ゴブリンスレイヤー ―灰の剣士―   作:カズヨシ0509

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 またまた投稿します。

不安定な気候で体調の崩し易い時期みたいです。

皆様も体調には気を使って下さい。

しかしちょっと油断して書いていると、文字があっという間に1万文字を突破してしまいました。

これでも短く纏めたつもりなのですが、やはり小説は奥が深い。( ̄ω ̄;)


第16話―激戦!ロスリックの高壁!―

 

 

 遠方の辺境から高壁に挑んだのだろうか。

 

 

 

 

 

ロスリックに無謀な挑戦者達が絶えない。

 

だが、彼らは知る由もない。

 

想像を絶する、火継ぎの時代の恐ろしさを。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 灰色の巨大なドラゴン。

 

そして、二つの通路に立ち塞がる亡者達。

 

ドラゴンのブレスを掻い潜り走り抜ける為には、亡者達を倒す必要がある。

 

灰以外の冒険者達は踏み止まり躊躇するが、それは杞憂に終わった。

 

地を割らんばかりのドラゴンの咆哮が、通路全体に振動を響かせる。

 

その咆哮に全員が耳を塞ぐ中、突如ドラゴンの口から炎のブレスが撒き散らされた。

 

単純に炎と言うには生易し過ぎる、鋼鉄の甲冑諸共焼き尽くし、獲物を消し灰にするブレスは、業火と呼ぶに相応しいだろう。

 

尋常ならざる熱と範囲を伴って吐き出されたブレスは、通路上の亡者全てを跡形も無く焼き尽くし、塵一つ残さず一掃してしまった。

 

報告に聴いていたが、実際目の当たりにした業火の洗礼は、想像を絶し重戦士達の足は竦んだ。

 

「本当に行くのかよ?まともに浴びれば欠片も残らねぇぜ……」

 

 重戦士は顔を顰(しか)め、たじろぐ。

 

直接浴びないにしても、ブレスの熱波が此処まで到達しているのだ。

 

防具越しでも充分熱い、尻込みして当然だろう。

 

「残念だが此処で立ち往生しても、事態は好転しない。覚悟を決めるんだ」

 

 火の無い灰は、悠然と階段を上る。

 

自ら囮となりドラゴンのブレスを引き付ける為に。

 

「む、無茶です!お一人でなんて!」

 

 突如、圃人の巫術士が灰を呼び止めた。

 

「せめて……、せめて、私にも囮役をやらせて下さい!」

 

 灰は怪訝な顔で巫術士に目を向けた、よく見ると彼女の目尻には涙が滲んでいた。

 

「私だけ……、私だけ、何にもしてない……、何も出来てない!他の人達が傷ついて、頑張っているのに……、一日一回しか魔法を使えない私だけ……」

 

 圃人の少女は涙ぐみ、今にも泣き出しそうな声で懇願した。

 

せめて何の役にも立っていない自分に囮をやらせて欲しい、と。

 

女騎士を始めとした女性人がそんな事は無いと励ますが、彼女は涙を浮かべ俯いている。

 

灰は上りかけた階段を下り、少女へ近付き膝を折り同じ目線に合わせた。

 

そして……。

 

「……それは断じて違う。魔法だけが君の取り柄じゃない。君に出来る事、やって欲しい事、幾らでもある」

 

 道具の管理や手入れ。

 

応急処置の手伝い。

 

野営の準備。

 

仲間の体調や疲労の状況把握。

 

他にも成せる事数多。

 

 

 

少女は灰を見た。

 

フードで隠れている為、口元しか見えないが灰は微笑んでいた。

 

「私に、やって欲しい事……ですか?」

 

 少女は戸惑いながらも灰の言葉に、僅かな期待を寄せた。

 

「早速だが、頼まれてくれるか?」

 

 そう言った灰は、徐にポーチを腰から外し彼女に手渡した。

 

「預かっておいてほしい、この先も激しい戦闘が続くだろう。信頼出来る者に道具を預ける事が出来れば心置きなく戦える」

 

 頼んだ――と、剣と盾以外の道具を彼女に預け、再び階段を上る灰。

 

「は、はい!任せて下さい!」

 

 彼女は笑顔で応え、預かったポーチを自分の腰へ括り付けた。

 

初めてまともな仕事を与えられた。

 

会って間もない人だけど、信頼を寄せてくれた。

 

道具を預かると言う単純な役割だが、責任のある役目だ。

 

彼女の心に活力が戻り、持ち場に就く。

 

「さぁ!皆行きますよ!」

 

 彼女は何時でも駆け出せると言わんばかりに張り切る。

 

――やれやれ、俺の立場無くなるだろ?

 

苦笑いを浮かべる重戦士。

 

「ああやって何人口説いて来たんだ?あの男」

 

 女騎士は、表面上は呆れた様な表情で灰を見た。

 

――だが灰のお陰で、あの子が元気を取り戻せた。それだけは事実だ、感謝しないとな。

 

心の中では灰に感謝の念を送っていたが。

 

「ホント、色男ね、彼」

 

 女魔術士も同意し、配置に就く。

 

 

 

「皆準備は良いな!灰の合図と共に一気に駆け抜けるぞ!!」

 

 重戦士の号令で全員の気が引き締まる。

 

準備を確認した灰は階段から身を乗り出し、ドラゴンのブレスを誘発させた。

 

灰の姿を確認したドラゴンは、彼を侵入者と見なしブレスを吐き掛けた。

 

鼓膜を破らんばかりの咆哮と共に、灼熱のブレスが上段の通路を埋め尽くす。

 

「今だ、行けぇ!!」

 

 灰の合図と共に下段の通路を一斉に駆け出す仲間達。

 

「全員、俺に続けぇ――!!」

 

 重戦士を筆頭に、全力疾走で一気に駆け抜けた。

 

その間灰は、階段から身を乗り出しては引き、ブレスを誘い出す。

 

他のメンバー達が階段の踊り場に近付く頃、ドラゴンにある変化の兆しが見られた。

 

…?!

