ゴブリンスレイヤー ―灰の剣士―   作:カズヨシ0509

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ドーモです。
ちょっとしたおまけ話です。
本当は、このシナリオの後にリエーニエ編を続ける予定でしたが、何時も通り予想以上に長くなりましたので、一つのシナリオとして構成しました。
ルルアのアトリエキャラ、クリストフ=オーレル=アーランド視点でのお話です。
多分重大なキャラ崩壊と胸くそ展開が用意されています。(ちょっぴり卑猥な表現含む)
もし気分を害される方は、読まない事をお勧めします。

では投稿致しますドゾ。( ゚ ω ゚ )


第142.5話―王侯の剣士、狂乱す―

 

 

 

 

 

 

十徳ナイフ

 

1つのボディに、ナイフだけでなく、ドライバー・ハサミ・ヤスリ・ノコギリなどの多目的器具を備えた加工道具。

少々複雑で多機能性に特化した構造の為、頑丈さという面では単一のナイフには劣る。

だが多方面にわたる細やかな作業という面では非常に重宝し、野外生活という面だけに特化させれば役立つ道具と化すだろう。

 

優れた兵士はナイフ一本だけで、過酷な野外を生き延びる。

何も戦闘力だけが、兵士の優劣を決定付ける訳ではないのだ。

アーミーナイフとも呼ばれる。

 

値段は、金貨2枚~10枚。

 

投げメス

 

本来は医療に使われる器具で、皮膚や血管といった体の組織を切り裂く時に使用される。

非常に鋭利な刃物で本来は武器ではない。

だが敵に投げ付ければ、幾許かの痛痒を負わせられるだろう。

 

メスはオランダ語でナイフを意味するらしい。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 自分でも思う、どうかしている。だが湧き上がる衝動と背徳感、この言い様のない感覚は初めてだ。

気付かない内に、呼吸は荒く不規則に乱れ一種の興奮状態へと陥っていた。

 

――どういう構造なんだ、この鍵束…?

 

異常な背徳感に塗れながらも、彼の精神はある部位では冷静だ。

つい先程、この宿とは解約した。品格のある宿ながらも安全性も良好で、客から人気の繁盛店だ。

宿の主人には『解約ついでに私物を纏めてくる』と伝え、今こうして部屋の扉に『万能鍵』を差し込んでいたのである。

この鍵束は、宿の部屋に合わせた代物ではなく、あの『仮面の錬金術師』から渡された物だ。

そしてカギ穴に差し込んでいた部屋は、彼の私室ではない。

彼――クリストフ=オーレル=アーランドと活動を共にしていた、少女3人の部屋だった。

この部屋には、ライザ、ルルア、エーファが契約し泊まっていたのである。

 

カギ穴に差し込み回してみれば、意外にも簡単に開錠が叶う。

この瞬間、オーレルは瞬時に鼓動が早くなるのを感じた。

屋敷に居た頃は、若い女使用人の私室を何度も訪れた経験もあり異性事情はそれなりに知っていた積りであった。

しかしいま彼は、仲間である少女たちの私室に無断侵入を試みていたという事実に、鼓動が破裂するかのような錯覚を覚えながらもドアノブに手を掛けた。

 

――くッ…僕は何をやってるッ…!?

 

表層意識では自我を保ちつつも、行動は全くの真逆を行くという異常な状態。

心と体が別々に切り離される奇妙な感覚に見舞われつつ、オーレルはルルア達の寝室へと忍び込んだ。

 

「この匂いは…?」

 

 部屋に侵入した瞬間、言いようのない香りが彼の鼻をくすぐる。

微弱な化粧水の匂い、菓子類と思わしき仄かに甘い臭い、そして石鹸の類らしき水場の匂い――。

 

「――そうだ、早く目的をッ――」

 

 異性として強く意識するルルア達の部屋を不法侵入という暴挙を犯した背徳感と、彼女達の生活臭を嗅いでしまった高揚感で、彼は半ば軽い興奮を覚え冷静さを失っていた。

しかし水場の匂いを嗅いだ瞬間、彼は冷静な判断を取り戻す。

いや、一見冷静だが実際は完全に心が壊れていたのである。もし本来の彼なら、ここで思い留まり自己嫌悪に駆られながらも一層彼女たちを支えようと誓う筈なのだ。だが今の彼は、その様な考えなど微塵も抱いてはいない。

