遅くなってスマンです。
今回のお話は、リエーニエ探索がメインな積りでしたが少々前置きが長くなり、全体に締まりがなくなってしまった気がします。(何時もの事)
なお今回も4万時越え。
では投稿致しますドゾ。( ゚ ω ゚ )
底なしの木箱
底の抜けた不思議な木箱。
貪欲者の烙印とも呼ばれるようだが、その由来は分からない。
いくらでもアイテムを入れることができ、嘗ての時代では篝火にて出し入れができた。
四方世界へと流れ着き生者へと至った事で、木箱の使用が不可能となり彼等は大いに困窮した。
しかし狭間の地では、不思議と木箱の出し入れも可能となり彼等は大いに喜んだ。
仕舞い込んだ思い出と愛着の品々。
常に、手元へと携えたいものだ。
ロアの実
低木になる赤い小果実。アイテム製作に用いる素材のひとつ。
狭間の各地で、容易に手に入り、あらゆる用途で使用される。
その強い生命力は、きっと四方世界にも適応するだろう。
ロア・レーズン
ロアの実を干して乾燥させたもの。製作アイテムのひとつ。
騎乗時に霊馬トレントに与えHPを回復する。
人が食しても消化できないが、トレントは嬉しそうだ。
果肉はともかく、果汁は人にとっても有益で調味料や薬液としても利用できる。
ふんわり綿
特殊なやり方で、ロアの実を弾けさせたもの。
柔らかいが丈夫な綿の塊。製作可能なアイテムのひとつ。
脚底につけることで、一時的に落下ダメージと落下音を軽減する。また、足音も同様に軽減する。
繊維質が多いのだろうか。弾ける様は、まるでポップコーンの様だ。
ロアの実は利用法に富み、四方世界の住民は嬉しそうだ。
無理をするなら、ふんわりいこうよ
落葉花
褐色に萎びかけた濃黄色の花。アイテム製作に用いる素材のひとつ。狭間の各地で手に入る。
古い黄金樹の落葉に育つ花。
何れは亜種が咲くだろう、聖黄金樹と共に。
色褪せた金輪草
黄金樹に向かって咲く大輪の花。アイテム製作に用いる素材のひとつ。小黄金樹の近くで見られる。
もはや枯れかけ、色褪せてはいても聖性を残している。
最後まで懸命に命を繋ぐだろう。生きるとは足掻く事でもある。
キノコ(エルデンリング)
湿った茂みなどに広く自生する菌類。アイテム製作に用いる素材のひとつ。
それは肉厚のスポンジのようで、投擲壺アイテムの基本素材となる。
特に毒性などは無く、食しても害はないようだ。緊急用の食糧にはなるだろうか。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
瞳に映る光景は、ひたすらに青一面…ではなかった。
「あれ…ここ何処…?」
「ゴツゴツと荒れた建築物に、広がる緑…」
円卓から転移で脱し、辿り着いた場所。
あの湖のリエーニエとは、どうにも毛色の異なる景色にライザとオーベックは周囲を見回している。
(推奨BGM エルデンリング ―― リムグレイブ )
「灰人さん…?此処『リムグレイブ』ですよ、どうしてこんな所に――?」
輝石の貴公子の言葉で、この場は『リムグレイブ』である事が判明した。
そう――。
それなら、この景色の違いも頷ける。
あのリエーニエは見渡す限り、辺り一面に広がる湖と濃い霧により全体が青一色に染まっており、荘厳ながらも肌寒く冷たさをに漂わせていた。
しかしこのリムグレイブという地域は、全体が緑に囲まれ森林や山林が拡がっている。また仄かな温かみと平穏も感じられた。
とは言え相変わらず頭上に広がる空は、青ではなく若干暗めの金色というのが見る者の不安感を煽り立てた。
「皆の疑念は尤もだ。だが此処に来た理由は、
「足…?移動手段という意味合いかな?」
「そうです、ロード。これからリエーニエを探索する訳ですが、とにかく範囲は広大の一言に尽きます。徒歩での移動など考えられません。故に――」
「馬…若しくは馬車の類か…」
敢えてリエーニエではなくリムグレイブに訪れた理由――。それは、
その言葉を聞き、金剛石の騎士も理解を示す。
このリムグレイブだけでも広大な面識を誇り、徒歩での移動はとにかく時間を浪費した。
だが幸運にも
それは今も健在で、彼はトレントを使えば何ら問題はない。
しかし彼以外は、霊馬などという便利な存在など有してはいない。加えて、彼のトレントに8人以上も乗せる事など不可能だ。
皆との歩調を揃える為にも、馬の調達は欠かす事の出来ない必須条件でもあった。
「これが霊馬トレントです」
試しに、彼は装着した『霊馬の指笛』の笛を鳴らし『トレント』を出現させる。
「「「「「――おぉ…!?」」」」」
次の瞬間、彼は霊体の馬であるトレントに跨り、それを見た周囲は驚きの声で目を白黒させていた。
「彼が霊馬トレント。見た目通り霊体の馬で、指輪に封じた状態から瞬時に呼び出す事ができます」
従来の馬とは違う最大の特徴は、このトレントが霊体であるという点だろう。また指輪に封じた状態であるため、閉所にも連れ歩く事ができ逸れる心配もない。加えて何時でも任意で呼び出せるのも大きな利点だ。
「ほう、これは驚いた。貴公、その様な馬を所有していたのだな。いや、その褪せ人の持ち物か」
「指輪に封じた霊体の馬、これは確かに便利だな。俺達も入手したいものだ」
霊馬トレントを目にし、ソラールとジークバルドのみならず他の面々も興奮気味だ。
だが残念な事に、トレントの入手経路は非常に特殊で実はメリナから譲り受けたという経緯があった。
そういった事情もあり、普通の手段で手にする事は先ず叶わないといっていいだろう。
「霊馬の入手は、多分無理だと判断する。従って、これより馬の確保に動きたい。行軍の足並みを揃える為にもな」
「灰の方、これ程の人数です。馬車の運用の方が向いているのでは?」
霊馬は無理だが、通常の馬ならアテはある。リムグレイブに来た理由を説明し馬の確保の動こうした矢先、剣の乙女は意見を打診した。
「いえ、馬車は避けた方が良いでしょう」
「え、どうして?馬車の方が大勢乗れるよ?」
だが輝石の貴公子が馬車の運用に否定的な考えを示し、ライザがその理由を尋ねる。
「これを見てみなさい。街道と言えど、かなりの荒れようだ。これではいつ車体が横転するか分からん」
ここで彼等に同行していたトープスが、目の前の街道を指差す。
彼の言う通り、狭間の地の街道は荒れに荒れ果てていた。破損した岩石の破片が其処ら中に散乱し、大小様々な窪みも数多く見られる。これでは、車輪が引っ掛かる或いは窪みに嵌るという現象が多発するだろう。また眼前に横たわる馬車体らしき残骸は、原形こそ留めていたものの些か巨大な構造体だ。明らかに普通の馬車体ではなかった。
それにいつ乱戦の憂き目に遭うかも知れないのが、狭間の地という世界だ。各自が臨機応変に動く為にも、馬車よりも小回りの利く馬に直接騎乗した方が何かと都合が良かったのだ。
「此処から行軍し、敵の騎兵を見つけ次第奪取する。各位、戦闘準備に移行せよ…!」
彼等が降りたった場所は、リムグレイブの『関門前の廃墟』と呼ばれる場所だ。
嘗ては栄華を誇ったであろう街並みも、今や完全に朽ち果て辛うじて人工物の残滓を匂わせるのみ。
彼等の視界には、複数のゴドリック残党軍の兵士が今も駐屯している。
「ね、ねぇ…あの人たちと戦うのよね?に、人間だよ、あの人たち…?しかも他所から馬…盗っちゃうの?それって強盗じゃん!?」
「その通りだ。…ライザ、よもや普通に
此処に居るライザだけは、彼の方針に難色を示す。だが彼女の主張も決して非難できるものではない。
彼女も冒険の経験はあれど、それはクーケン島という区域に限定されていた。一応『オーレン族』という種族の住まう異界にも赴いていたが、それでも人相手に戦うなどという経験は今の今まで積んではいなかった。
亡者は無論、正気を失ったとはいえ厳密には生きている人間に対して――。
更にこれから行うのは、此方から仕掛ける殺戮と略奪である事に何ら違いない。つまり自ら追い剥ぎに等しい悪行を成そうというのだ。その様な所業を、善性の高いライザは
「錬金の少女よ、気をしっかり持ち覚悟を決めたまえ。此処は四方世界の常識が通用する世界ではない。狭間の地という、我等の知見が及ばぬ異界の地と認めるのだ」
「あの百智卿が話していた通り、黄金律が狂い世界の理や人の心までもが崩壊してしまっているのが現状だ。貴公の考えも高尚に値するが、
「ライザ、巻き込んでしまって申し訳ない。無事に戻ったら、好きなだけ私を罵り
「――ま、待って…!あ、あたしはね、もっと別の方法がないのかなって…そう思っただけで…、灰君の事を悪く言おうだなんて…そんな事考えてなくて…、…うぅ…ァアもぅ…やるわよ!やってやります…!」
ライザの感性では、認める事ができない部分も多々あった。だがそれは彼女の誇るべき善性で、人の生きる上で欠かす事の出来ない不変の人間性だ。
だがしかし、ジークバルドやソラールが諭すように此処は四方世界ではない狭間の地という異界。
人間は在れど、遥か彼方より正気も自我も失い、唯々本能と習慣に従い狭間の地を彷徨うだけの憐れな亡者擬き。いや実際、亡者も混ざっているのだ。
加えて彼等は褪せ人とみるや、問答無用で武器を振り翳し襲い掛かって来る狂人ばかり。当然、下手な説得や交渉なども通用せず抵抗しなければ無残に殺される未来しか残されていない。
それがこの世界での
そんな彼の言葉を聞き、ライザの昂った感情は瞬時に委縮するも、やがては
「灰君に無理やり便乗したのは、あたし達なんだしさ…!でも、敵との殴り合いはしないからね…!後方から魔法で援護するだけだから…!」
「それでいい、だが後衛だからといって油断はするなよ。彼等は飛び道具も標準装備している。いつ
輝石の貴公子以外は、灰の剣士から特に同行を依頼されていた訳ではない。だがライザ達は、逸る好奇心を漲らせ面白半分で狭間の地に降り立ってしまったのだ。
それは彼女たちの行動の結果であって、灰の剣士を責めるのも少々お門違いというものだ。
