ゴブリンスレイヤー ―灰の剣士―   作:カズヨシ0509

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ドーモです。
今回は、水の都視点でのお話で若干短めです。
では投稿致しますドゾ。( ゚ ω ゚ )


第117話―剣の乙女と金剛石の騎士

 

 

 

 

 

 

司教杖(パクルス)

 

より高位の聖職者が用いる杖。羊飼いの杖に似せてあるともいう。

一般の値段は、金貨18枚前後。

 

彼女――剣の乙女が常備する錫杖は、天秤と剣を組み合わせ至高神を象徴した特注品。

意外にも打撃力は高く、並の冒険者程度が直撃すれば絶命の恐れもあるだろう。

また少々持ち柄の癖が強く、扱うには慣れと技量も必要とされた。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

( 推奨BGM ゴブリンスレイヤー ―― 過去からの呼び声 )

 

 どうして…?

どうしていつも…。

 

私ばっかり……。

 

私ばかりを虐めるの?

 

いつもそんな事ばかりを考えながら、この夢を甘受してきた。

もう何度も見慣れた、私の黒き歴史――。

 

念願の冒険者へと成り、勇んだ最初の冒険――。

依頼内容は路頭にありふれた、小鬼の討伐――。

だけど私たちは敗北し、次に目を覚ませば小鬼に散々蹂躙されていた。

 

暗く――。

寒く――。

臭く――。

息が詰まり――。

痛いよ――。

 

下腹部から出し入れされる汚らしい異物を、どのくらい受け入れたのだろう。

あれから何日経ったのかも曖昧だ。

いえ…若しかしたら、まだ数時間と経っていないのかも――。

まぁ、そんな事なんてどうでもいいんだけどね。

 

あ~あ、なんで私だけ生かされて嬲られてるのかしら。

他の仲間なんて、もう亡いっていうのに…。

 

男女の夜の営み…、先達から聞かされ何時の日かは私自身も――。

そんな淡い期待感を抱いていた時期も、あるにはあったわ。

私も誰かを好きになり、その殿方と結ばれる日の到来を――。

 

だけど、現実は本当に残酷だ。

 

私の相手――。

 

それは、小鬼(ゴブリン)――。

 

幸い私は救助されたらしいけど、正直その時の事はよく覚えていない。

 

それから時が過ぎ、私は冒険者として再起した――。

だけどあの惨劇を皮切りに、私は毎夜の様に悪夢に侵される日々を送っている。

それは今もそう――。

何時までも終わる事の無い、小鬼の果てなき凌辱劇――。

 

紆余曲折あり、一時期は悪夢も和らいでいたというのに、こうしてまた視るようになってしまった。

 

きっとアイツの所為だわ…!

アイツが馬鹿な事を口走るから、こうなったのよ…!

そうに違いないわ…!

どうしてくれるのよ…!

どう落とし前を付けてくれる気…!?

責任重大だわ…!

償って貰わないと…!

そうよ…!

 

()()()なさいな…!

 

こびり付いた小鬼の傷跡は一生消えないの。

どうやっても。

何をやっても消せはしない。

だったら方法なんて一つだけ――。

小鬼の爪痕など感じなくなるまで、()()()して…!

毎晩毎晩、何度も何度も、私が()()()になるまで――。

 

あのギルドに書簡を寄越したわ。

此方へ身柄を引き渡す様に――。

あんな事を口にしたお陰で私は本当に気を害したの。

 

分かる?

フン…、まぁ分からないわよね!?

お前なんかに解る訳無いわ…!

私の苦しみなんか――!

 

だからお前には、私を慰める権利と義務があるの!

 

もう嫌なの…。

もう沢山なの…。

何で、私だけが小鬼に虐められないといけないの…!?

 

何で何でねぇ何で――!?

 

クソ、クソ、クソ…!

あのギルドめ…!

よくも拒んでくれたわね…!

私が、こんなにも苦しんでいるというのに――。

好いでしょ別に――!

一人ぐらい寄越しなさいよ…!

私にはアイツが必要なの!

嫌よ…!

夜、独りっきりで寝たくなんてないわ!

傍に居て…!

食事の時も、湯浴みする時も、用を足す時も、もちろん寝る時も――。

ずっと、ずっと、ずっと……!

 

連れ出して、お願い!

この悪夢から連れ出してッ!

出来るんでしょ!?

貴方なら出来るんでしょ!?

息するように。

簡単にッ!

だって()()は…。

()()()はッ…――。

 

……。

 

……フゥ。

 

…何か何時ものとは違うわね…。

この悪夢…、今夜に限って第三者の視点で私は視ている。

小鬼に嬲られる私を()が見ている。

今まで無かったのに、こんな事は――。

いつもなら私は主観で、この悪夢を体験するのに。

 

私の周囲には、複数の小鬼が取り囲み代わる代わる私を味わっていた。

 

客観的な視点なら冷静に判断できる。

たかだか10やそこらの小鬼でしょう?

必死に抵抗なさいな。

死に物狂いなら、決して不可能ではないわ…!

だって――。

貴女()は後に、魔神王を倒した一人として英雄視されるのよ!?

その後、剣の乙女として大司教の地位を賜るの!

やろうと思えばできた筈なの!

 

……

 

フフ…、無理よね…。

出来る訳も無い。

あの時の私は本当に気弱で…今もだけど――。

一人じゃ何にも出来ないんだし…。

それにこの時の私、片脚を捻っていたから抵抗する気迫さえ湧かなかった。

 

過去なんて変えられるはずもない。

 

ああ、いよいよ訪れる――。

 

この目が不自由となった、あの残酷な仕打ちが……。

 

けど、どうしてかしら?