此処に来た目的――。それはルルアの毛髪を入手する事だ。

仮面の錬金術師は、生き血が理想的と言っていたが、それを入手するとなればルルアに危害を及ぼさねばならなくなる。

既に破綻した人間性ながらも、ルルアを想う心だけは今も失ってはいなかった。

 

毛髪を手にれるには、何処かに付着した何かを見付けるのが手っ取り早い。――となれば身体に触れた物…衣類が挙げられる。

 

「……アレか…?」

 

 今の自分は、何をしでかそうとしているのか?もし第3者の視点で自分を見つめ直す事ができるのなら、今の自分がどれほど異常染みた奇行に奔ろうとしているのかが手に取るように分かるだろう。

だがもうオーレルには、歯止めが効いていない。

ふと視線を傾ければ、寝台の上に下着が置いてあるのが目に付いた。

オーレルは躊躇いもなく、その寝台に近付き下着に視線を寄せる。

 

「ルルア…」

 

 またもや呼吸が不規則に乱れる。

白くも上品でハート形の刺繍が入った下着(ショーツ)――。間違いない、この様な衣装を身に付けるのはルルア以外にはありえない。

何せ別の寝台にはエーファの私物が視界に入り、あのライザは下着を付けてはいなかった筈だ。

しかもこの下着、まだ洗っていない事も判明する。何せ、無造作に脱ぎ捨てた跡があり、不規則に裏返ったクロッチ部分は明らかに黄ばんでいた。

 

ゴクリ…。

 

彼は思わず生唾を飲み込んだ。随分大きな音で喉を鳴らしたが、この部屋には誰も居ないのだ。何も遠慮する事はない。

何の迷いもなく衝動のままに手を伸ばし、彼女の汚れと匂いの染み付いた下着を掴もうとした。

 

「いや…違う…」

 

 だが何を思ったのか、彼は手を止めた。

紙一重の土壇場で思い直したとでもいうのだろうか?

 

「アイツ…生えてないのかもな…」

 

 汚れたクロッチ部分からも、毛髪らしき物は付着していなかった。頭髪ではないが、()には違いない。少々生える部位は非常に際どく、毛そのものも縮れているが、若しかしたらルルアの()()()()()()()()()()()()()()可能性が高かった。

こう見えてオーレルは、屋敷時代にも異性関係に困る事はなく女性の躰の事は、()()()()()()()積りだ。

これほど汚れの目立つ下着なら、かなり使い込んだという事だ。だが毛髪は付着していない。ならば彼女には、()()()()()()のだろう。

 

「…フゥ…」

 

 オーレルは大きく息を吐く。それは愚行を思い留まった故の吐息なのか、それとも目的の物が入手できなかった落胆の吐息なのか?

結果的に、ルルアの下着から毛髪は手に入らなかった。

 

「水場、いや、化粧台なら…」

 

 次に化粧台へと意識を切り替えたオーレル。よく考えてみれば、彼女は(くし)で長い髪を()かす事は欠かさない筈なのだ。

 

「よし…間違いない…!」

 

 化粧台から一つの木櫛を見付け、細かい目には数分の長い毛髪が絡まっている事を発見する。

か細くしなやかな長い銀色の髪――。この長さと色は、ルルアの物で確定だ。

 

「……」

 

 彼は透かさず数本の毛髪をスッと抜き取り、それは自分のハンカチーフへと丁寧に包み込む。その仕草は貴族然としており優雅さえ醸し出していた。奇行と蛮行の極みさえ無ければ、彼は正に王侯貴族として称えられるべき人物だろう。

 

「ルルア…もう直ぐ…救ってやるからな……()()()()()()()()()()……!」

 

 彼の素顔は非常に端正でメリハリのある美貌に包まれ、母国は疎かこの国でも女性陣から絶大な人気を誇っていた。

しかし歪みに歪んだ今の彼の素顔は、完全にケダモノの如き醜悪な様相を滲ませていたのである。

 

