ゴブリンスレイヤー ―灰の剣士―   作:カズヨシ0509

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ドーモです。
何とか仕上がりましたので投稿いたします。
漸く花粉も収まり、過ごし易くなってまいりました。
では投稿致しますドゾ。( ゚ ω ゚ )


第124話―赤と黒・柱と空―

 

 

 

 

 

 

追風・精霊魔法

(風の乙女(シルフ)乙女(シルフ)、接吻おくれ。わしらの船に幸ある為に)

 

任意の対象物および乗り物の移動速度を速める魔法。

空気の淀んでいない地形なら大抵の場合、風の精霊は宙に宿っている。

故に触媒も、風そのものである。

 

移動手段の確保、地味だが決して軽視できる要素ではない。

目的地へ早期に辿り着く。

時には、僅かな時間差が運命を分ける事もあり得るのだ。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 アレは間違いない。

鼓膜どころか脳幹さえ破壊しかねない程の大音量――。

そして、忘れようもない独特の音色は今も彼の記憶に刻み込まれている。

突如として響き渡る鐘の音――。

余りの大音量の為、周囲は思わず耳を塞ぎ身を屈める者さえ居た。

 

――何ゆえ今頃に…!?

 

館から飛び出した灰の剣士は、脇目も振らず『火継ぎの祭祀場』へと直走る。

正門は閉ざされていたが、彼は壁蹴り(キックジャンプ)の要領で防壁を乗り越え敷地内を脱出。

鐘の音で混乱する守衛など歯牙にも掛けず、目的地を目指した。

 

火継ぎの祭祀場から鳴り響いた鐘の音。

本来、火の陰りを報せる為に鳴り響く筈だ。

ドラングレイグにて使命を果たした彼は、その鐘で石櫃から目覚め新たな旅路(ロスリック)を始める切っ掛けとなった

 

時は流れ行き時代と世界は大きな変革を遂げた。

火の陰りという死と深みの蔓延る時代は、とうの昔に終えたのだ。

何故なら彼自身が、最初の火を消し彼の時代に終止符を打ったからだ。

そして今在るのが生命溢れる、この()()()()――。

突如、異空間から現れた火継ぎの祭祀場。それのみならず、今になり鳴り響いた鐘の音。

もう最初の火は無く、今は『二度目の火』が四方世界の何処かで宿っているという。

 

――()()()()()()()、というのかッ!?

 

役目を終えた筈の火継ぎの祭祀場。今は、もう機能しない筈の古びた遺跡。

それが今頃、息を吹き返したとでもいうのか。

疾走しながらも彼は、ふと空模様に視線を向ける。

…覚えがある…と言うよりも()()()()()()()だ。

あの時と同じ――。

火の陰りと共に、()()()は次第に色褪せ()()へと鈍り行く。

特にロスリックでは、その模様は顕著だった。

様々な感情が彼の心を掻き乱す。

とにかく確かめなくては――。

 

どの様な仕掛けで鐘が作動するか判明すらしていない、あの祭祀場には未だ謎は多い。

正直現場に向かった処で、何かが解明できるのかも疑わしいものだ。

しかし彼は一心不乱に祭祀場の鐘楼部を目指す。

 

道中、補修工事に携わっていた作業員たちが視界に映った。

彼等も混乱し、とても作業どころではない。

鼓膜を蹴破らんばかりの鐘の音だ。

鐘楼部眼下に居た彼等は、その影響を直に受けた筈。

聴覚に異常をきたしても不思議ではない。

銀髪武闘家の父親である『格闘村民』の姿も確認出来たが、異常な鐘の音を直に聞いたのか耳を抑え背を丸めている。

 

――……。

 

少々気の毒だが、構っている時間さえ惜しい。

彼らの姿を尻目に、灰の剣士は石階段を駆け上がった。

祭祀場内部を経由し螺旋階段を上り古びた昇降機を作動させ、一直線に上部へと向かう。

 

「……」

 

 巨大な釣り鐘のある鐘楼部まで到着した灰の剣士。

もう鳴り止んではいたが、釣り鐘が小刻みに今も揺れている。

やはりこの鐘で間違いはない。

何者かが鐘を作動させたのか、何か魔法的な霊力でも作用したのかは分からない。

しかし重要なのは、鐘が作動した理由だ。

 

   ―― 火の陰りを報せる ――

 

彼の知り得る限り、ソレ以外の理由など考え付こう筈もない。

 

「……」

 

 嫌な考察ばかりが、どうしても頭を駆け巡ってしまう。

そんな思いに駆られながらも彼は鐘楼部から、辺り全域を一望した。

ただでさえ小高い丘の上に存在している祭祀場。更に鐘楼部は一段と高く設けられ、広い視野を確保できた。

 

「…なんだ…アレは…?」

 

 ぐるっと全域を見渡した彼だが、直ぐに異常を見付ける事が出来た。

 

とある方角より、天高く伸びる()()()()()()の様な物が、彼の視界を支配する。

そして柱を中心に、空が異様に赤く黒ずんでおり、それが周囲に拡がりつつあった。

いや、実際今も拡がりを続けているのが分かる。

 

「……」

 

 その異質な光景に彼は言葉を失ったが、更に詳細を探ろうと『遠眼鏡』を通し注視した。

 

「……」

 

 間違いない。

あの方角から天に向け伸びる赤黒い光の柱――。

拡大映像で見れば、光というよりは火柱の様にも見える。

かなり赤黒く暗い火の色で、真面な感性の人間が見れば10人中10人が禍々しいと応えるほどには、気味の悪い火柱だ。

その火柱を中心に拡がる、燻ぶった墨色の如き空――。

褐色を更に黒く塗り潰しかのような空が、当たり一面を支配しているのであった。

 

――本当に火が陰ったのか…?いや、しかし…それにしては…?