自らの考えを改めたライザは、後衛に徹する事を告げた。一応『フラム』を代表とした各種錬金道具を持ち合わせてはいたが、持ち込む数にも限りがあり無駄遣いは避けねばならない。何せこの世界では、錬金術の行使出来る環境が存在するかどうかも疑わしい。
だが魔法なら、ある程度気兼ねなく援護も叶う。
しかし
彼の忠告を耳したライザは、より一層気を引き締めた。
「それでは、これより敵陣に攻撃を開始する。彼等は既に正気を失った亡者と思え!それでは各位、状況開始ッ!」
彼の狙いは、隊長職を務める大槍と大盾を装備したゴドリック騎士。他の兵士は差程の脅威ではなかったが、やはり現場を担う騎士は手練れ揃いだ。
騎士は彼目掛け鋭い大槍の突きを見舞うも、予め読んでいた彼はトレントごとジャンプ――。見事大槍を跳び越え、擦れ違い様に
騎士の兜は頑丈な金属製ではあったが、強化された剣は防具ごと騎士を絶命させる。
これで隊長職の騎士は屠った。しかし正気を失った敵兵は、特に動きを乱す事なく本能的に染み付いた動きで彼に狙いを定めた。
だがこれでいい。彼の目的は、自身に狙いを付けさせ敵を攪乱させる事にあった。
これにより敵部隊の動きは、散漫なものとなり陣形に乱れが生じる。
「――好機、残敵を掃討するぞッ!」
陣形が乱れた事を機と見なし、金剛石の騎士が号令をかけた。
彼を筆頭にソラールとジークバルドが追撃を仕掛け、並み居る敵兵を切り伏せ瞬く間に敵部隊に損害を与えてゆく。
また比較的軽装で敏捷性に富む雑兵は、オーベックや剣の乙女を筆頭とした後衛部隊が魔法で迎撃。
程無くして、関門前のゴドリック残党部隊は殲滅された。
然程の時間もかけず制圧できた関門前の廃墟――。嘗ての栄華は消失し、今は僅かな名残を墓標とするのみ。
だが感傷に浸り荒廃した景色を眺めている暇はない。
この戦闘は、ほんの肩慣らし――。
「皆、呼吸を整えたのち直ぐに進軍を再開する。敵部隊は、まだまだ残っているぞ…!」
祝福――アギール湖・北――の位置に差し掛かった辺りで一行は進軍を一旦停止。
「皆、前方に敵影が見えるだろう?」
トレントに騎乗したままの
「ふむ、アレが目標という訳だな?」
彼の指に倣い視界を傾ければ、複数の敵兵が映っていた。その内の幾人かは、馬に跨った騎兵で構成されている。
彼の意図を汲み取ったソラール。
つまり、あの敵兵から上手く馬だけを奪い取るのが、
「まだ此方に気付いてはいない様だな。普通なら気付いても不思議ではない距離なのだが…?」
此方の視界には明確に映っている敵部隊。なら敵側も此方を捉えている筈なのだが、一向に仕掛けてくる気配も警戒する様子も見受けられないのは何とも面妖な話だ。
この現象に金剛石の騎士も、疑念に満ちた表情を浮かべる。
「正気を失った事で、理性的な判断も下せない。その結果、本能が勝り認識力が低下してしまっているのでしょう。仕掛けるなら一気に攻め抜くのが上策かと」
ここでトープスが意見を具申する。確かに彼の言う通り、奇襲を仕掛け敵の虚を突くのは戦術の基本だ。
「その作戦で行こう。無駄な消耗も抑えられるかも知れんしな」
奇襲が成功すれば、少ない労力で成果も叶うというもの。ジークバルドは、彼の作戦を支持した。
「そろそろかな…。実は皆さんに、明かしておきたい事実があるんです」
「「「「「…?」」」」」
しかし不意に、輝石の貴公子が何やら言葉を挟んだ。一体何を表明しようというのか、皆は彼に注目する。
「よく見ておいて下さい。ただし、驚いて逃げ出さないで下さいよ…!?」
彼は自分に注目する旨を強調し、何があっても逃げ出さないように念を押した。
「では――、…うぅんぅんんぐぅぐぐぐぬぅぅ……!」
「き…君…どうしたのよいきなり…!?」
確認を取った輝石の貴公子は、全身を力ませ足を大地に踏み締める。普段の端正な顔立ちは完全に鳴りを潜め、苦悶に歪んでいた。そんな異常な様子の彼に、ライザは心配気な面持ちで声を掛ける。
「グぅうぅっ…、危ないですよ…近寄らないで…!…うおぅぉがぁががッ……!」
彼を心配するライザだが、逆に近寄るなと突き放されてしまった。彼は尚も顔を顰め、苦し気な声と何やら奇妙な音を全身から発している。
「お、お前…なんだその身体はッ…!?」
「まさか…少年…、
徐々に現れる少年の全身の変化――。時間を追う毎に、至る箇所から手や脚が生え身体全体の構造も歪み、その様は
少年の変化に驚くオーベックとトープス――。狭間の地の住民である事は理解していたが、眼前に映る少年の異形化に平静さを保つ事ができないでいる。
またトープスは、少年の変化が
「ぅうぅう……ガァあぁぁぁッ……!!」
白目を剥き天を仰いだかと思えば、次の瞬間には変化も収まっていた。雄叫びと共に少年の身体は、怪物と称するに相応しい異形へと変容していたのである。
「フゥ…フゥ…ハァ…ハァ…ふぅぅぅ……まぁ、こんなところです。驚かせて申し訳ありません、皆さん」
あり得ない箇所から生え揃う手や脚の数々――。一応、彼本来の身体は辛うじて見受けられるものの、全体で鑑みれば彼の全容は巨大な蜘蛛と表するに相応しいだろうか。
その余りに歪な全体像に、皆は絶句するしかなかった。
「貴公、その姿…ストームヴィル城以来だな」
この中で唯一、
「ええ、あの時は敵同士でしたがね」
また輝石の貴公子も穏やかな表情で返答する。
「う…ちょ…ちょっと待ってよ…き…君…ううん、灰君も何で平然としてられるのよ…!?普通じゃないわよ…どう見ても…!?」
普段と変わらぬ平然とした態度で言葉を交わす二人に、ライザは完全に取り乱していた。彼女の反応は、ある意味で正しいとも言えるだろう。
何せ彼女は、
今の少年は、嘗てゴドリックに仕えていた頃の『接ぎ木の貴公子』に戻っていた。
また異形の身体ながらも頭部だけは元のままで、なまじ端正な顔立ちと穏やかな物腰の所為で余計に不気味さを醸し出していた。
今は、まだ昼間で周囲にも複数人が居るからこそ、恐怖も多少は緩和されている。これが真夜中の孤独な環境で遭遇したとなれば、ライザなら速攻で人格崩壊を招いていただろう。
「丁度いい機会と判断し、この場で明かす事にしました。動揺を誘ってしまい申し訳ありません皆様方」
だが彼は、もう以前の彼ではない。接ぎ木形態の姿に戻ったとはいえ、今の彼は四方世界の冒険者で輝石の貴公子という呼び名がある。
そして未だゴドリックに恩義と感謝の念も残っているが、もう接ぎ木を悪しき凶行として心を悔い改めた身だ。
「狭間の少年よ。その変化…いや変身といった方が無難か…。それは四方世界でも可能なのかね?」
接ぎ木形態の彼を目した事で、金剛石の騎士が質疑を投げ掛けた。これは重要な確認事項だ。今の異形そのものである姿、四方世界でも変身できるか否かによって今後の待遇にも合わせていかねばならないのだ。
もし四方世界の真っ当な住民が、彼の接ぎ木形態を目撃すれば忽ち大騒ぎなるのは必至。少しでも対応を誤れば、たとえ秩序勢であったとしても彼は忽ち討伐対象として賞金首に懸けられる事さえあり得るのだ。加えて彼に社会的立ち位置にも、雲泥の差が生じるだろう。
国王でもある彼は、その事を念頭に問うていた。
「…可能です。多少体力を消耗しますが、実は密かに何度も試していたんですよ」
変身の際、幾許かの消耗と引き換えに強靭な接ぎ木形態への変容を可能としていた。
「…そうか…、くれぐれも人前での変身は避けよ…これは厳命であるッ…!」
「ハッ、仰せのままに、国王陛下ッ…!」
「帰還した後、根回しはしておくが期待はするなよ…?」
「広きご配慮に感謝致します。…ならばロードの恩義に報いるべく眼前の敵部隊を見事駆逐し、我が接ぎ木形態の有用性を証明して御覧に入れます…!」
金剛石の騎士とて、今の彼に対し何も対策しない訳ではない。確かに眼前の彼の異形ぶりは不気味の一言で、混沌勢の住民ではないかと疑うには充分な要素だ。
万が一を想定し、ギルドや行政機関には一応の根回しも視野には入れておく事にする。しかし効果の程は、限定的に絞られるだろう。
国家元首でもある金剛石の騎士だが、彼の権威は中央から離れるにつれ薄れてしまう。彼の目の届かぬ範囲では、大なり小なりの悪行を画策している者どもが跳梁跋扈しているのが現実だ。
出来れば眼前の少年には自重を促し、可能な限り今のような変身は控えて貰いたいのが理想である。いや本音で言えば、今の変身を最後にしてほしい位だ。
それ程までに接ぎ木形態の彼は、余りに怪物染みた姿をしていた。
その証拠に、ライザ程ではないにしても皆も一様に動揺を覚えているのが分かった。
金剛石の騎士の意向を汲み取った彼は、自らの有用性を試すべく単身敵部隊へと躍り掛かった。
……
確かに接ぎ木形態と化した彼は、異常な戦闘力を発揮した。
普段は魔法を中心に戦術を組み立て、剣術は精々素人に毛が生えた程度の彼。
しかし今の彼は、強靭な手足を活かし異常な高さまで跳躍――。敵部隊へと頭上から襲い掛かり、混乱する敵兵達を薙ぎ倒してゆく。
また所持していた剣と杖も駆使し、剣術と輝石の魔術を加え次々と敵を仕留めた。時折り敵から反撃を受けるものの、接ぎ木形態の強靭な耐久力で易々と受け切り然したる痛痒も負ってはいない。
「今ですッ!馬を確保して下さいっ!」
輝石の貴公子《現・接ぎ木の貴公子》は、優先的に騎兵を仕留め馬だけを生かしていた。馬を逃がさぬよう、後方のソラール達へと声を投げ掛ける。
「よし、馬を捕まえようぞ…!」
この戦闘の目的は、移動手段である馬の確保にある。彼の声を受け、ソラール達も一斉に動きを開始した。
接ぎ木形態へと変身した事で、半ば一方的に敵部隊を蹂躙した
この戦闘で確保できた馬は2頭分――。後は最低でも、もう2頭は要るだろう。この中でライザ、剣の乙女、トープス以外の面々は騎乗の技能を有していた。
馬に乗れない者は、誰かに便乗すれば事足りる筈なのだ。
此処にはもう用はない。
次の駐屯地へ向け、移動を開始しようとした矢先である。
「如何がなされました、ロード?」
