ゴブリンスレイヤー ―灰の剣士―   作:カズヨシ0509

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 ロングソードよりもブロードソード派な私。
ロングソードも充分格好良いですけどね、ウン。
これらは序盤に愛用していた方々も多いと思います。
私もよくお世話になってました。


第17話―ロスリックの高壁、下層部―

 

 

 

 

 そして、注意なさい。大城門には、番犬がいます。

 

忌々しい、冷たい谷の番犬が・・・

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 建物内の横部屋は、樽や木箱に加え壷なども乱雑に陳列されていた。

建物自体の構造や置かれていた食器からして、兵士達の食堂兼物資貯蔵庫だと想像できる。この部屋は、食材保存庫だったのだろうか。

ほぼ全ての物資が原形も分からぬ程に風化し、元が何だったのか分からない。

戦士職の大半が長槍のロスリック騎士と戦闘中、部屋を探索していた女騎士達に突如襲い掛かる亡者達。

亡者の直剣を盾で受け止め、先程入手したロスリック騎士の剣で切り捨てた。

短剣装備の暗殺亡者やクロスボウ装備の亡者も禿頭僧侶と魔女の活躍で一掃された。

部屋から楔石の欠片や不死の護符などが手に入った。

女騎士達が部屋の探索を追えた頃、食堂のロスリック騎士との戦闘も終わっていた。

 

「終わった様だな」

 

「そっちもな」

 

 互いの無事を確認し合う一行。

 

「少し、悪い、報せが、あるの」

 

 魔女の言に、一行が耳を傾ける。

 

「呪文の、残り回数、後一回、なの」

 

 残念そうな表情で自分の現状を告げる彼女に、女騎士が『問題無い』と相槌を打った。

 

「灰に頼んでみろ。呪文の使用回数など些細な事になる」

 

「え、そう、なの?」

 

 女騎士の返事に不思議そうな顔で灰を見る、魔女。

すると、灰は圃人の少女に預けてあったポーチから、青く淡い輝きを放つ瓶を取り出した。

 

   ―― エストの灰瓶 ――

 

篝火の火を冷たい熱に換え、使用者の集中力を回復させる効果がある。

 

エストの灰瓶を勧められた彼女は暫し青い灰瓶を見つめ、やがて一口飲んだ。

 

「……まぁ、これは?」

 

 飲んだ瞬間、彼女の集中力が全開し本人も驚きの声を上げた。

 

「マジックポーション、みたいな、物かしら?」

 

 彼女に質問に『そうだ』と答え、ついでに奇跡や魔術を消費した他のメンバー達にも、飲む事を勧めた。

皆の体制を整えた所で、食堂を探索する事になった。

 

「銀製のコブレットか、こりゃ?」

 

 槍使いが拾い上げたのは、銀で加工された足つきの金属製で出来た酒杯。

 

「こっちもだ。高級の食器が混じっているな」

 

 それなりに裕福な環境で育った女騎士も高級品に視線を向けていた。

兵士用の普及型の食器や家具の中には、士官用の高級品も混じっている。

それらだけでも持ち帰れば、当分は楽に生活していけるだけの収入を得る事が出来るだろう。

このロスリックの高壁を探索して、一行にとって初めての冒険者らしい収穫とも言えた。

 

皆が食堂内の探索に明け暮れている頃、灰は一人奥の廊下を探索していた。

 

露払いを兼ね、物陰に隠れている亡者を密かに排除し、ブロードソード、アストラの直剣、緑化草などを入手し皆の所に戻る。

 

「そっちは何か収穫はあったか?」

 

 手に入れた物を皆に報告する灰。

 

「おう、大収穫だ!見てみろよ、これらを」

 

 重戦士達は、貴金属で出来た食器や小物などを上機嫌で机の上に並べ立てる。

 

「見て下さいよ、これ!」

 

 少年斥侯は、得意気な表情で見つけた物を並べた。

 

「細かい装飾が施された、観賞用のナイフとフォークですね。研究家や収集家が大金を出してでも買い取ってくれるでしょうね」

 