 

実際、彼の内心はかなり動揺している。

 

あの悍ましい時代が、()()()()()()()()()()しているのか。

()()()()()()()()()()積み重ねられようとしているのか。

こんなにも早く()()()()()()()()してしまったのか。

 

そんな感情ばかりが、彼の胸中を駆け巡る。

だが、そう判断するのには、何処となく違和感も生じていた。

 

「……あの地点…いや…ロスリック周辺もだ…!」

 

 彼は尚も周囲を見渡し、更なる情報収集を続ける。

 

確かに異様な火柱と空模様は、あの方角を中心に拡がりつつあった。だがそれだけではない。

 

あのロスリック周辺にも、似たような火柱が上がり()()()()()()()()()()()()()()のである。

 

無関係ではない筈だ。

現在、彼はロスリックから離れてはいる為、細かい情報までは仕入れていない。

だが今は、多くの冒険者たちが挑み続け、犠牲を払いながらも徐々に制圧と踏破が進んでいる。その様な報を入手していた。

 

「不思議だ…この近辺だけは、()()()()なのだな」

 

 火の陰りと断定するには、まだ早い。理由はもう一つある。

 

   ―― 此処だ ――

 

この周辺近隣は、未だ()()()()()()()()を纏っている。

 

あのロスリック周辺、そして例の方角――。

今なお、現在進行形で周辺一帯を侵食しつつある、赤黒い火のような空。

今こうして思案している間にも浸食は進み、周囲に影響が広まっているのだ。

まるで火の陰りが最終段階を迎え、今にも世界に死と暗闇が満ち溢れようとしていた、()()()の様に――。

 

しかし、()()()()()()()()()普段と変わらない状態を保っていた。

一体、どういう事なのか?何が起きているのか?

 

「あの方角は確か、王都に繋がる筈だが……」

 

 例の方角より昇る、赤黒い火の柱――。

記憶違いでなければ、王都に連なる方角で間違いは無い筈だ。

では王都にて何か不吉な凶事にでも見舞われたか。彼は更に周囲を深く観察してみる。

 

――そうか…、聖黄金樹…!

 

視点を更に動かし視野を広げてみれば、地母神神殿より黄金の輝きが、遠眼鏡のレンズを通し彼の視界に入る。

心なしか聖黄金樹の輝きは、より一層増している様にも見えた。

あの聖黄金樹の輝きが中心となり、この周辺近隣だけは未だ平常が維持されていたのである。

相変わらず空模様は色褪せ灰色がかった鈍い青色だが、あの赤黒い空よりは遥かに()()()()()を感じさせた。

 

「……」

 

 まだ憶測の域は出ていないのだが、火継ぎの祭祀場…鐘楼部の鐘が作動した原因が理解できた気がする。

 

警鐘を鳴らしてくれたという事か。

何者かが作動させたのか、別の霊的要因が作動しての結果なのか。もうそんな事は然して問題ではない。

いま必要なのは、ロスリックと…恐らくだが王都近域での良からぬ凶事に対抗する()だ。

 

ロスリックと王都付近の凶事――。

その影響を圧し留める聖黄金樹の加護――。

今の彼に出来る事――。

 

――ロスリック…再び挑む必要が生じたな。

 

遠眼鏡から目を離し、彼はロスリックより昇る不吉な火柱と、染まり行く暗い空を見据えていた。

 

それから暫くの後、国王を始めとした皆が彼に追い付く。

 

……

 

灰の剣士に追い駆けて来た冒険者たち。体力に乏しい者は息を切らしていた。

巨大な鐘の釣り下がる鐘楼部にて、国王は言葉を失う。

 

灰の剣士が懸念していた通り、王都にて異変が生じているのは間違い無いようだ。

今も国王は、遠眼鏡を通し例の火柱と終末の如き空を凝視していた。

また此処からなら肉眼でも異様な空は確認でき、嫌でも異常事態だと認識できる。

 

その後、幾許かの時間が過ぎ、王統府は緊急で王都帰還を決断した。

 

「本来なら、卿ら個別に依頼を通達したかったのだが、後日改めて使者を寄越そう」

 

 灰の剣士、ソラール、ジークバルドへと使者を送る旨だけを伝え、彼等は『転移のスクロール』を展開する。

本来なら馬車で帰還する手筈だが、あの様な惨状を見せつけられては悠長に構えてなどいられない。

万が一の想定に備え、彼等は『転移のスクロール』を所持していた。

国の首都でもあり中心部でもある王都――。一刻も早く帰還し、事の詳細を確かめなくては――。

 

「では暫しの別れだ。此度の働き、誠に大儀であった…!」

 

 簡素な労いの言葉を掛け、彼等は早々にスクロールを発動させる。

 

「…」

「……」

「…………」

 

「…………?」

 

