今回も、ちょっと無駄に長いです…。
多くの登場人物が一堂に会すると、どうしても長くなってしまいます。
況してや戦闘を挿めば、尚更…。まぁ主人公以外にも活躍させたいので。
では投稿致しますドゾ。( ゚ ω ゚ )
赤爛れた陽光・赤黒い空
ロスリック及び王都より突如として現れた不気味な火柱。
それにより空は赤黒く染まり、空の影響で太陽も黒く変質。
その太陽から照射される陽光は、何とも赤く、浴びただけで皮膚が爛れるような感覚に見舞われた。
直接肌に照らされる事で、最初は『痒み』を発症する。しかしこれは、ほんの初期も初期症状。
痒み→痛み→爛れ→出血→免疫低下→呼吸困難→最終的には死に至る。
また出血の際には、皮膚から赤い斑点が浮かび上がり滲み出るように血が染み出てくる。
この症状には個人差もあるが、人間だけでなく野生動物も悪影響を受け生命が脅かされた。
しかし混沌の住民である、異形や魔物の類には逆に活性化を見られ、秩序側にとっては厄介な事この上ない。
更に赤黒い空は、知的生命体の精神にも作用し時間を追う毎に平静さを見失い、一種の発狂状態に見舞われる者も少なくない。
加えて植物にも影響を及ぼし、大抵は枯れる方向に劣化が進み、作物などは致命的な打撃を受けるのは想像に難くない。
だが酷い場合には、植物そのものが未知なる種へと変異する可能性さえあり、生態系は大きく乱れる危険性も孕んでいる。
この空、何故か『陽光』には作用するが『月光』には何ら影響がない為、夜間なら比較的安全に行動する事も可能であろう。
悠長に静観している場合ではない。
今こそ各地の勇者が立ち上がり、現況を断つ時がやって来たのだ。
二度目の火。四方世界をも育み育て上げる生命の火。探し当て、簒奪する日は近い。
黄金律の復古を夢に見ながら。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
デエェェ ―― 西方の寒村 ―― ェェェエン
赤黒い空に浮かぶ黒い太陽――。その姿は何とも禍々しく、悪意さえ感じられた。
その邪悪な如き太陽から降り注ぐ陽光は、人体に悪影響を及ぼし祈る者たちを今なお苦しめている。
だが混沌に属する住民には、何の弊害もない処か寧ろ活力さえ与えていた。
これまで、実に
今の陽光に晒されれば、此方は
だが混沌勢には、水を得た魚のように勢い付くか凶暴性に拍車がかかっていたのである。
そして現在――。
割り当てられた最後の任務として、この村に辿り着いた灰の剣士一団。
この村も例に漏れず、赤爛れた陽光の影響で碌な活動も出来ぬまま朽ち果てようとしていた。
寺院に避難していた大半の住民は、身を寄せ合い迫り来る破滅に怯えていたのは記憶に新しい。
だが今は、応急ながらも回復手段が用意されている。
灰の剣士たちが、馬車の幌と野営具を駆使し即席の天蓋を造り、陽光遮断の場を設けた。
そして内部に『篝火』を熾す事で、陽光による害に対し回復を図る。
完全な『篝火』ではないが、人によっては全快も同然に症状の改善が見られた。
村人にも効果はあるだろう。
先ずは寺院の避難民たちを優先し、篝火まで誘導。
それから少々の時間が経過――。現在は、その恩恵に肖り徐々に回復しつつあった。
先ほどまで生気の無い顔立ちだった避難民にも、幾らかの活力が戻り改善が見られる。
「院長、他の民家にも村人が残っておいでで?」
「ええ、村長を始めとする幾人かが…」
陽光を避ける為、寺院だけでなく他の民家に身を寄せ合っている住民が少数残っている事を確認した灰の剣士。
此処に居る避難民の回復が済み次第、他の住民も呼び掛ける事にした。
陽光による症状の回復は、取り敢えずだが対応できた。
だが問題は此処からだ。
残念だが、村に住民を残すという選択肢は到底考えられない。
この村は地理的に、聖黄金樹の効果範囲外に位置し、移植前も移植後も効果範囲外に位置する事には変わりないのだ。
つまり王都やロスリックから発生している、あの不気味な火柱をどうにかしない限り解決策は存在しない。
どうしてもこの村に留まりたいのであれば止めはしないが、先ず真面な人間としての在り様は望めないだろう。
だが、何名かは街への避難に消極的な態度を示す。
「ふむ、収穫であるか?」
ジークバルドが尋ねたところ、この時期でも収穫できる作物が出来上がっているというのだ。
この村は、殆どが農家で数日前から収穫時期に差し掛かっているとの事。
今は、あの忌々しい陽光の所為で収穫作業を中断せざるを得ない状況だ。
収穫物は、村にとっても貴重な食糧であり収入源でもあり、同時に重要な生命線。
それを疎かにするなど、以ての外なのだ。
村も村なりに事の重大さは認識している。
此処に留まる生活など、魔境で住むのと同義。
だが仮に街に避難したとて、窮乏生活を強いられるのは目に見えていた。
自分たち以外にも多くの避難民が押し寄せて来る事位は、彼等でも理解出来る。
その上で、難民全員に十分な生活物資が行き渡ると保証できるのだろうか。
それも中・長期的に。
この異常事態だ。
既に作物が枯れ始めている事は、農作業に従事してきた村人たちが最も理解している。
ならば尚のこと、収穫を成さねばならないのだ、状況の許す範囲で。
少しでも物資を確保し、一日でも長く子供や家族を食わせていくのが、彼ら農民の使命でもあった。
「時間はあります。脱出までに可能な限り、収穫に励みましょう」
彼等の本心を聞き入れる事にした灰の剣士。
村脱出に関してだが、実は夜間に行動を起こす算段でいた。
夜間ならば、出血を伴う陽光の影響を受ける事はない。
今の空だが、陽光は変容しても月光は何ら悪影響を及ぼす事はなかった。
尤もただの情報不足で、何処かで何らかの影響を及ぼしている可能性も否定できないが。
とにかく現段階で、昼間に行動する事は慎まれた。動くなら夜間だ。夜間は夜間で、異形が活性化する時間帯でもあり危険度は増す。
しかし此処には武勇に優れた冒険者が、複数所属しており対応は可能。
寧ろ、常時降り注ぎ対応にも苦慮する陽光の方が、彼等にとっては厄介な事この上ない。この陽光は、馬を始めとした動物にも悪影響を及ぼす。
そして村人の何名かは、家畜を所有している世帯も在った。
無理をして昼間に出発すれば、忽ち陽光の餌食となり最悪絶命に至るだろう。
この赤く爛れた陽光、想像以上に手を焼く存在だ。今の西方もそうだが、他地域や他国でも猛威を振るっているに違いない。
本来なら一刻も早く対応したいのだが、今は課せられた任務を果たす事が先決だ。
出発は夜。
その間に、動ける者は村の収穫の助成と脱出の支援。
一応村人用の馬車は用意されていたが、物資までは積み切れない。此処は村の馬車も必要となる。
何も馬である必要はなく、多少足が遅かろうともロバなどで荷さえ曳ければそれで良い。
幸い今は午前中、出発の夜まで多少の時間的猶予はある。それまでに出来得ることを最大限に成し遂げ、村を支援する。
概ね、この方針で動く事になった。
多少ごねる者も居るには居たが、四の五の言っている場合ではない。
「冒険者様がた…何とお礼を申し上げてよいのか…」
彼らの行動に、感銘を受ける村長や院長。深く何度も頭を下げ、感謝の意を示す。篝火による回復が実を結んだのか、彼等の顔付きや血色も活力が戻っていた。
……
篝火の恩恵もあり、村人の回復は思いの外上手く捗った。まだ本調子ではないが、普段通りの動きを見せている。
大半の男は、総出で畑の収穫に勤しんでいた。
やはり思った通りだ。
陽光の弊害で、作物は既に萎れており色もかなり褪せていた。
根野菜や緑黄色野菜は彩度を失い、灰色に近付きつつある。
まだ収穫すらしていない状態で、この鮮度だ。
一応食用には足るだろうが、とても売り物にはならないだろう。
村人たちは苦い表情で、一心不乱に収穫に従事していた。
「もうこんなに劣化している…。後1日でも収穫が遅れていたら――」
冒険者の中では、彼が最も活発的に動けていた事もあり村人の収穫作業を手伝っていた。
かなり劣化の度合いは進行しており、予想以上に陽光の悪影響が酷い事を改めて認識した。
害はないであろうが、恐らく味は低下しているだろう。
これは調理側の手腕が問われる所だ。
「まさかね…他所の国にまで来て農作業やるなんて思ってなかった」
彼の隣では、ライザが別の野菜を収穫している。
随分慣れた手つきで、次々と野菜を収穫してゆく。
「そうか、確か農家を営んでいたな」
なんて事のない農家の娘…彼女は自分をこう評していた。
彼女自身、実家の農作業には消極的で親に叱られ仕方なく手伝うといった具合だ。
とても農作業に生き甲斐を感じているとは言い難い。
しかし今の姿勢を見るに、彼女は非常に活動的な様子で収穫に勤しんでいた。
「あ~ッ、『以外にも一生懸命だな』って思ってたでしょう?」
此処でライザは作業を中断し、彼の方へと向く。
「如何にも。以前聞いた話では、余り農業には傾倒していない様に思えたのでな」
「んもぅ失礼ね。…そりゃまぁ、あんまり好きじゃないけどさ。今はホラ、皆困ってるでしょ?あと…状況が深刻だし…さ。こういう時こそ力を合わせなきゃ…!」
彼の抱いた印象通り、ライザ自身は畑仕事に関わる一生を送る事に抵抗を覚えている。
だからこそ、島の探検や冒険に情熱を掲げ錬金術に出会った瞬間、彼女の運命は大きな変革を迎えた。
しかし、今の異常事態に瀕した村人を助ける事に何ら抵抗感はない。
寧ろ彼女は錬金術に出会い、それを駆使しながら島の問題解決に積極的に取り込んできた。
昔ながらの農作業だが、困窮した人々の助けになるのであれば何の苦痛も感じてはないのだ。
「まぁそれでも、毎日一日中畑仕事で時間持って行かれちゃうのは嫌かな、アハハ…」
「なるべく外套は取るなよ?」
「分かってるって。ホントに嫌な天気…って言うのは、ちょっと違うか」
ライザは現在、即席の外套を羽織り陽光を遮断していた。
彼女の服装は総じて薄着で肌の露出面積が広い。
この村に向かう道中でも、彼女は陽光の影響で肌荒れも酷く至る所で出血が伴っていた。
今は篝火で回復しているが、此処で陽光を浴びてしまえば元の木阿弥なのは言うまでもない。
「……ねえ灰君」
「…何か?」
「……
「…至福であった」
「ふ~ん、そ?」
「ん――」
「……」
「……」
「……」
「……」
「もぅ!こういう時は『今度埋め合わせする』ぐらい言ってよッ!」
「…ん?いやな、どういう反応示すかと思ってな」
農作業の傍ら、ライザから数日前の
もしライザが仕事を引き受けてなければ、彼女も参加する筈だった。
実質今は二人きりの状態で、彼女はこれを機と見なし聞き出す事にした。
監督官とゴブリンスイーパーそして見習い神官の少女の3名と、灰の剣士は休日を楽しんだ。
どんな過ごし方のしたのだろう?
