ゴブリンスレイヤー ―灰の剣士―   作:カズヨシ0509

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ドーモです。
雨天の影響でしょうか、今日は異様に気温が高かったです。
冬場だというのに、仕事場では汗を掻く程でした。
では投稿致しますドゾ。( ゚ ω ゚ )


第115話―村の小鬼退治3・疼き

 

 

 

 

 

 

薬草袋

 

薬効を備えた葉や野草などを束ねた物、鎮痛作用のある複数の種などを麻袋に詰め込んだ応急薬。

そのまま口内で租借するも良し、更に磨り潰し薬湯として摂取するも良し。

実に様々な使い道がある。

但し治癒の水薬と比較すれば、回復効果は著しく劣り即効性も無い。

効果が表れるのは、数時間を要すだろう。

だが安価で入手し易く、運用法さえ的確であれば生存率向上に一役買ってくれる筈だ。

 

先人は、多くの犠牲と研鑽を乗り越え、薬効と共に歴史を歩んできた。

彼等の道に、終わりなど無い。

 

値段は品質にもよるが、銀貨1枚~金貨1枚。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 絡み合う黒煙と白煙が、其処彼処で立ち昇る。

村中至る所で燃え盛る民家や施設。

住民の殆どは避難を終えていたが、幾人かの姿が目に映る。

逃げ遅れたに違いない。

しかし火災に見舞われた村には、人以外のナニカも闊歩していた。

 

人以外のナニカ――。

 

( 推奨BGM ゴブリンスレイヤー ―― 戦闘開始 )

 

それは全身剛毛に覆われ只人の子供ほどの背丈を有す、()()に酷似した異形だった。

いや、実際は()()なのだろう。

全身に濃い毛を生やした小鬼――。

彼――ゴブリンスレイヤーには、覚えのある個体種だ。

 

「小型種の小鬼獣(ゴブリンビースト)か」

 

 嘗てロスリックの小鬼禍(ゴブリンハザード)を断絶する為、亡者の穴倉にて討伐した記憶がある。

小鬼に何らかの液体を注入した後、身の毛もよだつ化け物に変貌する。

嘗ての理性と引き換えに、途轍もない戦闘力と学習能力を発揮する恐るべき存在だった。

当時の個体は、大型種と呼ばれる小鬼の上位種を素体とし、元の戦闘力も高かった。

(本編前夜編 第62話参照)

しかし視界に映る小鬼獣は、小型種…つまり通常種が素体と見受けられる。

大型種の小鬼獣と比較すれば、俊敏なだけで知性の欠片も備えていない様だ。

挙動一つを取ってみても、遥かに見劣りする存在だ。

だが、それとは引き換えに”数”が厄介な要素で、危険には変わりない。

 

小型種の小鬼獣――。

多少、速く獰猛なだけの変異種。

これなら亡者と化した小鬼と、そう変わらない。

しかし数に任せた全包囲からの攻撃に晒されれば、成す術もなく餌食となるのは必至。

1対1ならまだしも、多数相手に真正面からの対峙は推奨されるものではなかった。

 

だが余り時間を掛けてはいられない状況だ。

村中至る所で暴れ回っていた小鬼獣は手当たり次第、逃げ遅れた住民に襲い掛かっていた。

村人に掴み掛りそのまま無造作に噛み付き、生きたまま村人を貪り食う。

早急に手を打つ必要に迫られた。

 

腰の留め金(ホルスター)から『獣狩りの散弾銃(ショットガン)』を外し、極力悟られぬよう1体の小鬼獣へと忍び寄る。

その小鬼獣は、生きたままの村人を貪っていた。

捕食に夢中なのか、此方には気付いていない。

目を見開き呻き声を上げる村人には申し訳ないが、この状況を利用させて貰おう。

散弾銃は、その特徴から有効射程距離が短く可能な限り近距離で発砲した方が殺傷力が飛躍的に増す。

 

忍び足を駆使し適性な距離まで近付いただろうか。

なるべく建物や瓦礫を障害物に近付いたは良いが、此処で小鬼獣は鼻を鳴らす素振りを見せる。

 

――嗅覚も上昇しているか。もう少し近付きたいのだがな。

 

獣化の影響だろうか。

元々優れていた嗅覚は更に向上しているらしい。

火災と煙の影響で臭いは相当掻き消されている筈だが、小鬼獣は漠然と侵入者の匂いを検知し警戒を始めた。

これ以上近付くには障害物から身を乗り出すしかないのだが、それでは察知される危険性が高い。

やむを得ず此処で発砲したとしても、少々距離が離れている。

一撃での致命傷(ワンショットキル)は、少々厳しいだろう。

 

――これしかないな…スピード勝負だが…。

 

そこで彼は地面から適当な石ころを拾い上げ、小鬼獣の近くへと投げ付けた。

ほんの一瞬だが小鬼獣は、落ちた石ころへと注意を向ける。

 

――今だッ!

 

小鬼獣が意識を割いた瞬間を狙ったゴブリンスレイヤーは、全力疾走で距離を詰める。

当然、小鬼獣も即座にに反応を示すが、既に此方の有効射程距離内だ。

ほぼ剣と変わらぬ距離で散弾銃を発砲し、拡散した子弾が小鬼獣の全身を無残に引き裂いた。

 

「――先ずは一つ…」

 

 仕留めた小鬼獣の遺体を軽く脚で小突き、絶命を確認するゴブリンスレイヤー。

やはり銃の威力は絶大だ。

扱いに専門知識と技術を要するが、当たりさえすれば、ほぼ致命傷を負わせる事が出来る。

だが発砲の際に生じる銃声が仇となり、数匹の小鬼獣が此方へ引き寄せられて来た。

 

「4体…少し不利だな…」

 

 排莢を行い、薬室に残った使用済みの薬莢を輩出する。

とにかく襲い掛かられる前に、次弾を装填しなければならない。

たかだか4体の小鬼の変異種――。

これが只の通常種なら、数打ちの剣だけでも難なく対応が出来る。

だが今の相手は、全身が体毛に覆われた完全な異種の小鬼――小鬼獣だ。

知能は低下している様だが瞬発力に優れ、一斉に飛び掛かられては一溜りもない。

だが次弾装填を最中に、小鬼獣が一斉に殺到する。

十数メートル離れていた距離など無かったかのような速さで、眼前まで肉薄された。

 

――チッ!

 

心の中で舌打ちしたゴブリンスレイヤーは、ローリングで辛うじて回避。

だがそれも一時凌ぎに過ぎず、1体の小鬼獣が動作を切り返し再度襲い掛かる。

ローリング後の硬直を狙われてしまっては、次の動作に移りようがない。

小型種の小鬼獣だが、瞬発力は完全に彼を凌駕していた。

だが小鬼獣の飛び掛かりは、何らかの障害物に阻まれる。

 

「――スイーパー!?」

「――大丈夫、スレイヤー!?」

 

 小鬼獣とゴブリンスレイヤーの間に割って入る形で、援護防御を成功させたゴブリンスイーパー。

彼女の小盾には棘が装着されており、小鬼獣は彼女の棘盾(スパイクシールド)へと突っ込んだ訳である。

つまり自ら、棘へと突き刺さった訳だ。

小鬼獣の優れた瞬発力は皮肉にも自滅する誘因となり、生きてはいるものの未だ棘から脱せないでいた。

棘から脱しようと藻掻く小鬼獣に、変形前の小剣を突き刺し止めを刺したスイーパー。

 

「あの女はどうした!?」

()()()()な所に隠れて貰っているわ」

 

 スイーパーは、村長の娘を背負った形で村へと引き返した。

実は、村へと向かう途中で村長の娘は意識を取り戻したのである。

その時の彼女は、憔悴こそあったが正気も取り戻し会話できる程には自我も回復していた。

それならば情報の提供も考えたが、既に村へと到着した状況だ。

彼女も重要な参考人。

戦闘に巻き込む訳にもいかず、彼女には『消臭袋』を渡し茂みへと身を潜めて貰う事にした。

 