どうして小鬼は、こんな残酷な事を平気で、うぅん、嬉々として行えるの?

とてもじゃないけど、私が小鬼なら真っ先に投げ出すわ…!

 

『――イぎぃやゃぁぁあアアァぁぁ……!!』

 

 ああ、私の目が焼かれる――。

断末魔の絶叫を上げる当時の私は、抵抗もままならず両の瞳を焼かれた。

 

少し場面が切り替わった。

あら不思議…今宵は本当に珍しいわね。

いつもなら此処で目が覚めるのに…。

 

私は尚も小鬼を受け入れている。

いえ、小鬼を受け入れてる過去の私を()()見ていると言った方が正解なのかな、この場合。

 

ちょっと止めてよ…!

もう充分味わったんでしょ!?

目も焼かれた私なんて味わって、そんなに楽しいの!?

――って言うか、その膨らんだお腹…いや、やめて…、忘れていたかったのに……!

 

思い出したくない!

お願い…!

もう覚めて!

早くあの寝台に戻して!

このままじゃ――。

このままじゃ、私はッ――!

 

『――ぅうぅっ……、あぎぇぁぁアアァぁぁああアァぁッ……!!』

 

……あんまりよ……。

こんな事って…。

こんな事って、許されていいのッ…!?

 

そう…。

私は産んじゃったんだ…!

 

   ―― 小鬼の赤ちゃんを ――

 

覚えてる…。

今も…。

鮮明に…。

 

私が真に忘れたかったのは、小鬼に凌辱された事だけじゃない。

 

小鬼を産んだ。

 

もう消せないわ。

どれだけ過去を覆い隠そうとも…。

この事実は、決して消えないの。

 

目を焼かれた私は、力無く横たわっている。

そんな私に小鬼も次第に飽きたのだろう。

何処からか連れ込んで来た、別の女相手に腰を振っている。

本当に浅ましい姿ね…!

只人の男も、こうして励むのかしら。

見てて吐き気がするわ!

 

貴方は違うわよね?

もっと優しくしてくれるんでしょ?

 

……

 

数人の力無き女たちは、必死に助けを求め許しを懇願している。

駄目よ。

相手は小鬼なのよ。

私が、とっくにお願いしたわ。

小鬼相手に、何度も何度も何度も。

まぁ結果なんて分かり切ってるけど…。

ハァ…それにしても何時まで続くのかしら、この悪夢?

 

そろそろ見飽きてきた光景に辟易した頃、私は奇妙な違和感に気付いた。

 

……隣に()()()()…いや、居たッ!?

 

違和感を感じ隣に視線を送れば、其処には、あの見覚えのある彼女が佇んでいた。

 

嘘…、ずっと…ずっと其処に居たの…!?

私の隣で……。

 

ああ、逢いたかった…。

暫く逢えなくなって、こんな悪夢をまた視る羽目になったの…。

お願い…助けて…何とかしてよぉ……。

 

あの時の彼女だ。

お花畑に包まれ不思議な篝火に身を寄せながら私と談笑していた、あの女の人。

お願いよ…、連れてって…。

あの時の夢へ連れてって…。

こんな夢なんて、二度と視たくない!

もう嫌よ!

 

黒い聖職服を幾重にも纏い、素顔は金細工のサークレットらしき仮面に覆われた女の人。

髪は長い銀色で、何処か神秘的な気配さえ漂わせている不思議な女の方。

 

やっと逢えた…!

 

この忌々しい悪夢の真っ只中にも拘らず、私は彼女の存在で心底安堵した。

 

彼女が居るだけで、こうも心が安らぐとは――。

いえ…私が本当に必要としていたのは、()()だったのでは!?

 

しかし声を掛けようとするも、彼女からの反応はない。

一体どうしてしまったというの?

戸惑う私を余所に、彼女は地面に横たわる過去の私へと寄り添った。

 

そして彼女は、信じられない事を口にしたわ。

確かに聞こえた彼女からの言の葉――。

それは――。

 

   ―― 灰の方 ――

 

その名を耳した瞬間、私は悪夢から覚めた。

 

……

 

( 推奨BGM ゴブリンスレイヤー ―― 女神官と慈悲深きその手に )

 

獅子を模した石造りの口部から、湯が止めどなく流れ出る。

流れ出でた湯は、巨大な大理石の浴槽へと溜まりゆく。

女一人が占拠するには、少々に広く持て余し気味だ。

 

『大司教様、お湯加減は如何でしょうか?』

 

「ええ。とても心地好いですわ」

 

 湯気に包まれた白い大空間に響き渡る、女二人の声――。

湯で満たされ浴槽に、下半身を浸ける若く豊満な女性――。

 

   ―― 水の都・法の神殿 ――

 

彼女は神殿最高指導者にして大司教の地位を授かり、周囲からは『剣の乙女』と称されていた。

 

現在彼女は、神殿内の大浴場にて半身浴に浸っている。

あの悪夢から目を覚ましたは良いものの、もう何度目になるかも知れない粗相を晒してしまったのである。

幸い早めに覚めたらしく、朝の礼拝までには時間的猶予もあり、こうして身を洗い流していた次第だ。

 

「ごめんなさいね。幼子みたいな見苦しい姿を晒してしまい…」

 

「――何を仰られます。貴女様の背負いし重荷を想えば、どうして責められましょうか…!」

 

