今年も残すところあと少し、早いものです。
恐らく今年最後の更新となるでしょう。
では投稿致しますドゾ。( ゚ ω ゚ )
学院の輝石鍵(改)
魔術学院レアルカリア
その2つの門を閉ざす封印の鍵。
然る異界の錬金術師の手により、改良が加えられた代物。
それは黄金色に輝き、封印の結界そのものを消失させる効力を持つ。
これで帰還が叶う。
きっと彼だけではない。
学院への帰還を願いながらも、輝石の鍵を持たなかった者たちは――。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
―― アルター高原 ――
(推奨BGM エルデンリング ―― アルター高原)
実に呆気ない、いざ終わりが訪れてみれば大した感動もなく、唯々煤風が撫でゆくだけ。
「こんなのがアタイら一族の末路かい…。味気ないもんだよ、掟に縛られた結果がこれとはね…」
年若い少女――彼女はアルター高原の調香師。
まだ若輩…と言っても、エルデンリングが砕けた後の世代に生を受けている。
時間の流れなど然したる意味はないが、1000年は優に生きていた。
口調は乱暴で粗暴な一面も見られるが、彼女――調香娘は、里の掟には従順で外部の警護という任に誇りを抱いていた。
つい数時間ほど前、妙な褪せ人集団が里近域へと近付いて来たが、警告だけで追い払う事も出来た。
(本編前夜編 第145話参照)
せっかくの貴重な話し相手だったが、彼女は掟を優先し務めを果たしていた。
彼女は後悔などしていない。この調香師に生まれついた境遇に。
しかし今になり、そんなものが如何にちっぽけで滑稽である事が嫌でも思い知らされた。
里の長老たちも、遂に自我崩壊を引き起こし正気を喪失してしまったのだ。
そして前触れもなく調香娘へと殺意をぶつけ、彼女は止む無く抵抗し自身を守り抜いた。
その結果、正気を失った長老たちは物言わぬ遺体と成り果て、水浸しの大地に転がっている。
もう起き上がる事はないだろう。返り討ちにした際、長老たちのルーンが彼女に流れていたからだ。
彼女たちは『褪せ人』ではなく狭間の地の住民で、黄金律から見放された存在――。
むろん、祝福も認識出来ず一度でも死ねば復活する事はない。
「我ながら馬鹿だと思うよ、アタイも。掟を厳守して、結局は全部崩壊しちまった。これなら堕落調香師に身を置いた方がマシだったよ…、まだ自由があったからね」
彼女は今の今まで、アルター高原から出たことは一度たりともない。
厳密に言えば、この里周辺から出ることさえ許されてはいなかった。
この調香娘にとって、里周辺が世界の全てでもあったのだ。
当然、興味はあった。外の世界がどうなっているのか。まだ見知らぬ神秘にも触れてみたかった。
彼女は冒険に憧れていた。
「もういいだろう。アタイ一人、掟もクソもあったもんじゃない。これで調香師の歴史は終わりだ…。何か呆気ないし今更だが、旅ってやつに出てみるかねぇ…」
唯々愚直に掟に従い務めを果たしてきたが、もう彼女以外誰も里には残っていないのだ。
もうここいらで見切りを付けてもいいだろう。何せ、掟を制定する長老も居ない、秩序を謳う統率者も居ない。
今さら真の主たるローデイルの姿なき王『祝福王モーゴット』には何の忠誠も誓ってはいないのだ。
彼女は曲剣の鞘へと手を添え、徐に廃墟と化し久しい里へと帰路に就く。
「…ちょっと欲張り過ぎ…でもないよな。まぁ新しい調香師としての歴史は、アタイの手で刻んでやる。安心して眠りな長老方、そしてサヨナラだ同胞の皆」
旅に必要な生活必需品、調香術に必要な道具類や素材類、その他諸々の物資類などを持ち出し意識内のインベントリへと仕舞い込んだ。
そして別れの言葉を残し、彼女はこの朽ちた里を早々に出る。
今の今まで此処が彼女にとっての唯一の街で憩いの場だ。
未練がないと言えば嘘にはなるが、それよりもまだ見ぬ新天地へと旅立てる期待感の方が勝っていた。
何ともアッサリと別れを告げ、彼女は振り向く事もなく生まれて初めて『旅』に出る。
掟により廃墟周辺を出る事は許されていない――。しかしもう懲罰する者は誰も居ない。
それを理解していながらも、いざ一歩踏み出すのは少しばかりの勇気が要った。
だが一歩踏み出してみれば、何ともアッサリとした軽い足取り。
「もっと早くからこうしとくんだったよ…、あ~あ、時間を無駄にしちまったなぁ…」
拍子抜ける程に味気ない『はじめの一歩』を踏み終え、先ずどこへ行こうかと調香娘は辺りを見回した。
彼女は一度もアルター高原から出た事はないが、未だ見た事もない角度からの景色は何とも未知なる世界を双眸に投影している。
「……」
一応は見慣れていた筈の王都ローデイルの景観。
別の個所から見る都の姿は、少しばかり趣の異なる姿を演出していた。
「感触も全然違うんだね…、草原の上を歩くってのは何かとっても奇妙だよ…」
あの水浸しの湖面と荒れ果てた岩肌の上が、彼女にとっての大地全てであった。
だが褪せたとはいえ未だ色濃い命が残留する黄金の草木の感触は、何とも柔らかく同時に妙な硬さを感じていた。
「これが自由か…」
見慣れた筈のアルタスの花――。
彼女の里でも、この花は調香素材として重宝され栽培されていた。
だが自生した花は、何処かにルーンの違いがみられる。
敢えて手に取る事はせず、ありふれた『アルタスの花』に手を添え物思いに耽る。
暫くの間、そうしていた調香娘――。
ふと遠方より、ルーンの流れを感知した。
「ありゃあ…確かローデイル軍の部隊だよな?おいおい王都防衛ほったらかして何処へ行こうっていうんだ?」
彼女の視界に映ったのは、ローデイル軍の一部隊だ。
規模にすれば精々が一個小隊規模だろうか。
しかし王都防衛を任務とする彼等が、この地域を自由に巡回する事のは何とも珍しい話だ。
やはりエルデンリングが砕け、彼等も正気を失い任務すら忘却してしまったのだろうか?
