ちょっと遅くなりましたが、何とか完成。
――と言っても少々短めです。
では投稿致しますドゾ。( ゚ ω ゚ )
裁判や議会、オークションで使用されるハンマー(木槌)とベース(打撃板)。
木槌を打撃板に打ち付け、その甲高い音で周囲の注目を集め注意喚起や鎮静させるために使われる。
罪と罰は等価なものでなければならない。
しかし世界とは理不尽に溢れ、覚えのない罰のみを背負う者たちは後を絶たない。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
張り詰めた空気、集約される鋭利な視線、そして何よりも此方に寄せられる疑念に満ちたソウルの数々。
それらは全て一人の罪人、灰の剣士に向けられていた。
ここは地母神神殿の礼拝堂――。
本来なら敬虔な信徒が集まり、神聖な祈りを捧げ神々の恵みを称える神聖な場。
しかし此度の待つ役割は違う――。
裁定の場として、今は機能していた。
「これより、灰の剣士の裁定を執り行うッ!皆の者…静粛にッ…!」
巨大な地母神を模した彫像が見降ろす中、壇上の上に立ち声高らかに宣言するのは、王国の元首である国王にして金剛石の騎士。
元来、西方では罪人を裁く役割を与えられているのは『剣の乙女』である。
しかし此度の裁定は非常に特殊な状況でもあり、国王自らが役割を担うという極めて異例中の異例でもあった。
法廷でも使われる小型の
その音と国王の宣言により、周囲は一瞬で静まり返り礼拝堂に相応しい荘厳な空気感が漂う。
「先ずは、罪人である灰の剣士…もとい、『火のない灰』の素性について述べさせて頂く…!」
一冒険者である灰の剣士――。彼の素性を知っている街の住民は、驚く程に少ない。冒険者の界隈では、それなりの名の知れた存在でもあるのだが、街の住民としての彼は殆ど無名も同然である。
また現在は、避難民として他所の住民までもが大勢流入している状態だ。
恐らく、彼という人物を知る者など皆無にも等しい。
そこで来訪した群衆にも認知してもらわねばならない、灰の剣士という人物を――。
身体上の特徴に始まり、現在の身分や職業といった社会的立場、そして冒険者としての活動と功績などを、次々と国王は述べゆく。
これまで積み重ねてきた灰の剣士という男の功績――。
庶民目線では今一浸透し辛い内容ばかりだったが、決して小さな実績ばかりではない事は理解してもらえた様だ。
特に今も神殿にて植生されている『聖黄金樹』などは顕著な一例だ。
今も世界広く分布している『赤黒い空と赤爛れた陽光』の脅威から、この街を中心に近域を守護している神聖なる樹木。
その苗木を持ち帰ったのが、いま裁断の場に立たされている灰の剣士だと判明し、礼拝堂内は僅かながらに
これだけを基準に判断すれば、灰の剣士は罪人どころか『英雄』として扱われても不思議な話でなかった。
「何だよ…これじゃあ、街の英雄じゃないか…」
「何処が罪人なんだよ…。寧ろ『勇者』として称えても…」
「だけど…、これって裁判よね…?」
現に群衆の中からも、彼を英雄視する者まで現れ始めていた。
俄かに騒めく群衆の中、国王の声が響き渡る。
「――しかしであるッ!数々の功績を上げたこの者は、闇の力を発現させた挙句『ロンドール闇の王』などと自称し、この街…ひいては我が国の士気を著しく挫くという愚行を犯した。この罪は、決して看過できるものではない…!」
数々の功績を積み重ねた事は明確な事実ではあるのだが、先日この神殿で内なる衝動を解放させた灰の剣士。
その纏う彼のソウルは、異常なほどに禍々しく漆黒に満ち見る者全てを恐怖に陥れていた。
しかも戦いなどとは無縁である一般人でさえ、恐怖に慄いていた位なのだ。
その邪悪なる禍々しさは、相当強烈であったといえた。
しかもそれだけではない。この男が『ロンドール闇の王』などと自称した事が、罪に問わねばならない最大の要因でもあるのだ。
そもそも現在、この国の『王都』は制圧され『赤黒い空』の元凶と化しているのだが、その襲撃犯が『ロンドール黒教会』なる組織だ。
それは伝令兵のみならずロロナ率いる錬金団からの証言でも明らかで、既に街の住民にも周知されていた。
灰の剣士は『ロンドール闇の王』とも自称している為、街の住民は疎か一部の冒険者にも猜疑の目が強まっていたのである。
赤黒い空と王都制圧の元凶となった『ロンドール黒教会』と『闇の王』なる存在。
正常な思考を持つ住民なら、彼等を許そうと考える者は先ず居ない。
「じゃあ、やっぱりこの男、敵側なのか…?」
「味方と見せかけた、混沌勢…!?」
「早く、早く、コイツを裁かないと……」
先ほどとは打って変わり、灰の剣士を糾弾する声が上がり始めた。
「静粛に!この者は、『闇の王』を自称した事は厳然たる事実である!…しかし――」
だがそれも束の間。
国王の一喝で周囲は再び沈黙し、彼とロンドールとの関係性が明かされた。
灰の剣士は、ロンドール黒教会に協力を強要され不承ながら従っていた。
その経緯もあり、彼は闇の力を会得するに至った。
此度の『闇の王』発言も、ロンドールに強要されたとの事。
