ゴブリンスレイヤー ―灰の剣士―   作:カズヨシ0509

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黒教会編、これで終わりです。
ではお楽しみください、ドゾ。( ゚ ω ゚ )


第133話―黒教会編5・王都脱出―

 

 

 

 

 

 

王都の小鬼禍(ゴブリンハザード)

 

ロンドール黒教会の参戦した下部組織によって引き起こされた、怪異。

当然だが彼等にそれ程の力はなく、正確には黒教会の協力を得た上で実現した。

東西南北、四方それぞれに各1000以上が発生し、合わせれば4000を超える大惨事を引き起こした。

これにより王都外周部は混乱の極みに陥り、多くの都民は王都脱出を試みる。

 

大群の構成は、主に小鬼だが小悪魔(インプ)巨人(トロル)も含まれ、混乱に拍車をかけている。

 

駐屯していた防衛部隊や王都所属の冒険者たちが尽力しているが、これを完全に鎮圧するには、いま暫らくの時間を要するだろう。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

( 推奨BGM 地球防衛軍5 ―― 再進撃 )

 

 辺り一面を埋め尽くすのは、正に緑一色――。

その緑の矮躯に宿る、褪せた黄色の双瞳――。

品性の欠片もない嘲り混じりの鳴き声を上げ、目に付く建物を、人々に襲い掛かる異形――。

人は、ソレをこう呼んだ――。

 

   ―― 小鬼(ゴブリン) ――

 

ピアニャの駆る幌馬車は、近衛部隊に護衛されながら『賢者の学院』を只管目指していた。

錬金術の抗議を受ける為、王都中央区へと通っていた大勢の生徒と、その他大勢の避難民を収容させる為である。

 

「――おのれ、小鬼風情がッ…!」

「――不遜の極みよッ…!」

「――地に伏せやがれッ…!」

「――我等は、近衛隊なるぞッ…!」

 

 道中に溢れ返る夥しい数の小鬼を切り伏せながらも、彼等は学院への進路確保に尽力する。

 

「ぬぅ…それにしても何という数だ…!あの時の戦いとは、まるで桁が違うッ…!」

 

 ステルクも馬車を降り、大剣で馬車や避難民に群がる小鬼群の駆逐に努めた。しかし余りに数が多い。

以前ダークゴブリン戦に参加した当時、彼等の総数は600を超える程度だった。

だが眼前に広がる光景はどうだろう。

視界に入るのは、緑、緑、緑の脈動で、辟易したくなる程に溢れ返っている。

 

「ちょっと、ヤバいでしょこれって…1000は居るよ…!?」

 

 ピアニャも得意の武器である、戦輪(チャクラム)を駆使し、群がる小鬼を纏めて切り裂いていた。

この戦輪(チャクラム)も例に漏れず錬金術で生み出されており、敵を切り裂いたとしても手元に戻る機能を有していた。従って、戦闘中に紛失するという心配はない。

因みに彼女は、馬車を降りずに幌から半身だけを出し戦輪(チャクラム)を投擲するという戦法を取っていた。まぁ女性である彼女に群がる小鬼だ、妥当な判断とも言える。

近衛部隊だけでなく、都の至る所では防衛部隊や冒険者たちが共同で、小鬼駆除に当たっている。

其処から生まれた僅かな隙間を縫い、幌馬車は賢者の学院へと強行した。

 

直線距離に換算すれば、決して遠くはない学院までの道のり。王都が平和なら、何の障害も無く退屈な時間を過ごしながら学院へと辿り着けた筈なのだ。

しかし今や都の住民は人ではなくなりつつあった。祈らぬ者、混沌最底辺と蔑まれる()()が都の住民を代表するという惨状――。

美しくも喧噪と賑わいに満ちた都は今、血と冒涜に支配されんとしていた。

 

幸いにも避難民には然したる被害も無く、賢者の学院に辿り着く事が出来た。

 

「――聞こえるかっ!?我々は、王都中央区近衛の者だッ!生徒たちと避難民を預かっている、開門乞う、繰り返す開門乞うッ…!」

 

 生き残りの近衛部隊を率いていた近衛騎士が声を張り上げ叫び、避難民および生徒の受け入れを通告する。

程無くして学院の重厚な主門が音を立て、重く頑強な大扉が開かれる。

 

「良かった、受け入れ拒否かと思ったぜ…」

 

 近衛の一人が、秘かに本心を吐露した。実は彼だけでなく誰もが見捨てられるのではないかと、少々疑いの目を向けていたのも事実だ。

今は緊急事態だ。仮に学院が身の安全を最優先させ、彼等を見捨てたとしても強く責められたものではないのだ。もし逆の立場なら、自分達も見捨てる可能性さえありえた。

だが学院は門を開けてくれた。

 

「よし今の内だッ!非戦闘員と子供たちは、学院内への退避をッ――」

「貴方達も続いて下さい…!我々は最後まで小鬼の侵入を防ぎます…!」

 

 とにかく当初の主目的である、学院在籍の生徒達と中央区住民の安全確保が最優先だ。

近衛部隊は、生徒たちだけでなく錬金団にも避難を促す。

 

そうした混乱の最中、辺りを震撼させる事件が起こった。

 

突如として、とある方角から巨大な幻影が姿を現し彼等の視界を支配した。

先ほど王都中央区から脱出した方角から、巨大な幻影が姿を見せている。

 

