ゴブリンスレイヤー ―灰の剣士―   作:カズヨシ0509

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ドーモです。
遅くなりましたが投稿致しますドゾ。( ゚ ω ゚ )


第150話―狭間の地・湖のリエーニエ・戦祭り終局―

 

 

 

 

 

 

ラダーンの大ルーン

 

破片の君主、ラダーンの大ルーン。

恩恵により、HP、FP、スタミナの最大値を上昇させる。

 

ラダーンは、レナラとラダゴンの子の一人である。

彼らは、ラダゴンが女王マリカの王配となった時、外戚としてデミゴッドとなった。

 

その大ルーンは、赤く燃えている。

赤い腐敗、その浸食に抗するために。

 

僅かに生き残りし赤獅子たちは、大英雄の姿を胸に今も腐敗に抗い続けていた。

その命、完全に尽き果てるまで。

 

 

星砕きの追憶

 

黄金樹に刻まれた、星砕きのラダーンの追憶。

 

指読みにより、主の力を得ることができる。

また、使用により莫大なルーンを得ることもできる。

 

赤獅子の将軍は、重力の使い手でもあった。

若き日、ラダーンはそれをサリアで修めた。

みすぼらしい瘦せ馬と、ずっと共にあるために。

 

心を取り戻した彼は、誇らしく天へと逝く。

この愛馬と共に。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 幾多もの遺体が転がる乾いた砂丘では、凄絶な戦いが繰り広げられていた。

片や、数多の地方より流れ着いた軍隊や褪せ人たちの混成部隊。

片や、破砕戦争で鎬を削り命を落とした英霊たち。

その中でも一際目を惹く存在が、この戦祭りの主賓でもあるのだ。

 

その男の名は、将軍ラダーン。

 

またの名を星砕きのラダーンとも呼ばれ、破砕戦争の英雄にしてデミゴッド最強の異名を有していた。

彼は破砕戦争の最終決戦で、腐敗の女神マレニアが引き起こした『赤い腐敗』の弊害で、脳内まで腐り行き正気を失っている。

今の彼は、嘗ての英雄の面影など微塵にも備えておらず、唯々戦場を徘徊し戦死者の遺体を貪り喰らっては天に慟哭する日々を繰り返していた。

大英雄と謳われた将軍ラダーン。

哀しき憐れな彼を、高潔な武人として見送る為、客将でもある老騎士ジェーレンが戦祭りを主催したのである。

時は満ち戦祭りは開幕した。

今この戦場には、数多の猛者が集い武力を惜しみなく振るっている。

あとは彼等が遺憾なく実力を発揮し、将軍ラダーンを討つだけだ。

 

しかし腐敗で正気を失えど本能は未だ残留しており、身に宿す膨大な魔力で宇宙の星辰を押し留めていた。

つまり今のラダーンは、消耗状態にあり酷い弱体化を伴い実力を発揮できない状態にある。

その総力の減衰具合は定かではないが、恐らく半分さえも発揮できていないと思われる

だがラダーンの戦闘力は未だ強大で、並み居る猛者たちが無残に吹き飛ばされていた。

 

ラダーンの巨大な双刀が砂丘を抉り豪快に振り上げられる。

その一太刀を振るう度に、確実に味方の数が減少してゆくのだ。

またラダーンは弓の名手でもあり、遠距離の敵を一瞬で撃ち抜いてしまう。

彼の巨体に見合う巨弓で射られた矢は、宛ら大槍の如し。その大槍並みの矢だけでも桁外れの威力を誇るのだが、彼は重力魔法にも長けていた。

巨大な矢の弾頭は重力魔法が付与され、大盾の防御ごと粉砕してしまう。

近付けば巨大双刀の連撃、離れれば巨弓の狙撃に晒される。

隙が無いとは正にこの事だ。

 

またラダーンに尽き従う英霊たちも、破砕戦争を戦い抜いた猛者だけの事はあり、剣に矢に魔法にと、どれをとっても高い練度を誇っている。

ラダーンのみに意識を傾ければ、側面や後方から漏れなく彼等の攻撃を許してしまうのだ。

開戦を迎え幾許かの時が経過したが、此方の戦力は既に3割を消失している。

 

守りの戦に長けたローデイル部隊が、黄金の大盾を駆使しラダーン軍の攻撃を必死に押しとどめている。

その隙に、攻撃に長けた赤獅子軍が距離を詰め剣や矢で敵を討ち取ってゆく。

またゴドリック部隊とカッコウ騎士団は遊撃に徹し、陣形から離れたラダーン軍の英霊たちに当たる。

敵の放つ重力弾頭の大矢をローデイル部隊が大盾で受け止め、赤獅子軍の兵士や騎士たちが英霊たちを数体討ち取った。

ラダーン軍は反撃にと、ゴドリック部隊やカッコウ騎士団に跳びかかり多大な終結を強いる。

 

「ゆくぞ、昇竜アッパァッー!!」

 

 灰の剣士たちと行動を共にしていた仲間達。

その内の一人、鉄拳のアレキサンダーは跳躍からのアッパーカットで、一人の英霊を吹き飛ばす。

宙高く吹き飛んだ英霊を、ジークバルドが真・ストームルーラーで両断した。

真っ二つに分かれた英霊は霊体である為、そのまま塵となり消滅する。

 

「見事な一撃だ、アレキサンダー殿…!」

「ウワハハ、そちらもな。勇猛な戦ぶりぞッ!」

 

 二人は即興ながらも見事な連携で、高練度を誇る英霊たちに対抗した。

 

「俺も負けてられんな、フンっ!」

 

 ブライヴの特大剣が、英霊の大盾に炸裂。

その威力は並ではなく、直剣は疎か大剣さえも凌ぐほどだ。

だが英霊の大盾も高い防御力を誇り、ブライヴの膂力と特大剣を完全に受け止めていた。

 

「流石は古の英雄、俺の一撃を受け止めるか…!」

 

 かち合うブライヴの剣と、英霊の構える大盾。

 

「だが隙だらけだッ!」

 

 力で押し合う体勢は、端から見れば大きな隙を晒しているのと同じ。

透かさずソラールが飛び込み、大盾で防御中の英霊に鋭い斬撃を喰らわせる。

側面から切り付け胴を薙ぎ、更に回り込み背中へと致命の刺突で止めを刺す。

その連携で、英霊は消滅した。

ブライヴとソラールという交流の薄い二人だが、必要最小限のやり取りで奮戦する。

 

少し離れた場所では、接ぎ木形態と化していた輝石の貴公子が魔法を駆使し、複数の英霊相手に立ち回っていた。

 

「アタイの調香術、少しは見直したかい?」

「前から知ってるさ、調香術の有用性はね!」

 

 輝石の貴公子(現・接ぎ木形態)の背には、調香娘が搭乗していた。

彼女の振るう調香術『高揚の香り』は、周囲の味方を強化する効果がある。

一度だけだが攻撃を大幅に遮断し攻撃力まで高めてしまうという、集団戦では非常に効果的な術だ。

その調香術で強化の恩恵を受け、輝石の魔術『結晶連弾』を乱射し並み居る英霊たちを牽制。追撃として、儀仗の直剣で切り裂いた。

調香術は周囲の味方にも効果を及ぼすため、ローデイル軍では重宝されていた。故に軍属となった調香師たちは、皆挙って高い地位が約束されていたのである。

改めて調香術の有用性を体感した輝石の貴公子(現・接ぎ木形態)は、取り繕う事なく彼女を称えたのであった。

 

「その身体、頑丈なのは知ってるけど前には出るなよ」

「分ってる、僕らはこの位置で牽制しながら戦おう」

 

 調香娘と輝石の貴公子(現・接ぎ木形態)は、最前列に出る事を控え戦闘を継続する。

 

「皆さん、大丈夫ですか?」

 

 戦線の後方では、指巫女サロリナが回復の祈祷で、傷付いた味方の治療に当たっていた。

だが英霊の猛攻は凄まじく、直ぐ其処にまで迫っている。

 

「近寄らせませんわ、流砂(クイックサンド)!」

 

 肉薄する英霊に向け、剣の乙女が真言魔法『流砂(クイックサンド)』で足止めを図る。

 

「オーベック殿っ!」

「任せてくれ、ソウルの槍!」

 

 砂丘という環境が幸いし、彼女の術はいつも以上の効果を発揮する。

流砂の発生で足元を取られた英霊は、自由な動きが取れないでいた。

その英霊を仕留めるべく、オーベックがソウルの魔術『ソウルの槍』を発動。

巨大なソウルで精製された槍が、英霊を貫き消滅させる。

 

「誇りある戦いは良いものだ…!我が魂に火を点ける…ハァッ!」

 

 別の場所では、ネフェリが双斧で英霊を薙ぎ払う。

また彼女の得意技でもある、嵐雷を斧に付与させ威力の増強を図っていた。

 

「無茶をするなよ、援護が間に合わなくなるからな」

 

 ネフェリの背後や隙を補うかのように、眠りのドローレスが得意の弓術で矢を連射。

英霊たちを牽制し、陣形の穴を埋めていた。

 

「「「我々もアテにして下さい…!」」」

 

 加えてセルブスの傀儡から解放された、カッコウの女騎士と女兵士達も援護に回わる。

 

そして最前衛に近い場所では、トレントに騎乗していた灰の剣士(現・褪せ人)と後ろに相乗りするライザが戦場を駆け巡っている。

彼等の直ぐ後ろには、馬に騎乗している金剛石の騎士も続いていた。

 

「ふッ…ハッ…!」

 

 灰の剣士(現・褪せ人)は敢えて剣ではなく、弓術で射撃に専念。

騎乗しながらの射撃で並み居る英霊たちに、矢を浴びせていた。

 

「ライザ、爆弾の数はッ?」

「まだまだ一杯あるから心配しないで!」

 

 以前はフラムの数も心許なかったが、アルケミーのマイスターのお陰で今は充分な数を確保している。

彼の弓術で英霊を牽制し動きを止め、ライザがフラムを投擲し止めを刺していた。

それでも近付く敵を、金剛石の騎士が馬上攻撃で切り付けていたのである。

 

