もう直ぐ梅雨の時期。
湿気が多いと、普段以上に呼吸が重くなるような気がします。
今年の夏も暑いのだろうか?
では投稿致しますドゾ。( ゚ ω ゚ )
死の苔薬
洞窟苔を用いた黒色の丸薬。
製作可能なアイテムのひとつ。
必要素材は、夜露のヘルバ、洞窟苔の結晶、黄金百足。
死の蓄積を軽減する。
死は徐々に蓄積し、溜まり切ると即死してしまう。そうなる前に、この丸薬を使うとよい。
運命の死を取り除いた黄金律に蔓延る、悍ましい死の呪い。
黄金の中に漂う漆黒の霧は、何を意味しているのか。
値段は、金貨1枚。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
死儀礼の鳥を含む魔神の群れによる襲撃――。
冒険者たちの奮闘で、殲滅する事に成功した灰の剣士たち。また夜間である為、赤爛れた陽光の影響もなく即座に亡者と化す事はない。加えて、魔神の中には遺体ごと塵灰となり消滅した個体も見受けられ、焼却は必要最小限の手間で済んだ。
灰の剣士が死儀礼の鳥に止めを刺していた頃、ソラールとジークバルドが第2陣の援護に駆け付け、並み居る魔神の群れは一つ残らず全滅。負傷者は数あれど死者は無く、避難民への被害もゼロであり彼等の勝利と見なして良いだろう。
だが代償も決して軽くはなく、苦痛に喘ぐ仲間達が荷馬車の台座に寝かされていた。
「死の苔薬…それが有れば、回復できるのか?」
「はい。ですが、僕は無論、貴方もお持ちでないとなれば――」
灰の剣士と輝石の貴公子――。
二人は、『死の苔薬』というアイテムについて話し合っていた。
先ほどの戦闘中、死儀礼の鳥が引き起こした『死の嘶き』は多くの冒険者に深い爪痕を刻んでいた。
重戦士、ゴブリンスレイヤー、女騎士、ライザ、オーレル、銀髪武闘家の身体からは、鮮血塗れの枝が今も突き出たままだ。
彼等は荷台の上に寝かされており、今も呻き声を上げ苦しんでいる。
死の呪いが蓄積した所為だ。
致死量までは達していないが、身体の内部から枝が突き出るという怪現象は、相当の痛みで彼等を締め上げている。
一瞬ならまだしも永続的な激痛に苛まれるのだ。
呪いが完全に除去されるまで。
灰の剣士の居た時代には、死の呪いを除去する方法は基本的に存在しなかった。
だが、輝石の貴公子の元居た世界『狭間の地』には、直ぐにでも『死の呪い』を回復させる手段が存在していたのである。
それが『死の苔薬』と呼ばれるアイテムだ。
しかし、二人共それを所持していない。それ故、頭を悩ませていたのである。
「…ううぅぅ…ぁぁああぁ……」
「…いぃ…いたい…痛い…よ…はぃ…く…」
「うぁあ…この…ぼ…く…が…」
「…チ…く…しょうめ…」
重戦士を始めとする死の呪いを受けた彼等は、今もこうして苦悶の声を上げ助けを求めていた。
特に症状が酷いのが、
彼女の背面全体が、血塗れの捻じれた枝に覆われていたのである。
なまじ意識があるだけに、彼女は余計苦しむ羽目になり悲痛な表情で喘いでいた。
最も重症であるが故、それに伴う痛みも相当に重い筈だ。涙だけでなく涎や小水といったあらゆる体液を垂れ流す程に、彼女は尚も苦しみ続けている。
一応、絶命には至っていない為、徐々にだが自然回復には向かっている。だがしかし、完全に回復するまで悪夢のような苦痛は続くのだ。
痛みとは恐ろしいもので、余りに桁外れの苦痛が襲い掛かれば身体が『死』を選択してしまう
銀髪武闘家以外は、数時間もあれば自然治癒するだろう。
だが、彼女が完全に回復するには最短でも数日は掛かる事が予想された。
それまで痛みに耐えねばならず、彼女の体力がもつ可能性は低い。何の処置も施さねば、彼女は痛みで死に至る危険性も高いのだ。
効果の程は定かではないが、灰の剣士は『生命湧き』の奇跡を彼等に施していた。これは、徐々に傷を回復させる効果を持ち、気休め程度だが痛覚を和らげる効果もある。
少なくとも銀髪武闘家以外は、苦痛に喘ぎつつも幾らか呼吸が安定していた。
「迂闊だった。死の鳥とばかり踏んでいた……!」
灰の剣士も狭間の地にて『死の鳥』と戦った経験があり、ある程度の対応策も思い付いていた。
だが、その上位種である『死儀礼の鳥』の存在までは想定しておらず、今こうして仲間が苦しむ羽目に陥った。
彼は、自らの判断力の甘さに歯軋りする。
「剣士さんの所為じゃないって…!」
「そうです…!貴方の作戦が無ければ、更なる悲劇に見舞われていたのです!」
少年斥候と獣人魔術師が、彼を宥めに掛かる。
総数100を超える魔神の襲撃――。単体でも強力な魔神の眷属が、100以上も襲い掛かって来た。
ここまで来れば、冒険者ではなく
だが襲撃してきた以上、戦わざるを得ない。
彼等には、自分の身は無論、守るべき村人たちが居たのだから。
しかも空からの襲撃という事もあり、悪条件に更なる拍車が掛かっていた。
それでも灰の剣士は、即興ながら迎撃作戦を展開し部隊を3つに割く。
そして先手必勝で、初手から大呪文による迎撃で約半数を一気に漸減――。
そのお陰で仲間達の負担は激減し、結果的には誰一人死亡する事なく生存しているのである。
もし全ての群れと真正面で当たっていれば、今の様な状況では済まなかっただろう。
『全体ぃ、停まれぇ…!』
灰の剣士の代わりに先導役を担っていた、ソラールの声が馬車群全体に届く。一体どうしたというのだろう。
ソラールからの急停止の合図に、灰の剣士たちは荷台を降りソラールの元へ駆け寄った。
疑念を浮かべる彼らの視界には、リュートを奏でる旅人らしき男が夜を明かしていた。
「おや珍しい、こんな夜更けに大勢の旅人…。どうやら野盗の類ではないらしいね、良かったら何か買っていくかい?」
野営している旅人らしき男は、『放浪の行商人』を自称した。
確かに焚火の傍には、木の枝や藁で拵えた簡易的な
「我らから見れば、貴公の方が珍しいな。昼間はさぞ大変であったろう?」
「昼間…ああ、あの忌々しい空な。アレの所為で、とても商いどころじゃあない…」
此処は地理的にも『聖黄金樹』の効果範囲外だ。
今は夜だが、この行商人が此処で野営しているという事は、昼間は黒い太陽から降り注ぐ赤爛れた陽光に晒されていたという事になる。
あの陽光は生命にも悪影響を及ぼし、肌に直接照らされ様ものなら痒みや痛みを伴う出血に見舞われてしまう。
また悪影響は精神にも及び、これまでの道中でも精神に異常をきたした人々も居た位だ。
見た感じ、この行商人は真面の様だが矢張り昼間の弊害で相当参っていたらしい。
ソラールの問いに、これまでの経緯を簡素に語る放浪の行商人。
「商人さん、死の苔薬の在庫はありますか?」
二人の会話を遮らん勢いで、輝石の貴公子が割って入り『死の苔薬』を所望した。
「おいおいボウズ。若いもんは、商いの妙味の楽しみ方を分かっとらん……」
急かすかのような輝石の貴公子の振る舞いに、鉱人導師は駆け引きの楽しみ方について語り出す。
「まぁまぁ、ここは僕に任せて」
鉱人導師の
今は急を要す状況だ。
改めて輝石の貴公子は、件の苔薬の有無を問う。
「ああ、有るとも。3つだけだが要るかね?」
「ええ勿論。お代は貨幣ですか、それとも
「…ハッハッハ、お前さん…
「了解」
輝石の貴公子と放浪の行商人との、ちょっとしたやり取り――。
幸いにも『死の苔薬』を3個購入する事に成功した。
油紙に包まれた黒い丸薬状の物体を取り出す、放浪の行商人――。
一つにつき金貨1枚だが、彼は3枚を支払う。
これで、取り敢えずの回復が見込める目処が立った。
「のぅ、おやっさん。他の商品も見せてくれんかね?」
「ガラクタって言う人もいるけど、俺は宝物って呼んでる」
今まさに求めていた『死の苔薬』が手に入ったのだ。他にも珍しい商品を扱っているのではないか?
