何とか、災害は免れました。と言っても、直ぐ傍で土砂が崩れたり冠水したりで油断のならない状況には変わりありません。
今回はロンドール黒教会視点のお話です。
約5話分ぐらい予定していますので、つまらないと思われるかも知れませんが、お付き合い下されば幸いです。
少々過去に遡り、ダークゴブリン戦直後の時間軸から始まります。
では今回は2話分、投稿致しますドゾ。( ゚ ω ゚ )
深みの螺旋剣
漆黒の捻じれた螺旋状の刀身を持つ剣。
常に、暗くも褐色染みた火が纏わり付いている。
一応武器としても機能するが、本来の使い方ではない。
篝火の燃料に差し込み、黒い篝火を熾すのが本来の使い方である。
根源たる生命に悪影響を与える、黒い篝火。
しかし、これを寄る辺とする深き死に溺れし生命も確かに存在した。
然る鍛冶師に造らせ、今や幾つもの模倣品が存在する漆黒の螺旋剣。
深みがもたらす未来は、何を照らそうというのか。
黒い螺旋剣の破片
深みの螺旋剣を砕いた破片。
黒い篝火を熾す発火材として使われるが、簡易的な転送機能も有している。
不死人は篝火に惹かれるものだが、この火は寧ろ敬遠され惹かれる事はない。
彼等と言えども、やはり真っ当なのだろうか。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
―― 時は少々遡る ――
荘厳にして優美、絢爛にして美麗、しかして、暗く、淀み、冷たい…。
神々を象ったであろう数多の像、中には朽ち掛けている物も散見され、過ぎ去りし永劫にも似た時を物語っていた。
厳格な神々の信仰の場――。
敬虔な信徒の集う聖域――。
厳かでいて美麗な造りは、嘗ての繁栄を漂わせる。
この巨大にして広大な建造物――。
時代は流れ行き、本来何の役割を果たさんとして存在したのかも太古の彼方に置き去られ久しい。
忘却の最奥に捨て置かれようとも、広大な聖域の威厳は、尚も褪せてはいなかった。
火の時代~火継ぎの時代へ――。
やがては火継ぎの時代さえ闇に閉ざされ、終演を迎えた。後に時代は進み再び『二度目の火』が宿り新たな時が脈動する。
更に幾星霜の時が流れ行き、『四方世界』と呼ばれる冒険者の時代が到来した。
もはや嘗ての聖域など見る影もない程に淀み腐敗に塗れた、荘厳なる巨大な御堂――。
なれど、人々は敬意を込め御堂をこう呼ぶ。
デエェェ ―― 深みの聖堂 ―― ェェェエン
遥か太古の時代、この聖堂は『白教』の総本山でもあり大勢の信徒が参拝に訪れていた。
当時の様相は厳かでありつつも、清く暖かで捧げる祈りも純然たる神への敬愛に溢れていた。
しかし今や聖なる栄光など過去の遺物――。
聖堂そのものは嘗ての面影を保ちつつも、歪みに歪んだ汚泥の苗床と化していた。
そして現在では、汚泥の深みに惹かれた相応しい信徒達の
たとえ邪教を始めとした混沌勢の住処になろうとも、神々への信仰の場としての姿は変わる事は無かった。
さて、今の姿に変容した深みの聖堂――。
幾多もの組織が、この御堂を活動拠点として利用されていたが、やはり力関係は存在する。
強大で力の持つ勢力程、深みの聖堂の大半を占拠しており、弱小組織は精々一区画を借り受けるのが関の山であった。
様々な組織が入り乱れる中、取り分け巨大な勢力を誇る組織が存在する。
名を『ロンドール黒教会』と言う。
亡者と老人の国と称され死と闇に満ちた時代を築く為、長き時をかけ世界中で暗躍してきた。
神々の熾した『火の時代』を完全に終わらせ、死と闇に満ちた『人の時代』を到来させるには、消えゆく『最初の火』の簒奪しなければならなかった。
そして簒奪者である『闇の王』の誕生に漕ぎ着けはしたものの、結局『薪の王』たらんとする一人の『火の無い灰』に敗れ去り計画はとん挫。
結局、消えゆく最初の火は、『薪の王』と彼に仕える『火防女』により完全に消された。