「先ずは、周囲の敵の数を減らさんとな…!」

 

 将軍ラダーンを討ちたいのは山々だが、英霊たちの思わぬ横槍で甚大な被害に繋がりかねない。

彼等は確実な勝利を得る為に、先ずは周囲の英霊たちを討つ事に専念していた。

英霊たちは一人一人が腕の立つ手練れで武将級の実力者揃い。ラダーン程ではないが、充分脅威には違いない。

放置するのは些かに危険でもあった。

それにラダーンには、幾多もの猛者たちが我先にと挑んでいる真っ最中。

此方に意識を向けてはいないのが幸いした。

しかしラダーンの戦闘力は別格で、挑んでいた者たちの大半は悉く返り討ちに遭っている。

 

目ぼしい英霊たちを仕留めた頃には、味方の半数が犠牲となっていた。

ラダーンの周囲に残存している英霊たちは、ほんの数体ほどだ。

 

「そろそろ挑むとするか…!」

 

 灰の剣士(現・褪せ人)はトレントを転進させ、ラダーンへと標的を変える。

また彼だけでなく、他の猛者たちもラダーンへと殺到した。

 

デミゴッド最強――。

その異名は伊達ではなかった。

勇猛果敢に挑む猛者たちが、次々に討ち取られてゆく。

巨体から繰り出される双曲刀は災厄にも等しく、一薙ぎで数人が吹き飛ばされ確実に一人は絶命の憂き目に遭う。

巨体ゆえの剛腕、そして巨大双曲刀ゆえの大質量。

半ば反則級の剣撃が、絶え間なく襲い来るのだ。

あの守りに長けたローデイル部隊でさえ、直撃すれば戦闘力をその場で消失してしまう程だ。

 

ラダーンの横薙ぎが、ローデイル部隊を軒並み吹き飛ばし壊滅状態に追い込む。

ラダーンの連続振り下ろしが、赤獅子兵団を纏めて粉砕し機能停止に陥らせる。

双曲刀から繰り出される重力波で、カッコウ騎士団を瓦解させる。

大槍の如き巨大矢を、散弾(ショットガン)の様に打ち出しゴドリック残党軍を粉砕した。

武勇だけでなく重力魔法にも長けたラダーンの猛攻は、他方から流れ着いた褪せ人たちにも容赦なく降り掛かった。

 

「ラダーン覚悟ぉッ…!」

 

 アレキサンダーが全力で突撃し、ラダーンへと殴り掛かった。

拳にルーンを纏わせた渾身の一撃だ。その威力は大岩さえ破断させる。

 

「――ぬぐぅぉおっ……!!」

 

 しかし拳が届く前に、カウンターの一撃で彼方へと吹き飛ばされた。

壷で構成された彼の身体には、亀裂が刻まれている。

 

「――この隙の逃さんッ!」

 

 攻撃後に生じた極微細なラダーンの隙。

そこに付け入るジークバルドは、全力で跳躍し大上段から大剣を叩き付ける。

 

「――何と言う膂力かッ…!」

 

 だが彼の一撃も、易々と巨大な曲刀で受け止められてしまった。

その力の差は歴然で、押し込むなど愚の骨頂。

 

「――ぬぉおぉッ…!?」

 

 競り合いの状態から一気に曲刀を振り抜いたラダーン。

その勢いで、ジークバルドも明後日の方向へと吹き飛ばされてしまう。

 

「――俺が相手だぁッ…!」

「――一斉に跳びかかるぞッ!」

「――将軍ラダーン、いざっ!」

 

 だが立て続けに、ブライヴ、金剛石の騎士、ネフェリがラダーンへと肉薄し攻め立てる。

ブライヴと金剛石の騎士が攻撃を仕掛け、ラダーンは双曲刀で二人の攻撃を受け止める。

だがそれは二人の作戦で、跳躍したネフェリはラダーンの横腹を双斧で切り裂き、後方へと走り抜ける。

 

「――追撃は今ッ!」

「――好機ぞッ!」

「――輝石の彗星!」

 

 初めてラダーンに痛痒を加えたネフェリの一撃――。

その衝撃で微かに揺らぐラダーンの体幹――。

それを見逃す灰の剣士たちではなかった。

灰の剣士(現・褪せ人)、ソラール、輝石の貴公子(現・接ぎ木形態)が、間断のない追撃を加えてゆく。

魔力で付与した剣で切り付け、王騎士の決意で強化した一撃を加え、輝石の彗星を撃ち込み、確実にラダーンを追い詰めてゆく。

 

「よぅし、あたしもぉッ…!」

 

 最後にライザが、3発のフラムを投げ込み爆発で締めくくった。

この攻撃は思いのほか効いたのか、巨躯を誇るラダーンの体勢が揺らいでいる。

 

――巨体の割に随分、揺れるのだな?

 

確実に効果はあった。

だが灰の剣士(現・褪せ人)は、体幹を乱すラダーンの様子に少々懐疑的だ。

あの攻撃は確かにラダーンに痛痒を与えていたが、巨躯を誇る彼があれしきで揺れ動くものだろうか?

外観上でもラダーンの体重は、少なく見積もって数百キログラム~数トンはあるだろう。

それだけの体重と巨体で、ラダーンが揺らぐとは少し考えづらかったのだ。

また巨躯を誇るラダーンの乗せた馬も、何ら負担には感じてはいない様子だ。

その馬はラダーンの巨躯とは裏腹に異様に痩せ細り、とても彼の体重に耐えられるようには見えなかった。

 

痛痒を与えたのは確かだが、ラダーンは反撃にと彼等に重力波を見舞った。

 

「――チッ…不味いッ…!」

 

 灰の剣士(現・褪せ人)はトレントの二段ジャンプで凌ぎ、辛うじて重力波の直撃から逃れる。

 

「あぁ…ぐぅぅッ…!」

 

 しかし彼の後ろに相乗りしていたライザは、重力の余波を受け無視できない傷を負う。

 

「――ライザ、一旦後方に退がれ…!」

「う…うん…灰君も無茶しないで…」

 

 ラダーンからやや離れ、ライザをトレントから降ろす。

そして後方での援護に徹するよう、彼女に指示を出す。

普段のライザなら即座に反発するだろう。しかし傷を負った事で精神的余裕が喪失したのか、弱々しい声音で素直に従った。

トレントからライザを降ろした彼は、再びラダーンへと突撃し戦いを挑む。

 

戦っているのは灰の剣士たちだけではない。

ここに馳せ参じた数多の猛者たちも、必死に奮闘しているのだ。

彼等の奮起の甲斐もあり、遂にラダーンへの有効打を与える事に成功した。

 

「――よし、今のは手応えがあったぞッ!」

 

 トレントの馬背から戦技『宿し打ち』を放ち、魔力を帯びた矢をラダーンへと撃ち込んだ灰の剣士(現・褪せ人)

明らかなるラダーンの変化が見られ、度重なる攻撃の効果ありを認める。

僅かばかり仰け反ったかの様なラダーンは、馬ごと跳躍し大上段から双曲刀を地面に叩き付け重力波を発生させる。

付け焼刃の反撃なのだろうか。

誰一人として、無造作な攻撃を受ける者は皆無だ。

しかし、そのままラダーンは天高く跳び上がり完全に姿を消してしまう。

まるで天空へ昇天してしまったではないかと思える程に、彼等の前から姿を消したラダーン。

 

「これはどういう…」

「ラダーンが天へと…」

「まさか逃げた…?」

「戦いは…もう…」

 

 戦場に佇む生き残りたちは、挙って疑念を口にする。

先程まで凄まじい死闘を繰り広げていた戦場が、嘘のように静まり返っていたのである。

当然、困惑する参加者たち。

 

「皆、空を見て下さいっ!何かが降って来ますッ…!」

 

 突如、輝石の貴公子(現・接ぎ木形態)が、赤く淀んだ空を指差し異変に感付いた。

彼の声に釣られ空を見上げてみれば、天空より迫り来る巨大な火球が目に映る。

 

「――まさか…将軍ラダーンっ!?」

「――不味い、此処に落ちて来るぞッ!?」

 

 ネフェリやソラールが言う様に高速で急襲する火球は、あのラダーンで間違いない。

異様な速度で飛来する、火球と化したラダーンは灰の剣士たちを目がけていた。

灰の剣士(現・褪せ人)は、周囲の声を発し退避を勧告する。

だが、全員が助かる見込みは無きに等しい。

ただでさえ巨体を誇るラダーンが、自らの魔力で重力を反転させ天高くへと自由落下――。

一旦は外気圏まで昇り詰め、持ち前の重力魔法と星の重力の相乗効果で一気に急降下――。

然る後、大気の摩擦熱を纏う事で超高速の灼熱隕石と化したのである。

巨体と高速が合わさった質量エネルギーは、桁外れの破壊力をもたらすだろう。

大地への着弾時に発生する衝撃波と余波は、恐らくだが広範囲に及ぶ筈だ。

誰もが無傷でいる事は、厳しいと言わざるを得なかった。

 

「――皆さんッ、退避の間に合わない者は僕の後ろへッ…!」

 

 残念だが、全員が効果範囲外へと逃げ切る事は不可能だ。

そこで輝石の貴公子(現・接ぎ木形態)は、戦場で拾った大盾を構え自らが壁となり周囲には退避を勧告する。

接ぎ木形態と化した彼の腕数は人型のソレを凌駕し、大盾を複数枚構える事で尋常ならざる防御力を発揮する筈だ。

 

「…君、巻き込まれても知らないよ?」

「ハン、お前の生き様を見届けてやるよッ!」

 

 未だ彼の背に留まる調香娘に、輝石の貴公子(現・接ぎ木形態)警告する。

しかし彼女は頑なに離れる素振りをみせず、彼の雄姿を見届ける姿勢を固持した。

 

騎乗していない者は彼の後ろへと退避し、騎乗している者たちは馬を走らせ極力ラダーンの落下地点から距離を取る。

 

