ゴブリンスレイヤー ―灰の剣士―   作:カズヨシ0509

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ドーモです。
とにかく暑い…これの一言に尽きます。(_□_:)
気温と湿度のダブルパンチで、夕方辺りで漸く真面に動けるという状況。
あまり空調をガンガンかけすぎると電気代がなぁ…。 ( ̄ω ̄;)

では投稿致しますドゾ。( ゚ ω ゚ )


第136話―灰の剣士VS教会の狩人―

 

 

 

 

 

 

獣狩りの短銃・改

 

従来の銃を回転弾倉式に新設計させた代物。

回転式の弾倉という機構が最大の特徴。

所謂、回転拳銃(リボルバー)とも呼称されている。

複数設けられた弾倉に予め弾丸を装填する事で、再装填という手間を省き連射が可能となった。

引き金を引く際、手動で撃鉄を引くというシングルアクション方式。

 

獣狩りの夜の後、夜明けを迎えた彼等は、この四方世界へ流れ着き各々の思惑で再動に努めた。

彼等の世界に比べ純粋な技術水準としては確かに劣っていたが、全く未知なる概念も無数に存在していたのは彼等を驚愕させるのに十分であった。

新たな道を模索せんが為、彼等は夜だけでなく昼をも歩み行くのだ。

 

天に浮かぶのは、月だけではないのだから。

 

 

教会砲

 

医療教会の用いる大型銃。

大砲の一種。

曲射と、着弾における爆発が特徴となる。

 

元々、脳の麻痺した大男たちの使用を想定したものであり、尋常な人の狩人では扱うことは困難である。

結局大男たちも、火器を扱う知性を持たず、この武器は呆気なく死蔵されたという。

 

だがしかし、扱うだけの能力を備えし者が現れたとしたら――。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

( 推奨BGM メタルギアライジング ―― モンスーン )

 

 ほぼ同時に地を蹴る両者の足。

教会の狩人が持つ、銀の剣――。灰の剣士の持つ、打ち刀――。刃の長さは殆ど同じ。

先に仕掛けたのは教会の狩人だ。

疾走の中、鋭い刺突を繰り出す。常人では到底反応できる速度ではない刺突攻撃。

しかし灰の剣士は、動きを止める事無く僅かに頭部をズラすだけで難なく回避――。そのまま疾走居合切りで、狩人の胴を払い抜けた。

 

「――ぬぐッ!?」

 

 狩人の防具は運動性を重視した軽防具で、刃を防ぐほどの防御力は備わっていない。元々は獣を相手取る為に拵えた物で、急所や重要部分のみ必要最小限の防御に止め運動性を重視させた構造なのだ。

カウンター気味の疾走居合切りを受けた胴からは、鮮血が一気に噴出する。

胴に奔る鋭い熱さと痛み――。狩人は斬られた痛覚と衝撃で一瞬動きを止めるも、逡巡している猶予はなかった。

 

「――なッ…!?」

 

 疾走居合切りで払い抜けた灰の剣士は、既に次の動作に移り錐もみ回転切りで追撃を加えていたのである。

 

「――チッ…!」

 

 反撃の暇すら見出せず、止む無くローリングによる回避で凌ぐ教会の狩人。場の仕切り直しを図ろうとするものの、彼は防戦へと追いやられていた。

 

「――…消えたッ!?」

 

 彼が気が付いた時には、視界に灰の剣士の姿は映っておらず動揺と隙を再び生んでしまう。状況を認識した時には、頭部に重い衝撃が襲い掛かっていた。

 

「――グぅぉあっ…!」

 

 狩人は頭部を踏み付けられていた。灰の剣士は宙高く跳躍する事で、彼の視界から逃れていたのである。そして隙だらけな狩人の頭部目掛け、何度も空中で踏み付けを見舞っていた。

猛禽類を思わせる急襲に、狩人は動きを止め腕で頭部を庇うのがやっとだ。何度も踏み付けられる内に、狩人も苦し紛れに剣で払うものの虚しく宙を空ぶるのみ。

動きを読んでいた灰の剣士は、最後の踏み付けの反動を利用し更に宙高く跳躍――。そのまま空中から、戦技『嵐の刃』を数発投射する。

従来の戦技に細工を施した彼は、嵐の弾丸の形状を鋭い槍状へと変え投射した。槍状へと変化した弾丸は、破壊力と引き換えに弾速と貫通力を増大させている。

 

「――う…うぉぉッ…!?」

 

 灰の剣士によるアクロバティックな連携攻撃に、狩人は対応が追い付いけていない。槍状の弾丸に対し、辛うじて銀剣で防御するも非常に頼りない付け焼刃でしかなかった。

5発の内2発は胴体部に命中し、狩人は刺突に似た痛痒を負う。

 

「ぐ…お…おのれ…!」

 

 痛痒を重ね数歩後退る教会の狩人は、顔面を歪に崩しながら懐から注射器を取り出し大腿部へと突き刺した。

 

「――そいつは輸血液、エスト瓶と同じさねッ!」

 

「……」

 

 他方から飛ぶ鳥羽の狩人の声。

いま狩人が突き刺したのは、血であると言う。灰の剣士たちは主にエスト瓶で傷を回復させるが、鳥羽の狩人や教会の狩人たちの世界では輸血液と呼ばれる代物で負傷を癒す。

 

「関係ナい…、斬り刻むノみ…!」

 

 相手に回復手段を有しているのは分かった。だがそれが一体何だというのか?

たとえ幾度も回復を図ろうとも、それすら追い付かなくなる程に斬り続ければいいだけだ。それに抵抗すればするだけ、苦痛が長引こうというもの。ならば、心折れ戦意喪失に至るまで斬り続ける。

輸血液の回復など歯牙にもかけない灰の剣士。彼の全身から、更に黒いソウルが勢いを増し噴出していた。

 

「調子に乗るなよ、出来損ないの分際がぁッ…!」

 

 一連の回復動作を終えた教会の狩人は、憤怒の形相を浮かべ懐から火炎瓶を数個纏めて取り出し投擲する。

瓶の中には油を主軸とした可燃材で満たされ、雨水で消える代物ではない。食らえば重い火傷では済まされない、手頃だが非常に危険な投擲道具でもあった。

尤も、その様な単純な策に引っ掛かる灰の剣士ではない。

それは狩人も承知しており、3個纏めて投擲された火炎瓶は全て灰の剣士の足元へと着弾。彼の脚元付近は小規模ながら炎上する。

しかし僅かな一瞬ではあったが、注意を引き付ける事は出来た。

狩人はその隙に自慢の跳躍力で位置をズラし、銃口を灰の剣士へと向ける。

 

「クククク、避ければ()()()()()がどうなるか、分かっているな?」

 

「…ソうか」

 

 銃口を向けた射線の先には、大勢の神殿関係者が居る。仮に狩人の銃撃を避けたとしても、その銃弾が無関係な人々へと当たる危険性が極めて高かった。

だが灰の剣士は何ら取り乱す事もない。

 

「強がりは止せ、諦めろッ!」

 

 狩人も躊躇う事なく、銃撃を開始――。今彼が使用しているのは、回転弾倉式の新型銃である。これは1発ずつ弾丸を込める事無く、最大6連射の銃撃を加える事が可能な武器であった。

また彼自身手慣れているのだろう。撃った直ぐに撃鉄(ハンマー)を戻し、手早い動作で次々と弾丸を連射した。

 

「――殺戮の理想郷(ユートピア)へようこそッ!」

 

 ただ6連射するだけでは飽き足らず、意識内のインベントリから別の銃を取り出し2丁持ちへと切り替えた教会の狩人。

そのまま新しい銃で、絶え間ない銃撃を繰り出した。

その様な動作を幾度と高速で繰り返し、合計40発近い水銀弾が灰の剣士へと殺到する。

 

「避けるマでもない」

 

 だが灰の剣士は、手にした打ち刀を高速回転させ並み居る弾丸を全て停めてしまう。刃に命中した部位からは、小さくも眩い火花が散っていた。

一見、戦技『回れ回れ』似た防御法だが、彼は手首を柔軟に捻り刀を高速回転させただけだ。

加えて弾丸をただ単純に食い止めただけではなく、器用に刃の上に乗せていた。刀の回転を徐々に弱めれば、刀身に乗っていた弾丸は原形を留めたまま。

 

「礼だ…!」

 

 刃の上の乗せた弾丸を綺麗に地面へと並べ立てた灰の剣士は、瞬時に刃を振り上げ地面の弾丸を全て狩人へと投射。

全弾ではないが、狩人の放った銃弾が彼自身へと返された。

 

「――ぬッ…ヌゥォオぁあぁッ……!」

 

 返礼された水銀弾が狩人に殺到し、全身を無残に引き裂く。輸血液での回復も完全に無駄となり、狩人は嘗てない程の重傷を負う事になる。

 

……

 

「…今の内か」

 