どうしても気になって仕方がなかったのである。
しかし彼からの答えは何とも曖昧なもので、どうにも彼女が納得できるものではなかった。
加えて、プッツリと会話が途切れてしまう始末。
だがそれは彼女の反応を待つ為の、彼が故意に仕掛けた何とも底意地の悪い対応だった。
「い、意地悪、ホント意地悪!後でギルドに報告してやるからッ…!」プンスコo(*`ω´*)oプンスコ
「これは手厳しい。まぁ、何処か楽しめる場所が在れば探しておく」
「むぅぬぬぬ~~…!」
「さて、彼女の方を見て来る。あまり慣れてないようだからな」
「あ…うん…」
一頻りの作業を終えた彼は、別の収穫作業に従事している銀髪武闘家を手伝う為に移動した。
出来れば此方を手伝ってほしかったライザだが、曲がりなりにも彼女は農家の娘で大詰めを迎えている。
間も無くすれば彼女も作業を終える段階だ。
故に彼は、手こずっている銀髪武闘家を優先したのである。
「……」
彼の背を見つめるライザ。
「君が一緒に居てくれるんならさ……、毎日でも畑仕事できるんだけどな」
――う~ん?でもやっぱり錬金術士の仕事かなぁ、二人で。
そんな未来像を想像しながら、彼女も程無くして作業を終えた。
(推奨BGM エルデンリング ―― 満月の女王レナラ)
動ける冒険者たちが収穫や荷造りに協力し、幾許かの時間が流れる。
日ごろから鍛えた彼等の助力で、必要な分の収穫は全て終える事が出来た。
その成果に村人たちは満足し、天蓋内で食事を摂る事になる。
幾つもの大鍋には、採れた野菜や茸類などを煮込んだ料理が振舞われた。
寒村の為、目立った調味料に乏しいが、今回は取れたトマトを磨り潰したスープが味付けの主役を飾る。
しかし、これには明確な理由がある。
今も頭上から降り注ぐ、赤爛れた陽光の所為だ。
この陽光を受けた農作物は軒並み劣化が激しく、採れたトマトなどは萎み皺だらけに変貌する始末。
それに伴い、著しい程に鮮度と味が落ちていた。
だが辛うじて食用には足り、このまま腐らせる位ならと村人たちが工夫を凝らし、スープ状へと加工を試みたのである。
「冒険者様がた。此度の協力、まこと感謝の念に堪えません」
「いえ。本当に大変なのは、街に着いてからの生活です。残念ですが、豊かで快適な生活は期待しないで下さい」
村の村長が代表で礼を述べた。
しかし灰の剣士は、街に避難した後について言及する。
何も街を頼るのは、この村だけではない。
此処に辿り着くまでにも、多くの人里を経由し避難勧告を呼び掛けてきた。
また自分たち以外の冒険者も、多くの避難民を引連れて来るのは周知の事実だ。
他の街も避難先として指定されているが、相当の難民で膨れ上がるのは確実。
今は良くとも中・長期的視野で観れば、必ずと言って良いほど物資不足に陥るのは分かり切っている。
この異常事態では物資の流通も滞り、配給にも制限が掛かるだろう。
そして物資不足と貧困の行き着く先など、略奪と暴動しかない。
最悪、街そのものが自壊し何れは国崩壊へと突き進む。
「西方はまだ良い。あの聖黄金樹の加護化にあるのだからな。だが、他の地域…いや、他国も決して――」
食事を口に運んでいたソラールも会話に加わる。普段は桶上の兜で素顔を覆っていたが、食事時などは素顔を晒していた。若干長めの金髪を紐で束ね、口元には薄っすら無精髭を生やしながらも精悍で凛々しい青年の顔付きだ。
彼の指摘通り、これから向かう街には『聖黄金樹』と呼ばれる神聖な光を帯びた樹木が存在している。
その光は、今の赤黒い空と太陽からの陽光を遮断しており、比較的平穏が維持されていた。
恐らく、聖黄金樹の効果が及ぶ地域なら、農作物も普段通りに育っている事が予想される。
しかし聖黄金樹は未だ成長途中で、その恩恵はまだまだ微小と言わざるを得ない状況だ。
何れは成長を重ねるにつれ、その恩恵も広域に拡がるであろう。
だが巨木へと至るには、長い時が必要なのも確かだ。
聖黄金樹の効果範囲だが、西方辺境街を中心とした近隣に限られているのが現状。
そして他地域のみならず他国などは、今の異常事態の影響を直に受けている状態なのだ。
先ず、平静など保ってはいられない。
かなりの大混乱に見舞われている事が容易に想像できた。
「なら、あの街には更なる防衛強化が欠かせませんね」
輝石の貴公子も意見を挿む。
この異常事態、特に赤く爛れた陽光は最たる事象の代表格だ。
大半の者は今まで気付いていなかったが、野生動物や鳥類は完全に姿を消していたのである。
耳を澄ませど嫌でも聞こえて来る、鳥の囀りや野生動物の躍動など影も形もない。姿さえ目にしないという事は、何処かに逃げ去ったとも言えた。
本能で危機を察知し何処か安全な場所、つまり聖黄金樹の付近を目指した可能性が高い。
若しくは比較的樹木の密度が高い、西方樹海に隠れたか。
また動物だけでなく、人にも同じことが言えた。
定住先を持たない流浪人もそうだが、特に
彼等は村や道行く人々を襲い、生計を立てる。
しかし人々は、軒並み街…特に聖黄金樹の在る西方辺境街へと非難するだろう。
つまり心無い賊徒は、獲物を追い街へと辿り着くのは自然の流れとも言える。
また野盗とはいえ彼等も
これから先、あの街は避難民の暴動だけでなく賊徒の襲撃にも備えなければならないのだ。
「ならば、小鬼にも警戒せねばなるまい」
殆ど会話に参加しなかったゴブリンスレイヤーが口を開いた。
開閉機能のない鉄兜を被ったまま、彼は器用に食事を続けている。
略奪を愉悦とする混沌最底辺の異形、小鬼による襲撃――。
別に今に始まった話ではないが、獲物である人々が街へと流れ着く。
その獲物を追い、小鬼も街を狙う。
つまりは、そういう事だ。
「だったら尚更。お前は、呑気に小鬼退治に出かけてる暇はないぜ?」
「…ああ」
今以上に小鬼が街周辺に出現する可能性が浮上してしまった。
そして街外れに在る、彼の下宿先である『牧場』などは真っ先に狙われるだろう。
何せ、牧場には食用に適した牛や豚に事欠かないのだ。
小鬼が狙わない筈がない。
否、牧場を狙うのは何も小鬼だけとは限らない。
野盗は無論のこと、流れ着いた避難民でさえ警戒の対象に含まれるのだ。
物資の備蓄量の減少につれ、家畜が不法に連れ去られる可能性が高くなる。
今以上に、牧場にも警備の必要性が生じてしまったのだ。
槍使いに指摘されたゴブリンスレイヤーは、食事の手を止め思案を深める。
「しかしよ、このままじゃ俺達冒険者の依頼も激減しそうだな。どうやってこれから食って良きゃいいんだ?」
「それなら心配いりませんよ。ギルドが対策を練るそうですから」
重戦士の懸念に禿頭僧侶が応える。
この様な異常事態が続けば、冒険者の依頼形態も大きく変わらざるを得ない。
多くの人々が流れつく事で、資金の流れも大きな変革が生じるからだ。
今や、人々の生活基盤が著しく揺らごうとしている。
人々の生活が崩壊すれば、今迄の依頼形態など崩壊も同然。
それは冒険者にとって、決して無視できない死問題団でもあった。
しかし禿頭僧侶の話によれば、ギルドは一時的にとはいえ給金形式への変更も検討している話も出ていた。
「そこまで行けば、もう傭兵だな」
「笑えん話だが、ある意味真っ当な職業して認知されるかもな」
オーベックの皮肉に、女騎士は冒険者の社会的地位を省みる。
冒険者…特に等級の低い新人などは、ゴロツキやチンピラに毛の生えた存在として見下される事も多々ある。
もし給料制となりギルドの業務形態として浸透すれば、冒険者間での生活格差が減り諍いの減少にも繋がるのではないか?
そうなれば、冒険者を懐疑的な目で見る民衆の印象も少しは改善されるだろう。
現実的に可能性は低いと思うが、女騎士は食事を運びながらそんな未来を想像していた。
食事を済ませた各々は更に準備を進め、やがて夕暮れの時刻を迎えようとしていた。
「やっと、気味悪い太陽から解放されるな」
山に隠れつつある黒い太陽を見据えるオーレルは、即席の外套を脱いだ。
山に隠れた太陽の光は空を更に黒褐色に染め上げたが、それが却って不気味な空を演出していた。
これまで数日過ごしてきたが、実は最も嫌悪感を催す時間帯でもあり、皆は極力空を見ないように努めていた。
だが反対に、あの赤く爛れた陽光が弱まる事で、此処で漸く皆が真面に活動できるという皮肉。
「こんなにも夜が待ち遠しいなんて…」
「これじゃあまるで――」
「ゴブリンか?」
夜が好きな人種も居るが、大抵の住民は夜よりも昼を好む傾向が強い。
また人は本能的に闇を恐れる習性がある。
だが今は、夜の到来を皆は望んでいた。
何故か、月光には然したる悪影響も無いからだ。
間も無く夜が訪れる事に、銀髪武闘家とエーファは複雑な表情で不気味な空と端に浮かぶ二つの月を見つめていた。
だが夜を望み夜に活動を始めるなど、
言うまでもないのだが、此処でゴブリンスレイヤーが小鬼の名を口に出す。
「…それで夜、いっつも小鬼に襲撃されてるんですけど?」
「そうか」
「また今夜も襲ってきたら、どうするんです?」
「皆殺しだ」
「「ハァ…この人は……」」
今日まで連日連夜、彼等は小鬼に襲撃されていた。
凶暴化した小鬼は仕留めた傍から亡者化し再度襲い掛かる。
彼等は総じて実力を備えた冒険者揃いだが、毎夜の襲撃で辟易していたのも事実だ。
当然だと言わんばかりの彼の言動に、銀髪武闘家とエーファは溜息を吐いた。
「それよりもエーファ、もう散弾は残ってないのか?」
「え、ええ。今持ってるの拳銃用の弾だけなの、ごめんなさい」
「そうか」
数日前、灰の剣士たちに拾われる形となったゴブリンスレイヤーは主要な道具を使い切っていた。
それは散弾銃の弾丸も同様で、手元に残っているのは『数打ちの剣』と『鷲塚の短刀』を含めた小道具類だけだ。
そこで銃器の扱いに精通しているエーファ=アルムスターに、散弾を譲って貰えないかと打診してみたのだが、彼女も拳銃弾しか所持しておらず散弾は持ち合わせていなかった。
「それならルルアちゃんやライザちゃんから、フラムを分けて貰うという案もあるよ?」
「例の爆弾だな。悪くない」
銃器が期待できないのなら、投擲に活路を見出してみては如何か。
ルルアやライザは錬金術士であり、フラムを始めとした多くの投擲武器を所持している。
またフラムは、着弾の衝撃で爆発する手頃な爆弾の代表格だ。
加えてゴブリンスレイヤーは、投擲に長けた技能を保有しており打って付けではなかろうか。
エーファの提案を彼も難なく受け入れ、ルルア達の元へと向かった。
「「……」」
躊躇なく行動を起こすゴブリンスレイヤーの背を見つめる、エーファと銀髪武闘家。
「あの人、何であんなに小鬼に拘ってるんでしょうかね?」
「何でも辛い過去を経験したらしいとしか――」
彼が抱く小鬼への殺意――。
二人には、彼の苦悩など知る由も無かった。
忌々しい黒い太陽だが、今は完全に地平線へと隠れた。
不気味な赤黒い色が空を僅かに染めるが、間もなく月が空を支配する。
宵色の濃紺と黒い赤が入り混じる空も、何処となく禍々しいナニカを感じさせる。
だが陽光による弊害が無い分、ある意味では夜間の方が人々には有り難かった。――とは言うものの、夜は夜で魔物や異形が活発化し危険な状況には変わりない。
しかし出血を伴う赤爛れた陽光を浴び続けるよりはマシと判断し、彼等は夜間の行動を選択した。
行動を起こすなら今しかない。
灰の剣士たちは、街へ向け村の脱出を図った。多くの村人を引き連れながら――。
「いやな空だけど、今度は平気かな」
黒髪の少女は、馬車の幌から顔を覗かせ空に視線を泳がせていた。
濃紺と濃赤の混じる色は、見る者に嫌悪感と不安感をそそる。
陽光の脅威が去った時間帯とは言え、やはり気味の悪い空に変わりはない。
この空を目にするようになり数日が経過していたが、今夜は頼もしい冒険者たちが大勢寄り添ってくれている。
少女は、あの時の夜を思い出していた。
小鬼の襲撃に備え、大勢の大人たち共に寺院で過ごしたあの夜――。
