相変わらず酷い花粉症に悩ませられる毎日です。
今度はクシャミがヤバい。(_ _;)
しかし暖かくなってきました。
では投稿致しますドゾ。( ゚ ω ゚ )
マチェット
主に藪や丈の高い雑草を刈り取る農具として使用される、長い刀身を持つ鉈の派生品。
片手でスラスラ使う類の物のため基本的に軽めで刃身も薄め。
折れ難くするために通常のナイフに比べて刀身は柔らか目となっている。
刃の長さは目的により異なり、藪を切り払う目的のものは長め、農作物の収穫用途の物は短め。
本来は農具だが武器としても充分機能し、村でも緊急用の武器として使用される事もある。
それはつまり、小鬼に略奪され易いという事でもある。
彼等はあらゆる汚れ仕事を請け負い、もはや罪悪感など人食い豚に食わせて久しい。
同時に殺しの技術に絶対の自信と誇りを持ち、金と衝動赴くがまま手を染めた。
…まぁ、仕方ない。殺しているんだ、殺されもするさ。
値段は金貨 2枚~5枚。
クリスナイフ
短剣の一種。
鍔が一体化している波打った刃と刺突向けにわずかに曲がった柄が特徴。
フランベルジュ等と同じく、この刃の形の影響で付けられた傷は縫合が困難で強い殺傷力を持つ。
だが同時にこの形状のおかげで強度が脆く手入れも難しい。
クリスナイフには、その独特の形状から霊的な力を宿すという言い伝えもある。
その為、霊的な儀式や護符としても側面も併せ持ち、魔術師や僧侶が所持する事もあるという。
また自らが持ち主を選ぶ伝承もあるクリスナイフ。
彼は伝承を信じ、僅かな金で買い取り手中へと納めた。
憐れな程に滑稽な自尊心。
自分は特別なのだと。
自ら孤立の道を直走り日陰者としての生業に身を窶す。
値段は金貨 1枚~10枚。
フィランギ
フィランギの全長は1.1メートルから1.5メートルほど。
そのうち剣身は短くても1メートル、大きければ1.2メートルほどもある。
真っ直ぐな直刀で、切っ先から三分の二ほどが両刃で、根元の法は片刃になっている。
刀身の中心には血溝と呼ばれる溝がある。
握り手には片刃のある側に弓状の護拳が取り付けられている。
柄頭として皿状のノブと、突き出た牙のような飾りがあるのが特徴。
とにかく満たす事に全てを捧げたい。
その変質的な願いは、やがて歪みに歪み切り何時しか悪行へと身を染める。
最初は身内を犯し、敬遠された。
次に隣人から盗み、村から追放された。
それでも彼は満たされる事なく、深みに堕ちてゆく。
その身を斬り裂かれるまで。
値段は 金貨3枚~6枚。
ソードブレイカー
敵の剣(比較的細身の物)を峰の凹凸に噛ませて折る、叩き落とすのに使う。
名前の由来は剣を折ることから名付けられた。
相手を突くために先端は尖っており、利き手と反対側の手に装備して使用する事もある。
その運用方法は、マンゴーシュと同様に盾の代わりとして用いられた。
実直に働くなどバカのやる事だ。
どうせ稼ぐなら、愉しみながら稼いだ方が刺激的に違いない。
だから新鮮な死体でも、平気で愉しめた。
命乞いする者を平然と反故にする。
あの絶望に染まった顔、思い出すだけでゾクッと来る。
しかし終焉は訪れるものだ。
無慈悲に、前触れもなく。
値段は 金貨3枚~5枚。
コンポジットボウ
複数の材料を組み合わせた複合弓(合成弓)。
必要能力値が高く、扱いが難しいが使いこなすと強力な弓。
主に複数種の木材や竹を組み合わせ作成される事も多いが、時には動物の骨や腱、角、金属片を張り合わせる事もある。
扱いの難しい弓だが、習熟した者は『連射』や『強射』など臨機応変に対応できた。
戦場で最も警戒すべき武器。
そう吹聴した者は、何者であったのだろうか。
値段は 金貨3枚~10枚。
カタール
持ち手が独特な、異国の刀剣。
その刃を、拳の延長として振るうことができる。
全長35~40cm、重さ350~400g。
取り回しも良い事から、武闘家が用いる事もあるという。
ジャマダハルという別名も在り、諸事情から混同される事も多い。
値段は 金貨1枚~4枚。
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街外れへと向かうに従い、月明かりを遮る物影も疎らとなる。
この辺りになれば街灯りも殆ど届く事は無く、赤と緑の異なる二つの月光が主な光源と言って良い。
此処からは、やや登り気味の細い坂道となるが意外にも舗装の手が行き届いていた。
「此処を登れば、
「うむ。件の方々は、お屋敷にて宿を取っているとの事だ」
細い坂道を歩く二人の冒険者、灰の剣士とジークバルド。
今回の依頼は、指名付き且つ少々特殊な案件だ。
国家を担うお歴々が一堂に会し、その会合に同伴するという何とも奇妙な任――。
更に、道中の要人警護までもが含まれていた。
本来、王都側からの接触がある場合、仲介役を挟むのが原則だ。
しかし今回、よもや王統府自らが接触を図るのは極めて異例中の異例ともいえた。
これまで幾度も指名付きの依頼を熟した事もある、灰の剣士。
これは、国家の明暗に波が立ったとも考えられるだろう。
一応非公式という形で行動を起こしてはいたが、情報など幾らでも他方に知れ渡るものだ。
「ジークバルド…居るな…刺客たちが…!」
現にこうして、灰の剣士はソウルを察知しジークバルドにも警戒を告げる。
「承知している。…かなり訓練の行き届いた手練れ揃いだ。並の警護人では役割を果たせまい」
ジークバルドも同様に危険を察知しており、既に複数の刺客が身を潜めている事を伝える。
またソウルの感知でなければ発見が困難な程、隠密行動に長けた手練れ揃いだ。
その状況に、ジークバルドはより一層の危機感を募らせた。
領主館に続く坂道の周囲は、濃い茂みや岩場が其処彼処に散在し、身を潜めるには好都合な地形だ。
鳥羽の狩人は『街を迂回すべし』と通告していたが、このままではこの
「ジークバルド。すまぬが周囲一帯の駆逐は、
ここで一計を案じた灰の剣士は、周囲に刺客たちは彼一人で処理する案を提示した。
「ぬ、しかしそれでは――」
当然ジークバルドが快諾する事もなく、一末の懸念を示す。
司祭長でもある街の領主、水の都の大司教にして剣の乙女、そして金剛石の騎士こと国家元首その人――。
名だたる重要人物が、この様な辺境へと集っている奇怪な状況。
ただでさえ公に出来ぬ事情も重なり、警護に割ける人員は限られている。
今此処で、重要戦力でもある灰の剣士に単独行動をさせるのは如何なものか――。
ジークバルドは即答を控え、暫し思案に耽った。
「貴公の懸念は尤もだ。だが私の方が遥かに身軽で、開けた場所なら存分に力を発揮できる」
下手な戦力分散は、各個撃破を招く危険性も増す。
灰の剣士も自身の提案に危険が伴う事は重々承知している。
その上で敢えて提案したのは、こういう地形なら彼にとっても都合が良かったからだ。
ジークバルドは全身重甲冑を纏った言わば『重騎士』に分類されるが、灰の剣士は鎧こそ纏えど『軽戦士』に分類され敏捷性も遥かに優れる。
やはり自由に動き回れるとなれば、灰の剣士にどうしても軍配が上がってしまうのである。
加えてジークバルドの装備は、些かに奇抜で目立つ傾向が強い。
これでは先に発見され、敵側は何らかの対応策で逃げ回るか釣りを誘い、本来の警護対象から遠ざけられる恐れもあった。
故に、身軽に動ける灰の剣士が、この場一帯の駆逐を担当――。
ジークバルドは警護対象に寄り添い、接近を試みる刺客に対し水際防御を担う。
身を潜めている刺客の中には、飛び道具で暗殺を試みる者も居る筈だ。
そういう者は、押し並べて身軽な装備構成である事も多い。
ここはやはり、身軽に動ける灰の剣士が率先して狙撃手たちを制圧する方が、結果的に安全確保にも繋がるのではないか。
幸いな事に、警護対象には『ソラール』率いる一党も控えていた。
ジークバルドとソラールが組めば、水際対策には何ら不安を覚える事も無い。
「ふむ…言われてみれば、ソラール殿のソウルも感じる。これなら或いは…」
灰の剣士に促され察知範囲を拡大してみれば、警護対象者の中にはソラール一党も含まれていた。
彼も実力者である事は、ダークゴブリン戦にて存分に理解している。
確かに彼も参戦しているなら、灰の剣士の提案を受け入れるのも吝かではなかった。
「――相分かった!貴公の案、期待するが決して油断召されるなよ!」
「無論だ。この様な所でムザムザ死ぬ訳にはいかぬのでな…!」
些かに思う部分はあれど、ソラールも控えてくれる事に、言い様のない安心感を覚えたジークバルド。
灰の剣士の案を受け入れ、二人は此処で別行動を執る事となった。
その場で身を翻した灰の剣士は、一瞬で姿を消す。
もうその場には居ない彼の身を案じながらジークバルドは単身、領主館へと向かった。
細く緩やかな坂道を歩き、領主館へと辿り着いたジークバルド。
――ふむ、やはり貴族階級なだけはあるな。
時刻は夜間である故、主門を照らす外灯と月明かりだけが光源だが、豪華な屋敷の景観が彼の目に映る。
主門には数名の番兵が警護に就いており、付近には小屋規模ながら番兵用の詰め所も確認できた。
そして主門付近には番兵だけでなく、覚えのある人物像が複数視界に映った。
「ようこそ御出で下さいました、カタリナの騎士様」
「ハハァっ…!カタリナのジークバルド、遅ればせながら此処にッ…!」
真っ先に彼を出迎えたのは、領主でもある司祭長。
彼女の言葉を受けたジークバルドは跪き首を垂れる。
「面を上げよ、カタリナの騎士殿」
そこへ見知らぬ何者かからの声が掛かる。
ふと見上げてみれば、外套を纏う一人の騎士鎧が歩み寄って来た。
外套そのものは冒険者が愛用するソレだが、隙間からは光沢に彩られた豪華な鎧が見え隠れしている。
二つの月光が反射し、その鎧は何とも言えぬ輝きを放っている。
「…若しや…貴方様が、金剛石の騎士…いえ、国王陛下であらせられますか」