些かの好奇心に見舞われた鉱人導師は、放浪の行商人に他商品の開示を求め本人も快く承諾した。
包みを解けば、様々な商品が彼らの前へと並べられた。
「わぁ何々?もっとよく見せてぇ…?」
好奇心を抑えられなかったのか、黒髪の少女までもが馬車を降り此処にまで駆け寄って来る。ジッとしていられないのだろう。
半ば諦め気味の院長も、彼女を追い馬車を降りてきた。
灰の剣士と輝石の貴公以外には、見た事も無い様な商品が
「…あの商人…やはり…」
「…ええ…
談笑混じりに購入を楽しむ冒険者たち――。
あの商人の出で立ちだが、灰の剣士には見覚えがあり輝石の貴公子と素性について確認し合う。
彼の推察通り、あの商人は狭間の地より流れ着いた人物である事を確信した。
まぁ彼が流れ着いたお陰で、こうして望みの品が手に入った訳なのだが。
――思っていた以上に、流れ着いているな。
この輝石の貴公子といい、ソラール達が遭遇したカッコウ騎士団といい、様々の異界の住人が四方世界へと流れ着いている。
ただでさえ混迷を極めた状況下の四方世界――。
彼等の転移は、この世界に何を齎すのか。
皆のやり取りを遠間から見ながら、最後に彼も商人から製法書を全て買い取った。
「時に商人よ。もし良ければ、我々と行動を共にせんか?」
「…?」
さて、慎ましやかな買い物も一通りが済み、商人は荷物を仕舞い込む。そんな折、ジークバルドからの提案に放浪の行商人は疑問符を浮かべた。
「何、そう難しい事ではない」
ジークバルドが言うには、聖黄金樹の効果範囲内まで赴けば商いも円滑に行えるのではないか。
そういう案だった。
放浪の行商人は、この辺りの土地勘には少々疎いようで、現在置かれている状況にも理解が及んでいなかった。
なぜ、突如として赤黒い空が広がったのか?
あの黒い太陽と赤爛れた陽光との関連性は?
そして聖黄金樹の加護――。
ジークバルドも完全には網羅していないものの、理解の及ぶ範囲で説明したのである。
「確かに…、こんな所じゃあ碌な客すら寄り付かんしな…。そういう事なら、お言葉に甘えさせて頂こう」
事情を聞いた事で、放浪の行商人は早速荷物を纏め出立の準備を整え終えた。
地図上では、このまま向かう事で聖黄金樹の加護化に入り近隣に村が在る事が記されていた。
取り敢えずは其処まで辿り着くという事で、意見が一致する。
「では出発を再開するか」
ソラールの合図で各自は再び馬車へと乗り込み、ロバに騎乗した放浪の行商人と共に歩みを再開した。
とにかく治療が最優先だ。
引き続きソラールに先導役を任せ、灰の剣士は別馬車の荷台にて治療を行う。
「コア・クリスタル…試してみるか」
数日前、王統府を狙う刺客の中に『錬金術士』が数人所属していた。
彼等は、水晶入りの腕輪を装備しており、その腕輪で風を引き起こしていたのである。
戦闘後、その腕輪を回収した灰の剣士は、この機会を利用し試してみる事にした。
腕輪状のコア・クリスタルに念を込め、予め封じられていた『風魔法の記されたスクロール』が排出される。
(本編前夜編 第120、121話参照)
「不思議な道具ですね?スクロールを封じているとは」
「これは『コア・クリスタル』と言ってな――」
その様子を見ていた獣人魔術師が珍しい物を見るかのような視線で語り掛け、同期戦士が彼に説明する。
「後は、この『死の苔薬』を封じ込める」
輝石の貴公子から受け取った一つを、コア・クリスタルへと封じ込める灰の剣士。
死の苔薬は一度使えば無くなる、言わば消耗品――。
しかしコア・クリスタルの特徴は、道具を消失させる事なく効果のみを発現させるという特徴を有していた。
決して無限ではないが、複数回使用できるのは大きな利点だ。
今回購入できた『死の苔薬』は3つ――。
対し、死の呪いに侵されている者は、計6人――。数が足りないのだ。
そこでコア・クリスタルの応用に踏み切った灰の剣士――。此処で効果を把握しておくのも、決して無駄にはならないだろう。
「よし、では試すぞ」
先ずは、最も症状の重い銀髪武闘家からだ。
「ぁアアァぁ、…うぅぅあぁ…、ぃいぃい、ぃい…あぃいあ…ぁぁ…」
あまりの苦痛に気絶する事さえ叶わず、彼女は今も呻き声を漏らし続けている。
しかも先ほどまで絶叫に近かった断末魔が、徐々に弱々しい呻き声へと変わりつつあるのだ。
これは、彼女が次第に衰弱の一途を辿っている事を意味していた。同時に死が近い事も…。
「待っていろ、今助けてやる」
「ァアぅうぅ…、えぁあぇぅう…」
苦痛に喘ぎつつも彼の声に反応する銀髪武闘家。
しかし見るに堪えない光景だ。
彼は念を込め『死の苔薬』を封じた『コア・クリスタル』を発動させる。腕輪の水晶部分から光が灯り、彼女を照らした。
「――おぉォ…こいつは…!?」
「――枝が見る見る間に――」
不可思議な色の光が彼女を包んだかと思えば次の瞬間、背面全体を覆っていた刺々しい枝が瞬く間に収縮し、遂には跡形もなく消失してしまった。
その現象に槍使いと同期戦士は、目を白黒させつつ驚嘆の声を上げる。
彼女の背中は、突き出た枝の所為で衣服が消失しており、回復した事で白くも血糊だらけの肌が露出していた。
「…ハァ…ハァ…ハァ…け…剣…し…さん…?」
死の呪いは除去された事で、仰向けへと寝かされる。
程無くして銀髪武闘家は、瞼を半開きに虚ろな眼で灰の剣士へ視線を向けた。
「よく頑張ったな。ゆっくり休んでくれ」
呪いが除去された処で、桁外れの苦痛に耐えていた彼女の体力は相当の消耗を強いられている。
手を伸ばす彼女に、彼もそっと握り返しながら休むよう促した。
「さて、あと5人だな」
死の苔薬の効果は証明され、同時にコア・クリスタル内の『死の苔薬』も消失していない。
これは大きな収穫だ。
有用性を実地で確かめた灰の剣士は、残りのメンバーの治療に当たる。
程無くして全員分の治療は終わり、幾許かの時間が経過した。
「…コア・クリスタル…手に入れたんだね」
揺れる荷馬車の上で、灰の剣士に話し掛けるライザ。
彼女も死の呪いに侵されていたが、比較的症状は軽く彼の肩に力無く寄り掛かっている。
幾らか消耗していたが、静養すれば十分回復できる容態だった。
「敵の錬金術士から回収した。捨ておくのも忍びなくてな」
「結構一杯いるんだ、…錬金術士…」
彼女の
あの戦闘で敵対していた錬金術士だけでも、6名は居た。