 半森人の軽戦士の言葉に上機嫌になる斥侯。

 

今までの疲労や苦痛など吹き飛んでしまっていた、彼にとって苦労が報われた瞬間なのだろう。

 

「私の方はこれらを入手した」

 

 灰は手に入れた武器や道具の説明を始めた。

 

「緑化草に不死狩りの護符か、余り得体の知れない物は避けたいな。お前が使って構わないぞ」

 

 女騎士の言葉に甘えるとしよう、これらの道具は灰の持ち物となった。

 

「なぁ、このアストラの直剣とやら…俺が使って構わないか?」

 

 同期戦士はアストラの直剣が気になるようだ。

 

   ―― アストラの直剣 ――

 

亡国アストラの名で呼ばれる上質の剣。嘗ては、何らかの魔力付与が施されていたらしいが、今では失われている。

 

元々特別な武器に関心があったのだろう、アストラの直剣は彼の者となり、その剣を鞘から抜いたり構えたりしながら彼は上機嫌だ。

 

残りのブロードソードは、灰が使わせてもらうことになった。

ロスリックの槍騎士との戦闘で、ショートソードが折れてしまった為だ。

 

食堂及び廊下の探索を終えた一行、残るは階段を更に下りた下層の部屋だ。

部屋の少し上の足場で待機し、部屋には多くの亡者兵と飢えた亡者犬が徘徊していた。

無策で突撃すれば忽ち、餌食にされるだろう。

 

「ちょっと数が多くないか?」

 

「障害物となる物も散乱していますね」

 

 これでは戦い難いと、同期戦士と禿頭僧侶は頭を悩ませる。

 

「手はある。散乱している物資の中には、火薬樽が多く混在しているだろう。あれを利用させてもらおう」

 

 灰は、作戦を提示する。

 

「あれだけの火薬樽、かなりの威力が期待出来ますけど、周りのの物資も吹き飛びますね。ちょっともったいないかな……」

 

 少年斥侯は名残惜しそうだ。

 

「仕方あるめぇよ。少しでも生存率を高める為だ」

 

 槍使いの言葉に皆が頷き同意する。

 

「ああ、それと。聖水を二つ出してくれ」

 

「聖水、ですか?」

 

 不思議そうにする圃人の巫術士に聖水を取り出してもらい、彼女と斥侯に一つずつ渡した。

 

「亡者に効くかどうか試してみたい。弱らせた奴を誘い出すから、合図したら投げ付けてくれ」

 

 灰は二人に指示し、動き出す。

まず灰の火球で、火薬樽に引火させ爆発させる。

その爆発で、傍の火薬樽も次々と連鎖的に誘爆を起こし、部屋全体が派手な大爆発に見舞われた。

爆発の衝撃と熱波の圧力で、亡者達は吹き飛び燃やされ粉砕される。

爆発が収まる頃には、最大の脅威になったであろう亡者犬は勿論、大斧をそうびした亡者兵もバラバラに吹き飛んだ。

 

唯一生き残った斧槍を持った亡者が階段を駆け上がり、怒りに任せた突撃を敢行する。

 

――もう少し引き付けて……。

 

「今だ、投擲!」

 

 灰の合図で、斥侯と巫術士が手にした聖水を亡者目掛けて投擲した。

それぞれ胴体部と脚部に命中する聖水。

すると強酸でも被ったかの様に聖水と反応し、命中した部位が煙を上げ溶け出していく。

 

「効いてる……、しかし!」

 

 効果はあったが、亡者は活動を停止する事はなかった。

結局灰が止めを刺し、部屋の戦闘は終了した。

 

「至高神の聖水ならもっと効果があるかも知れんぞ。地母神は、本来癒しと豊穣を司る神だ」

 

 女騎士が曰く。

更に付け加えるなら、地母神の聖水は負傷者の傷口を洗い流したり、水薬の材料として使われる事が多いらしい。

機会があれば、至高神の聖水を試すのも良いかも知れない。

 

