ゴブリンスレイヤー ―灰の剣士―   作:カズヨシ0509

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ドーモです。
ロスリック編、高壁でのシナリオです。
まぁあまり語る所はないので、投稿致しますドゾ。( ゚ ω ゚ )


第155話―ロスリック・高壁、要人と出会う―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦技・疾走回転居合切り(二~六連)

 

戦技『居合切り』の派生・改良技。

相手を間合い内に納め、瞬時に抜刀術で切り裂く居合切り。

自ら能動的に疾走し間合い内に納め次第、瞬足の抜刀切りを仕掛ける疾走居合切り。

その疾走居合切りに全身回転を加え、全方位を一瞬で切り裂くのが疾走回転居合切りである。

疾走回転居合切りを仕掛けた後、すぐさま鞘に納め再び繰り返す事2~6連。

通り過ぎた後には、敵の肉片のみが大地へ零れ落ちるのみである。

 

魔法的付与を加えれば、更なる攻撃強化に繋がるだろう。

 

 

戦技・連斬乱舞(オリジナル)

 

いわゆる連撃。

単なる連続で振るう斬撃で、決まった型はなく使い手次第で大きく差は異なる。

なれど実力や練度に多大な差が現れ、使い手によっては既存の戦技を遥かに凌駕する奥義と化す。

また達人級は、全劇に真空波を生じさせ敵の間合いを誤らせる芸当も可能。

目の止まらぬ高速で振るう使い手なら、相手に痛みを与える事なく屠れるだろう。

スタミナ消費が激しく、無計画に多用すれば瞬時に息切れを引き起こし自ら墓穴を掘る。

使い所と持久力管理は、意外と難しい。

 

魔法的付与を施せば、更なる強化が見込めるだろう。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

   デエェェ ―― ロスリックの高壁 ―― ェェェエン――

 

薄気味悪い至極色(しごくいろ)の夜空は、此処でも変わる事はない。

ふと視点を傾ければ、悍ましい色の火柱が轟々と天を突き上げている。

 

「一つでもいい、あの火柱を何とかすれば――」

 

 このロスリック全域は、巨大な窪み(クレーター)の中に流れ着いていた。

そして『ロスリックの高壁』だが、名の如くそれなりの標高を確保している。

古びた頑丈な鉄扉を開け、高壁内へと侵入した灰の剣士。

眼下に映る火柱は、深みの聖堂から吹き上がっている事が分かる。

問題の火柱だが実は二つ存在しており、一つは深みの聖堂方面、もう一つは王都方面から吹き上がっていた。

あの火柱が発生して以来、空に異変が起こり急激な環境悪化で人々の日常生活が破綻していたのは判明済みだ。

どれか一つでも火柱を断ち切れば、多少の状況改善に繋がる筈なのだ。

 

「…亡者…かなり残っているな。再奪還されたか…?」

 

 もう此処は戦場だ。

ただでさえ危険渦巻くロスリックの地に、亡者の活性化する夜間帯という悪条件も重なっている。

彼は直ぐに気を引き締め、周囲に向け意識を集中させた。

 

ギルドから仕入れた前情報では、この一帯は冒険者の活躍で()()()()()()()との事だ。

しかし周囲から流れ来るソウルは多数に上り、高壁全域にて徘徊している事が判明する。

 

たとえ制圧が成ったとて、その地域を維持する者が居なければ、何れは元の木阿弥に帰してしまう。

制圧したまでは良かったが、緊急発生した例の救出作戦に此処を担当していた冒険者たちも軒並み駆り出され、戦線の維持が成り立たなくなった。

その上で、がら空きとなった高壁に再び混沌勢が押し寄せ奪還してしまった。

そう判断するのが妥当だろう。

 

「生存者が潜んでいるかも知れないな。…多少の時間はあるか」

 

 彼の主任務だが、王統府要人…特に『王妹』の救出を最優先させなくてはならない。

このまま深みの聖堂へと直行したいのは山々だが、僅かな時間猶予も残されている。

高壁周辺の敵を排除しつつ、生存者の探索も視野に行動を開始した。

 

「…虹色石…看板…、成程…制圧も嘘ではない様だ」

 

 改めて周囲に視線を巡らせてみれば、壁面には『虹色石』が埋め込まれ『立て看板』による案内が記されていた。

看板には”此処より下れば中継地(ベースキャンプ)”と書かれている。また道に迷わないよう『虹色石』で道順も示されていた。

その事から、冒険者たちの尽力で制圧を成して遂げていた功績を認める事が出来た。

もし例の作戦で冒険者たちが駆り出されていなければ、この区域は比較的安全地帯と化していただろう。

 

「昇降機方面に向かってみるか」

 

 取り敢えずの目標を定めた彼は、昇降機方面へと動き出す。

あの昇降機で下ればロスリック城前の庭園へと繋がり、大幅な短縮路にもなる。

 

あの時代では、自我の無い亡者が大半を占めていた。

 

「亜人、混種まで混ざってる…!」

 

 少し歩みを進めれば、早くも敵襲撃に見舞われた。

もう自分の記憶とは大幅にかけ離れていた、ロスリックの敵配置と構成。

 

「GYOEAAA!」

「GURUOAA!」

 

 このロスリックの地に何故か生息していたのは、屈強な獣人にも似た所属である『混種』と、小鬼(ゴブリン)に酷似した種族である『亜人』と呼ばれる異形の群れ。

だが灰の剣士には見覚えがあり、実際戦った経験もある。

外見や体格に個体差はあれど、どれもがあの『狭間の地』で遭遇した種族ばかりだ。

また数体は翼を生やした『混種』も存在し、空中で陣取りながら短弓を所持している。

 

――いや、邪魔はさせん!