その光沢は既存の鎧などでは到底再現できるものではなく、何とも神々しいまでの煌めきを放っていた。
この様な輝きを放つ鎧など然う然う存在しない。
ジークバルドは眼前の騎士こそが件の依頼人である事を悟った。
「如何にも。だが此度は非公式ゆえ、国王としてではなく一人の冒険者として振舞う。卿もその積りで対応してくれ給え」
「ハハァ…、仰せのままに…!」
あくまで金剛石の騎士として振舞う――。
そう告げはしたが、身から染み出る気品は容易に隠し通せるものでもない。
ジークバルドも跪きこそしなかったが、今度は貴人の一礼で彼に恭しく応対した。
「貴殿が、カタリナの騎士殿だな。活躍は、太陽の騎士殿から聞き及んでいる。お会いできて光栄だ」
金剛石の騎士に続き、今度は銀鎧の騎士が声を掛けた。
彼も例に漏れず高い気品と勇ましさを兼ね備え、外套を捲れば首から金の認識票が顔を覗かせている。
「恐悦に存じます。英雄にも例えられる金等級の騎士様に、お声を掛けて頂けるとは――」
「ハハハ、そう硬くならなくて良い。私も太陽の騎士殿とは、個人的な親交のある身でな。貴殿の事は度々耳に入れていたのだよ」
国王の側近にして位の高い銀鎧の騎士。
有象無象の冒険者など路頭に存在しており、本来金等級の彼が一々目を掛ける程の些事でもない。
だがソラールと親交のあった彼は、度々ジークバルドの存在を聞かされ些かの興味も引かれていたのは事実である。
銀鎧の騎士が皮切りとなり、王の御側近たちと簡潔な自己紹介を交わした。
「横から失礼致します、カタリナの騎士殿。予定ではもう一人、お見えになる筈では?」
ここで傍らに控えていた一人の女性、剣の乙女から彼に声が掛けられた。
夜間の為なのか他に理由もあるのか、彼女はあの特徴的な法衣に加え聖職者用の外套を身に纏っている。
予定ではジークバルドだけでなくもう一人の剣士、灰の剣士も此処に参加する手筈なのだ。
不自由な目がらも視た限り、ここに現れたのはジークバルド一人だけ。
一体どういう事なのだろう。
「…お兄様、来ないの?」
彼女の他にもう一人、灰の剣士が居ない事を嘆く者が居た。
今は聖職服で隠れているが、背と尾てい骨には翼と尻尾を有した夢魔の少女。
幼夢魔だった。
灰の剣士と彼女も幾許かの関係性があり、実際彼女は彼を慕っていた。
再会できる事を楽しみにしていただけに、此処に居ない事を知った彼女は落胆した表情を浮かべる。
「案ずる事はありません。現在彼の者は、露払いに励んでおります故に」
彼女らの問いに、ジークバルドは現状を伝えた。
自分に比べ身軽な灰の剣士は、自ら率先し刺客たちの排除に動いている。
「ほぅ、言われてみればソウルが密かに動いているな。それが例の男という訳か」
「――!?もしや、貴方様もソウルの感知が可能でッ…!?」
ジークバルドの説明を聞き、金剛石の騎士は意識を遥か遠方へと向けソウルの動きを察知していた。
その事実を知ったジークバルドは驚嘆の声を上げる。
「ウワハハ、存じておらなんだかジークバルド殿。陛下…もとい、
驚きを魅せるジークバルドに、ソラールが笑いながら語り掛けて来る。
冒険者として振舞う今の国王の呼び名だが、専ら『ロード』の愛称で呼ばれており周囲に浸透していた。
それに倣い、ソラールも冒険者としての国王を『ロード』と呼んでいる。
実は現国王である彼――金剛石の騎士も『ソウルの感知』という能力を先天的に体得していたのであった。
「この能力のお陰で、何度も危機を潜り抜けてきたと言っても過言ではない。尤も、それだけではないがね」
自身の掌を見返す金剛石の騎士は、懐かしむように過去に想いを馳せていた。
いくら上流階級の身分であったとしても、冒険者として野に解き放たれれば己の実力のみが全てを物語る。
冒険者と言う実力と実績は資金や司法取引で買えるものではなく、自らの裁量と行動力で結果を証明しなければならないシビアな世界なのだ。
彼も最初は、不様な姿を晒したものだ。
駆け出しの頃などは、
しかし今もこうして生き永らえ、結果として金等級冒険者にして国家元首と立場に身を置いている。
これも偏に『ソウルの感知』という能力を駆使し、あらゆる危機を予測できた事に他ならなかった。
「今は、かなり抑え込んでいる様だが、相当の実力者なのだろう?」
金剛石の騎士は、彼から僅かに流れ出るソウルを探り当てている。
実力者である事は過去に資料から承知していたが、いま流れ来るソウルは非常に微弱だ。
恐らく隠密に徹し、漏れ出る闘志を抑え込んでいるのだろうと、区切りを付けていた。
「その通りで御座います。彼の者の実力は、我等をも凌ぐかと――」
「ふむ、ならばこれより現場に向かい直接その目で確かめようではないか。適正な距離を測りつつな」
予想通りの反応だ。
ソラールに続き、ジークバルドも同じ返答で応えた。
この二人の騎士のソウルも相当強大だが、灰の剣士という男は更に強大な実力を有しているのだという。
ならば確かめずには、いられないだろう。
単なる口伝や映像記録だけでは、推し量れない判断基準も多々あるのだ。
それが『冒険者』という存在。
自らの目と耳そして五感で感じ取り、灰の剣士という人物像を識る。
曲がりなりにも危険地帯に近付く故、付き人からは少々懐疑的な意見も上がったが、金剛石の騎士の提案に諸氏は従い現場まで向かう事となる。
「それにしても『狭間の少年』よ、貴公まで召致されているとは思わなんだ」
ジークバルドは、領主に同伴する見覚えのある少年に視線を向けた。
彼の言う狭間の少年――。
それは狭間の地という異界から四方世界に流れ着いた、輝石の貴公子の事である。
「ええ。僕も急遽、此処に招待されました。理由は…まぁお判りでしょう」
皆まで語るまでもない。
聖黄金樹を通したであろう狭間の地という異界の住民だ。
実の処、狭間の地という存在については王統府でも若干の知識を備えてはいた。
だが如何せん未知なる部分は数多く、少しでも知識を深めたいのが本音ではあったのだ。
其処に流れ着いて来た『輝石の貴公子』という存在――。
かなり急ではあったが彼も領主館に招かれ、狭間の地の知識について知り得る限りを伝達していたのである。
「そうであったか。ハハハ、貴公も何かと多忙よの」
「全くですよ…。途中でライザさんの不満顔ときたらもう――」
ジークバルドの言に対し、溜息を吐きながら頭を振る輝石の貴公子。
余りに唐突で呼び出されたものだから、好奇心旺盛なライザまで付いて行こうと食い下がり、
「そして貴公も。…此度の武働きも、期待するぞ」
少年に続き、もう一人の女戦士に語り掛けるジークバルド。
「任せておきなよ、騎士さん!多くの女性陣、あたしが守り通してみせるさね!」
「頼もしい限りだ」
気風よく応えたのは、彼と一党を組む屈強な女戦士である『女部族』だ。
まだ若輩ながら大柄な体躯と野生的な女らしさを備え、等級に見合わない戦闘力を秘めた戦士だ。
そして頼り甲斐のある人柄は、特に多くの女性陣を引き付けており、彼女は時折、臨時で女冒険者の一党に組み込まれる事もある程に人望もあった。
彼女という為人は、何処となく安心感を抱かせるのだろう。
そんな彼女も、やはり一人の女――。
包容力と豪快な性格を兼ね備えたジークバルドという騎士に惚れ込み、現在こうして行動を共にしているのである。
さて、積もる話も一旦終え、一行は移動を開始する事にした。
馬車を使う案も検討されていたが、却って目立つ事に加え英雄級の実力者が此処には集っている。
金剛石の騎士を始め、彼の側近達も上位の冒険者であり実力者――。
剣の乙女率いる、神官戦士部隊――。
そしてソラール一党に加え、カタリナの騎士ジークバルド――。
領主の傍には、屈強な女部族と異界の少年である輝石の貴公子――。
それに街中では、鳥羽の狩人率いる仕掛け人たちも精力的に動いている。
余程の敵勢力でない限り、容易に危害を加える事は出来ない戦力揃いだ。
隊列を組み整えた一行は火継ぎの祭祀場へと向かう傍ら、灰の剣士が戦っていると思わしき現場へと足を運んだ。
……
屈めば全身をスッポリと覆う高さはある、濃密な茂みの群生地帯。
身を潜め奇襲を狙うに、これ程適した地形は然う然う無いだろう。
更に今は夜間という時間帯だ。
「思っていたよりも多い。早急に片付ける必要があるな」
ジークバルドと別れ、単独行動に出た灰の剣士も茂みに身を隠しながら、周囲のソウルに探りを入れていた。
屈めば全身を覆う程に高さのある茂みや障害物に恵まれた地形。
これを利用すれば、相手に察知されず接近を試みる事も十分可能。
狙撃なり奇襲なり、幾らでも暗殺に動く事が出来る状況だ。
この状況、有利なのは『刺客側』といえるだろう。
此処は間違いなく護衛対象の通るルートだ。
一応細い道は設けられていたが、周囲は一面茂みだらけ。
ただ直衛に就いただけでは、守り切るのは厳しい。
刺客の排除に時間を掛ければ、護衛対象が此処を通るのは間違い無いのだ。
灰の剣士は最も身近な刺客に狙いを絞り、茂みを利用しながら隠密行動にて接近を開始した。
――この辺りなら…。
彼は弓矢を装備しており、遠距離からでも攻撃が可能。
何も至近距離まで態々接近し、刺客集団に悟られる危険を冒してまで剣で仕留める必要もない。
背負った
――向こうは、此方に気付いていない様だな。
自らのソウルを抑え込み、隠密を徹底させた事が功を成したのだろうか。
探った敵側のソウルに、未だ明確な動きは見られない。
この様子だと敵側は、灰の剣士の行動は疎か存在さえ感付いていない様だ。
ならば遠慮する事は無い。
彼は敵のソウルに狙いを定め、
茂みに遮られ敵を視認できなくとも、ソウルまでは隠し通せていない。
それ故、敵の位置は既に把握済み。
況してや敵は隠密を意識し息を潜めている体勢で動きを止めている状態だ。
これなら、先ず矢を外す事はない。
――戦技、強射…!