それ故、王宮に居座っているであろう『現・闇の王』と灰の剣士は別人であり、今の彼はロンドールとは敵対関係にある。
「これ等は、先日の取り調べと尋問の結果、全て判明に至った次第だ」
かなりの
流石に今この場で、彼の素性を包み隠さず明かしたとしても、真に理解出来る者は片手指で数える程しか居ない筈だ。
これでは却って現場の混乱を招き、今後の計画と活動に支障が生じてしまう危険が生じる。
そういう懸念も働き、国王、剣の乙女、司祭長、灰の剣士は、昨晩の隠し部屋にて司法取引を行い捏造された事実が公表したのである。
「そ…そうなんだぁ…、灰君はロンドールとか何とかの仲間じゃないんだね…」
ロンドールとは敵対している。
この事実が判明しただけでも、ライザは一先ずの胸を撫で下ろす。
またライザだけでなく、銀髪武闘家やルルアも同様の反応を見せていた。
「――なれどッ…!この者が闇の力を発現させ、民衆と我が国の士気を大きく削いだ事は否定できぬ…!よって――判決を言い渡すッ…!」
異議申し立ても介在させず、弁護人も無し、そして裁判官を代行する国王主導の下で全てが執り行われた裁判。
史上類を見ない程に特異な裁判でもあり、極めて簡略化された工程かつ短時間で判決が言い渡される段階へと移行する。
「有罪ッ…!」
ただ一言――。
灰の剣士は
「そん…な…うう…おにい…さん…」
国王の宣告を耳にした見習い神官の少女は、そのまま膝から崩れ落ちようとするも傍らに居た神官長が支える。
「しっかりなさい。結末を最後まで見届けるのも、想い人の務めですよ」
「は…はい…」
この少女に出来る事は何も無い。
心より慕う最愛の想い人が、罪に問われ正式に『罪人』と化した事実。
今の彼女の心で、その現実を受け止めるのは些かに重いものがあった。
だが神官長の言うとおり今更どう足掻いた所で判決はもう覆らず、最後まで結末を見届けるしか出来ないのだ。
少女は、膝をガクガクと震わせながらも辛うじて自分の体重を支え、灰の剣士の方へと向き直る。
また少女だけではない。
彼を慕う少女や女性は他にも存在し、皆が悲痛な表情を浮かべていた。
「引き続き、刑罰を宣告する!」
彼女らが項垂れる中、更に国王が罪状に伴う刑罰が下された。
1つ、現時点での冒険者等級を『白磁等級』へ降格。
1つ、この街での冒険者活動の一切を禁ず。それに伴い西方辺境街の
1つ、灰の剣士は流刑へと処す。流刑地は『故郷の流れ着く地ロスリック』であり、其処に限り自由な活動を許可。また活動内容の是非は、追って沙汰する。
1つ、全ての刑罰を終え任務の完遂を確かめた後、改めて汚名の返上および
尚、灰の剣士は幾つか任を帯びている事情もあり、刑の執行は1週間の猶予を設けるものとする。
………
……
…
あまりに短くも濃密な裁判は、矢の如き早さで閉廷した。
彼の罪状と刑罰に、意を唱える者は当然の如く現れたが結果は何も覆らない。
閉廷の後、そのまま灰の剣士は何処かへと連行され、周囲の人々は直ちに解放された。
これまで彼と行動を共にしてきた仲間達は、この処分に納得している者は少ない。
だが、ソラールやジークバルドといった者たちには何処か腑に落ちた様な態度を見せていた。
暫くは、灰の剣士について言及し合っていた街の住民達だが次第に関心も薄れ、数時間後には別の事柄に関心を移す。
街は取り敢えずの平穏を取り戻していた。
……
ここは地母神神殿に設けられた、司祭長専用の私室兼執務室――。
灰の剣士は、この部屋に連行されていた。
効果の程も疑わしい形だけの手枷は外され、彼はソラールやジークバルドと共にソファーへと座らされる。
その彼等の向かいには、国王、剣の乙女、司祭長、ギルド長、監督官が対面する形で腰掛けていた。
また部屋の片隅には、剣の乙女直属の神官戦士や王統府側近なども警備と立ち合いを兼任し控えている。
彼に身を案じる監督官の心配気な表情、不信感を露にする一部の衛兵や神官戦士たち。
執務室に相応しく調度品や内装も厳格さが目立ち、かなりの堅苦しさを演出していた。
当然、部屋内の空気も相応に緊張に満ちている。
「さて、卿らを此処に呼んだのは他でもない」
国王による開口一番――。
灰の剣士だけでなく、ソラールとジークバルまでもが呼び出されているという状況――。
そして、冒険者ギルドの重鎮が此処に同席している。
この事からも、彼が何を述べようとしているのかは容易に想像がついた。
「卿らに新たな認識票を与える」
「お納めください、お三方」
予想通り冒険者活動に付随した事柄だ。
国王に促され、ギルド長から冒険者の等級を現す認識票が長卓の上に差し出される。
それを目にした3人――。
またソラールとジークバルドは、認識票に記された等級に言及する。
「銀等級…ですか」
「如何にも。規定上は、正式な昇級審査を行うべきなのだが今は極めて特殊な異常事態――」
ソラールとジークバルドに差し出された認識票は、銀色に輝く貴金属で構成された
つまり現時点で、この二人の騎士は晴れて在野最上級の序列第三位でもある『銀等級』へと昇格した。