 時間ばかりが過ぎ去る。

スクロールは展開した筈だ。

一度展開すれば、たとえ何も知らぬ赤子と言えども術が発動する代物。

それが魔法のスクロールだ。

しかし『転移の術』が発動される事はなく、王統府を始めとした皆は困惑の度合いを隠せない。

 

転移の術が、発動される事はなかった。

 

「…何故だ…何故…!?」

 

 取り分け驚愕の度合いを強めたのは、他でもない国王本人。

術が発動しない結果に、国家元首にあるまじき動揺の色合いを見せる。

尤もそれは周囲も同様で、皆が皆、一様に戸惑いを覚えていた。

 

「あのぉ…不良品なんじゃぁ…?」

 

 そこへ幼夢魔が口を挿むが、神官戦士長に『無礼だぞ…!』と叱られてしまう。

 

王統府の面々が、不良品を携える失態など先ずあり得ない事だ。

緊急事態に備え万全を期し、今回の会合に臨んだはず。

その様な杜撰な体勢で国家運営を成す程度なら、既に亡国となっていても不思議ではない。

 

「何者かにすり替えられた…じゃあないよね?」

 

 女部族も意見を挿んでみる。

しかし、赤毛の枢機卿からは即座に否定された。

その様な事態も既に想定済みで、徹底した管理体制を常に維持していたからである。

つまり、今手にしているスクロールは模造品でも粗悪品でもなく、即使用が叶う実用品なのだ。

だが結果は御覧の有様――。

 

転移の術は発動しなかった。

 

「皆様、一度屋敷に戻りましょう」

 

 この現状を見かねた司祭長が、一度帰還する旨を提案する。

此処で手を拱いた処で、何一つ事態は進展しない。

突如として、祭祀場にて鳴り響いた鐘の音。事の異常を確認したのなら、もう此処に用はないのだ。

些か腑に落ちない王統府の面々だが、彼等は司祭長の館へと戻る事にした。

 

……

 

昨晩、食事を楽しんだ大部屋は見事に片付けられ、中央に長方形の長卓と幾つもの椅子が設けられている以外は、何とも味気ない部屋へと様変わりしている。

多目的に使用される部屋なのだろう。

さて、そんな事はさておき、王統府の面々は困窮していた。何せ、緊急帰還用のスクロールが発動しないのだ。

火継ぎの祭祀場の鐘楼部から一望できた、あの気味の悪い空と火柱――。

しかも方角は、王都と一致する。

間違いなく王都で()()()が起こった筈だ。しかも、あまり歓迎すべきでない、()()が。

 

「術と処置を総動員しても、最低3日は掛かるかと…!」

 

 王都から水の都へ、水の都で一旦休止、そこからこの街へと約5日は掛かっていた。

通常の商用馬車なら1週間~2週間は掛かるのだが、王統府が用いた馬車ならほんの数日で辿り着く事が出来る特別製だ。

その特別製の馬車に、精霊魔法『追風(テイルウィンド)』を掛ければ移動速度を増幅させる事ができ、更なる時間短縮にも繋がる。

しかし、その処置を施し且つ不休で馬車を走らせたとて、王都までは最低でも3日は要してしまう。

この街から王都までは、それ程に距離が離れていたのである。

 

「遅い…、3日も状況は許してくれんぞ。況してやあの様な異常事態、前代未聞だ…!」

 

「しかし、このまま静観する訳にもいきません!今戻らねば何の対策も…!」

 

 あの状況から1時間と経ってはいないが、焦る王統府にとっては数時間以上にも感じられた。

 

「確か、伝令用に特化した翼竜(ワイバーン)が控えていた筈です。それの到着を待ってからでも、遅くはないのでは…?」

 

 そこで剣の乙女が、翼竜の存在について言及した。

王都には異常事態発生に備え、伝令用に特化した翼竜部隊が控えていた。

最も速い馬車でも遠方では、数日~数週間は移動期間を要してしまう。

それは地上を走る馬であるが故、どうしても地形の影響を受けてしまい誰もが避けては通れない障害であるからだ。

いくら街道整備が進んだとて、地形の影響で余計な迂回などで時間を浪費するのは当然。

しかし何事にも()()という要素は存在する。

 

それは『空』だ。

 

空中では地形の影響など皆無に等しく、最短の直線距離で移動する事が叶う。

その移動を担うのが翼竜(ワイバーン)という存在。

下級の竜とも呼ばれている翼竜で竜の出来損ないとも比喩される彼らだが、その飛行速度は魅力的でもあった。

少々知能が低い事もあり、使役するには相応しい設備と調教が必要となる。

しかし一度飼い慣らし自由に使役できれば、その圧倒的な飛行速度を以て遥か遠方にも、ごく短時間で到達する事が可能となるのだ。

当然の事ながら、翼竜の生態は王都側でも目を付けており、予てより翼竜の運用に力を注いできた。

しかし馬に比べ絶対数も少なく、調達も容易ではない。

空中兵力として活かすのも非常に有用な戦術ではあったが、ただでさえ希少な翼竜を戦闘で浪費するのは如何なものか。

そう判断した王統府は、敢えて伝令や移動手段として特化させた運用法に限定させていた。

 

そして此度のような事態も想定し、王都で異常があれば即座に此処まで伝令を寄越す様、訓練された翼竜も備えていたのである。

何も混沌勢だけが、翼竜の利用に着手している訳ではない。

王都側でも、その有用性は証明されていた。

伝令に特化した翼竜なら、僅か数時間で此処まで到達できる筈。

 

