王都制圧編は終わり、舞台は再び灰の剣士側へと戻ります。
何か異様に湿度が高くなってきた気がする。
では投稿致しますドゾ。( ゚ ω ゚ )
輝石のつぶて
レアルカリアの学院に由来する、輝石魔術のひとつ。
輝石を触媒とし、魔力のつぶてを放つ。
足を止めず連続で放つこともできる。
魔術の探求は、皆ここから始まる。
星に通ずると言われる輝石の魔術。
四方世界に残るのは、物質としての僅かな輝石。
ソウルと同様に、全容解明はまだまだ先になりそうだ。
輝石のアーク
レアルカリアの学院に由来する、輝石魔術のひとつ。
横に大きく広がる、魔力の弧を放つ。
足を止めずに連続で放つことができる。
学院を離れ、旅立つ魔術師に与えられる、多勢に対するための魔術。
無知なる者は、往々に群れをなすものだ。
群れをなす者は無知なる者の象徴だが、時には脅威となり得る危険性も孕んでいる。
やはり慢心など抱くものではないのだ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
頭上に浮かぶのは、分厚い灰色の雲。
黒味を帯びた濁り水のごとき雲から、止めどなく雨が降りしきる。
雨に晒されながらも、彼等は油断なく街へと足を踏み入れた。
白煙の昇る街へと――。
「完全に俺達を見て楽しんでやがるぜ、あの仮面野郎…」
気が付けば、幻影は消え去っていた。
この西方辺境街を襲撃したと思わしき首謀者、仮面の錬金術師。
街の至る所で火の手が上がり、その様に困惑する彼等の前に突如として姿を現した。――幻影として。
焦燥する彼等を余所に、あの仮面の男は何処か楽し気だった。
まるで人の不幸を弄び愉しむかのような
「そんなの、あたしも同感よ…!なんか、あたし等の祖先と関係あるみたいな物言いだけど、あんな人に出会った覚えはないし…!」
重戦士と同じく不快千万な心境を抱いていたのは、クーケン島の錬金術士ライザリン=シュタウト。
あの仮面の錬金術師、どうやら彼女の祖先を自称していたらしいが、それを証明する要素は何処にもない。
口から出まかせを述べ、此方を混乱させる意図も否定できないのだ。
「もぬけの殻だ、街の人たちは何処へ…?」
見慣れに過ぎ意識する事すらなかった街の入り口――。其処を潜り抜けるも、守衛の衛兵は疎か住民の姿すら何処にも見当たらない。
幾ら雨天とは言え、常に人の姿を見る事が出来たのがこの街だ。それが完全に消失し、宛ら
どうにも重い足取りなのは、慎重を意識しているだけではなさそうだ。同期戦士の胸中には、最悪の状況ばかりが引っ切り無しに渦巻いていた。
「大半が、ギルドや神殿に避難しているみたいだ。…だが――」
最悪の状況――それは住民の全滅を想定していた、同期戦士。しかし、それは彼の杞憂であるらしく、ソラールが住民のソウルを感知する事で大まかな位置を割り出していた。
襲撃に見舞われたのは間違いない。だが、幸いにも大半の住民はギルドや神殿といった重要施設に逃げ込み、難を逃れている事を知った。
その報を聞き、取り敢えず胸を撫で下ろす冒険者たち。だが、住民以外の怪しいソウルが街の至る箇所にて潜伏しているという事実も告げられた。
「私は神殿に向かう。皆はどうする?」
此処で神殿に向かう旨を告げたのは、灰の剣士。
「俺は、ギルドだ。事が落ち着けば後を追う」
対照的にギルドへ向かう意思を告げたのは、ゴブリンスレイヤー。
普段から世話になっている施設がギルドだ。しかし神殿も決して無視はできない。何故なら、神殿にはあの
「距離が近い分、ギルドを優先した方がいいかもな。俺達もギルドに向かわせてもらうぜ」
ここで重戦士を始めとした大半のメンバーは、ギルドへ向かう方針を固める。当然、槍使いや同期戦士の一党も重戦士に追従する形となった。
「あたし達どうしよっか?」
此処で迷いを見せたのは、ライザ達の一党。彼女個人としては灰の剣士側に付きたいのだが、他の意見を無視する訳にもいかない。クーケン島では、彼女の意思が殆ど尊重され、割と勝手気ままに振舞えたが、やはり他国ともなればどうにも勝手が違った。
「ギルドに向かった方がいいライザ、そしてルルア嬢も。フリクセル様たちのソウルを感じる…この街に来ているみたいだ」
「え、本当、剣士さん!?」
「本当だ。行って安心させてあげるといい」
「行こうライザ、ギルドへ…!」
「う…うん…でも――」
「コイツなら、心配ない。大体一人でも、どうにかするような男だしな」
ギルドから、微かにだがロロナたちのソウルを感知した灰の剣士。
それを聞いたルルア達は、ギルドに向かう意思を固める。だがライザは未だ惑いを見せており、どうにもにも灰の剣士の方をチラチラと視線を寄せてはそっぽを向くという行為を繰り返していた。
しかし、彼は灰の剣士。大抵の事は単身で切り抜ける実力を有している。
そんな事実をオーレルが諭し、ライザは完全には納得していないもののギルドへ向かう方向で意見を一致させる。
「貴公もギルドへ向かうといい。大事な、お友達を守ってやるのだ。その為に剣を手にしたのではないのか?」
「…うぅ~…だけどぉ…」
次々と方針を決める中、彼の傍らに寄り添う黒髪の少女へと声を掛けた灰の剣士。
ここから直線距離も近い事を含め、彼女にもギルドへ向かうよう勧める。――とは言え、この少女も灰の剣士へと付いて行きたいという素振りを見せており、首を縦に振ろうとはしなかった。
しかし村から引き連れた大勢の子供達も、彼女にとっては大事な人たちに変わりはない。少女はますます迷いを増大させ、どするべきか悩んでしまう。
「俺が貴公に同行しよう。それなら安心であろう?」
尚も惑う彼女だが、ここでソラールが灰の剣士に同行する旨を告げた。
「なら私も続こう。護衛として、これ程心強い存在はあるまい?」
ソラールに倣う様に、ジークバルドも同行の意志を告げる。
黒髪の少女としては、灰の剣士と共に行きたいのだろう。丁度、ライザと同様に。
しかし今は緊急事態で、況してや彼女は成人すらしていない幼子。わがままが押し通る状況ではないのだ。
上手く言葉には出来ないが、灰の剣士に対し何処となく不安感を抱いていた彼女。近い将来、彼に難事が降り掛かる――。そんな気がして仕方が無かったのだが、それを上手く表現できる術を彼女は持ち合わせていなかった。
「今は、あたし達と一緒に行こ?あとで灰君、追っかければいいんだしさ…ね?」
「うん…分かったよ…。後で絶対行くからね、お兄ちゃん!?」
ライザ達の後押しもあり、少女も仕方なくギルドへ向かう事にした。
「僕は、灰人さん側に同行しますよ。どうにも、危険度が遥かに高そうですし」
「あたしもです…。神殿出身ですから…」
「貴方に付いて行きたいけど、子共と村人の安全を確保してから後を追うわ」
輝石の貴公子と赤いリボンの少女は神殿に向かう事を決め、ゴブリンスイーパーはギルド側へと向かう事にした。
全員、一通りの行動指針も決まり、各々が行動を再開する。
雨天である為、既に火は鎮火していたが所々では未だ煙が立ち昇り、辺りは焦げた匂いが立ち込たままだ。
……
見慣れた筈の街、こうも違うものなのか。
人の姿など何処にも見当たらない。――いや、ソウルを探れば避難している事は解るのだ。
だが、周囲に漂う異様な空気感は、まるで別世界にも似ていた。
潜んでいる――。建物や物陰に息を殺し、此方の隙を虎視眈々と狙っているのが。
「屋根の上…複数…」
灰の剣士と共に歩を進めるソラールは、視界を上に向け敵の潜伏を看破する。
人の気配も消え去った家の数々――。その屋根の上で、複数の敵が身を潜めていた。
「皆、油断はならぬぞ」
「分かっています。これは神殿に辿り着くのも、楽にはいきませんね…!」
屋根から急襲を仕掛けて来るのか、若しくは弓矢などの狙撃を試みてくるのか。
敵の出方の警戒を呼び掛けるジークバルドに、輝石の貴公子も杖と剣を抜き応答した。そして彼に倣う様に、赤いリボンの少女も腰のホルスターから銃を抜き身構える。
「我々を取り囲む気だ。周囲に気を配った方がいい」
息を潜めながらも未だ仕掛けては来ない処を見るに、ある程度進んだ頃合いを見計らい包囲する算段なのだろう。
敵の練度は定かではないものの相当訓練が行き届いているのだと、周囲に呼び掛けた灰の剣士。
敵の思惑通りに事を進めるのは癪だが、取り敢えずは先に進むしかない。神殿までの距離はまだ離れているのだが、何よりも気になるのは結界が展開されていない事が最大の懸念材料だ。
――司祭長様は元より、剣の乙女、国王陛下までもが居るのは間違いない。…だと言うのに、敵のソウルまで…一体何があった…!?