いよいよ隕石と化したラダーンが大地へと間近に迫った。

灼熱を纏ったラダーンが迫るにつれ、大地は光に照らされ異様な橙色に染まる。

 

「――さぁ来いラダーンっ…!!」

 

 輝石の貴公子(現・接ぎ木形態)も完全に覚悟を決めていた。

目を見開き複数の大盾で多重防壁を展開。

 

「――ぬぅぉおおおぉォッ…!!!」

 

 雄叫びを上げ、灼熱隕石と化したラダーンを受け止めた。

鼓膜を破かんばかりの爆音が、大地へと響き渡り戦場全域に拡散。

だが爆音ばかりではない。

圧倒的な高熱を伴う衝撃波も戦場全域へと広がり、広範囲を焼き払った。

またラダーンの着弾と同時に慣性が働き、かなりの距離の大地を抉りながら漸く静止。

異様に捲れ抉られた砂丘には、ラダーンの引き起こした高熱が残留し未だ赤熱化が収まらない。

隕石と化したラダーンの跡には、塵一つ残されてはいなかった。

そう――。

ラダーンの着弾した地点から制止する地点まで、残っていたのは赤熱化し抉れ上がった砂丘のみ。

そこには大勢の者が存在していたのだ。

だが、今は塵一つ残ってはいないという事実。

それ即ち――。

 

―― 輝石の貴公子、死亡 ――

 

―― 調香娘、死亡 ――

 

―― 指巫女サロリナ、死亡 ――

 

―― ローデイル部隊、半壊 ――

―― 赤獅子兵団、半壊 ――

―― カッコウ騎士団、全滅 ――

―― ゴドリック部隊、壊滅 ――

 

―― フーテンのパッチが元の世界に帰還しました ――

 

多くの犠牲者が続出し、残存戦力は実に30を切った。

幾重もの大盾を構え、隕石と化したラダーンを食いとめるべく壁を買って出た輝石の貴公子(現・接ぎ木形態)

あれだけの大盾を構えた彼は、常識外れの防御力を備えていたのは確かだ。

恐らく、連弩砲は言うに及ばず大口径の砲弾さえ防ぎ切っただろう。

しかし隕石と化したラダーンの前には何の意味も成さず、着弾した瞬間に彼は瞬時に蒸発し消滅した。

当然、彼の背に留まっていた調香娘も巻き添えで運命を共にする。

そしてラダーン着弾時の余波は、運悪く指巫女サロリナをも巻き込み彼女も絶命した。

近くに居た剣の乙女は聖壁でサロリナを防御していたものの、ラダーンの威力の前には無力であった。

もし彼女が全ての霊力で多重の聖壁を展開していたなら、サロリナは生存していたかもしれない。

だがもう遅い。

既に彼女は蒸発し、もう其処に姿は無かった。

輝石の貴公子(現・接ぎ木形態)は四方世界側の住民として認識されていたのか、祝福で復活も叶う。

しかしサロリナや調香娘は祝福から見放された存在で、もう復活できないのだ。

つまり一度でも死ねばそこまで――。

二度と再会は不可能であった。

またラダーンの犠牲となった幾多もの参加者たちも姿を消し、戦況は一気に不利に傾く。

 

距離を縮めていたサロリナを失い、剣の乙女は意気消沈し士気を低下させてしまった。

 

だが戦祭りは未だ終わらず続いている。

体勢を立て直したラダーンは再び戦闘体制へと移行し、容赦なく彼等へと襲い掛かった。

 

「ぬぅ…強過ぎるぞ、将軍ラダーン…!」

「無理もない、相手はデミゴッド最強…しかも破砕戦争の大英雄だ…!」

「…いかん、このままでは全滅するぞ…!」

 

 まだ生存していた金剛石の騎士、ブライヴ、ソラールも応戦するがラダーンに圧倒され追い詰められていた。

 

「――うぅぉおぉりゃアッ…!」

 

 彼等の攻めの合間を縫うように、単騎で攻撃を仕掛ける灰の剣士(現・褪せ人)

トレントで接近し2段ジャンプで高く跳躍、そして瞬時にトレントを指輪に仕舞い込み自身はトレントの背を利用し尚も跳躍。

そしてラダーンの頭上目掛け、渾身の振り下ろしで切りかかった。

 

「――…ッ!?」

 

 だが彼の奮闘虚しく、その一撃は軽々と受け止められてしまう。

しかし剣を交えた瞬間、彼は言い様のない違和感を覚えていた。

とはいえ違和感の正体を考える暇もなく、着地した瞬間を狙われた彼はラダーンの反撃に遭う。

 

「――ぐブァッ…!!」

 

 巨大な曲刀による横薙ぎが、彼を襲った。

辛うじて中盾の防御が間に合い、直撃だけは何とか避けたものの彼方へと吹き飛ばされてしまう。

凄まじい速度で地面に叩き付けられた彼だが、砂丘という地形が幸いし叩き付けによる衝撃は微細である。

 

「――灰の方…しっかりして下さいっ…!」

 

 幸か不幸か、吹き飛ばされた先には剣の乙女が居た。

派手に吹き飛ばされた彼に駆け寄り、治癒の奇跡を発現させ回復に努める。

 

「灰の方…腕がッ…!」

「…脱臼しているだけだ、折れてはいないッ…!」

 

 盾防御に成功したはいいが、ラダーンの尋常ならざる膂力を真面に受け止めたのだ。

その衝撃までは相殺できず、加えて中盾も中央からVの字に圧し曲がってしまう。

もう、この盾は使い物にはならないだろう。

また彼の腕も在らぬ方向へと曲がり、肘関節が外れていた。

相当の痛覚を感じているのだろう。彼は闘志を失ってはいないものの、その口調は途切れがちに苦し気だ。

 

「剣の乙女よ、協力してくれないか…?」

「私にできる事なら…」

 

「真言魔法は使えるか?」

「出来ますわ。奇跡ほどではありませんが」

 

「私と共に来てくれ…、もう一度ラダーンに挑む」

「はい、覚悟を決めねばなりませんね…!」

 

 剣の乙女は奇跡のみならず、真言魔法にも精通している。

その事実を確認した灰の剣士(現・褪せ人)は、奇跡で治癒を行う彼女に協力を打診した。

かなり危険が伴うが、彼は再度ラダーンへと挑もうというのだ。

殆ど無謀にも近い行動とも言えたが、何やら考えがあるかのような素振りを見せる灰の剣士(現・褪せ人)

特に反論する事もなく、彼の要請を受け入れた剣の乙女。

治療を終え再び腕が使えると事を確認した彼は、もう一度トレントを召喚し騎乗。

彼の後ろに、剣の乙女も便乗する。

彼と共に戦場を駆け巡る機会が訪れ、不謹慎と知りつつも剣の乙女は気分を高揚させる。勿論そんな事は、おくびにも出さない彼女。

二人は再びトレントを駆り、ラダーンの元へと急行した。

 

一方主戦場では、ラダーンの猛攻で更なる不利へと追いやられていた。

主力を担っていたソラールやジークバルドも重傷を負い、ブライヴや金剛石の騎士も吹き飛ばされ動きが鈍い。

オーベックやドローレスが魔法や弓矢で援護するが、効果の程は限定的だ。

ラダーンも傷を負っているのは間違いないのだが、正気を失っている事も影響し苦悶の素振りを見せる気配がない。

寧ろ、攻撃は更に激化し戦況は悪化の一途を辿っていた。

 

――皆、もう少し耐えてくれッ…!

 

トレントで間近へと迫った、灰の剣士(現・褪せ人)と剣の乙女。

 

「行くぞ、作戦通りに――」

「良くてよ!先ずは…剣の君よ、見るべき事を見、語るべきを語る者に、守りの加護を――聖壁(プロテクション)…!」

 

 暴れ回るラダーンとの一定の距離まで接近し、まず剣の乙女が奇跡『聖壁(プロテクション)』を発動させ、彼の背へと設置した。

 

「――頼む、思いっ切り吹き飛ばしてくれッ!」

「――痛いですわよ!ウェント、スクレスクン、トオリエンス…突風(ブラストウィンド)!」

 

 指示を受けた剣の乙女は、彼の背に目掛け真言魔法『突風(ブラストウィンド)』を発動。

金等級冒険者でもある彼女の魔力は桁外れだ。

初級者が行使する突風魔法は、物体を移動させる程度の威力しか発揮しない。

しかし彼女が行使する突風の威力は、弾丸の如き衝撃波を伴い、部位を絞れば狙った部分だけを削り取る事も出来るのだ。

そんな常識外れの魔法を、灰の剣士(現・褪せ人)へと放つのだ。

先ず無事で済むはずもないのだが、彼女は予め聖壁(プロテクション)の奇跡を彼の背へと設置していた。

その恩恵もあり、彼は痛痒を負う事もなくトレントから一瞬で吹き飛んだ。

彼女の放った凄まじい衝撃で、彼自身は()()()()()と化しラダーンへと激突。

余りの高速のため、ラダーンも迎撃が遅れてしまった。

そしてラダーンの懐へと飛び込んだ彼は、透かさず白教の奇跡を発動させる。

 

「――フォース、最大出力っ!」

 

 奇跡を発動させた瞬間、彼の全身から衝撃波が噴出。

最大出力で放った衝撃波は全方位に拡散し、ラダーンと馬を強制的に引き剥がした。

 

彼の作戦――。

 

それはラダーンと馬を引き離す事にあった。

腐敗の影響なのかどうかは分からないが、ラダーンは足首が消失していた。

ただ切断面からして、彼自身が自ら切り落としたのかもしれない。

その身体では、真面な歩行は叶わない筈なのだ。

しかし馬のお陰で、巨体ながら高速移動を確保していたラダーン。

馬さえ封じれば、ラダーンの機動力を奪う事ができ戦局の挽回も叶うのではないか。

彼は、そう画策していたのである。

だが理由はそれだけではない。

ラダーンと剣を交えた感触で、彼は一種の違和感を感じていた。

 

軽かったのだ、異様に。

 

もしラダーンが見た目通りの体重なら、実に数百キログラム~数トンを誇るだろう。

しかしそんな巨躯にも関わらず、あの痩せ細った馬は軽快に戦場を駆けていた。

これはラダーンが重力魔法で、自らの体重を軽量化させていたからに他ならない。

しかし異様な軽さでは、あの馬鹿げた攻撃力は発揮できないのも確か。

恐らく攻撃の瞬間だけ、振るった腕部分と武器だけを元の重さに戻していたと推察される。

そのお陰で、馬の負担を最小限に押さえつつ並外れた攻撃を繰り出す事ができた。

 

ならばラダーンの重力魔法を逆手に取り、軽い体重のラダーン目掛け奇跡『フォース』を発動した。

しかも持ち得る最大出力でだ。

作戦は成功。

彼の思惑通り、ラダーンは馬から大きく引き離され砂丘へと叩き付けられた。

同時に馬も転倒し、砂丘へと横たわっている。

 

――好機っ!