 教会の狩人と灰の剣士による決闘。その激闘の最中、ふとゴブリンスレイヤーは、ある物を注視していた。

 

「どうしたの?」

 

「アレの所為で、今まで敵の思う壺だった」

 

 彼の意識の向ける先が気になりスイーパーが訪ねる。彼の向けた視線の先には、医療教会が設けた例の爆弾が今も鎮座していた。

台座に乗せられた球体が、恐らくは爆発を引き起こす主要部位なのだろう。しかし爆弾の構造は未だ把握できない代物で、台座にも迂闊には手が出せない状態だ。

今は都合のいい事に、狩人は灰の剣士へと意識が向いている。ならばこの激闘に乗じて、あの爆弾を何とか排除できないものだろうか?あの爆弾さえなければ、形勢は此方に大きく傾くのは間違いない。

ゴブリンスレイヤーは、そう画策していた。

 

「だけど、どうやって?迂闊に触れない方がいいわ」

 

 先程、灰の剣士にバラバラにされたゴブリンビーストも僅かな刺激で即爆発するという警告を下していたのを、スイーパーは覚えていた。よもや触れた程度では起爆しないだろうが、持ち上げるにも持ち運ぶにも個人でどうこう出来る大きさではない。

何せ街ごと吹き飛ぶほどの威力があると、嘘か誠かも曖昧に宣告していたが試すには少々危険度が高かった。安易に試し、万が一起爆してしまえば舞い血も聖黄金樹も大勢の人々も犠牲となるのは容易に想像できる。

無論それは、ゴブリンスレイヤーとて望んではいない。神殿には、あの()()()()が居るのだ。不死ゆえ、爆発に巻き込まれたとて何処かで復活する事は分かってはいる。しかし完全に行方不明となり、加えて亡者に近付く可能性も極めて高いのだ。

可能な限り起爆させず且つ被害の及ばない領域へと運び出す事が望ましかった。

 

「先ずは土ごと掘り返せば、何とかなるかも知れんのぉ…!」

 

 彼等の会話に聞き耳を立てていたのか、鉱人導師が一つの案を提示した。

刺激を与えず台座ごと運び出すには、精霊術で地面もろとも掘り返し布なりに包めば、辛うじて人の手で運搬も可能となるだろう。

問題は出来るだけ短時間で、街から離れた地点へと運び出さねばならないという点だ。あまり時間を掛けては、教会の狩人に気付かれ起爆される恐れもあるのだ。

しかも台座と爆弾の大きさから、少々嵩張るようにも見える。とてもではないが個人で運搬できる代物ではない。

浮上した問題点に頭を悩ませる、ゴブリンスレイヤーたち。

 

「その作業、私も手を貸そう。翼竜を使ってな」

 

 そこへ金剛石の騎士も会話に加わり、翼竜を活用するという案を示す。

翼竜を使えば、遥かに短時間で遠方へと運搬も容易に成す事が出来る。また妥当な地点で落下させれば、その衝撃で起爆させ跡形もなく処理できようというもの。

 

「おぉう、そりゃあ良い案じゃわいッ!感謝するぞ、お若い騎士のッ!」

 

「なぁに、この位は働かんとな。さぁ善は急げだ、直ぐに取り掛かろう…!」

 

 金剛石の騎士が高い身分である事は、鉱人導師も理解していたが、国王である事は確信が持てずにいた。

尤も、今更身分を鼻にかける金剛石の騎士ではない。

だが時間を掛ける利点は皆無だ。彼は直ぐにでも作業に取り掛かるよう指示を出す。

動きを始める彼等に、ライザも作業に加わる意思を表明した。

 

「あ、あたしにも手伝わせて…!物を軽くする秘薬なら一つだけあるから…!」

 

 彼女は錬金術で作成した、軽量化の秘薬を所持していた。もともと別の用途で使用する積りでいたが、今は緊急事態だ。この重要な局面で役に立てるのなら、活かす手は無いだろう。

 

「ふむ、期待するぞ。クーケンの錬金術士よ」

「はい、任せて下さい…!」

 

 こうして戦いの裏では、冒険者たちが秘かに動きを開始した。

彼等の動きを察知した構成員たちが、教会の狩人に警告を飛ばすも彼の耳には届いていなかった。

しかも神殿に到着していた冒険者たちが構成員の制圧を開始しており、そう時間を置く事なく形勢が逆転する様相をみせていた。

 

……

 

「――悔しくなんかないッ…!!」

 

 激闘とは名ばかり――。実際には、灰の剣士が教会の狩人を圧倒していた。

劣勢に劣勢を強いられた狩人は、感情に身を任せた銀剣の連続攻撃を仕掛ける。

 

「生の感情を剥き出しナど、俺には効かヌ」

 

 あらゆる多方からの猛攻だが、灰の剣士は全てを打ち刀で受け流し躱し切る。

 

「――ば…馬鹿な…、1発も当たらんとはッ…!」

 

 かれこれ50連ほど繰り出した筈だが、未だ彼には刃が届いていない。並の戦士には見切れぬ速度の連続斬撃だが、その全てが通用しないのだ。

打ち刀で受ける度に、摩耗した金属の粒が赤熱化し火花として空中でと燃え尽きる。

 

「――あ…当たりさえすればッ…!」

 

 一太刀でも浴びせる事が出来れば、後は怒涛の攻めで灰の剣士を仕留められる。そう確信していた教会の狩人。

だが思惑は完全に外れ、攻めている筈の彼が寧ろ焦燥に駆られていた。

 

「攻め過ギだ、貴公…ぬんッ!」

 

 一見追い詰めている様な狩人だが、長時間の攻めは却って動きが読まれやすくなるというもの――。次第に剣の型にも癖が見え始め、灰の剣士は完全に見切りを付けていた。

腕に装着(マウント)させていた小盾(ターゲットシールド)に嵐を纏わせ、戦技『嵐の壁』によるパリィングで銀剣を弾く。

 

「――何ッ…ぐぁッ!?」

 

 自分が優位である事を保持したいが為、完全にパリィングを失念していた事が裏目に出てしまった。

意表を突かれる形で銀剣を弾かれた教会の狩人は、何とも間の抜けた表情で動揺を晒してしまう。

そして隙だらけの胴体部へと、深々と打ち刀が抉り込まれた。

灰の剣士は戦技『構え』からの()()()()()()で、狩人の腹部に刃を突き刺していたのである。

 

「おぉぶッ…!?な、なぜぇだ…?何故ぇ、俺が弱いだとッ…グボァッ…!?」

 

 突き刺した打ち刀を引き抜くと同時に、ぶっきらぼうな前蹴りで教会の狩人を蹴り出す灰の剣士。深手を負った狩人は、腹部と口から大量の鮮血を吹き出しながら憎悪と疑念の目を向ける。

対する灰の剣士も橙色の眼光を灯らせながら、不様に転倒した狩人を見据えていた。

 

「敢えて言おウ…。貴公なドより……()()()()()()()()()()()()()()()()()()…!」

 

 そして冷徹な現実の一言――。

今の教会の狩人よりも、あのダークゴブリンの方が遥かに灰の剣士を苦しめていたと告げたのだ。

 

「――き、貴様ぁあぁッ…!あんな小鬼如きに、この俺が劣るだとッ…!?上位者へと至らんとする、()()()よりもかぁッ…!?」

 

「左様、先ほドの余裕は何処へやラ?」

 

 よもやこれ程にまで愚弄されようとは――。況してや()()()()()と蔑んだ、眼前の男に見下されようとは――。何たる侮辱、何たる恥辱にして憎き存在よ。

あり得ぬ――あってはならない――。

異端の黒き小鬼とはいえ、もう存在しない小鬼とはいえ、混沌最底辺の異形よりも自分が劣るなどと――。

つい先程まで、揺れに揺れ心折れた眼前の出来損ないなどに、今の自分は成す術も無く圧倒されているという事実。

 

「ゆ…許さぬ…貴様や小鬼如きに、この俺様が劣るなどとぉッ……、許さなぁあぃいッ…!!」

 

 怒り沸点、怒髪天と言える程に感情を爆発させ激昂した教会の狩人。もはや端正な顔立ちなど見る影もない程に歪みに歪ませ、銀剣を背の鞘へと仕舞い込んだ。

しかし灰の剣士は、その一連の動作を一度経験している。

狩人の背負う銀剣の鞘には刃が備わっており、それ自体が武器として機能する。

その鞘に銀剣を納めれば、鞘と剣が合わさり大剣としての役割を持つようになる。

教会の狩人は怒りのままに突撃し、大剣と化した銀剣を力任せに叩き付けた。

 

「愚か者メ…!」

「――ぐッ…あ…あぁ…!?」

 

 渾身の力で振り下ろした全力の一撃――。幾ら灰の剣士の技量を以てしても、打ち刀ごときで受け止められる剣撃ではない筈だ。真面に受けようものなら、打ち刀ごと灰の剣士を両断できた全力攻撃。

しかし、彼は難無く()()()()()()()