正直に言えば、村へと向かう途中、1体の小鬼獣が村の外で徘徊しておりスイーパー達も襲われた。

持ち前の瞬発力で、スイーパー目掛けて襲い掛かった小鬼獣だが、その無策な突進が却って彼女たちを救ったのである。

迫り来る小鬼獣に対し咄嗟に突き出した小剣手槍に、小鬼獣は自ら激突――。

小鬼獣の身体は切っ先深く突き刺さり、自滅も同然に仕留める事が叶い今に至るのである。

 

「思っていたよりも速いわ!多分、屑輝石の魔力礫は避けられるでしょうね」

 

 屑輝石を砕く事で、任意の敵に魔力礫をぶつける事は可能だ。

だが弾速は然程速くはない。

瞬発力優れた小鬼獣に、真正面から魔力礫を仕掛けた処で容易に回避されてしまうだろう。

銃による射撃なら正対でも命中は期待できるが、反動の強い散弾銃では射撃後の隙は大きい。

万が一回避されれば、無防備な隙を曝け出す事にも繋がりかねないのだ。

 

「相手の速さを利用した、カウンターまたはガードカウンターが有効だと思うけど?」

 

 一応提案はしてみるも、彼の意見を窺うスイーパー。

 

「お前の案で行こう、弾薬も温存しておきたい」

 

 彼が携行している残り弾数は、散弾2発、特殊弾1発分だ。

残念だが、弾数以上の小鬼獣が生き残っており未だ村中を徘徊している。

出来るだけ物資(リソース)を割かずに敵を殺せるなら、それに越した事は無いのだ。

彼はスイーパーの案を受け入れ、銃を腰に仕舞う。

 

「コイツ等を殺した後、周囲の小鬼獣を仕留め、最後に村長宅の小鬼獣を殺す。それでいいな!?」

 

「了解よ。だけど二人で行動しましょう?」

 

「ああ」

 

 村中徘徊している小鬼獣だが、特に村長宅へと集中していた。

恐らく大半の住民が、村長宅へと非難しているのだろう。

副村長宅ほどではないが、村長宅もそれなりの大きさを誇っていたからだ。

村長宅周辺には、村の男達が数人がかりで小鬼獣に抵抗を続けている。

だが長くはもたないだろう。

余り時間を掛けられないが、此方も慎重かつ迅速に眼前の小鬼獣を仕留める必要があった。

手分けすれば効率は上がるが、二人で行動した方が確実に仕留める事が出来る。

相手は、知性は低いが瞬発力に優れる小鬼獣だ。

今の自分達の戦闘力では、個人で立ち向かうには少々不安を覚えていた。

 

「準備は良いな!?」

「いつでも…!」

 

 腰から『数打ちの剣』を抜いた彼は、スイーパーに声を掛けつつも敵に対し構える。

一方の彼女も武器と盾を構え、敵攻撃の隙を伺った。

 

――彼の事は、微塵にも口に出さなかったわね…。

 

だがゴブリンスレイヤーの口からは、灰の剣士の事は一切言及されなかった。

まるで()()()()()()()()()かのように――。

その事に、一抹の寂しさを覚える彼女であった。

 

スイーパーの思惑通り、此方からの攻撃には機敏に反応する小鬼獣。

だが防御反撃(ガードカウンター)を徹底すれば、以外にも苦戦する事なく屠る事が出来た。

 

嘗て、ゴブリンスレイヤーや灰の剣士が対峙した小鬼獣は大型種がベースとなっており、学習能力も桁違いに早かった。

だが、今の小鬼獣は小型種(通常種)がベースとなっており、総合的な戦闘力も学習能力も大幅に欠如している。

余り学ばない性質なのか、単調な噛み付きや引っ掻きを繰り返すのみで、防御に徹した後の反撃には(すこぶ)る弱い。

その甲斐あり、付近の小鬼獣は軒並み殲滅――。

二人はすぐさま、村長宅へと向かう。

 

「――くそぅ!アッチ行けっ…!」

「――何だこの毛むくじゃらのゴブリンはッ!?」

「ゴブリンの癖に速えぇッ…!」

 

 比較的体格の優れた二人の男が村長宅の入り口に陣取り、数匹の小鬼獣を安物の小槍で牽制していた。

だが時間を追う毎に、男3人は次第に劣勢を強いられ裂傷を負ってゆく。

入り口の扉は固く閉ざされていたが、男3人が敗北すれば破られるのは時間の問題だ。

 

「――獣除けの香、効いてッ!」

 

 計6体の小鬼獣に対し、村長宅を守る男は3人。

一応革鎧のお陰で持ち堪えている方だが、状況は芳しくない。

現場へと駆け付けたスイーパーは、獣除けの香の導火線に火を点け殺到する小鬼獣付近へと投げ付けた。

香本体へと引火した事で、匂いの伴った煙が立ち昇り付近へと拡がる。

 

「GYVO!」

「GREB!」

「GYUV!」

「GROB!」

 

 ほんの僅かだが香の煙が小鬼獣の鼻腔をくすぐった途端、顔面を抑え右往左往しながらキレの無い動きを繰り返し始めた。

 

――ホントに効くわね、コレ…!

 

街から出発する際、灰の剣士から幾つか譲渡された獣除けの香。

小鬼に対する効果を検証する為、今回持ち込んだ物だ。

彼女とて、使う前は少々疑念を抱かざるを得なかったものの、いざ使用してみれば見事に藻掻き苦しんでいるではないか。

いくら素早い小鬼獣とはいえ、攻撃も防御もままならないチグハグな動きを晒してしまえば、もはや唯の的でしかない。

これなら素人でも容易に仕留める事が出来るだろう。

灰の剣士自身は”精度が低いため効果時間に限りがある”と言っていたが、1分以上も藻掻いてくれれば造作もなく始末する事が出来る。

 

「――3人とも、援護します!退いてッ!」

 

 スイーパーは、男3人に声を掛け小鬼獣の群れへと跳び込んだ。

本来なら小鬼獣に群がられ惨殺されてしまうであろう状況だが、香の煙で藻掻いている今なら何ら恐れる事はない。

 

手槍状に変形させた武器で、無防備な小鬼獣の頭部を突き刺し1体を呆気なく仕留めるスイーパー。

当然ゴブリンスレイヤーも彼女に続き、数打ちの剣で悶え苦しむ小鬼獣の頚部を切り裂き絶命させる。

眼前で同胞が殺された異常事態にも拘らず、小鬼獣は未だ煙から逃れようと鈍い動きを繰り返す姿は余りに無防備そのもの。

 

それ以後は、半ば一方的な形で小鬼獣を仕留める事に成功。

村長宅付近…否、村中に蔓延っていた小鬼獣は一匹残らず全滅させる事が出来た。

 

「もう小鬼は居ない、皆殺しに出来たな…」

「…相変わらず殺伐とした言葉使いね、その内おかしくなるわよ?」

 

 付近に小鬼が居ない事を確認し終えた二人は、少々軽口を交えながらも辺りを見回す。

やがて全ての敵を仕留めた事を認め、スイーパーは先程の男3人へと声を掛けた。

 

「お怪我の方は大丈夫ですか?」

 

「あ…ああ、助かったよ。村長も村の皆もこの中だ…」

「だけど逃げ遅れた人も居た筈だ、無事だと良いんだが…」

「此処はいい。他の連中をッ…!」

 

 男3人の話によれば、大半の村人が村長宅に避難していると言う。

だが全てではなく、僅かな村人が何らかの形で逃げ遅れ、一人の男は彼らの安否を気遣った。

 