金剛石の騎士は、倒れた騎兵を見降ろし動く気配を見せない。その様子を怪訝に思い、剣の乙女が声を掛ける。
「この装備……、間違いない…。『カイデンの傭兵』たちではないか…!」
「――ロード!?この兵達を御存じなのですかッ!?」
斃れ伏しもう動く事もない、敵兵たち。その中で、幾人かはゴドリック軍とは差異の見られる出で立ちをしていた。
しかし四方世界の住民である金剛石の騎士は、どういう訳か彼等を『カイデンの傭兵』と呼称していたのである。
これには
狭間の地、その北方の民であるカイデンの傭兵は紛れもなくこの世界の住民だ。その彼等を、
「間違おう筈もない。情報も入っていたのでな」
もう動かない屈強な遺体を検分する金剛石の騎士。
彼の治める国の北方面では、王国軍と魔神軍が今も交戦中だ。今は前哨戦といった状況だが、先遣隊として交戦していたのが今斃れている『カイデンの傭兵』たちでもあったのだ。
出で立ちからして北方出身であるという報告は寄せられていたが、今の今まで実際に目にした事はなかった。
幾度かに渡る交戦の結果、彼等は傭兵出ある事も判明したが正体までは未だ明らにされてはいない。
判った事実としては、『カイデンの傭兵』たちが魔神軍に雇われている事。
屈強で騎馬戦に長け勇猛果敢な戦働きで、王国軍が苦渋を飲まされている事。
また『カイデン』などという名は、過去には聞いた事が無いという事である。
「これで明らかとなったな…。こ奴等は、この狭間の地の住民であったか…忌々しい…!」
兜の下で顔を顰める金剛石の騎士。
カイデンの傭兵たち総員は然程多くはなかったものの、恐れを知らぬ勇猛な騎馬戦術で北方方面軍は苦戦を強いられていた。
何とか手管を変え持ち堪えているものの、今も被害は増す一方。
冒涜行為を知りながらも彼は感情に任せ、遺体と化したカイデンの傭兵を足蹴にする。
「そういえばカッコウ騎士団も、町や村に襲撃を繰り返していた。だがどうやって狭間の地から四方世界に流れ着いたのやら?」
「ロスリック不死街と繋がっている『朽ちた狭間の地』とも関係があるやも知れん」
ここでソラールも、カッコウ騎士団の事を思い出し言及する。既に彼等が狭間の地の出身である事を
確証は無いが、遅かれ早かれ調べる必要もあるだろう。
「次へ向かおう。もう少し馬は必要だ」
だが此処で議論しても事態は進展しない。彼等は次の敵駐屯地へと向かう事にした。
此処でもカイデンの傭兵とゴドリック残党軍との戦闘が発生し、
ソラール、ジークバルド、金剛石の騎士、オーベックに馬が行き渡る。
ライザ、剣の乙女、トープスの3名は誰かに乗せてもらう事で問題の解決を図る事となった。
「あの灰の方///、もし宜しければ貴方様の霊馬に乗せて下さいま――」
「――灰く~ん♪君の後ろに乗せてねぇ…♪」
霊馬トレントを駆る
「んべぇ~…!」σ(^┰゜)アッカンベー
「ガ~ン…」Σ( ̄ロ ̄lll)ガーン
彼の背に便乗したライザは剣の乙女に、アッカンべーと舌を出す。そして先を越された剣の乙女は、眼帯の奥で心底落ち込んだ様子を見せた。
「…私の背に乗るといい」(・ω・)
「…はい」 ショボ━(´・ω・`)━ン
仕方なく、金剛石の騎士の馬背に便乗させて貰う事にした剣の乙女。
「灰剣士殿、この馬は中々に
「承知した、私とライザは今の内に錬金素材の採取に向かう…!」
「――え、ホント!?イヤッタァ~♪」
カイデンの傭兵たちが駆っていた馬だが、少々気性が荒く暴れ馬そのもの。手懐けるのに、少しばかり時間と労力を要した。
今も馬に振り落とされそうになるのを必死に堪えるジークバルド。
またジークバルドだけでなくソラールや金剛石の騎士も同様で、少々難儀しており多少の時間が掛かるらしい。
そこで
その旨を耳にした彼女は大喜びで彼の胴にしがみ付き、霊馬トレントは二人を背に周辺へと駆け出した。
……
一旦トレントを指輪へと戻し、二人は周辺の採取に勤しんでいる。
「へぇ、これが『ロアの実』っていうんだ。そういえば、君の木箱にも入ってたよね。もう乾燥しちゃってたけど」
草木に紛れ群生している赤い実を摘むライザ。その実をまじまじと凝視していた。
「普通に磨り潰し調合するだけでも、様々な使い道があるのは証明済みだ。若しかしたら錬金術にも、多くの利用法があるんじゃないかと思ってな」
「そうなんだ。なんか仄かに甘い香りもするね。これって食べられるの?」
「直接口にするのは駄目だ。人間の胃液では消化できなくてな。主に馬や鹿などが口にするんだが、果汁や抽出した薬液なんかは調味料として利用もできる」
「ふんふん成程。元の世界に持ち帰って、育つかなぁ…?」
「群生するという事は、土壌条件もかなり緩いと、私は解釈している。実際試してみない事には何とも言えないが、多分栽培は叶うのではなかろうか」
「そっか、んじゃ今の内に一杯拾ろっとこ♪」
知り得る限りの知識を伝え、採取を手伝う
一方ライザも普段通りの調子で『ロアの実』や『落葉花』などを張り切って鞄に詰めている。
「ね、ねぇ…君ってさぁ、四方世界の住民じゃないんだよね…?」
「…ああ。私だけでなく、ソラールもジークバルドもオーベックも違う世界で彼方昔の時代より流れ着いた人間だ。そこでの私たちは、皆等しく
「そう…なんだね…。だから、あたし達とも考え方…違うんだ…」
「それだけでは片付けられんがな。この四方世界に流れ着き、かなり
「まぁ…何となく分かってたんだけどさ…、なんかこう…普通じゃないからさ…君の事を知る度に、だんだんと…さ…」
「元の世界に帰還した後、残り1週間程度で私は街を発たねばならぬ。お互い今一度関係を見直すには丁度いい機会やも知れぬ。どの様に身を振るのが最良なのか…」
「ロスリックだっけ…?君の使命とか何とかに関係あるの…」
「あるだろうな、多分…。だが果たすためにも情報が無すぎて困窮している。その為にも任を果たし功績を立て、王都に在るという助言者へのお目通りを許されねばならん」
「…ねぇ、一応教えてよ。君の使命って何…?」
「…輪の都…、フィリアノール教会へと赴き真の巡礼を果たす。それが、
途中までは意気揚々と素材採取へと勤しんでいたライザと
だが彼女も薄々とは感付いていた。この
会話を交わす度に、暗く重い空気が圧し掛かるのを感じる。彼の素性に関すれば関する程、こうして重い話へと流れてしまうのだ。
だがある意味で納得もしていた。
あの輝石の貴公子は兎も角、彼といいソラール達といい、妙に狭間の地への適応が早い。
つい先程、敵から馬を奪取した訳だが、やっている事は追い剥ぎや野党と何ら変わらない悪行だ。こうしなければならないという事情も察するが、ライザにとっては未だ納得の出来ない部分は多く残留していた。
そしてずっと気になっていた、彼の使命を聞き出す事ができた。
とはいえ、どうにも要領を得ない説明だ。
輪の都、フィリアノール教会、真の巡礼、言葉の意味を要約すれば誰かに頼まれたという事に繋がる。
「少しは知見も広がったのではないか?君の歩んできた冒険、聞いた限りだと随分楽し気な旅に思えるのだが」
「え…う、うん、勿論すごく楽しかったよ。レントやタオも一緒に居たし、クラウディアとも親友になれたし、アンベルさんやリラさんとも出会い錬金術も教わったし、オーレン族の住まう異界は…ちょっとヤバかったなぁ…アハハ…」
「この狭間の地はどうだ…、楽しいと言えるか…?」
「あんまり……。…もう…帰りたい…本当は…」
「それでいい。そう感じて当然なんだ。私たちの歩んできた冒険は、この様な世界ばかりが展開されていた。楽しむなどとは程遠い、苦痛と絶望しか用意されていないクソッたれな世界…!…それでも、あの世界も…最後の最後まで必死に生き続け命を繋げようとしていた…!(この俺が火を消す瞬間まで)」
「そうだよね…。楽しい冒険ばかりじゃない…。故郷を出て、それが少し判ってきた…」
「…早く目的を果たし、四方世界へと帰ろうか。此処でのお前は、沈み通しだ。お前には笑顔と…ちょっとの怒り顔で丁度いい」
「なぁにそれぇ…褒めながら馬鹿にしてない?」
「思った事を言っただけだ。笑ったお前の方が遥かに魅力が溢れている。…そういう事だ」
「銀髪のあの子から聞いたよ?今とおんなじ事言って、あの子を口説いたんだって?君って、何時の間に女誑しになったの?」
「さてな?だが確実に言える事は、お前も武闘家の彼女も笑っていた方が此方も気分がいい。それだけは確かだ」
「……ねぇ…、戻ったらさ…、一杯仲良くしようね///…一杯///」
「…程々にな?別れ際、ワンワン泣かれては叶わぬかならぁ~、フぁハッハッハ…!」( ゚∀゚)
「何よ、言うじゃない!その時になって君の方こそ泣くんじゃないわよ!?ううん、泣いても慰めてやんない…!寧ろ皆が見ている前で君を方を泣かして、大恥かかせてやるから覚えときなさいよ…!」(*`ω´*)
「それはそれは…楽しみにしておこうではないか」 ( ゚ ω ゚ )
「フンっ…知らないッ…!」(≧з≦)
「…戻ろうか?まだ素材は何処にでも生えている」
「…そうだね。皆もそろそろ馬に慣れて来たかな?」
ライザにとって冒険は、大切で楽しい思い出には違いない。確かに苦痛も体験したが、それも仲間の支えで乗り越え更なる成長へと繋がった。
また彼女は一時的にとはいえ、オーレン族という種族が住まう異界にも足を踏み入れた事がある。その異界でも、荒廃と死が蔓延し危険な魔境と化していた。だが、傍には信頼に足り家族同然な仲間が常に控えており、不思議と恐怖を覚える事もなかった。
では、この狭間の地はどうだろう?
人の気配はあれど、正気を失い襲い掛かる者達ばかり。円卓という比較的安住の地でも、どうにも陰気な者が揃い今一馴染む気にはなれなかった。
このリムグレイブも平穏とは言えるものの、何処となく身の危険をヒシヒシと感じどうにも落ち着かないものだ。
今でも傍に
やはりこの世界観が、そうさせてしまうのだろうか?