 

この時を待っていた。

灰の剣士(現・褪せ人)は透かさず馬へと疾走し、首を刎ねるべく剣を振り上げる。

 

「――悪く思うなッ…!」

 

 馬に罪は無いのは分かっている。

しかし心を鬼にし、馬だけでも確実に始末せねば此方が全滅するのは確定していた。

動物を切るのは心が引けるが、彼はラダーンの馬に剣を振り下ろす――事ができなかった。

 

馬の首筋に剣が迫る寸前、彼は手を止めていた。

情に絆されたとでも言うのか。

この期に及んで。

()るか()られるかの、この戦場で。

それは違う。

彼は、震える手を止めながらラダーンの方へと向いている。

 

『待て……、待って…くれ……』

 

 確かに聞こえる、弱々しくもハッキリとした声。

将軍ラダーンの方から――。

 

「この声…ラダーン…なのか…?」

 

 剣を構えたままラダーンの方へと見やる、灰の剣士(現・褪せ人)

戸惑い閉口したまま、彼はそれ以上動けないでいる。

 

「たの…む…、我が…愛馬…見逃してやって…くれ…」

 

 間違いない。

その声は確かに、ラダーンの口から発せられていた。

灰の剣士(現・褪せ人)だけではなく、戦場に居た全ての参加者たちも困惑し呆然と佇んでいる。

 

『ラダーン…?』

『ジェネラル・ラダーン…?』

『喋ったぞ…!?』

『正気を失っている筈なのに…?』

『これは…まさか…?』

 

 周囲も口々に、この異様な現状に疑念を口にする。

程無くして、一人の老騎士が声高らかに叫ぶ。

 

「――将軍ラダーンが、()()()()()()()()ぞぉッ……!!」

 

 老騎士ジェーレンの叫びと共に、周囲から喝采が湧き起こる。

また味方陣営だけでなく、ラダーンに尽き従っていた僅かな英霊たちも雄叫びを上げていた。

 

「え…なになに…、何が起こったの?」

「どうやら、あのラダーンが正気を取り戻したらしいな」

「あの赤い腐敗を跳ね除けた…とでも言うのか…?」

 

 やや遠間に居たライザ、ネフェリ、ドローレスも困惑を挟み状況を理解する。

 

「この戦いの行方…どう流れる?」

「よもや、この土壇場で正気を取り戻そうとは」

「思わぬ方向に推移したな」

 

 ソラール、ジークバルド、金剛石の騎士も剣を収めラダーンの方へと近寄った。

敵味方関係なく、皆は武器を仕舞いラダーンの方へと歩み寄る。

無論、フォースの衝撃波で吹き飛ばされていたラダーンの馬も立ち上がり、ヨロヨロと主の方へと寄り添った。

 

……

 

将軍ラダーンは正気を取り戻した。

あり得ない筈の事象に、歓喜の声を上げる参加者たち。

互いに敵味方同士の筈の君主連合とローデイル部隊。

しかし彼等は、その様な垣根を越え心底喜びに打ち震えている。

 

『灰人さ~ん、…これはいったい…!?』

 

 赤獅子城の祝福で復活した、輝石の貴公子も再び駆け付けたが現状に困惑する。

 

脳内にまで腐敗に侵食され、本来なら二度と正気を取り戻す事は叶わなかったラダーン。

しかしながら、この戦いを経た事で彼の身体に何らかの変化が起きたことは間違いない。

何処の何が、どう作用したのか誰にも断定できないが、彼は確かに嘗ての心を取り戻していた。

 

「…皆の者、感謝に…堪えぬ。我を見送るため…、長き時をかけてまで…」

 

 しかし腐敗の浸食は予想以上に進み、ラダーンの余命は残り少なかった。

どのみち、彼には避けようのない死が訪れる。

その事実を告げられ、参加者たちは本心で落胆する。

特に生存していた赤獅子兵団は、正気を取り戻したラダーンを担ぎ上げ赤獅子軍の再編を夢見ていた位だ。

その落胆と哀しみは如何ほどか。

 

「間も無く…我の魔力も命と共に…尽きるであろう…」

 

 途切れがちで弱々しいラダーンの口調は、余命いくばくもない彼の現状を如実に表している。

やはりラダーンの命は間もなく尽きるのだ。

その証拠に、彼等の頭上では幾多もの星々が再動を始めている。

ケイリッドを守るため、溢れんばかりの魔力を割き飛来する隕石を食い止め続けていたラダーン。

彼が死ねば、星々と共にラニの運命も動き出す。

しかし幾つもの隕石の一つは、確実に近辺へと落下する事が確定していた。

もしも此処に衝突すれば、このケイリッドの大半は焦土と化すだろう。

それにより赤い腐敗は消滅するだろうが、僅かに生存している命は確実に死滅してしまう。

現に、ラダーンの頭上では巨大な火球が徐々に迫りつつあった。

隕石と化したラダーンとは比較にならない熱量と質量を誇る、巨大隕石が間もなく此処に落下する。

残念だが今から退避したとて、間に合うものではなかった。

 

「世話を掛けたな…ジェーレンよ…、客将である其方に、ここまでする義理など無いというのに…」

 

 力無く立ち上がり、痩せた愛馬に再び騎乗するラダーン。

確実に弱っている筈の彼だが、その動作は威風堂々としている。

破砕戦争が終結し幾星霜――。

気の遠くなるような時間を経て尚、彼の客将でもある老騎士ジェーレンに感謝を述べた。

 

「将軍ラダーン、この戦祭り…。貴方様を見送る為に開催しましたが、正気を取り戻す事までは想定しておりませんでした。…しかし私は嬉しゅうございます。こうして再び貴方と言葉を交わせた時間に…」

「…フッ…我もだ…」

 

 正気を失い暴虐に彷徨うラダーンを、せめて高潔な武人として見送りたい。

それが、ジェーレンが催した戦祭りの真意であった。

だがラダーン自身が、今こうして正気を取り戻しているという事実。

そして僅かな時間とはいえ、こうして言葉を交わす事ができたという現実。

ジェーレンの心は晴れやかに満たされていた。

 

「さて…名残惜しいが…別れの時だ…。世話になったな、ジェーレン…そして我が愛する部下…否…仲間達よ…」

 

「ラダーン…!」

「「「「「「――将軍ラダーンっ!!」」」」」」

 

間もなくラダーンは力尽きる。

愛馬に跨った彼はジェーレンを始めとした嘗ての部下に対し、別れの言葉を継げた。

 

「見事な戦であったぞ…、勇猛果敢な褪せ人諸君…」

 

 そして灰の剣士を筆頭とした褪せ人たちへも声を掛けた。

 

「ラニへ伝えてくれ…。待たせたな…と…」

 

 最後にラダーンは身内でもあるラニに伝言を残し、馬と共に天空を見上げた。

彼の視線の先には、巨大な灼熱隕石が直ぐそこまで迫っていた。

灼熱化した隕石の光に照らされ、この砂丘は更に明度を増している。

加えて気圧まで激しく変化し、砂が宙へと舞い散っていた。

 

「――将軍ラダーン、貴方は何をッ…!?」

 

「知れたこと…、最後の命を…燃やし、星を砕くまで…!」

 

 天に向かわんとするラダーンに声をかける、灰の剣士(現・褪せ人)

ラダーンは残り少ない全生命力で、此処に衝突せんとする巨大隕石を食いとめようとしていた。

決意を固めると共に、ラダーンの周囲からは重力を伴う魔力が溢れ出ている。

その渦は紫色を帯び周囲の砂をも巻き込んでいた。

 

「――皆の者っ!偉大な英雄、将軍ラダーンの最後の雄姿、とくと見届けよッ!!」

 

 ジェーレンは声高々に叫び、ラダーンの最期を目に焼き付けよと命を下した。

周囲は無言ながらも誰一人反発する者は居らず、静かに従いラダーンへと傾注する。

 

「――さらばだッ!皆の者、狭間の地は任せたぞぉッ!!」

 

 今までの弱々しい口調からは想像も出来ない程の雄々しい雄叫びを上げ、ラダーンは愛馬と共に天空へと飛び駆けた。

そして残された者たちへ、狭間の地の未来を託す。

 

「――ぬぅうぅぉおおおぉォッ…!!!」

 

 ラダーンは愛馬と共に、咆哮を上げながら巨大隕石へと直進した。

また彼の全身からは、紫色の重力波が纏わり付いている。

 

橙を通り越し白に近い光を発する、巨大な灼熱隕石。

それに立ち向かうは、破砕戦争の英雄にしてデミゴッド最強と謳われた将軍ラダーン。

 

またの名を、()()()()()()()()

 

「――我ぇッ!再び、星へと挑まんッ…!!!」

 

 それが最後の言葉だった。

魂の叫びと共に、ラダーンと巨大隕石は衝突し異常な大爆発を引き起こす。

大爆発の余波は地上にまで到達し、桁外れの風圧と熱波が彼等へと降り注いだ。

そして爆発に伴う異常な光が天空全域を覆い尽くし、彼等の視界はホワイトアウトを引き起こしたのである。

 

