ここからロスリック攻略編です。
ちょっと短めです。
では投稿致しますドゾ。( ゚ ω ゚ )
宿し撃ち(戦技)
弓を構え、矢に霊を宿して射る戦技。
その矢は、通常よりも速く飛び、目標を追うように、その軌道を変える。
魔力を込められた矢は、敵を追いかけ、貫く。
黄金律以前の時代、狭間の地に根付いていた祖霊の民が編み出した弓技。
彼等は、金属文明を否定し敬遠した。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
変わることなく頭上を覆うのは、気味の悪い至極色の夜空。
以前の深い藍染の夜空に想いを馳せながらも、一頭の翼竜は飛翔を続ける。
翼竜は下級の竜種と称されるが、知能が低い分本能には忠実だ。
その本能さえ上手く利用できれば、人族で飼い慣らし使役させる事も不可能ではない。
現に空を駆ける翼竜は、人の手で使役されていた。
今も翼竜の背上には、二人の男が騎乗している。
「あれだな、例の街」
「そう、ロスリック拠点街。多くの冒険者たちが集う街」
月明かりの下に浮かぶ光を帯びた輪郭は、結界の影響だろうか。
例に漏れず、眼下の街も結界を張り巡らし厄害を遮っていた。
立地上、真隣にはロスリックが存在するのだ。
赤黒い空と赤爛れた陽光の影響を真っ先に受けるのは必然ともいえた。
此処に辿り着く道中、嫌というほど目にしてきた厄災の弊害。
目に付く大半の植物類は、荒れに荒れ果て枯死するか異種変異を引き起こし別のナニカに置き換わっていた。
取り分け酷いのは、独りでに動き出し既存の植物を食い荒らす
既に滅んだ廃村では、元住民と思わしき亡者達が彷徨い死の営みに勤しんでいた。避難が間に合わなかった村々も存在したという事だ。
やはり全てを救う事は不可能。
結局、弱き者が災厄の犠牲となる、何時の時代も。
否が応にでも人族の…己の限界を思い知らされた。
その点、眼下の街は今も耐え生き延び続けている。
数多くの手練れが街に会し、力が集約されている影響もあるだろう。
「見ろ、街の周囲にナニカ纏わり付いているぞ!」
「…デーモン!それも複数、
翼竜の手綱を握る伝令兵は、街の結界に羽虫の如く纏わり付く異形に着目する。
更に目を凝らしてみれば、異形は
結界の効果で街そのものに被害は及んでいないが、複数の冒険者や守備兵が迎撃に苦心しているのが分かる。
「このままでは近寄れんな。連中が消えるのを待つしかないか」
下級魔神とは言え、目に映るのは全て飛翔能力を有す個体ばかり。
当然、このまま距離を詰め標的にでもされようものなら、翼竜ごと撃ち落とされてしまうだろう。
迎撃に当たっている冒険者たちに仕留めて貰うか、敵側が諦め引き返すか、とにかく居なくなって貰わねば旋回を続けこの空域に留まるしか手がない。
それに翼竜も伝令兵も、情報の伝達が主任務で戦闘練度は自衛が精々だ。
とても複数の下級魔神に挑める戦闘力ではなかった。
「私が仕留めます。距離を詰めて下さい」
しかし、あろう事か灰の剣士が参戦の旨を告げる。
「馬鹿を言うな!返り討ちに遭うのがオチだ!」
当然、血迷った世迷言だと一蹴する伝令兵。
灰の剣士の実力は、彼とて認めているものの「今のは妄言だ!」と真面に取り合ってはくれない。
「ご安心を、飛び道具で仕留めます。…我に策アリ」
そう返す灰の剣士は、背負っていた合成弓を展開し弦に矢を番える。
また彼は、こうとも言葉を付け加えた。
万が一近付かれた場合は、自分が囮となる。
伝令兵と翼竜は、そのまま退避し空域から一時離脱してほしい、と。
彼は、ロンドールの奇跡『贖罪』を習得していた。
これは敵の標的になり易いという一見何の益にもならない、懲罰を是とする奇跡だ。
しかし物は使い様――。
敵に狙われ易くなるという事は、逆に『囮』として機能するという事でもある。
状況次第では害悪でしかない奇跡も、時には
「…表向き、お前は流刑囚だ。しかし陛下から重責も拝命している。任と自身の重み、理解していような?」