「よし…もういい」

 

 目的の品は手に入った。ならば下手に長居するのは、愚かの極みというもの。

ルルア達の寝室を出ようとした矢先、寝台に無造作に脱ぎ捨てらていたルルアの下着が再び視界に入った。

 

「…いや…もう必要ない」

 

 一瞬、持ち帰りたいという性的衝動に駆られるも、たかだか下着だ。いくら彼女の体臭と汚れが浸み込んでいようと、あの仮面の錬金術師がホムンクルスで『エルメルリア=フリクセル』を再現してくれる。

そうなれば、彼女の身体だけは自由に出来るのだ。少なくとも()()()は。

何時しか強烈に願い、漸く叶うだろうルルアとの秘め事――。

寝台に押し倒し激しく組み伏せ少々の暴力を加えつつ乱暴狼藉に支配する――。想像しただけで、下半身から血流が熱く収束するのを感じた。

 

「…ククク…ハハハハ…アイツは…()()()()()…、ジャアクなケンシめぇ…!」

 

 もう興味を失った、ルルアの脱ぎ捨てた汚れた下着(ショーツ)。オーレルは早々に寝室から出た。無論、証拠を残さぬようドアを再び施錠する。

実は既に自分の荷物は纏めていた。どうせ私物など精々着替えと生活用の小物、そして路銀ぐらいのものだ。今更契約していた私室に用などない。

そのまま何食わぬ顔で宿から去ろうと廊下を歩いていた時、その場でルルア達と遭遇してしまう。

 

「…ル…るア…?」

 

「――え…?オーレル…オーレルなの?」

 

 よりよってこの様な場所でルルア達を鉢合わせしてしまい、オーレルもルルアも互いに言葉を詰まらせる。

 

「ああ…ルルア…ルルアに…エーファ…、()()()()()()()()んだな…。僕の下に…」

 

 ルルアはエーファを伴い、この宿に戻っていた。

その二人を目にしたオーレルは、彼女たちに距離を詰め意味不明な言葉を零す。

 

「え…と、オーレル君…よね…?」

 

 ルルアと同じくエーファも言葉を詰まらせ不自然に困惑の色を見せた。

 

「僕じゃナかったら他の誰に見えルというんダい…?僕は、クリすトフ=オーレる=アーラんド…?さぁ、コッチに来いヨ…、僕の傍にィ…?」

 

「え…え…?本当にオーレル…よね…?何か…変…だよ…?」

「オーレル君…。私たちね、食べる物と飲み物を取りに来たんだ。みんな『聖黄金樹』に集まって、ちょっとした宴会みたいに盛り上がってるの」

 

 どうにも普段のオーレルから何か強烈な違和感を覚え、ルルアは一歩後退ってしまった。そんな彼女に対し、ゆっくりと踏み込もうとするオーレル。

そこで何かを察したエーファが話題を無理やり変え、この宿に一旦戻ってきた理由を話した。

 

「あの剣士さんたちが例の『狭間の地』に向かったみたいでね、あとライザちゃん達も気を失っちゃって…。剣士さん達は天幕の中で寝かせてあるから、皆で集まって見守って…、でも時間はあるから一夜を明かそうって事でね、だから食べ物と飲み物と毛布も要るから、手伝ってくれた嬉しいな…オーレル君?」

 

「剣士…あの剣…シ…?」

 

「オーレル君が、どうしてこうなっちゃったのかも分かってる…。だからさ、皆で集まって何か食べてゆっくりと休みましょ?そして剣士さんたちが戻ってきたら、もう一度じっくりと今後の事を話し合って…そうすればきっと――」

 

「――待ってエーファ、なんかおかしい…今のオーレル…本当になんかヘン…!」

 

 ルルアに言われるまでもない。既にエーファは、オーレルの異常ぶりには感付いていた。

それを察した上で、彼女なりに元に戻す方法を探していたのである。

どの様な方法でもいい、何か和解する道を模索しつつオーレルに向け提案を切り出したエーファ。

だがルルアの方はエーファを制し、明らかに異常なオーレルに警戒する。

そして当のオーレルは、白目に幾筋もの血管を浮かび上がらせ歯を剥き出しにガチガチと鳴らし始めていた。

 