 

彼等の生息理由など後で考えればいい。

唸り声を上げ手にした武器を振り翳し、今にも襲い掛からん勢いだ。

敵対している以上、逡巡など無用。

 

名刀『月隠』の鯉口を切り、腰を屈める。

 

「「「「「GYEAA!」」」」」

 

 一斉に奇声を上げつつ襲い掛かる、亜人と混種の群れ。

しかし、彼の敵ではなかった。

 

「――シっ!」

 

 瞬きする間も無く『亜人』の懐に踏み込み、瞬足の『疾走回転居合切り』で一気に駆け抜けた。

先ほど彼の居た地点には、混種の放った数本の矢が突き刺さっていたが既に彼の姿は無い。

地上担当の『亜人』と空中担当の『混種』による連携が出来る分、あの『小鬼(ゴブリン)』よりは戦術も洗練されていると言えよう。

しかし脅威となる程の練度ではない。

彼が仕掛けた『疾走回転居合切り』を3連繰り返し、駆け抜けた数刻後には『亜人』の矮躯は細切れに崩れ落ちていた。

 

「「「「――…!?」」」」

 

 斬られた『亜人』たちは、何が起こったのかも認識出来ないまま絶命する。

一瞬で全滅した『亜人』の末路に、残された『混種』に動揺が走った。

 

「――遅いッ!」

 

 動揺の僅かな時間さえ、彼にとっては絶好の隙だ。

大地を蹴り一瞬で数体の『混種』へと肉薄、そして反応できない敵を切り伏せ、そのまま頭部を踏み付け宙高く跳躍。

 

「――フッ、ハッ、セッ…!」

 

 宙へと上がった彼は、鞘に納めた刀を一気に引き抜き刀身から光波を解き放った。

青白い輝きを帯びた刀身から幾重にも光の斬撃が空を走り、唖然とする『羽の生えた混種』たちを仕留め切る。

碌な反撃もままならず、空中に陣取った弓持ちは全滅した。

 

「「「――GYOEAAA!」」」

 

 ここで漸く生き残った『混種』たちが、半狂乱となりながら武器を手に反撃を仕掛ける。

しかし憐れな運命は変わらず。

敵の認識よりも早く、彼は一気に懐へと踏み込み『疾走居合切り』から『連斬乱舞』に繋げ3体を細切れに切断する。

 

「――GYOO!」

 

 最後に生き残った『混種』は、渾身の脚力で跳躍し全体重を乗せた『鉈』の一撃を加えんと襲い掛かった。

だが、鞘に込めた魔力を解き放った彼は、跳躍した『混種』へと光波を射出。

 

「――GYAOO!?」

 

 月光に似た魔力の光波により、『混種』は縦に両断された。

だが彼は敢えて追撃を加え、光波を5発連射。

最後の『混種』をもバラバラに切断し、後に憂いとなる亡者化を未然に防ぐ。

恐らく狭間の地の住民と言えど、この空の影響下では()()()()()()()()()()筈だ。

況してや此処は、死の呪いが蔓延したロスリック。まだ浅層の高壁だが呪いは無遠慮に作用するのだ。

こうしてバラバラに切断しておけば、真面に動く事も出来ないに違いない。

 

――不死街下層に在るのだったな、霧の壁…朽ちた狭間の地が。

 

不意の遭遇だが、敵の群れを殲滅した灰の剣士。

このロスリックに『狭間の地』の住民が徘徊していたのは意外だったが、考えてみれば別に不思議な現象でもない。

不死街下層に在るという霧の壁が『朽ちた狭間の地』へと繋がっているという事実を思い出す。

どれほど滅んでいるかは実際目にしないと判断しようもないが、今の敵が『朽ちた狭間の地』から渡ってきたのだとすれば一定の説明もつく。

 

――向こうに大き目のソウル…、混種と複数の亡者…。

 

今の敵殲滅を終えた彼は、別地点のソウルを探り当てた。

同じ『混種』には違いないが、今の個体よりも幾分強大なソウルだ。

まだ時間の猶予があると判断した彼は、ソウルの在り処を頼りに歩みを再開した。

 

昇降機へと降りる階段を無視し、そのまま真っ直ぐ向かえば別の階段が設けられている。

その階段を忍び足で慎重に登れば、広場へと繋がっていた。その広場は嘗て、人の膿を宿した亡者が徘徊していた場所だ。

だが今や、人の膿を宿した亡者の代わりに大型の『混種』と、それに尽き従う亡者の群れが屯していた。

階段を上り切る事なく、頭部だけを迫り出し広場の敵配置を観察する灰の剣士。

 

「獅子の混種…それに、亡者は冒険者の成れの果てか」

 

 先ほど戦った混種よりも明らかに巨体を誇り、手には大鉈が握られている。

見覚えのある大型の混種は『獅子の混種』と呼ばれ、獅子に似た頭を持つ獣人の一種だ。

そして『獅子の混種』に追従するようにウロウロと広場を徘徊していたのは、亡者と化した冒険者で間違いないだろう。

例の作戦の犠牲者なのか、それ以前にロスリックに挑んだ犠牲者なのか経緯は定かではない。

 

――…奥から生者のソウルを感じる。

 

本来なら立ち寄る必要もなく無視してもいい道筋だ。

だが後々の制圧を視野に考えれば、獅子の混種と亡者を放置するなど考えられない。

更に言えば、広場の奥側から生者のソウルを幾つか察知できるのだ。

恐らく、此処まで逃げ延びた生存者と見なしていい。

生存者の救出を考えれば、やはり獅子の混種と亡者を討ち取る必要があるだろう。

 

意を決し、いざ飛び込もうとした矢先、足下には見覚えのある文字列が浮かんでいた。

 

――こういうメッセージ、久しぶりに見たな。…この先、奇襲が有効だ…。

 

眼下に映る文字列は、鈍い光を放ち何とも懐かしい気持ちにさせる。

不死人時代、飽きるほど目にした数々の文字列。

白いサインろう石で記し、大まかな短文で意思疎通を図る文字列を久し振りに見た気がした。

 

   ―― この先、奇襲が有効だ ――

 

文そのものは何の変哲もない些細な内容だが、浮上する文字列を目にしていた彼の胸中には何やら満たされた感覚が込み上げていた。

 

――別次元、別の世界線でも同じ事が起こっているのかもな。

 

全くの別次元でありながら、同じ地域で今と近似した事象に見舞われた世界が存在しているのだろう。

その世界線での不死人(冒険者)が何者かは知らないが、自分が決して孤独ではないという高揚感に満たされる。

恐らく目先の広場で、今と同じ敵陣を叩き潰した違いない。

 

――奇襲が有効か、同感だ。

 

幸いにも広場の敵は、まだ自分の存在には気付いていない。

先に強靭な『獅子の混種』を最優先で仕留めるか、横槍を警戒し周囲の亡者を優先するか。

どちらかを優先して撃つにせよ、最初の奇襲の是非で戦局が大きく傾くのは間違いない。

多次元の誰かが書き残したメッセージ通り、灰の剣士も奇襲が有効と判断し身を隠しながら(タイミング)を窺う。

 

しばし観察を続ければ、向きを変え背を向けた獅子の混種。

 

――しめたッ!