打ち刀で受けると同時に、刀身の角度を縦に近い角度へと瞬時に傾け、膨大な運動エネルギーを地面へと逸らしていたのである。

ほぼ捨て身に近い大剣での一撃は見事に流され、狩人の大剣は地面を深く抉り減り込んだ。刃が深く地面に減り込んだ事で、泥混じりの雨粒が四方八方に飛び散った。

 

「返礼だ、黒炎…!」

 

「――ウッ…うごぉあァッ…!?」

 

 後先を無視した攻撃が躱されれば、後の結末など火を見るより明らか。

狩人に向け掌を翳した灰の剣士――。彼の掌から黒い爆炎が噴き出し、狩人の全身を黒く炎上させる。

黒い炎に全身を焼かれた狩人は、濡れた地面へと転げ回り必死に鎮火を試みた。

その様子を見ていた周囲も、黒い炎という現象に忌避の声を上げ始めた。

 

「く…黒い…炎…?」

「何て、邪悪で、禍々しい…」

「ま…まさか…アイツ、邪神の手先じゃあ…」

 

 真っ当な日常生活を送るにあたり、黒い炎を目にする機会など先ずあり得ない現象だろう。

灰の剣士と狩人の戦いを目にしていた群衆も、彼の熾した黒い炎に目を白黒させ、同時に灰の剣士という人物に対し軽蔑と侮蔑の眼差しを滲ませつつあった。

 

「な…何なの…灰君…今の黒い…火…?」

「剣士…さん…?」

「…このままでは、あの剣士…」

 

 灰の剣士を目の当たりにしていたライザ、銀髪武闘家、ステルクも、これから展開される未来に一種の危機感を抱いていた。この騒動は片付いたとて、果たして穏便に事が済むのだろうか。

因みに例の爆弾処理はゴブリンスレイヤーたちに任せており、軽量化の秘薬を振り掛けた時点で彼女の役割は終わり現場に残っていた。

一連の事件の首謀者である、仮面の錬金術師と教会の狩人は()という明確な立場で認識されている。それはまだいい。

真に問題なのは、寧ろ灰の剣士の方なのだ。

先ほどから見せる異常な変貌ぶり――。

ダークゴブリン戦の当時も、『残り火解放』という奇妙な現象に展開していたが、アレとは似ても似つかないほどに禍々しい変貌を遂げている現在の彼。

彼の為人をそれなりに知ったと自負していたライザ――。彼女自身、これからも変わりなく彼に接し続けようという自信はある。しかし自分以外は、果たして()()と言い切れるだろうか。

ライザは周囲に目を配ってみた。

 

「……」

 

 ルルア――若干の怯えと不安を滲ませているが、悪感情は抱いていない様だ。

 

「…危険だな…アイツ…」

「ちょっと…これは、危ないかなぁ…?」

「……」

 

 オーレルとピアニャは、武器を手に取っている。その武器と敵意を誰に向けているのかは、もはや考察するまでもない。

エーファは少し迷いつつも、此方に視線を返してきた。一応は信じたいのだろう、灰の剣士という男を。

 

ソラールを始めジークバルドやオーベックらも、真剣な眼差しでこの戦いを見守っていた。

ライザの拙い見解だが、見た感じでは敵意らしきものは感じられない。根拠はないが、その()()()()()にできた――どういう訳か。

 

思った通りだ、やはり彼と行動を共にした者でさえ不信感を抱かれつつある。仲間でさえ、()()なのだ。彼とはほぼ無関係な群衆などは、分別の無い軽蔑と敵意を静かにぶつけ始めていた。

 

「守って貰っておいて…――。島の人たちも此処に居たら…うぅん、絶対違う…!」

 

 眼前の現実がどうであれ、灰の剣士は間違いなく神殿を守る為に行動を起こし命懸けで戦っている。――だと言うのに、周囲の人々は非難の目を彼に向けつつあるという現状。これは余りに理不尽ではないのか。

もしも彼女の故郷である住民が、現場に居合わせていたらどうだろう?

やはり侮蔑と差別の向けるのだろうか、灰の剣士に対して…。

 

――いざとなったら、このあたしがッ…!

 

未だ止まない雨の下、ライザは密かに杖を握る手に力を込めた。

 

灰の剣士と教会の狩人の戦いは今も続いており、ふと遠くで振動と爆発音が此処まで伝わって来る。

 

「な…何だ…今の揺れ…?」

「成功したんだな…例の処理」

「これで一先ずは安心か」

 

 この戦いを静観していた冒険者たちも、先ほどの爆弾について言及している。

今此処まで届いた振動と爆発音――。街に影響が及んでいない処を見るに、例の爆弾処理に成功したとみて間違い無いだろう。

 

「黒の…深淵の火は、お嫌イか…?教会の狩人よ…?」

 

「フゥ…ハァ…、獣どころではない…ここまで闇を扱えようとは…何者なのだ、貴様は…!?」

 

「然ラば、大発火…!」

 

「――ぬぅぐぁあぁッ…!」

 

 深淵の黒い炎を真面に食らい、追い詰められた教会の狩人。

だが灰の剣士は容赦なく、本来の火である『大発火』を繰り出した。その攻撃も直撃し、派手に吹き飛ばされる教会の狩人。

既に彼は、満足に抵抗する術を喪失していた。

ここまでくれば、もう決着はついたと判断していいだろう。しかし教会の狩人は不敵な笑い声を上げ、戦意を捨てようとはしていない。

 

「ゼゥ…ハァ…いい気になるなよ、出来損ない。これが俺の全てだと思うな…!」

 

 雨天の所為もあり、燃え上がる全身は直ぐに鎮火する。しかし防具の上からでも多大な火傷を負い、狩人の戦闘力は明らかに低下していた。

だが狩人は憎悪を滾らせながらも、手に奇妙な物体を出現させる。

彼の手に現れた、軟体生物を思わせる滑りに塗れた触手の如き物体。それは今も脈動し不気味に蠢いていた。

 

「ククク、我らの世界に伝わりし秘儀の一端…まぁ平たく言えば、ここで言う魔法のようなものと思い給え」

 

「そウか」

 

 秘儀なる技術について説明する狩人。滑った触手を握り込み意思を込めた途端、彼の片腕は幾多もの蠢く宿主に変容を遂げた。

 

「な…なんて悍ましい…」

「邪法も邪法です…ね…」

 

「小母様…アレは確か――」

「間違いない…エーブリエタースの先触れ…!持ち込んでやがったか…!」

 

 ウネウネと生理的嫌悪感が本能にまで刺激するかのように蠢く、気味の悪い触手の束――。それが狩人の片腕に代わり生え揃っていた。

また狩人は高揚に満ちた表情を浮かべ、見習い賢者と剣士は彼の異様さに顔を顰めていた。そして赤いリボンの少女と鳥羽の狩人は、彼が持ち出した代物に心当たりのある素振りを見せる。

それは周囲の群衆も同様で、森人勢力などは口元を抑え必死に嘔吐を堪えている始末。

 

「それにしてもさっきから妙だね、獣の狩人は――」

 

「…どういう事でしょうか?」

 

 だが鳥羽の狩人の感心は灰の剣士側へと向けられ、傍らに陣取っていた輝石の貴公子が事の詳細を訊ねる。

 

「あの剣士、確実に内なる獣を発露させているのさ。…だがその割には、『獣の病』は全く発症していない…こんな現象は、あたしも初めてさね…!」

 

 間違いなく灰の剣士は、封じていた殺戮衝動を解き放ち闇のソウルまで噴出させた状態だ。特に顕著なのが、先ほど繰り出した『黒炎』と呼ばれる黒い大発火。

しかしそれでいて尚、彼は理性を保ち暴走する気配は皆無と言っても差し支えなかった。現に彼はあの時、腹部を刺した子供の構成員に対し何ら反撃を見舞うことなく、威圧だけで戦意を喪失させ追い払っていた。

仮に獣の病を発症させれば、相手が子供であろうと敵味方関係なく無差別に暴れ回る異形へと成り果てる筈なのだ。鳥羽の狩人は、嘗ての世界で嫌と言うほど体感し彼等の末路に立ち会っている。

今の灰の剣士、彼女にとっては不可解そのものとして映っていた。

 

「深く考える必要はありませんぜ、姐御さんら。ありゃ単純に()()()()()だけ――。別に支配されたでもなく、()()()()()()()()()()()ように努めてるだけですわ。まぁ…結構難しいんですけどね♪ちょっとでもサジ加減しくじっちまえば、アッというまに暴走しちまうわな…ウヒャヒャヒャ…♪」

 

 封じ込むでもなく反発するでもなく、受け入れ許容しつつも自身を保ち続ける。今の灰の剣士は正にそんな状態でいるのだと、禿頭の銃槍男は語った。

だが口で言うほど容易な事ではない。ほんの僅かでも拮抗が崩れれば、彼は真に獣と成り下がり今度こそ殺戮の根気と化すだろう。

この男、口調は軽いが相当危険な現状を楽しげに語っている。

そんな彼の態度に不快なものを感じつつも、輝石の貴公子は表に出す事なく耳を傾けていた。

 