「無論です。しかし、敵の早期排除も任務の一環。ここは私めにお任せを!」
「いいだろう、しかし死ぬなよ!?」
「――承知ッ!」
灰の剣士は現在、流刑に処されている立場だ。
表向き罪人という扱いだが、実際は王統府より任を授かっている身でもある。
当然、安易に命を投げ捨てる事など出来ない。
冒険者として、白磁等級の降格処分を受けながらも同時に金等級として立ち回る事を許されていた。
伝令兵の任務は、彼を無傷でロスリック拠点街へと送り届ける事だ。
余計な戦いで彼を負傷させ、王都奪還作戦を妨げる事など言語道断。
しかしこのまま街の戦いを静観したところで、無駄に時間ばかりを浪費する流れは明白。
大勢の冒険者が集う街にしては、どうにも迎撃戦力が足りない様な気がしていた。
「よし、弓の間合いまで距離を詰める。外さんでくれよッ!」
ここは彼の実力を信じてみるのも、一つの手だろう。
伝令兵は翼竜を駆り、更に街の方へと距離を詰めた。
「――よし、この辺りでッ!(あの戦技を試してみるか)」
「…少し遠くないか?」
「まぁ見ていて下さい」
一定の距離を詰めた所で、灰の剣士が制止を求める。
伝令が主任務の彼でさえ、この距離では矢が届かない事を懸念した。
しかし灰の剣士は、この距離から狙撃を仕掛ける気でいる。
矢を番えたまま弦を大きく引き絞り、一体の下級魔神へと狙いを定める。
矢を射るにしては些か遠いが、逆に敵には気付かれ難い距離でもある。仮に外しても、標的にされる危険は少ないだろう。
「――戦技、宿し撃ちッ!」
翼竜の背に跨り、空中から矢を射った灰の剣士。
彼が放った鏃は、鈍い光を宿しながら下級魔神を目掛け高速で飛翔する。
空中を飛翔しているのは敵も同じで、常に動き続ける標的に当てるのは相当の練度を必要とする。
標的が動けば動くほど、自分も動けば動くほど、更に互いが高速化するにつれ、相対的要因が重なれば重なるだけ命中難度が飛躍的に増す。
灰の剣士も、弓自体の練度は実用水準に達していた。だが精々が
本来の腕前なら外していたであろう、弓矢による射撃。
だが放った矢は寸分違わず、飛翔する下級魔神の頭部を射抜いた。
『――…!?』
標的となった敵は、急所である頭部を射抜かれ悲鳴を上げる事無く落下し地面に叩き付けられた。
その後はピクリとも動く事なく消滅し、絶命した事が確定する。
「おおっ!?ナイスショットッ!」
命中に不安の残る距離にも拘らず見事頭部を射抜いた結果に、翼竜を駆りながらガッツポーズをとる伝令兵。
「先ずは一体!次っ!」
見事な命中精度と結果に、伝令兵は気付いていない。
矢の弾道が曲線を描き、敵頭部へ軌道修正していた事実に。
灰の剣士が放った弓矢の戦技『宿し撃ち』は、只の射撃技ではない。
標的のソウルを探りながら、波形に適したソウルを矢先に込めつつ撃ち出す事で、
言うなれば磁石のS極とN極が引き合うように、矢に込めたソウルの波形が敵の波形目掛け矢が飛来するのである。
多少デタラメに撃ったとて、軌道修正した矢が敵を射抜いてくれる。
狭間の地の古き住民『祖霊の民』たちが編み出した戦技の賜物だ。
初手ゆえ多少の不安を抱いていた灰の剣士だが、戦技も無事機能した事で胸中で自信が湧いた。
「――気付かれた!?こっちに来るッ!」
「ならば、今度は
「…大丈夫なんだろうな!?」
だが思いもよらぬ狙撃を受けた味方の死に、他の下級魔人たちは一斉に此方の存在を察知。
その内の数体が、距離を詰め迫って来た。
グングンと縮まる相対距離に戦慄を覚え、退避させようと試みた伝令兵。
しかし灰の剣士は、そのままの距離を維持するよう求め別の矢を矢筒から取り出し番えた。
一縷の不安を抱く伝令兵だが、先ほどの彼が示した結果を信じ言う通りにする。
――この矢は命中精度が悪い。なら、近付いてくれた方が好都合だ。
灰の剣士が次に番えた矢だが、些か弾頭部位が大型の『爆裂矢』だ。
投擲爆弾の一種である『フラム』を加工した矢先は尖っているものの、弾頭が安定するとは思えなかった。