彼は弓矢の戦技『強射』で、敵のソウル目掛け鋭い矢を放った。
充分に引き絞られ
『――ギャッ…!?』
寸分違わぬ真っ直ぐな軌道は茂みなど何の遮蔽物にもならず、敵の頭部を見事射抜いた。
まるで小鬼の悲鳴の如き短い声を上げ、敵のソウルが一つ消失する。
「――先ずは一人…次ッ…」
ソウルの消失だけでなく、短くも明確な敵の悲鳴と倒れ伏し茂みの掻き分ける音も手伝い、敵を仕留めた事を彼に悟らせた。
しかし僅かな悲鳴が他の敵にも届いたらしく、刺客たちも動きを開始した様だ。
異常を察知し、停滞は任務の障害と判断したのだろう。
だが灰の剣士は何ら取り乱す事無く、一人目を仕留めた刺客の方へと移動を開始。
念の為、敵の装備構成を調べておくのが目的だ。
また、彼と同じく刺客の一人も標的に近付いているのがソウルで察知できる。
敵側も異常の原因を探りたいという事か。
――好都合だ。
察知できるソウルの動きから、敵は彼の存在と動きを未だ把握できていないのが分かる。
ならば息を潜め待ち伏せし、敵が近付いた処を仕留める――。
彼はやや動きを速め、一人目を仕留めた刺客の茂みに身を隠しつつも、次の標的が来るのを待つ。
程無くして、刺客の一人が茂みを静かに掻き分け姿を見せた。
音を最小限に抑え隠密に徹している様は、流石に訓練が行き届いているのが解る。
奇襲だけに絞れば、かなりの手練れと判断出来た。
しかし異常を感じてはいる様だが、灰の剣士の気配までは感知出来ていないのは確か。
斃れた刺客の遺体を疑り、深く検分する一人の刺客――。
そこで敵の命運は尽きた。
「――ッ…!?」
不意に背後から頭部を掴まれ、事態を認識した時にはもう手遅れ。
ゴキッ…と首の圧し折れる音が夜の茂みを飾り、もう一人の刺客も儚い生涯を終える。
「二人目…」
下手に武器を使えば不必要な悲鳴を上げさせてしまい、却って敵に場所を教える恐れがあった。
彼は敢えて武器を使わず敵の頭部を掴み目一杯捻る事で、首と頸椎を圧し折り、殆ど悲鳴を上げさせず仕留めたのである。
「……」
これで二人仕留めた訳だが、遺体を検分してみれば刺客は四方世界の住民で、一人は只人、一人は狼型の獣人、両方とも男だった。
もう死んでいるが、不死ではない事も明らかとなる。
程無くして、彼の耳…いや、脳内に響き渡る声――。
――ちくしょう…、こんな所で終わるのかよ…!ごめんよ、約束果たせなかった…。
――危険を冒したって言うのに、金が無きゃこれからどうやって家族を養っていけばいいんだ…。
それは聴覚としてではなく、確かな嘆きとして彼の中に届く。
先程仕留めた刺客たちの無念の声が、今もソウルとして宙に残留していた。
だがそのソウルも時間を置く事もなく天へと昇り、後に残っていたのは物言わぬ死体だけ。
つまり敵側とはいえ灰の剣士は、またもや
――もう
既に例の村で、邪悪極まりないとはいえ元山賊の悪党と老年男を切り伏せた身だ。
(本編前夜編 第114話参照)
極力、四方世界の生者を殺める事を避けていたが、遅かれ早かれこういう事態に遭遇する事は、これからも想定しておかねばならない。
冒険者に身を置く以上は――。
生者の命を奪うという業に僅かな忌避感を覚えながらも、頭を切り替えた彼は次の標的を仕留めるべく動きを再開した。
「これで3人目ッ…!」
異常事態を感知はしている様だが、敵側は今も彼の位置を特定までは至っていない。
灰の剣士は
『――クソッ…!何処に居やがるッ!』
とうとう痺れを切らしたのか、刺客の一人が茂みから身を乗り出し周囲をキョロキョロと見回し始めた。
――愚かなり…!
身を晒すという事は、敵にとって格好の的――。
相当苛立たしいのだろうが、灰の剣士による射撃で4人目の刺客を仕留めた。
「まだ、かなり数が残っている。確実に仕留めていかんと…」
これで4人を仕留めたが、その内3人は
しかも狙撃と命中精度に優れた、
戦場では狙撃ほど恐ろしい戦術はない。
評論家によっては、狙撃できる弓矢や射撃武器こそが最も危険な兵装と評される事もある位だ。
とにかく飛び道具持ちを排除できれば刺客側の行動もある程度狭める事ができ、此方にとっては有利に事が運ぶ。
彼は息を潜めながら再び茂みへと身を隠し、残り刺客を次々と仕留めた。
「……これで10人目、飛び道具持ちは粗方片付いたか…」
隠密と狙撃、時には忍び寄り肉薄からの奇襲で、多くの刺客たちを一方的に確殺してゆく灰の剣士。
かれこれ10人は仕留めただろうか。
特に警戒していた飛び道具持ちの刺客を優先的に撃破し、一呼吸置く事にする。
周囲には、異常を察知し血眼になり敵を探す他の刺客たちが徘徊を続けていた。
闇雲に射撃しない様子から、残りの刺客たちは接近用の武器しか所持していないのだと推察できる。
しかし、動きには焦りを交えながらも何処か洗練さを匂わせた。
その動きから察するに、飛び道具持ちに比べ更に手練れである可能性が高い。
――さて…どう処理してくれようか。
ソウルの感知は出来なくとも、敵にも
敵は未だ、灰の剣士の位置を特定できては居ない様だが、ここで慢心し派手に動くのは少々危険だ。
剣で暴れたい衝動を堪え、彼は身を隠しながら敵の様子と隙の観察を続ける。
しかし、この時点で現状に変化が訪れた。
『――ぐえッ…!?』
『――がッ…!?』
突如として刺客二人が倒れ伏す様子が、彼の視界に映る。
――何だ……?今のは…
倒れ伏す間際、敵の頭部には棒状らしき物が突き刺さっているのを視認出来た。
その棒状の端には鳥の羽らしき部位も確認でき、彼はそれが矢だと判断する。
頭部に矢を受けた二人の刺客は、完全に即死状態だ。
恐らく、痛みを感じる間もなく絶命したであろう。
――私の他に、誰か味方が居るのか?…いや、味方とは限らんか…。
予期せぬ他方向からの狙撃で、新たに二人の刺客が仕留められた。
どうやら此処には、彼以外の
敵の敵は味方…、そういう格言を何処かで聞いた覚えがある。
しかし狙撃手の正体が判明していない以上、味方と決め付けるのは些かに早計というものだ。
彼は暫し様子見に徹するのだが、そうこうしている間にも更に複数の刺客たちが新たな矢の餌食となる。
――かなりの射撃技術だ…。あの方角か……。
矢の飛来したと思わしき方位へと意識を集中させ、ソウルを探る事にした。
どうやら相当高い技術を有す、弓使いの様だ。
一縷の狂いも無い正確無比な矢は、確実に敵の頭部を射抜き絶命させてゆく。
加えて連射性も高く、今の自分と比べようない程に高い弓術を駆使する使い手だと判断出来た。
「………。4つのソウル…。一つの只人の男、二つは半森人の女…、そしてもう一つ…森人だが随分高い格の様な霊力を感じる…、これは…上森人…か?」
僅かな時間を掛け、ソウルの感知に集中する灰の剣士。
奥の方から4つのソウルを察知する事ができ、只人の男以外は全て森人の女である事を探り当てた。
これまでバラけ実質単独行動にも似た刺客たちの動き――。
感知した4つのソウルは、一つの箇所に固まっていた。
班で動いているのか、それとも冒険者一党の類か…。
だが敵か味方かも判別が付かない状態では、迂闊に動く事は危険だ。
相手側に弓術に長けた手練れが居る事は判明している。
下手な動きを見せれば、彼自身が狙撃されかねない状態でもあるのだ、今の状況は。
このまま様子見を続ければ、勝手に刺客の数も減っていくのではないか?