また彼ら一人一人は、戦闘力にも長けた手練れ揃いであり、この腕輪状のコア・クリスタルも錬金術で加工した代物であり、元は違う形状をしていたらしい。
「惜しいなぁ、それだけの技術力持ってて悪い事に使うの…」
彼の話を聞いたルルアは、残念そうな表情を浮かべていた。彼女はライザの隣に腰掛けている。
元の既存品の形状を変えるだけでも、かなりの高水準で錬金術を行使しなければ実現は不可能だ。
それ程の実力者が、今判明しただけでも6名も居たという事実。
そんな彼らが、どの様な思惑で錬金術を邪悪な欲に染め上げてしまったのか。
錬金術士としてのルルアも高水準な実力を有してはいたが、実際は、まだまだ世間知らずだ。
この降り掛かる現実に、彼女の心は揺れている。
『各位に朗報だ…!空を見よ、繰り返す、空を見よ…!』
突如、前方からソラールの声が響き渡る。
彼の『朗報』という言葉に反応した皆は、一斉に空を見上げた。
「――お、おい…これ…!?」
「――ええ、間違いありません…!」
皆の視界に映るのは、
街を出て数日間見続けた、気味の悪い
また身に纏わり付くような淀みを帯びた夜風は其処に無く、安らぎを覚えんばかりの微風が彼等の間を走り抜ける。
少年斥候に続き半森人の軽戦士も、半ば呆けた顔で空を見上げ夜風に身を委ねていた。
「――聖黄金樹の加護化に到達したんだよ…!」
女部族が、聖黄金樹の効果範囲内に到達した事に喝采の声を上げ、皆は顔を合わせ喜びを分かち合った。
「なんだか息が軽いや…スゥ~ハァ~…」
長らく聖黄金樹の効果範囲外の環境下に晒されていた黒髪の少女は、嘘のように軽くなった呼吸を何度も繰り返す。彼女の言う通り、あの環境下では呼吸さえ悪影響を及ぼしていた様だ。
矢張り昼間の赤爛れた陽光は、人類種にとって脅威に違いない。
正確に言えば、混沌勢の人類とて歓迎できる環境ではない筈だ。恐らく活性化していたのは、混沌勢の異形や魔物に付随する祈らぬ者達だけであろう。
それだけに、混沌勢の人類に分類される『野盗』や『悪党』の類には一層警戒しなければならない。彼等も人である以上、あの赤爛れた陽光を避ける為に聖黄金樹の加護化に逃げ込んでいる筈なのだ。恐らく虎視眈々と人里の制圧を狙っているのは、容易に想像が出来た。
「皆ぁ、もう少し行けば村に着く筈だ!」
ソラールが懐の地図を再確認し、村が近い事を告げる。
少し前に100を超す魔神の群れを殲滅したばかりで、かなり疲弊していた冒険者一団。
過剰に閉鎖的な村でなければ、立ち寄ること位は許してくれるだろう。
それに地図上の村には、護衛役の冒険者が派遣されていたと記憶している。
此方は、大勢の村人と何より幼い子供達を抱えている立場だ。無下に追い出される心配は、先ずあり得ないといっていい。
もう直ぐ一息つく事が出来る。その事に皆は、心が軽くなる感覚を覚え一層表情を綻ばせた。
更に馬車を走らせた一団は、地図通りの村に辿り着く。
村の警護を依頼されたのだろう、数人の冒険者が村の入り口に焚火を囲み屯していた。
「ん?野盗…ではない、冒険者…だな。此処は我々が警護している」
頭目らしき男が立ち上がり、先導役のソラールへと声を掛ける。
首には鋼鉄等級の認識票をぶら下げ、等級に見合う眼光を備えていた。
目に映る集団を冒険者と判断はしたが、男の冒険者は油断なく此方に歩み寄る。
「これは失礼した。俺はアストラのソラール、水の都出身だ」
「――ッ!?まさか…水の都の…あの
「――て事は、こいつら例の任務に駆り出された…!」
ソラールの名を耳にした途端、警護役の冒険者たちは驚きの声を上げた。バケツに似たグレートヘルムに太陽が描かれたサーコート付きのチェーンメイルは、見る者に強烈な印象を与える出で立ちだ。
やはり『太陽の騎士』としての名声は辺境にも伝わっており、界隈では
「手間を掛けさせ心苦しいのだが、長を呼んで頂けるか?」
「あ、ああ…ちょっと待ってくれ。…まだ起きてたよな…」
「多分…。俺行って来る」
流石に無断で侵入するのは、無作法というもの。
このまま受け入れてくれるかは未知数だが、長には事情を説明しておくべきだ。
ソラールの要請に応え、一人の冒険者が小走りで長の民家へと向かった。
追い返される事も想定していた灰の剣士一団――。
どうやら、その懸念は杞憂であった。
彼等の経緯を聞いた長、当初は受け入れる事に些かの逡巡も見せていたが、やはり難民と化した子供達を見捨てる事など出来ず受け入れる事に決めたのである。
深夜にも関わらず、村人総出で子供達の寝床が設けられ、また女の冒険者たちには屋根付きの納屋が提供された。
残念だが男性陣は、野宿という事になるが仕方がない。
兎に角、今夜は村で一夜を明かす事が出来るのだ。受け入れて貰えるだけでも、此処は温情のある村だ。
灰の剣士たちは長に礼を述べた後、見張りを兼ね野外で夜を明かす事にする。だが幾ら野宿組とは言え、長も温情ある人物だ。
彼等には簡素だが、ふかし芋の夜食と葡萄酒が振舞われた。
聖黄金樹の加護化へと辿り着いた事で、皆の疲労が一気に発露したのだろうか。
女子供は深い眠りに就き、夜は更に更けてゆく。
真っ当な夜空だ。二つの異なる月光が大地を照らす、何時もの日常――。
そして静寂なる夜の中でも、彼の耳に
「……」
村の片隅で焚火を灯りに、灰の剣士が一人ペンを走らせていた。
「…何をなさっているので?」
何気なく焚火を見つめていた輝石の貴公子は、灰の剣士の動きに気付き視線を其方に移す。
「ああ、翻訳だ。あの行商人から購入した製法書の…な」
帰還途中で偶然遭遇した放浪の行商人との取引――。
彼から道具作成の手順を記した『製法書』を幾つか購入し、今此処で内容に目を通していた。
そして記された言語体系だが、彼等の居た時代と共通していた事を知る。
しかしそれは同時に、四方世界とは異なる文字形態である事も示していた。
この製法書には、実に有用な道具作成の手順が記載されている。
これ等の有益な情報を広げる為にも、翻訳は避けて通れない作業でもあるのだ。
「狭間の地で採れる植物類…此方側でも育つだろうか…?」
木板を下敷きに、用紙へと翻訳した内容を記してゆく灰の剣士。
作業の傍ら、ふとその様な事に言及する。
「…庭師ではないので、僕には何とも。ですが、『ロアの実』なんかは容易に栽培が叶うと思いますよ」
「ロアの実か…確かに至る所で採れたな」
狭間の地『リムグレイブ』では、其処ら中で見受けられたロアの実――。小粒程の赤い実で、少々の酸味と甘い蜜を含んだ果汁が特徴だ。