小鬼の恐怖に怯えながらも、二人の冒険者が退治してくれる。
不安よりも安心感が勝っていたあの夜――。
丁度今もそんな夜で、
しかも大勢の仲間を引き連れて――。
これ程頼もしい事など未だ嘗て起こり得ただろうか。
(イヤーワン編 第27話参照)
――お兄ちゃんにバケツの騎士さん、あの変な格好の冒険者さんも居る。
少女は幌へと顔を戻し姿勢を戻せば、程無くして睡魔が押し寄せる。
一応夜に備えて仮眠を取ったつもりだが、どうにも眠れず今まで起きていたのである。
此処で漸く安心したのか、少女は静かな眠りへと沈み意識を手放した。
……
どのくらい寝たのだろうか。
気が付けば外が慌ただしい。
同時に馬車が急停車し、俄かな揺れが少女の意識を叩き起こした。
「――お騒がせして申し訳ありません!」
「何が…あったのです?」
馬車が停まったかと思えば、今度は外から灰の剣士が顔を覗かせ院長と話をしているではないか。
院長の言う通り、何か異常が起きたのは間違いない。
少女は、何となくこの感覚を何度も経験しており、もう直ぐ魔物が襲撃してくる事を予感していた。
「お兄ちゃん、魔物が来るんでしょ?ボク分るよ」
「……良く分かったな、その通りだ」
少女の反応に些かの驚きを見せた灰の剣士。
彼が言うには、間も無く魔物の群れが此方を目掛けているのだと警告した。
しかも、かなりの大群が迫っており、これから彼等が迎撃と殿を詰める旨を院長に伝えた。
当然だが、それを聞いた子供や村人たちは怯えの声を上げ始める。
彼等が敵を引き付けている間、村人を乗せた馬車は一路街を目指してほしいとも告げる。
「ご安心ください。何があっても貴方達を街まで送り届けます…!」
不安に押し潰されそうになる村人達を、灰の剣士は必死に宥めた。
「お兄ちゃん、ボクも戦うよ!」
「――ダメに決まってるだろう!…どうしてもと言うなら、お友達を守る為だけに剣を振るえッ!」
アンリの直剣を手にしてから、自己流ながら剣を振り回し使い方を覚えた。
また数える程だが、偶に異形が村に襲い掛かり切り伏せた事もあった。
全て一刀の元に切り伏せてきた経緯もあり、少女には自信が芽生えていた。
その自信を根拠に、灰の剣士に参戦を意思を伝えた少女だが、即答で拒否されてしまう。
だが完全に『戦うな』とは言われておらず、近しい隣人に危機が迫った場合のみ剣を振るえと諭されたのであった。
「――むぅうぅ~……」
折角の自信も無下に断られ、少女はかなりの不満を募らせた。
だが傍に居た院長も彼と同じ考えで、少女が危険に身を晒す事には猛反対の意思を示す。
これまで何度も叱ってきたが、少女の無茶ぶりは日増しに拍車が掛かり半ば諦めてもいた。
近い将来、この少女は冒険者を目指すだろう。
だが今は未成年で、学ぶべき事が山積みなのだ。
もう何度目になるかも分からないが、院長は改めて少女に説教を下す。
しかし何時もの御叱りではなく、少々社会的な観点で諭し始めた。
「……!?」
院長の今までにない言動に、少女は意外な表情を浮かべ耳を傾ていた。
「――灰剣士殿!」
「――数は分かるか、ジークバルド!」
「――
外では冒険者たちが対応に追われていた。
ある程度予想はしていた魔物襲来――。
しかし、今夜に限り異常に数が多い。
ジークバルドからの報告では、最低でも100は確実に超えるとの方が寄せられた。
「――ソウルの感覚から、魔神の眷属が中心だ!」
「――灰人さん、
オーベックと輝石の貴公子からも続報が寄せられた。
100を超える魔物の大群だが、魔神を中心に構成されているのだと言う。
そして懸念していた通り、死の鳥の襲来も告げられたのだが想定外の事態が発生した。
ただでさえ脅威の『死の鳥』だが、複数一度に迫って来ると言うのだ。
しかも魔神だが、中級や上級も含まれた混成群だと言うのだから尚のこと質が悪い。
「――何と言う事だ…!真面に戦っては、確実に犠牲者が出る…!」
数・質ともに今迄の比ではない。
ここ数日でも夜間襲撃の憂き目には遭ったが、大半が小鬼や亡者などの小物ばかり。
しかし今夜は、格が違い過ぎる。
無策で戦うのは些かに危険で、村人にも被害が出る危険性が高い。
「まだ多少の距離はある!策を練るなら今しかない、旅人よ!」
大群をなす魔物の襲来だが、ソラールの話では僅かながら時間の猶予があった。
間合いを詰められ前に、優位に事を運ぶ策を練るのは今しかない。
「…考えは…ある!皆、聞いてくれ…!」
想定外の規模と質に、正直特効性の策など思い付かなかった灰の剣士。
だが何の考えも無しで狼狽える程、彼の精神も脆くはない。
即興だが策を練った彼は、皆に指示を出し迎撃準備を整えてゆく。
まず第1陣として、灰の剣士、オーベック、ジークバルド、ソラール、輝石の貴公子が陣を張る。
敵が集団で来るのなら、逆に利用してやればいい。
この5名は、強力な呪文攻撃を備え総じて指折りの実力者揃いだ。
敵の集団陣形に対し、現時点での大呪文や範囲攻撃で先制攻撃を見舞う。
『ソウルの奔流』、『嵐の螺旋撃』、『彗星アズール』に代表される高威力の攻撃をぶつけ、初手で一気に数を減らす作戦だ。
この作戦の成功度合いが、今後の
大物、小物、関係なく高威力の範囲攻撃で敵大群を飲み込む。
敵が彼等に反応し群がるのであれば、却って好都合。
敵を引き寄せる分、村人たちを乗せた馬車の安全確保にも繋がる。
それが第1陣の役割だ。
恐らくだが、幾らかは討ち漏らしが発生し敵は第1陣を素通りするだろう。
此処からは第2陣の出番だ。
とにかく飛び道具持ちが力を発揮する。
妖精弓手を代表とした弓使いや呪文使い達――。
彼等の迎撃で、更に各個撃破を担い敵漸減を試みる。
上手くいけば此処で戦局が決まるだろう。
後の残りは全て馬車群の護衛に回って貰う事になるだろう。
兎に角、馬車に接近される前に可能な限り敵を減らし安全確保に繋げねばならない状況だ。
死の鳥それも複数居る事は確定した。
だが更なる問題は、それ以外の構成群についてだ。
魔神中心に群れを成しているのは分かったが、一言に魔神と言っても多種多様な個性を持つ。
此方の知り得る魔神ならまだしも、四方世界の魔神には然程明るくはなかった。
だが一々悠長に対策を練る時間はない。
既に魔物の群れが直ぐ其処まで迫っているのだ。
灰の剣士たちは、手筈通り位置に就き迎撃の準備を始める。
「かなりの戦力だ」
間も無く遭遇するであろう敵の大群――。
彼我の距離も徐々に狭まり、より明確にソウルの感知が叶う。
100を超える事は確定していたが、雑兵クラスでも『
雑兵級の魔神とはいえ、人よりも遥かに強靭な肉体と魔力を誇る異界の住民。
生半可な冒険者で太刀打ちできる存在ではない。
これより相手取る魔神の軍勢に、オーベックは戦慄する。
(推奨BGM エルデンリング ―― Formidable Foe I)
「――来た!各位、準備はいいな!」
そう時間を置く事なく、遠方より飛来する群れが彼等の視界に映る。
3体の黒い骸骨の様な鳥を主軸に、翼を生やした異形が群れを成し迫り来る。
「不味いですね…『死儀礼の鳥』まで居ます…!」
「あの中心の鳥か?」
「ええ」
3体の黒い鳥だが、中心の1体だけは『死儀礼の鳥』と呼ばれる死の鳥の上位種だ。
死の鳥が3体――。
灰の剣士はそう判断していたが、輝石の貴公子による指摘で更なる困難を予感する。
死儀礼の鳥という個体は、死の鳥に比べ強靭な戦闘力と『霊火』と呼ばれる凍結の炎を駆使する強敵でもあった。
「ならば尚のこと、この一撃に全身全霊を賭けねばならんな…ぬんッ!」
とにかくこの迎撃戦術は、乾坤一擲の一撃で明暗を分ける。
既にジークバルドは、真ストームルーラーに嵐を纏わせ戦技の構えを執っていた。
のるかそるか全力の一撃で敵戦力を削り取る。
それが失敗すれば、迎える結末など悲惨の一言に尽きる。
成すべき事が決まっている以上、余計な議論など無意味だ。
「そうであるな。相手が何であろうとも、この一撃に全力を注ぐのみ!」
ジークバルドに釣られ、ソラールも手に雷を迸らせる。
「灰人さん、オーベックさん、僕たちは死の鳥を狙いましょう!」
この3人は強力な呪文攻撃を備えている。
使い所を選ぶ呪文だが、この状況なら存分に活かす事が出来る筈だ。
群れを成す魔神も強力だが、死を司る『死の鳥』と『死儀礼の鳥』は優先的に排除しなければならない。
あの嘶きは呪死の力を秘め、耐性の低い者が耳にすれば忽ち即死に至る恐ろしい攻撃方法でもある。
この場で排除できれば、後々の戦況が有利に働くだろう。
輝石の貴公子の方針に従い、灰の剣士とオーベックも大呪文の発射態勢に移った。
オーベックは無論の事、灰の剣士も条件付きでなら『ソウルの奔流』を撃つ事が出来る。
「…
孤電の杖の特殊能力でもある『
各々が発射準備を終えた頃、敵側も彼等目掛けて急降下を開始。
余裕があるのか警戒しての事なのか、敵の群れは些か低速なのが気になる処だ。
しかし絶好の射程内に入ったのも事実。
この機を逃す手はない。
「――うてぇッ!!」
灰の剣士の号令と同時に、各自が術や戦技を放つ。
灰の剣士とオーベックは、ソウルの最大呪文である『ソウルの奔流』を。
輝石の貴公子は、輝石の源流であり禁忌とも言われる大呪文『彗星アズール』を。
ソラールは、最大まで溜め込んだ『雷の槍』を。
最後にジークバルドは、彼のみ扱える専用戦技『嵐の螺旋撃』を敵群めがけて撃ち放った。
ソラールの放った『雷の槍』がジークバルドの『嵐の螺旋撃』と折り重なり、電撃を帯びた嵐の激流と化す。
雷の混じる嵐は敵の群れを巻き込み、下級の魔神など容易く蹂躙する。
ある魔神は翼と胴体引き裂かれ、ある魔神は急所である頭部が砕け散り、ある魔神は超高電圧と嵐の潮汐力で体組織が破壊され尽くした。
ソラールとジークバルドの攻撃は、思いのほか実を結び約半数、つまり50の魔神を屠ったという事だ。
この流れのまま、灰の剣士たちの呪文攻撃も功を成せば良かったのだが、此処で想定外の事態が発生した。
なんと、一部の魔神が『死儀礼の鳥』たちを庇う事で、討ち漏らしが発生してしまったのだ。
オーベックが放った『ソウルの奔流』は、身を挺した魔神ごと『死の鳥』消滅させる事に成功した。
だが灰の剣士と輝石の貴公子が放った呪文攻撃は、身を挺した魔神だけを屠るに至り、結果的に『死の鳥』1体、『死儀礼の鳥』1体を仕留めそこなってしまった。
庇い犠牲となった魔神は総じて、中級や上級魔神であった事がせめてもの救いであろうか。下級魔神に比べれば、遥かに脅威度の高い個体だ。無意味な戦果ではない。
今の呪文攻撃で異様に警戒したのか、死儀礼の鳥たちは暫く空中旋回を繰り返し、やがて彼等を無視し通り過ぎる。
「――クッ、しまった!」
死儀礼の鳥たちは残存戦力を引き連れ、彼等の後方へと飛び去ってしまう。
今の一斉射で半数の撃滅には成功したが、肝心の『死儀礼の鳥』たちは未だ健在だ。
そして第2陣、第3陣の冒険者たちは『狭間の地』由来の異形など未知なる領域にも等しい存在。
更に下位とは言え50近くの魔神も追従しており、まだ中級の魔神も残っていた。
決して自分達が自惚れた積りなど無かったが、彼らだけで無事に切り抜けるには、かなりの不安を覚えてしまうのだ。
「ここは、俺とジークバルド殿に任せよ!」
「お三方は、後陣との合流を…!」
群れの半数は仕留めたが、2体の魔神が降り立ち彼等の前へと立ちはだかった。
下級魔神の類だが、かなりの巨躯を誇り耐久性と膂力に優れた個体である事が分かる。
この場は、ソラールとジークバルドで受け持つ事を提案し、灰の剣士たちを先に行かせる事にした。
彼等が合流すれば、少しは戦力の不安も解消できるだろう。
「…承知、この場は任せた!」
色々と意見もあったが、この場は彼等に任せた方が上策だ。
魔神が相手とは言え、この二人なら無事に切り抜けてくれるだろう。
