何だか急激に温かくなってきました。
それに伴う、あの恐怖の花粉が再び我が元へ……。
目が痒い…メチャクチャ痒い…。(≧з≦)
では投稿致しますドゾ。( ゚ ω ゚ )
銃槍
工房の異端「火薬庫」の手になる仕掛け武器。
簡易な銃と槍を組み合わせた試作品であり、失われたカインハーストの武器を見真似たものとも言われている
単体としても特筆すべき性能を持つ武器ではないが銃にもなる「仕掛け武器」は、他にはない特別なものだ。
狩人たちの世界は、四方世界と比較しても高い文明水準を誇る。
王統府は、その技術力の違いを認識しながらも、未だ乗り込めず手を拱いている。
彼等の露知らず領域で、秘かに流れ着いていたのだ。
ロスリックへと。
双竜の大盾
双頭の竜が描かれた木製の大盾。
大盾としてはもっとも軽いひとつ。
大盾は最大の盾種別であり、受け能力、カット率共に高く敵の攻撃をはじき易い。
戦技は「シールドバッシュ」
左右どちらに装備していても有効な戦技。
ガードしたまま体重を乗せて盾をぶつけ敵を押し出し、またよろめかせる。
その持ち主は、向かないと悟りつつも手放さないでいた。
過去への思い入れか、自身へと戒めか。
真相を探ろうにも、当人は黙して語らず。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「――火防女…!」
一瞬で意識が覚醒し、視界は
昼間は女3人と至福の時を過ごしたが、剣の乙女率いる一行が街へと到着した。
当初の予定よりも遥かに早い来訪に、彼は事の重大さを改めて悟り半ば強引に休日を切り上げる。
その足で武器工房へと立ち寄り修繕の終えた装備を纏う事で、こうして何時でも出撃できる態勢で待機していた。
可能な限り仮眠を取っておこうと敢えて椅子に腰かけていたのだが、知らず知らずの内に眠りに就いていたらしい。
今しがた
「しかし、何ゆえ
水の都で何度も体験した悪夢――。
その夢が剣の乙女の過去の惨劇である事は、既に承知済みだ。
しかし、見慣れた何時もの展開とは少々異なり、現在の剣の乙女に加え『火防女』までもが、過去の剣の乙女と一体化した灰の剣士を見下ろしていたのである。
夢については、幾人もの学士が研究を続け解明に挑んでいるのは知っている。
だが未知なる部分も多く、今も真相究明には至っていないのが現状だ。
故に、夢の中では何が起きても不思議でない。
あの悪夢は剣の乙女の過去――。
其処に現在の剣の乙女が、別に存在し此方に視線を傾けていた。
それはまだいい――。
しかし不可解なのは、火防女までもが同伴していたという点だ。
剣の乙女と火防女が共に現れていた――。
何か関連性は有る筈だ。
しかし、水の都でしか見る事の無かった剣の乙女の悪夢を、この街でも見てしまう。
その原因も無視できる案件ではない。
今は仮眠を取っていた故、さほど体調にも悪影響はない。
だが本格的な出撃の合間で悪夢に見舞われては、休息は疎か必ず戦闘にも尾を引く結果に繋がりかねないのだ。
まぁ剣の乙女が大きな要因なのは、もはや考察するまでもない。
だが、
そう踏んだ彼は、考察を深める。
――彼女との夢の共有…。夢とは言わば精神の…意識下の世界…。同じ夢を見たという事は、何かしらの
様々な要素と可能性を探り、他人の夢を共有するという原因を突き止めようと考察する灰の剣士。
夢とは精神世界の一種とも言われている。
剣の乙女と同じ夢を何度も体験したという事実――。
もはや単なる偶然で片付けるには、些かに杜撰が過ぎる。
考え得る要因としては、彼女との何らかの精神的繋がりを持ってしまった考えるのが自然であろう。
そして彼の知る精神とは即ち『ソウル』に当てはめる事が出来る。
つまり灰の剣士と剣の乙女は、互いのソウルが結び付いたという事にならないだろうか。