 

最も脅威となるのは『獅子の混種』だが、ほんの一瞬でも隙を見せてくれれば、最初の一手でも群れの数を減らす事は出来る。

初手で『獅子の混種』を屠れる確証は無く、先ずは周囲の亡者を排除する事にした灰の剣士。

 

彼は瞬時に身を乗り出し、広場へと躍り掛かった。

 

「「「「「――!?」」」」」

「――GYAROッ!?」

 

 不意を突く奇襲により、忽ち混乱状態となる敵の群れ。

生きている『獅子の混種』はともかくアンデッドの果てである『亡者』まで動揺するのは、少しばかり意外であった。

亡者と化し日も浅く、生者の名残が色濃く残留していた所為だろうか。

だが亡者までもが動揺してくれたのは、儲けものという他ない。

その多大な隙を縫うかのように、灰の剣士は月隠による『疾走回転居合切り』を6連繰り出し、瞬く間に亡者たちを切り伏せた。

生前はロスリックに挑むだけの実力を備えていた冒険者だったが、亡者と化した今では然したる抵抗も見せぬままに餌食となる。

 

「――GYAROッ!?」

 

 思いもよらぬ奇襲に、漸く獅子の混種が反応し奇声を上げるも時既に遅し。

残るは獅子の混種だけと化し、1対1で戦う状況が生まれた。

 

「いざ参る!」

 

 狭間の地の各所で戦った獅子の混種だが、確かに高い身体能力と膂力を備えていた難敵だ。

だが1対1なら余程の油断が無い限り、然う然う敗ける道理はない。

仕切り直しの思惑も叶い、油断なく居合の構えで対峙する灰の剣士。

 

「――GRURUROッ!」

 

 狭間の地で何度も耳にした雄叫びだ。

見覚えの有る動作で突撃し、剛腕による大鉈を振るう獅子の混種。

だが其処に彼の姿は無く、大鉈は虚しく空を切るだけ。

 

「――GYAOッ!?」

 

 気が付けば焼け付く様な激痛と共に、大鉈を持つ手が宙を舞っていた。

大鉈を掻い潜った彼は、カウンター気味の斬撃で払い抜け敵の腕を切断していたのである。

宙を舞った大鉈は腕ごと地面へとボトリと落ち、荒れた石床を赤黒く染めた。

しかし、その間にも彼の猛反撃は続き、獅子の混種は自分の置かれた状況を自認しないままバラバラにされていた。

腕を切り落とした彼は、そのまま16連の『連斬乱舞』を仕掛けていたのである。

そして細切れと化した肉片に、彼は手を翳す。

 

「――大発火ッ!」

 

 最後に呪術の火で、先ほどまで獅子の混種であった肉片を完全に焼き尽くした。

一瞬だが猛烈な炎が掌より発火し、焼け焦げた肉片が次々と地面へと崩れ落ち焦げた匂いを待ち散らす。

 

「…この辺りの敵は一掃されたな」

 

 僅か1分程度の戦闘時間だが、他にも物陰に潜んだ敵が残っていないかを警戒する灰の剣士。

慎重に辺りを確認して回ったが、然したる脅威は軒並み排除されたようだ。限定とはいえ、周囲の敵排除が叶う。

 

「もう出てきて構いませぬッ!」

 

 敵殲滅を終えた灰の剣士は、とある物陰へと向け声を投げ掛けた。

 

『……』

 

 しかし反応は返って来ない。物陰に複数人の生者が身を潜めているのは、ソウルで把握している。

 

「私は冒険者です、周囲の敵は殲滅いたしました」

 

 かなり怯えているのか、ソウルの波形が乱れに乱れつつ弱々しい。

自分が秩序勢だと主張しながら、姿を見せるよう求めた。

 

「……」

 

 声をかけ数瞬、物陰を覆うボロボロの布切れを捲り上げる手と共に、数人の男女が姿を現す。

 

「お主…、冒険者に擬態した混沌勢ではあるまいな…?」

 

 怯えるように身を寄せ合う数人の男女は、上質の貴族服を身に着けており上流階層である事が読み取れる。

その貴族層を守る様に、二人の男女が前へと立ちはだかる。

二人の内、年老いた男は杖で威嚇し、疑念に満ちた目で灰の剣士を睨み付けていた。

 

「さっきみたいに、変な所に連れて行くんじゃないでしょうねッ!?」

 

 年老いた男に続き、鋭い槍を持つ若い女も彼を威嚇する。何処かで見覚えのある女だが、夜間という事もあり視界が暗い。

 

「暫しお待ちを…照らす光」

 

 少しでも灯りで周囲を明確にすれば、多少は信用して貰えるだろうか。

孤電の杖を取り出し、黄金の魔術の一つである『照らす光』で光源を出現させた灰の剣士。

光り輝く球体に照らされ、これで視界確保に困る事はないだろう。

 

「おお、なんと明るい…」

 

 貴族層の一人が光球に見惚れ、気の抜けた言葉を吐いた。

消耗が激しいらしく、精神は元より着ていた貴族服も汚れやほつれが目立っている。

 

「ん…貴女は確か…、ミミ=ウリエ=フォン…ええっと、なんとかかんとか――」

 