エルデンリングの破壊と共に狂った黄金律の世界、そう遠くない内に滅ぶであろう狭間の地と呼ばれる世界。
何とか楽しもうと、共に居たい彼と共に錬金素材の採取に勤しむも、内から不安感が止めどなく込み上げてしまい否でも意識が持っていかれてしまうのである。
早くもライザは、四方世界への帰還を願っていた。
楽しい冒険ばかりではないという現実を――。
会話の終わり際、彼に
普段、相手が男であろうと年上であろうと皆をグイグイ引っ張る彼女だが、今や完全に彼が主導権を握っていた。
一通り素材の採取も済み、二人は皆の元へ戻る事とする。
再びトレントを出現させ、彼と共に馬背に跨るライザは、顔を彼の背中に埋めていた。金属鎧の冷たさを感じながら…。
馬という移動手段を手にする事も叶い、リエーニエ探索の足掛かりも揃った。
ならばもうリムグレイブに用はない。此処の探索は、既に
戻った頃には、ソラール達も馬を手懐けていた。騎士と言う素性も手伝い、馬への扱いは手慣れていた様だ。
「よし、それではリエーニエ探索を開始する」
再びアギール湖・北への祝福へと戻る途中、
『おーい、あんた。オイラを助けておくれよ…!』
「全体、停まれェ…!」
「誰の声か…?」
彼以外も妙な声は聞こえていたらしく、全員が辺りに視線を泳がせた。
『おおーい、そこのあんただよ。どうして見ないふりをするんだい?』
「此方から、聞こえるようですね」
またもや妙な声の呼び掛けに、剣の乙女は方角を特定した様だ。
彼女の指し示す方へと一行は移動する。
「この辺り…でしょうか?」
方角は特定できたものの、正確な位置までは分からない。周囲には雑木は生え揃うのみで生き物といえば鹿に似た獣ばかり――。よもやその動物が喋っているのでは?…少々勘ぐってみるもののそれらしい気配もみられなかった。
『…なぜ、みんなそうなんだい…!オイラはそんなに、醜いのかい!?』
かなり近い距離から聞こえて来る妙な声。
「ソウルに違和感を感じる……、この木…怪しいな」
声だけでは特定は出来ないものの、流れ出る僅かなソウルの差異を感じ取る
「イテッ!ひどいじゃないか。殴るなんて…」
すると小突いた木が忽ち変化し、其処には小柄な獣人の様な人物が立っていた。
かなり加減した積りなのだが、騎士鎧の脚甲で小突いたためか小柄な獣人には少しばかり痛かったらしい。
「うわぁ、木から人?…が出てきたよ!?」
「ほぅ…亜人…ですかね?少し変わった背格好ですが」
小柄な獣人の姿に、ライザとトープスは珍しそうに視線を寄せている。
「…ん?ああ、そうか。オイラ、魔法で木にされてたんだっけ…って、ウわぁッ…接ぎ木の貴公子が何でこんなとこにぃ…!?いやだ、助けて…
「失礼だな…!君みたいな亜人風情、継ぐ価値もないから安心してよ…!」(# ゚Д゚)
小柄な獣人は、魔法で木にされていたらしい。結果的に魔法は解け、元の姿に戻れたことを喜ぶも束の間――。
視界映る異形の少年、
流石にそんな反応を見せられ、
「安心していい。私たちは貴公を傷付ける気など毛頭ない。さて…貴公は何者か?」
怯える獣人、いや亜人を安心させるべく説得する
「…では改めて…、オイラ、魔法で木にされて…あんたは、その魔法を壊してくれたんだな。ありがとう、オイラはボック。洞窟のみんなに嫌われて、追い出されて…あげく木にされてたんだ。…だからほんと、たすかったよ」
礼を述べながら、自らの素性と此処までに至る経緯を説明する『亜人のボック』なる人物。
亜人とは、この狭間の地に住まう古き人種で、拙いながらも文明と言葉を介する位の知能を持ち合わせた種族だ。だが縄張り意識も強く、大抵は踏み込んだ他種族を攻撃する傾向が強い。
「ね、ねぇ…亜人って、なんかゴブリンに――」
「――それ以上はいけませんッ!」
「――え、は…はいッ…!」
亜人という特徴を聞き、ライザが何となく小鬼に似ている事を口にしようとするも、即座に剣の乙女が口留めに掛かる。
「……。オイラ、洞窟を追い出されるときに、大事なものはみんな取られちまって、だから…こんなお礼しかできないんだ。ほんとごめんよ」
そう言ってボックは、キノコを幾つか差し出してくれる。
別に見返りなど求めてもいないのだが、折角の厚意だ。ここは有り難く受け取っておこう。
キノコ×10
「…けど、すこし時間をもらえるなら、こっそり洞窟に戻って、大事なものを取り返してくるよ。そうすればオイラ、きっとあんたの役に立てると思うんだよ」
「…今の君だと、ちょっと難しいんじゃないかな?」
「…ああ、ちょっと待っておくれよ…。確かにアンタの言う通りだ。やっぱりオイラ、あいつらが怖いから…、心の準備が必要なんだ…。…足がすくんじまうんだ。あいつらと、あの海岸の洞窟のことを考えると…」
「海岸の洞窟…?ああ君は、あの洞窟に住んでいたのか」
大して礼も出来ない事にボックは心を痛めている。どうやら彼は他の亜人とは違い、かなり義理堅い性格の様だ。
何とか恩義に報いようと嘗ての住処である『海岸の洞窟』に挑もうとするも、
「まぁ待てボックとやら…、亜人は確かに凶暴だ。気休め程度だが、これを持って行くと良い」
ボックの背景に同情した訳でもないのだが、
「え?くれるのかい…このオイラに…!?」
「持って行くといい。だが無理だと分かれば、退くのも手だ。命は大事にせよ」
彼が手渡したのは、ショートソード、鉄鋲の木盾、革の鎧一式などである。かなりサイズ違いもあるが、其処はボック自身で上手く融通させて貰いたいものだ。
「手を貸してやりたいのは山々だが、我々にも目的があるのでな。すまぬがこれ位しか手助けできぬ、許せ」
「と…トンデモナイ。こんなに親切にして貰ったのは、何時以来だろう?オイラ…アンタ達の事は絶対に忘れないよ…!心の準備が出来たら、絶対取り返してやる…!」
装備一式を受け取り、亜人のボックはかなり勇気づけられたようだ。今もなお怯えは払拭できてはいないものの、近い内に彼は行動を起こすだろう。
「ではな、貴公の成功を願っている」
「貴公にも太陽の導きがあらん事を…!」
「またね、ボック…何処かで会おうね…!」
短い交流だったが、ボックに別れを告げた
手を振るボックの声援を背に受けながら、一行は祝福まで辿り着いた。
「よし、先ずはリエーニエまで転移で移動する。流石にストームヴィル城を探索する訳にもいかんのでな」
ボックと別れた一行は、転移を使いリエーニエまで戻る事にした。
狭間の地をより良く知ってもらう為、敢えてストームヴィル城を再び探索するという案も考えていたのだが、城内部は入り組んでおり折角入手した馬を連れ歩く事は出来なかった。加えて未だゴドリック軍残党兵士も徘徊しており、余計な危険ばかりが目立つ。
故に、再探索の利点は少なかったのである。
祝福に手を翳し、リエーニエの『湖を臨む断崖』まで再び戻った一行。
―― 湖のリエーニエ ――
(推奨BGM エルデンリング ―― リエーニエ )
見覚えのある『湖を臨む断崖』、辺り一面は青一色といえる程の湖に囲まれ、相変わらず冷風が彼等の横を通り過ぎた。
「これから魔女ラニの元へと向かう。レアルカリアの封印を解く為の輝石の鍵…それの在り処が未だ判明していない。彼女なら何か情報を知っているかも知れん」
次の目的地は、リエーニエ北のスリーシスターズと呼ばれる塔。其処に『
リエーニエの主目標は、レアルカリアの学院長で『ラニ』の母親とも言われている『満月の女王レナラ』から大ルーンを奪取する事だ。
しかしレアルカリアそのものは、強力な封印が敷かれ侵入が不可能な状態だ。その封印を解く為には、『輝石の鍵』というアイテムが必要となるのだが何処に隠されているのか情報に困窮していた。
だがレアルカリアと繋がりもあるラニなら、何かしらの情報を得られるのではないか。
「実は、転移でも彼女の元へ向かう事も出来る。このまま転移で向かい一切の無駄を省くか、それとも通常移動でリエーニエ探索を兼ねラニの元へと赴くか…。皆の意見も聞きたい」
「ねぇ…それなら最初から馬なんて要らなかったんじゃ…?」
「そうでもないさ。その褪せ人…リエーニエ全域を探索し尽くしている訳ではないのだろう?なら今後の為にも馬は必須だと思う、私はな」
灰の剣士が乗り移る前に、この褪せ人は、ある程度リエーニエの探索を済ませておりスリーシスターズにも赴いていた。その際、魔女ラニとも契約を交わし仕えていたのである。
そういった理由もあり、転移で彼女の下に向かう事も出来た。
その様な旨を耳にしたライザは、馬など調達せずとも最初から転移で向かえば良かったのではないか、と意見を挿んだ。
確かに彼女の言は正しい。無駄を省くのなら、徒歩や馬で移動せずとも転移で一気に向かえば、不必要な労力も割かずに済む。
しかしジークバルドは、少し違う意見を加える。
彼が言うには、灰の剣士が乗り移っている褪せ人はリエーニエ全域の探索を終えてはいない。そういう判断を下していた。
転移の術は確かに便利な移動手段だが、一度訪れた場所にしか移動できない特徴もある。
まだリエーニエには、何が隠されているかも分からない状態だ。ならば、これからの探索の為にも、馬という移動手段の確保は決して無駄ではない。
ジークバルドは、そう考えていた。
「そういう事だ。さぁ皆はどうする?転移か、通常行軍か…?」
ここになり暫し話し合う一行。無駄を省き目的地へと一気に向かいたい気持ちも沸いていたが、やはりリエーニエという地域をある程度体験したいという願望も芽生えていた。
少々の議論の末、通常行軍にてスリーシスターズへと向かう方向で意見が一致する。
「決まりだな。ではこれより、北方面にあるスリーシスターズへと向かう。目標は、『月の王女…または魔女ラニ』に会い、輝石の鍵の在り処の情報を入手する事!皆、準備はいいな!?」
目的と手段も定まり、
一行は馬を駆りイリス教会を抜け、緩やかな坂を下った。
周囲が湖に囲まれている事もあり、土地全域は湿度が高く地面は若干ぬかるんでいる。馬の蹄は水分を多く含んだ地面に深くめり込んでいた。
途中で行商人と出会った。
数日前に遭遇した、あの行商人と出で立ちがよく似ている。やはりあの商人は、狭間の地より流れ着いた人物で間違いなかった。
(本編前夜編 第128話参照)
彼等は挨拶もそこそこに幾つかのアイテムを購入し、ついでにリエーニエについての情報を得る。思っていた以上に、リエーニエという地域は広大な面積を誇っている事が分かった。
流石に接ぎ木形態の彼の姿には、かなり仰天していたが何とか穏便に買い物も叶い一行は行軍を再開する。
「まぁあたしは、少し見慣れてきたけどさ…。あのおじさん…、やっぱり怯えてたよ」
「…否定はしません。確かにこの外見は、狭間の地でも異質なのは自覚しています。だけど、これはこれで便利なんですよ。普段の貧弱な身体とは違い、コッチは強靭ですからね。それに腕が何本もあれば、こうして複数の杖で呪文も行使出来そうだ」
やはり接ぎ木形態の彼は、不気味極まりない姿をしており、多少見慣れたもののライザは行商人の怯えっぷりを指摘していた。
それ自体は、彼も何ら否定はしておらず寧ろ自覚さえしている。しかし普段の人型形態とは違い、接ぎ木形態は身体能力に咥え複数の腕を自在に扱える利点を有していた。
そして先ほどの行商人から購入した『星見の杖』という魔法の杖も手に入り、彼は二つの杖を同時に扱う為の戦術を脳内で構築していた。
同時に違う種類の呪文を行使するのは、然う然う容易にはいかないだろう。
だが実現も叶えば、今後の戦闘には有益に働く筈だ。
複雑そうな面持ちのライザとは裏腹に、
――星に運命を見出す、星見という生業…。俺の知らん領域が、まだまだ存在するんだな…。
星見の杖に視線を向けていたオーベック。彼はソウルの魔術には長けていたが、星から運命と生命の神秘を見出し魔術と成す輝石の魔術にはまだまだ疎かった。
まだ見ぬ未知なる世界に、彼も幾許か心を躍らせる。
祝福――リエーニエ湖の岸辺――から更に北進し、古びた塔に差し掛かる。