しかし果肉そのものは、人の胃液では消化できず主に馬や野生動物が好んで食す。彼も、狭間の地では『霊馬トレント』に、よく与えていた事を思い出した。
頻繁に目に出来たという事は、それだけ土壌と気候に適応し易いという意味でもある。
一応持ち帰った道具類の中にも、ロアの実が保管されていた筈だ。
地母神神殿に提供すれば、受け入れて貰えるだろうか。
次、狭間の地に赴くときは、もう少し素材採取にも意識してみる事にしよう。
「まぁ栽培に成功し収穫した時、間違って直接口にしたりしないよう注意喚起を広げねばなりませんかね?」
「…ハハ、違いない」
ロアの実だけに限った話ではない。他にも土壌に合う植物類は幾多も存在する。
ロアの実程ではないが、『落葉草』や『ヘルパ』など良い代表例だ。
あれ等も積極的に採取し、神殿に提供してみるのも一興か。
「灰人さん、折角提供してくれた葡萄酒…飲んでしまいましょう。僕も然程強い方ではないんで――」
「おっと、そうだったな。では酌を頼もうか?」
「…僕の方が、身分は上なんですよ?」
「何を申すか?私は『薪の王』なるぞ?」
「これは無礼を、我が王」
「フッ…冗談だ」
「フフ…」
「「アハハハ……」」
寝つけのお供に…と、村の長が振舞ってくれた葡萄酒とふかし芋――。
二人とも少量しか口にしていない為、酒瓶にはかなりの量が残っていた。灰の剣士は無論、輝石の貴公子も酒豪ではない。
このまま残し長に返すのも礼に反すると判断し、二人は残りの葡萄酒を木製のカップへと注ぎ込み静かに酒盛りを再開する。
普段滅多に口にしない稚拙な冗句を交えつつ、お互い談笑を交えゆっくりと語り合う。
なんと穏やかで静寂な夜であろう。
あの魔神の群れとの戦闘とは真逆の夜と焚火の灯りに照らされ、二人は数日ぶりの平穏に身を委ねていた。
そして、そのまま一夜が明けた。
……
布と草木の擦れる音に、輝石の貴公子は目を覚ます。
「もう…朝…ですか…?」
耳を澄ませば鳥の囀りが心地好い。
朝露で湿った毛布を捲り身を起こせば、鈍くも青い空が彼の視界に映り込む。
この清々しさ、ほんの数日ぶりだが随分久しい気がする。
少し前まで、あの赤黒い空色の下、野宿から目が覚めた途端に不快感が溢れて来たのだ。
出来れば、もう二度と味わいたくはない。
これも聖黄金樹の庇護の下、甘受が許され、如何に自分達が恵まれた環境である事に感謝しなければならないだろう。
今も、他地域や他国では赤黒い空と赤爛れた陽光に晒されているのだから。
身を軽く慣らし、起き上がる輝石の貴公子の視界には灰の剣士の姿が映り込んだ。
しかし彼は警戒体勢で、あらぬ方角を終始見据えている。
「…灰人さん?」
「小鬼だ…、まだ遠いが――」
「…皆を起こしましょうか?」
「頼む」
小鬼が村へと迫っている、灰の剣士はそう告げた。
まだかなり距離が開いているらしく、此処へ辿り着くには時間的猶予がある。
いま早朝の時間帯だが、警戒するに越した事はない。
輝石の貴公子には、村中へと小鬼襲来を報せてもらう事にした。
――150そこそこ…しかしバラバラに展開しつつある…。
涼やかで心地良い朝風。その朝風とは対照的な流れ来るソウルは、小鬼特有の下賤な邪悪に塗れていた。
肝心の数だが、ソウルの感知で凡そ150を超える事が把握出来た。
数だけを想定すれば灰の剣士一人で事足りるのだが、この時点で小鬼が村を包囲する積りなのが流れで分かる。
流石に全方位から襲撃されれば、彼とて対応は行き届かない。
やはり人手が必要とされた。
……
輝石の貴公子が行動する前に、ソラール、ジークバルド、オーベックは既に起床しており迎撃の準備を整えていた。
そして思っていたよりも村の防衛準備は整っており、多数の冒険者が村の外周部へと陣を構える。
150を超える数に一部の冒険者と村人たちは肝を冷やすが、味方側には手練れの冒険者が揃い踏みしている状態だ。
驕りや慢心さえなければ、彼等が敗北する要素など何処にもないのだ。
程無くして防衛戦が開始されたが、ほぼ一方的に冒険者側が小鬼群を追い詰めている。
「――オラオラぁ、かかって来いよぉ小鬼共ぉッ!」
重戦士が嬉々とした表情で、特大剣を縦横無尽に振り回し小鬼を纏めて断ち切った。
「――全く張り切りおって…!」
「
重戦士の暴れっぷりを尻目に、女騎士と軽戦士も剣を振るい小鬼を仕留めてゆく。
やはり死儀礼の鳥との戦闘が尾を引いていたのだろう。
未知なる強敵に、彼等の一党は思うような戦闘を展開できず苦渋を飲まされていた。
重戦士は霊炎と死の嘶きで瀕死に追い込まれ、女騎士などは死の呪いに加え片脚を砕かれていたのだ。しかも彼女は恥も外聞も捨て去り、余りの痛みで泣き喚いた程だ。
今思い出しただけでも、家に引き籠りたくなるほどの大恥を掻いてしまった。皆の見ている前で――。
尤も、誰一人として彼女を哂う者は皆無であったのだが。
重戦士だけでなくメンバー全てが、昨晩の汚名を濯がんと全力で小鬼を排除してゆく。
その様は獰猛な獣そのもので、そんな彼らの事情も露知らず小鬼達は憐れな最期で人生を終えていった。
……
誰しもが冒険譚に心を躍らせてしまうものだ。それが多感な少年なら尚の事――。
何時かは自分も――。
そんな期待と夢を膨らませ、農作業もそこそこに、ついつい剣の稽古へと時間を割いてしまう。――と言っても、剣術の心得など皆無な少年は自由気ままに振り回すだけだ。
況してや自分は農家の3男坊で、畑は長男が継ぎ次男は計算に長けた頭脳派だ。お零れさえ、あり付けそうにない。
だったらやる事は一つ――『冒険者で成り上がるしかない』と、想いを募らせるのは珍しい流れではないのだ。この様な境遇は、何も
数日前から村に数人の冒険者が訪れた。
吟遊詩人が謡う冒険譚に登場する勇者たちが、目の前に現れた。彼等を目にした瞬間、どれ程心を躍らせただろうか。
腰に差した剣、身を護る鎧、魔法を使う為の杖、そして何よりも鋭い眼光――。
冒険譚に出てくる騎士然とした出で立ちとは少々異なっていたが、そんな事はどうでも良かった。
本物の冒険者が目の前に居る――。
その事実こそが、
彼等が訪れた理由だが、村を警護する為だと言っていたのを覚えている。
幼い彼に、細かい事情を理解する頭脳は持ち合わせていなかったが、何やら深刻な事態が発生したという事だけは理解出来た。
冒険者たちが訪れたその日に、小鬼が村の畑を荒らしに来た。
8体は居ただろうか?
