今回は少し短いです。(今までが無駄に長いともいう)
では投稿致しますドゾ。( ゚ ω ゚ )
結晶連弾
魔術学院レアルカリアの輝石魔術のひとつ。
輝石の結晶片を、連続で放つ。タメ使用で強化される。
結晶派と呼ばれる魔術師たちの技。
彼らは、結晶人たちの微弱な思索。石の知の探究者である。
石には確かな魔力が宿り、時には意思さえ孕む。
結晶散弾
魔術学院レアルカリアの輝石魔術のひとつ。
輝石の結晶片を、多数同時に放つ。
足を止めずに使用することができ、タメ使用で強化される。
結晶派と呼ばれる魔術師たちの技。
彼らは、結晶人たちの微弱な思索、石の知の探究者である。
結晶人という存在。少年も密かに関心を寄せていた。
輝石の流星
レアルカリアの学院に由来する
輝石魔術のひとつ
誘導性の高い、魔力の流星を放つ。
足を止めずに連続で放つことができ、タメ使用で強化される。
ケイリッドの魔術街、サリア出身者の集うオリヴィニスの教室の魔術。
輝石の中でも源流に近いとされる古い魔術。
ファランの矢雨
「ファランの短矢」の上位魔術のひとつ。
ソウルの短矢を連続で放つ。
それは結晶の古老が直々に鍛え、侍祭の長に託したものであるという。
その娘、ヘイゼルの魔術として。
彼女は今も『指』として仕えているのだろうか…。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
リエーニエに在る『結びの教会』を出立した、灰の剣士一行。
結びの司祭ミリエルに別れを告げ、別の地点へと転移した彼等。
目的は、輝石の鍵が在るとされる輝石竜『スマグラ』の場所だ。
最寄りの祝福へと到着した彼等は、ひたすら真っ直ぐに『スマグラ』の場所を目指す。
目立つのか件の輝石竜の場所は直ぐに見付かり、かなりの巨躯で成長した竜である事を証明していた。
「寝てるわね…」
「しかもグッスリと…、これなら――」
彼等の眼前には、巨大な竜が寝息を立てている。その寝息の音だけでも、か弱い人など圧倒するには造作もない程だ。
普段から肌寒いリエーニエだが、早朝はまた一段と冷え込んでいた。
だがそんな寒さも忘れ、ライザと輝石の貴公子は輝石竜『スマグラ』の様子を窺っている。
「私が行こう、皆は念の為ここで待機」
「油断召されるなよ、旅人よ」
かなり熟睡なご様子の輝石竜『スマグラ』だ。派手な音を立てなければ、容易に接近も叶うだろう。
ここは
幾多もの修羅場を潜っている灰の剣士の事だ、下手な失敗などあり得ないと思われるが、ソラールは警戒を欠かさぬよう釘を刺した。
――起きる気配はないな、いける。
そう確信し、彼はスマグラの後方に在る祠らしき洞穴へと忍び寄った。
水浸しの地面には、魔術士らしき遺体が転がっており腰には鍵らしき物が鈍い輝きを放っていた。
――よし、アレさえ奪えばもう用はない。
目的だけを可及的速やかに奪取し、早々にこの地を去る。
何も危険を冒し、この巨大な飛竜と戦う気概など無謀と同義だ。
戦士の壷『アレキサンダー』にとっては、些か腑に落ちない部分もあるだろうが。
目標物に狙いを定め、彼は油断なく忍び足で距離を詰める。そしてあと一歩という所で、異変が起きた。
『見付けたぞ、褪せ人よ――』
突如、虚空より飛来する声が辺りに鳴り響く。
「何だ…この声…?」
「誰の…でしょうか?」
虚空の声は、
『野心の炎に焼かれる者たちよ――』
虚空から響く声は尚も続き、スマグラ後方の洞穴に異変が起こっていた。
「この言葉使いと声…まさか――」
程無くして、洞穴の遺体が妖しい光を放ち巨大な人型が形成されつつあった。
「――皆、戦闘準備、戦闘準備ッ!」
異変を察した
加えて人型が浮かび上がるにつれ、輝石竜『スマグラ』も意識を覚醒させつつあった。
「――ちょっと、何々?あのドラゴン…目を覚ましちゃったよ!?」
「それだけではない。何だ、あの巨人擬きはッ…!?」
スマグラの覚醒と共に姿を現したのは、ボロ布のマントを纏い螺旋状の長杖を所持する巨躯の老人だった。
目の前の異変に、ライザやジークバルドも身を強張らせる。
「いや待て、…見覚えがある…?いや、似ている…あの捻じれ杖の男…否、『忌み鬼』とやらに」
出現した捻じれ杖の男だが、金剛石の騎士は以前の事を思い返していた。
あれは地母神神殿での出来事だ。確か教会の狩人と灰の剣士が激戦を繰り広げていた時、現場へと乱入し教会の狩人を叩き潰した男によく似ていた。
そして去り際、聖黄金樹について言及し姿を消している。
(本編前夜編 第136話参照)
「そうです、ロード。アレが忌み鬼の『マルギット』です!」
息を呑み困惑する金剛石へと返答した
罪人として連行された際、明かしていた件の『忌み鬼』そのものである事を告げる。
「特徴も一致しますね、言われてみれば――」
この狭間の地では、問題なく視力が働く剣の乙女。彼から聞かされていた特徴と、今のマルギットの特徴を照らし合わせていた。
顔面半分以上を覆う、幾重にも生えた捻じれ角。
ボロボロの古びたマント。
所持している螺旋状の長い杖。
トロル級を誇る巨躯。
そして年老いた異形の老人。
全て尋問で耳にしていた通りの特徴だ。
「う~む、あの神殿に出現していた奴とは少し異なるな。別人か?」
オーベックは違和感を感じている様だが、それ皆も同じ印象を抱いている。
あの地母神神殿では、遥かに身長も縮んだ
だが、あの時感じていたソウルと眼前のソウルとは、波形も一致しており同一人物という線は濃厚だ。
これは一体どういうカラクリなのか?