( 推奨BGM 地球防衛軍6 ―― 急転 )

 

「あ、あれって、王宮の方角だよね…!?」

「誰…!?あの黒甲冑騎士…?」

「ロンドールに違いないッ…!」

 

「――お…おのれ…闇の王めッ…!」

 

 突如として姿を現した巨大な幻影――。

ロロナ、ピアニャ、ステルクは中央区から投影されている方角を注視していた。

そして近衛部隊は歯軋りしながら、巨大な影が『ロンドール闇の王』である事を認め、憎悪の念を込め睨み付けている。

彼等だけではない。今や王都の全住民が混乱の最中にも関わらず、巨大な幻影に釘付けとなっているのだ。

 

『な…何だ、ありゃぁ…!?』

『デカい…幻…か?』

『スゲェ鎧兜だ…何処の騎士だ…!?』

 

 口々に聞こえて来る、戸惑う住民の声。誰もが、巨影の黒い騎士に意識を向けており、その様は宛ら一種の出し物(アトラクション)とさえ化していた。

この瞬間だけは大混乱も鳴りを潜め、住民だけでなく小鬼までもが動きを止めている。

そんな困惑中の彼等を嘲笑うかのように、突如として巨影は布告する。

 

『ここに我々は、ロンドール王国の樹立を宣言するものである』

 

 この言により、近衛の生き残りたちは悟る――。

 

王宮が制圧されたのだと。

 

巨影の布告は尚も続いた。

 

『我は、ここに宣言する!偽善と欺瞞に湖塗(こと)されし、神々のエゴ!その鉄鎖に呪縛され続ける、この四方世界…!それらを、我が王国が一変させるとッ!まず手始めに、この都そして民に対し、ここに一つの選択肢を提示する。我が国に恭順し、永劫なる繁栄を拝領するか、滅亡の道を歩むかをッ…!友邦たる魔神軍および連盟たる各教会は、我々の志に共鳴し、快く我等を迎え入れてくれた。我々は友人には寛大だが、抵抗するものは徹底排除をも辞さない覚悟である。我々には、それを成しうる確固たる力がある…!諸君らは近々…否、現に力の一端を垣間見ている事だろう。諸君らの上に、力が完全に振り下ろされる前に、賢明なる判断が導き出されん事を、我々は切に願わんものである。もはや、旧王党派の役割は終焉を迎えた。これよりは、我々ロンドールによる『永劫回帰』の時代が華開いたのだ!王都の民よ、一日だけ待ってやろう…!此処を脱し逃れるも良し、留まり抵抗を続けるも良し…!その上で、諸君らは我らロンドール王国の偉大さと、永劫回帰による永遠なる繁栄を知る事になるだろう…!諸君らの行動が、我等と共に黄金の時代を望まんとする事を、我は期待する!』

 

 あまりに妄言染みた恫喝ともとれる布告――。間も無くして巨影は忽然と姿を消し、嘘のような静寂が都に立ち込めた。この王都が生まれて以来、一度としてこのような静寂に見舞われた事など無かった。

呆然自失となる多くの民、その彼等と都を守護する防衛部隊の軍人たち、そして幾多もの冒険者――。

彼等は例外なく言葉を失い、皆が皆、巨影の浮かんだ王都中央区を見続ける事しか出来なかった。既に中央区周辺には結界が展開され、中を知る事は出来ない状態だ。結界の光幕は、中からなら視認も人の通過も可能だが、外から中へは不可能。

直ぐ傍に、小鬼や異形の群れが居るにも関わらず、彼等は未だ呆然と立ち尽くしたままだった。

 

『――に、逃げろぉッ…!』

『――こんな所、居られるかぁッ…!』

『――脱出だぁッ、安全な所に脱出するぞおっ…!』

 

 誰かの叫びに、都の静寂は突如として破断した。

恐らくは錯乱した民の一人が、無責任に声を張り上げたのだろう。

その声が皮切りとなり、動きを止めていた異形の群れが再び民へと襲い掛かる。

 

王都に再臨する大混乱。

 

只人の象徴である、栄えある都は落日の時を迎えようとしていた。

 

「――みんなぁ、急いでぇ…!」

 

 小鬼を始めとした異形の群れが再び暴れ出した事で、学院の門が閉じられようとしていた。

それを察したロロナたちは、生徒と避難民を最優先で学院内への避難誘導に苦心する。

 

「――おいマジかよッ!?閉めんの早すぎだろっ!?」

 

 近衛の一人が不信感も露わに、学院に向け叫び散らかす。

 

「――何言ってんだ、こんな状況だぞ!ちょっと開いた位でも、奇跡だぜっ!」

 

 もう一人の近衛兵が反論する。群れを成し学院に侵入しよとする異形たちを、辛うじて圧し留めていた近衛部隊。だが余りの数に、徐々に突破されつつあった。

学院側もそれを察し、止む無く門を閉じたに違いない。ただ主門そのものが巨大で重い為、完全に閉じるには少々の時間が掛かる。

 

「サジタ…インフラマラエ…ラディウス…!」

 

「サジタ…ゲルタ…ラディウス…!」

 

 二人の少女が詠唱を終え、攻撃呪文が発動――。

 

「――GYVO!」

「――GLEA!」

 