「お詳しいですね、貴方の様な人に限って真に底が読めない…裏で何もかも知り尽くしている…そういう風に思われても反論は出来ませんよ?」

 

「……そりゃあ、俺は不屈なフーテンだからなぁ…!簡単に素性を明かされてたまるかよ…へッヘヘ…!」

 

 少しばかり探りを入れてみた輝石の貴公子だが、案の定、銃槍の男は尻尾を掴ませず逸らかしてしまった。

彼等のやり取りを余所に、教会の狩人は発現させた秘儀を振るう。

 

「――受けてみろ、星の娘の嘆きをッ…!」

 

 身の毛もよだつ幾多もの触手を腕の代わりに生やし、それを灰の剣士へと解き放つ教会の狩人。一見頼りない軟体を思わせた触手だが、射出した瞬間、鋭い肉厚の槍の如き様相に早変わりし灰の剣士へと高速で殺到した。

だが徒労に終わる。

 

「無駄ダ…」

 

 高速の槍状と化した幾多もの触手の束が、彼に到達する事はなく全て打ち刀で斬り裂かれた。斬り裂かれた事により、硬度を失った触手の肉片が幾つも地面へと零れ落ちる。

 

「ふ…貴様がこれ位ヤるのは想定済み、ならばコレはどうかな…?」

 

 馬鹿正直に真正面から攻めたとて通用しない事は、狩人自身も薄々と感じ取っていた。今のは、ほんの小手調べだ。

教会の狩人は斬り裂かれた触手を瞬時に再生させ、今度は大剣と化した銀剣を触手で握り込む。

 

「あの野郎、何をする気だ…!?」

「恐らくですが、触手の柔軟性と弾力を駆使し鞭のように大剣を振り回す気です…!」

「素手で振るうよりも、よっぽど破壊力が増すって事かい!?」

 

 教会の狩人による一見不可解な行動に、重戦士は疑念を浮かべた。そんな重戦士に解説を送る獣人魔術師。女部族も薄々と危険度を承知している。

強靭さと質量を兼ね備えた肉厚の触手を駆使し、同じく重量と肉厚の大剣を高速で振り回すのだ。加えて触手は長さを、ある程度自在に変化させる事も出来る。それを鞭上に振り回す事で、遠心力と多大な運動エネルギーを加え、尋常ならざる破壊力を生み出す事も可能となる。

人間が大剣を振り回しても、人外の魔物を屠る事が出来るのだ。それを人ならざる力で高速で振り回せば、その破壊力たるは如何ばかりか。

真面に受けようものなら、重甲冑を着込んだ騎士でさえ絶命に至るだろう。

 

「さぁどうする、出来損ない!?」

 

「強い魔力の武器…」

 

 圧倒的優位と判断したのか、勝ち誇る教会の狩人。しかし彼とは対照的に、灰の剣士は一瞬杖だけを取り出し刀へと魔力を付与させ強度を引き上げた。

灰の剣士自身も、触手で繰り出される大剣の破壊力は理解している。真面に受ければ、打ち刀の質量では呆気なく粉砕されてしまう。たとえ、斧並みの頑強さを持つ特注品であったとしてもだ。

 

「付与ごときで、受け切れるかなぁ…!?」

「来い…」

 

 嘲るも透かさず攻撃を仕掛ける教会の狩人。

対する灰の剣士も付与を終え、打ち刀による中段正眼の構えで迎え撃った。

オーガの剛腕にも似た靱性を誇る肉厚の触手――。その触手による重量級の大剣が、四方八方から桁外れの高速で殺到した。

異様に(しな)る触手は、宛ら極太の鞭の如し。振り回された遠心力により、あり得ない軌道を描き彼に襲い掛かるのだ。質量と遠心力に上乗せされた攻撃力は、大型の強固体であるオーガ種に比肩し得る攻撃力を発揮する。

直撃しようものなら、一瞬で肉塊へと変わり果てるだろう脅威。

しかし灰の剣士は脚を踏みしめ、全てを()()()()()()()()

真正面から迫ったかと思えば、突如にして軌道が変化し下段より迫る一撃を…打ち払う。

常識外れの軌道で後頭部から迫る大剣を、瞬時に身体を返し上段から…打ち落とす。

鞭を揺らし先端部を揺さ振る動きで大剣の軌道が不規則に揺れるも、彼はその挙動さえ見切り打ち刀の刃を合わせ…迎撃。

狩人の攻撃は止む事なく繰り出されたが、全方位から襲い掛かる高速と大質量の大剣が届く事はなかった。

その悉くは全て、彼の付与された打ち刀で弾かれ打ち落とされ叩き付けられた。

そして大上段から襲い来る触手に掴まれた大剣の振り下ろしも、彼は横薙ぎの叩き付けで完全に…弾き飛ばした。

 

「…ば…かな…」

 

「隙だラけだ…!」

 

 教会の狩人は編み出した苦肉の策も通用せず、彼は驚愕に駆られ取り乱してしまう。

そして、当然のように生んだ隙を見逃す灰の剣士ではなかった。

即座に狩人へと踏み込み、単純だが強力な袈裟斬りで彼の身体を斬り付ける。

 

「――ぐぶぅおァッ…!」

 

 防具と僅かに見せた反応で、両断される事は辛うじて免れた教会の狩人。だがその身からは更なる出血を強いられ、もはや勝負の行方は明白となる。

 

「ぐ…フゥ…ハァ…こ…こんな…ことが…あるとは…な…俺が…この俺が…」

 

 夥しい鮮血が身体より流れ出た教会の狩人は、力無く数歩後退りながら苦悶の声を上げた。仮に輸血液で回復を図ろうとも、無駄に苦痛が増すだけなのは彼とて理解していた。完全に圧倒されていたのである、灰の剣士との実力差に。

 

「殺しはセぬ。大人しく縛二付き、()()()()()()()()()情報を提供すルのだ…」

 

 狩人を追い詰める灰の剣士は、剣を突き付け武装解除と投降を警告する。この場で仕留める事は容易いのだが、下手に止めを刺そうものなら遺体は消え去り見知らぬ彼方の場にて復活を果たすだろう。何せ彼は不死だ、絶命させるよりも拘束し情報入手と行動制限を掛けた方が遥かに有益に働くのは間違いない。

 

「ク…フフフ…、成程、何処まで行っても貴様は出来損ないの範疇(はんちゅう)から逃れられんという事か…。よもや止めを刺さず投降を勧めるとはな…、それとも其処な少女に絆され地母神にでも感化されたかぁ…?馬鹿な奴よッ、例の切り札を忘れたかぁッ…!」

 

「切り札…トは何の事か…?」

 

「貴様…目は節穴かぁ!?アレが目に入らんのかッ…!?」

 

「…何も見当たラぬ…が?」

 

「とうとう気でも触れたようだな?あの()()は俺の意志で何時でも起爆できるのだぞ――って……何処にいった…な…無い…?」

 

 投稿を迫る灰の剣士を嘲笑う教会の狩人は、街ごと吹き飛ばせる爆弾を盾に優位を保とうと藻掻く。

あの爆弾がある限り、街の生殺与奪は教会の狩人側にあるも同然。そして自分の意志で何時でも起爆できる状態だ。仮に爆発に巻き込まれたとしても、自身は不死であり大した問題にもならない。未だ優位を主張する教会の狩人。

だがしかし――。

一見呆けたのかと思える灰の剣士の言葉通り、例の爆弾の姿は影も形も消失していた。間違いなくあの地点に存在した筈の爆弾、よく見れば地面が抉られた痕跡が在り持ち去られた事を示している。

これは一体どういう事か?