 確かに、みっともない――。

自分でも、そう思う。

小さな子供じゃあるまいし、自分の小水で寝台と衣服を汚してしまうなど…かれこれ何度目になる事か。

 

自嘲気味な剣の乙女に対し、声を掛ける若い女性からの気遣いが心地よかった。。

剣の乙女の過去を知る者は、過去の仲間や神殿関係者を含めても然程多くはない。

 

先程から声を掛ける若い女性――『神官戦士長』も、剣の乙女の暗い過去を知る一人だった。

彼女は、先代戦士長の副官でもあり実妹でもある。

先代は歳の離れた兄だったが、内部関係の不祥事で懲戒処分となった。

現在は副長である彼女が、繰り上げ式に戦士長を引き継ぐ形に納まっていた。

 

「貴女も其処に居ないで、お入りになられては如何です?」

「――お、お戯れをッ…///!もう直ぐ礼拝のお時間が迫っております。その後は、()()()()()がお見えになられます故。…新しいお召し物は既にここへ――」

 

「有難う…もう上がるわね」

「――ハッ…!」

 

 揶揄(からか)うかのような剣の乙女の口振りに、現神官戦士長は慌てるかのごとき口調で取り繕う。

此処からは見えないが、彼女は顔を真っ赤に茹で上がらせているのだろう。

生真面目で多少融通の利かない彼女らしい反応だ。

正に至高神信徒の模倣とも言っても差し支えない人柄の、()・神官戦士長。

 

実際の処、至高神の信徒は常日頃から教義通りに生活している訳ではない。

やれ戒律だの規律だのを強要されては、直ぐに精神を破綻させてしまうのだ。

いくら敬虔な信徒とは言えども、何処かでゆとりと娯楽を享受しながら、至高神の教義へと邁進するのが常なのである。

 

朝の短い湯浴みを終えた剣の乙女は、待機していた現神官戦士長に身体を拭き取って貰い、新しく用意された法衣を身に纏った。

 

……

 

( 推奨BGM ダークソウル ―― 火継ぎの祭祀場 )

 

朝の礼拝も(つつが)なく終わり、剣の乙女は来客用の部屋に座していた。

彼女の他に、数名の人物が招かれている。

 

「…600を超える小鬼の軍勢…そして、ダークゴブリンなる黒き小鬼…、記録は王宮でも拝見させて貰った」

 

 上質のソファーへと腰掛ける一人の青年は、四角い卓に置かれた水晶と、卓を挟む様に正対する剣の乙女を交互に見やった。

その青年の纏う鎧は、眩いばかりに煌めく金剛石(ダイヤモンド)で拵えられている。

そんな彼の首には、黄金に輝く冒険者用認識票(プレート)が吊り下がっていた。

 

「もう過ぎた事だが…敢えて言わせて頂こう――」

 

 腰掛けるソファーが些かに上質過ぎたのか、金剛石の鎧に身を包んだ青年の総重量が嵩むのか、はたまた両方なのか、ソファーはありえない程に減り込んでいる。

それが却って不快なのか定かではないが、青年の表情は引き締まったものへと変貌した。

 

「少々損失が、多過ぎたのではないかね…?」

 

 直球とも取れる青年の言葉――。

 

ダークゴブリン戦に投入した、物資の数々と300を超える冒険者たち――。

辛くも勝利を収めた剣の乙女陣営だが、200を超える死傷者が発生した結果に、青年と彼の同行者は渋い表情を浮かべていた。

 

「――お言葉ですが、陛下…もとい、金剛石の騎士様ッ!今の記録をも、ご覧になった筈です!ただの小鬼ではないのですよ、ダークゴブリンに率いられた軍勢はッ――!!」

 

 青年に向かい、感情の丈をぶつける剣の乙女。

よほど反論したかったのか、急に身を乗り出し両手をバンッと卓上へと叩き付ける。

四角い卓と綿の下敷きに置かれた水晶は、短くも激しい振動に揺れた。

普段は大司教に相応しい物腰に努めるも、こう見えて彼女は感情を露わにする場面が多い。

 

対するこの青年は、金剛石の騎士と呼ばれる金等級の冒険者――。

 

しかし実態は、この王国の舵取りを担う元首にして国王その人なのである。

 

「記録映像は、私めも拝見させて頂きましたが、小鬼は何処まで行こうとも小鬼。ここまで人員を割く必要性が分かりかねます」

 

 国王に続き、言葉を加える一人の男性――。

赤い髪を有し高い身分と地位を思わせる聖職服を纏った彼を、人々は『枢機卿(すうききょう)』と呼ぶ。

ダークゴブリンという異質の強大さを認めながらも、あくまで小鬼という認識を変える積りはないようだ。

 

「貴方様がたの認識は尤も。しかし非礼を承知で申し上げさせて頂きたい」

 

 ここで声を上げたのは、太陽を彩った鎧姿の騎士『アストラのソラール』であった。

一党の代表として彼も招かれており、剣の乙女側に座していた。

身分高き会合へと口を挟むなど、礼節を知る騎士として如何なものか。

しかし礼に非する事を承知の上で、ソラールは言葉を挟まずにはいられなかった。

 

「あのダークゴブリンという個体は、通常形態でさえ魔神将をも凌ぐ戦闘力の持ち主。しかも『強化方陣』と呼ばれる邪法を用い、更なる強大化をも可能としておりました。…その戦闘力たるや、実に『魔神王』にも比肩し得るかと…!」

 