「……。信じてみる他ない…か…」

 

 数日を掛け、今王都へと帰還するか。

それとも数時間待ち、翼竜の伝令を信じてみるか。

少々判断が分かれる事態ではあった。

 

万が一、翼竜が何らかの不幸で伝令に心配しようものなら、ただ時間だけを無駄に過ごす羽目にもなりかねない。

唐突に迫られる、国の明暗を分けた選択肢――。

それが今、国王の判断に委ねられている。

 

しかし仮に翼竜が到着するにせよ、まだ多少の猶予はあった。

この時間さえ彼等には惜しい程に感じられ、何か出来る事はないかと思案を張り巡らせる。

 

「この異常事態…街の民も、きっと不安がっておいででは?」

 

 そこへ『西方樹海』を根城とする森人勢力の長でもある『花冠の森姫』が意見する。

今日という日を心待ちに、この街へと来訪した多くの人々――。

ある者は祭日を楽しみ、ある者は剣の乙女を一目見ようと訪れた。

そんな多くの人々だが、今朝鳴り響いた『鐘の音』には誰もが困惑しているのは間違いない。

大抵は不安を覚え、ちょっとした騒ぎへと発展している頃合いだろう。

花冠の森姫の言う通り、街の民への配慮も忘れてはならない要項だ。

 

「確かに…。剣の乙女…そして領主よ、卿らは予定通り聖黄金樹の視察へと移り、民の不安を少しでも押さえ付けよ」

 

 彼女の言を受けた国王は、剣の乙女と司祭長(領主)に指示を下す。

二人には当初の予定通り、聖黄金樹の視察を実行しつつ民達の不安を可能な限り緩和させる役割りを与えた。

街の住民達の事だ。あの異様な空こそ視認はしていないだろう。

しかし鼓膜を蹴破らんばかりの鐘の音は、誰しもが耳にしたのは確実だ。

ふだん起こりようもない怪現象に出くわせば、とても祭日を楽しむ心など芽生えはしない。

恐らく今頃は、不安と疑心暗魏に駆られ少々の混乱状態へと陥っている筈。

それを抑え、暴動(パニック)を未然に防いでもらいたかった。

 

「「承知いたしました。お任せを」」

 

決意も新たに二人は、国王の命を受け入れる。

 

「卿ら冒険者たちだが、引き続き彼女らの護衛を頼む。引き受けてくれるな?」

 

 剣の乙女と司祭長だけでなく、森人一団も同行する。

当然、護衛は必須となり、冒険者たちには任務の継続を依頼する。

冒険者側も何ら反論する事も無く、国王の要求を受け入れた。

 

「最後に我々だがギルドへと向かい、可能な限り冒険者たちの招集に当たるぞ!」

 

 そして肝心の王統府一行は、冒険者ギルドに向かう方針を定め、即応可能な冒険者の招集をかけるというのだ。

その理由など、誰もが直ぐに察する事が出来た。

 

あの不気味なまでの火柱と空――。

それ等は、王都とロスリック側から発生しているのだが、現在進行形で今も周囲に拡散しつつある。

あれ程に気味の悪い終末感を催す空だ。

あんなものを長時間見続ければ、誰もが精神に変調をきたすのは想像に難くない。

たとえ真っ当な精神を有していたとしても、次第に悪意に満ちた衝動に駆られ何かしらの事件を引き起こす可能性が極めて高いのだ。

心ある秩序側の住民でさえ、その危険性が懸念される。況してや混沌勢に身を置く、心無い賊徒をはじめ数々の魔物や異形たち――。

それ等が人々に牙を向くのは、ほぼ確定的と断言しても良いだろう。

ある程度防備の備わった町クラスなら幾らかは持ち堪えられるが、小さな集落や村など忽ち蹂躙されるのは目に見えている。

この時点で可能な限り冒険者を搔き集め、近隣の調査及び防衛など多岐に渡る役割を与えたいのが、王統府の思惑であった。

 

加えて、聖黄金樹の効果もある程度だが知る事は出来た。

聖黄金樹の効果範囲内は、今も普段通りの空模様を維持している。

つまり聖黄金樹の庇護下なら、人々は平常心を保ち混沌勢による襲撃に備える事も出来る。

そういう事を示唆してもいた。

今此処で冒険者たちを確保しておき、方々へと派遣――。

 

聖黄金樹の効果範囲の調査。

その範囲内と範囲外による事象関係の差異。

万が一、範囲外の集落や村が在った場合は住民たちの同意を得た上で、街への避難誘導と護衛。

そして他の街との連携と連絡網(ネットワーク)の強化。

 

西方の冒険者ギルドが設けられているのは、なにもこの街だけではない。

大小様々な街の規模は違えど、複数の街で似た様な冒険者ギルドは設けられ、そこで多くの冒険者たちが今も活動に従事している。

此処で彼等との提携強化を図り、事態収拾の足掛かりを築いておくのは寧ろ当然の措置とも言えた。

 

先ず、剣の乙女と司祭長は聖黄金樹の視察を予定通り進め、不安に駆られた民達の支えとなる。

残る冒険者たちは、彼女たちを含めた森人一団の護衛を継続。

王統府は冒険者ギルドへと赴き、事情をギルド長へと説明すると同時に、可能な限り冒険者招集に当たる。

そして全員が再び揃った処で、方々へと派遣。

 