「これ、薬草です。私たちは、残敵が居ない事をもう一度念入りに確かめてきますので、お三方は引き続き此処の警護をお願いできますか?」

 

 小鬼獣から村長宅を守る為に抵抗し、傷を負っていた男3人。

スイーパーは治癒の水薬(ヒールポーション)を渡す事も考えたが、流石に3人分も所持しておらず薬草袋を差し出した。

もう敵は居ないとは思うが、念には念を入れ貴重品でもある治癒の水薬(ヒールポーション)は、出来るだけ温存しておきたかった思いもあった。

エスト瓶を常備する灰の剣士が此処に居れば、話も違ってきたのだろうが…。

 

「分かった…」

「アンタ達も気を付けてな…!」

 

「行ける、スレイヤー?」

「問題ない」

 

 今の処、村長宅の安全は確保されたと判断して良いだろう。

男3人には引き続き村長宅の守りに就いて貰い、スイーパーはスレイヤーを引き連れ村を見て回る事にした。

 

( 推奨BGM ゴブリンスレイヤー ―― 心の渇きを )

 

――無事かしら、あの人…。

 

彼女は村を見回る傍ら、ふと灰の剣士を気に掛ける。

ただ規格外の実力を誇る彼の事だ、先ず敵に後れを取る事はない。

だが、彼は彼で何かを抱えているのは、少し以前の一悶着で明らかだ。

彼は使命を果たすという観念に囚われ、自身を疎かにする一面も内包しているのだ。

そういう意味では、隣を歩く(ゴブリンスレイヤー)と何処か似通っているとも言えよう。

 

先程、産まれたばかりの小鬼を始末するという過程で、灰の剣士は葛藤しながらも役割は果たした。

だが、ゴブリンスレイヤーから()()()()()という事態を招いてしまった。

(本編前夜編 第114話参照)

今の彼自身、灰の剣士の事をどう思っているのかは、彼女には推し測れない。

だが彼女個人としては、決して灰の剣士もゴブリンスレイヤーも責める気にはなれないでいた。

否、そもそも責める資格さえないと彼女自身は思っている。

もし、彼女と灰の剣士の立場を置き換えれば、事態はどう推移していただろう。

躊躇いながらでも、赤子の小鬼に引導を渡せただろうか。

本音で言えば、自信が無かった。

あの時、産まれたばかりの小鬼は不謹慎ながらも、愛らしいという感情が芽生えてしまった。

自分が産んだ訳ではないというのに、あの小鬼を存命させる方法を思案してしまってもいた。

恐らく彼女自身が、灰の剣士の立場なら役割を放棄してしまっていた可能性が高い。

さりとて、その役割を灰の剣士に押し付けた(ゴブリンスレイヤー)を責めるというのも筋違いな気がしてならない。

大まかに聞いた話だが、彼も幼少期に小鬼の襲撃で村を滅ぼされ家族を惨殺された過去を持つという。

 

――私も、見限られる側なのかも知れない。

 

彼女自身も小鬼に敗北し、心身ともに踏み躙られた過去を持つ。

(イヤーワン編 第35話参照)

その時は運良く、彼等に助けられ再び冒険者稼業へと復帰できた。

そして自分の様な犠牲者を少しでも減らすと(うそぶ)き、今では小鬼を片付ける者(ゴブリンスイーパー)などという大層な肩書を得るに至った。

確かにそれは、本心でもある。

だが果たして、それだけの理由で、今後も揺れる事なく戦い続けられる自信は正直なかった。

彼女の本当の願い――。

それは、二人との繋がりを断ちたくはない。

そんな依存にも似た縋りが、今の彼女を支えてもいたのである。

 

「小鬼は残っていない様だな」

 

 そんな想いに駆られていた時、彼から声を掛けられた彼女は、ハッと意識が現実に引き戻された。

 

「――ええ…そうね…。後は副村長宅の付近…だけね」

 

 考え事を悟られまいと極力平静を取り繕いながら、彼女は副村長宅に向く。

 

「ああ。怪しいのは、あの家だけだ。警戒を怠るな」

「了解」

 

 村長宅と比較しても、副村長の民家は取り分け目立つ。

副村長派と小鬼の繋がり――。

それを暴かねば真相に辿り着く事は出来ない。

あの時、副村長率いる自警団と小鬼は確かに不自然な形で応対していた。

何らかの繋がりは確定していたものの、ただ()()()()に過ぎない段階だ。

確かに小鬼自体は殲滅できたと言って良い。

しかし、真相に辿り着き根元から原因を断たねば、時期を経た後、再び同じ事件が繰り返されてしまうに違いない。

もう、ただの小鬼退治という領域では収まらない状況に発展していた。

とてもではないが、白磁等級の新人に務まる案件ではない。

 

副村長宅へと進路を変える二人――。

その道すがら、二人の視界に一人の人物が映った。

 

( 推奨BGM ゴブリンスレイヤー ―― 悪の所業 )

 

「「……」」

 

一旦脚を止める二人だが、警戒を緩める事はなかった。

一瞬、此処の住民かとも思ったが、余りにも場違いな服装と佇まいで此方と向き合っている。

そして、何よりも二人を警戒させたのは、素顔を覆う奇抜な仮面にこそあった。

お道化た表情を模した道化師の如き仮面を被った一人の人物。

何処から調達したのか屋内用の椅子に座り、まるで此方が来るのを待っていたかのような素振りさえ見せていた。

 

「いやぁ…実にブラボー…!あの剣士の手も借りずに、獣化した小鬼を殲滅してしまうとはね。君の”銃”と御嬢さんの”機転”…、実に上手く絡み合い夫婦(めおと)の如き舞踏を演じてくれたね…♪」

 

 未だ火も完全には消え去っておらず、幾つかの建物は火災に見舞われている状況だ。

――だと言うのに、この仮面の男は完全にお道化た口調と態度で演劇でも鑑賞するかのように振舞った。

この時点で、仮面の男は”仕掛けた側”という判断が出来る。

副村長一派も怪しいが、この仮面の男が纏う雰囲気は得体の知れない異質さを醸し出していた。

 

「通常種の小鬼をベースにしたとはいえ、一応は獣化には成功した個体だ。従来の小鬼とは比較にならない身体能力を備えていたんだけどね。まさか、全滅させてしまうとは。流石は小鬼に関する渾名(スペシャリスト)を拝命するだけの事はある」

 

 椅子に腰かけたまま仮面の男は、ご丁寧に小鬼獣の特徴を語り始める。

 

「貴様も、あの医療教会とやらの関係者か…!」

「例の教会の狩人とも、お知り合いなの?」

 

「答える義理も義務もないねぇ♪全く…老いぼれ(老年男)の管理はザルも良い所だ。変わりは幾らでも有るとは言え、もう少し村を上手く運営できなかったのかねぇ…?」

 

 二人の質疑には全く答える素振りも見せず、ため息交じりで何やら愚痴をこぼしながら、ゆっくりと椅子から立ち上がった。

仮面の男の体格自体は、然程屈強でもなく寧ろ細身に分類される。

とても戦士職には見えなかった。

だが、飄々と振舞う仮面の男に対し、二人何故か気圧され後ずさりしてしまう。

 

「おいおい、今からそんなに怖がってどうするんだい?何もしないよ、()()ね♪」

 

「「……ッ!」」

 

一歩一歩だが、たおやかに悠然と距離を詰める仮面の男。

彼が一歩踏み締める度に、二人は大きく一歩距離を空けてしまうのだ。

とにかく男の気配は異質極まりなく、二人の本能は理屈抜きで()()だと判断していた。

 

「まぁ折角村へと遊びに来てくれたんだ、私なりに『オモテナシ』の精神で応えないとね♪」

 

( 推奨BGM ダークソウル ―― 不死院のデーモン )

 