「ナンでダ…、なんデ、ヤツの名前なンか出すぅ…!?エーふァぁ!?何でェ、ヤツを敵視しナいぃッ…!?ルルアぁ…?オ前は…僕のものダロうぅぃッ…!?ぎぃひひひィッ…?」

 

 だがエーファが灰の剣士の名を口にした瞬間、オーレルは更なる異常事態へと陥った。もはや本来の口調すら不安定に変化し、ガクガクと全身を強張らせ目が爛々と血走っていた。

 

「――うぐぇッ…!?」

「――いぎぃッ…!?」

 

 突如、エーファは首を掴まれ、ルルアは胸ぐらを掴まれ、オーレルに持ち上げられてしまった。

普段の彼からは想像もつかない程の怪力に、二人は完全に怯えながら苦し気に声を漏らす。

 

「お…オーレル君…やめ…て…放し…て…」

「い…痛い…くるし…よ…オーレル…ゆるし…て」

 

「許してほしイか…えぇ!?だったら…僕に服従しROぉ…?身も心も僕に捧げルと誓えぇ…、僕のモのになれェ…?分KAったナぁ…!?」

 

「苦しいぃ…オーレル君…あぐッ!」

「痛い…、オーレル…ひぎぃッ…!?」

 

 ルルアとエーファに絶対服従を強要したオーレル。既に彼のは完全に自我を喪失し、自らの願望…邪欲を叶える事しか眼中になかった。

二人から自発的な服従の言葉を待つも、二人は苦し気に呻き声を漏らすだけで虚ろに藻掻くしか出来ないでいる。

その二人に焦れたオーレルは、乱暴に二人を床に叩き付けた。

首を掴まれていたエーファは、うつ伏せ状態で床に叩き連れられ痛みに悶えている。

そしてルルアは襟首を掴まれていた訳だが、彼が乱暴に腕を引き下ろした勢いで衣服が破れてしまう。

加えて彼女も床に叩き付けられてしまい、激痛に涙を浮かべていた。

上半身を覆っていたルルアの可愛らしい衣服は、胸元から完全に別たれ彼女のブラジャーまでもが剝がれてしまった。

その所為で、ルルアの豊かな乳房と先端部が完全に露わとなるも、彼女は余りの恐怖で羞恥に染まるどころではない。

眼前の今の男がオーレルの形をした別のナニカ見えてしまい、彼女は恐怖で失禁さえしてしまう。

 

「どうして…どうして…こんなことするの…オーレル…、ううん、貴方は本当にオーレル…なの…?」

 

「他の誰に見えるっTEいうンだ?僕は…ぼくは…?オーれRU…?お前は…僕のもノだロう…えーFぁも…?」

 

「…嘘…!貴方はオーレルなんかじゃない…!こんな乱暴な事する人なんて私は知らないよ…!あの剣士さんだって、もっと優しくて労わってくれたよ…!」

 

「――またゾの名を口にSUるのがぁッ…!」

 

 どれだけ恐怖を与えようと、ルルアは一向に彼に靡くどころか逆に距離が離れて行くばかり。また彼が求めようすればする程、ルルアは恐怖と違和感で更に心が離れてゆくという悪循環が繰り返された。

今のルルアは、完全にオーレルから心が離れていた。しかもこの場で灰の剣士とを比較対象にするものだから、とうとうオーレルは心の均衡を完全に崩壊させる。

エーファはまだ辛うじて彼を信じようと努めていたが、心を引き離すのはもはや時間の問題だ。

そしてオーレルはというと、血走った眼でルルアの露わな肌を凝視していた。

 

――ルルアの身体…、僕の綺麗なルルアの身体が…、あんな奴に触られたのかぁ…!ルルアの胸、乳首、いや尻に秘部まで…全部…全部…あんな奴の手が…あんな奴の汚らわしい腐った手がぁッ――!

