ゴブリンスレイヤー ―灰の剣士―   作:カズヨシ0509

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ドーモです。
大寒波が過ぎ去った後から、此方は大雪に見舞われました。( ;˙꒳˙;)
油断が祟り、雪道で転んで負傷してしまう始末。
ちょっとした事でも、思わぬ怪我に繋がってしまう。
気を引き締めねば…。

では投稿致しますドゾ。( ゚ ω ゚ )


第116話―村の小鬼退治4・終着と開闢

 

 

 

 

 

 

魔力の武器(ソウルの魔術)

 

剣術をおさめた魔術師のための魔術。

右手の武器を魔力強化する。

この魔術と『魔力の盾』が、ヴィンハイムの魔術剣士の強さを支えており、これらのためだけに魔術を学ぶ戦士も数多い。

 

四方世界、賢者の学院でもソウルの魔術については、緩慢ながらも研究自体は続けられている。

魔法戦士に憧れる者は数多く、付与系の魔術は戦士たちにとって人気が高い。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

( 推奨BGM スカイリム ―― Day )

 

 重苦しい…。

息が詰まる…。

居た堪れない…。

1秒たりとも居たくない。

この狭い空間は、敵意と欺瞞の世界に満たされている。

早くこの間から抜け出したい。

しかし、街に着くまでは耐え忍ばねばならないのだ。

もう戦闘など起こりようもないだろう。

山賊などの偶発的遭遇(ランダムエンカウント)に見舞われない限りは――。

鎧兜の女冒険者――ゴブリンスイーパーは、敢えて兜を付けたまま馬車に揺られていた。

いま西方辺境街へと帰路に就いている馬車の所有者は、本来このゴブリンスイーパーである。

だが何故か()()()()が、御者を務めていたのであった。

そして小奇麗で機能美にも長けた車体部には、スイーパーを始めとしたゴブリンスレイヤー、格闘村民の夫婦、副村長、村長、そして()()()()が同伴している。

村長と副村長は…まだ分かる。

今回の依頼人である村長、事件の全容を知る副村長は重要参考人として同行して貰っていた。

正直この二人だけでも、張り詰めた空気感を生成しているのだ。

何せ、村の運営方針について対立し合い敵同士にも似た関係の二人。

村長、副村長、お互いを険しい表情で見据えていた。

 

そして一時的にとはいえ、自分達に協力してくれた格闘村民の夫婦も馬車に搭乗していた。

彼等は村を去る事にしたが行く当てもない故、取り敢えず街に向かう事にしたのである。

まぁ、あの小鬼獣(ゴブリンビースト)が暴れ回ったお陰で、夫妻の民家は火災に見舞われ全焼してしまったのだ。

もはや原型を留めない程に燃えてしまっては、それも止む無しとも言えるのだろう。

夫妻は、僅かに燃え残った私物を携え今に至る。

やはりと言うか、格闘村民も副村長を睨み付けていた。

そんな彼とは裏腹に、銀髪の妻の方は木窓から珍しそうに外の景色を眺めている。

 

だが余りに意外なのは、()()()()が同行しているという点だ。

彼女は明らかなる被害者で、小鬼と首謀者である老年男と副村長派の犠牲者と言っても過言ではない。

況してや彼女は、小鬼の子を産まされたという悲惨な経験を背負ってしまった。

時々だが父親である村長が、同情と気遣いの眼差しを彼女に向ける。

 

だが村を発つ間際、彼女から衝撃の事実を明かされたのである。

実は、彼女も副村長派に加担していたというのだ。

しかも、かなり重要な役割に就いていたという。

 

外部と取引する際の事務処理や書類でのやり取りなどは、彼女が主導的立場で執り行っていた。

更に副村長とも近しい間柄だったようだが、それが却って仇となり、運営方針を巡り対立するまでに至る。

副村長派でもあった村長の娘――。

しかし彼女は、若者や幼子を利用する老年男の非道なやり方に異を唱えてもいた。

老年男にとって、次第に都合の悪い存在へと成り下がった村長の娘。

止む得ないと判断した副村長は老年男と結託し、飼い慣らしていた小鬼集団へと放逐したという訳だ。

彼女が小鬼の子を出産したのは、そういう経緯があったのだ。

副村長派でもあった彼女だが、同時に変革の無い村には懸念を抱いていた若者でもあった。

 

副村長も村長の娘も、村の発展に拘る理由――。

 

変わらぬとも平穏な日常を営む村に、突如来訪した流浪の商人たち。

彼等は”村を買い占めたい”との取引を持ち掛けてきた事が発端であった。

平和でもあったが、そこは貧しい村――。

村民の暮らしは、お世辞にも豊かとは言い難い水準だ。

彼ら商人は高額の資金をチラつかせ、代わりに村の土地権利と若者を要求してきたのである。

流れ者の商人たちだが、あまり胸を張れる商売とは言い難い品を扱っていた。

 

それは、覚せい剤の取引や人身売買を生業としていたからだ。

 

当然、村長はこの案を一蹴――。

確かに金は魅力的な額でもあったが、その為に時代を担う若者や子供を犠牲にする事など彼等の良心が許さなかった。

だが商人たちは諦めてはいなかった様で、幾度か交渉に訪れ次第に脅迫や暴力などを垣間見せる。

その交渉の場には副村長も居合わせており、彼は村を守る抜くには財力を始めとした力の必要性を悟り心が揺れ動いていた。

 

村を発展させるには資金は必要不可欠なのは、切っても切り離せない現実。

しかし、発展に必要なだけの資金を捻出するだけの産業など村には無い。

そこで当時の副村長と村長の娘は二人で協力し合い、収穫できた僅かな農作物を売り払った。

だが現実は厳しく手に入った額面など極僅かで、2足3文にも至らなかった。

村の暗い未来像に、打ちひしがれる副村長と村長の娘――。

 

そんな或る日、老齢な一人の男が二人に近付いてきた。

その人物は、白い法衣に身を包んだ聖職者といった風情で老齢の小男だった。

 

村の発展を願うなら、資金だけでなく産業を生み出す為の技術や設備も不可欠である事を、副村長たちに説いた。

もし自分達の取引に応じてくれるなら、その発展に協力を惜しまないと交渉を持ち掛けてきたのである。

男の要求とは、村に拠点を設置させて貰う事と此方の人員の移住権…そして彼も若者を要求してきたのである。

 

それでは、()()()()()()()()()()()()()()ではないか?

 

話にならないと激昂した二人は、男の案を蹴ろうとする。

だが男は、然る病の治療を目指し活動拠点を欲していたという事を語った。

村の若者や子供たちの提供は、医療発展のための臨床試験のためであり、決して命に関わる無茶な実験はしないとも持ちかける。

その上で、一定の人数以上は断じて要求しないとも付け加えた。

 

それでも男の要求は些かに”あの商人たち”と似通った部分があり、やはり疑わしい何かを感じさせた。

だが男からは、医療発展に研究を尽くすという確かな熱意を感じ、また終始暴力や脅しをチラつかせる事はなかった。

そして男は聖職に身を置く立場だ。

あの商人たちとは違い、ただ金を用意するだけでなく技術や雇用まで約束してくれると提示してくれている。

 

ここまで魅力的な案を前に、二人の意志は揺らぎに揺らいでいた。

村の生活水準を引き上げる程の資金、それを維持できるだけの産業と雇用、そしてそれら下地を支えるだけの技術と知識の提供。

 

後は語るまでもないだろう。

 

交渉を持ち掛けた男は、後の『老年男』その人である。

 

取り引きに応じた副村長と村長の娘――。

村のトップは村長ではあったが、正直彼は変革という発想に乏しく決断力が足りていなかった。

二人は村長の承認も得ず、水面下で老年男と活動を開始――。

 

最初は前金だけだが、村の設備を設けるには充分過ぎる程の額だった。

その前金を使い、次々と設備と産業を整え、時には外部から人員をも迎え入れた。

それから幾許かの時が過ぎ、村は大きく発展を遂げる。

総人口も倍以上に膨れ上がり、村人達の生活水準は確かに豊かになった。

だが時が経つに従い老年男は徐々に本性を現し、当時二人と交わしていた約定など当然のごとく反故にし始めた。

村の若者や子供たちは老年男の実験の為に、次々と犠牲となり姿を消した。

当然不審に思う家族や親族たち――。

だが老年男の組織は小鬼をも飼い慣らしており、行方不明となった若者や子供は、全て小鬼の仕業だと村人達を欺いていたのである。

当然、副村長や村長の娘もその事を知りながら周囲には隠蔽していた。

しかし度重なる犠牲者の数々に、村長の娘はとうとう堪える事が出来なくなった。

村にこの事を明るみに出すと共に、街の領主にもこの事実を伝えようと副村長に打ち明けていた。

だが、発展を遂げ恵まれた村の現状に、副村長と彼の支持者たち(副村長派)の心は老年男側に傾いていた。

このまま明るみに出されれば、村の未来と自分の立場も危ういものとなってしまう。

本来真面目で働き者だった副村長も、潤った懐と豪勢な住処に加え、村の発展や未来よりも何時しか自身の保身や地位向上に酔いしれていたのである。

そして親しい間柄で協力者でもあった村長の娘といえども、都合の悪い敵となってしまえば放置しておく訳にはいかなくなった。

残念だが彼女には、消えて貰うしかない。

こうして村長の娘は、副村長と老年男の策略で子飼いの小鬼集団へと放り込まれるという結末を迎えてしまった。

 

そして後で判明した事だが、最初に接触してきた商人と老年男は同じ組織に属していた。

つまり、この村は初めから目を付けられていたという事になる。

仮に商人の取引に応じようと、老年男の取引に応じようと、村の運命は決まっていたのである。

もし両方との取引を拒んだとしても、結局は武力で制圧されていただろう。

力の無い村だ、抗えようもない。

 