相手の正体は不明だが、此処で静観するのも一つの戦術ではある。
そういう思惑が脳裏を過った時、不意に彼の真横を矢が通り抜けた。
「――ッ!?」
まさかの予期せぬ事態――。
何と
――まさかッ…、此方の位置を把握しているのかッ…!?
狙いは数センチ外れ、矢は彼の頭部の真横を通り過ぎたが、もしや彼も標的とされているのではないか。
そう思える程、余りに唐突に狙撃されてしまった。
――偶然…いや、そんな筈はない。偶然で此方に撃って来る理由もない。
偶然と思いたい処だが、大雑把ながら此方の位置を特定されていると判断した方がいいだろう。
何故なら彼の位置は、敵側とは距離が離れているからだ。
単なる偶然で矢を射るには、理由としても少々無理がある。
――向こうにもソウルの感知が可能な人物が居るのか、若しくは別の索敵方法が存在するのか。
どの様な手段を用いているのか知らないが、狙撃側は此方の存在に感付いている可能性が高い。
矢を射たという事は、敵と見なされている事も考えられる。
彼は更に深く身を屈め、匍匐体勢へと移った。
その刹那――。
更に数本の矢が彼の頭上を通り過ぎ、一本は彼のフードを掠め、一本は彼の手前へと突き刺さる。
――この矢…自然物を利用して作られているな。
手前に突き刺さった矢を抜き取り、彼は検分を始めた。
鏃の部分は、植物の殻や棘を利用した事が窺える。
この事からも射手は森人なのだと判別が付き、またこの矢の構造には何処となく見覚えがあった。
――4つの内3つのソウル…、私は知っている…まさか…!
この間にも矢は次々と飛来し、次第に狙いも正確になりつつあった。
今も4つ感知出来たソウルの内3つは、彼の記憶する波長をしている。
しかも味方として記憶している波長でもあった。
だが向こうは、此方を
また狙いは更に正確さを極め、このまま手を拱いていては味方同士で殺し合いになる危険性が高い。
――仕方がない。危険だが、私から接近するか。
そうと分かれば惑う時間など無意味で、早急に動く事が
接近を試みる間も撃たれ続けられるだろうが、何とか誤認である事を伝えるしかない。
更に敵側に位置を悟られる恐れもあるが、同士討ちを避ける事を優先させたかった。
灰の剣士は、可能な限り匍匐状態で距離を詰める事を優先し、頃合いを見計らい一気に肉薄を図る算段でいた。
茂みの掻き分ける僅かな音が自身の耳にも届き、それが余計大きく感じたのは緊張の所為だろうか。
しかし、その音すら聞き分けているのか相手側からの矢が、またもや彼の頭上を駆け抜けた。
――今、
数本通り過ぎた矢には、幾つか曲がる軌道を描く矢を一瞬だが視認できた。
こんな曲りくねる弾道を疾走する矢など、今まで見た事がない。
宛ら、俊敏な蛇の如しだ。
間違いなく記憶するソウルから、矢が射られているのは確定している。
しかしこれ程の技術を有する射手など彼の記憶する限り、目にした事がないのも事実だ。
いったい射手は何者だというのか?
覚えのあるソウルなだけに、彼は些か焦燥感を滲ませ更に匍匐で濃い茂みを掻き分け進む。
……
「…おかしいわねぇ…」
通常の森人よりも長い耳と麗しき美貌が二つの月光に照り返す、上森人の冒険者『妖精弓手』は、矢を番えたまま不満気な声を漏らしていた。
その不満気な表情を崩さぬまま、狙いを定めた方角へと更に矢を数本射る。
だが一向に手応えも感じられず、いまいち仕留めたという感覚も得られなかった。
少し前からこんな感じだ。
矢を射れども射れども、雑草茂みからは特に反応が見られないのだ。
「君が外すなんて考えられないけどな」
防護壁代わりにと
上森人の妖精弓手である彼女の腕前は、とにかく特筆に値する程だ。
空気抵抗や風の影響を受け易い超長遠距離ならまだしも、ほぼ近距離で外す事など先ずあり得ない事態なのだ。
彼女が冒険者としての日は浅く等級も低いが、その射撃技術と発見力は上級冒険者にも比肩し得る。
それ程の弓術を誇る彼女が、まさかの近距離で今も外し続けている。
「もしかして避けられてるんじゃ…!」
そこへ半森人の少女野伏も意見を述べる。
彼女は同期戦士と付き合いが古く、互いに親しい関係でもあった。
また妖精弓手ほどではないにせよ彼女も弓使いで、精霊魔法にも通じている身だ。
精霊魔法を使えるという事は、精霊との親和性も高く多少の意思疎通も可能だという事。
彼女は持ち前の特性を活かし『風の精霊』との交信を通じる事で、標的の位置を逐一味方に伝達していた。
そして位置把握も比較的精度が高く、それを頼りに妖精弓手が狙撃する事で敵の排除が成り立っていたという訳だ。
つい先程までは、寸分違わず一撃で敵の急所を射抜いていた妖精弓手。
いま茂みに隠れていると思わしき標的など近距離も近距離で、視認さえ叶えば少女野伏でも外す事の無い距離だ。
しかしまるで仕留めたという感覚もなく、風の精霊は未だ標的の位置を教えてくれていた。
「あり得るかもよ?その人の腕前…同砲なら誰しも認める程だから――」
そして最後に『半森人女剣士』も独自の見解を述べた。
彼女は冒険者志望の身で、今回の出撃も森人勢力の上層部から依頼されたものだ。
比較的サバサバしており細かい事には然程拘らない性格の彼女も、この現状に美貌溢れた顔立ちを顰めている。
標的の位置は、もう補足しているのだ。
これ以上精霊に頼る必要はなく、少女野伏も矢を射かける。
茂みより徐々に這い寄る標的の気配。
しかし幾ら矢を射かけようとも、まるで手応えらしい感覚は返って来なかった。
「――何でッ!?どうして当たらないのっ!?」
「――おいッ…動いたッ!!」
仕留めた感覚の無い状況に焦りを滲ませる少女野伏――。
しかし突如として同期戦士が叫び、標的が一瞬で動いた事を告げる。
「――任せてッ!」
ここで半森人女剣士が、獲物である
もし標的の背丈が只人の成人程度なら、跳躍しようが屈もうが身体の何処かに必ず命中する。
そんな高さを計算し彼女は剣を振るう。
彼女は冒険者を目指している身だが、
自信満々に振るった
「――噓っ!?」
今まで、この一撃を外した事はない。
だが彼女の細剣は見事に空振り、標的の代わりに雑草を数本刈り取っただけに終わる。
彼女の予想を遥かに上回る高度を跳躍していた標的――。
そのまま彼女の頭上を跳び越すが、妖精弓手の動体視力と反応速度は標的を補足していた。
「――当てるわッ!」
この状況なら必中は確定――。
宙を飛翔する標的に、必殺の矢を解き放つ。
放たれた矢は、真っ直ぐに標的を捕らえた…かに見えた。
「――はぁッ!?何でッ…!?」
これには流石の妖精弓手も素っ頓狂な声を上げた。
何せ標的を捕らえた筈の矢は見事に逸れ、標的の胴体部を擦り抜けてしまったのだ。
まるで、
「――俺がやるッ!」
もはや標的と此方の間合いは完全な至近距離だ。
少女野伏の反応速度では応射は不可能。
ならば自分がやるしかない。
同期戦士は鞘から『アストラの直剣』を引き抜き、肉薄する標的に対空の刺突攻撃を仕掛ける。
「――んなッ!?」
だが彼の刺突も完全な無駄に終わり、標的は空中で彼の剣を
――空中でパリイングしやがった…!
同期戦士が認識した時には、もう手遅れの状態だ。
標的は彼の剣を
「――ゥうぐごぐっ……!」
顔を地面に圧し付けられ、真面に口を開く事もできない状態だ。
「――くッこのッ…!」
逸早く反応した妖精弓手は、腰からナイフを抜き標的に刃を振るおうとする。
「――落ち着けッ…!