どうにもおかしい。地母神神殿には、管理者であり領主でもある司祭長は無論、至高神の大司教でもある剣の乙女、そして国家元首にして金剛石の騎士までもが居る事は、流れ込むソウルで確定した。
しかし、同時に敵対する輩のソウルまで幾つか感知出来る。加えて、敵を阻む為の結界が完全に消失しているのはどういう訳だ。
これには灰の剣士のみならず、赤いリボンの少女も心を乱し始めていた。
「――皆、構えぃッ!」
しかし気持ちを整理する暇はない。突如として陰に潜んでいた敵が彼等に襲い掛かり、ソラールが号令をかけた。
「――ッ、速い…!」
一度に複数、灰の剣士の視界に映る敵――。その身のこなしは速く、少しでも気を抜けば瞬時に距離を詰められる程の速度だ。
――随分小柄だ、圃人かッ…!?
しかし彼の視界に映る敵全てが、どうにも小柄なのが気になる。身を屈め前倒れ気味に疾走しているのは分かるが、敵全てが小柄なのは何故か?
圃人のみで編成された部隊だろうか。
灰の剣士へと仕掛けてきた敵は4人。全員が、外套を纏い素顔さえも深く覆われていた。
そのうち二人は突如飛び上がり、上方からの急襲。残りの二人は、足元を狙い下段から襲い掛かる。上段、下段の揺さ振りと意識を乱す見事な連携技だ。
だが、灰の剣士も宙高く跳躍し、パリィングを兼ねたシールドバッシュで敵二人纏めて薙ぎ払った。
「「――ウぎっ…!」」
「――ッ!?」
盾で殴り飛ばした瞬間、二人の敵から漏れる短い悲鳴。それを耳にした彼は、違和感を覚えるも目下戦闘中だ。着地した瞬間、地上の二人組へと2連蹴りで蹴り飛ばす。
「「――いぎぅッ…!」」
――…まただッ…この声音…!?
地上の二人も、彼の蹴りを真面に食らい奥の古い木箱へと叩き付けられた。その瞬間、妙に甲高い声音の悲鳴を上げる。
その事に疑念を覚えた灰の剣士は、即座に吹き飛ばした敵へと駆け寄り深めに被ったフードを捲る。
「――殺すなぁッ…!子供だぁッ…!」
彼の周りでも既に戦いは始まっていた。フードを捲り敵の正体を確かめた灰の剣士は、ソラール達に向け大声で叫んだ。
なんと、襲撃してきた敵は、
「――まさかッ…!?」
「――何と言うッ…!」
彼の叫びを耳にしたソラール達は、抜刀した剣で斬る事を躊躇い動きを鈍らせてしまう。
「――打撃だ、打撃で、戦闘力をッ…!」
相手が幼い子供となれば、元軍属のソラールやジークバルドとて逡巡は避けて通れない。
敵の斬る事に躊躇いを持てば即座に死を招くと身に染みている彼等とて、幼い子供を迷いなく切れるほど冷徹になれなかった。
灰の剣士の声を受け、二人は止む無く打撃での戦闘を余儀なくなされた。剣を使えない事は痛手だが、彼等も歴戦の戦士。訓練を受けたとはいえ、幼子相手に後れを取る事はない。
複数の刺客に対し、ソラールは大き目の円盾で、ジークバルドは手甲付きのパンチでそれぞれ対応――。次々と戦闘不能へと追い込んでゆく。
「――ちょっと難儀ですね。僕たちよりも幼い子供相手に戦うなんて…!」
「――…あたしも…!」
輝石の貴公子と赤いリボンの少女は、少々難儀している様だ。何せ相手は、自分達より年下の子供が
しかも、二人とも肉弾戦はあまり得意ではない。
「仕方ない…、輝石のアーク…!輝石のつぶて…!」
やむを得ず『輝石のアーク』や『輝石のつぶて』を行使する、輝石の貴公子。
殺すわけにもいかず出力を弱めに絞り、数人の敵を纏めて気絶させる。
もう彼は、狭間の地の『接ぎ木の貴公子』ではない。あの地にて殺戮に加担してきた彼とは違い、今や歴とした四方世界の住民だ。
まだこの世界に来て日も浅いが、彼の倫理観は生者のソレへと変貌しつつあった。
況してや赤いリボンの少女が持つ銃は、殺傷力が高過ぎる。幾ら護身用とはいえ、人に向けて撃てば高い確率で絶命を強いてしまう程の凶器なのだ。
何とか彼一人で場を収める事ができ、取り敢えずは胸を撫で下ろした。
「子供とは…な…」
「このまま放置は出来んか…」
一先ずの戦闘を終え、気絶させた刺客たちを集めた灰の剣士たち。だが刺客の正体は、年端も行かない子供達という事実に彼等は頭を悩ませる。
気を失っている為、その間は再び襲い掛かる事はないだろう。しかし、目を覚ました途端に敵に回る恐れもあり、このまま放逐するのは得策ではなかった。
「ふむ…診たところ、洗脳に近い処置を受けているようにも見える」
「外部からの影響という事ですか、ジークさん?」
気を失ってる子供達を診るジークバルドは、ソウルの流れで洗脳らしき影響下にあると判断する。
「解けますか?」
「う~む。流石に解く方法までは解らぬよ」
何とか解けないものだろうか…と、輝石の貴公子は解呪法を訪ねてみるもののジークバルドも解き方までは会得していなかった。
「あたしなら…何とか…やってみます…」
「おお…頼めるか…!」
「はい…お任せを」
ここで、赤いリボンの少女の出番となった。
彼女は地母神の信徒であり専用の奇跡、『和睦《ピース》』を授かっていた。これを行使する事で相手の戦意を鎮め敵対状態を解除できるかもしれない。
さっそく彼女は『和睦《ピース》』の準備に取り掛かろうとしたが、新たな刺客の増援が此方に迫る。これでは奇跡の行使どころではない。
『おおっと、場の白ける真似は控えておくれよ。君達の様子は、街中に絶賛
再び彼等の前に姿を現した巨大な幻影…仮面の錬金術師だ。今度は複数至る箇所で出現し、彼等を煽り立てた。
しかも使い魔を通じ、彼等の様子は街中の住民に
だが彼の台詞で、街の住民は重要施設に避難している事は確定した。
1つの愁いが消失した事により、彼等の心は幾分軽くなる。
『さぁ、ショーの再開だ。精々殺して、神殿まで辿り着いてくれたまえ…!特に君…しっかりと
「…貴様ッ…!」
今度は姿を消す事もなく、取り分け灰の剣士に対し揺さぶりをかける。
加えて増援として駆け付けた刺客たちだが、相変わらず小柄な体躯である事からも子供である事は確実で、灰の剣士は怒りを滲ませ幻影を睨み付けた。
だが刺客の幾人かは、成人男性ほどの背丈も確認できる。つまり大人も混ざっているという事だ。
「皆、構えろ…!」
「仕方ありませんね。奇跡を中断して?」
「…うん」
奇跡を行使している場合ではなくなった。
灰の剣士は再度臨戦態勢を呼び掛け、輝石の貴公子も少女に奇跡を中断させる。
……
一方のギルド側。ここでも、灰の剣士たちの映像が流されていた。
一体どういう仕組みなのか理解の及ばない技術を以て、何も無い空間に投影される
その映像を目にする冒険者や避難民たちは、どよめき息を飲む。
ギルド自体多少広めに設計されているが、嘗てない程に大勢収容している事もあり、思いの外狭く感じる。
密集する群衆の中、ライザの表情は憤りに彩られていた。
「許せない…子供達を使うなんて――」
灰の剣士たちに襲い掛かっている集団の大半は、年端も行かぬ幼い子供たち。加えて彼等は洗脳に似た症状に掛かっており、躊躇いなく武器を手に攻撃を仕掛けて来る。