なぜ、四方世界と狭間の地とでは、こうも差異が見られるのか?
唯一つだけハッキリしているのは、あのマルギットはスマグラを伴い此方側に敵意を露わにしている事は確定していた。
あの地母神神殿では、敵意は無かったというのに――。
「忌み鬼マルギット、貴公に問う!何ゆえ、四方世界の神殿に姿を見せ『聖黄金樹』に拘った!?」
ここで
「何の話をしている?四方世界?聖黄金樹?知らんな…黄金樹の間違いであろう?」
帰ってきた答えは、『知らん』の一点張り。
矢張り別個体なのだろうか?四方世界の『忌み鬼』らしき青年と、眼前の忌み鬼マルギットは。
だが宿しているソウルの波形は見事に一致しており、同一人物と見なさざるを得ないのだ。
もし可能性があるとすれば、此処とは違う多次元の狭間の地という線も考えられた。
「何を言い出すかと思えば…。どうやら外から大勢を引き連れてきた様だが、物見雄山を気取るならそこから黄金樹を崇めていればいい。分を弁えぬ野心を捨てぬなら、此処で切って捨てるのみ」
もしこのマルギットと四方世界の『
だが今の反応を見るに、その様な振る舞いは見られない。
やはり、別人として扱った方がいいのだろうか?
あまり考えてる時間はなさそうだ。こうしている間にも、マルギットは戦意を漲らせており輝石竜スマグラまでもが完全に覚醒してしまった。
これは非常に宜しくない。
マルギットは突如跳躍し、スマグラへと搭乗してしまった。
(推奨BGM エルデンリング ―― マルギット)
「ヤバいぜ、あの飛竜に騎乗しやがった!」
「スマグラは多くの魔術士を喰らった事で、体の一部が輝石化していると聞いています!」
「つまり、魔力攻撃と強い耐性を併せ持っているという事か」
忌み鬼マルギットは、かなりの難敵。それに加え、強大な飛竜であるスマグラへ騎乗するという悪条件が重なってしまった。
どの様な方法で輝石竜スマグラを使役しているのか定かではないが、相当な苦戦が予想される。
オーベックは現状に歯軋りし、輝石の貴公子はスマグラの大まかな特徴を語った。それを聞いた金剛石の騎士は、魔力属性の攻撃と高い耐性を併せ持つ結論に行き着く。
「飛ばれると厄介だな」
「――各位、総攻撃開始!飛ばれる前に墜とすぞッ!」
マルギットが騎乗した矢先、スマグラは巨大な翼膜をはばたかせ飛び立つ素振りを見せている。
それを察したアレキサンダーと
全員へと総攻撃を呼び掛け、飛翔される前に叩き落そうと試みた。
「クソ、ヤッテやる…!」
「輝石の魔術、効けばいいのですが…!」
「ちょっとデカすぎない、あの竜?」
オーベック、輝石の貴公子、ライザは、スマグラの大迫力に慄きながらも魔法の詠唱を始める。
だが巨躯を誇る竜の身体とウロコには、然したる痛痒を負わせる事ができず飛翔を許してしまった。
「ドラゴンという種は、地上に居るからこそ人の力でも辛うじて抗う事ができたのです…!」
「だが飛翔を許してしまえば、この人数でも…厳しいかも知れんな…!」
剣の乙女と金剛石の騎士は、現役時代での対ドラゴン戦を語った。
しかも、成体とはいえ若い竜種なら、辛うじて人の力が及ぶ限界値と定められていた。
だが今対峙している竜種は、長い年月を掛けた輝石竜なる強大な竜である。また竜は、人族とは違い老いれば老いるほど強大化すると言われている。
この輝石竜スマグラが、どれほど老いているのかは分からないが宿すソウルの総量から推し測ってみても、かなり強力な竜種である事は間違いなかった。