そうこうしていれば、王都からの翼竜も到着するだろう。

もしも翼竜が到達しなければ、王統府はこのまま水の都を経由し王都へと帰還を強行する。

少々予測不能な事態に陥ったが、狼狽えている暇はない。

いま出来る行動を執り、状況の許す限り備える――。

余りに唐突とも言える()()が、この国を…下手をすればこの大陸全体に迫ろうとしていた。

 

「よし!では各位、各々の任を果たせ…!」

 

「「「「「――ハッ!!」」」」」

 

国王の号令を機に、各冒険者たちは動きを開始した。

 

「なぁ、あの騎士って金等級で貴族なのは分かるけど、そんなに偉い人なのか?」

 

「王都に身を寄せる貴族だそうな。かなり立場のある御仁ゆえ、変に刺激しないようにな」

 

 皆が動く傍ら、灰の剣士に声を掛ける同期戦士。

彼は、金剛石の騎士が国王である事をまだ知らないのだ。

一応非公式で訪れている為、国王である事を伏せつつも上層側の人物である事を告げた、灰の剣士。

また不必要に接触しない様にと、念も押しておく。

 

……

 

 街中の襲撃を懸念していたのだが、然したる不祥事も発生する事はなかった。

強いて言うなら、自らの境遇に不満を持つゴロツキ風情が詰め寄り、その場で衛兵に確保される事案が数件――。精々その程度だ。

例の鐘の音で、不安感に苛まれていた街の住民達だが、中央通りを凱旋する剣の乙女を見るや否や活気を取り戻す。

そして剣の乙女も彼等に応えるかのように手を振り上げ、可能な限り笑顔を振り撒いた。

あの『不気味な空』を確認したのは、灰の剣士たち以外は居ない筈だ。

その証拠に、彼女の振る舞いで活気を取り戻した住民達は、祭りの愉しみを再開する。

しかし今は良くとも、街の住民達が異常事態を察知するのは時間の問題。

この街を含む近隣の村々は、聖黄金樹の加護下にあるため現在でも平穏を享受していられる。

だが加護の外に在る人里などは、あの不気味な空を直に目にしているだろう。

血の様な『赤』を汚泥の如き『黒』で塗り込んだの様な、気味の悪い空――。

あんなものを長時間見続ければ、人々の精神にも影響を与えるのは想像に難くない。

早急に、聖黄金樹の加護化へと誘導させる必要が生じていた。

 

地母神神殿の礼拝堂…のみならず、ほぼ全ての区画が住民で溢れ返っていた。

その影響もあり、神官長を始めとした神殿関係者は皆忙しそうに右往左往している。

神殿に訪れた住民達は、皆が例外なく祈りを捧げ心の平穏を得ようと腐心していた。

やはり相当不安感に煽られている様だ。

 

神殿に到着した灰の剣士たち一行――。

すぐさま司祭長の声の下、剣の乙女が礼拝堂の壇上へと立ち言葉を授けた。

 

「善良な皆さま…、何も案ずる事はありません!此度の鐘の音、さぞや驚かれた事でしょう。しかし私たちは常に神々と共に在り、また神々も決して私たちを見捨てたりはしません。今こそ私の信仰が試される時です。さぁ皆様、()()()()祈りを捧げましょう、未来の為に…!」

 

「大司教様……」

「おお共に祈りを…」

「どうか我等に、ご加護を…」

 

 礼拝堂に集う住民だけでなく神殿中に押しかけた全ての人々が、彼女と共に祈りを捧げ安寧と平穏を願う。

 

「あ…あの御方が、剣の乙女様……」

 

 その中には見習い神官の少女も含まれ、初めて見る剣の乙女の御姿に圧倒されていた。

 

魔神王を討伐した六英雄の一人にして、至高神の大司教でもある、剣の乙女――。

やはり彼女の威光は絶大だ。

宛ら女神の如き祈りを捧げる彼女の姿に、皆も一心不乱に祈りを捧げ何時しか心に平静を取り戻している。

幾分は落ち着いたのだろう。

神殿に押しかけていた住民達は、皆静かに去り元の静寂さが戻っていた。

一定の効果を(もたら)した一行は、いよいよ聖黄金樹の元へと向かう。

 

「これが…聖黄金樹……」

「何と柔らかな輝き……!」

「神々しく、それでいて安心を覚える…」

 

 神殿の一画に植生された樹木は、今も黄金色の輝きを放ち見る者を圧倒していた。

包み込むかのような淡い光に、花冠の森姫を含める森人達さえも見惚れている。

現在この樹木は、街の至る所で目にする街路樹並みの背丈を誇るのだが、これが更なる成長を続けるというのだ。

そして、成長の果てに街など容易に吞み込むほどの()()へと変ずる、というのが森人側の見解である。

 

「貴公はどう観る?()()()()()()()()、何か関係があると思うか?」

 

 皆が目を奪われる中、秘かに輝石の貴公子へと話し掛ける灰の剣士。

 

「…僕が識りたい位です。ただ…何処となく似ている…様な気がしなくもないですが…正直何とも」

 