 とんがり帽子を被る眼鏡をかけた赤毛の少女は、火矢(ファイアボルト)の呪文で小鬼を焼き――。

同様に白いローブの少女は、力矢(マジックミサイル)の呪文で小悪魔(インプ)を2体同時に仕留める。

この場に居た異形は、小鬼だけでなく小悪魔といった別種も含まれていた。

 

「さぁ、君達も急いでぇッ…!」

「そうだぜ行こう、姉ちゃんッ!門が閉まっちまうッ…!」

 

 遠くからロロナの叫び声が耳に届く。

間も無く学院の主門が完全に閉じられようとしていたが、3名の生徒は未だ学院前に陣取り避難民の誘導支援に尽力していたのである。

とんがり帽子を被る眼鏡の少女は、数生徒の中でも才覚に溢れていた。

もう直ぐ12歳を迎えようとしていたが、既に火矢(ファイアボルト)の呪文を習得し、現に小鬼を仕留めるという快挙を成し遂げた。

今は1日1度きりしか使えないが、更なる研鑽を続ければ2回の行使も現実味を帯びていた程に、有望な才覚を備えていたのである。

そんな彼女に避難を催促する、更に幼い弟――。

彼も、彼女と同じく眼鏡をかけた赤毛の少年だ。

 

「…もう無理よ、この距離じゃぁ…」

「…そ、そんな…」

 

 釣り目気味の瞳で、閉じられようとする主門の隙間を見る少女――。今から走ったとしても、間に合わないだろう。こう見えて彼女は、そこそこの身体能力を備えていたが弟を引き連れるとなれば間に合う可能性は極めて低かった。

こうなった以上、学院への避難は諦めるしかない。諦める赤毛の少女に、同じ赤毛の弟も沈んだ声を上げた。

 

「…二人とも…私に背を向けて…」

 

 項垂れる弟、溜息を吐く姉――。そんな姉弟に対し、指示を出す白いローブの見習い賢者。

 

「な、なによ、急に?」

「――いいから早くッ!」

 

「――わ、分かったわよッ…!」

 

 別に交流の深い関係ではない、赤毛の姉弟と見習い賢者。

普段から無口で無感情にも似た見習い賢者からは想像もつかない程の剣幕に、赤毛の少女と少年は渋々と背を向けた。

 

「そして学院側に伝えておいて下さい。私は、錬金団の人たちと行動を共にします。そして必ず生きて帰って来ると…お願いします…!」

 

「…伝えておくけど、何する気…!?」

 

 背を向けた赤毛の少女に、言伝を頼む見習い賢者。

彼女の指示を仕方なく受け入れた赤毛の少女だが、一体これから何を成そうというのか。

 

「ジッとしておいて下さい。ウェントス、クレスクント、オリエンス…!」

 

「――うきゃぁあッ…!」

「――ぬぐぁあッ…!」

 

 狙い過たぬよう姉弟を制止させた彼女は、突風(ブラストワインド)の真言呪文を発動。二人を学院めがけて派手に吹き飛ばした。

背中に物凄い衝撃を受けた姉弟は、弾丸の如き速度で主門を通過し学院敷地内へと叩き付けられる。かなりの衝撃だが、一応は芝生の上に叩き付けられたのだ。強打による打撲はあれど、まぁ死ぬ心配はない…筈だ…多分…。

 

「…必ずや伝えて下さい…頼みましたよ」

 

 間も無く閉じた学院の主門を見届け、見習い賢者は後事を二人の姉弟へと託す。学院への避難を諦めはしたが、錬金団と行動を共にすれば悪いようにはならないだろう。

 

「えっと、君…いいの?」

 

「はい…、生きていれば必ず戻れます。どうか私をお連れ下さい」

 

 馬車の傍に居たピアニャが声を掛けて来た。確かに学院の門は完全に閉ざされたが、流石に彼女一人の為に危険を冒してまで開門する事はない。

しかし学院と完全に途絶された訳ではないのだ。これも一時的なもので、生きてさえいれば何時の日か必ず学院に戻れる日も訪れるだろう。

ピアニャの心配も意に介さず、見習い賢者は錬金団と行動を共にする旨を伝えた。

 

「うわぁ…結構アグレッシブ…」

 

 先ほど二人の姉弟を吹き飛ばした光景に、ロロナはあんぐりと口を開け見習い賢者の意外な一面に驚愕している。

こうしている間にも、異形の群れは次々と彼等に殺到していた。

彼ら錬金団は、近衛部隊と協力しながら群れを捌きつつも次なる移動体制を整えてゆく。異形自体が、小鬼や小悪魔といった下級の魔物のである事が幸いした。

多くの非戦闘員を学院へと避難させるという大業を果たした事も手伝い、彼等は然程苦戦する事もなく移動を開始する。

既に行動指針は決まっていた。

近衛部隊はともかく、錬金団は西方辺境街へ向かう事を目指す。その街には、ロロナの娘であるルルアや友人たちが滞在していたからだ。

道中の異形群を蹴散らしながら、彼等は西門へと向かった。

 

道行く中、多くの民が逃げ惑っている。すでに都は大混乱に陥り、統制を失いつつあった。中には都を脱出する為、荷造りを始める人々も散見された。

彼等は口々に叫んでいる。

 

西方が安全だ。あそこには、水の都がある。

南方こそが最も平穏だ。其処へ向かおう。

 