本来なら難なく切り抜けられる実力を有す灰の剣士たちだ。しかし相手が子供では少々事情も違うらしく、かなりの苦戦を強いられていた。
「此処も襲撃を受けたんだけど、途中で子供たちが襲ってきたの…!」
子供の刺客相手に苦慮する彼らの映像を見つめながら、ライザの隣では監督官の受付嬢が当時の様子を説明してくれた。
次々と押し寄せる避難民や他の街などの状況整理に追われる日々を過ごしていた、冒険者ギルド。
職員達も書類手続きや住民の要求に対応する為、いつになく多忙な日々を過ごしていた。
そんな時、突如として報告が寄せられた。
―― 敵襲アリ ――
あまりに唐突な敵襲来だが、数日前から発生したこの異常事態――。常駐している衛兵と冒険者の混成部隊が、四六時中巡回に当たっていた事もあり即座に対応できた。
また敵襲直後は、小鬼に代表される異形が中心という事もあり流れは順調であった。
しかし時を追うにつれ、敵は
防衛に当たっていた守備部隊の大半は、戦闘に躊躇いと疑念を抱き負傷者が続出してしまう。更に子供達とはいえ訓練が行き届いていたのか、予想以上の戦闘力に加え
その弊害もあり、中には死亡者も発生。
大半の守備部隊は良心的な情を持っていたが、ゴロツキや賊徒の類から冒険者へと転身した心無い輩も幾人かは含まれていた。
そういう者は、たとえ子供相手であろうと問答無用で殺害してしまい、敵とはいえ子供の死者も出ていた。本来なら非難ごうごうを浴びる所業なのだが、今回は緊急という事もあり逆に彼等のような存在が結果的に街を守ってもいたのは紛れもない事実。
此度の襲撃に関して彼等は罪には問われていない。尤も、監視の目を緩めれば必ず何処かで悪事に走るのは想像に難くないのだが。
幾人かの犠牲者を出しながらも何とか鎮圧の目処も立ち、今こうしてギルドには大勢の冒険者や避難民達が身を寄せ合っているという状況に至っていた。負傷者は現在、2階の部屋にて保護状態にある。
そしてギルドと同様に、敵襲の憂き目に遭った地母神神殿――。
恐らく敵の主目的は神殿なのだろう。
帰還した金剛石の騎士や側近達、そして剣の乙女たちが控えていたにも拘らず制圧を許すという状態だ。大方、向こうでも子供や卑劣な手を使い金等級冒険者の実力を封じているに違いない。――そうでもしなければ、英雄級の彼等が遅れを取る筈がないからだ。
どの様な手法かは知らないが、こうして映像を送信している仮面の錬金術師。現状を鑑みるに、彼は神殿に居る可能性が高い。
「こんな事は初めてです…、子供の敵なんて……」
大まかにだが事の顛末を語り終えた監督官。彼女の隣では、三つ編みの受付嬢も悲しみに暮れていたが、余りに卑劣な敵のやり方に怒りの表情も滲ませている。
「王都でも大変だったんだよ…!黒教会の襲撃に、外周部では魔物の群れに埋め尽くされ、挙句の果てには…あの赤黒い空と大勢の脱出民…」
灰の剣士たちが任務へと赴いていた数日の間に、ロロナ率いる錬金団は、この街に辿り着いていた。その長であるロロナも、王都襲撃の当時を語ってくれた。
「トトリさん達の事もあるし、凄い事件になっちゃったね。これからどうなるんだろ、私たち…?」
ロロナとの再開を済ましたルルア達だが、喜びもそこそこに王都の様子を何度も聞かされている。もう数回も耳にした話だが、相当大変な思いをしてきた事がルルア達にも伝わっていた。そして制圧された王宮にはトトリたちが取り残されている事も知り、彼女は益々不安感に苛まれる。
『へぇ~…、あくまで子供は殺さないんだな?大人は平気で殺す癖に…!』
浮かび上がる立体映像から、あの仮面の錬金術師の声がギルドにまで響き渡った。いや厳密には、立体映像からではなく外からだ。何せ、街中のあらゆる箇所に、彼の幻影が幾つも浮かび上がり声まで発しているのだ。街中どこに居ようとも、彼の声は嫌でも聞こえてしまおうというもの。
「あの変な奴、好き勝手に…!」
「みんな苦しそう…」
「「剣士様…!」」
今を愉しむかのような仮面の錬金術師の言動に、怒りを向けるライザ。そして灰の剣士を含めた彼等を案じる、銀髪武闘家や見習い剣士と見習い賢者。
映像では、灰の剣士たちが数名の敵を切り伏せている様子が映し出されている。しかし、あくまで成人と思わしき敵に限定しており、子供相手には極力打撃や加減を加え気絶へと追い込んでいた。
だが本来の力を発揮できない彼等は、かなり分が悪そうだ。
敵は
重甲冑のジークバルド、金属製の円盾を持つソラールは、然したる痛痒は負っていないが、灰の剣士からは負傷が見受けられる。
既に大半の敵を制圧していたが、彼等は肩で呼吸を繰り返し、周囲には幾多もの刺客が倒れ伏していた。
……
身体中に激痛が奔る。しかし妙な感覚だ、
彼――灰の剣士は、銃弾を受けていた。
やはり勝手が違うものだ、子供を相手に戦うのは――。回避にせよ気絶させるにせよ、どうしても逡巡が生まれてしまい判断力が低下してしまう。それ故の隙を突かれ、現在負傷の憂き目に遭っていた。
大方の刺客を退ける事には成功し、灰の剣士たちの周囲には幾人もの敵が横たわっている。
「これでエストは尽きたか…」
火の付与で赤熱化したナイフを用い、体内の銃弾を無理やり摘出。銃弾を取り出した後、最後の一口のエスト瓶を飲み干した灰の剣士。赤熱ナイフで抉り出した所為で、異常に焼け爛れ開いた傷口も元に戻った。
一刻も早く神殿に辿り着きたいのだが、敵の過半数は子供という状況に彼等の旗色は悪い。
『へぇ~…、あくまで子供は殺さないんだな?大人は平気で殺す癖に…!』
周囲に再び現れる、仮面の錬金術師の幻影。またもや言葉で彼を煽り攻め立てる。
彼の言葉通り、成人の敵は切り伏せていたが子供には気絶で対応していた。
『これは歴とした戦争である事を、君は未だ理解していないのかな?…そこな二人の騎士も、本当は理解しているんだろ?たとえ子供とて、戦場では等しく敵になるのだと』
「「……」」
この現状、今や平和は終焉を迎え戦時へと推移した。ならば、子供であろうとも敵対するのであれば容赦なく討たねばならない。それが戦場での鉄則だ。そうしなければ自身が殺されてしまうものだ。たとえ子供であろうとも、敵は此方の事情など汲んではくれないのだから。
灰の剣士は兎も角、ソラールとジークバルドは元々軍の出だ。あまり例はないのだが、子供が戦場に参加する事例を幾度か経験もしていた。
『子供に罪は無い?それは唯の詭弁で、同時に君らの傲慢だ。…いいかい?世界中では昔も今も、数え切れない紛争が渦を巻いているのだよ。その中では、大人も子供も関係なく戦場に身を投じている。それに考えてもみたまえ、君達が、たかだか数十名の子供を生き永らえさせたとて何が変わろうと言うのか?少数の子供たちがこの先、世界に変革と革新をもたらすとでも?』
「幼子を洗脳しておいて、どの口でほざくのか?」
仮に敵でも子供にだけは温情をかける灰の剣士たちのやり方が、仮面の錬金術師にとっては、どうにも気に障り傲慢に映るらしい。
だが真に傲慢なのは、大勢の子供達に洗脳を仕掛け弄んでいる仮面の錬金術師ではないのか?