この等級は在野での最高等級でもあり、あらゆる高難度の依頼を引き受ける事ができるだけでなく社会的信任も厚く、在野とはいえ『英雄・勇者』に最も近い地位の証明にもなるのだ。
基本、冒険者の等級は、袖の下や取引きで引き上がる事はない。
また極めて高い社会的信頼と人柄、そして何よりも高難度の依頼を熟せるだけの実力を備えた上で、厳格な審査を乗り越え漸くこの等級へと至る事が認められるのだ。
確かにソラールとジークバルドは高い実力と人柄を備え、現在は『銅等級』の地位を確立していた。
また審査対象に名も連ねていたが、まだ細やかな精査は行われておらず、あくまで
「卿ら二名には、正式に我が陣営へと参入して貰いたく相応しい立場『銀』へと昇格させて頂いた次第だ」
ギルド内では銀等級候補という段階ではあったものの、この二人の実力は既に『銅等級』に納まる水準ではなかった。
「余の見立てでは、もう『銀』など完全に凌駕していると踏んでいたのだが、いきなり『金』では自他ともに納得はすまい?」
国王個人としては、この二人を『金等級』へと引き上げさせ更なる完全な形で部隊へと参入させたかった。
その旨を含めギルド長とも議論を交わしてみたのだが、余程の理由でもない限り二人の騎士を『金』へと引き上げる事は規則上難しく『銀』で落ち着いた。
何せ、本部とも言える王都の冒険者ギルドが機能不全に陥っているのだ。辺境の一ギルドでは、彼等を金等級へと引き上げる為には些か力が不足していた事も起因している。
しかし物は考えよう――。
ひとたび『金』へと昇格すれば、それは宮仕えを意味する。
つまりは国事の依頼を優先させねばならなくなり、これまで通り自由に依頼を請け負う事は難しくなる。
しかし
「正式な審査もなく『銀等級』への昇格となるが、二人とも受けてくれるね?」
「勿論で御座います。このソラールの力、存分にお使いくださいませ!」
「同じくジークバルド!カタリナの騎士として、いざ民の力とならん!」
「頼もしい限りよ。頼むぞ、高潔な騎士たち!」
ギルド長の言葉に快く応え、国王も満足げに頷いた。
そして残された灰の剣士への、新たな認識票――。
先ほどの法廷にて宣告された通り、彼は降格処分となった。
彼の前に差し出された認識票は、白色の磁器にも似た作りをしていた。
もはや皆まで語るに値せず――。冒険者登録を終えた者は、誰しもが通る駆け出しの等級。
―― 白磁等級 ――
「……」
彼は特に何を語るでもなく、首にかけていた青玉の認識票を外し長卓の上に置かれた白磁の認識票と入れ替えた。
だが、直ぐに認識票の違和感に気付き、ふと手を止めた。
「楕円形の認識票…?」
そう――。
彼に差し出された認識票のみ、他とは違う
通常、認識票は四角形。しかし彼のは楕円形。
また差異が見受けられたのは、形だけではなかった。
「この外縁部は…金…?」
楕円形の認識票を手に取った彼は、白磁を取り囲む外枠が『金』である事を確かめた。
「裏返してみるといい」
ギルド長から言葉が付け加えられ、彼は白磁部分を指で裏返す。
白磁の中心部分には、細い金属製のシャフトが通され、それが起点となり回転する構造体をしていた。
ギルド長の言葉に従い白磁部分を裏返してみれば、見事な
「ぬぅ…それは黄金の認識票…!?」
「ギルド長…陛下…これは一体…?」
認識票の仕組みを目の当たりにしたソラールは元より、灰の剣士本人も思わず聞き返さずにいられなかった。
「見ての通りだ。卿は『白磁等級』でもあり『金等級』でもある。
国王からの言葉、要約すればこうだ。
表向きは白磁等級として降格処分とされ、その等級に相応しい活動が求められる。
しかし国家に関わる難事が発生した場合、直ちに
つまり灰の剣士は、
だがこの待遇は、あまり称賛できるものではない。
白磁等級と言えば、駆け出しも駆け出しの冒険者であり且つ破落戸と大差のない地位にも見なされる。だが半面、社会的信用が低いという事は、それだけ他者からの関心も薄いという事でもあり、最も自由が利くという意味合いも孕んでいた。
しかし、彼の場合は同時に
金等級は社会的地位も高く在野から王宮お抱えの冒険者へと昇格した証でもあり、一般的に
だが灰の剣士の扱いは、
結論から、彼は王統府からの『監視下』に置かれたという意味合いも含まれているのだ。
先ほどのソラールとジークバルドに対しては、金等級への昇格は実現できず銀等級へと妥協していた。
流石に最高権力者の国王と言えども、容易く法や規則を無視する事は出来ない。
だが灰の剣士に関しては例外中の例外でもあり、本来なら西方辺境の冒険者ギルドで扱い切れる案件ではない。
先日の神殿での件といい、明らかなる等級に不釣り合いな実力と功績といい、彼には推し測れない部分が多過ぎる。
故に、彼に関してのみ国王は此処のギルドとの議論の結果、
「そう、悪いものでもないぞ。要は使い方次第だ。重要な政治的場面では、
国王の言う通り、何も悪い点のみとは限らない。
使いかた如何によっては、これは有用な交渉の材料にさえなり得る特殊な認識票なのだ。
普段は白磁等級として振舞おうとも、何か譲れぬ場面で金等級として認識票を翳せば相手は要求をのまざるを得ない状況に陥る可能性もある。