何者かが、持ち去ったとでも言うのか?――だとしても、容易に持ち運びできる代物ではない。粗雑に扱うだけの刺激で、起爆するよう設計された代物だ。

 

( 推奨BGM ゴブリンスレイヤー ―― MainTheme )

 

「灰剣士殿との戦いで気付かなかったか?残念だが処理させて貰ったぞ」

 

「何ぃッ、どうやってっ…!?」

 

 ジークバルドに告げられし事実に、驚く教会の狩人。

 

「先ずは、土の精霊術でチョイと地面を掘り返しただけじゃ♪」

「それでも結構重いからね、錬金術で作った秘薬で軽くして後は布で包んで運んだ訳♪」

「そこからは翼竜で運搬し、適切で妥当な地点へと落下させ爆破処理させて頂いた」

 

 狩人に対し、鉱人導師、ライザ、そして金剛石の騎士が律儀に解説をしてくれた。

 

「あの爆弾の所為で此方が動けない事を、お前が丁寧に教えてくれた。加えて起爆の危険性もな」

 

 最後にゴブリンスレイヤーが言葉を締め括る。彼等も黙って静観していた訳ではなく、秘かに起死回生の機会を窺っていた。

最初から今の数十倍の戦力を投入し、冒険者たちを戦闘不能に追いやるべきだったのだ教会側は――。この街を制圧するには、完全に戦力が足りなかったという事だ。中途半端な小細工を弄すよりも、純粋な武力を以て挑めば結果は逆転していたかも知れない。尤も、その場合では冒険者側も実力を遺憾なく発揮していたであろうが。

 

「お…己ぇ…ゴブリンスレイヤーぁぁぁ…またしても貴様の仕業かぁ…!」

 

「お前の思惑など、どうでもいい」

 

 爆弾処理の件だが、何もゴブリンスレイヤー一人の働きによるものではない。だが狩人の視点では、彼の主導で行われたかのように映っていたのである。彼に対し怒り心頭の狩人だが、ゴブリンスレイヤーは感情もなく受け流す。

ロスリック不死街の亡者の穴倉でも、彼は策を用いて小鬼獣を仕留めていた。圧倒的優位を確信していた筈だが、彼の意外な起点により灰の剣士と協力する事で小鬼獣を仕留めるという結果に至ってみせたゴブリンスレイヤー。それ以来、狩人にとっては少々苛立ちを覚える人物として記憶に刻まれていた。

(本編前夜編 第62話参照)

そして彼の何気ない事実が、僅かに残った狩人の理性を崩壊させた。

 

「お前は、ゴブリンよりも…()()()()…!」

 

「――ゴブリンスレイヤァァーッ…殺してやるぅッ…!」

 

 重傷ではあるものの片腕に宿る秘儀は未だ健在だ。狩人は蠢く触手を尖らせ、ゴブリンスレイヤーへと全速で解き放つ。灰の剣士相手になら兎も角、ゴブリンスレイヤーの戦闘力は然程高くはない。それ故、躱す事など出来はしまい。

彼はそう踏んでいたのだが、不意に多方から幾多もの矢を受けた。

 

「――う…うぐふぅぁあ…ッ!?」

 

 唐突に受けた矢の攻撃、彼は矢の方角へと視線を向ける。その先には、幾人もの森人達が矢を番え彼に狙いを定めていたではないか。

 

「我々に対する幾多もの非礼の数々…決して捨て置けません…!」

 

 現在この街に滞在している森人勢力が、此方に矢を射かけていたのである。そして彼等の長でもある『花冠の森姫』も怒りの形相を隠そうともせず、矢と共に殺意を向けていた。(ついでに妖精弓手の姿も)

普段只人とは接触を極力避ける森人勢力が街に滞在している理由、それは『聖黄金樹』が起因している事は狩人自身も理解していた。

 

( 推奨BGM ゴブリンスレイヤー ―― 悪の所業 )

 

「クックックック…ハァハハッハッハ…!そうだ…例の樹木…聖黄金樹だッ…!まだ()()()があったかぁッ…ハァッハッハッハ…!」

 

「――逃さヌッ!」

 

 度重なる斬撃に、いま受けた鋭い弓矢による痛痒――。教会の狩人は、確実に重傷を負いもはや真面に動ける状態ではない筈なのだ。

しかし彼は水を得た魚の如く勢いを取り戻し、触手を神殿の壁面へと打ち付け、それを綱代わりに神殿裏手へと逃げた。其処は、聖黄金樹が植生された区画。

彼を逃すまいと灰の剣士は即座に追跡する。

 

「おい、俺達も行こうぜ!」

「神殿の裏手かッ…!」

「あの木が危ない…!」

「――つか、あの傷でまだあんな動けるって、普通じゃないぜ教会の狩人とかっていう奴…!」

 

 二人が去った事により、残された冒険者たちも後を追い裏手へと向かう。

 

「フッハッハッハ…動くなよ、貴様らぁ…。この木がどうなってもいいのかなぁ…?」

「……」

 

 教会の狩人は、聖黄金樹を狙いを定めている。

その危惧は正しく裏手では案の定、教会の狩人が筒状の武器らしき物を聖黄金樹へと向けていた。

 

「手持ち式ノ大砲…か?」

 

「そうとも…。この程度の樹木なら、我が武器で十分粉砕が可能だ…!」

 

 彼等が追い付いた時、既に狩人は聖黄金樹を人質に取り主導権を取り戻そうと躍起になっていた。

何処まで卑劣な男なのだろう。彼のやり口に、周囲から非難の声が溢れ返る。その声は冒険者だけでなく、神殿関係者や避難民たちも含まれていた。

 

「――おぉッと動くなよ!特に出来損ないの貴様と、森人共ぉッ…!」

 

 最も接近している灰の剣士に、死角からの狙撃態勢に移っている森人勢力。狩人は彼等に対し、言葉で牽制した。

既に教会の構成員たちは、神官戦士や銀鎧の騎士率いる部隊に軒並み制圧され、残るは教会の狩人一人に陥っていた。

それでも狩人は己の優位性を固持する為、意識内から大砲状の武器である『教会砲』を用い脅迫を仕掛ける。

 

「さぁて、俺の要求の吞んで貰おうか…!この場で自害しろ、出来損ないッ!それで貴様のソウルは、俺の手中だ!オスロエスなんぞにくれてたまるかぁッ…!そして其処のお前…俺の下に来い!上位者に相応しい教育と愛情を、たっぷりと注いでやる…!」

 

 先ずは、灰の剣士と見習い神官の少女に対してだ。

当初の目的でもある『王のソウル』の奪取――。これを成す為に、王都襲撃に合わせてまで準備を整えてきたのだ。

残念だが、灰の剣士の戦闘力は想定外に高く、真正面からの戦いで奪う事が出来なかった。

ならば自害させれば事は容易に済み、幸いにも彼は生者だ。たった一度でも絶命させてしまえば、この世に干渉できなくなる。

次に、見習い神官の少女――。先ほど斬り落とした片腕からは、筆舌し尽くし難い聖性が漏れ出ていた。これは想定外の誤算で、彼女は唯者の範疇(はんちゅう)に納まらない可能性を秘めている。

何とか連れ帰り、可能であれば上位者への道を共にしたい存在であった。

別に性交に及ぼうというのではない。狩人自身、性交など獣にも劣るケダモノ以下の下賤なる行為として忌避してさえいた。

上位者に昇りつめれば、更なる高次元宇宙にて融合を果たし悲願成就に達する事が出来るだろう。

この少女には、それだけの潜在能力を感じ取っていたのである。

 

「この聖黄金樹が、どうなってもいいのかね?」

 

「うぅぅ…ズルい…凄くズルくて卑怯です…!」

 

 拒めば、教会砲で聖黄金樹を吹き飛ばす。

既に砲口は定められ、いつでも発射できる態勢に移っていた。

またもや状況は教会の狩人側へと傾き、見習い神官の少女は彼の卑劣さに歯噛みする。

神殿内の制圧は完了し、手の空いた者は教会の狩人に狙いを定めいつでも動ける体勢で臨んでいた。だが、大砲まで所持していたとは誰も想定しておらず、弓術に長けた森人勢力も迂闊な狙撃は自制せざるを得なかった。

 

「…分かりました、貴方に従います。…でもお兄さんは見逃してあげて下さい…!お願いします…!あたしの事は好きにしていいですから…どうか、お兄さんだけは…どうか…どうかッ…!」

 

 自分も神殿の一員だ。物心ついた時から神殿で育ち、言うなれば自分の家も同然なのだ。本来なら自分達が神殿を…家を守るべきなのに、殆ど部外者でもある冒険者…特に最愛も同然の灰の剣士に全てを押し付けてしまうという為体(ていたらく)

意を決した彼女は、恐る恐る竦む足を前へと進ませ狩人の要求に従う意思をみせた。

 

「――ま、待って!私も行くから、はやまらないでッ…!」

 

 暴挙とも言える見習い神官の少女行動を見かね、葡萄肌の少女も後に続く素振りを見せた。こんな幼い少女が一人得体の知れない、しかも今の灰の剣士以上に害悪な男へ向かおうとしているのだ。そんな事を断じて容認できる筈もなく、司祭長を始めとした神殿関係者も不意に動きを見せた。

 

「――残念だが却下だッ!少しでも怪しい動きを見せてみろ、即座に爆砕する!そして貴様は早く自分の首を掻っ切れッ!その忌々しいサーベル(打ち刀)でなッ!」

 

「――そ、そんな…お兄さんは…お兄さんだけはァ…!」

 

「安心しろ…、コイツの遺体も持ち帰り、然る後に不死人として蘇生させてやる。尤も、この私の傀儡としてだがねぇ…ファっハッハッハ…!」

 

 どうやら灰の剣士を生かす気はない教会の狩人。少女の懇願など完全に無視し、葡萄肌の少女を含めた神殿関係者に対しても動きを牽制した。

そして灰の剣士が自害すれば、その遺体を持ち帰り不死人として蘇生を試みるとも声明を出す。

 

「く…悔しい…!こんな悪者が勝つなんて、あってたまるもんかッ!」

「我らが一堂に会しておきながら、静観するだけしか出来んのか…!」

 

 再び主導権を握ったと確信した教会の狩人は、高笑いを上げ普段の余裕を取り戻す。そして灰の剣士に対し、自害を急かした。

その状況に、黒髪の少女とソラールも悔し気に歯軋りする。

だが灰の剣士は特に反応を見せる事もなく、恐る恐る歩を進める少女に語り掛けた。

 

「その必要はナい。既に運命は決しタ」

「…えっ?」

 

 行く必要はないと語り掛け、少女も困惑しつつも動きを止める。

 

「教会の狩人よ…、残念だが俺のソウルも彼女もくれてはやラぬ。この勝負……、貴公の負ケだッ…!」

 

「この状況に絶望したか?現実も見えんとはな」

 

「直グに解る」

 

「…何?」

 

 突然何を口走ったのか、この男は?

