ゴブリンスレイヤー ―灰の剣士―   作:カズヨシ0509

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ドーモです。
2週間に一話づつ投稿していますが、ストックさえ溜まればもう少し更新速度は上がると思います。
では投稿致しますドゾ。( ゚ ω ゚ )


第121話―月光下の黒い手―

 

 

 

 

 

 

調香瓶

 

調香師たちの用いるガラス瓶。

様々に調合した香料を封じるもの。

調香アイテムの製作に必要となる容器。

 

かつて、調香は王都の秘術であったが調香師たちが破砕戦争に従軍して後、狭間の各地で知られるようになった。

極めて高い技術は時に傲慢を呼び、私欲に狂う愚者が世界に暗躍する。

 

調香鞄

 

調香師たちの用いる革製の鞄。

ベルトを肩に掛け、留め金で固定するのが主流。

中には、調香薬を始め様々な薬用素材が詰められている。

 

壊れかけとは言え黄金律の恩寵に抱かれし草花は、四方世界には無い薬用効果を齎す。

土壌条件さえ合えば、四方世界でも栽培が叶うだろう。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 予期せぬ後方からの奇襲――。

突如として降り注いだ矢の雨に、刺客側は更なる出血を強いられ数を減らした。

残るは数名の僅かな戦力――。

しかし、難を逃れた生き残りも運命は変わらず。

次なる第2射で呆気無く討ち取られ、男の調香師だけが残る。

 

「…な、何だぁ、ありゃ…?」

「味方…じゃないわよね…?」

 

 灰の剣士は兎も角、かなりの苦戦と消耗を強いられ戦闘継続も厳しい状況に陥っていた同期戦士たち。

そんな折、唐突とも言える正体不明の勢力による介入――。

お陰で敵は大幅に数を減らし、今や指揮官であろう男の調香師だけが生き残り実質壊滅も同然。

戦況全体で観れば、此方側に優位に事が運んでいるとも解釈できる。

しかし、単純に味方と判断して良いものだろうか?

同期戦士と妖精弓手は、頭部だけを茂みから覗かせ、得体の知れない集団を凝視していた。

 

矢を射かけてきた所体不明の勢力――。

中心の男は、黒ずくめの衣装を纏う如何にも隠密に適した工作員と言った風情だ。

そして黒ずくめの男は、他に4人の人物を連れ添っている。

だが、その4人の装備には統一性が無く、自分達と同じく『冒険者』を匂わせた。

 

「――お、おのれっ!同じ陣営に所属しておきながら、主に逆らう不届き者めがッ!調香術で、粛清してくれるわッ…!」

 

 此方に近付く集団を前に、男の調香師は委縮するどころか憤怒の形相で感情をぶつける。

手駒となる部下は全て排除されたにも関わらず、戦う意思を捨ててはいない。

だが狙いを例の集団へと変えていた。

 

「……」

 

 男の調香師は()()()()と言っており、この集団と刺客側は本来味方同士で今身内争いを繰り広げているという事になる。

先ほど、矢の餌食となり今は物言わぬ遺体と成り果ててた刺客の一人が『王の黒い手カムイ』という言葉を発していたのを思い出し、灰の剣士も静観を決め込む事にした。

今や敵側は仲間割れとも言える状況だが、さりとて此方の味方とは限らない。

このままいけば、男の調香師は間違いなく討ち取られるか逃走を図り、この場から居なくなるのは必至だ。

そうなれば、次は自分達が標的となるだろう。

 

黒ずくめの男…否、『黒い手のカムイ』に対し、男の調香師は調香瓶を片手に粉末を散布しようとする。

 

しかし、瞬きする間も無く調香師の片腕は宙を舞い、風に揺れる茂みの中へと吸い込まれた。

そして自分に起きた状況を認識する前に、黒い手のカムイは一瞬で肉薄し二刀を振るう。

 

「…あ…うあぁぁあぁ……!」

 

 次の瞬間、男の調香師はバラバラの肉塊と化し地面へと崩れ去った。

何とも地味な絶叫で、呆気無く調香師の命は尽き果てたのだ。

これで、脅威であった刺客勢力は一掃された事になるのだが、黒い手のカムイ率いる集団の真意は未だ判明していない。

一応は刺客側と同じ陣営らしく、気を許すべきではないだろう。

 

「な…一瞬で…。ヤバくない、アイツ…?」

「う…コッチに来たよ…!」

 

 瞬きする間に男の調香師を斬り捨てた、黒い手のカムイという人物。

その太刀筋など真面に視認する事もできず、半森人女剣士と少女野伏は後退りながら恐怖に慄いた。

また少女野伏の言う通り、黒い手のカムイは単身ゆっくりと此方に歩み寄って来る。

 

「私が行こう、退がっていてくれ」

 

 ここで灰の剣士も自ら一歩前へと踏み出し、同期戦士や妖精弓手たちを退かせた。

 

「…今や、時は泰平に非ず。邪悪と混乱が渦巻く乱世に他ならん」

 

 どうやら黒い手のカムイの意識は、灰の剣士に向いている様だ。

 

「ロスリック王族を守護する黒い手が、私に何用か?」

 

「――んな、ロスリックだって…!?」

「嘘…此処でその名を耳にするなんて…!?」

 