空中戦で
「――宿し撃ちッ!」
だが彼は何ら臆することなく、再び宿し撃ちで爆裂矢を放つ。
その矢も鈍い光を帯びながら、緩やかな曲射を描きつつも高速で敵の顔部に突き刺さる。
次の瞬間、敵の頭部が派手に爆散したかと思えば、そのまま煙を吹きながら奈落へと消えた。
「――よし2体目ッ!」
「――おおっ!?次もやってくれたっ!」
2射目でも敵を仕留め、伝令兵も戦果に見入っている。
『――GYUOOO!?』
残りの敵が奇妙な鳴き声で、意志疎通を図っていた。
街を攻めていた当初は、膠着状態であったのだ。
だが今はどうだ。
妙な翼竜…否、下等な只人より射た矢で、味方が2体も犠牲となった。しかも一瞬で。
生き残った異形は、明確な意思で灰の剣士たちへと全速で殺到する。
「どうやら敵は、満足な応射が出来ないらしい。このまま誘引しつつ確実に数を減らす!ご協力をッ!」
「いいとも、その調子で頼むぜっ!」
接敵当初は多大な不安を抱いていた伝令兵だったが、灰の剣士の起こした結果に士気を高めたのか躊躇いも無く指示に従った。
殺気を漲らせ迫り来る敵なら、なおさら好都合というもの。
確実な射撃で数を減らし、街に群がる残敵を掃討する作戦に出た。
「さっきから、どうなってんだ!?」
「魔神共の勢いが弱まったぞ…!」
「爆発も確認できたわ!」
「翼竜っぽいの、一瞬見えた気が――」
一方、結界内で防衛戦に努めていた守備部隊が、弱まる敵の勢いに気付く。
ある時は敵が急に落下し絶命――。またある時は空中で小規模の爆発も視認した。
そして気が付いた時には、敵勢力の数は3分の1以下に減少していたのである。
「おい、魔神共が向こうへ行ったぞ!?」
街の守備に当たっていた冒険者の一人は、群がっていた全ての敵が明後日の方角へと飛び去った事に声を上げる。
翼竜の背から矢を射る、灰の剣士の方が脅威――。そう認識したのだろう。
残存していた全ての下級魔神が、灰の剣士の方へと飛翔した。
「――ただの的だ!」
いくら下級魔神とはいえ火炎ブレスぐらいなら吐くだろうと警戒していたが、その射程距離も精々10メートル前後だ。
一方、此方の弓矢と宿し撃ちを組み合わせれば、優に30倍以上の有効射程を保証できる。
圧倒的に此方の優位性を活かし、容赦なく敵頭部へ向け鋭い矢を撃ち放った。
宿し撃ちにより
たとえ異界の魔神といえども、下級種に加え急所の頭部を撃ち抜かれれば絶命は免れ得ない。
そう時間を置く事なく、ほぼ一方的に下級魔神の群れは殲滅された。
この赤黒い空の影響下では、たとえ夜間と言えども短時間で亡者化する事が懸念された。
しかし今回の下級魔神は、絶命した瞬間から塵の様に消え去り死体さえ遺らない。
結果的に後始末の手間は省け、街を襲撃していた敵の群れは全て排除が叶う。
「片付いたな。すまんが松明で、合図を送ってくれないか?」
「承知しました」
街は守られ後は着陸するだけなのだが、敵側の翼竜と誤認される恐れもある。
そう警戒した伝令兵は”松明を掲げ味方である事を報せてほしい”と灰の剣士に求めた。
指示を受けた彼は、透かさず松明に火を灯し眼下の街へ向け左右に大振りする。
「あの翼竜…!?…敵ではない様だが」
守備兵の一人が、低空飛行で旋回する翼竜を目にし、背上で振り翳す松明に気付く。
敵なら、ワザワザ松明を振る挙動など無駄そのもの。
「王統府直轄の伝令兵だな。結界を一時解除!アレ等を迎え入れよッ!」
守備部隊を指揮していたのは、拠点街の首長でもある
低速で旋回する翼竜の特徴を見極め、結界の一時解除を命じた。
……
あの時に比べ、随分閑散としていた拠点街の区画内。
以前ロスリックの
注視するまでもない。
中心を占める大通りにも、通行人の姿は疎らで寂れた様相が見受けられた。
「この街…様変わりしただろう?」
「…ええ。この現状、件の作戦の影響で――」
閑散とした大通りを歩く現首長と、灰の剣士含めた伝令兵の3人。