村長の娘も消え、邪魔者は実質消え去った。

当時、決定的な対立関係の村長派など烏合の衆である。

老年男の暴走と増長は更に悪化の一途を辿り、村の行く末を憂いた村長は苦肉の策として冒険者たちへ依頼を寄越したのである。

副村長派に否定的だったにせよ、発展の恩恵を受けた村長側も実は懐には余裕があった。

そういった経緯もあり、ギルドには多額の報酬額と引き換えに”信用に足る冒険者を派遣して欲しい”と要求したのであった。

尤も依頼内容は、小鬼退治20という名目なのだが……。

 

こうして選抜され寄越されたのが、灰の剣士を率いる一行であったという訳だ。

彼等は見事、小鬼だけに留まらない陰謀を阻止してくれた。

あのまま放置していれば、村は完全に滅んでいただろう。

 

完全ではないが一応は黒幕を着き止め、首謀者であった老年男は討たれ、大勢の若者や子供は再び村へと生還した。

だが、村人同士の軋轢や禍根までは取り除けてはおらず、今も現在進行形で暗い影が纏わり付いていた。

こればかりは村人同士の領域で、冒険者が踏み込む案件ではないだろう。

 

――ダメ…もう耐えられないわ…。

 

この重苦しい空気に耐え切れなくなったのか、スイーパーは幌の中から窓を開け御者を務めている灰の剣士に声を掛けた。

 

「ね…ねぇ、そろそろ代わってあげるわ。さっきの事もあるし、貴方も消耗しているでしょ?」

 

 一刻も早く、この空間から抜け出したい。

それが彼女の本音だ。

だが灰の剣士から返って来た言葉は――。

 

「いや、大丈夫だ。貴公は無理せず、ゆっくりと寛いでくれ」

 

 彼にとっては気遣いの積りなのだろう。

だが今の彼女にとっては、死刑にも等しい宣告だった。

 

「……」

 

   ―― YOU DIED ――

 

彼女の精神は死んだ。

亡者と化した心のまま、彼女は力無くヨロヨロ席に座り直す。

 

「あきらめろ」

 

 そしてゴブリンスレイヤーからの言葉の剣が、無慈悲な致命攻撃となり彼女に止めを刺す。

 

「…許せよ、スイーパー…」

 

 一方御者台では、灰の剣士が馬を操りながら秘かに彼女に対し謝罪していた。

実は、彼も()()()()()()()()()()のが本音である。

 

小鬼の赤子に対する件で、ゴブリンスレイヤーから()()()()()()()()形となってしまった。

(本編前夜編 第114話参照)

正直、顔を会わせ辛かったのである。

 

底無しの深海にも似た空気感に支配されながら、一行を乗せた馬車は西方辺境街へと帰還した。

 

……

 

( 推奨BGM ゴブリンスレイヤー ―― ギルド )

 

暫くして一行を乗せた馬車は、西方辺境街へと帰還を果たす。

ギルドに向かった灰の剣士一行は、ライザ達と鉢合わせした。

 

この日のライザとルルアは、正規の錬金術士の為の試験を終わらせた後だった。

結果など聞くまでもなく、二人は難無く試験に合格し、造り上げた道具の販売の権利を得たのである。

得意気な表情を浮かべるライザとルルア――。

そして輝石の貴公子もギルドの依頼を終らせ、ライザ達に同伴していた。

彼の仕事は、古文献の解読と狭間の地についての説明である。

彼自身も豊富な知識を有し、また狭間の地という異界の住民だ。

冒険者ギルドは、狭間の地についての知識を可能な限り得たかったのである。

 

どうやらライザたち一行は、順風満帆に近い形で依頼を達成し、皆が上機嫌に包まれていた。

そしてライザ達の中に、何故か『銀髪武闘家』も含まれている。

これは一体どういう事なのか。

事のあらましを知ろうとしたが、ここで銀髪武闘家は驚きの声を上げた。

灰の剣士側の、格闘村民と彼の妻である銀髪女も同様の声を上げ彼女に迫る。

彼ら夫婦は、()()()()()()()()でもあり、件の村は()()()()()という事になる訳だ。

格闘村民の動きを思い返す灰の剣士。

彼の格闘術は、銀髪武闘家と似通った部分が多く見受けられ、彼等が親子である事にも一定の納得がいった。

そして気になった事だが、銀髪武闘家の顔は泣き腫らした跡が散見される。

彼女に何か起きたのだろうか。

ライザ達と行動を共にしている事と、何か関係があるのかも知れない。

彼女から事情を聞きたかったが、今はギルド職員に事の真相を打ち明けなければならない。

銀髪武闘家の事は、取り敢えず後回しで良いだろう。

 

灰の剣士一行の只ならぬ雰囲気を察知したライザ達――。

当然彼女が放置する筈もなく、何があったのかを質問攻めにされたが、先ずは優先すべき事項がある。

 

灰の剣士たちは報告を済ませようとするが、ここで監督官の受付嬢から彼だけに依頼が舞い込んでいる事を告げられた。

かなり重要な依頼という事で、別室にはジークバルドと領主でもある司祭長までもが待機しているというのだ。

これは唯事ではない。

ここは彼個人だけ別行動を取る処だが、村の真相がある程度語られた事で受付嬢たちの態度は一変した。

急遽、別の談話室が設けられ、ギルド長と領主(司祭長)までも巻き込む事態へと発展した。

 

取り敢えず追加依頼の件も後回しにされ、用意された談話室にて事の真相を報せる事となる。

 

……

 

結論から言えば、副村長と村長の娘は罪に問われる事となった。

彼ら二人の思惑と事情がどうであれ、混沌勢に加担し多くの住民を犠牲に追いやった事は、決して看過は出来ない。

だが領主でもある司祭長は、二人に対し特別な刑罰を言い渡す事はなかった。

その代わり二人には、村の復興とより一層の発展のために一生を費やして貰う事を、血判所に締結させた。

一応罰則らしい罰則としては、特別な事情以外での街への来訪を一切禁じ、彼等と村には当分の間、監視の目を付けさせるという内容だ。

監視役は、街の予備役か信用ある冒険者に依頼する事となるだろう。

また、今の村長には()()を言い渡された。

一応開拓を本業としていた彼等の村――。

しかし今の村長の管理運営力では、開拓が遅々として進行していなかった為だ。

そこで新しい村長には、()()()が後を引き継いでもらい、副村長は彼女の補佐役に就く役割を命じる。

当然これは領主命令で、村長の反論は断固として認めなかった。

 

本来なら即座に刑を執行したいのだが、領主側にも事情があり、多少の猶予が設けられる事となったのである。

ある程度街の情勢が落ち着くまで彼等には、領主側が用意した宿に寝止まりして貰う事となった。

 

こうして村の件は、()()()()()だが一段落を迎えた。

 

さて次は、灰の剣士に対する依頼の件だ。

ギルド長と領主(司祭長)は彼を引き連れ、ジークバルドが待つ別室へと向かう。

 

……

 

( 推奨BGM ゴブリンスレイヤー ―― 鼓動 )

 

 ここは重要な会合や談話の為に用意された、特別な応接室である。

上座には、ギルド長を始め領主(司祭長)が座している。

この時点で、相当特殊な案件である事が窺えた。

そして対面する形で、灰の剣士とジークバルドが席に着く。

呼び出されたのが、灰の剣士一人だけなら先程の村の件なのかと勘繰る事も出来たが、ジークバルドが居る時点で全く違う案件だと推察できる。

 

「もう存じていると思うが、君達宛ての極めて重要な依頼だ」

 

「「……」」

 

 緊迫した面持ちで告げられた、ギルド長の言葉。

彼の言葉を受け、灰の剣士とジークバルドも一層身を引き締めた。

 

「依頼人は、金剛石の騎士(ナイト・オブ・ダイヤモンド)…!」

 

「「…!?」」

 

 ギルド長は更に言葉を続け、依頼人(クライアント)の名を告げる。

だが二人とも、金剛石の騎士(ナイト・オブ・ダイヤモンド)という名には馴染みがなかった。

 

「その様子では、知り得ていないようだね。一応かなりの有名人なのだが……」

 

「申し訳ありませぬギルド長。騎士という身分にありながら、無知を曝け出してしまいました」

 

 ギルド長が言うには、冒険者界隈では相当な大物だと語る。

それでも心当たりがなく、ジークバルドは自らの無学を恥じた。

 

「まぁそんな事は、後付けでどうにでもなる。簡潔にだが説明しよう。金剛石の騎士(ナイト・オブ・ダイヤモンド)と彼からの依頼内容を――」

 

 現時点で足りない知識は、後から付け足せば良いだけだ。

ギルド長は然して気にもせず、件の人物像と依頼の詳細を述べた。

 

―― 金剛石の騎士(ナイト・オブ・ダイヤモンド) ――

 

王都を中心に活動する都市騎士(ストリート・ナイト)でもあり、上流階級の身分でもある金等級冒険者――。

その名を示す通り、金剛石(ダイヤモンド)の武具を纏い、市井に蔓延る邪悪を次々と討伐する実力者でもある。

表向きには、貧乏貴族の三男坊を名乗っているが、彼の正体は国家を統括する『国王』その人であった。

 

「国王に関しては、他言無用でお願いしたい。宜しいかね?」

 

 正体が国王であるという事実は”口外しない様に”とギルド長から念を押され、二人は無言で静かに頷き返す。

 

「しかし、それ程の大人物が、我々のような一介の冒険者に依頼…ですか…?」

 