恐らくリムグレイブにて
「覚悟を決めるしかありませんね…。…うぐぐぅぉおぁああアァぁぁ…!!」
もはや出し惜しみしている場合ではない。輝石の貴公子は、身に付けていた防具を脱ぎ自身の身体を『接ぎ木形態』へと変容させる。
相手は、スマグラとマルギットのタッグだ。手加減して勝てる相手ではない。
……
「ぬぉッ…かなり早い…!これでは迎撃も困難だな…!」
スマグラの飛翔速度は予想以上に速く、一瞬で彼等の間を飛び抜けた。
更に巨体と体重で上乗せされた大質量が、高速で駆け抜けるのだ。一瞬遅れで、強烈な風圧が彼等を襲う。
その風圧だけでも彼等を牽制するには充分な威力を持ち、ジークバルドも盾で何とか凌ぐしかない。
スマグラが駆け抜けた後に襲来する風圧で、湖の水が一気に波立ち威力と規模を物語っていた。
「ねぇ…魔法当たってるの、コレ?」
ライザも飛翔するスマグラに向け、魔法での迎撃を試みていたが一向に効果が見られなかった。
今度は『
「命中はしている筈なんです…!速いけど、大きいですからね。けど――」
「輝石化した竜の身体…、我々にとっては分が悪いな…!」
トープスの射撃技術は意外にも高く、『輝石の流星』を飛翔するスマグラへと命中させていた。
また
だがスマグラは、数多くの魔術士を喰らい全身に輝石の魔力に侵食されていた。その結果、体の一部が輝石化を引き起こし魔力に対し高い耐性を備えるに至っていた。
結果、多少の被弾では怯む事もなく撃墜は困難であった。
「まずいな、ソウルの魔術も殆ど効きやしない…!」
オーベックも輝石とは別系統であるソウルの魔術『ファランの矢雨』で迎撃を試み、数発は命中させていたが高い効果は見込めていなかった。
「クソ、あの風圧は厄介だな…!ボルトや矢では相性が悪い…!」
ソラール、ジークバルド、
「――いかん、ブレスが来るぞッ!」
スマグラの口部から緑色の火漏れが認められ、金剛石の騎士が危険を叫ぶ。
「――皆、出来るだけ散開しろぉッ!」
あの飛竜『アギール』でも、かなりの広範囲を誇った火炎ブレスだ。
アギールを上回るとされる輝石竜『スマグラ』なら、更なる強力なブレスを吐いても不思議ではない。
散開を呼び掛けた
「え…、あたし、狙われてる…?」
ふとライザとスマグラの視線が合う。――気の所為ではない、確実に此方へと向いていた。
ライザを中心にブレスを吹き掛ける気だ。つまり彼女は必ず、範囲内に収まっているという事になる。
実は彼女も、故郷のクーケン島にて仲間と共に飛竜を討伐した経験があった。自信はあったのだ。
これだけの仲間が揃っていれば、異界の地であろうともドラゴン討伐は成ると。
だが実際に戦ってみれば、とてもではないが勝てるという流れが見えてこなかった。
巨躯にも関わらず高速で飛び回り、いま得体の知れないブレスが吹き掛けられようとしている現実。
自分の置かれた現状に、彼女は脚が竦みどう動いていいかも分からなかった。
あの故郷では直ぐに反応できたと言うのに――。
この異界の空気が彼女の優れた身体能力を鈍らせているのか、あるいは輝石竜『スマグラ』が強大過ぎるのか。
「――ぬッ、竜の動きが鈍い、好機かッ!?」
ふとアレキサンダーが、スマグラの動きが鈍くなった事に気付く。
ブレスを吹き掛ける為に狙いを定めた事で、必然と低空で静止状態となっている。
これなら飛び道具の有効打も見込めるのではないか?