彼らの意見に従い、灰の剣士たちは離れの木に括り付けてあった馬へと騎乗し後陣へと走り去った。
「ご武運を…!」
「お前ら死ぬなよ!」
輝石の貴公子とオーベックも二人に声を掛け、灰の剣士へと続く。
離れの木に括り付けたお陰で、馬が暴れる事も逃げ出す事もなかった。
少々興奮気味な馬に跨りながら、彼等もその場を走り去る。
「さぁて、久々の大物退治だ!」
「ウワハハ…!新たな戦技、御披露しようぞ!」
巨躯で威圧する2体の魔神などものともせず、ジークバルドとソラールは武器を構え敵と正対する。
ソラールは直剣に雷を――。ジークバルドは大剣に嵐を纏わせる。
「「GWOOOOO…!!」」
「「行くぞ!!」」
両者とも唸り声を上げ、2人の騎士と2体の魔神は激突した。
灰の剣士たちを中心とする第1陣を切り抜けた『死儀礼の鳥』たち――。
今度は、魔術士や弓使いなどの飛び道具持ちで編成された第2陣の迎撃に晒されていた。
「相変わらずタフだな、魔神てのは…!」
妖精弓手が撃ち落とした
以前にも
(イヤーワン編 第38.5Ⅽ話参照)
地面に落ちた
「これでやっと1体か…!」
「骨が折れますね…!」
攻撃に参加していた鉱人斧戦士と禿頭僧侶も、打たれ強い敵に焦燥を滲ませた。
「ハァ、ハァ…あたしの武器じゃ威力が足りねぇ…!」
鉱人の少女でもある鉱人斥候は、早くも息が上がっていた。
何とか討伐に漕ぎ着けたが、漸く1体を仕留めたに過ぎない。
空には多数の
そしてあまり有り難くない事に、中級の魔神までもが此方を見降ろしていた。
「
空を見上げた獣人魔術師は、険しい表情を浮かべている。
数は1体だけだが、中級(上級に近い異説あり)の魔神に位置する
肉体は無論のこと魔力さえも常識外れの強大さを誇り、銀等級を中心とした百戦錬磨の一党で漸く互角に並ぶほどの強敵なのだ。
だがそれは単体で遭遇した場合の脅威度であり、今は周囲に多数の
一言で言えば、悪夢そのもの。
実質、
しかも『死の鳥』などという資料にも記載されていない、不気味な鳥の異形が2体も空中を徘徊していた。
数を合わせれば、総数50近くは居た。
先ほど遠方で、幾重にも及ぶ呪文の光が確認出来た。
その事からも最初100以上居た魔神の群れは、灰の剣士たちが仕留めてくれたという事になる。
しかし半減して尚、これ程の戦力差だ。
(推奨BGM エルデンリング ―― 死の鳥)
「――嘘!?変な鳥と魔神が降りて来ちゃった…!?」
正直、手が足りない。
墜落した
高い攻撃力を誇る戦士職と言えば、精々が槍使い、鉱人斧戦士、女部族に絞られる。
止めに時間を掛ければ、その分敵は体勢を立て直し反撃の危険性が高まってしまう。
いや現に、その状態だ。
今まで彼等が攻撃に専念出来ていたのは、敵が空中で様子見に徹していた為であり、死の鳥と
「――やっ…痛い…!」
「――この野郎ッ!」
攻勢に出た
白く扇情的な肌から鮮血が滲みだし、彼女の胸元へと滴り落ちる。
幸いにも爪が掠った程度で済んだらしく、比較的軽傷ではあった。
其処へ、ジークバルドの相棒を務める女部族が長柄斧を振るい、
「ありが、とね…」
「気にしなさんな…て言いたいんだけどさ。ちょっと分が悪いね、こりゃ…!」
負傷した自分を庇う様に立ち塞がる女部族に、魔女は礼を述べる。
礼を言われた女部族は軽く流すも、この戦況を不利と悟り険しい表情を崩していない。
まだほんの数体を仕留めただけなのだ、
敵の総数は、未だ40前後健在で、様子見から攻勢へ、そして死の鳥と
時間を追う毎に、戦況は不利に傾く一方。
加えて止めを刺し損ねた
「もう迎撃どころじゃないわね…!」
「数を減らす事に専念しましょ!?」
対空迎撃を担当していた妖精弓手と少女野伏は、敵を減らす方針へと切り替える。
彼女達の射撃技術は見事なもので、敵の翼膜を狙い飛行機能に損傷を与え続けていた。
そのお陰で敵は、次々と墜落し地上へと縫い付けてきたのだが、逆に裏目に出始めている。
残念だがこれ以上空中の敵を落とし続けていては、今度は自分達を付け狙う敵を増やす結果へと繋げてしまうだけだ。
空中からの奇襲にも警戒しなければならないのだが、今は地上の敵減らしに注力すべきだろう。
二人は地上へと標的を変え、1体の
止めの一撃には程遠いが、此処で投擲槍《ジャベリン》が
「――援護します!」
ソラール一党の冒険者『男槍の徒』が、馬を駆りながら器用に槍投げで追撃してくれた。
彼は黒曜等級ながらも、馬術と槍長柄には秀でている。
器用に馬を駆り敵の攻撃を掻い潜りながら、槍投げを繰り返す。
「
更にソラール一党の女司祭が、専用の奇跡である
だが味方陣営が地上へ釘付けの間、死儀礼の鳥たちは村人を乗せた馬車へ向け飛び去ってしまった。
「――やべっ、行っちまった…!」
飛び去る敵へと意識を向けた槍使い。
此処から敵の反転攻勢が始まった。
基本的な精霊魔法だが、
その効果範囲も威力も、人が扱う術とは一線を画していた。
「――ぐぉおお…!何ちゅう威力じゃ…!」
ほぼ全ての味方陣営が射程圏内に入る、吹雪の如き石弾の精霊魔法。
その桁違いの術力に、鉱人導師が『
霊壁は瞬く間に消滅し、その隙を縫うかのように複数の
「――退きな、爺さん!」
狙われた鉱人導師の前へと立ちはだかったのは、槍使い。
だが複数同時を相手取る実力までは、この時点では有しておらず、別の
「――おぐぅああッ…!?」
巨体と高速飛行から繰り出された突進は凄まじく、派手に吹き飛んだ槍使いは地面へと全身を強打した。
「ぅうぅぐぐ…」
「――おい何やってる、立てぇッ…!!」
地面に全身を打ち付けた衝撃で、彼は直ぐに立つ事もままならなかった。
俯せに転倒したまま立ち上がろうと藻掻くも、同期戦士からの叫び声が槍使いの耳を打つ。
槍使い自身は未だ気付いていない。
彼の頭部を狙う『死の鳥』の存在に――。
まだ立てない彼の脳天目掛け、死の鳥は棒状の武器を打ち下ろした。
直撃すれば、人間の頭部など容易に砕け散る威力を誇る攻撃だ。
だが彼は立ち上がる事に手間取り、もう回避は間に合わない。
しかし彼の頭部が砕かれる事はなかった。
「――しっかりおし、槍の兄さん!」
何と女部族が割り込み、長柄斧で攻撃を受け止めてくれていた。
死の鳥による巨体からの叩き付けは強力無比の一言で、女だてらに剛力を誇る女部族でも圧し留めるだけで精一杯だ。
軽口をたたく彼女だが、その表情は苦悶に彩られている。
「す、済まねぇ…!」
「コッチ、早く…!」
漸く立ち上がった槍使いに魔女が駆け寄り、彼を退がらせた。
そうしている間にも死の鳥の猛攻が続き、女部族は長柄斧で辛うじて防いでいた。――が、打ち合う度に力負けが顕著に現れ、それに伴い生命力が摩耗してゆく。
「――鳥の癖にッ…!」
彼女の武器は極めて頑丈だが、死の鳥の猛攻は余りに重く防御ごと痛痒を負わされた。
女部族は完全に防戦一方に追いやられる。
「――きゃあっ…!」
「――いぎぇッ…!」
少女野伏と鉱人斥候が、敵に吹き飛ばされる。
「――ぐえッ…!」
「――いったぁ…!」
同じく吹き飛ばされた妖精弓手は、鉱人導師に激突し覆い被さった。
「どかんかい、重いわ…!」
「鉱人よりは軽いわよ!」
多少軽口を叩けるだけの余裕はあったのだろうか。
しかし口論の割に、二人の視線は敵側へと向いていた。
次第に不利へと傾く戦況――。
着実に敵の数は減らしていたが、味方の被害も増大の一途を辿っていた。
「――あぐぅッ…!」
死の鳥が繰り出す叩き付けを、尚も長柄斧で受ける女部族。
しかし表情には余裕がなく、彼女の体力は限界を迎えようとしていた。
死の鳥は武器を振り下ろしたまま、息を吸い込むような姿勢を取る。
「――いかん、早く離れぇ…!」
横から鉱人導師の警告が飛ぶ。
先日、耳にしていた例の
死の呪力を宿した嘶きを耳にする事で、どの様な屈強な戦士でも忽ち即死に至る呪いの鳴き声。
道行く過程で目にした、滅んだ一つの集落。
どういう訳か住民の遺体はなく、枯れ果てた気味の悪い木々が無造作に立ち並んだ光景が脳裏に焼き付いている。
実は、その木々こそが住民の成れの果てで、それが眼前の死の鳥の仕業だと言うのだ。
このまま嘶きを許してしまっては、自分も枯れ果てた木々の様な末路を辿ってしまう。
早く距離を空けなくては――。
頭では理解していたのだが、死の鳥をの叩き付けを受け止めてしまった事が悪手に繋がってしまう。
女部族の動きを封じるために、死の鳥はそのまま彼女を抑え付けていた。
体勢を変えれば何とか脱出は可能だったが、既に手遅れの状態だ。
死の鳥が大きく口を開けた瞬間――。
「――
突如、眩い閃光が拡がり女部族と死の鳥の視界が真っ白に染まる。
「――今の内だ、後退し給え!」
同期戦士一党の森人僧侶が奇跡を行使し、死の鳥の行動を一時的に妨害してくれた。
「――やるねぇ、アンタ…!」
突如の光で視界は眩んだままだが、女部族は覚束ない脚で場を離れる。
しかしそれも束の間――。
嘶きを中断された死の鳥だが、すぐさま死の嘶きで奇声を上げた。
鼓膜を突き破らんばかりの高周波が周囲に拡散する。
「――な、何じゃあ…!?」
「う、うるさいだけ…じゃ…ない…!?」
「体中が痛い…!」
「魔力の、所為…?」
鉱人斧戦士を始めとした面々が、耳を塞ぎその場で蹲った。
先ほどの
そのお陰で『死の呪い』による影響はなかったが、魔力による痛痒効果も備えており、痛痒の効果範囲は呪死よりも広範囲に及ぶ。
身体の外傷は見られなかったが、皆の生命力は目に見えない形で確実に奪われていたのである。
この嘶きで、味方は軒並み動きを止めており致命的な隙を見せてしまう。
その隙を見逃す敵ではなく、この場に居た敵全てが総攻撃を仕掛けんとしていた。
それは死の鳥も例外ではなく、嘶きの硬直も僅かに留まり間髪入れずに武器を振り回さんとしている。
その武器が誰かを捉える寸前で、死の鳥の顔面に光り輝く礫が数発炸裂した。
「――GEYAAA…!!」
死の鳥にも痛覚があるのだろうか。
片手は顔面を庇い、絶叫を上げた死の鳥は数歩後退った。
「――皆、待たせたな!」
何と、灰の剣士を含めたオーベックと輝石の貴公子が救援に駆け付けてくれた。
「お、おお…来てくれたか…!」
灰の剣士たちの姿を視界に捕らえた同期戦士は、安堵の表情で彼等を迎える。
「結構残ってますね、手を貸します…!」
輝石の貴公子が確認したところ、敵戦力は未だ10数体が生き残っている。
そのまま手を貸すべく彼は馬を降りようとした。
「――全員は止めとけ!それよりも村人の馬車が心配じゃ…!」
そこへ鉱人導師が制止をかけ、3人共を此処へ残らせる事を
彼等が奮戦していた間、死儀礼の鳥たちが村人を乗せた馬車群へと飛び去ってしまったのである。
そして村人を乗せた馬車だが、車体を牽いていたのは数頭のロバだ。
馬に比べればロバはどうしても牽引力に劣り、対する死儀礼の鳥たちは空を飛ぶ。
これでは直ぐに追い付かれてしまう。
「俺が此処に残る。お前達が向かってくれ!」
鉱人導師の指摘を受け、オーベックが現場に残り援護する旨を告げた。
既に、灰の剣士から『エストの灰瓶』を受け取り消耗した
これなら大物1体を再び仕留める事も可能だ。
「…承知した…が、その前に。奇跡『中回復』、戦技『黄金樹の誓い』…!」
可能な限りの支援はすべきだろう。
この場を去り行く前に、灰の剣士は『中回復』と『黄金樹の誓い』で味方の回復と強化を図る。
「いつも済まねぇな…、助かったぜ…!」
「
負った傷は忽ち回復し、加えて戦闘力も増大した。
これで多少は持ち直せた筈だ。
同期戦士と槍使いは、後を託し灰の剣士と輝石の貴公子を見送る。
村人を乗せた馬車群には、重戦士一党とライザの一党が警護に就いてくれていた。
特に『辺境最高』と称される重戦士の一党は、ギルドからの信頼も厚く総合力に秀でている。
恐らく心配はないと思われるが、何せ得体の知れない異形に加え魔神の群れによる襲撃だ。