とうとう現実さえ認識出来なくなったとみた教会の狩人だが、灰の剣士は何故か上に顔を傾けている。

丁度、教会の狩人の頭上にあたる角度だ。一体何があると言うのか?

それに周囲をよく観察してみれば、誰もが自分の頭上へと視線を傾け何やら騒ついているではないか。

自身の置かれた現状に、訝しむ教会の狩人。

そこへ虚空から謎の声が、神殿内へと響き渡る。

 

――歪に溺れ上位者を騙るに飽き足らず、次世代の黄金樹にまで食指を伸ばすとは何たる汚物の極みよ…!呪われた血に酔う憐れな狩人、その愚かな野心の火に身を焦がすか…。ならば下賤な野心の火ごと、貴様の忌みを潰してやろう…!

 

( 推奨BGM エルデンリング ―― マルギット )

 

灰色の空の中、虚空より降り掛かる得体の知れない声。しかし声の方角は意外にも明確で、狩人以外の人々はその方角へと意識を向けていた。

 

「な…何者ッ…!?」

 

 漸く異変に気付いた狩人も、自らの直上に当たる位置を見上げるも既に彼の運命は決まっていた。

 

「――グルゥァアァッ…!?」

 

 気が付いた時には、もう遅かった。

上方より飛来した黄金に輝く短剣が、教会砲を持つ()()()()()()()()()()()()()()()のである。

触手の断面からは白い液体が止めどなく溢れ、教会砲は地面へと落ちガランゴロンと重厚な金属音を立てる。

切断されたからなのか黄金の短剣が特殊な魔力で作用したのか定かではないが、斬り落とされた触手は通常の腕へと変じ元に戻る。

だが根こそぎ切断されたのが災いしたのだろう。狩人の腕も斬り落とされた状態で元に戻り、夥しい程に血が噴き出していた。

 

因果応報とは(まさ)にこの事。

見習い神官の少女の腕を切断した報いが、今この場で彼に返って来た。

あの時の少女と同じく、今度は狩人自身が既に無い片腕を抑え激痛に喘いでいる。

 

「お…己ぇ…、次から次へと…!」

 

 苦痛に苛まれながらも、狩人は懐から輸血液を取り出そうと試みた。

だがそれは叶う事なく終わる。

突如にして地面を伝う激しい振動と泥に塗れた水しぶき――。それは声の主が高所から飛び降り、()()()()()で教会の狩人を()()()()()()()()()事で発生していた。

戦鎚を叩き付けた衝撃は凄まじく、巻き上げられた泥水が周囲にまで飛散する。当然、その影響は周囲の人々にも及び、皆は我が身を両手で大袈裟に庇った。

皆は唯々絶句し、一体何が起こったのかも碌に自覚しないまま幾許かの時間が過ぎ去った。

 

「……あ…アイツ…間違いない…、…捻じれ杖の男だッ…!」

 

 皆が閉口したまま状況を見守る中、最初に言葉を発したのは同期戦士。水しぶきも収まり戦鎚を叩き付けた地点には、ボロボロの外套を纏った一人の男が佇んでいた。

同期戦士の言う通り、手には異常に長い捻じれた螺旋状の杖を握り、もう片方の手には黄金に輝く戦鎚を手にしている。だが杖はともかく、戦鎚の方には実体感が無い。どうやら魔法の類に付随する様だ。

 

「あ…あたしも見たわ…!アイツよ、あの集団を皆殺しにしたのは…!」

「今回は一人だけ…みたい…」

 

 捻じれ杖の男を知っていたのは、妖精弓手と半森人の少女野伏も同様である。この二人も同期戦士と行動を共にし、件の男と遭遇していたからだ。だが当時とは違い、部下らしき黄金の騎兵と漆黒の騎兵を引き連れてはいないかった。

 (本編前夜編 第123話参照)

一時的に静まり返っていた神殿だが、再び騒がしさを取り戻す。突如にして不気味な声と共に高所より飛び降り現れた、捻じれ杖の男。

また黄金色の戦鎚を高所から叩き付ける事で、教会の狩人の姿は影も形も消失していた。

いや正確には、捻じれ杖の男の足元には、消えつつある僅かな塵灰が残り、やがてそれも完全に消失した。

つまり教会の狩人は、この男に叩き潰されたという事になる。あまりに一瞬の出来事だ、彼は抵抗は疎か悲鳴を上げる事もなく絶命したに違いない。

思わぬ形で決着してしまった、教会の狩人との死闘。灰の剣士個人としては、彼を生け捕りにし情報提供と拘束を画策していた。そもそも下手に狩人を絶命させてしまえば、不死人の特性で見知らぬ地にて復活を果たすのは分かり切っている。それは実質放逐にも等しく、封印に近い形で拘束した方が活動制限にも繋がるからだ。だがあの狩人は狡猾で悪知恵も働く男だ、拘束されるぐらいなら舌なり噛み切り自害する事を選ぶだろう。――であれば、どのみち止めを刺す事も選択肢の一つとして入るのだ。

 

「何あれ…物凄い迫力…」

 

 さて問題は、眼前の男だ。

裸体に纏うボロボロの外套、そして異様に長い螺旋状の杖と黄金に輝く戦鎚と言う出で立ち。あの教会の狩人とは真逆な程に見窄らしい装備だが、何処となく漂う威厳と圧力に、ゴブリンスイーパーを含め周囲の人々も気圧されていた。

先ほど同期戦士を始めとした妖精弓手や少女野伏が口にした『捻じれ杖の男』なる人物――。一体何の目的で、神殿内に侵入したというのか。

そしてどういう訳か、この捻じれ杖の男は、灰の剣士へと注意を向けていた。

 

「……」

「……」

 

 捻じれ杖の男と灰の剣士、両者は互いに無言のまま対峙する。今だ黒いソウルを纏わせ打ち刀を手にしていた灰の剣士だが、意外にも自ら鞘へと納刀し禍々しい黒いソウルも完全に消失した。どうやら戦闘の構えを解き、戦う意思はないとも判断出来る。

灰の剣士が戦闘体制を解いたのを確認し、捻じれ杖の男も黄金色の戦鎚を消失させた。やはり戦鎚は魔法の類の様だ。

しかし両者とも完全に警戒を解いた訳ではない。尚も無言で睨み合う二人――。

だが埒が明かないと判断したのか、金剛石の騎士が前へと踏み出す。

 

「卿は何者か、何が目的だ!?」

「……」

 

 国王でもある金剛石の騎士――。彼も捻じれ杖の男と同様に、言いようのない気品と高潔さを兼ね備えた人物だ。事情を知らない者は、彼を何処かの貴族と思い込んでいた。

彼の質疑に応えない捻じれ杖の男だが、やがて悠然と口を開く。

 

「忌み鬼…とでも名乗っておこう」

 

「忌み鬼…?卿は、魔神軍の縁の者か?」

 

 恐らく本名ではないだろう。『忌み鬼』なる名も、便宜上名乗っているだけに過ぎない可能性が高い。

しかし身に纏う威圧感は、並大抵の者では到底身に付ける事は出来ない。先ず唯者ではない。これ程の存在が未だ在野に放たれていたとはどうにも考え難く、金剛石の騎士は魔神軍との繋がりを問う。

尤も、律儀に答えてくれるとは彼自身も思ってはおらず、捻じれ杖の男――改め『忌み鬼』は、静かに踵を返し去り行く素振りを見せた。

だが去り際に再度振り返り、静かに言葉を発したのである。

 

「四方世界の諸君、聖黄金樹……()()()()

 

 その言葉だけを残し、彼は人々…取り分け灰の剣士へと指をさし、転移の術で姿を消した。

 

「転移の術まで扱えるとは、忌み鬼…唯者ではないな…!?」

 

 忌み鬼が去ったと同時に、偶然の一致か雨も止み灰色の雲の隙間から一筋の光が地上に柔らかく突き刺さる。

転移の術は無論、黄金色の戦鎚や高所から異常な跳躍力で飛び降りた事と言い、明らかに並の者ではない『忌み鬼』なる存在に金剛石の騎士は意識を掻き乱されていた。

 