 灰の剣士から発せられた『ロスリック』という言葉に反応する、同期戦士と少女野伏。

この二人も嘗ては灰の剣士と共に、ロスリックを探索し生還している者たちだ。

あの遺跡は未知なる部分も多く、謎に包まれ過ぎている。

未だかの遺跡に挑む冒険者は多いものの、解明には程遠い状況だという報せは耳にしていた。

 

だが灰の剣士が発した『ロスリック王族を守護する黒い手』という言葉で、あのカムイという人物はロスリック関係者という事が判明する。

そしてその男を知っている灰の剣士も、ロスリックと何らかの繋がりがあるとも判断出来るのだ。

 

――いや、アイツの事は取り敢えず置いとこう。問題はこの集団だ。

 

ここに来て、ますます分からなくなる灰の剣士という冒険者――。

彼とは、それなりの付き合いもあり為人も知っている間柄だ。

以前から得体の知れない部分は見受けられたが、何度も助けられたのも事実。

彼の全容を知りたいという願望もあったが、今は眼前の難事に集中する時だ。

腑に落ちないものを感じた同期戦士だが、身構えながらも状況の注視に専念する。

 

途中、好奇心旺盛な妖精弓手から『ロスリック』について質問攻めにされたが、後で話すと今は受け流しておいた。

 

「フ…、世…乱れる時、勇者現れり。私と貴様は、戦う運命にあったのだ」

 

「私を討とうとする人間には、全て我が剣で応えるのみ――」

 

「――ならば応えて貰おう。戦技…鬼斬り(おにきり)…!」

 

 優雅に近付きながらも、唐突に始まる二人の死闘。

黒い手のカムイは手にした二刀で、灰の剣士へと襲い掛かった。

 

――こ…これは…気配が、ソウルが読めぬ…。

 

黒い手のカムイが放った戦技『鬼斬り』には、若干の知識を経験があった。

あの火継ぎの時代(ダークソウル3)、ロスリック城『大書庫』にてカムイ率いる3人の黒い手と戦い勝利を収めていた、灰の剣士。

やはりリーダー格とも言えるカムイの実力は、ずば抜けており彼の放つ戦技『鬼斬り』には随分手を焼かされたものだ。

だが今カムイが放った戦技『鬼斬り』は、彼の記憶している当時の技とは何もかもが違っていた。

 

あの時は、単純に跳躍しての飛び掛かり斬りだった。

高く跳躍し、相手の意表を突きながら二刀で掻っ捌くように斬り捨てる必殺の一撃――。

それが灰の剣士の知る『鬼斬り』と呼ばれる戦技――。

 

しかし今カムイが放った鬼斬りは、彼の知らない動きを以て仕掛けていた。

 

カムイが戦技を行使した瞬間から、掴み所の無い緩急織り交ぜた動きを繰り返し、灰の剣士を包囲しつつも徐々に迫り来る。

宛ら分身したかの様な感覚に見舞われたが、ソウルを感知すれば()()は容易い筈だ。

だが、幻にも似た幾人ものカムイの姿からは、()()()()()()()()を感知してしまうのである。

これでは本体が誰なのか特定は困難だ。

 

「なんだなんだぁ?分身の魔法…いや、技なのか…あれ…?」

「一つだけ言えるのは、さっきの刺客なんかよりも遥かに手強い相手だというのは確かよ」

 

 どうやら第3者の視点から静観している同期戦士たちにも、カムイの動きを掴めてはいない。

そして妖精弓手は、カムイが桁外れの実力者である事を認め何時でも動けるように努める。

 

『世界は広し。実に多様性の宝庫であり、我が戦技も更なる磨きが掛かった。変化と進化を迎えた我が戦技…恐怖は荒ぶる感情へと繋がり、敵に容易に間合いを悟らせてしまう。感情を制御した私に恐怖はなく、我が間合いを掴む事は出来まい』

 

灰の剣士の視界には、幾重にも連なるカムイの姿が映し出され、分身は周囲を取り囲みながらも翻弄を図る。

そして全周囲から聞こえて来るカムイの言葉――。

 

「……」

 

 言葉と姿に惑わされては、彼の思う壺だ。

灰の剣士は敢えて目を閉じ呼吸を整える事で、可能な限り感覚を研ぎ澄ませた。

 

「――ッ!!」

 

 次の瞬間――!

刃と刃が重なり、一瞬だが火花を舞い散らせた。

 

「…ほぅ」

 

 死角…つまり、灰の剣士に対する後部上方からの奇襲は、見事防がれた。

 

カムイの放った改良式の『鬼斬り・誘幻(おにきり・ゆうげん)』と呼ばれる戦技――。

質量とソウルを備えた分身体で敵を取り囲み、感情の揺らぎを誘発させる事で隙を誘い出す。

そして隙が生まれた瞬間を見定め、必殺の跳躍斬撃(鬼斬り)にて敵を屠る。

修練を重ね、四方世界という新たな時代に合わせ、研鑽の末に生み出したカムイの成果であった。

尤も、今その成果は不発に終わってしまったのだが。

 

気配とソウルが読めないのであれば、僅かな()()()()()()()で見分けるしかない。

下手な視覚は却って命取りとなる。

そう判断した灰の剣士は目を閉じ、感覚と聴覚を最大限に生かす事で、カムイの攻撃を見極めたのであった。

 

改良を重ねた戦技は防がれ、僅かながらも感嘆の息を漏らすカムイ――。

 