あまりに少ない人通りは、もはや
前回この街に訪れた時とは比較にならない程の差に、灰の剣士は周囲を見回していた。
目に付く店も殆どが閉じ、活動休止の状態だ。
だが寂れた街中の原因だが、大方は想像がついている。
西方拠点街に突如として現れ情報を寄越したアストラのアンリ――。
彼女の口からは、王統府救出作戦の為、大勢の冒険者が今もロスリック内で活動しているという。
此処に属する大半が駆り出された事が要因で、一般業務に従事する住民だけしか残っていないのだ。
それ故、今の街中に居るのは、一般人含め最小限の冒険者や兵士だけである。
首長が住まう館へと案内された灰の剣士たち。
西方辺境街の領主館ほどではないが、街の管理を担う者に相応しい規模の館だ。
首長以外にも、複数の従士が館に住んでいるのだろう。
屋内も貴族らしい上品な内装に包まれ煌びやかな調度品と共に、幾人もの従士が其処彼処で散見された。
灰の剣士を拠点街にまで送り届ける。
これが伝令兵の任務で、役目を果たした彼は専用の部屋に案内された。
また彼の駆る翼竜も大変貴重で、既に専用の施設に預けられている。
一方、客室へと案内された灰の剣士。
長方形の長卓を挟み対面する形で、二人は備え付けの椅子へと腰掛けた。
「これが陛下からの書簡です」
「確かに」
灰の剣士の事情だが、ある程度は首長の耳にも寄せられていた。
ある意味でロスリックの英雄でもある灰の剣士が、まさかの流刑囚としての扱いに首長も些かの困惑も抱いていた。
だが国王からの一文で抱いていた疑念が符合したのか、首長の表情は幾分和らいだようだ。
「そう言う事であったか。ならば急がねばならんな」
「ええ。手続きが済み次第、直ぐにでも出撃を許可して頂きたい」
国王からの一文には、アンリの件も記されていた。
既に作戦は失敗に終わり、今も生存している冒険者たちは脱出や抵抗を続けているものの旗色が悪いと言わざるを得ない。
儀式の先延ばしを目的とした作戦についても書かれており、王妹を含めた王統府要人たちも今の所は無事であるらしい。
しかし数日の猶予があるとはいえ、突然として状況が変容するかも知れないのだ。
時間を置けば置く程、流れが敵側に傾いてしまう。
ただでさえ危険地帯であるロスリック内に加え、夜間は危険度に拍車が掛かる。
夜明けまで待ちたいのが本音だが、ひっ迫した状況下で悠長に構えてはいられない。
略式でも構わないので、今直ぐにでも出撃した旨を伝えた灰の剣士。
「まぁ待ちたまえ。…え~、『篝火?』だったかな。それを熾すための場所…つまり貴殿専用の拠点も必要だ。先ず其処に案内いたそう」
「かたじけのう御座います」
この街と水の都を『篝火』で結び、早期の情報交換を実現する。
その件に関しても記されていた事を首長は述べた。
問題となるのは『篝火』を熾す場所だが、首長は予め彼専用の拠点を確保していた。
出撃する前に、彼専用の拠点を定め、篝火を熾し、ギルドで登録と前情報を確認する。
最低限でもこれだけの手順を踏まねばならず、正式に出撃しようとなれば更なる手続きと時間を要するのが普通だ。
はやる気持ちを押さえ、灰の剣士は専用の拠点へと案内された。
場所としては、首長の館から少し離れていた。
だがギルドや武具工房などの近くに在り、活動に不便が生じる事は無いよう配慮がなされていた。
とはいえ今の彼だが、公的には流刑囚でいわば罪人という扱いだ。
拠点となる小屋そのものは比較的広いものの、周りは2重もの柵と囲いに覆われ窓に当たる部位は格子が設けられていた。
「本来なら監視役を同伴させたいのだが、事情が事情だ」
「枷を嵌められないだけ
「そうか。足りない物はあるかね?」
「…いえ…、強いて言うなら錬金釜ぐらいでしょうか?」
「…錬金釜?」
「錬金術を行う為の大釜です。この位の大きさの釜なら…いえ、流石に厚かましいですね」
通常なら罪人扱いの彼には監視役が付けられるのだが、今は深刻な人出不足でその人員を割く余裕さえ無かった。