先程の誘爆で部屋の物資は殆ど吹き飛んでいたが、宝箱は無事だった。

その中から『銀鷲のカイトシールド』と台座の上から『帰還の骨片』が見付かった。

本来台座には、エストの欠片が置かれていたのだが所持しているエスト瓶は、既に最終強化済みであまり問題とはならなかった。

灰以外のメンバーには、帰還の骨片は只のゴミにしか見えなかった様だ。

灰は密かに回収し、懐に忍ばせておいた。

これから先、使い道もあるだろう。

 

さて、部屋の探索が一通り終わり、灰の胸中にはある懸念が渦巻いていた。

 

この部屋の下に大庭に繋がる通路があるのだが、その通路は強敵『羽の騎士』が徘徊しているのだ。堅牢な重甲冑を全身で覆い尽し、重厚な長斧で武装している、極めて危険な相手だ。

真正面からまともにぶつかり合えば、無事では済まないだろう。何とか避ける方法は無いものだろうか?

頭を悩ませ思案に耽っていると、ある事実に気が付いた。

本来ならこの部屋にまで聞こえて来る筈の足音が全く聞こえて来ないのである。

不思議に思い灰は、部屋のテラスに出て確かめた。

 

「おい、どこ行くんだ?」

 

 重戦士が何事かと、後を追う。

灰は掛けられる声に耳も貸さず、羽の騎士が徘徊していた通路に視線を向けた。

 

羽の騎士の姿は、物言わぬ死体へと変貌を遂げていたのである。

 

正確には、既に何者かによって倒されていたと言うべきだろう。羽の騎士の傍らには、複数の戦士達の亡骸も転がっていた。

 

「これは一体……?」

 

 灰は、すかさず飛び降り確認に走り寄る。

転がっている死体の装備品には見覚えがあった。

それらはロスリックへ侵入する途中の下り道で見かけた、別の冒険者らしき集団の装備品だった。

だが冒険者に在りがちなバラバラな装備品ではなく、統一性が見られる。彼等の身なりは、何処となく兵士を彷彿とさせた。

 

 

「……冒険者と言うよりも、寧ろ――」

 

「――王都の正規兵ですね」

 

 追い付いて来たのだろう、半森人の軽戦士が装備品と死体を見定めた。

 

「国が、動いた、のね」

 

「混沌の軍勢との戦争中にも関らず部隊の割いたのか?」

 

 魔女と女騎士との言葉のやり取り中に、剣と剣の打ち合う音が聞こえて来た。

奥の城門前の大庭からだ。

 

「行くぞ皆!戦闘体制を整えておけ!」

 

 重戦士の号令を機に、皆が現場に向かう。

出口を抜け、大庭に出ると既に複数の兵士達が、亡者兵とロスリック騎士達相手に戦っていた。

 

2名の兵士が複数の亡者兵を相手取り、4体の内3体のロスリック騎士には、一体につき二人係で相手取る様に立ち回っている。

最後の青い外套とマントを羽織った、隊長らしきロスリック親衛騎士は、一人の騎士が辛うじて持ち堪えていたが、長くは持たないだろう。

 

「俺達も加勢するぞ!」

 

 重戦士の指示で、皆が正規兵側の援護に入る。

 

重戦士と女騎士が、ロスリック騎士一体を担当。

同期戦士と斧戦士が、もう一体のロスリック騎士を担当。

槍使いと女魔術師が、ロスリック槍騎士を担当。

残りは、周囲の亡者兵達を担当。

最後に灰が、ロスリック親衛騎士を担当した。

 

重戦士達冒険者の参戦で、終始劣勢だった戦局がこちら側の有利に傾いた。

 

強固な守りと苛烈な攻めに、苦戦を強いられていた正規兵達だが、ロスリック騎士の意識は正規兵に向いていた為、重戦士達の攻撃を裁き切れず援護攻撃をまともに食らい呆気無く散った。

 

「兵隊さんよぉ!援護するぜ!大盾を頼まぁ!!」

 