噂通り、冒険者たちは小鬼を蹴散らしてゆく。その姿に魅入られた。
話に聞いたのだが、小鬼は非常に弱く雑魚も同然らしい。
ならオレでも出来るんじゃ――。
緑色の不細工な姿、チビで小柄、力も頭も弱い、雑魚そのもの――。時々外部からの来訪者が小鬼の事を話していたのを思い出した。
もしそれが本当なら――。
畑を守る為、親兄弟と共に自分も棒を手に外に出た。
母の反対を押し切り外へ出れば、いま目の前に例の小鬼が居るではないか。
棒を握る手に自然と力がこもる。
ヤッテやる…!
小鬼へ向け思いっ切り棒を叩き付けた。その瞬間の奇妙な感触…忘れはしない。
ゴツッとした、それでいてグニャッとした、あの感触――。
変な喚き声を上げ、小鬼は一目散に逃げ出した。
ヤッタ…俺がヤッたんだ。
小鬼を追い払ったんだ。
その時の踊り出したくなるような感覚…癖になりそうだ。
噂は本当だった。小鬼なんて雑魚だ。俺でもヤれた。
棒を握る手は更に力がこもり、同時に身体全体もガクガクと震えていた。
とにかく誇らしかったんだ。小鬼を追い払った事が――。
あの後、逃げた小鬼がどうなったのかはよく知らない。
母には『もう危険な事はするな』と叱られたが、そんな事は然して気にもならない。
その晩は冒険者たちを家に招き、色々な話を聞く事が出来た。
こんなに嬉しい事はない。
何と言う日だ。
本当に面白い。冒険者から聞く話は。
上手く言えないが、体験談に基いた話は不思議な臨場感に満ちていた。
遺跡探索のお話、怪物退治のお話、謎に満ちた迷宮でのお話、そして奥に眠る財宝のお話――。
彼等は、鋼鉄等級という然程高くはない階級らしいのだが、自分から見れば充分格好の良い冒険者たちだった。
幼馴染の少女で、父親から武術を習っている黒髪の
彼らから聞いた冒険譚の数々、その晩は興奮してよく眠れなかった。
それから数日――。彼等は諸事情により、今も村の警護に就いてくれている。
あと1週間は滞在するという事も聞いた。今の内に稽古でもつけてもらおうか?
その晩遅く
とにかく圧倒された。
人数など、今滞在している冒険者の比ではなかった。――というよりも、あの人たち自身も驚いていたのは何とも不思議な話だ。
数台の馬車に20人以上の冒険者、そして同年代の子供たち――。
なんだろう?
近頃、変わった事が目まぐるしく村で起きる。その事実に少しだけ不安な気持ちにもなった。
それにしても、騎士なんて初めて見た。重厚な鎧に、大きな剣――。
自分の持つ木剣とは大違いだ。俺も冒険者に成れば、本物を手にできるだろうか。強い伝説の剣が良いな。
彼等からも話を聞きたいけど、残念な事に明日の朝には村を発ってしまう。
こればっかりは仕方がない。ちょっと残念だけど珍しいものが見れたんだ、寝てしまおう。
何だか外が騒がしい。
大勢の声で目が覚め、直ぐに次兄から小鬼来襲を報された。
但し今度は
俺、計算は出来ないけど、物凄く多いこと位は分かる。その事実に、今度ばかりは少し恐ろしくなった。
だけど小鬼だ。小鬼は雑魚だ。あの時も畑から追い払ったのは、この俺なんだ。
よし今日もヤッテやろう。
少年は棒切れではなく、暇な時に振り回す木剣を手に外に出た。
相変わらず母が五月蠅いので、部屋に籠もるフリをしながら外へ出る機会をじっと待つ。小鬼が来たら飛び出してやる。
そして冒険者さんに、いい所を見せてやるんだ。
意外にも、その時は直ぐに訪れた。
何と10を超える小鬼が、畑にやって来たではないか。
だけど、あの時とは少し違う。
あの時の小鬼は何も持ってなかった。今度の小鬼は手に武器を持っている。
木の棒やら、折れた剣やら、とにかく色々だ。
恐さ半分、期待半分、木剣を握り締め機会を待つ。
気が付いた時には、外に飛び出ていた。
今なら分かる。
悔しかったんだ。あの
自分と同年代の癖に、いっちょ前に
そして小鬼を斬り伏せていた。あのカッコいい剣で次々と――。
だから飛び出した。何も考えずに――。
黒髪の女の子は、こう言っていた。
『ボクだってデキるんだ!』
だったら――。
「オレだってデキるんだ!」
黒髪の女の子と同じ台詞を吐きながら、とにかく最も近い小鬼に木剣を叩き付けようと大きく振り被る。
目の前には3体も居る。だから何だって言うんだ。
女の子に負けて堪るか。
…
周りが障害物だらけという環境に――。
一瞬何が起こったのか、理解が及ばなかった。
何度も振り慣れた木剣が何処かに持っていかれる…そんな感覚と言えばいいのだろうか?
そう――。引っ掛けたのだ。
少年の振るった木剣は、付近の岩場に引っ掛かり小鬼に届く事はなかった。
彼が
手には、赤錆び何やら液体塗れの折れた剣が握られていた。
彼は3体の小鬼に押し倒され、腕に裂傷と激痛が奔る。
少年を押し倒した小鬼が液体塗れの折れた剣を突き刺そうとしたが、少年は必死に抵抗を試み何とか腕で顔面を庇った。
その所為で、液体塗れの折れた剣は少年の腕を掠め皮膚が引き裂かれる。
「――う、うぁぁアアァ……!」
少年は、人生初の恐怖を身を以て知った。
確かに小鬼は混沌最弱と言っても差し支えない程に、矮小な存在だ。
しかし3体同時に圧し掛かれられば、幼い子供など成す術などあろう筈もない。
このままいけば少年は、無残な肉塊へと成り果てるのみ――。
「――GYOVE…!?」
突如として悲鳴を上げる小鬼――。
少年が目にした小鬼は、
「これで一つ…!」
一体何が起きているのだろう?