 狭間の地に(そび)え立つ黄金樹、そして眼前の聖黄金樹。似て非なる光を帯びた二つの樹木――。

何かしらの関連性は、あるのだろう。

灰の剣士に問い掛けられた訳だが、狭間の地出身である輝石の貴公子にも解らない事は多々あるものだ。

確かに彼は、かの地より流れ着いた住民だが、さりとて黄金樹に縁深い存在ではない。

一応は上流層の出だが、それも遥か昔の話で、今の彼はただ狭間の地を知っている只の一個人に過ぎないのだ。

 

「また挑まれるので?狭間の地に…?」

 

「…そうだな。まだ知りたい事も数多い」

 

 彼の心情を察する輝石の貴公子。

 

「その時は僕もお供しますよ」

 

「頼む」

 

 彼が赴くのなら、自分も同行した方が何かと都合が良い筈だ。

あの時は『黄金のゴドリック』を討ち『ストームヴィル城』を実質攻略した時点で、彼は四方世界へと帰還した。

ならば次に赴くのなら、恐らくは『湖のリエーニエ』に在る『魔術学院レアルカリア』の攻略に挑むと予想される。

幸いな事に輝石の貴公子は、リエーニエ出身の身。

彼にとっては庭も同然の地域で、その土地勘を役立てる事が出来る。

それに彼等の与り知らぬ領域では、カッコウ騎士団や昨夜の調香師までもが四方世界に流れ着いている。

これは一体どういう事なのか?

ロスリックの件も気になるが、それと同等に狭間の地にも意識が向いていた灰の剣士。

輝石の貴公子は同行する旨を告げ、それを受けた彼も短く応じる。

 

「……」

 

 そして何を思ったのか、灰の剣士は徐に自身のソウルと聖黄金樹から流れ出るソウルを同調させてみた。

 

――……。…………。……――ッいかん!

 

ほんの僅かな時間だったが、彼は瞬時に同調を中断させた。

 

――…もう少しで引き込まれる所だった…。

 

同調に身を任せた後、意識が引き寄せられるかのような感覚に溺れ、あと少しでも身を委ねていれば間違いなく『狭間の地』へと吸い込まれていただろう。

しかも、以前よりも遥かに抵抗感が薄れていた。

僅かな油断でも、あっという間に異界へと旅立つ寸前に陥っていたのである。

今は緊急時――。下手な行動を執るものではないと、彼は改めて意識を切り替えた。

 

一先ずは聖黄金樹の視察も完了となり、後は冒険者ギルドに向かうだけだ。

今は王統府がギルド長へと掛け合い、全冒険者に緊急招集をかけている筈である。

此処から先は少々慌ただしくなり、急いで向かった方が良さそうだ。

その上で森人勢力と剣の乙女一行は、神殿に残る事にした。

聖黄金樹の放つ輝きは何とも居心地が良く、彼女たちを含め多くの人々が未だ周囲に残っていたのであった。

 

灰の剣士たちは、簡素な挨拶だけを済ませ冒険者ギルドへ向かう事にする。

その最中、見習い神官の少女と幼夢魔が何やら口論を繰り広げ、しかも灰の剣士に関しての内容みたいだが気にしている場合ではない。

彼等は、急ぎ足で冒険者ギルドへと走り去った。

 

……

 

辿り着いた時には、既に多くの冒険者たちで溢れ返り、ある意味で冒険者ギルドは嘗てない程の盛り上がりに満ちている。

 

「おう、アンタらも来たか」

 

 そこに居た槍使いは、灰の剣士たちを見付け声を掛ける。

槍使いだけではない。重戦士の一党を始めとした主要な冒険者たちが、皆揃い踏みしていたのである。

意外な程に狭く感じる、冒険者ギルド。

こうして一堂に会した冒険者たちの総人数は、思っていたよりもかなり多いようだ。

 

「――あ、居た居た…灰く~ん!!」

 

 ごった返す冒険者たちを掻き分け此方に近付いて来たのは、錬金術士でもあるライザリン=シュタウト。

 

「ライザ」

 

「んもぅ…!まる1日も会えなかったぁ…!今まで何処行ってたのよ――うわらばっ!?」 ( °▽°)=◯)`ν°)・;'.ウワラバ

 

 灰の剣士の顔を見るや否や、彼女の表情は途端に不満顔へと変貌する。

そして小言を交えた文句を掛けようとするも、彼女の言葉は途中で遮られた。

 

「――大丈夫なの、貴方!?ケガはない!?精神的苦痛はなかった!?病気には掛かってないわよね!?」

 

「――え…ちょ…、スイーパー!?」

 

 ショルダータックルで割って入って来たのは、ゴブリンスイーパー。

意外そうに驚くライザを押し退け、彼女が割り込む。

 

「…幼子に見えるのか?この私が」

 

 かなり気を揉んでいるのは分かるが、その様は小さな子供を気遣う大人にも似ていた。

彼女の気遣いには嬉しいものを感じるが、さりとて子ども扱いされるのは少々心外な灰の剣士。

 

「それ以上に危なっかしいのよ、貴方は…!そもそも――たわばっ!?」(o ̄∇ ̄)=◯)`ν゜)・;'タワバ

 

「――剣士さぁ~ん…やっと、お礼言える!」

 

 今度はスイーパーを掌底で跳ね除け、銀髪武闘家までもが乱入した。

どうやら数日前の村と両親を助けてくれた件で、礼を言いたかったらしい。

(本編前夜編 第113話~116話参照)

 

「ご家族を大事にな」

 

「――は…はい…!」

 