 

何とドラゴンがブレス攻撃を中断し、下段側に視線を移したのである。

 

――不味い!彼等にブレスを?!

 

心底焦る灰。

 

今の状態でブレスをまともに浴びれば、全滅は免れないだろう。

 

――どうする!どうすれば良い?!

 

焦り動転し、有効な対応策が思い付かない。

 

折角自分に命を預け、信頼してくれた仲間達をこんな形で裏切ってしまうのか。

 

歯軋りし覚悟を決めた灰は、ドラゴンに突撃体制を取る。

 

だがドラゴンは、下段にブレスを吐く事無く、再び視線を灰に向け口元を吊り上げた。

 

――このドラゴン、嗤っているのか?

 

ドラゴンの変化に動揺を隠せない灰。

 

火を継ぐ度にロスリックを何周もやり直して来たが、こんな変化を目の当たりにするのは初めての出来事であった。

 

そして天に向かい、一際巨大な咆哮を上げると翼を広げ塔から飛び去ってしまった。

 

ドラゴンの行動の変化に、灰の思考と心が追い付かず呆けてしまい立ち尽くしてしまう。

 

下段の仲間達も同様に、飛び去ったドラゴンを目撃していた。

 

「ひとまず、乗り切った様だぜ」

 

 同期戦士がホッと溜息を吐く。

 

「それにしても迫力あり過ぎでしょ、あのドラゴン」

 

 少年斥侯はドラゴンの飛び去った方角に視線を向けていた。

 

「よし、全員この場で待機。灰の合図を待つ」

 

 階段の踊り場で待機し、灰との合流を待つ仲間達。

 

 

 

何時までも呆けている訳にもいかず、灰は階段を上り切り、ドラゴンの陣取っていた塔の格子扉を開け中に入った。

 

この中は、宝箱に変装したミミックが居る部屋だ。

 

相変わらず部屋は薄暗く視界が悪い。

 

この部屋から直接ロスリック騎士が巡回する通路に通じており、出口の格子扉はこちら側でしか開ける事が出来ない構造になっている。

 

万が一追い詰められても、退路を確保し易くする為の措置であった。

 

出口へ向かうと矢張りというか何と言うか、宝箱が置いてあり良く眼を凝らして見ると鎖の先端が此方を向き、口をゆっくりと開閉させている。

 

ミミックが復活していた。

 

しかしミミックに構っている暇は無く、灰は無視して出口の格子扉を開ける。

 

そして出口を抜けたと同時に、突如両脇から亡者が奇襲を掛けて来た。

 

咄嗟に反応した灰は、バックステップで2体の亡者による奇襲を避け、シミターで亡者の首を一閃で刎ねた。

 

 

 

――亡者の基本行動が変化している。度重なる冒険者の挑戦が原因か、それとも別の理由があるのか。

 

 

 

前の知識は役に立たないかも知れない。

 

たとえ何度もロスリックを踏破したとしても、僅かな油断と誤認が死を招く。

 

火の無い灰と言えども今度のロスリックは、初見と大差がなかった。

 

 

 

――唯一の救いは、亡者の強さが初めて此処を訪れた時の水準だという事か。

 

 

 

火を継いだ所で何度も繰り返しループさせられ、その度に亡者が強く強力になっていく。

 

だが今の亡者の総合力は、一週目の水準だった。

 

「おい!何かあったのか?!」

 

 重戦士達が、異変を察知して駆け付けてくれた。

 

「奇襲を受けたが、問題無い。凌いだ」

 

 心配無いと重戦士達に告げる。

 

皆が安堵する中、ガチャリガチャリと金属を地面に打ち付ける音が聞こえて来る。

 

次の建物の入り口から大柄な人影が出て来た。

 

「……お出でなすったか、例の騎士」

 

 槍使いが、歯と闘争本能を剥き出し槍を構えた。

 

「総員!戦闘態勢!!」

 

 重戦士の合図と共に全員が構えを取る。

 

その大柄な人影は、古びていながらも頑丈な上質の金属鎧を纏い、擦り切れ解(ほつ)れた赤い外套とマントを靡かせ、上質の長剣と中型の金属盾を装備し、ゆっくりと近付いて来る。

 

 

 

――そう、ロスリック騎士である。――

 

 

 

「あれが、噂のロスリックの騎士か。成る程、相手にとって不足は無い!」

 

 女騎士も闘志を剥き出しにして対峙する。

 

「待て!あの騎士だけじゃない!」

 

 同期戦士が異変に気付き、警戒を促す。

 

やって来たのは騎士だけではなかった。

 

ロスリックの騎士に呼応する様に、亡者の兵士達も追従し此方と距離を詰めて来る。

 

そして亡者兵とは明らかに違う、大盾と戦斧を担いだ亡者が一人。

 

「見ろ奴の首の認識票。アイツ、もしかして……?」

 

 その亡者には見覚えがあった。

 

首にぶら下げた青玉等級の認識票。

 

そう、その亡者は冒険者だった者。

 

存命時は、『辺境最有望』と評された青玉等級の一党の一人、大盾戦士だった。

 