小鬼の喉元から刃が飛び出す事など普通はあり得ない。
その小鬼は痙攣を繰り返すも直ぐに動きを止め、あらぬ方向へと投げ飛ばされた。
少年は学のない農民の3男坊だが、流石に状況を察する事はできる。
いま投げ飛ばされた小鬼は、後ろから何者かに剣を刺され喉元を貫かれたのだ。
そしていま目の前に居たのは、薄汚れ血に塗れた安っぽい鎧兜の冒険者――。あの鋼鉄等級の冒険者や太陽を彩った騎士とは似ても似つかぬ、見すぼらしい貧相な冒険者――。手には中途半端な長さの剣と、小ぶりな円盾を装備していた。
鎧兜の冒険者――鎧戦士は、直ぐに動きを再開し傍らに居た2体の小鬼を仕留める。
1体の小鬼の首を剣で切り裂き、もう1体の小鬼を円盾で殴り付け怯ませた。
その隙を突き、身体を回転させ頭部を裂き絶命させる。
「これで3…!」
「あ…あ…ァあ…」
少年に殺到していた3体の小鬼は、鎧戦士に全て討ち取られた。
眼前の事実に、少年は腰を抜かし唯々見る事しか出来ないでいる。
そんな少年の狼狽えぶりなど露知らず鎧戦士は、ある小瓶を少年へと手渡す。
「
「え…え…?」
矢継ぎ早に、それでいて簡潔に過ぎる鎧戦士の言葉など、学の無い少年に理解など及びもしなかった。
だが彼から差し出された小瓶に恐る恐る口を付け、中身を一気に飲み干した少年――。
そして彼から示された通り、絶命した小鬼の武器に視線を送る。
小鬼の握っていた折れた剣には、得体の知れない滑った液体に塗れていた事を知った。
「小鬼の糞尿に毒草を混ぜ、粗末だが強力な猛毒だ」
「じ…じゃあ、オレ…」
「そうだ」
今この時点で、少年は毒に侵されていた事を知る。
同時に、目の前の鎧戦士に解毒して貰った事実にも――。
「あ…あの…俺――」
何を言うべきなのかは分かってはいたのだが、気が動転していたのか少年の舌は上手く回らなかった。
「剣が長すぎる、短いのにしろ」
そんな少年の思惑を知ってか知らずか、鎧戦士は木剣を手に一人呟いた。
先ほど少年が勢いよく振るった木剣だが、一部が欠損している。近くの岩場に引っ掛けた所為だ。
なぜ今のような事態に陥ったのか。
鎧戦士の指摘した通り、障害物だらけの地形で
その結果、木剣は岩場に引っ掛かり少年は致命的な隙を晒してしまった。
鎧戦士は言葉足らずだが、何を伝えんとしていたかは直感で感じ取る事ができ、少年は無言で何度も頷く。
「そうか。ではな」
「――…あ、あ…の…?」
その台詞を最後に、鎧戦士の冒険者は颯爽と姿を消す。次の現場へと向かったに違いない。
去り際、彼はこう呟いていた。
―― ゴブリンは、皆殺しだ…! ――
「誰なんだ…あの人…?」
あの特徴的な鎧兜の冒険者――。
自分の愚かな行動で危うく小鬼に殺されかけた処を、彼に救われ
―― 小鬼は毒を使う ――
―― 剣が長すぎる ――
彼の言葉が今も脳裏に焼き付いて離れない。
「……」
破損した木剣を手に少年は、もう居ない鎧戦士の方角を唯々見続けた。
……
別の区画にも、小鬼が入り込む。
だが、村の住民に犠牲を強いるなど許されない。
自分は冒険者、一旗揚げると両親に宣言してしまった身だ。
「――やぁぁあッ!」
得意の蹴り技が、小鬼の顎を蹴り砕く。足甲として装着された金属部と脚力が合さり、小鬼の骨など脆い砂糖菓子の様だ。
「――GYOV…!!」
通常種の小鬼如きに、彼女の蹴りなど見切れる筈もなく顎は無残に砕かれ絶命。
美しい銀色の髪は、朝の陽光に照らされ鮮やかな光沢を放っていた。
「――ハイッ、そいやァッ…!」
彼女の隙を突いた、とでも思ったのだろう。
白くも瑞々しい彼女の背は新鮮なメス特有の匂いを放ち、数体の小鬼が飛び掛かるも即座に反応されてしまう。
そもそも通常種の小鬼では、只人の子供程度の身体能力しか備わっていないのだ。
その程度の瞬発力なら大抵は対処が叶う。
銀髪武闘家は身体を捻り、更なる回転旋風脚で纏めて小鬼を蹴り砕き仕留め抜いた。
「…フゥ…、取り敢えずは大丈夫かな…?」
視界に入る限りの小鬼は大方仕留めたと思いたいが、まだ油断は禁物。
何せ小鬼の総数は150を超えると言われ、村を襲撃するには些かに過剰戦力だ。
一応構えは解かないまま、周囲に気を配る。
「もぅ、いいのか?」
「あ、はい!ちょっと体が重い位で、ちゃんと動けますよ」
彼女の他に、傍では灰の剣士が並み居る小鬼を斬り伏せており、一応病み上がりでもある銀髪武闘家の補佐を務めていた。
昨夜、死儀礼の鳥の『死の嘶き』で彼女は
戦闘後『死の苔薬』により回復できたが、背面の皮膚が突き破られていたのだ。
それに伴う出血も只ならぬ量で、身体能力の低下は免れ得ない危険な状態には変わりない。
そんな彼女を単身戦わせる訳にもいかず、灰の剣士が付かず離れずの距離を保ちつつ彼女を支援していたのであった。
病み上がりには違いないが、通常種の小鬼数体程度に遅れをとる彼女ではなかった。
「す…凄いなぁ…アレが冒険者なんだ…」
離れた位置で、二人の戦いを見持っていた少女が一人――。
「これ、家に入ってなさいと言っただろう…!」
彼女はまだ幼く、11~12歳といった年齢だ。
長い黒髪を後ろに束ね、格闘術を習う門下生の警護着を身に纏っていた。髪色以外は、何処となく銀髪武闘家と似通った部分を持つ。
その少女は、父親から格闘技の手解きを受けており、小鬼襲撃の機会に腕を試そうと意気込んでいたが、只今絶賛、父親に叱られ真っ最中であった。
「ご、ごめんなさい…」
「ハァ、全く。私から離れないようにな」
「はい…!」
彼女のこの様子では素直に言う事を聞き入れそうにない。
そう悟った父親は、傍を離れないよう釘を刺しながら静観を許す事にする。
「アタシも、あんな風になりたいなぁ…」
「見るのも鍛錬の一環、しっかり目に焼き付けておきなさい」
こうしている間も、銀髪武闘家と灰の剣士は次々と侵入した小鬼を仕留めてゆく。
二人、特に銀髪武闘家の戦いぶりに釘付けとなった少女は『何時かは、ああ成りたい』という憧れを抱く。
あまり称賛された事ではないが、護身のために格闘技を伝授したのは父親である自分だ。
ならば、この襲撃を見るだけなら多少なりとも得る物もあるだろう。
父親は遠間から静観する事だけを許し、娘と共に冒険者二人の戦い振りを見守る事にした。
……
あれから幾許かの時間が経過したが、村の被害は皆無に等しい形で小鬼の殲滅は完了した。
「お~い、小鬼共の足跡見て来たぜ~!」
戦闘も一先ず終わった訳だが、同期戦士に属する鉱人斥候が報告の為に帰還した。
戦闘も終盤戦に差し掛かった頃合い、彼女は数名の仲間を引き連れ小鬼の足取りを調査していたのである。
彼女の報告によれば、小鬼は方々から集結し此処まで辿り着いた所謂『渡り』の集合体だと言う。
つまり巣を持たない、群れからの逸れ者が集まり徒党を組んだ集団との事――。
更に足跡は一つの方角で集中的に発見された。
その事から、聖黄金樹の効果範囲外の小鬼達が集結し、此処を目指した事になる。
聖黄金樹の効果範囲外では、真面な生活など到底望めない。
人々は必然的に、聖黄金樹の効果範囲内に逃れるか結界を展開し凌ぐかの二択に分けられる。
恐らく小鬼は獲物を求め、方々から合流を果たし獲物を探し求めた結果、この村に目を付けたのだろうと判断出来た。
実は数日前、数体の小鬼が畑の作物を狙い侵入していたのだが、先遣隊の可能性も捨てきれない。
「増援の可能性は…?」
「まぁ、
「――かと言って、