「ミミ=ウリエ=フォン=シュヴァルツラングよ…!…何処かで見たと思ってたけど、アンタは灰の剣士だった…かしら?」

 

 前衛で威嚇する女性には見覚えがあった。

記憶違いでなければ、彼女はアーランド錬金団に所属する一人の筈だ。

少々長い名を持つため、途中で言い淀んでしまった灰の剣士。

幸いな事に、彼女の方も灰の剣士の事を覚えてくれていた様で、突き付けていた槍を収めてくれた。

だが彼女の装備は至る所に破損や損耗が見受けられ、負傷も目立っている。

傷だらけの細身から、過酷な戦闘を積み重ねた経緯が醸し出されていた。

しかし彼女は気丈にも、弱味など微塵も見せず毅然と振舞っている。

 

「シュヴァルツラング卿、この者は知り合いかね?」

「ええ、そうですわ閣下。この男は『灰の剣士』という冒険者で――」

 

……

 

これは幸運と言うべきか。

物陰に身を潜めていた者達は、王統府要人の一部だった。

ほんの数名だが、他国の要人にミミ、そして王国の重鎮とも言える年老いた『宰相』との接触が叶う。

 

……

 

「…そうであったか。その方は、陛下から任を賜り――」

「仰る通りです。私めは国王陛下の命により、こうして貴方たちを救出しに馳せ参じました」

 

 年老いた宰相に、これまでの経緯を説明する灰の剣士。

 

「これがその証です」

「…その認識票…確か特殊な者にのみ授かる――」

 

 今の自分は流刑囚として扱われており、白磁等級でありながら金等級の権限を併せ持つ、奇妙な立場である事を明かす。 

それを証明するべく、首元にかけてあった楕円形状の認識票を宰相たちに示した。

楕円形状で表は白磁で裏返せば金、その母体を黄金の輪環で囲った認識票だ。

彼の認識票を目にした宰相は何度も頷き、灰の剣士という男の存在を認める。

 

「今治療いたします、暫しジッとしていて下さい。奇跡『回復』…!」

 

 今も肩を寄せ合う貴族層はともかく、ミミと宰相は無視できない程の傷を負っていた。

灰の剣士は、透かさず祈りの体勢で白教の奇跡『回復』を発現させ、彼等の傷を治療する。

だが奇跡の効果に違和感を覚えた灰の剣士。

 

――この回復量…、大回復並みだ。……まさか、あの子のお陰か。

 

奇跡の行使に伴い発する光は普段と何一つ変わりはない。

だが回復効果に今までとは雲泥の差が見受けられた。

後々の集中力(FP)節約を視野に、彼等が動ける程度の小回復に抑えた奇跡の発現。

しかし彼等の負傷は全快近くまで回復してしまった。

その原因を早急に察知した彼は、そっと手首のタリスマンに視線を向けた。

そのタリスマンは今でも鈍い聖光を発し、見習い神官のソウルが宿っている事を感じ取る。

 

――本当に俺には勿体ない位の代物だな。尚更、良き事に使わねばな。

 

今も地母神神殿で過ごしている少女には、感謝してもし切れない位だ。

心の中で彼女を意識しながら謝意を述べた灰の剣士は、尚も奇跡の発現を続行した。

 

「我々は、聖堂前の小教会で――」

 

 取り敢えず傷だけでも癒せたお陰で、幾許かの精神的ゆとりを得た彼等。

呼吸を整えた宰相が、此処に至るまでの体験談を語ってくれた。

 

王宮での奇襲に始まり、此処まで連行された彼等は、確かに多数の冒険者部隊の救援を受けた。

途中までは優位に状況が流れていたが、突如として『女系の魔神軍』が参戦し一気に形勢が逆転。

救出作戦は失敗に終わり、魔神王の洗脳を受けた冒険者たちに小教会まで誘導された。

(本編前夜編 第153話参照)

 

「まんまと罠に嵌った私たちだけど、アストラのアンリ…だったかしら?その人たちが諦めずに、もう一度奮戦してくれたの」

 

 そこからはミミが説明を続けてくれた。

洗脳された冒険者たちの罠で、逃げていた積りが却って敵陣深くまで誘引されてしまった。

もう脱出は不可能と諦めていた矢先、アストラのアンリ率いる部隊が必死の抵抗を試みる。

小教会の混乱に乗じ、再度逃走を図った彼等。

 

「だけど、お姫様たちは結局連れて行かれてしまったわ。…ジーノやライアスたちも必死に抵抗してくれたから、何とか私たちだけでも此処まで逃げてこれたの」

 

 逃走を図ったものの、現実は無情だった。

王妹を始めとした多数の人質は、深みの聖堂の奥深くへと連行されてしまう。

だが王妹の傍には、少数ながら精鋭も付き添っていた。

金等級冒険者でもある『獣人戦士』やジーノ、ライアス、トトリ、メルル、そして同じく連行されていた近衛兵や冒険者も同伴していたのである。

彼等は最後の最後まで抵抗し、宰相やミミが数名の要人を引き連れ此処まで逃げ果せる事が出来た。

 

「ライアスは身軽だからね、途中までは私たちと行動を共にしていたの。だけど…、不死街で追手に捕まり空中に連れ去られてしまった…。多分もう…ジーノも、トトリも、くッ…!」

 