 端的にだがソラールは、ダークゴブリンとその軍勢の脅威度を改めて説く。

ダークゴブリンは元より、それに率いられた側近含め兵卒に至るまで、従来の小鬼とは何もかもが一線を画していた事も付け加えた。

 

「…分かっている。何度も聞かされた、耳にタコができる程にな。記録を持ち帰った冒険者も皆挙って喚いていたよ」

 

 金剛石の騎士の連れである、銀鎧の近衛騎士も溜息を隠そうともせず王都での経緯を語った。

やはり実体験せねば伝わらないのだろうか。

生還した冒険者は、皆が皆口を揃えてダークゴブリン軍の強大さを語っていた。

だが、どれだけ口伝や記録映像を持ち帰り公表したとしても、結局は小鬼という認識で一括りにされてしまうのだ。

 

「…そう思われるのであれば、もう少し小鬼への対抗策を講じて頂きたいですわ。()()()()()()様」

 

「残念だが、それはならぬ。現時点では尚の事な。此処にも伝達されている筈だ、魔神軍の動きを」

 

 真に小鬼の脅威を認識しているのかは怪しいが、もしそうであるのなら小鬼討伐に与した政策を挙げて貰いたい。

剣の乙女は請願するものの、金剛石の騎士は即答で却下する。

現在の認識以上に小鬼が脅威だという主張は、理解はできる。

しかし、小鬼以上の脅威も日常に蔓延っているのが、この世界の現実だ。

 

魔神、竜、悪魔、怪生物、悪党…等々。

 

それ等の脅威と比較すれば、小鬼の脅威度など如何ほどのものか。

 

既に魔神軍は動き出し、北方面では王国軍と交戦状態に入っていた。

現時点の主戦場は、王都から遥か北の辺境街――。

その街を第1防衛ラインに定め、王国の北方面を担う軍勢が魔神軍と激突していた。

まだ開戦して日も浅く、大規模な激突には至ってはいない。

双方とも被害は軽微で、牽制と小競り合いの繰り返しで実質は睨み合いに近かった。

 

魔神軍の主力が北方面に集中する事は軍部でも把握しており、比較的安全な西方軍を援軍として割いていた。

因みに最も平穏な南方軍は、東方軍へと部隊を割いている。

隣国でもあり仮想敵国に対する守りを強化する為だ。

魔神軍の動きに呼応するかの如く、隣国の侵攻は日増しに激化しつつある。

恐らくは何らかの取引でも交わしたのだろう。

 

本来なら西方の軍を、対小鬼へと差し向けたかった剣の乙女。

しかし彼女は軍部を統括する立場に非ず、国軍を自由に行使は出来ないのだ。

 

西方軍の僅かな一部隊…小隊規模だけでも傘下に納められればと、常日頃から望んでいるのだが肝心の軍の大半は北方へと送られる始末。

それが叶わぬ故、彼女はダークゴブリンの軍勢に抗する為に、冒険者を中心とした人員と物資の確保に奔走した。

だがそれも、人的資源の無駄遣いなどど指摘され、今の彼女は心中穏やかではなかったのである。

 

300名を超える冒険者の大半は、新人~中堅クラスばかりであったが、200名を超える損失は矢張り大きな痛手には違いない。

未熟な冒険者とて、魔神軍の工作に抗する運用法は幾らでも存在するからだ。

王統府側からの指摘に不服を抱いてはいたが、冷静に考えれば確かに自身の采配不足を認めてはいた。

結局、()()()()()の奮戦と貢献により得た、ダークゴブリン戦での勝利――。

戦の事後処理でも、生還した冒険者の半数は彼女に不満と憎悪を滲ませていたのを今でも覚えている。

あの戦の後、彼女の支持率は確かに落ちてもいたのであった。

 

「これは軍部の調査ですが、件のダークゴブリン軍…、魔神軍の動きに合わせ西方を攻めたようです」

 

「――何とッ…!?」

 

 今度は金剛石の騎士の傍らに佇む、銀髪の女性から言が発せられた。

 

彼女の話によれば、大半の軍が北へと移動した事で手薄となった西方面――。

西方軍の主力が不在となれば、当然西方の守りは弱体化し手薄となるのは必至。

それを狙い、ダークゴブリン軍が急襲を掛けた事が判明していた。

その報を聞き、ソラールは思わず声を上げてしまう。

 

「例の魔神皇(法王サリヴァーン)とやらの策か、ダークゴブリンとやらの知略かは判断しかねるが、貴女は結果として戦に勝利した事は間違いありません。その恩恵で、今の西方面は比較的戦果から遠のいているとも判断できます」

 

 損失に苦言を呈しながらも『赤毛の枢機卿』は、剣の乙女が勝利に導き結果的に王国軍への負担軽減に貢献していた事を称賛していた。

 

「…お恥ずかしい話ですが、私の指揮など微々たるもの。全ては、あの()()が命懸けで戦い抜いてくれた事に他なりません」

 

 剣の乙女は顔を僅かに上げ、遠い目であの当時を思い返していた。

 

事の流れはどうであれ、剣の乙女個人ではダークゴブリンの猛攻の前に対抗し切れなかった。

あわや絶命寸前に追い詰められた瞬間、一人の冒険者が満身創痍から立ち上がり、圧倒的な力を以てダークゴブリンを打ち破ったのである。

 

――いえ…、彼だけではありません…。()()()()()()も…。

 

碌に機能しない彼女の目には、ソウルを通し一人の剣士と、二人の冒険者の姿が今も脳裏に焼き付いている。

当時の様子を語る彼女は、何処となく誇らし気であった。

 