 件の依頼人が、まさかの国家元首という大物である事実――。

内心動揺に駆られながらも、灰の剣士は留飲を下げる。

だが、国家中枢に位置する国王自らが、唯の冒険者である自分達に依頼を寄越すとは――。

先ず只事ではない事は、容易に想像がつく。

 

「何を仰います、灰の方。貴方達の素性は、此方なりに把握しているのですよ。貴方達は冒険者でありながら、国にとっても決して無視できない程の存在なのです」

 

 そこへ領主でもある司祭長が言葉を挟んだ。

 

火の陰りし彼の時代――。

その時代を駆け抜け、一つの世界を終わらせ同時に新世界の開闢(かいびゃく)を促した火の無い灰たち。

王統府は無論、この街の重鎮たちにも彼等の素性は知れ渡っていた。

そんな彼等の存在は、一冒険者ごときで片付けられる案件ではないのだ。

彼等を王都側に在籍させ行動に一部始終を監視下に置きたいのが、王統府の本心でもあった。

混沌率いる魔神軍の存在もあり今まで有耶無耶となっていたが、ここぞとばかりに王族側も動いたのである。

遅かれ早かれ彼等は、王統府と接触する運命にあった。

 

「ふむ…避けられぬとなれば、受けるしかありますまいか。ならば、このジークバルドも腹を括らねばなりませんな」

 

「納得して頂けたかな?では、肝心の依頼内容なのだが――」

 

 国外逃亡でもしない限り、どのみち接触は避けられないと悟ったジークバルド。

灰の剣士も、何れは王都に赴き『助言者』との邂逅を望んでいる。

考えようによっては、此処で王統府側と何らかの関係を築いた方が『益』になると判断し受け入れる意を示した。

二人の腹が決まった事を確認したギルド長は、依頼内容の詳細を語る。

 

数日後、この街に大司教でもある剣の乙女が来訪する。

そこで、金剛石の騎士率いる一団も同行するというのだ。

剣の乙女の目的だが、表向きは地母神神殿に植生されている『聖黄金樹』の視察という名目になっている。

だがあくまで公の方便で、実際は『政治的な会合』が開かれるというのだ。

その相手勢力とは、()()()()()()()だ。

実は彼らも『聖黄金樹』に着目しており、それ等の処遇について会合が行われる予定だとの事。

しかしこの会合は非公開であり、公には出来ない事情があった。

そこで会合の場は、突如出現した古遺跡『火継ぎの祭祀場』を使用する。

まだ補修工事も完了しておらず、荒廃の進んだ様相だが却って都合が良いと判断された。

灰の剣士とジークバルドは当然、只人側として参加してもらうが特に”何か”を求めてはいない。

単純に会合の場に()()だけでいい。

恐らく森人側は、聖黄金樹の共有化を打診してくるだろう。

だが本心では、長寿である事と森との深い関りを理由に只人を内心見下している者も多い。

長はともかく森人の中には、聖黄金樹の独占を目論む勢力も存在しているだろう。

一応森人側とは友好関係にあり、下手な刺激での関係悪化は避けたかった。

しかし交渉というのは、互いの国力が拮抗してこそ対等な条件で成り立つものである。

森人側が武力を背景に恫喝してくるとは考え難いが、灰の剣士たち二人を置く事で無言の圧力を掛けるという効果も期待できる。

聖黄金樹の恩恵は未だ判明していないが、あれ程の聖性を秘めた樹木だ。

可能な限り、此方側(只人)に留めておきたいのである。

取り分け灰の剣士は、ロスリック不死街にて『呪腹の大樹』を討ち、その生まれ変わりとも言える聖黄金樹(神授)の苗木を持ち帰った実績がある。

更に目下成長中でもある聖黄金樹を通じ、狭間の地と呼ばれる異界にまで旅立ち数々の情報を携え生還した。

つまり彼は、ある意味で聖黄金樹と最も繋がりの深い人物でもあり、非常に大きな政治的意味合いを持つ存在なのだ。

ただ会合の場に立ち会う――たったそれだけで、森人勢力には大きな()()となり得る。

 

余談だが狭間の地に関しての知識は、概ね『輝石の貴公子』から得る事が出来た。

当然これも依頼の内に入り、彼には成功報酬を渡してある。

 

「会合の場には、当然この私も参加いたします」

古人(いにしえびと)と呼ばれる君達に加え、あの『太陽の騎士』も来訪する予定だ」

 

 この街は、森人勢力に最も近い拠点の一つであり彼等にとっても関りのある街だ。

時には、領主と森人の重鎮との交渉もあり、決して珍しい話ではない。

故に領主(司祭長)も参加するのは、至極あり得る話でもあった。

 

そして剣の乙女の護衛という名目で、太陽の騎士の肩書を持つソラールの参加も明らかとなる。

ロードラン時代とはいえ、ソラールも彼の時代(ダークソウル)の人間であり古人(いにしえびと)には違いない。

 

「だが()()という存在だ。王自らの接触もあるだろうね」

 

 これはギルド長個人の憶測だが、王自らが一個人として灰の剣士達の接触を望んでいるとも告げた。

特に灰の剣士に関しては、王統府から書面が届いており『いずれ此方側で管理運営する』という旨が(つづ)られてもいる。

確かに今回の機を利用しない手は無い。

ギルド長の言葉は『この街との別れ』も近付きつつある、という事も示唆していた。

 

「時刻は明後日早朝。場所は火継ぎの祭祀場。くれぐれも粗相のないように頼む、古人達よ…!」

 

「非公式の会合ゆえ、護衛に多くの人員は割けません。お二方には(わたくし)の警護も兼ねて頂きますが、異論はありませんね?」

 

「「――ハッ!お任せ下さいませッ!」」

 

ギルド長と領主(司祭長)の言葉に、二人は勢いよく立ち上がり敬礼と掛け声で応えた。

 

こうして依頼の説明は終わり、二人はギルド一階へと戻る。

下ではライザ達が帰りを待っていたが、灰の剣士を見るなり暗い表情を浮かべた。

確かスイーパーが報告を済ませていた筈で、ライザ達も『村での事情』を知ったという事を示している。

だが村の案件だけで、ライザ達がこれ程表情を曇らせるのも少々不自然だ。

ライザ達も聞いたのだろう。

 

灰の剣士とゴブリンスレイヤーとの軋轢を――。

 

どの様な経緯であれ、灰の剣士は彼から()()()()()結果となった。

赤子とはいえ小鬼を殺すのに一々躊躇や葛藤を覚える様な冒険者は、彼にとって必要ないという事。

灰の剣士は一応、小鬼の赤子を粒になるまで斬り刻んだが、結局彼の御眼鏡には適わなかったらしい。

これは一種の『絶縁』にも等しく、今後彼と行動を共にする事は、ほぼ無いと言ってもいい。

 

この依頼を担当していたのは三つ編みの受付嬢で、彼女も気遣うような表情を向けてくる。

 

「彼は……もう居ないか。まぁ…彼らしいがな…」

 

 要件を済ませば直ぐ次の行動に移るのが、ゴブリンスレイヤーと言う人物像だ。

こういう所は非常に彼らしいとも言え、諦めにも似た表情を浮かべる。

 

「…灰君…大丈夫…?」

 

 正直、どう声を掛けていいのか分からないライザ。

上手く言葉にする事も出来ず、困惑気味に語り掛けてきた。

 

「大丈夫…と言いたい処だが……、済まぬ、暫く一人にさせてほしい…」

 

「「「「「……」」」」」

 

動揺を抑え込んでいる積りだが、どうにも心が掻き乱されて仕方がない。

 

小鬼の出産に立ち会うやら、ゴブリンスレイヤーとの関係摩擦やら、仮面の錬金術師やら、自身の内に潜む獣の発露等々……。

 

とにかく多くの事が、この1日で起こり過ぎた。

自身の考えや在り方を纏めようにも、どうにも集中できない。

暫く何処か静かな場所で心を落ち着けたいという思いが強く、今は一人で過ごしたかった。

 

「……成功報酬…渡して…おくわね…」

 

「…確かに」

 

 ギルドから去る際、ゴブリンスイーパーから報酬を受け取った。

金貨数枚分の決して高くはない額だが、心なしか重みを感じたのは気の所為だろうか。

その言葉を最後に、灰の剣士は併設された酒場の方へと一人移動する。

 

「聞きたかったんだけどな…フィルフサの事とか……」

 

 背後より届くライザの声、だが今の彼には只の”音”としか認識出来なかった。

 

……

 

( 推奨BGM スカイリム ―― A Chance Meeting )

 

「……」

 

 ギルドに併設された酒場を兼ねた食堂――。

今日に限り、屯している冒険者も少ないのは都合が良かった。

幾らかは騒がしいが、普段に比べれば静かな方で逆に少々閑散としている。

隅に設けられた小さな卓に一人腰掛け、熱めの薬草茶をカップに注ぐ灰の剣士。

 

「……」

 

 カップに注がれたのは、複数種の日干しにしたヘルパ(ハープ)をブレンドした茶だ。

苦味と深みのある味わいは、飲む者に落ち着きと鎮静を(もたら)してくれる。

彼は頻繁に、この茶を愛飲していた。

辛い事や嫌な事を忘れるには、よく酒の類を飲めと言われるが、彼には茶の方が性に合っている。

酒を飲む時など、人付き合いで少々嗜む程度だ。

 

「……」

 

 ゆっくりと一口含み喉に通す。

ジワリとした感触が、全身に染み渡るような感覚に見舞われ、彼は一頻り大きく息を吐く。

 

―― お前の剣は、快楽を恐れている。生者を斬り殺したくて堪らない ――

 

―― 副村長は、ああ言ってるぜ…! ――

 

―― いいかッ!君は今日に至るまで、一体どれだけの殺戮に手を染めてきた。千かッ!?万かッ!? ――

 

―― 君は間違いなく殺戮と血に呑まれた”獣”そのもの ――

 

―― お前という人間が、よく分かった。 ――

 

―― …お前は…小鬼を殺す者(ゴブリンスレイヤー)には、成れない…! ――

 

「……」

 

何時からだろう?