中への入り口は封印されていたが、トープスが『叡智』のジェスチャーで謎を解明し安置されていた『メモリーストーン』の入手に成功した。これは秘石に込められた魔力が、脳の大脳皮質と海馬に作用する事で記憶を助ける働きを備えた、魔道具である。
「魔法職で冒険者のお前が使うといい」
オーベックの勧めで、メモリストーンは
そこから尚も北進を続け、不意にジークバルドから声が掛けられた。
「灰剣士殿…!馬の様子がどうもおかしい、かなり消耗状態に陥ったようだ…!」
「どういう事か?」
一旦行軍を停止した
よく見れば、ジークバルドの馬だけでなく他の馬も息を乱し苦しんでいた。特に顕著なのは、
「――ッ!皆、岸まで急げッ…!まだ間に合うッ!」
「それはどういう意味だ、灰の剣士よッ!?」
「説明している時間はありませんロード!岸に着いてから話します、早くッ…!」
彼らの様子の変化から何かを察した
少々腑に落ちないものを覚えた金剛石の騎士だが、彼の慌てぶりと馬の消耗具合から言う通りにした方が良いと判断した。
多少無理をさせてでも対岸へと到着を優先させた一行。辿り着いた頃には、トレント以外の馬は地面にへたり込み走る事ができなくなっていた。
「
彼は奇跡『治癒の涙』を会得していたが、祈祷『解毒』の方が消耗は軽く気軽に使う事ができた。解毒だけに絞るなら『解毒』の方が使い勝手が良かった。
そう、彼等の馬は
「…そうか…、毒の沼とはな…」
「申し訳ありませんロード、そして皆…。私の配慮が至らぬばかりに――」
広大な湖を誇るリエーニエという地域だが、一部は
霊馬トレントは文字通り霊体である為、毒の影響を受けずに済むという利点がある。しかし他の面々が駆る馬は実体を伴っている事もあり、毒水の影響を直に受けてしまうのだ。
それは
直に毒水へと触れていた馬と彼――。ある意味、彼等が毒に侵食されるのは、必然でもあった。
何とか毒の治療は叶うも、自らの軽薄に頭を下げた
「よい…。卿が我々を気遣っている事は重々承知している。これからは毒水を、なるべく避けて行軍すればよいだけの話。毒の治療は叶ったのだろう、なら行軍を再開しようではないか」
「弱毒なら、まだマシですよ。これが『朱い腐敗の水』だと思うと…うう寒気がする…!」
「…済まぬ…それでは歩みを再開する」
多少のアクシデントは発生したものの、こうして事なきを得たのだ。
金剛石の騎士も深く責める様な事をせず、
彼等は北進を再開する。
「旅人よ…!さっきから目に付いていたのだが、あの黄金樹に似た巨木は何だ?」
「ああ、アレか…!アレは『小黄金樹』と呼ばれる樹木だ…!」
北進の最中、ソラールの視界には黄金色の葉を持ち鈍い輝きを放つ巨木が目に入っていた。
あの天を衝くかのような『黄金樹』に比べれば、遥かに見劣りする『小黄金樹』という樹木。
それでも通常の樹木とは比較にならない程の迫力を備え、見る者を圧倒し続けていた。
「立ち寄ってみよう。霊薬の素材が手に入るかも知れんが、強敵に備えておいてくれ…!」
多少の寄り道となるが、危険を冒してでも立ち寄る価値はある。それにあれ程の巨木は、否でも目に留まるのだ。仮に無視したとしても気になって仕方がないのが、人情というもの。
特に反対者も出ず、彼等は小黄金樹へと進路を取る。
「うわぁ凄い…、これも巨大だねぇ…」
近付くにつれ、その異様さが明確となる小黄金樹。ライザの視界には、鈍いながらも光を放つ黄金の葉と幹が広がっていた。
「…幹の麓に何かが佇んでいますわ、アレは何でしょう?」
「アレは、『黄金樹の化身』…!平たく言えば、小黄金樹を守護する者ですね。こんな御時世です、倒してしまっても誰も咎めませんよ」
剣の乙女に視界には、ウッドゴーレムに似た巨人が映っていた。
彼女の質疑の答えたのは
何せ、もう黄金律の崩壊した狭間の地なのだ。ならば古い黄金律などに縛られず、自由に振舞ってみるのも一興というもの。
それに討伐に成功すれば、新たな霊薬の素材が入手できる。危険は伴うが、その分見返りも大きい。
未だ腑に落ちない部分を内心感じていたライザだが、どうせ止めても無駄なのは分かっていた。彼女も敢えて止めるようなことはせず、黙って戦闘準備を整える。
「これだけ人数が揃っていれば、さして苦戦もしないだろうが…。此処は駄目押しで、味方増援を呼び込むとしよう」
黄金樹の化身との決戦前に、
すると小気味の良い鈴の音と共に、2体の霊体が姿を現した。
「おお、コイツはッ…白霊じゃないか…!」
「うわわ、何…?こんなの見た事ないよ…!?」
「これは驚いた、卿は召喚術も扱えたのか?いや正確には、その褪せ人の持つ道具によるものか?」
2体の白色染みた霊体の姿を目にし、オーベック、ライザ、金剛石の騎士は目を白黒させ驚きの声を漏らす。
呼び出した霊体は、2体の屈調な騎士である。
「お初お目にかかる。某は、リムグレイブの騎士、オレグ…。其方らの事は、この褪せ人…否、『火のない灰』を通し察している」
「同じく、拙者はリムグレイブの騎士、イングヴァル。貴殿らの如き英傑と共に戦える栄誉、誠に光栄の至り…!」
この2体は、ストームヴィル城で味方として活躍した失地騎士のオレグとイングヴァルという名を持つ、英雄級の騎士たちだ。
(本編前夜編 第106話参照)
二人とも破格の戦闘力を備え且つ人格者としても優れており、英雄として祀られる程に民にも慕われていた。
こうして遺灰として褪せ人に協力していたが、現在の『火のない灰』の事もある程度は理解している。加えて、彼以外の事も含め。
「本当に次から次へと驚かせてくれるな、卿…いやその褪せ人という御仁には…」
二人の霊体を見た金剛石の騎士は、
「これは何とも…、会話できる白霊は然う然う居ないのだが、それだけに強大なソウルの持ち主という事だな。私はカタリナのジークバルド」
「貴公等の様な高潔な騎士に出会えた事、誠に感服の極み。俺はアストラのソラール」
金剛石の騎士に続き、ジークバルドとソラールだけでなく他の面々も簡単な挨拶を交わす。
二人の失地騎士をも味方に加え、更なる戦力向上を図った
「それでは各位、戦闘を開始する!」
戦力が整った事で、彼等は一斉に『黄金樹の化身』へと挑みかかる。
(推奨BGM エルデンリング ―― 黄金樹の化身 )
木巨人の様でいながらどこか生物染みた、異形の巨体。しかし手には、規格外に巨大な棍棒を所持しており破壊力は桁違いに高い。
リムグレイブを攻略していた
先ず最も機動力に富むトレントに騎乗した
「振り落とされるなよライザ。魔法で牽制してくれればいい…火が弱点だ!」
「――う、うん…!って、あたしの魔法利くかなぁ…?火の魔法は無いんだけど…?」
「
木の化身である故か、やはり火が弱点なのはどの地域も同じだ。
強力なフラムは温存しておきたかったが、ライザの会得している魔法には火属性は備わっていない。
そこでライザには、トレントの鞍の横に吊り下げられている
黄金樹の化身に肉薄すれば、巨大棍棒の洗礼が彼等を歓迎する。
巨体と異様に長い腕、そして規格外の長さを誇る巨大な棍棒が横薙ぎに振るわれた。
一見杖とも思えた単純構造の巨大棍棒だが、つまりは
もし直撃しようものなら、トレントごと
だが振るわれた巨大棍棒は、虚しく空振り空気だけが彼等を薙いだ。巨大棍棒の軌道を読んでいた
「いぎゃあぁぁッ…!?ちょっとちょっとぉ、喰らったらマジで危ないってッ!?」
「――怯むな、火炎壺を投擲せよ!」
「――分かったわよ、そぅれッ!」
未だ嘗てこれ程の大質量の攻撃など体験した事がなかったライザは、空振りとはいえ巨大棍棒の唸りに悲鳴を上げた。
だが
怯えている暇はない。彼の指示を受けたライザは、黄金樹の化身に向け火炎壺を投擲――。あの巨体に対し狙いを付けるまでもなく命中し、割れた壺から可燃物が飛散し引火した。
巨体を誇る黄金樹の化身に、たかだか一個の火炎壺など虫刺されほどの効果しかなかった。
しかし、敵は此方に意識を向けてくれた様だ。
「――ぬぉォりゃぁあッ!」
「――そぅるぁあアッ…!」
その隙にソラールとジークバルドが騎乗したまま突撃し、敵に斬撃を喰らわせる。
ソラールは、戦技『太陽の誓い』と『王騎士の決意』を併用させた強烈な一撃を――。
ジークバルドは、アイテムの『炭松脂』で付与を施し火炎属性の斬撃を仕掛けていた。ソウルの業により、長い間格納していた道具が自在に使えるようになり、戦術の幅が拡大していた。
二人の強力な攻撃に、黄金樹の化身は怒り任せの巨大棍棒を振るうも当たる事はなかった。
彼等の馬はトレントほどの機動性は有していなかったが、二人とも
そんな彼等の技量を以てすれば、大振りの巨大棍棒を掻い潜る事など実に造作もない。
巨大棍棒の一撃は確かに驚異的だが、それだけに空振った時の隙は多大だ。
その隙を目掛け、今度は金剛石の騎士を筆頭にオレグとイングヴァルが攻撃を仕掛ける。
金剛石の騎士も、真言魔法『
そしてオレグとイングヴァルの両名は、徒歩ながらも素早く接近し嵐を帯びた激しい攻撃を加えてゆく。
しかし徒歩である事が仇となり、二人は巨大棍棒の間合いに入っていた。
「――いかん、二人とも退避をッ…!」
彼等は霊体ゆえ、絶命しようとも直ぐに復活できる。しかし幾ら霊体とはいえ、もう立派な仲間なのだ。オレグとイングヴァルの二人は。
危機の迫る二人の騎士に、ジークバルドが警告するも回避は間に合いそうになかった。
「――僕が行きますっ!」
ここで割って入ったのは、
「――ゥぐぁッ…!?」
だが幾ら強靭な接ぎ木形態とはいえ、相手は更なる巨体と質量を誇る木のバケモノだ。
接ぎ形態の全身は、巨大棍棒の横薙ぎを真面に食らい吹き飛ばされる。しかも、盾もない腕の数本でガードしていたのである。幾多もの彼の腕は見事に圧し折れ、折れた骨が皮膚を突き破り赤黒い鮮血が噴き出していた。
吹き飛ばされた彼は、受け身もとれず地面に叩き付けられ転倒してしまう。そんな彼に追い打ちをかけるべく、敵は巨大棍棒を真上へと振り上げ完全に叩き潰す構えを見せていた。
「ぐぅぅッ…せめて『獣紋の黄金盾』さえあれば、何とか凌げたのに…!」
ゴドリックに仕えていた頃の彼は、金属製の大盾を装備していたのだが今は失われていた。
やはり接ぎ木形態とはいえ、生身の腕数本で大木と同等の棍棒撃を真面に受けてしまったのだ。
金属製の大盾が有るのと無いのとでは、
未だ起き上がれない彼の頭上に、巨大棍棒が迫る。
「つるぎの君よ、見るべき事を見、語るべきを語る者に、守りの加護を……
しかし巨大棍棒は、彼の頭上で圧し留められ危機を免れる事ができた。
「――今の内ですッ!早く退避をッ…!」
「――だ、大司教様っ!?」
黄金樹の化身が振るう必殺の一撃は、剣の乙女が発現させた至高神の奇跡『
眩い光の壁に阻まれた巨大棍棒は、尚も彼の頭上で制止したままだ。
その生まれた隙を見逃さず剣の乙女は退避を勧告し、彼も負傷した身体ながらも跳躍する事で間合い外へと逃げ延びる。接ぎ木形態の脚力も強靭で、高い跳躍力は移動力にも優れていた。
また彼が身を呈したお陰で、オレグとイングヴァルも危機を脱している。
「全く無茶してくれるぜ…!」
「少年よ、後は我々と共に後方支援に徹するのだ…!」
「ええ、その積りです…かなり痛いな…これ…」
後方にて魔法援護を担っていたオーベックとトープスも彼を気遣い、援護に徹すよう苦言を呈す。
流石にあの巨大棍棒の一撃は効いた。
黄金樹の化身の猛攻を凌ぎながらも彼等は攻撃を加え続け、痛痒を重ねてゆく。
すると敵は巨大棍棒を振り上げ、儀式を行うかのように真下へと先端を叩き付けた。
「――各位、無数の光の矢が来るぞ、回避と防御に専念せよッ!」
黄金樹の化身の行った攻撃、
叩き付けた巨大根棒の先端部から、光の弾が宙に湧き間も無く光の矢へと転じ放たれた。
その数は無数に登り、乱立した軌道で皆に襲い掛かる。光の矢は、宛ら真言魔法の
一度経験している
だが初見である他の面々は、そうもいかず何発かを喰らってしまった。
盾持ちのソラールやジークバルドと
数発でも凡庸な
黄金樹の化身は光の矢による攻撃が有効と悟ったのか、続けさまに巨大棍棒を振り上げ光の矢の展開状態に移行した。