「まさか嘗ての冒険者と戦う事になるとはのう、ワシがやる!」

 

 鉱人の斧戦士は、やるせない表情で大盾戦士の前に出た。

 

「俺も加勢するぜ!」

 

 同期戦士も剣を構え前に出る。

 

他のメンバーは、亡者兵を相手取る事にした。

 

 

 

「すまないが、私一人でこの騎士と一騎打ちをさせてくれないか?騎士の誉れなんでな!」

 

 張り切った女騎士は重戦士達に提案する。

 

「……少しだけだぞ。危ないと判断したら直ぐ割って入るからな!」

 

 呆れつつも彼女の提案を受け入れる重戦士。

 

灰は止めようしたが、ああ言う手合いは頑固そうだし、本当に危険なら直ぐ加勢すればいい。

 

そして前触れも無く、戦いの火蓋は切って落とされた。

 

女騎士は、ロスリック騎士の前に一歩踏み出し、名乗りを上げる。

 

「私は、偉大な至高神に仕える自由騎士!貴公に一騎打ちを申し込む!」

 

 盾と剣を交差し、騎士特有の優美な礼で決闘を申し込む女騎士。

 

少しの沈黙が過ぎた。

 

 

 

そしてロスリック騎士も小さな呻き声を上げ、騎士特有の礼で応えた。

 

「おお!応えたぞ!」

 

 槍使いや重戦士は、若干驚いた様だ。

 

声には出さなかったが、灰も同様だった。

 

視界に入ったが最後、此方が死ぬまで執拗に攻撃を仕掛けて来たロスリック騎士が、礼で応えたのだから。

 

何度周回してもこんな事は只の一度も無かった。

 

「受けて頂き感謝する」

 

 女騎士は、一歩距離を置き構えを取る。

 

 

 

「参る!」

 

 短い叫びと共に距離を詰め、剣を振り下ろす。

 

白磁とは言え、彼女は騎士の身分。

 

装備している剣は上質のロングソードだ。

 

その剣をロスリック騎士は、長剣で打ち払う。

 

「まだまだ!」

 

 女騎士は、連続で剣を振るう。

 

右袈裟から切り替えし左袈裟、返す刃で横薙ぎ2連、そして大上段からの打ち下ろしを加えた怒涛の5連撃!

 

だがそれらの連撃を難無く長剣で受け、払い、流し、裁かれた。

 

「――?!…馬鹿な!」

 

 女騎士の渾身の連撃をいとも容易く捌かれ、驚愕する。

 

だがその僅かな隙を狙い、ロスリック騎士が反撃に転じた。

 

1撃!2撃!3撃!と速く重い連撃が彼女を襲う。

 

辛うじて剣で受け流すが、一撃の剣圧が桁違いだった。

 

刃を合わせるだけで腕が痺れ、3連撃目には耐え切れず剣が弾かれてしまった。

 

だが敵の猛攻は止む事無く、剣を弾かれ生じた隙を見逃さず敵は剣をを突き出す。

 

彼女は、辛うじて盾で防御に成功するが、その衝撃をまともに受け止めてしまい後方に吹き飛ばされてしまう。

 

ロスリック騎士は更に駆け寄り、止めを刺そうと倒れた女騎士目掛けて長剣を振り下ろす。

 

だがその剣は彼女に届く事は無く、重戦士の大剣によって受け止められた。

 

「よぉし、ここまでだ。今度は俺が相手だ!」

 

 ロスリック騎士を押し返す、重戦士。

 

そしてロスリック騎士は盾を背中に仕舞い、長剣を両手に持ち替えた。

 

「何だ、俺の土俵で戦ってくれるってか?だが……」

 

 重戦士も大剣を構え直し。

 

「新人をナメてんじゃ――」

 

 渾身の力を込め。

 

「ねぇぞ!!」

 

 全力で叩きつけた。

 

だがその渾身の一撃もきっちりと真正面から受け止められ、鍔迫り合いの体制に縺(もつ)れ込む。

 

――くそっ!簡単に受け止めやがった!!

 

両者は力を込め互いに距離を取り、そのまま剣をぶつけ合う。

 

1合2合3合と打ち合い、互いの剣から火花が飛び散るが、6合目辺りから重戦士が体力負けで押され始めた。

 

「どう言うスタミナしてんだ?コイツ!」

 

 ロスリック騎士の連撃は止む事無く、重戦士の体制が崩れる。

 

そして間髪入れず、脇構えに移行し、長剣を横薙ぎに回転切りを仕掛けた。

 

軸足を視点とした回転の遠心力と体重移動で加速された重い一撃は、重戦士のグレートソードの防御毎吹き飛ばし、彼は壁に叩き付けられた。

 

頭から激突したが兜のお陰で、命に別状は無かった。

 

「余所見すんな!騎士さんよぉ!」

 

 直ぐに槍使いが助太刀に入り、槍の連続突きを仕掛ける。

 

ロスリック騎士は剣で的確に捌いていくが、槍使いの速さが勝り一突き胸元にヒットさせた。

 

堅牢な鎧越しだったが、確かな手応えを感じ取る。

 

その証拠にロスリック騎士は、小さな呻き声を上げ胸から僅かに赤黒い血を流していた。

 

「よし!当たりさえすれば勝機はある!」

 

 槍を構え直し、隙を伺う槍使い。

 

対してロスリック騎士は、再び盾を構え突撃体制を取る。

 

そして盾を前面に押し出しながら槍使いに突進した。

 

「そいつは予測済みだ!」

 

 槍使いは横に軽くステップで軸をずらし、素早い突きを返す。

 

