を担いでいる。

気を失っているのか既に絶命しているのか女はピクリとも動かず、腹部は異常に膨れ上がっていた。

 

「…()()()()さんじゃないか…何で…?」

 

 小声ながらも格闘村民は、驚愕の表情を浮かべ現場を凝視する。

中型種の担いで来た若い女は、村長の娘だというのだ。

そして他3体の小鬼を指示し、別の場所に積み上げられた干し草を解かせた。

 

「嘘…なんてこと…」

 

 退かせた干し草から姿を現した光景に、スイーパーは言葉を失った。

其処には、無残に積み上げられた多くの遺体が彼等の視線を支配する。

 

「間違いない……彼女達だ……」

 

 その光景に涙を浮かべ歯を食いしばりながら蹲る格闘村民。

彼の反応から察するに、積み上げられた遺体の数々は行方不明となった若い住民たちなのだろう。

 

「どうする?まだ情報を集めるのか?」

 

「いや、もう小鬼に用はない。先ずは敵を斬滅し、現場検証を行う」

 

 まだ見ぬ進入路、行方不明となった村民の遺体集積場、新たな小鬼、その小鬼と繋がっていた副村長派の自警団――。

ここまで確認できれば十分だろう。

ならば小鬼を生かしておく理由はない。

ゴブリンスレイヤーの提案に、灰の剣士も同意する。

 

「記録映像用の水晶でも手に入れておくべきだったか、高いけどな」

 

「例の『写真』とやらでも、充分だろう」

 

「重要参考人を捕らえ、自白させるしかないわね。この場合」

 

 三者三様に私見を述べながら、彼等は草むらから飛び出し瞬く間に小鬼達を殲滅した。

下手に銃を使えば、銃声で異常を察知される恐れがある。

ここはゴブリンスレイヤーも、数打ちの剣で小鬼の1体を仕留める。

自警団に名を連ねるだけあり、格闘村民も持ち前の格闘術で小鬼の頭部を蹴り砕いた。

 

――今の蹴り技、()()()があるぞ?

 

格闘村民の繰り出す型に、灰の剣士は既視感を覚えていた。

 

……

 

小鬼の殲滅は速やかに行われ、周囲に異常を察知される事無く制圧が叶う。

 

「まさか…まさか…この中に妻が……!」

 

 精神の拮抗が崩れたのか、格闘村民は積み上げられた遺体を無造作に押し退け、妻の遺体を探し出す。

遺体の殆どが損傷だらけで腐敗が進行しているものが多く、周囲には蝿が鬱陶しく這いまわっていた。

しかし身体つきの特徴から、若い女が殆どを占めている。

 

「これ全部、小鬼がやったの…?」

「分からん」

 

 散乱する遺体の数々を目にし、兜奥で表情を歪ませるスイーパー。

だが全て小鬼の仕業なのだろうか。

この状況に、ゴブリンスレイヤーも判断を決めかねている様だ。

 

「奥さんは、見付かりましたか?」

 

「いや…此処に妻は居なかった……」

 

 格闘村民に問う灰の剣士。

だが妻は見付からず、彼は落胆の表情で頭をゆっくりと振った。

彼の妻が発見できなかったが、逆に言えば()()()()()()()()()()()は有ると捕らえる事も出来る。

 

「村長の娘さんだけでも連れて帰ろう。残念だが全員分は無理だ」

 

 膨らんだ腹部の女は、村長の娘だ。

遺体を全て連れ帰るには、人手が足りなさすぎる。

ここは村長の娘だけでも連れ帰り、追加で村人たちを此処まで連れて来ればいい。

それに小鬼が残した別の進入路の件もある。

村長の娘を連れ帰る係と、ここへ残り場所確保に努める係――。

二手に分ける必要がある。

各々の役割を決める中で、()()は起こった。

 

( 推奨BGM ゴブリンスレイヤー ―― 危機との遭遇 )

 

「――ゲボォッ、グボェッ、がボァッ…!」

 

 なんと、村長の娘が突然息を吹き返し、激しく痙攣と嘔吐を繰り返した。

村長の娘は、()()()()()()()のである。

そして激しく痙攣したかと思えば、腹を抑え込み苦し気な呻き声を上げ始めた。

 

「――嘘…でしょ…?まさか……!?」

 

 その様子に、スイーパーは口元に手を当て慄いた。

いや、彼女でなくとも、今から起こり得る事など誰もが理解する。

 

「ぅうぅ…いぃ…ィギぃぁやぁあああぁぁ……!!」

 

 村長の娘は、絶叫を上げ目を見開き雑草を強く握り込む。

 

………

……

 

結論から言おう。

 

出産した。

 

膨らんだ村長の娘の腹部。

誰もが察していた。

しかし既に事切れていたと思っていた村長の娘が突然息を吹き返した。

そうかと思えば今度は、陣痛の痛みを訴えながら()()()()()()しまったのだ。

 

   ―― 3匹の小鬼を ――

 

その光景を間近で立ち合った灰の剣士たち。

 

新しい命が今、この四方世界に降臨した。

豊穣と生命を司る地母神が祝福したのだろうか。

純粋無垢な生命が新たに誕生する。

何と美しい光景なのだろうか。

おお神よ、感謝致します。

――などと祈りを捧げる者など誰一人居なかった。

生まれたのは、混沌勢の異形である小鬼。

 

どう祝福せよと言うのか。

 

同族なら、天を仰ぎ祈りでも捧げたのか。

 

スイーパーなどは、乱暴に兜を脱ぎ捨て嘔吐を繰り返している。

彼女以外の3人も、唯々唖然と立ち尽くすしかなかった。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

布バンダナ

 

頭部に巻きつけて使用する他、国や地域によっては首に巻いたり手や汗を拭く用途などにも用いられる。

場合によりけりだが、同じ物でも首に巻く用途ではスカーフ、手や汗を拭く用途ではハンカチと呼ばれバンダナとは区別される事も。

頭部に着用する場合、昔の海賊のようにすっぽりと全体を覆う。

また二つ折りにして三角巾のように用いたり、細長く鉢巻き状に使う場合もある。

 

要は大き目の布切れのような代物なので、手拭いやタオル代わりに使用される事もあり、止血などにも使用され利用価値は多岐に渡る。

 

防具としての機能は、お世辞にも高いとは言えない。

しかし自らを誇示する装飾としての価値は、以外にも高いようだ。

 

自らの誇示は時に鼓舞にも繋がる。

それで勝利に帰結するなら安いものだろう。

 

値段は、銀貨2枚~5枚。

 

 

 

 

 

 




西方面では現在、小鬼の被害は極端に減少し、代わりに山賊や野党の類が台頭している状態です。
結局、小鬼が減っても悪党が蔓延っては小さな集落や村は安心できないという。
力無き者には厳しい時代ですね。
何処の世界でも……。

如何だったでしょうか?
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。  
デハマタ。( ゚∀゚)/
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