「――ライザ…待っていろッ!」
「――サジタ…、インフラマラエ…」
「――今ならっ…!」
スマグラの制止状態は、
直ぐに戦技『強射』、真言魔法『火矢』、スナイパーボルトの射撃体勢に移行しスマグラの撃墜を試みようとする。
「愚かな…フンッ!」
しかし容易にはいかなかった。
スマグラに騎乗していたマルギットが黄金に輝く短剣を召喚し、
黄金の短剣をローリングで何とか回避したものの、
「何のッ…、俺の奥義を受けてみろっ!波動…ストレートぉッ!!」
だがアレキサンダーに短剣は投射されておらず、彼は拳を握り締めルーンの弾丸を投射する。
連射性能は低いが、それなりの威力は備わっておりスマグラの首元へと炸裂した。
その一撃の影響でスマグラの狙いは大きくブレた。
それでも吐かれたブレスの範囲は広く、ライザが巻き込まれる事実は変えようがない。ただ中心範囲からは逸れていたため、多少の威力減衰は見込める様だ。
「ライザさん、お下がりください!……
吐き出されたブレスは、緑色を帯びた火炎となり地面を走る。
本来の火炎ブレスの色は竜種と言えども赤や橙だが、輝石竜と仇名されるだけありスマグラのブレスは緑色に輝いていた。
これは多くの魔術士を胃袋に納めた事で、輝石の影響が体内を侵食している所為だと思われる。またスマグラの火炎ブレスは、唯の灼熱というだけでなく輝石の魔力をも伴っていた。
いよいよライザに迫るスマグラのブレス。やはり範囲は異様に広く、いくら健脚を誇るライザでも逃げ切る事は不可能だった。
しかし彼女の前に剣の乙女が立ちはだかり、奇跡である『
これが凡庸な聖職者の『
だが流石は、金等級冒険者でもある剣の乙女の実力。
たった一枚の『
「だ…大司教様…、ありがとう。大しきょ……さ…ま…?…えッ…?」
寸での所で助かり、剣の乙女に礼を述べたライザ。ふと彼女の方へと向けば、信じられない光景が瞳に投影されていた。
「…う…そ…?」
ライザの視界には、
その異様な光景に、ライザは思考が追い付かず放心状態で固まってしまった。
つい先程まで、彼女の奇跡が自分の危機を救ってくれたのだ。多少は複雑な感情も残っていたが、剣の乙女も大事な仲間である事には何ら違いはない。
常に眼帯で目を覆いつつも美しい容姿を誇っていた大司教の首が、綺麗に消失しているというこの異常な光景。
一体何がどうなっている?
ライザは未だ事態を認識出来ず、ただ立ち尽くす事しか出来なかった。
そして次の瞬間――。
剣の乙女の胴体までもが無残に砕け散り、飛散した鮮血と肉片がライザの身に降りかかった。
―― 剣の乙女、死亡 ――
「――クソッ…!あの巨大ザリガニの仕業かッ…!」
金剛石の騎士の声がライザにも届いた。確かに彼女も、一瞬だが見ていたのだ。
遥か後方から、液体の様な物が飛来し剣の乙女を粉砕していた事実に――。
結論から言おう――。
剣の乙女が『
あの巨大ザリガニは、此方の視界外からでも超高水圧の水鉄砲を噴射し目標物を見事に狙撃してしまうのである。
普段、敵対しなければその様な危険性はないのだが、スマグラとマルギットの敵意が彼等にも反応した所為かもしれない。
剣の乙女が死んだことにより、『
しかしライザは未だ呆けたままで、仲間達の呼び掛けにも反応できていない。
だが聴覚は正常に機能している様で、周囲からは怪しい鈴の音が鳴り響いていた。
「いかん、幽鬼の従者たちだ…!」
トープスの叫びで、何時の間にか周囲には『幽鬼の従者』たちに包囲されていた。この敵は怪し気な鈴を鳴らし、追尾する呪霊を何度も飛ばす厄介な敵だ。
既に仲間の何名かは追う呪霊に手を焼き、スマグラへの対応が追い付いていなかった。
そして幽鬼の従者が此処に居るという事は――。
「――ライザ、後ろだッ!」
「…えッ…!?」
「――ライザぁッ…!!」
だがライザの思考は彼に傾いてしまい、後方への注意が完全に散漫していた。
彼女の真後ろ直ぐ傍から魔法陣が展開され、何と『王族の幽鬼』が姿を現す。
しかし彼女は未だ、自身に降りかかろうとしている危機に反応出来ていない。
王族の幽鬼の存在に気付いたのは、濃密な緑色の『強毒液』を振り掛けられた時だった。
「――ぶふぅぉアッ…!?」
頭部から大量の強毒液が振り掛けられた。唾液にも似た微妙な粘性を帯びたそれは強烈な臭気を撒き散らし、やがてはライザの全身を覆い尽す。
「――ライザ、一旦逃げろぉッ…!」
横からはトレントに騎乗する
彼の声は認識できる、それは当たり前の事だ。彼は退避しろと警告してくれている、これも分かり切った認識だ。
だがどういう訳だろうか、身体が思うように動かないのだ。
「う…ぶぇえっ…ごうぇ…ぶへぁっ…!?」
黒に似た濃厚な緑の液体を頭から振り掛けられ、僅か数秒後には強烈な頭痛と倦怠感に襲われ激しい嘔吐を繰り返していたライザ。