 ミミや宰相たちを護衛するべく、途中まではライアスも護衛を兼ね同伴していた。

だが不死街まで差し掛かった時、悲劇が起きた。

飛翔能力を有す魔物に追い付かれ、ライアスは単身立ち向かった。

持てる全力を出し切り必死に応戦するも、彼は魔物に喰い付かれ空中へと連れ去られてしまったのである。

深みの聖堂まで連行するのかと思いきや、あらぬ方向へと飛び去ってしまった魔物たち。

ロスリック外まで連れ去られては、もう手の施しようはない。

何処かの手頃な場所で、ライアスは死ぬまで嬲られ貪り尽されてしまうだろう。

そして必死の抵抗を見せていたのは、トトリやジーノを含めた人質たちも同じだ。

だが圧倒的不利な状況を鑑みれば、とてもではないが無事とは考えにくい。

生きて再会したいという希望的観測を無理にでも抱こうとしたミミたちだが、このロスリックという地域は僅かな望みさえ無残に消し去ってしまう程に悍ましい領域だった。

逃げども逃げども尽きる事のない亡者の群れ、死と血泥(ちみどろ)に塗れた空間、更に赤黒い空と赤爛れた陽光が容赦なく彼等を打ち据えた。

宰相もミミも、長年冒険者として数多くの修羅場を潜り抜けた実力者でもあったのだ。

今回もきっと切り抜けられる。

心の何処かでは、そう期待もしていた。

しかし今回のような現実を叩き付けられ、ミミの精神は摩耗を重ね淡い期待さえ見事に砕かれていたのである。

ライアスは言うに及ばず、ジーノやトトリも既に生きてはいないだろう。

仮に運良く生きていたとしても、儀式の生贄として連れ戻されているか、魔物へと変じているか。

 

「…私は、彼等の救出を続行します」

 

 悔し気ながらも目に光を失っていたミミに向け、灰の剣士は救出続行を宣言する。

 

「――待って、私も行くわよ!傷も治ったんだし、のうのうと待ってなんかいられないわ!」

「儂もだ。王妹殿下を差し置いて、老いぼれ一人が生き延びてなんとする!」

 

 彼の宣言を聞いた瞬間、彼女の瞳に活力が戻り同行を願い出た。それは宰相も同様で、再び王妹の救出に意欲を沸かせる。

 

「拒否します!彼等を放置するお積りですか!?」

 

 案の定、灰の剣士は即座に拒否する。

ミミや宰相はまだしも、此処には戦う術を持たない貴族層も含まれているのだ。

今ここで、ミミたちを同行させてしまえば誰が貴族層たちを守るというのか。

聞けば彼等は他国出身の貴族で、王統府要人に含まれるのであれば政治的要職に就いている可能性が高い。

もし彼等に万が一の事があれば、今度は他国間の問題へと発展し更なる厄介ごとを引き寄せる要因と化す。

 

「だったら、私だけでも!アンタの実力は認めるけど、大事な仲間をアンタ一人だけに任せてはおけないのよ!」

 

「…くどいぞ、女ッ!今の貴公では足手纏いだという事が分からぬか!?現状を自認したまえっ!」

 

「――なッ…アンタぁっ…!」

 

 貴族層の警護なら、宰相にでも任せておけばいい。傷が癒えたのであれば、多少の戦闘力は戻った筈だ。

ミミは尚も食い下がり、半ば強引に同行を主張した。ダークゴブリン戦時といい、先ほどの戦闘といい、彼の実力は認めるには値する。

だが彼女個人としては、灰の剣士に大事な仲間を託す事に妙な抵抗感が湧き、何より冒険者としてのプライドが許さなかった。まだ心の何処かで、彼に不信感を抱いていた所為もあるのだろう。

しかし灰の剣士の態度が一変し、威圧的な口調へと置き換わる。

 

傷が癒えただけの今のミミは、単なる足手纏い。

たとえ負傷が回復したとて、活力も体力も消耗状態、装備の損耗も激しく細やかな破損が見受けられ、活動を支える小道具類も枯渇を重ね、既に戦う以前にまで追い詰められているのだ。

そもそも獅子の混種との戦闘さえ避け、今まで身を潜めやり過ごそうと試みていた時点で、状況を察する事は容易だ。

図星を突かれたミミは、一瞬我を忘れ彼へと跳びかかった。

今日まで積み重ねてきた苦難を嘲られた気がし、自分の誇りが傷つけられたと思い違いを引き起こしていたのだ。

普段のミミなら、この様な暴挙には出ない。

憔悴を重ねた事で、彼女は完全に心の均衡を失っていたのである。

だが、槍ではなく素手で跳びかかった辺り、彼女にはまだ理性が残っていたという事か。

 

「この程度の動きで、何が成せるというのだ!?実力者たる貴公らしくもない…!」

「――ぐッ…!」

 

 跳びかかったミミをアッサリと制圧していた灰の剣士。

彼女の両腕を掴み『送り足払い』で、彼女の体勢を崩し石床へと押さえ付けていた。

 

「万全の貴女なら、単身でも獅子の混種に後れを取る事はなかっただろう。…だが今の貴女は消耗を重ね過ぎている。ここは大人しく、拠点外へと向かって頂きたい」

 

 獅子の混種は強敵だが、万全の状態のミミなら然程の苦労もなく屠れただろう。

だが戦闘を避け身を隠していたという事は、彼女自身も消耗を自覚していたという事にも繋がる。

激情家で誇り高い彼女だが、やはり冷静に状況を見極めてもいたのだ。この辺りは、熟練の冒険者の成せる判断力といっていいだろう。

 

「…幸いにも、後続の冒険者たちが向かって来てくれています。拠点街への護衛と案内は、彼等に任せるとしましょう」

 

 拠点街へと送り届けたいのは山々だが、往復を繰り返す分、余計な時間を浪費してしまう。

だが灰の剣士以外の冒険者たちが、ロスリック高壁に侵入していた事は喜ばしい限りだ。

彼は戦闘中も、後続の一党の存在を感知していた。

拠点街のギルドで静かに酒を嗜んでいた一党が、彼の後を追っていたのである。

これは都合がいい。

宰相やミミを始めとした要人たちは、その一党に任せる事にしよう。

 

「お~いッ!こっちに来てくれぇッ!」

 

 広場から身を乗り出し、大声で一党を呼び寄せる灰の剣士。

恐る恐る高壁内を探索していた一党は、直ぐに反応し彼の居る広場へと集まった。

 

「よく来てくれた。ここに居る人たちは、王統府要人たちだ。…全員ではないが」

「なんだって!?救出対象じゃないか!」

 