次第に行列を成し、西に、南へと殺到する大勢の都民。

 

そんな民に対し、防衛部隊の一部が彼等の先導と護衛に努めた。大混乱に見舞われ統制も覚束ないまま、辛うじて組織としての体を保ち役割を果たそうとする。

略奪や暴行に奔る者たちも見られたが、彼等の大半は直ぐに鎮圧された。

冒険者の存在が大きかったからだ。

荒くれやゴロツキ紛いの冒険者も数多く籍を置いている王都だが、押し並べて正義感や志の高い冒険者も多いのも此処だ。

彼等の働きは目覚ましく、時には異形から民を守り、時には途方に暮れる民を避難誘導し、時には心無い犯罪者の鎮圧に動いた。

また防衛部隊に協力する集団も現れ、大混乱ながらも可能な限り果たすべき役割を果たしてゆく。

 

……

 

( 推奨BGM ゴブリンスレイヤー ―― 戦闘開始 )

 

「――せぃあッ…!」

 

 反りのある白刃が小鬼の矮躯を切断した。

長い黒髪を紐で後ろに束ね、年齢の割には高い身長と丸みを帯びた身体を持つ幼い少女。

その少女に絶え間なく襲い掛かる、複数の小鬼――。手には、短剣や手斧が握られている。普段手にする粗悪な武具ではなく、小鬼自身も幾許かの装備を纏っていた。

それに伴い小鬼自体の戦闘力も増大していたが、少女を含め()()の敵ではなかったのであった。

 

「このままでは押し切られますね、教導官…!」

 

 黒髪の少女は12歳の年齢ながら、剣術には天賦の才を備えており次々と小鬼を切り伏せてゆく。

だが小鬼の数は常識外れに多く、討伐が追い付かなくなりつつあった。

彼女の傍らでは教導官と呼ばれた一人の男が、淡々と小鬼や異形を仕留めている。

 

「我々の役目は、民の誘導にある。避難の状況は?」

 

 並み居る異形を切り伏せつつも、教導官は周囲の味方に問う。

壮年期を迎えた教導官なる男、彼は東国の出で無口だが必要な場合は惜しみなく言葉を発す男だ。

 

彼等は、王都に門戸を構える道場に住民で『剣士団』なる集団に属していた。

元は剣術を指南する小さな道場だが、次第に門下生と住民の増加に伴い現在では、学舎としての機能をも併せ持っている。

その為、それなりの立地面積を誇り、緊急時の避難先として指定されていたのであった。

 

「報告、避難民は尚も増加中…!なれど…限界を迎えつつあります…!」

 

「報告、黄金の騎士亭、寺院、神殿、ほか大施設が新たな避難先として指定されました!」

 

 口々に門下生からの報が入る。

剣士団の経営する学舎は、既に限界収容人数を迎えつつあった。だが急遽、避難先が新たに指定された事が判明。

 

「宜しい。其方らの班は、そのまま学舎へと退避せよ。我々の班は、このまま異形を食い止める」

 

「「「「「了解!」」」」」

 

他の避難先が設定されたのは、不幸中の幸いだ。大半の都民が脱出を図っていたが、それも叶わない民も大勢居るのは間違いない。賢者の学院や剣士団の学舎では、とてもではないが収容し切れるものではなかった。

門下生の班へと指示を出す教導官――。『そのまま学舎へと撤退し門を閉めよ』との命を下した。その上で、教導官の指揮する班は此処に残り、引き続き異形排除の傍ら別施設への避難誘導に当たる旨を付け加える。

学舎へと戻れなくはなるが、それも一時的なものとなる筈だ。情勢が落ち着くまで、他の避難所で潜伏すればいいだけの話。

教導官の命を受けた門下生たちは、担当する避難民たちを引き連れ学舎へと向かった。

 

「――報告!近衛部隊が此方にやって来ます…!」

 

「はて?近衛が何ゆえに…?」

 

 俊足に長けた門下生の報に、眉を顰める教導官。王都中央区に駐屯する筈の近衛が、この外周部に向かっているという状況。

どうやら王宮が占拠されたという噂は、真実であるらしい。

闇の王を名乗る巨影の布告といい、いま都に蔓延る異形の群れといい、王都の秩序は崩壊の一途を辿っていた。

 

程無くして、一台の幌馬車とそれを囲むように追従する近衛部隊の姿が、剣士団の視界に映る。

剣士団と合流する形となった近衛と幌馬車は動きを止め、互いの情報を交換し合った。

近衛部隊は他に潜伏できそうな拠点を探しており、ロロナたち錬金団の乗る幌馬車は西方辺境街に向かう為、王都脱出を図っている状態だ。

対する剣士団や、この区域を担当する防衛部隊――。彼等は目下、群れを成す異形の討伐と避難民の誘導の為、新たな避難先に先導する算段でいた。

 

其処へ、白いローブの少女である見習い賢者が、ひょっこりと幌馬車から顔を出し一人の少女へと意識を向ける。

 

「おや、貴方はいつぞやの…?」

 

「――あ、あなたこそ、確か学院の…!?」

 

 見習い賢者の目に留まった少女とは、剣士団に所属する門下生の一人である見習い剣士。

この二人は、過去に故郷の流れ着く地『ロスリック』にて邂逅を果たして以来、顔見知りの間柄になった仲だ。

(本編前夜編 第65話参照)