「――せッ!」

 

 だが戦技は防がれ、ほんの少しの硬直を生み出してしまう。

灰の剣士は好機と見なし、カムイ目掛け瞬速の斬り上げを見舞った。

 

「――ぬんッ!」

「――ぐッ…!?」

 

 彼の反撃だが、カムイを捕らえる事はなかった。

逆に彼の胸部には鋭い斬撃が奔り、数歩後退ってしまう。

彼の反撃の瞬間、カムイはカウンターの斬り下がりで更なる反撃に移っていた。

カムイの斬り下がりは、幸いにも鎧の胸甲で止まり痛痒は負っていない。

しかしカムイの戦闘力は計り知れず、戦技を凌いだからといって優位に立てる訳でもなかった。

 

「――今こそ刮目せよ!我が戦技の神髄、『双刃空舞(そうじんくうぶ)』…!!」

 

 斬り下がる事で一定の間合いは離れ、カムイは未知なる戦技を繰り出した。

縦横無尽に二刀を振り回す事で、無数の刃とカマイタチが周囲に巻き起こる。

攻撃範囲自体は狭いものの、触れようものなら一瞬でズタズタに斬り裂かれるのは容易に判断できる。

 

「今度は何だ、小さな竜巻じゃねぇか…!」

 

 同期戦士たちは、目元を庇い巻き起こる風圧に耐え忍ぶ。

そして彼の例えは的を得ていた。

実際カムイの周囲には狭くも強烈な風圧で、茂みの切れ端が舞い散っていたからだ。

カムイの繰り出す新たな戦技『双刃空舞(そうじんくうぶ)』が、灰の剣士へと徐々に迫り来る。

 

無数の刃と大気を引き裂くカマイタチ――。

 

その刃の大群に対し、彼は回避と打ち刀を駆使し凌いだ。

二刀の刃を躱し、カマイタチの刃を防ぎ、時には足裁きで位置を変えながら次々と怒涛の乱舞に抗してゆく。

両者の激しい攻防に、耳を劈かんばかりの金属音と火花が、月光照らす夜を不釣り合いな程に染め上げた。

 

「――そこぉッ…!!」

 

 突如、灰の剣士が叫び声と共に上段蹴りを放った。

斬撃の嵐の中に蹴りを入れ込むなど、自ら脚を切断されに行くような愚行。

しかし、()()()()()()()()()()も重なっている。

灰の剣士は、上段蹴り上げ――。

カムイは、後ろ蹴り上げの姿勢で、互いの脚を十字(クロス)に重ねていたのである。

そこで両者は一旦動きを止めた。

 

「…本命の一撃を躱した男は、貴様が初めて。…だが、何時まで逃げ切れるかな?」

 

 この『双刃空舞(そうじんくうぶ)』と呼ばれるカムイの戦技。

一見無数の乱舞だが、実は全て擬態の攻撃――。

確かに乱舞は強力な高等技術だが、対応できる戦士は居るものだ。

そんな技など巷に存在し、多用する者も多く奥義の域に値するかも怪しい技ともいえる。

しかし乱舞は派手な見た目に加え、当たれば確かに致命傷を与え得る強力な攻撃法でもある。

況してやカムイの放った乱舞は、斬撃だけでなくカマイタチまで織り交ぜていた。

当然、向けられた相手は異様に警戒し意識は乱舞に集中するものだ。

そこでカムイは一計を案じ、()()()()()()()で斬り付ける攻撃法を考案した。

意識から外れた意表を突く攻撃は、見事相手の急所を捕らえ、今日まで対峙した敵を討ち取ってきた歴史を持つ。

今の今まで、脚に仕込んだ刃による一撃を躱せた戦士は一人たりとも居なかった。

 

だが本命とも呼べる一撃は、灰の剣士が今退けてみせた。

その事実を抵抗なく受け入れるカムイ。

しかし、技の応用など幾らでも効くものだ。

動作を変え、思わぬ一撃を加える術など歴戦の戦士なら土壇場で編み出してしまう。

それが戦場というもの。

今の戦技は躱されてしまったが、カムイは何ら動じることなく再び間合いを図る。

 

「貴公は先程、世界は広く多様性に満ちる…と言っていたな。…今度は私が、それを証明してみせよう」

 

 反撃の態勢を執る灰の剣士。

打ち刀の刀身には、幾重にも嵐が纏わり付いていた。

 

「…狭間の地に由来せし戦技『嵐の刃』だな?…残念だが既に承知済み、私には通用せんぞ?」

 

 灰の剣士が行う戦技を嵐の刃である事を見破るカムイ。

その戦技の由来が『狭間の地』だという事は、カムイの知識にも備わっており特性も把握していた。

 

「それはどうかな?」

 

 何やら考えがあるのだろうか。

カムイと同じく、灰の剣士も動じてはいなかった。

彼は構わず刀身にソウルを集中させ、嵐を肥大化させてゆく。

 

「――フンッ…!せぁッ…!」

 

 そして透かさず刀を振るい、刀身から嵐の弾丸が射出された。

 

「――ぬッ…!?…バカな…、桁違いの弾速だ…!」

 