ソラールが真っ向から反論する。
『洗脳…ね…?少し違うのだけれど…まぁいい、どのみち説明したところで君等では理解出来んさ。…それはそうと、大人は容赦なく殺し、子供は悪行に加担しても見逃すのが、君らの正義だとは恐れ入る。まさか
「……ッ!」
「耳を貸す必要はない、灰剣士殿。アレも只の傲慢に酔うだけの、賊徒に過ぎんよ」
宛ら世界の真実をも知り尽くしたかのような言論を投げ掛ける仮面の錬金術師。彼の目的など、灰の剣士の動揺を誘う為の揺さぶりである事は既に分かり切っていた。
徐々に精神の均衡を崩しつつある灰の剣士にジークバルドが激励の言葉を掛け、揺れる彼の精神を足元から支える。その上で『あの男も所詮は自らの価値観だけに囚われた存在だ』と、言葉を付け加えた。
「我等が偽善というなら、貴公は唯の独善と妄想の奴隷よの。そもそも我等は、貴公などと議論を交わす気すらないのだよ。正義の対義語は、別の正義。価値観も違えば、自ずと争いも生じるは世の常。…故に我らは、世界の悪意と目を向け合いながら今を生き抜く。其処に何の揺らぎも惑いも無いのだよ…!」
―― 貴様の持論など耳を貸す価値もない ――
そう切り返したのは、ソラール。
仮面の錬金術師が、自らの独善で精神的な揺さぶりをかけているのは周知の事実。
先ほどから知らず知らずのうちに耳を傾け敵対する子供相手に衝撃を覚える灰の剣士は、徐々に自分を見失い始めていた。
だがよく考えてみれば、今起こっている負の現実が
残念だが、常に強者は弱者から奪う事を繰り返す弱肉強食の歴史を刻んできた。ある意味で仮面の錬金術師の論は現実を述べていたが、今更それが何だと言うのだ。
此方が邪悪で、向こう側が善良と、誰が決めた?
一見、向こう側の主張が真実を得ている様だが、突き詰めれば自身の持論を展開しているだけに過ぎないのだ。
ソラールの言う通り。
正義の対義語は悪ではなく
わざわざ律義に耳を貸す必要など何処にもない。自らの正しいと信じた道を、我武者羅に突き進めばいい――。
遠い
『ほう…言うじゃないか?流石は、英雄に並び立つ騎士だけの事はある。だが君達はそれで良くとも、
仮面の錬金術師のよる精神への攻め――。しかしソラールやジークバルドには然したる効果も無く、毅然と真っ向から立ち向かう。やはり彼等は国も立場も違えど、高潔な騎士として数々の闇と苦難に向き合い自らの答えを見出していた。この二人に、言葉による揺さぶりなど無駄の一言。
しかし肝心の彼――灰の剣士は、どうにも事情が異なるらしい。
普段から口数の少ない彼だが、いつにも増して委縮してしまっている。
「……」
彼の脳裏に過る、あの忌々しい出来事。銀髪武闘家の故郷で起きた村での小鬼退治――。無垢なる赤子の小鬼を
いずれ邪悪に染まるとはいえ、あの時点では確かに無垢なソウルを宿していた赤子の小鬼達。彼は、散々に斬り続けたのだ…過剰な程に――。
ソラールやジークバルドの持論は理解出来る。恐らく彼等の言う通り、自らの正義を信じ迷い無く突き進むのが最良の道なのだろう。
しかし、仮面の錬金術師の言葉を聞く度に、小鬼の赤子を切り刻んだ過去を思い出してしまうのだ。
どうしても重ねてしまう、刺客の子供達と小鬼の赤子――。
人と小鬼――区別と分別を切り分けねば、前など一歩も進めやしない。
この様な領域で、何時までも立ち止まる様では使命など到底果たしようもない。それは解っているのだ、頭の中では――。
前へと進まねばならない肝心な時に…、彼の心は竦んでいた。
「…この場は俺に任せよ。貴公らは先に進むがよい」
この現場には、今も僅かだが数名の刺客が残存している。灰の剣士の事も心配だが、ここは無理にでも前に進ませねばならない状況だ。
ソラールは此処に残る事を決め、他を進ませるよう促す。
「ジークバルド殿、後は任せるぞ」
「心得た」
「……すま…ぬ」
この場面で真面に頼れるのはジークバルドしか居ない。輝石の貴公子も赤いリボンの少女も、まだまだ未成熟だ、ソラールから見てみれば。そして肝心の灰の剣士は、完全に動揺を覚え正直単身では使い物にはならない。
これではジークバルドに頼らざるを得ないのだ。
ソラールの頼みを聞いたジークバルドは、灰の剣士たちを引き連れ無理にでも先へと歩を進める。
「灰人さん…」
「思いつかない…言葉が…」
少年少女の二人も、精神の均衡を崩しかけた灰の剣士を案じるが、外套越しでも
灰の剣士自身、普段から外套で全容を覆い隠していたが、何処となく漂う存在感で直ぐに彼だと判るものだった。だが今は、それが全く感じられない。このままギルドへ行けば、ただの怪しい賊徒にしか見えないだろう程だ。
遅い歩みながらも、3人は灰の剣士を引き連れ神殿へと進んだ。
暫くは然したる襲撃もなく、雨天ながらも神殿の輪郭が彼等の視界に映る。よもや神殿への道のりが、こうも遠く感じたのは初めてではないだろうか。
そこでまたもや幻影が姿を現し、彼等に言葉を投げ掛けた。
『大人を挫き、子供を助ける…か。違う筈だ…君が助け連れて来た
「コイツぬけぬけと…!」
「自分達で…そう仕向けた癖にッ…!」
流石に、こう何度も出現されては好い加減辟易しようというもの。少年少女の二人も苛立ちを隠そうともせず、仮面の錬金術師へと憎悪を向けた。
邪悪な存在なら躊躇いなく切り伏せる事ができる、それが灰の剣士という男。
仮面の錬金術師も、例の村の一件で彼という本性の一端を垣間見る事ができた。恐らく覚悟さえ決まれば、其処らの混沌勢よりも遥かに冷徹な存在へと豹変するだろう。
灰の剣士には、それ程の獣が今も巣くって…否、心に宿っている。
だが多少此方が仕向けたとはいえ、殺しに加担した子供達まで情けを掛けるのは、何の戯れか。
村から引き連れた大勢の子供と、襲撃犯の子供たち――。精々共通するのは、
「奴隷商に売られ7歳で豪農に買われ、労働奴隷を強制させられる子供たち…、平和な村で家族に愛され遊びに興じる子供たち、裕福層に生まれ何不自由なく育つ子供たち…何が違う…?同じだろう…?この街に連れて来た子供達も、襲撃して来た子供達も、何も違わない…何も!?…子供は…子供たちは未来だ、子供を犠牲にするのは…未来を破壊する事と同じだッ…!襲撃に加担した子供たちが何者であろうとも、大人たちの心無い悪意に弄ばれていい理由はない…!もっと輝く未来が用意されても良い筈なのにッ…!」
絞り出すかのような呻きに近い言葉を発す灰の剣士。子供は皆同じ、何物にも代え難い
覇気を萎えさせながらも、灰の剣士は自らの価値観を吐露した。