槍使いの素早い介入で、一瞬戸惑いを見せたが訓練を充分に積んだ正規兵達は、瞬時に状況を把握し敵の大盾を崩す事に専念する。

 

「サジタ、インフラマラエ、ラディウス!」

 

 魔女の真言魔法である火矢(ファイアーボルト)が敵の頭部に直撃。

体制を崩した隙を目掛けて槍使いの『ロスリックの長槍』による鋭い突きが、頭部を貫き止めを刺した。

 

「俺が防御を崩す!攻撃は任せたぞ!」

 

「おうっ!任せぃっ!!」

 

 同期戦士と斧戦士が、ロスリック騎士に迫る。

正規兵の一人が、冒険者の接近を察知し距離を取った。

 

「よっしゃ、隙ありぃ!」

 

 同期戦士がアストラの直剣での霞の構えから、ある技を繰り出した。

 

   ―― 戦技、かち上げ ――

 

下段から剣を振り上げ、相手の盾防御を崩す剣技である。

盾防御は見事に崩れ、ロスリック騎士は防御の要を失った。

状況を察したもう一人の正規兵は、剣を全力で振り下ろし敵の剣をわざと防御させる。

 

「止めは任せたぞ冒険者!」

「おうさっ!!」

 

 正規兵の思わぬ援護に奮起した斧戦士は、渾身の力を込め戦斧を頭部に叩き込んだ。

ロスリック騎士は、呻き声を上げ地に倒れ完全に絶命。そのまま地面へ崩れ去る。

 

強力な戦闘力を誇るロスリック騎士も1対1では完全に苦戦するが、複数係で戦術と役割を駆使すれば決して倒せない相手ではなかった。

残りのメンバーも可能な限り、1対多を徹底し亡者兵を殲滅していった。

 

残るは、ロスリック親衛騎士のみとなった。

 

ロスリック親衛騎士は灰の姿を確認するや否や、正規騎士の攻撃をシールドバッシュで押し返し吹き飛ばす。

そして灰目掛けて突進し、剣を突き入れた。

だがその動きは灰に読まれており、バックラーのパリィングで弾き返され大きな隙を作る。

間髪入れずに灰は的の首に狙いを定め、ブロードソードを突き出す。

しかし相手も盾でその突きを防ぎ、バックステップで一旦距離を取った。

ロスリック親衛騎士が、剣を両手に持ち替え剣の刃に手を翳す。

 

   ―― 奇跡、武器の祝福 ――

 

武器を聖なる力で付与し、攻撃力と時間経過と共に自然回復を得る事の出来る奇跡。

剣が白い聖光で満たされ、その剣は正に聖剣と呼ぶに相応しい様相を呈していた。

ロスリックの聖域を汚す侵入者達を悪と断定したのだろう。

 

しかしそれと同時に、灰の剣も激しい炎に包まれていた。

 

   ―― 呪術の火、カーサスの孤炎 ――

 

カーサスの剣士達が編み出した火の術。

剣を炎で包み込み、斬撃と炎熱の同時攻撃を行う術だ。

弧を描く炎は、激しい剣技を振るうカーサスの剣技に相応しいと言えるだろう。

 

両者の付与が完了し、互いに疾走し距離を詰める。

先にロスリック親衛騎士が仕掛けた。

両腕から繰り出される、重く速い大上段からの振り下ろし攻撃。

灰は剣の角度を斜め下にずらし、その一撃を受け流した後、振り上げ攻撃で反撃を見舞う。

その一撃は、見事敵の胴体部に傷を負わせた。

シミターではなくブロードソードで戦っているのは、敵が強固な鎧を纏っている事とシミターでは折れてしまう恐れがあった為である。

とは言え炎で強化された剣は、鎧毎有効なダメージを与え、敵を焦燥させた。

灰は好機とばかりに踏み込み、袈裟懸けに切り付ける。

 