その後、確かに
しかし無抵抗で滅びを甘受する積りなど毛頭なく、最初の火の欠片である『残り火』を搔き集め存続を保っていた。
それでも限界を迎え、あわやロンドールそのものも消え去ろうとした矢先、突如として次元を跨ぎ『四方世界』へと流れ着いた。
今在る四方世界は、光と生命に溢れ生者が真っ当に営みを育む世界。
それはロンドールの求める時代とは真逆にも等しいが、『二度目の火』が宿ったが故に誕生した世界である事を悟る。
彼等は再び計画を練り直し、今度こそ悲願成就へと動き出した。
計画の最終目的は同じ…なれど、若干の修正を加え軌道を変更させる事となる。
やはり『火継ぎの時代』とは概念も何もかもが異なり、死の闇に満ちた『人の時代』など望めようも無かった。
時が進み調査を繰り返す事で様々な情報を取得。その結果ロンドールが求めたのは、『永劫回帰の時代』の到来という答えに辿り着く。
つまり無限や永遠を意味し、
死と闇の時代も、元々は
その為にも『二度目の火』の宿る
彼等は、日夜精力的に活動を続けていた。
深みの聖堂の半分を占有し、もう一つの一大勢力である『法王サリヴァーン(現・魔神皇サリヴァーン)』率いる魔神軍。
ロンドール黒教会はと魔神軍が、主な勢力として聖堂を二分していた。
その聖堂の一区画に在る小部屋にて、数人の鎧騎士たちが火を囲み談笑に耽っていた。
―― BONFIRE LIT ――
一人の騎士が熾した火、それは不死人達の寄る辺と言われる『篝火』である。
赤く橙色の温かみのある火が何とも心地よく、回りを囲む騎士たちは各々の姿勢で腰を降ろし寛いでいた。
「やっぱり篝火だよなぁ、心が洗われるぜ…」
「全くだ。火と言えば、この
「コイツも持って来た。生者どもの領域から手に入れた物だ」
「お、
「人聞きが悪いな、
篝火を囲み気を落ち着かせるついでに、一人の騎士が虚空から酒瓶とコブレットを複数、最後にツマミの入った小袋も出現させた。
これは四方世界の住民から入手した代物だが、別に強奪した訳ではなく普通に購入し手に入れた物だ。
彼等は総じて不死人だが、外観は生者と然程変わらず況してや甲冑まで纏っている身だ。
旅人や冒険者のフリで近付くなど造作もない。
其々にコブレットを配り、酒瓶から蜂蜜酒を注いでゆく。
そして小袋を開け、ツマミや菓子の定番でもある『豆類』が詰め込まれていた。
「それじゃあ……特に何かを祝う必要もないか、乾杯…!」
「「「「ハハハ…乾杯!」」」」
特別な祝杯を挙げる訳でもなく、単純に束の間の休息を楽しみたいだけだ。
彼等はコブレットをかち合わせ、乾杯と共に酒を喉に通し団らんに興じる。
「おいおい、俺達は
「楽しんでおいて、今更それかよ?」
「いや…結構重要な事だ。俺達は、こうして楽しんでる…。酒に…酔えねぇが味を楽しみ菓子を食い、こうやって会話して…」
「「「……」」」
彼等は、ロンドール黒教会に属する騎士たちで、全員が不死人である。
この組織に真っ当な生者は、先ず居ない。精々、下部組織に生者が存在するだけだ。
尤も下部組織の彼等も、永遠の命がため不死の儀式を求めていたのだが。
それはさておき、一人の騎士が生者と同じ楽しみ方に疑問を呈した。
ロンドール黒教会は、総じて生者の存在や営みを忌避する傾向にあり、こういった楽しみ方は推奨されるものではなかった。
しかし彼等は現に、酒を味わい菓子を楽しみ談笑に耽りながら『篝火』の温もりに身を委ねている。
不死人である彼等は生者の酒に酔う事は出来なかったが、
それは遠い過去、まだ生者であった時代の名残であったのだろうか。
若しくは心の何処かで、再び生者として帰り咲きたい望みを秘かに抱いていたのであろうか。
「俺達は、本来なら…アストラ騎士だ…」
「ああ…。光り輝く太陽を崇め、国家と民の生活が為に剣を捧げた誇り高き騎士団」