時折り仮面付きの顔を左右へと揺らしながら、男は懐から手札(カード)と奇妙な杖を取り出す。

その後、タタンッと軽快なステップを踏み手札を天へと翳しつつも、杖の柄を地面へと突き刺した。

 

「――サモン!コード・スコーピオンッ!」

 

 仮面の男が叫ぶと同時に、一枚の手札から魔法陣が浮かび上がる。

その魔法陣と地面に突き刺した杖が共鳴現象を引き起こし、見た事も無い異形が出現した。

 

「召喚魔法…ね」

「小鬼ではない…か」

 

 彼が行使したのは召喚術の一種で、2足型ながらサソリに酷似した尾と一対の巨大鋏を持つ、白い甲殻に覆われた怪物だった。

先程の小鬼獣とは全くの異質な気配を纏い、対峙する二人は威圧感を覚える。

 

「さぁて、古より存在する、この異形…どう戦うかね、お二人さん?」

 

 召喚を終えた仮面の男は、挑発にも似た言葉で煽りながら静観の姿勢を見せた。

自らの手を汚す気は無いらしい。

 

「――RULOOOOO!!」

 

 仮面の男が退がると同時に、白い異形は雄叫びを上げながら二人へと襲い掛かった。

何の変哲もない唯の突進からの鋏による叩き潰し――。

動きそのものは非常に単純明快だが予想外の速さと膂力で、地面が減り込んでいる。

スレイヤーとスイーパーは左右に別れローリングで回避したものの、真面に食らえば防具ごと叩き潰されていただろう。

 

「初見で良く反応できたね。一応攻撃力だけならトロルの一撃にも匹敵するのさ、斥候役とはいえ…ね」

 

 建物の屋根に跳び上がり、高みの見物と洒落こむ仮面の男。

男の言う事も(あなが)ち間違いではなく、減り込んだ地面を見るに威力の高さを物語っていた。

 

初撃を躱した二人だが、相手は見た事も無い異形だ。

情報が無い以上、迂闊に攻め込む真似は控え様子見を選択する。

再び、白い異形が攻撃を開始。

 

しかし敵は1体、味方は二人。

左右に別れる事で、敵はどちらかに的を絞らねばならない。

一方が攻撃を凌いでいる間に、一方が隙を突く事が出来る。

これも作戦の内で、数多くの小鬼退治で培われた経験の賜物と言えよう。

 

白い異形は、スイーパーへと的を定め鋏状の腕部を袈裟掛けに振るう。

トロルほどではないが、優れた体格を誇る白い異形。

単調ながら攻撃速度は異様に速く、スイーパーは上半身を捻り辛うじて回避。

だが、白い異形は空振った腕部を切り返し横薙ぎを繰り出した。

 

「――ッ!?」

 

 警戒はしていたものの、異形の追加攻撃に回避は間に合わないと判断するスイーパー。

ギリギリのタイミングだが、手持ちの武器と棘盾(スパイクシールド)で辛うじて防御は間に合った。

だが異形の攻撃力の前に、彼女は防御ごと吹き飛ばされ転倒してしまう。

仮面の男が発言した通り、トロル級の攻撃力と言うのも納得がいく水準だ。

吹き飛ばされたスイーパー、しかし攻撃後の隙は明確だ。

一瞬だが動きの止まった異形に向け、ゴブリンスレイヤーが散弾銃で発砲――。

銃口から大口径の散弾が発射され、白い異形の身体を無残に引き裂いた――かに見えた。

 

「――ぬッ…!?」

 

 しかし無数に別れた子弾は、全て白い甲殻に阻まれ銃撃の効果は殆ど現れていない。

今度はゴブリンスレイヤーへと意識を向ける、白い異形。

 

「ククク…()()ではなぁ…!」

 

 散弾銃の威力が通用しない事に、若干の動揺を滲ませるゴブリンスレイヤー。

上から仮面の男の、嘲りが投げ掛けられる。

 

標的を彼へと定めた異形は、長い尾をしならせ左右交差に薙ぎ払う。

硬質の鞭にも似た尾の叩き付けに一発目は何とか小盾で防御出来たものの、2発目は彼の胴を引き裂いた。

板金で補強された革鎧は引き裂かれ、彼は数歩後退る。

だが異形の追撃は止まず、頭上高く振り上げた尾で彼を貫く予備動作に移った。

 

「――GYOE!?」

 

 だが尾を突き出す寸前、スイーパーが屑輝石を砕き発生した魔力礫が着弾した。

ほんの僅かな時間だが、異形は体勢を揺らし追撃が阻止される。

 

「――今の内よッ!」

 

 体幹を崩していたのはゴブリンスレイヤーも同じで、彼女の援護で急ぎ体幹を立て直す。

 

「――はぁぁッ…!」

 

 手槍状へと変形させた武器を両手に構え、スイーパーは異業へと突撃――。

大振りだが、上段振り下ろし攻撃を異形目掛けて放った。

 

「――ぐぅッ…かたい…!」

 

 しかし難なく鋏状の腕部に弾かれてしまい、反撃を恐れたスイーパーは即座にバックステップで間合いを離す。

そのままスイーパーはゴブリンスレイヤーと再び合流するも、余りに硬い敵の防御に攻め手を見出せないでいた。

 

次第に追い詰められる二人。

 

「鋏を掻い潜り、特殊弾を撃ち込めれば、或いは――」

 

「闇雲に攻めても駄目ね。何とか動きを拘束すれば――」

 

 凄まじく硬い異形だが、それが顕著に表れていたのは分厚い甲殻に包まれた腕部にあった。

それさえ掻い潜り胴体部に大火力を打ち込めれば、異形を打倒できるのではないか?

不利ながらも二人は、そういう結論に行き着いていた。

 

粘糸(スパイダーウェブ)の真言魔法を覚えたのだけれど、一回が限度…加えて片腕を封じるので精一杯。それでもやる?」

 

「ああ。片腕さえ封じて貰えば、後は俺で何とかする」

 

 密かにスイーパーは、真言魔法を会得していた。

まだ一つだけで使用回数も一度きりだが、対象物を拘束する粘糸(スパイダーウェブ)という魔法の使用を提案する。

 

西方辺境街にて発生した小鬼禍を鎮圧した後、彼女は単身オーベックの小屋へと赴いた。

其処で、オーベックと同居する嘗ての仲間だった『呪文使いの女』から、真言魔法の一つを伝授してもらっていた。

 

だが彼女は習得したての状態で、習熟しているとは言い難い。

精々が異形の片腕を封じるだけに留まる事も、彼に告げておく。

しかし彼は何ら躊躇う事も無く、次弾を装填しながら彼女の案に従う姿勢を見せた。

作戦は決まった。

 

だが二人が動く前に、敵が攻勢に出る。

先程とは比較にならない激しい動作で、腕部や尻尾を乱雑に振り回した。

 

「――問題は…くッ…詠唱する隙を…ウッ…作らないと…!」

「――俺が作る、お前は後退しろッ!」

 

 真面に受け止めては、此方の防御と耐久がもたない。

スイーパーの詠唱時間を作るため、ゴブリンスレイヤーが異形の前へと立ち塞がる。

鋭くしなやかな尻尾の振り回しと、強力な腕部の叩き付け。

敵の猛攻を、彼は小盾と数打ちの剣で凌ぎつつ詠唱時間を稼ぐ。

 

「アラーネア(蜘蛛)…ファキオ(生成)…リガ―トゥル(束縛)…!」

 

 防御と回避を駆使しながらも徐々に痛痒を重ねるゴブリンスレイヤー。

彼の身を案じつつも、彼女は後方で呪文の詠唱に移る。

 

――クソ…、真正面からの戦闘は苦手だ…!俺は小鬼以外に用は無い…!