敵は剣でそれを防ぎつつ反撃を試みるが、灰は既に腰溜めの構えに移り側面から切り付けた。

親衛騎士は、その攻撃をも剣の防御で凌ぐが反撃に移る前に逆側面から刃が飛来していた。

だが、それすらも辛うじて防御するが、次から次へと怒涛の連撃は止む事無く敵は防戦一方に陥る。

右から、上から、斜めから、正面から、時間差の剣撃まで絡めてスタミナの続く限り、灰の連撃は休む事無く続く。

だがそれも永久に継続される筈もなく、遂に怒涛の連撃は途切れた。

 

途絶えた隙を狙い、敵の反撃が始まる。

ここぞとばかりにロスリック親衛騎士が斜めからの振り上げ攻撃を見舞った。

だがその剣は虚しく空を切り、空振りに終わる。

 

気が付くと灰は、剣の射程外へ退避していた。

灰は『カーサスの高速体術』で一気に跳躍し、距離を開けていたのだ。

カーサスの剣士達が使った、あの体術で。

灰は最小限のスタミナを残し、わざと反撃を誘い一気に射程外へ退避する事により、スタミナ回復の時間を稼いだのだった。

一呼吸置き、スタミナを回復させていく灰。

 

激昂したロスリック親衛騎士は、我を忘れ一心不乱に突撃を敢行。

そして全力の疾走突きを灰に見舞うが、大振りの突きは簡単に動きを読まれ、パリィングの格好の餌食となった。

バックラーで切っ先を弾き、がら空きになった親衛騎士に燃え盛る剣を頚部へ突き入れ深く抉り込む。

彼は素早く大きく仰け反った敵から剣を引き抜き、体を瞬時に回転させ勢いを乗せ首を刎ね、ロスリック親衛騎士を討ち取った。

 

その頃には周りの敵は全て倒され、大庭での戦闘は終わっていた。

突然の冒険者たちによる参戦で、兵士たちは半ば唖然と呆けていたが直ぐに状況を理解する。

その後、冒険者一行と正規兵達は互いの情報を交換し合う。

 

「まさか王国が動いていたとは驚きです」

 

 混沌の勢力との戦争中で、部隊を割く余裕など無く、この地に訪れるのは冒険者だけだと思っていた灰、国が動いていたのは意外だった。

 

「ロスリックの情報は、古文献や冒険者ギルドを通じてある程度は入手出来ていたのでな」

 

 部隊長らしき正規騎士の言葉によると、ロスリックの存在は他国にも届いていると言う。

 

このロスリックは、これまでの遺跡とは別次元の規模と重要な文化的価値がある。

それにどの様な理由であれ、領有権は王国側にある。他国よりも先にロスリックを抑え優位に立つ必要があるのだ。

 

本来、部隊を割く事は可能な限り避けたいがロスリックと言う存在は、それだけの価値があるのだと騎士らしき男は語った。

 

幸か不幸かここまで生きて辿り着いたのは、灰を含めた冒険者一行と、王都正規兵調査隊のみだったが。

 

「それにしても驚いたな、貴殿等は全員白磁等級の新人とはな」

 

 正規騎士は、冒険者達が白磁等級の新人だという事実に驚きを隠せない様だ。

 

「いえ、幸運と皆の働きが私達に良い結果をもたらしたに過ぎませんぜ」

 

 重戦士は謙遜し、若干の萎縮を見せてしまう。

まさかこの様な遺跡で、正規の軍人に出会う事になろうとは予想だにしていなかったのだから、無理も無いだろう。

 

「さて、我々はどう動いたものか?」

 

 正規騎士達は今後の予定を思案している所に、灰が『目の前の正門を調べてはどうか?』と提案が入る。

どうやら他のメンバーも同様の考えだった様だ。

すんなりと決まり一行は、眼前の閉ざされた正門に集合した。

火継ぎの時代に訪れていた時とは違い、門は硬く閉ざされていた。

 

この正門の先は、ロスリック城へ続く祭儀場に繋がっている。

その奥には祭儀長『エンマ』と呼ばれる老婆が居座っており、ロスリック城下町『不死街』へ到達する為の『ロスリックの小環旗』と呼ばれる道具を譲ってもらった経緯があった。