「だが今や遠い彼方昔の栄光…。今の俺達はどうだ…?死と闇に一直線…挙句には
「本当にこれでいいのか、
「「「「「……」」」」」
先程まで控えめながらも、談笑に明け暮れていた彼等騎士たち。
自分達が、今置かれている状況に疑問を感じずにはいられなかった。
此処に居る彼等は、
もう太古の昔に滅び去った国だが、彼等は嘗ての故国を忘却した事はなかった。
生命育む太陽を崇め、陽光の如き光溢れる国であり、貴族主義ながらも平民の安寧に向け日夜奮闘し続ける。
それが、アストラ騎士の矜持であり存在意義でもあった。
だが今の彼等は、ロンドールという
どうしてこうなった――。
いつからこうなった――。
彼等は無言で篝火を見続け、唯々時間ばかりが過ぎ去り行く。
「やっぱり俺達は、生者の領域が、営みが恋しいのかもな…?」
「…――かも知れねぇ…」
「この篝火だって、生者にとっては安らぎを覚えるみたいだしな」
彼等が不死人となり、悠久とも言える時間が経過していた。
当時の
しかし彼等の故国アストラは、逆に闇へと歪み傾倒し
最初の火が継がれた当初、彼等も晴れて生者へと戻ったのだがアストラ政府側の歪みには抗えず、再び儀式を受け『不死人』へと成り果てた。
それからというもの、彼等に時間や寿命と言う概念は消え去り永遠とも言える膨大な時間を生きて行く事を強いられた。
気の遠くなるような時を過ごし、同時に『闇』に塗れながら何時しか染まる事にも慣れ切ってしまった。
もう嘗て人間だった頃の感性など喪失してしまったと思い込んでいたが、どうやら本質的な部分は今も根強く残ったままの様だ。
彼等は今も、死や闇に染まってはおらず本能的に生ある営みを求めていた事を改めて悟る。
「太陽が見てぇ…」
「我がアストラの象徴…」
「そうとも、我等は今もアストラの騎士…」
「その誇りは、今なお色褪せず…」
「行くか…太陽を拝みに?」
「「「「そうしよう…!」」」」
嘗てアストラでは、太陽が盛んに信仰され国教にも指定されていた。
今の彼等はロンドールの騎士だが、その心には尚もアストラの矜持が宿り誇りとして支えとなっていたのだ。
久し振りに太陽を拝んでみよう。
彼等の意見は一致し、徐に立ち上がる。
――その
「ヤバいッ、
「篝火を消せッ、速くッ!!」
「――お、おぅ…!」
突然、騎士の一人が叫び焦燥した様子で篝火を消すよう指示する。
もう一人の騎士も緊迫した様子で、慌てて篝火を消し『螺旋剣の破片』を懐へと仕舞い込んだ。
その直後、何も無い床に魔法陣が現れ、総毛立つ不気味な異形が姿を現したのである。
「貴様らぁッ…、儀式の準備だぁ…!大広間に集まレぇ…!」
人型と称すには余りにかけ離れた不気味な異形。
王冠を乗せた頭部は辛うじて人型ではあるが、潰されたかのような顔部には眼球が存在していない。
常人なら、その不気味な素顔を見ただけで、卒倒する程に悍ましい容姿をしていた。
また威容に不気味なのは頭部だけでなく、身体には無数の手足が生え揃い一層の恐怖感に拍車をかけている。
亡者と老人の国ロンドールの環境に慣れた不死人でさえ、この異形の不気味さには戦慄と恐怖を抱いていたのである。
「――ハッ、すぐさま向かいます…!」
監視員と呼ばれる不気味な異形の出現に、彼等騎士たちは直立と一礼で応対した。
この異形、周囲からは『王族の幽鬼』と呼ばれている。
「貴ぃ様らぁッ…まだ紛い物の火を熾していたのカァッ…!」
「――い、いえ、これは…そのッ…」
王族の幽鬼は、既に喪失した眼球で床に視線を落とし騎士たちを一喝する。
床には篝火の跡が見られ、王族の幽鬼は彼等に追求した。
どうやら篝火が、お気に召さないらしい。
「あんなぁ紛い物はぁ、生者の悪しき風習ッ…!真の篝火とは、
先ほど騎士たちが熾していた篝火を
彼は、黒い物体と石鉢を虚空から出現させ、床へと設置――。