だがロスリック騎士はその突きを脇で挟み込み、そのまま突撃を続け、盾によるシールドバッシュをモロに受けてしまい吹き飛ばされた。

 

彼も壁に激突し、全身を強打した。

 

その衝撃で、肺に溜まった酸素が強制的に吐き出される。

 

「カハッ……!!」

 

 直ぐに起き上がる事が出来ず、無防備な状態を曝け出す事になった。

 

ロスリック騎士が止めを刺さんと迫って来た。

 

未だに槍使いは起き上がれない。

 

ロスリック騎士の剣が彼の首元に迫る直前に、火球が飛んで来た。

 

その火球を盾で受け止め、その方角を見やる。

 

そこにはショートソードとシミターを片方ずつ装備した、火の無い灰が佇んでいた。

 

そして無言で構える灰。

 

ロスリック騎士の反応が明らかに変わった。

 

本能で感じ取っているのだ。

 

目の前の男が、こちら側の住人であるという事実に。

 

そして灰に宿る独特のソウルを感じ取る。

 

ロスリック騎士は一際大きな唸り声を上げ、灰に攻撃を仕掛けた。

 

同時に灰も疾走し、敵を迎え撃つ。

 

ロスリック騎士が長剣を真上から振り下ろし、灰は2本の剣を交差させ受け止める。

 

だがロスリック騎士は直ぐに盾で灰を押し出し距離を離す。

 

そして一歩踏み込み、縦横無尽の猛連撃を繰り出した。

 

縦に横に斜めに、何度も何度も剣を灰に打ち込む。

 

しかし灰も負けておらず、その猛攻を全て剣で捌いていく。

 

袈裟切り、振り下ろし、逆袈裟切り、打ち上げ、突き、ありとあらゆる方角から攻撃が飛んで来るが受け流し、弾き、凌いでゆく。

 

猛連撃の僅かな隙を灰は逃さず、反撃に転じていく。

 

1合2合3合と打ち合い。

 

4合5合6合と刃が激突し。

 

10合20合と剣戟が続いていく。

 

剣と剣のぶつかり合う音が何度も火花を散らし、ロスリックに木霊する。

 

だがいつまでも連撃は続かず、ロスリック騎士は突きを叩き込む。

 

それを呼応するかのように灰は、シミターでその突きをパリィで弾き飛ばす。

 

敵の剣が弾かれ無防備な隙を曝け出す。

 

灰はその隙を突きショートソードで相手の首を突き刺し、剣を離した後その手に炎を宿す。

 

呪術の火、『浄化』。

 

相手の内部で火を発火させ燃やし尽くす、強力な術である。

 

嘗て最初の火の炉で、進入された闇の王に対して使った様に、敵の顔面を掴みその内部で火を発火させ燃やし尽くした。

 

「グオォォォ……」

 

 断末魔の悲鳴を上げ、ロスリックの騎士は絶命した。

 

 

 

ロスリック騎士との戦闘中、やや後方では亡者兵と亡者化した大盾戦士との戦闘が繰り広げられていた。

 

鉱人の斧戦士と大盾戦士の武器が搗(か)ち合い、その衝撃で互いの刃が欠ける。

 

鉱人の斧戦士は両手持ちだが、大盾戦士は方手持ちで押し出し始めた。

 

「なんちゅう力じゃ!鉱人のワシが押されるとは!」

 

 大盾戦士は只人だが、亡者化した事により自らの肉体の限界を省みる事無く、全力を振るっていた。

 

そして斧戦士を弾き飛ばす。

 

だが、その隙を狙い半森人の軽戦士と同期戦士が左右から挟み撃ちにした。

 

軽戦士の剣は大盾で防御されたが、同期戦士の剣はがら空きの頭部を切り裂いた。

 

「ガアァァァッ――!!」

 

 絶叫を上げながら、よろめく大盾戦士。

 

「斧戦士!止めを!」

 

「悪く思わんでくれ!」

 

 斧戦士が飛び起き、大盾戦士の頭部に渾身の力を込め戦斧を叩き込んだ。

 

生前は端正だった顔も今では干乾び、原形を留めず粉砕された大盾戦士は倒れ込み完全に活動を停止した。

 

その頃、ロスリック騎士も倒されていた。

 

残るは、亡者兵のみ。

 

ある程度接近戦も可能な、禿頭の僧侶が亡者を相手取る。

 

槍付きの錫杖を亡者の頭部に突き入れ、仰け反った隙に半森人の野伏が矢で打ち抜き一体を倒す。

 

残った3体が一斉に後衛の女魔術師や少年斥侯達に襲い掛かるが、禿頭僧侶が錫杖で攻撃を受け止め接近を阻む。

 

「今の内に攻撃魔法を!」

 

僧侶が魔術師に援護を要請した。

 

「心得たわ。…サジタ、ゲルタ、ラディウス…!」

 

 女魔術師が詠唱を終えると同時に、杖先から輝く光弾が放たれた。

 

彼女が行使したのは、《マジックミサイル》。

 

純粋な魔力で生成された、魔力弾は命中率に優れる。

 

また術者の力量によって射出数や威力、命中にも大きく影響が出る汎用性の高い攻撃魔法だ。

 

放たれた3発の魔力弾は亡者を穿ち、3体を薙ぎ倒した。

 

「やった全て倒した!」

 

 魔術師の後ろに居た少年斥侯が喝采を挙げる。

 

「――?!危なぁい!!」

 

 突如、巫術士が倒れた亡者の腕に飛び付いた。

 