金等級冒険者とは、国家に関わる重要な社会的立場に位置付けされている。
正規の金等級とは多少立場に違いもみられるも、国家に関わる冒険者である事には変わりない。
上手く使えば、政治的な立場として活用する事も不可能ではないのだ。
勿論、悪用などしようものなら忽ち粛清の対象として身を墜とす結果になるのは明白なのだが…。
「承知いたしました。不肖この火の無い灰、謹んでお受けさせて頂きます…!」
四の五の言っても何も事は始まらない。
仮面の錬金術師や教会の狩人の介入も、元を正せば全て灰の剣士の力不足に由来する部分が大きい。
そもそも彼に充分な力量が備わってさえいれば、内なる衝動と闇の力を発露させる必要などなかった。
そのお陰で撃退はできたものの、この街の住民を不安と恐怖に陥れた事に変わりはない。
一度起こした過去は、もう帰っては来ない。
意を決し、彼は楕円形の認識票を首に掛けた。
――楕円形の白磁と金の認識票に外枠…、さしずめ私は『黄金の首輪付き』といった所か。
フードの奥で微かに自嘲しつつ、彼はこの現状を受け入れる。
その後、各自には任務の詳細が言い渡された。
ソラールとジークバルドの両名は、銀等級ながら王統府お抱えの冒険者として各種任務に勤しむ方向で話が決定される。
国王率いる王統府は、数日後の『聖黄金樹』移植を見届けた後、水の都へと拠点を移す予定だ。
そこで王国軍残党部隊の解体再編に際し、彼等には多方面で尽力して貰う手筈となっていた。
水の都を含めた近域は、当然の事ながら『赤黒い空』の影響下にある。
恐らく、水の都は全聖職者が総力を挙げて強力な結界を展開していると思われ、都市そのものは無事だと判断出来る。
しかし水の都以外は、危険地帯として認識されていた。
付近の街クラスなら辛うじて結界なり対策なりを講じ、持ち堪えてはいるだろう。だが村や町では、赤黒い空の影響を直に受け壊滅の憂き目に遭っていると予想される。
加えて、あの空の下では混沌勢の魔物や魔神が闊歩するに打って付けの環境だ。
そこで二人の出番となる。
彼らほどの実力者なら、中級魔神は元より戦術次第では上級魔神とも対峙できる程の実力者。
加えて彼等は、周囲からの信任も厚く人望も高い。
周囲の冒険者とも円滑に協力し合い、多くに貢献してくれる事が期待された。
さて、いよいよ灰の剣士に対しての任務が下令される。
先ずは、ロスリックに存在する深みの聖堂へ目指して貰う。その道中に至るまでの調査、敵対勢力の駆逐、その他冒険者に対する安全確保なども含まれた。
また可能な限りで、道中の不死街下層部に在るとされる『狭間の地』に通ずると思われる霧の壁の調査も任務に組み込まれた。
そして『深みの聖堂』に到着し次第あらゆる手段と戦力を駆使し、聖堂に蔓延る邪教組織と混沌勢の殲滅と制圧が命じられた。
当面は、この任務が主を占めている。
とにかく、混沌勢の温床と化した『深みの聖堂』を制圧し敵戦力の漸減と王都奪還の橋頭保を築きたという思惑があったのだ。
何せ、ロンドール黒教会は『深みの聖堂』を実質的な本拠点として利用しているという。
これはロスリックから生還した数少ない冒険者や、あのカムイなるオスロエス陣営の刺客から得た情報を纏めた結果である。
(本編前夜編、第121話参照)
その情報を纏め相互的に判断した事で、ロンドール黒教会は『深みの聖堂』付近で大穴を造り出し地中から王都へと侵攻した公算が高かった。
しかしその情報も確実ではなく、あくまで可能性の域を出なかった。
それ故、灰の剣士には深みの聖堂の制圧を含めロンド-ルの侵攻ルート割り出しも任務に含まれた。
もし王統府の公算が正しければ、ロスリックへと最終的に軍を集結させ王都奪還を目指す。違うのであれば、別の進軍ルートを構築するしかない。
兎にも角にも、灰の剣士の役割は極めて重要な位置づけにあった。
「主な任務はこれ等に絞られるのだが…実は様々な現象が、ロスリック内で起きているという報も入手した。卿には、それ等の調査も依頼したい」
「様々な現象…?」
些か歯切れの悪い言葉で濁す国王に、灰の剣士のみならずソラール達も改めて姿勢を正す。
国王が言うには、ロスリックの至る箇所に村や町の一部ないし全域が流れ着いているとの事だった。
これは既に灰の剣士たちも周知の事実だが、やはり無視できる案件ではない。
何せ、
――あの仮説は、正しかったやも知れん。
数日前、任を帯びていた灰の剣士たちは滅びた集落と謎のクレーターを発見した。
彼は考察を巡らせ、クレーターはロスリックに流れ着いた名残ではないかと憶測を立てていたが、どうやら彼の仮説は信憑性を増しつつある。
(本編前夜編 第126話参照)
また、生者ごと流れ着いているのであれば尚さら放置する事は出来ない。
「現在、駐屯している冒険者達が全力で救援に当たっている。本来なら今直ぐにでも卿らを派遣したいが、他にも優先すべき事項が存在する以上、役割りを分けざるを得んのだ」
死に満ちた人里が、ロスリックの呪いと呼応し引き寄せられる奇妙な現象。
しかし亡者のみならず、未だ真っ当な生者がロスリックに取り残されている。