一応彼女は調香師で、ローデイル軍とは提携関係にもある立場。
気が付けば彼らとの距離も縮まっていたが、襲ってくる様子はない。――と言うよりも無視された感じに近い。
若しかしたら未だ正気を保っている可能性もある。
その証拠に会話が聞こえてきた。
「…ん?ケイリッド…?戦祭り…?何だいそりゃ…?」
ローデイル部隊から届く話声――。耳を傾けてみれば、聞き覚えのある地名を聞く事ができた。
「アイツら正気を保ってるんなら、アタイも付いてって大丈夫そうだな」
自由になったはいいが、特に行くアテも決めていなかった調香娘。
別に同行するという訳ではないが、ローデイル部隊の跡を付けてみるという手もある。
噂程度には聞いていた、ケイリッドと呼ばれる地域――。
赤い腐敗とやらが気になるが、まだ見ぬ地に彼女の心は知らず知らずの内に踊っていた。
「よぅし…決めたぜ…」
さり気無くローデイル部隊の跡を付けた調香娘。
幾人かの兵士は彼女の存在に気付いていたが、特に気にする事なく何の干渉もない。
正気かどうかは少し疑わしいが、敵対していないのなら危険は無いだろう。
不自然に距離さえ詰めなければいいだけだ。
彼女は一定の距離感を保ちながら、ローデイル部隊を尾行し続けた。
……
(推奨BGM エルデンリング ―― リエーニエ)
―― 湖のリエーニエ ――
灰の剣士たちは、スリーシスターズへと帰還しセルブスの塔に訪れていた。
「ほぅ、まさかこれ程の短期間に達成するとは。お前達の評価を改めねばならんかな?」
相変わらず鼻につく台詞を吐きながら、セルブスは二つのアイテムを受け取った。
「確かに受け取った。成程、この琥珀の輝き…、正に追い求めていた星の欠片…。これぞデミゴッドの運命すら動かす、蠱惑的な妖の光だ…」
特に琥珀の星光に魅入り、セルブスは悦に浸っている。
薄気味悪い仮面に隠れ表情など分からないが、その仕草は嫌悪感を抱かせるに充分だ。
「さて?君達は務めを果たし価値を示した。特にそこな少年…、私の下で秘術を学んでみる気はないかね?…無論、他にも教えを乞う者は受け入れようではないか。今日は気分が良い、これほど特別な栄誉は然う然う得られぬよ?」
「願ってもない機会です。是非にとも、教授の下で学ばせて頂きたい。魔術に理に例の秘術…、僕はこの時を待っていました…!」
「それじゃあ、俺も御同伴させて頂こうかな?レアルカリアの知識…、これを逃せば次は無いかもしれんしな」
「宜しければ、この鈍石めも参観させ頂きとうございます。輝石頭も被れぬ低能者ですが、教授の御慈悲に縋りたく存じます」
輝石の貴公子が即答で参加を表明し、オーベックとトープスも続けて傘下の意を告げる。
セルブスは特にこの少年を目をかけており、彼の参加の意を耳にし上機嫌となる。
「君達はいいのかね?私の教えを得る栄誉、次は無いかもしれんのだぞ?」
「あ…え…と、あたしはホラ…あのマイスターさんに教えを請おうかなって――」
「ククク…、あの得体の知れない錬金術師の女かね?ラニに取り入っている様だが、アレは狭間の地をまるで解ってはいない俗物も同然…、精々何かを得る事だ」
「は…はぁ…。(何よ、このおじさん…むっかつくっ…!)」
内心を隠していた積りでいたライザだが、癇に障ったのか憤怒が表情に現れていた。
しかしセルブスは意に介さず、さっそく準備へと移る。
「時が来れば迎えに行く」
そう言い残し、セルブスの塔を後にした灰の剣士たち。
彼の尖塔に残ったのは、輝石の貴公子、オーベック、トープスの3名だ。
魔術教授セルブスが非常に優れた頭脳の持ち主である事は、灰の剣士たちも認めるところだ。
しかし彼から流れるソウルは、実に怪しいの一言で暗く粘り気に塗れていた。
それは輝石の貴公子も感付いており、彼の内情を探る為にも敢えて取り入った。だがセルブスも、彼の思惑に気付いている可能性も捨て切れない。
そこでオーベックとトープスも、セルブスから学びを得るという名目で少年の護衛も兼ね、此処に残る事にしたという訳だ。
彼ら2人が付いていれば、輝石の貴公子の無事も確保できるだろう。
「あんのおじさん、ホント感じ悪いよね…!何かネチッこいって言うかさ――」
セルブスの塔を出て直ぐに、ライザは憤りを露わにした。
「貴公だけではないぞ、此処に居る誰もが同じ心象だ。アレに好感を抱く者など、混沌勢力とて希有であろうよ」
「ああいう手合いは、敵が多いのが実情だ。此処が四方世界なら、アレは相当数の派閥争いに揉まれていたであろうな」
セルブスに嫌悪を抱いていたのはライザだけでなく、此処に居る全員がそうだ。
確かにセルブスは得体も知れず、数多くの知識と秘術にも精通している。それは認めざるを得ない。
だが、ああいった者は実に敵も多く、人の営みが盛んな四方世界なら混沌勢に身を置いても骨肉の争いに明け暮れていた筈なのだ。
「現に我々もアレには敵対しているようなものだ。それ故、ハリはあの場に残った…敢えてな」
後は輝石の貴公子たちに任せるとしよう。
灰の剣士たちはラニの塔へと戻る。
だがラニに会うためではない。用があるのは――。
「やぁ、お帰り。無事に戻って来たようだね。どうだった、アルター高原は?壮観な所だが、危険も多かっただろう?」
ラニの塔下層部では、あのアルケミーのマイスターが錬金術に勤しんでいた。
党内部は狭いものの、彼女の作業には全く影響していない様に見える。
「いや~、ホント大変でしたよ…。ドラゴンには襲われるし、変な格好の女の子には威嚇されるし、金色の兵隊さんに巨大なガーゴイルまで…散々ですよ…」
「ハハハハ…。いい体験になったんじゃないのかい?これも冒険ってやつさ、お嬢ちゃん」
アルター高原での経緯を明かすライザ。彼女の表情は何処か疲れを滲ませていた。
それを飄々と軽く受け流すマイスター。彼女の口振りからすると、アルター高原に立ち寄った経験があるのだろうか。
「マイスター、例の作業だが、確か数日かかるとお聞きした。なら彼女を預かっては頂けないだろうか?」
学院の輝石鍵を改良する術式だが、彼女の話では数日を要すと聞き及んでいる。
かなり長い期間、此処を空けていたような感覚に見舞われていたが、実際は数時間しか経過していないのだ。
ならば、術式を終えるまで多くの時間的猶予がある筈。
そこでライザが希望していた通り、マイスターの下に預ける事を打診した
「ああいいとも。ええっと、ライザリン=シュタウト…でよかったかな?」
「はい、ライザって呼んでください、マイスターさん。宜しくお願いします…!」
こうしてマイスターの下に預ける事となったライザ。
このマイスターという女性も四方世界の住人なら、特に憂慮すべき点はない。
それに同じ錬金術繋がりなら、何かと気も合うだろう。
「ではマイスター、彼女をお願いする」
「任せておけ」
ラニの塔へはライザを残し、彼等は再び外へと出る。
「さて、後は我々だが、どう過ごすのだね?」
塔の外へと出た後、金剛石の騎士は今後の過ごし方について質疑した。
マイスターが『学院の輝石鍵』を改良するまで、数日の時を要す。
しかしそれまでに、何か成すべき事はないのか?
このまま無駄に時間を浪費するのも、非常に味気ないのが本音であった。
「旅人よ、彼女――ランサクス殿より、祈祷書を賜ったのだろう?なら『結びの教会』で祈祷を学ばぬか?」
あの竜槍の騎士ヴァイクとの戦いを経て、ランサクスより託された祈祷書――。
アレを結びの司祭ミリエルに渡し、共に古竜の祈祷を学んではどうか?
ソラールは、その様な提案を示した。
「…そうだな。せっかくの機会だ。この期間を最大限に活用しない手はない。行こうか、結びの教会に」
ソラールの提案に皆は同意し、結びの教会へと向かう事となる。
彼等に古竜の
このまま無為に過ごし、時間を無駄にする事だけは避けたいのだ。
何にも挑まず何も成さず唯々反論と詭弁を謳い、何者にも成れず無為な末路を遂げた者たちは星の数ほど居た。
冒険者ともなれば、それは如実に現れ、どれだけ時が過ぎようとも何も得る物なく道を閉ざした者たち。またそれだけでなく、他者と世界を恨み外道へと堕ちる者達も長い歴史の影で埋もれては消えてゆく。
たとえ狭間の地という異界とて、その理は何一つ変わらないのだ。
時と状況が許す限り、今成せる事を最大限に活かす。
その積み重ねを繰り返し最後まで小さな一歩を踏み出し続けた者だけが、今の実力を備える資格に至っただけなのだ。
そしてそれは尚も代わる事なく、彼等は邁進し続けるだろう。
結びの教会へと転移した灰の剣士たち。
彼等は此処を拠点に、数日間の活動に身を投じた。
……
可能な限り、
すべてを網羅できる程、彼等の器が足りていた訳ではない。
だが脳内に刻み込み、知識として信仰として他者へと伝導する事も出来るだろう。
それに研鑽を重ねれば、何時の日か自在に扱える日とて決して不可能ではないのだ。
一通り学ぶ事を終えた彼等は、リエーニエの未探索区域に足を運ぶ事にした。
まだ坑道や地下墓など、数々のダンジョンには足を踏み入れていなかった。
一筋縄ではいかなかったものの、数々のダンジョンを制覇し珍しいアイテムの入手も叶う。
坑道にて見掛けた、輝石堀りたち。
彼等はレアルカリ学院の落伍者の果てであるという。
旅の合間にトープスから聞いた話では、自由意思で学院を去る選択肢もあったという。だが、彼等は輝石掘りという奴隷に身を落としてまで、学院に留まりたかったのだろうか。
自由意思もなく本能のままに岩盤を掘り続ける姿には、一種の哀しみさえ漂わせていた。
一部の地域で、祖霊の民という種族と遭遇し、狙撃の憂き目に遭う。
桁違いの弾速と精度を誇る弓術だが、運よく『宿し打ち』という戦技を身に着けるに至る。
今後、四方世界でも活かせるだろうか。あの妖精弓手に覚えさせるのはどうだろう?