だが今の彼には、厳重な枷も嵌められておらず寧ろ極めて恵まれているとも言えた。
小屋内は殺風景だが、必要最小限の家具は揃えられている。
内装としては、西方辺境街の
古びているが寝台に作業台と食事用の机と椅子そして調理台と、そこいらの村人の住まいよりも厚遇されていた。
贅沢を言える立場ではないのは承知していたが、欲を言うなら『錬金釜』が不足している事だろうか。
今の彼は初歩的ながらも『錬金術』を習得し、ある程度の道具なら自力で作成出来た。
此度の任務も過酷である事が予想され、錬金術も必要となるに違いない。
「通常の大釜で良いのだな?手配しておく」
「――!?…宜しいのですか?」
「その代わり、何としてでも役割りは果たして貰うぞ」
「お任せをっ!」
差し出がましい事は分かっていたが、彼の要求を聞き届けてくれるという首長。
少々の気後れも感じたが、今は有り難く彼の厚意を受け取っておく事にしよう。
首長としても王統府友人の救出は、何よりも優先しなければならない案件なのだ。
一通り小屋内を見渡した彼は、篝火を設置する為の場所を探したが適した箇所が見当たらなかった。
全てが石畳の床に占められており、囲いを作るにも少々の手間を要する。
仕方なく彼は小屋を出、近くの庭で熾す事にする。
土の柔らかい部分を見付け、作業用ダガーで少し掘り返し窪みを生成。
その窪みへと必要な可燃材を放り込み下準備を整えた。
窪み内に満たされた可燃材の中へと、持ち込んでいた『螺旋の剣』を差し込み、後は篝火を熾すだけだ。
「変った剣だね。そんな物で火を熾すと?」
「ええ。御照覧あれ」
武器として機能するかも怪しい螺旋状の刀身を持つ剣。
それを中央に差し込むという動作も、首長には不思議に見えて仕方がなかった。
差し込んだ螺旋の剣に向け手を翳す灰の剣士。
―― BONFIRE LIT ――
「おお、突然に火がッ…!」
手を翳し念を込めた瞬間、螺旋の剣を中心に小規模な火が熾る。
真言呪文で発火させる動作を幾度も見てきた首長だが、今の彼からそれらしい挙動は見られなかった。
とはいえ大袈裟に驚くほどでもない。
この男は過去にもロスリック内で数々の大業を成し遂げてきた、いわば『勇者』に相当する存在なのだ。
今更この位の所業で大袈裟に驚いてもいられない。
――…まだ転移できないか、それも当然だな。
手を翳しながら新たな『篝火』に意識を集中させる灰の剣士。
彼の意識内には、まだ『水の都の篝火』は認識出来なかった。
よく考えてみれば道理だ。
水の都を向かっている筈の王統府だが、未だ水の都に到着すらしていない。
灰の剣士は翼竜に便乗させて貰い、僅かな時間で拠点街へと辿り着けた。
だが王統府の移動手段は馬車で、幾ら術を施し行軍速度を向上させたとて、水の都へ到達するには早くとも明朝を迎えるだろう。
――仕方がない、出撃を優先させよう。
水の都へとの転移を実地で確認したかったが、今は王統府の篝火設置を待つ時間も惜しい。
何時ソラールやジークバルドたちが転移してきてもいいように、現状を首長にだけは告げておいた。
「この様な火を通じ転移できるとはな。…確かに実現すれば、移動手段も省けるというもの。…理解した、後は任せておきたまえ」
「お願い致します」
とにかく『篝火の設置』という前段階を済ます事は出来たのだ。
残りはギルドに赴き、状況の確認を行うだけ。
二人は早足で冒険者ギルドに直行した。
……
街と同様、ギルド内も人々の姿は疎らで、せいぜい数名が屯しているだけだった。
冒険者と思わしき数名が卓を挟み静かに酒を嗜んでいたが、皆の表情は一様に暗い。
彼等だけでなく治安維持を担う兵士も極少数で、ギルド職員も沈みがちな雰囲気を匂わせていた。
「お通夜みたいだろ?」
「……半端でない閉鎖感ですね」
ギルド内に足を踏み入れた灰の剣士と首長。
以前の賑わいなど完全に鳴りを潜め、もう滅びの時が迫っているのではないかという錯覚さえ覚える。