まず灰自身が正門の扉を開く為、手を掛け押してみたがビクともしない。

続いて、重戦士、斧戦士、正規騎士等も加わり力を込め扉を押すが、微動だにせず開く気配は無かった。

 

「だ・・・駄目じゃあ、ウンともスンと言わんワイ」

 

 鉱人の斧戦士は息を切らせ座り込む。

 

「施錠されてるのか、閂(かんぬき)でも掛けられているのか?」

 

 重戦士も肩で息をしている。

 

「……」

 

 灰は門に気配を感じ取り、門に耳を当て探ってみた。

 

 

……

 

…カツーン、…カツーン。

 

不気味な足音が僅かな振動となって、門を伝い灰の耳に届いた。

 

――……!……居るっ!

 

忘れもしない、不気味で静かだが、はっきりと確と聞こえる足音。

 

――間違いない!『冷たい谷の踊り子』が徘徊している!

 

正直思い出したくも無かった。

王達の薪を集め、祭儀長エンマが最後の力を振り絞り、灰を祭儀場へ召喚した。

程無くして彼女は倒れ、ロスリック城へ向かおうとした矢先、どこからとも無く出現した長身の怪物、冷たい谷の踊り子。

異様な長身と有り得ない姿勢から繰り出される、不気味な剣技に幾度と無く翻弄され、何度も何度も倒された過去を持つ強敵だった。

切り裂かれ、切断され、焼き切られ、串刺しされながら燃やされと散々な目に遭い、出来るなら二度と御目に掛かりたくは無い。

 

「おい、どうしたんだ?震えてるぞ?」

 

 槍使いが怪訝な顔で、灰を見る。

 

「現時点では手を出せない、諦めた方がいい……」

 

 冷や汗を垂らしながら、この正門は後回しにしようと、諦めを見せる灰。

 

「おいおい、何があるって言うんだ?」

 

 好奇心に駆られた槍使いは、灰と同様に門に耳を当てる。重戦士と正規騎士も耳を当てた。

 

 

……

 

「「「……」」」

 

 暫く沈黙が周りを支配した。

 

「……止めとこう、ヤベェ……」

 

 血の気が失せたかの様に青ざめた顔で、正門を諦めた3人。

結局正門を諦め、残るは反対方向の下り階段の先にある裏門、嘗て『冷たい谷のボルド』が居座っていた部屋のみとなる。

その上で灰は確かめてみたくもなった。

この先の不死街へ続く道がどうなっているのかを。

もし以前と同じく道が途切れ、断崖絶壁となっているのなら早々に諦めが付く。

 

「皆聴いてくれ、私はこの先の裏門を調べてみたい。だが、裏門にも恐らく強敵が待ち構えているだろう。皆の意見を聞きたい」

 

 予めソウルの感知で探っていた為、『冷たい谷のボルド』の存在は確定している。

 

ほぼ確実に被害が出るだろう、最悪死人も……。

 

「どれ、敵感知で探ってみましょう」

 

 禿頭僧侶が敵感知の奇跡で、索敵を開始する。

 

「……ふむ、反応が二つありますね」

 

 一つは、すぐ傍の踊り子。

 

もう一つは、獣の様な荒々しい気配を察知したとの事だった。

 

「確かに今までに無い強敵みたいです、どうします?」

 

 徒党を組んでいる以上、余りに自分勝手な行動は取れない。厳に慎まれるべきである。

頭目である重戦士が引き上げを指示した場合は、決定に従う他ない。

 

「我々は裏門の調査に回る。本来そういう任務だからな」

 

 それでも正規兵達は調査を実行する様だ。

重戦士は暫く考え込んだが、やがて意を決したのか――。

 

「こうしよう。引き上げたい者、続けたい者、それぞれ分かれてくれ。此処まで来たんだ、全滅だけは何としてでも避けたい」

 

 彼の提案で、重戦士、女騎士、同期戦士、斧戦士、野伏、槍使い、女魔術師、そして灰がボルド討伐組。

それ以外のメンバーは、引き上げ組となった。

一応引き上げ組みは、ボルドの広場付近の入り口で待機し、危険だと判断したら即脱出してもらう事にする。

 