再度、アルター高原へと舞い戻る。
あの時は、古竜ランサクスやヴァイクとの関係もあり殆ど探索も叶わなかった。
しかし此度は自由も効く分、余裕をもっての探索に勤しむ事ができた。
まだ見ぬ植物類――。アルタスの花、金輪草、黄金のロア、聖血の木の芽、といった各種素材の採取でライザも喜ぶだろう。
やはり未知なる敵が多い。
ミミズ顔なる気味の悪い異形。あの吐しゃ物に触れれば、忽ち死の呪いが蓄積してしまう。だが遠距離よりも、接近戦の方が早期に討伐が出来た。位置関係と数にさえ気を配れば、然程の脅威ではない。
戦力と余力の許す限り、あらゆる地域とダンジョン駆け巡り多くのアイテムを入手できた。
あの調香師の廃墟へと再び向かってみたが、彼女の姿はなく故郷は間抜けの空だった。一体何が起きたのだろうか?痕跡を調べてみたが、詳しい事は分からず仕舞いで終わる。
件の『日陰城』へと向かった。
例の『鈴玉狩りこと鉄茨のエレメール』本人を討つために――。
毒の沼に囲まれている上、あのバジリクスの群れに埋め尽くされ接近さえ容易ではない。
だがあの呪いの煙は驚異の一言だ。一体ずつ弓矢で誘き寄せ、確実に撃破した。
城内も毒沼に浸かり、堕落調香師や王族の幽鬼といった強敵が徘徊し苦戦を強いられた。
それでも犠牲を強いる事無く、王座の間に辿り着き『鉄茨のエレメール』本体の撃破に成功。
これで鈴玉狩りの脅威は去ったと思いきや、然る放浪の商人のボロ小屋にて鈴玉狩りの霊体と遭遇――。
結局、再選を余儀なくされ疑念を抱きつつも討伐が叶う。こういった現象は、あのロスリックでも体験済みだ。
封牢にて『接ぎ木のゴドフロア』というゴドリックによく似た男と遭遇、討伐に成功する。
彼はゴドリックの先代に当たるという事で、戦術や武器も酷似していた。
彼も破砕戦争に参加していたという事なのだろう。
王都ローデイル外郭までの侵入が叶い、ごく一部だが絢爛な都の一端を垣間見る事ができた。
しかし不可解な事に、一部のローデイル部隊がアルター高原から抜け出るという奇行が散見された。
この狭間の地は、大半が正気を失った者ばかりだが、やはり一部は未だ正気を保っていた様だ。
身を潜め会話に聞き耳を立ててみれば、彼等はケイリッドを目指している事を知った。
どうやら例の『戦祭り』の開催も間近であるらしい。
アルター高原は、この位でいいだろう。
ケイリッドへも足を運んでみた。
赤い腐敗という異常現象は、彼等の予想を遥か上回る程に恐ろしい劇毒だ。
ソラールが赤い腐敗に侵され、四肢の先端部から短時間で腐り落ちる症状に見舞われた。
幸いにも『腐敗の苔薬』を所持していたお陰で、症状の緩和も叶い最寄りの祝福にて完治させた。
腐敗の苔薬にも限りがあり、この一件以来『赤い腐敗』には過剰な警戒を抱いた灰の剣士たち。
やはりケイリッドにも『小黄金樹』は存在し、それを目指し各種霊薬の素材を入手した。
赤い腐敗の蔓延する地域だけあり、大半の敵が濃い影響を受けていた。
巨大化した黒い野犬や鳥の怪物、そして赤い腐敗の浸食を食いとめようと全域に火を放ち戦いを続けていたケイリッド軍。
彼等は正気を失いながらも、将軍ラダーンの治める地を懸命に守り抜いている。
火に縁があるのか『赤獅子の炎』や『炎撃』のみならず、重力技の『岩石剣』や『聖なる光輪』の入手も叶う。
戦士職の強いケイリッドだが、意外にも魔術の発達した痕跡も見られた。
既に荒れ果て廃墟と化していたが『魔術街サリア』は、主に『夜の魔法』を中心に栄えていた歴史を持つ。
ケイリッドには『重力魔法』も散見され、嘗て将軍ラダーンが体得した魔法でもあるらしい。
この地でも状況の許す限り探索に明け暮れ、幾つかのアイテムや魔法の入手が叶った。
また『赤獅子城』までの道のりも、下見を兼ね探っておく。
今はやるべき事を優先せねばならず、戦祭りに参加するかどうかは未定だ。
もしレアルカリアに挑み大ルーン入手後、まだ帰還できないようであれば戦祭りに参加する必要も生じるだろう。
今は様子見だけに留めておいた。
だが結局アレキサンダーやブライヴとの再会は叶わず、一通りの探索を終えた彼等はスリーシスターズへ帰還する事にした。
この間、実に数日の時が経過していた。
……
高純度を誇る輝石は、その輝きだけで光源となる。
月光にも似た輝きに満たされた塔内部にて、二人の錬金術士は今日も作業に没頭している。
「それにしても、蒸留器具だけ用いた錬金術…初めての体験でした…!」
然して広くもない作業台には、所狭しと多数の小道具が散らばっている。
ガラス瓶の液体がコポコポと沸騰し、その蒸気が別のガラス瓶へと管を通し送られていた。
その様子を目を細め凝視する、ライザリン=シュタウト。
「はは、そうだろう。釜を使うのは基本中の基本だが、何も煮るだけが錬金術じゃあないのさ」
彼女の隣で別作業に勤しむ眼鏡をかけた黒髪の女性錬金術師。便宜上、アルケミーのマイスターと名乗っている。
この数日間、扱い慣れていた錬金釜などは全く使わず、この抽出器や蒸留器などを使い薬品の調合や分離を実現していた。
釜を混ぜる作業に比べれば幾分は地味だが、これも重要な役割りを占め、この作業でしか成し得ない調合薬も存在するのである。
「そろそろお迎えが来る頃だね。それじゃあ、最後の仕上げに取り掛かろうか?」
「はい、マイスターさん…!」
ここは魔女ラニの尖塔だが、下層部は自由に使って良いと許可が下りている。
ラニの醸し出す空気感は
気が引き締まるのはいいが、これでは息が詰まり否でも神経が張り詰めてしまう。
だが此処に居るマイスターという女性は、掴み所がないながらも常に気さくで冗句混じりの会話を踏まえ、ライザの心には余裕が生まれていた。
そのお陰で円滑に作業も捗り、いよいよ最終段階を迎えようとしていた。
やはりライザには自由で伸び伸びとした空間の方が、自然な形で能力が発揮される傾向が強いようだ。
これは彼女の生活環境によるものが大きいともいえた。
「ではこのカギを、陣の中心部へ――」
「は…はい…!」
マイスターの指示で、ライザは学院の輝石鍵を小さな魔法陣の中心へと置く。
ただ置くだけなのだが、異様に緊張を滲ませていたライザ。
「ではこれより、術式の仕上げを執り行う…!」
「…ゴクリっ…!」
普段砕けた口調で余裕のあるマイスターだが、この瞬間だけは目が据わり真剣な面持ちに変貌した。
「――ヌンッ…!」
両手の指を互い違いに組み合わせた『金剛合掌』と呼ばれる東国式の作法にて、彼女は掌に全魔力を集中させる。
「……」
そのまま彼女は、静かながらも力強く長い呪文を唱え、作業台の上に描かれた小さな魔法陣に光が浮き上がる。
その様な光景をライザは、言葉もなく見守る…いや、魅入られていた。
「――ほぅんんぁアァァ…ッ、オン・バサラ・ヤクシャ・ウン!!」
「――す…ごい…!」
女性とは思えない雄叫びの如き掛け声の前に、ライザは唯々気圧されるしかない。
あの砕けた女性とは思えない全くの別人の如き、今のマイスター。
「…フゥ…フゥ…ハァ……、見てごらん、この鍵を――」
「あ…、凄く光ってる…!」
術式を終えたマイスターは息を切らしながらも、魔法陣の中心に置かれた学院の輝石鍵に注目するよう促した。
ライザの目に映っていたのは、黄金色の輝きを放つ学院の輝石鍵の姿――。
「え…と、これってつまり――」
「ああ勿論、大成功だ…!」
「――ぃやぁったぁアァっ…!」
学院の輝石鍵の改良は無事成功に終わり、ラニの塔に似付かわしくない喜びを撒き散らしたライザ。
実は彼女の喜びの声は、ラニの耳にも届いている。
「…賑やかな娘だ…」
何処となく冷めた言葉ながらも、ラニの表情は綻び口端が微かに上向きの角度を描いていた。
「お?…お
程無くして灰の剣士たちが帰還して来た事を、マイスターは告げる。
「――只今帰還した…!マイスター、ライザ、術式の成果は如何ほどか?」
多方面の探索を終えた灰の剣士たち。