「見ぃろッ、これが真のぉ篝火ぃダッ…!」
王族の幽鬼は無数の手を翳し、その場から黒い篝火が熾る。
先ほどの赤と橙色の火とは真逆に、濃密な闇を思わせる黒い火は見る者へ不快感を与えていた。
「ギィャハハァ…!癒しィ、実にぃ癒しの骨頂ヨォっ…!」
黒い篝火の前に立つ王族の幽鬼は、あろうことか自ら身体を引っ掻き傷を付けた。
「「「「「……」」」」」
その異質極まりない奇行に、騎士たちは絶句し静観するだけだ。
尚も自傷行為を続ける王族の幽鬼の身体からは、濃い緑色の液体が垂れていた。
これは、猛毒性の液体で真っ当な生物には非常に有害な物質だ。
一見人型に近い異形だが、どういう経緯を辿ればこの様な存在へと成り果てるのか想像だにできなかった。
しかし、黒い篝火に当たる事で王族の幽鬼の傷口は瞬く間に塞がり元通りとなる。
「よぉし、これこそぉがぁ次世代の篝ぃ火ぃ…、覚えておけよぉ貴様ぁラぁッ…!」
「「「「「…ハッ…」」」」」
一頻りの行為を終え、黒い篝火を消す王族の幽鬼。
彼の手には、黒い小さな物体が握られていた。
見た目からして『黒い螺旋剣の破片』に酷似している。
あれで黒い篝火の発火材として使用するのだろう。
黒い篝火の恩恵を受けた王族の幽鬼は、満足したのか身の毛もよだつ笑みを浮かべた。
眼球の無い窪んだ眼部は黒一色に染まり、舌も歯も喪失した暗い穴の如き口部――。それが異物に蠢き、恐ろしい程の笑みを形成するのだ。
闇に慣れ切った不死人でさえ恐怖する姿に、真っ当な生者が直視しようものなら卒倒するであろう、この王族の幽鬼の笑い顔――。
「…大広間へ行けぇ、遅れるぅなヨぉッ…!?」
再度、向かう先を告げ王族の幽鬼は姿を消す。
彼の跡には、猛毒性を有す深い緑色の液体が残されていた。
「…フゥ…やっと行ってくれたぜ…」
「…ったく何なんだ、あのバケモン?」
「少なくとも俺達の時代…世界には居なかったよな?」
「その割には、何処か近しいナニカを感じるがな…」
「冗談じゃない。しっかし、黒い篝火…いつ見ても嫌な気分だぜ…」
王族の幽鬼が去った事で、彼等は各々の感情を吐露する。
とにかく悍ましい事この上ない、王族の幽鬼と呼ばれる存在。
彼がロンドール黒教会に参入し始めたのは、ごく最近の事だった。
同時に
尤も黒教会構成員の大半は、王族の幽鬼という異形を歓迎はしていなかったのだが。
「知ってるか?『闇の王』でさえ、
「マジかよ!?じゃあ何で、我等が王は黒い篝火を推奨するんだよ!?」
「俺に訊くなよ。上の考えてる事なんぞ、俺達下っ端が解る訳ねぇって…!」
王族の幽鬼が熾した黒い篝火――。
自傷行為の後、王族の幽鬼は傷が癒えていたが、此処に居る騎士たちでは傷を癒す事は出来ない。
寧ろ負傷した状態で、黒い篝火に晒されれば却って傷口は拡がり症状悪化を招いてしまうのだ。
そして、黒教会を統べロンドール臣民と亡者を導く『闇の王』でさえ黒い篝火には適応できていなかった。
次世代の寄る辺として黒い篝火を推奨していた『闇の王』であったが、そんな彼自身も傷を癒すには何時もの『篝火』に頼らざるを得ないという事実。
これは何たる珍事――。
自ら推奨しておきながら、同時に恩恵に肖る事が出来ないとは――。
我等が主は、一体何をお考えなのか?
指導者側の思惑など、下級騎士である彼等には推し測れようもなかった。
「あの監視員だがよ、回復の奇跡だと逆に
「回復の奇跡って、俺達も覚えてる回復の奇跡だよな?そんなバカな事が――」
「理性を無くした亡者でさえ傷が癒えるってのに、逆に傷を負うなんて――まさか…な」
「…本当だ。これは俺の憶測だが、あの監視員みたいなのが
大広間へ移動しながら、騎士たちは先程の王族の幽鬼について語り合っていた。
黒い篝火で傷を癒す事と言い、回復の奇跡では逆に痛痒を負う事と言い、アレは一体何者なのだろうか?