「あの()()…とな。蔑んでいた割には随分持ち上げるではないか。…聞き及んでいるぞ?卿が、その冒険者に下した仕打ちを」

「――ッ!!あ、アレはッ…!」

 

 思いもよらない指摘を受け、剣の乙女は言葉を詰まらせる。

ダークゴブリン戦の後、激情に駆られた剣の乙女は、一人の冒険者に対し殴打を加えた上で水の都からの追放令を課していた。 

この報は、先代の神官戦士長からの書簡で明らかとなった。

 

「卿が何故、件の剣士に固執するのかなど、我々にとっては重要な問題ではない。」

 

 王統府にとっては、剣の乙女の思惑などに一々意識を向ける程の事でもない。

いま必要なのは、現在進行形で抱えている魔神軍に対抗する術だ。

 

「此処にも報せは届いておりましょう?魔神軍の動き――」

 

「ええ、存じております」

 

 銀髪の女性に応える剣の乙女。

この神殿にも、魔神軍の動きは伝達されている。

 

現在の魔神軍は、遥か北方にて王国軍と交戦状態に突入していた。

 

実は、数年前から魔神軍は四方世界にて暗躍しており、主敵である『ファランの不死隊』と激しい抗争を繰り広げていた。

当時の王国君主である先王の時代、死の迷宮に潜伏する魔神王の対処に国力は割かれており、とてもではないが対策は疎か察知すら覚束ない有様であった。

もしもファランの不死隊による抵抗が無ければ、この国は()うの昔に地図上から消失していただろう。

 

死の迷宮に潜伏していた1柱だけの魔神王でさえ、国家存亡の危機に関わる程の危険な存在なのだ。

現在の魔神軍は、4柱の魔神王に加え更なる上位存在である魔神皇なる者が、組織を統括していた。

そしてごく最近だが、人知れずの未踏の荒野にて『ファランの不死隊』が壊滅したという報が寄せられていた。

 

今まで王国側は、ファランの不死隊という存在さえ認知していなかった。

その存在が明らかとなったのは、生き残りである『深淵の監視者』の働きによるものが大きい。

(本編前夜編 第70話参照)

尤も、当初は王統府側も監視者の報せには懐疑的で、ソラールの出会いと仲介が無ければ、あわや罪人として捕縛の危険性さえあったのだが、その話は割愛するとしよう。

 

主敵であり最大の抵抗勢力であった『ファランの不死隊』を壊滅させた魔神軍は、いよいよ王国側へと侵攻を開始した。

 

そして現在、北方にて王国軍との接触状態にあった。

北方辺境に幾つか点在している街を拠点として、北方軍が防衛戦を築き魔神軍に構えている。

交戦状態に移行したとはいえ、まだ日も浅く今の処は前哨戦といった具合だ。

だが次第に戦闘が激化するのは目に見えている。

余り時間的猶予もないが、今の内に可能の限り戦力強化を図りたいのが王統府側の思惑でもあった。

 

「そこで古人(いにしえびと)の勇者たちです。是が非にでも、この者達を戦力として引き入れねばなりませぬ。そこな太陽の騎士殿も含め――」

 

 銀鎧の騎士は、古人と称する勇者について言及し、正対するソラールに視線を寄せる。

彼等の言う『古人』とは、火継ぎの時代にて活躍した不死人達の事を指していた。

明確な原因など判明していないが、この四方世界には多くの時代と異界の住人が流れ着き生活を営んでいる。

そして彼等は押し並べて優れた実力を発揮しており、歴代勇者にも比肩し得るとさえ評されていた。

 

太陽の騎士ソラールの存在が、現時点での最たる例と言ってもいいだろう。

 

実はそれ等の情報も、王都外れに居を構える『助言者』から入手した事で、王統府側も後手後手ながら動きを加速させ奔走していた。

 

「…西方軍半数の接収だけでは飽き足らず…ですか?」

 

「……」

 

 思いもよらぬ剣の乙女からの返しに、言葉を途切れさせたる銀鎧の騎士。

 

魔神軍に抗するには北方面軍だけでは戦力は足りないのが現状だ。

数は元より恐らくは質の面でも魔神軍に分があるだろう。

今は前哨戦ながらも、何れは魔神軍主力も攻勢に加わるのは必至――。

そこまで戦闘が激化すれば、北方軍だけで戦線を維持するは極めて困難である。

その理由も手伝い、軍部は西方軍の半数を援軍として北方面へと部隊を割いたのであった。

 

国の存亡に直結する事態だ。

その事に関しては、剣の乙女自身も理解は示している。

しかし、軍はまだしも冒険者まで接収されるのは正直腑に落ちない部分もあり、彼女の声音からは不満が噴出していた

 

本来なら、最も戦火から離れている南方面軍も援軍として派遣したい処ではあった。

だが東方では隣国の脅威に晒され決して無視できず、常に侵略に備えておく必要がある。

南方面軍は援軍として、東方へと部隊を派遣していた。

 

「…許せとは言わぬ、憎んでくれていい。事の推移はどうであれ、卿が勝利に貢献してくれた事に変わりない。その恩恵で、こうして西方の守備も叶い援軍を派遣が出来たのだ。本当に感謝している、有難う…友よ」

 

 周囲の彼女に対する批評など、この際どうでも良かった。

彼女が冒険者を率い、ダークゴブリン戦に勝利した事に変わりはない。

そのお陰で西方面に余裕が生じ、西方軍を北の前線へと送る事が出来た。

これで北方戦線にも、幾許かの好転も望めるだろう。

 