………

 

……

 

 

   ―― DEMIGOD FELLED (半神半人 討伐セリ) ――

 

   ―― ラダーンの大ルーン入手 ――

 

将軍ラダーンは逝った。愛する馬と共に――。

迫り来る巨大隕石を食いとめ、彼は消滅した。

今も彼等は、砂丘に佇み呆けている。

気が付けば、あの赤く淀ん空は紺碧に彩られ星々が躍動を再開していた。

 

「見てくれ、星々が――」

 

 空を見上げるネフェリが天空へと指をさす。

幾多もの星は光の尾を引き、次々と彼方へと消え去った。

そして一際巨大な光の束が、此方へと迫ったかと思えば然る方角へと流れ落ちてゆく。

 

「アレは…リムグレイブの方角だ…。そうか…遂にラニの運命が――」

 

 流れ落ちる方角を見つめるブライヴ。

光の束が落ちた先は、どうやらリムグレイブで間違いない。

衝突の瞬間、大地を揺らさんばかりの振動と轟音が此処にまで伝達した。

ブライヴの言う通り、停滞していたラニの運命がいよいよ動き出すという事だ。

 

「褪せ人…いや灰の剣士…、見たか?目の前で、星の落ちる瞬間を!ラダーンも、とんでもないものを封じていたものだ。正に神話の英雄よ。…だが、これで道は開けた。ラニの運命、ノクローンへの道が――」

 

 長き時を経て、待ち望んだノクローンへの道――。

何時になく興奮気味なブライヴ。

 

「ブライヴ…、次に再開する時は()()()()()()()()()()のだぞ」

「フッ…そうであったな。だがお前は確かにラニに協力し共に戦った。たとえ()()()()でなくとも、これまでの共闘した事実は変わらんよ。星の落ちた場所で、落ち合おう。そしてまた、共に戦うとしよう。ラニのために…!」

 

「ブライヴ…」

 

 これでラニとの義理も、一応は果たした事になる。

先程から徐々にだが、睡魔に見舞われていた灰の剣士(現・褪せ人)

これは四方世界帰還の前触れと判断していいだろう。

次の再開と共闘を心待ちにしていたブライヴだが、眼前の褪せ人が()()()()()宿()()()()()とは限らないのだ。

少々冷徹な気もするが、事実だけをブライヴに告げておく。

しかしブライヴは気にした風でもなく、次の目的に向け士気を高揚させている。

 

「さて、そうと来れば長居は無用だ。世話になったな、お前達。短い間だったが、中々奇妙な旅だったぞ」

 

「世話になったのは此方の方だ、ブライヴ殿」

「いつかどこかで、また会おうねブライヴさん…!」

 

 ここに留まり無駄に過ごす気はない。

次なる目的が定まったブライヴは、直ぐにでも向かうべく動きを再開する。

別れを告げるブライヴに対し、金剛石の騎士やライザも別れの挨拶で返した。

その後、ブライヴは忽然と姿を消し、もうその場には気配さえ消え去っていた。

 

「何をしておるのだ、アレキサンダー殿?」

「おお、ジークバルド殿…?」

 

 また別の個所で、アレキサンダーに話し掛けていたジークバルド。

よく見ればアレキサンダーはしゃがみ込み、忙しなく何かを手掴みで自らの壷の中へと放り込んでいた。

 

「見事な戦いであったな。貴公こそ、英雄よ。…それに比べ俺は、ダメ壺であった。一撃でひび割れ、中身がかなりこぼれてしまって…そこからは、ただの臆病者だった…貴公に合わせる顔もないよ…」

 

 序盤戦こそラダーンに挑みかかっていた彼だが、ラダーンの猛攻の前に遭えなく敗退し自信を喪失していた。

 

「何を申すか、アレキサンダー殿。貴公の戦いぶりも確と見ていたが、その様な印象など一切抱いていないぞ私は…!」

「有難う、ジークバルド殿。だが、俺は諦めてはいないぞ。幸いここには、戦士たちの死体が沢山ある。それを集め、俺の中に詰め込めば、俺はまた戦士の壺になれる…。それに、この地の死体は皆すばらしい。さすがは、あの破砕戦争を戦った戦士たちよ。貴公、俺はもっと強くなるぞ。楽しみにしていてくれよ。いつかまた会う時をワッハッハッハ…!」

 

「それでこそだ、アレキサンダー殿。さぁ、赤獅子城まで一旦戻ろうではないか」

 

 アレキサンダーは、戦死者の遺体を自らの壷に詰め込んでいた。

鮮血の滴る血肉を壺に詰め込むという傍目に見れば気味の悪い動作だが、ジークバルドは一切気にせずアレキサンダーの勇猛ぶりを褒め称える。

そして勝利の祝杯を挙げるべく、赤獅子城へと戻る旨を伝えた。

 

こうして将軍ラダーンを見送る『戦祭り』は終焉を迎え、皆は一度赤獅子城へと帰還する。

この激戦を生き残った僅かな参加者たちは、それぞれの道を歩むべく帰路へ着き赤獅子城を後にした。

またアレキサンダーも祝宴を交わした後、そのまま赤獅子城を去った。

今この城に残っていたのは、灰の剣士(現・褪せ人)を始めとした彼等だけとなる。

そして、もう戻らないサロリナと調香娘にも追悼の意を捧げ、彼女達の死を悼んだ。

 

「戦祭りは、終わったか。勇者たちよ、感謝しよう。素晴らしい、戦祭りであった。将軍も、きっと喜んでおられる。よもや正気を取り戻し、僅かとはいえ言葉も交わせた。腐敗に狂い爛れていくよりも、よほど誉ある最期だったろう。……さて、ようやく、儂の役目も終わった。もうこの砦に残る理由もない。旅に出ようと思っている。…儂にも、儂だけの、古い思いがあるのじゃよ。縁があれば、またどこかで会おう。勇者たちよ」

 

 最後の言葉を交わし、老騎士ジェーレンも赤獅子城から姿を消す。

 

「…アッという間に寂しくなったね、さっきまで大勢人で賑わっていたのに…」

 

 祝福を囲み、残りの酒や食事を味わいながら、亜人ボックは辺りを見回していた。

戦祭り前の赤獅子城は、大勢の人々が集い犇めき合っていた。

黄金律の狂った狭間の地において、これ程の正気を保った人々が一堂に会したのは破砕戦争以来ではないだろうか。

あり得ない程の賑わいも、今や夢の跡――。

改めて見てみれば、この広場も荒れ果て閑散としている。

 

「さて、我々は、もう行くとするよ」

 

 ネフェリたちは立ち上がり、此処を去る事を告げた。

 

「一度円卓に立ち寄り、義父ギデオンに別れを告げようと思う。我々は旅に出る事にした」

「私も彼女と共に行こうと思ってな。今度はドローレス個人として――」

「オイラも、この人達について行く事にしたよ。この人…なんか王様みたいに見えてさ…!」

「私も、彼女たちに付いて行きます。もうカッコウ騎士団に戻る気はありません」

 

 行くアテがあるらしく、ネフェリたちは円卓に立ち寄りケジメをつける決心を伝える。

また眠りのドローレスもギデオンにではなく、ネフェリと旅を共にする積りのようだ。

そして亜人ボックも、ネフェリの旅に同行する決意を固めている。どうやらネフェリの高潔な精神に当てられ、王の様な印象を抱かせていたらしい。

一人生き残ったカッコウ女兵士も、ネフェリの一団に加わる旨を告げた。

 

「そっか、行っちゃうんだね。皆、どっかで会えるといいね。…さよならは、言わないよ」

「気を付けてな、ボックも…他の三人も」

 

「貴女の心が戻って良かった、ネフェリ・ルー。やはり貴女は、誇り高き戦士…!」

 

 別れを告げる4人に、ライザと輝石の貴公子は少々寂し気な表情で言葉を返す。

また灰の剣士(現・褪せ人)も、ネフェリへと言葉を送った。

 

「貴方が託してくれた、古き嵐の匂い…忘れはしない…!私は…ネフェリ・ルーは戦士だ…!その誇りは、何時までも我が心と共に――」

 

 最後にネフェリも、あの王を待つ礼拝堂の事に言及し感謝の意を示す。

その言葉と共に、彼女達は静かに赤獅子城を去った。

 

「さぁ皆、最後に、もう一度祝杯を上げようではないか…!少々湿っぽい空気に包まれたのでな、我らは大業を成し遂げたのだ…胸を張らんとな、ウワハハッ…!」

 

 ここでカタリナのジークバルドが、沈んだ空気感を盛り上げるべく今いちど祝杯を上げようと提案した。

 

「うむ、良かろう!ではアレで行くか、ジークバルド殿…!」

 

 ソラールも賛同し、例の方法で祝杯を挙げる事にする。

彼等のやり取りを知らない者達は、疑問符を浮かべるのみだが、灰の剣士(現・褪せ人)が真似ればいいと付け加えた。

その後、ジークバルドが再度酒をカップへと注ぐ。

 

「では…コホン…。貴公ら勇者たちの勇気と――」

 

 最初にジークバルドが――。

 

「我らが知勇――」

 

 次にソラールが続き――。

 

「そして我々の栄ある勝利に――」

 

 灰の剣士(現・褪せ人)も二人に合わせる。

最後に3人が声を合わせ、手にしたカップを掲げた。

 

「「「――太陽あれっ…!…さぁ、皆も御一緒に…!」」」

 

「「「「「――太陽あれッ…!」」」」」

 

 3人に促され、皆も彼等に倣い手にしたカップを掲げた。

あの火継ぎの時代で幾度と繰り返された、カタリナ式の祝杯法式。

やはりどこまで行っても、ジークバルドはジークバルドだった。

沈んでいた空気は幾分盛り上がり、彼等は再び祝宴を楽しむ。

しかし満たされた時間は、そう多く残されていなかった。

 

「ふワぁあ…、何かぁ…凄く…眠いね…」

「酒の所為…だけではなさそうだが…な…」

 