「させません。アルマー(武器)…、フギオ(逃亡)…、アーミッティウス(喪失)…!」
しかし振り上げた瞬間を見計らい、剣の乙女が真言魔法『
その瞬間、黄金樹の化身の手から巨大棍棒がスッポリと地面に抜け落ちた。
これにより、光の矢の展開は中断され、敵は僅かな戸惑いを見せる。
「――ライザ、馬から降りてくれ…!」
「――え、うん…!?」
これは致命的な隙だと判断し、
黄金樹の化身へと肉薄した彼は、トレントを指輪へと戻しながら敵目掛け跳躍――。敵は丁度、取りこぼしてしまった巨大棍棒を拾い上げる途中であった。
「――させん…、戦技『グラビタス』…!」
巨大棍棒の無い黄金樹の化身など、単にデカいだけの的だ。
彼は地面に剣を突き立て、重力の戦技である『グラビタス』を発動――。これは自身を中心に重力陣を円形に展開させ、力場内の対象物を自身へと引き寄せる効果を持つ。
この戦技で巨大棍棒は彼へと引き寄せられ、黄金樹の化身に手に握られる事はもうなかった。
「――今だ、総攻撃で止めをッ!」
ここまで御膳立てが揃えば、もう恐れる事は何もない。
―― ENEMY FELLED ――
(推奨BGM エルデンリング ―― リエーニエ )
黄金樹の化身は討伐され、辺りは静寂が舞い戻る。
大抵の小黄金樹には、この黄金樹の化身が守りに就いており至る所にて生息しているのだ。
打たれ強く多大な破壊力を有す異形だが、斃せれば見返りも大きい。
この敵を討伐する事で、新たな霊薬の素材となる『青色の結晶雫』と『破裂した結晶雫』の入手に成功。これで霊薬にも更なる幅が持たせる事ができるだろう。
「ひぇ~…物凄い戦いだったねぇ~…」
激闘を終えた事で緊張が抜けたライザは、ヘナヘナと力無く地面に座り込んだ。
「無事ですか?今治療いたしますね」
「ぐぅッ…、接ぎ木形態でも痛いものは痛いですね…」
「私も手を貸す、動くなよ」
剣の乙女と
数本の腕が圧し折れていたが、彼らの神霊力なら全快する筈だ。
「お二方、見事な戦働きだ。家臣にほしい位だな」
オレグとイングヴァルの戦いぶりに賞賛を送る金剛石の騎士。
役目を終えた二人は無言ながらも敬礼で応え、虚空へと消え去った。
「おや、オーベック殿。何を見てらっしゃるので?」
「ん、ああ…いやなに、大した事じゃありませんよ」
小黄金樹の周囲には、ひび割れ朽ち果てた巨大な壺の残骸が散乱している。それをオーベックは物思いに見つめており、不思議に思ったトープスも何となく声を掛けてみる。
だがオーベックも直ぐに止めてしまい、再び自身の馬へと跨った。
戦闘を終えた一行は少しの間、小黄金樹の周辺を探索する。
やはり間近で見れば、小黄金樹とて規格外の巨木には違いなかった。黄金樹程ではないにしても、四方世界に1本でも存在すれば忽ち人々の目を惹くのは間違いない。
小黄金樹の周辺には珍しい植物が群生しており、『色褪せた金輪草』や僅かながらも『アルテリアの葉』を拾う事ができた。特にライザにとっては、嬉しい骨休めになったようだ。
一行は更なる北進を続け、『四鐘楼』近くまで辿り着いた。
「あの人だかり、カッコウ騎士団ではないか…!?」
緩やかな坂道を下る集団を見付けた、灰の剣士たち一行。馬を停め確認して見たところ、見覚えのある鎧を目にしたソラールがカッコウ騎士団である事を見抜く。
「確か、西方の街や村などを幾つも壊滅させているらしいな」
「ええ。今も、各地で被害報告が寄せられています」
カッコウ騎士団の情報は王統府も掴んでおり、最近では西方のみならず他地域でも被害が増加傾向にあった。その旨を語る剣の乙女。
「カッコウ騎士団は、レアルカリアとの契約で略奪や戦争の自由が許されています。それ故、蛮行に奔る事も厭わないのでしょう。もう遠い過去ですが、僕の生家も幾度か襲撃されました」
レアルカリアを主導するカーリア王家と契約を結び、その代価として戦争の自由と略奪を許されたカッコウ騎士団。リエーニエの全域で幅を利かせ、数々の蛮行に及び悪名を轟かせてきた。
しかしカーリア王家の『女王レナラ』が正気を喪失した事で権威が失墜し、その実権を握ろうとした騎士団は学院側と共謀し、カーリア王家の襲撃に及んだ。
だが結果的に力及ばずカッコウ騎士団は、壊滅的打撃を被り殆どの戦力を喪失していた。
そしてどの様な理由が働き、件の騎士団が四方世界にて暴れているのか真意は未だ判明していない。
いま眼下に見える彼等は、その一味という事だ。
「略奪を是とする騎士団とはな…、時代錯誤も甚だしい…!いや、それを認めた学院も学院だ…!一人の騎士として許せぬよ…!」
「それは私とて同じだ、カタリナの騎士よ。国と民の守護を担う騎士たるが、民に下す数々の悪行…!それだけに飽き足らず、我が国民にまで魔手の延ばすとは…断じて看過できぬ…!」
視界に広がる騎士団は、ただ単に歩いているだけに見える。だがこれまでの悪行の数々を、四方世界に流れ着いてまで行ってきたのもカッコウ騎士団だ。
華やかな衣装の甲冑に身を纏うカッコウ騎士団。しかし、現実に重ねてきた数々の悪行は無視できぬ程に膨れ上がっていたのも確かだ。
そして狭間の地の住民でもある
その事実に義憤を滲ませるジークバルドと金剛石の騎士。
四方世界も少々の昔前では、民への搾取や略奪といった騎士団の横暴が目立っていた時代もあった。どうやらそれは、この狭間の地でも健在な様で、民を守る為の騎士団が民への悪逆に尽くすという矛盾。
やはり騎士の端くれである金剛石の騎士、ジークバルド、ソラールも、自らの恥部を曝け出されている様に感じられ見るに堪えなかった。
「アレは放置しても問題なさそうですが、もし何らかの作用が働き四方世界に流れ着いたら
「そこまで悪名名高いカッコウ騎士団なら、何も遠慮はいらぬな。…ライザ、気が進まないのなら退がってくれてていい」
どうせこのまま放置したところで、碌な所業など行おう筈もない騎士団なのだ。やや先入観が先走ってしまう一行だが、ほぼ全員が彼等を討つ事に何の躊躇いも抱いてはいなかった。
別に放置しても良かったのだが、万が一四方世界に流れ着いては少々面倒な事にも繋がりかねない。
だがライザだけは、先程の件も手伝い価値観の違いも浮き彫りとなっていた。ここで彼は、ライザに対し退がる事を勧めてみる。
「大丈夫だよ灰君。ゴド何とか軍の人たちはまだしも、あの人たちって悪い事を平気でするんでしょ?だったら遠慮なく懲らしめてやろう…!あたしも手伝うからさ…!」
「分かった…、では宜しくお願いする」
今回の件に限り、ライザも奮起を見せている。彼女も頑固ながら正義感が強く、他国とは言え四方世界の住民に危害を加えているカッコウ騎士団には完全に憤りを覚えていた。
ならば遠慮はいらない。
「――各位、これよりカッコウ騎士団を強襲するッ!」
全員の心は一致団結し、このまま眼下の騎士団へと総攻撃を開始した。
騎士団とはいえ数ばかりが目立ち、質そのものは高い水準ではなかった。
一方で『結晶連弾』をバラ撒き牽制、もう一方で『輝石の大つぶて』で止めを刺すという戦法を用い、複数の兵士を纏めて始末する。
接ぎ木形態という彼の特性が遺憾なく発揮された。
またトープスも『輝石のアーク』で近付く兵士を迎撃し、オーベックはソウルの魔術でフォローした。
剣の乙女は奇跡『
そして前衛役の
しかし敵側も黙って甘受する訳ではない。
残存数は未だ多く、統率を失いながらも兵士や騎士たちが『屑輝石』や『カッコウの輝石』を投擲――。地面に着弾し割れた屑輝石から、無数の魔力礫が味方陣営に殺到する。
騎乗した者たちは馬の機動力で難なく回避できたが、後衛職の何名かは魔力礫を喰らい軽傷を負った。屑輝石による低威力の魔力礫ながら、追尾性のある軌道で襲い掛かるため回避し辛い特性を有していた。
加えて騎士たちは総じて手練れが揃っている。略奪集団ながら、そこは騎士といった所か。
それなりの実力と数を誇り、味方陣営と膠着状態に
しかし次の瞬間、見知らぬ影が侵入し複数の騎士たちを瞬時に叩き切る。
「貴公…、半狼のブライヴっ…!?」
「久しいな、手を貸す…!」
突如の参戦に、灰の剣士以外は若干の戸惑いを覚えるも今は戦闘中だ。
ブライヴの参加で戦闘を有利に進め、程無くして敵部隊の殲滅に成功した。
……
「地下世界で会った以来…いや、
「…知っていたのか、ブライヴ?」
「薄々はな」
カッコウ騎士団を殲滅した彼等と半狼のブライヴ。
彼とはリムグレイブで共闘した間柄だが、灰の剣士と褪せ人の関係性には気付いていた様だ。
(本編前夜編 第104話参照)
「隠す積りはなかったのだが――」
「気にするな、お前にも事情があるのだろう」
ブライヴ自身も、灰の剣士の素性を特に責める気などはない。彼にとっては、然して重要ではないのだ。
「ああそうだ、皆にも紹介しておこう。彼は半狼のブライヴ。月の王女ラニに仕える従士の一人だ」
「お初お目にかかる。俺は、半狼のブライヴ。魔女ラニに仕える、影従だ」
「私は此処ではない四方世界という異界より舞い降りた。…そうだな、金剛石の騎士、とでも名乗っておこう」
皆にブライヴを紹介する
対して金剛石の騎士が皆を代表し、ブライヴに応じた。
「そうか、お前達もラニの元へ…」
「ああ。輝石の鍵の在り処が分からぬ故、彼女なら何か知っているのではないか…そう踏んでいてな」
彼ら一行と同じくブライヴも、ラニの元へと向かう最中であった。
だが転移を使わず敢えて通常移動で向かう事を知り、ブライヴは少々意外そうな表情を浮かべる。
「リエーニエとカーリア城館を体験してもらおうと思ってな。…だが
褪せ人本人は、既に魔女ラニとの邂逅を果たし彼女に仕えた身だ。それはブライヴ自身も承知していたが、灰の剣士が乗り移った状態でラニと面会した事はまだない。
魔女ラニは、『月の女王レナラと黄金律のラダゴン』との間に誕生した末娘でデミゴッドでもある。
恐らくは、遠方から灰の剣士たちの存在に気付てもいるだろう。しかし友好的な対応で迎えてくれるという保証はない。
だがブライヴの同行が、一種の潤滑油の役割りを果たしてくれるのではないか。
「ふ…まぁいいだろう。異界の来客が多数に、接ぎ木の貴公子まで居るとはな。
彼の要請に反対する理由など、ブライヴには無い。意外にもアッサリと、彼の求めに応じた。
「では行軍を再開しようか」
「待て、その前に奪取された物を取り返す」
一通りの紹介も済み再開を打診した
馬ではなく
「カーリア王家から掠め取るとはな、愚かな騎士団だ」
もう動かない馬車体後部へと移動し、中の宝箱を抉じ開けたブライヴ。中からは、上質の直剣が入っていた。
「盗人が使うより、お前達の方が持ち主として相応しい。有効に使ってくれ」
「――おぅっと、良いのかな?ブライヴとやら…?」
直剣を手にしたブライヴだが、そのまま彼等に投げ渡し、金剛石の騎士が慌てて受け取った。
略奪集団のカッコウ騎士団に渡る位なら、真面な騎士に使って貰う方がいい。
もうカーリア王家の権威は完全に失墜し、王家に仕えた騎士団も現存しているかどうかも疑わしい現状。
嘗て居たであろう持ち主も存在しないのであれば、せめて真っ当たる騎士に剣を委ねよう。
それがブライヴの思惑だった。
「そうか…、では私が使わせて頂こう。…にしても、美しく神秘的な剣だ…」
「カーリア騎士の直剣ですな。嘗てカーリア王家に仕えた直轄の騎士たちが携えていた名剣と聞き及んでいます」
鞘から刀身を抜き、暫しその造形美に見惚れる金剛石の騎士。そしてトープスは、その剣の素性を簡潔に説明した。
「ロード、その剣から魔力を感じ取れるのであれば、聖黄金樹の時と同じくソウルを同調させてみて下さい。更なる
ただの直剣ではない事を見抜いた
「あの時と同じ要領か…やってみよう…」
西方辺境街に植生されている『聖黄金樹』と己のソウルを同調させる事で、この狭間の地へと降り立つ事ができた。
彼の言葉を頼りに、当時の感覚を思い返し意識を集中させる。
――…む…この流れは…。
既に要領も感覚も掴んでいる。カーリアの騎士剣から流れるソウルを捕らえ、自らのソウルの波形と同調させてゆく金剛石の騎士。
――…分かるぞ。剣より秘めたる力の源流、俺にも確と感じる…!