 

「学院は、どうした…って聞くまでもありませんか」

 

「そういう事です。私たちは、西方辺境の街へと向かいます」

 

「……西方の…街……」

 

 学院きっての逸材と呼ばれている見習い賢者の噂だが、かなり広く浸透しており、見習い剣士の耳にも入っていた。

そんな彼女が学院ではなく、此処に居るという事実。

もはや改めて聞くのも、浅慮をさらけ出すというもの。彼女の現状を察するに、収容人数の限界を迎えたか危険な状況へと推移したため止む無く門を閉じたのだと判断出来た。

 

近衛部隊と幌馬車だが、彼等も重要な戦力には違いない。

未だ逃げ惑う人々は巷に溢れ返っており、見捨てる事など出来はしない。

丁度、近衛部隊も新たな避難先を探していた真っ最中だ。そして王都から脱出する為の入り口だが、まだまだ距離が離れている。

道中ついでだが他の避難民を引き連れ、先ずは『黄金の騎士亭』に向かう方針で意見が一致した。

無論、他の防衛部隊や剣士団をも同行させての上でだ。

 

「さ、君も疲れたでしょう?取り敢えず馬車に乗って?」

 

 幌から顔を出したロロナは、見習い剣士へと馬車に乗るよう促した。

 

「いえ、私はまだまだ戦えます。この人達…特に体の弱い人たちを乗せてあげて貰えませんか?」

 

 確かに見習い剣士は幼い少女だが、彼女は剣士団同年代の中でも非常に優れた能力を併せ持っていた。

それ故、まだまだ疲労の色を見せておらず、敢えて体力に乏しい避難民の優先的に馬車へと乗せてほしいと懇願する。

 

「うん分かったよ、君も無理しないで。危なくなったら、直ぐこっちに来てね…!」

 

「お気遣い、感謝します…!」

 

 見習い剣士の要求を快く受け入れたロロナだが、決して無理をしない様にと念を押しつつも、息を切らしている避難民を馬車へと誘導する。

対する見習い剣士も、彼女の人柄に心地良さを抱きながら他の部隊と共に、避難民の護衛と先導役に意気込みを見せた。

 

『では、我々に付いて来て下さい』

 

 遊撃任務を授かった一部の防衛部隊が、黄金の騎士亭へと彼等を先導する。

こうして、一部の剣士団、防衛部隊、近衛部隊に守られる形となった錬金団含める避難民たち。

彼等は一路、黄金の騎士亭へ向かう事となった。

 

突き進むにつれ、小鬼以外の異形が徐々に比率を増していた。否、元から含まれていたのだろう。小鬼や小悪魔の群れなら、練度の低い冒険者や新兵でも対処できた。

しかし、巨人(トロル)級や大小鬼《ホブゴブリン》までもが行く手を遮り、進軍難度が増していた。

それでも彼等は、並み居る強敵を屠り道を切り開いてゆく。

 

「あんなにも行列がッ……!」

「みんな脱出を図っているようですね」

 

 行く先々で見かける大勢の大行列。それは濃密な群れと幾重もの列を形成し、特に西や南方面へと伸びていた。

 

「あれだけの恫喝染みた布告を、平然と受け止められる者など希有であろうよ」

 

 同じくステルクも独自の見解を述べる。

王都に留まる民よりも脱出を図る民の数が遥かに上回っていたが、行く先々で彼等を受け入れてくれるのだろうか。

この国の展望に些かの絶望を、ステルクは感じ取っていた。

 

徐々に冒険者の姿が目立ち始める。異形の蔓延っていた大通りだが、この辺りでは数が異様に少なく、逆に冒険者たちの数が多い。

 

『もう直ぐ、黄金の騎士亭です』

 

 戦闘を担う防衛部隊の隊長が、目的地が近い事を告げる。

その報を聞いた避難民たちも、取り敢えずの安堵の声を上げた。

この辺りでは、冒険者の数が多く見受けられる。その光景も手伝い、彼等の安心感に拍車をかけていたのだろう。黄金の騎士亭まで辿り着けば、取り敢えずは一息つけるのだ。

 

( 推奨BGM ゴブリンスレイヤー ―― ギルド )

 

『こっちだ、我々に付いて来てくれ…!まだ余裕はあるのでな…!』

 

 首にぶら下がる銀色の認識票(プレート)が歩く度に揺れ、チャラチャラと音が鳴る。黄金の騎士亭まで案内する口髭を生やした男は、銀等級の冒険者だろう。

また彼だけでなく、他にも大勢の冒険者が近辺の守りを固めており皆が皆、銅や銀の認識票の姿が目立つ。

流石は王都に属する冒険者なだけの事はある。辺境街や、方面都市で見られる冒険者よりも総じて高い等級持ちが多く轡を並べていた。

 

黄金の騎士亭へと辿り着き、先ずは避難民を優先的に宿泊施設へと招き入れる。かなり疲労の色が見られ、大半の民は足元がふら付いていた。

また近衛部隊を始めとした剣士団も、ここを拠点として暫くは留まる方針を固めたようだ。

一方、防衛部隊は少々の休養を挿んだ後、隊を分け、未だ王都に蔓延る異形の駆逐に従事するよう準備を整える。

そして彼らアーランドの錬金団――。

この黄金の騎士亭に留まり情勢を見極めてみては?という提案も受けたのだが、彼等の意志は変わらず西方辺境街へと向かう意思を当方へと伝えた。

しかし彼等も些かに疲弊はしている。

少しの休養を挿むぐらいの猶予は、許されても良いだろう。

傷の手当と旅の物資調達の意味も含め、ロロナたち錬金団も黄金の騎士亭で羽を休める事にした。

 