剣の乙女の不服も尤もであり、金剛石の騎士も重々承知はしていたのだ。

彼は深く頭を下げ、彼女に向け感謝の礼を尽くす。

それは国王としての立場ではなく、一人の人として()いては友としての振る舞いが滲み出ていた。

この場に居る者達は、彼の臣下でもあると同時に気心の知れた仲間でもあり、誰も彼の態度を諫める者など居らず静かに見守るのみだ。

 

「恨むなど滅相もない。貴方様の背負う重荷を想えば、私めの責務など微々たるもの。未熟な私めで良ければ、今後も陛下の支えとならせて頂きとう御座います。どうかお顔を上げて下さいませ、陛下…わが友よ」

 

 先の大戦で疲弊した国力回復、治安維持、経済、軍備の増強、政権維持、他国との外交、数えるのも億劫となる程に国家元首として責務は計り知れない。

その重責が、今の若き王に容赦なく圧し掛かるのだ。

支える隣人が控えているとて、この青年は目を背ける事無く、時には心を殺し押さえ付け、時には全身全霊で向き合っていた。

 

その重みと苦しみを想えば、決して楽ではないとはいえ剣の乙女の責務など、どれ程に軽いものであろうか。

顔を上げる様に労う剣の乙女に、金剛石の騎士こと国王も笑みを返していた。

その表情は、君主としてでなく友としての笑みで――。

 

「その上で、どうか理解してほしい。今の我々には、彼等の力が不可欠である事を――」

 

「ええ、承知しております」

 

 一定の理解を得られた事に安堵し、金剛石の騎士は改めて勇者(灰の剣士たち)の引き込みの重要性を説き、剣の乙女も今度は反論せず受け入れる姿勢を見せる。

 

「古人の勇者たち…。此処に居る太陽の騎士ソラール殿…そして…え~…カタリナの…何とか……」

 

 銀鎧の騎士が記憶している限り、件の勇者は3名存在していた筈だ。

いま眼前に居る太陽の騎士とは、面識もあり個人的な交流もある。

だが、もう一人の騎士の名までは詳しく思い出せず言い淀んでしまった。

 

「カタリナの騎士ジークバルド…です」

 

 そこでソラールが助け舟を出すかのように、もう一人の騎士で勇者候補でもあるジークバルドの名を告げた。

 

「おお、その者だ!ジークバルド殿…だったな。記録映像を拝見させて頂いたが、君に並ぶほどの実力者ではないか!」

 

「ええ、正にその通り。彼も紛う事なき英雄に御座います、ウワハハハ…!」

 

 銀鎧の騎士も当然のごとく記録映像は拝見しており、玉葱にも似た奇抜な甲冑姿の騎士には特に注目していた。

ソラールは誇らし気に、彼の特徴などを語っている。

 

「この騎士…聞けば『巨人』について調べ回っている模様――」

「斥候部隊の報告では、魔神軍にも巨人の姿が確認されている。それらの情報を開示すれば、快い返答も得られよう」

 

 赤毛の枢機卿も、彼の情報は多少なりとも入手しており何を目的としているのかも調査済みだ。

ジークバルドは巨人について探索している事も承知しており、銀髪の女性からは魔神軍に巨人の目撃情報について言及された。

彼の目的に適うかどうかは定かではないが、情報を提供する事で良好な関係を築けるのではないかと告げた。

ジークバルドの人物像は、あまり広くは浸透しておらず、王統府側も彼の素性は測りかねている。

だがソラールからの情報を聞くに、非常に社交的で極めて善良な騎士だと伝達されていた。

信頼に足るソラールからの情報だ。

彼等は、ジークバルドにも大いなる期待を寄せていた。

 

「最後に、この剣士…だな」

 

 金剛石の騎士は、水晶に映る剣士に視線を向ける。

 

丁度ダークゴブリンの巨大火球を握り潰す様子が、水晶に投影されていた。

 

「魔神王に比肩すると言われたダークゴブリン…、そしてソレを打ち破る力を有した冒険者。灰の剣士…またの名を…、薪の王…!」

 

 強化方陣によりダークゴブリンは、魔神王級の力を発揮し剣の乙女軍を圧倒した。

しかしそれ程の強大な敵も、灰の剣士を筆頭とした冒険者たちの奮戦で辛くも勝利を収める事が出来た。

それは即ち――。

 

灰の剣士という冒険者も、魔神王に抗する事が出来る希有な勇者候補とも言えるのではないか。

助言者からも、灰の剣士については聞き及んでおり、遅かれ早かれ接触する腹積もりではいた。

 

彼が『薪の王』と呼ばれ『最初の火』を自ら消し世界に終止符と始まりを齎した事も、彼は知っている。

 

「金剛石の騎士…いえ、今は陛下と呼ばせて下さい。魔神軍の脅威が去った後、彼等を()()()()()()()()()()()()()のだけ何卒お控えを――」

 

 眼前の青年騎士を敢えて陛下として扱う剣の乙女は、勇者たちの処遇について憂慮を表明する。

王統府側の思惑――。

兎にも角も、王国の現脅威である魔神軍を討伐する事にある。

それを叶える為にも、今此処に居るソラールを始めとした勇者たちの確保は急務であった。

 

だが魔神軍の脅威を退ければ、彼等は()()()となる。

 