二人の姿を見た数名の冒険者たちだが、特に声を発する訳でもなく直ぐに俯き加減に酒を飲み直す。
「……」
今のギルドの様子に、フード奥で静かに頭を振った灰の剣士。
暗い雰囲気の冒険者たちを尻目に、二人は真っ直ぐ受付カウンターに向かう。
「…い、いらっしゃいませ!ロスリックのギルドにようこそ!」
二人の顔を見るなり、女性の受付嬢は笑顔を振りまき二人を出迎えた。
だが、否が応にでも彼女が作り笑いで応対しているのが分かる。
その表情だけでも、かなり状況の悪化が読み取れた。
「事情は把握しているな?今からこの者が出撃する、必要な情報を提供せよ」
「は、はい…!直ぐに――」
灰の剣士だけなら”危険だ”と難色を示される可能性が高かった。
だが首長相手に逆らう事も出来ず、受付嬢は慌ただしい動きで必要な書類を棚から取り出す。
其処からは手短に、前情報のやり取りが行われた。
一つ:冒険者たちの活躍で、ロスリック内の制圧が徐々に進んでいる事。
一つ:現在は、ロスリック高壁の下層にて簡易拠点が構築されている事。
一つ:冒険者たちの探索状況だが、不死街にまで及んでいる事。
一つ:この国の街や村の一部がロスリック中に流れ着き、其処に亡者や異形が住み着いている事。
一つ:流れ着いたのは人里だけに非ず、未知なる異界なども確認されている(狭間の地やヤーナムが代表格)
一つ:夜間内では、主に亡者や不死の魔物が異常に活発化する事。
「…以上が主な実情です」
「では深みの聖堂へやファラン城塞へは、誰一人として辿り着けていないと?」
「いえ、そういう訳ではありません。非常に少数ですが手練れの冒険者は、到達し生還をも果たしています」
「そんな彼等も現在は行方不明と…」
「ええ…。大変心苦しいですが…」
ロスリック不死街まで探索が及んでいるとの情報だが、あくまで大勢の冒険者が到達した領域を基準に統合された情報だ。
実際は、ファラン城塞や深みの聖堂まで辿り着いた冒険者も僅かに存在し、果てには生還さえ成し遂げていた。
これは快挙とも言えるが、到達を成し遂げただけで有力な情報までは持ち帰っていなかったのだ。
つまり彼等は、生還するまでが精一杯であったともいえる。
それでも生還しただけ、誇るべき実績に違いないのだが。
「了解した。探索の傍ら生存者を見付け次第、帰還を促すとしよう。勿論、王統府要人救出を最優先させた上でだが」
「どうか…お願い致します」
ロスリック内の現状は大体把握できた。
亀の歩みとはいえ、冒険者の探索は遅々と進んでいた。
中には財宝や未知なる道具を持ち帰り、成功を収めた者も少なからず存在したらしい。
そしてロスリック高壁内は、ほぼ冒険者たちの制圧内に置かれているという。
だが今は、その冒険者たちも例の救出作戦に割かれ現在は安否不明だ。
もう生存しているかどうかも疑わしいが、運良く発見できた場合は何とか力添えし帰還を促してみるとしよう。
「おっと、忘れる処だった。これを貴女にと…、嘗ての同僚たちからです」
「え…これを私に…?」
もう此処に留まる理由もないが、忘れない内に受付嬢へと手紙をを手渡した灰の剣士。
「…そうだったの。あの子たち、元気にやっているのね…。ありがとう、灰の剣士さん。お陰で、元気が出ました」
「いえ…、貴女も大変な任ですが、どうか成し遂げて頂きたい」
ロンドールが熾した赤黒い空や、王統府救出作戦の失敗で彼女も心が重く淀んでいた。
だが嘗ての後輩たち、そして元の勤め先でもあった街の現状を知り、
「お返事書かないと。その時は、貴方の手で届けてね。灰の剣士さん♪」
「承知した。その為にも任務は全うせねばな。…それでは出撃する!」
現在の状況だが決して楽観視できるものではない。
だが奮起し役割を果たし続けているのは、なにも此処の住民だけではないのだ。
他の地域でも必死に抵抗し懸命に生きている者たちは大勢存在する。
元・先輩嬢は、後輩たちからの手紙の返事を書く事に決め、それを灰の剣士に届けさせる事を伝えた。