この情報もロスリックより生還した冒険者たちから寄せられ、王都のギルドは頭を悩ませていた。
直ぐにでも有用な冒険者一党を追加で派遣したいのが、王統府やギルドの思惑でもあったのだが、魔神軍の侵攻や王都制圧などという大惨事に見舞われ、現在王都のギルドも王統府も機能停止に追い込まれている。
体勢を立て直すにも多くの人材は必要不可欠で、ロスリックの救援のみに冒険者を優先させる訳にはいかないのだ。
ここで灰の剣士を即座に派遣させれば、幾許かの事態も好転できよう。彼がロスリックに挑んだ時は、間違いなく調査が大幅に進展するという結果を残していたのだ。それだけ彼の実力は、有用に働くという事だ。
だが彼は彼で、不死の女の呪いを解くという任を自ら背負った身でもある。
どれ程引き延ばせたとしても1週間の猶予が過ぎれば、表向きとはいえ彼は強制的にロスリックへと流される刑罰を負った。
1週間後、刑が執行されるまでに、彼自身も何としてでも不死の女の呪いを解呪しておきたかった。
加えてソラールとジークバルドも、別の地域での任を授かった身だ。
あの赤黒い空の影響もあり、混沌勢の魔物やデーモンは更に活気づき各地で暴れ回っているとの事。
これ等の討伐や駆逐も、重要な意味を持つのだ。
「最後にもう一つ…。深淵の監視者は知っていよう」
「深淵の監視者…ファランの不死隊の事ですね」
「うむ…。その者との音信が途絶え今や久しい。可能な範囲で構わん、その者との再接触を頼みたい。卿の経歴が本物であれば、ファランの霊廟とやらも直ぐに辿り付けるのだろう?」
「勿論です。…しかし意外でした。まさか彼の者が、王統府と接触していようとは…」
「あの監視者とやら、実は俺とも接触していてな。俺が王統府を仲介する形で、魔神軍の現状を報せる事ができたのだよ」
ファランの不死隊が数年に渡り魔神軍の脅威に抵抗していたのだが、彼等は
当時たった一人生き残った深淵の監視者は単身、王都へ向かいそこでソラール一党と邂逅を果たす。
(本編前夜編 第70話参照)
多少揉め事も起きたが、彼は我が身で味わった魔神軍の脅威を王統府へと伝達させる事に成功。
その甲斐もあり、王統府は本格的に魔神軍の脅威に対抗すべく重い腰を上げたのだった。
同時に深淵の監視者も、王統府側へと協力する姿勢を見せていた。
実は、国王自身も『ロスリックの高壁』限定でロスリック内を体感していた。
当時は、深淵の監視者も護衛に加わっており、彼は其処で一旦離脱する事となったのである。
だが、あれから何の音沙汰もないまま期間ばかりが過ぎ去り、国王は幾許かの痺れを切らしていたのが本音だ。
「アレも、紛う事なき実力者。このまま野に放つのは実に惜しい人材だ。どうか接触を果たし、再び協力を取り付けてはくれぬだろうか?」
「お任せ下さい。例の場所に居るのであれば、そう苦労する事はないかと――」
「頼んだぞ、灰の剣士。そして太陽の騎士、カタリナの騎士も…!」
「「「――ハッ!」」」
ファランの不死隊だが、壊滅はすれど生き残りは僅かに居たようだ。
そして過去に暗黒の塔で出会った深淵の監視者も、どうやら無事ではあるらしい。
仮にファランの霊廟に留まっているのなら、再接触は容易く成せる筈だ。
律儀で高潔な集団であるファランの不死隊――その生き残り。
あの深淵の監視者が、一度取り付けた約束事を易々と反故にするとは少々考え辛い。何か協力できない理由が発生した可能性もある。
これは国王個人の意味合いが強い依頼だが、深淵の監視者を味方に付ければ非常に頼もしいのは確かだ。
仰せつかった任務を授かった灰の剣士たちは、着席したまま深く頭を下げ一礼で応えた。
「これで、一段落を迎えた訳だが…。特に卿よ、これからどうするのだね?」
彼等に課せられた手続きは、これで一旦終了となる。
ソラール、ジークバルドとは違い、灰の剣士は一応は流刑囚としての扱いとなる。
「…?どうするも何も、私を拘留する手筈では…?」
「本来ならな。だが卿の場合は非常に特殊で、直ぐにでも残された任務に取り掛かるのだろう?ならば過剰に拘束しては何かと妨げにもなろうよ」
「ご配慮に感謝します。猶予が限られているのなら、例の魔道具の強化改良のためすぐさま錬金術の行使に移るべく動く所存。…しかし罪人たる私が、表立って街を歩くのも何かと住民の心象に悪影響を及ぼすのではないかと」
何れ恩赦が約束されているとはいえ、今の彼は流刑囚と化した。
その流刑囚を街中で自由行動させるなど、本来の法なら絶対にあり得ない待遇なのだ。
しかし彼の残された任を果たすためにも、下手な拘留は却って妨害にしかならない。
だが罪人である彼を標的に、要らぬ輩が余計な介入を試みる危険性も考慮しなければならないのも確かだ。
「監視と護衛を名目に、幾人かを交代で就けさせるのが妥当な案かと」
ここで司祭長が案を提示した。
これが終われば、彼は一応の釈放となる。
しかし、現状を理解出来ぬ思考の足りない輩も存在するのは悲しい事実であった。
それ故、彼に襲撃を試みる低俗な冒険者や破落戸が居たとしても何ら不思議ではない。