 カムイ自身、嵐の刃という戦技も狭間の地と呼ばれる異界についての知識も若干ながら有している身だ。

そして嵐の刃は、刀身から嵐の弾丸を飛ばす戦技である。

その判断は正しく、彼の知る通り、嵐の弾丸は彼に飛来した。

しかし、回避は疎か防御すら出来なかった。

 

余りに弾速が違い過ぎたのだ。

 

結論から言えば、尋常ならざる弾速が彼に襲い掛かった。

防御に専念しなければ見切れない程の、爆発的な速さを誇る弾丸速度――。

それが今、2発だがカムイの両肩部を捕らえる。

衝撃と斬撃を兼ね備えた嵐の弾丸は、彼の肩甲を斬り裂き同時に吹き飛ばした。

 

「…クッ、私の知っている嵐の刃ではない…!何をしたのだ、貴様ッ…!?」

 

 思惑は完全に外れたという事なのだろう。

思いもよらぬ痛痒を負い、カムイは数歩後退る。

 

「貴公と同じ。私も既存の戦技に独自の改良を加えた迄…それだけだ…!」

 

「――ぐヌッ…!」

 

 カムイが嵐の刃を知っているのなら、ただ繰り出すだけでは難なく躱されてしまうのは必至。

またカムイは、従来の戦技『鬼斬り』に改良を加え『鬼斬り・誘幻』という技へと進化させている。

それを灰の剣士も実践したに過ぎないのだ。

 

「便利な技ゆえ、かなり使い慣れていてな。こういう事も出来るようになった。――フッ、セッ、はッ…!!」

 

 嵐の刃は、嵐の弾丸を飛ばすという単純な技でいて汎用性も高く、彼の中で使用頻度は高かった。

同時に技を使い続けるという事は、その弱点や改良点に気付き易くなる表れでもある。

そこで彼は、秘かに修練を重ね嵐の刃をより自分用へと改良を加えていたのであった。

 

彼は追撃とばかりに更なる数発の嵐の刃を繰り出す。

 

放たれた弾丸だが、今度は軌道を曲げ緩やかな円を描きながら、カムイの側面に炸裂。

また別の弾丸は、矢の如き鋭さでカムイの胸部を穿つ。

更に別の弾丸は、扇状に拡がりカムイ全体を覆い被さる様に、風圧を以て激突。

低速ながらも破壊力に優れた弾丸――。

高速で貫通力に優れた弾丸――。

射程距離を犠牲に、効果範囲を拡大させた弾丸――。

あるいはその逆――。

時に軌道を曲げ、時に特性を変化させ、嵐の弾丸は様々な姿でカムイを攻め立てた。

 

「抗する事も出来ぬ焦燥感は、貴公の恐怖を生み出す。もはや私との間合いも図れまい…!」

 

 カムイと同じく灰の剣士も戦技に改良を重ね、それを繰り出し反撃。

彼の反撃に、カムイは成す術もなく防戦一方へと追いやられた。

 

「…ぐぅ…ハァ…ハァ…!――しまったッ!?」

 

 立て続けに弾丸を食らい荒い呼吸を繰り返すカムイの視界には、灰の剣士が迫る。

 

「――隙ありッ!」

「――ぐぉッ…!」

 

 気が付いた時には最早手遅れ。

灰の剣士に間合いを詰められ、カムイは鋭い一撃を受けてしまう。

辛うじて二刀による防御には成功したものの、衝撃を真面に受け吹き飛ばされた。

 

「――せぁぁッ…!!」

 

 間髪入れず灰の剣士は距離を詰め追加の刺突を、転倒したカムイへと向ける。

 

『――か、カムイ様っ…!』

 

「――勝負あったわね…!」

 

 その様子に、カムイの側近の一人が身を案じ声を上げる。

また戦いを静観していた妖精弓手も、決着が付いた事を確信した。

 

「……」

「……」

 

「……ふ、甘いな。なぜ今の一撃で止めを刺さぬ…?」

 

 だがカムイは健在だった。

灰の剣士が放った刺突は、カムイの顔面を逸れ地面へと突き刺さっている。

カムイは悟っていた。

灰の剣士が故意に外した事を――。

その真意をカムイは訪ねる。

 

「ならば問う。何ゆえ貴公の剣には、殺気が無い?」

 

「……ふ、見抜かれていたか。流石は薪の王……!」

 

 毒気が抜けたかのように、黒い手のカムイは緊張を解く。

その様子を見届けた灰の剣士も、刀を鞘に納め戦闘態勢を解いた。

 

「貴方と接触できる瞬間を待ち侘びていた。改めて名乗ろう。私は王の黒い手のカムイ。ロスリック王族を守護するのが使命だ」

 

 カムイには、もう敵意は無かった。

まるで昔からの知己であるかのように振舞い、自身の名を改めて名乗る。

 

「これまでの非礼を許して頂きたい。ただ身命を賭さねば、貴方の実力が推し測れなかった」

 

 カムイが態々同士討ちをしてまで、灰の剣士へと挑んだ理由――。

それは彼の力を確かめる為で、カムイの集団と男の調香士率いる刺客部隊は同じ陣営で間違いは無いようだ。

しかしそうまでするには、深刻な理由がある筈だ。

灰の剣士は、カムイに真意を問う。

 

「監視の緩んだ時間は僅かゆえ、手短に話す。ローリアン王子を救出したい。妖王オスロエスの手から――」

 