――剣の乙女と繋がりを持つ…?少しばかり不自然だ…。
しかし剣の乙女とソウルで繋がったと結論付けるのは、少々強引に行き過ぎな感もある。
何せ彼女とは現在、ある種の『断絶』を言い渡されたも同然な関係だ。
即ち関わる事を拒絶している状態で、繋がりとは真逆とも言えた。
過去に、孤電の術士が行使した召喚術で、魔術師の世界に呼び出された事があった。
当時の彼女はこう告げていた。
深いソウルの繋がりを持つという事は、近しい間柄を構築したも同然。
但し繋がりが薄ければ、術者も呼び出される側も双方ともに多大な苦痛と負担を強いられる。
(イヤーワン編 第45話参照)
そんな事を力説していただろうか。
確かに数日間とはいえ、孤電の術士と同じ屋根の下で過ごしていた時期もあり、かなり際どい関係に至っていたのを覚えている。
それなら『深い繋がり』を持つという話にも、ある程度の説得力を持つだろう。
だが今の剣の乙女と灰の剣士の関係性は複雑で、とてもではないが友好関係とは言えなかった。
灰の剣士から剣の乙女に向けては、特に悪意も抱いてはいない。
だが剣の乙女から灰の剣士に対しては、相当歪んだ感情を向けられていたが、彼自身は知る由もない。
尤も、一方的とはいえ憎悪や歪な感情で向けられている分、ある意味では
――別の可能性が起因していないだろうか?夢…精神世界…そういった意識下に干渉できる術や魔法の存在…それ等を自由に行使できる人物……。
灰の剣士は、別の観点から切り込んでみた。
これまでも悪夢について様々な考えを張り巡らせてきたが、一向に明確な答えを導き出す事は出来なかった。
原因の一端が、剣の乙女なのは疑いようがない。
だが其処だけに拘った所で、同じ円環を辿るだけに留まるのは何度目だろうか。
其処で一旦発想を切り替えたのである。
あまり考えたくはないが、別の何者かが何らかの手段で精神に介入しているのだとしたら――。
もしも…などという曖昧な憶測でしかないのだが、もしも
あくまで可能性の話だが、時にはあり得ない発想が道を切り開く
――夢に干渉できる術者…存在…種族……、……居る!夢…精神に容易く入り込む種族がッ…!
思案を膨らませ更なる答えへと突き進んだ事で、一つの
―― 夢魔 ――
人の夢に入り込み、様々な干渉を行う事で活動する異界の種族――。
対象者の精神に働きかけ意のままに操り、時には一国の行く末さえ左右させる恐るべき存在であり、女系魔神の一種でもあるという。
凡そ人類社会にとって害悪でしかない彼女達だが、人との共生共存を図る個体種も少なくはないらしい。
そんな存在の中で彼の知る一人の夢魔が、至高神を祀る法の神殿にて生活を営んでいる事を思い出した。
その夢魔は、善悪の判別すら危うい程に幼く同時に純真でもあった。
彼女とは
その縁で、彼女は現在は法の神殿の一員として活動していた。
(本編前夜編 第51話参照)
――彼女が、意図的に干渉しているとは考え難い。幼さゆえの、無意識下による能力の発露…そう考えるべきか。
突発的だが、幼夢魔と出会い助けた事で純真たる好意を寄せられていた、灰の剣士。
そんな彼女が、悪意に基いた行動を取るとは到底考え難い。
幼夢魔は魔神の眷属だが、彼女のソウルは非常に矮小で発展の兆しすら見せていない状態だ。
その状態で、能力の発現は疎か満足な制御など、とてもではないが叶おう筈もない。
仮に能力自体が発現していたとて、彼女の意図せぬ間に、灰の剣士や剣の乙女に影響を及ぼしてしまったと考えるのが自然だ。
――彼女も原因の一端だとするなら、一応の説明は付くか。
思い出してみれば、最初に悪夢を見た夜は幼夢魔が傍らに居た時だ。
地理的には『水の都』とも距離は離れており、当然ながら『剣の乙女』とも面識がなかった時期である。
つまり悪夢の原因は、幼夢魔の存在が大きく作用しているのではないか?