「あ…あの…教導官…?じ、実は…折り入って…お願いが御座います…」

 

「心得た。お館様には伝えておく」

 

「…?まだ何も言っておりませんが…?」

 

「旅の件であろう、行くが良い。其処元の剣は、外でこそ磨かれよう…」

 

「あ…あ…有難う御座います…!教導官っ!必ずや、必ずや、この(わたくし)めは更なる知見を得て参りますッ…!」

 

 見習い剣士の意志は揺れていた。本来なら都に留まり、民のために剣を振るわねばならない役目を与えられていた身だ。

彼女自身、未だ見習いという立場だが、備えた実力は既に一人前の域に達している。それ故、こうして実戦部隊に組み込まれていた訳だが、ここで彼女は錬金団と行動を共にしたいとの意思を伝えたのであった。

原因は、視界に映る見習い賢者の少女――。彼女の存在が大きな理由だ。

彼女は錬金団に同行する積りらしく、向かう目的地は西方の辺境に位置する街だ。

実際の処、見習い賢者自身に執着している訳ではない。あの少女と自分は、ロスリックにて一人の冒険者と関わりを持った。

そして、これから向かうの街には、件の冒険者が籍を置いていた筈なのだ。多少、うろ覚えではあったが。

西方の街自体は複数あり、それに伴い冒険者ギルドも幾つも設けられている為、目的の冒険者が例の街に在籍しているかどうかは確かではない。

それでも王都に留まるよりは、再開できる可能性が遥かに高いのは確実だ。彼女は焦がれていた、件の剣士と再会できる日を。

 

あの冒険者に逢いたい――あの剣士様に――。

 

余りに身勝手な、この願い――。即座に頓挫するだろうと駄目元で頼んでみたのだが予想外にあっさりと受け入れられ、戸惑いつつも彼女は喜びの声を上げた。

意外にもすんなりと見習い剣士の旅立ちが許され、同行していた兄弟子の門下生たちは心底残念そうな嘆き声を上げる。

しかし彼女には、そんな理由など露知らず、秘かに心を躍らせていた。

そして旅が許された事で、改めて錬金団の長であるロロナへと挨拶の言葉を交わす。

 

「この様な若輩者ですが、どうか宜しくお願い致します…!」

 

「フフ、こちらこそ宜しくねぇ♪」

 

 互いが挨拶と握手を交わし、いよいよ錬金団は王都を発つ事となる。

やり残した事はない。

食料を始めとした生活物資の調達も万全だ。馬の体調管理も問題ない。

これなら長旅にも耐えられよう。

遺跡から持ち帰ったであろう数々の調度品やら、強大な異形を打ち破った証として飾られた武具類の数々――。

周囲を見渡せばちょっとした博物館にも似た、賑わい豊かな広大な酒場である黄金の騎士亭。

いま、王都は多くの異形が蔓延り王宮はロンドール黒教会なる組織に制圧されたというのに、これ程の温かみと喧騒に包まれていた。流石は、冒険者ギルドの前身といった所か。

少々名残惜しくもなるが、ロロナ率いる錬金団は、食事や酒の香りが充満する冒険者の酒場を発った。

 

剣士団にとっては密かな人気者である見習い剣士が旅立った事により、残念そうな声と表情を浮かべた門下生たちも仕方なく彼女を繰り出す。

実は、見習い剣士以外に勝るとも劣らない美少女門下生たちが何人も傍に居たのだが、彼等は目にもくれていなかった。

騒がしい程の酒場の卓で一人茶を嗜む教導官も、もう居ない見習い剣士の方に視線を向け独り言ちた。

 

()()()()に宜しく言っておいてくれ、其処元よ」

 

……

 

( 推奨BGM 地球防衛軍6 ―― 訪問者 )

 

それは、あまりに突然に過ぎた。

 

暗く――。

深く――。

気味悪く――。

蝕み――。

そして赤い――。

 

何の前触れもなく噴き上げた、不気味な炎の如き火柱――。

火にしては、やけに黒く、それでいて過剰に赤い。

火の芯は不気味な黒だが、外縁部は直視を躊躇うほどに痛々しい赤に染まっていた。

一目見ただけで、直感で判る――。危険な炎だと。

 

『――ばかな、ばかな、ばかな…!』

『何なんだ、あの火柱はァッ…!』

『王都中央区からだッ…!』

『ホントに占拠されちまったってのかぁッ!』

『もうやめてくれぇ…異形だけで手一杯なんだぁ…!』

 

 周囲には疎らながら脱出を図る都民や防衛部隊が、一様に王都中央区を見つめている。

彼等の寄せる視線の先からは、不気味で赤黒い火柱が天へと向け吹き上がっていた。

その火柱を基点に、加速度的に拡がりを続ける赤黒い空と黒褐色の分厚い雲海――。

 

「ぬぅッ…これがロンドールの言っていた力…いや、その一端か…!」

 