 カムイには監視の目が行き届いているらしく、こうして接触できる時間も限られているという。

同じ陣営だが、かなり厳しい立場に追いやられている様だ。

そんなごく限られた状況下、彼は監視の目を掻い潜り灰の剣士へと接触を図った次第であった。

 

「――ローリアン王子…やはり、この世界に。そして妖王オスロエスまで健在とはな…」

 

 太古の火継ぎを再現させるため、薪の王たる資格者を玉座に連れ戻す。

それが嘗ての時代(ダークソウル3)、火の無い灰である灰の剣士の使命でもあった。

名だたる薪の王を玉座へと連れ戻し(殺し薪となった彼等を持ち帰る)、いよいよ最後の薪の資格者たる『血統の末ロスリック』を玉座へと連れ戻すべく、ロスリック最奥である大書庫へと乗り込んだ。

その更に奥深く進んだ場に、ロスリックと双子の兄であるローリアンは待ち構えていた。

彼等は双子の兄弟で、薪の王に成る事を拒み大書庫へと引き籠っていた。

ロスリックを連れ戻そうとする火の無い灰(灰の剣士)と、それに抵抗するロスリック王子。

両者の主張は食い違い、当然のごとく死闘へと発展する。

その戦いで、双子の兄であるローリアンは彼の剣として立ちはだかっていた。

同時に、彼には悍ましい呪いにより歩く力と言葉を話す能力を消失しており、全盛期の力が大きく欠落していた。

だがそれでいてローリアンの力は強大で、何度も敗北を喫した事をよく覚えている。

 

そんな兄王子ローリアンは、現在オスロエスに囚われているという事だった。

 

灰の剣士は以前、魔術師の世界と呼ばれる異界に召喚され、ロスリック王子からローリアンを託されていた事を思い出す。

その時、本人から『ロスリックの聖剣』を預かり”ローリアンに届けてほしい”とも頼まれていた。

(イヤーワン編 第45、48話参照)

 

また、ロスリックの先王であるオスロエスの存在まで判明し、灰の剣士は思考を泳がせる。

 

「我ら黒い手は確かに王族を守護する身だが、あくまで双王子に対してのみだ。あの狂いし妖王に非ず…!」

 

 カムイを含めた黒い手は3名存在し、守護する対象は双王子である。

白竜シースの研究に没頭した末、悍ましい実験に明け暮れた末に自身まで異形と化した、あの狂った先王などでは断じてないのだ。

そして件のローリアン王子だが、今は狂った妖王オスロエスの手中にあると言うのだ。

 

「私もロスリック王子から、同様の依頼を受けている。オスロエスに囚われているという事は、あの『妖王の庭』に居るという事か?」

 

「――何っ!?ロスリック王子は、ご健在なのかッ!?」

 

 彼の質問に答える処ではない。

感情の制御に長けたカムイには珍しく、感情を大きく乱れさせた。

 

「その通り。ここ四方世界ではなく『魔術師の世界』と呼ばれる異界だがな。そこで彼と出会い兄王子ローリアンの事を案じていた」

 

 情報を提供して貰いたいのだが、カムイを落ち着かせない事にはそれも期待出来そうにない。

灰の剣士は、魔術師の世界とロスリック王子に関しての現状を知りうる範囲で明かす。

 

「…そうか。ロスリック様は御存命であられるのだな。そして祭司長エンマ様も…」

 

 現在のロスリックたちは、魔術師の世界にて平穏な生活を営んでいる。

小城にも比肩する城館に身を寄せ、多くの部下達に守られながら――。

それを聞いたカムイは、気を静め安堵の表情を浮かべた。

ここに来て初めて、彼は真に心を落ち着けたに違いない。

 

「おっと済まぬ、質疑への返答だったな。残念だが、あの妖王の庭は今や拠点の一つに成り下がった。拠点は幾つも在り、現在は『深みの聖堂』が主な活動拠点だ」

 

 幾分心が和らいだ事で、カムイは思い出したかのように灰の剣士へと答えを返す。

オスロエス率いる組織だが、ロスリック城下層部にある『妖王の庭』は最早活動拠点の一つに過ぎなかった。

また拠点は大小複数点在し、現時点での最大拠点は『深みの聖堂』の一角に構えていると、カムイは語る。

 

「深みの聖堂か…。確かにあの施設は潜伏するのに都合が良い。他にも共存共生しているのだろう?邪悪な組織が」

 

「その通り。ロンドール黒教会を含め、様々な邪教徒や反政府組織の温床と化している。嘗ての『白教総本山』は見る影もない」

 

 灰の剣士たちがロスリック不死街を戦い抜き、幾許かの期間が経過していたが、カムイの証言を基にすれば深みの聖堂まで他の冒険者の調査が行き届いていない事を示唆していた。

深みの聖堂だが、相当な立地面積を誇り区画も多い。

遥か昔だが、深みの聖堂は元々白教を信仰する総本山でもあったという。

だが火継ぎの時代には既にその様な面影などは無く、深みの主教たちが居座る一大拠点と化していた。

 

そしてそれは現在も変わらず、幾つもの心無い組織が巣食っているとの事。

()は邪教を崇める教団に始まり、()はロンドール黒教会や現王国の反政府組織まで――。

 

「そうだったのか。今手を貸してやりたいのは山々だが、私も重要な任を帯びている身だ。だが何れは必ず、ローリアン王子との接触を図ろう。それがロスリック王子との依頼だからな」