 何の事はない。

彼は必要な措置を執ったに過ぎず、その結果、あの格闘村民と銀髪女の無事を確保できた。

ただそれだけなのだ……彼にとっては。

 

「――あ…頭目…さん……」

 

 灰の剣士に礼を言う銀髪武闘家だが、傍に居る同期戦士の姿を視界に入れ、彼女は戸惑いの表情を浮かべてしまう。

ほんの数日前の出来事もあり、少々顔を会わせ辛いのだろう。

彼女は急に大人しくなり、俯き加減に視線を外す。

 

「…あ~…言い忘れていたんだが――」

 

 どうやらそれは同期戦士も同じで、若干ぎこちない口調で言葉を並べた。

 

「お前の籍は空けてある。これから先、また組む事があるかも知れない。固定でも臨時でも…それはお前が決めていい。だが、これだけは忘れないでほしいんだ。俺は、お前を追放した積りはないし、お前は掛け替えのない仲間だ、他の誰が何と言おうとな!だから、もう一度言う!…お前の籍は開けてある…!また組みたい時…そん時は…まぁ…宜しく頼むわ…!」

 

「…と…頭目…さん…」

 

「お互い信じた道を歩もうぜ、――な!」

 

「――は、はい…!負けませんよ…!」

 

 伝えたい事を一頻り言い終える同期戦士。

対する銀髪武闘家は、若干涙目になりながら彼の言葉を受け止める。

同期戦士とて、聖人君主ではない。時には激情を募らせる事もあるものだ。

その激情も冷めやらぬまま、当時の彼女を一党から外す措置に出た。

その時の両者は嘗てない程に関係が冷え切っていたが、今この場で彼は本心を全て打ち明けたのである。

そして彼女と組んでいた当時の表情を浮かべ、彼は拳を突き出す。彼の本心を受けた銀髪武闘家も、普段通りの表情に戻り拳を突き合わせた。

お互いの拳がゴツンとぶつかり合い、二人とも憑き物が取れたような晴れ渡った表情を浮かべている。

 

同期戦士と銀髪武闘家――。

二人の(わだかま)りは、未だ燻ぶり続け残留していたのだろう。

今此処で初めて、両者の()()()は完全に消え去ったのであった。

 

「錬金術士のアンタ達、この娘の事、宜しく頼むぜ…!」

 

 その後ライザ達へと向き、改めて銀髪武闘家の事を託した。

 

「任せておいて…!あたし達にとっても、大事な仲間で友達なんだから…!」

「その内、貴方を越えちゃうかも…!」

 

「参ったな…、それなら俺もウカウカしてられないぜ…!」

 

「「「「「ハハハハ……!」」」」」

 

改めて銀髪武闘家の事を託されたライザ達――。

言われるもでもない、と言わんばかりにライザとルルアも快く同期戦士へと応じる。

そのやりとりに釣られ、周囲も和やかな笑い声を上げていた。

 

『――冒険者諸君、静粛に!!』

 

 そんな穏やかな時間も束の間――。

2階のテラスから、切れの良い声がギルド中に響き渡る。

穏やかな空気感を引き裂かんばかりの声に、皆は2階部分へと一斉に視線を傾けた。

視線の先には、ギルド長を含めた数人の職員と、光り輝く金剛石の鎧を纏った騎士の姿が映る。

今まで嘗てない程の奇妙な光景に、誰もが只事ではない事を悟っていた。

 

『重大な報せだ、心して耳を傾けて頂きたい…!』

 

 金剛石の騎士から発せられた言葉に、皆は固唾を飲み聞く態勢に入る。

 

余計な私語を挿む者は皆無だ。それもその筈――。

剣の乙女と花冠の森姫が地母神神殿に赴いている頃、ギルドでは奇妙な騒ぎに発展していた。

金剛石の鎧を纏う冒険者を始めとした金等級が数名、辺境の冒険者ギルドへと訪れたという珍事――。

外観だけでも()()()()()と言う範疇を越えており、同時に貴族身分である事も周囲は瞬時に悟る。

その彼等に誰もが目を丸くし、また釘付けとなっていた程だ。

そんな数名の金等級冒険者が突如ギルド長と職員を集め、所属する全冒険者に召集を掛けたのだ。

当然誰もが困惑し、このギルドから離れられないでいた。

 

なぜ自分たちが集められたのか?

 

今その理由が明かされようとしている。

 

金剛石の騎士が言葉を発しようとした瞬間――。

 

突如、激しい振動と衝撃音がギルド内を駆け巡る。

静寂な空間は一瞬で騒然となり、またもや騒がしくなった。

 

『おぉ~い…!ワイバーンが、翼竜が墜落したぞぉ…!』

 

 その直後、外部から誰かの叫び声が聞こえて来る。

どうやらギルド近くに、翼竜が落下してきたと言うのだ。

 

「――まさか…!」

「――あ、ちょっと灰君!?」

 

 真っ先に反応したのは灰の剣士。

ライザの制止も聞かず、彼は落下現場へと向かうべくギルドを飛び出した。

 

……

 

案の定、翼竜の落下地点はギルド近くの中央通り。

魔物であり下級の竜でもある翼竜が、街中へと突如落下する。

その様子に、近くを通っていた住民達は挙って遠間から現場を見守っていた。

だが、ただ魔物が墜落してきたいう訳ではない。

 

「――大丈夫ですか…!?」

 

「…う…うぅ…陛下…」

 