「皆、それは四方世界に帰還する前兆だ。私は経験しているのでな」

 

 ライザと金剛石の騎士は、強烈な睡魔に襲われている事を皆に告げる。

強い酒を飲んでいたが、これ程の眠気を覚える事は今まで無かった。

その二人の反応を見た灰の剣士(現・褪せ人)は、四方世界に帰還する前兆であると説明する。

 

「そっかぁ…、つぎ目が覚めたら…元の…世界だと…いいね…おや…スミ…zzz」

「では私も少し眠っていこう…、祝杯の後は、そうと相場がきまっているからな…。…ぐぉォ…zzz」

 

 それを耳にしたライザは、無造作に横になり、そのまま深い眠りへと就く。

彼女に続きジークバルドも、あの時と同じく腰を下ろしたまま寝イビキを掻き意識を手放した。

また他のメンバーも次々と睡魔の誘うままに従い、目を閉じ眠りへと就く。

そうする事暫し、眠りへと就いた者から姿が消え去った。

 

「皆…四方世界に…帰ったんですね…」

「そうだ…、貴公も眠気を覚えているのだろう?」

 

「はい…。けど…あの女…ちょっと残念です…。こんなアッサリと…逝くなんて…」

「あの調香師の娘の事か…?」

 

 いま此処に残っていたのは、灰の剣士(現・褪せ人)、剣の乙女、輝石の貴公子の3人だけである。

彼は、あの調香娘について言及し、突然訪れた彼女の死に少々消沈気味だ。

いがみ合いと口論が絶えなかった二人だったが、いざ別離が到来してみれば空虚な気持ちを抱かざるを得ないのだ。

あの鈍石のトープスとの別れは至極真っ当でもあったため、調香娘との死に別れは何処か虚しいものを感じていたのである。

乱暴な言葉使いの調香娘だが、そんな彼女に憎めないものを感じていたのも確かであったのだ。

調香娘を思い出し、暗い表情を浮かべた輝石の貴公子。

 

「彼女の事を覚え続けてあげればいい。それが何よりの手向けだ」

「そうですね…、その通りです…。フゥ…、僕も…、少し気がゆるんだら…眠く…なって…。……zzz」

 

 短い付き合いだったが、調香娘と最も交流したのは輝石の貴公子だ。

ならば何時までも記憶し続けるのが、彼女に対する最大の供養となるだろう。

灰の剣士(現・褪せ人)に、そう諭された輝石の貴公子は、自身の心を一段落させ強烈な睡魔が急激に押し寄せた。

彼は抵抗する間もなく、そのまま睡魔に委ね深い眠りへと就き姿を消した。

 

「サロリナさん…」

 

 いま此処に残っていたのは、剣の乙女と灰の剣士(現・褪せ人)の二人だけ。

彼女は、指巫女サロリナを喪った事に心を痛めている。

歩めども歩めども、成就される事のない運命を背負わされた指巫女サロリナ。

その幸薄い境遇の彼女に、剣の乙女は言いようのない親近感を覚え親し気に接していた。

またサロリナも剣の乙女に心を許し、そのまま二人は友人関係を築いていたのである。

しかし灼熱隕石化した将軍ラダーンの前に、サロリナは呆気なく蒸発し生涯を終えてしまった。

あまりに唐突なな別れを前に、剣の乙女は彼に寄り添った。

 

「アナタぁ…クスン…」

「剣の乙女よ…」

 

 彼の肩に顔を傾け、彼女は悲しみに暮れた。

今は誰も居ない。

彼も彼女の肩を抱き寄せ、二人は暫く抱き合ったまま時間を過ごす。

 

「スゥ…スゥ…zzz」

 

 そのまま剣の乙女は寝息を立て、程無くして姿が消え去った。

どうやら彼女も、四方世界に無事帰還できたようだ。

いま赤獅子城に残っているのは、灰の剣士(現・褪せ人)だけとなる。

 

「……そろそろ出てきていいぞ、メリナよ…!」

 

 誰も居ない虚空に向かい、声を投げ掛けた灰の剣士(現・褪せ人)

彼は、久しく口にしていない霊体の少女『メリナ』の名を声に出す。

その名を出した途端、彼の目の前にスッと姿を現した旅装束の少女が一人。

彼女こそが、灰の剣士の宿主である褪せ人と契約を交わし、黄金樹の麓へと連れて行くよう要求していたメリナである。

 

「…皆に紹介したかったのだがな」

 

 今の今まで、メリナは姿さえ現す事はなかった。

メリナの事も紹介しようと思っていた彼なのだが、彼女が姿を見せないため断念していたのである。

 

「不必要に関わる気はない、私の目的はただ一つだけ――」

 

 素っ気なく返すメリナ。

彼女の目的は狭間の地を救う事にあり、人との接触に執着はなかった。

 

「これで、複数の大ルーンは揃った」

「ああ。だが、私はここまでの様だ。後は、この褪せ人の仕事――」

 

「だけど結果的に協力してくれた。これでローデイルの封印も解け、黄金樹の麓に行く事ができる」

「お互いの利害が一致した結果だ。私も狭間の地の力を手にしたかった故な」

 

「……。旅の途中で耳にしていた。貴方の言う例のロスリックなる地にて、()()()()()()()の存在…」

「それは私にも分からぬ。現地を目にしてみない事には…な」

 

「……」

 

 エルデンリング修復の必要最小限の条件である、大ルーンの複数取得は叶ったのだ。

これで狭間の地を救う足掛かりは出来たのだが、メリナは四方世界と繋がっているという『朽ちた狭間の地』について言及する。

灰の剣士たちがリエーニエを旅していたが、実はメリナも姿なき霊体として行動を共にしていたのである。

その過程で耳にする事ができた『朽ちた狭間の地』という存在。

聞き耳を立てるに、滅び去ったとしか思えないような内容ばかりであった。

事の詳細を改めて訪ねたメリナだが、灰の剣士(現・褪せ人)も実際まだ目にしてはいないため詳細の言及は避けた。

 

「すまぬ、ここまで関わっておきながら無力な私を許して頂きたい」

「いいえ。今日まで貴方は命懸けで協力してくれた。それだけで十分…有難う」

 

 例の『朽ちた狭間の地』が、ここの未来の姿なら救済は失敗した可能性も否定し切れない。

それが近い将来なのか遠い未来の話なのか、詳しい時間軸までは分からない。

ただ力を手にしたいという我欲の為に、聖黄金樹を通じ狭間の地に降り立った灰の剣士。

我ながら浅ましい考えを抱き行動を起こした事に、メリナへと謝罪の意を向ける。

しかしメリナは彼を攻める事もなく、結果的に悲願成就へ近付けた事に対し感謝の意で返した。

 

「どうやら、もう直ぐ私も帰還するらしい。これが最後の別れとなるだろう。この出会いに感謝する、メリナよ」

「私の方こそありがとう、灰の剣士。貴方の雄姿は忘れない」

 

 彼を襲う睡魔は益々重みを増す。

四方世界へ帰還する時が近づいている証拠だ。

両者は、今までの出会いと協力を感謝し合う。

 

「それじゃあ、私は行く。…さようなら…とは敢えて言わない」

「…ふ…またな」

 

 その会話を最後に、メリナは姿を消した。

 

「朽ちた狭間の地…か…」

 

 メリナが去った後、ロスリックと繋がっているとされる、もう一つの『朽ちた狭間の地』について思案を巡らせる。

一説によれば、全域が灰塗れとなり黄金樹さえ朽ち果てているというではないか。

その文言だけを基準とすれば、滅び去ったと判断するのが妥当だ。

もしそうだとすれば、この褪せ人は狭間の地の救済に失敗したという結果に繋がらないだろうか?

 

「このまま残るべきなのか…私は…?」

 

 そうさせないため、四方世界の『聖黄金樹』は自分を此処に呼びよせた?

その仮説が正しいとするなら、現在の事象にも一定の説明もつくのである。

 

「…クソッ…この期に及んで――」

 

 自分には自分の果たすべき使命があるというのに、それを棚に上げ狭間の地に対する責務を背負おうとしている自分が其処に居た。

いざとなれば容易く揺らぐ意志の弱さに、灰の剣士《現・褪せ人》は石畳の地面に拳を打ち付け歯軋りする。

 

『お前に、そこまでの義務は生じぬよ』

 

 揺らぐ意志に翻弄される彼の耳に、虚空より声が届く。

聞き覚えのある、若い女の透き通った声だ。

彼がハッと声の方へと向いてみれば、其処に一陣の冷気が吹き荒れ古びたローブ姿の女が姿を現す。

 

「…魔女ラニ…?」

 

 姿を現した女――彼女の名は月の王女ラニ、またの名を魔女ラニ。

 

「…貴女が何ゆえ此処に?」

 

 思いもよらぬ人物の出現に、彼は少々の困惑を見せた。

 

「お前達の戦働き、まこと大儀である。…協力こそすれど、お前は一定の責務を果たしたのだ。その証拠に睡魔に見舞われ、間もなく帰還しようとしている。お前は役割を果たしたのだ、誇るとよい」

 

 ラニの言う通り、今の彼は褪せ人に乗り移っている状態だ。その現状に乗じ、彼の意のままに行動して来た訳だ。

大ルーンを習得しエルデンリングを修復させ、この褪せ人はエルデの王と至らねばならない。

それが、この男の課せられた使命だ。

だが朽ちた狭間の地という存在を知り、灰の剣士の心は揺らいでもいる。

 

本当にこのまま去っていいものだろうか…と。

 

しかし惑う彼に向けラニは、一定の責務は果たしたと諭したのである。

これ以上背負う必要もなく、後は褪せ人の役割である――と。

 

「さて、忘れぬ内に授けておこう。受け取るが良い」

 

「…この二振りの剣――」

 

 ラニが此処に訪れた理由――。

それは謝礼を授ける為でもあった。

彼に差し出された二振りの剣――。その武器は其々が、月と夜の力を宿していた。

 

―― 名刀・月隠 ――

 

―― 夜と炎の直剣 ――

 