「狭間の地…か」
「一回だけ訪れたけどよ、ホントに未知なる異界だったよな」
「色褪せた黄金の平原、荒れ果てた火山地帯、ロスリックやイルシールにも匹敵する都…まぁ、
「そして何よりも、あのバカでかい巨木――」
「ボロボロに
王族の幽鬼は異界から到来した、いわば異邦人。
その異界は、霧の彼方『狭間の地』と呼ばれていた事も承知していた。
彼等は一度だけだが『狭間の地』に赴いていたのである。
ロスリック不死街の下層部から霧に包まれた街道を暫く渡り、更なる濃密な霧の壁の向こうに
そして彼等は見たのである。
色褪せ萎びた、広大な黄金の平原。
天には、黄金ながらも黒を孕んだ暗く不快な空。
奥に立ち並ぶ、荘厳で絢爛な灰塗れの建造物群。
岩山拡がる山岳地には、活火山が拡がっていた。
そして何よりも彼等の目を引いたのは、天を衝くほどに
しかし天を衝く程の巨木は、偉大さはあれど完全に枯れ果てており生命の息吹など完全に消え失せていた。
遠い昔には生い茂る程に木の葉を称えていたであろう、巨大な樹木――。
だが今は、死に絶えた枯れ枝を残すのみで嘗ての脈動は微塵にも残ってはいなかった。
その死に絶えた巨木の成れの果てだが、過去には
―― 黄金樹 ――
ロスリック不死街から然程離れていない筈だが、霧の壁を抜ければ完全な異界へと通じていた。
周囲に立ち込める空気感と言い、天を覆う空と言い、暗く何処か衰退と滅びを匂わせた異界の地は
異形の監視員『王族の幽鬼』も、狭間の地より由来する存在だという訳だ。
「やっぱりよ、四方世界こそが正解なのかもよ?」
「そうだな。あの時代は元より、狭間の地も暗く淀んでやがる」
「それを我が王は、死と闇に満ちた世界へ作り替えようとしてるんだろ?」
「それがよ、どうにも路線変更を画策してるらしいぜ?」
「そいつぁどういうこった?」
「俺も、言うほど詳しくねぇって」
「そこまでだ。もうすぐ大広間に着く」
引っ切り無しに弾む会話だが、大広間に着けば大勢の構成員や他組織と鉢合わせする状況になる。
流石に今の会話を周囲に聞かれるのは少々都合も悪く、一人の騎士が会話を強制的に切り上げた。
……
非常に広大な立地面積を誇る『深みの聖堂』だが、その大半は大広間に割かれている。
嘗ての時代、大広間の床一面には水が貼られていたが、今はそれも無く真新しい白亜の大理石へと変貌していた。
どれだけの
深く淀んだ邪教の温床でもある深みの聖堂だが、人の手による確かな補修が加えられており、形は違えどある意味での復興が進んでいたのである。
その大広間には、大勢の人々が詰め掛けていた。
ロンドール黒教会のみならず、傘下の下部組織や、邪教を信奉する小教会――。
今の王統府を良しとせぬ、反政府や国家転覆を画策する幾多もの組織や結社――。
只人だけでなく、森人や鉱人を含め闇人の類や亜人種に至る多種多様な種族――。
そして四方世界の脅威として認知されている、魔神軍に付随する深みの主教たち。
予想以上に、聖堂を根城としていた者は数多かった。
あらゆる混沌勢が、深みの聖堂という
『混沌の信徒たちよ…静粛に――』
数多に集う深みの主教たち、取り分け高位の法衣を身に付けた高僧が高らかに宣言する。
冷たくも淀む冷厳なる大広間に響き渡る、叫びの大波――。
声と共に身を引き締める、混沌勢の群衆――。
皆が見守る中、高僧の声と共に一人の騎士らしき男が姿を現した。
全身を黒い重甲冑で覆い、背には深紅のマントを羽織る、大柄の男だ。
手には、漆黒の捻じれた剣状の物体『深みの螺旋剣』が握られていた。
彼は唯のロンドール騎士ではない。
亡者と老人の国『ロンドール』を導く『闇の王』と呼ばれる存在だ。
その長たる彼が祭壇の場へと立ち、周囲では高位の主教たちが祈りの言葉を紡いでいる。
彼等の声音は、陰鬱な不気味さを滲ませ大広間全域へと木霊した。
祭壇の場の中心には巨大な『炉』らしき物が設けられ、闇の王は静かに『深みの螺旋剣』を炉へと突き刺した。
―― DARK BONFIRE LIT ――
漆黒の捻じれた刀身の『深みの螺旋剣』を基点に、黒い炎が巻き熾る。
黒い炎ながら外縁は血の様な深紅に包まれ、言うなれば『赤黒い』と評した方がいいだろうか。
赤黒い『篝火』は、瞬く間に天井へと届かんばかりに勢いを増した。
「ロンドール臣民たち、そして数多の混沌勢諸君、これはほんの序章に過ぎない!今熾せしは『深みの篝火』…!これより始まりしロンドールの悲願である『永劫回帰の時代』は、この篝火が
「「「「「――ウゥォオオオオおおおぉォッ……!!!」」」」」
闇の王による演説に、喝采で応える混沌の群衆――。
大広間には、ロンドール黒教会以外の組織員も多数居合わせており、中には魔神軍に属する構成員も含まれていた。
ロンドール黒教会の目的は、魔神軍の悲願とは少々趣が異なるものの、闇の王の演説に誰もが歓喜の雄叫びを上げている。
深みの主教を始めとした、ロンドール黒教会と魔神軍――。
彼等は総じて
生者の彼等は
黒教会にせよ魔神軍にせよ、彼等は不死に秘術に通じている。
此処に集った四方世界の住民の殆どが、不老不死またはソウルによる力の増大を目的としており日夜悍ましい悪行に身を染めていた。
ロンドール黒教会の掲げる『永劫回帰の時代』とは?そして『黄金律』とは?