「――へ…!?」
だが、そこで標的から
……
「……成程、そういう事だったんだな」
拘束を解かれた同期戦士は、茂みに身を屈めながら安堵の声を漏らした。
「そういう事だ。私は要人警護のため、先行し敵を排除していた」
同期戦士たちが狙っていた標的の正体とは、灰の剣士だった。
先ほど灰の剣士目掛けて狙撃を試みていたのは妖精弓手であり、つまり同士討ちとなっていたという事だ。
「貴公らは、森人側の要人警護か」
「ええそうよ。コッチの半森人の娘は、あたしが臨時で招き入れた顔見知り。後の二人は、まぁ付き添いと補佐を兼ねてって所ね」
灰の剣士に妖精弓手が応える。
妖精弓手たちは、森人勢力の上層部から緊急依頼を受け、こうして現場にて敵の排除へと動いていた。
彼女が紹介した『半森人女剣士』は臨時で招き入れた同胞で、同期戦士と少女野伏の二人は、妖精弓手の要請に応じたという形だ。
「ふむ、それなら貴公が此処に居るのも説明が付くな」
彼女の説明を受け納得する灰の剣士。
森人勢力の依頼を受けたのなら、只人である同期戦士が何故現場に居るのか些かに不自然な部分があったが、妖精弓手の要請とあらば一定の納得もいく。
「しっかし驚いたぜ。完全な同士討ちだったなんてな」
「驚いたのは私も同じだ。危うく首を刎ねる処だったぞ」
「――相変わらず規格外ね、貴方。当てた筈の矢も何故か逸れてたし」
互いの誤認とはいえ、同士討ちという形を執ってしまった。
同期戦士と灰の剣士は『お互い様』だと言い合うが、妖精弓手は空中で捉えた筈の矢が逸れた事に納得がいかない様子だ。
「何という事はない、少々特殊な魔法『歪んだ光壁』を行使しただけだ」
確かに彼女の放った一撃は、灰の剣士を見事に捉えていた。
それは確かだが、灰の剣士は予め『歪んだ光壁』と呼ばれる魔法を施し、矢を逸らせていたのである。
この魔法は、魔力による不可視の力場を周囲に張り巡らし、あらゆる力を歪ませ捻じ曲げる効果を持つ。
今の時代には無い故国『ウーラシール』にて生まれた、光を扱う系統の魔法でもあった。
「ふぅん、変わった魔法ね。
「この人よ、噂の『灰の剣士』っていうのは」
半森人女剣士には馴染みのない彼の魔法。
少々、不思議そうな表情を浮かべる。
そんな彼女に、同じく半森人である少女野伏が、灰の剣士の事を簡潔にだが紹介した。
半森人女剣士も、噂程度になら彼の事は耳にしている。
確か桁外れな剣術を持ち、例のダークゴブリン戦では獅子奮然の大活躍を果たしたと聞き及んでいた。
「…なぁんか、あまり強そうに見えないわね。悪いけど」
「お、おい、失礼な事を言うな。コイツは、これでも相当の――」
弱そう――。
それが彼女の正直な感想だ。
彼女の言葉を聞いた同期戦士は、慌てて弁明する。
「いや構わぬ、事実だしな。……それに、無駄話の時間はこれまでだ」
半森人女剣士の印象など、然して気に留める事でもない。
しかし会話を切り上げる時が来たようだ。
そう応えた灰の剣士は、率先して茂みから立ち上がり身を乗り出した。
「おい、大丈夫なのか!?敵から丸見えになるぜッ…!」
自ら的に身を曝け出すも同然な灰の剣士に、同期戦士も驚きの声を掛けた。
刺客はまだまだ残留しており、未だ危険な状態に変わりはない。
同期戦士だけでなく、他の森人達も同様に彼を凝視する。
「もう身を隠す必要はない。さっきの騒ぎで、位置は完全に特定された」
お互い誤認はあったとは言え、同士討ちという醜態を曝け出してしまったのだ。
彼等は気付かぬ内に、大声を始めとした目立つ行為を繰り返してしまい、それが刺客たちに察知されていたのである。
「やっちゃったわね。包囲されてるじゃない」
灰の剣士に続き妖精弓手も茂みから立ち上がってみれば、既に多くの刺客たちに包囲されていた。
「……身を隠さなくていい分、却って楽かもな」
「みんなで力を合わせましょ」
「これはとんだ重労働ね」
そして同期戦士、少女野伏、半森人女剣士も次々と茂みから立ち上がり姿を見せる。
「…見つけたぞ。よくも翻弄してくれたな…!」
彼等を囲む刺客たちの中に、明らかに違う装備を纏った男が低い声で口を開く。
少々厚着気味だが鎧の類は身に付けていないらしく、全て衣服で全身を覆っていた。
また頭部もほぼ布で覆われ、灰の剣士とは対照的に
この一人だけが特別な出で立ちである事から、指揮官的な役割に就いているだろう事は想像に易い。
彼を優先的に仕留める事で、刺客たちが瓦解してくれるかは未知数だが。
――あの指揮官の他に、側近6、尖兵が13、計20…!
囲まれている間にも、敵の総数を確認した灰の剣士。
こうして接近している事から、刺客たちは遠距離用の攻撃手段を持ち合わせていないという事も推察できる。
「貴公らのお陰で、飛び道具持ちは排除できたようだな。礼を言うぞ」
予期せぬ事態だったが、彼等の参戦で相当の手間も省け、最も懸念すべき飛び道具持ちは結果的に仕留める事が叶った。
やはり妖精弓手の弓術による部分が大きいのは、誰もが認めるざるを得ないだろう。
「ハンッ!調子に乗るなよ、冒険者共…!」
「飛び道具に頼るのは、間抜け者の証よッ!」
「全く、だらしねぇ奴等だ。しかし俺達は、その道の
次々と刺客たちが、不敵な台詞を述べ武器を抜き身構える。
彼等の言う通り飛び道具の類は装備しておらず、手にした得物はどれもがリーチの短い小型の武器ばかりだ。
それだけに、腕には相当の自信を持っている事を示唆しているとも言えよう。
その証拠に一切の油断も無く此方の隙を狙っていた。
「お前たち…、こ奴等は
指揮官役の男から、憎悪を滲ませた声で指示が飛ぶ。
どうやら灰の剣士達のお陰で、かなりの損害を被ったのは間違いなさそうだ。
本来なら歯牙にも掛けない冒険者に、
実に”ご立腹”とも解釈できた。
「そう来なくっちゃな…!」
「俺は死体でもイケるクチでな。少々勿体ねぇが、上玉揃いの女共は
「俺達の技術を垣間見た時が、貴様らの最後だ…!」
「――来るぞ、準備はいいか!?」
指揮官からの指示を受けた刺客たちは攻撃態勢に移り、灰の剣士も臨戦態勢を呼び掛ける。
「錬金術士たちよ、風を起こせ…!」
「「「――ハッ…!」」」
――錬金術士だとッ…この一派…まさかッ!?
指揮官の命を受けた側近の数名が、一歩前へと踏み出し腕輪らしき装備を頭上に掲げた。
錬金術士という言葉を耳にした灰の剣士は、例の『仮面の錬金術師』の事を意識する。
よく注視してみれば、彼等の服装は何処となく似通った部位が散見された。
側近数名の腕輪が鈍く輝き出したかと思えば、次の瞬間には微風が吹き始めていた。
彼等が錬金術士だとすれば、腕輪は、錬金術で拵えた魔道具といった位置付けだろうか。
今は微風を吹かせるだけの効果に留まっていたが、何か思惑あっても行動なのは疑いようがない。
「何かあるよきっと…、私たち風上になっちゃった…!」
少女野伏も何かを悟った様に、身を強張らせる。
腕輪が発動し微風を吹かせた訳だが、此方が
そして全方位を囲んでいた刺客たちだが、微風が吹いた途端に皆が瞬時に指揮官側へと場所を移したのである。
つまり、灰の剣士陣営と刺客陣営が、お互い睨み合い対峙する形になったという事だ。
此処で駆け出し冒険者の新人なら、たかが微風ごときと侮ったのだろう。
しかし灰の剣士を含め、同期戦士たちは経験を重ね修羅場を潜り抜けた冒険者たちだ。
今の微風も何かの布石のために起こした事は承知済みで、誰もが無言で次の一手を予見した。
「心地よい風だ…。我が
――調香術…!?あの男は『調香師』なのか…!