「これは…神秘を宿した刀剣……!」

 

 二振りの宿す神秘の魔力を前に、彼は目と心を奪われ暫し魅入っている。

 

「せめてもの謝礼だ、勇者よ。今後の戦いに必要となろう」

 

「魔女ラニ…、感謝の至り…!」

 

 二振りの剣を取り、彼は暫く心を奪われ幾度と素振りを繰り返した。

だが、それ等の刀剣が威力を発揮させる条件となる能力値が、今の彼には少々不足気味にも思える。

力や技量はともかく、魔法的な力の源である魔力や信仰が些かに足りなかった。

それでも彼は、ラニに深い感謝を示し深い一礼で応える。

 

「後の事は宿主である褪せ人に任せ、お前はお前の使命を(つつが)なく果たすとよい…。あと彼女が、お前に話があるそうな。…さらばだ、勇者よ」

 

 用件も済ませたとばかりに、ラニは静かに姿を消す。

 

『3本指には気を付けろ。既に四方世界での介在あり』

 

 去り際、そう言い残しラニは姿を消す。

彼女の去った跡には、雪と冷気が薄っすら立ち込めていた。

少々似付かわしくない、灼熱と赤い腐敗に塗れたケイリッドに冷たい雪と風が残留している。

 

――3本指…狂い火…、ヴァイク…。

 

3本指の名を耳にした彼は、あのヴァイクとランサクスとの出会いを思い返す。

視界に納めた瞬間から、狂わしい程に精神が荒れ狂わんばかりの衝動に駆られる、例の黄色い火。

紛う事なき達人であった『竜槍のヴァイク』でさえ人生を狂わせ、あの赤雷の古竜であるランサクスさえも危険視していた狂い火を司る3本指。

(本編前夜編 第146話参照)

ラニが言うには、既に四方世界にも影響を及ぼしているというのだ。

強大な存在である事には間違いない『3本指』という存在。

彼は暫し思案に耽っていた。

ラニが去った後、徐に浮かび上がる魔法陣。この魔法時にも見覚えがある。

 

「やぁ、漸く私の出番だね、灰の剣士♪」

「アルケミーのマイスター?」

 

 少し意外とでも言うべきか。

ラニ後に姿を見せたのは、あのアルケミーのマイスターだった。

 

「本当は、ゆっくりと話をしたい処だけど、君…直ぐに消えちまいそうだね。…だから要点だけを伝えるよ」

 

 あくまで気さくに振舞うマイスターだが、今の彼は間もなく四方世界に帰還する寸前だ。

彼も彼で睡魔に抗いながら、彼女の話へ耳を傾ける。

 

マイスターの伝えたい要件とは――。

 

一言で言えば、彼女の錬金術を引き継げという内容だった。

これには流石に彼も驚き、睡魔で消えかかった意識を瞬時に覚醒させる。

 

「無理を言わないでほしい。私にそこまで能力はない…!…それに私以上の才覚なら、既に貴女が育てていた筈…!何ゆえ今更――」

 

 錬金術師としてのマイスターの実力は、拙い彼とて理解はしている。

だが彼女ほどの実力者が、なぜ今頃になり引継ぎを求めるのか彼には分かりかねた。

そもそもマイスターの弟子も複数に渡り、今や世界中で活躍しているのが現状だ。

その代表格として、金剛石の騎士が治める国にて活躍している『アーランドの錬金団』が代表格と言えるだろう。

ロロナ、トトリ、メルル、ピアニャ、ルルア…そして多少なりとも教えを授けたライザ。

才覚に個人差あれど彼女たちは、総じて高い技術と知識を有した優れた錬金術を備えている。

仮に一人だけに技術を伝授させたのなら、全てを伝えるには少々の困難が生じるだろう。

だがあれだけ複数の若き後継者が存在するのなら、全てを授け切っても不思議ではない筈だ。

そんな彼女たちと比較しても、この灰の剣士は非常に劣る錬金術しか習得出来ていないのである。

尚の事、今頃になり彼に伝授させる理由が見当たらなかった。

 

「理由ならあるさ。アレ等では、ソウルの理解が及ばないからねぇ…」

 

 アッサリと、にべも無く応えたマイスター。

ロロナを始めとする弟子たちは、誰一人としてソウルの操作を含め感知さえ出来ないのである。

ソウルの知識はあれど、技術までは伴っていない。

そしてマイスターが扱う錬金術は高度かつ多岐に渡り、その一環としてソウルを扱う術さえ存在していたのである。

 

「ソウル錬成って知ってるだろう?私の言う、ソウルを扱う錬金術は、それを独自に改良を加えたモノなんだ」

 

「……ソウル錬成まで御存じだとは……」

 

 クールラントのルドレスより授かりし『ソウル錬成』と呼ばれる錬成術。

まさかの彼女が、その技術をも知識に納めていようとは――。

 

「今まで一人として居なかったと…?ソウルを理解する錬金術師が…」

「…実は居たんだ…、何人かね…だが――」

 

 ロロナたち始めとした弟子以外にも、マイスターに関り教えを受けた者たちは居た筈だ。

そう訊ねる灰の剣士(現・褪せ人)だが、彼女は何故か寂しそうに表情を崩す。

普段飄々と相手を食ったように振舞うマイスターにしては、今の仕草は少し珍しい。

厳密に言えば、マイスターの教えを受けた者たちは、ロロナたち以外にも存在していたのである。

 

「だが…どいつもこいつも、道を踏み外しやがったよ…」

「……」

 

「一人は復讐で自分を不幸にし、一人は欲望に突っ走り、一人は直ぐに根を上げ逃げ出し、一人は才能ある癖に一般常識に欠け、最後に至っては……」

「マイスター…?」

 

 ロロナたち以外の弟子たちについて話し始めたマイスター。

正確に言えば、彼等は弟子という程でもない関係だった。

5人居た弟子たちだが、ロロナたちに勝るとも劣らない才覚の持ち主ばかりであった。

しかし人格面に問題を抱え、誰もが彼女の望む形で技術を引き継いではくれなかった。

 

復讐に執着するあまり、結果的に自分さえも破滅に向かった者。

マイスターの錬金術を、邪悪な欲望に利用しマイスターに粛清された者。

彼女の試験や試練に耐えられず、直ぐに根を上げ逃げ出した者。

有り余る才覚を備えてはいたが、一般常識に欠け無自覚に騒動を引き起こし、やむなく破門にした者。

 

そして最後の人物を語る段階で、マイスターは一旦言葉を途切れさせた。

 

「…クリント王国とやらの生き残り…、仮面の錬金術師…知ってるだろう」

「――あの男かッ…!」

 

「ああ…、気を付けな…!アレは危険な存在だッ…!」

 

 仮面の錬金術師については、彼も知る所である。

数々の妨害や介入を続け、彼自身も散々苦渋を飲まされた経験があった。

クリント王国についてだが、記憶する限りではライザと関連性が深い様にも思えるが、真相までは分からない。

数ある弟子たちの中でも、仮面の錬金術師だけは類まれなる素養を秘め、また錬金術に対する姿勢も真摯なモノであった。

当時の彼女も、彼の真摯な姿勢と志に感銘を受け技術と知識を授けるに至った。

しかし気が付いた時は、もう手遅れの段階だった。

貴重な存在や魔道具が奪われ、彼女の前から姿を消したのである。

一応は警戒し対策を施していたマイスターだが、仮面の錬金術師は本性を隠し出し抜いたのである。

 

「全てを引き継げなんて鬼畜な事は言わんさ、要諦だけでいい」

「……」

 

「まぁ今直ぐに伝授する訳じゃあないしな、近い内にだ…心の隅にでも入れておいてくれ」

 

 錬金術の伝授を伝えたマイスターは、腰を上げ立ち上がる。

 

「あ、そうそう…言い忘れた…。()()()の事だけどな――」

 

「――な…何をッ…!?」

 

 何か言い忘れていたのか、然る人物のに関して言及したマイスターはフッと姿を消す。

彼女の錬金術の引継ぎにも驚愕したが、オマケとばかりに告げた然る人物の方にも意識せざるを得ない灰の剣士(現・褪せ人)

 

「…全く次から次へと……、時間…切れ…か…。…世話になったな…あり…がとう…トレント……」

 

 マイスターのペースに翻弄され通しの彼だが、彼女が去った事で睡魔が抗い難いほどに襲い来る。

彼は途切れがちな意識を総動員し、最後にトレントを召喚しロアレーズンを差し出し謝意を告げた。

対するトレントも短い鳴き声とともに、ロアレーズンを口にし顔を寄せ直ぐに姿を消す。

 

トレントの姿を見届けた後、灰の剣士も意識を手放し遂に四方世界へと帰還を果たしたのである。

 

………

 

……

 

 

尚も変わる事のない赤い空の下では、腐敗が蔓延し嘗ての美しいケイリッドを染め上げている。

もう誰一人として存在しない赤獅子城に、一人腰を下ろす騎士鎧の男――。

暫く微動だにしなかった彼だが、やがてゆっくりと項垂れた顔を持ち上げた。

 

「…行ったか」

 

 誰に向けるでもなく独り言ちる騎士鎧の男は、褪せ人と呼ばれる存在である。

その男の前に再び姿を見せたのは、月の王女ラニ。

 

「随分回りくどい事をするのだな、其方という男は」

「……」

 

「其方なら、()()()()()()()()()()()()()()()ものを――」

「……」

 

()()()()()()()()のは何故なのだ?」

「…知りたかったのだ。あの男…灰の剣士という人間を…」

 

 ラニは疑念を投げ掛ける。

この褪せ人、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のである。

実際のところ、灰の剣士の意思を抑え込む事も出来たのだ、この褪せ人は。

だが敢えて、そうしなかった理由をラニは分かりかねていた。

 

ラニの疑念に応える褪せ人。

 

彼は、灰の剣士という男の人間性を量る為、ワザと自意識を抑え込み彼に身体を支配させていたのであった。

 

「やはり、俺とは違う動きを見せたよ、あの剣士。…特にネフェリ・ルーに関してはな」

 