「灰人さん…」
「剣士…さん」
「それが貴公の本心なのだな、灰剣士殿」
「…そうだ」
『中々に素晴らしい演説だ。故に、邪悪に加担した大人たちは容赦なく殺すと言うのだね?しかしそういう大人たちが、日々切磋琢磨しつつも技術を発展させ新しい知見を切り開き、未来と文明構築に貢献した事は目を
彼の思惑は一貫している。どう足掻いても、灰の剣士の精神に揺さぶりをかけ動揺を誘う事に腐心していた。
それとも子供と大人を切り分ける考えを、どうしても否定したいのだろうか。
やはりカムイの言っていた様に、彼に宿る『王のソウル』を引き出し奪取するのが目的らしいが、本当にそれが叶うとでもいうのか。
もし本当に『王のソウル』が色褪せず宿っていれば、彼の力は今以上に桁外れに膨張していただろう。それでいて使命をも単身で果たせていても可笑しくはない。
仮面の錬金術師の後ろには、『妖王オスロエス』が控えている様だが、王のソウルを奪取し何を成さんとしているのか。
「大人は…自己責任だろう…?完全に洗脳された様には見えなかった…!」
襲い掛かって来た子供達とは違い、大人の刺客たちには何処か自意識が宿っていたのを、彼は感付いていた。
抵抗する事も出来た筈だというのに彼等は敢えて仮面の錬金術に従い、こうして街にも被害を及ぼしている。
どの様な理由が起因しているのせよ、悪行に身を染めている以上、斬られるのも自業自得ではないのか。
委縮しつつも灰の剣士は、必死に抵抗を試みていた。
敵の戯言に、これ以上耳を貸すのも、そろそろ無意味に思えてきた。
「行こう、神殿は直ぐ其処だ」
まだまだ語り足りないと議論を吹っ掛ける仮面の錬金術師を無視し、他を引き連れ再度神殿を目指す。
しかし今度は、彼等の目の前に幻影を出現させる仮面の錬金術師。
ここまで来ると執念めいたものを感じざるを得ない。本当に灰の剣士の残虐な獣性を引き出す事で、『王のソウル』を奪取できるとは到底思えなかった。
『無視は困るな。君は、その剣と技で世界を切り開こうというのかね?』
「…私の剣は活人剣、決して殺戮や欲を満たす為だけにあるものではない」
『人を活かす剣とは恐れ入る。本当に人を活かす剣なら、味方のみならず敵をも斬らずに守り通せるのではないのかね?しかし現に君は、人を、生者さえ斬り殺した。いい加減認めたらどうだい?自身の中に眠る殺戮衝動と破壊願望を解き放ち、ソウルを引き渡すといい。そうなれば君などに用はない。後は自由にしてくれて結構だ』
「…貴公の価値観だけで、剣を語るのか?一人の…少数の邪悪を斬り、多くの善良を活かす一殺多生の精神。それが私の活人剣だ」
『大人は自己責任だと言ったな?まぁ我々が施した多少の誘導はあれど、確かにその通りだ。最終的には自分で判断し、自分の意志で契約したのだろうさ。言っておくが我々の組織だけではないぞ、こういう契約を持ち掛ける組織は世界中に拡散している』
ジークバルドより無視を進言されていたが、どうにも立ち止まってしまう。何か精神に作用する術を施したようには思えない。やはり敵の言葉が、深く彼の心に突き刺さるのだろう。
師より授かった活人剣の精神と道、果たして本当に正しいのだろうか?
今の自身の在り方を、迷いなく貫き通してよいものだろうか?
どの様な形であれ、敵を斬るという事は殺戮に繋がるのは、避けては通れないのも確かだ。
言葉を掛けては来ないジークバルドと二人の少年少女――。多分このような自分に、呆れ失望しているのだろう。
これ以上は埒が明かないのは彼とて理解していたが、自身の心と仮面の錬金術師に向き合う事をどうしても止められなかった。
『この際だ、教えてあげよう連中の経歴を――。紛争に巻き込まれ或いは参加した挙句、手足を失った連中は出来る仕事も生きる術も無くした。そして再生技術と医療技術を持つ我々を含めた組織を頼り、金と不死や再生が叶う事を条件に誓約を交わした。または心無い暴虐に遭い、荒れ果てた国土で喰うにも困り、家族を養う為に異国や得体の知れない組織と契約を結ぶ選択を取る。そして連中は、感情抑制や情緒を始めとした感覚をも弄られた果てに、痛覚や恐怖をも抑え付けられ、組織の求めるがままに活動し命と人生を捧げてゆく。それも自己責任と
「……」
『ついでだ、其処な君達も避難しているギルドと神殿の諸君も、見るといい。戦いには不必要と判断され、術や儀式により抑制された誓約者達の本心を――それを聞かせてあげよう』
「――何をする気だ…!?」
『――し~ッ…!』
口元に人差し指を立て、静かにするようワザとらしい仰々しい態度を取る。どうにもこの男、一々癇に障る態度を取りたがるのは最早性分の領域と判断していいだろう。
何も、仮面の錬金術師が属する組織だけではない。歴史の裏にて暗躍する組織は、幾多も世界中に存在しているものだ。医療教会も黒教会も皆同じ、それを突き詰めればサリヴァーン率いる魔神軍などに行き着くのだろう。
戦争や心無い暴力に晒され生活の糧を奪われ路頭に迷う、大勢の力無き犠牲者たち。仮面の錬金術師は、そのほんの一例を語り明かした。
その上で誓約の際、術や儀式で工作員として不適切な感情を抑制させているのだと語る。
故に、彼等刺客たちは、悪行と知りながら然したる抵抗もなく加担していたのだった。家族を養う為や日常を取り戻す為に――。尤も、己の欲望のために敢えて誓約に奔る輩も居るのは疑いようがない。
この様子は使い魔を中継する事で、街中に知れ渡っている。
仮面の錬金術師は、この機能を使い現場に居る灰の剣士たちだけでなくギルドや神殿に避難している全住民をも含め、誓約を交わした刺客たちの本心を暴露しようと彼は宣言したのである。
「……」
彼が語り終えた後、僅かの間だけ街に静寂が満たされた。付近には降りしきる雨粒の音だけが、彼等の耳を打つ。
だが僅かな時が流れたかと思えば、次の瞬間には新たな刺客たちが次々と姿を現し、灰の剣士たちを取り囲む。
「居たぞ…奴等だ…!」
「やれッ…!」
「悪い大人は、俺がやっつけてやる…!」
かなりの数が、此処に辿り着いていた。案の定、大人だけではなく子供までもが刺客の中に含まれている。
加えて装備も整えているのか、全員が銃や上質の武器を所持していた。
「――…ッ!」
今までになく攻撃性を露わにした刺客たちは、口調も荒々しい。かなりの殺気を匂わせていた。
先ほどの刺客より練度も高そうで、灰の剣士たちは慎重に身構える。
しかし、突如として虚空から声が響き渡る。
「どうした、かかって来ないのかッ!」
(本当に勝てるのか…?)