それとも、生まれ出でた時から?

 

心を乱す事など無かった。

ただ敵を斬る――。

たったそれだけの事――。

剣を手に持ち、それを振る――。

それを敵に当てれば良いだけだ――。

実に単純じゃあないか。

ただそれだけの単純な動作に、どうしてこうも心が掻き乱されるのか。

 

北の不死院、その牢獄より脱出する道すがら、幾多もの亡者が立ちはだかり慣れないながらも切り伏せた。

その時でさえ、罪悪感は疎か忌避感さえ覚える事はなかったというのに――。

邪魔な敵を斬り、道を開く。

それに何の間違いがあろうか。

それとも、その行為こそが間違いで素直に亡者として果てるのが正道だと言うのか。

 

「たかが小鬼…それも赤子の小鬼だ…」

 

 混沌最弱の異形に位置する小鬼…しかもその赤子――。

関心を寄せるほどの価値もない――。

次第に考える事すら馬鹿らしくなってくる。

そんな馬鹿らしい些事に一々葛藤する自分は、実のところ小鬼以下の存在なのかも知れない。

 

「……フゥ……」

 

 カップに残った茶を全て口内へと注ぎ込み、またもや大きく息を吐く。

かなり冷めていた。

気付かない内に、多くの時間考え込んでいたらしい。

 

――活人剣……、残酷な事をしてくれたな…我が師よ……。

 

茶を飲み干した彼は一人天井を仰ぎ見、師の事を思い浮かべた。

彼の時代(ダークソウル3)、火の陰りも進み正に死を迎えんとした世界――。

そんな生よりも死の気配が濃くなる世界にも関わらず、彼の師は人を活かす剣と思想を説いた。

素晴らしい思想なのは、彼自身も認める処だ。

あの時代なら兎も角、この四方世界には生命と営みが根付いている。

 

一つの邪悪を斬り、多くの善を活かす――。

一殺多生――。

 

それ自体に何ら反論など無い。

しかし、真に命を絶たねばならない敵も存在するのは曲げようもない事実だ。

その様な存在に出くわせば、活人剣の思想など寧ろ邪魔になるのではないか?

やはり殺意で全てを塗り潰し、眼前の敵を文字通り皆殺しにする。

それこそが、後々の禍根も憂いも完全に断つ最善の方法なのかも知れない。

常日頃、(ゴブリンスレイヤー)がそうしている様に……。

だがそれを繰り返し身を(やつ)す事で、正気を引き換えに殺戮衝動に呑まれる危険性も孕んでいる事を忘れてはならない。

 

数日前、鈴玉狩り(鉄茨のエレメール)が起こした街中の小鬼禍(ゴブリンハザード)――。

その鎮圧間際、(ゴブリンスレイヤー)と遭遇した。

なれど、その時の彼は、灰の剣士の事を直ぐには認識出来ていなかった。

当時の彼のソウルは、赤黒い色に侵食され小鬼殺しに身を委ねていた程だ。

それを示すかのように、獣除けの香の煙を嗅いだ瞬間、彼は嘔吐感と嫌悪感を露わにし現場から走り去ってしまった。

 

獣や小鬼に効くはずの香が、()にも通用してしまった。

(本編前夜編 第109話参照)

 

これの意味するところ……、いや、態々考察する程の事でもない。

今日の彼は()()()()()()だった。

現場から走り去ったあの後、何かがあったのだろう…きっと。

 

「……本当、たかが小鬼に……関わり過ぎたか…?」

 

 次第に馬鹿馬鹿しい気分に染まり行く。

 

自身には、重要な使命が課せられているが、今はそれが自分の意志でもあった。

輪の都に在るフィリアノール教会へと赴き『真の巡礼』を果たさねばならないというのに、未だ小鬼如きに意識を揺さぶられている有様だ。

こんな調子で、本当に使命を果たせるのかも不安にならざるを得ないというもの。

そろそろ『小鬼からは関わりを断つ』時期が訪れたのだろうか。

 

『そうかも知れないぜ…?』

 

 考えも纏まらない彼に、突如横から声を掛けられる。

徐に振り向けば、其処に同期戦士が樽ジョッキを片手に立っていた。

 

「ここ、いいか?」

 

「――ん…あ、ああ」

 

 普段ならソウルの感知で彼が近付いていた事も分かるのだが、今日に限っては全く気付く事が出来なかった。

どうやら本当に、心が掻き乱されているらしい。

灰の剣士は、薬草茶をもう一杯追加で注文し彼の話を聞くため姿勢を正す。

どうしても考えが纏まらない以上、一人で居る事にも意味を成さないと判断したからだ。

ここいらで、別の事項に意識を向けるのも悪くはないだろう。

 

尤も、同期戦士の顔色を窺うに明るい話題でもなさそうだが――。

 

「…まぁ、何だ…。()()()の事なんだがな……」

 

「ああ、彼女の事か。そう言えばライザ達の所に居たな」

 

 大方の予想は付いていた。

同期戦士の話とは、銀髪武闘家についての事だ。

ギルドに帰還した時ライザ達が出迎えてくれたが、その中に銀髪武闘家も含まれていた。

まるで、最初から彼女達一党の一員だとでも言わんばかりの溶け込みようだ。

 

同期戦士は、今に至るまでの経緯をゆっくりと説明し始める。

 

ダークゴブリン軍との戦も終わり、その影響かは定かではないが、西方面では小鬼の活動と生息数が極端に低下していた。

小鬼は村や集落にとって、最も身近な混沌勢による脅威であり悩みの種でもある。

小鬼の活動が極端に鎮静化したのは、大変喜ばしい事なのだが、今度は心無い賊徒の跋扈が目立つようになった。

つまり野盗や山賊の類が、近隣でも幅を利かせ始めたのである。

最初は、人里離れた僻地での活動に留めていた様だ。

しかし彼等の活動は日増しに酷くなり、村は言うに及ばず街近隣でも被害が増加の一途を辿っていた。

ゴブリンスレイヤーの牧場に住む『牛飼い娘』が襲われナニカされる寸前にまで陥ったのは、記憶に新しい。

 

とにかく今度は、小鬼の代わりに山賊退治が西方辺境の主流と置き換わっているのが、この街の現状である。

この街に所属する大半の冒険者は、日夜山賊退治に追われる日々が続いており、同期戦士一党も例外ではなかった。

閑話休題――。

話は再び銀髪武闘家に戻る。

 

彼女も一党の一員である以上、当然、彼等賊徒の戦闘に参加しなければならない。

彼女は格闘術を生業とする武闘家であり前衛職、それ自体何の異論もない。

しかし問題なのは、彼女の精神…いわゆる心構えにこそあった。

 

結論から言えば、彼女は『人の命』を奪う事に過剰な嫌悪感を露わにしていた。

小鬼(ゴブリン)小悪魔(インプ)を始めとした異形や、ロスリックで頻繁に遭遇する亡者(あるいは不死)相手になら、彼女は寧ろ積極的に攻め入る事が出来る。

だが人族(真っ当な生者)には、攻撃を躊躇ってしまう傾向が強かった。

 

たとえ相手が『心無い邪悪な人種』であったとしてもだ。

 

彼女の心はどうであれ、敵側は彼女の都合などに配慮する筈もない。

時と場合によっては、殺さなければ殺されてしまう状況に発展するのだ。

殺害という行為を露骨に避ける銀髪武闘家――。

それなら敵の攻撃能力だけを奪い、無力化させれば制圧にも繋がるのでは?

仮に彼女が敵への止めを躊躇おうとも、最悪味方の誰かが引導を渡す。

少々他人任せで無責任だが、そういう妥協案もなくはない。

 

「とっくに試したさ、そんなのは…だがな…――」

 

 グイッと呷るように酒を流し込む同期戦士。

彼の表情も心なしか暗い。

 

人型の敵なら、四肢あるいは武器の持ち手を攻撃し戦闘力を奪う方法も存在する。

相手にもよるが、街中で粋がるチンピラ程度ならそれで戦意を挫く事も出来るだろう。

しかし幸か不幸か同期戦士一党は、更生の余地もない様な真に心無い賊徒集団ばかりと当たってしまうのだ。

中には猟奇的な性癖を持った賊も含まれ、見方によっては小鬼よりも悪趣味な輩さえ存在した。

とにかく余りに邪悪が過ぎる連中とばかり、彼等一党は当たってしまうのだ。

――とは言え、いくら邪悪とはいえ数ばかりを揃えた集団だけに、然程苦戦する場面は無かった。

だが、説得も更生の余地も見られない様であれば、敵の命を絶つ事で悪行を止めるしか方法は無い。

たとえ自分達と同じ同砲(生者)だろうと、人々の日常を破壊し略奪するような集団を放置する訳にはいかないのだ。

 

だが、彼女――銀髪武闘家には、()()()出来なかった。

 

彼女は優し過ぎたのだろう。

今の今まで、彼女は人族の命を奪う事に過剰な抵抗感を露わにしていた。

結局、彼女のフォローは他の人員が埋める形で、何とか依頼達成には漕ぎ付けていた。

彼女の精神状態は最初から()()であったが、次第に仲間内から不信感を募らせる者も現れ、依頼を重ねる毎に咎められる事も目立つようになった。

そして今回の依頼だが、少々遠方での戦闘が開始された。

 

「とうとう…その…何だ…俺も怒鳴っちまってな…。…ハァ…」

 