 幌から身を乗り出し、ステルクは不気味な火柱と赤黒い空を見据えるも、総毛だつ現象に額から脂汗を滲ませた。

直視するだけで気が狂いそうになる赤黒い空、そして空に浮かぶ黒い太陽――。その太陽から降り注ぐ陽光だが、奇妙な違和感を覚えるのは気の所為ではなさそうだ。

言い様のない不吉感を覚えた錬金団は、幌馬車を加速させ王都脱出を急ぐ。案の定、王都と外部を繋ぐ主門は、大勢の民で溢れ返り遅々として進む気配がない。

実質、立ち往生に近い形で多くの民が我先にと詰め掛け、現場は混乱に見舞われていた。

民に追従した防衛部隊が纏め上げようと腐心したが、通れるようになるのは何時になるかも見当がつかない状況だ。

 

「一つ提案があります。私の示す場所に向かってください」

 

 頭を悩ませるロロナたちに、見習い賢者が一つの案を提示した。どうやら秘密の抜け道を知っているらしく、其処から外部に出る事が叶うのだという。

それを聞いた錬金団は、彼女の言葉をアテに幌馬車を移動させる。

密集する大群衆を余所に馬車は狭い路地を抜け、強固な防壁へと差し掛かった。壁面の付近には手入れされていない濃い草木が生え揃い、滅多に人が寄り付かない場所だと判断できた。

王都と外部を隔てた分厚い防壁は、外敵の侵攻を防ぐために構築された()そのものだ。

特に仕掛けなど施されてはいないが非常に強固で分厚い壁面を、どのような方法で抜けようというのか。

 

( 推奨BGM ゴブリンスレイヤー ―― 辺境の街 )

 

「少々お待ちを――」

 

 指定場所に着いた事で、馬車を降りた見習い賢者は奇妙な詠唱に入る。

そして暫くの詠唱の後、突如として壁面に通り口が生成された。

 

「おぉう…凄いね君…、こんな抜け道知ってたんだ」

 

「はい、ほぼ忘れ去られた古い抜け道…だそうです」

 

 眼前に出現した抜け道に驚きの声を漏らすピアニャ。

見習い賢者の話によれば、現国王よりも何世代も前に設けられた抜け道だという。恐らくは外敵に攻め入られた時に備え、緊急脱出口として封印されていたのだろう。

この事実を知っているのは、王都でもごく一部で、彼女も学院の教導士から聞かされたに過ぎなかったのである。

 

抜け道が出来たのだ。長居は無用。

幌馬車は、すぐさま出発を再開し王都より脱出を図る。

一度王都を出れば、眼前に移り込むのは広大な平原と舗装の行き渡った街道――。その街道には、同じく都を脱出した大勢の人々が長くも太い行列を成していた。

彼等の向かう方角からして、西方を指していたのは間違いない。恐らくは、水の都を目指しているのだと思われる。

 

『マスター、重大な問題が発生いたしました』

 

「ん~、どしたのぉ?」

 

 王都を抜けたのも束の間――。突如として『ちむどらごん』からピアニャへと報告が入り彼女も何事かと聞き返した。

 

赤黒い空に浮かぶ黒い太陽から降り注ぐ陽光――。これを長時間浴び続ける事で、あらゆる生命体は身体と精神に悪影響をきたすとの事。既に幌馬車を牽引する馬が、出血を発症していた。

 

「うわわっ…ちょっとぉヤバいねぇ…」

 

 この陽光を浴び続ければ、最終的には()()()()事も判明した。漸く王都を抜けた矢先だというのに、肝心の馬が絶命しては移動手段と拠点を喪失してしまう。

何らかの対策を投じねば、最悪ここで野垂れ死ぬという笑えない結末を迎える可能性まで生じてしまった。

こうしている間にも、赤爛れた陽光は容赦なく馬に降り注ぎ蝕んでいる。極力陽光を遮断する為、馬には外套を被せてあるが有効策とは言い難かった。

 

「しょうがない、貴重品だけどコレ使うね…!」

 

 そこでロロナが、鞄から一つの宝石の様な物体を取り出す。一見、石ころ程度の宝石らしき物体。青紫色の光を帯び、それが魔道具である事を誰もが悟った。

彼女が取り出した魔道具だが、空間を歪め一気に長距離を跳躍できるという殆どトンデモナイ効果を有していた。これも彼女が、高度な錬金術と希少な素材を用いて作成した貴重品だ。非常に希少品である為、この国で生み出せる可能性は極めて低い、それ程の希少品なのだ。

どの道このままでは、立ち往生を余儀なくされ下手をすればここで全滅という憂き目にも陥りかねない。

幾ら希少品と言えど、使ってこそ真価を存在意義があるというものだ。持ってて嬉しいコレクションではない、錬金道具は。

 

「それじゃあ使うね…って、なんか凄く嫌な日光だね…。だんだん痒くなってくるし、ちょっと痛いし…」

 

 例の錬金道具を使うべく馬車から降りたロロナだが、引っ切り無しに照り付ける赤爛れた陽光に顔を歪に顰めた。

頬に当たるだけで、数秒後には痒みと痛みを伴った。これだけで彼女は悟る、長居するものではないと。

遠間に映る、大勢の脱出民たち――。彼等も、赤爛れた陽光に相当参っている様だが、手の差しだしようがない。ここで下手に手を差し出せば、忽ち暴徒と化しこの馬車へ押し寄せ来るのが目に見えていたからだ。