表向きは白磁降格処分を受けたと罪人はいえ、実際の彼は歴とした金等級冒険者で王統府より任を授かった重要な人材に変わりはない。
刑が執行される猶予期間中、監視という名目で彼の近辺を警護させる人材が必要となった。
だが警護する側にも各々の生活もあり、四六時中、彼に張り付く訳にもいかないのだ。
複数人を割かねばならないが、日替わりの当番制なら双方の負担軽減に繋がるのではないか。
それが司祭長の考えである。
「そうですね、妥当な案かと思われます。ではどの一党に任せるべきか…?」
「横から失礼致します。それだけではなく、彼の寝床も改めなばなりません。この現状、恐らく一般の施設は疎か冒険者施設の利用も厳しいのではないでしょうか?」
だがここで新たな問題が発生した。
剣の乙女、そしてギルドの監督官も意見を挿む。
彼の監視を兼ねた警護役――。どの一党に任せるべきか――。
加えて流刑囚と化した彼に対し、街の対応も必然的に厳しくなるのは目に見えている。
食事処も宿も、従来通り利用するのは難しくなる筈だ。況してや
つまりこれからの彼は、より厳しい環境下に置かれたという事だ。
「例の部屋が身を隠すのに最適…しかし何度も出入りすれば後を付けられる恐れも――」
剣の乙女は昨晩、彼と一夜を共にした例の隠し部屋が暫定的な寝床として最適であるとの見解を示す。
しかし、1週間も彼を拘留させるのは不可能であり何度も出入りするのは確実。あまり目立つ行動を繰り返されては、折角の
「火継ぎの祭祀場を利用する手もあるが、少々街から離れている上に却って襲撃の危険性を高めてしまうか…う~む」
続けてジークバルドが、火継ぎの祭祀場を寝床として利用する案を示してみた。
だが今やあの施設も役目を終えた古びた遺跡に過ぎず、なまじ街から離れている事もあり却って襲撃の憂き目に遭い易い恐れもあった。
街の監視の行き届かない場は、心無い輩の格好の狩場と化すからだ。
例の隠し部屋、火継ぎの祭祀場を始め、領主館、地母神神殿、或いは簡易的とはいえ囚人を収監する地下牢、様々な候補が挙がっては消えてゆく。
皆が頭を悩ませる中、灰の剣士が一つの案を提示した。
「ギルドと契約している作業小屋、つまり
彼が提案したのは、冒険者ギルド裏手側に在る契約制の作業小屋である。
現在はライザ達が契約し、錬金術の
立地場所といいギルドの目にも付き易く、監視には好都合ではないだろうか。
また彼の代わりに誰かが使いで、食料を始めとした生活物資を運び込めば事は円滑に運ぶ。
「ほぅ…あの
国王自身も
錬金術関連の施設だ。必然的に錬金術士が頻繁に出入りする事にも繋がり、彼の監視と警護はロロナが束ねるアーランドの錬金団が適任ともいえた。
灰の剣士とは一応の交流があるとはいえ、過剰に忖度や敵意をぶつける事はないだろう。
交渉次第だが、彼等なら上手く役割を果たせる事に期待も持てた。
「後はライザが承諾してくれればの話なのですが…」
「心配いらないわよ。所有権の大本はギルド側なんだし、立場は此方が上。私に任せておいて」
肝心のライザがこの方針を受け入れてくれるかどうか、灰の剣士にとってはそれが最大の懸念材料でもあった。
先ず無いとは思うが、今の彼に対し敵意剥き出しに豹変する可能性もゼロではない。
だが、あの工房の所有権はギルド側にある。
仮に彼女が難色を示そうとも、最悪ギルド側が説得すればいいだけの話。
彼の懸念に、監督官が得意気に励ました。
実は彼女も、彼の現状に心中穏やかではないのだ。
どうにも不条理に事が運び、彼の社会性が脅かされ近日中に街を去らねばならなくなった。
せっかく彼とは心を通わせた仲に進展した矢先で、この仕打ちというありさま。
彼がこの街に留まっている間だけでも、可能な限り支えてあげたかったのが彼女の本音である。
こうして任務の通達と正式な法的続きは終わりを迎え、彼等は執務室から一斉に退出した。
……
さっそく解呪の魔道具『星々の宇宙儀』を取りに行くため、彼は司祭長と共に地下に在る安置室へと向かった。
「強化のための素材道具は、既に準備が整って御座います」
「ご配慮に感謝します、司祭長様。改良が済んだ後、直ぐにでも解呪の義を再開いたします故に」
流石に大勢が大挙して安置室に赴く訳にもいかず、彼と司祭長二人だけで地下へと下っていた。
成すべき事は既に決まっているのだ。
司祭長は予め段取りを決め、彼が動き易いように様々な下準備を整えていたのである。
解呪の為の魔道具は、今のままでも効果の程は証明済み。
だが改良の余地を多分に残しており、それが成功すれば更なる効果度合いと期間短縮にも繋がる事が期待されていた。
況してや灰の剣士は、執行猶予が1週間しか残されていない。そして『星々の宇宙儀』を扱えるのは、未だ彼しか居ないのだ。
何としても流刑が執行されるまでに、あの不死の女の呪いを解いておきたかったのだ。…
安置室、相変わらず暗く不気味な空気感に包まれているが、実際は神殿の本堂に当たる聖域だ。
周囲の台座には、様々な魔道具や呪いの備品が安置されているが、安置室の最奥には古く小さな木彫りの地母神像が密かに鎮座していた。
聖黄金樹の恩恵が影響していたのだろうか?