倒れた筈の亡者は起き上がろうとし、武器を持った腕にしがみ付いた巫術士の少女を振り解こうとする。

 

「だ、誰かぁ!早く止めを!」

 

 圃人で小柄な彼女は体重が非常に軽く、亡者は彼女毎振り回そうとした。

 

「うおぉぉぉ!!」

 

 刹那、少年斥侯が亡者に飛び掛り、手にした短剣で頭を深く突き刺した。

 

亡者は断末魔の悲鳴を上げ、今度こそ倒された。

 

突き刺した短剣を抜かないまま、息を荒くする斥侯。

 

斥侯の肩に手が置かれた。

 

「よくやったな。戦闘終了だ」

 

 肩に手を置いたのは、重戦士だった。

 

斥侯は辺りを見廻す。

 

周囲の敵は全て倒れ伏し、戦いは終わっていた。

 

皆息を荒くし、傷ついていたが犠牲者は誰一人居なかった。

 

 

 

 

 

 ロスリックの騎士と周囲の亡者を退けた後、哂いながら2足歩行するミミックや木箱に隠れた亡者の暗殺者を凌ぎながらも、塔の屋上に出た一行。

 

そこは、嘗て篝火が在った場所だった。

 

周囲に敵は存在しておらず、一行は消耗を癒す為暫し休止を挟む事にした。

 

屋上の中央に焚き火を起こし、無造作に並べってあった木箱や樽などを机や椅子代わりにする。

 

禿頭の僧侶が、小さな鍋に水と薬草を入れ薬湯を沸かす。

 

皆が其々簡単な携帯食を出し合い、束の間のの休息を楽しんだ。

 

空の太陽は真上に差し掛かっておらず、まだ午前の時間帯だった。

 

少年斥侯や野伏の少女は寝入ってしまい、半数以上が疲れを滲ませている。

 

屋上の端で一人何気無く景色を眺める、火の無い灰。

 

「よう、お疲れだったな」

 

 振り向くと、重戦士と同期戦士が話し掛けて来た。

 

「まぁ飲めよ。ちょっと苦いけどな」

 

 同期戦士が、薬湯を差し出してきた。

 

それを受け取り一口啜る。

 

口に広がる、程良い苦味と香ばしさが気分を落ち着かせた。

 

「フゥ…、確かに少し苦いな」

 

「ハハハ……」

 

 他愛無く談笑する3人。

 

「それにしても、俺たち数人掛かりでも苦戦したあの騎士を実質一人で倒すとは、何者なんだアンタ?」

 

 先ほどの戦いを見て気になったのだろう、重戦士が質問してきた。

 

「それに剣だけじゃねぇ、奇跡や火の魔法まで使えるときたもんだ」

 

 同期戦士も同調した。

 

無理も無い、銅等級の戦士職で互角と言われるロスリック騎士を白磁の新人が、実質一人で倒す。

 

灰にとっては飽きる程に繰り返した戦闘だが、傍から見れば尋常ならざる光景だった。

 

気になって当然だろう。

 

「昔、似た様な辺境を旅していた。そこにはそう言った連中がイヤと言うほど存在していた。呪術の火も奇跡もその旅路の中で培った物だ」

 

 今はそれだけしか言えないと付け加え会話を切り上げた。

 

「そっか、いつか詳しく聞けるといいな」

 

 あまり納得していないが、灰には灰の過去がある。

 

そう深く詮索するのも野暮と言うもの。

 

二人とも、それ以上は詮索しようとしなかった。

 

 

 

「あのミミックには驚いたな」

 

 焚き火に当たっていた槍使いが、誰に対してでもなく独り言ちる。

 

灰が通った部屋の中に宝箱が置いてあった、少年斥侯が自分の出番だと言わんばかりに、灰の警告を無視して開けようとした。

 

その瞬間箱から手足が伸び、斥侯を捕まえ捕食しようとしたが灰が咄嗟に斥侯の襟首を掴み、後ろに放り投げ事無きを得た。

 

そして不気味な笑い声を上げながら、今度は傍に居た圃人の巫術士に蹴りを食らわせ様とする。

 

だが蹴り上げた瞬間長過ぎる足が仇となり、無防備な軸足を灰の目の前に曝け出す事になり、灰の足払いで見事に転倒させられた。

 

その後がら空きの頭部に全員で袋叩きにされ、貪欲な捕食者は憐れな最期を遂げた。

 

「そのミミックに入っていたのがこの斧じゃな」

 

 槍使いの言葉に反応した鉱人の斧戦士が、暗い紫のオーラに包まれた禍々しい斧を取り出した。

 

『深みのバトルアクス』

 

強力な戦斧に、闇の貴石で変質強化された武器である。

 

魔法の武器には違いないが、深淵に近い深みのある魔力を伴った武器は、寧ろ呪われた呪物を彷彿とさせた。

 

「さすがに使う気が起きんわい。売った方がええかもな」

 

 鉱人の斧戦士も使う事を躊躇った。

 

「そしてこれがロスリック騎士の剣か」

 

 女騎士がその長剣を使いこなそうと懸命に素振りを行っていた。

 

「くっ、上手くバランスが取れん……」

 

 体制が不自然に崩れ、型が出来上がる前に失速してしまう。

 

ロスリック騎士の剣は、長い刀身の先端付近に重い金属を使用している為、独特の体重や重心移動が要求される。

 

更に剣全体も重く切れ味衝撃力共に優秀だが、それに見合った筋力や技量を要求されるのが、ロスリック製の武具全体に通づる特徴なのだ。

 

「あの剣、俺も使おうと思っていたが、さすがに駄目だったな」

 