彼女の言葉を受け取った彼は、そのまま静かにギルドを後にする。
「おい聞いたか?アイツ、単身で出撃するらしいぜ?」
「たった一人でか?馬鹿げてる、ロスリックの恐さを知らないんだ…!」
「あたし達も加わるべきじゃないの?」
「無理言うな…。ワシらでは、不死街の周辺が関の山じゃ」
彼が去った後、屯していた数名の冒険者たちが小声で話し込む。
その彼等だが、最近になりロスリックへと挑んだ冒険者一党だったため、灰の剣士の事を知らなかった。
恐らく長生きは出来まい。
単身ギルドを出た灰の剣士を憐み、彼等は酒もそこそこに宿へと戻ってしまった。
彼等の姿も見えなくなった事で、ますます伽藍洞となる冒険者ギルド。
元・先輩嬢も、もう見えなくなった灰の剣士の背を思い浮かべ、出入り口の扉をジィッと見つめていた。
……
街の主門付近まで、首長に見送られていた灰の剣士。
「すまないな。碌な支援も出来ず――」
「あの小屋を提供して頂けるだけでも、感謝の念に堪えません。…もし水の都から王統府関係者が転移してきた場合は、私の事を報せておいて下さい」
「うむ、任せておけ。任務の完遂、くれぐれも宜しく頼むぞ!?」
「お任せを…!ではこれにて――」
手短な言葉だけを交わし、灰の剣士は早々に街を出た。
首長には、ソラールやジークバルドの件を伝えてある。
彼不在の間に篝火を通じ転移して来た時も、首長なら円滑に対処してくれるだろう。
……
街を出た彼は、真っ直ぐ進入路を下りロスリック高壁に通ずる門にまで辿り着いた。
――何度開けても何故か閉まってるな、この扉…?
過去に3回、此処からロスリックへと侵入した彼だが、この馴染み深い扉は律儀に閉まっていた。
誰かが、ワザワザ閉めたのだろうか?
どうでもいい下らない事を考えながら、彼は何時もの手慣れた動作で重々しい鉄扉をゆっくりと開いてゆく。
鉄の錆びた摩擦音が鼓膜を震わせ、不快な事この上ない。
――何度目になるかな?此処に挑むのも…。
火の陰った時代から幾度も繰り返し、この四方世界でも幾度と挑んだ故郷の流れ着く地ロスリックの遺跡群。
鉄扉が開き切り、嗅ぎ慣れた空気が彼の肌を吹き付けた。
だが少々違和感を感じるのは、時代が進み環境が一変したからだろうか?
気を引き締めた彼は、懐かしい感傷に耽るまでもなく再びロスリック高壁へと足を踏み入れた。
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ちょっとした独自設定(個人的解釈が多分に含まれています)。
冒険者等級……ソウルレベル換算(エルデンリング仕様)
白磁等級 レベル 1~ 10
黒曜等級 レベル 10~ 20
鋼鉄等級 レベル 20~ 40
青玉等級 レベル 40~ 50
翠玉等級 レベル 50~ 60
紅玉等級 レベル 60~ 80
銅等級 レベル 80~ 90
銀等級 レベル 90~100
金等級 レベル100~150
白金等級 レベル150~???
冒険者としての、
しかし一概に絶対評価とは言い切れず、例外となる冒険者も存在します。
例1:100以上のソウルレベルを誇りながらも、素行や深刻な要因が重なり白磁等級に甘んじた冒険者。
例2:銀等級という実績を積みながらも、紅玉水準の戦闘力しか備えていない冒険者。
同じ等級でも、個人の実力差には開きが見られるようで、等級に見合わない実力者も幾人かは存在するようです。
実際ゴブスレも銀等級でありながら、戦士としての戦闘力そのものは紅玉か翠玉レベルだと言われています。
この時点での灰の剣士も、身体能力自体は金等級の底辺レベルです。それでも常勝を重ねているのは、気の遠くなるような周回を繰り返した事で莫大な戦闘経験を得ているからだと解釈しておいてください。(主人公補正?…なんの事ですかな?)
如何だったでしょうか?
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
デハマタ。( ゚∀゚)/