全員無事な姿でラニの塔へと帰還を果たす。
「お帰り~灰君!皆も無事でよかったぁ…!」
「やぁ、お帰り。大変だったんじゃあないのかい?」
彼等に対し、ライザやマイスターも迎えの言葉で労った。
「ねぇ、見て見て…!この鍵を…!」
「お…おおっ…!?…これは…!」
「ほぅ…なんとも神秘の輝き…!」
「まるで黄金の光ですね」
慣れない錬金術にて成功を収めた、学院の輝石鍵の改良術――。その成果が余程嬉しかったのか、ライザは些か
従来の学院の輝石鍵は鈍い青白の光を帯びていたが、生まれ変わった鍵からは黄金色に激しく輝いている。
生まれ変わった鍵に、
「少々時間はかかったが、この通り成功だ。…どうかな、我が錬金術の味は…?」
「御見それした…貴女は正にアルケミーのマイスター。アーランドの錬金団でも、こうはいくかどうか――」
「あ…灰く~ん?ロロナさん達への侮辱ぅ~それ…?」
「まさか…?だがここまで成し遂げる事は、容易ならざる偉業な事ぐらい拙い私でも分かる」
「ハハハ…、そうだろうね。アイツ等では、ちょっと無理がある。ルーン…君達には
マイスターの名に恥じぬ働きに、舌を巻いた
決してロロナたちを侮っている訳ではないのだが、この女性は何処か風格の違いが感じられたのである。
「唯者ではなないと踏んでいたが、女人もソウルを流れを知るか。いやはや、世界は広き事よ」
このマイスターという錬金術師、四方世界の住民には違いないがソウルに関しても深い理解が及んでいる。
またそれだけでなく、聖黄金樹とは異なる手法で狭間の地に赴いているのは明らかだ。
本当に彼女は何者なのだろう。ただの天才で片づけられる水準ではない、アルケミーのマイスターという女性。
彼女に対し異性としての魅力よりも、薄ら寒いものを覚えるソラール。
「ところでライザ。この数日間、何処で休養を取っていた?幾度も迎えに行ったのだが、不在だったぞ」
灰の剣士たちは、探索の傍ら限界を感じた際には結びの教会や円卓にて休養を取っていた。
だがライザたちを放っておく訳にもいかず、彼等は転移を通じ彼女たちを迎えに行っていたのであった。
しかしラニの塔や近辺には、ライザやマイスターの姿は何処にもなく彼等だけで止む無く休養していたのである。
因みに輝石の貴公子たちは数日間、セルブスの塔にて滞在しており何の不便も感じてはいなかった。
「ご…ごめんねぇ、ワザワザ迎えに来てくれてたんだぁ…。そうとは知らず、あたしずっとマイスターさんの拠点で――」
「はて?その様な拠点など見当たらんが…?」
「ああ此処には無いよ、一応は危険地帯だからね。別の異界に設置してあるのさ」
迎えの事実を知らなかったライザ。実は彼女、マイスターと共に専用拠点にて宿泊していたのであった。
しかしそれらしい施設など見当たらない事に疑念を抱いたソラール。
マイスターの活動拠点だが、独立した異界に設けられており外部からの襲撃を遮断していたのである。
荒れ果てた狭間の地とは違い、城館にも似た建物で部屋も豪華の一言――。一通りの宿泊設備も整い、貴族並みの快適で贅沢な空間でライザ達は休んでいたのである。
「そのお屋敷ね、あたし達の他にも色んな人が住んでてね、兵隊さんや騎士さんたちが一杯守ってくれてるから凄く安心できるんだよ…!あ…あと、マイスターさんにちょっと雰囲気が似た眼鏡の女の人も居たなぁ…。何でも知識の探求に情熱的な人でね――」
「ハイハイそこまで…、終わらないからね。良かったら皆さんも…特に大司教様に国王陛下…、貴方たちのような地位ある方々が荒れた生活など見るに堪えませぬ。如何です…?そろそろ風呂などにも浸かりたいでしょう?」
矢継ぎ早に捲し立てるライザ。少々興奮気味なのか、マイスターの活動拠点の屋敷と住民について熱く語る。
だが話足りないのか終わる気配がなく、マイスターが無理やり話を切り上げさせる。
かなり快適な生活環境を提供できるとの事で、同じ女性である剣の乙女や国家元首でもある金剛石の騎士に誘いをかける事にした。
「風呂…そうですわね…、そろそろ…湯に浸かりたいですわ…あの…陛下…灰の方…宜しければ…」
表には出さずとも、剣の乙女も狭間の地での生活には重い負担が圧し掛かっていた様子だ。
風呂という言葉に反応を示し、ここ数日は闘争と過酷な探索ばかりの日々が続いていた事に、少々気も滅入っていたらしい。
彼女は、つい本音を吐露してしまう。
「そうだな…、静養できる環境があるのなら誘いに乗らない手はない。それに麗しき女人のお誘いなら、応じるのも紳士たる騎士の嗜み。私も御同伴させて頂こう、他はどうか?」
この狭間の地では、四方世界のような生活環境など再現出来ようもない。
それは金剛石の騎士とて同じであり、やはりかなりの負担が強いられていた。
彼は冒険好きだが、何れ必ず限界というものは訪れる。
彼も知らず知らずの内に、肉体的にも心象的にも疲労が蓄積しており無自覚ながらに荒れていたのである。
そこで彼も剣の乙女と同様、マイスターの誘いに乗る旨を告げる。
「私は円卓でいい。今は褪せ人なのだ。ならば褪せ人らしく、狭間の地で過ごす事にする」
「ふむ、そうか。なら我々も貴公と共に――」
「いや、二人は、大司教様と国王陛下をお願いする。マイスターの言う世界を疑う訳ではないが、念には念を押してな。…頼めるか?」
「…いいのか?貴公一人にするのも些かな――」
「私は以前、独りで何日も過ごしていたのだぞ?既に慣れ切っている。…それに、ラニとの義理もあるしな。(…メリナとも…な)」
「え~!?灰君、来ないのッ…!?すごくいい所なんだよ!?お空は色んな色に変化するし、温かいし、ご飯もお風呂もあるし話し相手だっているし――」
「今の私は褪せ人だ。褪せ人としての義理を果たす。自分勝手な理由で此処に降り立ったのだ、せめて私だけでも此処に残らねば
「ホント君って、こういう時は分からず屋で堅苦しいよねっ!?もう少し頭を柔らかくしたらッ!?(何回も迎えに来てくれたって知って、すっごい嬉しかったのに…(´・ω・`))」
「…そう思うのなら見限ってくれて構わぬ。これが
「――ッ!そ…そんな言い方ってないでしょ!人がこんなに心配してあげてるってのにッ…!」
「――ヴァイクとランサクスを殺したのは、実質この俺だッ!…身勝手な動機で此処に来たッ!、この地で多くの殺戮に興じた。約定も取り付けた、貴方たちをも巻き込んだ…。…許してほしい…。私だけでも…私だけでも此処に残らねば…――」
「……。…ごめんね。ちょっと言い過ぎた…あたしも…」
もう幾度も繰り返した諍いだが、両者とも感情が昂り荒い口調と化す。
「皆だけでも十分な休養で、万全を期して頂きたい。その上で私を支えて頂けないだろうか?…ああそれと、虫のいい話で恐れ多いのだが――」
「え、なに?何か、あたしに出来る事ある?」
ライザとて、彼と諍いを起こしたい訳ではない。寧ろお互い離れられない程に仲を深めたいという願望さえ抱いていた。
仲違いにも似た状況に転じてしまったが、直ぐに払拭できる機会が訪れてくれた。
彼は何やら頼み事があるらしく、それを耳にした彼女は快く引き受けるべく表情を一変させる。
「果実を味わいたくなった、うんと新鮮で水分の含んだ果実を。それと、紅茶も飲みたいな…頼めないだろうか?」
「うん、分かった…!絶対持って来てあげるから、楽しみにしておいて!」
この狭間の地に降り立ち数日が経過した訳だが、紅茶や果実が恋しくなる
彼の望みを聞いたライザは、必ず叶えると快く引き受ける。
果実や紅茶を望むのなら尚更、マイスターの言う拠点に立ち寄ればいい。
そう言いたいのは山々だが、ライザは敢えて口にせず彼の望みを聞き入れるだけに止める。
多少関係が拗れかけた二人だが、直ぐに修復された。
「長話に付き合わせて申し訳ない、マイスター。…では、彼等を迎えに行こうか?」
「いいさ。それにしても
セルブスの塔に居る彼等3人は、今夜どう過ごすのだろうか?