 

時間にして僅か10秒足らずだが、白い異形の乱撃を前に、彼は呪文の発現を待ちわびた。

 

 

 

……

 

( 推奨BGM ダークソウル ―― キャラメイク )

 

村の中でも1、2位を争う程の豪邸――副村長宅。

割れたガラス部屋の破片を取り除きながら、意志朦朧としている子供達を一ヶ所へと集める数人の男女。

 

「私は外へ向かいます」

 

 ソウルの流れで、外では仲間達が未だ死闘を繰り広げている事を知る灰の剣士。

此処での敵対者は軒並み始末できた。

後は、()()再び裏切り行為でも働かない限り、危険はないだろう。

 

「……何故…私は、今もこうして生きているのだ…?」

 

 少々懸念材料の残る人物――『副村長』は怪訝な表情を浮かべながら灰の剣士に問う。

 

確かに彼は斬られた筈なのだ。

目の前の冒険者――灰の剣士に…あの老年男ごと。

 

大部屋の片隅には、肩部から胴体部まで深く斬り裂かれ微動だにせぬ老年男が横たわっていた。

白い法衣は黒ずんだ紅に染まり、息をしていない彼は完全に絶命している事を証明している。

 

老年男に人質として囚われた副村長。

副村長よりも小柄な老年男を斬るには、自分ごと斬り捨てるしか方法は無い筈。

だが自分はこうして存命しており、老年男だけが死んでいた。

確かに灰の剣士は、副村長ごと老年男を斬り殺した。

その証拠に副村長の衣服は、袈裟懸けに斬り裂かれた跡が残っており、その事実を物語っている。

しかし副村長の身体は無傷で、今は痛みも感じていない。

 

「簡単な事です。貴方ごと敵を斬った瞬間、()()()()に回復の奇跡を行使した。…それだけです」

 

「…ぬぅ…」

 

 副村長ごと敵を斬り殺したが、なにも即死させた訳ではない。

絶命する前に副村長だけに的を絞り、回復の奇跡を掛けた。

それにより老年男のみが死に至り、副村長は今もこうして生きているという事だ。

 

「何で、そんな男を助けるんだ?そいつは…俺達の村を――」

 

 灰の剣士のやり方が腑に落ちないのか、作業を手伝っていた格闘村民は抗議の声を上げた。

 

「…彼は全容を知る重要参考人。この件が片付けば洗いざらい話して頂く」

 

 ただの小鬼退治では収まらない、今回の事件――。

小鬼と村の因果関係を暴く為にも、副村長は事の経緯を知る数少ない情報源だ。

確かに小鬼退治は達成し、ギルドは成功と見なすだろう。

だが今回は、村と小鬼は深く結びついており、その繋がりを暴かねば同じ案件が他所でも発生しかねない。

 

況してや、医療教会との繋がりも疑わしい状況だ。

このまま小鬼退治だけに留めてよいものか。

後に引けない段階まで来てしまったのだ。

此処まで関わった以上、一定の責任を果たす義務が生じるだろう…冒険者として。

 

「…今更、逃げも隠れもせん。証拠となる書類は全てギルドに提出し、然る後、刑罰も受けよう。だがこれだけは信じて欲しい…!私は、他の誰よりも村を守る為に村の発展を願った。これだけは絶対に譲れんよ…誰が何と言おうとな…!」

 

 出会った当時の副村長からは敵意と怯えにも似たソウルを感知できたが、今の彼には決意と覚悟が見て取れる。

今の彼の言葉に、嘘偽りはないのだろう。

 

「…他はどうかは知らないが、私は信じよう。今の貴方の覚悟と決意を――」

 

 そうとだけ告げ、灰の剣士は階段を上がり副村長宅から外へと出ようとした。

だが豪華な造りが災いしたのか、玄関付近の天井から1体の小鬼獣が彼に襲い掛かる。

 

「剥き出しの敵意で――」

 

 だが彼は何ら臆する事無く、頭上の小鬼獣に向けフックショットで迎撃――。

フックショットから放たれた鉤縄は、小鬼獣の頭部を見事に貫き空中で即死させた。

仕留めた敵ごと鉤縄をリールで巻き戻した彼は、小鬼獣の遺体だけを掴み取り呪術の火『浄化』で遺体を火葬した。

 

「フックショット…使える」

 

 高所の移動だけでなく戦闘面でも応用が利く事を証明できた灰の剣士。

彼の本業は剣士で、銃とは縁遠い存在だ。

しかし、様々な方面での有用性を秘めた、銃型の道具フックショット。

深く視線を落とし何度も頷きながら、それを腰のホルスターへと納めた。

 

――あの二人は…あっちか。…知らないソウルが、もう二つ…一つは異形…一つは人…。

 

外へと出た彼は、火に見舞われ崩壊した村を目の当たりにする。

かなり被害が拡大している様子が見て取れ、住民の遺体が幾つも散見された。

だが周囲の敵は、殆ど排除された事が判る。

あの二人が奮戦してくれたのだろう。

しかし彼等は目下戦闘中で、直ぐ傍には見知らぬ異形と人のソウルを感知できた。

先程、小型種をベースとした小鬼獣を討ち取った事で、教会の狩人との関連性を疑う灰の剣士。

あの男の所在も気になるが、今は二人を助ける事が先決だ。

彼はソウルの方角へと全速で向かった。

 

 

 

……

 

( 推奨BGM ダークソウル ―― 不死院のデーモン )

 

呪文の詠唱を終えた彼女の手から粘性の糸が幾つも放出され、白い異形の片腕を絡め捕る。

 

「くぅッ…なんて力…!」

 

 当初の目論見通り、異形の片腕を封じる事は出来た。

だが糸を絡めただけで動きを完全に拘束できる程、白い異形の膂力は甘くは無かった。

当然、糸を振り解こうと抵抗する異形を前に、ゴブリンスイーパーも全力で粘糸を引く。

両足で踏ん張り、呪文を射出した腕をもう片方の腕で押さえ付け振り回されまいと抵抗する。

 

「――急いで…スレイヤーぁっ…!」

 

 異形の単純腕力だけでも、スイーパーなど軽く凌駕している。

長くはもたない。

今は辛うじて片腕を拘束しているが、振り解かれるのは時間の問題だ。

スイーパーは苦しげな声で、ゴブリンスレイヤーへ追撃を叫ぶ。

 

――クソッ…!見積もりが甘かったか…!?

 

彼女に言われるまでもなく、ゴブリンスレイヤーは異形へと有効射程距離まで接近に動いていた。

だが今発砲したとしても、未だ健在な、もう片方の腕部で特殊弾を防がれてしまう恐れがある。

一発きりの特殊弾、何としても確実に異形の胴体部へと撃ち込む必要がある。

だが、異形は尻尾と腕部を乱雑に振り回し、彼は懐へ潜り込む事に苦慮していた。

尻尾は予想以上の速さで縦横無尽に動き回り、彼の接近を阻んでいる。

このまま手を拱いていては、スイーパーの努力が水の泡と化す。

 

「だ…ダメ…これ…以上は…」

 

 徐々にスイーパーは引き摺られ、粘糸ごと振り回されようとしていた。

 

「――ッ!?急に力がッ…!?」

 

 だが異形の力が突如弱まり、スイーパーは一瞬だが呆気にとられる。

 

( 推奨BGM ライザのアトリエ ―― 白南風 )

 

『――何をしているッ!?早く弾丸を打ち込めッ!』

 

 彼の…灰の剣士の声が二人に投げ掛けられた。

よく見れば、灰の剣士が放ったフックショットで異形のもう片方の腕部が絡め捕られている。

彼が介入した事で、白い異形の両腕部は完全に封じられた。

だが異形には、尻尾が残っている。

これだけでも、ゴブリンスレイヤーを牽制する事は十分可能なのだ。

 

しかし異形の尻尾が威力を発揮する事はなかった。

 

「…雨…?」

 