……

 

作戦が決まり、ボルドの広場の入り口付近まで接近した一行は最後の準備に移った。

 

「よしエンチャントを頼むぜ!」

 

「はい、お任せを!踊れや踊れ、サラマンダ、尾っぽの炎をわけとくれ……、《着火》!」

 

 重戦士の指示に圃人の巫術士が精霊魔法の一つ、火蜥蜴(サラマンダー)の火で彼の大剣に火の魔力を付与した。

この場で初めて彼女が、本来の役割を発揮した場面でもあった。

 

「おう!お前は彼女を守ってやれ!それから俺達にもしもの事があったら、絶対に生きてギルドまで戻れ、いいな!!」

 

 重戦士は、まだ幼い少年斥侯に発破を掛けた。

年齢を偽って冒険者になるほどの若さだが、冒険者になった以上特別扱いしてやる訳にはいかない。

彼には、生きて帰って貰うという役目を果たして頂こう。

尤も灰を含めた全員が無事なら、そんな心配も無いのだが。

 

「ま、任せて下さい……!」

 

 足元を震わせながらも気丈に振舞い、上擦った声で返す少年斥侯。

続けて女騎士が自分の剣に《祝福》の付与を施し、槍使いは女魔術師に、同期戦士と斧戦士は半森人の野伏に火の付与を施してもらった。

 

「ああそうだ、忘れない内に……」

 

 何かを思い出した灰は、圃人の少女から預けておいたポーチを返してもらい、斥侯が運んでいた深みのバトルアクスと銀鷲のカイトシールドを渡してもらった。

そして銀鷲のカイトシールドを背に、深みのバトルアクスを第3の装備武器とした。

 

「魔力を消耗した者は、灰瓶を飲んでおいてくれ。なるべく万全の状態に近づけてから挑みたい」

 

 魔法を行使し消耗した者達に、エストの灰瓶を飲ませ魔力の回復を図る。

そしてダメージを負った者達にはエスト瓶を与え、傷を回復させた。

エスト瓶は残り一回、エストの灰瓶は空となった。

 

「ギリギリだったな……」

 

 準備は整った。

 

「準備は整ったかな?冒険者諸君」

 

 正規騎士組も準備を終えていた様だ。

彼等も撤退組を選定していた様で、伝令兵と護衛二人を撤退組に分けていた。

正規騎士と5人の正規兵が討伐組でボルドに挑む算段だ。

撤退組は一旦入り口付近で、待機状態に入る。

 

「じゃあ行くか!?」

 

 重戦士が白い歯をニカっと剥き出しにして号令を掛ける。

 

討伐組がボルドに挑む中、圃人の少女が心配そうに灰に声を掛けた。

 

「あ、あの!気をつけて下さい!どうか御無事で……」

 

「ああ、無論だ。こんな所で果てる気は無い」

 

 心配は要らないと返す灰。

そうだ、ギルドで交わした男神官との約束を果たす為にも、この先のボルドを倒し調べる必要がある。

決意を新たに覚悟を決める中、周りの視線に気が付いた。

 

正規部隊全員と討伐組全員が、こちらをニヤニヤしながら視線を送っていた。

 

「おやおや、隅に置けませんなぁ。フードの剣士殿?」

 

 正規兵の一人が灰をからかい始めた。

 

「本当に色男だな、お前」

 

 ニヤケ顔で槍使いも便乗し。

 

「辺境最好色の座は、お前が引き継ぐか?」

 

 止めとばかりにニヤケた女騎士のきつい一言が灰に飛んで来る。

 

「…ぬぅ…茶化さんでくれ///」

 

 彼なりに反論するが、余り効果は無い様だ。

フードで確認出来ないが、灰の顔は真っ赤に染まり汗も滲んでいた。

 

「ええい早く行くぞ、私の続けッ!」

 