 一党を取り纏めているであろう戦士らしきの男へと、大まかに事情を告げた。

実情を知った一党は、言うまでもなく驚きの声を上げ互いに顔を見合わせていた。

灰の剣士は、”王統府要人たちを拠点街へと護衛してほしい”と改めて依頼する。

 

「アンタ一人を行かせる訳にはいかんと判断し、儂らはこうして後を付けていたんじゃ」

「でも、こんなに早く救出対象に出会えるなんてな」

 

 一党のメンバーでもある老齢の僧侶と若い男斥候が、灰の剣士を援護すべく無理をしてまで後を付けていた。

有り難いまでの心遣いだ。

戦士らしきの頭目は、紅玉等級の認識票をぶら下げている様だが、等級の名に恥じないまでの優れた人格をも兼ね備えているらしい。

実力ばかりを重視する冒険者は数多いが、優良な人間性を備えた彼等を昇格させたギルドは非常に慧眼ともいえる。

ならば多くを説明する必要もない。

王統府要人の救出と保護は、何者にも代えがたい極めて重要な案件なのだ。

 

「アンタはどうするんだ?まさか一人で――」

「余計な時間浪費も避けたいゆえ、このまま進む」

 

 灰の剣士の主張は理解できるものの、このまま一人で行かせて良いものだろうか。

よく見れば彼の認識票は()()()()を示している。

どうにも事情が絡んでいる様だが敢えて問い詰める事はせず、戦士らしきの頭目は彼を気遣い詮索はしなかった。

しかし灰の剣士は、このまま進軍する旨を告げる。

本来なら、もう少し頭数を揃えたいのだが、今回は時間が限られている。

アンリの話では数日の猶予があるらしいが、可能な限り早期に解決したかった。

 

「少ないが依頼料だ。この人達をどうかお願いする」

「…仕方ないな。金まで受け取ってしまったんじゃあな」

 

 これは冒険者としての一種の筋――。

灰の剣士は懐から、数枚の金貨を取り出し戦士らしきの頭目へと手渡した。

臨時で簡易的だが、一応は冒険者としての手順を踏み依頼している。

此処まで頼まれてしまったとあらば、無下に拒む事も出来ない。

 

「分かった。この人達は責任を以て街まで護衛する、アンタの成功を祈ってる!」

「宰相閣下、他の方々も…、私たちから離れないで下さいね…!」

「今の所、目ぼしい敵は居らんでな。行くなら今の内じゃ!」

「周囲の警戒は任せな!俺は目と鼻が利くんでな!」

 

 戦士らしきの頭目、女性の魔法使い、老齢の僧侶、若い男斥候は各々の役割で王統府要人たちを先導した。

 

「いい!?必ず、戻って来るからね!ジーノやトトリたちを見付けたら、絶対に守り切りなさいよ!」

「これ、シュバルツラング卿!王妹殿下が最優先であろう!…おっと灰の剣士とやら、戦力を整え次第、儂らも必ず救援に向かう。あまり無理をするでないぞ!?」

 

「ああ、これで漸く助かる…」

「早く…早く…、街へ連れて行っておくれ…」

「もうこんな、悍ましい遺跡…居たくもないわよ…」

 

 一党に先導され、宰相やミミたちも声を投げ掛けてきた。

助かる事が確定し、多少は心の均衡を取り戻したのだろう。

ミミも宰相も、再度挑む事を諦めてはいなかった。

今の拠点街は人材不足で機能低下に見舞われているが、まだ設備は稼働している。

街に戻り、回復と戦力を整え次第、彼等は再度ロスリックへと舞い戻るだろう。

だが戦えない貴族層たちは、かなり心が折れていた様で”一刻も早く安全な場所へと案内しろ”と一党を急かした。

 

「…ふぅ。先へ進むか」

 

 一党に護衛される王統府要人たちを見送り、灰の剣士も昇降機の区画(エリア)へと歩みを再開した。

 

   ―― 昇降機稼働中 ロスリック城門前に通ず ――

 

昇降機前にも看板が立てかけられている。

此処を攻略した冒険者が立てたのだろう。丁寧に虹色石も壁面に埋め込まれ、確かに攻略が進んでいた事を証明していた。

昇降機に乗った彼は、床のスイッチを踏み込み作動させ下層へと降りた。

 

   ―― ここより先 ベースキャンプ ――

 

昇降機の区画から出た彼は、またもや立て看板を目にする。

 

城門前の広場と言えば、あのロスリックの騎士たちが徘徊していた区画を差している。

記された内容を見るに、広場は冒険者たちのベースキャンプとして活用されているというのだ。

それが本当なら、此方にとっても有り難い内容だ。

危険極まるロスリック内で簡易拠点を構築できるという事は、それだけ制圧が着々と進行しているという意味でもある。

ギルドでの情報通り、高壁内の制圧は粗方完了している様だ。

 

しかしである。

 

「生者の者ではないソウルが幾つも…。おっと、メッセージもあるな」

 

 件の広場に向け意識を集中させれば幾多もの敵対ソウルが感知でき、地面からもメッセージが浮かんでいる。

 

   ―― 敵…ああ敵(ジェスチャー・へたり込み) ――

 

メッセージに触れてみれば、無名騎士シリーズに身を包んだ戦士が床にへたり込む幻影が、彼の目に浮かぶ。

 

――他次元の彼(彼女)も、苦労している様だな。

 

思っていた以上に敵が多いらしい。

ソウルの波形とメッセージを参考に、彼は慎重に歩みを進める。

 

「ロスリック騎士に兵士たち…、城から出張ってきたのか」

 

 下り階段付近で一旦歩みを止め、彼は様子を窺った。

城門前の庭園には、ロスリック騎士を筆頭に複数の亡者兵が徘徊している。

敵兵の周囲には、荒れ果てた物資の瓦礫が散乱していた。

 

「ベースキャンプとしては使えないな」

 

 守備を担う冒険者まで例の作戦に駆り出された事で、無防備となった庭園が襲撃されたとみていい。

天幕は打ち壊され、物資を満載していたと思わしき木箱も無残に破壊されている。

敵勢力を排除できたとしてもベースキャンプとしての機能を取り戻すには、相応の労力を要さねばならないだろう。

 