恐らく今までの流れ通り此処に残る可能性が高いが、様子見も兼ね迎えに行く事に決めた。
時間帯は夕暮れだが、このリエーニエのスリーシスターズは特に霧も濃密で空の色が分かり難い。
夜間が来るまでマイスターは、ラニの塔にて待機してくれている。
あれから数日が経過したのだ。
あの3人も、何かの形で成果を得ているだろう。
灰の剣士たちは、セルブスの塔へと向かった。
……
「ふむ…君は実に、才覚溢れた若者だ。その成果と才能に今こそ報いよう、さぁこの精薬を受け取るがいい」
「おお…!有難う御座います、セルブス教授!この薬は大切に使わせて頂きます…!」
一方セルブスの塔では、輝石の貴公子、オーベック、トープスが彼の教えを受けていた。
中でも彼が目にかけた、輝石の貴公子の才覚は優良の一言――。
気を良くしたセルブスは、飲ませた相手を傀儡化させる『セルブスの精薬』を進呈する。
待ち望んでいた『精薬』を手にした輝石の貴公子は、頭を垂れ恭しい態度で謝意を示した。
「他にもオーベック君に、トープス君。君達も実によく働き、我が魔術に理解を示してくれた。その栄誉、誇ってよいぞ」
オーベックからは、輝石とは系統の異なるソウルの魔術を――。
才覚に乏しいとされていたトープスだが、彼には細々とした雑用に従事させる事で作業の効率化に貢献して貰った。
未知なる領域に触れ、計画の進行も捗り、セルブスは完全に有頂天となり気分が高揚している。
代わりに3人は、セルブスの教えで『カーリアの魔術』や『冷気の魔術』を会得する事が叶う。
「…おや、迎えが来たようだね。では最後の仕上げといこうじゃないか。君は傀儡化の秘術を学んだ訳だが、究極の禁忌に興味はないかね?」
「究極の禁忌…ですか?」
灰の剣士たちの気配を察知していたセルブス。
此処で彼は予てより画策していた、とある計画を輝石の貴公子へと持ち掛ける。
「最上の傀儡、それをこの手で愛でるための…ラニをも欺く、秘め事だ。そこいらの傀儡など比較にもならん、最上の秘め事を共有できるのだぞ。どうかね?きっと君なら、興味があるだろう?」
遂に本性を露わとしたセルブス。よりにもよって、自らの主でもある魔女ラニをも欺き傀儡化を目論んでいた。
本来なら、この様な暴挙になど出られよう筈もない。迂闊に明かせば、即ラニに告げ口されるなど、計画破綻の恐れが高いからだ。
しかしこうして狂気とも言える計画を明かしたという事は、それだけ彼等に心を許していたという事だ。
それ程にまで、彼等はセルブスの研究に貢献していくれていたのである。
「勿論、協力させて下さい、教授。デミゴットの傀儡化…しかも例の魔女ラニともなれば、その愉悦たるや如何ほどか…!もし成功し、一頻り愛でた後、僕にもお零れを頂戴しとうございます…!」
「…ああ、やはり君はそうだったか、私と同じだ…!…分かるだろう?君が精薬を、ラニに飲ませてくれさえすれば、秘め事は成就する。私たちは、最上の傀儡を手に入れ、愛でることができるのだ。想像してみたまえ。それがどれほどの愉悦かを…。あの冷たい人形は、何ゆえか、君たちに興味を抱いている。それに、如何に罪を纏い、孤高を気取ろうとも、あれは弱く愛しい娘なのだよ」
この出会いは正に天よりの啓示。よもや黄金律の破綻した狭間の地でありながら、これ程に恭順な若者と出会えようとは――。
しかも我が思想に共鳴し、才覚にも溢れた少年。この時点で、発狂したくなる程に悦びに昂りたくもなる。
ああ…、今日は何という日なのだろう。これ程にまで、計画が順調に運ぼうとは――。
この少年を連れて来た、
セルブスは気前よく『琥珀色の精薬』を少年へと手渡した。
さて、この少年は共感してくれたが残り二人はどうなのだろう?