「怖じ気付きやがって…!」
(コイツ等は、味方を大勢殺した…)
「楽に死ねると思うなよ…!?」
(嫌だ…死にたくない…死にたくない…!)
間違いなく敵側から発せられる攻撃的な台詞。しかし虚空より聞こえて来るのは、正反対とも言える彼等の本当の心の声であった。
疑いたい気持ちも芽生えたが、この悲痛な叫びは間違いなく眼前の敵側の本心だ。
「ぬぅ…卑劣な真似を…!」
多少の揺さ振りにも動じないジークバルドだったが、とうとう彼も戦闘に逡巡を滲ませてしまう。
そこで生まれた僅かな隙を目掛け、刺客たちが襲い掛かった。悲痛な本心を曝け出しながら…。
「行くぞッ…!」
(俺には家族が…)
「容赦はせんぞ…!」
(どうしてこんな事に…)
「その程度かぁ…!」
(もう嫌だ…)
『よおく聞くんだ、連中の悲哀な現実を』
一気に戦局が悪くなる。
ジークバルドでさえ、防戦に追いやられ反撃の糸口を見出せないでいた。
輝石の貴公子も乏しい剣術で必死に彼等の攻撃を凌ぎ、赤いリボンの少女も覚束ない射撃や体術で牽制するのがやっとだ。
そして灰の剣士だが、とうとう
「死ねぇっ!」
(いつまで続くんだ、こんな生活…)
決して筋力戦士ではないものの、単純な腕力でも敵に後れを取る事はない灰の剣士。
しかし単純に力で押し敗け、彼はヨロヨロと後退り完全に戦意が低下していた。
「オラぁッ!」
(妻も子も殺され、まだ戦うしかないのか…?)
「――うごぅあッ!」
気を取られ強烈な一撃を食らう灰の剣士。虚空より響く敵の本心に耳を傾けた結果であった。
染み付いた戦いの経験の影響で彼は直ぐに立ち直るも、容赦なく迫る敵に唯々戸惑い構えさえ素人染みた防御術へと劣化していた。
(野党に村を滅ぼされ、他の仕事なんて…もう…)
「――うぐッ…がはぁッ…!」
またもや手痛い攻撃を何度も受ける灰の剣士。今の彼は、新人の冒険者にさえ劣る程に戦闘力を低下させている。
本来なら無傷で制圧できる程の敵戦力だが、半ば一方的に攻撃に晒されていた。
「止めろぉッ…剣を引けぇッ…!」
度重なる精神攻撃による攻めに、彼の
(金が貯まったら、母さんを設備の整った王都の病院へと入院させたい…)
「そろそろ止めだ…!」
(早く、早く、こんな生活から抜け出さないと…)
(あたしは何のために戦っているの…?)
(せっかく身体が再生したのに、殺しの仕事なんて…)
(不死のお陰で、病気が治った…でも…子供まで利用するのかよ…)
(悪人はどっちだ…僕らの方じゃないのか…?)
(何だよ、不死なんて碌なもんじゃない…)
(最後に行き着くのは亡者や獣なんて…騙されたわ…)
(こんな事になるなんて知らされてない…話が違うじゃないかぁ…)
『どうした?薪の王ともあろう御方が、良い様に嬲られて…!ハッハッハッハ…!』
「――止めろぉッ…!やめるんだぁッ!!」
吹き飛ばされ傷付きながらも、彼は何度も訴え続けた。もう彼の手には剣は握られていない。一部とはいえ襲撃者たちの本心を知り、もう斬るという想いは微塵にも抱く事ができなかったのだ。
しかし彼の必死の訴えにも耳を貸さず、尚も刺客たちは迫り来る。
「…止むを得ん。灰剣士殿ぉッ…!今少し耐えてくれッ!」
これ以上は命に関わる。このままでは碌な抵抗も成さぬまま、灰の剣士は絶命に至るだろう。
ジークバルドは辛うじて応戦しながらも、苦戦する灰の剣士へと叫び掛けた。
そして愛用のストームルーラーではなく別の剣『エオヒドの宝剣』へと持ち替え、戦技『エオヒドの剣舞』を発動。
先ずは刺客たちの武器だけに狙いを絞り、縦横無尽に剣を操る。
「エオヒドの剣舞、出番が回って来たぞ…!」
高速かつ自在に舞う剣で、次々と刺客たちの武器を斬り払い同時に破壊へよ追い込む。
碌な攻撃力を失った彼等に真面な活動など見込めようもない。そのまま剣を操り、今度は剣の腹で並み居る刺客たちを打ち据え気絶を試みた。
危険な状態へと追い詰められた灰の剣士を助けたいのは山々だが、先ずは少年少女の二人の救援を優先するジークバルド。
あまり慣れていない剣術で応戦する輝石の貴公子は、少女を庇いながらも持ち堪えていたが限界が近い。
かすり傷だが徐々に痛痒を重ね、彼の疲弊も蓄積する一方だ。
「待たせたな、少年たち!」
「――ジークさん!?」
覚えたてとはいえ自在な操作の域にまで到達していた、ジークバルドが駆るエオヒドの宝剣。
同時に自身も動き、並み居る刺客たちを戦闘不能へと追い込み不利な戦況を打破しつつあった。
『そうかそうか…!君は、エレメール殿から戦技と宝剣を奪い取ったのだったな…!美味いかね、他人から盗んだ技と武器は?』
「学んだと言って頂きたいものだ…!無論、最高の気分だ…!穢れし戦技を自らで浄化するのはな…ウワハハハ…!」
(本編前夜編 第108話参照)
『――減らず口をッ…!』
エオヒドの宝剣と剣舞で暴れ回るジークバルドに、皮肉と嘲りをぶつける仮面の錬金術師。
しかし彼は何ら臆する事もなく同じく皮肉で返し、これには仮面の錬金術師も少々苛立たし気に舌打ちした。
「…ジークバルド…すまぬ」
一通りの救援も叶い、少年少女二人に群がる周囲の敵も一掃できた。
彼は間髪入れずエオヒドの剣舞で、灰の剣士の救援をも完了する。
この戦技が遺憾なく発揮され、極力死者を出す事なく凌いだ後、彼等は呼吸を整えた。
「ハァ…ハァ…ハァ…くそ…!」
いい様に精神を揺さ振られ敵の攻撃を一身に受け、不様な戦いぶりを曝け出してしまった灰の剣士。