しかし放置は推奨できない。

今後の為を考慮するなら敵兵排除を成すべきだ。

しかし亡者兵はともかく、ロスリック騎士は単体でも高い練度を誇る。

亡者兵あるいはロスリック騎士に感けている隙を、横や背面から突かれては一気に致命傷を負いかねない。

 

   ―― 誘い出しとはな(ジェスチャー・手招き) ――

 

階段の段差に刻まれているメッセージには、誘い出しの助言が記されていた。

軽装に弓を背負った弓使いが、手招き動作の幻影を浮かべている。

 

――ご忠告感謝する(高評価)。

 

メッセージの主へと高評価で返し、灰の剣士は合成弓(コンポジットボウ)を構える。

戦士や騎士の誉など、この戦場では何の役にも立たないのだ。

卑怯と罵られようとも今は確実な勝利こそが肝要。

階段に陣取った彼は、狙いを亡者兵へと定め戦技『強射』を放つ。

 

緩慢な動きの亡者兵など的も同然。

鋭い高速の矢が、亡者兵の頭部を射抜き一撃で仕留めた。

 

――多少の変化が見られるな。

 

亡者兵の一人を仕留めた事で、周囲が一斉に此方の存在を感知した。

以前の時代なら、矢の着弾地点を凝視するのみで時間経過と共に警戒を解くのが普通だった。

だが彼等にも意識が変化していたのか、ロスリック騎士の号令で全員の亡者兵が彼へと殺到する。

 

しかし距離が離れているため、彼は慌てふためく事なく戦技『連続射撃』で次々と頭部を撃ち抜いた。

 

瞬く間に亡者兵を全滅させ、残るは迫り来るロスリック騎士のみ。

長剣に中盾の基本的装備だが、動き自体を見るに練度が高い事が分かる。

しかし彼は敢えて階段から動く事なく、刀と中盾へと武器を持ち替え待ち構えた。

 

間合いに入ったロスリック騎士が上質の長剣を振り翳すも、彼は冷静に中盾で受け止めつつ戦技『シールドバッシュ』で体当たり。

カウンター気味と足場の悪い段差という悪条件が重なり、ロスリック騎士は容易に体幹を崩してしまった。

幾ら重厚な甲冑装備とはいえ、体幹を崩せば勝利を捥ぎ取るのは容易い。

 

「――フッ!」

 

 彼は、そのまま盾を押し出す事で、騎士を階段から転げ落ちさせた。

全身至る所を強打した騎士だが、重厚な鎧のお陰でまだ動けるらしい。

ヨロヨロと起き上がろうとしたが、既に彼は間合いを詰め頭部へと刀を突き刺し止めを刺す。

 

「――GROUU…!」

 

 奇妙な絶叫を上げつつ、今度こそロスリック騎士は活動を完全停止した。

 

「よし、敵は居ないな」

 

 真面に戦えば、無傷とはいかなかったかもしれない。

ロスリック騎士と亡者兵の組み合わせだが、狭間の地の君主連合と遜色ない練度を誇っている。

加えて夜間は亡者が強化されるという此方には不都合な時間帯だが、対処さえ的確であれば然程の脅威でもない。

可能ならば無傷で勝利を収めたかったのだ。

戦闘を終え再び意識を集中させるが、近辺に目ぼしい敵対ソウルは感じない。

武器を仕舞い、彼は朽ち果てたベースキャンプ広場へと足を踏み入れる。

 

「意外と物資も残ってるな。矢を失敬させて頂こう」

 

 かなり破壊も目立つが、散乱している物資の数々は損耗も少なく使えそうな物が目立っていた。

此処に至るまで予想以上に()()()()していた事もあり、彼は散乱している()()を拾い上げる。

損壊したベースキャンプだが、手付かずの野営道具や糧秣も幾らかは残っている。

人員さえ戻れば、元の機能を取り戻す事も出来るだろう。

 

――…微弱なソウル…、この木箱からか。

 

かなり弱々しいソウルなのか、此処で漸く察知出来た。

少々大き目の木箱へと警戒しつつも慎重に近付き蓋を開ける。

 

『――うわぁあぁッ…!殺さないでくれぇッ…!!』

 

「――ッ!?」

 

 蓋を開けた瞬間、必死の叫び声が周囲に拡散する。

ある程度予想はしていたが、彼も一歩飛び退き中盾で身構えてしまった。

 

「…生者、冒険者…だな?」

「ひ…ひぃ…お助け…」

 

 ソウルの波形で分かっていたが、木箱の中には怯え切った冒険者らしき男が身を屈め震えていた。

 

「落ち着いてくれ、私も冒険者だ。貴方は、例の作戦に参加した者か?」

「ひっ…!ぼ…冒険者…?も、亡者や魔神軍の手先じゃ…ないんだな…ハァ、ハァ、ハァ…」

 

「そうだ。私は任を受け、王妹殿下の救出を最優先に動いている」

「…そ、そうなのか…?やっと救援が……、でもアンタ一人…か…?」

 

「ああ…、残念だが私一人だ。しかしやり遂げねばならぬ」

「……。俺…私は…、あの作戦に参加していた者の一人だ。だが…作戦は結局失敗…、細かい事までは…あまり覚えていない…」

 

「知っている範囲でいい、教えてくれないだろうか?」

「わ、分かった…。…ここの敵…、アンタが一人でヤッたんだな…凄いじゃないか…」

 

 同業者との会話で若干は落ち着いたのだろう。

冒険者の男は、木箱から這い出てきた。

身なりから察するに高級品で、戦士職とも呪文使いとも少々違うようだ。

 

……

 

