ゴブリンスレイヤー ―灰の剣士―   作:カズヨシ0509

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ドーモです。
少しばかり遅い時間に出来上がってしまいました。
今回も長くなってしまった。
なんか回を重ねる毎に、この長さが当たり前になってしまう。

では投稿致しますドゾ。( ゚ ω ゚ )



第143話―狭間の地・湖のリエーニエ・結びの教会へ―

 

 

 

 

 

 

調味料セット

 

塩、魚醤、豆醤、などの各種調味料がセットに纏められた物。

食事の味わいに彩りを与え、日常生活に深く関わってきた。

 

食事とは生命の源であり、世界と心を繋ぐ。誰しもが無下には出来ないのだ。

 

値段は、銀貨5枚~金貨5枚程度。

 

 

勇者の肉塊

 

香辛料と薬液に漬け込んだ獣肉の塊。製作可能なアイテムの一つ。

一時的に、物理攻撃力が上昇する。

 

蛮地では最高のご馳走とされ、特に勇者だけに振舞われる。

何にせよ、肉は美味いのだ。

 

 

茹でエビ

 

茹で上げられたエビの身肉。

プリプリとして汁気もある見事なもの。塩加減にコツがあるらしい。

一定時間、物理カット率を高める。

 

実際には、ザリガニの身肉のようだ。まあ、美味ければそれでよいのだが。

ならず者は、これをエビと誤解している。まあ、美味ければなんでもよいのだが。

 

 

野菜類

 

緑黄色、根菜などを纏めた食材セット。

若干鮮度が褪せているが、早めに調理すれば健康上に問題は無いだろう。

 

農業は古くから人類社会と共に今も歩んでいる。

人が人でい続ける限り、それは決してなくならないだろう。

 

値段は、銀貨1枚~金貨1枚程度。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 湖のリエーニエの北方に位置するスリーシスターズ。

3つの尖塔のうち一つに、複数人の男女が集っていた。

 

(推奨BGM エルデンリング ―― リエーニエ )

 

「ふむ、お前達の国も今や危機に瀕しているという事か」

 

「ええ。様々な異界よりの介入者、それも組織レベルで跳梁を許しているのが現状。真なる平和はまだまだ遠くに御座います」

 

 尖塔の主、魔女ラニへと話し掛けていたのは、四方世界の然る国家元首でもある金剛石の騎士。

本来なら平和を謳歌し繁栄を迎える筈の四方世界だが、その秩序崩壊を望む幾多もの勢力との戦いが続いている事に憂慮していた。

 

「恒久の平和など雲を掴むに等しい虚構よ。不滅と謳われた黄金律でさえ、女王マリカ自らの手でエルデンリングを砕いたのだからな」

 

 永遠など所詮ただの夢物語――。冷酷ながらもラニは現実を叩き付ける。

運命の死を取り除き、永遠の繁栄と恵みだけを授ける筈だった黄金律。

しかしそれは呆気ない程に崩壊し、長くは続かなかった。

その後に起きたのは、苛烈な『破砕戦争』という規格外の大戦――。それが終結した後は、荒れ果てた狭間の地のみが残された。

 

「中々に面白い話ではあった。多くを知った積りでいたが、まだまだ未知なる領域が存在していたのだな。フフ…世界は広し…という事か」

 

 四方世界の光と闇を聞き、ラニは何処か嬉し気だ。彼女は人形の身体だが、以外にも柔軟に表情を変える。一体何で構成されているのだろう、その人形の身体は。

 

「さて、ではそこな褪せ人…いや、『火のない灰』と言ったか?お前は何用で我が元へ参じたのだ?」

 

 一通りの話を切り上げ、今度は灰の剣士が乗り移った褪せ人へと向き直る、魔女ラニ。

ラニに対し彼は話す。レアルカリアの封印を解くアイテム『輝石の鍵』の在り処が分からないと。

 

「ふむ…私自身レアルカリア自体に執着はない故、詳しい場所など分からぬ。それにあの鍵は確か…使用者を記憶する特性が備わっていたな。アレを手にしたとて学院に入れるのは一人だけだ、全員は対象外となる」

 

 輝石鍵――その在り処はラニ自身、与り知るところではなかった。また輝石鍵は、使用者を記憶するという機能を備え、手に入れた者が使えば他者には使えなくなるという事も、ラニは伝える。

 

「え、それじゃあ、入れるのは必然的に灰人さんだけ…という事に――」

 

「そうなのだよ。もし全員が入ろうとなれば、相当数の未使用カギを入手しなければならないだろうね」

 

 その事実を知り、輝石の貴公子は愕然となる。そしてトープスは、その事実を知っていたのか、いたって冷静だ。

幼少の頃から魔術学院レアルカリアに強い興味と憧れを抱いていた少年、輝石の貴公子。彼の夢は、呆気なく崩れ去った。

仮に狭間の地全域を探し、レアルカリア関係者を締め上げ『輝石鍵』を奪取したとしても、それが未使用品であるという保証は何処にもないのだ。

これは必然的に灰の剣士(現・褪せ人)のみが学院に侵入できるという事を意味していた。

 

「まぁ待て、そう絶望するのはまだ早い。取り敢えず入手したら持って来るといい。錬金術の出番となろう」

 

「え、錬金術ですか?えと…ラニ…様?…が御使いになるんですか?」

 

 輝石鍵の特性に軽い絶望を覚えた輝石の貴公子だが、ここでラニは一つの改善策を提示した。しかも改善策の手段が『錬金術』である事を示唆し、その名を聞いたライザは興味あり気に食い付く。

 

「私も修めておるが、更なる使い手がもう直ぐ此処に来訪する。だが待つだけでは時間の無駄となろう。先ずは輝石鍵の入手に動くといい」

 

「その場所が分かりませぬ、せめて何か判断基準になる情報などをよければお授け下さい、魔女ラニ」

 

「結びの教会に向かえ。そこな司祭は博識で、良き情報も得られよう。そして持て余している魔術書や聖典などがあれば、その者に渡せば更なる学習も叶おう。どれ、地図を――」

 

 錬金術に関してだが、ラニ以上の使い手が近い内に来訪するとの事だ。褪せ人の記憶を探れど、それらしき人物像など浮かび上がってはこなかった。

そして輝石鍵の在り処だが、どうやら『結びの教会』に座す司祭が何かを知っているという情報も入手する。

その教会の所在地も知らなかったが、ラニが特別に地図へと印を付けてくれた。その瞬間、地形のみ記されていた地図に建物の名やダンジョンの在り処などが鮮明に浮かび上がっていた。

 

「この魔女ラニが、ここまでシてやったのだ。大ルーンを手に入れた後、私の要求にも従ってもらうぞ。仮にもお前は私に仕える身だ、その事は弁えていような?」

 

「ハッ…、この恩義には必ずや…!」

 

 本来なら彼女が、ここまで施す義理などはない。何故なら、彼女は主君で褪せ人は従者という立場だ。

だが彼等が目的に動いてくれるのなら、結果的に彼女の目的にも沿う動きに繋げてくれるだろう。ラニはそれを秘かに期待していた。

 

これでリエーニエ攻略の他に、もう一つの目的が派生してしまった。どうやら大ルーンを手にしただけでは帰れそうにはないが、これはある意味で仕方がなかった。

先ずはレアルカリア攻略に専念した方が良さそうだ。

 

「ああ、実はもう一つ…気になる事項が御座います。非常に、個人的な内容なのですが…?」

 

「…?ついでだ、申してみよ」

 

 先ず主目的である()()()()()()()については、解決の糸口が見付かった。だが彼が此処に訪れた理由は、他にも存在した。

もうここまで面倒事を引き受けたのだ。ならばついでに話位は聞いてやろう。魔女ラニは、聞く態勢に移る。

 

「ほぅ…、ネフェリ・ルーなる女。そして、セルブスめが関わっているというのだな?」

 

 彼は円卓にて再開し、人格崩壊を起こしたネフェリ・ルーの件について言及した。

褪せ人の記憶とギデオンの情報で、セルブスが寄越した『精薬』が作用している事を突き止めていた。

どの様な思惑で褪せ人がセルブスの求めに応じたのかなど、もはやどうでもいい。

灰の剣士は取り戻したかったのだ。あの高潔な気高い戦士である、ネフェリルーの誇りを。

 

「元に戻すには、同じ精薬が不可欠だ。だがいいのか?傀儡化が解けたとて、一度折れた心を繋ぎ合わせる事は()()()()だ」

 

 傀儡化を解く事は然して難しい事ではない様だ。真に問題なのは、彼女の折れた心をもう一度取り戻す事。此方の方が遥かに難度は高いのだという。

確かにラニの言う通り、ネフェリはギデオンの所業で心の寄る辺を喪失したようなものだ。

仮に傀儡化から解放されたとて、それが彼女を救った事にはならないのだ。

 

「先ずはセルブスに会う事だが、アレは滅多な事では要求に応じぬぞ?」

 

「その様ですね。しかし会わない事には何も始まらない」

「セルブスめ…、奴の悪趣味には毎度辟易するな。だが事態を進めるにも、アイツの頭脳は必要だ。俺も同行させて貰う」

 

 結びの教会に向かう前に、魔術教授セルブスに会う事に決めた灰の剣士(現・褪せ人)

またブライヴも、セルブスの性癖に心底の嫌悪感を口にし共に付き添う意思を示す。

ギデオンと同様、相当の腹黒さを秘めた人物の様だが、とにかく実際に会ってみる事にした。

 

「気を付ける事だな。()()()()()()()()()()()()やも知れぬ」

 

 一応の話は付いた。あとは行動に移すだけだ。

去り際ラニからの警告を受け、一行はブライヴを伴いセルブスの塔へと向かう事になった。

 

「奴の塔はコッチだ。付いて来てくれ」

 

 一旦ラニの塔を出た一行は、ブライヴに先導され魔術教授セルブスの塔へと向かう。

水晶だらけの坂を下り、一つの尖塔へと辿り着き中に入れば直ぐに件の男と出会う事ができた。

 

「おぉう、誰かと思えば、ブライヴに田舎者の褪せ人…そして…また大勢でゾロゾロと…君達は何だね?」

 

 濃紺を基調としたローブと金細工の仮面で顔を覆った魔術師風の男。どうやら彼が魔術教授セルブスであるようだ。

 

「セルブス、ノクローンへの行き方…知らんとは言わせんぞ」

 

「相変わらず無粋な輩だな。いきなり人の塔へと土足で踏み込み、無償の奉仕を求めるのかね?」

「貴様の御託はどうでもいい。ラニの従者なら、何をすべきか分かっているな?」

 

「ノクローンへの行き方を探るのが、君の役割だろう?私の担当領域ではないよ」

 

 セルブスの塔へ踏み込むなり、ブライヴは用件を突き付ける。だがセルブスも、のらりくらりと躱し情報を寄越さなかった。

このやり取りだけで、セルブスという男が腹の黒い人物である事が分かる。

 

「貴様…食い殺されたいか?」

 

「どうぞ、ご自由に?どうせ復活するだけで、延々と無駄な応酬を繰り返すだけだがね?」

 

 業を煮やしたブライヴの脅迫にも、セルブスは飄々と受け流す。どうやらセルブス自身は、ラニに忠誠を誓っていないようにも思えた。

 

「魔術教授セルブス。ネフェリ・ルーの件だが――」

 

 ここで灰の剣士(現・褪せ人)がネフェリ・ルーの件について言葉を挿む。

 

「…ほう、そうか。ネフェリにあれを飲ませたか、よくやってくれたな。存外、役に立つようだ。よろしい。では君に与えよう、魔術教授セルブスの教えを受ける大いなる名誉を。尤も大半は、褪せ人の手に負える者ではないだろうが、君なりに懸命に学び、ラニの役に立つがよい」

 

「その報酬の事なのだが、ブライヴに情報を提供して頂けないだろうか?貴方も魔女ラニの従者。そして彼女は、貴方の頭脳を評価もしていた」

 

 灰の剣士が乗り移っていない間に、褪せ人は『セルブスの精薬』の飲ませ、ネフェリを傀儡へと変えた。

その成果に彼も喜び()()()()()という見返りをチラつかせたが、灰の剣士(現・褪せ人)は代わりにブライヴに有益な情報を与えてほしいと願う。その上で、ラニはセルブスの頭脳と知識を評価していた事も付け加えた。

 

「ほほう、彼女が私の頭脳をね…。成程、人を見る目はあるという事か。まぁいいだろう、君の健気な働きに免じて特別に御教授して差し上げよう。まぁ、そこな駄犬に理解できればの話だがねぇ?」

「貴様…」

 

 ブライヴに対する皮肉を交えつつ、ノクローンへの情報を開示した。

 

「カーリア王家の運命は、星によって動く。我々の仕える、ラニの運命も同じことだ。だが、かつて将軍ラダーンが流れる星に立ち向かい、打ち砕いたとき、星の動きは封じられた。…あの男は、星の封印なのさ。だから、将軍ラダーンが死するとき、星もまた動き出す。きっとラニの運命もな」

 

 星という天体の躍動は、カーリア王家と密接に繋がっていた。また魔女ラニは、満月の女王レナラの娘であり『月の王女ラニ』とも呼ばれている。

しかし、彼女の兄弟に当たるデミゴッド『将軍ラダーン』は星に挑み見事に打ち砕いた。

その影響で星の動きも停滞し、同時にカーリア王家であるラニの運命も動く事はなかった。

 