 傍目に見ていた同期戦士もロスリック騎士の剣を使おうとして試したが、まともに使う事が出来なかった。

 

 

 

灰はふと、重戦士の腰に括り付けられている認識票の束を見た。

 

それらはこのロスリックで戦死した冒険者達の物だった。

 

「全部で7つも回収したのか」

 

「ん?…ああ、ちょっと多いわな」

 

 灰が尋ねるとバツが悪そうに返した重戦士。

 

鋼鉄、青玉、翠玉、様々な等級の認識票が並んでいた。

 

灰も重戦士達も先立った冒険者達の認識票を回収した事があったが、精々一つや二つだった。

 

それが途中とは言え7つ、これからも増えていくだろう。

 

「回収される側に成りたくないもんだ、願わくばな」

 

 認識票の束を見た同期戦士も神妙な面持ちで呟く。

 

絶対に生還出来るとは言い切れない、ふとした弾みで全滅する要因はそこら中に孕んでいるのだ。

 

それは何もロスリックだけに限った事ではない。

 

常ならず、明日は我が身である。

 

 

 

それから2時間ほどの休息を得て、一行は探索行を再開した。

 

 

 

休息を終えた一行は、下層に向かい嘗て青玉等級の一党が遭遇した、黒い亡者騎士の居る地下牢に向かっていた。

 

しかし黒い亡者騎士(ダークレイス)の姿は無く徒労に終わる事になる。

 

そして案の定、ダークレイスに倒された青玉等級の二人が亡者化して襲い掛かって来た。

 

斥侯と戦士の二人だったが、生前の顔を売り込む癖が災いし無防備な頭部に武器を叩き込まれ、特に苦戦する事無く倒し切り、彼等の認識票も回収した。

 

メンバーの中に動揺と沈んだ空気が拡がるが、感傷に浸るのはギルドに戻ってからだ。

 

重戦士は皆に檄を飛ばし、探索を再会する。

 

再び昇降機で戻った一行は更に下層に向かい、罪人を収容する地下牢の前に到着した。

 

灰が地下牢を確認するが、鍵は掛かっておらず牢はもぬけの殻だった。

 

だが灰は鉄格子を見つめ、誰にも聞こえない声で一人呟く。

 

 

 

「グレイラット……」

 

 

 

 盗人グレイラットと出会ったのがこの牢屋だった。

 

彼を助けてから協力関係を築き、盗人である特技を生かし実に様々な有用なアイテムを流通してもらった。

 

だがロスリック城の大書庫に盗みに行かせたのが、間違いだった。

 

彼は道中敵の襲撃に遭い、その命を散らした。

 

いや、何度も周回を繰り返しその結末が分かっていながら。

 

――にも拘らずアイテム欲しさの為に結局最後まで盗みに行かせてしまい、その度に彼は死んだ。

 

自分自身が殺したも同然だった。

 

深い自責の念に囚われながらも灰は、牢屋の片隅に輝く物を見付けた。

 

青く輝くそれは、グレイラットが所持していた『青い涙石の指輪』だった。

 

『この指輪をロレッタという年老いた女に渡して欲しいんだ』

 

彼の言葉が思い出される。

 

結局ロレッタという女性は見付からず、不死街で見付けた彼女の遺骨らしき物を彼に手渡した。

 

『そうか、あの女は死んでいたか。まぁ、うすうすそんな事だろうと思っていたよ。……ハハハ……』

 

 彼は何でも無い風を装っていたが、その落胆振りは言葉の調子からも見て取れた。

 

灰はその指輪を回収する事無く、そのままにしておいた。

 

 

 

――せめて、ロレッタと安らかにあれ。

 

 

 

これが贖罪などとは思わない、だがせめて安らかに眠っていてほしい。

 

ジェスチャー、祈り で密かに彼の冥福を祈った。

 

 

 

「目ぼしい物といえば、鎧貫きと火の秘薬や油が詰まった壷だけだったな」

 

 重戦士達は、この牢に来る途中で刺突に向いた短剣、鎧貫きと火薬や油が満載された壷を複数見付けた。

 

本人の強い要望もあって、鎧貫きは少年斥侯の物となり、火薬(この世界では火の秘薬と呼ばれるらしい)は何かと使い道が豊富な為、灰は空いた皮袋に出来るだけ詰めておいた。

 

また火薬は貴重品でもある為、適所に売れば金にもなる。

 

灰以外のメンバーも壷毎火薬と油を回収する者も居た。

 

その後一行は上に戻り、別の出口から外に出た。

 

出口から出た直ぐ傍には、またもドラゴンの朽ちた死体が鎮座し、それを拝む亡者が複数。

 

程無くして壁と梯子をよじ登り、奇襲を掛けて来る2体の亡者。

 

しかし灰が梯子の亡者を難無く倒し、壁から奇襲して来た亡者も女騎士がロスリック騎士の剣で「試し切りだ!」と称して切り伏せた。

 

皆が梯子を下りる前に灰が待機を指示する。

 

そして一人で、屋根伝いに複数の亡者が拝んでいる場所へ近付く。

 

すると中心に居た亡者が突如金切り声を上げ、背中から黒ずんだ巨大な軟体生物を思わせる物を複数生やし、周りの亡者を吹き飛ばし灰目掛けて襲い掛かって来た。

 

亡者に巣食っていた、人の膿が暴走したのである。

 

火が陰った時代、終末に近付いた世界の予兆の一つと言われ、深淵に飲まれた症状の一種とも言われている。

 

だが、この四方世界の火は陰りの予兆どころか、ダークリングすら消し去ってしまうほどの火の強さである。

 