 

「――ああ、頼む!そう多くはないが、まだ猶予はある。貴方が深みの聖堂に訪れた時、また会おう。…ありがとう、ロスリック様の所在を教えてくれて」

 

 カムイの言によりローリアンとオスロエスの存在は明らかとなった。

出来得るなら今から行動を起こしたいが、灰の剣士も冒険者である以上、実に様々な勢力から接触を図られている立場だ。

今直ぐに、カムイやロスリックの願いを叶える事は不可能。

しかし彼等の依頼を蔑ろにする気もなく、いずれ必ず深みの聖堂へ挑む意思を伝えた。

それを聞いたカムイも深く頷き、再び接触し協力する旨を告げる。

 

「…フッ…。あの時は敵同士、況してや今の様に言葉を交わす事など想像もつかなかったな」

 

「全くだ。時代が移り変わった事を嫌でも実感させられる。もう、当時の古い価値観など不要なのやも知れぬ」

 

 灰の剣士と黒い手のカムイ――。

大書庫では互いに敵同士として死闘を繰り広げ、言葉を交わす事など想像だにしていなかった。

しかし今はどうだ?

嘗ての敵は、こうして言葉を交え両者とも笑みさえ浮かべている。

二人の間に敵意など完全に消失していた。

 

「…ん?アレは、カタリナの騎士…か。去る前にもう一つ告げておこう」

 

 ふとカムイは別の方へと視線を向ける。

その先には、10名を超える集団が此方を窺っていた。

そこそこ遠間だが、その中にカタリナの騎士ジークバルドの存在を認めたカムイ。

そろそろ立ち去る頃合いだが、その前にカムイはもう一つ置き土産を残す事にした。

 

「薪の資格者の一人にて巨人の王『ヨ―ム』だが、魔神軍…つまりサリヴァーン側に囚われている。罪の都には居ない」

 

「そうだったか。分かった、ジークバルドには伝えておこう」

 

 思わぬところで『巨人ヨ―ム』の存在を明かされ、ジークバルドへ伝える事にした灰の剣士。

巨人の王ヨ―ムは、薪の王の資格者の一人で、ロスリック地下深くの滅び去った『罪の都』を故郷としていた。

ジークバルドは、盟友でもある巨人ヨ―ムの所在を確かめる為に、罪の都へ到達する事を目的としていた筈だ。

しかしカムイの言から、巨人の王ヨ―ムは罪の都ではなく魔神軍に問われている事が判明する。

これは、ジークバルドにとって非常に有益な情報となるだろう。

 

「さて、監視の目も戻る時間帯だ」

 

「待ってくれ、最後に一つだけ。貴公の組織の中に、()()()()()()()は居なかったか?」

 

「――居る。奴だけではない。あの()()()()()も、我々とは異なる異界の住民で獣の魔神軍ではなく此方の所属だ。奴等には気を付けろ。貴方に宿る『王のソウル』を突け狙っている」

 

「……そうか。有益な情報、感謝する」

 

「…また会おう…!」

 

 去り行こうとするカムイだったが、不意に灰の剣士が呼び止め気になる情報を更に引き出せた。

 

あの仮面の錬金術師と教会の狩人に関係した情報だ。

先ほどの刺客の中に数名だが錬金術士も含まれており、彼等の服装だが仮面の錬金術師との共通部分が散見されていた。

灰の剣士は戦闘中でも気になっており、カムイに訪ねてみたのだが、どうやらそれは正解だった様だ。

更には教会の狩人の素性も、ある程度だが得る事が叶う。

そしてオスロエスの組織は、灰の剣士に宿る『王のソウル』に狙いを定めている事もカムイは告げた。

 

必要な事は可能な限り伝えたカムイ。

些かに呆然となる灰の剣士を背に、彼は部下達を引き連れ忽然と姿を消し去った。

 

「……お、おい、大丈夫か?アイツ等、敵じゃなかったみたいだが…?」

 

 カムイたちの居ない場を見続ける灰の剣士に、同期戦士たちが恐る恐る声を掛けて来た。

因みに少女野伏の大腿部は、既に治療済みで傷は完全に塞がっている。

 

「ああ、大事ない。そちらも無事で何よりだ」

 

 幸いにも同期戦士たちに被害は及んでいない。

 

「なぁ、アイツ等ロスリックの関係者らしいが、敵と同じ陣営なんだろ?」

 

「……その通り。だが一つだけ言えるのは、向こうも一枚岩ではないという事は確かだ」

 

 同期戦士が懸念を示すのも分かる話だ。

男の調香士が率いた刺客側と、黒い手のカムイの集団は、基本同じ組織に所属している。

その事実は誤魔化しようもなく、彼らは不安と不信感を募らせていた。

その不信感を払拭させたい訳でもないが、灰の剣士は敵側にも様々な思考の持ち主が居る事を告げる。

 

「例のロスリックの遺跡の事ね?太古に存在し壊れた文明跡だと思ってたけど、まさか住民が居るって言うの?」

 

 ここで妖精弓手も話に割り込んできた。

好奇心旺盛で冒険というものに、一種の憧れと幻想を抱いている彼女だ――。

この国最大の遺跡群にして最も謎に包まれている『ロスリックの遺跡群』に、興味を示さない筈はないのだ。

 