   ―― 将軍ラダーンを討つ ――

 

つまりこれこそが、ラニの停滞した運命を作動させる唯一の手段でもあったのだ。

 

「確か遥かな東の地、ケイリッドの赤獅子城にて戦祭りが開催される聞いていたな」

 

「ケイリッド、戦祭り…。其処へ行けばいいのか」

 

 将軍ラダーンは破砕戦争の最終戦にて、赤い腐敗に侵され今も正気を失い戦場を徘徊しているらしい。

また彼は高潔な武人でもあり、非常に部下からは敬愛されていた正しく英雄でもあった。

そんな彼を武人として逝かせようと、弔いと鎮魂の意味も兼ねケイリッドで大規模な戦祭りが開催されるというのだ。

セルブスの情報を聞いたブライヴは、次なる目的地を見出せたようだ。

 

「すまんな、お客人がた。俺は直ぐにケイリッドへと向かう。縁があればまた会おう」

 

 そう短い別れの言葉を残し、ブライヴは早々と塔から姿を消した。

 

「全く無粋な駄犬だ。…さて、見たところ君達は外の世界からやって来たようだが、この魔術教授セルブスに何用かな?」

 

 もうブライヴなどに関心はない。セルブスは先ほどから気になっていた大勢に客人たちに関心を寄せていた。

 

「俺はヴンハイムのオーベック、魔術師を志すものだ。アンタは高名なレアルカリア学院の関係者なんだろう?」

 

「いかにも。だが口の利き方が成っていないな。その育ちの悪さは、片田舎の寒村染みた風体を感じるよ」

 

「つれないねぇ…、モテないぜ?」

 

 同じ魔術師つながりという事もあり、オーベックが率先して挨拶を交わした。

だが案の定というか、セルブスは蔑んだ態度で彼へと当たる。

だがオーベックもオーベックで、軽口で返してしまう。

 

「まぁまぁ、ここは穏便に。僕は狭間の地の出身ですが、実は僕もレアルカリア入学に憧れていたんです。どうでしょう、ここは教授という名誉職に昇りつめた貴方様の技術と研究成果をほんの少しでもいいので御披露して頂けないでしょうか?」

 

 だが輝石の貴公子が横から参加し、彼への賛美を送りつつ所有する技術などに言及した。

 

「ふむ、やはり地元育ちなだけはあるな。君のように、分別を弁えた若者は嫌いではない。では少しだけ御披露しよう。さっきもそこな褪せ人と話していた『傀儡化』の秘法についてだ。私は魔術にも長けているが、実は傀儡化の研究が実に入ってしまってね。他の諸君もどうかな?」

 

 世辞とは知りながらも輝石の貴公子の振る舞いに好感を抱いたセルブスは、傀儡化の秘法について語ろうとする。

しかし一人たりとも好印象を抱く者は皆無であった。表には出さなかったが、既にセルブスという人物像に皆は不快感を覚えていたのである。

 

「そうだ、セルブス教授。傀儡化の精薬…でしたか?良ければアレを一つ僕に譲って頂けませんか?是非とも個人で研究したいんです」

 

「ほぅ…やはり君だけは、私の崇高なる研究に理解を示してくれるのか?いいだろう…と言いたい処だが、アレはかなりの希少品でね。私の依頼を引き受けてみたまえ。それを成し得た時、君に精薬を譲ってあげようではないか」

 

「本当ですか!?僕に出来る事なら何なりと…!」

 

「よい返事だ。では先ず、『星光の欠片』と『琥珀の星光』を入手してきたまえ。それ等が我が精薬の素材となるのだよ」

 

「星光の欠片…は、まだ分かりますが、『琥珀の星光』なんて物は初めて聞きました」

 

「…手に入れてきたまえよ。――と言っても、見当もつかんのでは話にならんな。これを手掛かりとしたまえよ。君の頭脳と判断力を試してやろうではないか」

 

 輝石の貴公子は、『傀儡化』の為の精薬を求めた。だが容易に譲渡して貰うという訳にもいかず、セルブスは素材となる二つの欠片の入手を指示する。

星光の欠片という代物には、些かの知識を備えていた輝石の貴公子。それの入手手順は、ある程度察しがついていた。

だが『琥珀の星光』というものは聞いた事もなく、彼は少々困窮した。

しかしセルブスも何も考えていない訳ではなく、一つの紙片を手渡してくれた。その紙片には、『琥珀の星光』の在り処らしき箇所が記されていたが、かなり曖昧に記載されており詳しい場所までは分からない。

 

「無事成功を収めた暁には、精薬の譲渡だけでなく我が魔術の伝授も約束しよう!我が魔術はそこいらの魔術師の比ではないぞ…!仮にも教授の称号を授かった身なのだからね…!」

 

 こうしてセルブスと取引を交わし、一行は塔を去る。

 

「ねぇいいの?なんか胡散臭い感じだったよ、あのセルブスって人?」

「傀儡化の秘法…貴公、よもや本当に研究する魂胆ではあるまいな?」

 

 塔から出て直ぐ、ライザとソラールは疑わしい表情で輝石の貴公子へと声を掛ける。

 

「まさか本気にしていたんですか?ああいう手合いは、恭順の姿勢を見せるに限ります。それに必要なんでしょ?そのネフェリって人を戻す為に、精薬が…?」

 

「ああ、すまんな。貴公に負担をかけてしまった」

 

「いいですよ別に。それに新たな知見に触れる楽しみは、本当の事ですから」

 

 セルブスという人柄だが、確かに万民受けする人間性ではなかった。だがその頭脳と知識量は本物で、魔女ラニでさえ彼の能力は認めていた程だ。ラニの悲願を達成させる為にも、セルブスは絶対に必要だったのだ。

それに馬鹿正直に反骨や敵対心を剥き出しにするより、歩み取り入る姿勢で近付いた方が何かと益も得やすい。懐に入り込みうまく誘導し、彼の知識と技術を盗む。それで用が無くなれば、もう絶縁すればいいだけだ。

尤も、それはセルブス自身も同じ企みで此方を利用している可能性もあった。

 

「お前も意外と腹黒いな」

 

「お忘れですか?僕は元々、この世界出身なのですよ」

 

 彼は彼なりの計算でセルブスへと近付いたつもりだ。無論、新たな知識の獲得という欲だけではなく、灰の剣士(現・褪せ人)の望みを叶える為の行動でもあった。

そんな輝石の貴公子に、オーベックも苦笑いを浮かべている。

 

「それでは皆、先ずは『結びの教会』へと向かう。だがラニの施しで、リエーニエ全域の詳細も記された。そこで目的地へ向かいつつ探索も交えたい、勿論状況の許す範囲でだ」

 

 灰の剣士《現・褪せ人》は、次に向かうべき目的地を指し示した。向かう先は、『結びの教会』で輝石鍵の在り処を聞き出す事。

ただ真っ直ぐ向かっても良かったが、ラニが地図に様々なアイテムや施設の所在地を記してくれていた。それはリエーニエだけでなくアルター高原やケイリッドの地形にまで及んでいる。

このまま無視するのは非常に惜しい。そこで彼は状況の許す範囲で、探索交えに目的地へ向かう方針を伝える。

 

「時間は、まだまだ残っているのだろう?なら程々にしつつ、結びの教会とやらを目指そうではないか」

 

 皆を代表し、金剛石の騎士が賛同の意を示す事で意見を纏める。この方針にライザも特に反対の意を示す事はなく、この広大なリエーニエ探索を踏まえ目的地を目指す事となった。

 

……

 

(推奨BGM ロロナのアトリエ ―― 滲む景色 )

 

   ―― 地母神神殿・聖黄金樹の麓 ――

 

「あ、お帰りぃ~、ルルアちゃんにエーファちゃん。ちょっと、遅かったね~♪」

 

 宿から戻った二人を出迎えるロロナ。彼女の周囲には、大勢の冒険者や来訪者が盛り上がっている。みんな手に酒や夜食やらで夜を愉しんでおり、まるで夜桜の宴会にも似ていた。

 

「あ…うん、ただいまぁ…お母さん…」

 

「…?どうしたの…ルルアちゃん?何かあった…?」

 

 たとえ義理とはいえ、そこは母親だ。何とか平静を装った積りのルルアだが、ロロナは直ぐに変化を感じ取っていた。

 

「あ、実は、宿に強盗が居たんです…。まさか私たちの部屋に侵入していたとは思いませんでした…!」

 

 ここでエーファが予め用意しておいた言い訳で、この場を取り繕う。

 

「ええ~!?大丈夫なの、二人とも…!?ケガはなかった…!?」

 

「う…うん、平気だよお母さん…!ちょっと怖かっただけで、勇敢な人が追い払ってくれたんだ」

 

「だったらいいけど…、何かったら私に言ってね…?」

 

「うん、有難うお母さん。もう平気だから」

 

 あの宿にてオーレルと遭遇し、ルルアとエーファは心象に傷を負った。だが鳥羽の狩人の乱入で、辛うじて事なきを得たのである。

多少の騒ぎには発展したが彼女の機転で、襲撃者は何処かの賊徒という事で処理され、オーレルの事は何とか隠し通せた。

だがそう簡単に、彼の所業を克服できるものではない。

何とか普段通りに振舞おうと努めても、何処かでは心の綻びが漏れ出てしまうのだった。今のルルアとエーファには、自分を誤魔化すには少々若すぎた。

 

「ちょっとライザの様子を見てくるね。あ、あと、飲み物と夜食置いておくから」

 

「あ…ルルアちゃん…?」

 

 駄目だ、どうしても不安を覆い隠す事ができない。これではオーレルの事も直ぐにバレてしまう。

そう危惧したルルアは、持ち込んできた夜食類をロロナに預け、単身で天幕の方へと向かう。

今は、どうしてもその場から離れたかったのだ。

 

天幕の入り口には、護衛役の神官戦士たちが配置に就いている。

だがルルアの姿を見た彼等は、すんなりと中へ通してくれた。もともとルルアの服装は、冒険者と言うよりも一般人に近い。

また彼女からは怪しい気配が感じられない事も、通してくれた大きな要因だろう。

狭い天幕の中に入ったルルアは、直ぐにライザたちを見付ける事ができた。

だが彼女の視線はライザではなく、灰の剣士に向けられていた。実はライザの様子を見てくると言ったのは単なる口実で、本当は灰の剣士が気になっていたのである。

灰の剣士たちは相変わらず意識を失った状態で、簡易的な寝台へと寝かされている。また彼等の傍には、親しき隣人たちが寄り添っていた。

因みに灰の剣士の傍らには、見習い神官の少女を始めとした5人の少女が付きっ切りだ。この事からも、彼は相当慕われている事が分かる。

 

「あ、錬金のお姉ちゃん…おかえり」

 

 黒髪の見習い勇者が、ルルアの訪れに気付く。

 

「うんただいま。食べる物…お菓子も持って来たから、皆で食べおいでよ」

 

「うわぁいやったぁ…!」

 

 ルルア達は夜食だけでなく菓子類も適量に持ち込んでおり、5人の少女たちにそれを伝える。

それを知った見習い勇者たちは大層喜び、天幕から一斉に飛び出した。

 

「あれ、貴女はいかないの?」

 

「あたしは、少し後で…。ここでお兄さんたちの無事を、もう少し祈りたいんです」

 

 少女4人は天幕を出たが、見習い神官だけは天幕に残っている。その事を問うルルアだが、彼女は灰の剣士たちの無事をもう少し祈りたいとの事だ。

 

「ねぇ…、剣士さんたちが帰って来なかったら…、そんなこと考えた事はない…?」

 

「……。信じられませんか、お兄さんたちの事…?」

 

「――え…い、いや…そ、そんな事は決して…!」

 

「信じてあげて下さい。お兄さんの仲間なら、ちゃんと信じてあげて下さい。あたしは祈る事しか能がありませんけど、それでもお兄さんたちを信じる気持ちだけは誰にも負けません…。…ごめんなさい、生意気言っちゃって」

 

「…いいのいいの…。すっごいしっかりしてるね、君は…!ギュ~しちゃおっかなぁ…♪」

 

「――えっ///うわわ///な、何ですか…!?」

 

 オーレルとの確執で、ルルアの心は均衡を失い何かに縋りたかったのだ。

自分でも情けないと知りながらも、ついつい年下の少女へと疑念を投げ掛けてしまった。

もしオーレルの立場が灰の剣士に置き換わっていたら、彼はどういう振る舞いをしていたのだろう。そしてもし自分の立場が、この見習い神官と置き換わっていたら?

心の何処かではオーレルを信じたい、しかし同時に信じられない気持ちも芽生えていたのである。

だが見習い神官の少女は、真正面からルルアを見つめこう言う。

 

   ―― 灰の剣士を、灰の剣士たちを信じる ――

 

この少女は、まだ幼く自分よりも遥かに年下で碌な技能さえ、まだ身に付いていない。

そして今の少女に出来る事といえば、精々が祈りを捧げる事だけ――。だがそれでも、灰の剣士の事を信じているのだ。

その瞳の中に揺るぎない意志と決意を感じ取り、ルルアは彼女から言い様のない頼もしさを感じ取った。

その瞬間、急に愛おしさが込み上げ少女を強く抱き締める。

当然、少女は困惑し目を白黒させながら狼狽えた。

 

――剣士さん…、お願い…力を貸して…。今の私じゃ、どうすればいいか分かんない…!