 とにかく数が多かった。

西方というよりも南方に近かったのだが、南方面は最も平穏と言われている。

その噂を逆手に取った賊集団が、街道近くの森林を根城とし旅人や行商人から略奪や蹂躙まで悪行の限りを尽くしていた。

やはり彼等も更生の余地もない様な、どうしようもない悪逆集団だった。

生かす理由など無い。

同期戦士たちは、全力で賊集団と戦ったが苦戦も強いられた。

原因は、やはり銀髪武闘家――。

この時期の彼女は、仲間内の不信感と信頼失墜に加え自身の精神状態も危ういほどに追い詰められ、もう真面に戦う事も出来なかった。

もはや完全に足手纏いと化していたのである。

戦闘真っ只中、同期戦士も追い込まれる場面に幾つも遭遇した。

 

そして業を煮やした彼は。()()()()…という訳だ。

 

「やっちまった…戦闘が終わってから、つい後悔しちまったよ…。俺は頭目だ…、仲間を把握しなきゃならないってのに、逆にあの娘を追い詰めるような事を――くそぉッ…!」

 

 恐らく、激情のままに厳しい言葉を投げ掛けたのだろう。

現場に居合わせなかった灰の剣士には、彼等の事情など知る由もない。

だが、同期戦士の無念に満ちた表情を見るに、相当彼も気を病んでいるは分かった。

仲間の状態を見極め支えるのが頭目としての役割、同期戦士はそういう持論の持ち主でもあった。

自身も危機に陥ったが、彼女も実際は()()()()()()()()に追い詰められていた。

それを分かっていながら同期戦士は、彼女に向け怒号を交え厳しい言葉を吐き捨ててしまったのだ。

 

樽ジョッキの中身一気に飲み干した彼は、ダンッと卓に拳を打ち付ける。

 

「…貴公の所為ではない。私も今日…小鬼の赤子を斬るのに一々躊躇し、彼から…見限られたのだ。そんな不甲斐無い私に比べれば、貴公はアレだけの人数を上手く纏め上げている。然う然う真似できる様な事ではない」

 

 追い詰められれば、誰しも心の余裕などなくなるもの。

況してや同期戦士でさえ、命の危機に陥る程の状況に追い込まれたのだ。

怒号を交え厳しい言葉を投げ掛けた事を、どうして咎められようか。

 

仲間が不信感を募らせる中、同期戦士は寧ろ最後まで彼女を信じ仲間として見放す事はしなかったのだ。

 

そしてどういう経緯であれ、彼は誰一人死なす事無く依頼を達成し生還に導いている。

よくよく考えれば同期戦士の一党は、かなりの人数を誇っていた筈だ。

確か、あの『上森人の弓使い』は未だ彼の一党に居座っていたと記憶している。

それだけの人数を抱え、彼は頭目として一党を纏め上げているのだ。

違う見方をすれば、あの重戦士以上に仲間から慕われているとも解釈できる。

 

さて、件の銀髪武闘家の殊遇だが、彼女は一党を解く結論に行き着いた。

 

これからも賊徒退治は続くのだ。

加えて彼女は、悪逆とはいえ人族の敵に対して命を奪う事に、過剰な抵抗感を抱いている。

違う冒険を挟めば、彼女も幾分は考えを改める可能性も無くは無い。

だがギルドからは『賊徒退治に注力してほしい』との通達がなされている。

何時しか彼等も、ギルド内の有用な戦力として数えられていたのであった。

 

一党を解く――。

 

その旨を告げた時、彼女は大粒の涙を零し声を押し殺して泣いていた。

だが一党から外れる事に、それほど強い抵抗感を示す事はなかった。

彼女も理解していたのだろう。

若しくは、今の状況に相当な苦痛を覚えていたか。

寧ろ問題は、銀髪武闘家の受け入れ先だ。

 

「最初は、お前さんの所に送ろうかと考えていたんだが…。お前さんは、今後も…なんて言うか……」

 

「ああ、分かっている。強大な敵と、これからも(まみ)えなければならぬ」

 

「――だろうと思ってな。あの錬金術士の娘に託す事にした」

 

 これで合点がいった。

銀髪武闘家が、ライザ達の所に居る事と泣き腫らした後が見て取れた事に。

ライザ達と銀髪武闘家――。

以前から良好な関係を築いていたのは、灰の剣士も理解している。

相性がいい、感性(フィーリング)が合うとは、この事を指すのだろうか。

 

あの素材採取の件と言い、工房(アトリエ)でのやり取りと言い、かなり親し気で上手く溶け込んでいた様に思える。

(本編前夜編 第100話参照)

 

それにライザ達が執り行う依頼は、錬金素材集めが主な依頼(メインクエスト)となるだろう。

多少戦闘には巻き込まれるだろうが、それは自衛に徹底すれば良いだけだ。

ライザ達の織り成す環境、銀髪武闘家にとってこれ程の好条件は他に無いと言っても過言ではない。

 

正対する形の二人――。

同期戦士は、最後まで彼女の事を考え頭目としての責任を果たしたのだ。

 

それに引き換え、自分はどうだろう。

小鬼の止めに始まり、内に眠る衝動さえ決着を付ける事も出来ず、結果的に(ゴブリンスレイヤー)からの信頼を失墜させてしまった。

今の自分の方が、余りに矮小で愚かしい存在ではないか。

己自身を嘲り恥じたくもなる。

 

「そうか…お前さんは、あの娘の()()()()で……」

 

 灰の剣士の事情は、同期戦士も承知している。

灰の剣士が2階に行っている間、スイーパーから大体の事情を聞く事ができ、また銀髪武闘家の両親でもある格闘村民夫妻とも会話する事が出来た。

正直、同期戦士は叱責と非難を覚悟していた。

一党の為とは言え、銀髪武闘家に対しての殊遇――。

どの様な暴言も受け止めるべく腹を決めた。

しかし送られた言葉は本人の思惑と違い、感謝の意であった。

 

『ありがとう…。今日まで娘を守り、導いてくれて。君にも多大な迷惑をかけたね、本当に有難う…!』

 

 彼女の父である格闘村民から握手を求められ、同期戦士は戸惑いながらも彼に応じたのであった。

格闘村民から聞いた話だが、銀髪武闘家からの手紙には同期戦士の事も(つづ)られていた。

かなり彼女から慕われていたらしく、感謝と信頼…そして淡い好意が記されていたのであった。

 

「彼女は、今どうしている?」

 

「多分、ご両親と一種に居るんじゃないか?だが、あの娘…多分このまま…冒険者を辞めるかもな…?」

 

 灰の剣士が一階へと下りた時、銀髪武闘家の姿は見当たらなかった。

同期戦士の話によれば、現在は両親と再会した事で行動を共にしてる筈だと語る。

だが彼は、このまま冒険者を引退する可能性があるとの見解を述べた。

銀髪武闘家の両親は、冒険者に成る事を反対していた側だ。

誰も、大事な一人娘を危険な場には放り出したくないだろう。

両親と再会した事で、彼女は一般人に戻る旨を告げられている可能性が高い。

況してや彼女たちの生家は全焼してしまっており、格闘村民夫妻も村の現状に見切りを付けた状態だ。

このまま家族で力を合わせ立て直そうというのは、ごく自然の流れではないだろうか。

あり得る話だ。

折角ライザ達と合流したが、こればかりは彼女たち家庭の問題だ。

此方が口を挿む訳にもいかないだろう。

 

「決めるのは彼女だが…仕方なかった、という事か」

「そうだな…。ご両親との再会は喜ばしい事なんだがな…」

 

 灰の剣士と同期戦士、二人は何気無く天井を仰ぎ、銀髪武闘家に想いを馳せた。

少々学の足りない部分はあったが気立ても容姿にも優れ、好意にも値する程の少女であった。

冒険者として居なくなる可能性も高いが、彼女が家族と共に平和に暮らしていけるのなら、これほど喜ばしい事はなかったのだ。

 

『残念だが、それは破談に終わったよ』

『私も同席して宜しいかな?』

 

 またもや二人の卓に新たな声が掛かる。

銀髪武闘家の父である格闘村民と、ジークバルドであった。

特に拒む理由もない。

灰の剣士たちは、二人分の椅子を空いた卓から寄せ迎え入れた。

 

「…あの子は冒険者を続けるんだそうな。ああ見えて頑固者でね、母に似たんだろうな」

 

 席に着くなり、娘の事を話す格闘村民。

銀髪武闘家は、冒険者を続ける道を選んだという事を告げる。

やはりというか彼等夫妻は、冒険者を辞めるように勧めたのだが彼女は頑なに譲らなかったと語った。

 

「仲良きご友邦を得た手前、そう簡単には手放さないでしょうな」

 

 ジョッキに並々と注がれた麦酒を豪快に呑むジークバルドが言葉を加えた。

同期戦士一党から解かれ、新たにライザ一党へと移籍した銀髪武闘家。

少し思考を凝らせば、同年代で同姓な少女が多い以上、親しくなるのも至極当然な話だ。

よほど彼女の人間性に問題がない限り、ライザ達との相性は抜群と言ってもいい位に馴染んでいた。

彼女個人としても、同じ冒険者としてライザ達と肩を並べたいという望みもあるのだろう。

 

「ハァ…俺に、一ミリでも似てほしかったのだがなぁ…ハハハ…」

 

 もう銀髪武闘家も子供ではない…かと言って大人に成り切れてもいないが――。

彼女の成長を嬉しくも思う反面どこか寂しくもある――。

格闘村民は諦めにも似た苦笑いで、ぶどう酒を呷った。

 

「蹴り技の型は、貴方に似ていましたがね」

 

 灰の剣士は、彼と彼女の蹴り技が似ていた事に言及した。

あの村の件で、蹴り技で小鬼を仕留めていた格闘村民。

彼の型と彼女の型は非常に似通っており、灰の剣士は格闘村民の言う娘が銀髪武闘家だと見切りを付けていたのだという。

(本編前夜編 第113話参照)