取り敢えずの戦いを切り抜けたはいいが、彼は大きく呼吸を乱し真面に動けるかも怪しい状態に追い詰められていた。
「彼等は……彼等は…、自分の意志で約定を交わし、自分の意志で動いていた…筈なんだ…」
両手を膝に着け、彼は尚も乱れた呼吸を必死に整えようと足掻いている。
「灰剣士殿…人は皆、個人の意思で生きている。人は皆…違う…子供も…大人も…」
苦し気に息を吐く彼に、ジークバルドが声を掛けた。
「だが…悪行に加担しながらも、彼等の本心は邪悪ではなかった…クソ…ソウルで本性も図れないとはッ…!」
本来の彼なら、戦闘中とて敵のソウルを探れるほどの技量と鋭敏な感覚を備えている。しかし今の不安定な状態では、目の前の物事にしか対処できず…いや、それすらままならない程に弱体化を招いている。
子供は不殺…大人は容赦なく斬る――。仮面の錬金術師の理屈通り、今の自分は余りに身勝手な正義と価値観で剣を振るい敵を斬り続けている。
もはや敵の方が正論で武装している様にさえ、錯覚を覚えていた。
それ程に彼の精神は揺らぎに揺らぎ、自分さえ見失おうとしている。
「ゴドリック様を討ちに行った時の貴方は、もっと毅然としていました。その時でさえ迷っていたのですか、灰人さん?」
「貴公…」
「貴方は自分が正しいと信じたからこそ、迷わずストームヴィル城へと乗り込んだのでしょう?褪せ人に憑依した状態にもかかわらず…!」
心の安定しない彼に、今度は輝石の貴公子の叱咤が飛ぶ。
あの狭間の地『ストームヴィル城』にて、『褪せ人』状態の彼と『接ぎ木の貴公子』状態の少年は互いに敵同士として死闘を繰り広げた過去がある。
その時の彼は、今とは比較にならない程に自身を確立し惑いなど微塵も感じさせない見事な戦いぶりで、接ぎ木の貴公子を圧倒していた。
(本編前夜編 第105話参照)
仮面の錬金術師の奸計に嵌り心を乱す灰の剣士だが、今ままでも自分の信じた道を突き進めたのは間違い無い筈なのだ。
輝石の貴公子も思い付く言葉で、彼を奮い起こそうと力を尽くす。
「…嘘…まだこんなにも居るの…?」
だが悠長にしている暇もなく、またもや敵増援が現場に到着してしまった。
「駄目…、あの人たち…今度は
数にして数十名の刺客だが、今度は些か距離を離し配置に就いていた。その理由は直ぐに明らかとなり、大半の敵は長い銃身の
赤いリボンの少女も銃には然程詳しくはないのだが、大まかな見分け位は判別できる。
「――皆、私の後ろに隠れよ!」
配置に就いたかと思えば、敵増援は狙撃銃の一斉射撃で彼等を撃ち抜きにかかる。
それを察したジークバルドは、持ち前の重甲冑とピアスシールドに戦技『嵐の壁』を纏わせ、防御態勢で身を固めた。
彼の指示を受けた3人は、辛うじて彼の背に隠れ銃撃をやり過ごす。だが銃撃が止む事はなく、単発の狙撃銃とはいえ撃ち手の交代で絶え間ない連射が彼等を襲う。
「う~む…これは不味い…」
今のところ痛痒は負っていないが、ジークバルドの集中力や体力とて無限ではない。このまま足止めに加え銃弾を浴び続けては如何に重防御を誇る彼でも、何れは銃撃の嵐に呑まれてしまうのは必至。所謂ジリ貧の状況に追い詰められてしまった。
だが追い詰められた彼等の耳に、他方向からの別の銃声が届いていた。その銃声が鳴り響く度に、一人また一人と刺客たちが倒れ伏し確実に数を減らす。
「全く…しっかりおしッ!あんな道化師ヤローの詭弁に乗せられてんじゃないよッ…!」
銃撃に晒された彼等の前に姿を見せたのは、嘴のマスクで頭部全体を覆い黒ずくめの衣装に身を包んだ一人の人物。
得体の知れない怪しい出で立ちだが、彼女は『鳥羽の狩人』と呼ばれるローグギルドに籍を置く仕掛け人の一人だ。
「鳥羽の狩人…!?」
「貴公、何時ぞやの…!?」
「そう言えば…夜の街に居ましたね」
「小母様ッ…!」
思いもよらない彼女の登場に、彼等は各々の反応を見せた。
「俺も忘れて貰っちゃあ、困るんだがね…!?」
また彼女の他に更なる人物も姿を見せ、槍と銃の一体化した変形武器で並み居る増援を撃ち抜いていた。
彼も特殊な出で立ちで、隠密に適した服装ながら不釣り合いな大盾を背負っている、人相の悪い禿頭の男。
「心配しなさんな、眠らせただけさね」
「まぁ撃ち所が悪ければ、最悪死んじまうんだがね?」
「――余計な事言うんじゃないよッ!」
「へぇへぇ…オォ恐い…!」
彼女らの銃弾を受けた敵増援は次々と倒れ伏したものの、使用した弾丸は特殊な睡眠効果を持つ『麻酔弾』で、撃った相手を強制的に眠りに就かせる事ができた。
『おいおい…、ま~た君達かぁ?萎えるのだよ、君達に介入されちゃぁね』
鳥羽の狩人と銃槍男の介入に、心底軽蔑の声音で非難する仮面の錬金術師。
並み居る敵増援を相手に一歩も退く事なく、二人は身軽な体裁きと銃撃を繰り出してゆく。
まだ半数ほど残っていたが一時的に攻撃の波は止み、二人は灰の剣士たちの元へと降り立った。
「おいおい、アンタともあろう者が、ちょっと突かれただけでこのザマかい…!?」
嘲りと侮蔑にも似た表情で膝を突く灰の剣士を見下したのは、禿頭の銃槍男。
「……」
しかし返す言葉もなく、灰の剣士は俯いたままで応えようとはしなかった。
「このままじゃアンタ…本当に呑まれちうよ、内なる獣に…!」
鳥羽の狩人も便乗するかのように言葉を重ね、厳しくも発破をかけようと試みた。
今更、敵側の経歴や事情が何だというのか?