「…そうだ。国家としては完全に機能消失しているが、あの城には未だに一族たちが存在し続けているのは明らかとなった」

 

 灰の剣士が指摘する通り、ロスリック城には今もオスロエスを始めとした住民が居座っている。

不死街攻略から幾許かの時間が経過したが、幾人かの冒険者はロスリック城へと乗り込んだ事だろう。

しかし目新しい情報は、このギルドには届いていない。

その事実から察するに、情報統制による隠ぺいなのか、高確率で犠牲となったのか、どちらかだ。

だが先程、黒い手のカムイが率いていた部下らしき人物達は、冒険者を思わせる装備構成だった。

――ともすれば、少数ながら彼に協力している事も考えられる。

妖王オスロエスまでもが、この四方正解に流れ着いていたのは驚きだが、彼に反骨する一派も少なからず存在していたのは朗報とも言えた。

上手く立ち回れば、強力な味方となる事も期待できる。

 

「おっと、アレはご領主様だな?コッチに来るみたいだし、俺達はそろそろ行くぜ。まだ仕事は残ってるんでな」

 

「ああ、気を付けてな。主たる手練れは大方排除したと思うが、まだ油断は出来ぬ。…あ、ちょっと待ってくれっ…!」

 

「ん、どしたい?」

 

 彼等にある程度状況を説明した最中、今回の依頼人であり護衛対象である国王率いる集団が此方に近付いて来る。

その集団の中に司祭長を兼任する領主を見付けた同期戦士たちは、この場を去る事にした。

下手に長居し、王統府側との余計な接触を避けたかったのが本音だ。

彼等も依頼を受け、森人側の要人警護という任を授かっていた。

正確に言えば、上森人である妖精弓手が直接依頼を受けており、同期戦士と少女野伏は付き添いに近い形で協力していただけだ。

そして半森人女剣士は、冒険者を希望する若者でもあった。

 

しかし直前で、灰の剣士から”待った”の声が掛かる。

一体何事なのかと同期戦士たちは怪訝に思ったが、ここで灰の剣士が先ほど仕留めた錬金術士たちから腕輪らしき物を拾い上げ、幾つかを同期戦士たちへと手渡した。

 

「この腕輪って、あの錬金術士たちが身に付けていたもの?」

「うげぇ、コッチは血が付いてる。一体何?何の効果が有るって言うのよ?」

「なんか高そうな品だから、売ればお金になるとは思うけど…」

 

 少女野伏、妖精弓手、半森人女剣士は、その腕輪を受け取り其々の感想を抱く。

 

「そう言えばアイツ等、腕輪で風を起こしていたな。つまりコイツは魔道具(マジックアイテム)ってやつか!?」

 

 彼等に襲い掛かった男の調香士率いた刺客たち――。

調香師の側近らしき数人は錬金術士で、各自が腕輪を使い風向きを操作していたのを思い出す。

同期戦士が推察する通り、この腕輪は魔道具(マジックアイテム)の類で呪文の効果が封じられていた。

 

「風を起こすだけの単純な効果だけど、戦士の人たちにとっては色んな使い道があるかも…って、これ凄く高くない、剣士さん!?」

 

 若干サイズは緩めだが、少女野伏は既に腕輪の価値に気付いていた。

魔法を封じた道具の事を魔道具(マジックアイテム)と呼び、呪文を封じたスクロールなどが主な代表格とも言える。

しかし誰でも使える代わりにスクロールは、一度封を解き発動させてしまえば消滅してしまう一度きりの消耗品だ。

尤もそのスクロールでさえ、希少品で売れば相当の値段の付く代物。

そしてこの腕輪は、使い方にもよるが効果を発動させたからといって消滅する事もなく、何らかの方法で魔力を注入すれば再度使用が可能となる代物であった。

呪文使いでさえこれを駆使すれば、使用回数が限られている呪文を温存する事が叶う。

況してや呪文に縁遠い戦士職が所持しておけば、任意で魔法が発動できるのだ。

一応使用回数は限られているが、回復させる手段も存在しているのは非常に大きい。

考えようによっては、この腕輪は相当の値打ち物と言えるのではないだろうか。

少女野伏は目を見開き、改めて腕輪に釘付けとなる。

 

「これには見覚えがあってな。これは『コア・クリスタル』と呼ばれる古代の錬金秘具なんだそうな。ライザの話によればな。…今から使い方を説明する」

 

 灰の剣士から、腕輪の正体は『コア・クリスタル』と呼ばれる魔道具である事が明かされる。

この国にも幾つか存在しているらしく、実はライザの国(ロステヴァッサ王国)では多く見付かるらしい。

彼は更に説明を続け、腕輪には確かに水晶(クリスタル)らしき部分が見受けられた。

元の現物は何だったのかは定かではないが、錬金術で加工し使いやすい腕輪状に変化させたのだろう。

 

「この水晶部分に秘密があってな。実はこうする事で……御覧の通り、風の呪文を封じ込めたスクロールの登場だ」

 

「「「「お…おおっ…!?」」」」

 

灰の剣士は、腕輪の水晶部分に手を当て念を込める。

すると水晶部分が一瞬だけ発光し、彼の手元には風の呪文を封じたスクロールが現れた。

しかもまだ未開封の状態だ。

その現象に、同期戦士たちは目を白黒させる。

 