そう結論付ければ一定の説明が付き、同時に根拠も存在する。
――まぁ、彼女を問い詰める気もないがな。訓練させればいいだけだ。
もし幼夢魔の存在と能力が悪夢の原因だとしても、彼女を過剰に糾弾するのは少々お門違いな気もする。
彼女が明確な悪意で動いているのなら話も違うのだが、彼女のソウルは非常に澄み切っており其処らの只人よりも純粋だ。
だがこのままにしておくのも、後々で大きな禍根を残す要因にもなりかねない。
近い内に彼女にも事情を伝えねばならないだろう。
その上で、能力の制御に基いた修練に励んでもらう。
夢魔という存在は対象者の夢に介入する術に長け、ある程度操作が叶うとも聞いている。
これも小耳に挟んだ話で噂の範疇だが、夢魔の一味が来客に
もし本当だとすれば、彼女の能力で悪夢から甘味な夢へと描き変える事も不可能ではなくなる。
それが実現すれば、小鬼の蹂躙を引き摺る幾人もの被害者を救済できるのではないか。
――まだ可能性の域は出ないが、打診してみる価値はあるな。問題は、あの女相手に直接伝える方法かぁ…。
妄想猛々しいと言われれば身も蓋もないが、一応の打開策も見出す事が出来た。
しかしどの様な手段で伝達するべきか――。
剣の乙女とは、一種の断絶状態にあり、直接赴こうものなら神官戦士全員を差し向けられるか、最悪、法を盾に社会的に抹殺されかねない。
別の方法を以て、近しい立場の誰かに伝えるしかない。
剣の乙女とて、何時までも悪夢に囚われ続ける人生など送りたくはない筈だ。
声明そのものを拒む事は無いだろう。
「それにしても、小鬼の悪夢…。確かスイーパーもそうだったな」
考察にも一段落着き、彼はずり下がった姿勢を一旦正しながら椅子へと座り直す。
外はすっかり夜が到来していたが、意外な程に賑わう街は騒がしい。
予定よりも早い剣の乙女の来訪により、出店などを早めたという事か。
彼は再び悪夢について、思考を泳がせた。
小鬼に敗北し尊厳を踏みにじられた挙句、人生に暗い影を落とす事になった剣の乙女――。
その結果、彼女は今も尚、悪夢に
それはよく分かった。
だがしかし、それは何も
彼女以外にも、数多くの女性が小鬼の悪意を引き摺りながらも懸命に今を生きているのだ。
灰の剣士は、そんな女性を数多く救出し見てきた。
その中でも特に、関わりの深い一人の女冒険者が居る。
―― ゴブリンスイーパー ――
彼女も、小鬼に敗北し蹂躙された一人だ。
灰の剣士とゴブリンスレイヤーの共同で彼女は救出され、今は冒険者として復帰していたが、彼女も例に漏れず小鬼に敗北した影響を引き摺っている。
救出された直後の彼女も、毎夜の如く悪夢に悩まされ続け夜を酷く恐れていた。
当然、一人で寝るなど以ての外――。
幸か不幸か、彼女と同じ境遇の仲間が数名居た為、彼女らと同室なら辛うじて就寝を取る事が出来た。
しかし今は彼女一人――。
嘗ての仲間は、挙って引退してしまい一党は解散。
つまり就寝は、彼女一人で取るという事だ。
だがその頃の彼女は、完全ではないが
自らの行動で小鬼退治を成し、その度に悪夢を徐々に改変できたのだと、彼女は話していた。
冒険者に復帰したての頃も、悪夢にどう抵抗していいかも分からず試行錯誤を繰り返す日々が続いていた。
小鬼に躰を許し成す術もなく嬲られた挙句、身体中至る箇所に
当時と同じく夢の中でも彼女は抵抗も出来ず、小鬼の責め苦を甘受するだけ――。
それ故、当初は悪夢に身を任せ、ただ只管に夢から覚める時間を待ち侘びた。
だが小鬼退治の依頼を成功させる毎に、僅かずつではあるが悪夢に抵抗できる術を知った。
ゴブリンスレイヤーの指導はあったものの、自力で小鬼を殺す事で夢の中でも変化が訪れていた。
ただ無抵抗に嬲られ続けていた自分が、少しずつ小鬼に抵抗する気概が芽生え行動さえ移せるようになっていた。
そして最後には、灰の剣士たちが到着する前に自力で小鬼の群れを殲滅し、状況を変えてしまっていた。
夢の中とはいえ、到着した灰の剣士とゴブリンスレイヤーの唖然とした表情が今でも忘れられないと、彼女は笑いを堪えながら語っていたのを覚えている。
こうして不完全ながらもスイーパーは悪夢を克服し、今は一人でも就寝できる程に回復していた。
まだ完全な暗闇で寝るのは怖いらしく明かりを灯しながら…と言う条件付きではあるのだが。
――彼女のやり方も、状況改善の大きな助成になるやも知れんな。
スイーパーの悪夢まで共有した訳ではない。
それ故、彼女の本当の苦しみを汲んでやる事は不可能だ。
しかし今の、剣の乙女とゴブリンスイーパー。
剣の乙女は10匹前後の小鬼――。
スイーパーは40以上の小鬼に囲まれていた。
環境や状況など全く違えど、見方によればスイーパーの方が余程前向きに立ち向かってはいないだろうか。
金等級冒険者の剣の乙女――。
青玉等級のゴブリンスイーパー。
両者の実力差は歴然だ。
しかし、スイーパーは今も向き合おうと前へと進み続けている。
その結果、
ならば、金等級冒険者である剣の乙女に出来ない道理は何処にも無い筈なのだ。
彼女の社会的地位と人材そして資金力を上手く回せば、それ等を支えとし自ら小鬼退治に赴く事もできる。
――とは言え、彼女は大司教という地位を賜り社会的責任も決して軽くはない。
未だ事に及べない理由も多分にはあるのだろう。
しかしだ――。
六英雄の一人と謳われた彼女が、小鬼退治を自ら成さないというのは些かに『甘え』も含まれてはいないか?