 

あの時と心境がよく似ていた。

嘗ての大事な隣人が、自分の故郷を守る為に犠牲になったあの時と――。そして何も出来ず、唯々黙って見送るしか出来なかったあの無力感。

少女の頼もしさを見せつけられながらも、今のルルアでは誰かに縋りつく事しか出来なかった。

 

……

 

(推奨BGM ブラッドボーン ―― 狩人の夢 )

 

「おぅ…姐御さん、何処行ってたんですかい?」

「あ、小母様…お帰りなさい」

 

 聖黄金樹の輝く別の個所では、禿頭の銃槍男と赤いリボンの少女が鳥羽の狩人を出迎えていた。

 

「なぁに、ちょっとした野暮用さ。…アンタ、結構飲んでるねぇ…」

 

「ブヒャヒャ、どいつもこいつも楽しんでんだ。俺もちょっくら飲んだってバチは当たりませんぜ。まぁ襲撃者の心配は、なさそうですわ」

 

 あのオーレルとの一件を片付けてきた鳥羽の狩人。銃槍男の酔いっぷりに少々呆れ気味だ。

 

「んじゃま、俺も一仕事してくるんでね。後はお任せしまっせ…!」

 

「寝るの間違いでしょう?」

 

「まぁお子様には、まだまだ早い()()()()()()ってやつがあるんでな。俺は満喫してくるぜぇ、んじゃぁな…!」

 

 樽ジョッキに残った最後の一口を飲み干し、銃槍男は神殿の片隅へと移動してしまう。

彼は一仕事と称したが、赤いリボンの少女はジト目で言葉を返す。

 

「好きにさせておやり。確かにこれだけの人数が居れば、ほぼ安全だろうさ」

 

 現在この神殿には、数多くの冒険者も集っている。皆挙って宴会擬きで盛り上がっていたが、いざ緊急事態に陥れば即座に対応を見せるだろう。

鳥羽の狩人も、彼の振る舞いを咎める事なく自由にさせる事にした。

 

――アンタ…本当に何者なんだい…?不屈のパッチとやら…。

 

聖黄金樹の聖光が降り注ぐ片隅の壁に寄り掛かり、静かに寝息を立てる銃槍の男。

そんな彼を目にしながら、鳥羽の狩人は彼の素性に思案を巡らせるも正体までは未だ掴めてはいなかった。

 

様々な思惑が、寄り固まる地母神神殿の庭園。大勢の人々が盛り上がる中、聖黄金樹の輝きはこの街を守り続けていた。

 

……

 

(推奨BGM エルデンリング ―― リエーニエ )

 

スリーシスターズを出た灰の剣士(現・褪せ人)たちは、先ず近隣を始めにリエーニエ湖の周辺を探索範囲と定めた。

魔女ラニのお陰で、彼の地図には様々な場所とアイテムが明確に記された。

彼等は目的地である『結びの教会』へ向かう傍ら、探索業へと勤しんでいたのだった。

 

近隣の平原からは、戦技『霜踏み』が入手できた。

透明スカラベが一定のルートで徘徊する珍しい地域だ。

視認もままならない状況の中、ライザが何度も挑戦したが悉く杖を空ぶるだけで、結局は灰の剣士(現・褪せ人)の戦技『嵐脚』で仕留めてしまう。

 

死の鳥、死儀礼の鳥に襲撃された。

ライザ、ソラール、ジークバルドは当時の悪夢が甦り戦慄する。特にライザの発狂ぶりは、尋常ではなかった。

だが二度目の戦闘という事もあり、既に弱点や動きの特徴も経験済みだ。

この差は大きく巧みな連携で弱点を突き、最後はライザの『ローゼフラム』を敵の口に放り込み爆発四散させ、雪辱が叶う。

討伐報酬として『赤羽の七支刃』と奇跡(祈祷)『古き死の怨霊』を手に入れた。

だが奇跡(祈祷)『古き死の怨霊』は余りに禍々しく、剣の乙女は大層抵抗感を露わにしていたが。

 

夜の騎兵と遭遇した。

この敵は前述の死の鳥たちと同様、夜間限定で遭遇する騎兵だ。

トレントと同じく霊馬を駆り、此方に襲い掛かって来た。

だが此方は多勢に無勢、然したる苦戦もなく容易に討伐が成功。

また夜の騎兵は戦技を所有しており、槍の戦技『氷の槍』を入手する事ができた。

 

広域を渡り、素材採取も積極的に行った。

地面に生え鈍く輝く輝石の傍では、常に『輝石ホタル』が纏わり付いている。何処から持ち込んだのやら、ライザは虫取り網で捕獲に精力的だ。

他にも『結晶の木の芽』などにもライザは目を輝かせており、トープスや輝石の貴公子が知り得る限りの範囲で説明に苦慮した。

 

常に湖で佇んでいる『陸ホヤ』や『ミランダフラワー』には、随分手こずらされた。

移動はしないものの毒ガスを広範囲に噴出し、何やら得体の知れない術で攻撃され思いのほか手を焼いたが、倒せば珍しい素材を落としてくれた。

しろがね人…、アレは一体何なのだろう。白いカエルの様な見た目の彼等は、近くに寄れば即座に襲い掛かって来る。やはり真面な会話は成立せず、適当な部分で戦いを切り上げその場を離れる。

極め付けは『巨大ガニ』、『巨大ザリガニ』、そして『王族の幽鬼』と呼ばれる異形たち。

巨大な水棲生物であるカニやザリガニはまだいい。狭間の地の生態系は分からないが、アレ等は生物だ。めっぽう強かったが、まだどこかで許せる部分もある。それに巨大ガニは、火継ぎの時代でも生息していた為、多少の免疫はあった。

 

しかし『王族の幽鬼』…()()()()()()()。(# ゚Д゚)

 

身の毛もよだつ、あの不気味な見た目。一たび聞けば耳から離れない、悍ましい金切り声。そして彼我の距離を問わず瞬間移動で出没する、いやらしい戦術。それでいて異様に打たれ強く、強毒液を撒き散らし、百裂拳で襲い掛かって来る。

また周囲には、怪し気な鈴の音と共に『さまよう呪霊』を飛ばす『幽鬼の従者』が多数出現していた。

その連携たるや、実に不愉快の一言。

トープスの助言で、彼等は総じて『回復の奇跡』に弱い事が判明し、特に剣の乙女が活躍する。

弱点さえわかれば敵は脆くも崩れ去り、序盤は苦戦したものの殲滅も叶う。

だがライザが恐怖のあまり泣き出してしまった。

 

円卓の住民、ホスロー家のディアロスと出会う。

 

「ディアロス…こんな所で何をしてる?」

 

 彼等は馬を停め、オーベックが代表で話し掛けた。

 

「ラニア…、ラニア…俺だ、ディアロスだ。返事をしてくれないか…」

 

 彼は夜の湖で佇み、唯々力なく項垂れている。そして彼の足元には、若い女性の遺体が転がっていた。

 

「この人…ラニアさんか…?」

 

「ああ、お前達…オーベックと言ったな…?相変わらず俺はお前の事など知らんが、いまラニアが見付かったよ…」

 

 もう息をする事なく斃れている女性の遺体が、ディアロスの探していた『ラニア』という女性だった。

 

「そんな…酷い…」

「ぬぅ…惨い真似を…」

 

 この惨状にライザとソラールも動揺を覚えている。

 

「ありがとう、ラニアの死を悼んでくれて。こんな世界で、見ず知らずのアンタ達に悼んでくれたのが、ラニアにとってせめてもの救いだ」

 

 ディアロスの表情が少しばかり軽くなったようだ。

ラニアの遺体を担ぎ、何処かへと連れて行こうとしているディアロス。恐らくは彼女を葬ろうとしているのだろう。

 

「…アンタ達、もし知っていたら教えてくれ。背律者、同胞を狩る褪せ人…、その唾棄すべき連中の隠れ家を…。奴らは私の従士に、ラニアに手をかけた。その報いを受けさせねばならん『ホスローは血潮で物語る』このディアロスが、それを思い知らせてやる…!」

 

 彼は復讐を決意に、この場を立ち去ろうとする。ラニアの亡骸を抱きかかえながら――。

 

「お待ち下さい!せめてこの方に、鎮魂の祈りを捧げさせて下さいませッ!」

 

 立ち去ろうとするディアロスに、剣の乙女が呼び止め『祈り』を捧げたいとの旨を伝えた。

 

「俺達にも祈らせてほしい、ラニアさんの冥福を…!こんな事しか出来ないがッ…!」

 

 彼女に続きオーベックたちも馬を降り、祈りを捧げる姿勢へと移る。

 

「…どうしてアンタ達が、ここまでしてくれるのかは分からない。だが、有難う…!何も礼は出来ないが、本当に有難う…!」

 

 灰の剣士たち一行は、不幸な死を迎えたラニアの為に各々のやり方で祈りを捧げ、彼女の冥福を祈った。

 

――クソ、どうなってやがる!?あの『壷師の村』では、この二人は生きていた筈なんだ。だが、ラニアさんはこうして死んじまっている…!…帰ったら真っ先に確かめないとな…。

 

祈りの中、オーベックだけは表情を歪ませていた。

彼の記憶では、ディアロスとラニアとは交流を重ね二人は四方世界の『壷師の村』で、生活を営んでいる筈なのだ。

だがこの狭間の地では、ラニアが死にディアロスは彼の事は知らない。

祈りを捧げる途中でも、オーベックは四方世界での二人の安否が気になって仕方がなかった。

人違いという線は少し薄い。何故ならディアロスは『血潮で物語る』と口走っていたからだ。これは彼の口癖で、オーベックは四方世界の壷師の村で何度も聞かされていた。

やはりこのディアロスとラニアは、彼の知る人物と判断していいだろう。

言いようのない不安と疑問が次々と湧くが、オーベックは祈りを捧げながら帰還後の行動に思案を巡らせた。

 

……

 

(推奨BGM エルデンリング ―― 満月の女王レナラ )

 

こうして湖広域を探索し、一行は『浄化された廃墟』へと立ち寄った。

一応の探索の後、ふと輝石の貴公子が朽ち果てた瓦礫の上で物思いに屈んだ。

 

「貴公、どうしたのだ?」

 

 気になった灰の剣士(現・褪せ人)は、無言でしゃがみゴソゴソと何やら漁っている少年へと声を掛けた。

 

「此処は…、この朽ちた街跡は…、僕の故郷…ここに僕の生家が在りました…」

 

 もう完全に荒れ果て、もはや街の体を成していない廃墟。嘗てこの地に、輝石の貴公子の家が在ったのだという。

 

「え、本当なの?…もう随分時間が経った様に見えるけど…?」

 

「――でしょうね。僕たち家族が家を捨て……もう忘れましたよ…。過ぎ去った月日なんて…」

 

 彼の生家の話を聞き、ライザは辺りを見回したが目に付くのは崩壊が激しい石造りの瓦礫ばかり。

完全に人の気配もなく、居たのは亡者と亡者犬のみが徘徊していた。勿論、それ等は真っ先に討伐済みだ。

ここに輝石の貴公子の生家が在ったのは確かだ。幼少の頃、彼は病魔に侵され家族と共に治療のため世界中を旅した。

思えば彼等が家を発ち、どれ程の年月が流れたのだろう。

数十年、数百年、若しかしたら千年は流れていた可能性もある。

故郷を発つ前の当時、確かに崩壊していたエルデンリングだが辛うじて人の営みは残留しており、この街もまだ機能はしていたのだ。

しかし、その街も見ての通りこうして崩壊に崩壊を重ね原形を留めていない。

数えなくとも相当の年月が過ぎ去った事を示唆していた。

 

夜空に浮かぶ、一つの大きな満月――。ああそうだ、思い出した。狭間の地は、一定周期で『満月』と『暗月』が交互に入れ替わり空に浮かぶのだった。

 

こういう夜は、どうにも感傷的になってしまう。ゴドリックに仕えていた頃は、故郷の事など思い出す事さえなかったというのに、いざ立ち寄れば意外と覚えているものだ。

完全に崩壊した故郷に佇む少年は、空に浮かぶ満月を見つめ何を思っているのだろう。

ただでさえ端正な顔立ちが月光に照らされ、より一層際立ってその美貌を彩っていた。

 

「驚いたな…。この世界…()()()()()()()()のか」

「それだけではありませんわ。月の色も、私たちの知るソレとはまるで違います」

 

 少年に倣う様に、空を見上げた金剛石の騎士と剣の乙女。月の色と1つしかない事に、少しばかり驚いており、ライザも同意見だった。

 

「実は我々の居た世界も、月は一つしか在りませんでした。ただ『暗月』と呼ばれる暗い月でしたがね」

 

 ここでソラール達も、嘗て居た自分達の世界の月について明かした。彼等の世界でも月は一つだけ空に浮かび、その色は今のような白い満月ではなく暗い暗月だった。

 

「それなら、この狭間の地も同様だ。一定周期で、満月と暗月が入れ替わり天空に鎮座するのだよ」

 

 彼等に対しトープスが、狭間の地の月に関して簡潔に仕組みを伝えた。

月そのものは同じ天体だが、この狭間の地では定期的に満月と暗月が交互に入れ替わる。丁度、コインの表裏の如く。

 

「それは知らなかったな。しかし満月というのは本当に神秘的だな。私は個人的にこちらの方が良い、暗月よりもな」

 