末端組織の彼等は言うに及ばず、黒教会の正規員でさえ詳細は知らされていない。
しかし『王都制圧』という明快な目標が指し示されたのだ。
ある意味で秩序勢の総本山とも言える
現体制を邪悪と見なす者――。
世直しを夢見る者――。
特権階級へと成り上がろうとする者――。
邪欲と強欲に溺れた者――。
王都の制圧は、彼等下部組織にとっても悲願中の悲願でもあり是が非にでも成し遂げたい。
黒教会にとっては単なる通過点に過ぎないが、王都制圧が実現すれば、それだけで下部組織の目的は叶うのだ。
否が応でも彼等は、士気を増大させた。
「既に計画は着々と進行中だ…!魔神軍との動きに合わせ、これより王都制圧作戦の開始を宣言する…!」
「「「「「――ウゥォオオオオおおおぉォッ……!!!」」」」」
大広間全域に、喝采の声が再び溢れ返る。
現在、
その魔神軍に抗するべく、只人の王国軍主力部隊が陣を展開し構えている。
つまり主力は北方に向けられ、王都付近は防衛部隊のみという防備の薄れた状態とも言えた。
流石に黒教会だけで、王都防衛軍を相手取る事は自殺行為にも等しい。
何せ黒教会の軍規模は、王国軍換算でも『一個大隊』にも満たない。
それ故、防備の弱体化した今こそが王都に付け込む千歳一隅の好機でもあったのだ。
王都制圧に向け『ロンドール黒教会』は動き出す。
……
「見ろよ、空を――」
「言われんでも分かる」
「あの時代の再来…いや、予兆か…」
儀式を終え大広間から解散した騎士たちは、野外にて空を眺めていた。
確かにロスリック近域は、死と呪いに塗れた曰く付きの地である。
しかし上空は生命の象徴とさえ言える、澄み切った青い空に覆われていた。
だがそれも、つい先刻までの話だ。
ロンドール闇の王が祭壇に突き立てた『深みの螺旋剣』――。
それにより熾った、赤黒い篝火――。
今はまだ小さく微弱な赤黒い火柱だが、聖堂の天井を突き抜け空に昇ろうとしていた。
その影響なのは間違いない。
空は、
彼等は、元アストラの騎士。
つまりロードラン時代より存在し続けた不死人であり、火の陰る
最初の火が陰る予兆を彼等は知っている。
普遍とも思われた青空は、徐々にだが灰色がかり褪せた色に染まり行くのだ。
それが進めば、青空は灰空へと変わり陽光も次第に衰え行く。
陽光は生命を育む、豊穣の祝福である。
それが衰えるという事は、作物も育たなくなり人々の生活は衰退の一途を辿る事になる。
更に『火の陰り』が進行すれば、今度は昼間でも夜とは似て非なる暗い日々が続くようになり、動植物は更に衰え行く。
また生態系にも異常が生じ今まで目にする事も無かった異形が地上を徘徊し、人々の精神にも悪影響を及ぼし不幸ばかりが蔓延るようになる。
そして終わる事のない不幸の連鎖が、連綿と続くようになるのだ。
だがこの程度は、序の口――。
火の陰りは留まる事を知らず、気温も低下し冬の時代が長く到来する。
こうなれば弱き生命は容赦なく淘汰され、次第に死が充満する。
なれど、死に切れぬ歪な存在が、世界各地で出現した。
―― 不死人 ――
僅かに残った人々には『ダークリング』と呼ばれる円環が身体の一部に生じ、不死人と言う呪われた存在と化す。
当時のアストラでも、火の陰りにより国は一層傾き衰退に歯止めが掛からなかった。
国中でも不死人が溢れ返り、遂には自分達も不死の存在へと成り果てていた。
もはや世界中で不死人や異形が蔓延り、真っ当な生者など片手指で数える程しか残っていなかったのである。
だがそれでも、
幾人かの不死人が、輝ける神々の熾した都『ロードラン』へと旅立ち、数え切れない犠牲を重ねながら遂に火を継ぐ事に成功。
再び『最初の火』は勢いを取り戻し、世界に光が満ち溢れ救われた。
そして希望に満ちた青い空も戻って来たのであった。
今、頭上を覆う灰色染みた鈍い青空――。
正に、最初の火の陰りを予兆を匂わせる空の姿そのもの――。
「また繰り返そうって言うのか?」
「やっぱり、逃れられんのかね?」
「せっかく太陽を拝もうと思ったのによ…」
意気消沈を隠そうともせず、彼等は空を見上げる。
悪い気はしていなかった。
あの生命溢れる四方世界の息吹に――。
活力溢れる人々の営みに――。
遠い過去の時代でも、人々の笑顔が次第に失われ生と死が逆転した世界を幾度も目にしてきた。