 

「そうなのか?じゃあ、俺の教えも無駄ではなかったという事か?ハッハッハッハ…!」

 

 その話を聞き、幾分上機嫌となる格闘村民。

思わぬ所で、娘との接点を知り嬉しかったのだろう。

 

「それで貴方は、今後どう生活なさるお積りで?」

 

 灰の剣士は、格闘村民夫妻の今後を訪ねてみた。

村を出たとはいえ、この街に住み着くにしても新たな仕事に就き生活を続けていかねばならないのだ。

割のいい仕事にあり付ければいいが、彼等の将来は気にもなっていた。

 

「その事なら心配ないさ。ご領主様の計らいでギルドから仕事を斡旋してくれたのだよ」

 

 格闘村民に斡旋された新たな仕事――。

それは、火継ぎの祭祀場の補修工事に加わる事だった。

内部は原形を保っていたが、外部はかなり荒廃が進んでいる。

祭祀場の調査も徹底せねばならないが、崩落に巻き込まれ怪我人などの発生する恐れもある。

況してや、数日後は政治に身を置く王侯貴族の会合の場として使用されるのだ。

可能な限り安全面の確保に注力すべきだ。

それに補修工事だが、体力と腕力を要する仕事で人員を少しでも確保しておきたかった。

しかも給料は『日当』とくれば、これほど条件に適った職種は無い。

彼はその仕事に、いち早く飛び付いたのである。

また住居だが、灰屋に近いが空き家も残っている。

何れは取り壊さねばならない程に古い空き家だが、仮設で住むには都合が良かった。

取り壊しが決定するまでには、それなりの収入も蓄えているだろう。

 

「君にも本当に世話になったね。お陰で妻も助かった、ありがとう」

 

「恐縮です」

 

 後味の悪い結末だが、灰の剣士たちの活躍で村は何とか助かり、格闘村民の妻もこうして生きている。

改めて礼を言われ、灰の剣士は姿勢を正し応じた。

 

「…話は変わるが灰剣士殿。貴公、もうそろそろ小鬼から離れる時ではないかな?」

 

「――そうそれだ…俺もその事を告げようと思ってたんだ…!」

 

 件の村と銀髪武闘家との話も一段落し、ジークバルドは本来話すべき話題を振る。

実はこの席に同伴したのは、それが目的でもあった。

ジークバルドから”小鬼との縁切り”を打診され、同期戦士も便乗するかのような素振りを見せる。

 

「貴公には大事な使命があるのだろう?今まで貴公の動静を見てきたが、少々小鬼に引き寄せられ過ぎではないかと危惧していてな」

 

「――それは…!……」

 

 ジークバルドの指摘に言い返せない灰の剣士は、言葉を詰まらせてしまう。

魔神軍の討伐もあるが、灰の剣士には輪の都に赴くという使命が課せられている。

だが彼と再会し行動を共にして以来、どうにも小鬼に固執しているような傾向が見受けられた。

ジークバルドには、そう映っていた。

いや、彼だけではない。

 

「お前さんとアイツ(ゴブリンスレイヤー)が近しい関係なのは分かっている。だが…その…何だ…。アンタは多分…あのダークゴブリンとの戦いで、一定の責務を果たしたんだ…!俺にはそう思えて仕方ねぇ…!」

 

「貴公……」

 

 同期戦士も、また同じだった。

ダークゴブリンとの死闘――。

紙一重の辛勝だったが、あの戦いを制した事で一つの節目を迎えたのではないか。

彼には、そう思えてならないのだ。

更に灰の剣士の秘めた可能性――。

何時までも辺境に拘り、小鬼退治に従事する理由など無い筈だ。

彼の力を必要とする人々は他にも大勢いるのだと、同期戦士は付け加えた。

脅威は小鬼だけではない。

数多の異形や心無い邪悪が跳梁跋扈する、それがこの四方世界でもあるのだ。

 

「大分…苦しんでいたね。何も出来なかったが、俺も見ていたよ。君の苦しむ様を…」

 

 最後に格闘村民も自らの見解を述べる。

あの村の件で、ゴブリンスレイヤーから『産まれたばかりの赤子の小鬼を殺せ』と求められた灰の剣士。

結果的に斬りはしたが、灰の剣士は過剰に攻撃を加え挙句の果てには息切れする程に、苦痛に苛まれていた。

格闘村民は傍観する事しか出来なかったが、彼が心を殺し苦しんでいる事は分かっていたのである。

最後には、ゴブリンスレイヤーからの信頼を失墜させてしまった事も含め――。

 

「……。そうかも…知れないな…」

 

 皆からの言葉を聞き、彼はやや顔を持ち上げ思案に耽った。

今まで小鬼退治を積極的に行ってきたが、幸いにもこの地域は小鬼の被害は沈静化の傾向にある。

最も身近な脅威とも言われる小鬼だが、そろそろ他の冒険者たちに任せるのも良い時期かもしれない。

やはりダークゴブリンとの戦いは、自分にとっても大きな転換期を迎えていたのではないか。

以前より薄々とは感じていたが、彼等の言葉は戸惑う自分の背中を後押しする声にも等しかった。

彼は暫く無言で考え込むように目を閉じていたが、やがて意を決するかのように声を発す。

 

「貴公等の言う通りだ。些か固執していたようだ、小鬼に対してな。小鬼に関しては後進に任せてもいい頃合いだろう。ありがとう皆。お陰で決心がついた」

 

 灰の剣士――彼の静かなる決意を受けた皆は、ゆっくりと頷きで返した。

 

「ふむ、多少は吹っ切れたようだな。ならば貴公の決意を評して、改めて乾杯といこうではないか…!」

 

 ギルドに戻った時から、彼のソウルは相当に鳴りを潜めていた。

2階にいたジークバルドだが、彼の異変ぐらいは姿を見ずとも把握していたのである。

委縮しつつも何処か禍々しく乱れ少々危険な状態でもあった、灰の剣士のソウル。

だが今の彼のソウルは、完全ではないものの安定している。

どうやら同席して正解だった様だ。

今や彼も掛け替えのない戦友であり友なのだ。

今後も出来ることなど、そう多くはないだろう。

だが自分という存在が少しでも彼の助けとなるなら、労力を惜しむ事などあり得ない。

それが、カタリナの騎士ジークバルドという男なのだ。

 

「「「「――太陽あれ!」」」」

 

そして酒場の片隅で、ささやかながら祝杯が挙げられた。

 

……

 

祝杯を終えた後、灰の剣士は再度ギルド側へと戻る。

 

「ライザ…スイーパー残っていたのか…皆まで…?」

 

「「「「「「……」」」」」」

 

これには意表を突かれた灰の剣士。

ライザを始めとした面々は、彼の戻りを待っていたのである。

1時間は酒場で過ごして筈だ。

既に工房あるいは宿へと戻っているであろう――。

彼はそう踏んでいた。

 

「…すまなかった。余計な気遣いをさせて……」

 

 ライザ達と真面に対面する事すら出来ず、彼はやや視線を外す。

自分の弱さの所為で彼女達まで動揺させてしまった事を、今更ながらに悔やんだ。

 

「皆さん、貴方の事を気に掛けています。全部聞きましたよ、この人から」

 

 不安げな表情を向ける皆を代表するかのように、輝石の貴公子が彼に語り掛ける。

スイーパーを通して村での出来事を知り、灰の剣士に対し気を使っているのが見て取れた。

 

「フィルフサの事とか、仮面の錬金術師の事も聞いたよ。アレって完全に、あたしたち側の関係者だと思う」

 

「そうか…思い出した。前にその様な名前が出ていたな」

 

 村で邂逅した、仮面の錬金術師と白い異形――。

あの男は、白い異形を『フィルフサ』、自身は『クリント王国』の時代からやって来たと述べていた。

何処となく聞き覚えがあったが、水の都に向かう途中の馬車の中でライザから聞いた事を思い出す。

 

「ゴ、ゴメンね…、その…なんて言ったらいいか、あたしも分かんなくてさ」

 

 ライザ自身、かなり動揺と混乱に駆られている。

彼女から聞いた話では、当時の冒険中その様な男とは遭遇していないと語った。

そうだとすれば、ライザ及びクーケン島の住民に咎は無い。

寧ろ、ほぼ無関係と言っても差し支えないだろう。

 

「君たち側に非はない。あの男は、私に関心を寄せていた様だしな」

 

 仮面の錬金術師に教会の狩人、あの二人は灰の剣士を待ち望んでいた様に思える。

現に教会の狩人などは、彼が到着してから狙ったかのように姿を見せたのだ。

予め、ソウルを抑えながら身を隠していたとも考えられる。

 

「彼等は、近い内にまた現れるだろう。その時も多分、私を狙って来るだろうな。もしもそうなった場合、力を貸してくれないか?」

 

 あの二人は去り際に、再び現れると言い残していた。

もし狙うとなれば、数日後に剣の乙女が来訪する日に合わせる可能性が高い。

今回は、あの二人の術中に嵌りかけたが、皆が傍に居るだけで大きな精神的支えにもなる。

 

「――う、うん、そういう事なら任せてッ!皆も良いよね…!?」

 

 彼の頼みを聞いたライザは快く受け取り、皆にも話を振る。

当然、反対の意を示す者など一人も居なかった。

 

「有難う、皆。お陰で、かなり軽くなった」

 

 荒ぶり深みに沈んでいた彼の精神――。

酒場でのやり取りでも幾分心が癒されたが、ライザを始めとした大勢の仲間に支えられる事で、彼の心は普段通りに近い平静さを取り戻す。

 