 夜空を照らす満月の光に当てられ灰の剣士《現・褪せ人》は、この白い満月に魅入られていた。

彼は彼方昔の時代より時空を渡り歩いていたが、月がこれほど美しいと感じたのは今日が初めてではないだろうか。

まだ暫くこうして眺めていたい位だ。

 

「貴公…、今この場で訂正させて頂けないだろうか?」

 

「…ソラール?」

 

 こうして満月に魅入られていた灰の剣士《現・褪せ人》に対し、ソラールが何やら訂正したいとの旨を伝える。

 

「俺は以前、大司教様にこう言及した事があったのだ。貴公の事を、『木漏れ日の如きソウル』とな。だがそれを、今ここで撤回したいのだ」

 

「ああ、思い出しました。太陽の騎士殿は以前、法の神殿にてその様な事を仰っていましたわね」

 

 当時…いや今もだが、剣の乙女は小鬼との過去で悪夢に悩まされている。その時ソラールは彼女に、『木漏れ日の如きソウル』を持つ男の事を言葉にしていた。

(イヤーワン編 第33.5話参照)

 

――木漏れ日…な、そう言えば彼女(孤電の術士)もその様な事を口にしていたか。

 

その事を聞き、灰の剣士(現・褪せ人)も孤電の術士と過ごしていた日々を思い出す。

(イヤーワン編 第40話参照)

 

「つまり私は、()()()()()()()()()()()?そういう事か?」

 

「そうだ。貴公は、木漏れ日ではなく『月夜の如きソウルの持ち主』、そう訂正させて頂きたいのだ」

 

 灰の剣士(現・褪せ人)に対しソラールはこう宣言した。

 

彼は―― 夜空に浮かぶ月に似ている ――と。

 

「ああそれ、あたしも同感。君ってどっちかと言うと『夜』の方が似合ってるもんね」

 

 ソラールに続きライザも賛同の意を示す。

灰の剣士(現・褪せ人)の醸し出す雰囲気といい、振る舞いといい、陽の者とは少々差異が見受けられていた。

 

「そうか…、少々残念だ。やはり私は、闇に塗れ逃れる事は叶わんのだな…」

 

 ソラールの方を向いていた彼だが、『月に似ている』と宣言された後、再び空に浮かぶ満月を見つめる。彼の声音は何処となく頼りなげで寂し気だった。

 

「思い違いをして貰って困るな。貴公は決して闇の住民ではない。闇夜を照らす『満月』そのもの――そういう意味合いなのだよ」

 

「貴方様は、闇に惑い彷徨う人々に、光を照らし(しるべ)を指し示す者。即ち、貴方様も光を与える勇者に何ら違いないのです。それが()()()か、その違いなだけですわ」

 

「ジークバルド、剣の乙女…。私は…光…でいいのか?」

 

 夜はどうしても闇を連想しがちだが、ジークバルドと剣の乙女が諭しにかかる。ソラールの言葉の真の意味を。

灰の剣士(現・褪せ人)は、確かに太陽とは結び付け難い気配を纏っている。やはり一目でどちらかと言えば、どうしても夜の印象が強い。

だが彼は、決して闇に溺れ塗れた側の人間ではない。

彼は闇夜に身を置きながらも、光を放つ存在に違いなかった。

それは太陽ではなかったが、いま夜空に浮かぶ『白い満月』そのものとも言えた。確かに夜にて光り輝く存在だが、その穏やかな月光は神秘性を帯び闇にて道筋を照らす()()()()()そのものなのだ。

意外と侮れたものではない。この満月が齎す月光も、かなり明るく視界を確保できる。

この狭間の地はエルデンリングも砕け、いまや魔境と化した危険な世界。もし月明かりが無ければ、あの火の陰った世界と同様に更なる恐怖が降り掛かっていただろう。

あまり表沙汰にはならないが、秘かに満月の光は僅かに生き残った生命の助けと寄る辺と化していたのである。

 

「君は確かに物静かだけどさ、何か()()()()()っていうのとちょっと()()んだよね~。傍に居ても全然イヤじゃないし、割と喋るときは喋るし…()()()()()()けどね、イヒヒヒ」(・∀・)

 

 ライザは彼と出会ってからというもの、かなりの頻度で行動を共にしている。確かにライザの言う通り、彼は饒舌でもなく口数は少ない方だ。だが不快という訳でもない。(ちょっぴり彼をディスる)

もしそうなら、ライザはとっくに彼から距離を置いていた筈なのだ。それがないという事は、彼の傍に居る事に苦痛を感じていないという事でもあり、逆に共に居てほしいとさえ感じているのだ。(たまにムカつくらしいが)

尤もそれは、此処に居る剣の乙女も同じ気持ちを抱いているのだが。

 

「だからって勘違いするなよ?お前は確かに満月っぽいが、月っていうのは太陽が在ってこそ光を放つ天体だ。…この意味…分かるよな?」

 

「オーベック…」

 

 オーベックの言葉の真意。もはや深く思案するまでもない。

太陽の光が反射する事により、月という天体は陽光のソレとは異質の光を放つ事ができる。

太陽と月とは切っても切れぬ、いわば共生関係――。つまり切り離す事ができない、相互関係の上で成り立っているとも言えるのだ。

灰の剣士(現・褪せ人)()だとすれば、()()()()()()()()()()()()()()()()

恐らく彼独りでは決して輝くまい。彼には、太陽となり光輝く存在が必要不可欠なのだ。

それがオーベックの言葉の意味だった。

 

「私が月…、そして私を照らす太陽か…。それは一体誰なのであろうな?やはりソラール…貴公かな?」

 

「ウワハハハ、それも悪くないないだろうさ。だが貴公の太陽となるべき者、それはきっと()()であろうよ!」

 

 自分が月、そして月は決して自ら光を発する事ができない天体。月が輝くには、太陽が不可欠。彼にとっての太陽…それは一体誰なのか。

 

ソラール?

今此処に居る彼は太陽を賛美し、自らもそうでありたいと強く願う騎士だ。

しかし彼は、灰の剣士にとっての太陽は女性であるとの見解を示す。

 

「うんうん、ソラールさん分ってるじゃないの。やっぱり君には、()()()()()()()()()が必要なんじゃないかなぁ…♪」( ゚∀゚)

 

「そうなのか?」( ゚ ω ゚ )

 

「そうって言いなさいよ…!」( `ω´)

 

「敢えてお言葉を挟ませて頂きますが、強過ぎる星光は時に月をも覆い隠してしまうものですわ。時に激しく、時に穏やかに…。制御もままならぬ太陽など、唯の災厄に過ぎません」

 

 ソラールの言及にライザは上機嫌となり、灰の剣士(現・褪せ人)に同意を求めた。だが彼は彼で、疑問符を浮かべるのみでライザは不満顔だ。そこへ剣の乙女が、一見穏やかながらもかなり辛辣な意見を挿み込む。

 

「なんですかそれ!?まさか大司教様が太陽に相応しいとでも…!?」

 

「例えばの話です。しかし、時にはそれも吝かではないかと」

 

「あたしほど自ら輝く存在って、世界中探してもそんなに居ないと思いうけどなぁ…?灰君は、どう思ってるのそこんところ?」

 

「…君はどちらかと言えば、少しばかり自己中心的(ワンマン)に当て嵌ると思うのだが?」( ゚ ω ゚ )

 

「んなっ!?なぁんですってぇッ…!?」( ゚Д゚)

 

 彼の月、そして月に対する太陽について言及し合っていたのだが、何時しかライザと彼との間で口論に発展してしまう。

 

「全く、あの人たちを見てると、ここは本当に()()()()()()()()()()ではなく、()()()()()()()()()()()なんじゃないかと錯覚を覚えてしまいますよ」

 

「ハハハハ…、言えてるかも知れんね。私も生きてきて、これほど賑やかな夜は初めてかもしれん」

 

「こういう時間に浸れる事も冒険者冥利に尽きるというものだ。冒険者に成って良かったと真にそう思えるよ」

 

 彼等のやり取りに呆れ気味の輝石の貴公子。その光景を好ましく思うトープス。そして金剛石の騎士も、微笑ましい様子で彼等を静観していた。

 

「さて…そろそろ探索を再開しませんか?僕も見付ける物を見付けたんで」

 

 だが探索を再開してもいい頃合いだろう。痺れを切らした輝石の貴公子が、口論中の二人に対し促した。

 

「え、なに?君、何か見付けたの?」

 

「ええ、これです」

 

 何かを見付けたらしい輝石の貴公子に対し、ライザが興味深そうに尋ねる。

彼が手にしていたのは、掠れた文字が掘られた石板の様な物体だ。厳密には石板ではないのだろうが、長い月日で風化も激しくただのガラクタと殆ど変わらなかった。

またこの文字は、ライザには読む事ができず一部の者だけが解読できた。

 

「ハリ=オード=バーレンシュタイン……、()()()()です」

 

 彼が手にしていた石板に掘られていた文字は、何と輝石の貴公子の本当の名だった。

 

「ええ~っ!?それが君の名前なの!?」

「ほぅ、コイツは驚いた。よもやこんな所で…いや、お前の故郷だからこそ本名が明らかになったという事だな」

 

 唐突に判明した彼の本名に、ライザとオーベックが驚きの声をあげ他の皆も同様の反応を示す。

この廃墟は彼の生家が在った場所。だからこそ僅かな名残を残す彼の家だった場所から、彼の本当の名を証明する遺物が見つかったという事だ。

 

   ―― ハリ=オード=バーレンシュタイン ――

 

手にした石板に記されていた貴族だった頃の、本当の名と家柄を証明する家紋。

辛うじて認識できる程に風化していたが、これは彼の素性を証明する為の貴重な資料とも言える。

 

「その石板、大事に保管しておくのだ。卿が貴族である事の証明としてな」

 

「宜しいのですかロード?いえ、国王陛下?」

 

「本来なら四方世界では何の証明にもならん。だが功績を挙げた暁には、新たな貴族候補として卿を登録し易くもなる。無駄にはならんさ」

 

「有難う御座います、国王陛下…!」

 

 かなり風化の激しい石板だ。このままでは直ぐに朽ち果て、唯の石ころと化すだろう。四方世界に戻れば、何らかの復元処置を施す必要がある。

そして保管しておく事で、彼を新たな貴族として迎える手順も簡略化できるというものだ。

この輝石の貴公子(ハリ=オード=バーレンシュタイン)には、類を見ない才覚が備わっている事も周知のとおりだ。いずれは何らかの功績に一役買ってくれるだろう。

金剛石の騎士は、そう踏んでおり密かにこの少年に期待を寄せていた。

 

「じゃあ君の名前がハッキリしたんだし、今から君の事は、ハリ君って呼ぶね♪。宜しくね、ハリ君♪」

 

「こちらこそ、()()()()()()()()()()()()()()です。改めて宜しくです、ライザリン=シュタウトさん、他の皆さんも…!」

 

「「「「「「宜しく…!」」」」」」

 

唐突だが判明した輝石の貴公子の本名。

皆は改めて挨拶を交わし、探索を再開する事となる。

 

……

 

(推奨BGM エルデンリング ―― リエーニエ )

 

湖の南方側に人の気配を感じ、彼等は其処へと向かった。

若干小高い『見晴らし島』の中心で焚火を熾し、一人の男が腰を降ろしている。

そして何名かは、彼の姿に見覚えがあったのだが敢えて胸に仕舞いながら初対面の振りを通した。

 

「おう、久しぶりだな、あんた。俺だよ。フーテンのパッチだよ。実はまだ、商いを続けていてな。品物仕入れも俺だけだから、品数は少ないかもしれないが、決して損はさせないぜ。パッチ商店レアルカリア支店、見ていってくれよ」

 

「え?誰、この人?」

「僕も始めて見ましたね?褪せ人…でしょうか?」

 

「彼はフーテンのパッチ。風来坊だが、商いに身を置いている」

 

 フーテンのパッチ。彼とはリムグレイブの洞窟で出会い一悶着の末、物品の売買を行う関係となった。当然だがライザはその様な人物など知らず、輝石の貴公子もパッチなどという人物には会った事もない。

だが非常に似ているのだ。

灰の剣士だけでなく、ソラール、ジークバルド、オーベックの居た世界でも『不屈のパッチ』という人物が存在しており、物腰から振る舞いまで何もかもがそっくりだ。

まるで()()()()()()が、こうして狭間の地に降り立っているのではないかと勘繰ってしまう程だ。

それ程までに彼の言動から全てが、あの『不屈のパッチ』そのものに思えて仕方がなかった。

一応、ジークバルドは『不屈のパッチ』があの鳥羽の狩人と共にローグギルドの仕掛け人(ランナー)として活動している事は知っている。

しかし彼等は敢えてその疑念を表へは出さず、初対面の振りで取り繕った。

 

「なあ、あんた。あの『マルギットの拘束具』なんだが、マケといてやるから引き取ってくれねぇかな?鞄を圧迫しちまってよ、在庫処分ついでに片付けてぇのさ、頼むぜ…500ルーンで良いぜ?」

 

「エラク値下がりしたな。そんなに不要だったのか?まぁ構わない」

 

「おぉう、ありがてぇ…。ヤッパな、あんたとは上手くいくと思ってたんだ。ヘヘ毎度ありぃ…!」

 

 フーテンのパッチは、再開するなり『マルギットの拘束具』の引き取りを頼んできた。しかも10分の1ほどに値下げしてまで引き取って欲しいとは、よほど邪魔だったのだろうか?