現状の地位と環境に安楽し、何時までも小鬼に対し怯え続ける――。
それが続けば、何れは自らの精神に変調をきたし最終的には他者へと波及させる恐れもある。
可能性の問題と言われればそれまでだが、
もしも本気で悪夢を克服し現状を打破したいなら、形振り構わず近しき誰かに心を打ち明ける機会は幾らでも有る筈だ。
これは唯の推論だが、剣の乙女という女性――実は
「いざとなれば協力してもらうか」
ゴブリンスイーパーの経験と結果は、剣の乙女にとっても大きな助けとなる可能性が高い。
スイーパーは未だ剣の乙女の過去については知らない状態だが、似た様な境遇を味わった女性同士だ。
協力を拒否するという事は、まぁ無いだろう。
スイーパー自身が、剣の乙女に悪感情を抱いてなければ、という懸念はあるのだが。
「…フゥ、ここまでにするか」
今後、剣の乙女と関わる機会があるのかどうかは疑わしいが、もし接触の機会があればスイーパーにも協力を仰ぐとしよう。
あの悪夢の内容が未だ脳裏に残留していたが、思考には一区切りを付けた灰の剣士。
この考察に意味があるのかどうかも疑問符だが、考える事で多少の心の
ある意味で面倒な女性『剣の乙女』に対する考えを止め、彼は大きく溜息を吐いた。
「さて…いつ出撃が掛かるかだな」
何時下るとも知れない出撃命令に、彼は真っ暗な自室で一人椅子に座ったまま時を待つ。
普段より多くの街明かりだけが残光となり、彼の部屋へと僅かに届き薄っすらと照らす。
しかし、そう時間を置く事なく、覚えのあるソウルが此方へ近づきつつあった。
――このソウル…来たか。
見知ったソウルに、彼は椅子に腰掛けたまま扉の方へと向く。
程無くしてコンコンと扉をノックする音が、無音の部屋へと鳴り響いた。
「居るな、灰剣士殿?」
「ああ、分かっている」
声の主は、カタリナのジークバルド。
彼が此処に訪ねて来るなど初の事だが、要件など分かり切っている。
最小限の返答で、灰の剣士は直ぐに部屋を出た。
「やはり早まったか」
「うむ。その様子だと貴公も察していたか」
予定よりも早い『剣の乙女』及び『金剛石の騎士一行』の来訪だ。
安全と外敵の接触を抑えんが為の措置であり、同時に会合も早まるのは容易に予想が着く事だった。
不必要に言葉を交わす必要はない。
二人は手早く宿を出る。
夜間ではあったが、街中は大いに賑わい数々の出し物が催されていた。
至る所に飾り付けられた吊るし
来訪者たちが少しでも楽しめるよう敢えて売値を下げ、出店に精を出す商人たちは活気づいていた。
その賑わいに応えるかのように多くの人々が短くも小さな祭りを楽しみ、今日という祭日に浸っている。
この盛り上がりは、数日間は続くだろう。
「賊徒が紛れるには好都合か」
こういう催し物なら、真っ先に飛び込み楽しむ筈のジークバルド――。
しかし彼の立ち振る舞いは、真逆な程に硬く同時に騎士然としていた。
夜間という視界の利きにくい時間帯に加え、多くの人々で大通り中埋め尽くされている状況だ。
暗殺や妨害工作を狙う賊が身を隠すに、この状況を最大限に活かすのは最早定石。
「これではソウルの判別すら困難だ」
ここまで人が溢れ返っていては、不審者のソウルを割り出す事さえ厳しい。
暗殺を担う工作員なら間違いなく隠密を徹底し、その分ソウルも感知し辛くなる。
そういう隠密に特化した刺客は、一般人の纏うソウルよりも遥か小さく、見つけるにも意識を集中させねばならないのだ。
灰の剣士は、事の厄介さを再認識した。
「御一行には、街を迂回して頂いた方が得策だな」
夜の祭りを楽しむ群衆という環境は、却って危険度が増す。
今回の依頼は、会合に立ち会う以外にも対象者の近辺警護も兼任せねばならないのだ。
況してや警護対象は、剣の乙女に加え街の領主でもある司祭長、そして金剛石の騎士と名を偽ってはいたが国家元首でもある国王その人も含まれていた。
ならば危険要素は極力排除せねばならない。
「路地裏を調べながら、合流地点まで向かおうか?」
「そうしよう」
どの様な賊が潜んでいるとも限らない。
街中の群衆にも警戒せねばならないが、閑散としている路地裏も身を潜めるには非常に都合が良い