以前は殆ど消失していた霊力をかなり取り戻している様にも見え、ぼんやりとだが鈍く光を帯びている。
「「……」」
彼は司祭長と共に短く祈りを捧げ、一つの台座から『星々の宇宙儀』を手に取った。
「呪いが完全に除去されている。…これが安置室…いや、この本堂のお力か…」
「ホッホッホ、地母神様の御業、とくと御覧になりましたか?」
「神の御業…いえ、そのごく一部…
不死の女から吸い取り堆積した呪いは、今や完全に除去され元通りの姿を取り戻している。
黒い球体の中では星々が煌めき光を放っていた。
今の段階でも再使用は叶うのだが、今回の解呪で不死の女を完全に救える保証は何処にもない。
もし次に持ち越すような事態に陥れば、またもや1週間以上の安置期間を費やさねばならないのだ。
やはり、更なる強化改良は必須とされた。
地母神の霊力の一端を垣間見た灰の剣士は、司祭長と共に本堂から立ち去る。
……
「ほう…これが星々の宇宙儀とやらか」
流石に物珍しいのだろう。
水晶にも似た黒い球体の中に様々な星々が散りばめられた、摩訶不思議な物体。
灰の剣士より少々失敬させて貰った国王は、その魔道具に釘付けとなっていた。
「王様、王様…!つぎボク、ボクッ…!」
仮にも『一国の王』相手に急かす様に要求したのは、アンリの直剣を背負う
「あ、あたしにも見せてよぉッ…!」
「次、私です…!」
「もう、押さないで下さいよぉ、お兄さんが作ったものですよ…!」
他にも、幼夢魔、赤いリボンの少女、見習い神官が、奪いうあう様に星々の宇宙儀へと群がっていた。
ここは神殿の庭園――。
これまで関わってきた大勢の関係者が、灰の剣士たちを待ち迎えてくれていた。
特に見習い神官の始めとした少女たちは、彼の姿を見るや否や真っ先に駆け寄り声を掛けてくれていた。
敵意を向けられる所か寧ろ彼の身の上を案じてくれている事が分かり、内心言いようのない嬉しさが込み上げていた灰の剣士。
「…アレも錬金術の産物…ですか…」
「全く、はしゃいじゃって子供ですね…皆」
「フフフ、隠さなくてもいいんだよぉ♪じっくり見たいって顔に出てるからねぇ~、特に君…♪」
「――くッ///!」
やや遠間から静観していた、見習い剣士と見習い賢者。
口々に
「ねぇ、そんな事よりもさぁ…、早く
「ああ、分かってる。私たちは先に行く、皆は後からゆっくりと来てくれればいい」
騒ぎ立てる少女たちを余所に、ライザが工房へ向かう旨を灰の剣士たちへと急かした。
彼女の話によると、
建物の中自体、そう荒らされた様子はないのだが、地下室に保管してあった灰の剣士の木箱が荒らされていた事をルルアが見つけていた。
だが彼女たちでは何が盗られたのかも見当がつかず、木箱の持ち主である灰の剣士本人に確認して貰わねばならなかった。
「おい、アレはいいのか灰よ?」
「地面に落とした位で、割れるような代物ではない。今は工房へと急ぐ」
少女たちが取り合う星々の宇宙儀だが、取り敢えず放置しても問題はない。
見知らぬ何者かに奪取されなければいいだけで、万が一地面に叩き付けられても割れるような脆い構造でもなく予想以上の頑丈さを誇っていた。
この日は、ゴブリンスレイヤーも小鬼退治を控え此処に集っていた。
「剣士君、彼女たちは我々に任せ工房に行くといい。後から向かう」
「大丈夫だと思うけど、一応気を付けてね。一部の子たちが、ちょっと君に…ね…?」
「…。ええ、ある程度は察しております」
今は工房に急ぎ、被害を確かめたい灰の剣士。
ここはステルクやロロナたちに任せ、彼はライザ達と共に工房へ急ぐ事にする。
そしてロロナからの忠告だが、案の定、一部の関係者たちの中には彼に敵意を抱く者も現れていた。
だがそれは、ある意味で当然の反応でもあるのだ。
寧ろ此処に居る彼等は、概ね灰の剣士を受け入れる姿勢さえ見せており逆に珍しい位だ。
先日、教会の狩人相手に解き放った、内なる衝動と闇の力――。
アレを目の当たりにし、事情も知らぬ一般人に今までと変わらぬ対応を執れという方が困難というもの。
現に今でも、遠間から外野の不審な視線が彼に向けられている。
「灰の方、解呪の義の準備は此方で進めておきます。今日中に再開されるご予定でしょう?」
「ええ、御手数をお掛けします。大司教様、司祭長様」
剣の乙女は、地母神神殿に残り関係者と共に解呪の義の再開の環境を整える旨を告げる。
星々の宇宙儀を改良できれば、直ぐにでも解呪の義を再開する手筈でいた。
剣の乙女たちに後事を託し、彼はライザ達を引き連れ工房へと急ぐ事にする。
「妨害などの介入なら案ずるな、我らが護衛に就く故な」
「俺もだ。儀式の邪魔などさせん…!」
道中でも、灰の剣士に余計な介入を試みる者が現れる可能性もある。
ソラールとジークバルドに加え、ゴブリンスレイヤーまでもが彼の護衛を買って出る。
「ならば、私も貴方を守らせて下さい剣士様…!