残酷な現実だが、王侯貴族の中には彼ら勇者の存在を快く思わない勢力も、確実に蔓延っているのだ。

用済みとなった彼等を新たな国の脅威としてみなし、亡き者として画策する事など容易に想像できる。

余り疑いたくはないが、今此処に居る王統府一派でさえ、実際の彼等にどの様な感情を抱いているのか、剣の乙女には腹の底が窺い知れなかった。

そこで彼女は牽制の意味合いを含め、王統府側に釘を刺す形で言及したのである。

 

此処に居るソラールに関しては、そう心配する事もないだろう。

彼は王統府とも良好な関係を築いており、事が済めば多大な待遇で報いてくれるのは確定済みだ。

またカタリナのジークバルドも、陽気で人格にも優れた名うての騎士だ。

社会的な地位も高い騎士階級の彼も、王国側に組み込み易い立場にある。

 

だが問題なのは彼…灰の剣士の処遇だ。

 

灰の剣士――。

彼は王統府側と何の繋がりも持たない、良くも悪くも只人の剣士に過ぎない立場だ。

今こうして記録映像を介し、多大な実力を秘めている事は証明された。

そしてあの古の賢者『助言者』からも存在を認知され、決して軽視できないのも分かる。

だからこそ、危険視するには充分な理由でもあるのではないか?

彼の素性には未知なる部分が多く、謎めいてもいる。

また世界の終わりと始まりにも根深く関わったらしい。

恐らく彼の全容を知る者など、四方世界には一人たりとも存在してはいないのだろう。

だからこそ、恐ろしい存在でもあるのだ。

 

灰の剣士という男は――。

 

全容を知り得ない未知なる領域は、何れ恐怖感と疑心暗鬼の苗床と化す危険性もある。

王統府でさえも、彼に対し一種の疑念を抱いているのではないか。

そして挙句の果てには、亡き者とする事で憂いを完全に断つ――。

その位は、安易に想像がついた剣の乙女。

 

「金剛石の騎士様。このソラールの目から見ても、あの旅人は世界の災厄など望んではおりませぬ。私個人の意見だと一蹴して下さっても構いませぬが、彼の為人は私なりに体感している積りです。何卒、寛大な処置を――」

 

 王統府の思惑などソラールも知る処ではないが、灰の剣士を処分する事だけは彼としても受け入れ難い処遇だ。

今の自分が在るのも、彼との出会いが多大に影響しているのは疑いようがない。

寛大な処置を施されるよう、ソラールは王統府側へと陳情した。

 

「…確約は出来ん。先ずは、件の剣士を知る必要がある故な。まぁ()()()()()()()()が、事が済んだとしても、暫くは監視の目を付けさせてもらうぞ?無論、それは(ソラール)も含めて…だ」

 

「ハハァ…!広きお心遣いに感謝致します、陛下…!」

 

 未だ灰の剣士とは面識のない王統府側――。

助言者からの言だけでは、どうにも判断材料に欠く要素も多く、自らの五感を以て彼を知る必要性があった。

いつの時代どれ程に技術が進歩しようとも、どれ程に次元を隔てた異界であろうとも、人を知るには人と直に接触する肝要さは世界共通でもあり変わりがなかった。

 

灰の剣士達の引き込みに関する議論は、一先ずの段落を迎えた。

 

「ところで太陽の騎士殿。あの()()の件、誠に感謝する」

 

 急遽話題を変えた銀鎧の騎士は、ソラールに対し戦車の件について話を振る。

 

「持ち帰った例の戦車ですな。恐縮です。我々では運用に障害が生じます故、より相応しい機関に託したまでで御座います」

 

 戦車の件――。

以前、ソラール率いる一党が近隣の町にて防衛戦を繰り広げていた。

その際、敵部隊――『カッコウ騎士団』なる武装集団が持ち込んでいた車両兵器を指していた。

計3台の内、1台だけは鹵獲に成功し、証拠材料と戦利品を兼ね『水の都』へと持ち帰った次第である。

使いこなせれば強力な兵器ではあったが、如何せん扱いにも特性にも癖が強く、個人では保全設備も運用資金にも事欠く始末。

ならば、より相応しい国軍そのものに託した方が得策というものであった。

(本編前夜編 第112話参照)

予め報せを受けていた王統府は回収班と解析班をも引き連れ、現在『法の神殿』外れに留置されている戦車の搬送に従事している最中であった。

 

「それにしてもカッコウの騎士団――。あんな派手な意匠の鎧など見た事もありません」

 

「近隣諸国でも、お目に掛かれない極めて奇抜な出で立ちです。一体何処の国の所属か…」

 

 極めて特殊な構造の戦車――。

珍しい技術に解析班は夢中となっていたが、銀髪の女性と赤毛の枢機卿は『カッコウの騎士団』という武装集団に頭を悩ませていた。

 

「それだけではない。あの町の近辺は全て滅ぼされ、物流にも支障が出ている」

 

「最も腑に落ちんのは、例のクレーターの件だ。アレは、北方や東方でも目撃されている」

 

 更に銀鎧の騎士と金剛石の騎士も、物流の悪影響や滅んだ村に発生したクレーターにも言及する。

そしてクレーターだが、ソラールが目撃した箇所以外にも至る所で目撃例が相次いでいた。

 

「何か相当な力が作用したものと踏んでおります。ですが憶測の域も出ず、国中至る所で発生しているとなると……」

 

 クレーターについて独自の見解を述べるソラール。

クレーターの内側は何もかも消失の後が見られ、逆に外側は瓦礫の後が発見できた。

しかし肝心の正体など辿り着けてもおらず、その正体など完全に解らず仕舞いである。

 

「…明確な答えが出ない以上、時間を浪費するだけだ。そろそろ出立に移ろうか、諸君」

 