 灰の剣士は、ふと視線を空へと向けた。

何時の間にか、鈍い灰色の空は分厚い雲に覆われており雨が降り注いでいた。

 

「…チッ…!雨…水か…!」

 

 建物の屋根で高みの見物と洒落こんでいた仮面の男は、仮面奥で舌打ちし空を恨めし気に仰ぐ。

 

「力が…弱まったわ…」

 

 天候が『雨』と切り替わった事で、どういう訳か白い異形の活動が鳴りを潜めていた。

それに比例するかの如く異形の膂力も急激に弱まり、今ならスイーパーの力だけでも引き摺る事が可能な程だ。

 

「奴は水に弱いようだな…今しかないッ!」

 

 原因は分からないが、白い異形は水を浴びる事で弱体化してしまった。

今の異形は隙だらけだ。

当然それを見逃すゴブリンスレイヤーではない。

好機と悟った彼は、透かさず異形の懐へと潜り込む。

一応異形も、なけなしの力を振り絞り尻尾で最後の抵抗を試みた。

だが先ほどの鋭さなど微塵にも感じさせず、鈍い動きでは牽制にすらならなかった。

ゴブリンスレイヤーは回避もせず、尻尾を肩当てへと掠めさせそのまま肉薄――。

ほぼゼロ距離で、異形の胴体部へと特殊弾を放った。

 

彼が放ったのは『スラッグ弾』と呼ばれる特殊な大口径の弾丸だ。

多量の子弾を弾頭とする散弾とは違い、スラッグ弾は1粒だけの弾で構成される。

つまり拡散はせず、大型の弾丸を直接目標へと撃ち込むのが主な使用法だ。

彼の使う散弾銃も膣溝(ライフリング)は掘られておらず基本的に弾道は安定しない。

それ故、散弾以上に命中精度にも難があり、有効射程距離は必然的に短くなる。

しかし、大型の弾丸を至近距離から撃ちこむ事で、その破壊力は桁違いに高いのだ。

そのスラッグ弾を真面に受けた白い異形は、胴体部に巨大な風穴を空け仰向けに斃れ絶命した。

 

( 推奨BGM ダークソウル2 ―― マデューラ )

 

「…何とか生きて会えたな、二人共。この異形に見覚えはあるか?」

 

「ないわ」

「……」

 

 白い異形は斃れた。

生きて再会できた事を喜びたいが、灰の剣士は二人に異形についての情報を求める。

だが彼と同じく二人も、白い異形には全くの知識が備わっていなかった。

 

「…となると、あの仮面の男が怪しいのは、間違いない」

 

 灰の剣士は、屋根に佇む仮面の男に疑いの目を向ける。

猛威を振るった白い異形も、この男が召喚したものだ。

更に、この村に似付かわしくない程に、奇抜な出で立ちをした正体不明の男。

この仮面の男も、医療教会と何かしらの関係があるのだろうか。

 

「素直に話してくれるとは思えんがな」

 

 ゴブリンスレイヤーの考えは尤もだ。

人を見下し弄ぶかの様な振る舞いで、敵を(けしか)けてきた仮面の男。

此方の問いに答えてくれるような男とは思えなかった。

 

灰の剣士に続き二人も、仮面の男を見据える。

少しの間、互いに無言で向き合っていたが、やがて仮面の男の方から地面へと降り立った。

観念したとでもいうのだろうか。

その割には、男からの焦燥感は感じられない様にも思える。

 

「貴公に問う。何者かッ!?」

 

「私か?何て事のない、唯の錬金術師だよ。彼方昔より、こうして蘇ったのさ…現代に――」

 

「錬金術師だと!?」

 

 仮面の男は、自身を錬金術師だと名乗り、遥か昔の時代より流れ着いた事を明かした。

 

「いやいやいや…参ったよ。まさか天候に恵まれなかったとはね…。君達も気付いた通り、この『フィルフサ』という生物は、総じて水を嫌う習性があるのさ。急激に弱体化したのも、その所為さ」

 

――フィルフサ…?何処かで聞き覚えが…?

 

仮面の男の口から出た『フィルフサ』と言う固有名詞に、灰の剣士は記憶を思い返してみたが引き出す事は出来なかった。

 

「白い生物の事は、どうだっていいわ!この村…いえ副村長派と小鬼の繋がり…全ては貴方が黒幕なの…答えてッ!」

 

 今度はスイーパーが、怒号交じりの声音で真実を聞き出そうと凄む。

人命が失われた一大事にも拘わらず、人を食ったかの如き仮面の男の態度には相当頭に来ていたらしい。

 

元気溌剌(げんきはつらつ)な、お嬢さんだねぇ…。律儀に教える必要など何処にある?謎を解き真実を暴き出すのも、冒険者としての醍醐味だろう♪」

「――何それ、ふざけてるの…!?」

 

 あくまで答える気は皆無という事だ。

怒り苛立つスイーパーにも、はぐらかす様な態度で丸め込む仮面の男。

3対1という圧倒的数の不利にも、男は飄々とした余裕を崩そうとはしなかった。

 

「時に薪の王…もとい、灰の剣士君…だったかな?()()()()()()()が最後に使った秘薬だけど…出来栄えはどうだった?当の本人は消えちゃったからねぇ、感想を確かめようがないのさ」

 

「――!?まさか…あの時の()()は貴公がッ…?」

 

「その通り。私の錬金術で生み出した秘薬なのさ!太古に栄えた『クリント王国』の王宮錬金術…その一端を垣間見たかい?」

 

 仮面の男…否、仮面の錬金術師から告げられたダークゴブリンとの戦に、灰の剣士は当時の記憶を呼び起こしていた。

 

残り火を解放し、強化法陣で変身したダークゴブリンを追い詰めていた灰の剣士。

だが最後の最後でダークゴブリンは切り札と称し、とある秘薬を飲み干す事で爆発的に魔力を肥大化させ、最後の一撃を放った。

結果的に、灰の剣士とゴブリンスレイヤーの協力攻撃でダークゴブリンの討伐は成ったが、代償も計り知れなかった当時の記憶。

(本編前夜編 第88話参照)

よもやこんな所で、ダークゴブリンとの関連性を耳にしようとは思ってもみなかった。

 

「ああ…。見事な出来栄えだった。お陰で、多数の命が失われた」

 

 あの戦では本当に数多くの若い命が犠牲となり、生き残った者達に暗い影を落としていた。

激昂し怒鳴り付けるでもなく、仮面の錬金術師へと静かに睨み付ける。

 

「そうかい♪まだまだ改良の余地はあったんでね。あの黒い小鬼は、良い実験台になったよ。まぁ本人も、私の思惑に()()()()()()()()()()様だがね」

 

 敵意を込めた彼の視線など歯牙にも掛けず、仮面の錬金術師は変わらず陽気な態度で振舞った。

 

「それで、ここからどうする気だ貴公?今の我々相手に、その余裕の態度を保てるとでも?」

 

「……確かに。今日は準備不足でね。真面にやり合ったら、バラバラにされちゃうよ…!()()()()()()…!」

 

 情報を提示する気も降伏する素振りも見せない、仮面の錬金術師。

何か奥の手でも隠し持っている可能性も否定できないが、今の戦力差を覆せるようには思えなかった。

また意外にも仮面の錬金術師も、戦力差の不利をアッサリと認めてしまう。

だが台詞の最後『特に君にはね』の部分だけには、身震いを覚えるかのような声音で明確な悪意さえ籠っていた。

 

それにしても、この仮面の錬金術師は何者なのだろう。

どうやら灰の剣士に対し取り分け意識している様だが、彼自身には全くの心当たりもなく仮面の錬金術師との面識もない。

試しに深くソウルを探ってみたものの、やはり覚えがなかった。

 

仮面の錬金術師は『クリント王国』なる国名を紡いでいたが、その様な国にも全くの記憶がない。

狭間の地に関連した国名なのかも定かではなかった。

 