よもや邪魔などするとは思えないが、念のためセルブスは二人の反応を確かめる。
「むろん、邪魔などいたしませぬ。教授の深い知識と秘術の数々、貴方こそレアルカリアの象徴に違いありませんな」
「あのラニとかいう女は、確か人形の身体だったな。傀儡化した後、肉の身体を用意してあるのか?」
少年と同じく、セルブスに従順な姿勢を示したトープス。彼は終始控え目ではあったが変に出しゃばらない分、セルブスにとっても有り難い存在だ。野望達成の暁には、彼を従者として取り立てるのも悪くはない。
そしてオーベックという男だが、流石に異界の学徒なだけの事はある。一応懸念していた魔女ラニの身体の事に言及していた。
「ああラニの身体だが、アレを傀儡化させた後、あの忌々しい異界の錬金術師を利用させてもらう。アレは魔女ラニの肉体を創造していただろうからな。行方さえ判れば、此方のものだ」
セルブスは、魂の色めきに最も興味を惹かれ弄ぶ事を愉悦としていたが、やはり肉体にも興味を示している。だがラニは人形体に、己が魂を移し替え生き永らえているのが現状だ。
アルケミーのマイスターが、錬金術を駆使し
そして間違いなく四方世界の何処かに、その場所を隠している事も勘付いている。
しかしあらゆる手段を用いても、その隠し場所の発見には未だ至っていない。
ならば魔女ラニを傀儡化させた後、彼女自身から聞き出せばいいだけだ。
それにラニを支配するという事は、あのマイスターの鼻っ柱を圧し折る事に繋がる。
これはこれで非常に愉快な事この上ないのだ。
暫くの間は、楽しい日々が続くだろう。
気味の悪い仮面の奥でセルブスは、ほくそ笑んでいた。
時を同じくして、灰の剣士たちが彼等を迎えに来る。
「我が教え、くれぐれも無駄にはせぬようにな」
「では行ってきます教授。吉報をお待ち下さいませ」
「世話になったな、セルブス教授。アンタの教えは中々面白かったぜ」
「教授のお手伝いをさせて頂いた事、光栄の至りで御座いました」
「ああそれと、言い忘れるところだった。少年よ、レアルカリアから戻った後、再び我が元を訪ねてきたまえ。我が秘蔵の知識を伝授して上げよう…ただし一人で訪れたまえ、良いかね?」
「おお、それはまたとない有り難き幸せ。事が済んだ後、必ず帰還いたします」
去り際、輝石の貴公子へと再び訪ねて来るよう言葉を残したセルブス。
彼等がレアルカリアを攻略した後、少年には何かを授ける旨を伝えた。
対する彼も色よい返事で応え、皆はセルブスの尖塔を去る。
塔にはセルブスだけが残り、仮面奥で下卑た笑いを堪えていた。
「クックック…、魔女ラニを傀儡化させた後、次は、あの少年を我が傀儡へと加えてあげようではないか。あの少年の魂、さぞ色めき輝いている事だろうて。…あとは、
留まる事を知らないセルブスの野心――。無限に膨張する宇宙の如く、彼の願望は際限なく肥大し続けていた。
これから降りかかる事象など、彼には想像もつかないまま――。
……
「…そうですか、異界にて宿泊――」
セルブスの塔を出た彼等は、今夜の宿泊の事で話し合っていた。
今夜アルケミーのマイスターが利用している異界にて、休養を取るという方針。
灰の剣士以外は、其処で静養する手筈になっていた。
「…僕も円卓にて休みます。此処の住民ですから――」
「え~、ハリ君も此処に残るの~?絶対、気に入る所なのに~…」
「俺も円卓でいい…、ロジェールの様子も気になるしな」
「私も円卓で結構です。変に未練を残さないようにね」
この3人も灰の剣士と同じく、円卓にて休養を取る方針を告げた。
ライザは若干不満顔だが、彼等には彼等なりの思惑がある。故郷でのライザは皆を率いた立場だが、自分を強く出せないでいる。
しかしこれは仕方がない。何せ生まれ育った環境が違い過ぎるのだ。
火継ぎの時代にせよ狭間の地にせよ、常に殺伐とした過酷に世界で彼等は生きてきた。
その世界では自然と胆力が備わり、自分という『芯』が確立されてしまうものなのだ。
そんな彼らを前に、ライザが意見を押し通すのは少々無理があるというもの。
他の面々も口には出さなかったが、彼らの意見を尊重する事にする。
「灰人さん、セルブスの使い魔ですが、この辺に漂ってはいないでしょうか?僕の感知力ではちょっと――」
宿泊の件はもういいだろう。
それよりも輝石の貴公子は、
「一体どうしたというのだ?少し待っていろ……居たッ!」
「――そいつを捕まえて消して下さいッ…!」
セルブスの使い魔などと言及した輝石の貴公子。
彼が何を言いたいのか分からないが、理由は後で聞くとしよう。
暫しの時間の後、セルブスの使い魔と思わしき『輝石ホタル』を手掴みにし呪術の火で焼いた。
「…言う通りにしたが、どういう事なのだ?」
「有難う御座います。…フゥ…これで
「使い魔…と言う事ですが、盗聴を懸念していたという事ですか?」
「ええ…。これから重要な事実を明かします。よく聞いておいて下さい」
流石にホタルほどの小動物は、思いのほか感知も楽ではなかったが何とか消す事には成功した。
また剣の乙女も使い魔を行使する能力を有しており、ホタルほどの小さな個体なら偵察に属した用途だと看破した。
使い魔で彼等を探っていたという事は、やはりセルブスは輝石の貴公子たちを完全には信用していなかったという事に繋がる。
だがこれで盗聴される心配は消失した。
輝石の貴公子は、セルブスの塔での出来事と彼の野心を明かす。
……
魔女ラニは、何ら表情を崩す事はなかった。
「大儀であった。後の事は、私に任せておけばいい」
ラニの間にて、セルブスの叛意を告げた灰の剣士たち。
彼女の手には『琥珀の精薬』が握られている。
「愚かだ、そして浅ましい。よもやこのラニが、まんまと汚らわしい奸計に堕ちると思っていたのだろうか、あの男は」
「全くです、ネフェリ・ルーだけに飽き足らず――」
琥珀の精薬を掌の上で弄ぶラニ。無表情ながら何処なく落胆した様子が見受けられる。
やはり心の何処かでは、彼を信用していたのだろうか?
対する
「この精薬だが、お前達が持って行くといい。人の身では口に出来ぬが、これなら魔神にも効果はある。四方世界では必要となろう。若しくは錬金術の研究素材にでもするが良い」
「宜しいので魔女ラニ?」
「構わぬ。どのみち私には必要のないものだが、これも錬金術の産物。無下に捨てるのも少しは惜しかろう」
魔女ラニは『琥珀の精薬』を
彼女の姿勢に驚く面々だが、これは四方世界にて暗躍している魔神にも効果があるとの事。
またこれ程の希少品なら、錬金術の研究対象としても大いに役立つ事を告げた。
「こっちの精薬は、私に任せてくれないか?例のネフェリとかいう女を元に戻したいのだったな。君たちがレアルカリアを攻略している間に、改良しておいてあげようじゃないか」
「かたじけない、マイスター」
そして同席していたマイスターの手には、『セルブスの精薬』が握られていた。
それは輝石の貴公子がセルブスから譲渡された物である。
元々これを悪用する気など無く、最初からネフェリ・ルーを元に戻す事が目的でマイスターへと託していたのである。
「マイスターさん、セルブスの傀儡化に堕ちた人々は複数に渡ります。できればその人たちも助けたいのですが?」
「…残念だが、全員分は無理だねぇ。精々あと2,3人ぐらいが限度だよ。残りは諦めるしかない」
この数日間、セルブスの塔にて活動していた輝石の貴公子たち。
彼の傀儡化に晒されていた者たちを、彼等は目にしていた。表には出さなかったが、3人とも憐憫と義憤に駆られていた。
ネフェリだけでなく他の者も助けられないかと、マイスターに頼んでみる輝石の貴公子。
しかし、いま手元にある精薬だけでは助けられる人数にも限度があり、全員は無理だと彼女は告げる。
「この際仕方があるまい。可能な限り、アイツの魔の手から救ってやろうじゃないか。頼めるか、マイスターさんとやら?」
「分かった。この件は私に任せておいてくれ」
全員は無理だが、数人なら手の施しようはある。
少々苦い結果に落ち着くだろうが、何事も
改めてマイスターに頼み込むオーベック。
対する彼女も感情こそ露わにしていないが、奮起を漲らせていた。
「さてお前たち。明日、レアルカリアへと乗り込むようだが、ひとつ大事な事実を告げておこう」
今夜は充分な休養を取り、明朝レアルカリアへと乗り込む事が確定している灰の剣士たち。