「こんだけ、『渡り』って言うのやっつけたんだし、直ぐに襲って来るのも考え辛いんだけど?」
150という小村の襲撃にしては過剰な規模の小鬼を殲滅できた。
だが再度の襲撃が無いとも言い切れず、ゴブリンスレイヤーは更なる増援の可能性に言及した。
確かに可能性は無いとは言い切れないが、有るとも断定はできず、ソラール、スイーパー、ルルアも個人の見解を述べる。
「後の警護は、彼等に任せよう。我々にも役割がある、それを果たさねば」
次なる襲撃が皆無という保証は何処にもないが、灰の剣士たちには避難民を街に送り届けるという重要な役割を果たさねばならない身だ。
今後は、この村の警護を担当している冒険者一党に任せてもいいだろう。
襲撃の後始末を終えた灰の剣士たちは、街への帰還に向け出立の準備を整えた。
……
一部の避難民たちだが、何とこの村に留まる事を決め込んでいた。
特に家畜を所有していた世帯などが中心だ。
聖黄金樹の効果範囲外の赤爛れた陽光の所為で、殆どの家畜が衰弱していた為これ以上の移動にも苦慮していた。
既に、何頭かの家畜は息を引き取る寸前で、この村の長と相談した結果、受け入れてくれるとの事だ。
この村には、余裕のある農家も存在し当分は其処で世話になるらしい。
街へと向かう者、この村に留まる者――。
各々が別れを済ませ、灰の剣士たちは街への帰還を再開し村を発った。
「皆ぁ、街までもう少しの辛抱だ!」
再び灰の剣士が先導し、避難民…特に交易神寺院の子供たちを乗せた馬車群を引き連れながら後方へと呼び掛ける。
「うぅ…早くお風呂に入りたい……!」
スイーパーの馬車に搭乗しているライザ達――。
これまで数日間、数々の村や町を経由してきたが、当然真面な風呂など浸かれる訳も無くライザは愚痴を零しつつ内股をポリポリと掻く。
「うん私も、清拭ってあんまりやった事なかったから…」
ライザに同調するエーファ。
彼女は孤児院出身だが、簡素ながら風呂施設の備わった施設で育っていた為、清拭には縁が無かった。
風呂に浸かり身体を洗浄するという生活に慣れ切っていた彼女には、少々不便に感じていたらしく相当不満が溜まっていた。
「あたしは神殿生活…でも今回は…お風呂に浸かりたいです」
赤いリボンの少女だが、彼女は地母神神殿の信徒でもあり主に其処で生活を営んでいる。
従って彼女も大半は清拭で洗浄を済ませていたのだが、今回の旅路は相当堪えたらしく風呂に浸かりたい旨を告げた。
「うんうん、そうだよね~。今夜あたし達の宿においでよ、外泊届出してさ…ね♪」
「はい…有難う」
少女の希望に、ライザは今夜自分達の宿に来るよう告げ、少女も控えめながらに受け入れた。
「それじゃあ、帰ったら早速みんなでお風呂だね…!」
ルルアの提案に女性陣は賛成の意を示す。
「オーレルは、どうなの?こういう旅には慣れてる?」
「僕か?多少はな」
此処で男性でもあるオーレルの反応を窺うライザ。
彼は最強の剣士を目指し日夜努力を続ける身であり、当然武者修行の旅にも慣れてはいた。
だが彼も野宿以外は、可能な限り施設の整った宿に泊まり込んでいた為、実は風呂に浸かる習慣が身に付いていたのである。
「どうする、オーレル?あたし達と一緒に入る?」
「――なっ…ブァカか、お前…!?///」
ライザの提案に、オーレルは素っ頓狂な声を上げ顔面を真っ赤に染め上げた。
「――ちょっとライザちゃん、突然なに言いだすの!?///」
「…その様子だと、ライザって男の子と入った事あるみたいな言い方だね?」
オーレルに続き、エーファも顔を紅潮させ抗議の声を上げる。
対してルルアは、混浴の経験の有無をライザに問う。
「う~ん、7~10歳辺りまではあるよ。後はお父さんと…位かな?」
一応幼い頃は、幼馴染であるレントやタオといった男友達との混浴経験はあった。
「んでさ、さっきから黙ってる
あまりに明け透けなライザだが、此処で無言を貫いていたゴブリンスレイヤーに話を振ってみた。
「知らん、ギルドで報告すれば帰る」
「ははぁ~ん…そんな事言ってホントは照れてるんでしょ?んもぉ、
流石に彼は真面に応対しようとはせず、成すべき事だけを述べそっぽを向く。
ライザはそんな彼に対し、揶揄いつつ安っぽい鉄兜をゴツゴツと小突いた。
「ライザちゃん…開放的過ぎ…」
――レントやタオって奴に同情する、ホントに…。
旅の疲れも何のその――。
昨晩『呪死』に苛まれていた彼女とは思えない程に、ライザは普段通りの快活さを取り戻していた。
その事にエーファは溜息を吐き、オーレルは心の中でまだ見ぬレントやタオというライザの幼馴染みの苦労を感じ取る。
「――あっ!それでね聞いてよ、灰君たら酷いのよ!あたしが一緒に入ろって誘ったのに断ってさ『…然程汗も掻いておらぬ故、私はもう少し錬金書に目を通しておきたい(`・ω・´)((キリッ.』…なんて言うのよ?」
此処でライザは、法の神殿で起こった当時の事を語った。
ダークゴブリン戦前夜、あの神殿で灰の剣士と腹を割って本心を語り合い、ついでに混浴へと誘ったのである。
しかし彼に断られてしまい、彼女は一人で入浴する事になる。
法の神殿の大浴場を実質貸し切りも同然となり、当時のライザは上機嫌で入浴を楽しんでいたのだが、ここに来て急に思い出したのか灰の剣士について言及し始めた。
(本編前夜編 第78話参照)
「――プッハハハ…!似てる似てる。剣士さんって、そう言いそうだもんね♪」
「でしょ!」(*`ω´*)ドヤッ
彼の物真似が余程ツボにハマったのかルルアが大声で笑い飛ばし、ライザもドヤ顔で得意気になる。
――剣士さんが、真面な感性で良かったわ……。
二人のやり取りに、エーファはまたもや溜息を吐いていた。
「あの人と混浴……///」
車体内の弾む会話に、御者台で聞き耳を立てていたゴブリンスイーパー。
灰の剣士との混浴をついつい妄想してしまう。
あの時、彼とは心の内を打ち明けた間柄だ。
そして彼も、此方に対しては一定の想いを寄せてくれている事も知った。
何時の日か実現するであろう、特別な関係――。
彼女自身、小鬼に嬲られ純潔を失った身だが、夜の営みについては詳しい方でもなく寝台のやり取りなど無知にも等しい。
「あらやだ、私ったら…///」
どんな事を
馬を駆り先導していた灰の剣士だが、実は黒髪の少女も彼の馬に搭乗していたのである。
黒髪の少女は彼の前に陣取っていた為、詳しい様子は分からないが時折り聞こえてくる声で積極的に話し掛けている事が分かる。
「あの子も、
何せ、神殿の少女や幼夢魔に慕われる様な彼の事だ。
このままの流れで行けば、黒髪の少女も彼に懐く可能性が極めて高い。いや既に、そうなりかけていた。
「まぁ、何人寄ってこようと
全く嫉妬の念が湧かないかと言われれば、嘘にはなる。
だが、灰の剣士に何人の女が寄り付こうとも彼に対する想いを変えたくはないスイーパー。
前方の彼に視線を寄せながらも車体内の姦しい会話に耳を傾け、手綱を改めて握り直す。
意外にも彼女は、兜奥で笑みを浮かべていた。
……
信じたくはなかった。
「…バカな…」
灰の剣士たちは行軍を止め、前方を呆然と眺めている。
結論から言おう。
街から火の手が上がっていた。
まだ遠方だが、昼直前の時間帯に差し掛かり、彼等は漸く街の輪郭を視界に納める距離まで帰還していた。
だがいま目にしている通り、街から煙が立ち昇っていた。
「――各位、街まで急ぐぞ!」
一体街で何が起こったのか?