「仮面の貴公、私に対し意識を向けている様だが何を望み何を成そうとしている?」

 

 恐らく、はぐらかされるであろうが、一応聞いてみる事にした灰の剣士。

 

『そこから先は私がお応えしよう、出来損ないの薪の王…!』

 

 物静かに降り注ぐ雨、その影響もあり燃え盛っていた火は徐々に鎮火を始める。

その天候の中、突如として聞き覚えのある声が木霊する。

仮面の錬金術師の隣から魔法陣が浮かび上がり、その中から見知った出で立ちの男が姿を現した。

 

( 推奨BGM ブラッドボーン ―― ヤーナムの影 )

 

副村長宅に居た老年男と同じ衣服を身に纏った若い男――。

腰には銃を吊り下げ、刃付きの鞘を背負った聖職者――。

 

「「「――教会の狩人ッ!」」」

 

彼の姿を目したと同時に、灰の剣士たちは声を上げる。

 

「少し遅かったね」

アレ(老年男)が暴走してくれたお陰でな」

 

 親し気に言葉を交わす、仮面の錬金術師と教会の狩人。

この村に関して話しているのかどうかは分からない。

だが姿を見せた時点で、無関係ではない事だけは確定した。

両陣営とも言葉もなく睨み合う事暫し、教会の狩人が口を開く。

 

「とうとう()()を越えたな、薪の王…!」

 

「……」

 

 彼の言う”一線を越えた”……、何を指しているのかは直ぐに分かる。

副村長宅での出来事に関して言及しているのだろう。

 

「邪欲に溺れ、幼子まで搾取しようとした連中だ。何の遠慮もいらぬ」

 

 灰の剣士は、否定する事も無く”当然だ”と言わんばかりに、狩人の指摘を受け入れた。

しかし毅然とした態度とは裏腹に彼のソウルは乱れ、握る拳には不必要な力が籠っていた。

 

「たとえ心無き邪悪だと言えども、人は欲に染まり…欲によって発展してきた。否…人だけに非ず、生きとし生ける生命全てが…欲によって生かされている。同じなのだよ、こうしている今も……季節風が吹き…雨が降り注ぎ…弱き者は搾取される…。全ては同じ…自然の成り行きだ」

 

「では自然の成り行きとやらに従い、貴公を斬れば、教会に連なる”欲”を断つ事も出来る訳だな…!」

 

 教会の狩人と灰の剣士、互いの価値観が衝突し合い不可視の火花が舞い散った。

 

「それはどうかな?貴公が幾ら剣で我が教会を斬ったとて、生き残った誰かが組織を引き継ぐ。況してや”活人剣”などという偽善に満ちた絵空事では、何事も成す事は出来ん。我が教会は、生命そのものであり命の本質よ」

 

「一殺多生が活人剣の教えだ。だが全ての体組織を、細胞を殺せば、生命(組織)は死ぬ…!」

 

「クククク…、ゴロツキ程度の組織ならな!」

 

 狩人の言う通り、医療教会と言う組織が存在するという事は、必要とされているとの暗喩とも言える。

それが常識を逸脱した組織であり仮に滅ぼせたとしても、別の誰かが組織を引き継いでしまえば元の木阿弥に帰結するだけなのだ。

剣で教会組織を切り伏せた処で、ただの()()()()()が精々だ。

 

「だが生命は子孫を残し、組織は遺伝子(ミーム)を残す。貴公は、あの時代で自ら火を消し”火継ぎ”を終わらせた積りだろうが、そうではない。ソウルは残り、ミームは新たな世代へと溶け込み引き継がれた。貴公は、何も終わらせてはいないのだよ」

「君の居た時代の残り火が、こうして四方世界に流れ着いている。これこそが何も変えられていない証拠だ。君がどれだけ活人剣とやらに拘り邪悪と見なす者を斬り続けたとて、世界も時代も何一つ揺らぐ事はない。いい加減、認めてはどうだい?内に潜む獣を解放し、剣で愉悦を満たす本能を…!」

 

「――知った風な事を…!私から()()引き出そうとしているッ!?」

 

 仮面の錬金術師はいざ知らず、態々こうして姿を見せた教会の狩人。

彼等の目的が灰の剣士なのは、容易に想像が付く。

そして、手の込んだ言葉回しで彼の内面に揺さ振りをかける。

ただの遊戯で、ここまで事を起こす必要など無い。

単純に命を狙うだけなら、奇襲なりすれば事足りる筈だ。

彼等の狙いは、灰の剣士の中に在るナニカだと判断するのが妥当とも言えよう。

 

「ふむ…これだから勘の良い輩は…まぁ良い。クックック…」

 

 どうやら彼の洞察は当たっていたらしく、教会の狩人は毒付きながらも掌を上へと翳す。

 

「あらゆるソウルには、固有の振動数を持つ。この振動数を変化させる事で、ソウルは物質にも力の根源にも変ずる事が可能なのだ」

 

 翳した掌から青白い(もや)の様な球体、即ち灰の剣士も良く知るソウルが出現した。

そして教会の狩人はソウルの振動数を変化させ、気体状から瞬時に物体へ変容させる。

これらの仕組み(メカニズム)だが実は、灰の剣士達も本能的に理解していた。

 

「更に、こうする事で――」

 

 教会の狩人は、掌のソウルへ細工を加え物体から再び気体へと変化させた。

そして青白いソウルは、禍々しく赤黒いソウルへと変容し、即座に灰の剣士へと投射する。

 

「――ッ!?」

 

 不意を突かれたのか思いの外速い投射速度に躱す事が出来ず、彼は赤黒いソウルを真面に受けてしまう。

 

「――ウッ…な、何だこれは…!?悲鳴…呻き声…憎悪…!?」

 

「――灰よ…!?」

「――し、しっかりして…!?」

 

 灰の剣士を見る限り、外傷らしき影響は見受けられない。

だが彼に投射された赤黒いソウルは、そのまま纏わり付き(もや)のように全身へと拡がった。

物理的な痛痒は負っていないが、彼は赤黒い靄に覆われる事で苦しみ出す。

 

「クックック…ソウルの振動数に細工を施し呪詛を注ぐ事で、怨念と怨嗟の塊として解き放ったのだ。如何かな…今までの”悪行”に身を染めてきた気分はッ!?」

 

 狩人が行った技法――。

恐らく『ソウルの業』、『ソウル錬成』に近しい技術なのだろう。

灰の剣士も不死人時代には、ソウルの振動数を変化させ入手した装備や道具類を、意識(インベントリ)へと出し入れしていた。

教会の狩人は、ソウルの業を応用させたのだと推察が付く。

 

「…グッ…怨念だとッ…!?」

 

 膝を付きながらも灰の剣士は、眼前の二人を睨み付ける。

 

「――いいかッ!君は今日に至るまで、一体どれだけの殺戮に手を染めてきた。千かッ!?万かッ!?今まで斬り殺し奪ってきたソウル、そしていま君に放たれたソウル…!見事に合致しているのが、殺戮に興じてきた証拠だ?そして聞こえて来る筈だろう、苦痛に喘ぐ呻き声が…!」

 

 今度は仮面の錬金術師が、激しい言葉で攻め立てる。

彼の言う様に、灰の剣士は『北の不死院』を脱出して以来、数多くの敵を屠りソウルを糧としてきた。

そして、今に至るまで手に入れてきたソウルと狩人が放った赤黒いソウルは、互いに共鳴現象を引き起こし融合する。

融合したソウル同士は更なる濃厚な赤へと変わり、灰の剣士へ纏わり付き激しく蝕みつつあった。

灰の剣士だけには、赤黒いソウルからの怨嗟や呪詛の呻き声に抱かれ、全身から暗い衝動が蠢いていた。

中と外からの赤黒いソウルに蝕まれた灰の剣士。

怨念のソウルに侵されながらも、彼は必死に抗い敵を睨み付けていた。

 