魔女ラニは、彼らへと通告する。
「大ルーンを所持しているのは、我が母『満月の女王レナラ』ではなく、彼女が抱く『琥珀色のタマゴ』にこそ宿っている。くれぐれも母レナラを切るでないぞ?」
「承知した。女王レナラではなく、
ラニの母レナラは、確かにレアルカリアの頂点に君臨する人物だ。
しかし彼女は大ルーンを所持してはおらず、彼女が抱く『琥珀色のタマゴ』に宿っている事を告げた。
これは重要な案件で、間違ってもラニの母レナラを切り殺してはならない。
その事実を知った灰の剣士たちは、改めて決意を胸に抱く。
「ああそれと、召使いピディの事は知っていよう。後でアレの下に訪れてみるといい。倉庫の物は全てお前達に託す、好きにいたせ」
「数々のご配慮、痛み入る。大ルーンを手にした暁には、貴女の望みも叶える。…何処までの領域かは分からないが」
「ふ…いいだろう。お前の決意と覚悟、期待させて貰うぞ」
最後に『ピディ』なるカーリア城館の倉庫番を務める男の事に言及したラニ。
彼の事は褪せ人の記憶を通じて存じていた。
倉庫の物は全て彼等に譲渡する権利を与えられ、
途中で終わる可能性も高いが、彼女とて灰の剣士の事情は理解している。その位の融通は効かせてくれるだろう。
「よき暁を、褪せ人たちよ」
去り行く灰の剣士たちを見送り、ラニは言葉を送る。
ラニの間は再び無音の空間が舞い戻った。
「さて…、セルブスの件を片付けねばな…あの愚か者めが――」
そのままラニも姿を消し、この塔は真に無人となった。
……
「――チッ…気付かれてしまったか…!まぁ良い…、次の手を考えるまでだ」
一方セルブスは、使い魔が消された事に舌を打つ。
輝石の貴公子の恭順な態度だが、セルブスとて真に受けていた訳ではない。
だが彼は確かに才覚もあり、直ぐには傀儡化させず利用し尽くす気でいたのである。
輝石ホタルを媒介とした使い魔なら気付かれる事はないと踏んでいたが、予想以上に彼等は優秀な実力者ばかり。
使い魔が消されたという事は、魔女ラニへの計画も失敗に終わる事が予想される。
あの『琥珀の精薬』は希少中の希少品だが、実は予備を作成していたのである。
また次の機会を窺えばいい。
そして例の少年には、容赦なく傀儡に堕ちて貰うとしよう。
「クックックっク…、このセルブスを侮ればどういう仕打ちを受けるか…、目に物を見せ…てく…レ…………」
そのまま最後まで言い切る事なく、彼は言葉を途切れさせダランと力無く崩れ落ちた。
それ以降、彼は二度と微動だにする事もなくなった。
……
ラニの言葉を頼りに、ピディの元へと向かった灰の剣士たち。
ラニの塔から南下すれば、崖下にはカーリア城館の裏手が見える。
「ん?人の声が聞こえるな、ピディなる御仁のものか?」
眼下から耳に届く人らしき声――。
「間違いない、彼のものだ」
ソラールの反応に
ピディなる男は、カーリア城館の倉庫番を務める召使いを自称していた。
だが彼の宿すソウルは、あのセルブスと似通った波形であり、薄々二人の関係性には気付いていた
『ぎゃっ!ぎゃあっ!やめておくれ、やめておくれ…お前たちは私の傀儡、あんなに愛してあげたじゃないか。なのに忘れてしまったのか?あの幸福を…。いたいっ!いたいようっ!お願いだから、酷いことはやめておくれ…。ぎゃっ!ぎゃああああああああっ!』
「――ねぇ、これ悲鳴だよ!早く行ってあげないと…!」
城館から響くのは、明らかなる断末魔の悲鳴――。
居ても立ってもいられなくなったライザの声に触発され、彼等はカーリア城館の裏側へと急ぐ。
そのまま直接跳び下りるという荒い到達方法だが、直ぐにピディの元へと駆け付ける事ができた。
「ぬぅ…カーリア城館に、この様な場所があったとはな…」
崖から直に飛び降り、裏手から倉庫に侵入するという方法で侵入した彼等。
まだ見ぬ空間に、金剛石の騎士は辺りを見回している。
「この者たち…そして、倒れている…いや、既に事切れている…例のピディなる男か…」
倉庫と呼ばれている空間は然程広くはないが、其処には数名のカッコウ兵士と騎士が感情も無く佇んでいた。
そして彼等の足元には、小柄な男性の遺体が転がっている。
ジークバルドは、この男がピディと見切りを付けた。
「私はまぁ…知っていたんだがね。このピディが、あのセルブスを傀儡として操っていたのさ。つまり傀儡であるセルブスを使い、また他者を傀儡化させ愛でていたって寸法さ。高度ながら全く陰湿で悪趣味の極みさ…!女にモテない陰キャの極みってやつかね?」
「それは知りませんでした。セルブス教授…いえ、セルブスも傀儡に過ぎなかったとは――」
「傀儡の奴隷が、傀儡に溺れ裏切られる…。いやはや、何たる滑稽で嘲笑な事で…、笑い話のネタにするのも気味が悪いよ」
マイスターは予めピディとセルブスの関係性に気付いており、輝石の貴公子も初めてその事実を知るに至る。
またマイスターの心底嫌悪に満ちた表情は、きっと本心に違いない。
彼女は狭間の地に悪感情は抱いていなかったが、こういう陰湿な所業には心の底から忌避していた。
「さぁさ、ラニ様は倉庫の物を好きにしていいと言ったんだ。遠慮なくお宝を頂こうじゃないか…!」
人の気配も途絶えた城館に相応しい陰鬱な空気感――。それを吹き飛ばさんばかりの快活な声音で、彼女は倉庫を物色し始めた。
少し癖の強い物ばかりが目立つが、錬金術に使えそうな素材の入手も叶う。
「此処にも傀儡化された連中が居たとはな…。しかもよく見りゃ女の兵士ばかり…全員助けてやりたいのは山々なんだが――」
「我々とて完璧ではないさ、気の毒だが彼女たちは放っておくしかない」
人形の如く、ただ立ち尽くすだけのカッコウ女性兵たち――。
略奪を生業とする彼女らに同情の余地など無いが、この時だけはオーベックも憐みを向けた。
だがマイスターの言う通り、全員分を救う余裕などないのも事実。
見捨てる以外の手立てがない。
少々後味の悪い展開となったが、彼等は其々の拠点へと向かう事になる。
ライザ、剣の乙女、金剛石の騎士、ソラール、ジークバルドは、マイスターが根城としている異界の館へ――。
明朝、ラニの塔の元へと集合し、其処から『魔術学院レアルカリア』へと侵入を果たす。
そういう手筈となる。
「では皆、明朝ラニの塔の下で集合だ…!」
こうして彼等は一旦別行動をとり、各々の拠点へと転移で向かう。
……
(推奨BGM エルデンリング ―― 円卓)
―― 円卓 ――
再び円卓へと到着した灰の剣士たち。
以前よりも人は少なく、コリンはアルター高原へと旅立ち、ロジェールは息を引き取り遺体さえも消え去っていた。
死を狩るものⅮから事の経緯を聞き、ロジェールの遺品を託された灰の剣士たち。
彼の装備品を少し弄れば、輝石の貴公子によく合う装備形態と化した。
よく考えれば、この少年も魔法の他に剣も少々嗜んでいる。
ロジェールの装備形態は、彼にもよく馴染んだ。
彼等は鍛冶師ヒューグや調霊師ローデリカに、各種武器や遺灰を強化して貰った後、簡単な食事を済ませ就寝する事となる。
「灰人さん、ここは城館のようですが、何処かに寝台はないのでしょうか?流石に目立つ寝台と言えば…え~…――」
「何だ何だぁ少年?彼女、死衾の乙女フィアとやらに夢中か?」
「揶揄わないで下さいオーベックさん。そりゃ確かに、あのフィアさんっていう人は儚げで優しそうで豊満で美人で、かなり好みですけど…やっぱり狭間の地では性欲なんて全く湧かないんですよね」
「…そうだな。娯楽と言えば、精々が酒か食事か賭博…あとは会話に興じるぐらいだもんな」
「お前ら…寝台で寝たいんなら、下の階に行きな。幾つか空いてると思うぜ。まぁベッドメイキングは自分でやってくれ」
野外に比べれば比較的安全な円卓という聖域。
贅沢をしたい訳でもないのだが、どうせ休むのなら可能な限り良好な環境を整えたいものだ。
やはり寝台の有る部屋で休みたいのだが、思いつく限り死衾の乙女フィアの部屋にしか寝台は見かけていない。
輝石の貴公子とオーベックとの間で揶揄い半分の会話が展開されたが、ヒューグが下の階に寝台が設けられているとの情報を明かす。
ヒューグの情報を当てに傍の階段を降り、下の階へと移動した。
部屋自体は少々荒れてはいたが、彼等にとっては然して気にもならない。