男の『調香術』という言葉に僅かな反応を見せた灰の剣士。
―― 調香師 ――
薬師の派生職とも言われている専門性の強い職業で、香薬の製作と運用に長けている。
灰の剣士も『調香師』という職業について多少の知識は有していた。
当然だが、この四方世界にも同じ職業は存在する。
文字通り『香』を用いた香りを調合し一般に提供するのが主な役割だ。
化粧品や香水などに使われる香り関連も、調香師の仕事だ。
しかし香薬の運用次第では、恐るべき武器へと変貌させる事も可能。
空気中に可燃性の粉末…『火薬』の類を散布させ一気に発火させる術や、別の香薬で対象者の精神や筋肉を高揚させ狂戦士へと変える術まで存在している。
この四方世界では余り
裏社会などで流通している『麻薬』なる違法性の薬も、調香師が携わっている事例など幾つもある位だ。
それ程の可能性を秘めながらも日陰扱いの職業。
しかして、この『調香師』が存分に力を発揮した世界も存在している。
―― 狭間の地 ――
この世界では、ほぼ馴染みと関わりの無い異世界――。
しかして確かに存在する、完全な別次元の世界――。
その世界での『調香師』は、非常に重宝されていた。
彼等『調香師』の技術は秘匿扱いされていたが、『破砕戦争』と呼ばれる大戦乱を境に広く認知されるようになった。
また専門性の高さゆえ、彼等は皆総じて重要な役職に就く事も多く、中には将軍階級に昇りつめた者も居た程だ。
灰の剣士本人は、狭間の地にて『調香師』とは直接遭遇していない。
だが円卓の百智卿『ギデオン』から書物を幾つか譲り受け、初歩的ながらの知識を得る事で『調香師』の存在も脳内に刻み込まれていたのである。
刺客たちを率いる眼前の『調香師』が、狭間の地よりの流れ着いた者かどうかは断定はできない。
しかし香薬を用いる術に長けている事は、先ず間違いない。
現に、側近の錬金術士らしき者たちに、風向きを無理やり変えさせた事からも前振りとして十分に判断出来た。
「まず手始めに、
男の調香師は黒いガラス瓶を一つ取り出し、赤黄色い粉末を空気中に散布した。
夜空を飾る二つの月光が粉末を怪しく照らし、鈍い赤黄色に灯っている。
先程、錬金術士達が起こした微風に乗った粉末は、刺客たちに降り掛かる事で鼻腔から体内へと吸い寄せられた。
「「「「「――うグルォォオオおぉぉッ……!!」」」」」
刺客たちが粉末を吸い混み、そう時間を置く事もなく忽ち異様な唸り声を上げ始める。
「「「「「――ガァアアァぁぁッ……!!」」」」」
唸り声はやがて咆哮となり、月光照らす茂み地帯へと響き渡った。
「――えっ…なになになに…!?」
「――連中、急におかしくなったわよ!?」
豹変する刺客たちを目の当たりにした、少女野伏と半森人女剣士は目を見開く。
「――なんか、狂ったように興奮してないか…?」
「――凶暴化…みたいにも見えるわね…?」
同期戦士と妖精弓手も同様の反応だ。
粉末を吸ったかと思えば、狂わんばかりに雄叫びを上げ目を爛々とギラつかせる刺客たち。
その狂い様は、もはや興奮などという生易しいレベルではなかった。
「過剰な興奮状態で、かなり凶暴化しているらしいな。…つまり理性と引き換えに攻撃力を普段以上に発揮できるという事か」
呼吸も荒く血走った眼付きの刺客たち。
一種の凶暴状態とも言える彼らの様子から、真面な理性など既に消え失せているだろう。
こうなれば本能赴くがままに、一切の容赦なく敵対者を殺しに掛かって来る事は容易に想像が付く。
灰の剣士は敵を分析しながらも、奇跡を行使するために準備を整える。
「奇跡、贖罪…!」
手首に括り付けたタリスマンを媒介に、ロンドール黒教会の禁忌と呼ばれる奇跡を発動させた。
「なぁ、一体何をやったんだ?」
灰の剣士が行使した奇跡など、同期戦士には知る由もなく訪ねてきた。
彼が行使した奇跡は禁忌に分類されるが、術者は敵に狙われ易くなる効果を備えていた。
一見、使い物にもならないかのような効果だが、運用次第では此方に敵を引き付けさせる使い方も出来る。
刺客たちは手練れ揃いな上に、例の調香術で凶暴化している。
灰の剣士の戦闘力ならいざ知らず、同期戦士たちが複数の刺客たちを相手取れば確実に犠牲者が出る事は必至だ。
自分が彼等より優れているなどと自惚れる積りはないが、出来るだけ自身に敵を引き付けた方が勝率が上がると判断した、灰の剣士。
また敵は凶暴化した事により理性が鈍化した。
これ即ち、術による精神抵抗が低下した事にも繋がり、奇跡『贖罪』を抵抗なく受け入れる事も意味する。
刺客たちの現状なら、ほぼ間違いなく灰の剣士を優先して狙う筈だ。
「そしてもう一つ…戦技『黄金樹の誓い』…!」
更に灰の剣士は、立て続けに戦技を使用した。
現在の主力武器である『打ち刀』を頭上へと掲げれば、黄金に輝く光が剣を中心に広がり同期戦士たちに降り注ぐ。
「――わっ…なに…?」
「なんか、全身に力が溢れる様な…?」
その光を一身に浴び、妖精弓手と少女野伏は自分の手足をキョロキョロと見回した。
「…今度は何をしたんだ?」
「黄金樹の誓いと呼ばれる、まぁ…味方の攻撃力や防御力を強化する技だ」
贖罪の奇跡は以前ロスリック不死街にて行使していたが、黄金樹の誓いという戦技は完全に初見だった。
同期戦士の問いに、効果を大まかに説明する灰の剣士。
「へぇ~、そりゃ便利な技ね。アンタ意外と器用じゃないの!」
味方全体を強化する技など、高位の奇跡や精霊魔法ぐらいしか見当たらず、そう頻繁に使える代物ではない。
しかし灰の剣士は、いとも容易く強化の技で貢献してくれたのだ。
少々無礼なのかも知れないが、半森人女剣士は思った事を口に出す。
「私が敵の注意を一手に引き受ける。その分、空いた敵は任せたぞ」
贖罪の奇跡で敵は一斉に灰の剣士へと向かって来る筈だ。
尤も実力に優れる彼が敵を引き付け隙を生み分散させ、同期戦士たちの負担軽減へと繋げる。
そういう作戦だ。
「――どういう事だ!?なぜ狭間の地の戦技を使える。何者だ、貴様ッ…!?」
しかし心中穏やかでなかったのは、敵である男の調香師だ。
灰の剣士が使用した『黄金樹の誓い』――。
元々は狭間の地に由来する戦技であり、それを見た男の調香師は声を震わせ睨み付ける。
「知った処で、どうするというのだ?兵を退いてくれるというのなら、有り難いのだがな?」
「フンっ、確かにその通りよ!今宵、貴様らが死ぬことに変わりはない!古来より伝わる我が調香術の前に、死角など無いわ…!追い風を起こせッ!」
「「「――ハッ!」」」
そう言うや否や、男の調香師は更に一つの調香瓶を取り出し、中身の粉末を宙にばら撒いた。
その際、側近の錬金術士たちに対し、追い風を起こす命を下す。
指示を受けた錬金術士たちは、またもや腕輪を頭上へと掲げ今度は風向きを逆方向へと変えた。
「――風向きが変わったわッ!?」
此方側にとって向かい風となり、より一層の警戒感を強めた妖精弓手。
――この分だと、おおかた毒霧でも噴射する気か。
男の調香師が瓶を取り出し、風向きを逆風へと変えたという事は、今度は高い確率で此方に悪影響を与える粉末を散布するという事だ。
実際目にするまで断定できないが『毒霧』辺りを散布するのが妥当だと、灰の剣士は判断する。
「――受けよ、火花の香りッ!」
しかし男の調香師がバラ撒いたのは、毒の類ではなく空中を飛散する可燃性の粉末だった。
細やかな粉末状の粒子が宙を漂ったかと思えば、不意に灰の剣士達の至近距離で爆発した。
「――ぐぉッ、あちぃ…!」
至近距離での爆発とはいえ直撃ではない為、若干の火傷程度で済む威力だ。
僅かに顔を背けた同期戦士たちだが、爆発四散した火花は、彼等を牽制しただけでなく目眩ましとしても機能する。
「――全員、構えろッ!」
一瞬だが顔を背けた同期戦士たちを狙い、刺客たちは一斉に動き出す。
男の調香師が起こした『火花の香り』は、牽制のみならず攻撃の合図でもあったのだ。
灰の剣士の号令を受け、彼等も呼応して身構えた。
だが灰の剣士が行使した『贖罪』の奇跡により、刺客たちは挙って彼のみに狙いを絞り飛び掛かった。
――よし、狙い通りッ!