「……」

 

 また灰の剣士も無言ながら、既に居ない忌み鬼の場所へと視線を傾けたままだった。

 

( 推奨BGM ゴブリンスレイヤー ―― 忘れじの奏 )

 

こうして仮面の錬金術師と教会の狩人が仕掛けた襲撃事件は幕を閉じたのだが、まだ肝心な問題が残っていたのである。

 

『武器を捨てろッ…!』

 

 気が付けば、灰の剣士は複数の冒険者や衛兵に包囲されていた。皆が皆、怯えと敵意を混在させた複雑な表情を浮かべ、剣や槍を彼に突き付けていた。

 

『早くしないか、この邪悪な悪魔めッ…!』

 

 一人の大柄な冒険者風の男が、槍の切っ先を触れるか触れないかの位置で彼に突き出し威嚇している。彼には覚えがある、確か翠玉等級の実力者だったと記憶している。

だがそんな彼でさえ、槍を握る手は小刻みに震えていた。

 

「――嫌、放して、放してよ!何で、何で灰君が捕まろうとしてんのッ!?」

「――みんな、事情は分かってる筈でしょ!?彼はこの神殿を守る為に――」

 

 神殿を襲撃したのは間違いなく、あの二人の男だ。それは言い様のない事実。

そして灰の剣士は、身動きの取れない彼等の代わりに精神を病みながらも、たった一人で戦い抜いたのだ。彼自身の思惑はともかく結果的に神殿を守り抜いた、これも紛れようもない事実。

しかし彼は今、大勢の衛兵や冒険者たちに取り囲まれ敵意と武器を突き付けられているという有様。

 

その事に我慢がならないライザやスイーパーは猛抗議の声を上げ、彼の下に駆け寄ろうとするも取り押さえられてしまった。

それは何も彼女二人だけはない。彼を慕う者は、皆挙って同様の動きと結果を辿ってしまう。

 

だが体格の小さい幼子たちは、制止の手を擦り抜け彼の元へと駆け寄った。

 

「お兄ちゃんに何するのぉッ!?」

「剣士様には触れさせない!」

「この御方は、私の大事な人!」

「お兄さまに近付くなぁ…!」

「あたしの手でお兄さんを守ります…今度こそッ!」

 

 何と、黒髪の少女、見習い剣士、見習い賢者、幼夢魔、見習い神官の少女が灰の剣士へと馳せ参じ衛兵たちの前に立ちはだかったのであった。

 

「お前たち、何の真似だ!?馬鹿な事は直ぐに控え、道を空けろッ!」

 

 衛兵や冒険者たちを率いていたのは、銀鎧の騎士で彼は王統府に連なる金等級の冒険者にして近衛将軍の立場でもある。

灰の剣士を守るかのように陣取る5人の少女に対し、呆れと威嚇の意味を含め道を空けるように要求する。

 

「どうしてですか!?お兄さんは、あたしを…皆を助けようと戦ったのに、どうしてッ…!?」

「そうだよ、おかしいよッ!悪いのはさっきの二人で、お兄ちゃんじゃないでしょッ!?」

 

「子供の出る幕ではない、庇い立てするなら君達も同様に処罰せねばならん…!分かっているのだなッ?」

 

 本音で言えば子供…況してや年端も行かぬ少女に手荒な措置は施したくはない。何とか穏便に退いて貰おうと銀鎧の騎士は、言葉での説得を試みたが少女たちは頑なに引き下がろうとはしなかった。

このままでは時間ばかりが過ぎ去ってしまうのだが、彼等には彼等の事情というものがある。

放置する訳にはいかないのだ、この灰の剣士なる男を――。闇に満ちたソウルを噴出しただけでなく、自らを『ロンドール闇の王』と名乗り()()()まで使用する始末。

お陰で住民や事情を知らない冒険者たちは完全に怯え切ってしまい、今や灰の剣士に対し敵として認識せざるを得ない程に追い詰められてもいたのだ。

それでも頑なに退こうとしない少女たちの前に、今度は金剛石の騎士が現れた。

 

「残念だが、この男は闇の力を発現させるだけでなく『闇の王』などと自ら名乗り出てしまった。この者の事情は察するに値するが、それでも()()()()として断じて容認できぬ!民を預かる者として、牽いては国王として、王国臣民にに対しケジメを付けねばならんのだ!」

 

「――へ、陛下!?何も、この様な時に名乗らずとも…!?」

 

「え…もしか…して…王様…?」

「「「「「――ええぇぇええぇぇッ……!!?」」」」」

 

最初から事情を知っている者は、多いようで意外と少ないものだ。やはり大半の人々は、金剛石の騎士を国王だとは知らなかった。

彼の側近である銀鎧の騎士も、よもやこのような所で正体を明かそうとは想像だにしていなかった。

少女5人は元より、周囲の群衆も大声で驚愕に彩られた。神殿の片隅では状況を静観していた、銀髪の侍女と赤毛の枢機卿が額を手に当て天を仰いでいる様子も見られる。

そんな周囲の反応など歯牙にもかけず、金剛石の騎士こと国王は少女たちを諭しにかかった。

 

「国を預かる者として、この男の業を()()()()()だけで見過ごせば、それは国全体の『法』を蔑ろにする事と同義なのだよ。卿らは、まだ若く幼い。今はまだ理解出来ぬであろうが、齢を重ね世に立身するにつれ必ず身に染みるようになるだろう…世界の正道と不条理をな」

 

「「「「「……」」」」」

 

実際、国王自身も理解には及んでいたのだ、()()()()()()()()()を。何せ彼の素性は、助言者を通じ彼の時代についての知識も併せ持っている身だ。彼を守る様に立ちはだかる5人の少女よりも、遥かに状況を理解しているという自負もある。

だが、それはそれ、これはこれ――。

個人の感情と、この国の法をない交ぜとし混同しては、それこそ国家元首としての存在意義そのものを問われかねない案件でもあるのだ。

仮面の錬金術師が見せた立体映像は、国王自身も目に焼き付け、灰の剣士の苦しみも自分なりに一定の同情さえ抱いていた程だ。

しかしだ――。

国法に私情を挟み感情赴くがまま秩序を捻じ曲げては、国民に対し()()というもの付かなくなる。それだけは何としても避けねばならないのだ。

今は国家そのものが崩壊しようという危機に瀕し、ただでさえ風前の灯火も同然の秩序さえ消え行こうとしているのが現状だ。

尚更、国家元首である自身が法を厳守し、民に示しとケジメを付けるのは寧ろ当然の責務ではなかろうか。

 

「卿らは、皆揃って良い目とソウルを内に秘めているな。其処な者は、太陽の如き勇気を――。其処な者は、強い闘志と剣技を――。其処な者は、聡明な思慮と知性を――。其処な者は、混沌勢でありながら善良なる心を――。そして…其処な者――」

 

 尚も立ちはだかる5人の少女に向け、国王は内に秘めた可能性を感じ取り言葉で示す。

黒髪の少女に対し、見習い剣士に対し、見習い賢者に対し、幼夢魔に対し、そして灰の剣士に最も近くに居た見習い神官の少女を目にした国王は暫しの間、彼女と視線を交差させた。

 

「……その類まれなる清き精神と慈悲に満ちた心、多くの人々の支えにならん事を。そして其処な男を大切に想うのなら、尚の事この現実というものを深く学びたまえ。今は、それが卿の成すべき使命である」

 

「……」

 

 最後に見習い神官の少女に対し、意味深げな言葉を投げ掛けた。一方、少女の方はというとポカンと呆気にとられながらも何とか彼の言葉を吞み込もうと意識をグルグルと回転させていた。

 

「さぁ、状況を理解してもらえたのなら道を空けて頂きたい。私としても、この剣士を()()()()()()()()()()()()。だが何事にも規律と法を示さねば、それこそ秩序という意義を見失ってしまう。その上で卿ら一人一人が進むべき道を見出し、この世界を良き方向へと導いて欲しいのだ。その剣士が背負う不幸など生まぬ世界に、卿らが世代を重ね語り継ぎ築き上げてくれないだろうか…?」

 

「「「「「……」」」」」

 

「私からもお願いする。貴公らの純粋な魂は、この世界に希望に満ちた光をもたらすだろう。私のような血と闇に塗れた人間が蔓延るのは、未だ世界が未成熟な証なのだ。故に、次代を担う貴公らに希望を託したい。…そしてありがとう、こんな私などを守り抜こうと庇ってくれて…本当に有難う…!」

 

「お、お兄ちゃん!?」

「「剣士様ぁッ…!」」

「お兄さま…」

「お兄さん」

 

 国王の言葉に少女たちは困惑し戸惑うも、後ろから灰の剣士までもが諭しにかかる。流石に彼からも言葉が来るとは思っておらず、少女たちは後方へと振り向いた。

最後まで自分を庇い立てしてくれた彼女たちに感謝の言葉を掛け、彼は国王の元へと歩み寄る。

 