 

彼の目に広がるルルアの身体――。何れ自分の物になる筈の女の身体が、あの()()()()()()()()()()()()()で汚されてしまった。

 

許せない…。断じて許す事は出来ない…。浄化しなければ…。この僕の手で浄化しなければ…。

 

…ん?血が滲んでる?ルルアの身体から…?…血…?血…。

 

ふと彼はルルアの白い肌から一滴の血が流れ出ていたのを目にする。

これは彼が乱暴に力任せにルルアを床に叩き付け、その勢いで衣服と下着を破り裂かれ皮膚が擦れたのが原因だ。

 

―― ルルアとやらの身体の一部…血が理想的だが、無理なら毛髪の一本でも手に入れて来たまえ。それで身体だけは、彼女を完全再現できる ――

 

とっくに破綻した精神ながらも、仮面の錬金術師の言葉を思い出した。

 

「そうか…髪の毛など必要なかったな…」

 

 血を見た為か、悲痛なルルアとエーファの声の為か、彼は幾許かの自我を取り戻す。

 

「――…どうしてッ…?」

「――ル…ルルア…ちゃんッ…?」

 

 気が付けば、刃が食い込んでいた。

()()()()()()

完全に虚を突かれたルルアは、何が起きているのかも判断出来ていない。胸に違和感を感じ、視線を傾ければ其処には短刀が突き立てられていたのである。

そこで漸く自身の身に何が起きたのかを認識し、一瞬遅れで激痛に見舞われる。

 

「――くッ…ぶふぅわッ…オー…レる…?」

 

 ルルアの胸は、オーレルの短刀が差し込まれていた。それを自認した時、彼女は激しく吐血する。

 

「あ…ア…ル…るア…ちゃん…?」

 

 この現実味のない惨状に、傍で見ていたエーファは理解が追い付かず唯々狼狽えるのみ。

 

「ふ…フフフ…クククク…くはハハは……やった……やっテやった…、手に入れたぞ…るRUアの生き血を…。ははは…なんだぁ…最初かラこうすレば良かったんじゃあないKAぁ…ええ?」

 

 もう彼女達の知るオーレルは其処に居なかった。突き立てた短刀をルルアの胸から引き抜き、刃を伝い滴る鮮血に舌を伸ばす狂人が目の前で薄ら笑いを零している。手にした短刀は、一つの基部に幾つもの加工器具を纏めた多目的な機能を持つ、所謂『十徳ナイフ(アーミーナイフ)』と呼ばれる代物だ。

 

「…匂い立つなあ…、堪らぬ血で誘うものだ。えづくじゃあないか…ハッHAッハッ…ハッ、はハハッ…」

 

 刃から零れ落ちるルルアの鮮血に舌を這わし、恍惚で異質な笑みを浮かべ堪能するオーレルと呼ばれた剣士。血をひと舐めした彼は、ふいに我に返ったと思えば更なる醜悪染みた表情で彼女たちを見る。

 

「わざわざ体の一部などトは言わず、コイツ等を直に攫えBA済む話じゃあないかぁ…?いかンいかん、僕としたぁ事がぁ…ひィッひっHIハハハ……」

 

 怯える女二人に近寄るオーレル。彼女達の記憶する彼と今の彼の姿が重なるも、その余りの変わり様に意識が混濁し始めていた。

またルルアは股間から小水を垂れ流し、エーファは涙と口から涎を垂れさせていた。

 

あの仮面の錬金術師からは、ルルアの身体の一部を持ち帰れと指示を受けていた。しかしこの場で直接ルルアを連れ去れば、問題は全て解決するのではないか?