目論見は取り敢えず成功。
その事を確信した彼は、襲い来る刺客たちに対し『疾走居合切り』の戦技で迎え撃つ。
先ず飛び掛かった刺客たちは、同時に4人。
刺客たちの動作も高い練度を誇っていたが、彼等が武器を振り翳した瞬間を狙い、灰の剣士は一瞬で己の間合いに踏み込み腰の鞘から瞬速で刀を振り抜いた。
彼の刃は月光を反射し眩く輝く白き閃光となりて、刺客4人を同時に薙ぐ。
「「「「――っ!!?」」」」
4人の内2人は、彼の『疾走居合切り』で絶命。
悲鳴を上げる間もなく一瞬で二人の刺客を屠る。
「――二人行ったぞ、頼む!」
だが後の二人は絶命には至っておらず、よろけながらも灰の剣士の後方に陣取る同期戦士たちへと狙いを定めた。
彼の居合切りにより深手を負った筈だが二人の刺客は瞬時に体勢を立て直し、一人は同期戦士、一人は少女野伏へと迫る。
「――よっしゃ、ヤッテやらぁ!」
彼の号令を受けた同期戦士は、迫り来る刺客へと剣を振り下ろした。
昔は未熟だった彼も今は経験を積んだ中堅冒険者。
着々と実力は身に付いており、ロスリック高壁で入手した『アストラの直剣』に相応しい力量を備えるに至っていた。
彼の振り下ろしは、確かに刺客の肩部から胴体部を切り裂く。
「へへ、そんなもんかよ…!?」
「――なッ!?」
しかし刺客は切られた事も構わず、不敵に笑い二刀持ちの『マチェット』で同期戦士へと返礼する。
居合切りで深手を負い、同期戦士の一撃で止めの致命傷となった筈なのだ。
だが敵の勢いは一向に衰える気配がない。
普通ではありえない異質な現実に、同期戦士の反応は一瞬だが遅れてしまう。
手練れなだけな事はあった。
手負いの刺客は、出血多量となりつつも彼の首元と腹部を同時に狙い、二刀の『マチェット』を振るった。
「――クソッ…!」
重傷だというのに、刺客の攻撃速度――。
今の同期戦士では頸部と腹部の同時防御は無理があり、彼は痛痒を覚悟しつつも急所である頸部の防御へと専念し、マチェットの一本を剣で防ごうとした。
「――ぐベッ…!」
だが敵の刃が同期戦士を傷付ける事はなかった。
何時の間にか、敵の頭部は鋭い矢に射抜かれ絶命していた。
「――大丈夫、しっかりッ…!」
妖精弓手だ。
寸での所で、彼女の援護射撃により事なきを得たのであった。
「――わ、わりぃ…助かったぜ…!」
「コイツ等ほんとに強いわ!手負いだからって気を抜かないでよッ!」
「ああ、全くだ…!だけど、こんな手強い奴等を一度に相手するアイツは何者なんだろな、マジで…!」
少々後退った体勢を立て直し同期戦士は、少女野伏と半森人女剣士の援護へと行動を再開した。
その際、妖精弓手の叱咤を受けながらも、彼の視線は灰の剣士へと向く。
彼の視界には、凶暴化した複数の刺客たちを同時に相手取る灰の剣士の姿が映っていた。
新たに3人の刺客が、灰の剣士に向け同時に襲い掛かった。
隠密と敏捷性を重視しているのだろう。
彼等の獲物は、取り回しを重視している。
「――ッしゃあッ…!」
「――けぁっ…!」
「――ヒョウぅッ…!」
クリスナイフ持ちの刺客と、フィランギ持ちの刺客が、左右同時から飛び掛かる。
また香薬の影響もあり元々高めな殺意を更に滾らせ、彼の急所目掛けて躊躇なく武器を突き出す。
かなりの速さだ。
だが、正確無比な狙いは却って読み易いというもの。
戦闘経験の浅い戦士なら、この同時攻撃で敢え無く殺されていたに違いない。
だが相手は灰の剣士――。
――遅いッ!
剥き出しの殺意を滾らせた敵など、容易に狙いを察知できる。
クリスナイフ持ちの刺客の手首を掴み、掴んだ手首のクリスナイフでフィランギを受け流す。
「「――ッ!?」」
刺客二人は、大きく体幹を崩したが、その隙を見逃す灰の剣士ではない。
体幹を崩したフィランギ持ちの鳩尾目掛けて、空いた手で打ち刀の柄頭を打ち付けた。
腹部の急所を打たれ蹲る形で動きを止めたフィランギ持ちだが、3人目の刺客が灰の剣士に肉薄した。
彼の武器は、ソードブレイカーと呼ばれる特殊な形状の剣だ。
片刃にギザ型の凹凸棘を備え、相手の剣を挟み込み圧し折る事を目的としている。
だが凹凸鋭い棘も殺傷力を備え、使い手によっては致命傷を与え得る凶器と化す。
ソードブレイカーの一撃が、外套に隠れた彼の頭部目掛けて振り下ろされた。
やはり訓練が行き届き幾人もの標的を殺害してきた手練れだという事が、攻撃速度で推し量れる。
しかし彼は何ら臆する事無く手慣れた動作で掴んだままのクリスナイフ持ちの手を引き寄せ、ソードブレイカーの一撃を受け止めた。
その際、ソードブレイカーのギザ棘がクリスナイフを挟み込む。
この状況は彼の狙い通りだ。
彼は透かさず、クリスナイフ持ちを『送り足払い』で転倒させる。
また転倒こそしなかったものの、連動するようにソードブレイカー持ちも同時に体幹を崩した。
クリスナイフがソードブレイカーのギザ棘に引っ掛かった事で、二人は言わば連結したような状態だ。
一人が大勢を大きく崩せば、もう一人も必然的に運命を共にしてしまう。
この時、どちらか一方が冷静になり武器を手放せば巻き添えを食う事はなかったのだが、湧き上がる殺意と高揚感が完全に邪魔をしていた。
鳩尾を打たれたフィランギ持ちが体勢を立て直す頃合いだが、主導権は今や灰の剣士側――。
素早い2連袈裟斬りで、フィランギ持ちを仕留める。
そして流れをそのままに、宙返りの軽業で飛翔――。
体勢を崩していたソードブレイカー持ちを跳び越え様に、後頭部を切り裂き絶命させた。
その後、着地した彼は間髪入れずに転倒していたクリスナイフ持ちの心臓部へと打ち刀を一突き――。
起き上がる間も与えられず、クリスナイフ持ちも完全に生命活動を終えた。
その一連の動作に掛かった時間は、僅か3秒弱――。
一呼吸する間に、3名の手練れを仕留めていた。
しかしそれも束の間――。
「――ッ!」
不意に頭上から何者かが襲い掛かり、その場から咄嗟に飛び退き躱す灰の剣士。
飛び退いた彼は、襲い掛かった人物へと視線を向ける。
「…次は、我ら錬金術士が相手だ…」
紺色の衣装を纏い所々は、結晶石に似た装飾品が縫い付けられている。
そして素顔は外套に覆われ表情を確認する事は出来ない。
丁度今の彼と同じく――。
錬金術士と名乗った男は二人組で、両方とも『カタール』を装備している。
刃に対し垂直の持ち柄を備え手甲と短剣が一体化した特徴的な武器だ。
しかし自身を錬金術士と名乗っただけはあり、武器には青白い靄の様な物が纏わり付いていた。
先ほどの刺客たちとは一線を画す、何か得体の知れない不気味さを醸し出している。
その証拠に、この二人組は冷静を保っており無闇に攻めてはこなかった。
――向こうにも一人行ったか…!
此方には二人襲い掛かって来たが、同期戦士たちにも一人の錬金術士が対峙している。
援護してやりたいのは山々だが、先ずは此方の二人を仕留めねばならず、先程の刺客よりも明らかに手強い存在感を放っていた。
慎重かつ早急に片付ける必要に迫られる。
「…沈め…!」
殆ど奇襲に近い形で、一人の錬金術士が青白い魔力礫を放つ。
その弾速は異様に速く同時に人間大の頭部並みの大きさを誇っていた。
――速いッ!
初見ながら頭部を捻る事で躱す事に成功――。
通り過ぎた魔力礫は、空中で青白い爆発を引き起こした。
その現象だけでも威力の高さを備えている事が判り、直撃していたならタダでは済まなかっただろう。
先制の魔力礫を躱したは良いが、その僅かな隙目掛けてもう一人が距離を詰める。
まるで氷を滑るかのごとき速度で、瞬時に間合いを詰められた。
接近した錬金術士は、身体を回転させたカタールで連撃を繰り出し、時には蹴り技も織り交ぜる。
「――ムッ!」
逡巡している暇はない。
灰の剣士は敵の蹴り技に合わせ、脚を斬り落とそうと刀を振るう。
だが、その刃は徹る事なく何か硬い様な感触で弾かれてしまった。
よく見れば、敵の脚も青白い靄に似た気体に覆われている。
その靄からはソウルが流れ込んで来る。
靄の正体は分からないが魔力に付随した術らしきナニカで、刃を防いだ事には違いない。
攻撃を弾かれた隙に、先ほど魔力礫を撃った錬金術士も攻撃を仕掛けてきた。
この敵もカタールが青白い靄に覆われ、小型武器に似付かわしくない異様な威力を誇っていた。
また動きも素早く、肉弾戦にも長けた人物なのは明らかだ。
裏付けされ洗練された動きは読み辛く、全てを躱し切る事は出来なかった。
数発は刀と
受け続けているだけでは、戦況は好転しない。
彼は敵の攻撃を何とか掻い潜り、胸部目掛け刀を一閃に薙ぐ。
「――ッ!?」
しかしまたしても刃は弾かれた。
どうやら青白い靄は、錬金術士たちの全身に纏わり付いており、それが刃を弾いてしまうのだ。
――厄介な防御手段だが、斬れない訳でもないか。
確かに刃は弾かれ戦意が萎えてしまうような事態だが、決して完全無欠という訳でもなさそうだ。
弾かれはしたが刃を斬り付けた瞬間、僅かに衝撃が通る感触は伝わってはいた。
軽い攻撃なら難なく弾くようだが、重い強撃なら靄ごと斬り裂く事は不可能ではない事を悟る。
魔力礫と連撃の波状攻撃を捌きながら、彼は『クイックステップ』を駆使し刀を一旦鞘へと納め『居合切り』の構えを執った。
相変わらず敵の激しい連携は止む事なく、生半可な冒険者では太刀打ちすら出来ない程の実力者だ。
二人の錬金術士は、滑るような動きで彼を挟み込んだ。
その際、足下の雑草が不自然に揺れたのを垣間見た灰の剣士。
大方、風の魔力を併用する事で得た高速移動手段なのだろう。
「…終わりだ…!」
またもや不気味な低い声音を発し、二人の敵は微妙にズラした距離感を以て襲い来る。
敵側も『居合切り』についての対策法を知っているという事か。
不用意に同時攻撃を掛ければ、居合切りの餌食になる事を警戒しての行動を執った。
しかしそれは、灰の剣士も承知済みだ。
――今ッ!