 こうして議論は続けられたが、いたずらに時間ばかりが経過してゆく。

金剛石の騎士は頃合いと見切りを付け、強引に議論を切り上げた。

そもそも今回は議論の為だけに、此処へ訪れた訳ではない。

これから剣の乙女を引き連れ、西方辺境街へと赴かねばならないのだ。

 

   ―― 聖黄金樹の視察 ――

 

公式では、そういう触れ込みで各地へと伝達されていた。

しかしそれは表向きの話であり、実際は聖黄金樹について『森人勢力』との交渉が真の目的である。

そこで非公式(お忍び)という扱いで、国王も同伴する手筈となっている。

一応予定では、出発までの時間的余裕もあったが、敵対勢力の攪乱と欺きを兼ね時間をズラす作戦を執る事になっていたのである。

 

一同は部屋を後にし、各々が出立の準備へと取り掛かった。

 

……

 

( 推奨BGM ダークソウル3 ―― 火継ぎの祭祀場 )

 

「そう言えば、あの方も…。悪夢に悩まされていましたわね」

 

 私室のクローゼットを開け、外出用の聖職服を手触りで確認する一人の女性、剣の乙女。

彼女は、少しばかり過去へと記憶を掘り返していた。

灰の剣士たちが法の神殿在住の頃、彼は毎夜悪夢に苛まれている事を耳に挟んだ。

その悪夢の内容までは分からず仕舞いであったが、今朝の夢と何ら関連性を匂わせる要素は多分に含まれる内容であった。

 

――若しかしたら彼も、私と同じッ……!?

 

確証は無いものの、剣の乙女は裸体を晒したまま、根拠の無い関係性に心を揺さぶられた。

本当に根拠の無い唯の妄想にも等しい――。

だがもしもだ――。

もしも、自分以外に誰かが同じ悪夢を共有してくれているのなら――。

もしそうだとしたら――。

 

あの孤独と暗闇の中で何時終わると知れぬ責め苦にも、僅かばかりの安堵感が芽生えてしまうのだ。

 

我ながら不謹慎だと感じながらも――。

 

気付かない内に隣に居た黒装束の女は、過去の自分に『灰の方』と呟いていた。

過去の自分と、彼に、何の繋がりが有るというのだろう。

 

――確かめなければ。

 

一切合切の関わりを禁じると宣告したが、あんなものは唯の個人としての発言で何の法的効果も無い。

幾らでも言い訳は効き、自分の権限で彼との会談を設ける手段など幾らでも存在するのだ。

幸い今の自分には、それだけの立場に就いている。

こういう時、今の立ち位置は都合よく機能するものだった。

 

「…監視の目が必要と陛下は仰られていた」

 

 外出用の衣服へと着替え、またもや誰に語るでもなく剣の乙女は独り()ちる。

彼女の意識は相変わらず一人の剣士へと向けられ、尚も思案に耽っていた。

魔神軍の脅威が去れば、灰の剣士たちを含めた古人の勇者たちは放免という形を迎える事になる。

だが彼等を快く思わない勢力も存在するのは寧ろ当たり前で、また秩序側にも()()()()()()()はあるものだ。

今のところ王統府側には、彼等を処断しようとする思想はない様に思える。

だが心の何処かでは疑念や不安感に見舞われ、一種の警戒感をも抱いていたのは会話とソウルの流れで大方理解出来た。

 

そして金剛石の騎士こと国王は、当分の間は監視の目を付けるとの意思表明も下している。

 

つまり王統府と繋がりのある誰かを、傍に派遣するという事を意味していた。

 

「その役目…私に務まらないかしら……」

 

 豊かに恵まれた女性の肢体を白く清潔な聖職服で纏った彼女は、常備していた錫杖を手に取り部屋を出た。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

戦車(エルデンリング)

 

不気味な人面を正面に模した、突破力に優れる車両兵器。

火の戦車とも呼称されている。

 

主な動力源は魔力式で、燃料は魔法液と思われる。

普段鈍重な動きだが、実は爆発的な加速力と最高速を誇る。

その速度と正面部の突起物で、並み居る対象物を粉砕可能。

また正面中央に設けられた砲口からは、高温の大火球で砲撃も出来る。

車体最後尾に操縦座席が設けられているが、がら空きで無防備に加え乗り心地は最悪の一言。

長時間の操縦は、身体的不調を招くだろう。

 

意外に頑丈で耐久性も高いが、車体頭頂部には排熱口が設けられており、そこから何らかの衝撃が加われば内部の動力部が容易に暴走を引き起こし自爆に直結する。

その爆発は凄まじいの一言で、周囲に多大な被害を及ぼす事故も多発した。

 

元々個人で管理できる兵器ではなく、保守整備や運用に専門的知識と技術が必須となり、最低でも町単位で管理せねばならないだろう。

強力な兵器だが、扱うにはそれ相応の代償を支払うという事だ。

そういった理由も手伝い、狭間の地でも機動戦力の花形は専ら『騎兵』であった。

 

四方世界の王都解析班は、戦車の構造物に多大な興味と探求心を刺激されていた。

 

 

 

 

 

 




今回は、金剛石の騎士=国王と側近(嘗ての仲間)達を出現させてみました。
全員ではないので、何名かは王都にてお留守番ですw
口調も性格も完全に想像ですので、違和感があるかも。
特に銀鎧の騎士とソラールは、個人としても交流があるという設定です。

如何だったでしょうか?
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
デハマタ。( ゚∀゚)/
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