そして10秒足らずで、意識は朦朧とし視界は歪みグルグルと回っていた。
「ぎひぃッ…!?」
もうライザの身体は満足に動かない。いや既に命さえ失おうとしていた。
幽鬼の王族から浴びせられた緑色の液体は、巨力な毒性を孕み大抵の有機生命体を蝕んでしまう。
常人が毒に侵されれば、先ず絶命は免れ得ない程の毒性を帯びていた。
その強毒に侵されたライザは早くも症状が現れ、もう敵に抗する力は残されていない。
「…あ…え…えぁ…?」
混濁する重い意識の中で、彼女は悍ましい王族の幽鬼の顔を眺めるしか出来ないでいる。
そして――。
「――げぶっ…!?」
ライザの顔面に、敵の拳が炸裂した。
たった一撃で、グチャッ、ボギィッ、と肉と骨の潰れる音が鳴り、その時点でライザは一瞬、ビクンッ、と全身を痙攣させる。
そこからはもう一方的な殺戮が始まった。
「――ゲッ…ボっ…ごッ…がっ…あ…ァ…ぅ…ッ…ッ…!…!…?…、………」
留まる事のない怒涛の拳がマシンガンの様に、ライザの顔面や全身に叩き付けられた。
王族の幽鬼の腕はムカデのように多数生え揃い、人型擬きの異形染みた不気味な姿をしている。その気味悪さだが見方を変えれば、今の
その無数の腕から繰り出される拳は、一撃だけでも常人の膂力を遥かに上回り簡単に肉を叩き潰してしまう。
それが何十発と全身に叩き付けられる度に、ライザの豊満で色香漂う肉体は赤黒い肉塊へと変貌していた。
「あ…ア…ライザ…?」
いま目の前に映っている赤い液体と肉片は、本当にあのライザリン=シュタウトの物なのだろうか?そう勘繰る程に、異質極まる光景が瞳に映っていたのである。
だが赤い水溜りのシチューはライザで間違いないのだ。彼女の持ち物であったはずの杖が、こうして転がっていたのだから。
―― ライザリン=シュタウト、死亡 ――
程無くして彼女の遺体は、塵のように消え行き後には何も残っていない。それは剣の乙女との時と同様に、最寄りの祝福で復活しいている事を意味している。
この狭間の地では彼女達も『褪せ人』として認識されているのか、黄金律の恩恵により基本的には不死の身体に変質していた。
この様な死に方をしたという事は、復活しているという事でもある。
そういう意味では悲しむ必要など時間の無駄だが、ライザの死を目の当たりにした
「――GYOOEAaaaッ…!?」
途端に『王族の幽鬼』が苦しみだし、地面をのた打ち回る。
「……死ね」
だが彼は、そのまま王族の幽鬼が消滅するまで回復の奇跡を発現させ続けた。
とはいえ、こうしている間にも巨大ザリガニや幽鬼の従者による横槍は続き、戦況は悪化の一途を辿っている。
「雑魚どもは任せろっ!…ぬぅん、竜巻旋風ラリアットぉッ…!!」
アレキサンダーが率先し、包囲している幽鬼の従者の集団へと突撃した。長い両腕を振り回し壺の身体を連続回転させたラリアットで敵集団を蹴散らしていた。
「あのザリガニは、俺が対処する!本命は任せたぞッ!」
加えてソラールも戦線を離れ、巨大ザリガニの方へと馬を走らせた。
大質量を誇るスマグラの高速急降下と魔力を含んだ緑の火炎ブレスの脅威は続き、彼等は尚も苦戦を強いられていた。
「――いかん…アレを落とさん事には話にならぬ…!」
とうとう戦技『エオヒドの剣舞』までをも動員したジークバルド。しかし予想以上の高度と飛翔速度を誇るスマグラに、致命傷を負わすまでには至っていない。
掠った程度で体幹の崩れる竜種ではなかった。
ジークバルドは、奥の手として温存しておいた『嵐の乱戦撃』も視野に入れながら、何とか食い下がっている。
とにかく生半可な攻撃では、スマグラを墜とす事は出来ないのだ。
こうも飛翔を続けられ、空中からブレスによる絨毯爆撃に晒されれば一溜りもない。
いくら英雄級の実力を誇る彼等が揃い踏みしたとて、所詮は人間であり常に空を飛べる生物ではない。
このまま戦況が悪化し続ければ、一度撤退し作戦を練り直す必要にも迫られる。
だが輝石の鍵を所持した遺体は、あのマルギットに姿を変えている。万が一逃げられでもしたら、その時点で彼等の計画は頓挫し、四方世界の帰還も不可能になる最悪の状況すら考えねばならなくなる。
それは何としてでも避けねばならなかった。
――いっそ、ストームルーラに灰剣士殿を乗せ『エオヒドの剣舞』で飛ばしてみるか?…いや駄目だ…人の体重が乗れば、とてもではないが制御など…。
こうなれば誰かを無理やり、スマグラかマルギットの下に運ぶしかない。
そう思案したジークバルドは、エオヒドの剣舞で人を送り届ける事を画策する。だが直ぐに、その考えは失敗すると判断した。
エオヒドの剣舞は、武器そのものに
しかも鈍い飛翔速度では、スマグラの飛翔速度を捉える事は先ず不可能でもある。
――やはり、例の戦技で打ち落とすのが上策か…!