そう遠くない未来、不幸と死が蔓延し闇の時代が到来する。
これが、定められた運命なのかも知れない。
「いや、ちょっと待ってくれ。我等が王は、死に満ちた世界ではなく『運命の死を取り除いた永遠なる世界』を目的としていなかったか?」
鈍い太陽を拝んでいた一人の騎士が、素朴な疑問を口にする。
時代にそぐわないという理由で、路線変更へと舵を切ったロンドール黒教会。
元々、死と闇に満ちた人の時代の到来を目的としていたが、その本質は永遠なる存在を是としていた筈だ。
そして闇の王は、あの大広間で
―― 運命の死を取り除き黄金律の時代を ――
先ほどの演説を要約すれば、その様な趣旨を述べていた様にも解釈できる。
即ち、死という概念を取り除いた世界にて永劫に存在し続ける。
その様な世界構築のため、今の黒教会は動いている。
「死を取り除くのなら、尚更
「そう言やぁそうだ。死を否定しながら、死を助長させるような篝火を熾す理由が分からん…!」
「一体、黒教会は何処へ向かおうとしてるんだ?」
「アレだろ?狭間の地…アレが流れ着いてから、色々ナニカが変わっちまったようにも思える、俺はな」
何時から流れ着いたのかは誰にも分からない、狭間の地――。
実は、最初に発見したのは意外にも
最初に発見した冒険者一党は、探索もそこそこに『ロスリック拠点街』へと引き返したという。未知なる世界ではあったが、いい様のない不安と危険を覚え早々に引き上げたという事だった。
其処から情報が拡散し、間者を通じ黒教会にも伝達された。
その後、狭間の地という存在に気付いた訳だが、其処に住まう幾人かも黒教会へと接触を図ってきた。
今思えば、それが皮切りとなり別の方向へと舵を切ったではなかろうか。
あの地は未知なる要素が多過ぎる。
一見朽ち果てたかに思えた異界だが、意外にも生命は死滅し切ってはいなかった。
決して多くはないが、様々な住民が四方世界へ繰り出していたのである。
「監視員だけじゃなったよな、参入者は?」
「ああ、確か。王都に潜伏していた男が居た筈だ。名前は…分からないが、反政府組織の議長とやらに就いたって聞いてる」
「成程な…、計画は順調って訳だ」
黒教会に参入したのは、王族の幽鬼だけではない。
真っ当な人型も黒教会と協力体制を結び、現在は王都にて裏工作に奔走していると聞く。
結局、ロンドール黒教会は何処へと向かい、どの様な結末を求めているのか?
見方を変えれば、ある種の暴走にも似た黒教会の航路――。
「暫く見ていないな、ユリア様のお姿――」
「おお、そうだった。あの儀式には参加していなかったのか?」
「あの方は、仮にも黒教会設立に関わった中心人物の一人だぞ?そんな馬鹿な事が…」
「あの人も独自路線で動いているかも知れねぇぜ?」
「最近歩調を合わせているようにも見えんしな。それにユリア様の陣営にも怪しい奴が参入したって話だ」
「マジかよ!?なんか派閥が形成されてないか?」
「こんなカルト組織に、派閥ってか?笑い話にもならんね」
「先が短いかもよ、黒教会?」
「…何が言いたい、貴公?」
「…俺たちは、今こうして集まっている…
ロンドール黒教会の長は、紛れもなく『闇の王』その人である。
それは変えようのない事実なのだが、彼が王へと就任する以前から黒教会という組織と国の立ち上げに関わってきた人物達が存在する。
その中心人物の一人が『ロンドールのユリア』と呼ばれる女性である。
彼女は黒教会設立に深く関与し、多大な影響力と権限を有しつつも卓越した剣士でもあった。
そんな彼女は、ロンドールの悲願を実現せんが為、実に多くの方面で尽力してきたのである。
その意志は固く不変であり、見方を変えれば『闇の王』よりも頑なであるとも解釈できるのだ。
現在、方針転換を打ち出した闇の王――。
しかし多大な権限を有す『ロンドールのユリア』には、どう映っているのだろう。
此度の儀式は、悲願成就の布石としての意味合いもあり決して軽々しくはない。
それ程の
何処かでソウルを消しながら静観していた可能性も捨てきれないが、それなら何らかの痕跡位は発見できる。
だが影も形も見受けられなかった。
その事からもユリア自身、何か別の思惑を抱いているではなかろうか?