あのホムンクルスをベースに、ルルアの細胞を掛け合わされば身体の完全再現が叶う。あの男はそう宣っていた。

だがルルアの精神は、どう再現するのか?それが尽きぬ疑問点であったが、恐らく彼女のナニカで再現するだろう事は、オーレルもある程度推察が付いている。

ならばこのまま彼女そのものを連れ帰れば、あらゆる問題は解決する筈だ。

回りくどい段階など踏まずとも、一足飛びで自らの望みが叶う。

ルルアの躰と心が自分だけの()となり、他の男など微塵にも見向きしなくなる。そして自分だけに関心を寄せ、常に傍らで尽くされ続けるのだ。

そうだ、ついでにこのエーファも連れ帰ろう。あの錬金術師なら、何らかの処置を施してくれるに違いない。

幸いこの女も自分に心を寄せてくれている筈なのだ。あの憎々しい邪悪な剣士や小鬼殺ししか能の無い汚い冒険者になど、くれてやるものか。コイツも自分だけの物だ。

 

「さぁ…一緒に行こウ…。また3人で…3人だKEで…旅をするンだ…いぃっひっHIっひィッ…?」

 

 あらぬ方向に判断力を働かせ、生来の才覚を無駄使いするオーレル。

ルルアの血に塗れた短刀を懐に仕舞い、二人に手を伸ばす。

 

「い…いや…来ないで…、貴方…一体…誰なの…?」

「こんな…こんなオーレル君なんて見たくない…。近寄らないで…」

 

 腰を抜かしながらも何とか後退りで彼の手から逃れようと、二人は必死に藻掻く。

彼女たちが万全の状態で暴れ回れば、彼から十分抵抗できた恥の状況。

しかし今のルルアは負傷し、エーファは恐怖に慄き、か弱い少女そのものに陥っている。

もうオーレルの魔手から逃れ得る術は存在しなかった。

彼の手が彼女たちに触れようとしたその時――。

 

「――チッ…!」

 

 突如として鋭い金属音が鳴り響き、オーレルは舌打ちしながらも伸ばした手を振り払った。

手を振り払った後、床にはナイフに似た器具が2本落ちている。

 

「…え…メス…?」

 

 その器具にエーファは覚えがあった。確か医療に使用される器具だった筈だ、自分の記憶違いでなければ。

ふと気配を感じ、腰を抜かした姿勢のまま後ろを振り返ったエーファ。

 

「――あ…貴女は…確か…!?」

 

 エーファの視界には、全身黒ずくめの衣装に烏の嘴を模した被り物の人物が映っていた。

 

「酔っ払いが、獣みたいに見っともない姿を晒しなさんな…。獣の病を発症しちまったのかい、ボウヤ…。だがまだ、末期という訳じゃあない」

 

「貴様…ぼクの邪魔をSUるかぁ…?」

 

「と…ゴホ…、鳥羽…の…狩人…さん…?がフッ…」

 

 吐血するルルアと怯えるエーファの危機に駆け付けたのは、あの鳥羽の狩人だった。以前から幾度と目にした事だけはあった彼女。

あの鈴玉狩りの時、教会の狩人と仮面の錬金術師の襲撃時、そしてつい先程の神殿でも姿を見せていた。

(本編前夜編 第109・134・140話参照)

 

目を白黒させる彼女たちを余所に、ゆっくりとオーレルの前へと立ちはだかった鳥羽の狩人。

何と勇ましく頼もしいのだろう。

味方である筈のオーレルに恐怖を覚えたのに、得体の知れない彼女からは安心感を覚えたルルアとエーファ。

 

「ボウヤ、今からならまだ間に合う。この嬢ちゃん達に心から謝罪し、これからの未来、生涯をかけて尽くす事を誓いな。そうすりゃあ、この二人の心は再びお前に向く…チョイと時間は掛かっちまうだろうけどね」

 

「馬鹿メ…、あの剣士さえ居なければ…いや…あの小鬼殺しも何か邪魔だなぁ…。ルルアもエーファもモうすぐ僕の…僕だけの物になるんDAぁ…」

 

 現時点でもかなり心を破綻させていたオーレルだが、鳥羽の狩人の物差しでは未だ初期状態であるらしい。

寧ろ、あの灰の剣士が神殿で見せた変貌の方が、遥かに()()()()()()を発症していたのだ。

しかしどういう訳か彼の場合、それすら受け入れつつ自我と理性を保ち、襲撃者を見事に撃退していた。

それに比べれば今のオーレルの症状など、()()()()()()()()()()()()に過ぎなかったのである。

まだ間に合うのだ。

自力で獣の病の症状を克服し、自分自身を今一度取り戻す事が。

 