「このコア・クリスタルという錬金秘具は、道具(アイテム)を封じ込める事で効果だけを発現させる事ができる。しかも封じたアイテムは、消費する事がない」

 

「つ、つまりは何だ…。その…呪文を封じたスクロールを其処へ封じ込めれば、何度でも使用できるって事か…!?」

 

「そういう事だ。まぁ無限…っと言う訳にもいかなくてな。この水晶にも魔力とは異質のエネルギー…つまりソウルが存在する。それが続く限り、使用可能だ。無くなれば当然効果は発動しなくなるが、回復手段はあるみたいだな。まぁこの辺りはライザやルルア嬢の方が詳しいか」

 

 彼の説明に同期戦士は半ば興奮気味に問いかけ、彼も把握している範囲で応える。

現に、風のスクロールが封じられており、錬金術士たちが何度も行使していたのだ。

それが明確な答えでもあった。

 

「ね…ねぇ、もしかしてだよ!?もしも『転移』のスクロールを封じれば…!?」

 

「そうなるだろうな。まぁ肝心の転移のスクロールを入手する事から始めないといかんか」

 

「「「ハハハ…」」」

 

同期戦士に続き、半森人女剣士も食い付く形で灰の剣士へと質疑をぶつける。

こうして風の魔力を何度行使してもスクロール自体消失していないのだ。

転移のスクロールを封じ込めれば、何度も効果を発動できるという事にも繋がる筈だ。

尤も転移のスクロールそのものが、数あるスクロールの中でも最高位に希少価値の高い代物で、先ず入手する事自体が困難極まりないのだが…。

その事実を告げられ、同期戦士たちから苦笑いが起こる。

 

「幸い人数分あるから好きに使えばいい。このまま野晒しで腐らせるには、惜しい代物だ」

 

「そうだな。本当に今回は助かったぜ。俺達だけじゃ、絶対勝てない相手だった。じゃあ、今度こそ行くぜ」

 

「お互い様だ。貴公らの力も充分アテにさせて貰った。また会おう」

 

「ええ、また何処かで会いましょう。ミスマゴール」

 

 全員分のコア・クリスタルを受け取った同期戦士たちは、今度こそ現場から立ち去った。

その間際、妖精弓手は灰の剣士の事を奇妙な渾名で呼んだ。

 

「ん…?ミスマゴール…?どういう意味か…?」

 

「エルフ語の直訳で、『灰色の剣』て意味よ。ミスは灰色、マゴールは剣あるいは剣士。ミスマゴール…直訳とはちょっと違うけど『灰の剣士』って事、オーケィ?」

 

「奥が深いな、エルフ語というのは…。では…またな…!」

 

 妖精弓手からの奇妙なエルフ語について解説され、彼等は姿を消した。

濃い茂みの群生地には、灰の剣士と彼等が討ち屠った敵の遺体のみが残される。

 

「コア・クリスタル…。『女神の祝福』を封じれば……試す価値はあるな…!」

 

 最後に自分用に取っておいた腕輪状のコア・クリスタルを手に、灰の剣士は思案を巡らせた。

一度口にすれば、如何なる状態異常であろうと致命傷であろうと瞬時に復活させる効果を有す『女神の祝福』と呼ばれる神秘の聖水。

あの道具も非常に希少価値が高く、既に製法も失われた代物だ。

封じた道具を消失させる事なく、効果のみを発動させる事の出来るコア・クリスタルと組み合わせれば、どうなるか。

上手くいけば、女神の祝福自体を失う事なく使い続ける事も可能なのではないか。

…あまりに都合の良過ぎる妄想にも等しいが、試してみる余地は充分にある。

(ついでだが調香師の残した『調香瓶』と調香薬の詰まった『調香鞄』も、ちゃっかり回収しておいた)

 

思わぬ所で秘かに欲していた戦利品が手に入り、灰の剣士は近付きつつある王統府の皆を迎える姿勢を執った。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

戦技・鬼斬り

 

前方にふわりと跳び、二刀で傷を開くように切り捨てる。

単純だが、意表を突いた跳躍の斬撃は必殺の威力を誇る。

 

戦技・鬼斬り(誘幻)

 

従来の戦技『鬼斬り』に改良を加え、隙を突く事に長けた戦技。

ソウルを帯びた幻影で、相手を包囲し翻弄。

意識の乱れを生み、隙を目掛け『鬼斬り』を見舞う戦技。

 

時代は変わり行き、戦技もまた然り。

変わらぬ姿を重んじるは伝統であり、同時に停滞でもあった。

 

戦技・双刃空舞

 

『そうじんくうぶ』と読む。

類まれなる速度で縦横無尽に斬撃を見舞う戦技。

一見ただの乱舞だが達人が振るう事で、刃だけでなくカマイタチまでもが発生する。

斬撃とカマイタチの同時攻撃は確かに必殺の威力を誇るが、実は擬態。

本命は、刃仕込みの蹴りにある。

大抵は派手な乱舞に意識が向き、初見で刃仕込みの蹴りを見切った相手は居なかった。

 

修羅の道を行こうとも使命を果たす。

彼にもサムライの血が流れていた。

 

 

 

 

 

 




黒い手のカムイが放った戦技・鬼斬り誘幻と双刃空舞はオリジナル。
ゲームには存在しません。

如何だったでしょうか?
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。  
デハマタ。( ゚∀゚)/
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