何せ、一大作戦の為の儀式に参加していないのだ。
ある種、無言の反抗にも思えても不思議ではない。
またユリア側にも少数ながら構成員が追従しており、新たな異界の参入者が組み込まれたと聞いている。
そういう要素を統合すれば、彼女独自の思惑で動いている疑惑は膨れ上がるばかりだ。
それ即ち、派閥が形成されたという事も示唆しており、ロンドロール黒教会は分裂の憂き目に遭っているとも解釈できた。
黒教会自体は、有象無象の邪教集団と比較しても強大な力を誇っており、深みの聖堂の占拠率から鑑みても組織力は証明されている。
だがしかし、巨大な規模を誇る組織とは言い難い。
黒教会の構成員は、一人一人が卓越した剣や魔術(または奇跡)の使い手である。
それでも真正面から国を相手取れる程の力はない。
国レベルの視点で観れば、黒教会の規模も精々大きなカルト集団程度――。
そんな組織が内部分裂の気配を滲ませている。
ただでさえ大規模とは言い難い、黒教会という組織――。
今こそが一丸となり事に当たらなければならないという一大事に、それが成り立っていないという皮肉。
この様な組織に果たして、輝かしい栄光など辿り着けるのだろうか?
騎士の一人は、展望の見えない組織に『見切り』を覚えていた。
いや、彼一人だけではない。
此処に居る騎士たちは、元々はアストラ所属でロンドールに心酔している訳ではなかった。
母国が崩壊した事により諦観の内に従っていたが、本心は『光輝く太陽』を賛美していたのである。
儀式が始まる前にも、篝火を囲い酒と談笑に耽り生者の営みに安らぎを感じていた。
その上でロンドールの方針に、常々疑問を抱いていたのであった。
彼等が屋外にて集まり、空と太陽を眺めていた理由――。
「俺達だけか、こんな思想を抱いているのは?」
「いや、他にも居る」
彼等は意思の統一を確かめようと言葉に出す。
そう――。
彼等は、ロンドール黒教会に見切りを付けようと画策していたのである。
だが、無策で事を起こすのは愚の極みというもの。
先ずは、敵味方の把握からだ。
此処に集っていたのは6名の騎士――。
他の賛同者を確認したところ、他の部隊でも同じ考えに至っている者は居るとの事だ。
「だがまだだ。
「そうだな。恐らく全部隊が、王都制圧に駆り出される事は無いだろう」
「今は感付かれないよう、細心の注意を払いながら様子見に徹する。冒険者側も何やら動きを見せているしな」
「暫くは、様子見か。仕方がない」
とにかく賛同する者と、
この人数では瞬時に粛清されるのは目に見えている。
味方を増やし、その上で機会を見極めるしかない。
幸か不幸か、ロスリック拠点街の冒険者陣営にも動きに変化が見られた。
可能性は低いだろうが、彼等が『深みの聖堂』に辿り着き混乱を引き起こしてくれれば、それに乗じて行動を起こす事も出来る。
今は恭順の姿勢を見せつつ、状況の変化を注視する段階だ。
彼等は、静かに意思の統一を確かめ合いながら、敢えてバラバラの状態でその場から解散した。
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黒い篝火
正確には、黒い火の外周部は濃い赤に彩られている。
闇を匂わせる黒と、血を思わせる濃い赤。
見る者に不快感と嫌悪感を抱かせ、傷を負った状態で晒されれば却って症状悪化を招いてしまう。
しかし真なる死の住人、若しくは魔神が住まう異界の住民には癒しをもたらす生命の火として機能する。
この火は膨大な呪力を備え、新たに宿った『2度目の火』とも異質で背反する性質を有していた。
故に、儀式を得た上で熾された黒い篝火は、空にも多大な影響を及ぼした。
色褪せた青い空
黒い篝火の影響で、空は鈍く色褪せた。
青に灰汁を混ぜたかのような空は、何処となく言い様のない不安感をそそり衰退を匂わせる。
しかし、これはまだ序章に過ぎない。
真に儀式が成った暁には、これとは比較にならない冒涜の空が待っているだろう。
ロンドール、ダクソ3でも存在感のある組織ですが彼等の生活様式が全く分からない。亡者と老人の国というからには、新たに子をもうける概念など無いのだろうか?
そんな事を勘ぐってしまいます。
アストラが滅んだ主な原因って何なんだろう?
テキストや設定を読んだ感じ、かなり明るい未来のある国に見えたのですが。
次に続く…。