「この嬢ちゃん達が大事なんだろう?そうやって()()()()()()()…。だったら判る筈さね…、いま何をすべきなのか」

 

「だ…だマレ…、賊徒ごトきが…僕に…この王侯貴族たル僕を…諭そうというKAぁ…!?無礼者め…万死に値すルぞ…!」

 

「オーレル…うぐ…戻って…きてぇ…」

「オーレル君…お願い…貴方を信じたいの…」

 

 敢えて武力に奔る真似はせず、諭す事でオーレルの自我を取り戻そうと粘り続ける鳥羽の狩人。

ここは四方世界、あの古都ヤーナムではない。もうあの時の様な殺戮など出来れば避けたいのだ、この鳥羽の狩人…アイリーンも。

彼女に加え、ルルアとエーファも彼に声を投げ掛ける。

先程まで心を離そうとしていた二人だが、鳥羽の狩人の登場でもう一度説得する気概が湧き上がっていた。

言葉が届いているのだろうか?

オーレルは次第に狼狽えだし、態度に微妙な変化が芽生えていた。

 

「…全て…全て…アイツだ…アイツの存在が…アイツの犠牲のお陰で…僕たちは狂ったんだ…アイツの所為で…あの事件の所為でぇ…!」

 

「オーレル…、止めて…あの子の事悪く言わないでぇ…」

 

 オーレルから心の奥底の本音が漏れ出した。言葉の端々から察するに、灰の剣士の事ではない様だ。

 

「アイツが居なければ……、いや…違う…!そもそも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。あのまま一人で、剣の修行に没頭さえしていれば…こんな…こんな…。ククク…そうさ…お前らと出会わなければ…こんなに苦しむ事なんて…、全ては…お前達が元凶だ…貴様らが悪い…僕は…僕は…ナニモワルクナイ…ボクは…ヒガイシャ…だ…?アヒャハはハHA…あぁっひィッはハハハああ…!?」

 

 過去の事を言っているのだろうか?またもやおかしくなるオーレルの口調。とうとう彼女たちとの出会いにまで踏み込み、愛情を通り越えた憎悪をもぶつけ始めた。

 

『さっきから何の騒ぎだ…』

『こっちの廊下からだ…』

『若い男女の声、痴話ゲンカかしら…?』

 

 少々騒ぎ過ぎたのか、下の階や別の客から疑いの声が聞こえて来る。

 

「…もう用はない…!」

 

 狂いながらも何処か静かなままのオーレルは、刀でルルア達の部屋の扉を一瞬で切断した。たとえ人間性を破綻させていようと、その剣術は未だ色褪せていない。

斬り裂いた扉から再び部屋へ飛び込み、木窓を突き破り外へと脱出したオーレル。

瞬く間に彼の姿は見えなくなり、ルルア達は呆気にとられるしかなかった。

 

「嬢ちゃんたち、あのボウヤがこのまま戻らなければ…分かってるね…?アイツは、このあたしが処理する。覚悟しておきな。アンタ達のお友達には、あたしが伝えておいてやる。傷を癒しな」

 

「待って…、私たちに…私たちに…チャンスをください…。オーレルは…オーレルは…大事な…仲間…なの…!だから…今の事も…、お母さんにも…剣士さんにも言わないで…お願い…します…ガフッ…!」

「――ル…ルルアちゃん!?」

 

 結局オーレルは行ってしまった。彼女たちを置き去りにしたまま――。獣の病を抱えた羅患者として。

鳥羽の狩人は宣言する。

彼が『獣の悪夢』に囚われたままなら、彼女自身で処理する事を。

だがルルアは吐血混じりに必死に訴えた。

自分達に彼を取り戻すチャンスが欲しいと。

どの様な形であれ、これはオーレルと彼女達の問題なのだ。

どうにも灰の剣士が絡んでいる様にも見えるが、実際は更なる過去が原因として作用していた様だ。

去り際の彼の最後の叫びは、恐らく本心を発露させたのだろう。

もう周りを巻き込んでしまっていたが、これは自分達で蒔いた種。自分の手で決着を付けねばならないのだ。

母親であるロロナを含め灰の剣士にも、この事は伝えないでほしいとルルアは懇願する。

まだ解決の糸口など見えようもなかったが。

 