ジークバルドは『エオヒドの剣舞』を一旦止め、真ストームルーラーを手元へと戻した。
だが、
「灰人さん、僕の背中に乗って下さい…!僕が何とか、スマグラへと送り届けます…!」
「…覚悟が要るぞ…!」
「分かってます…!もう犠牲者も出ている、このままではジリ貧になるばかり…!力が残っている今の内に動かないと…!」
確かに試す価値はあるが、それは
しかし迷っている暇はなさそうだ。
このまま手を拱いていても、スマグラとマルギットのタッグに追い詰められ徐々に疲弊するのは目に見えていた。
ならば少しでも余力が残っている内に、手を打つ必要があると判断したのだ。
「都合のいい事に、向こうは僕を狙っているようですよ…!」
何度も急降下や風圧で彼等に牽制を仕掛けるスマグラと、騎乗しているマルギットの短剣投射攻撃――。今度もブレス攻撃へと移行し、飛行速度を落としながら
次なる標的は、彼で間違いない。的がデカい分、目立っていたのだろう。
「勝負は一瞬、決めるしかないな…!」
「まだだ…もっと引き付けないと…!」
スマグラは口部より緑色の火を零し、ゆっくりと低速で近付いて来る。それに対し、
だができるだけ引き付け、彼は跳躍の機を図っている。
「来い、もっと近付いて来い…、僕を焼き尽くしてみろ…!」
もう直ぐブレスの射程圏内に入り、彼はギリギリまで踏み止まった。
「――今だッ!」
スマグラから2度目のブレスが噴射された。
湖面広域へと扇状に拡散する、魔力を帯びた緑色の火炎ブレス。
今回も長い噴射なのか隙は比較的大きい。躱してさえしまえば、意外と隙を幾らでも突けそうだ。
迫り来るスマグラのブレスを、全力跳躍で空中高く飛翔し躱した
接ぎ木形態と化した彼の脚力も異常を誇り、尋常ならざる跳躍力でスマグラへと距離を詰める。
意表を突かれたスマグラだが、彼等の接近に気付いたマルギットが短剣投射で迎撃を試みた。
その何発かは、
「――灰人さん、行って下さいっ!ぬぉおりゃぁアッ…!」
「恩に着るぞ、ハリっ…!」
そして透かさず背に乗っている彼を掴み取り、マルギット目掛けて放り投げた。彼も礼の言葉を掛け、マルギットへと飛翔する。
「性懲りもなくッ!」
再びマルギットは短剣投射で彼を撃ち落とそうとするが、彼は中盾でこれを防御し凌いだ。
「――マルギットぉッ…!」
そのまま剣を振り上げ、スマグラの頭頂部へと着地しながら剣を垂直へと突き刺す。
それと同時にマルギットの長い杖が、彼の頭部を打ち据えたが彼を落下させるには至らなかった。
彼はスマグラの頭頂部へと剣を突き刺した事で、それを軸とし体幹を支えていたからだ。
頭部にマルギットの杖が打ち据えられ、その衝撃で騎士兜が外れ、金髪碧眼の褪せ人としての素顔が露わとなる。だが彼も彼で、手を離さず必死に剣へとしがみ付き踏ん張っていた。
またせめてもの反撃とばかりに、祈祷『火投げ』でマルギットへと火球を放ち応戦していた。
だが、後方からの悲鳴が彼の耳を打つ。
「――うぐィヤァぁああぁッ…!?」
なんと
意図せぬ所で
「――ハリぃッ…!?」
「――僕に構わず目的をぉ…ぐぅぁあぁぁッ…!?」
思わず噛み付かれた彼に目を向ける
「愚かな男よ、貴様の分不相応なる野心が隣人を喪失させるのだ…!」
二人の行動を嘲るマルギットは、手に黄金の戦鎚を出現させ力づくで彼をスマグラから叩き落そうとしていた。