彼の人柄は、あの世界とまるで同じで些かに疑わしい部分も見受けられたが、ここまで値下げしてまで勧めてきたのだ。ほぼ悪意染みた意志なども感じられず、灰の剣士(現・褪せ人)は彼の言い値である500ルーンで引き取る事にする。

 

「フゥ…これで懐も軽くなってゼェ…。今日はまたエラクお客さんを引き連れてんなぁ、良かったらアンタらも見ていくかい?パッチ商店レアルカリア支店、まぁ何か買ってってくれ、ウヒャヒャヒャ…!」

 

 そして彼のやや後方で佇む集団にも声を掛け、パッチは売買を促した。

 

「あれぇ?コレって調味料セットだよね?でも見覚えがあるんだけど…?」

 

 フーテンのパッチが陳列した品々の中に、各種の調味料を纏めた商品が置かれていた。

その事に気付いたライザは、四方世界の街で見覚えがあると疑念を浮かべていた。

 

「そりゃあ、俺の仕入れ先は秘密だらけだからな。珍しい掘り出し物も混ざってるって寸法よ。この世界じゃあ、調味料は貴重だぜぇ?1000ルーンでどうだい?あ、あと、新鮮な野菜もたっぷり仕入れてある。美味いゼェ…?」

 

 人の営みも、ほぼ失われた狭間の地。当然調理などという概念も、殆ど絶えて久しい。目ぼしい調味料と言えば、精々が『塩』か『香辛料』くらいだ。

このフーテンのパッチが、どの様な経緯で四方世界にも出回っている様な『調味料セット』や『野菜類』を仕入れたのかは、この際考えないようにした。

値段は1000ルーンと、さほど高値でもない。

灰の剣士(現・褪せ人)たちは、彼の言い値で購入する事にした。

 

「ヘヘ毎度…!物の価値が解ってる奴は、長生きするゼェ、ウヒャヒャ…!」

 

 そう多くはないが、有用な品々がパッチの露店には揃っていた。彼等は有用だと思われる品物を購入し、金剛石の騎士がパッチへと提案する。

 

「フーテンのパッチと言ったかな?我々は、『結びの教会』という場所を目指している。卿も御一緒に如何だろうか?」

 

「…遠慮しておくぜ、おうさ…騎士さん…。俺は、聖職者関係が苦手でね。ここいらでお暇させて貰うぜぇ…じゃあな…!」

 

 一瞬迷っていた様に見えたが、フーテンのパッチは提案を蹴るなり早々と立ち去ってしまった。

 

「…何だったのでしょうね、彼は?得体が知れませんわ」

 

「あまり深入りしない方が身のためです、大司教様」

 

 直ぐに見えなくなったパッチに、剣の乙女は彼の素性を探るも全く見当がつかずにいる。

その彼女にジークバルドが深入りは避けた方が良いと念を押し、彼等は探索を再開する。

 

近くには、もう一つの気配が漂っていた。

夜間だが満月の晴天という事もあり視界は明るく、遠方にはボロ小屋と焚火が見えていた。

一行は焚火を頼りに歩を進める。

ボロ小屋の近くでは、一人の男が焚火を熾し何やら茹でていた。

 

「ああん、何だぁテメェら?大勢ぞろぞろ来やがって…?何見てやがる、文句でもあんのか!?」

 

 一人鍋を茹でている男。かなり柄が悪いのか、一行を見るなり荒い口調で威嚇を仕掛けた。どこからどう見ても善良な常識人には見えず、あのパッチとは毛色の異なる共通点が多々見受けられる。

 

「なんか感じ悪いね…」

「大抵が、こんなもんですよ。これでも対話できるだけ貴重なんですから」

 

 パッチの様に胡散臭さを隠そうともしない男の態度に、しかめっ面のライザは輝石の貴公子に耳打ちする。しかし彼の様な男は、今の狭間の地でも珍しい位に意思疎通の出来る人物なのだ。

何せ、こちらを見るなり襲い掛かって来る狂人が其処彼処で徘徊しているのが、この世界では当たり前の状態なのだから。

 

「ほぅ…貴公、それは、カニ…いやエビの類かな?」

 

 食って掛る男の威嚇などものともせず、ジークバルドは茹で鍋の中身に視線を落とす。

 

「…ああ、そういうことか。エビが喰いたいんだな?まあ、確かに茹でたてだからなあ…、出すもん出してくれたら、お前らにも譲ってやろう」

 

「むろん払うものは払う。だが貴公、一人で食すのも味気なかろう。どうかな、我々と共に『結びの教会』で祝宴といこうではないか!?」

 

「ハンッ…!この俺が何で、カビ臭せぇ教会まで付いてかなきゃなんねぇんだよ!?」

 

「貴公、()は好きであろう?」

 

「何を言い出すかと思えば…ッ何ッ!?いま『酒』…つったかッ!?」

 

「そうとも。我々と共に来たまえ。その茹でエビを主食に、美味い酒、こんな御時世だからこそ宴を謳歌するのも悪くなかろう、ウハッハッハッハ…!」

 

「う…嘘じゃねぇだろうな?嘘だったら承知しねぇぞッ!」

 

「勿論本当だとも。このカタリナのジークバルド、騎士の誇りに賭け嘘偽りは申さぬ。さ、私の馬背に乗りたまえ」

 

「へっ…、…エビ好きに、悪人はいねえ…。お前らとは仲良くやれそうだ。少しばかり厄介になるぜ」

 

 こうして終始ジークバルドのペースで話が進み、気が付いた時には男は既に篭絡されていた。

こういう手合いは総じて『酒』に目がないものだ。『酔う』という行為は一世界共通の娯楽でもあるようだ。

茹でエビの男は即座に荷物を纏め、ジークバルドの馬に便乗する。

 

「す…凄いね、ジークバルドさんって…」

 

 このやり取りを見ていたライザは、改めてジークバルドの手腕に舌を巻く。だがそれは他の皆も同じで、彼の対応ぶりに感心していた。

もう夜も深い。

そろそろ何処か適当な場所で、休養する必要があるだろう。もし拠点らしき場所が見当たらなければ、彼等は『円卓』に戻り休む事を考えていたのだ。

彼は馬を走らせ、結びの教会へ向かった。

 

地図の印を頼りに、北上を続ける一行。その道すがら、何処からともなく助けを呼ぶ声が彼等の耳に届く。

 

『…おーい、誰かいないかー?助けてくれー、嵌ってしまったんだー!おーい、おーい、誰かー!』

 

「こっちからだ…!」

 

 声の方角を割り当てた灰の剣士(現・褪せ人)は皆を引き連れ、現場へと向かう。

 

「うわ、何この人…じゃなくて…()…?」

 

 そこには深い穴に嵌り身動きが取れない、喋る壺がジタバタと身じろぎしていた。

流石にライザの故郷でも、人語を離す生きた壺などは見た事もなく彼女は恐る恐る壺へと近付く。

 

「誰かと思えば、『戦士の壺アレキサンダー』ではないか?東…ケイリッドへ向かったのではなかったのか?」

 

「おぉ…貴公か!?見ての通り、また穴に嵌ってしまってな。脱出を手伝って欲しいんだ…!」

 

「この壺を知っていると申すか、灰剣士殿…いや、褪せ人の方か…」

 

 穴に嵌っている生きた壺の戦士『アレキサンダー』は、リムグレイヴにて褪せ人(灰の剣士は乗り移っていない)と出会いを果たしていた。

その時のアレキサンダーも、今と同じように穴に嵌り身動きが取れなくなっていた。

再び脱出を手助けしてほしいと頼み込むアレキサンダー。

なぜこの様の場所に、手頃なサイズの穴が在るのか定かではないが、取り敢えず彼の脱出を手伝う事にした。

褪せ人の記憶を辿れば、彼の尻に当たる部分を殴る事で脱出が叶う事を探り当て、皆にその旨を伝える。

 

「いよぉ~し、このライザリン=シュタウト様にお任せッ…!」

 

「おお、勇ましい少女。しかし褪せ人よ、貴公いつの間に大勢を引き連れるようになったのだ?」

 

 アレキサンダー救出役だが、どうやらライザが張り切っていた。当然、彼女の腕力では殴った処で脱出は叶わないだろう。そこで彼女は得意の錬金術で拵えた『フラム』を数個、アレキサンダーの傍に設置する。

何故かは分からないが、灰の剣士(現・褪せ人)の脳裏に嫌な予感がこびり付いていた。

 

程無くして数個のフラムが爆発を引き起こす。

 

「ぎィヤァアアァッ…!?や、止めてくれぇッ…!?そ、それは、ヴぁ…爆弾ではないか!?しかも顔面に爆弾は止めてくれぇッ…!?流石の俺でももたんっ!尻だ、尻を思いっ切り殴ってくれッ…!」

 

 設置個所が悪かったらしい。フラムの爆風に晒されたのは、アレキサンダーの顔面に当たる部分であった。やはり顔面は急所なのか、彼も断末魔の悲鳴を上げた。

 

「え…ア…なんか…ごめんなさい…」

 

「まぁまぁ、ここ一つ、このカタリナのジークバルドが助成しようではないか…!アレキサンダー殿、心の準備は宜しいか!?」

 

「お…おぅ!カタリナの…ジークバルド殿だったな。頼む、貴公の力、アテにさせて頂くぞ!」

 

 失敗したライザの代わりに、今度はジークバルドが手腕を振るう事となる。

先ほど設置したフラムの逆方向へと歩み、ジークバルドは真・ストームルーラーを思いっ切り振りかぶる。

 

「戦技・王騎士の決意…!」

 

 そして探索の傍ら、ソラールから伝授してもらった戦技『王騎士の決意』を行使する。これは次の一撃を大幅に強化する戦技だ。こういった場面でも活用できるだろう。

 

「いざ…セ~のッ…フンッ!!」

 

「ぐおぅッ…!?中々の一撃だ、もう少し頼む…!」

 

 かなりの打撃力を発揮したジークバルドのフルスウィング。宛らバッティングフォームの如き動作で、アレキサンダーの尻部を激しく打ち付けた。

しかし一撃では抜け出す事も叶わず、摩擦係数を減らすために『油壷』を併用し漸く救出する事ができた。

 

「ああ、ありがとう。貴公の機転で助かった。感謝の印に、これを受け取って欲しい」

 

 穴からスポンと抜け出せたアレキサンダーは、ジークバルドに『勇者の肉塊』を複数手渡す。何処に仕舞ってしたのか気になるが、香辛料の辛い臭いが此方にまで伝わって来る。どうやら今宵の食事は、豪勢になりそうだ。

 

「アレキサンダー、ケイリッドへ向かった筈だが、何ゆえリエーニエに…?」

 

「おお、そうだったな。実はまだ『戦祭り』は開催していなくてな。時間を持て余した俺は、一度リエーニエに帰郷していたのだよ」

 

 ケイリッドの南端に在る『赤獅子城』にて、大規模な戦祭りが開催される。アレキサンダーは、その戦祭りに参加するため単身ケイリッドへ向かっていた。

だが辿り着いたは良いが、未だ開催されていなかった。

いつ開催されるかも分からない状況の中、アレキサンダーは仕方なく帰郷する事にしたのである。

彼の眼下には故郷である『壺村』が在るのだが、夜間であるため視認する事は出来なかった。寧ろ、直ぐ傍の高い塔にどうしても目が行ってしまう。

 

「我々は、このまま『結びの教会』へと向かう。貴公もどうだ、アレキサンダー?」

 

「う~む、俺は戦士の壷。戦士とは常に孤独と共にあり。助けて貰っておいてこう言うのもなんだが、俺は此処で戦祭りの開催を待つさ」

 

 灰の剣士(現・褪せ人)は誘ってみるが、どうにもアレキサンダーは持論を展開し渋っている様だ。

 

「アレキサンダー殿、その教会で我等は、ささやかな祝宴を広げるのだよ。共に盃を交わし祝杯を挙げるも、小さな戦祭り。如何かな、我ら戦士たちと共に語らってみぬか、ウワッハッハッハ…!」

 

「ぬぅ、杯を交わす戦祭り…とな?ふむ、共に語らい交わるも戦士の華か…。あい分かった、戦士の壷『アレキサンダー』暫し貴公らと共に行こうではないか…!ウワッハッハッハ…!」

 

 対するジークバルドも持論を展開し、迷っていたアレキサンダーは同行する意を固めたようだ。

ジークバルドとアレキサンダー、両者は何処となく共通した何かを感じる。

こうしてアレキサンダーを共に加え、一行は只管『結びの教会』を目指した。

かなり近付いていたのだろう。

そう時間もかからず、一行は目的地へと辿り着く。

教会には墓場が付き物なのだろう、予想通り地面から骸骨戦士が湧いて出たが、彼等は難無く殲滅し教会内へと入り込んだ。

 

「ふむ、人の気配がない…?」

「此処も、荒れていますね」

 

 灰の剣士(現・褪せ人)と輝石の貴公子は、荒れ果てた教会内部を見回すが件の『司祭』の姿は何処にも見当たらなかった。

また荒れ具合も相当なもので、天井は疎か外界を仕切る壁面さえも真面に機能していない状態だ。

あの『イリス教会』並みに荒れ果て、地面からは草木が生え放題。人の気配はまるで無し。目ぼしい物と言えば、奥に鎮座する彫像ぐらいだろうか。

あのラニが言ったように、本当にここは『結びの教会』で合っているのだろうか?地図を見直すも、やはり此処で間違いないようだ。

 