程無くして剣に込められた可能性を感知した金剛石の騎士。その瞬間、彼はカッと目を見開いた。
「――戦技『グレートカーリア』…!」
カーリアの騎士剣に秘められし能力を捕らえた金剛石の騎士は、大上段に構え青白い魔力を帯びた刀身を出現させた。
そしてそのままの勢いで振り下ろし、巨大に成長した魔力剣が地面を深く抉る。
「「「「「――おぉおぉ…!?」」」」」
「ほぅ…手練れの様だな」
カーリアの騎士剣に込められていたのは、『グレートカーリア』と呼ばれる戦技であった。
派手な見た目と破壊力の前に皆は驚愕の声をあげ、金剛石の騎士の腕前にブライヴも満足気だ。
「本当に良い剣だ。叶うなら、これを元の世界に持ち帰りたい」
カーリアの騎士剣を完全に気に入った金剛石の騎士は、この剣を持ち帰りたい願望に見舞われる。
「可能かと思われます。私の時もそうでした故」
「おお、それは誠か…!カーリアの騎士剣…気に入った…!礼を言うぞ、ブライヴ殿…!」
「気にするな。アンタほどの騎士の手に渡るなら、ラニも目くじらは立てんだろうさ」
四方世界の帰還が成った時も、手にしているであろう。
満悦な笑みで金剛石の騎士はブライヴに礼を述べ、対するブライヴも狼顔ながら笑みを浮かべていた。
こうして半狼のブライヴを同行させ、彼等は一路『スリーシスターズ』を目指す。
「うわ、凄い遺跡だね…」
もう朽ち果て繁栄など見る影もない廃墟へと差し掛かった一行。その遺跡に暫し見とれたライザは、キョロキョロと辺りを見回していた。
「僕の記憶が正しければ、此処は昔、カーリア王家の治める街だったと聞きます」
「ほぅ、勉強熱心だなボウヤ。その通りだ、今はこんなだが嘗てはカーリア王家の治める美麗な街だった」
噂程度には耳にしていた
そして彼の見解は正しく、ブライヴから簡単な説明を受けた。
「この朽ち果てよう、相当の年月が過ぎたとみるがいったいどれ程の時が経過したのか…?」
過去に栄えていたであろう街も、今となっては虚しい名残を残すのみ。
この荒れ果てた残滓に目をやるソラールは、かなりの年月が過ぎ去ったと推察していた。
「あまり時など意味はない。しかしざっと…最低でも1000年以上は確実か…」
「「「――せ、1000年…!?」」」
いともアッサリと答えたつもりのブライヴに対し、ライザ、剣の乙女、金剛石の騎士は素っ頓狂な声をあげた。
まるで森人の様な時間間隔に、彼等は理解が追い付いていない。
「四方世界の感覚では、確かに驚かざるを得ないでしょうね。でも黄金律が健在だった時代では、本当に1年も1000年も大した違いなんてなかったと聞きます。まぁ僕は、エルデンリング崩壊後に生を受けた身ですが」
四方世界と狭間の地――。世界が違えば当然、その在り方や理も違うものだ。
生と死が混在するのが当たり前の四方世界に、死の概念を取り払った黄金律が支配していた狭間の地との相違性。
やはり四方世界に生まれ育った彼等に、狭間の地の価値観を理解するには少々難儀が生じていた。
「此処から先に、イジーの爺さんが居る。先ずはそいつに会おうか」
少しした先を進めば、遺跡外れに巨人のイジーが居を構えていた。彼もブライヴと同じく、ラニに仕える従者の一人で同時に鍛冶業を営んでいる。まぁ来訪者も途絶えて久しいのが、今の狭間の地なのだが。
「…おや、お客人ですか?しかもこんなに大勢とは、珍しいこともあるものです。それにブライヴと
ブライヴと褪せ人の姿に加え、大勢の来訪者を見たイジーは落ち着きながらも少々驚いている様だ。同時に彼等側も、イジーの巨体に各々の反応を見せる。
「よぅイジー。今からコイツ等をラニの元へと案内しようと思ってな。あと…この
ブライヴはこれまで経緯を語り、特に灰の剣士が乗り移った今の褪せ人の件についても説明する。
「…ふむ、随分不思議な事もあるものです。四方世界なる異界からの来訪者…。ああ申し遅れました、私はイジー。嘗てはカーリア王家に仕える、鍛冶師でした…そしてまだ、錆び付いた腕を諦めきれずこんな場所で、ひっそりと鍛冶の仕事をしております。…よろしければ試してみますかな?この老骨の腕を」
お互いに自己紹介を交わした後、
先ほど手に入れたカーリアの騎士剣といい、ソラールやジークバルドの武器も強化して貰えば戦力上昇にも繋がるだろう。
それから暫く、イジーに彼等の武器を強化して貰う事になった。
やや離れた場所では、ライザと剣の乙女が眼下に広がる湖とレアルカリアの情景に目をやっていた。
「…灰君には、謝ったんですか?
少々入り辛い話ではなったが、ライザは単刀直入に当時の事を聞き出した。
ダークゴブリン戦の後、彼女が激昂し灰の剣士を殴打した時の事を。
(本編前夜編 第96話参照)
「アレは、そう単純な事ではありませんわ。人にはそれぞれ抱え切れない過去を持つ。そしてそれは生き続ける限り、何処までも追い縋る。逃げども逃げども何処までも…生き続ける限り――」
小鬼に敗北し、尊厳を極限まで踏み躙られた剣の乙女。そして彼女の過去を逆撫でするかのような、灰の剣士の嘗ての発言。第3者からでは決して理解出来ない程の侮辱にも等しいのだ、彼のあの発言は。
剣の乙女自身も、我ながら私情と感情が先走ってしまった事に些かの悔いを覚えてはいた。だが断じて容認できなかったのだ。あの小鬼に苦しめられた女性は、星の数ほど居る上に悲惨な最期を迎えた者も多い。
何処かでは彼の発言も正しいのかも知れない。しかし断じて認める事は出来なかったのだ、あの苦しみと過去を抱えた者にとっては尚の事。
「あたしは、謝ったのかどうかを聞いてるんです!大司教様の過去なんて聞いてません…!」
だが今のライザにとって、剣の乙女の過去など興味も覚えていない。
たとえ剣の乙女に重い過去があろうとも灰の剣士の失言があろうとも、気を許した彼を殴打した事がどうしても許せなかったのだ。
「ええ。謝罪も和解した上に、貴女の知らない所で
「――ッうッ…ぐっぬぬ…」
変に突っかかるライザを尻目に、剣の乙女はシレっと答えた。
詳しい内容までは伏せたが、彼とは
何れは深い関係に発展するだろう、否、悪夢を克服した上で更なる関係強化に努める腹積もりでいたのだ、彼女は。
その事を聞き、ライザには返す言葉が見付からないでいた。
「彼には、もう
「え…いや…あたしは…その――」
反撃とばかりに今度は剣の乙女からの質疑が飛び、ライザは完全にしどろもどろとなり言葉を詰まらせる。
「彼の事です。きっとの貴女の気持ちは伝わっている事でしょう。ですが、自分から明確に伝えないと彼は決して答えてくれませんよ。あの御仁は、そういう男です。ちょっぴり難儀な事に…」
「そ…それは…まぁ…あたしも灰君も…それとなく…ですけど…」
灰の剣士に向けるライザの感情、それは既に彼本人も気付いてはいる。そしてお互いの本心を、それとなく伝えてはいた。だが明確といえる程の感情は伝えてはないのが実情だ。
(本編前夜編 第78・98話参照)
ライザは自信なさげに本当の事を言及するも、何処か俯き加減だった。
「あまり時間を掛けては、好機を脱してしまいますよ。私や他の女性陣の事は気にせず、本心を明確にお伝えなさい。それに、彼に幾人もの女性が寄り添って来ようとも私自身は大して気にしてはおりません。もし本妻になれずとも彼と繋がってさえいればそれで――」
「…うぅ…」
自身の本心をこの場で曝け出した剣の乙女。相対する相手が、多少ぎこちない関係のライザとはいえ女同士であるからこそ、この様な本心を吐露する事ができるのだろう。
しかしライザは気圧され通しで、ぐうの音さえ出なかった。
「さて、そろそろ出発ですわね。…出来れば貴女とも良好な関係を築き上げたいものですわ、クーケンのライザさん…!ではお先に――」
「……」
一通り話し込んだのだ、イジーとのやり取りも終わる頃合いだろう。
剣の乙女は一足先に、彼等の元へと戻った。
そしてライザはといえば、ただ言葉もなく彼女の背を視線で追う事しか出来なかった。
「…ハァ~…さすがは大司教様…かぁ…、敵わないなぁ…でも――」
仮にも大司教という社会的地位に身を置き金等級に連なる英雄級の冒険者でもある、剣の乙女という女性。
ライザの感情任せの発言など難無く受け流し、逆に剣の乙女からの言葉には何も返す事ができなかった。
「
ふと地母神神殿に身を置く、見習い神官の少女の事を思い出す。
どうにも他とは違うのだ。灰の剣士と彼女の関係は――。
仮に自分や剣の乙女が、彼との濃密な関係を築こうとも、あの神殿の少女とだけは何か特別な繋がりを持っている様に思えて仕方がなかった。
「ま、大司教様の気持ちも分からなくはないけどさ。あたしだって、灰君ともっと仲深めたいもん…」
ブツブツとそう独り言ちたライザも、剣の乙女に続き皆の元へと戻った。
イジーと別れ歩を進めれば、先に見えたのは古びた城館の巨影だ。
「――気を付けろ、まだ罠は生きてるぞ!」
再出発する際、イジーより警告を受けていた。
カーリア城館へと近付くにつれ、虚空から雨霰の様に魔法剣が降り注ぎ彼等の進行を阻む。
「喰らったらひとたまりもないな…!」
「僕と先生が一番、キツいんですけどね…!」
頭上より迫り来る魔力剣の雨を掻い潜りながら、ブライヴを先頭に彼等はカーリア城館へと距離を縮める。
オーベックと
加えて
強靭な自分は兎も角、敬愛するトープスへの被害は何としても防がねばななかった。
「よし、ここまで来れば一先ず安全だ」
「ふぃ~、生きた心地がしなかったねぇ…」
カーリア城館の入り口に差し掛かり、罠の稼働も止んだらしい。
ソラールとライザは、額に汗を浮かべ呼吸を整えていた。
―― カーリア城館 ――
元々カーリア王家が住んでいたとされている館。
今や人の気配もなく中は閑散とし、魔法の仕掛けや侵入者排除用の魔法生物が徘徊するのみと化した。
やはり長い年月には耐えられないのか、絢爛であっただろう入り口主門も完全に朽ち果て機能を果たしていない。
これなら馬ごとの侵入も可能だろう。
彼等はそのまま、カーリア城館へと足を踏み入れた。
まだ昼間の筈だが、どうにも敷地内は薄暗く霧が立ち込めており若干の視界不良を引き起こしていた。
「行く先々でも見たんだけどさ、この綺麗な水晶って何か不思議だねぇ」
ライザは足元に鈍く光を帯びた輝石の塊に視線を向けていた。
「此処に有る輝石は、比較的純度の高いものですね。流石カーリア王家の御住まい、と言った所でしょうか」