だが群衆から或る程度距離を離せる分、不審なソウルも幾らかは割り出し易くなる。
二人は路地裏を経由し、合流地点まで向かう事にした。
路地裏を通る事暫し――。
案の定、大通りに比べ人々は疎らだ。
そして公には似つかわしくない不審な人物たちが其処彼処に屯している。
『はぁ~い、其処のお兄さん達ぃ、お安くしとくよぉ…❤』
扇情的な衣服を纏い声を掛ける若い女性は、まぁ娼婦の類だろう。
二人を見るや意味あり気な視線を向けて来る。
大方予想はしていたが、昼間とは似ても似つかない裏の顔を覗かせる夜の街――。
また路地裏などは、後ろめたい輩が居座るような場所の代表格。
二人は意識を集中させながら、屯している柄の悪い人物達のソウルを探る。
「う~む、疑い出せばキリがない」
「これでは逆に怪し過ぎて…な」
先程から目にするのは、酒に酔いつつも尚も酒に溺れる酔っ払い――。
路上で骰子を使い現金を賭ける、賭博師たち――。
夜だというのに人目も気にせず、性交に励む獣人の
合法とも違法とも区別の付かぬ薬粉末を吸い込む、亜人の集団――。
――どう見てもリムグレイブの亜人ではないか…。流れ着いたのか…?
薬物を嗜む小柄な人型は、狭間の地のリムグレイブで何度も遭遇した
彼等は押し並べて獰猛で、敵対心剥き出しで襲って来るのが常だ。
しかし彼等は騒ぎを引き起こす気はないようで、これ以上注視する必要は無いだろう。
気にはなるが敢えて無視を決め込む灰の剣士。
とにかく不審な事この上なく、また見るに堪えない堕落漂う背徳が満ち満ちていた。
視界に映る全てが刺客にも見えるが、彼等の振る舞いは夜の裏を飾る代名を担っているとも言える。
疑う余地は多分に孕んでいたが、逆にあからさまに過ぎ、全てをシラミ潰しに探る時間などあろう筈もない。
やはり会合場所である『火継ぎの祭祀場』まで先導するに当たり、街中の迂回が推奨された。
「ん?このソウル…」
もう直ぐ路地裏を抜け街外れに差し掛かろうとする辺りで、灰の剣士は三つのソウルを感知する。
街灯りも殆ど届かず、紅と緑の月光が僅かに届く閑散とした建物の裏――。
ほぼ人の姿も無く、待ち伏せや襲撃には条件が整い過ぎている程の裏通り――。
―― 其処に彼女は居た ――
「待っていたよ、獣の狩人。…それと、カタリナの騎士さん…だったかい?」
全身を黒衣で包み頭部は烏を模したマスクで覆う、怪し気な女性――。
「鳥羽の狩人」
そう――。
彼女は『鳥羽の狩人』と呼ばれ、冒険者とは対を成す
灰の剣士とは何度か顔を会わせており、お互い奇妙な交流のある間柄だ。
「貴公…いつぞやは世話になったな。お陰で皆が本来の役割に徹する事が出来た。礼を言うぞ、女人よ」
数日前の深夜、闇霊として侵入した『
総数200を超える小鬼群には、恐怖心を増大させる特殊な呪文が付与されており、現場の冒険者の大半が真面に動く事もできなかった。
しかし、鳥羽の狩人である彼女が颯爽と現場に現れ、
ジークバルドも、その事をよく覚えており改めて感謝の意を述べる。
(本編前夜編 第109話参照)
「一応この街の一員だからね、礼は無用さ。さて、そんな事よりも伝えなきゃならない事がある」
見た目通りの出で立ちから、闇夜に紛れて動くのが彼女だ。
そんな彼女が態々姿を見せるのにも、それなりの理由があっての事。
「お祭りに騒いだ、この街を通るのは却って危険さね。例の遺跡に向かうなら、街を迂回してくれ」
「貴女も同じ考えだったか、鳥羽の狩人」
身軽さに長け神出鬼没な彼女が、こうして忠告するのだ。
灰の剣士たちが危惧していた通り、賑わいに満ちた街中は危険極まりないという信憑性も増す。
「一応領主にも警告してあるが、念には念を押しての事さ。まぁ今夜の街中は、あたし等仕掛け人の出番でね。この場は任せてくれないかい?」
国の行く末を担う程の大人物も、非公式とは言え来訪している今の状況――。
秘匿している筈の情報だが、案外容易く漏洩してしまうものだ。
何処の誰が
元々は裏工作を生業とするローグギルドに、要人暗殺の依頼が寄越されも可笑しくはないのだ。
「王統府もバカじゃあない。うちのギルドにも根回しは済んであるが、油断は出来んのさ。だからこそ、あたし等総出で街中を駆け回り、報酬に目が眩んだ馬鹿を阻止する必要があるのという訳さね」