自分の気持ちにも、一定の節目を付ける事が出来た。

大勢の仲間に支えられている。

一人ではないのだ…自分は――。

そう…、もうあの時代(ダークソウル)とは何もかもが違う。

周りに繋がる、生命の温もり――。

何時しか彼は、命ある息吹に囲まれていた。

自身に向けられた皆の目は、温かみに溢れている。

そんな目に、彼の表情も自然と綻んでいた。

 

「貴公の表情も、だいぶ変わるようになってきたな」

 

 ジークバルドが茶化すように声を掛けた。

 

「そうだろうか?」

 

「え?やっぱり灰君って、普段から仏頂面だったの?」

 

 灰の剣士自身は、自分の変わり様には気付いていない。

出会う以前の彼など知る由もないライザは、ジークバルドに訊ねた。

 

「表情も何も、常時兜は被りっ放し、言語障害かと思わんばかりの片言、殆ど無感情などなど――」

 

「言うなよ…。ああいう状況だ、仕方あるまい?」

 

「何を申す、私など何時も笑い飛ばしていたぞ?」

 

「そのお陰で、私は心折れずに役割を果たす事が出来た。感謝している、ジークバルド」

 

「ウワハハハ、お互い様よ!」

 

 最早世界そのものが死に逝こうとしていた、彼の時代――。

笑うなどといった感情など、とうの昔に忘れ去られた世界…灰の剣士は旅路の中、半ば絶望に支配されていた。

だが、途中で出会ったカタリナの騎士ジークバルド――。

彼との交流で、忘れ去っていた感情に再び火を灯した。

どの様な困難に直面しようとも、決して心折れ様とせず豪快に笑い飛ばし、果敢に立ち向かった英雄ジークバルド。

そんな彼の姿は、灰の剣士にどれ程の救いを齎していたか計り知れないものがあった。

 

そして彼は、四方世界でも相変わらずで、常に笑顔を浮かべていた。

 

「エヘヘ、やっぱりみんな楽しい方がいいよね♪」

 

 ジークバルドの笑い声が皮切りとなり、釣られたライザにも笑顔が戻っている。

先程の悲壮な雰囲気など綺麗に吹き飛び、ギルド内は和やかな空気に満たされつつあった。

 

そんな時である――。

 

『――おにいさ~んッ…!…ハァ…ハァ…フゥ…』

 

「――!?貴公、どうしたのだ一体ッ…!?」

 

 突如ギルドに乱入気味に駆け込んで来たのは、何と『見習い神官の少女』だった。

本来の彼女は神官を目指し、地母神神殿で日夜勉学に励んでいる身だ。

しかも彼女は、まだ11~12歳という幼い年齢だ。

時刻はもう夕暮れ、あと数時間も経たない内に夜となる。

一人で神殿から此処までやって来たのだろうか?

――だとすれば、少々危険だ。

以前とは違い今は賊徒が蔓延り、治安が総じて悪化している時期だ。

街中とは言え夜の一人歩きは避けた方が無難であろう。

しかもこんな幼い少女が、夜間に一人歩きなど…考えたくもない。

 

これには灰の剣士のみならず、周囲も驚きの声を上げた。

 

「先ずは息を整えよ…さぁ、ゆっくり飲むと良い」

 

 かなり息を切らせている。

持久力も考慮しないで、走って来たに違いない。

荒い呼吸を繰り返し、何かを伝える処ではない見習い神官の少女。

灰の剣士から水袋を受け取り、少女は乱暴に飲み干した。

口端から水が大量に零れ、彼女の衣服を濡らすのも構わずに。

喉を潤し呼吸を整える事で、彼女は漸く落ち着きを取り戻した。

 

「…それで、神殿に何か起きたのか?」

 

 息を切らし血相を変えてまで、単身ギルドまで駆け込んで来たのだ。

この様子から只事ではないと察するギルドの面々。

灰の剣士が彼女に問う――。

しかし返って来たのは、拍子抜けする程に意外な答えだった。

 

「――お…お兄さんが…、()()()()()って聞いたんです…!」

 

………

……

 

( 推奨BGM ライザのアトリエ ―― 静寂の島 )

 

「な…何だ、そうだったんですね。良く…は、ありませんけど。大丈夫だったら良いんです」

 

 神殿に来訪した冒険者たちを経由して耳に挟んだのだろう。

かなり曲解されていたが、灰の剣士の噂を聞き付けた彼女は辛抱し切れず単身神殿を飛び出してしまったのであった。

当然、周囲は制止しようと声を掛けたが、彼女は完全に心非ずで一心不乱にギルドを目指した。

 

確かに今日の依頼で、灰の剣士は様々な謀略に見舞われた。

まぁ、『虐められた』という報も(あなが)ち間違いではないのだが――。

 

簡潔にだが、事の真相を聞いた彼女はホッと胸を撫で下ろし平静を取り戻したようだ。

 

――よもや、ここまで行動的だとは思ってもみなかった。

 

彼を想うあまり、制止を振り切ってまで駆け付けてくれた――。

内心当惑しながらも、彼女の好意には嬉しくもあり申し訳ない気持ちにもなった。

 

「本当に申し訳ありません。この子が突然、割り込んだりして……」

「重ね重ね、お詫び申し上げます…!」

 

「ほら、貴方ももう一度丁寧に謝りなさい…!」

 

 そして少女を追い駆けて来た、神官長と男神官を含めた数人の関係者たちが深く頭を下げ謝意を示す。

神官長が頭を下げながら、もう一度丁寧に謝罪するよう少女を嗜めた。

 

「――い、いえ…!何も支障はありません、お気になさらず」

 

 灰の剣士も流石に面食らい、もう気にしてはいない旨を関係者たち伝える事で、この件は取り敢えずだが片付いた。 

 

「…それでアンタ、明日はどうするんだ?」

 

 一度場が落ち着いた事で、改めてオーレルから予定の有無を訪ねられた。

ライザ達は明日、錬金素材の収集に出かけるという。

 

灰の剣士は辺りを見回す。

あのゴブリンスレイヤーは、当然の事ながら牧場へ帰還し此処には居ない。

オーレルたちも、ライザ達に同行する様だ。

此処には居なかったが、銀髪武闘家も明日は参加するだろう。

ジークバルドたちも、別の依頼を熟す算段らしい。

――となれば、後は灰の剣士だけとなる。

 

「そうだな…。私か、明日は休養するか」

 

 灰の剣士は暫し思案した後、明日は冒険を休む事を告げる。

 

「うん、そうだね。今日の剣士さんは、ちょっと無理が祟ってるみたいだから。ゆっくりと羽を伸ばした方がいいよ」

 

 彼の発言に、ルルアも同意した。

殆どは軽くなった彼の精神。

しかし、まだ全快ではない。

彼の心は、あの二人に相当弄ばれた。

ここいらで休養に励み英気を養うのも、精神衛生的に重要となるだろう。

 

灰の剣士は、明日ゆっくりと休む事にした。

 

「へぇ…お休みするんだ貴方……奇遇ね。私も()()()()()なんだけ、ど……」

 

 休む旨を皆に伝えた灰の剣士に対し、唐突に監督官のギルド職員がカウンター席から意味あり気な視線と言葉で見つめて来る。

 

「……」

――言いたい事があるなら、明確に言い給えよ貴公。(・ω・)

 

あからさまに自分の休日を、これ見よがしに伝えてきた監督官。

その態度から何を察してほしいのかは、容易に想像がつく。

 

「何か、お予定はあるの、貴方?」

 

「……」

――早く言い給えよ、含みのある女め…!( 一ω一;)

 

彼女は頬杖を突き、チラチラと此方を見ながら質問を投げ掛けて来た。

灰の剣士はイラつきを(おくび)にも出さず、明日の行動指針を伝える。

 

「劇場に行く予定だ。明日は確か、演奏会が公演される筈」

 

 その言葉を聞いた時、周囲は意外そうな顔をする。

特に女性陣が――。

 

「――え、貴方…音楽…聴いたりするんだ?」

 

 彼に対し、カウンター棚から身を乗り出し食い入る様に見つめる監督官。

 

「…ん、ああ。聞くのは…結構好きだ」

――いかんかね?俺とて音楽の一つや二つは聞く…。( ̄д ̄)

 

パチクリと瞬きを繰り返す彼女に対し、彼はにべもなく応えた。

彼女が意外そうな表情を浮かべているのは明らかで、隣に居る三つ編みの受付嬢も同じ表情だ。

普段から彼に対して抱いていた印象が相当かけ離れていた事が、彼女らの表情から見て取れた。

 

「ふぅ~ん、そうなんだ……。…じゃあ、御粧し(おめか)しておくから明朝の『噴水場』で集合ね」

 

「…??ん…ああ…分かった」

 

 何時の間にか供に行動する意味で、時刻と集合場所を半ば一方的に告げる監督官。

訳の分からない内に困惑しながらも承諾してしまった、灰の剣士。

 

「…私も、明日お休みしようかなっと思ってたんで……付いてっちゃおうかな…?」

 

 何とスイーパーまでもが、監督官に続く姿勢を見せた。

 

「…ん、そ、そうか?」

――何か、話の流れが怪しくなってきた…か?(ーωー)

 

一人で行動するつもりが、何時の間にか二人の女性が同行する形で話が決まってしまう。

 

「そ、それじゃあさ、あたしも一緒に行っていい?」

 

「――ライザちゃんは、合格して直ぐにお仕事引き受けたじゃない!?駄目に決まってるでしょ!」

「――気持ちは分かるけど、おサボりは良くないと思うんだ、私は…!」

 

「うぅ…そうだよね…ハイ…」(´・ω・`)

 

 二人に触発されたのかライザまでも同行の意志を伝えようとするも、エーファとルルアに却下を食らってしまう。

ライザとルルアは試験に合格した後その場で依頼を引き受けてしまい、明日から作業に取り掛からねば納期に間に合わない状態だった。

二人の言葉を受けたライザは、委縮してしまった。

 