「おい、気を付けろ!何かが侵入して来たぞ…!」

「ぬ…このソウル…、『闇霊』かッ!」

 

 奥の彫像へ近づこうとした矢先、付近から不気味なソウルを感知する。

灰の剣士(現・褪せ人)とソラールは周囲に警戒を呼び掛け、臨戦態勢を促した。

 

「このソウル…まさか…?」

 

 またジークバルドは徐々に具現化する闇霊のソウルに、覚えがあった。

 

「嘘っ…コイツ…、あの時のッ…!」

「やはり、そうでしたかッ…!」

 

 またライザと輝石の貴公子も、具現化した闇霊の事を記憶しており驚きの声を漏らす。

 

「――鈴玉狩りっ…!」

 

 そしてオーベックが闇霊の名を口に出す。

 

結びの教会に出現したのは、闇霊『鈴玉狩り』であった。

本来は狭間の地の住民である筈の鈴玉狩り、別名『鉄茨のエレメール』という。

実は少し前、四方世界の街にも出現した挙句、小鬼禍(ゴブリンハザード)まで引き起こしていた要注意人物だ。

冒険者たちの協力とジークバルドの活躍で、街に出現した鈴玉狩りと小鬼禍(ゴブリンハザード)は鎮圧できた。

(本編前夜編 第108・109話参照)

しかし闇霊を撃退しただけで、エレメール本人を討伐した訳ではない。何処かで再開するだろうと意識はしていたが、よもやこのような所で再び見えようとは。

 

「私に考えがある。直ぐには殺さないでくれ」

 

「分かった、動きを止めればいいのだな灰剣士殿?」

 

 狭間の地と四方世界の両方で出現した鈴玉狩り。一体どういうカラクリなのか確かめる必要がある。

灰の剣士(現・褪せ人)は周囲に小声で作戦を伝え、ジークバルドが承諾で応じた。

 

「ふむ、襲撃者と来たか。ならこのアレキサンダーも助成しようぞ!」

 

 そして彼等に同行していたアレキサンダーも、鈴玉狩りの撃退に意気込みを見せる。

 

……

 

敵は一人、此方は10名以上――。勝負になる筈もない。戦いは一方的な形で、彼等の勝利に終わった。

出現するや否や、鈴玉狩りは得意の戦技『エオヒドの剣舞』で攻撃を仕掛けるが、ジークバルドも『エオヒドの剣舞』で応戦。彼の剣に激突させ、そのまま地面へと押さえ付けた。

この様子に鈴玉狩りは、完全に狼狽え大きな隙を生んだ。

その隙だらけの敵に、アレキサンダーが跳躍し鈴玉狩りへと圧し掛かり地面へと縫い付ける。

そこで勝敗は決してしまった。生かすも殺すも此方次第だ。

剣はジークバルドに、霊体とはいえ身体はアレキサンダーに押さえ付けられ、もう鈴玉狩りに抵抗する術は残されていない。

そんな彼に、灰の剣士(現・褪せ人)が近付き剣を突き付ける。

 

「貴公に問う。何ゆえ、四方世界の街を狙い、小鬼過(ゴブリンハザード)を引き起こしたのか?」

 

 狭間の地で暴れ回るのはまだ分かるが、四方世界にまで出現し災禍を撒き散らすのは我慢がならなかった。

 

「四方世界?街?何の事だ…?我は鈴玉狩り…。そこな貴様こそ、何処で我が戦技を盗んだのだ!?」

 

 彼の質問を質問で返す鈴玉狩り。逆にジークバルドを睨み付け、拘束から逃れようと必死に藻掻いた。それでもアレキサンダーの重量に抗えよう筈もないのだが。

 

「何を申すか?貴公と私は死闘を繰り広げ、その戦いの中で私が学んだのではないか?」

 

「貴様の事など知らぬ…。許さぬぞ、我が戦技を盗んだ屈辱…!」

 

 どうにもおかしい。

この鈴玉狩り、四方世界の事は疎かジークバルドの事さえ記憶にない様な振る舞いを見せる。

 

嘘発見(センスライ)には反応しませんね。本当に記憶にないようです」

 

 横では剣の乙女が至高神の奇跡『嘘発見(センスライ)』で、彼の虚偽性を判断していた。

 

「どうやら本当に知らない様だな…。ロード…!」

 

「うむ…!」

 

 剣の乙女が奇跡を行使してまで、真実性を確かめたのだ。このまま尋問を続けたとしても、何も明らかにはならないだろう。

もう用はないとばかりに、金剛石の騎士へと役割を引き継いだ灰の剣士(現・褪せ人)

彼の代わりに今度は、金剛石の騎士が鈴玉狩りへと剣を突き付ける。

 

「我が領内で数々の悪行、誠に遺憾の極みである。身に覚えがあろうがなかろうが、もはや大罪は逃れ叶わぬと知るが良い…!裁定の必要もなし、判決は死刑…!これより即座に刑を執行するものである!」

 

 四方世界にて出現した鈴玉狩りの情報は、王統府にも届いている。先ほどの尋問でも、この男は心当たりがないかのように振舞っており嘘発見(センスライ)の奇跡にも反応は無かった。

しかしそれが何だというのだ。

眼前の闇霊が、件の鈴玉狩りである事には何ら変わりない。そして闇霊という事は、ほぼ害悪しか振り撒かない存在だ。故に放置する理由など何処にもない、たとえ別人であろうとも別世界の住民であろうともだ。

金剛石の騎士は国王として死刑の判決を下し、そのまま剣を振り上げた。

 

「太陽の騎士殿より伝授された戦技、試してみるとしよう。王騎士の決意…!」

 

 道中でソラールから伝授されていた『王騎士の決意』という戦技。彼も、この戦技を会得していたのである。

戦技の発動により、振り上げた刀身には鈍い光が宿っていた。

 

「しっかり抑え付けておけよ、壷の戦士よ!――ぬんッ!」

 

「――ぐはぁあっ…!?」

 

 身動きの取れない鈴玉狩りの首を刎ね、この襲撃は呆気なく幕を閉じる。

結局、四方世界の鈴玉狩りと今の鈴玉狩りとの関係性は分からず仕舞いだった。

 

……

 

(推奨BGM エルデンリング ―― 円卓 )

 

周囲に静寂が戻り、一行は暫し周囲を見回してみる。

 

『フゥ~…、脅威は去りましたか。この教会まで押し寄せて来るとは…、狂いが進んだという事ですね』

 

 直ぐ傍の草むらから声が聞こえ、彼は一斉に声に反応した。

 

「うわ…大っきな亀さんだ……!」

 

 ライザの瞳にも亀の甲羅が映ったのだが、その大きさたるや優に人の背丈を越えていた。

また亀自体が喋る事に、ソラールやジークバルドは驚きの反応を見せている。

 

「…貴方が、この教会の司祭で宜しいのでしょうか?」

 

「ええ、その通りです。ああ申し遅れました、私はミリエル。この教会をお預かりしている者です。お恥ずかしいことに、このように荒れ果てておりますが…結びの教会に、よくぞ参られました。褪せ人の皆様方」

 

 剣の乙女は平静に取り繕い、この巨大で喋る亀が司祭である事を確認する。

そして彼女の質問に応じ、巨大亀は自らを『結びの司祭ミリエル』と名乗った。

しかし魔女ラニが言っていた司祭が、亀の姿をしていたとは驚きだ。それでも聖職者に相応しい『人柄?(亀柄)』と振る舞いは、此方側にも好印象を抱かせた。

 

「我々は魔女ラニの紹介で――」

 

 灰の剣士(現・褪せ人)が代表で、この教会へ訪れた理由を説明する。ここに訪れた主目的は、レアルカリアの封印を解く『輝石鍵』の在り処を聞く為だ。

 

「おお、そうでしたか?月の王女ラニ様の紹介であれば、知り得る限りをお教えいたしましょう」

 

 特に拒むでも逸らかすでもない、ミリエルの素直な対応ぶり。これ程の誠実な振る舞いは、四方世界でも希有な存在だろう。

ミリエルは語る、輝石鍵の在り処を。

 

その場所とはズバリ、あの輝石竜『スマラグ』の眠る場所であった。

レアルカリア周辺を探索していた時、目立つように眠っていたあの巨大な飛竜。その奥の洞穴に、例の鍵が眠っているというのだ。

 

「どのみち、討たねばならんのか…」

 

「そうでもなかろう。鍵を入手するだけなら、隠密に徹し忍び寄ればいいだけだ」

 

「ふ~む、俺としては戦士の誇りに賭け、竜と一戦交えてみたいものだがな」

 

 結局、あの竜の眠る場所に戻らねばならない様だ。輝石竜『スマラグ』の戦闘力は、実際戦ってみない事には推し測れようもない。だが竜種である事に間違いなく、苦戦が予想された。

とはいえ、何も竜自体が所持しているのではなく、洞穴の遺体が所有しているという事だ。

つまり態々眠れる竜を叩き起こす必要もなく、秘かに忍び寄り鍵のみを掠め取ればいいだけなのだ。

アレキサンダーは個人的に戦いがっていた様だが。

 

「何はともあれ情報は入手できた。皆、今宵は此処で休息としよう。ミリエル殿、暫し御厄介になるが許して頂けるだろうか?」

 

 必要な情報は入手できた。

灰の剣士(現・褪せ人)は、皆に休息の指示を出す。狭間の地に降り立ち、今夜まで多くの探索と旅を続けてきた。まだ初日だが、ここいらで一夜を明かす頃合いだろう。

 

「ええ、いいですとも。ここは曲がりなりにも教会…、困窮した人々に施すのも役割の一つです。荒れ果てた設備ですが、ごゆっくりお休みなさってください」

 

 許可を求めた灰の剣士(現・褪せ人)たちに、快く受け入れてくれたミリエル。

 

「本当に有難う御座います、結びの司祭。一聖職者として感謝の言葉を送らせて頂きます」

 

 同じ聖職者として、剣の乙女も改めて深い感謝の意を送った。

 

「よし、食事の準備をしよう!皆、準備してくれ…!」

 

「やっとかよ、待ちわびたぜ…!」

 

 ここで一夜を明かす事にし、周囲に食事の準備を指示した灰の剣士(現・褪せ人)

皆も疲労が蓄積していたが、直ぐに動きに活力が戻り野営準備に取り掛かる。

中でも同行していた茹でエビの男(ならず者)は、待ちかねたと言わんばかりに動き出した。

 

「足りない道具を調達してくる。先に始めておいてくれ」

 

 しかし結びの教会の地面は一面が水浸しで、とても腰を降ろせる状態ではない。また寝る事も出来ない。

そこで灰の剣士(現・褪せ人)は、寝床と椅子を手に入れる旨を皆に伝えた。

 

「何処に行くのよ?」

 

「円卓か、ストームヴィル城だ。そんなに時間は掛からんさ」

 

「ま~たドロボーやるのね?」( ̄ー ̄)

 

「そういう顔で睨まないでくれ」( ゚ ω ゚ )

 

「ストームヴィル城なら僕もお供しますよ。内部に詳しいですし、まだ兵士も残ってる筈です」

 

「そうだな、頼む」

 

 円卓は勿論だがストームヴィル城も、生活感の跡が比較的見受けられた。あの施設なら、必要な調度品にも事欠かないだろう。

とは言えやる事は、単なる盗人行為。その事にライザは、ジト目で彼を睨んだ。

しかしストームヴィル城にも向かうのなら、多少の危険も伴う可能性もある。

そこで輝石の貴公子も同行する事にした。彼ならストームヴィル城の構造にも詳しく、無駄な残留兵との戦闘を避けつつ物資を調達できる筈だ。

二人は直ぐに動き、ストームヴィル城へと転移した。

 

……

 

「フゥ…ただいま戻りました」

 

「おお、無事に戻ったか」

「お帰り~、二人とも…!」

 

 然程の時間もかけず、二人は結びの教会へと帰還する。多少は心配していたソラールとライザだが、どうやら杞憂で済んだようだ。

転移で戻った二人は早速、長椅子やら大型の食器類を出現させ食事会に彩を与えていく。

長椅子なら複数人が腰掛ける事もでき、複数の列に並べれば簡易的な寝台にも利用できる。

また予備の鍋も持ち込んでおり、これ等はミリエルや馬たちの食事用に用意した。

 

少々大き目な焚火が熾され、巨大鍋には様々な食材が放り込まれ長時間煮込んだ。

また傍には金網が置かれ、上には『勇者の肉塊』や薄切りにしたキノコ類を直火で焙る。

鍋の中身だが、主に茹でエビの身肉が大半を占め、各種干し肉、複数種の野草と山菜が煮込まれていた。

 

「いいか?味付けは俺が担当してやる。無闇に調味料を入れりゃあいいてっもんじゃねぇ…!俺の指示の沿って、逐次投入を心掛けな…!」

 

 どうやら茹でエビの男(ならず者)は味付けに並々ならぬ拘りを発揮し、()()()を始めてしまった。まぁ彼は調理の仕方を心得ているようだ、ここは言う通りにした方が良さそうだ。

また亀であるミリエルの手前もあり、流石に『亀首』を食材として出す事は控えた。

フーテンのパッチから購入した調味料セットと山菜類のお陰で、かなり豪華な夕食に変貌する。どうにも此方の行動を予め読んでいたかのような品揃えだったが、本当に何処で仕入れてきたのか?