度重なる戦闘で流石に敵側も大きく戦力を喪失していたが、何が起こるかも分からないのが実戦というものだ。
身を引き締めた灰の剣士と輝石の貴公子は、馬を加速させ現場を後にする。
「それにしても、羨むほどの支援能力ですね。お陰で何とかなりそうです」
少々場違いな羨望を覚えながらも、禿頭僧侶はこの戦闘に希望を見出しつつある。
「これが普通の依頼なら、大金星じゃのう…!」
本来、魔神の群れと遭遇し且つ戦うなど余程の不運が重ならない限り、先ず起こり得ない事態なのだ。
時々起こる
それが100を超す魔神の群れ…しかも、上位の魔神まで参戦した集団戦――。
まだ気が早いが、この戦いも恐らく勝利で終えるだろう気がしていた、鉱人斧戦士。
これが緊急事態である事が悔やまれた。
もし通常の冒険で魔神の群れを討伐しようものなら、忽ち名が売れる事は間違いない程の功績だ。
――まぁ生きて帰れるだけでも儲けもんじゃ。終わったら導師のじっちゃんとでも飲み交わそうかの。
そんな事を考えながら鉱人斧戦士は自慢の戦斧で、眼前の
「――よし、もう少しの辛抱だ!気張ろうぜ、皆ぁ…!」
「「「「「――応ッ!!」」」」」
回復と強化、そしてオーベックという強力な魔術師が参戦した事で、味方陣営は士気を持ち直す。
槍使いの号令に皆が勢いよく応え、激しい攻防が再開した。
「――ダメだ、追い付かれちまう!」
根本的な機動力が違い過ぎる。
いくら人より早い騎乗動物とはいえ、相手は空を飛ぶ異形。
異形の魔の手から全速で逃げる馬車群だが、瞬く間に追い付かれてしまった。
死儀礼の鳥が率いる魔神の群れ――。
重戦士自身も実力を備えた冒険者だが、流石に空からの襲撃では分が悪い。
低空飛行で頭上に張り付く異形の群れを、彼は睨み続ける。
死儀礼の鳥が率いる魔神の群れは、かなり数を減らしていたが、それでも20以上の戦力が残っていた。
やがて馬車群の進攻を阻むべく、彼らの前へと着地する。
「――止まってッ!」
先頭の馬車に乗っていたゴブリンスイーパーは、進行を遮られ止む無く急停車を敢行。
此処で完全に足止めを食らう。
相手は空を飛ぶ異形の群れだ。
機動力の劣る馬車で逃走を図るなど無謀そのもの。
こうなれば戦い勝つ事でしか、活路が開けない状況に追い詰められた。
彼女の続き他の馬車も停車する。
「とんでもねぇ日だな、特に今夜は…!」
真っ先に馬車を降りた重戦士は、敵の群れの前に躍り出る。
「まだ数が多い、これでは囮を務める事も出来んか」
空を飛ぶ魔神の群れに加え、得体の知れない不気味な鳥型の異形――。身体中には、青白い炎のような
何とか自分たちが囮となり、村人たちを逃がしたいのが本音だ。
しかし彼我の戦力差は、此方が圧倒的に不利。
どうやら討伐する事でしか、退路を切り開けそうにない。
女騎士は、半森人の軽戦士、少年斥候、圃人の少女巫術士を村人の護衛役に専念させ、自身は重戦士と共に敵の前へと出る。
「僕も前に出よう、その為の剣だ!」
「あたしも行く。錬金術だけでなく、魔法だって使えるんだから!」
「
スイーパーの馬車からも、オーレルとライザが敵の前へと立ちはだかった。
そんな二人に銀髪武闘家も続き、闘志を
「ルルアちゃんは、どうする?」
「私は、ライザ達を援護するよ。エーファは、
「あたしの奇跡は大半が防御型…、攻撃は…ちょっと苦手…」
ルルアは、ライザ達の援護に動く積りだ。
エーファと赤いリボンの少女には、村人の警護を任せる事にした。
エーファは言うに及ばず、実は赤いリボンの少女も『獣狩りの短銃』を所持していたが、現行品よりも更に小型化された緊急の護身用といった趣が強い代物だ。
彼女自身も村人の護衛が向いていると判断しており、エーファと共に後方へと向かう。
「下級とはいえ魔神が相手ね…いけるかしら…」
「…小鬼ではないのか、今夜は」
最後にゴブリンスイーパーとゴブリンスレイヤーも、敵に抗するべく前へと躍り出た。
攻撃を仕掛けたのは、敵側からだ。
10数体の
巨体に加え速度を伴った体当たりは、単純ながらも高威力を誇っていた。
その質量は、トロルでさえ揺らぐほど。
それが一度に10数体で襲い来るのだ。
直撃すればこの一手だけで、彼等は全滅するだろう。
「――嘗めないでよね…!そぅれ!」
10数体の魔神が繰り出す突撃だが、ライザは臆する事無く懐から道具を取り出す。
一見小さな水晶状の道具だが地面へと着弾した瞬間、荒れ狂わんばかりに風が巻き起こり、10数体の
それは竜巻に等しい風圧を以て敵全体を切り裂きつつも、暴れる風は更なる敵の行動を妨害する。
「よし、脚止め成功!今の内にヤっちゃって!」
ライザが投擲したのは『レーツェルフト』と呼ばれる風属性を帯びた高級爆弾だ。
しかも
効果範囲と威力強化に加え
ドーザーブレードの如き
「――ハッハァ、やるなぁ嬢ちゃん!」
ライザの投げた『レーツェルフト』で、死儀礼の鳥以外の敵は動きを止めた。
透かさず重戦士は、動きを止めた
渾身の戦技『踏み込み切り上げ』で、敵の1体を撃ち上げつつ間髪入れずの『叩き切り』で、
巨体を誇り打たれ強い
加えて彼は剛力を誇る大男だ。それらの要素が合わされば、人外すら狩る驚異の一撃と化すのである。
「――今だ、我等も続くぞ!」
重戦士の動きに合わせる様に、女騎士も皆を鼓舞しながら
流石に重戦士程の攻撃力は有していなかったが、彼女の剣は確かに敵の急所を切り裂いた。
「――誰でもいい、止めをッ!」
切り裂いた後、女騎士は周囲に止めを託す。
確実に敵を減らしておきたかった、女騎士。
「――僕がやる、はッ!」
女騎士に応えたのは、オーレルだ。
彼は俊足で敵の懐へと潜り込み、居合切りからの連続斬撃で
「――今度は、あたし達です!」
別の敵へ向かうのは、銀髪武闘家を始めとしたゴブリンスレイヤーとスイーパーの計3人。
真面な状態の
しかし今は、ライザのお陰で体幹が崩れた状態だ。
更に、防御も低下した今なら有効打を与えられる。
3名の中でも敏捷性に秀でる銀髪武闘家が、敵の後ろへと回り込み膝裏に向け渾身の『ローキック』を食らわせる。
「――一発が効かないなら何度でもッ!そぅれそれそれぇッ!」
腐っても魔神の眷属、そう簡単には倒れてくれない。
しかし彼女も諦める事無く、更に数発のローキックを繰り出し、遂には敵も転倒した。
俯せに倒れた事で敵の後頭部は、がら空きとなる。
「――行くなら今ッ!」
その隙目掛け、ゴブリンスレイヤーとスイーパーも追撃を仕掛けた。
がら空きの後頭部へと動かなくなるまで何度も刺し続けた。
数度繰り返す事で、転倒した
だが1体の
一見、優勢に戦いを進めていた重戦士たちだが、実際は3体の敵を仕留めただけだ。
まだまだ敵の戦力は健在で、数の上でも不利を強いられていた。
「「「「「――RYLUOOOO…!!」」」」」
体勢を立て直した
ライザによる先ほどの妨害で、敵は怒り心頭に陥っている。
敵の2体が、ライザに狙いを定め爪撃と剛腕を振るった。
「――ひっ…!」
「――退けッ!」
1体目の攻撃は辛うじて躱す事に成功したが、2体目の爪撃に対し反応が追い付かない。直撃しようものなら、彼女の柔肌などバターも同然に引き裂かれてしまう。
直撃は避けられない状況だが、女騎士が割って入り
金属製の中盾は、
だが衝撃までは完全に流し切れず、女騎士は吹き飛ばされてしまう。
「…クッ何の…!」
地面に転倒する寸前でローリングを行い、何とか受け身は成功する。
だが他の
転倒は免れていた女騎士だが、下級とはいえ魔神の膂力は桁外れの一言。
受けに専念すれば、短時間の内に畳み掛けられてしまうだろう。
「――だったら、これで…!」
追い詰められた女騎士だが、突如としてルルアが錬金道具で援護に入る。
「吸い取っちゃえっ!」
何処から取り出したのか、独特の形状をした容器の様な物を
今ルルアが使用しているのは『吸魂ひょうたん』と呼ばれる錬金道具。
文字通り、対象の純粋なる力――即ちソウルを吸引する事で、相手を直接弱体化させる効果を持つ。
実は、ダークゴブリン戦でも『吸魂ひょうたん』を駆使していたのは、秘かな余談である。
「――騎士さん、今の内にッ!」
「――助かったぞ、せぁあッ!」
思わぬルルアの援護に助けられ、女騎士は弱体化した敵に直剣の刺突を仕掛けた。
彼女の剣は、敵の胴体中央部を捕らえたが未だ絶命には至っていない。
「――結構しぶといね、連射ァッ!」
女騎士に続きライザも追撃を仕掛ける。
錬金術が表沙汰にされ易いが、実は魔法にも長けていた。
この国とは全く違う系統だが、
敵は更なる重傷を負った。
「嘘、まだ倒れないの!?」
それでも健在の敵に、ライザも呆れ混じりの驚きを浮かべた。
「――これで詰めよ、そぅらぁッ!!」
そこへゴブリンスイーパーが間髪入れずに小剣手槍を投射し、
彼女の武器は青白い魔力に包まれていたが、これは予め調合しておいた『魔力脂』を塗布した為である。
以前、法の神殿の錬金棟にて『ピアニャ』から受けた指導の賜物でもあった。
(本編前夜編 第95話参照)
付与の魔法を使わずとも、道具の調合で補う事は可能。
精度では錬金術には及ばないものの、効果的に使えば有用に働く事が証明できた。
しかし彼女達の苦難は此処から始まる。
「――ぐぅぉあ…!?」
重戦士が派手に吹き飛び宙を舞う。
今まで静観していた『死儀礼の鳥』が、攻撃に参加していた。
死かき棒なる棒状の武器で、重戦士を叩き付けから打ち上げに繋げる。
重戦士も黙って甘受していた訳ではなく、
彼が吹き飛ばされた事で、攻守の流れが入れ替わる。
更なる『死儀礼の鳥』による追撃――。
鳥型の異形に相応しい細い貧弱な脚部、だがそれに似合わぬ異常な速力で今度はオーレルへと接近した。
死かき棒で、大振りの横薙ぎを繰り出す。
「――当たりはせんッ!」
彼も華麗な跳躍で完全に回避するも、その着地際めがけ白い炎を纏った叩き付けで攻め立てた。
「――まだまだッ…!」
それもバックステップで回避したが、地面に炸裂した死かき棒が爆発を起こす。
「――ッ、何だ!?」
その爆風を剣で庇い耐え忍ぶオーレル。
しかし、それが致命的な隙となった。
爆発した白い炎が、急激に方向を変え此方へと迫り来るではないか。
白い炎は飛沫を上げながら地面を這うように走り、射線上のオーレルごと冒険者たちを巻き込んだ。
「――ああ、あ、ああ、ぁあぁぁあああ…!」
「――ァぐぅぐががガガガが……!」
「――あ…ァあ…い…ぃいぃ…い…いぃぃい…!」
白い炎――霊炎と呼ばれるその現象は、燃えながらにして凍傷を齎す異界の火だ。
巻き込まれたオーレル、女騎士、スイーパーは霊炎の中で不様に踊り狂い断末魔の絶叫を上げた。
―― FROSTBITE(凍傷) ――
白い炎に包まれた彼らは全員地面に倒れ伏し、ガクガクと小刻みに痙攣を繰り返している。
「…ぇ…ァ…ぅう……」
その光景にライザは、放心状態となり身動きさえ取れないでいる。
「――動けバカ野郎ッ!」
そのライザに狙いを定めた『死儀礼の鳥』が、霊炎の纏う死かき棒を叩き付けた。
だが重戦士が割り込みライザを突き飛ばす。
「ッ…なんて馬鹿力だ…」
特大剣で受け止めたものの、桁外れの威力と霊炎の相乗効果で、重戦士の体力が削られてゆく。
「――ぐぁあぁッ…!」
防戦一方では、死を待つばかり。
そう瞬時に判断した重戦士は、反撃に移ろうとしたが悉くカウンターで潰されてしまう。
どうにもタイミングがズラされてしまうのだ。
振り被ったかと思えば、
そしてワザと遅らせたタイミングは防御や回避の呼吸を乱れさせ、見事隙を突かれてしまい直撃を許してしまう。
それでいて重戦士が反撃に移ろうとすれば、それを狙ったかのように素早い速度の
回避のローリングの終わり際を突き、反撃の合間を縫うカウンターの一撃――。
その掴み所の無い奇妙な緩急に、重戦士はとうとう膝を突く。
「ぐぅ…ゼェ…ハァ…ハァ…」
霊炎による凍傷と痛打が重なり、彼の意識は混濁していた。
「――私がやる、代われぇ…!」