このロスリックの空間限定で、火が陰ったままなのかも知れない。

 

尤も、これらも憶測の域を出ないが。

 

灰は急いで、来た道を引き返し梯子をよじ登る。

 

人の膿を見たメンバー達は驚愕の声を上げた。

 

「おい何なんだ?!あの化け物は!」

 

「うぅ、気持ち悪い……」

 

 同期戦士と半森人の野伏が余りのおぞましさ顔を背けた。

 

人の膿亡者は、梯子の麓でウロウロしながら闇雲に黒く太い触手を振り回す。

 

触手が振り回される度に赤黒い液体が其処彼処に撒き散らされた。

 

「クソっ傍迷惑な野郎だ!何か良い手は無いのか?」

 

 重戦士は歯軋りしている。

 

下手に接近戦を挑めば、圧倒的な質量と運動エネルギーに押し負け、瞬時に肉塊にされてしまうだろう。

 

「手はある。君、私のポーチから火炎壷を出してくれ!」

 

 灰はポーチを預けてある圃人の少女に火炎壷を出すように指示した。

 

「はい、これですね!」

 

 彼女は括り付けていた紐を解き、火炎壷を灰に手渡した。

 

「それは火炎壷だな、火が弱点か!」

 

「そうだ、奴は火が有効だ。この壷を投げたら一斉に攻撃するぞ!」

 

 灰が火炎壷の投擲準備に移り、皆に指示を出す。

 

「それも古文書から引き出した知識か?」

 

 槍使いから突っ込みが入るが、灰は難無く受け流す。

 

「そうだ。そんな事より攻撃準備を整えておくんだ」

 

 灰は、火炎壷を人の膿亡者に投げ付け命中させた。

 

壷が割れ中に詰まっていた火薬と可燃物が燃え移り、亡者を火で包み込む。

 

予想以上に火が効くのだろう、敵は熱さから逃れようともがき耳を劈(つんざ)く金切り声を上げた。

 

その大音量に耳を塞ぐ物も居るが、灰は物ともせずに梯子から飛び降り、落下攻撃を加えた。

 

「全員俺に続けぇ!!」

 

 灰の指示で戦士職が次々に落下の波状攻撃を加えた。

 

感情が昂ぶっていた為、『私』ではなく『俺』の一人称を使っていた灰。

 

いくら人の膿亡者が頑丈でも連続で落下攻撃を受ければひとたまりも無く、呆気なく亡者は絶命した。

 

「ふぅ、弱点が在って良かったですね」

 

「全くだ、剣だけで戦えばどうなっていたか……」

 

 半森人の軽戦士と女騎士は、額に汗を滲ませる。

 

「ん?……これは」

 

 重戦士は、地面に落ちている何かに気付き拾い上げた。

 

「変わった、石ね、何それ?」

 

 女魔術師もそれが気になる様だ。

 

「それは重厚な貴石。武器を変質強化させる事が出来る」

 

 灰はその石を簡単に説明した。

 

 

 

『重厚な貴石』

 

模石が変質したと言われる貴石で、大剣や斧、戦槌などの腕力を必要とする武器と特に相性が良い。

 

武器工房で変質強化してくれるだろう。

 

 

 

「おおっ!そりゃ在り難い。よかったらこの石、俺に譲ってくれないか?」

 

 重戦士は周りに許可を求めた。

 

反対者が出るかと思われたが、それは杞憂で誰も反対する者は居なかった。

 

これも偏(ひとえ)に彼の人望あっての事だろう。

 

人の膿亡者を倒し、屋根伝いに進むと結晶トカゲが倒れていた。

 

恐らく人の膿亡者の攻撃に、不運にも巻き込まれたのだろう。

 

傍らには、楔石の欠片が複数落ちていた。

 

灰は、それらを拾い上げる。

 

「それは何です?さっきの輝石と違う様ですが」

 

 禿頭の僧侶が質問した。

 

 

 

『楔石の欠片』

 

神の原版から剥がれたと言われるそれは、武器に刻み込む事であらゆる武器そのものを強化する事が可能になる。

 

古の時代から流れて来た代物であると言う。

 

「つまり武器そのものを強化する事が出来るのか?」

 

 槍使いにそうだと応える灰。

 

「すまねぇ、幾つか分けてくれねぇか?」

 

「ワシも頼む。そんな珍しい石が在るとは知らなんだ」

 

 槍使いに加え鉱人の斧戦士も欲しがった。

 

鉱人は金属と縁が深い種族だ、やはり民族の血が騒ぐのだろう。

 

合計で六つ落ちていた為、灰は承諾し二人に其々二つずつ欠片を渡した。

 

残り二つは灰が所持した。

 

更に先へ進むと下に続く梯子があり、一行はそこで立ち止まる。

 

下にはクロスボウを装備した亡者が、待ち構えていた為だ。

 

「狙撃出来るか?」

 

 同期戦士が野伏に頼んでみた。

 

「任せて、やってみる!」

 

 彼女は弓を目一杯引き絞り、亡者の頭部に狙いを定める。

 

戦技『強射』。

 

弓を過剰に引き絞る事により、速射性を代償に強力な張力を得た矢を打ち出す。

 

精神を集中させ意を込め矢を放った。

 

鋭い風切り音と共に高速の矢は、寸分違わずクロスボウの亡者に命中し、その頭部を貫いた。

 

一撃で亡者は絶命し、更に下へ落下した。

 

「やったよ!」

 

「ビューティフォ……!」

 

 野伏の少女と同期戦士が喜び合う。

 