 どう返して良いか分からず、照れ隠しと言わんばかりに先頭に立つ。

火継ぎの時代では考えられない、この生に満ちた営み。しかし、彼の心は満たされていた。

 

「「「ハハハハハハ……」」」

 

 とても死地へ向かうとは思えない、和やかな雰囲気が彼らを包み込む。

陰鬱と死臭、血と狂気が渦巻くロスリックに似つかわしくない笑い声が辺りに木霊する。

その集団に、城壁の最上段から視線を送る人影が一つ。

 

そして一言。

 

「ああ、薪の王……」

 

 ただ一言、女性の声で……。

その後直ぐに姿を消し、何事も無かったかのように風が吹き荒んだ。

 

ボルドの広場に足を踏み入れる一行。

広場の中は薄暗く、閉ざされた眼前の鉄門の隙間からは陽光が差し込んで来た。

あの時と同じだ、何度も繰り返し目にしてきた光景。

灰の予想通り入り口の扉は勝手に閉まり、他のメンバーは動揺し騒ぎ出す。

 

そして何も無い空間から、巨大な甲冑を纏った四つん這いの鎧騎士が口から冷気を吐き出し姿を見せた。

それは只管に巨大で、冷たい空気を体の周りに撒き散らし、手には巨大な戦槌を所持している。

それを純粋に騎士とは形容し難い。

その巨大騎士は、四つん這いで何処と無く獣を感じさせるからだ。兜の奥からは、獣染みた双瞳が灰達を見据えている。

とても意思の疎通などは期待出来ないだろう。

 

「――ちょっと待てよ、おい!勝てるのかよ?……これ」

 

 同期戦士が震えながらも辛うじて剣を構えた。

 

「勝つしかねぇだろ!」

 

 いつもは勝気な槍使いも、歯をガチガチ小刻みに震わせながら臨戦態勢を取る。

 

「逃げ道は塞がれちまった。どの道、倒すしか生き残る手段はねぇっ……!!」

 

 重戦士も大剣を構え、何時でも動ける体制に入る。

 

「総員、戦闘準備!あの戦槌に気を付けろ!」

 

 正規騎士が皆に警戒を促す。

 

「……!」

 

女騎士も無言で構えているが、動きがぎこちなかった。

殆ど白目を剥き、ガタガタと震え、足元には不自然な水溜りを形成していた。

最早聖騎士志望の毅然とした佇まいは微塵も感じられず、その姿は恐怖に飲まれ小さな子供同然に弱々しいものであった。

だが、そんな彼女を見て哂う者は一人も居ない。

否、正確には他人を気にしていられる余裕など何処にも無いのだ。

 

皆、本能で感じ取っていた。

 

   ―― コイツはヤバイ!! ――

 

   ―― 冷たい谷のボルド ――

 

巨大な巨躯に、重厚な戦槌を持ち、冷機を纏った鎧を身に着け、四足歩行でゆっくりと近付きにじり寄る。

その異様な圧力に、誰もが戦意を喪失し掛けていた。

 

ただ一人、火の無い灰を除いては……。

 

銀鷲のカイトシールドと深みのバトルアクスを手に一人、敵の前に歩み出た。

 

「お…、おい!どう言うつもりだ?!」

 

 重戦士の言葉に耳を貸さず、一人歩み出る灰。

 

「私が囮になり正面に立つ。隙を見付けたら側面や背後から攻撃を叩き込むんだ!アテにするぞ皆!」

 

 無言で頷くメンバー達。

ゆっくりと隙を伺い、背後に少しずつ回りこんで行く。

 

「――Gyaaaaaaa!!」

 

 ボルドの唐突な雄叫びを合図に、死闘の火蓋は切って落とされた。

 

 

 

 




 前の話が長過ぎたので、少し短くあっさり目にしました。
次回はいよいよボルド戦です。
初見から挑み敗北する事10回。
攻略動画を見て『深みのバトルアクス』であっさり倒せた時は、流石に拍子抜けしました。

今迄の苦労はなんだったんだ?!。
デハマタ。( ゚∀゚)/
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