襲撃の憂き目にでも遭ったのか?
良からぬ考えが次々と脳内を駆け巡る。
だが此処で立ち止まる事に何の意味も成さない。
灰の剣士は、弾ける様に馬を駆り街へと急行する。
「――おいちょっと、待ちやがれ!」
槍使いの制止も聞かず、全速で馬を駆る灰の剣士に置いていかれる形となる、他の冒険者たち。
彼等も慌てて後を追う。
「――お、お兄ちゃん…!これって街が――」
「――しっかり捕まってろ、飛ばすぞ!」
「――う、うん…!」
気ばかりが焦り、一心不乱に馬を駆る灰の剣士。
彼の前に位置する黒髪少女は、突如の豹変ぶりに狼狽しながら馬に揺られていた。
また彼女も、立ち上る煙で街の異変に感付いている様だ。
振り落とされないよう少女に念を押しつつも、彼は街のみに意識を集中させる。
馬を駆る事暫らく――。
街の輪郭も明確となり、付近には見慣れた火継ぎの祭祀場も目に映る。
やはり予感していた通り、街からは幾つもの煙が立ち昇っており襲撃の惨状を匂わせた。
「どういう事だ、これはッ!?」
街には、多くの冒険者や衛兵が守備に就いていた筈だ。
況してや『剣の乙女』を含め『王統府』の側近達まで控えていた街――。
彼等は金等級の冒険者、そんな彼等が控えていながら襲撃を許したとでもいうのか?
とにかく只事ではない。
街付近から、怪しいソウルが幾つも感知出来る。
彼は少々速度を緩めながら更に前進を続けた。
空には黒味がかった灰色の雨雲が覆い、雨が降り始める。
そんな折、聞き覚えのある声が彼等を出迎えた。
『これはこれは御久しぶり、お早い御到着お疲れ様。…灰の剣士』
「貴公…仮面の錬金術師…!」
まだ街まで多少の距離が開いていたが、降りしきる雨の中、突如として半透明の幻影で姿を現したのは『仮面の錬金術師』と呼ばれる見覚えのある男だった。
普段とは違う幾分巨大な姿で、彼等の前に姿を見せ語り掛けて来た。
『数日間に渡る任務、村の警護、村人の避難誘導に護衛、子供達に対する慈悲ある施し、実に善行の極み』
「ね、ねぇ…何なのこの人?」
「私から離れるな」
トロル並みの巨大な幻影で語り掛ける仮面の錬金術師に、黒髪の少女も不安げな表情で灰の剣士へと寄り添う。
『中々に懐かれているじゃあないか、君?だが良いのかい、其処のお嬢さん?ソイツの本性、ソイツの殺戮沙汰、死儀礼の鳥を筆頭にした魔神の群れ――』
「むぅ…難しい事わかんないッ!」
どういう訳か、仮面の錬金術師は昨晩の戦闘を知っていた。
その上で、今度は黒髪の少女にも語り掛けるも、彼女は特に考える事も無く反抗の意を示す。
彼の言葉は、よく分からない。
だが灰の剣士に対する罵倒だという事は、ハッキリと理解していた。
『灰剣士殿ぉ…!』
『剣士さぁん…!』
『大丈夫、灰君…って、誰この人?』
途中で他の仲間達も彼に追い付き、ライザは眼前の巨大な幻影に疑問混じりの警戒感を抱く。
「この男が、仮面の錬金術師だ」
「――えっ、この人が……クリント王国の…!?」
灰の剣士から告げられ、仮面を付けた幻影が例の『仮面の錬金術師』である事に驚きを隠せなかった。
『そうとも。我が子孫…そして錬金術を担う若者たち。こうして蘇ったのさ、古代の栄光を取り戻し復古を成就せんが為にね…!』
また彼は、ライザがクーケン島出身である事も見抜き何世代もの子孫である事も把握していた。
「――てめぇか!?街を襲った野郎はッ!?」
『何とも無粋な野蛮人だな全く…。君達冒険者は、戦うだけが能じゃないだろう?対話を成し、知性を練り、謎を解き、神秘と真実を暴き出す。それが君達の矜持ではないのかね?』
「――世迷言はいい!質問に答えて貰おう!」
重戦士と女騎士が食って掛かるが、仮面の錬金術師は余裕の態度を崩さず弄ぶように彼等を煽る。
『まぁ、その答えは
どうやら無関係でもない様だが、この男一人の仕業とはどうしても思えない。
金等級冒険者が複数控えている状態で、街がこうもあっさりと被害を受けるとは考え難いのだ。
雨脚が徐々に強くなる。分厚い雲が次第に空を覆い尽し、昼間だと言うのに不気味に暗い。
まるで彼等の不安を表しているかの様な不穏な空模様だが、地母神神殿の方角では白くも黄金の光が一際輝きを放ち空を淡く染め上げていた。
様々な疑念が渦巻く中、彼等は歩みを再開する事にした。
仮面の錬金術師、彼の巨大な幻影に見透かされながら――。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
コーリングスター
クーケン島の錬金術士、ライザリン=シュタウトの会得している魔法。
星の宿す魔力を弾丸状へと変換させ、連続射出し魔力属性のダメージを負わせる。
どうにもクーケン島の住民は生まれ付き魔力を宿し、同時に精霊との調和性も高い。
誰に教わるでもなく、ライザ自身も物心ついた時から冒険や探検を通じ自然体得に至った。
物言わぬ宇宙の神秘でもある、星という天体。
彼等は、確かな生命を宿し息吹いている。
星の宿す魔力を発現させる彼女は、星見に通じているのだろうか。
フローラルミーナ
アーランドの錬金術士、エルメルリア=フリクセルの会得している魔法。
花のような香り漂う光の膜で味方を覆い、敏捷性と攻撃力を上昇させる支援魔法。
快活だがそれでいて心の優しいルルア。
本人の性格が反映されているのか、彼女の使う技術は不思議と支援をもたらすものが多い。
錬金術で全ての人々に笑顔を振りまきたい。
それは彼女の願いであり小さな決意でもあった。
そして彼女に光のあらん事を。
次回からは、ロンドール視点でのお話が展開されます。
そこそこ続くので、更新時は数話分まとめて投稿すると思います。
如何だったでしょうか?
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
デハマタ。( ゚∀゚)/