取り敢えずの脅威を排除した一行は梯子を下り、建物の入り口で一旦停止した。

 

「この先には、長槍と大盾を装備したロスリック騎士が居る。皆警戒するんだ!」

 

 灰は、全員に警戒を呼び掛ける。

 

「あれがまだ居るのか!勘弁してくれよ……」

 

 同期戦士は気が滅入った様に頭を振る。

 

「まず私が隙を作り長槍を封じる。君達は大盾の防御を崩してくれ。そして君達は、攻撃担当だ」

 

 灰が槍を封じ込み、同期戦士と軽戦士が大盾の防御を崩す、最後はがら空きになったロスリック騎士に重戦士、斧戦士、槍使いで一斉攻撃。

 

周囲の亡者が居た場合は、女騎士が率先して残りのメンバーと共に排除に当たって貰う事にした。

 

――ショートソードはもう限界か……!

 

自分の剣を見た灰は、それが限界を迎えている事に気付いていた。

 

次の戦闘で剣の寿命が尽きるだろう。

 

建物内に入った一行。

 

部屋の中は広く、長大な机や椅子が並べてあり、机の上には様々な食器や家具が置かれていた。

 

だがそれらを物色する暇も無く奥から、長槍を装備したロスリック騎士が、此方に迫って来た。

 

ロスリック騎士は一行を視界に捉えた瞬間に、大盾と長槍を構え突撃して来る。

 

「総員、作戦開始!」

 

 灰の号令と共に皆が作戦通りに動く。

 

灰が真っ先に突進し、ロスリック騎士が槍で迎え撃つ。

 

その槍を灰は、バックラーのパリィで弾き隙を作った後、槍を持った腕と肩の付け根にショートソードを突き刺し、腕にしがみ付く。

 

「今だ!大盾を!」

 

 灰の動きに追従するかの様に、同期戦士と軽戦士が突撃した。

 

「そりゃぁ!」

 

「せいやぁ!」

 

 同期戦士が上段、軽戦士が下段を担当し、剣を大盾の端に引っ掛け、横薙ぎに大盾の防御を崩す。

 

たとえロスリック騎士の膂力が強大でも、戦士職二人係の力を持ってすれば防御を崩す事は不可能ではなかった。

 

二人は大盾と腕にしがみ付き、ロスリックの攻撃と防御手段をほぼ完全に封じた。

 

「ぃよぉし、そこ動くなよ!ロス騎士ぃ!」

 

「一気に決めてやるワイ!」

 

 重戦士と斧戦士が疾走し、ロスリック騎士の頭部と胸部に武器を叩き込んだ。

 

碌な防御体制が取れないロスリック騎士はまともに攻撃を受け、更に無防備な隙を曝け出す。

 

「見せ場は頂くぜ!!」

 

 その隙を見逃さず槍使いが、急所目掛けて致命の一撃を突き込んだ。

 

重い攻撃と鋭い致命攻撃の猛襲にロスリック騎士は成す術も無く、完全に活動を停止し絶命した。

 

数の暴力によって火の無い灰は、数え切れないほどの苦汁を味わって来たが、今度は敵にそれを味わってもらった。

 

どうやら数の暴力は敵にも通用するらしい。

 

 

 

――成る程、ゴブリンが徒党を組むわけだ。

 

ふと思い返す、緑色の悪辣な異形ゴブリン。

 

今頃鎧戦士もどこかで、ゴブリン退治に勤しんでいるのだろう。

 

 

 

「ふぅ、戦術と多人数で掛かればそんなに苦労はしないな」

 

 同期戦士が汗を拭い一息吐く。

 

「ああ、だが強敵には違いねぇ!油断は出来んぞ」

 

 重戦士が倒れた敵を調べ、完全に絶命したのを確かめた。

 

肩に突き刺さったショートソードは根元から折れてしまい、使い物にならなくなった。

 

「俺の槍も硬い甲冑に無理矢理貫いた所為で、穂先が欠けちまった。コイツの槍を失敬させてもらうか」

 

 槍使いの武器も役割を果たせなくなり、ロスリックの長槍を使う事にした。

 

今迄使っていた槍よりも更に長く、重く、鋭く出来ていた、ロスリックの長槍。

 

「ちょっと癖が強いな!だが使いこなしてやるぜ!」

 

 張り切り軽く振り回し、素振りをする槍使い。

 

振り回した長槍が、灰に当たりそうになったのは此処だけの黒歴史である。

 

 

 

 

 

戦いはまだまだ続く。

 

この遺跡には、冒険者達が体験した事も無い様な、様々な敵や事象が待ち構えている。

 

重戦士達は、感覚が完全に麻痺していた。

 

ロスリックの地が混沌の軍勢の頂点、魔人王の居城をも凌ぐ強敵が跳梁跋扈する魔境であると言う事実に。

 

 

 

 

 




 如何だったでしょうか?

ロス騎士はとにかく強敵でした。

初見で成す術もなく殺され、何じゃコリャ?(・o・)

その後篝火を利用しながら、挑み続ける事約10回。

漸く戦い方を覚え倒した時この騎士は唯のmobだという事実。

ちょっと待てよ?!おいっ!( ̄□ ̄;)!!

・・・・・・良い思い出です。

しかしロスリックの高壁だけでも考察する要素が多くて多くて。

極端な話し、アイテムのフレーバーテキストだけでも、話しを丸々一本作れる位の要素が満載していますからね、長くなるのも仕方ないかも知れません。(←ただの言い訳)

それでは失礼致します。

デハマタ。( ゚∀゚)/

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