 灰の剣士が到着した時、翼竜近くには負傷した一人の兵士が倒れていたのである。

彼の背には幾つもの矢が刺さっており、また防具の至る所が損傷。かなりの重傷であった。

そして呻き声混じりに『陛下』と呟いている。

 

「少し痛みます、我慢して下さい…!」

 

「――あぐぁッ……!!」

 

 無理やりだが彼は乱雑に矢を全て引き抜き、その激痛に兵士は悲痛な叫び声をあげる。

 

「奇跡、治癒の涙…中回復…!」

 

 無理に矢を引き抜いた影響からか、傷口から血がドッと噴出した。

だが彼はそれも気に留めず、即座に奇跡を発言させ彼の治療に当たる。

 

「深い傷だ…まだ全快しないか…」

 

 奇跡により止血は完全、加えて傷も癒えた筈だが未だ全快には至っていない。

 

「灰剣士殿…!」

「旅人よ…、この翼竜と負傷兵…まさか…!?」

 

 そこへジークバルドとソラールも合流を果たす。

 

「そうだ。王都からの…伝令兵…!」

 

 負傷した翼竜と兵士の姿に、ソラールは状況を察する。

王都より飛来した伝令兵が、今現場に到着したという事だ。

 

「手を貸してくれ、治療を継続する!」

 

「うむ…!」

「任せよ!」

 

 追い付いた二人に治療の助成を頼み、ソラールとジークバルドも回復の奇跡を行使した。

彼ら3人の回復処置に、負傷していた伝令兵は瞬く間に傷を回復させる。

 

「後はこの翼竜だな…。お~い、誰でもいい…手を貸してくれないか…!?」

 

 取り敢えずだが、伝令兵の治療は済んだ。

だが翼竜も傷を負っており、もはや飛べる状態ではない。

次々と現場に駆け付けた冒険者たちに、灰の剣士は周囲に声を投げ掛けた。

 

その後、伝令兵はギルドへと保護され、翼竜もギルド裏手に在る小屋…つまり今ライザ達が間借りしている工房(アトリエ)近くへと預けられた。

 

……

 

「へ…陛下……失礼、ロード…大変な事が起こりました…!」

 

「――見れば分かる…!申せ…!」

 

 突如墜落した翼竜と伝令兵は、王都所属の軍人である事は確定している。

王都で難事が発生した場合、早急に情報を伝達せねばならず、その場合は馬ではなく空を飛翔する翼竜が使用される。

馬でも数日~数週間は掛かる程、彼我の距離が開けた場所だ。

だが翼竜なら、数時間で情報を伝達する事が可能。

そして今、翼竜を使用しなければならない程の事態が王都で起こり得たという状態を示唆している、という訳だ。

況してや先ほど、翼竜と共に伝令兵までもが重傷を負っていたのである。

もはや良からぬ事が王都で起きたのは確実だと、国王でもある金剛石の騎士は確信していた。

 

「王都が……王都がぁ――」

 

「「「「「……」」」」」

 

この時点で全身から汗が噴き出る国王。

ナニカが起こったのは確定した。

火継ぎの祭祀場の鐘楼部で目撃した、赤黒い火柱と、それに染め上げられた終末の如き空。

それは、王都方面は元よりロスリックから発生していた事も思い出す。

嫌な予感ばかりが脳裏を支配するが、先ずは全てを聞き入れよう。

判断するのは其処からだ。改めて聞く態勢を維持する。

 

 

 

 

 

   ―― 王都が、制圧されました!! ――

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

翼竜(ワイバーン)2

 

王国軍にて管理された翼竜。

 

竜の眷属としては下級に分類され、知性も身体能力も総じて低い。

しかし飛行能力には目を見張るものがあり、有用性は非常に高い。

軍事面に於いても戦略的優位性(タクティカルアドバンテージ)は認められ、予てより調教が進められていた。

通常、徒歩以外の移動手段としては『馬』が最も身近な存在だ。

確かに徒歩よりは、遥かに早い速度と航続距離の確保に繋がる。

だが地上の生き物である事は変わりなく、地形の影響は避けては通れない。

そこで飛行能力の長けた翼竜の出番となる。

空の飛行は地形効果を無視し、最短の直線距離で目的地への到達を実現させた。

 

飛行速度だが野生の翼竜は、時速200~250キロメートル。

王国軍用は、時速300~400キロメートルにも及ぶ。

これは戦闘用ではなく、情報伝達や移動手段の為に特化させたが故の結果である。

空中兵力は確かな有用性を証明していたが、馬に比べ入手も調教も難度が高く容易に数を揃える事は出来なかった。

また専用の環境も整えねばならず、専門的な知識や技術が備えねばならない。

そういった理由もあり損耗を極力抑える為、移動や伝令手段に特化させた次第である。

 

 

 

 

 

 




ゴブリンスレイヤーTRPGでも、乗り物についての記述があるのですが、あちらは『翼竜』ではなく『飛竜』と明記されています。恐らくは『ワイバーン』に相当する個体だと思うのですが、この小説では敢えて『翼竜』という事にしました。
私の脳内で飛竜と言えば、どうしてもソウルシリーズの飛竜を思い浮かべてしまうので。あんなのを一体確保するだけで小国の軍勢を相手取れると思います。

如何だったでしょうか?
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。  
デハマタ。( ゚∀゚)/
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