膝を突いた重戦士を庇う様に、手負いの女騎士が切りかかった。
彼女の剣は淡い光を帯びていたが、それは祝福の奇跡によるものだ。
確か『聖なる力』に弱いと記憶している。
霊炎の凍傷を押し殺し、彼女は反撃に移った。
「――叩き切るッ!」
一心不乱に疾走し、死儀礼の鳥の脚部めがけ切り付けた。
「――GUGYAAAA…!」
脚部に裂傷が奔り奇声を上げる死儀礼の鳥。
かなりの効果を確認出来た。
「――よし、いける…!」
祝福の効果が
巨体には
巨大な身体を有す故に、それが仇となり懐に対する小回りは効かないものだ。
少なくとも女騎士は、その戦術で数々の大物を屠ってきた。
そして今回も、その戦術は有効に働く。
彼女は、そう信じていた。
しかし相手に、その
彼女は、相手が『鳥』である事を完全に失念していた。
「――なにぃッ!?」
一瞬で空中へと逃れた死儀礼の鳥に、女騎士は呆気にとられた。
その呆けた表情で見上げる女騎士を狙い、高速の急降下で突進する。
「――チッ…!」
彼女も歴戦の実力者であり、容易く敗北する冒険者ではない。
ローリングで回避はしたが、死儀礼の鳥の死かき棒には霊炎が纏わり付いていた。
地面に叩き付けた霊炎が爆発を引き起こし、女騎士は爆風を
―― FROSTBITE(凍傷) ――
またもや彼女は霊炎の冷たい火に焼かれ、治まりかけていた凍傷を再び負う。
「…うぅ…ぐぐ…!」
爆風による転倒と霊炎の凍傷で、彼女は体勢を直せずにいる。
だが死儀礼の鳥にとって、そんな事はどうでも良かった。
「――ッぎぃやあぁァッ…!?」
倒れていた彼女の脚めがけ、死かき棒による叩き付けが炸裂。
膝下の部位を粉砕した。
「――あああ…ぃだい…いだいぃ…痛いイダイアいいだいぃぃッ……!」
もはや骨折などという生易しいものではない。
完全に骨という骨が砕かれてしまい、女騎士は恥も外聞も形振り構わず転げ回った。
「――いやぁ、誰がぁぁッ…!」
そして未だ
その内の3体に囲まれたルルアは、猛攻に晒され助けを呼んでいた。
しかし真面に動ける戦士職は、ゴブリンスレイヤーとスイーパーのみ。
また村人の馬車にも
「――チッ、
ゴブリンスレイヤーは辛うじて攻撃を凌いでいたが、防御と回避がやっとで反撃どころではない。
「――お願いルルア、正気に戻って援護をッ…!」
「あ、ああぁ…ひっ…!」
スイーパーも
僅かな合間を縫い、屑輝石で反撃を見舞うが効果は薄かった。
そこでルルアの魔法と錬金道具が頼りになるのだが、肝心の本人が腰を抜かしている始末だ。
彼女は涙と鼻水を垂らし、普段の可憐な顔面が崩壊していた。
スイーパーの必死な叫びに応える事は不可能だ。
「効いてくれ…!」
しかし、ゴブリンスレイヤーは諦めていない。
回避を繰り返す内に、攻撃の癖を見極めつつあった。
爪撃を前ローリングで潜り、敵の顔面に催涙弾を投げ付ける。
割れやすい卵の殻から香辛料や砂粒が飛散し、
たとえ異界の住人と言えども、目や鼻といった知覚器官を備えている以上、こういった類は通用するらしい。
「――GLAAAA…!」
「――待っていろ、スイーパー!」
これで少しは注意が逸れるだろう。苦戦するスイーパーの援護に回る。
実際、彼女は2体の
だが長くはもつまい。
彼は1体の敵に向け、ライザから分けて貰ったフラムを投射する。
彼の投球技術は、熟練の域に達しており敵の顔面に見事直撃した。
基本的な爆弾だが、急所という事も加わり敵は大きな痛痒を負う。
「――あと少し持ち堪えろ…!」
「――スレイヤー!?」
スイーパーに殺到していた1体は、何とか此方に引き付ける事が出来た。
とにかく数を減らさねば、事態は何時までも好転しない。
彼はスイーパーを励ましながら、フラムの爆発で体幹を崩した
たとえ強靭な肉体を持つ魔神の眷属と言えど、膝裏の皮膚は比較的薄く易々と刃が徹った。
今度こそ敵は崩れ落ち、彼は無防備な後頭部へ向け更に剣を突き刺す。
だが敵はまだ絶命しておらず、後頭部に突き刺した剣を引き抜いた後、その傷口に意識を集中し屑輝石を握り砕いた。
やはり内部は脆いものだ。
握り砕いた屑輝石からの魔力礫が、後頭部の傷口に侵入し内部を破壊する。
そして今度こそ、手負いの
「――手を貸すぞ…!」
「――私はいい、ルルアの援護が必要よッ!」
これで何とか1体は仕留める事が出来た。
だが未だ、スイーパーに仕掛けている1体と、視界を奪われた1体が現存している。
手を貸そうとする彼を制し、怖じ気付いているルルアを正気に戻すよう、彼女は要求した。
「…あ…あぁ…」
圧倒的不利な戦況に、ルルアの心は折れかかっている。
腰を抜かし真面な援護など期待出来そうにないが、彼は取り敢えずルルアの前に立つ。
「逃げるか、援護するか、好きに選べ…!」
ただそれだけを告げた。
――もうちょっと気の利いた事言えないのかしら…彼。
スイーパーは若干呆れつつも
これが、ゴブリンスレイヤーという男だ。
何とも、ぶっきらぼうで短い言の葉――。これで重要事項が伝わるのかどうかも正直怪しい。
彼の言で、ルルアが立ち直ってくれればいいのだが。
スイーパーは
実の処、スイーパーも敵の攻撃に慣れ始めていた。
先程まで、2体同時に抵抗していたのだ。
回避に専念さえすれば、1体だけなら余裕が生まれ始めていたのである。
だが彼女に戦況を覆す程の
武器にせよ調合した道具にせよ、対魔神用には想定していなかったのだ。
数人がかりの共同で辛うじて討てる水準だ、今の彼女の実力では。――だからこそ、ルルアの援護が必要なのだ。
そろそろ催涙弾で藻掻いていた1体も体勢を立て直しつつある。
出来れば急いでほしかった。
「早く決めろ、出来ないなら向こうへ行け…!」
「…な…なによ、拾って貰っておいて…偉そうにッ…!」
「そうか」
説得する気が有るのか無いのか。
何とも、彼の真意と言葉は噛み合わず他者には伝わり難い。
殆ど挑発にも等しい彼の言葉に、涙目のルルアも僅かな憤りの感情を彼に向けた。
実際、彼にはどうでもよかったのだ。
ルルアが援護に移るのならそれで良し。
もし逃げるのであれば、彼女から爆弾を寄越して貰い自分で対応するだけだ。
それが彼の真意である。
常に考える事を止めず小鬼を屠ってきた彼の経験則が、そうさせていた。
鳴かぬなら、鳴かせてみせよう、ホトトギス。
思い通りにいかぬなら、あらゆる手段を用いてでも事を成す。
それがゴブリンスレイヤーという人間だ。
「…しっかり働いてよ、援護したげるから…!」
「その積りだ」
結果的にルルアは立ち直り、自身の技能である
ルルアの杖先から、何とも不可思議な香りを帯びた魔法の光が周囲を包み込み、味方の強化を施す。
この光に包まれた者は、主に攻撃力や俊敏性など強化が顕著に現れた。
「す、すごいわ…これ…!」
強化による恩恵を受けたスイーパーは、驚きの声を上げながらも敵の猛攻を避けるだけでなく、カウンターの一撃で腕部を切り裂いていた。
「恩に着る、ライザを見てやれ…!」
「――う、うん…!」
強化による恩恵は、スレイヤーも然り。
こうなれば、個人で真正面から戦える。
後は此方で対処する。
そう告げ、ルルアにはライザ達の援護へと向かわせた。
先ほどの催涙弾で視界を奪われていた
かなり激昂しているらしく、激しさが段違いに増していた。
しかし強化された彼は臆する事無く、小盾を前面に押し出し敵に真っ向から跳躍する。
小盾を壁とした
「――もう遅い…!」
敵は再び立ち直ろうとするも、既に彼は敵の懐に潜り込み戦技『連続突き』を見舞った。
痛痒を重ねた敵は、懐に陣取る彼を掴もうとするも空ぶってしまう。
俊敏性を強化された彼は、難なく敵の手を擦り抜け死角へと回り込みながら、数打ちの剣で何度も切り付ける。
普段の彼からは考えられない速度で攻撃を繰り返し、弱り切った敵の後頭部に向け渾身の刺突を仕掛けた。
また攻撃力をも強化された事で、
先ほどまでの苦戦は何だったのだろうと思える程に、下級とは言え魔神の眷属を
そしてそれは、スイーパーも同じ。
何度もカウンターで敵に痛痒を与え続け、正対した敵の顔面にフラムを投げ付けた。
「学ばないのね、魔神の癖に…?」
何と敵は、彼女の投げたフラムを口部で受け止め嚙み砕こうとしたのである。
そんな事をすればどうなるか?
強い刺激を与えれば爆発を引き起こすのが、フラムという爆弾だ。
噛み砕かれた事でフラムが起爆――。
憐れな
二人に襲い掛かっていた
だが、未だ敵勢力は健在。
数を大幅に減らしていたとはいえ、あの強力な死儀礼の鳥が最大の脅威だ。
しかもまだ数体の
「俺は、アイツ等の加勢に入る。お前は後方の馬車群を頼む!」
「分かったわ、気を付けて!」
ゴブリンスレイヤーは、死儀礼の鳥に悪戦苦闘している重戦士たちに――。
ゴブリンスイーパーには、村人達が身を寄せ合う馬車群へと向かって貰う事にした。
二人は休む間もなく、それぞれの方へと走り去る。
かなり数は減らせたにも関わらず、戦況は未だ不利の一途を辿っていた。
特に死儀礼の鳥側は顕著の一言。
今も重戦士を始めとし、オーレル、銀髪武闘家、ライザ、ルルアの5人が対峙していたが状況を覆す要素が全く見えない。
皆が皆、身体中に傷を負っている。
しかも至る所から冷たい霧状の靄が滲み出ており、彼等は軒並み霊炎による凍傷を負っているのが分かった。
あの女騎士など、片脚を砕かれ今も這いずりながら何とか戦場から離れようと藻掻いている。
相当追い詰められたのだろう。
普段、強気で少々高飛車な彼女からは想像もつかない程に、顔をグシャグシャにしながら今も泣き喚いていた。
そんな彼女を数体の
「――援護する、期待はするな…!」
そんな状況でゴブリンスレイヤーも参戦した。
「――おめぇか!?大いに期待するゼェ…!」
「コイツは本当に強敵だ、気を付けろ…!」
「ゴブスレ君!?」
「ゴブリンスレイヤーさん?」
「早く手を貸してよ…!」
重戦士だけでなく、他の面々も顔に安堵の色合いが見て取れた。
今更ながら小鬼専門の彼の参戦だが、今は一人でも多くの味方が欲しい状況に彼等は心底の頼もしさを感じていたのであった。
一方、後方の馬車群では2体の
実は3体居たのだが、1体は赤いリボンの少女と黒髪の少女が仕留めていたのである。
赤いリボンの少女は奇跡である『
更に聖壁の中から所持していた『獣狩りの短銃(小)』で頭部を狙撃し怯ませていた。
ただでさえ奇跡の集中には負担が掛かる上に、銃による狙撃まで成し遂げる。
赤いリボンの少女には、確かなる潜在能力が秘められていた。
其処へ突如として黒髪の少女も幌から飛び出し、奇襲を以て敵を一刀両断。幼い少女が一撃で
これは『アンリの直剣』による効果が大きく働いていた。黒髪の少女の持つ人間性と神秘性が、剣へと反応し桁外れの攻撃力を発揮したという事だ。
その結果、黒髪の少女は、下級ながら魔神の眷属1体を屠ったのであった。
3体から2体へと数を減らしていたのは、そういう理由が働いていた為であった。
周りから戦いを禁じられていた黒髪の少女だが、やはり隣人の危機が迫った事により居ても立ってもいられなくなったのだろう。
彼女の瞳からは、確かな意思が宿っていた。
思いもよらぬ黒髪の少女の参戦で、1体の
2体は宙高く飛翔し、少女めがけ急降下を繰り出す。
「――うっ…うわわわ…!」
「――早く、コッチへ…!」
狙われた少女は、身を屈め辛うじて回避するも次第に追い詰められてゆく。
彼女を見かねた赤いリボンの少女が、展開した『聖壁』に退避するよう誘導した。
「フゥ…助かったよぉ…」
敵の猛攻に晒される中、ギリギリのタイミングで退避が間に合い黒髪の少女は息を吐いた。
しかし、
聖壁が消失してしまえば、彼女たちは無防備も同然。
特に黒髪の少女を優先的に狙い、急降下で攻め立てる
半森人の軽戦士、圃人の少女巫術士、少年斥候も立ち向かうのだが、彼等の実力では1体を相手取るので背一杯だ。
もう1体をエーファが銃で迎撃するものの、弾丸は急所を逸れ、上手く仕留める事が出来ないでいる。