彼等は現に街を襲撃し、決して小さくはない災厄を振りまいている。あまつさえ子供まで使い、動揺と油断を誘発させ犠牲者も続出していた。既に衛兵や冒険者からは、数十名が帰らぬ人と化している。
中途半端な情を振り翳し攻撃を躊躇うのは、練度の低い新兵や新人冒険者に散見される典型的な症例だ。
しかし灰の剣士は違う。
有象無象の冒険者など足元にも及ばない程の実力を有し、数々の難敵を屠る剣士なのだ。
下手な情に溺れ死ぬような事があっては、これまで彼に関わり支えてきた隣人たちの努力が徒労と化してしまう。
今此処で自分自身を振るい立たせ精神の安定を図らねば、彼自身そう遠くない内に
「言ってくれるじゃないか…鳥羽の狩人…。生者を斬った時の感触…いやでも意識が掻き乱される…!私は貴女とは違う…、どうしても苦痛と罪悪感を覚えてしまうッ…!あの時代では、不死や亡者が相手だった…、真っ当な生者など存在しない世界、私自身も不死であったからこそ、何の抵抗もなく切り伏せる事ができた。…だがこの世界はどうだ…!?最初は小鬼でさえ、殺す事に苦痛を抱いたよ…今でもな…正確には…!一見冷徹な貴女だが、知っている筈だ…!敵を殺す、生者の命を奪うという重みを…!理屈じゃない、命の重みをッ!あの本心を聞かされては…尚更だ…!貴女も数多くの命を手に掛けて来たのだろう…血の医療と共に在る
「ああ、殺してきたとも…、それが狩人の背負う使命だからね…!だけどそれだけじゃあないんだよ…。どんな奴にも、戦い命を奪う理由は存在するものさ。己の願望を満たす為、自らの誇りの為、若しくは大事な隣人の為、…碌でもないクソッたれな街だけど、それでも…皆が皆、役割を果たそうと藻掻いていた」
「知ってるかい、灰のアンタ?人間は…て言うか、あらゆる知的生命体は本来、同種の生物の
「……」
「それでも貴公は、正しいと信じたからこそ今日まで戦ってこれたのではないのか、灰剣士殿…どうなのだッ、答えたまえッ…!!」
「――…ぅぐッ…!その通りだ…、神殿に向かわねばッ…!」
立て続けに畳み掛けられる叱咤と発破の奔流――。鳥羽の狩人、禿頭の銃槍男、ジークバルドからの厳しい叱責に彼は言葉を詰まらせながらも漸く立ち上がり、神殿に向かおうと覚束ない足取り歩き始めた。
「気をしっかり持ちたまえ!この場は私、ジークバルドが受け持とう」
「あたし等も此処に残るから、お嬢とボウヤは
「…チッ、柄にもなく真面目な事口走っちまったぜ、ホラ行った行った…!」
刺客は、まだ残っていた。ジークバルドを始めとした鳥羽の狩人たちは、灰の剣士たちを先に行かせるべく殿としてこの場に残る。
だが、灰の剣士は肉体よりも精神を喪失した状態で、未だ危険な状態には変わりない。
そこで輝石の貴公子と赤いリボンの少女に、彼の同行を指示した。
「行きましょう、神殿はもう直ぐです…!」
「小母様…お気を付けて…!」
「すまぬ…皆…恩に着る…」
彼等に殿を任せ、灰の剣士たちは神殿へと歩みを再開した。些かに重い足取りなのは、決して痛痒の所為だけではないのだろう。彼は呼吸を乱しつつも、二人の少年少女に護衛されながら、地母神神殿を目指した。
まだ昼間の時刻ながら、空は濃い灰色の雨雲に覆われ止めどなく雨が降り注ぐ。地面に溜まる雨水が鏡のように、灰色の空を映し出していた。水たまりに映る灰色の空が彼の視界に入る度に、言いようのない重さが心に圧し掛かるのも、罪悪を成したという彼の意識の現れなのかも知れない。
「…行けますか、灰人さん…?」
「…ああ…。あくまで彼等は、自己責任で約定を交わした…どのような経緯があったにせよ、それに伴う
「僕も、そう思います。契約を結ぶに際し、得る物と代償を秤にかけた上で自身の判断に委ねたんです。たとえ何らかの事情で他に選択肢が無かったとしても、最終的に行き着くのは結局、自己の判断…自己責任に帰結するんじゃないでしょうか?」
「
「うまくは言えない…けど、そう思い…ます。邪悪だと判断し騙されないのも…大人の役割なんだと、あたし…思うんです」
「そうですよ…。恩義や忠誠だとしても、騙されたとしても、悪行を見抜けず加担するのなら、それは間違いなく本人の罪ではないでしょうか!?……
「そうだ…その筈なんだ…だが…私は…」
「灰人さん…」
これ以上議論を続けたところで、得る物など何もなく答えなど見出せようもない。延々とした堂々巡りな価値観の応酬など、蚊ほどの価値さえ無かった。
回復も見込めないまま消耗した心身を引き摺り、灰の剣士は二人に護衛されながらも神殿入口へと到着した。
雨天による暗い空の下では、聖黄金樹の淡い輝きが一層際立ち周囲に広がっている。この聖なる癒しの光のお陰で、この街と近隣は、あの赤黒い空と赤爛れた陽光から守られていたのである。
「有り難いな…聖黄金樹の輝きは…。少し軽くなった…準備はいいな、行くぞ」
淡い黄金色の輝きを浴びた灰の剣士たち。何処となく心身ともに軽くなるのを感じたのは、気の所為ではないのだろう。
神殿の奥から感じる大勢のソウル――。間違いない、金剛石の騎士を始めとした王統府の面々、剣の乙女、司祭長、花冠の森姫と森人勢力、そして医療教会と思わしき複数のソウルに加え仮面の錬金術師のソウルまで容易に感知できた。
改めて意を決した灰の剣士たちは、地母神神殿の入り口を潜る。
――だがしかし、自己責任だとしても、彼等も彼等で己の立場の弱さに付け込まれ利用され、不利な条件で誓約を結ばされている。…或いは、そういう環境に追い込む等の裏工作ぐらいやってのけるだろうな…医療教会の連中なら。分かってはいた…頭の中では…。だが甘かった、聞こえて来た彼等の本心…。俺は目を逸らす程に弱いのか…事実を…現実を直視する事を避けるほどにッ…!
決意を新たに固めたといった所で、やはり彼の心は不安定なままだった。口ではああ言ったが、内心では彼等に同情や憐みの念を禁じ得ずにはいられなかったのである。
己が立場を理解させるため、契約者には不利な条件で納得させるよう動くだろう、医療教会という組織なら。彼自身、少々見積もりが甘かった事を認めるしかない、医療教会と仮面の錬金術師の底力に。
そしてあの男――教会の狩人のソウルまでが流れ込んで来る。
冷たい雨に打たれながら神殿内に足を踏み入れば、彼等の視界には大勢の人々が映っていた。
「生者を斬り殺したかと思えば、子供は見逃す、心の声を聞いた途端に戦意は喪失する、全く不様の極みにして大層な大根役者だな灰の剣士、信念の欠片など露ほどにも無い。一殺多生の活人剣とやらも、所詮は儚い欺瞞と偽善の薄っぺらい鎧に覆われていた訳だ…!」
「仮面の錬金術師…」
大勢の人々を代表するかのように出迎えたのは、先ほどから幻影で翻弄してきた仮面の錬金術師その人であった。どうやら幻影ではなく、実体を伴う本人そのもので間違いないようだ。
「「――!」」
彼を庇う様に、少年少女の二人が立ちはだかり、仮面の錬金術師を威嚇する。
「……」
「気になるかね?何故これだけの戦力を備えながら、神殿は襲撃を許してしまったのか?」
大勢の人々が此方に視線を集中させているのだが、その大半は街の住民だ。中には、王統府や衛兵に熟練冒険者、そして剣の乙女に加え司祭長までもが佇んでいる。――にも関わらず、地母神の神殿は医療教会の制圧下に置かれていた。
それによく見れば、然したる戦闘の跡も見られず損傷もない。一体どういう事なのだろう。
彼等の表情は一様に暗く、何かに堪えているのが直ぐに察する事ができた。やはり子供が使われ、碌な抵抗が出来なかった事が大きな要因か?
灰の剣士の疑念に気付いた仮面の錬金術師だが、もう一人の覚えのある声が頭上から降り注いだ。
『私がお応えしよう。…それにしてもいい格好だな、出来損ないの薪の王…!』
「――教会の狩人…!」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
狙撃銃
狙撃に特化した長銃身の銃器。
弾丸装填には、長い手間と時間を要するが従来の銃器に比べ長射程と貫通力を誇る。
そのため連射には向かないが、多数の狙撃手が揃えば長射程を活かし一方的に攻撃できるだろう。
古来より狙撃は非常に有用とされ、時代が進むにつれ狙撃銃と技術も進化の一途を辿る。
麻酔弾
弾丸に麻酔張を仕込んだ特殊な構造の弾丸。
時には弾丸そのものに麻酔効果を付与する事もあるという。
主に敵を眠らせるとあるが、厳密には意識を混濁させたり無力化するといった意味合いが強い。
しかし、適正な麻酔量でなければ効果が薄かったり絶命に至るケースも少なくはない為、扱いには高い技術と知識を要す。
意識の向こう側の世界。
夢が優しい目覚めの先触れとなる事を祈りつつ、月夜の下に華は咲き乱れる。
いつもと変わりなく。
ストックが無い状態なので、更新速度は2週間に1話ずつになると思います。
その間にも徐々にストックを増やしつつ投稿すると思いますので、ある程度堪り次第、切りのいい所で、更新速度を上げる積りです。
如何だったでしょうか?
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
デハマタ。( ゚∀゚)/