「……」

 

 少女たちだけでなく周囲が固唾を飲む中、灰の剣士は徐に武器の類を外し国王へと跪いた。

特に納刀した打ち刀を両手で丁寧に掲げ、国王の眼前へと差し出す。

 

「……」

 

 また国王も無言で打ち刀を両手で丁寧に受け取り、一歩下がり慎重に鞘から刀を半身だけ引き抜き何度も深く頷いた。

 

「……良いサーベルだ」

 

「恐縮です」

 

 若干の刃毀れも散見されたが、数々の難敵を討ち屠った灰の剣士という男の歴史が確かに刻み込まれている事を、国王は改めて痛感する。

 

――いつものお兄さんだ…。

 

あの黒いソウルを噴出していた時、確かに戸惑いも覚えていた見習い神官の少女。

しかし今見た彼は、普段通りの彼へと完全に戻っていた事を確信する。

同時に、()()も感じ取っていた。

 

――まるで黒い鳥みたい…あの時観た、何もかも黒く焼き尽くす死を告げる鳥みたいに…。

 

以前、劇場で鑑賞した映像劇を思い出す見習い神官の少女。あの内容は、今も彼女の中で色褪せず記憶に焼き付いていた。特に黒い鳥に関しては顕著で、先ほど豹変した灰の剣士と妙に姿が重なってしまうある。

(本編前夜編 第118話参照)

 

少女たちの見つめる中、灰の剣士と国王は無言で互いの視線を交わしていたが、やがて国王は銀鎧の騎士の部隊に厳命を下す。

 

 

「――連れて行けッ!!」

 

「――ハッ!」

 

 命を受けた銀鎧の騎士は、灰の剣士に手枷を嵌め複数の部下と共に彼を引き連れ神殿を去った。

 

「こんなの…こんなのって…あんまりです…!これじゃあ剣士さんが、ただの悪者扱いじゃないですか……」

 

 連行される灰の剣士の背を見つめながら、銀髪武闘家は目尻に涙を浮かべ悔し気な声を零していた。

彼女だけではない、複雑な表情で彼の背を見送っていたのは――。

これまで彼と苦楽を共にしてきた関係者たちは、皆が皆、それぞれの思惑で彼の背を見つめていたのである。ごく一部は、不信感と安堵さえ募らせてはいたが――。

だが彼等にはどうする事も出来ない領域なのだ。流石に国の権力が及んでしまえば、彼等に踏み込める余地など残されてはおらず、感情赴くがまま蛮勇など振るえば忽ち犯罪者として国を追われる立場へと追いやられる。

 

何処かへと連行された灰の剣士。その彼に意識が集約されていた事もあり、誰一人気付く者は居なかった。

神殿の一画に在る一つの尖塔から一連の様子を見届けたいた二人組が居たのである。

その内の一人は、漆黒の鎧兜を纏いながらも女性が用いるドレスを外套として身に付けていた。

 

「やはり…貴公だけであったか…。()()()()()()

 

 もう居ない灰の剣士へと意識を向ける、一人の女――。

 

「……」

 

 もう一人の人物は、アストラの上級騎士装備を纏いながらも、本来青いサーコート部分のみ黒色へと変えられていた。

実は上級騎士の人物も女性であり、彼女は長い黒髪の少女を眼下に納めていた。

この二人、ロンドール黒教会のユリアとアンリである。

灰の剣士の居ない場などに用はない。

ユリアとアンリは周囲に気付かれる前に、姿を早々に消した。

 

 

灰の剣士がこれまで積み重ねてきた実績は数知れず――。彼の関係者たちは、充分にそれを理解している。

しかし彼を快く思わない者たちも確かに存在していたのも確かだ。そういった者たちは、無責任な心無い言葉で灰の剣士を口々に貶めていた。

中でも一人の軽薄そうなチンピラだろうか。

余りに場を弁えない灰の剣士に対する侮辱の数々――。

それを耳にした一人の冒険者が、怒りに身を任せ手甲入りのパンチで殴り掛かった。

その冒険者は無言であったが安っぽい鉄兜の奥からは暗い赤の眼光が鈍く灯っていたのを、殴られたチンピラは一生忘れる事が出来ないと後に語っている。

 

その冒険者とは、ゴブリンスレイヤー。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

エーブリエタースの先触れ

 

かつてビルゲンワースが見えた神秘の名残。

 

上位者の先触れとして知られる軟体生物。

精霊を媒介に見捨てられた上位者、エーブリエタースの一部を召喚するもの。

 

この邂逅は、地下遺跡に宇宙を求めた探求のはじまりとなり、それは後の「聖歌隊」に繋がっていく。

血と腐臭に塗れた彼の世界とて、精霊は確かに存在する。

尤も、人類種にとって益をもたらすとは限らないのだが――。

 

先触れに見えた狩人は、初めて知覚したのだ。

上位者は実在しているのだと。

 

 

黒炎

 

覇王ウォルニールが深淵に落ちて後、墓守となった呪術師たちが見出した呪術。

 

手元に大きく黒い炎を発生させる。

 

深淵より生じる黒い炎は陰を生まず、何者も分かたないという。

それは人間性の火であると。

 

神狩りとしての黒き炎は深淵へと沈み行き、長き時を経て再び世に降臨した。

尚も残りし、神狩りの火。

嘗ては真なる死をもたらす、運命の死を宿していたという。

 

 

 

 

 

 




え~…罪人認定された灰の剣士。まぁ、あれだけ闇の力を見せてしまったので。しかも、大勢の一般人が見ている前で。流石に国王も、為政者としての役割がありますので放置するなどという選択肢は取れない訳です。(一応、事情は察してはいるのですが)

ここでちょっとしたタネ明かしを――。
以前、剣の乙女に『善良なゴブリン』などと発言し怒りを買った灰の剣士。勿論彼女の前で、その様な発言は万死にも等しい愚行なのは、私自身も承知の上でした。
しかし敢えて彼にそうさせた理由は、たった一つだけです。
それは、見習い神官ちゃん(後の女神官)の好感度を何とかしてゼロ或いはマイナスまで下げようと画策していた事が理由の全てです。
こうでもしないと現時点での彼女、原作開始の時点でゴブリンスレイヤーではなく、確実に灰の剣士について行く筈だからです。
幾ら話の流れだとしても、少々好感度を上げ過ぎたなと反省しております。
ゴブリンスレイヤーに付いて貰わないと、原作の大筋が大きく乱れてしまう可能性大!
結局、見習い神官ちゃん(後の女神官)の好感度は、下がるどころか寧ろ上昇するという裏目に至ってしまったわけですが…。
敬愛する剣の乙女との確執を生み、それ噂が地母神神殿に広まる事で、先ず彼女の好感度を下げゼロに近い状態へと戻す。その後、今回の騒動であるダークソウル発現。
これを目の当たりにした少女は、灰の剣士に対し完全に見切りを付け危機感まで抱き距離を置くようになる。そういう寸法でした。
そうなれば、原作開始時点で灰の剣士が街に留まっていたとしても、彼女はゴブリンスレイヤーを選ぶと思いますので。
だが実際よく考えてみれば彼女の性格上、嫌悪感を抱くどころか却って更生させる方に動くのではないでしょうか。もともと善性の強い子ですから、見捨てる位なら最後まで寄り添う方が彼女らしいのかなと…。

ウ~ン…思い描いていたのと違う展開になってしまった。
まぁ、これまでの経緯で途轍もない程に親密に仲に発展してしまったので、仮に彼女を無理やり汚した位では、多分彼女の心は離れないと思います。
(まずそんな事を仕出かす灰の剣士ではありません…念の為)

このままの関係性を維持しつつ、どうにかしてゴブリンスレイヤーへ同行する方向にもっていくか。
若しくは、灰の剣士を選ぶ事で、原作の流れを大胆に変えてしまうか。
ぶっちゃけ、灰の剣士とゴブスレが再び組んでいれば問題は解決するんですが、現時点だと通常の小鬼(100や200程度)如きでは二人を止める事は不可能なので一方的過ぎるしなぁ…などと迷ってもいます。
どちらにせよ、今の構想段階ではゴブリンスレイヤーを選ぶ方で物語を練っています。(当分先になりますが)
灰の剣士に対する見習い神官ちゃん(後の女神官)の好感度が、ほぼカンストしていますので様々な方法を考えています。
今後の流れ次第ですが、若しかしたら灰の剣士を選ぶ展開もゼロではありません。
(少しばかり可能性は低いですが)

もし提案、意見などございましたらメッセージなど送って頂けると、大きな励みとモチベーション維持にも繋がりいい案が思い付くかもしれません。

長文失礼いたしました。

如何だったでしょうか?
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。  
デハマタ。( ゚∀゚)/

フゥ…こんな長い後書きは初めてだ…W

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