今や完全に黒髪の少女は補足され、
「――ッ!?」
その速度は時速200kmに及び、少女の身体能力で避け切れる速さではなかった。
「――伏せてぇッ!」
回避の間に合わない少女を庇う様に割り込んだのは、ゴブリンスイーパー。
少女の代わりに、彼女が
「――グぅあフッ…!!」
一応盾で防御したのだが、高速の突進で彼女は派手に吹き飛ばされ付近の岩場へ叩き付けられてしまう。
「――ぐぅ…がは…ゲェフ…早く逃げな…さい…!」
「――お、おねぇちゃんッ!」
黒髪の少女がスイーパーを気遣うも、兜奥で血反吐を吐きながら逃げるよう促す。
尤も、明確な方向を指示できる程の余裕はなかったのだが。
しかし彼女の挺身も空しく、
今度こそ逃がしはしない。
またもや最大速度で、少女へと襲い掛かった。
「――…!!」
少女は頭を抱え地面へ蹲る事しか出来ない。
だが、
「…へっ…?」
あまりの事態に少女も呆気にとられ、微動だにしない
だが幾ら待てども、動く気配すら見せず少女は気絶でもしたのかと恐る恐る近寄る。
よく見れば、
つまりこの敵は、たった今、絶命したという事だ。
(推奨BGM エルデンリング ―― Regal Ancestor Spirit)
「間に合いましたね…」
「貴公、無事だな?」
「――あ、お兄ちゃんたち…!」
ふと声の方を向けば、馬に跨る灰の剣士と輝石の貴公子の姿が見えた。
実は輝石の貴公子が、急降下途中の
なまじ急降下速度が速い為、敵の頭部をピンポイントで狙うのは少々難度が高かったが、無事命中してくれた様だ。
これで残るは後1体――。
「後は私がやる…!」
此処で灰の剣士も呪術の火『火球』で
挑発と判断した
しかし灰の剣士は難無く馬を加速させ、敵の懐へと潜り込む。
そして潜ると同時に、打ち刀のカウンターで縦一文字に両断した。
「――す、すごい…!」
数人がかりでも手を焼いた
少女が驚きの声を上げた頃には、縦真っ二つへと胴体が割れ絶命する。
これで、馬車群を襲っていた3体の
「…かなりやられたな」
「来てくれたのね…」
「生きていてほしいからな」
「…バカ…///」
身動きの取れないスイーパーへと寄り添う灰の剣士。
彼女の肋骨は数本折れていた。
彼が来た事で安心したのだろう。
急激に身体から力が抜けた彼女は、弱々しい声音で彼を迎え入れる。
「待っていろ」
ゴム製の緩衝材入りの防具は、予想以上に衝撃を吸収してくれた様だ。
もし
だが幸いにも彼女は、骨折程度で済んでいた。
灰の剣士は『中回復』の奇跡で、彼女を回復させる。
「有難う、これで何とか動けるわ」
全快とはいかずとも、折れた肋骨は元通りとなり彼女は再び立ち上がる。
「お…おにぃ…ちゃん…」
そんな二人に、黒髪の少女もゆっくりと寄り添ってきた。
「…怪我はないか?」
「…う、うん…!」
言い付けを破り戦闘へと参加した事で、こっ酷く叱られる事を想像していた黒髪の少女。
その表情は、何処となく怯えの色を滲ませていた。
しかし灰の剣士は何ら咎める事無く、彼女に気遣いの言葉を掛ける。
そもそも少女には『大切な友達を守る為にのみ剣を振るえ』と告げており、彼女はそれを実践しただけなのだ。
結果的に、少女は敵の1体を仕留め見事隣人を守り抜いていた。
確かに自ら危機へと乗り込んだ部分には、些か看過出来ない部分はある。
だがそれも、少女をここまで思い至らせた自分にこそ責任を負うべきではないのか。
自責の念を抱きながらも灰の剣士は、少女とスイーパーを馬車まで引き連れた。
「さて、私は死儀礼の鳥を討つ」
「ここで留守番、て言うのは無しよ」
「まだ、ちょっとだけ敵残ってるよ?」
「……この子を頼む」
死儀礼の鳥は未だ健在で、重戦士たちが悪戦苦闘しながらも辛うじて戦闘の体は保っていた。
しかし、そう時間を置く事なく彼等は全滅の憂き目に遭うだろう。
灰の剣士は、彼女たちを馬車付近へと置き、重戦士たちの加勢に入ろうとした。
しかし彼の思惑などスイーパーはお見通しで、戦闘に参加する旨を告げる。
更に黒髪の少女の指摘する通り、死儀礼の鳥付近には数体の
何とか銀髪武闘家やルルアが対応していたが、正直旗色が悪い。
どうやら彼女たちは引き下がる気はないらしく、スイーパーには少女を託す条件付きで同行を許す。
「貴公、行けるか?」
そして輝石の貴公子にも声を掛ける。
「僕は問題ありませんよ。魔法は必要でしょう?」
「ああ、頼む」
輝石の貴公子の方は、何も問題ないようだ。
彼は、赤いリボンの少女を気遣っている。
「あたしも…行けます。残り1回ですが…奇跡も――」
「…無理はするなよ?」
少々危険ではないかと判断したが、彼女の起こす奇跡には目を見張るものがあった。
結界の展開しかり、聖壁の展開しかり――。
とにかく前に出ないよう念を押し、彼女の同行も受け入れる。
「私も、ルルアちゃんを助けないと…!」
此処でエーファも参加を表明し、灰の剣士は彼女らを引き連れ死儀礼の鳥の方へと向かう。
「――クソッたれがぁッ…!」
一方、重戦士たちは死儀礼の鳥の猛攻に屈しつつあった。
多少、攻撃に慣れも生じており幾らかの反撃を見舞ったのだが、一向に衰える様子が見られない。
元々、
時にワザと攻撃を遅らせ、かと思えば凄まじい速度で叩き付ける、死儀礼の鳥。
ただでさえ強力無比な打撃に加え、霊炎という凍傷に見舞われる炎まで扱う。
「――一旦退がれ、僕が行くッ!」
霊炎の凍傷に蝕まれた重戦士の身体は限界寸前だ。
彼はとうとう膝を突くも、今度はオーレルが交代する形で最前列へと躍り出る。
重戦士に比べ、俊敏性に優れた彼だ。
「――そこだぁ!」
低空の薙ぎ払いを跳躍で避け、炎と冷気の付与を刀へと宿らせながら4連続で斬り付けた。
「――まだまだッ!」
そこから着地と同時に、更なる連続斬撃で胴体部へと追撃する。
これで何度目だろうか。
重戦士やゴブリンスレイヤーと共に幾度と反撃を見舞った筈だが、敵は健在で効いているのかどうかも怪しい。
しかし彼は、敢えて張り付いたままの位置取りで攻撃を継続する。
距離を空けるよりも接近した方が、危険が少ないと判断したからだ。
だが、死儀礼の鳥も予想以上の敏捷性を有しており、異常な跳躍で一気に後方へと飛び退いた。
「――クソ、駄目か…!」
結局オーレルの作戦も有効とは言えず、再び敵の攻勢が襲い来る。
今度は、霊炎を纏いながら死かき棒による乱撃を繰り出した。
大振りの広範囲かつ恐ろしい速度で2連に薙ぎ払い、更に刺突からの霊炎を爆破で追撃。
これが只の打撃なら、オーレルも持ち前の俊敏な動きで回避できた。
しかし敵は霊炎を付与する事で、異様な攻撃範囲拡大と地面に霊炎を燃え上がらせていた。
つまり紙一重で躱したとしても、時間差で霊炎の影響を受け痛痒と凍傷を負わされてしまうのである。
この連続攻撃で、オーレルも限界を迎えようとしていた。
「――みんな、もうちょっとだけ頑張って…!」
名立たるメンバーが危機に陥る中、ライザが回復用の錬金道具を使用した。
これは『せせらぎの薫風』と呼ばれる道具に、状態異常や体幹をも回復させる効果を付与した高級品だ。
なけなしの一つで、本来コア・クリスタル用に保持しておいた物だが出し惜しみしている場合ではない。
ライザは躊躇いなく『せせらぎの薫風』をばら撒き、傷付いた味方周辺に心地良い香木の香りが広がった。
その回復効果は確かなもので、満身創痍な味方陣営が瞬時に持ち直した。
一時的に――。
ライザが錬金道具で回復を図る間、死儀礼の鳥は再度宙を飛び上がり今度は高速の急降下と、着地際の回転薙ぎ払いで味方陣営を吹き飛ばしてしまった。
巨体の高速急降下に加え、その勢いを借りた回転薙ぎ払いは強烈の一言。
折角の回復も空しく、主要な味方は戦闘継続も不可能な傷を負う。
「だ…ダメだ…強過ぎる…」
「こんなの…反則だ…」
「ゴブリン…以外に…」
「う…嘘…でしょ…?」
重戦士、オーレル、ゴブリンスレイヤーは倒れ伏し動く事もままならない。
ライザの行動も全て徒労に終わり、彼女は青褪めた表情で絶望の声を漏らす。
そして死儀礼の鳥の攻勢は、これだけに留まらなかった。
一対の黒い半透明の翼が発光したかと思えば、翼を視点に黒い靄の様な弾が此方に殺到する。
「――え…なにこれ…人の顔…!?」
よく見てみれば、黒い靄の様な弾は人の顔に似ていた。
また苦悶の表情を浮かべ、それが夥しい程の数でライザ達に向かって来たのである。
「――い、いやぁ~っ!来ないで、来ないでぇッ…!!」
あまりの悍ましさに半狂乱になりながら、ライザは逃げ惑う。
もう倒れた仲間の事など、完全に忘れ去っていた。
また質の悪い事に、人の顔を模した黒い弾は異様な程に低速で、それが何処までも追い駆けて来る。
ライザは涙と鼻水を垂らし全力で逃げるも、黒い弾の追跡が止む事はなかった。
死儀礼の鳥が放ったのは『古き死の怨霊』と呼ばれる術で、低速追尾で獲物をつけ狙う魔法の一種だ。
触れた者は、爆発の衝撃と凍傷に見舞われる。
ライザは完全に自分の事で手一杯だが、『古き死の怨霊』は倒れ伏した重戦士たちにも殺到していた。
『――炸裂火球ッ!』
だが『古き死の怨霊』が彼等に着弾する寸前、無数の小粒程の火球が相殺した。
『もう一つ、炸裂火球ッ!』
そして今度は、ライザに追い縋る『古き死の怨霊』にも無数の極小火球が着弾し、全て消し去った。
「生きてるか、ライザ?」
「は…灰く…ん…」
寸での所で、灰の剣士たちの救援は間に合い、彼等を目にしたライザは力無くへたり込んでしまった。
「スイーパーと貴公は、
彼は透かさずスイーパーと輝石の貴公子へと指示を出し、銀髪武闘家とルルアの援護に向かわせた。
「ライザ、回復道具は余っているか?」
灰の剣士は、彼女に回復道具の有無を問う。
しかし、ライザは無言で首を振るのみで既に使い切った事を伝えた。
「これを負傷者へ飲ますなり振り掛けるなり使ってくれ」
彼は腰のポーチから『エスト瓶』を取り出し、ライザへと手渡した。
「あ…あの、灰君はどうするの?」
「知れた事、死儀礼の鳥を討つ…!彼等を頼んだ…ハァッ!」
「あ、ちょっと――」
ライザの質問にも簡素に答え、彼は馬を駆り死儀礼の鳥へと突撃する。
一方の銀髪武闘家側だが、スイーパーを始めとした加勢により
当初は、かなり苦戦を強いられた難敵だったが、複数回にわたる戦闘で癖を見抜き優位に戦闘を繰り広げる。
戦闘前に、灰の剣士から予め
これにより、敵の外皮などバターの如く楽々に斬り裂き、真正面からでも
また輝石の貴公子は、別の敵に『結晶連弾』なる魔術で妨害と攻撃の両立を担い、エーファが牽制射撃、そして黒髪の少女が敵を頭部から切り伏せたのである。
こうして死儀礼の鳥以外は、全滅させる事に成功した。
灰の剣士と死儀礼の鳥との一騎打ち――。
可能な限り倒れた仲間達との距離を空けるよう、敵を牽制しながら誘導する。
現在の彼は騎乗状態で、機動力に長ける。
これなら位置取りにも困る事はなく、敵との間合いを保つ事も容易だ。
死儀礼の鳥は、灰の剣士を追跡しつつも霊炎を飛ばす。
狭間の地にて『トレント』という霊馬の騎乗経験が、此処で活きた。
巧みな馬術で、方向転換を繰り返し器用に避けてゆく。
――この辺りで良いだろう。
仲間達との距離も大分開けた事で、灰の剣士は下馬――。
地上戦へと持ち込む。
今の馬は街からの借り物で、万が一攻撃に巻き込まれようものなら呆気なく絶命に至るだろう。
こういう場面では、霊馬トレントのように気軽に扱えないが難点だった。
馬は馬で調教が行き届いているのか、遥か遠方へ逃走したりせず、事が済めば再び此方の呼び合図に応えてくれるだろう。
彼は安心して戦闘に専念した。
黒く染まる半透明の羽が光を発した瞬間、死儀礼の鳥が空中へと槍らしき弾丸を複数投射。
――なんだ!?
灰の剣士も釣られ上空を見上げたが、打ち上げられた槍状の弾丸が此方目掛け降り注いで来る事を確信する。
――ッ!?