しかし考えたところで答えなど出ず、灰の剣士(現・褪せ人)は食事を楽しむ事にした。

 

「うわぁ、温かくて美味しい…!エビもサイコー!!」

 

「――だろうッ…!絶妙な塩加減に加え、アンタらの調味料が上手く組み合わさったのさ…!ング、ング…くぅ~ッ…こいつぁ効くぜぇ…!」

 

 茹でエビを主役に柔らかくなった干し肉と野菜類の具沢山な煮込み物――。

一見乱雑な食事に見えるが、ライザは歓喜の言葉で味わい絶賛した。それに対し茹でエビの男(ならず者)も得意気に返し、ジークの酒の虜となっている。

またソラールやオーベックも酒や飲み物類を、あの『底なしの木箱』に溜め込んでいたらしく惜しみなく振舞っていた。

 

「これは有り難い事です。この私にも食事を振舞って頂けるとは、食事だけでなく貴方達の心も温かい」

 

「うむ…ジークバルドの酒…、これまた奥の深い味わいよ…!」

 

「「「ヒヒィ~ン、ブルルル…!」」」

 

 若干離れていたが、ミリエルやアレキサンダー、そしてトレントを含めた馬たちにも食事が振舞われていた。

ミリエルとアレキサンダー用に用意した専用の鍋が、役に立ったようだ。ミリエルは感動しながら鍋に口を付け食事を摂取し、アレキサンダーは食事やジークの酒を頭の蓋を取り上から流し込んでいた。

トレント含め他の馬たちも、野草とロアレーズンの盛り付けを頬張り歓喜の声をあげている。

 

こうして夜は尚も更け食事会も終わりを迎えた。一応、雨風対策用に簡易的な天幕を拵え、長椅子を列に並べる事で即席の寝台も設置した。これで、夜を明かす事も出来るだろう。

満足に腹も膨れた事で、彼等の中には眠気を訴える者が続出している。

 

「貴公、もう此処を発つのか?」

 

「ああ。俺はアルター高原へ行こうと思ってな。あそこの河川は、カニの宝庫だ。今度はカニを茹でてやるのさ。特にお前には世話になったな…、運よく会えたらカニを食わしてやるぜ。勿論、ルーンは頂くがな」

 

「アルター高原…、確かデクタスの大昇降機は、例の割符でないと起動しなかった筈です。…若しや、()()()()()()…?」

 

「はん、察しが良いじゃねぇかボウズ。そういう事だ、寧ろ()()()()が俺ら共通のルートだぜ」

 

 アルター高原に向かうには、『デクタスの大昇降機』という大規模設備を起動させねば辿り着くことが出来ないのが、狭間の地での常識だ。更に起動させるには『割符』と呼ばれる石板を掲げねばならず、その殆どが消失していた。

だが実際には、別のルートでアルター高原に向かう手段が存在していた。

茹でエビの男(ならず者)は、そのルートを知っていたらしく然したる障害とは感じていなかった。

 

「持って行くといい。酒は必要だろう?」

 

「へっ、ワリィな。有り難く貰っとくぜ…。じゃあな…!」

 

 別れ際、幾つかの酒を手渡したジークバルド。茹でエビの男(ならず者)もまんざらではない態度で受け取り、ぶっきらぼうな挨拶で此処から去った。

彼とは行きずりの短い関係だ。だが短い出会いも時には思い出となる。ジークバルドは、彼の背を見えなくまで見送り続けた。

 

「ん、卿よ、何処へ行こうというのだね?」

 

 一方別の個所では、灰の剣士(現・褪せ人)が何処かへ向かう素振りを見せており、金剛石の騎士が呼び止める。

 

「ええ実は、さっきから()()()()()()のですよ。顔面は()()()()()()()()、下半身は()()()()()()()を感じます、それに()()()()(汗やら小水混じりの感じだ)も。気晴らしに戦ってこようかと――」

 

「…?何も匂わんが…?いや待て…今戦うといったか?」

 

 灰の剣士(現・褪せ人)の様子だが、どうにも落ち着きがない。兜越しに顔面を何度も摩り、騎士鎧をズラすような仕草を幾度となく繰り返しているのだ。

しかも妙な臭いを訴えるが、金剛石の騎士の周囲には特に気になる匂いは漂っていなかった。

だが彼は、気晴らしのため戦いに赴くと発言しており、流石にそれを無条件に看過は出来なかった金剛石の騎士。

 

「あの小黄金樹ですよ。まだ行ってないので、気晴らしついでに霊薬の素材を入手して参ります…あああ、落ち着かないッ…クソッ!」

 

「…明日にしたまえ…、それ程に我慢できんのか?」

 

「ええ…。妙に気になってしまい、真面に過ごせそうもありません。どうか御許可を…!ああ気になる…!」

 

 灰の剣士(現・褪せ人)は尚も兜をズラしたり、鎧の位置をズラし何とか摩擦で誤魔化そうとするもソワソワし通しだ。

明日にせよ、と言葉を返す金剛石の騎士だが、やはり彼はいつになく落ち着きがない様子だ。

 

「王様の言う通りだって…、あたし眠いからもう寝るよ…ふワぁ~あ…」

 

「小黄金樹…、例の怪物が居た場所だな…」

 

「アレキサンダーさんよ、ひと暴れするチャンスだ…って寝てやがる…」

「…ZZZ…」

 

 ライザ、ソラール、オーベックも彼の行動に少々の疑問符を浮かべていた。

またアレキサンダーは酔いが回ったのか、寝イビキを立てている。壺でも寝るという行為は存在するらしい。

 

「味方なら心配いりません、霊呼びの鈴もありますので。それに狭間の地では、我々は不死です。万が一、何かがあったとしても蘇生できます」

 

「…だとしても容認は出来んな。どうしてもと言うのなら誰か味方を連れて行け、それが条件であり命令だ」

 

「…では私が同行したしましょう。問題は起こらないかと、陛下?」

 

 様子のおかしい彼だが、それでも容認する事など出来よう筈もない。この夜の中、単身で敵を討ちに行くなど――。

灰の剣士(現・褪せ人)の実力を認めてはいたものの、金剛石の騎士は条件付きで彼の行動を許す事にした。

そこで剣の乙女が同行の旨を伝え、それを条件に容認する。

 

「直ぐに終わらせてきます…!」

「行ってまいります…!」

 

 こうして灰の剣士(現・褪せ人)は再びトレントを出現させ、馬背には剣の乙女を伴い出撃した。

彼が目指したのは、北に見える小黄金樹だ。距離も近いのか、かなり大きく見える。

 

「後続として控えておきます」

「私も準備しておくか、念のためな」

 

 彼等なら先ず心配ないと思うが、ソラールと金剛石の騎士は万が一を想定し待機しておく事にする。

残りのメンバーは、そのまま寝床に就くかミリエルとの会話に興じていた。

しかしどうした事だろう?あの灰の剣士(現・褪せ人)が、突然に落ち着きを無くし奇行を繰り返すという事態――。この戦いを済ませ落ち着けば、それでいいのだが。

 

……

 

「灰の方…ううん、アナタ…まだ治まらないの?」

 

「……。まだだ、一旦治まったり治まらなかったり…、顔面も時々何かで摩擦される様な感覚に見舞われる…!ええい、何なのだ!?この違和感はッ…!?」

 

 トレントを駆り北の小黄金樹へと向かう、灰の剣士(現・褪せ人)と剣の乙女。

彼女は尚も症状の事について言及するも、彼は相変わらず正体不明の違和感に悩まされている。

一体どうすればいいのか?

思い悩んだ彼女は、意識を逸らせようと何か話題を振る事にした。

 

「もう少し速度を緩めて下さいまし、目標は逃げませんわ。…それに白く巨大な満月…本当にアナタ様の様ですわね…フフフ…❤」

 

 さっきはずっとライザに占拠されていた彼の馬背、折角二人きりなれたのだ。もう少々ゆっくりめに向かったとしても、何も損失には繋がらないだろう。

剣の乙女は彼に訴え掛け、トレントの速度を緩めさせつつ別の話題を振った。

 

「白い満月…か…。言われてみれば、本当に眩くも巨大だな」

 

 トレントの手綱を引き殆ど歩くも同然の速度へ抑えた彼は、夜空に浮かぶ白くも巨大な満月へと視線を向けた。

彼女の言う通り、改めて見れば本当に巨大だ。四方世界の赤と緑の月も、これほど巨大ではない。それに月光量も強烈で、夜だというのに視界確保も比較的良好だ。これなら、道を踏み外し奈落の底へと落下死するという事態には陥らないだろう。

 

「本当にアナタの様ですわね…、あまりに巨大で生半可な太陽さえも飲み込んでしまいそうです」

 

()()()()()()()()…とな?それは初耳だ…」

 

 恒星(太陽)を飲み込まんとする衛星()――。

流石にそんな荒唐無稽な話は聞いた事がない。彼とて、最小限の天文学知識は有している。

 

いくら巨大でも岩石惑星が、恒星を超える大きさで誕生する事など極めて稀なのだ。況してや惑星が恒星の飲み込む事なども、基本的にはあり得ない。

太陽の恩恵を受け月が輝くという仕組みは理解出来るが、その逆となるとどういう法則が働くのか。

 

「アナタという巨大な月を照らすとなれば、中途半端な太陽一つや二つでは足りませんわね、きっと」

 

「…君も、その中の一つかもしれんのだぞ?」

 

「ええ、存じておりますとも。激しいだけでなく時には穏やかな陽光でアナタを照らし、アナタという巨大な月を支える。まぁアナタという満月は、一人で炎なり発して光ってしまいそうですが…。私は構いませんのよ、その一つに加えて頂ければそれで」

 

「そんな()()()()()()…殆ど喜劇(コント)だな。それと本当にいいんだな、君をも囲い込むぞ?」

 

「光栄ですわ…フフ…。あ、例の敵が見えてまいりましたわ」

 

 一つの小さな太陽では、彼の満月を支え切れない。尤も彼は『残り火解放』の様に、独りでに燃え上がる事で火の光を発するような満月かもしれない。

その言葉に、彼は少し笑みを零してしまった。

幾許かの会話も盛り上がった最中、前方より『黄金樹の化身』の姿を捉えた。

 

「剣の乙女、あの呪文『無手(グラムジー)』で武器を落としてくれ」

「心得ました」

 

 既に弱点も特徴も把握している。ならば加減など無用。二人は予め作戦を決め、短期決戦を仕掛けた。

先ず剣の乙女が、真言魔法『無手(グラムジー)』で敵の巨大棍棒を地面へと落とす。ここで漸く敵は、彼等の存在に気付くも既に武器は手の内には無かった。

そして敵が武器を拾い上げる前に灰の剣士(現・褪せ人)は馬を降り、戦技『グラビタス』で巨大棍棒を更に引き寄せた。

これで敵の攻撃力は激減。

そのまま二人は、弱点である火の術を中心に攻め立て敵を短時間で圧倒した。

幾ら頑強で攻撃力に長けた敵とはいえ、主力武器を喪失させてしまえば鈍重な敵など唯の的。

速攻で黄金樹の化身の討伐に成功する。

 

魔力纏いの割れ雫、雷纏いの割れ雫、聖纏いの割れ雫、の3つの結晶雫の入手が叶い目標は達成された。

 

「四方世界に戻れば、新たな霊薬の配合に着手してみるか」

 

 3種の結晶雫の入手を手に取り、ふと帰還後を思案する灰の剣士(現・褪せ人)。後は結晶雫を永久保管する為の器も必要となるだろう。帰っても成す事は多そうだ。

 

「そう言えば、さっきの症状は治まりましたか?」

 

「…ああ、そう言えばそうだな。お陰様で、本来の調子を取り戻せたようだ。済まなかった、余計な気遣いをさせてしまい」

 

 先ほどから妙な違和感が彼を襲っていたが、戦っている内に治まってくれた様だ。それに舌も何だったのだろう、あの妙な症状は?

 

「アレを見て下さいませ、アナタ。あの黄金樹の輝きを…」

 

 戦闘も終わり再び静寂な夜が辺りに立ち込め、剣の乙女は遠方で光り輝く黄金樹に釘付けとなっている。

白い満月の月光と夜空に漂う黄金樹の光は、何とも神秘的で二人の目を魅了していた。因みに彼女は目が不自由なのだが、この狭間の地では問題なく目が見えていた。

 

「敵さえ居なければ、この光景をゆっくりと楽しめたのだろうな」

 

「フフフ…、アナタの口から是非とも聞いてみたいですわ。『君の方がもっと綺麗だよ…❤』さぁ言ってくださいませ♪」( ̄∀ ̄)

 

「ぬ…く…そ…それは…言うのか…私が、この私の口から…?」( ̄□ ̄;)

 

 幻想的な黄金樹の輝き、それを目にする光景は確かに美しい。

そこで剣の乙女に少しばかり意地悪な考えが過り、彼に対し一つ提案をした。

よく物語りや演劇でも使われる月並みな台詞――。それを彼の口から聞いてみたい――。剣の乙女は、そう求めていたのである。

しかし聞くならまだしも、自分の口から恥ずかし気もなく言えるものだろうか?