街中での襲撃およびローグギルド側から下手人が現れる危険さえある――。
その危険性は王統府側も想定済みで、街の全ギルドにも既に根回しが施されていた。
全仕掛け人には予め高額の報酬金が支払われており、要人に牙を向けぬよう釘を刺されている。
しかし、それも完全とは言い難く、一部の仕掛人が
こういう状況では冒険者をぶつけるよりも、同業者である仕掛け人側を派遣した方が何かと都合も良く、ギルド同士の関係悪化を防ぐ事にも繋がる。
鳥羽の狩人が言うには、この街は自分達に任せてほしいとの事だった。
それによく見れば、彼女以外にも2人の人物が確認できる。
彼女と同じ
皆が皆、似たような衣服を纏い全容を窺い知る事は出来なかった。
「承知した。貴方達に任せた方が良さそうだ」
「要人警護は我等に任せてくれ給え、各々方」
鳥羽の狩人との付き合いは決して長いものでもなかったが、彼女の実力と人柄は信用に値するものだ。
街中の処理は彼女たちに託す事にした灰の剣士とジークバルドは一礼の後、目的地へと向かう。
「……」
街外れの暗がりを去り行く二人の冒険者、月明かりに照らされた背を見送る仕掛け人たち――。
「…さて、どうだったかい?
傍らの仕掛人に話し掛ける鳥羽の狩人――。
端から見れば唐突だが、声を掛けられた仕掛け人の一人は取り乱す事もなく飄々とした態度で応える。
「姐御さん、止して下せぇよ。もう昔の話ですぜ、俺と
受け応えた仕掛け人の声は青年とも壮年ともつかない男のもので、その人物は徐にフードを捲り素顔が月光の下に晒された。
彼の頭部には毛髪が無く、若干人相の悪さを印象付ける顔立ちだった。
常に口端を僅かに釣り上げ斜に構えた態度を崩さず、常日頃から何か良からぬ事を画策しているのではないか――。
そう印象を抱かせる風貌だ。
手には特殊機構を備え、槍形態から散弾銃に変形する『銃槍』と呼ばれる一風変わった武器を携え、また過去の名残なのか双竜の描かれた木製の大盾を背負っていた。
そして外套で隠れていたが、指には二つの指輪が嵌められている。
一つは、涙を模した青い宝石の指輪――。
もう一つは、馬の脚を象った意匠の指輪だ。
相手側から見れば、何処となく悪印象を抱かせる胡散臭い人物。
それが
「人を蹴落とすのは程々にしておきな…間違っても、この
「――おぉこわッ…!へへッ、姐御さんと敵対して、ハチの巣にされたくありやせんからね…♪」
静寂さを保ちながらも底冷えする怒気を孕ませた声音に、気圧される銃槍の男――。
どうにも銃槍の男、幾度となく他人を高所から蹴落とすという、悪癖持ちだというのだ。
そしてそれを繰り返す度に要らぬ敵対心を産み、彼は『土下座』というジェスチャーで難事を切り抜けてきた過去を持つ。
それは彼なりの思惑が絡んでいそうだが、流石に鳥羽の狩人まで蹴落とそうものなら、彼女からの恐ろしい『死』が必要と判断されるだろう事は容易に想像できた。
有無を言わせぬ彼女の迫力に、銃槍の男は気圧されつつも陽気な態度を崩さない。
――本当に、食えない男だねぇ…。
何処からが彼の演出で、何処からが彼の本心なのか――。
鳥羽の狩人でさえ、この男の本質を知る事は叶わない。
「あの剣士の方…本当に狩人さんなの?」
ここで、もう一人の人物が口を開いた。
銃槍の男と同様に全身を黒衣で包んでいたが、彼に比べれば遥かに小柄で声音も少女のソレである。
実際、少女なのだろう。
徐にフードを外し、少女の素顔が露わとなる。
柔らかく淡い金色の長い髪は、夜風に靡き嫋やかそのものだ。
若干幼さを残しつつも端麗で鼻筋の通った顔立ちと紺碧色の瞳――。
少女を構成する素顔は、二つの月明かりに照らされ一層映え渡っている。
憂いを秘めつつも何処かに神秘性を匂わせ少女の瞳は、場を去り行く二人の冒険者――取り分け灰の剣士に向けられていた。
長い金髪を束ねた”血の様な色合いの赤いリボン”が夜風に煽られ、束ねた髪ごと宙に舞い上がる。
「いや、アレは異界の王にして、冒険者――。だが、もう立派な狩人さ。日の当たる世界に生きようともね。おっと、それはアンタの方が詳しいかね?」