だが灰の剣士は、『カーサスの高速体術』で一気に落下地点より離脱。
全て回避する。
しかし敵の猛攻は続き、今度は『古き死の怨霊』を発動。
更に、先ほどの槍状の弾丸を打ち上げ時間差による波状攻撃を仕掛ける。
そして畳み掛ける様に、纏う死かき棒を連続で振り回し地面に霊炎のダメージゾーンを生成。
彼の退避場所をを奪いつつも、連続攻撃で攻め立てた。
敵も全力で、彼を潰しにかかっている。
降り注ぐ槍状の弾丸に警戒し下手に動けば、地面に残留する霊炎の凍傷は免れえない。
また動かねば、死かき棒と古き死の怨霊の餌食となるのは目に見ている。
彼は必要最小限の動きで死かき棒の乱撃を躱しつつ、瞬時に敵の真後ろへと駆け抜けた。
また駆け抜け様に、払い抜きで斬り裂いておく事も忘れない。
どれだけ広範囲に霊炎を撒き散らそうとも、真後ろまで補えるものではなく後方は比較的安全でもあった。
低速で追尾性を持つ古き死の怨霊が、彼目掛け殺到する。
古き死の怨霊だけは、低速性が幸いし真後ろの彼を未だ追尾し続けていた。
だが彼は臆する事無く、戦技『聖なる刃』を連続で投射――。
聖なる力が弱点である死儀礼の鳥に、高い効果を発揮した。
彼に迫る『古き死の怨霊』を器用に躱しながら、縦横無尽に敵の周囲を駆け抜ける。
低速である『古き死の怨霊』は、彼に追い付けず自然消滅した。
その間にも彼は『カーサスの高速体術』で敵の全周囲を無造作に跳躍し、死儀礼の鳥は彼の動きに翻弄されていた。
敵も、いきり立ったのだろうか。
激昂した死儀礼の鳥は、死かき棒を振り回すが彼を捉える事は叶わず地面を抉るだけだ。
そして空振りを繰り返す事で生じる、致命的な隙――。
隙を突いた灰の剣士の反撃が始まる。
凄まじい速さで敵の死角に回り込み一気に肉薄、聖性が付与された斬撃を仕掛けた。
その後、一気に離脱しながら瞬時に別方向へと跳躍――。
敵が彼を視界に捕らえようと方向転換する隙を狙い、瞬時に接近し再び斬撃――。
そしてまたもや離脱――。
敵の死角を狙い別地点へ跳躍、敵の隙を突き突撃、斬り付けると同時に離脱、そして敵の死角へと跳躍する。
それを何度も繰り返す――。
何度も何度も何度も何度も――。
「…へへ…相変わらずスゲェなアイツ…」
「…当り前だ、俺が認めた男だぞ…」
死儀礼の鳥による猛攻で戦闘不能へと追いやられていた、重戦士とゴブリンスレイヤー。
遠間で繰り広げられる灰の剣士の戦い振りは、死儀礼の鳥を半ば一方的に斬り伏せていた。
彼が来てからというもの流れは逆転し、彼が死儀礼の鳥を追い詰めていた。
「大丈夫、二人とも?これ飲んで」
オーレルの回復を済ませたライザが、重戦士とゴブリンスレイヤーへと駆け寄りエスト瓶を手渡す。
エスト瓶を飲んだ二人は、一瞬で生命力を回復させ立ち上がった。
「これ凄いね、火…なんでしょ?」
「――らしいな。何でも例の『篝火』を液体化させるんだとよ」
エスト瓶の回復効果の絶大さに、ライザや重戦士は舌を巻き瓶を凝視する。
かなり使ったのか、中身の橙色は随分減少していた。
「済まんが、それ貸してくれんか?アイツにも飲ませたい」
「――あ、そうだ!あの人脚が――」
エスト瓶の効果の高さが分かった事で、女騎士にも使いたい事を告げる重戦士。
彼女は、死儀礼の鳥による叩き付けで片脚を砕かれていた。
激痛に耐え片脚を引き摺りながら、何とか自力で退避していた女騎士――。
しかし彼女は今も激痛に喘いでおり、何時もの毅然とした振る舞いからは随分かけ離れた弱々しい表情を浮かべている。
ライザと重戦士は、急いで女騎士へと駆け寄った。
――この敵、何が狙いだ?
死儀礼の鳥に対し、優勢に立ち回る灰の剣士。
此処で敵は不可解な行動を執り、彼を包囲するように霊炎を撒き散らす。
宛ら、霊炎による檻で
――それで拘束した積りか、愚かな…!
霊炎に晒され続けば、確かに痛痒と凍傷に見舞われる。
しかし極短時間で霊炎のダメージゾーンを突破すれば、悪影響など微々たるもので済む。
況してや彼は、軽業にも長けているのだ。
多少広範囲に霊炎をバラ撒いていたが、彼にとっては然したる脅威ではない。
大方彼の動きを封じた積りで、渾身の一撃でも叩き込む作戦なのだろう。
現に死儀礼の鳥は、宙高く飛翔している。
次の攻撃など、彼にも容易に読めた。
彼の読み通り、死儀礼の鳥は一気に急降下――。
着地と同時に、死かき棒による回転薙ぎ払いを仕掛けた。
当たれば致命傷は免れない高威力の攻撃。
だが矢張りというか、彼には通用せず攻撃範囲外へと一瞬で退避していた。
急降下した事で生じる慣性で、他の冒険者たちへと接近した死儀礼の鳥。
実は、灰の剣士を拘束するかのように霊炎を撒き散らしたのは、全て
本来の目的は、
真面に接近を試みようとすれば、彼に妨害される事を敵は悟っていた。
そこで彼の意識を霊炎や攻撃で引き付け、その隙に接近するのが本来の目的だ。
敵も本能で、もう後が無い程に追い詰められていたのである。
そこで起死回生の反撃に移ろうとしていた。
「――ッさせん…!」
かなり距離を離されてしまったが、灰の剣士は死儀礼の鳥を追う。
数秒もあれば追い付けるだろう。
だが死儀礼の鳥にとっては、その数秒で十分だった。
ひな鳥にも似た不気味な頭部を、大きく仰け反らせる死儀礼の鳥――。
――不味い、あの構えはッ…!
「――KYESHAAAAAA……!!」
彼には覚えがあった。
嘗て、狭間の地のリムグレイブにて遭遇した『死の鳥』も例の構えから奇声を発していた。
―― 死の嘶き ――
「――ぐぅぉおアアァぁッ…!!」
「――イげぇぁアアァぁぁああッ…!!」
「――アぎゃぇぇァアあぁッ…!!」
死の呪力を帯びた、悍ましい鳴き声が周囲に飛散する。
呪いの嘶きを耳にした冒険者たちは、余りの音量に耳を塞ぎ蹲ってしまう。
それは、自身を護る為の本能に基づいた行動だが、実は最もそれが危険な動きであった。
動きを止める事は、死の嘶きを聞き続けるという事に繋がり、彼等に呪いが蓄積されてゆく。
「――ァあぁあ…かが、がらだぁがぁああ……!?」
「――ぃい…いでぇ…いでぇ……!?」
「――ダたた…だずけでぇええ…!?」
嘶きなど無視し、その場から退避すれば呪いの影響を受ける事はなかった。
だが手遅れ――。
彼等の身体中至る所から細い木の枝が内部から突き破り、鮮血と共に噴出し始めていた。
内部から生じる痛みだが、実はバカにならないものだ。
屈強な戦士でも、ただの腹痛で戦闘不能に陥る
中には内部より生じる痛覚にも、平然と受け流せる者も居るだろう。
だが基本的には、外部よりも内部から生じる痛覚の方が、本能的に動きを止めてしまう事例は数多い。
唯の腹痛程度の痛みでさえ、腹を抑え動きを止める事もあるのだ。
況してや、内部から生じた枝が皮膚を突き破り血が噴出する程の痛みなど如何ばかりか!
結果は御覧の有様。
死の嘶きの呪力に、皆が断末魔の絶叫を上げ痙攣を引き起こしていた。
また彼等の周りには血溜まりが出来つつある。
内部の空気をすべて吐き出したのか、死儀礼の鳥は息継ぎのため一旦嘶きを止めた。
だがそれも極僅かな合間で、息を吸い込み再度嘶きの体勢へと移る。
二度目の死の嘶きで、今度こそ彼等は助からないだろう。
残念だが、灰の剣士の救援も間に合いそうにない。
意識が飛ぶほどの激痛に喘ぐ、彼等の耳に
ゴブリンスイーパーの声が。
「粘糸(真言魔法)…アラーネア(蜘蛛)…ファキオ(生成)…リガ―トゥル(束縛)…!」
死儀礼の鳥が二度目の嘶きを発する寸前、他方から粘性の蜘蛛糸が飛来し首を絡め捕る。
「――今よ、急いでッ!」
真言呪文『
彼女の実力では1日一度だけの呪文だが、使い方次第では多方面で応用が利く。
死儀礼の鳥の首を絡め捕り、一瞬だが嘶きを阻止する事には成功した。
だが完全な妨害には至らず、直ぐに嘶きを始めるのは明白だ。
そして彼女の呼び掛けに応える者が、もう一人――。
「――はい、任せて下さいっ!」
銀髪武闘家だ。
彼女の手には、細いロープが握られている。
スイーパーの声に呼応した彼女は、全速で死儀礼の鳥へと疾走し高く跳躍――。
そのまま死儀礼の鳥の首付近へと跨り、嘴部分をロープで幾重にも巻き付けた。
スイーパーが
「――やった!これで声は出せませんね!」
既存の生態系とは大きく異なると思われる死儀礼の鳥だが、発声器官の一つである『嘴』の開閉を封じてしまえば声は出ない筈。
そう踏んでいたスイーパーは、銀髪武闘家との共同作業で嘶きを封じ込める作戦に出たのである。
そして彼女たちの試みは、見事に成功…。…したかに見えた。
「――ぅ、う、うぅうぁあぁぁががああっ…!?」
「――嘘、何でッ!?」
信じられない――。
それがスイーパーの素直な感情だ。
発声器官は封じた。
もう声は出せない筈――。
――だというのに…。
呆気にとられるスイーパーの目には、絶叫を上げ背中から夥しい数の枝と鮮血を噴き出す銀髪武闘家の姿が映っていた。
一見すると、嘶きを封じているかに見えていたスイーパーと銀髪武闘家。
だが実際、嘴の開閉は出来ずとも声自体は口部の中から発していた。
その声量も範囲も極めて微量で狭く、密着状態の銀髪武闘家だけが辛うじて耳にしていた。
位置関係上、つまり彼女だけが声の影響を受け、死の呪いが蓄積しつつあり絶命寸前にまで陥っていた。
「――は…はや゛ぐぅ…どどめぇおぉ……剣士ざぁあ゛んッ…!!」
彼女の命は風前の灯火も同然――。
背面の全体が血塗れの枝に覆われ、それでいて尚、彼女は歯を食い縛り白目を剥きながらも灰の剣士へと止めの一撃を懇願した。
「――カーリアの大剣ッ!!」
言われるまでもない。
既に彼は最適の位置に陣取り、狭間の地の戦技である『カーリアの大剣』を最大まで溜め大上段から一気に振り下ろす。
輝石の魔力で生成された大剣は、死儀礼の鳥の首を切断した。
―― GREAT ENEMY FELLED(強敵討伐セリ) ――
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レーツェルフト
光を纏った強い風が吹き荒れ、対象を切り刻む道具。
高級な素材で作成された錬金道具で、効果や発展性も高いが調合難度も増大した。
水晶に封じ込められた風の魔力を、起爆と同時に瞬時に開放。
吹き荒れる風圧は、範囲内に激しい裂傷と衝撃を負わせる。
輝く様子が精霊に見えることからこの名がついた。
吸魂ひょうたん
名前を呼んだ相手の力を吸い取ってしまう不思議なひょうたん。
最も意識さえ向ければ、対象物に力を発揮できるのだが。
全ての根幹と成すソウルを吸収できれば、相手は必然と弱体化する。
底には常に発酵した水が溜まっていて、それを飲むと一時的にその力を自分のものにすることができる。
ソウルを力に変える技術は、今なお完全には解明されおらず、あらゆる組織が解明に多大な労力と心血を注いでいた。
この錬金道具は、一時的に限定的にとはいえ可能にしてしまっている。
実は、底知れぬ神器にも比肩し得る錬金道具であり、これはある種の禁忌でもあろう。
せせらぎの薫風
いやし効果のある、香木の粉。
一旦開放すれば、香薬の粉末が周囲に吹き乱れ範囲内に多大な回復効果をもたらす。
かなりの回復効果と範囲を誇り、更なる錬金術で追加効果を付与すれば起死回生の一手となり得るだろう。
その爽やかな香りは、「森の風を集めた」と洒落た言われ方をされる。
死の鳥にしれッと混じる死儀礼の鳥+100以上の魔神の群れ。
実際暴れられたら、阿鼻叫喚の地獄絵図待ったなしですね…。
これが並の冒険者なら、一体どんな大惨事に見舞われていたのやら。
ちょっぴり黒髪の少女(後の勇者ちゃん)も戦わせてみました。そう言えば彼女、剣術は独学で身に付けたのでしょうか?師匠らしき人は描写されてなかったので、多分我流なのかな?と思っています。
如何だったでしょうか?
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
デハマタ。( ゚∀゚)/