ここで見習い剣士も、灰の剣士側へと追従する意思を示す。
どうやら然る剣の使い手が灰の剣士に対し、少々敵意を露わにしているらしいのだ。
「…承知した。貴公ら、
未だ騒ぎ立てる少女たちに星々の宇宙儀を紛失せぬよう念を押し、彼は護衛を受けながら小走りで工房へと急いだ。
何が盗られているのかは分からないが、先ず現場に行ってみない事には何も確かめようがない。
工房へと急ぐ道中、周囲の視線がどうにも鋭いのは気の所為ではなかった。
やはり彼に対し、不信感や敵意を向ける住民が激増していた。
最近この街に流れ着いてきた住民も多いようだが、最初から居ついていた住民も陰口を叩いているのが耳に届く。
特に酷いのは、破落戸の類だろうか?
白昼堂々、凶器を手に襲撃を試みる荒事にまで出くわした。
尤も、それはソラール達が直ぐに撃退した事で、襲撃者たちは情けない声をあげながら退散したのだが。
そういうトラブルに見舞われながら、彼等は
「よぅ、来たか…!」
ギルドの裏手に立地する古びた作業小屋である
その入り口付近では、重戦士を始めとした槍使いや同期戦士の一党が灰の剣士たちを出迎えた。
「……」
近年実力を身に付けた彼等が、わざわざこうまでして屯するなど非常に珍しい光景だ。
そんな彼等に些かの警戒を向ける灰の剣士たち。
「おいおい、勘違いすんなよ。俺等にそんな気は、さらさらねぇって…!」
「だが残念な事に、俺等の一党の中にもアンタを敵視するのが出やがってな…、ちょっと難儀してるところさ」
「俺の一党は、全員アンタ側だが、ややこしくなっちまったぜ…。…言っとくが、
どうやら槍使い、重戦士、同期戦士に、灰の剣士を敵視する者は居なかった。
だがここで重戦士は頭を抱え、幾人かは灰の剣士に対し敵意を抱くもの居ると言うのだ。
現に此処に居た重戦士の一党に、『半森人の軽戦士』の姿が見えない。どうやらギルドに屯している事が、ソウルの流れで察知出来た。
槍使いは兎も角、同期戦士の中には妖精弓手の姿も見えない。
若しや彼女も敵意を抱く側に回ったのかと思いきや、同期戦士の話によれば工房の中で何やら揉めている事を告げられた。
確かに工房の中から、何やら激しく言い争っている気配が散見される。
「外は俺達に任せておきな。アンタは行ってくれ」
「すまぬ」
「行こう、灰君」
槍使い達は引き続き、ここで要らぬ輩からの介入を防ぐという旨を告げる。
そんな義理堅い彼等に感謝の意を示し、ライザに促された灰の剣士は工房の扉を開け中に入った。
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楕円形の認識票(白磁・金)
元来、冒険者に与えられるのは四角形の認識票だ。
しかし楕円形のそれは、金属製の外枠に嵌め込まれている。
また認識票の中央には細い金属シャフトが通され、それを起点に回転させる事ができる仕組みだ。
白磁と金を表裏に縫い合わせ、それは二つの等級を現す非常に特殊な意味合いを持つ。
時に白磁等級、時に金等級という両極端な等級――。
自由と不自由、無名と英雄、嘲笑と栄光、相反する二つは相克となり新たな領域へと誘うだろう。
楕円形の外枠は拘束を意味し、黄金の枠組みは首輪として勇者を縛り付けた。
あまり話は進んでいませんが、彼の裁定と判決のお話でした。
関係者たちが挙って護衛してくれているお陰で、彼に直接絡む輩が居たとしても大抵は水際で防いでくれるでしょう。
彼の刑罰が軽いか重いかは、読者様の判断に委ねる事にいたしましょうw
如何だったでしょうか?
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
デハマタ。( ゚∀゚)/