心なしか、脱出民の中に発狂者が現れ始めているようにも思える。彼等には申し訳ないが、今は自分達で手一杯の状況だ。

後ろ髪を引っ張られる思いで脱出民への気遣いを断ち切ったロロナは、地面へと錬金道具を投げ付けた。

投げ付けた瞬間、宝石状の物体は砕け散り光を帯びた霧のような膜が周囲に立ち込める。

 

「皆ぁ、今だよ。霧の中に入って…!」

 

 再びロロナは馬車へと乗り込み、霧の中を渡るよう指示を出す。

彼女の指示に従い幌馬車は霧の中へと入り、周囲は淡い光に包まれた空間が広がっていた。

この空間を少し進めば、西方辺境街の近くへと辿り着けるだろう。

方角自体は間違いない。既に地図上で位置と距離をも把握しているのだから。

 

「それにしても不思議ですね。この馬車と言い、錬金術…でしたか?とにかく未知なる体験ばかりです」

 

 外から見ればただの幌付きの馬車。しかし中に乗り込んでみれば、宿屋並みの空間が広がっているではないか。

そして不可思議な現象を、道具で引き起こした錬金術なる技術――。

余りに未知なる体験に、見習い剣士は漸く言葉を発する事が出来た。

 

「フフ、驚いたでしょう?錬金術って色んな物を創り出せるんだよ。これを使ってね、皆を笑顔に出来たらいいなって思うんだぁ、私」

 

「…素晴らしいお考えです…!」

 

「うん、ありがとね…!」

 

 ロロナの様な朗らかで穏やかな女性だが、実はあまり居ないのだ、剣士団の学舎には。

彼女の纏う穏やかな気配に、見習い剣士は言い様のない温かみを覚えていた。

現在、光り輝く霧の中を移動している訳だが、馬車の揺れが全くない。やはり異空間を移動しているという事だろう。

程無くして霧を抜ければ、周囲には広大な草原が広がっていた。

 

そして不思議な事に、頭上には()()()()は広がっていない。若干灰色がかっていたが、彼女達の上に浮かぶのは()()()()()()だった。

どうやら目的地には、かなり近付けたらしい。

地図を確認するまでもなく、まだ小さいが街らしき輪郭が視界に映っていたのである。そして不思議な事に、街らしき方角には、黄金に輝く淡い光が立ち込めていた。

あの不気味な赤黒い火柱とは真逆な程に、安心感と安らぎに満ちた光が、ここからでも見て取れたのだ。

 

「あの街にルルアちゃん達が居るんだね。よし皆ぁ、もう少しだけガンバロぉ…!」

 

 1回きりの秘蔵の錬金道具も上手く機能し、何とか赤爛れた陽光を潜り抜ける事が出来た。もう一度ロロナは周囲を励まし、街へと幌馬車を向かわせる。

尤も、街へ辿り着いた処で、ルルアは灰の剣士たちと共に旅立った直後――。つまり、行き違いという形になるのだが…。

 

「あの方たちが戻るのは、数日後かと――」

 

「え~っ、ルルアちゃん達居ないのぉ~…!?」

 

 ロロナたちがその事実を知ったのは、ギルド職員に聞かされてからであった。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

第6近衛騎士

 

近衛部隊第2中隊、第6小隊長を務める。

 

淡い茶系の短髪で、緑の瞳をした30前後の男性。

男爵の父を持ち、長男が家督を継ぐ事が既に確定している。

若干及び腰の性格だが、民を思う心は強い。

 

使用武器は、主に剣だが近衛騎士の中でも戦闘力は低い部類に入る。

 

ロロナ率いる錬金団を伴い、王都脱出までの助成に貢献した。

多くの避難民と部下を引き連れ、黄金の騎士亭へ到着。

そこを拠点に、冒険者と共に立て籠もる選択肢を執った。

 

 

赤毛の見習い魔術士(姉と弟)

 

賢者の学院に通い、魔術士を志す姉弟。

二人とも、赤い頭髪で眼鏡をかけており少々釣り目気味。

聡明な頭脳を持つが、両者とも気位が高いのは上流階級の所為だろうか。

 

両者ともに火の真言魔法と親和性が高く、特に姉の方は『火矢(ファイアボルト)』、弟は『火球(ファイアボール)』を行使できる。

呪文は一日一度の行使が普通とされているが、姉の方は二回の行使を目前に控えている程の才覚を有していた。

 

異形の大群を食いとめる為に敢えて現場に残っていたが、見習い賢者の『突風(ブラストウィンド)』の呪文により弾丸の如く押し出され、閉門寸前の学院の避難に辛うじて間に合った。

恐らく全身強打による負傷は免れ得ないが、地面が芝生である事が幸いし軽傷で済んだ事だろう。

 

後に二人は冒険者を志す事となる。

 

 

 

 

 

 




もっと気の利いた演説、中々思いつかない…。
密かに登場した、後の剣聖と賢者。チョイ役で、後の女魔術士と彼女の弟も。
黒教会編はこれで終わりなので、次からは元に視点に戻ります。

これでストックを使い切ったので、次回投稿は少し先になります。多分、2週間に一話位に戻るかと。

如何だったでしょうか?
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。  
デハマタ。( ゚∀゚)/
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