彼は冒険者だが、『吟遊詩人』を生業としていた。

冒険者に属する吟遊詩人の彼だが様々な一党を転々とし、専ら活動記録や詳細をギルドに伝達する役割を担っていた。

その彼も例の作戦参加者で、冒険者たちの活動記録とそれを基にした歌物語を創り上げようと意義込んでいたのである。

しかし結果として作戦は失敗し、多くの冒険者たちが連行されるか散り散りとなりながら犠牲者が続出。

また彼自身も数名の同業者と共に命からがら逃げ伸びたのだが、此処まで来てロスリック騎士率いる亡者兵の襲撃に遭った。

疲弊に加え負傷と精神的負荷(ストレス)も重なり、彼等は抵抗虚しく壊滅。

結局、今の彼だけが木箱に身を隠す事で何とか生き延びていた訳だ。

しかし敵側は、この場から離れず徘徊を繰り返し、彼は木箱の中から動く事が出来なかった。

灰の剣士が訪れなければ、彼は木箱の中で朽ち果てていたかも知れない。

 

「このまま拠点外まで行けるか?」

「…う…それは…」

 

 こうして生存者の一人を救出できた訳だが、自力で拠点外まで向かって貰うしかない。

怯える彼は此処まで辿り着くと道中でさえ、相当の恐怖を味わっていた様だ。

一人で街まで移動する勇気は残されておらず、彼は身を竦めながら語尾を弱める。

 

――一人ぐらいは、同行させておくんだった。

 

先ほど追い駆けて来た冒険者一党の一人だけでも連れ歩くべきだった。

今更ながらに、自らの行いを悔いた灰の剣士。

だがもう遅い。彼ら全員を王統府要人たちの警護に割いてしまった以上、今更連れ戻す訳にもいかない。

自らが、この彼を街まで警護すればいいのだが、それでは大幅な時間浪費に繋がってしまう。

此処の敵殲滅は成ったが、時間が経過すれば再び敵の増援が駆け付ける可能性も高く、この場で彼を待機させるのは危険が伴う。

そうとなれば、後はこのまま連れ歩くしか手が残されていないのだが、人数が増えるにつれ行軍速度に遅れが生じてしまう。

灰の剣士としては、単独で行動したいのが本音だった。

 

――どうしたものか…?

 

少し注視してみれば、彼の認識票は青玉等級を示していた。

戦士職ではないにしても、幾許かの戦闘力を備えていると判断していいだろう。

傷と体力を回復させ、尚且つ自衛できるのであれば連れ歩くのも吝かではない。

少々思案に耽る灰の剣士だが、突如として怪しいソウルを二つ感知する。

 

「――危ないッ…!」

「――えっ!?」

 

 唐突に庇われ呆気にとられる吟遊詩人風の男。

腰には楽器類と、戦闘用の『弩』が吊り上げられていた。

大型の弾倉らしき箱が取り付けられた弩は、恐らく連射弩(リピーティングクロスボウ)の類だろうか。

 

彼を『吟遊連弩使い』と称する事にしよう。

 

灰の剣士に押し出され転倒した吟遊弩使いは、呆然と自分の居た地面を垣間見た。

 

「――な…なんだぁッ…、この赤く光る大剣はッ…!?」

 

 彼の視界には、地面に深々と刺さる赤黒い大剣が映っていた。

もし庇われるのが一瞬でも遅れていれば、この男は無残な肉塊へと果てていたのだ。

 

「新手…しかも鉄茨のエレメール…、それともう一人…誰だ…?」

 

 地面を抉る大剣には見覚えがある。

次の瞬間、赤黒い光を帯びた大剣は、独りでに浮遊し持ち主へと戻る。

大剣の方角へと目を向ければ、城壁の上には二人の人物が見降ろしていた。

その内の一人は、灰の剣士も良く知る鈴玉狩りこと鉄茨のエレメールだ。

あの男とは何度も狭間の地で対峙した経緯があり、聖黄金樹を通じた世界では()()()()()()()()()筈だった。

(本編前夜編 第147話参照)

しかし、件の男は四方世界にも『闇霊』として出現し騒動を振り撒いていたのである。

(本編前夜編 第107~108話参照)

どういう要因が働いたのかは分からないが、現にエレメールは姿を現している。しかも本体で。

だが、もう一人の騎士風の男は一体何者だろうか?

赤黒いソウルを纏うエレメールとは対照的に、青黒いソウルと全身甲冑を纏う騎士風の男。

手には濃紺の特大剣を所持していた。

 

今にも襲い掛からんばかりにソウルが荒れている。

鉄茨のエレメールの目的だが、大方ソウルを奪取する算段なのだろう。

だがもう一人の鉄紺(てつこん)色の騎士の目的は読めないままだ。

エレメールの仲間と思わしき風貌だが、自分に激しい憎悪を向けられている気がするのは何故だろう。

何処かで遭遇した覚えもなく、灰の剣士は若干惑いを感じていた。

 

「貴方は下がっていてくれ」

「あ、ああ…分かった…」

 

 再び現れた新手に抗すべく、吟遊連弩使いを後方へと下がらせた灰の剣士。

彼は腰の『月隠』を抜き、慎重に待ち構えた。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

戦技・束の間の月影

 

刀身を鞘に収め、腰だめに静かに構える戦技。

通常攻撃および強攻撃で、高速の斬撃に繋げ、それぞれ光波を放つ。

 

錬度を高めれば、更なる射程、威力、弾速強化も見込めるだろう。

 

月夜に煌めく白き月光の白刃は、まるで裁きの剣にも似ていた。

 

 

 

 

 

 




早速、宰相とミミに出会いました。
宰相はともかく、ミミも灰の剣士には若干否定気味です。特に理由などは無いのですが、単純に合わないだけなのでしょう。彼とて、誰彼構わず好かれる聖人ではないので。もしミミが、地母神神殿での騒動を目にしていれば、オーレルと共に敵対していたかも知れません。
本当は、ミミたちが高壁まで辿り着いた物語も書いてみたかったのですが、余計な回り道になると思い割愛させて頂きました。かなり過酷な目に遭っているかと思いますが、まだ自我崩壊していない分、絶望的な状況は軽かったのだと思われます。彼女達の詳細な物語は、読者様がたの想像にお任せするといたしましょう。

如何だったでしょうか?
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。  
デハマタ。( ゚∀゚)/

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