正直、彼とて羞恥を覚え狼狽え取り乱してしまった。

その様子に彼女は益々イタズラ心を芽生えさせ、彼に要求を繰り返す。『さぁさぁさぁ、言って…?』と。

 

「う…ぬぬ…、ゴホン。…君の方が、とっても綺麗だよ…❤」( ゚ ω ゚ )キリ

 

「……」

「……」

 

「――プッ…クッフッフフハハハハ…アァッはははは……ご、ごめんなさい…、ちょっとあまりに…アァッふっふははっはっはっはっは……!」(* >ω<)

 

「~~~~っ///!!」(〃ω〃)

 

 暫しの無言を挟み、剣の乙女は噴き出してしまった。そして腹を抱え、大笑いを繰り返している。

対する彼の方はというと、兜越しに顔を真っ赤に紅潮させワナワナと全身を打ち震わせていた。

 

「わ、笑うのか…?恥をかなぐり捨てた、この私を笑うのかッ…!?」

 

「プッふっフフ…、よく言いますわね。私は散々アナタに虐められてるんですのよ…クフフフ…、偶には仕返しして差し上げますわ…ウッはッハハハ……!」

 

「ふぅ~…もう気は済んだであろう?そろそろ戻るぞ…?」

 

「ええ、畏まりましたわ、アナタ…❤」

 

 日頃の仕返しと剣の乙女に散々笑われ揶揄われた、灰の剣士(現・褪せ人)

結局、彼女にいい様に遊ばれた彼は観念し、結びの教会へ戻る旨を伝え彼女もそれを承諾する。

 

「こういう夜を、また何処かで楽しみたいですわ」

「願わくば、白い満月が四方世界に浮かんでくれれば言う事はないのだがな」

「あら、あの二つの月は御嫌い?」

「嫌い…ではないがな。やはりこちらの月の方が、どうにもしっくりくる」

 

 少しの会話を挟み、転移で『結びの教会』近くの祝福まで帰還した。

 

「おお戻ったか、まぁソウルの動きで大体は把握していたがな」

 

「本当に短時間だったな」

 

 結びの教会に戻り、ソラールと金剛石の騎士が出迎えてくれた。

 

「弱点さえ突けば、そう時間は掛からない。お陰で、さっきの症状も治まった」

 

「他の皆さまはどうしてます?」

 

「一部は寝ている。何名かは、ミリエル殿から呪文や奇跡(祈祷)を学んでいる」

 

 二人が戦っていた間、結びの教会に残っていた者は就寝するか呪文などを学んでいた様だ。

 

「卿は、もう休むといい。我々男性陣が交代で見張りを付けておく」

 

「お心遣い感謝致しますわ、陛下。それではお先に休ませて頂きます、お休みなさいませ皆様」

 

 女性である剣の乙女を休ませる事にし、金剛石の騎士を始めとする男性陣は、このまま交代で見張りを付ける事にした。

一応安全だとは思うが、ここは狭間の地だ。

唯の魔物ならまだいいが、闇霊などという襲撃には対応が遅れがちとなる。これは非常に脅威なのだ。

次からは『円卓』で夜を明かす事にしよう。

そう方針を決めた灰の剣士(現・褪せ人)は周囲に、その旨を伝えそのまま見張り役を引き受けた。

 

こうしてリエーニエに降り立った1日目は幕を閉じ、夜も更けてゆく。

 

……

 

(推奨BGM ライザのアトリエ ―― へじへじものへ )

 

 さて、時は少々遡る。

ここは四方世界の西方辺境街、地母神神殿の夜。

相変わらず『聖黄金樹』の下では、大勢の冒険者が屯し酒や宴やらで盛り上がっていた。

その一角に設けられた簡易天幕では、灰の剣士を始め狭間の地へ向かった者たちが寝かされている。

 

「あのぉ…さっきから何をしてるんです…?お兄さんに」

 

 狭い簡易天幕の中で、幼夢魔が灰の剣士に向かい何やら覆い被さっていた。それを見ていた見習い神官の少女が思わず声を掛ける。

 

「ん~?安全祈願と祝福の『チュ~』をしています…。レロレロレロレロレロレロレロ……♪」

 

 覆い被さっていた幼夢魔だが、何と灰の剣士の顔面に満遍なく自分の舌を這わせていたのである。

唇は言うに及ばず、鼻、頬、顎、耳、露出している顔部全域を一心不乱に舐め回していた幼夢魔。

 

「チュ~ってキスの事ですよね?唇をくっ付け合わせるって聞きましたけど?」

 

「あたしは、これで良いって聞きました。忙しいので後にして下さいです。レロレロレロレロレロレロレロ……❤」

 

 羨ましそうに見つめる見習い神官の質問を適当にあしらい、幼夢魔は舐め回しに精力的だ。意識の無い灰の剣士の顔面を、必死に舐め回し蕩けた表情を浮かべていた。

 

「うぅ~代わって下さい…」

「や~よ…」

 

「代わってヨォ~…!」

「や~よ!」

 

「こうなったら…!」

「あ…ダメ…あたしのお兄さまがぁ…!」

 

 何度も代われと要求する見習い神官。だが求めに応じる気のない幼夢魔。

とうとう実力行使に出ようと強引に居場所を奪い取ろうとする見習い神官と、それを阻止せんとする幼夢魔の間で揉み合いが発生してしまった。

当然、灰の剣士の傍で争うものだから、その煽りを受け彼の身体は簡易寝台から落下してしまう。

 

「――ぐはッ…」

 

「「――あッ…」」

 

 床に落下した灰の剣士。意識が覚醒する事はなかったが、落下の衝撃で肺から空気が漏れ喉から唾液と声が吐き出されてしまう。

 

「――ちょっと何をしているの貴女たちっ!?」

 

 落下音を聞きつけ、女性神官戦士の一人が天幕へと入って来た。そしてこの惨状に、二人の少女を叱り付ける。

叱られた二人にも手伝わせ、灰の剣士の身体は再び簡易寝台へと戻された。

 

「もう貴女たちは寝なさい。子供が何時までも夜更かしするんじゃありません!」

 

「「はぁ~い…」」

 

 女性の神官戦士に怒られ、見習い神官と幼夢魔は渋々と神殿へと戻った。

そして二人の代わりに駆け付けたのは、銀髪武闘家とゴブリンスイーパーの二人である。

 

「貴女たちなら問題ないですね。彼の事はお願いしましたよ」

 

「「任せて下さい」」

 

 再び女性の神官戦士は天幕から去り、灰の剣士の事は彼女たちに託された。この神官戦士も、判断を誤ってしまったのである。

 

「無防備な彼…ゴクリ…」

「試してみたい事…あります…ゴクリ…」

 

「ちょっとだけなら……❤」

「いいですよ…ね…❤」

 

 この二人も何かに支配されていたのだろうか?

 

スイーパーは、彼の股間部に手を這わせ何度も前後運動を繰り返す。

銀髪武闘家は、何と彼の顔面に跨り自分の腰を前後に揺らしていた。

 

「あ…貴女…けっこう大胆…ね」

「は…はいぃ…ずっと…試して…ん❤…みたかったんです…アぅん❤」

 

 控えめに彼の股間に手を這わせたスイーパーとは違い、銀髪武闘家の方はかなり大胆な動きを見せている。

実は彼女、一度だけ似たような経験をしていた。

 

以前ライザ達と錬金素材採取に出かけた時、ふとした事故で灰の剣士の顔面に自分の股間を押し付けしまったのである。

アレは単なる偶然だが、ごく短時間とはいえ彼女は言い様のない刺激を感じており、忘れる事ができなかった。

(本編前夜編 第100話参照)

あれ以来、もう一度体験する機会を秘かに窺っていたのだが、ライザが彼に付き纏う為、中々二人っきりになれなかった。

実は銀髪武闘家も、ライザに対し若干の嫉妬を覚えていたのであった。

 

「そ、そうよね…ソレ…凄いから…一回昇っちゃうと…もう後戻り…なんて、とても///」

 

 徐々に腰の動きを激しくさせる銀髪武闘家に、スイーパーは顔を赤らめながら行為を説明した。

 

「スイーパーさん…あ❤…これ…知ってるん…ん…ですかぁ…あフ❤」

「ええ、知ってるわ///。ああ…大きく…膨らんで…少しずつ…熱く…ああ…凄い…私の、私の手が彼のを…///」

 

 もはや問答の体を成していない二人の会話だが、スイーパーは彼の股間部の異常を感知し満たされた表情を浮かべつつある。彼女の手の動きも、ますます激しくなる。

 

「ああ…止まんなくなっちゃいそう…ん…ふ…は…❤だんだん…あ❤変な気持ち///に…ん❤」

 

 腰の前後運動と共に全身から汗が噴き出ていた銀髪武闘家。彼女はもう灰の剣士の事など考えず、全体重を彼の顔面に預けていた。

だが彼女の至福は、唐突に打ち破られる。

 

「待って誰か来たわ…!早く降りて、早く…!」

 

「ええ~?いいとこだったのにぃ…ん❤」

 

「後で力になってあげるわよ…早く…!」

 

「ちぇ~…」

 

 天幕に何者かがやって来た事を告げたスイーパー。恐らく、灰の剣士以外の誰かを見に来たのだろう。スイーパーはともかく、銀髪武闘家の姿勢は誤魔化しようがない。バレたら一大事だ。

スイーパーは慌てて動きを止めさせ、彼女も不満気ながら灰の剣士から身を引いた。

 

「やぁ、騎士さんの様子を見に来たんだ。そっちの剣士さんは、お変わりないようだね」

 

「ええ。特に変わった事はないわ///」

 

 天幕に訪れたのは、ジークバルドの相棒を務める女部族の戦士だ。彼女もジークバルドが気になり、定期的に様子を見に来ていたのである。

若干上ずった声音ながらも、なんとかその場を取り繕うスイーパー。

 

「何だい、二人とも…特に武闘家の嬢ちゃん、熱でもあんのかい?」

 

「はい…実は今…気持ち…わぶッ!?」

「――この子、ちょっと酔いが回ってるの…!外へ連れ出すわね…!」

 

「ん…ああ、お大事に…?」

 

 スイーパーは誤魔化せたが、馬鹿正直な銀髪武闘家は、そうはいかなかったらしい。

全て隠さず話そうとした彼女の口を抑え込み、スイーパーは彼女と共に天幕を強引に脱出した。

そして変に思いながらも二人を見送った女部族。

 

……

 

なぜ灰の剣士が『結びの教会』にて妙な感覚に陥ったのか?その原因は、四方世界側にあった。

だが、彼がその真実に気付く事は終ぞなかったという。

意外と、この世界は平和に満ちていた。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

青色の結晶雫

 

黄金樹の恵みが降り注ぐ地に永き時の末に生じた、結晶の雫。

「霊薬の聖杯瓶」に配合し、最大FPの半分を回復する。

 

スペルキャスターには、これとない逸品だ。

 

 

破裂した結晶雫

 

黄金樹の恵みが降り注ぐ地に永き時の末に生じた、結晶の雫。

「霊薬の聖杯瓶」に配合し、自分自身が爆発する。

 

薬効を持たぬ出来損ないの結晶雫に、過酷な啓示を見出す者もいる。

いわく、信仰は爆発だ。

故に、信仰とは、爆発する事と見つけたり…!

 

 

魔力纏いの割れ雫

 

黄金樹の恵みが降り注ぐ地に永き時の末に生じた、結晶の雫。

「霊薬の聖杯瓶」に配合し一時的に、魔力攻撃力を高める。

 

同じ魔法でも、使用者の魔力量により効果には雲泥の差が出る。

異界の魔王はこう言った。

 

『今のは、余のメ〇ゾーマではない。余の〇ラだ』

 

 

雷纏いの割れ雫

 

黄金樹の恵みが降り注ぐ地に永き時の末に生じた、結晶の雫。

「霊薬の聖杯瓶」に配合し一時的に、雷攻撃力を高める。

 

雷に対する防御手段は、驚くほど少ない。

大自然が宿る力は正に神の力に例えられ、度々信仰の対象になるという。

 

 

聖纏いの割れ雫

 

黄金樹の恵みが降り注ぐ地に永き時の末に生じた、結晶の雫。

「霊薬の聖杯瓶」に配合し一時的に、聖攻撃力を高める。

 

黄金樹に連なる聖なる力だが、何処となく歪んだ闇を感じるのは見る者の心が歪んでいるからなのだろうか。

それを諫める者も、同時に歪んではいないだろうか。

 

 

 

 

 

 




色んなキャラとの交流に会話、考えるのは楽しいけど実際書くとなると難儀する部分もあります。まぁそれも何時もの事なのですが。
地味に輝石の貴公子の本名も明らかになりました。

ハリ=オード=バーレンシュタイン…これが彼の本名です。

ハリの部分は、アーマードコアFAのリンクス『ハリ』から文字って来ました。
とはいえ、別に継戦能力に難がある訳ではありません(笑)

そして灰の剣士ですが、書いていいる内に益々太陽から遠のいている気がする。
そういった理由とイメージもあり、月の如きソウルという風に訂正させて頂きました。
(ソラールに諭されるという形で)
ただ暗月ではなく満月側というイメージに、ですが。
因みに狭間の地の月ですが、暗月と満月が一定周期ごとに交互に浮かぶというのはオリジナル設定です。ゲーム上何の根拠にも基いていません。

如何だったでしょうか?
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。  
デハマタ。( ゚∀゚)/
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