「さぁどうですかね?まぁアイツは俺の店に、しょっちゅう顔を出してくれた
嘗ては、灰の剣士たちと同じ世界を生きてきた銃槍の男――。
鳥羽の狩人に話を振られるも、彼は飄々とした振る舞いで
「アンタも必要以上に深入りしなさんな。あたし等は狩人にして
必要とあらば積極的に関わる事もある、冒険者と仕掛け人という存在。
日の当たる表舞台にて活躍する冒険者たちを『陽』とするなら、絶えず日陰にて暗躍し世情を動かす仕掛け人は『陰』に例えられるだろうか。
両者の関係は、一対にして個であり同時に共同体とも言えた。
「うん、分かってる。あの人には
「うん…?そういう意味で言ったんじゃあないんだけどねぇ…」
赤いリボンの少女の物言いに、鳥羽の狩人は少々首を傾げる。
表沙汰に冒険者と関わるという事は、仕掛け人としての本分を忘れる恐れもあるのではないか。
それを危惧した鳥羽の狩人は念を押す形で忠告したのだが、紅いリボン少女は違う解釈で捉えていたようだ。
どうやら少女の方は、色恋方面で話を捉えていたらしい。
実はこの少女も、地母神神殿に身を置く立場である。
そして赤いリボンと対を成す様な”青いリボンを付けた”見習い神官の少女とは同年代で、彼女の事はよく知っていた。
あの見習い神官の少女と灰の剣士が、非常に親しい関係である事も含めて――。
とてもではないが然して親しくもない自分が、あの二人の間に入り込む領域など残されていなかったのである。
赤いリボンの少女――。
未だ
無論、少女も何時かは大人へと成長し、自分の生き方は自分で決める選択肢に迫られる日がやって来る。
そんな重要な人生の岐路に立たされた時、自身の意思決定の強さを養う為の修練も含まれていた。
「ウヒャヒャヒャ、お前さんも年頃だねぇ。お堅い神殿に居ながらも、見る所はちゃっかり見ているって事かい?」
「…あまり煽るんじゃないよ?多感な時期だからね、ちょっとした事で直ぐ揺らいじまうし危険な事に首を突っ込んじまう事もあるってもんさね」
「ま、俺は聖職者嫌いなんでね。神殿になんぞ関わりたくもないが、お嬢ちゃんも一生仕掛け人で食っていくのかい?」
赤いリボンの少女を
銃槍の男は悪びれた様子もなく、赤いリボンの少女に今後の人生計画などを
この男、嘗て居た世界でも多くの人物を貶めてきたが、中でも聖職者相手には露骨な悪意を幾度もぶつけている。
聖職者に対し、何か思う処があるのだろうか?
彼の真意を知る者は、未だ誰一人として存在していなかった。
「…まだ決めてないの。アタシはこの
鳥羽の狩人と赤いリボンの少女は、此処ではない別の異界から流れ着いて来た
……
実は少女の父親も、聖職者でありながら獣を狩る狩人の一員でもあった。
しかし獣狩りの夜を続ける事で、彼は何時しか正気を失い自身が『獣の病』を発症してしまう。
既に理性は失われ狂気と獣狩りの使命感のみに突き動かされた彼は、血に酔う衝動のままに他者へと凶刃を振るうようになった。
そして狂気の成れの果てに自身の妻をも手に掛けるも、とうとう正気を取り戻す事もなく
正気を失った狩人など、もはや獣と同義――。
その
少女の父親を討つため、
父親と母親の捜索を頼まれた鳥羽の狩人は、行き着いた先の地下墓地で目標との接触が叶った。
既に正気を失った父親は、獣と何ら変わらぬ存在に成り果てていた。
その事自体は、彼女も既に想定済み――。
激しい戦闘の末、少女の父親へと止めを刺す事で、鳥羽の狩人は使命の一環を果たす。
だが残されたのは、赤いリボンの少女。
獣狩りの夜と呼ばれる一夜の内に、父と母を同時に喪う悲劇に見舞われる。
母親の形見である『真っ赤なブローチ』を携え、鳥羽の狩人は少女の下へ残酷な現実を打ち明けねばならなかった。
当然、少女はその現実を受け止めきれず深い悲しみに暮れ、唯々泣きじゃくるだけの存在と成り果てた。
不憫とも思ったが何時までも時間を割く訳にもいかず、少女には避難場所を提示した。
其処は然る教会の事なのだが、此処で鳥羽の狩人は、ある種の疑念に駆られる。
確か教会への道中には、危険な獣が其処彼処に徘徊していた筈だ。
とてもではないが、この可弱い少女一人で避難場所まで辿り着けるのだろうか?