先ず僅かに近い方の敵に向け、瞬速の居合切りにて斬り付けた。
そしてそのままの勢いで身体を一回転させ、逆方向の敵をも斬り伏せる。
鋭くも重い斬撃は、青白い靄ごと敵を斬り裂いた。
「「――ぐッ…まだだっ!」」
だが敵も異様に打たれ強いのか、未だ絶命には至っておらず勢いは弱まりつつも戦意を喪失させてはいなかった。
――敵に回すと厄介だな、錬金術というのは…。
まだ錬金術という学問に触れて日も浅いが、その有用性は彼も認めていた。
使い方次第では、戦闘にも多大な貢献を果たせる事も既に承知済みだ。
その使い手が敵側として対峙すれば、確かに厄介な事この上ない。
今使っている術も、錬金術としては初歩に分類するものだろう事は、彼でも推察が付いた。
隙が生まれている今の内に止めを刺さねば――。
敵は未だ戦闘を継続するつもりだ。
大量の出血で衣服が赤黒く染まっている。
凄惨な光景だが、容赦すれば此方の命と味方が危機に晒される。
彼は再度、身体を一回転させた瞬速の『居合切り』で、今度こそ二人の首を刎ねた。
そして刎ねた首が地面へと転がり落ちる前に、彼は同期戦士たちの援護へと向かう。
……
「――ぐッ…つえぇ…!」
正直手を焼いていた。
一分足らずの戦闘だというのに、同期戦士の息は上がっている。
半森人女剣士と連携し、剣撃を組み立てていたのだが全てカタールで防がれるか躱されてしまうのだ。
「――コイツ、何て身軽で硬いのっ!?」
敵の実力に妖精弓手も焦りを滲ませる。
躱されたなら躱されたで、隙を狙った妖精弓手と少女野伏が矢を射かけるのだが、青白い靄により大した痛痒は負っていなかった。
非常に短時間の戦闘だが、彼等の総攻撃が通用していなかったのである。
たった一人の相手にだ――。
そして今度は反撃とばかりに、錬金術士が動きを見せた。
「――ぬんッ…!」
両手のカタールと蹴りから、青白い靄の
全部で4発分――。
一瞬の動作で、4人分に対し責め立てた錬金術士。
「――ぐわぁあっ…!」
「――いぎぃッ…!」
同期戦士と半森人女剣士は、前衛職なだけあり防具と武器で何とか防御で凌いだ。
「――あぐぅッ…!」
「――ッ…!」
だが後衛職である少女野伏と妖精弓手は躱さねばならず、当たれば重傷は免れ得ない威力の光波だ。
妖精弓手は持ち前の動体視力と敏捷性で辛うじて回避する。
しかし少女野伏は回避し切れず、大腿部を斬り裂かれ出血状態に陥ってしまった。
「――フゥははははぁ…!」
不気味な笑い声を上げ、錬金術士は止めとばかりに少女野伏へと飛び掛かる。
その余りに無駄のない動きに、誰一人対応できる者は居なかった。
―― 灰の剣士を除いて ――
「――あ…あぁ…」
「――あ、アンタ…」
跳び上がった錬金術士のカタール攻撃を、打ち刀で受け止める灰の剣士。
庇われた少女野伏と、膝を突いていた同期戦士は思わず声を漏らす。
「――フォースっ!」
攻撃を受け止めた彼は、即座に白教の奇跡『フォース』で錬金術士を宙へと打ち上げた。
このフォースで、少女野伏をも吹き飛ばす結果となるが気にしている場合ではない。
少しでも間を置けば、敵は直ぐに次の一手を打つ程の実力を秘めているからだ。
「――放つフォースッ!」
そして灰の剣士も、放つフォースで追撃し更に敵を宙へと打ち上げた。
「――よし今だッ!矢をッ!」
放つフォースの追撃で、青白い靄は打ち崩せた。
これで矢は徹る筈だ。
五体満足の妖精弓手に、矢の対空射撃を告げる灰の剣士。
「――オッケー、任せてッ!」
宙に打ち上げられフォースの衝撃波で体勢を崩されていた錬金術士は、無防備な体勢だ。
これなら先ず外す事はない。
完全に補足した妖精弓手は、得意な武技である『速射』で2発の矢を連射――。
とにかく彼女は弓術に秀でており、狙い過たず敵の胴体に突き刺さった。
「――よし、止めをッ!」
彼女の射撃は確かな手応えを得た。
それを確信した灰の剣士は、同期戦士と半森人女剣士に詰めの一撃を指示する。
「――さっきの借りだッ!」
「――お返しよッ!」
彼の声を受けた二人は、落ちて来る敵へと対空の刺突で貫いた。
「――ぐふぅあッ!」
二人の刺突は急所を捕らえ、錬金術士は完全に絶命する。
「ハァ…ハァ…ハァ…、何とか…」
「まだ、10人以上残ってる…」
漸く一人の錬金術士を仕留めた同期戦士たち――。
だが、この時すでに大半の力を使い果たしていた。
これ以上の戦闘を継続するにも厳しい状態で、真面に動けるのは灰の剣士と妖精弓手ぐらいだ。
肩で呼吸を繰り返す同期戦士と半森人女剣士――。
加えて少女野伏は、大腿部を切り裂かれ出血状態。
灰の剣士が健在とはいえ、旗色は悪いと言わざるを得なかった。
また半森人女剣士の言うように、敵側は10人以上の戦力が残っている。
「ハァ…ハァ…あれ?風の精霊が騒いで…何か来る!?」
優位を確信したのか此方ににじり寄る敵集団。
しかし、ここで風の精霊が騒ぐのを感知する少女野伏。
「――全員伏せろッ!?」
彼女と同時に灰の剣士も異常を察知し、同期戦士たちに伏せるよう呼び掛けた。
突如の呼び掛けに、同期戦士たちは戸惑いながらも茂みへと身を屈める。
それと同時に、敵側の後方から無数の矢が降り注いだ。
「――ぐぇッ…!」
「――ぎょあッ…!」
「――ぐぶぉッ…!?」
後方からの唐突な飛来に、敵側は意表を突かれ矢を真面に受けてしまう。
ここで軒並み刺客たちが斃れ、残るは男の調香師を含めた数人のみとなった。
――複数のソウル…、何者だ!?
味方の援軍だろうか?
灰の剣士は、調香師たちの後方から複数の迫り来るソウルを感知していた。
そして矢の餌食により、数を減らした敵側も狼狽えながら後方へと振り返る。
「――アイツは、王の黒い手…!」
「――カムイだッ…!」
「――奴の部隊かッ…!」
生き残った数名の刺客たちが、後方から迫る複数の人影を差した。
――王の黒い手…そしてソウル…、知っているぞ…。
夜間ゆえ周囲は暗いものの、月光のお陰で視界は比較的良好だ。
灰の剣士が目を凝らしてみれば、矢を番えた複数人の人物が視界に映る。
総勢で5名程の集団――。
特に中心の人物から流れ来るソウルには、朧気ながらも彼の記憶に残っていた。
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調香師
元来は薬師から派生した職業とも言われ、香りに付随した薬効の作成に携わる事を生業とする。
また様々な香薬を扱う事から専門的な知識と高い技術力が要求される。
四方世界にも調香師と呼ばれる職業は存在するが、高い知識と技術を要する為、この職に就く者は極僅か。
そんな調香師だが、狭間の地では特異な進化を遂げている。
香薬を扱うという基本形態を強襲しつつも、様々な分野で暗躍する事になる。
時には対象者の精神さえも影響を及ぼし、心を壊す者さえ存在した。
また同時に癒しを司る調香師も誕生し、その特異な専門的な技術と知識は、破砕戦争を機に歴史の表舞台へ躍り出る結果を生む。
植生する草花を素材とし、時には戦いに、時には味方の助成と治療に。
次第に重用された調香師は、君主軍の中でも重要な役職を担い、将軍級の待遇を受ける事も珍しくはなかった。
本来は門外不出とされた調香術。
総じて彼等は、栽培の困難な植物の生育方法にも長けていたと言われている。
しかし堕落した欲望に染まる調香師も少なくはなく、自らの望みを叶えるため悪行へと手を染める者達も身を潜めている。
火花の香り
破砕戦争に従軍した調香師たちの技。
調香瓶を使った製作アイテム。
FPを消費して、前方に散布し広範囲に火花を生じる。
黄金樹に仕える者に、火は禁忌であったが長い戦がそれを忘れさせた。
四方世界に流れ着いた調香師たちが齎すのは、益か凶か。
狂熱の香薬
堕落した調香師の禁忌の技。
調香瓶を使った製作アイテム。
FPを消費して、一時的な狂熱を齎し攻撃力とスタミナの最大値を高めるが、被ダメージも大きくなる。
戦場にあってなお、傷つくを恐れるのか?
見るがよい。
お前の手足が竦んでいるぞ。
命尽きるまで捧げよ。心臓を捧げよ。
今回は、王統府を狙う刺客の排除回でした。
妖精弓手は、既に曲がる矢の弓術を会得しています。実は密かにダークゴブリン戦でも使用していたのですが、灰の剣士は彼女の弓術に目を向けている暇はなかったため、曲がる弾道を見たのは今回が初めてです。
そして半森人女剣士ですが、実はゴブスレ本編に登場する雪山編のヒロイン『令状剣士』の仲間の一人です。この時点では、彼女はまだ冒険者に登録していないという設定にしました。
如何だったでしょうか?
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
デハマタ。( ゚∀゚)/