トープスも、荒れ果てたといえ辛うじて城館の体を保っている敷地内を珍しそうに眺めていた。
「ねぇ、ブライヴさん。少し持って行っても構わないかな?錬金素材にしたいんだ」
純度の低い屑輝石なら四方世界にも流れ着いていたが、これほど高純度の輝石は希少価値も高い。
ライザは錬金素材にと興味を惹かれるも、流石に無断で持ち出す事に躊躇いを覚え念のためブライヴに許可を取ってみた。
「別に構わんが、ラニに頼めば更なる純度の高い輝石を提供してやれる。まぁ止めはせんが、少しだけなら構わんだろう」
「――わぁ、ありがと!んじゃ、早速――」
「――ライザさん、危ないッ、上っ…!」
許しを得た事でライザは近くの輝石を削り取ろうとした矢先、剣の乙女から危険を警告された。
「――うぎゃぁぁッ…何ッ…!?」
剣の乙女の叫びと共に、突如ライザの頭上から何かが落下した。
かなりの質量を誇るのか落下と同時に地面が揺れ、その地響きでライザは尻もちをついてしまう。
地響きと供に巻き起こった煙が晴れれば、彼等の視界には手首だけの怪物が立ちはだかっていた。
「――いやぁぁッ…!指、指のバケモノぉッ…やだヤダヤダぁッ…!」
何とか腰を抜かさずに済んだライザは、叫び声を上げながら
この薄暗いカーリア城館の雰囲気に加え手首と多数の指だけで蠢く異形は、確かに見る者に嫌悪感を抱かせた。
また指の動きだけでにじり寄り、その気味悪さに拍車をかけていた。
「コイツ等は、侵入者排除用の魔法生物。火に弱いが、俺は氷結技しか使えん…!」
ブライヴが真っ先に剣を構え弱点を伝える。だが彼は、火の攻撃法を備えてはいなかった。
「我々でやろう、行くぞ!」
金剛石の騎士、剣の乙女、
指のバケモノは単体だけではなく数体が纏めて降り注いでいた。大きさも様々であり、巨大な個体から小柄な個体までバリエーションに富んでいた。
しかし火が弱点と分かれば、そう危険な敵でもない。
火をぶつけた瞬間、いとも容易く燃え上がり炎に撒かれた敵は苦しみながら悶えるのみだ。そうなればもはや勝敗は決したも同然。
瞬く間に指のバケモノは殲滅され、彼等は進軍を再開する。
敷地内を進み、いよいよ城館の中へ――。
「流石に、この形態では入れませんか…仕方ないですね」
接ぎ木形態を保っていた
「フゥ…すいません灰人さん。予備の服って持ってませんか?」
「仕方がないな。次から変身する時は、装備を外してからにしてくれ。服が幾つ有っても足らん」
「ええ、次から気を付けます」
以前購入した『星見のローブ一式』を渡し、輝石の貴公子はそれを着込んだ。
あの時は服を纏ったまま接ぎ木形態へと変身した為、着ていた衣服はボロボロに破れていたのである。
これから頻繁に変身する事はないだろうが、予め装備を解いてからの変身を要請した
人型へと戻った輝石の貴公子も充分に理解し、一行は城館内へと侵入した。
侵入を阻んでいた強敵は、褪せ人自身が過去の侵入で片づけていたため円滑に事が運んだ。
途中、傀儡化の霊体や魔法の仕掛け罠が発動したが、然ほど苦労せずに先へと進めた。
また行く先々で多少の寄り道がてら、戦技『グレートカーリア』を始めとした珍しいアイテムも入手できた。
出口付近では、魔法騎士姿の
出口を守護していた霊体姿のローレッタは、既に以前の褪せ人に討伐されており姿を見せる事はなかった。
城館を抜けた彼等の視界には、朧気ながらも霧に包まれた3本の尖塔が映っている。
―― スリーシスターズ ――
「此処がスリーシスターズ。ラニは、あの塔にいらっしゃる」
ブライヴの先導で、彼等は魔女ラニが住まう塔へと進む。
似たような空気感に長時間当てられたのか、皆も驚く事は少なくなり黙々と目的地を目指す。
「この塔だ。これほど大勢を案内する事など初めてでな。仮にもカーリア王家の王女、くれぐれも無礼の無い様にな」
「つまりお姫さまって事だね、どんな人だろう…ちょっと緊張してきた…」
いよいよラニへ紹介する事になるのだが、これ程の人数で押し掛けるなど未だ嘗て一度もなく、ブライヴも多少困惑気味な様子。
またラニはカーリア王家の王女という事もあり、それを知ったライザは緊張気味に心を弾ませていた。
多少小さい入口に所狭しと感じながら彼等は塔へと入り込み、魔法で稼働する昇降機で上階へと上がる。そして塔の外側へと設けられた螺旋階段を上り、ラニの座す間へと到着した。
「ラニ様、近況報告とお客人を連れて参りました…」
間の中央には、椅子に腰かけ静かに佇む神秘的な娘が此方を見つめている。
古びたローブと長いとんがり防止に身を包み、全身には常に薄っすらと冷気が纏わり付いていた。
そして一見無機質ながらも端正で不可思議な素顔の横には、もう一つの輪郭がぼんやりと浮かび上がっている。
また特徴的なのは、腰の前に汲んだ4本の腕を有していた。
見た目は少女の様だが、佇まいだけでも何処か得体の知れない近寄り難い気品と圧力のようなものが感じられ、灰の剣士たちはごく自然に膝を折り頭を垂れた。
彼女が月の王女、またの名を魔女ラニという。
「遠方より、お前達の存在は感じていた。ようこそ、我が塔へ。そしてご苦労であった、ブライヴよ」
「ハッ…、未だ目的を果たせぬ我が失態、どうかお許しを…」
「さて、お客人よ。もてなしてやりたいが、先ずはブライヴの報告を片付けたい。暫し待たれよ」
外見だけでなくその口調でも唯者ではない事が証明され、灰の剣士一行は無言ながらも承諾の意思を示す。
「そうか…ノクローンを見付けたが、辿り着く方法が分からぬと…?」
「ハッ、あらゆる転送門を試してみましたが、ノクローンに繋がる門は一つも御座いません。若しかしたらセルプスめが何かを知っているのではないかと思い、一度帰還した次第で御座います」
「ふむ、確かにアレなら何か知っていても不思議ではない。だがアレは優秀で狡猾だ。並大抵では、要求は通らぬぞ?我が命を以てしてもな」
「…確かに…一度会ってみる事にします」
ラニとブライヴとで何やら会話が交わされていた。途中、ノクローンやセルプスという
どうやらブライヴは、魔女ラニの悲願を成就させるべく地下世界にて然る遺跡を探し求めている最中という事が判明する。
また灰の剣士が乗り移る前の褪せ人も、地下世界に赴きブライヴに協力していた事も分かった。
カギは『魔術教授セルプス』が握っている。
――接触しなければならんな、ネフェリ・ルーの為にも。
褪せ人の記憶によれば、相当腹黒い人物像である事が分かり百智卿ギデオンと同様に油断すべき相手ではない。
だがかなりの知識と判断力も働き、教授と呼ばれるに相応しい人物である事にも一定の納得がいった。
「ご苦労であったブライヴよ、一旦下がるとよい」
ブライヴとのやり取りも終わり、ラニは彼を下がらせる。
「さて、そこな褪せ人であるお前…いや、火のない灰…と言うらしいな。そして外より来訪せし客人がた、はじめまして。私は魔女ラニ。良ければ少しばかり、話してはもらえぬだろうか?確か四方世界と言ったか?その話を」
ブライヴを下がらせた後、
漠然とながら灰の剣士たちの事情も理解しているらしく、同時に彼等の住まう四方世界にも関心があるようだ。
「魔女ラニ殿、私は四方世界の然る王国を治めております。この私の知見で良ければ、四方世界の知り得る限りをお話致しましょう」
「ほぅ…異界の王であるか?ではお願いできるかな?」
「では先ず――」
一団を代表し敢えて灰の剣士ではなく、先ずは金剛石の騎士がラニとの言葉を交わした。
そもそも彼が四方世界の存在する王国の国家元首でもあり、最も身分の高い王族でもあるのだ。
ここで皆を代表するのは、ある意味で王族としての当然の役割ともいえた。
しかし彼は只人であり人間。
同じ王族ながら、どうしても魔女ラニの神秘的な気配に圧倒され、彼は下手に出ざるを得なかった。
王族として情けない話だが、彼女には何故か高圧的には出られなかったのだ。
金剛石の騎士の話に耳を傾けた、魔女ラニ。
こうしてラニとの会見が叶った、灰の剣士たち一行――。
ラニの尖塔で、静かに厳かに話が進められた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
星見の杖
星を見上げる者たちの杖。
先端に輝石が埋め込まれたそれは、魔術を使うための触媒となる。
魔術を使うためには、杖を装備し祝福で魔術を記憶しておく必要がある。
星から降り立つ光の欠片には魔力が宿る。
その神秘を解き明かさんと、星見達は今宵も空を見上げる。
星見のローブ一式
柔らかな布で作られたローブ、ズボン、フード、手袋の一式。星を見上げる者たちの装束。
彼らは、星に運命を見出そうした。輝石の魔術師の末裔であるという。
だが今や、運命は夜空にはない。
それでも星には神秘が宿り、彼等は惹かれ続けた。
ショートソード
刀身の短い小刀の直剣。使いやすい標準属性の攻撃に加え、攻撃力の高い刺突攻撃を持つ。
直剣としては重量が軽く、必要能力値も低いため扱いやすい。
駆け出し冒険者が主に携行するが、熟練者も時には愛用する。
鉄鋲の木盾
金属補強された、木製の小円盾。軽く扱いやすいが、カット率は金属盾に劣る。
鉄鋲は補強素材としてよく使われ、また安価でもある。
この様な小盾を活用する冒険者は多く、数多くの生存率向上に貢献してきた。
鉄鋲の紋章は、樹と剣を示すものである。
革の鎧・一式
実戦的な軽量の革鎧・ブーツ・手袋の一式。
確かに実戦的な装備ではある。
スマートな戦士職の装備?それは認めよう。
その男気と、正直な人柄に触れ、これを纏う者にあこがれる者は数多い?
何者だ?この様な触れ込みを書いた輩は?
カーリアの騎士剣
剣身に青い輝石が埋め込まれた直剣。カーリア王家に仕えた騎士たちの武器。
かの騎士は20名に満たなかったが
剣を触媒として魔術戦技を振るい黄金の英雄たちに伍したという。
略奪者から異界の騎士へと渡りし、かの剣。
その騎士は、常に腰に帯びていたという。
亜人ボックに差し上げた革の鎧一式ですが、ゲーム中ではフーテンのパッチを倒して入手できた筈です。しかし、ここでの褪せ人はパッチとは敵対しておらず、倒してもいません。
まぁ細かい事は気にせず、別の手段で入手したとでも解釈しておいて下さいな。
それにしても革の鎧シリーズのフレーバーテキスト…。これパッチ本人が書いたんじゃないのか?そう思わせる程のユーモア溢れた文章に、思わず笑みがこぼれてしまいました。