この戦鎚の威力は凄まじいの一言で、真面に食らえば剣の支えなど問答無用で吹き飛ばされてしまうだろう。
「――いぐぃぃォォおおぁぁアッ…!!」
こうしている間にも、
「僕の右手がぁ…まだぁ…残っているぞぉォっ…!」
竜種の咬筋力は尋常ならざる膂力を発揮し、強靭な筈の接ぎ木形態をいとも容易く噛み砕いてゆく。
しかし彼も黙って受け入れる気はなく、魔力が籠もる右腕だけはスマグラの牙から逃れていた。
もはや風前の灯となっていた
「接ぎ木の貴公子の意地を見せてやる…!――輝石の原初たる大いなる源流よ…!偉大なる始まりの源流魔術師アズールよ、そして四方世界を観測する神々たちよ、我が覚悟と最大呪文をご・照・覧・あ・れ・い・ッ!!」
彼の右手には全魔力が集約され、同時に噛み付いていたスマグラの喉奥からも緑色の火が漏れ出ていた。
だが一瞬早く、スマグラのブレスが噴射された。
「――ぎゅぅォォぁああッ…、彗星アズールぁッ…!!」
噛み砕かれゼロ距離ブレスに晒されながらも、彼は渾身の力を振り絞り『彗星アズール』をゼロ距離で放った。スマグラの顔面に向け――。
だが最後まで照射される前に、彼の身体は燃え尽き炭クズの様に消失する。
―― 輝石の貴公子、死亡 ――
しかし彼は確かに彗星アズールを放ち、スマグラの顔面にぶつけていた。最大出力に到達する前に彼は消滅してしまったが、スマグラの顔面は歪に変質し完全に飛行バランスを失っていた。
「――死ぬがいい、褪せ人よ…!」
そしてスマグラの頭部では、騎乗していた褪せ人に対しマルギットが戦鎚を振り下ろそうとしていた。
「これに見覚えはないか、マルギットよ?」
「――ぬッ…それはッ…!」
だが
「忌み鬼風情がぁ…、不遜であろう…?、…地に伏せよぉッ…!!」
「――ウッ…うごぉぁぁッ…!?」
彼が使用したのは、『マルギットの拘束具』である。
以前リエーニエの然る場所で、『フーテンのパッチ』から安値で引き取った代物だった。もう使わないと踏んでいたが、まさかこの様な状況で活用できるとは。
(本編前夜編 第143話参照)
――パッチの奴…まさかな…。
一瞬パッチの姿が脳裏を過ったが、彼は過ぎに思い止め戦いに集中する。
「――ぐぅぉおぁあぁぁッ…!」
マルギットの拘束具の魔力が作用し、揺るぎない巨躯を誇るマルギットは瞬時に体幹を崩し、スマグラから落下を始めた。
「――逃がすかよッ…!!」
自由落下を始めたマルギットを逃がすまいと、彼も瞬時にスマグラから跳び降り手には別の剣を出現させる。
そのまま自由落下に身を任せながら剣を突き立てんと、マルギットの頭部へと狙いを定めた。
「――うぉおりゃぁあぁッ…!」
「――ぐふぅアッ…!?」
背から真面に地面へと落下し、その衝撃と同時に額には彼の剣が突き立てられた。
「……!」
彼は尚も力を弱める事なく、マルギットの額に突き刺さる剣を握り押し込む。
このマルギット、遺体に乗り移る幻影体でありながら尚も桁違いの耐久力を発揮し、尚も絶命してはいなかった。
だがマルギットの表情は意外にも驚きに彩られ、
「……長兄……ぐはッ…!」
「――ッ!?」
そして何やら信じられない台詞を残し、そのまま絶命した彼は光の粒を残し消え去った。
――…どういう意味だ、今の言葉…?…いや、まだ終わっていない、スマグラはッ…!?