「君に向けられた怨念の呻き声は、やがて君自身の内なる”獣”を引き起こすキッカケを作るだろう。その獣と残虐性を呼び覚ました時ッ…共に眠る『或るモノ』が引き出される筈だ」

 

「貴公の中に眠る”獣”…まぁ、本性と言ってもいい。その残虐性の中に眠る『或るモノ』…つまり特別な太古のソウル、それを引き出したいのさ!」

 

「君の中に燻ぶるソウルは特別でね。その振動数は、我ら総がかりでも手に余る程に偉大なのだよ。君の中に在るのは正直、面白くない」

 

「……ッ……!」

 

 過去に諭された事がある。

神殿裏庭に植生された聖黄金樹の下で、鳥羽の狩人と出会った灰の剣士。

彼女からも、内に潜む獣について言及された事を思い出す。

(本編前夜編 第101話参照)

そして彼等…教会の狩人たちは、灰の剣士の中に眠る獣を呼び覚ます事で、とある偉大なソウルを手中に納めたいという企みを語った。

 

「さぁ…呼び覚まし…我等に見せてみよ…!貴公の内に眠る太古にして偉大なソウルよッ!」

 

「ぐぅぅウウッ……貴公等は…本当に何者なのだ…?」

 

 赤黒い怨念のソウルは、彼の精神にまで入り込まんばかりの錯覚さえ覚える。

時間が経つにつれ、自身の内から言い様のない殺戮衝動が噴出せんとしていた。

灰の剣士は、仲間達を視界に入れない様に極力務める。

今少しでも二人を視界に捉えてしまえば、荒ぶる衝動のまま切り掛かりかねない程に危うい状態なのだ。

 

「我々が何者かだって?貴公と同じだ、出来損ない。ここまで怨念のソウルに色濃く共鳴し合うとは、思わなかった」

「共鳴し合ったソウルが指し示す通り、君は間違いなく殺戮と血に呑まれた”獣”そのもの――」

 

「――黙れぇぇッッ!!!」

 

 台詞を最後まで聞く義理など無い。

激昂した灰の剣士から何かが弾け飛び、一瞬で赤黒いソウルを吹き飛ばし掻き消した。

彼の周囲は青白いソウルに覆われ、同時に狩人たちへと斬りかかる。

だが、彼の剣は二人を捕らえる事なく見事にすり抜けた。

 

「――…幻影かッ!?」

 

 肉眼では鮮明に映るものの、彼等は実体を持たず姿だけが現場に投影されていた。

 

「繁栄の終焉…後に残るは夢幻の残骸と骸…。この村には、幻こそが相応しいだろうさ♪」 

「……ふむ、時間切れだな」

 

 詩人染みた台詞回しの仮面の錬金術師と、時間切れを告げる教会の狩人。

幻影のまま、二人は其処で佇む。

だが、既に周囲の敵は殲滅済みだ。

更に雨が降る事で、村の火災は軒並み鎮火していた。

そろそろ村にも一定の静寂が戻りつつあり、住民が安全と判断したのか徐々に外へと這い出てきたのである。

流石に不必要に目立つ事を避けたいのか、狩人たちも引き上げる素振りを見せた。

 

「村の崩壊までは予定外だが、まぁいい。今回は君達に勝ちを譲り、村も被験者たちもお返ししよう」

「しかしだ、薪の王。一瞬であれ、貴公は内なる”獣”を解放した。その時点で我等の目的は達成したも同然。近日中に、また会おうではないか…!」

 

 この村が医療教会の手に落ちていたのは間違いない。

村に潜む悪行そのものは実質、あの老年男が取り仕切っていたとも言える。

しかし、この村だけではない筈だ。

これはほんの一例に過ぎず、他にもこの様な事例は幾つも存在しているだろう。

教会の狩人が指摘するように、構成員を幾ら切り伏せたとて組織と言う概念を消す事は不可能に近い。

求める者、必要とする者が居る限り、他の何者かが別の形で組織の残滓を搔き集め引き継いでいくものだ。

だが有力者や組織を叩き潰し続け、力そのものを弱体化させる事は決して不可能ではない。

 

( 推奨BGM ブラッドボーン ―― メルゴーの乳母 )

 

気がついた時には、狩人たちの姿は完全に消えていた。

 

「……後始末が、大変だな……」

 

「…そうね。でも大丈夫なの、貴方?」

 

「…大丈夫だ、事態の収拾に動こう」

 

 ゴブリンスレイヤー、スイーパー、灰の剣士は、事後処理のために再び行動を開始した。

黒幕と思わしき狩人たちは去ったが、まだ依頼を完遂してはいないのだ。

 

――私の内に眠る特別なソウル…。しかし、残虐性や殺意を発露として呼び覚ますなら、そんなものはダークソウル(暗い魂)しか心当たりがない。

 

先程述べていた狩人たちの言葉――。

随分、気取った台詞回しで説いていたが、要約すればダークソウルを求めていると解釈もできる。

 

――しかし、ダークソウルなど誰もが宿すもの。人なら尚更な。私は無論、この二人にも、あの村人達にも、そして彼等にも…。

 

後処理に動きながらも、灰の剣士は仲間や周囲の村人に視線を送る。

人なら誰しもが宿す、暗くも無限の可能性を秘めた特別なソウル――。

それがダークソウルだ。

だが狩人たちにも宿っている筈のダークソウルを無視し、敢えて灰の剣士を狙う理由な何なのか?

灰の剣士のみに備わる、特殊な要素が在るとでもいうのだろうか。

それとも、生者一人一人に個性と差異が見られるように、ダークソウルにも差異(個性)が存在しているのかも知れない。

 

――近日中と言っていたな。どのみち相対する事に変わりはない、その時こそ…!

 

つい先程、狩人は言っていた。

近日中にまた会おうと。

それに数日後は、剣の乙女率いる関係者たちが西方辺境の街に来訪する事が決まっている。

あの『聖黄金樹』の視察と言う名目で。

――だとするなら、その機を狙う公算が極めて高い。

若しくは、一連の行事を終えた油断を突くかのどちらかだ。

 

――教会の狩人。ダークゴブリンとは、また違った方向性で厄介だな。…あの錬金術師に関しても然り。

 

嘗てのダークゴブリン軍は、高い武力と統率力で此方を散々に苦しめた。

だが教会の狩人率いる組織は、違った趣で此方に揺さぶりを仕掛けてくる。

 

そして仮面の錬金術師――。

 

聞き慣れない国名を謡い異形を用いて、スレイヤーとスイーパーを苦しめた。

錬金術師に関しては、ライザ達に聞いた方が得策だろう。

 

釈然としない痞えを残したまま、彼等は後処理に従事した。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

粘糸(真言魔法)…アラーネア(蜘蛛)…ファキオ(生成)…リガ―トゥル(束縛)

 

術者の発動で、対象物または対象地点を中心に粘性の高い糸を発生させる。

この糸に絡まれた相手は、著しい行動制限を受け一種の拘束状態となる。

対象物に絡ませ『綱』として利用する応用的な使い方も可能。

しかしこの粘糸は『火』に弱く、松明や魔法の火などで容易く焼失してしまう欠点を持つ。

 

この呪文は触媒を必要とし、『にかわ』や『蜘蛛の糸』などを常備しておかねばならない。

 

 

 

 

 

 




身体が闘争を求めた結果か…。
とうとうフロムから、アーマードコアの新作が発表されました。
まさか本当に出るとは……!
思えば、あの作品がフロムとの出会いでした。
私も古きレイヴンとして、戦場に帰る日が近づきつつある。

如何だったでしょうか?
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。  
デハマタ。( ゚∀゚)/
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