流石に不安になった鳥羽の狩人は、柄にもなく他人の為に頭を悩ませた。
いっその事”あの診療所”に預けてみようか?
だがあの診療所の女、どうにも得体が知れず薄ら寒いものを覚えていた。
危険には違いないが、あの教会の方が幾分はマシだろう。
教会に居た赤い衣の気味悪い男、アレも少々怪しい事には変わりないのだが…。
そこで一計を案じた鳥羽の狩人は、少女と共に教会へ先導するという選択肢を執った。
彼女の説得で、恐る恐る家から出て来た少女――。
鳥羽の狩人を目にした途端、やはり悲鳴を上げ蹲ってしまった。
その様子に若干苛立ちを覚えたものの、却って好都合とばかりに少女を抱きかかえ、そのまま避難場所に指定されていた教会へと直走った。
案の定、教会へと続く下水道には、巨大な人食い豚が待ち構えており、鳥羽の狩人は即座に敵を処理し道を切り開く。
無数の眼球が剥き出す顔面の身の毛もよだつ気味の悪い巨大豚だが、彼女の敵ではなかった。
その豚を目にした少女は、完全に放心状態のまま失禁していたが下手に取り乱し暴れられるよりは余程マシだ。
自身の衣服に付着した少女の小水も気に留めず、鳥羽の狩人は少女を担いだまま一路教会を目指した。
途中、少女の父親と死闘を繰り広げた地下墓へと到着する。
父親の遺体は既に消滅していたが、母親の亡骸は未だ原型を留めたまま遺されていた。
少女は悲しみに暮れながらも、鳥羽の狩人と共に母親の遺体を埋葬し、静かに冥福を祈る。
一応とはいえ、親の死に立ち会い見送る事は出来た。
それを境に少女の中で一つの区切りがついたのか、僅かずつではあるものの意識の変化が芽生えつつあった。
其処からは少女自身の脚で歩き、鳥羽の狩人と共に避難場所でもある『オドン教会』へと到着する。
過信は禁物だが、どうにか一定の安全は確保できた。
しかしまだ気を緩める訳にもいかず、ここでも鳥羽の狩人は再び一つの策を講じる事となる――。
………
……
…
――ここまでにしとくかね。折角拾った命だ。この子の父『ガスコイン』は、あたしが討った。故に成人するまでは、あたしが導く責務があるってもんさね。
ほんの数分とはいえ、少々過去に耽ってしまった様だ。
意識を現実へと引き戻した鳥羽の狩人は、気を取り直し二人へと任務の再開を告げる。
「アイマム、姐御さん!」
「うん…じゃなくて、はい。小母様…!」
二人を引き連れた鳥羽の狩人は、月光の降り注ぐ闇へと溶け込みながらも夜の街へと身を躍らせる。
彼女らの居た地には、数枚の黒い羽根が舞い散っていた。
その黒は、二つの月明かりで一層深く輝いている。
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青い涙石の指輪
HPが大きく減ると、カット率を一時的に高める。
涙石と呼ばれる希少な大宝玉の指輪。
それは女神クァトの、哀れみの涙であるという。
そして涙とは、死の側でこそ美しいものだ。
こんな所に放置しやがって、有象無象の輩に拾われたらどうする積りだ!?
嘗ての指輪の持ち主は、しがない義賊気取りの盗賊であった。
だが彼には恩義もある。
あの陽気な騎士に扮してまで危機を救った。
とにかく生きてほしかったんだ。
男は感傷もそこそこに、指輪を回収し過去を懐かしむ。
アイツは恩人で友人でもあった。
馬脚の指輪
馬の足が刻印された古い指輪。
蹴りの攻撃力を高める。
その男は、これを愛用し罠にはめた相手を蹴り落としていたが、それは後ろめたい仲間の嘲笑の的でもあった。
だからお前は、すぐに馬脚をあらわすのだ。
その所業は、時に道を照らす。
鳥羽の狩人の他に、例の二人を登場させてみました。
一人は、例の神父さんの娘であり、どう足掻いても救う事の出来ない、あの少女。
もう一人は、ソウルシリーズ恒例の、彼。
彼については冒険者でも良かったのですが、仕掛け人の方が合うかなぁと何となくコッチにしました。
直ぐに馬脚を現す彼の事。
それなら冒険者でも結末は同じかな?う~ん……。( ̄ω ̄;)
最後に鳥羽の狩人なのですが、彼女がブラボ世界での主人公役も兼任しているという設定です。
如何だったでしょうか?
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
デハマタ。( ゚∀゚)/