マルギットの残した言葉、どうにも頭に残る言葉だった。
だがまだ、戦闘は終わっていない。
未だ輝石竜スマグラのソウルは健在だ。
彼は意識を現実に引き戻し、スマグラへと視界を向けた。
スマグラの顔面は原形と留めておらず、落下している最中であった。
そして落下予測地点には、金剛石の騎士が戦技『グレートカーリア』で待ち構えていた。
「卿らの犠牲…無駄にはせんぞッ…、戦技、グレートカーリアっ!!」
半ば急降下気味に落下するスマグラ。
そのスマグラ目掛け、最大まで溜めた『グレートカーリア』を一気に大上段から振り下ろす。
巨大化された魔力の刀身が、輝石竜スマグラの身体を一刀両断――。
真っ二つとなった輝石竜『スマグラ』は奇妙な絶叫を上げながら、程無くして粒となり死体も残さず消失する。
あとに残っていたのは、絶命しながらも脈動する『竜の心臓』だけだった。
―― GREAT ENEMY FELLED(強敵討伐セリ) ――
……
(推奨BGM エルデンリング ―― リエーニエ)
戦闘を終えた彼等は、最寄りの祝福でライザ達と合流する。
やはり不死の身体と化しており、彼女たちは祝福にて蘇生を果たしていた。
「卿らが犠牲となった時、本当に肝を冷やしたぞ」
「申し訳ありません、ロード。私ともあろう者が」
「気にし過ぎてはならん。戦場とはこういうものなのだ、何処の世界でもな」
まさかの唐突なる仲間の死に、金剛石の騎士は今になり動揺を覚えていた。
剣の乙女も死に際した事を謝罪するが、実は彼女自身も余り覚えていなかった。
何せ、後頭部を認識距離外から狙撃されるいう体験をしたのだ。しかも超水圧の水鉄砲という、普通では、あまり体験しない攻撃方法で彼女は即死していた。
故に痛みすら感じる事なく、彼女は最寄りの祝福で目を覚ましていたのである。
「ライザ…大丈夫か?もし厳しいようなら――」
「――待って灰君!大丈夫…!分かってるから…、大丈夫…!」
「そうか…。なら本当に厳しくなったら言ってくれ。できるだけ対応する」
「うん、有難う」
だが彼女、ライザリン=シュタウトはそうはいかない。
彼女は王族の幽鬼からの奇襲で、強毒液を浴びせられた上に圧し掛かられ、文字通り肉塊と化すまで
毒性の影響で意識は朦朧としていたが、あの激痛の感触は今も身体に残っていた。
せめてもの救いは、彼女がごく短時間で死に至ったという点だろうか。そのお陰で、人格崩壊を起こす事なく死ねたのは幸いとも言えた。
あの体験の所為で、ライザの心は折れていないだろうか?
だが皆まで言い切る前にライザは手で言葉を遮り、このまま活動継続の意思を示した。
どの様な理由であれ好奇心で、この狭間の地に降り立ったのだ。
これ程の魔境とは想定外だが、これで心折れるようであれば、この先他の冒険も厳しいだろう。
まだ恐怖心は残っていたが、彼女は何とか勇気を振り絞りこのまま旅を続ける事を決意する。
「それよりも灰人さん、例の『輝石の鍵』は手に入れたのですか?」
「ああ、貴公のお陰でな」
「卿の犠牲のお陰で、あの輝石竜とやらも討伐できた。卿の勇気は称されて然るべき…!もちろん、他の者たちも見事な働きぶりであった…!」
最も過酷な最期を迎えたのは、この輝石の貴公子だろう。あの時は接ぎ木形態とはいえ、スマグラに噛み砕かれゼロ距離ブレスで燃やし尽くされたのだ。
その苦痛たるや想像を絶する筈だ。だが彼は最後まで全力で抗い、彗星アズールでの反撃を見舞った。
彼の一撃が決め手となり、スマグラは落下。
最後は金剛石の騎士が、グレートカーリアで止めを刺し戦いに勝利できたのだ。
その時にはソラールやアレキサンダーの活躍で、巨大ザリガニを始めとした敵をも全滅させる事に成功。
戦いが終わった後、アレキサンダーは『俺は一足先にケイリッドへと戻る』と言い残し、そのまま
再び彼とは別れる形となった。
そして目的の品である『輝石の鍵』も入手が叶い、これを『ラニ』の元へ届ければ何らかの処置を施してくれるとの事だ。
現時点では、この輝石の鍵を使用したとて一人しかレアルカリアに侵入する事しか出来ない。何とか全員で挑む事が望ましかった。
「皆、スリーシスターズへ戻ろうか。後は、この鍵を渡すだけだ」
「そう言えばさ、何か錬金術士が新しく来るんだって?どんな人だろうね?」
「まぁ会えば分かるであろうさ」
何とか目的は達成できた。
その際ライザは、新しい錬金術師がラニの下に訪れるらしき事に言及する。
思い返してみれば、確かにその様な事を述べていた気がしていた。
だがジークバルドは『会えば分かる』とだけ言い、一行は転移でスリーシスターズへと事にした。
――マルギットの言葉…どういう意味だ…?
散り際、言い残していたマルギットの捨て台詞――。
何度も意識の外へと追いやろうとしていたが、どうにも気になってしまう。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
エクリプスジャベリン
クーケンのライザが使用する攻撃魔法。
魔力の槍は金色に彩られ、敵に刺傷を負わせ高威力を誇る。
砕けたエルデの残滓は、時空をも越え彼女に届いたのだろう。
忌み鬼マルギットと輝石竜スマグラのタッグという、少々オリジナル展開を加えました。もう少し、戦闘描写を細かく描写しても良かったかなと、書き終えてから思い始めています。
スマグラのブレスをプロテクション一枚で完全遮断した剣の乙女の実力。駆け出し冒険者のプロテクションなら、数秒耐えるのが関の山です。これが金等級冒険者の力量。
だが、剣の乙女のプロテクションを幾重にも重ねようと、それを容易くぶち抜いたダークゴブリンの魔力とは一体…。
如何だったでしょうか?
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
デハマタ。( ゚∀゚)/