「いよいよ明日は、レアルカリア学院へ挑むんですよね。ちょっと興奮してきました」
「おいおい、ちゃんと寝とけよ。気持ちは分かるがな」
「長かったよ、漸く念願も叶い学院へと戻れるのか…」
「そうか、トープス先生は学院への帰還を願っていたんでしたね?」
「やっぱり学院も真面な連中など…期待するのは都合が良過ぎるよな…」
「実際戻ってみない事には何ともな。破砕戦争の巻き添えを恐れ全周囲に封印を強いたのだが、あれからどの位の期間が経過したのやら…。様変わりしていても不思議ではないよ」
「学院及び周辺の案内は宜しくお願いする、トープス殿」
「任せておいてくれ。学院出身の名に恥じないよう働いてみせようさ」
輝石の貴公子、オーベック、トープスは寝台に身を横たえながら明日について話し合っていた。
彼ら3人は其々の思惑を抱きつつ、学院への期待を膨らませ少々興奮気味だ。
また
彼の要求に快く応じるトープス。
今思えばトープスのとって、この出会いは転機とも言えた。
最初彼等と出会った時は、その大人数に大層驚いたものだが、今は彼等との旅が新鮮で楽しむに値する程の価値を見出している。
そして明日には、レアルカリア学院に戻り彼等とは別れが訪れるだろう。
その事実に少しばかり寂寥感を抱きながら、トープスは意識を落ち着け程無くして深い眠りについた。
まだ集合する時間前、彼等は一階のロビーにて各々の取得した魔法や戦技の交換を行った。
輝石の貴公子は、ケイリッドの魔術街サリアにも深い興味を示しており、夜の魔術や重力魔法にも精力的に取得を試み見事モノにする。
また
これでレアルカリア効力も役立つだろう。
……
湖のリエーニエ。やはり朝は、かなりの冷え込み具合だ。
まだ褪せた太陽は昇りきっておらず、若干薄暗い朝でもあった。
「どう、灰君?リンゴと熱い紅茶の味は?」
「久し振りな気もする。冷えた朝に、熱い紅茶は本当に身に染みる。礼を言う、ライザ」
予定通り、ラニの塔の元へと集合した灰の剣士たち。
ライザは灰の剣士の注文通り、新鮮なリンゴと熱い紅茶を持参してくれていた。
また全員分も用意されており、彼等はラニの塔の下で焚火を囲い束の間の朝食を楽しんでいたのである。
冬ほどではないがリエーニエの朝は冷え込みも酷く、焚火と熱い紅茶は極上の贅沢とも言える。
「いえいえ、どう致しまして♪喜んでくれたなら何よりだよ♪(君から服貰った上に、何度も気にかけてくれてるんだし、これ位はしてあげないとね///♪)」
「ところで皆さんの方こそ、よく休めたんですか?」
別に彼も狙った訳ではないが、これでライザの士気が上がるなら有り難いものだ。
そして輝石の貴公子は、金剛石の騎士たちの休息具合を尋ねる。
「ああ、お陰で快適な休息が取れた。異空間と聞いていたから、少し警戒していたが何とも優美な世界だったよ」
「風呂も食事も、ゆっくりと疲労を癒す事が出来ました。貴方たちも来れば良かったのです」
彼らの様子を見る限り、体調も万全に等しい状態なのが分かる。
金剛石の騎士も剣の乙女も、血色の良い顔色をしており
「では私は、このまま作業に取り掛かるよ。レアルカリア攻略、頑張ってくれたまえ」
「それでは行ってきますマイスターさん…!またお願いしますね~!」
朝食も終えマイスターへと挨拶を交わし、彼等はレアルカリアへと出発を開始。
学院の入り口付近には、カッコウ騎士団が防御陣を展開し彼等に執拗な妨害を仕掛けてきた。
意外に狭い道幅に大勢の兵士が配置に就いており、戦車や設置弩砲まで起動させ襲い掛かる。
だが此方は馬に搭乗している事もあり、機動力を駆使し彼等の頭上を跳び越え極力無視――。
余計な戦闘と消耗を避け、南門付近まで辿り着いた。
「よし、これより学院の封印を解くぞ…!」
次の瞬間、鍵から黄金色の光が巻き起こり、青白い封印の障壁と反応を起こす。
すると瞬く間に、皮膜の様な青白い障壁は消え去り完全に封印が解けた事を告げた。
これで長年に渡り外部の介入を拒んでいた封印は解かれ、レアルカリア学院は再び閉じた世界を解き放ったのであった。
「おお…、とうとう学院に戻れる時がこようとは…!この時をどれほど待ち侘びた事か…」
感動のあまり目尻から小粒の涙を滲ませるトープス。
学院への帰還が閉ざされ行くアテも無く、彼は今日という日まで狭間の地を彷徨っていた。
だがこの日、彼は遂に学院への帰還が許されたのである。
「この紋章に触れればいいのでしょうか?」
学院の封印は解かれ、彼等を阻むものは無くなった。
だが壁面には、独特の文様が浮かび上がっており只ならぬ魔力を感じる。
「そうだ。これに触れれば、正門前に出られる仕組みだ」
輝石の貴公子に応えたトープス。先ず彼が率先して紋様に触れ、姿が消えた。
皆も急いで紋様に触れ、気が付けば『学院正門前』へと転移していた。
「改めて近くで見れば、巨大な建造物ではないか」
「学院都市とも言うべき規模だぞ、この施設群は」
彼等の眼前に佇む巨大な建造物は異様の一言に尽きた。
ソラールと金剛石の騎士は、レアルカリアを見上げ半ば呆けてさえいる。
「少し待ってくれ、向こうで誰か戦っているぞ…!?」
今は急いで馬を走らせ、戦いと思わしき方へと向かう。
向かった先では、『血の指の狩人ユラ』と『「血の指カラス山の凶手』が死闘を繰り広げていた。
しかし彼の要請で、ユラに手を貸しカラス山の凶手を撃破に成功。
せめてもの謝礼にと戦技『霧の猛禽』と『牙突き』をユラから授かった。
戦いの後、何処か体調の優れないユラ。しかし心配する彼等を余所に、ユラはそのままその場を去った。
ユラを見送りつつも、彼等も進行を再開――。そのままレアルカリア正門前に設けられた巨大昇降機へと足を踏み入れようとした。
だがまだ小さな問題が発生しており、馬を引き連れた学院には入れない事に気が付いた。
だがそのまま放置すれば、高確率で何処かに逃げ去ってしまうだろう。
そこで暫定的な処置だが、剣の乙女の術で馬を眠らせ付近の木に縛り付ける方策が執られた。
レアルカリア攻略後、改めて馬を取りに行けばいい。変に襲われない限り、馬は無事に済むだろう。
馬を置いた彼等は、改めて昇降機の中央スイッチを踏み起動させた。
「うわわ、動いた動いた…!」
「よかったよ、これ程の年月が経過しても作動してくれて――」
昇降機にしては大掛かりな設備で、ライザとトープスは各々の反応を示した。
「此処が正門だな。さて…開いてくれよ…?」
昇降機で昇りきった彼等は、眼前の巨大な門へと差し掛かった。
此処が正門で間違いないのだが、問題は人の手で開いてくれるかどうかだ。
灰の剣士たちは、総出で正門へと寄り掛かり命一杯の力で重い鉄扉に手を添え押し込んだ。
油の切れた重厚な鉄の軋む音が辺りへと響き、やがてゆっくりと巨大な正門が口を開く。
「まぁ…これが魔術学院レアルカリア…!」
開いた門から映る光景に、剣の乙女は感嘆の息を漏らしていた。
本来は目が不自由な彼女だが、この狭間の地では何故か自由に目が効いていた。
とうとう彼等は、レアルカリア学院へと足を踏み入れたのである。
「「……」」
幼い頃から入学を夢見ていた輝石の貴公子ことハリ=オード=バーレンシュタイン。
そして長年叶わぬ帰還を渇望していた、学士トープス。
二人は声も無く、唯々学院の光景に魅入っている。
「それでは、レアルカリア学院へと入るぞ。何があるか全く未知数だ。皆、全方位に気を配ってくれ」
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琥珀色の精薬
魔術教授セルブスから渡された小瓶。
琥珀色に艶めいた、秘め事の精薬。
これをラニに飲ませてくれたまえ、私たちは、最上の傀儡を手に入れ愛でることができるのだ。
その後は、君だ。
逃がさんからな、地の果てまでも。
何とかレアルカリア学院まで漕ぎ着けました。
いやはや、余計な事ばかり書く悪癖が治らず無駄に長引いてしまう。
とにかく書きたい事が次から次へと湧き出てしまうもので。
そしてまたもや書きたいネタが浮かび、どうしてくれようか迷っている最中です。
我ながら意志が弱い…。( ̄ω ̄;)
如何だったでしょうか?
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
デハマタ。( ゚∀゚)/
それでは、よいお年を。