 褪せ人は打ち明けた。

心折れたネフェリに『セルブスの精薬』を飲ませた理由について。

実はネフェリの心を圧し折らせ死を迎えさせる事で、四方世界に送り届けようと画策していたのである。

救済も不確かな狭間の地ではなく、未来の可能性に満ちた四方世界に。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という事だ。

灰の剣士の記憶を読み取った褪せ人は、四方世界の存在を知りネフェリ救済のため敢えて精薬を飲ませたのであった。

 

「しかしアレは、想定外の動きを見せた。まさか、ネフェリの心を救う方向に動くとはな――」

 

 だが褪せ人に乗り移った灰の剣士は、ネフェリの心を取り戻す方向で動きを見せた。

その結果、ネフェリは四方世界に流れ着く事はなく、この狭間の地で心を取り戻し自らの道を見出した。

 

「何故、四方絵界に送ろうと考えた?」

「救済の前に滅びあり。…朽ちた狭間の地…ラニ、お前も知っているだろう?」

 

「マイスターから聞いた」

「あの朽ちた狭間の地を耳にし、俺は確信したのだ。()()()()()()()していると――」

 

「何を考えている、其方は…?」

「さっきも言った通りだ。救済の前に滅びあり、この狭間の地を完全に救うには…本来あるべき『真なる人の時代』の到来の為に、今の黄金律など不要そのもの」

 

「滅ぼす言うのか、この狭間の地を?」

「そうだ。…メリナもよく聞いておけ。俺は狭間の地を滅ぼす…真に救うためにな…!」

 

 四方世界…とある地域に存在する故郷の流れ着く地ロスリック。

ロスリックの一地域である不死街には、霧の壁を隔て『朽ち果てた狭間の地』が存在しているという。

その存在を知った時、褪せ人は一種の確信を得た。

 

自分の計画は着々と進行しているのだと。

 

彼の最終目的。

それは言うまでもなく、狭間の地を救う事に他ならない。

 

しかし単に大ルーンでエルデンリングを修復したとて、それは今の黄金律の維持するのみで今の理が継続するだけに過ぎないのだ。

今の黄金律は、運命の死を取り除き環樹という一種の『生まれ直し』を繰り返すだけで、新たな生命が生まれる事はない。

遥か以前の黄金律は、運命の死さえも平等に混在し、生まれと死を繰り返す輪廻で調和が育まれていた。

現状のままでは真の滅びに向かう事は確実で、さりとて単純な『壊れかけの時代』の維持では生命の営みとも違う。

今の黄金律原理主義――。

その恩恵は一見、繁栄の極みにも似ていたが実際はそうではない。

見えない部分では、醜い日陰者が所狭しと蔓延っていたのである。

 

あの『忌み子』など顕著な例だ。

 

先史時代の黄金律では祝福として扱われていた、原初の生命の諸相。

しかし今の黄金律では、廃すべき忌みの象徴。

数多くの子を世に生み出した『永遠の女王マリカ』は、大いに悲哀に暮れたというではないか。

女王マリカも憂いていたのだろう。

今の歪んだ黄金律の恩恵を。

 

「それ故、エルデンリングを砕いた…そう言いたいのだな、其方は?」

「そうだ。今の黄金律は、『大いなる意思』どもの侵略の縮図に過ぎん」

 

「それで一度は完全に滅ぼし、然る後、新たな黄金律…いや、其方の提唱する『真なる人の時代』の到来を望むと?」

「その通り。あの『朽ちた狭間の地』とやらは、ここの未来の姿。それを聞いた俺は、計画の成功を実感している。滅びと生誕、終焉と開闢、始まりと終わりは1つに集う…そして――」

 

   ―― 灰も終焉の姿にして、誕生の兆しでもある ――

 

大いなる意思に支配された狭間の地など、もう必要ない。確かに今の黄金律に祝福された時代は、繁栄の極みにあったが長くは続かなかった。

直ぐに綻びと歪みを見せ、日陰では不幸が蔓延していたのである。

芯に狭間の地を救うには『大いなる意思』の『二本指』の介在しない時代を構築する必要がある。

その為にも()()()()()を完全に滅ぼすために、狭間の地そのものを終焉に導く必要があるのだ。

 

「その為にも大ルーンを集め生み出さねばならん。新たなる『終焉のルーン』をな」

「それを用い、今の時代を朽ち果てさせると?」

 

「然り。新たな時代を構築するのは、何も俺でなくとも構わん。王に足る誰かが、新たな時代の到来に立ち会い治めればいいだけだ」

「…其方は…」

 

「ラニ、お前の悲願成就には協力してやる、これからもな。…しかし俺の計画にも協力してもらうぞ?」

「そこまで抱え込んでいたのだな、其方は…。全く…()()()もそうだ…、其方は何もかも見透かしていたかのように…」

 

「そう悲しそうな顔をするな、ラニ。誰かが背負い犠牲とならねばならぬ…。本当に…寒い時代よの。…聞いていたな、メリナよ!其方の想像する救済とは違うが、力は貸して貰うぞ…!」

 

『……』

 

 褪せ人の計画。

それは今の狭間の地を滅ぼし、黄金律に終焉をもたらす。

そして一度滅ぼした後、新たな狭間の地を再生させ『真なる人の時代』を到来させる。

世界を治めるのは『大いなる意思』ではなく、心と命を持つ()であり()()()でなければならない。

それが彼の提唱する救済法であった。

そして()()()と化した『朽ちた狭間の地』という未来の姿の存在。

灰の剣士の持つ記憶と会話を耳にした彼は、自身の計画が間違っていない事を確信していた。

一度滅びを迎えるという事実に、メリナは些か複雑な感情を抱いている様だ。

だが姿を見せず反発しないという事は、否定はしていないと解釈していいだろう。

 

「安心しろ、メリナよ。混沌の狂い火『3本指』の力など使わん…!」

 

 一応、3本指には関わらない事を付け加えておいた。

彼女が最も危惧している要素は、この褪せ人が3本指に傾倒し狂い火を受領しないかを懸念している事だ。

彼の言葉を聞き、メリナも気を静めた様だ。幾分、周囲の空気も軽くなったような気がする。

 

「だが俺の計画が失敗すれば、朽ちた狭間の地は()()()()を迎える可能性が生ずる…()()()()()()()()()()。…人ではない、神の…火の時代を――」

 

―― 古い時代 ――

―― 世界はまだ分かたれず、霧に覆われ…灰色の岩と大樹と、朽ちぬ古竜ばかりがあった ――

―― だが、いつかはじめての火がおこり…火と共に差異がもたらされた ――

―― 熱と冷たさと、生と死と、そして光と闇と…そして、闇より生まれた幾匹かが、火に惹かれ、王のソウルを見出した ――

 

「あの時代も生命溢れる時代には違いない…しかし…、俺の求める『真なる人の時代』とは呼べぬ…!あの時代では、悲劇の末路しか辿らんのさ…!」

 

 褪せ人は知っていた。

朽ちた狭間の地の姿は、とある時代の先触れとなる可能性に。

彼の計画が成功すれば、()の時代の再来とはならず『真なる人の時代』の幕開けを迎えるだろう。

しかし失敗の憂き目に遭えば、例の神々の繁栄期を迎えてしまう事も危惧していた。

その時代は、あの灰の剣士やソラールを始めとした嘗ての『火の時代』の再来を予期していたのである。

 

この狭間の地…、実は彼らの生きた火の時代(ダークソウル)の前史とも言える時代の可能性が高かった。

 

「…さて…俺も次へ向かうか」

 

 暫くの語りの後、漸く立ち上がった褪せ人。

 

「先ず神授塔に赴き、大ルーンを活性化させねばな」

 

「行くのだな」

 

「心配するな、ノクローンにも向かう。吉報を待てよ、ラニ」

 

 そう言い残し、褪せ人は誰も居ない赤獅子城を後にした。

去り行く褪せ人の背中を見つめる、魔女ラニ。

彼女の浮かべた表情は、あの灰の剣士には絶対に見せない女の面持ちである。

そして彼女は静かに、褪せ人の()()()()を口にしたのであった。

 

 

 

 

 

   ―― ゴッドウィン ――

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

名刀・月隠

 

輝石によって鍛えられた刀。

サリアの刀匠の手になる逸品。

 

その刀身は、鞘の内でこそ光を帯び、よってこれを月隠と称する。

 

月光を宿す刀は、彼のソウルと呼び合ったのだろうか。

ラニ手により奇妙な出会いを果たした剣士の、新たなる力と化す。

 

 

夜と炎の直剣

 

カーリアの城館に秘蔵される宝剣。

「伝説の武器」の一つ。

魔術師の前身たる星見のはじまりは、空に近い、遥か高い山嶺にあり。

火の巨人が、その隣人であったという。

 

専用戦技「夜と炎の構え」

 

剣を水平に構え、魔術に繋げる戦技。

通常攻撃で、魔力を夜の彗星として放ち。

強攻撃で、前方広範囲を炎で薙ぎ払う。

 

奇妙な縁で然る剣士へと渡った、この直剣。

太陽を望みながらも、彼は夜に踏み込んでいる。

しかして太陽も傍らに在った。

 

 

 

 

 

 




これで狭間の地編は終了です。
只のアイテムと戦技入手のためだけのイベントだったのに、ここまで長引いてしまうとは。
ゴブスレとダクソ3のクロスものが、何時しかエルデンリングを書いているという錯覚に見舞われてました。
ラダーン戦をもう少し細かく描写したかったのですが、長くなるのでかなり割愛しています。

次回から四方世界です。まぁちょっとした騒動が起こるのですが、その辺はお楽しみに。

如何だったでしょうか?
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。  
デハマタ。( ゚∀゚)/

全盛期ラダーンを敵として登場させたら、どうなっちゃんだろう?
主人公勢、全滅しちゃうかなぁ…?
大陸滅んじゃうかなぁ…?
どうしよっかなぁ…迷っちゃうなぁ…?(゚∀゚ )
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