「――お、お兄さん…!神殿には、寄ってくれないんですか!?」

 

「…どの道、神殿には立ち寄る。確認したい事もあるのでな」

――今度は貴公まで……。( ̄ー ̄)

 

堪え切れなかったのだろうか。

とうとう見習い神官の少女まで、参戦し始めた。

神殿に立ち寄るか否かを訪ねられ、灰の剣士は立ち寄る意志を告げる。

確か神殿には『星々の宇宙儀』と呼ばれる魔道具が預けていた筈だ。

以前、不死の女の呪いを解くために使用したが、限界まで呪いが堆積してしまい中断に追い込まれてしまった。

堆積した呪いが霧散するには、最低でも一週間以上の時間を要する事となる。

(本編前夜編 第103話参照)

 

あの日から、それなりの日が経過した。

呪いの滞積状態を確かめる意味でも、神殿には立ち寄る必要があるのだ。

 

「――じゃあ、朝一…開門時刻と同時にお越し下さいっ!良いですねッ!お兄さんに拒否権はありませんッ!あたしが決めたんですから、決定事項ですッ!お持ちしていますかねッ!少しでも遅れたら、何時の日か『フォース』の奇跡覚えてブッ飛ばしますから、覚悟しておいて下さいっ!…ハァ、ハァ、ハァ…!」(≧з≦)

 

「…承知」

 

「ホラもう良いでしょ。暗くならない内に帰りますよ…!それでは皆様、ご迷惑をおかけいたしました。皆様方に、いと慈悲深き、地母神様の御加護を…!」

 

 有無を言わせず言葉を畳み掛け、要求を通した見習い神官の少女。

神殿には立ち寄るものの、開門時刻に指定されるとは思ってもみなかった。

 

剣の乙女との確執以降、この少女とは極力距離を空けようと努めていた灰の剣士。

だが少女との距離は、開くどころか却って深まる一方だった。

出会った当初から”強引”な部分は見受けられたが、ますます拍車がかかっている様な気がする。

あの少女、他の手合いに対しても”ああ”なのだろうか?

――だとすれば、彼女の将来は少々心配になる。

 

彼女の迫力に押され受け入れる形となった灰の剣士。

そんな彼女をギルドから連れ出し、神殿へと戻る神官長と関係者たち。

 

そんな様子に暫し呆気に取られていた彼等だが、灰の剣士は周囲から『モテるねぇ(・∀・)ニヤニヤ』とからかわれてしまった。

 

……

 

「ああそうだ、皆に聞いて欲しい事がある…!」

 

 明日の予定が決まった事で、灰の剣士は周囲に改めて呼び掛ける。

急に態度を正し何を宣告するのか。

皆が視線を寄せる中、彼は受付カウンター前へと移動し、その様子にギルドの受付嬢たちも注目した。

 

「――(わたくし)、火の無い灰は本日を以て……小鬼関連から一切の手を引く…!」

 

 その言葉に皆は、十人十色の反応を見せた。

意外そうな顔をする者や、当然だと言わんばかりに納得する者、実に様々だ。

 

その中で残念そうな表情を浮かべたのは、三つ編みの受け付け嬢――。

今まで、小鬼退治に類した依頼を積極的に請け負ってきたのは、ゴブリンスレイヤーを含め、灰の剣士とスイーパーだけだ。

新人一党も多少は受けてくれるのだが、やはり戦力的に何処か不安を覚えてもいた。

(ゴブリンスレイヤー)と灰の剣士との確執――。

彼女も、その事は承知している。

だが灰の剣士の実力は、本当に規格外と言っても過言ではない。

今回の依頼の様に、小鬼退治に付随した策謀を打ち砕く事が出来るのは非常に少数なのだ。

(ゴブリンスレイヤー)からの報告は相変わらずで”小鬼を全て殺した”位しか述べず、精々が白い怪物に襲われたと付け加えただけだった。

結局、スイーパーからの追加報告で、事件の全容を知る事が出来た。

そして、灰の剣士が居なければ”小鬼退治だけで帰還していただろう”という事も告げられた。

 

灰の剣士の意思表示――。

つまり小鬼に対抗する、重要な戦力を失ってしまったという事に他ならない。

 

言葉に出さなかったものの、三つ編みの受付嬢は浮かない顔をしていた。

 

もう充分だろう、小鬼退治に従事するのは。

幸い、小鬼の活動は概ね沈静化している。

それが彼の意志だった。

 

この宣言を皮切りに、灰の剣士は一切の小鬼関連から手を引く事になった。

余程の事情で”手を貸してくれ”と懇願されない限り、彼は小鬼退治を受ける事はないだろう。

 

……

 

( 推奨BGM ダークソウル ―― キャラメイク )

 

 今日は、少しばかり珍しい日だ。

何時もなら、赤と緑の異なる月光が二つ、この街道を照らすというのに。

今歩く彼を照らすのは、赤みがかった夕暮れの光だ。

数週間前に比べれば、何処となく禍々しい色に見えなくもない。

夕暮れに染まる雲海は、まるで血を思わせる程に黒い紅だ。

あの(スイーパー)は去り際、こう言った。

 

   ―― もう、彼とは組めないの? ――

 

あの女は、何時しか兜を外す様になった。

その頃から自分にも、兜を外してみては?

そう勧めるようになった。

 

冗談じゃない。

 

街に小鬼が潜んでいる危険性もあるのだ。

現に、そうだったではないか。

少ない小鬼退治を終え、街へ帰還した時は正直驚いた。

油断しない為の理由付けとして、街へ潜む小鬼の可能性を考慮した積りが――。

まさか本当に、街中で小鬼が出現しようとは――。

しかも200を超えたという話だ。

尤も自分が仕留めたのが最後の小鬼らしいが――。

いや、それはもう過ぎた事だ。

いつ如何なる時も熟考し、小鬼に備える。

これが俺のやり方だ。

そのやり方を今まで通してきた事に、口を挟まれるのは少々不愉快だ。

 

俺はふと足を止め、後ろへと振り返る。

 

「……」

 

これでいい――。

これで――。

アイツ(灰の剣士)と組む事は、もう無いだろう。

使()()()()から?

まさか?

アイツは強い――。

途轍もなく――。

それこそ桁外れの強さだ――。

俺ごときが追い付ける領域じゃあない。

だがアイツには、務まらない。

優し過ぎる、アイツは――。

そしてそれは時に偽善でもあり、只の自己満足な傲慢にもなり得る。

小鬼は何処まで行っても小鬼なのだ。

邪悪で――。

悪辣で――。

臆病で――。

残虐で――。

狡猾で――。

強欲で――。

怠惰で――。

やはり小鬼だ。

殺さねばならない。

目に付く小鬼はやはり――。

 

皆殺しだ。

 

見逃すなど以ての外――。

奴等は恨みを決して忘れる事がない。

――だと言うのに。

何度も言い聞かせ、アイツ自身も知った筈なのに。

善良な小鬼だと?

――ハンッ…!

どうかしている。

神殿の少女にでも絆されたか?

たとえ赤子と言えども、アレは()()だという事がまだ分からないのかアイツは?

……それはない。

分かっていたからこそ、アイツは葛藤し苦悩しつつも切り伏せた。

見惚れする位の剣技で――。

少しばかり羨望した見事な技で――。

本当に苦しんでいた、アイツは…。

だが戦った、最後まで。

アイツのお陰なんだ。

何度も助けられ――。

何度も力を貸してくれ――。

今日まで生き抜いてこれた。

ダークゴブリン――。

今思えば、アレを打ち倒した日から小鬼は激減した。

全てアイツが居たから成し遂げられた。

ここまで小鬼を殺せてこれた。

だからアイツの力が必要なんだ。

本当は――。

だがアイツを見限った。

もう組む事を拒んだ。

……。

もういい。

もういいんだ。

お前はお前の道を歩んでほしい。

お前にもあるのだろう?

真に成し遂げたい使命が。

後は自分で何とかする。

元々、自分で始めた戦いだ。

これ以上、自身の傲慢に付き合わせる訳にもいくまい。

だが、あの…あの()の事だけは何とか助けやってくれないか。

本当に…本当に…、俺の無くした半身も同然なんだ。

別人だってかまわない。

不死でなく、生きた人間でいてほしい。

悔しいが自分ではどうしようもない。

何もしてやれる事はない。

ただ無事を確かめに行く事位しか――。

だから――。

だからこれ以上――。

 

彼は、独り静かに()ちた。

街へ向かい――。

一人の剣士に向かい――。

認めた友に向かい――。

 

   ―― 友を苦しめたくはない ――

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

追い剥ぎ、山賊、野党、盗賊

 

詐欺、盗み、略奪、強姦、殺戮などなど…。

凡そ蛮勇な悪事に手を染める者共の総称。

彼等がどの様な理由で自身を貶めたのかは、実に諸説ある。

しかし彼等が総じて行うのは、悪事に連なる外道働きに他ならない。

力無き弱者や善良な者達に狙いを絞り、あらゆる卑劣な手段を以て金品や尊厳を奪い尽くす。

 

何も変わらないのだ。

程度の差こそあれど、邪悪な輩という事に――。

更生の余地があるならば、まだ良し。

もし無いのであれば――。

 

それはもう、小鬼(ゴブリン)だ。

 

 

 

 

 

 




 格闘村民の夫妻は銀髪武闘家ちゃんの御両親で、舞台となった村は彼女の故郷でした。まぁ、既にお気付きかと思われますが。
いよいよ王都側からの接触も始まります。

如何だったでしょうか?
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。  
デハマタ。( ゚∀゚)/
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