「…見つかると面倒だね。部屋に隠れて被害者の振りをしな、嬢ちゃんの怪我はなるべく隠しておくんだよ…!この場はあたしが取り繕う」

 

 そろそろ野次馬達が到着する頃合いだ。

このまま見付かっては、何かと面倒が続出する。

鳥羽の狩人は、()()()()()()()()()()()()という風に見せかける事にした。オーレルはルルア達の部屋から脱出した訳だが、彼女達には只の被害者として振舞って貰う事にする。

そしてルルアには、寝台なりに身を隠し可能な限り怪我を見せない様に演出して貰う。

その上で鳥羽の狩人が、野次馬達を相手取り賊徒が侵入したという振りを演出するという誤魔化しだ。

ルルア達を急いで部屋へと隠し、鳥羽の狩人は被り物と外套を脱ぎ宿泊客の振りをする。

 

『おいアンタ、今すごい音がしなかったか?』

 

 野次馬の一人が到着し、素顔姿の鳥羽の狩人に問い詰める。この状態の彼女は、特に怪しい風貌でもなく何処にでも居る女性にしか見えなかった。

 

「いやぁ、参ったよ…侵入者さ…。あたしもびっくりしてね…大声で怒鳴ったらビビッてどっか行ってくれたさ…」

 

 あくまで賊徒に遭遇した被害者の振りを装い、野次馬に事情を説明する鳥羽の狩人。

そして次から次へと野次馬が到着し、宿の従業員や主人までもが加わっていた。

部屋を襲撃された被害者に過ぎないルルアたち――。

彼等には、そう吹聴しておいた。

派手に斬り裂かれた部屋の扉と木窓の壊れ具合も手伝い、彼女たちに疑いの目は向けられる事はなく、この騒ぎはどこぞの賊徒の仕業という事で処理されオーレルの事も上手く隠し通す事ができた。

 

……

 

幸いにもルルアの傷は直ぐに治療され完治した。

予備で持ち込んでおいた錬金術の治療薬(ヒーリングサルブ)が役に立ったようだ。

彼女たちは何事もなかったように振舞う為、当初の予定通り夜食と野営具を携え再び神殿へと向かう。

ルルア達は何とかと取り繕うとしていたが、これ程の出来事だ。

勘の良い仲間達が何かを察するのは、時間の問題だろう。

 

再び外へと出た鳥羽の狩人。

 

オーレルの飛び去った方角に目を向ける。

 

「アレは…ロスリックの方角かね…?だとしたら…獣の狩人(灰の剣士)…まだまだ難儀な事に巻き込まれそうだよ」

 

 彼女の目には、ロスリックの方角より赤黒い火柱が今も立ち昇り、その不気味さを演出していた。

この街は聖黄金樹の加護が働き、夜空の色は濃紺に染まっている。

だが火柱付近の空は不気味で暗い赤に染まり、あの獣狩りの夜を思わせた。

混沌の色合いも増し続ける四方世界とこの国――。

祈る者たちの苦難は尚も続く。

 

 

 

 

 

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ヒーリングサルブ

 

錬金術で精製した治療薬。塗り薬で軟膏の一種。

ケガや火傷を負った時には取り敢えずこれ…と言われているくらい有名な薬。(アーランドでは)

実際には擦り傷や切り傷にしか効果はないのだが、ブラシ―ボ効果で大抵の傷が治るらしい。

 

時には、思い込みが更なる効果を引き出す場合もある。

それは生物が成せる神秘の所以だろうか。

 

 

 

 

 

 




何かオーレルを悪役にしつつある。彼のファンの方々、申し訳ない。m(_ _;)m
だが逆に言えば、それだけ彼にキャラが立っているとも解釈できるかと。
この後で、再びリエーニエ編に戻ります。(現在執筆中)

如何だったでしょうか?
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。  
デハマタ。( ゚∀゚)/
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